JP2004100023A - 疲労強度および耐食性に優れた溶接継手及び溶接鋼構造物 - Google Patents
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Abstract
【課題】疲労強度および耐食性を向上させた溶接継手及び溶接鋼構造物を提供する。
【解決手段】質量%で、0.001%≦C≦0.10%、0.1%≦Si≦3.0%、0.05%≦Mn≦3.0%、0.02%≦P≦0.20%、S≦0.05%、0.001%≦Al≦0.1%、0.3%≦Cr≦3.0%、0.05%≦Mo≦1.0%、0.04%≦Nb≦1.0%、0.0001%≦B≦0.01%、0.0005%≦N≦0.005%を含有し、残部鉄及び不可避的不純物からなる鋼板を用いて作成され、その溶接熱影響部における面積率最大の相がフェライトであり、その平均粒径が10μm以上30μm未満であることを特徴とする疲労強度および耐食性に優れた溶接継手。
【選択図】 なし
【解決手段】質量%で、0.001%≦C≦0.10%、0.1%≦Si≦3.0%、0.05%≦Mn≦3.0%、0.02%≦P≦0.20%、S≦0.05%、0.001%≦Al≦0.1%、0.3%≦Cr≦3.0%、0.05%≦Mo≦1.0%、0.04%≦Nb≦1.0%、0.0001%≦B≦0.01%、0.0005%≦N≦0.005%を含有し、残部鉄及び不可避的不純物からなる鋼板を用いて作成され、その溶接熱影響部における面積率最大の相がフェライトであり、その平均粒径が10μm以上30μm未満であることを特徴とする疲労強度および耐食性に優れた溶接継手。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は自動車、建設機械、船舶、海洋構造物、橋梁、建築物、貯槽、ペンストック等に利用される疲労特性および耐食性に優れた溶接構造用鋼材およびそれを用いた溶接鋼構造物にかかわるものであり、さらに詳しくは溶接熱影響部(以下、HAZという)を強化して疲労強度を安定して向上させるとともに、耐食性をも向上させた溶接継手およびそれを用いた溶接鋼構造物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に構造用鋼板母材の疲労強度は母材強度の増加につれて増加するが、溶接継手の疲労強度(以下、継手疲労強度という)は母材強度を上昇させても向上しない。また、大気に晒される鋼構造物の母材およびHAZが腐食によって減肉し、応力が増加する結果、継手疲労強度がさらに低下する場合が多く、これら継手疲労強度と耐食性の両方の向上させることが溶接鋼構造物にとって重要になっている。
【0003】
このような課題に対して継手疲労強度と耐食性の両立を目的とした鋼材の検討はいくつか報告されており、例えば、特許文献1では、NbおよびMoを複合添加して(Nb・Mo)Cの析出によりHAZ軟化を防止するとともにPおよびCuを添加して耐食性を向上させる方法が開示されている。また特許文献2では耐食性向上策としてのPおよびCuの添加は上記と同様であるが、TiおよびNbの添加によってこれらの炭・窒化物を核にしたHAZ組織の微細化によりHAZ軟化を防止する方法が開示されている。また、さらに、特許文献3および特許文献4では耐食性の向上元素としてP、Cuに加えてCrおよびMoの添加を提案するとともに、継手疲労強度向上手段としてNb、Ti、Vの添加によるHAZ組織の微細化技術が開示されている。
【0004】
また、継手疲労強度の向上のみを目的とした技術として、特許文献5にはB添加によるHAZ粒界強化とSi添加によるHAZマトリックス強化の組合せにより溶接部の疲労強度に優れた高張力鋼が開示されている。また、本発明者らは、特許文献6において溶接継手の疲労強度改善を目的としてHAZのフェライト体積率およびフェライト粒径を規定した溶接継手を提案している。
【0005】
【特許文献1】
特開平5−117802号公報
【特許文献2】
特開平6−145790号公報
【特許文献3】
特開平5−331595号公報
【特許文献4】
特開平5−331596号公報
【特許文献5】
特開平6−330232号公報
【特許文献6】
特開平9−227987号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
これら従来技術のうち、特許文献1ではNbおよびMoを複合添加して溶接時の入熱によってこれらの炭化物をHAZ粒内に析出させて、HAZの軟化を防止することにより継手疲労強度を向上させているが、他の添加元素や溶接方法(溶接入熱)によってはHAZの組織がフェライトのみならずベイナイトやマルテンサイトに変わり、また粒径も変わるため、継手疲労強度が安定して確保しにくく、また、特にフェライトの場合にはHAZ粒界での疲労亀裂発生に対する対策が講じられていない。また特許文献2は析出強化ならびに微細析出物を核とした組織微細化の技術であり、HAZ組織や粒径の規定が無く、同じく他の添加元素や溶接入熱によってはHAZ組織および粒径が変わり、継手疲労強度向上効果が変わる可能性があるとともに、HAZ粒界を起点とした疲労破壊の疲労強度が確保されていない。
【0007】
また、さらに、特許文献3および特許文献4に開示された発明の鋼材の実施例はいずれもCr、Mo、Nbの少なくとも1種の添加量が本発明の範囲から外れており、またHAZ組織およびその結晶粒径についての規定が無く、Cr添加の目的も耐食性の向上であるのに対し、本発明は疲労強度と耐食性の両方の向上に主眼を置いた溶接継手である点で、本発明とは異なる発明である。
【0008】
加えて継手疲労強度の向上を目的とした特許文献5ではSi、Cr、Nb、Mo、Bの添加が規定されているが、Nb及びMoを含有する実施例はNb添加量が本発明の範囲から外れており、HAZの疲労特性に影響を及ぼす結晶粒径の規定が無く、また特許文献6は実施例中にNb及びMoを含有するものは1例も記載がなく、フェライト粒径が30〜300μmであり、本発明の範囲から外れており、目的も継手疲労強度の向上のみを狙ったものであるのに対して、本発明はHAZの静的強度確保と継手疲労強度の両立を狙ったものであるため、本発明とは異なる発明である。
【0009】
本発明の目的は、継手疲労強度を向上させるとともに、耐食性を向上させた溶接継手及び溶接鋼構造物を安定して得ようとするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の要旨とするところは、
(1)質量%で、0.001%≦C≦0.10%、0.1%≦Si≦3.0%、0.05%≦Mn≦3.0%、0.02%≦P≦0.20%、S≦0.05%、0.001%≦Al≦0.1%、0.3%≦Cr≦3.0%、0.05%≦Mo≦1.0%、0.04%≦Nb≦1.0%、0.0001%≦B≦0.01%、0.0005%≦N≦0.005%を含有し、残部鉄及び不可避的不純物からなる鋼板を用いて作成され、その溶接熱影響部における面積率最大の相がフェライトであり、その平均粒径が10μm以上30μm未満であることを特徴とする疲労強度および耐食性に優れた溶接継手、
(2)質量%で、さらに、0.1%≦Cu≦2.0%、0.1%≦Ni≦5.0%の1種又は2種を含有することを特徴とする前記(1)記載の疲労強度および耐食性に優れた溶接継手、
(3)質量%で、さらに、0.005%≦V≦2.0%、0.005%≦Ti≦1.0%の1種又は2種を含むことを特徴とする前記(1)又は(2)記載の疲労強度および耐食性に優れた溶接継手、
(4)(1)〜(3)の何れか1項に記載の溶接継手を少なくとも1箇所用いることを特徴とする疲労強度および耐食性に優れた溶接鋼構造物、
にある。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
溶接構造物に疲労荷重が負荷されると主に溶接止端から微小な亀裂が発生し、やがてHAZを伝播して破壊に至るため、HAZを強化する方法が疲労強度向上方法として種々提案されている。主なものは細粒化による強化、ベイナイトまたはマルテンサイトによる強化、析出による強化などがある。また、大気に晒される溶接構造物の母材およびHAZは腐食による減肉が生じ、作用する応力が増大するため継手疲労強度の低下を加速する。このためP、Cu、Cr、Mo等の添加が提案されている。
【0013】
本発明者はかかる課題の解決のために、1)まず継手疲労強度の安定した向上、2)耐食性の両立および向上、が重要と考えて検討を行った。従来から提案されている継手疲労強度向上手段のうち、析出強化法および細粒化法はNbおよびMo、Tiの炭化物および窒化物、Cuなどの析出などを利用したものであるが、スポット溶接、レーザー溶接、アーク溶接など種々の溶接方法に対応する広範囲な溶接入熱に対してHAZの組織は必ずしも一定とはならず、従って継手疲労強度の向上効果は必ずしも安定したものではない。また、組織強化法はフェライト以外にベイナイトやマルテンサイトの混合組織化を狙ったものであり、これらの組織比率によって疲労強度向上効果が変化して安定しない。これらのことから本発明者は多少の溶接入熱や添加元素の量によらずHAZ組織の面積最大相がフェライトであることが継手疲労強度の安定・向上に特に有効であり、その粒径もある程度粗粒にすることが有効であることを突き止め、そのためにフェライトフォーマーであるSiおよびCrの添加が有効であることを見出した。また、単なるフェライト化だけではHAZが強度不足となるため、NbおよびMoの微量複合添加による析出強化を併用するとともに、フェライト粒径に上限を設けることが効果的であることも知見した。しかし、析出強化による粒内強化のみでは、フェライトの粒界が疲労亀裂発生位置となる場合が多いことから、粒界を強化するため適量のB添加が有効であることを見出した。すなわち、Si、Crの添加によりフェライト化し、NbおよびMoで粒内を強化した組織の粒界に、B添加によりアシキュラーフェライトを析出させることで高い継手疲労強度を安定して得ることが可能となった。
【0014】
次に耐食性についてはP、Cu、Ni等の添加が提案されているが、本発明では上述のCrが耐食性を向上させる効果も持ち合わせているため、Crに加えて比較的安価なPを添加することで耐食性の両立および向上を果たすことが出来た。
【0015】
このように、本発明の溶接継手は疲労強度を安定して向上させるためにフェライト安定化元素であるSi、Crを添加して粒径を制御するとともにフェライト粒界を強化するBを添加し、またPとCrによる耐食性向上効果を兼ね備えている点で疲労強度と耐食性の両方に優れている。
【0016】
次に本発明の溶接継手に用いる鋼材の各成分の限定理由を述べる。
【0017】
Cは多くなると溶接性、加工性を損なうため少なくすることが望ましく、0.10%以下である必要があるが、鋼材の強度確保のためには、0.001%以上は必要である。
【0018】
Siは脱酸剤として重要である以外にフェライト化元素として必須であるため0.1%以上の添加が必要である。一方3.0%を超えるとSiO2などの介在物の生成をまねき靭性を低下させる。
【0019】
Mnは安価に強度を上げる元素として有用であり、強度確保のため0.05%以上は必要であるが3.0%超を添加すると溶接性を損なうので含有量は0.05〜3.0%とする。
【0020】
Pは製鋼段階で不可避的に0.02%未満は含まれているが、耐食性に有効な元素であり、その効果発現のために0.02%以上の添加が必要である。しかし多すぎると溶接性を損なうので0.2%以下とする。
【0021】
Sは製鋼工程で不可避的に鋼材に含まれるが、多すぎると溶接性および靭性を損なうので0.050%以下とする。
【0022】
Alは脱酸剤として重要であるほか、強度を向上させる重要な元素であり、0.001%以上必要であるが、多すぎるとAl2O3などの介在物が多くなりすぎ、靭性を低下させるため0.1%を上限とする。
【0023】
Crはフェライト化を促進させるとともに耐食性向上に有効な必須の元素であり、0.3%以上は必要であるが、過度の添加は組織の極端な粗大化を招いて靭性を低下させるため3.0%を上限とする。
【0024】
NbはHAZの軟化を防止する効果があり、必須の元素である。0.04%未満ではHAZの軟化防止効果が無くなるので0.04%を下限とし、1.0%を超えると加工性が劣化するので1.0%を上限とする。
【0025】
MoもNbとの複合添加においてHAZ軟化を防止する効果があり、必須の元素である。0.05%未満ではHAZの軟化防止効果が無くなるので0.05%を下限とし、1.0%を超えると疵の原因となる介在物が多くなるので1.0%を上限とする。
【0026】
Bはオーステナイト粒界に析出して粒界を強化するのに有効な元素であり、その効果を得るためには0.0001%以上の添加が必要であるが、過度の添加はHAZの靭性を損なうので上限は0.01%とする。
【0027】
NはNbおよびMoの炭化物の析出に関与し、(Nb,Mo)Cの析出物にわずかに含まれ強度確保に必要なので、0.0005%以上含有させる。また0.005%を超えると熱延段階でNbNが析出し、HAZ軟化防止に有効なNb量を減らすことになるので上限を0.005%とする。
【0028】
Cu、Niはいずれも耐食性に有効な元素であるが過剰の添加はいずれもHAZの材質を劣化させるのでCuは0.1%以上2.0%以下、Niは0.1%以上5.0%以下とする。
【0029】
Ti、Vはいずれも固溶強化に有効な元素であるが過剰の添加はHAZの材質を劣化させるのでTiは0.005%以上1.0%以下、Vは0.005%以上2.0%以下とする。
【0030】
次にHAZ組織および粒径規定理由について述べる。
【0031】
HAZ組織としてとりうる組織にはフェライトの他にベイナイト、マルテンサイト、パーライト、オーステナイト等があるが、フェライトは延性に富むため、疲労亀裂が発生しても亀裂閉口を起こしやすく、亀裂伝播抵抗が大きいことから、本発明の溶接継手では面積率最大の相とした。その粒径については、特開平9−227987号公報で30〜300μmの範囲を規定している。しかし、本発明者が結晶粒径を引き続き検討したところ、比較的薄鋼板の溶接継手では鋼板の全厚にわたってHAZが分布する場合が多く、疲労亀裂伝播抵抗を増大させるためにHAZ粒径を大きくする、すなわちHAZの静的引張強度を低下させるとひずみがHAZに集中して疲労強度を極端に低下させることがわかり、HAZの結晶粒径をある程度小さくすることで静的引張強度と疲労亀裂伝播抵抗との両立を図ることが最適であることを知見した。その適切な結晶粒径としては疲労亀裂伝播抵抗を向上させるためには10μm以上が必要であるが、静的引張強度の確保の観点からは30μm未満とすることが必要あるという結論に至った。疲労亀裂伝播抵抗を高めるためには面積率最大の相がフェライトである必要があり、フェライト単相すなわち面積率100%であることが好ましい。
【0032】
なお、HAZにおいて、フェライトの面積率は、溶接金属、HAZ、母材が含まれるように溶接継手を切断・研磨した面を光学顕微鏡で観察し、溶融境界からHAZ側に50μmの位置から、HAZと母材の境界線までの領域に占める各ミクロ組織の割合を、第3版鉄鋼便覧、IV鉄鋼材料、試験・分析(日本鉄鋼協会編)に記載の線解析により測定した値と定義する。また、HAZの平均フェライト粒径は上記のフェライト面積率を測定する領域において、JIS G0552「鋼のフェライト結晶粒度試験方法」に記載の切断法(線解析)により測定した値と定義する。
【0033】
次に本発明の溶接継手に用いる鋼材の製造条件について述べる。
【0034】
本発明の溶接継手では、NbおよびMoの炭化物が析出してHAZ軟化を防止しているため、本発明の溶接継手に用いる鋼材は、NbおよびMoが母材に固溶している状態である必要がある。また疲労亀裂伝播抵抗向上の観点から鋼材においても第二相の析出は極力避けることが好ましい。本発明の継手に用いる鋼材のうち、熱延鋼板の製造を例にして好ましい製造条件を述べると、まず本発明の成分に調整されたスラブを熱延前にオーステナイト化する必要から1000〜1250℃に加熱する。次に熱間圧延の仕上げ温度を800〜950℃とする。仕上げ温度が800℃より低いとNbおよびMoの炭化物が固溶せず、溶接の際に析出するのに必要なNbおよびMoが固溶状態で残らないためである。さらに巻き取り温度は400〜600℃で行い、巻き取りまでの冷却速度は10℃/秒以上とする。これは巻き取り温度が600℃を超えると第二相であるパーライトが析出を始めること、また冷却速度が10℃/秒より遅いと同じく冷却過程でパーライトが析出するためである。
【0035】
本発明では特に鋼材の形状を規定していないが、薄鋼板、厚鋼板など鋼板に限らず、鋼管、形鋼、棒鋼などでも実施することが可能である。
【0036】
また溶接方法としては、被覆アーク溶接、ガスシールドアーク溶接、TIG溶接、サブマージアーク溶接のみならず、スポット溶接、プロジェクション溶接などの抵抗溶接、電子ビーム溶接、レーザー溶接、超音波溶接等にも適用可能である。
【0037】
さらに、本発明の溶接継手を構造物の一部又は全部に用いることにより疲労強度を高めた溶接鋼構造物を作成することが可能である。すなわち設計応力が高く疲労破壊の起点となる部分には本発明の溶接継手を用い、その他の部分には必ずしも疲労強度の高くない薄手の鋼材および溶接継手を配置することで鋼構造物全体の重量を低減することが可能である。
【0038】
【実施例】
表1、表2(表1のつづき)に示す化学組成を持つ板厚3.2mmの薄鋼板を、スラブ加熱温度1050〜1150℃、熱間圧延仕上げ温度850〜900℃、巻き取り温度450〜550℃、冷却速度10〜20℃/秒の条件で製作した。次いで表中に示す溶接入熱でアーク溶接を行い、図1に示す寸法の重ね隅肉継手を製作した。このとき、板厚3.2mmの薄鋼板を2.3mmに研削した鋼板についても同様に重ね隅肉継手を製作した。用いた溶接材料は、JIS Z3312 YGW15相当のワイヤ径1.2mmの溶材であり、溶接材料の組成は多層盛り溶接の溶接金属を調べた結果、C:0.08%、Si:0.38%、Mn:0.92%、P:0.011%、S:0.006%のものである。
【0039】
この溶接継手について、両振り荷重制御(応力比−1)での疲労試験を行い、200万回疲労強度を求め表1の最右欄に応力範囲で示した。耐食性については、上記の溶接と同様の熱サイクルを上記鋼板に与えてHAZ組織をシミュレートした薄鋼板を製作し、燐酸塩処理を施した後、カチオン電着塗装後、素地に達するクロスカットを施し、塩水噴霧5℃/6時間→乾燥70℃/RH60%/4時間→湿潤49℃/RH95%/4時間→冷却20℃/4時間を1サイクルとする促進テストを80サイクル実施した際のクロスカット部の浸食深さで評価した。
【0040】
No.1〜17は本発明継手であり、No.18〜27は比較継手である。No.1〜17は良好な耐食性(浸食深さ<0.55mm)および継手疲労特性(≧240MPa)を有している。No.9、10は選択元素のうち疲労強度向上元素であるTi、Vを含有するため、継手疲労強度が特に向上している。またNo.7、8、15はそれぞれNi、Cu、Pの添加量が多いため高い耐食性を有している。
【0041】
比較例No.18および20はそれぞれC、Mnが上限を超えているため高強度であるが継手疲労強度が向上していない。No.19、21〜24はSi、Mo、Nb、Cr、Bが不足しているため、強度が不足気味で継手疲労強度も低い。No.26はNが多すぎるため析出強化に有効なNbが減少し、継手疲労強度が低い。No.23および25はCrならびにPが下限を下回っているため耐食性が悪い。No.26は溶接入熱が大きいためフェライト粒径が大きくなっており、継手疲労強度が低い。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の溶接継手および溶接構造物は、添加元素の最適化により高い継手疲労強度と高い耐食性を有しており、その原理は溶接方法、継手形式などによらず広範囲にわたり適用可能である。従って疲労破壊および腐食が問題となる溶接鋼構造物での使用に際し、設計面で特別な配慮を必要とせず高い継手疲労強度および高い耐食性を安定して得ることが可能であり、工業的な価値が極めて高い発明であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例における重ね隅肉継手の試験片形状、寸法の説明図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は自動車、建設機械、船舶、海洋構造物、橋梁、建築物、貯槽、ペンストック等に利用される疲労特性および耐食性に優れた溶接構造用鋼材およびそれを用いた溶接鋼構造物にかかわるものであり、さらに詳しくは溶接熱影響部(以下、HAZという)を強化して疲労強度を安定して向上させるとともに、耐食性をも向上させた溶接継手およびそれを用いた溶接鋼構造物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に構造用鋼板母材の疲労強度は母材強度の増加につれて増加するが、溶接継手の疲労強度(以下、継手疲労強度という)は母材強度を上昇させても向上しない。また、大気に晒される鋼構造物の母材およびHAZが腐食によって減肉し、応力が増加する結果、継手疲労強度がさらに低下する場合が多く、これら継手疲労強度と耐食性の両方の向上させることが溶接鋼構造物にとって重要になっている。
【0003】
このような課題に対して継手疲労強度と耐食性の両立を目的とした鋼材の検討はいくつか報告されており、例えば、特許文献1では、NbおよびMoを複合添加して(Nb・Mo)Cの析出によりHAZ軟化を防止するとともにPおよびCuを添加して耐食性を向上させる方法が開示されている。また特許文献2では耐食性向上策としてのPおよびCuの添加は上記と同様であるが、TiおよびNbの添加によってこれらの炭・窒化物を核にしたHAZ組織の微細化によりHAZ軟化を防止する方法が開示されている。また、さらに、特許文献3および特許文献4では耐食性の向上元素としてP、Cuに加えてCrおよびMoの添加を提案するとともに、継手疲労強度向上手段としてNb、Ti、Vの添加によるHAZ組織の微細化技術が開示されている。
【0004】
また、継手疲労強度の向上のみを目的とした技術として、特許文献5にはB添加によるHAZ粒界強化とSi添加によるHAZマトリックス強化の組合せにより溶接部の疲労強度に優れた高張力鋼が開示されている。また、本発明者らは、特許文献6において溶接継手の疲労強度改善を目的としてHAZのフェライト体積率およびフェライト粒径を規定した溶接継手を提案している。
【0005】
【特許文献1】
特開平5−117802号公報
【特許文献2】
特開平6−145790号公報
【特許文献3】
特開平5−331595号公報
【特許文献4】
特開平5−331596号公報
【特許文献5】
特開平6−330232号公報
【特許文献6】
特開平9−227987号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
これら従来技術のうち、特許文献1ではNbおよびMoを複合添加して溶接時の入熱によってこれらの炭化物をHAZ粒内に析出させて、HAZの軟化を防止することにより継手疲労強度を向上させているが、他の添加元素や溶接方法(溶接入熱)によってはHAZの組織がフェライトのみならずベイナイトやマルテンサイトに変わり、また粒径も変わるため、継手疲労強度が安定して確保しにくく、また、特にフェライトの場合にはHAZ粒界での疲労亀裂発生に対する対策が講じられていない。また特許文献2は析出強化ならびに微細析出物を核とした組織微細化の技術であり、HAZ組織や粒径の規定が無く、同じく他の添加元素や溶接入熱によってはHAZ組織および粒径が変わり、継手疲労強度向上効果が変わる可能性があるとともに、HAZ粒界を起点とした疲労破壊の疲労強度が確保されていない。
【0007】
また、さらに、特許文献3および特許文献4に開示された発明の鋼材の実施例はいずれもCr、Mo、Nbの少なくとも1種の添加量が本発明の範囲から外れており、またHAZ組織およびその結晶粒径についての規定が無く、Cr添加の目的も耐食性の向上であるのに対し、本発明は疲労強度と耐食性の両方の向上に主眼を置いた溶接継手である点で、本発明とは異なる発明である。
【0008】
加えて継手疲労強度の向上を目的とした特許文献5ではSi、Cr、Nb、Mo、Bの添加が規定されているが、Nb及びMoを含有する実施例はNb添加量が本発明の範囲から外れており、HAZの疲労特性に影響を及ぼす結晶粒径の規定が無く、また特許文献6は実施例中にNb及びMoを含有するものは1例も記載がなく、フェライト粒径が30〜300μmであり、本発明の範囲から外れており、目的も継手疲労強度の向上のみを狙ったものであるのに対して、本発明はHAZの静的強度確保と継手疲労強度の両立を狙ったものであるため、本発明とは異なる発明である。
【0009】
本発明の目的は、継手疲労強度を向上させるとともに、耐食性を向上させた溶接継手及び溶接鋼構造物を安定して得ようとするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の要旨とするところは、
(1)質量%で、0.001%≦C≦0.10%、0.1%≦Si≦3.0%、0.05%≦Mn≦3.0%、0.02%≦P≦0.20%、S≦0.05%、0.001%≦Al≦0.1%、0.3%≦Cr≦3.0%、0.05%≦Mo≦1.0%、0.04%≦Nb≦1.0%、0.0001%≦B≦0.01%、0.0005%≦N≦0.005%を含有し、残部鉄及び不可避的不純物からなる鋼板を用いて作成され、その溶接熱影響部における面積率最大の相がフェライトであり、その平均粒径が10μm以上30μm未満であることを特徴とする疲労強度および耐食性に優れた溶接継手、
(2)質量%で、さらに、0.1%≦Cu≦2.0%、0.1%≦Ni≦5.0%の1種又は2種を含有することを特徴とする前記(1)記載の疲労強度および耐食性に優れた溶接継手、
(3)質量%で、さらに、0.005%≦V≦2.0%、0.005%≦Ti≦1.0%の1種又は2種を含むことを特徴とする前記(1)又は(2)記載の疲労強度および耐食性に優れた溶接継手、
(4)(1)〜(3)の何れか1項に記載の溶接継手を少なくとも1箇所用いることを特徴とする疲労強度および耐食性に優れた溶接鋼構造物、
にある。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
溶接構造物に疲労荷重が負荷されると主に溶接止端から微小な亀裂が発生し、やがてHAZを伝播して破壊に至るため、HAZを強化する方法が疲労強度向上方法として種々提案されている。主なものは細粒化による強化、ベイナイトまたはマルテンサイトによる強化、析出による強化などがある。また、大気に晒される溶接構造物の母材およびHAZは腐食による減肉が生じ、作用する応力が増大するため継手疲労強度の低下を加速する。このためP、Cu、Cr、Mo等の添加が提案されている。
【0013】
本発明者はかかる課題の解決のために、1)まず継手疲労強度の安定した向上、2)耐食性の両立および向上、が重要と考えて検討を行った。従来から提案されている継手疲労強度向上手段のうち、析出強化法および細粒化法はNbおよびMo、Tiの炭化物および窒化物、Cuなどの析出などを利用したものであるが、スポット溶接、レーザー溶接、アーク溶接など種々の溶接方法に対応する広範囲な溶接入熱に対してHAZの組織は必ずしも一定とはならず、従って継手疲労強度の向上効果は必ずしも安定したものではない。また、組織強化法はフェライト以外にベイナイトやマルテンサイトの混合組織化を狙ったものであり、これらの組織比率によって疲労強度向上効果が変化して安定しない。これらのことから本発明者は多少の溶接入熱や添加元素の量によらずHAZ組織の面積最大相がフェライトであることが継手疲労強度の安定・向上に特に有効であり、その粒径もある程度粗粒にすることが有効であることを突き止め、そのためにフェライトフォーマーであるSiおよびCrの添加が有効であることを見出した。また、単なるフェライト化だけではHAZが強度不足となるため、NbおよびMoの微量複合添加による析出強化を併用するとともに、フェライト粒径に上限を設けることが効果的であることも知見した。しかし、析出強化による粒内強化のみでは、フェライトの粒界が疲労亀裂発生位置となる場合が多いことから、粒界を強化するため適量のB添加が有効であることを見出した。すなわち、Si、Crの添加によりフェライト化し、NbおよびMoで粒内を強化した組織の粒界に、B添加によりアシキュラーフェライトを析出させることで高い継手疲労強度を安定して得ることが可能となった。
【0014】
次に耐食性についてはP、Cu、Ni等の添加が提案されているが、本発明では上述のCrが耐食性を向上させる効果も持ち合わせているため、Crに加えて比較的安価なPを添加することで耐食性の両立および向上を果たすことが出来た。
【0015】
このように、本発明の溶接継手は疲労強度を安定して向上させるためにフェライト安定化元素であるSi、Crを添加して粒径を制御するとともにフェライト粒界を強化するBを添加し、またPとCrによる耐食性向上効果を兼ね備えている点で疲労強度と耐食性の両方に優れている。
【0016】
次に本発明の溶接継手に用いる鋼材の各成分の限定理由を述べる。
【0017】
Cは多くなると溶接性、加工性を損なうため少なくすることが望ましく、0.10%以下である必要があるが、鋼材の強度確保のためには、0.001%以上は必要である。
【0018】
Siは脱酸剤として重要である以外にフェライト化元素として必須であるため0.1%以上の添加が必要である。一方3.0%を超えるとSiO2などの介在物の生成をまねき靭性を低下させる。
【0019】
Mnは安価に強度を上げる元素として有用であり、強度確保のため0.05%以上は必要であるが3.0%超を添加すると溶接性を損なうので含有量は0.05〜3.0%とする。
【0020】
Pは製鋼段階で不可避的に0.02%未満は含まれているが、耐食性に有効な元素であり、その効果発現のために0.02%以上の添加が必要である。しかし多すぎると溶接性を損なうので0.2%以下とする。
【0021】
Sは製鋼工程で不可避的に鋼材に含まれるが、多すぎると溶接性および靭性を損なうので0.050%以下とする。
【0022】
Alは脱酸剤として重要であるほか、強度を向上させる重要な元素であり、0.001%以上必要であるが、多すぎるとAl2O3などの介在物が多くなりすぎ、靭性を低下させるため0.1%を上限とする。
【0023】
Crはフェライト化を促進させるとともに耐食性向上に有効な必須の元素であり、0.3%以上は必要であるが、過度の添加は組織の極端な粗大化を招いて靭性を低下させるため3.0%を上限とする。
【0024】
NbはHAZの軟化を防止する効果があり、必須の元素である。0.04%未満ではHAZの軟化防止効果が無くなるので0.04%を下限とし、1.0%を超えると加工性が劣化するので1.0%を上限とする。
【0025】
MoもNbとの複合添加においてHAZ軟化を防止する効果があり、必須の元素である。0.05%未満ではHAZの軟化防止効果が無くなるので0.05%を下限とし、1.0%を超えると疵の原因となる介在物が多くなるので1.0%を上限とする。
【0026】
Bはオーステナイト粒界に析出して粒界を強化するのに有効な元素であり、その効果を得るためには0.0001%以上の添加が必要であるが、過度の添加はHAZの靭性を損なうので上限は0.01%とする。
【0027】
NはNbおよびMoの炭化物の析出に関与し、(Nb,Mo)Cの析出物にわずかに含まれ強度確保に必要なので、0.0005%以上含有させる。また0.005%を超えると熱延段階でNbNが析出し、HAZ軟化防止に有効なNb量を減らすことになるので上限を0.005%とする。
【0028】
Cu、Niはいずれも耐食性に有効な元素であるが過剰の添加はいずれもHAZの材質を劣化させるのでCuは0.1%以上2.0%以下、Niは0.1%以上5.0%以下とする。
【0029】
Ti、Vはいずれも固溶強化に有効な元素であるが過剰の添加はHAZの材質を劣化させるのでTiは0.005%以上1.0%以下、Vは0.005%以上2.0%以下とする。
【0030】
次にHAZ組織および粒径規定理由について述べる。
【0031】
HAZ組織としてとりうる組織にはフェライトの他にベイナイト、マルテンサイト、パーライト、オーステナイト等があるが、フェライトは延性に富むため、疲労亀裂が発生しても亀裂閉口を起こしやすく、亀裂伝播抵抗が大きいことから、本発明の溶接継手では面積率最大の相とした。その粒径については、特開平9−227987号公報で30〜300μmの範囲を規定している。しかし、本発明者が結晶粒径を引き続き検討したところ、比較的薄鋼板の溶接継手では鋼板の全厚にわたってHAZが分布する場合が多く、疲労亀裂伝播抵抗を増大させるためにHAZ粒径を大きくする、すなわちHAZの静的引張強度を低下させるとひずみがHAZに集中して疲労強度を極端に低下させることがわかり、HAZの結晶粒径をある程度小さくすることで静的引張強度と疲労亀裂伝播抵抗との両立を図ることが最適であることを知見した。その適切な結晶粒径としては疲労亀裂伝播抵抗を向上させるためには10μm以上が必要であるが、静的引張強度の確保の観点からは30μm未満とすることが必要あるという結論に至った。疲労亀裂伝播抵抗を高めるためには面積率最大の相がフェライトである必要があり、フェライト単相すなわち面積率100%であることが好ましい。
【0032】
なお、HAZにおいて、フェライトの面積率は、溶接金属、HAZ、母材が含まれるように溶接継手を切断・研磨した面を光学顕微鏡で観察し、溶融境界からHAZ側に50μmの位置から、HAZと母材の境界線までの領域に占める各ミクロ組織の割合を、第3版鉄鋼便覧、IV鉄鋼材料、試験・分析(日本鉄鋼協会編)に記載の線解析により測定した値と定義する。また、HAZの平均フェライト粒径は上記のフェライト面積率を測定する領域において、JIS G0552「鋼のフェライト結晶粒度試験方法」に記載の切断法(線解析)により測定した値と定義する。
【0033】
次に本発明の溶接継手に用いる鋼材の製造条件について述べる。
【0034】
本発明の溶接継手では、NbおよびMoの炭化物が析出してHAZ軟化を防止しているため、本発明の溶接継手に用いる鋼材は、NbおよびMoが母材に固溶している状態である必要がある。また疲労亀裂伝播抵抗向上の観点から鋼材においても第二相の析出は極力避けることが好ましい。本発明の継手に用いる鋼材のうち、熱延鋼板の製造を例にして好ましい製造条件を述べると、まず本発明の成分に調整されたスラブを熱延前にオーステナイト化する必要から1000〜1250℃に加熱する。次に熱間圧延の仕上げ温度を800〜950℃とする。仕上げ温度が800℃より低いとNbおよびMoの炭化物が固溶せず、溶接の際に析出するのに必要なNbおよびMoが固溶状態で残らないためである。さらに巻き取り温度は400〜600℃で行い、巻き取りまでの冷却速度は10℃/秒以上とする。これは巻き取り温度が600℃を超えると第二相であるパーライトが析出を始めること、また冷却速度が10℃/秒より遅いと同じく冷却過程でパーライトが析出するためである。
【0035】
本発明では特に鋼材の形状を規定していないが、薄鋼板、厚鋼板など鋼板に限らず、鋼管、形鋼、棒鋼などでも実施することが可能である。
【0036】
また溶接方法としては、被覆アーク溶接、ガスシールドアーク溶接、TIG溶接、サブマージアーク溶接のみならず、スポット溶接、プロジェクション溶接などの抵抗溶接、電子ビーム溶接、レーザー溶接、超音波溶接等にも適用可能である。
【0037】
さらに、本発明の溶接継手を構造物の一部又は全部に用いることにより疲労強度を高めた溶接鋼構造物を作成することが可能である。すなわち設計応力が高く疲労破壊の起点となる部分には本発明の溶接継手を用い、その他の部分には必ずしも疲労強度の高くない薄手の鋼材および溶接継手を配置することで鋼構造物全体の重量を低減することが可能である。
【0038】
【実施例】
表1、表2(表1のつづき)に示す化学組成を持つ板厚3.2mmの薄鋼板を、スラブ加熱温度1050〜1150℃、熱間圧延仕上げ温度850〜900℃、巻き取り温度450〜550℃、冷却速度10〜20℃/秒の条件で製作した。次いで表中に示す溶接入熱でアーク溶接を行い、図1に示す寸法の重ね隅肉継手を製作した。このとき、板厚3.2mmの薄鋼板を2.3mmに研削した鋼板についても同様に重ね隅肉継手を製作した。用いた溶接材料は、JIS Z3312 YGW15相当のワイヤ径1.2mmの溶材であり、溶接材料の組成は多層盛り溶接の溶接金属を調べた結果、C:0.08%、Si:0.38%、Mn:0.92%、P:0.011%、S:0.006%のものである。
【0039】
この溶接継手について、両振り荷重制御(応力比−1)での疲労試験を行い、200万回疲労強度を求め表1の最右欄に応力範囲で示した。耐食性については、上記の溶接と同様の熱サイクルを上記鋼板に与えてHAZ組織をシミュレートした薄鋼板を製作し、燐酸塩処理を施した後、カチオン電着塗装後、素地に達するクロスカットを施し、塩水噴霧5℃/6時間→乾燥70℃/RH60%/4時間→湿潤49℃/RH95%/4時間→冷却20℃/4時間を1サイクルとする促進テストを80サイクル実施した際のクロスカット部の浸食深さで評価した。
【0040】
No.1〜17は本発明継手であり、No.18〜27は比較継手である。No.1〜17は良好な耐食性(浸食深さ<0.55mm)および継手疲労特性(≧240MPa)を有している。No.9、10は選択元素のうち疲労強度向上元素であるTi、Vを含有するため、継手疲労強度が特に向上している。またNo.7、8、15はそれぞれNi、Cu、Pの添加量が多いため高い耐食性を有している。
【0041】
比較例No.18および20はそれぞれC、Mnが上限を超えているため高強度であるが継手疲労強度が向上していない。No.19、21〜24はSi、Mo、Nb、Cr、Bが不足しているため、強度が不足気味で継手疲労強度も低い。No.26はNが多すぎるため析出強化に有効なNbが減少し、継手疲労強度が低い。No.23および25はCrならびにPが下限を下回っているため耐食性が悪い。No.26は溶接入熱が大きいためフェライト粒径が大きくなっており、継手疲労強度が低い。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の溶接継手および溶接構造物は、添加元素の最適化により高い継手疲労強度と高い耐食性を有しており、その原理は溶接方法、継手形式などによらず広範囲にわたり適用可能である。従って疲労破壊および腐食が問題となる溶接鋼構造物での使用に際し、設計面で特別な配慮を必要とせず高い継手疲労強度および高い耐食性を安定して得ることが可能であり、工業的な価値が極めて高い発明であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例における重ね隅肉継手の試験片形状、寸法の説明図である。
Claims (4)
- 質量%で、0.001%≦C≦0.10%、0.1%≦Si≦3.0%、0.05%≦Mn≦3.0%、0.02%≦P≦0.20%、S≦0.05%、0.001%≦Al≦0.1%、0.3%≦Cr≦3.0%、0.05%≦Mo≦1.0%、0.04%≦Nb≦1.0%、0.0001%≦B≦0.01%、0.0005%≦N≦0.005%を含有し、残部鉄及び不可避的不純物からなる鋼板を用いて作成され、その溶接熱影響部における面積率最大の相がフェライトであり、その平均粒径が10μm以上30μm未満であることを特徴とする疲労強度および耐食性に優れた溶接継手。
- 質量%で、さらに、0.1%≦Cu≦2.0%、0.1%≦Ni≦5.0%の1種又は2種を含有することを特徴とする請求項1記載の疲労強度および耐食性に優れた溶接継手。
- 質量%で、さらに、0.005%≦V≦2.0%、0.005%≦Ti≦1.0%の1種又は2種を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の疲労強度および耐食性に優れた溶接継手。
- 請求項1〜3の何れか1項に記載の溶接継手を少なくとも1箇所用いることを特徴とする疲労強度に優れた溶接鋼構造物。
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JP2002266816A JP2004100023A (ja) | 2002-09-12 | 2002-09-12 | 疲労強度および耐食性に優れた溶接継手及び溶接鋼構造物 |
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CN102892914A (zh) * | 2010-05-18 | 2013-01-23 | 杰富意钢铁株式会社 | 耐腐蚀性优异的焊接接头及原油罐 |
-
2002
- 2002-09-12 JP JP2002266816A patent/JP2004100023A/ja not_active Withdrawn
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