JP5233867B2 - 耐食性および溶接部靭性に優れた高張力鋼および海洋構造物 - Google Patents

耐食性および溶接部靭性に優れた高張力鋼および海洋構造物 Download PDF

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Description

本発明は、高張力鋼および海洋構造物、特に耐食性および溶接部靱性に優れた高張力鋼および海洋構造物に関する。より具体的には、本発明は、建築物、土木構造物、建設機械、船舶、パイプ、タンク、海洋構造物等において溶接構造物として使用される溶接用高張力鋼、特に海洋構造物に用いられる溶接用高張力鋼および海洋構造物に関するものであり、例えば、降伏強度420N/mm以上、板厚50mm以上の厚肉高強度鋼板およびそれを用いた海洋構造物に関するものである。
近年、エネルギー需要が益々増加の傾向にあるため、海底石油資源の探索が活発化している。これに使用される、例えばプラットフォームやジャッキアップリグ等の海洋構造物は大型化し、これに伴って鋼板などの使用鋼材が厚肉化し、よりいっそうの安全性の確保が重要な課題となっている。通常の海洋構造物には、降伏応力が300〜360MPa級の中強度鋼材が用いられる。上述したような大型構造物には、460〜700MPa級の高強度を有するとともに板厚が100mmを超える極厚高張力鋼材が用いられることがある。
近年、海底石油資源の探索地域が寒冷地や大水深域へと移っている。これらの地域や海域で稼動する海洋構造物は、極めて厳しい気象条件、海洋条件に晒される。このため、これらの海洋構造物に用いられる鋼材には、例えば−40℃以下という非常に厳しい低温域での靱性が要求されるとともに、溶接性も当然要求される。
また、安全性の面からもユーザの検査基準は厳しい。鋼材の靱性は、母材および溶接部ともに、従来のシャルピー衝撃値の規定に加え、最低使用温度でのCTOD値の規定も加味して評価されるようになってきた。10mm×10mmの大きさに切断採取する微小試験片についての評価試験であるシャルピー試験で安定した特性を得られる場合であっても、構造物の実際の厚さの試験片により評価するCTOD特性では所望の特性を満足できない場合が多く発生するからである。今日ではさらに厳しいCTOD特性が求められる。
このように、溶接熱影響部(以下「HAZ」という)の低温靱性を向上させる要望は、氷海域に設置される海洋構造物に使用される鋼材に限らず、これよりもマイルドな環境下で使用される寒冷地向けのラインパイプ、または船舶やLNGタンク等の大型溶接構造物に使用される鋼材に対しても、強い。
一方で、−40℃以下という低温域で高い靭性を得るためには、溶接効率の悪い低入熱量の溶接条件での溶接を行わざるを得ない。海洋構造物の建造コストに占める溶接施工コストは大きい。溶接施工コストを低下させる最も直接的な方法は、大入熱量の溶接条件で溶接が可能な高能率溶接法を採用して、溶接層数を減らすことである。
したがって、今日では、低温靱性の要求が厳しい寒冷地向けの構造物は、HAZの靭性を考慮して溶接施工コストが可及的に低い溶接を行うことが重要である。
さらに、海洋構造物は海水による腐食環境に晒される。特に海上は、干満や海水飛沫による乾湿繰り返しを受けるという、極めて厳しい腐食環境下にある。このため、海洋構造物には腐食対策として塗装が施される。しかし、エッジ部や塗膜傷部といった塗膜厚が薄い部分や鋼面が露出する部分では、腐食が急速に進行する。腐食が進行した部位は補修されるものの、補修コストが嵩むとともに、部位によっては補修できないこともある。そのため、腐食環境における塗装寿命の延長も重要な課題の一つである。
従来から鋼材のHAZの靱性を飛躍的に向上させる手段として低炭素量化が知られている。この低炭素量化による強度低下を補うため、種々の合金元素の添加による高強度化や、時効析出硬化作用を利用した高強度化が図られる。例えば、ASTM A710では、Cuの時効析出硬化作用を利用した鋼が開示され、このような考え方に基づいた発明が幾つかなされている。例えば、特許文献1〜3には、溶接部の靱性に優れたCu析出型鋼に係る発明が開示される。
特公平7−81164号公報 特開平5−186820号公報 特開平5−179344号公報
しかし、特許文献1では板厚30mm、溶接入熱量40kJ/cmで得た溶接継手のシャルピー特性を評価するに過ぎないため、特許文献1により開示されたCu析出型鋼に係る発明は、大入熱量の溶接条件での溶接を可能にするとは考え難い。
特許文献2には、Cuを0.5〜4.0%(本明細書では特に断りがない限り組成に関する「%」は「質量%」を意味するものとする)添加した引張り強さ686MPa以上の高張力鋼に係る発明が開示される。しかし、低温靱性は、シャルピー試験の遷移温度でさえ−30℃であることから、極厚鋼板での低温CTOD特性を確保できるとは考え難い。
さらに、特許文献3では溶接入熱量5kJ/mmで得た溶接継手のシャルピー特性を評価するに過ぎないため、特許文献3により開示された発明は、溶接部のシャルピー靱性に優れたCu析出型鋼に係る発明であるものの、大入熱量の溶接条件で溶接されて組み立てられる構造物の安全性を充分満足できるとは考え難い。
さらに、Cuを含有する鋼は、一般に塩分環境での耐食性に優れると考えられるものの、塩分が蓄積するような腐食環境では逆に耐食性が劣化する。このため、特許文献1〜3により開示されたCu析出型鋼に係る発明は、耐食性の面で問題となる可能性がある。
本発明の目的は、一般的には溶接部の低温靱性、特にHAZ低温靱性を改善することができるのみならず、耐食性を向上させて塗装寿命を延長することができる高張力鋼および海洋構造物を提供することである。
本発明者らは、溶接部靱性に優れた厚肉高強度鋼板を開発することを目的に、鋼成分およびその製造方法について種々の実験を行った結果、以下の知見(i)〜(viii)を得た。
(i)Cu添加鋼をベースとして、N含有量およびAl含有量の調整に加え、(N/Al)比をコントロールする。すなわち、Cu含有量が高い組成の鋼において大入熱量の溶接条件で溶接された際のHAZ靱性を改善するには、TiN、Ti(C,N)、AlN等の炭窒化物の微細分散化が有効である。Cu含有量が高いとともにTiを含有する鋼では、N含有量およびAl含有量の調整に加えて、(N/Al)比をコントロールすることが有効である。(N/Al)比が過小であると、粗大なAlNが析出し、これ自体が靱性に悪影響を及ぼすのに加えて、TiNの微細かつ多量な分散が阻害されると考えられる。一方、(N/Al)比が過大であると、固溶Nが増加するのに加えて、AlN、TiNの分散密度が疎になると考えられる。
(ii)降伏強度の上昇のためには、微細Cu粒子をできるだけ多く分散させる必要がある。
(iii)靱性、特に低温CTOD特性を確保するためには、Cu粒子をある程度粗大化させ、かつ分散量を抑制する必要がある。
(iv)Cu粒子の分散状態を均一化するために、時効処理前段階でのCu粒子の生成をできるだけ抑制し、かつ時効処理の条件制御によりCu粒子の分散状態を制御する。
(v)Cu粒子の分布状態について、TEM写真から求められる円相当径の平均値および平面換算面積率を用いて整理することにより、強度および靱性のバランスを制御できる。
(vi)Cu粒子は、鋼中の結晶欠陥(主に転位)上に生成し易く、転位密度が高いとCu粒子の析出が促進される。また、転位上のCu粒子は転位の移動を阻害し、降伏強度を上昇させる。
(vii)鋼中の転位密度は、圧延条件および水冷条件により制御可能である。また、圧延温度の低下、総圧下量の増加、水冷開始温度の上昇、冷却速度の増加さらには水冷停止温度の低下は、いずれも、転位密度を増加させる。
(viii)Cu含有量が高い鋼をベースとして、C含有量、Mn含有量およびMo含有量の調整により焼入れ性を制御することにより、大入熱量の溶接条件で溶接した際のHAZ靱性の安定化が可能である。すなわち、Cu含有量が高い鋼では、溶接割れ感受性指数Pcm値を低下するほどHAZ靱性の改善が可能である。そのためには、C含有量およびMn含有量の低下が有効である。ただし、高強度を確保するために他元素による補填が必要である。C含有量およびMn含有量の低下に加えてMo含有量を調整することにより、強度および靱性の安定化が可能である。
本発明者らは、裸鋼材および塗装鋼材の耐食性に関して、さらに以下の知見(ix)〜(xi)を得た。
(ix)一般的に、Cuは海水による乾湿繰り返し環境において耐食性を向上させる。しかし、付着した塩分が洗い流されずに蓄積する環境では、Cuを含有することによりかえって耐食性が劣化する。
(x)この際、Snを含有することにより、塩分の洗い流しを受ける環境および洗い流しを受けない環境のいずれにおいても、耐食性が大幅に向上するとともに塗装鋼材では塗膜傷部での腐食が著しく抑制され、さらに、補修時に錆が残存した状態で再塗装した場合においても塗膜傷部の腐食が著しく抑制される。
Snを含有することによる耐食性改善効果が得られる機構は、以下のように考えられる。塩分環境においては、腐食サイトにおいて局所的にClイオンが濃縮しpHが低下する。このような環境では、Snが溶解して鋼材上に析出する。Snは水素過電圧の大きい元素であるから、Snが析出した部分では、pHの低い環境におけるカソード反応である水素発生反応が著しく抑制され、その結果、耐食性が向上する。また、Snがイオンとして存在する場合においても、鋼材の溶解反応であるアノード反応を抑制する効果がある。これは、Snイオンの作用により鉄の溶解経路となる鉄表面へのOHおよび/またはClイオンの吸着を抑制し、鉄の溶解そのものが抑えられるためである。
(xi)Snによる耐食性は一定量以上のSnを含有しないと得られない。付着した塩分が洗い流されずに蓄積される環境下ではCu含有量が多いほど耐食性の劣化が激しいため、Cuによる劣化を補償するだけのSnの含有が必要になる。具体的には、Sn/Cu≧0.025を満たす量のSnの含有が必要である。
本発明は、このような知見(i)〜(xi)に基づいてなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
(1)C:0.01%以上0.10%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.8%以上1.8%以下、P:0.030%以下、S:0.02%以下、Cu:0.8%以上1.5%以下、Ni:0.2%以上1.5%以下、Sn:0.01%以上0.30%以下、sol.Al:0.001%以上0.05%以下、N:0.003%以上0.008%以下、O:0.0035%以下を含有し、残部がFeおよび不純物であって、かつN/Alが0.3以上3.0以下であり、Sn/Cuが0.025以上であり、さらに、下記(I)式で示すPcmが0.25以下であり、鋼中に分散した長径が1nm以上のCu粒子について、円相当径の平均値が4nm以上25nm以下であり、かつ平面率換算分布量が3%以上20%以下であることを特徴とする耐食性および溶接部靭性に優れた高張力鋼。
Pcm=C+(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B・・・(I)
(2)Ti:0.03%以下を含有することを特徴とする上記(1)項に記載の耐食性および溶接部靭性に優れた高張力鋼。
(3)Nb:0.03%以下を含有することを特徴とする上記(1)項または上記(2)項に記載の耐食性および溶接部靭性に優れた高張力鋼。
(4)Mo:0.8%以下を含有することを特徴とする上記(1)項から上記(3)項までのいずれか1項に記載の耐食性および溶接部靭性に優れた高張力鋼。
(5)Cr:0.80%以下およびB:0.002%以下からなる群から選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする上記(1)項から上記(4)項までのいずれか1項に記載の耐食性および溶接部靭性に優れた高張力鋼。
(6)V:0.05%以下を含有することを特徴とする上記(1)項から上記(5)項までのいずれか1項に記載の耐食性および溶接部靭性に優れた高張力鋼。
(7)Ca:0.005%以下、Mg:0.01%以下およびREM:0.01%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)項から上記(6)項までのいずれか1項に記載の耐食性および溶接部靭性に優れた高張力鋼。
(8)上記(1)項から上記(7)項までのいずれか1項に記載の高張力鋼を用いた耐食性および溶接部靭性に優れた海洋構造物。
本発明により、特にそれだけに制限されるのではないが、例えばエレクトロガスアーク溶接などの溶接方法により、溶接入熱量300KJ/cm以上での大入熱の溶接条件での溶接が可能という溶接性に優れ、降伏応力420N/mm以上であって、かつ、海洋構造物のような極めて厳しい環境下でも使用できる高張力鋼の製造が可能となった。
このため、本発明によれば、例えば大型海洋構造物の現場溶接施工能率や安全性を著しく高めることができる。
図1は、腐食試験用試験片の概略を示す説明図である。
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。まず、本発明に係る高張力鋼の組成を限定する理由を説明する。
[C:0.01%以上0.10%以下]
Cは、強度を確保するため、およびNbやV等の含有時に組織微細化の効果を生じさせるために含有する。C含有量が0.01%未満であるとこれらの効果が十分でない。しかし、C含有量が0.10%を超えると溶接部に島状マルテンサイト(M−A:martensite−austenite constituent)と呼ばれる硬化組織を生成してHAZ靱性を悪化させるとともに、母材の靱性および溶接性にも悪影響を及ぼす。このため、C含有量は0.01%以上0.10%以下とする。好ましくは0.02%以上0.08%以下であり、さらに好ましくは0.02%以上0.05%以下である。
[Si:0.5%以下]
Siは,溶鋼の予備脱酸に有効な元素である。Siはセメンタイト中に固溶しないため、Si含有量が0.5%を超えると未変態オーステナイト粒がフェライト粒とセメンタイトに分解するのを阻害し、島状マルテンサイトの生成を助長する。このため、Si含有量は0.5%以下とする。好ましくは0.2%以下であり、さらに好ましくは0.15%以下である。
[Mn:0.8%以上1.8%以下]
Mnは,強度を確保するために有効な元素であるとともに、脱酸剤としても有効な元素である。このため、Mnの含有量は0.8%以上とする。しかし、Mn含有量が過剰であると焼入れ性を過剰に増加させ、溶接性およびHAZ靱性を劣化させる。さらに、Mnは中心偏析を助長する元素であり、中心偏析を抑制するためにはMn含有量は1.8%を超えるべきではない。したがって、Mn含有量は0.8%以上1.8%以下とする。好ましくは0.9%以上1.5%以下である。
[P:0.030%以下]
Pは、鋼に不可避的に含有される不純物元素であり、粒界偏析元素であるためにHAZにおける粒界割れの原因となる。さらに母材靱性、溶接金属部とHAZの靱性を向上させ、スラブ中心偏析も低減させるために、P含有量は0.030%以下とする。好ましくは0.015%以下であり、さらに好ましくは0.01%以下である。
[S:0.02%以下]
Sは,鋼に不可避的に含有される不純物元素であり、多量に存在すると溶接割れ起点となるMnS単体の析出物を生成する。そのため、S含有量は0.02%以下とする。好ましくは0.008%以下であり、さらに好ましくは0.005%以下である。
[Cu:0.8%以上1.5%以下]
Cuは、鋼材の強度および靱性を高める効果があり、HAZ靱性に対する悪影響も少ない。特に、時効処理時のε−Cu析出による強度上昇効果を得るために0.8%以上含有する。しかし、Cu含有量が1.5%を超えると溶接高温割れ感受性が高くなり、予熱などの溶接施工が複雑になる上に、塩分が付着し洗い流しを受けない環境において耐食性が著しく劣化する。そこで、Cu含有量は1.5%以下とする。好ましくは0.9%以上1.1%以下である。
[Ni:0.2%以上1.5%以下]
Niは、鋼材の強度および靱性を高め、さらにHAZ靱性を高めるために有効な元素である。しかし、Ni含有量が0.2%未満ではこの効果を得られず、また、Ni含有量が1.5%を超えてもコストアップに見合うだけの効果を得ることができない。そこで、Ni含有量は0.2%以上1.5%以下とする。好ましくは0.4%以上1.2%以下である。
[Sn:0.01%以上0.30%以下]
Snは、塩分環境下において裸鋼材および塗装鋼材の耐食性を高める元素である。Sn含有量が0.01%以上であることによりこの効果を得られるが、Sn含有量が0.30%を超えると靭性が劣化する。そこで、Sn含有量は0.01%以上0.30%以下とする。好ましくは0.03%以上0.25%以下である。
[sol.Al:0.001%以上0.05%以下]
Alは脱酸のために必須の元素である。しかし、Al含有量が多くなると特にHAZにおいて靱性が劣化し易くなる。これは、粗大なクラスター状のアルミナ系介在物粒子が形成され易くなるためと考えられる。そこで、sol.Al含有量は0.001%以上0.05%以下とする。好ましくは0.001%以上0.03%以下であり、さらに好ましくは0.001%以上0.015%以下である。
[N:0.003%以上0.008%以下]
Nは、窒化物を形成することにより組織の細粒化に寄与するが、過剰に含有すると窒化物の凝集を通じて靱性を劣化させる。そこで、N含有量は0.003%以上0.008%以下とする。好ましくは0.0035%以上0.0065%以下である。
[O:0.0035%以下]
O(酸素)は、不純物として存在し、多量に存在すると清浄度の劣化が著しくなるため、母材、溶接金属部およびHAZともに実用的な靱性を確保することが困難になる。したがって、O含有量を0.0035%以下とする。好ましくは0.0018%以下である。
[N/Al:0.3以上3.0以下]
Al含有量に対するN含有量の比(N/Al)を0.3以上3.0以下とすることにより、大入熱量の溶接条件で溶接された際のHAZ靱性、特に継手CTOD特性を改善することが可能である。これは、比(N/Al)が0.3より小さいと粗大なAlNが析出し、粗大なAl自体が靱性に悪影響を及ぼすのに加え、TiNの微細かつ多量な分散が阻害されるためと考えられる。一方、比(N/Al)が3.0を超えると固溶Nが増大し、HAZ靱性が劣化するのに加えて、AlN、TiNの分散密度が疎になるためと考えられる。そこで、比(N/Al)を0.3以上3.0以下とする。効果をより発揮させるために好ましい範囲は0.4以上2.5以下である。
[Sn/Cu:0.025以上]
Cu含有量に対するSn含有量の比(Sn/Cu)を0.025以上とすることにより、付着した塩分が洗い流されずに蓄積される環境下、より具体的には軒下のような環境下でも十分な耐食性を発揮することができる。上述したように、Cuを含有する鋼を軒下のような箇所に使用すると早期に腐食が進行する。これを補償するためにCu含有量に対応させてSn含有量を定める。比(Sn/Cu)が0.025以上であると、Cuによる腐食を回避でき、塩分蓄積環境下においても十分な耐食性を得ることができる。比(Sn/Cu)は0.05以上であることが好ましい。
次に、任意元素について説明する。
[Ti:0.03%以下]
Tiは、窒化物を生成して結晶粒の粗大化を抑制するとともに、変態組織を微細化する作用を有する。しかし、Ti含有量が0.03%を超えると母材靱性および溶接部靱性に悪影響を及ぼす。そこで、Ti含有量は0.03%以下とする。好ましくは0.015%以下である。また、上述した効果を確実に得るためには、Ti含有量は0.005%以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.007%以上である。
[Nb:0.03%以下]
Nbは、細粒化と炭化物析出により母材の強度および靱性を向上させる。しかし、Nb含有量が0.03%を超えると、母材の性能向上効果が飽和するとともにHAZの靱性を著しく損なう。そこで、Nb含有量は0.03%以下とする。好ましくは0.015%以下である。また、上述した効果を確実に得るためには、0.003%以上含有することが好ましい。
[Mo:0.8%以下]
Moは、焼入れ性を確保し、HAZ靱性を向上させる効果がある。しかし、Mo含有量が0.8%を超えるとHAZでの著しい硬化を招き、靱性を劣化させる。そこで、Mo含有量は0.8%以下とする。好ましくは0.5%以下である。また、上述した効果を確実に得るためには、Mo含有量は0.1%以上であることが好ましい。
[Cr:0.80%以下およびB:0.002%以下からなる群から選ばれた1種または2種]
Crは、鋼材の焼入れ性を増し、強度の確保に有効である。しかし、Cr含有量が0.80%を超えると、溶接金属部およびHAZの硬化防止および溶接低温割れ感受性を増大させる傾向にある。そこで、Cr含有量は0.80%以下とする。好ましくは0.60%以下である。また、上述した効果を確実に得るためには、Cr含有量は0.03%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがさらに好ましい。
Bは、焼入れ性を向上させて強度を高める作用がある。しかし、B含有量が0.002%を超えると、強度を高める効果が飽和するし、母材、HAZともに靱性劣化の傾向が著しくなる。そこで、B含有量は0.002%以下とする。好ましくは0.0015%以下である。また、上述した効果を確実に得るためには、B含有量は0.0002%以上であることが好ましく、0.0003%以上であることがさらに望ましい。
Cr、Bは、それぞれ単独で、または複合して含有することができる。
[V:0.05%以下]
Vは、炭窒化物を生成して結晶粒の粗大化を抑制するとともに、変態組織を微細化する作用を有する。しかし、V含有量が0.05%を超えると母材靱性および溶接部靱性に悪影響を及ぼす。そこで、V含有量は0.05%以下とする。V含有量は0.04%以下であることが好ましい。また、上述した効果を確実に得るためにはV含有量は0.001%以上であることが好ましく、0.005%以上であることがさらに望ましい。
[Ca:0.005%以下、Mg:0.01%以下およびREM:0.01%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上]
Ca、Mg、REMは、粒内フェライトの析出核となる酸化物、硫化物を生成する元素であるとともに、硫化物の形態を制御して低温靱性を向上させる。しかし、Ca含有量が0.005%を超え、Mg含有量が0.01%を超え、REM含有量が0.01%を超えると、Ca、Mg系の大型介在物やクラスターを生成して鋼の清浄度を劣化させる。そこで、Ca含有量は0.005%以下とし、Mg含有量は0.01%以下とし、REM含有量は0.01%以下とする。また、上述した効果を確実に得るためには、Ca含有量は0.0005%以上であり、Mg含有量は0.0001%以上であり、REM含有量は0.0001%以上であることが好ましい。
上述した以外の残部はFeおよび不純物である。
また、本発明に係る高張力鋼は、(I)式で示すPcmが0.25以下であり、鋼中に分散した長径が1nm以上のCu粒子について、円相当径の平均値が4nm以上25nm以下であり、かつ平面率換算分布量が3%以上20%以下である。これらについて説明する。
[(I)式;Pcm=C+(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5Bで示すPcm:0.25以下]
Pcmは溶接割れ感受性を表す指数である。Pcmの値が0.25以下であれば、通常の溶接施工条件で溶接割れが生じない。したがって、Pcmは0.25以下とする。Pcmを低くすると溶接時の予熱を省略することができる。好ましくは0.22以下であり、さらに好ましくは0.20以下である。
[鋼中に分散した長径が1nm以上のCu粒子について、円相当径の平均値:4nm以上25nm以下、かつ平面率換算分布量:3%以上20%以下]
長径が1nm以上のCu粒子を対象とする理由は、1nmよりも小さい粒子は強度を高める寄与が小さいためである。Cu粒子の長径の上限は特に定めないが、平均値が4nm以上25nm以下の範囲では100nmを超える粒子は出現しない。なお、Cu粒子の析出形態はおよそ球状であるが、立体形状を計測するのは容易ではないので、投影された形状を計測する。
ここで、円相当径とは、粒子の投影面積と同じ面積を持つ円の直径であり、具体的にはd=√(4a/pai)として求められる。ここで、aは投影面積(nm)であり、dは円相当径(nm)であり、paiは3.14である。
平面率換算分布量は、鋼材を薄膜状に加工し、約0.2マイクロメートルの厚みを有する部分についてTEM観察を行い、薄膜状試験片中に立体的に分布したCu粒子を平面投影した場合の面積率を倍率100000倍のTEM写真について測定することで算出する。
ここに、円相当径および平面率換算分布量を上述したように規定する理由をさらに詳しく説明する。
海洋構造物に用いられる鋼の特徴としては、嵐の波浪による外力に耐えるため、最大板厚100mm近くの極厚高張力鋼になる場合が多く、また今後、厳しい状況で使用されることから、さらに厳しいCTOD値を満たすことが要求される。
Cuの析出で強度が高くなり過ぎるとCTOD値が低くなり、Cu析出が不足するとCTOD値は高くても強度が不足することになる。従来のCu添加鋼においては、海洋構造物用への適用例が殆どなく、厳しいCTOD値の要求がなかったので、このようなCu析出粒子の平均径や分布量を厳密に制御する必要はなかった。
そこで、本発明の好適態様にあっては、Cu析出による強度アップとCTOD値の低下とのバランスをとるためにCu析出粒子の平均径や分布量を以上のように規定した。
円相当径を4nm以上25nm以下とするのは、強度と靱性のバランスのためであり、平面率換算分布量を3%以上20%以下とするのも強度と靱性のバランスのためである。
Cu粒子径、分布量を制御する因子としては次のものが考えられる。
(a)Cu含有量が多いほど分布量は多くなる。粒子径に与える影響については適正な含有量の範囲であれば、主に時効処理前の組織、時効処理の温度および時間で平均粒径が決まる。適正含有量より少なければCu粒子の析出が不十分で粒子径は小さく、多ければ粒子径は大きくなる傾向にある。
(b)時効前組織の影響は大きく、時効前組織としてはフェライトおよびベイナイト主体の微細な組織とすることが好ましい。
転位あるいは結晶粒界などがCu粒子の析出サイトになるので、このような析出サイトを多く含む組織とすることが、Cu粒子径を細かくし分布量を多くする。このためには、鋼の成分を適切に制御するとともに圧延条件を適切にし、その後の水冷条件もフェライト・ベイナイト主体の微細組織となるように選ぶ必要がある。
(c)時効処理温度、時間は重要な因子である。Cuの拡散速度、粒子の成長速度を時効処理条件により厳密に調整することにより目的の粒子分散状態に制御する。
上述した3つの因子を適宜調整して、本発明に係る高張力鋼を製造すればよく、以上の説明により当業者が本発明を容易に実施することができる。
次に、本発明に係る高張力鋼の製造方法について説明する。
上述した本発明で規定する鋼組成を有する場合であっても、Cuの析出硬化を十分に発揮させ、さらに厚さ50mm以上の厚肉材の板厚方向各位置の強度および靱性を均一に高靱化させ、且つ降伏強度を向上させるための好適な製造条件を、以下に説明する。
製鋼工程までは慣用の方法で行えばよく、本発明においても特に制限されない。製鋼工程に続いて鋼片を得るが、製造コストを低減するためには、連続鋳造法によりスラブ(鋼片)を作製するのが好ましい。次に、鋼片の加熱、熱間圧延、冷却および焼戻し条件について説明する。
まず、上述した鋼組成を有する鋼片を900℃以上1120℃以下に加熱してから、熱間圧延を行う。本発明においては、高靱性を得るためには、厚肉材の板厚中心部において、上部ベイナイト組織が生成しても十分なほどオーステナイト粒を細粒化する必要があり、加熱段階で鋼片厚肉内のオーステナイト粒を細粒化することが重要である。900℃未満の低い温度ではこの固溶化作用が十分でなく、焼戻し処理において十分な析出硬化が期待できない。しかし、1120℃を超える加熱温度では、圧延前のオーステナイト粒を細粒かつ整粒に保つことができなくなり、その後の圧延においてもオーステナイト粒が均一に細粒化されない。そこで、鋼片の加熱温度は900℃以上1120℃以下とする。好ましくは900℃以上1050℃以下であり、さらに好ましくは900℃以上1000℃以下である。
圧延においては、900℃以下における総圧下量を50%以上とすることが望ましい。熱間圧延後、Ar点以上の温度から水冷を開始し、600℃以下の温度で停止する焼入れ処理を行なう。これにより、組織の微細化を図るとともに、時効処理前段階におけるCu粒子の析出をできる限り抑制するためである。Ar点未満の温度からの水冷では、あるいは冷却が空冷では、加工歪みの消失が起こり、強度および靱性の低下の原因となる。
圧延仕上げ温度は700℃以上とし、冷却開始温度は680℃以上750℃以下とし、冷却停止温度までの冷却速度は1℃/s以上50℃/s以下とすることが好ましい。水冷停止温度が600℃を超えると、焼戻し処理における析出強化作用が不十分となる。
なお、Ar点は微小試験片の体積変化を測定する方法で求められる。
次に、熱間圧延後、水冷された鋼は、その後、必要により加熱を行って、540℃以上Ac点以下の温度で時効処理を行い、次いで冷却する。
ここで、時効温度にまで加熱を行う場合、時効温度−100℃までの平均加熱速度、および500℃までの平均冷却速度については制御することが好ましい。この時効処理はCuの析出物を十分に析出硬化させるためであり、加熱速度および冷却速度の制御は、Cu粒子の分散を均一化させるために行うからである。したがって、加熱速度は目標温度−100℃までの平均加熱速度が5℃/分以上50℃/分以下とし、保持時間は1時間以上とし、冷却速度は500℃までの平均冷却速度が5℃/分以上60℃/分以下とすることが好ましい。
ここで、本明細書における加熱温度は炉内雰囲気温度とし、加熱後保持時間は炉内雰囲気温度での保持温度とし、圧延終了温度、水冷開始温度および水冷停止温度はいずれも鋼材の表層温度とし、再加熱時の加熱平均速度および冷却平均速度は、鋼材の厚さ(1/2)t位置での温度計算より算出するものとする。
本発明に係る高張力鋼から大型海洋構造物を構成するには、板材、管材、さらには形材などの鋼材を溶接により組み立てるが、一般には鋼板として使用される。
本明細書において「溶接性に優れた」とは、通常は、溶接入熱量300kJ/cm以上のアーク溶接が可能であることを意味するが、溶接法としてはその他、サブマージアーク溶接、被覆アーク溶接などであってもよい。
また、「海洋構造物」としては、海底に敷設されるプラットフォームや、ジャッキアップリグばかりでなく、セミサブリグ(半潜水式石油掘削リグ)なども包含され、溶接性と低温靱性とが要求される海洋構造物であれば特に制限はない。なお、「大型」という場合、使用される鋼材の厚さが50mm以上の海洋構造物を意味する。
このようにして、本発明によれば、例えばエレクトロガスアーク溶接などの溶接方法により、溶接入熱量300KJ/cm以上での大入熱の溶接条件での溶接が可能という溶接性に優れ、降伏応力420N/mm以上であって、かつ、海洋構造物のような極めて厳しい環境下でも使用できる高張力鋼の製造が可能となった。
実施例を参照しながら、本発明をより具体的に説明する。
本例では、表1および表2に示す組成を有する300mm厚の鋼片を連続鋳造法にて作製した。ここで、板厚中心位置の介在物制御の観点より、連続鋳造過程においては、溶鋼の温度を過度に高くせず、溶鋼組成から決まる凝固温度に対し、その差が50℃以内となるように管理し、さらに凝固直前の電磁攪拌および凝固時の圧下を行った。
Figure 0005233867
Figure 0005233867
表3および表4に、表1および表2に示した化学成分を有する鋼片の加工条件を示す。
Figure 0005233867
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300mm厚のスラブは各加熱温度、各加熱時間で加熱後、熱間圧延を行った後、水冷開始温度から水冷停止温度まで平均の冷却速度を5℃/sで冷却し、板厚77mmの鋼板とした。これらの条件については、表3および表4に初期加熱・圧延条件として示す。
その後、各時効温度まで再加熱し、各保持時間保持した。ここで加熱速度は、時効温度−100℃までの平均加熱速度を10℃/分となるように制御し、冷却速度は、500℃までの平均冷却速度が10℃/分となるよう制御した。これらの条件については、表3および表4に時効処理条件と示す。
このようにして得られた鋼の引張試験は、ASTM規格に準拠し、平行部12.5mm直径の引張試験片を圧延方向に対して直角方向の板厚中央より採取して、行った。
同じく、得られた鋼のCTOD試験は、BS7448規格に準拠し、全厚の3点曲げ試験片を圧延方向に直角の方向から採取して、−40℃で行った。
溶接継手部は、BS7448規格に準拠し、K開先加工した鋼板突き合わせ部に10.0kJ/cmのFCAW溶接(Flux Cored Arc Welding)を行うことにより、得た。このようにして得られた継手について、CTOD試験片の疲労ノッチがV型開先のストレート部側の溶接線となるように加工を行って得た試験片に、−40℃にてCTOD試験を行った。また、大入熱溶接に対する対応性を確認するために、同じ鋼について、20°V開先加工した後に、突き合わせ、入熱量350kJ/cmのエレクトロガスアーク溶接(EGW)により溶接継手を作製した。このとき作製した溶接継手については、ASTM E1290に準じたCTOD試験を実施した。CTOD試験片は疲労ノッチが溶接線となるよう加工し、試験温度−10℃で限界CTOD値を測定した。なお、本発明では、−40℃、−10℃における限界CTOD値ともに0.25mm以上か否かを基準として溶接部靭性の判断を行った。
さらに、Cu粒子の円相当径の平均値は、倍率100000倍の透過型電子顕微鏡(TEM)写真において観察される、長径が1nm以上の各析出物について円相当径を測定し、その直径について写真1視野毎の平均値を求めることにより、算出した。なお、測定のばらつきを少なくするため、測定は鋼材元厚の(1/4)tの位置について、TEM写真の10視野(1視野は900×700nmの長方形)を観察し、その平均値を用いた。
さらに、耐食性の評価は以下のようにして行った。上記鋼板の表面より、幅が60mm、長さが100mm、厚さが3mmの試験片を採取し、全面にショットブラスト加工を施した後、変性エポキシ系塗料を乾燥膜厚さで200μm被覆した。被覆面のうちの片面に、カッターナイフにより幅1mm、長さ100mmにわたる傷(×印)を付けて鋼材面を露出させ、塗膜傷部や鋼板エッジ部を模擬した腐食試験片とした。図1は、この腐食試験用試験片の概略を示す説明図である。
海水が付着し洗い流しを受ける環境での腐食試験としてSAE J2334試験を、海水が付着し洗い流しを受けない環境での腐食試験として塩分付着乾湿繰り返し試験を行った。SAE J2334試験、塩分付着乾湿繰り返し試験の試験条件を、以下に示す。
(SAE J2334試験)
湿潤:50℃ 100% RH /6時間
塩付着:0.5%NaCl+0.1%CaCl+0.075%NaHCO/0.25
時間
乾燥:60℃ 50% RH /17.75時間
(塩分付着乾湿繰り返し試験)
NaCl付着:1mg/cm
湿潤:40℃ 80% RH /4時間
乾燥:40℃ 40% RH /4時間
ここで、RHとは相対湿度を意味する。SAE J2334試験については40サイクル行い、また塩分付着乾湿繰り返し試験については200サイクル行い、試験後の各試験片から塗膜および腐食生成物を除去した後、腐食部における最大の腐食深さを測定した。なお、本発明では、SAE J2334試験、塩分付着乾湿繰り返し試験における腐食部の最大の腐食深さがそれぞれ0.20mm以下、0.15mm以下であるか否かを基準として耐食性の判断を行った。
表5は、本発明で規定する化学成分を満足する供試材1〜36を示したものである。表1に示す組成を有する供試鋼1〜36を表3に示す加工条件で製造処理した供試材1〜36は、いずれも、Cu粒子の分散状態が規定範囲を満足するものとなった。そのため、いずれの供試鋼も母材強度、母材CTOD特性、継手CTOD特性(−40℃および−10℃)が高い値となった。
また、供試材1〜36はSnを含有するため、塩分の洗い流しを受ける環境および洗い流しを受けない環境のいずれにおいても良好な耐食性を示した。
Figure 0005233867
これに対し、表2に示す組成を有する供試鋼37〜58のうち供試鋼37は、本発明で規定する化学成分を満足する供試鋼を示したものであり、供試鋼38〜58は、化学成分範囲のいずれかが本発明で規定する範囲外である供試鋼を示したものである。これらの供試鋼を表4に示す加工条件で製造処理した供試材37〜58は、表6に示すCu粒子の分散状態となった。
Figure 0005233867
供試材37は、本発明で規定する化学組成は満足するものの、Cu粒子の分散状態が本発明で規定する条件を満足しないため、母材強度が低い値となった。供試材37と供試材1〜36とを比較することにより、大入熱溶接特性と母材強度とを両立させるためには、本発明で規定するCu粒子の分散状態を満足する必要があることがわかる。
また、供試材38〜59は、本発明で規定する化学組成を満足しないため、母材強度、母材CTOD特性、継手CTOD特性(−40℃および−10℃)および耐食性を同時に満足することができなかった。
特に、供試材58は、Snを含有しないため、塩分の洗い流しを受けない環境での耐食性が不十分であった。また、供試材59は、SnだけでなくCu、Niを含有しない普通鋼であるため、塩分の洗い流しを受けない環境だけでなく、洗い流しを受けた環境での耐食性も不十分であった。
本発明によれば、海洋構造物において、溶接部の靭性を確保しつつ耐食性を向上させることができるので、部材切り替えや再塗装によるメンテナンスコストを大幅に低減することができる。

Claims (8)

  1. 質量%で、C:0.01%以上0.10%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.8%以上1.8%以下、P:0.030%以下、S:0.02%以下、Cu:0.8%以上1.5%以下、Ni:0.2%以上1.5%以下、Sn:0.01%以上0.30%以下、sol.Al:0.001%以上0.05%以下、N:0.003%以上0.008%以下、O:0.0035%以下を含有し、残部がFeおよび不純物であって、かつN/Alが0.3以上3.0以下であり、Sn/Cuが0.025以上であり、さらに、下記(I)式で示すPcmが0.25以下であり、鋼中に分散した長径が1nm以上のCu粒子について、円相当径の平均値が4nm以上25nm以下であり、かつ平面率換算分布量が3%以上20%以下であることを特徴とする耐食性および溶接部靭性に優れた高張力鋼。
    Pcm=C+(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B・・・(I)
  2. 質量%で、Ti:0.03%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐食性および溶接部靭性に優れた高張力鋼。
  3. 質量%で、Nb:0.03%以下を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の耐食性および溶接部靭性に優れた高張力鋼。
  4. 質量%で、Mo:0.8%以下を含有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の耐食性および溶接部靭性に優れた高張力鋼。
  5. 質量%で、Cr:0.80%以下およびB:0.002%以下からなる群から選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の耐食性および溶接部靭性に優れた高張力鋼。
  6. 質量%で、V:0.05%以下を含有することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の耐食性および溶接部靭性に優れた高張力鋼。
  7. 質量%で、Ca:0.005%以下、Mg:0.01%以下およびREM:0.01%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の耐食性および溶接部靭性に優れた高張力鋼。
  8. 請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の高張力鋼を用いた耐食性および溶接部靭性に優れた海洋構造物。
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