以下、本発明の動力伝達装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1から図3を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、回転部材の回転により送り出された潤滑油が流入するオイル受け部を備え、オイル受け部に貯留された潤滑油が各部に供給される動力伝達装置に関する。
図2は、この発明の一実施形態が適用されたFF(フロントエンジンフロントドライブ;エンジン前置き前輪駆動)形式のハイブリッド車の動力伝達装置100を示す軸方向の断面図、図1は、動力伝達装置100の径方向の断面図である。図2には、図1のD−D矢視図、およびE−E矢視図が示されている。
本実施形態の動力伝達装置(図1の符号100参照)では、ファイナルリングギヤ(第一の回転部材、図1の符号39参照)の回転により送り出された潤滑油が流入口(図1の符号52参照)を介してオイル受け部(図1の符号50参照)に流入する。さらに、ファイナルリングギヤ39から直接送られる潤滑油だけでなく、ファイナルリングギヤ39に送り出されてギヤ(第二の回転部材、図1の符号46参照)に到達した潤滑油(矢印Y7)が、ギヤ46の回転により送り出されてオイル受け部50に流入する(矢印Y8)。
オイル受け部50を構成するリブ(壁部、図1の符号51参照)は、リブ51を流れる潤滑油の流れ方向の上流側に位置する第一リブ(第一壁部、図1の符号57参照)と、上記流れ方向の下流側に位置する第二リブ(第二壁部、図1の符号56参照)とを有し、第一リブ57と第二リブ56との間に開口部(図1の符号55参照)が形成されている。ギヤ46により送り出される潤滑油は、開口部55を介してオイル受け部50に流入する。リブ51におけるギヤ46と径方向に対向する部分においてリブ51が潤滑油の流れ方向の上流側と下流側とに分割されて開口部55が形成されていることで、ファイナルリングギヤ39により送り出されて直接流入口52からオイル受け部50に流入する潤滑油のみならず、ギヤ46により送り出される潤滑油をオイル受け部50に受け入れることができる。
図2において、1はエンジンであり、このエンジン1としては内燃機関、具体的にはガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンまたはLPGエンジンまたはメタノールエンジンまたは水素エンジンなどを用いることができる。
この実施形態においては、便宜上、エンジン1としてガソリンエンジンを用いた場合について説明する。エンジン1は、燃料の燃焼によりクランクシャフト2から動力を出力する装置であって、吸気装置、排気装置、燃料噴射装置、点火装置、冷却装置などを備えた公知のものである。クランクシャフト2は車両の幅方向に、かつ、水平に配置され、クランクシャフト2の後端側はクラッチ11を介して動力伝達装置100のインプットシャフト5に接続されている。
エンジン1の外壁には、中空のトランスアクスルケース(ケース)4が取り付けられている。トランスアクスルケース4は、エンジン側ハウジング70と、エクステンションハウジング71と、エンドカバー72とを有している。これらエンジン側ハウジング70およびエクステンションハウジング71およびエンドカバー72は、アルミニウムなどの金属材料を成形加工したもの(ダイカスト部品)である。エンジン側ハウジング70の一方の開口端はエンジン1と相互に固定され、他方の開口端はエクステンションハウジング71と相互に固定されている。
エクステンションハウジング71は、エンジン側ハウジング70とエンドカバー72との間に配置されており、エクステンションハウジング71におけるエンジン1側と反対側の開口部は、エンドカバー72により閉塞されている。
トランスアクスルケース4の内部には、インプットシャフト5、第1のモータジェネレータ6、動力合成機構7、変速機構8、第2のモータジェネレータ(回転電機)9が設けられている。インプットシャフト5はクランクシャフト2と同心状に配置されている。クランクシャフト2とインプットシャフト5との間には、トルク変動を抑制・吸収するダンパ機構12が設けられている。
第1のモータジェネレータ6および第2のモータジェネレータ9は、トランスアクスルケース4内におけるエンジン1側と反対側に配置されている。第1のモータジェネレータ6および第2のモータジェネレータ9は、電力の供給により駆動する電動機としての機能(力行機能)と、機械エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機としての機能(回生機能)とを兼ね備えている。第1のモータジェネレータ6および第2のモータジェネレータ9としては、例えば、交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。第1のモータジェネレータ6および第2のモータジェネレータ9に電力を供給する電力供給装置としては、バッテリ、キャパシタなどの蓄電装置、あるいは公知の燃料電池などを用いることができる。
第1のモータジェネレータ6の配置位置および第1のモータジェネレータ6の構成を具体的に説明する。インプットシャフト5における軸方向の中央部には、動力合成機構7の一部をなす遊星歯車機構7Aが配置されている。第1のモータジェネレータ6は、遊星歯車機構7Aよりもエンジン1側と反対側に配置されている。言い換えると、遊星歯車機構7Aの軸方向の一方側にエンジン1が、他方側に第1のモータジェネレータ6が配置されている。第1のモータジェネレータ6は、トランスアクスルケース4側に固定されたステータ13と、回転自在なロータ14とを有している。
ステータ13およびロータ14は、所定肉厚の電磁鋼板を、その厚さ方向に複数枚を積層して構成したものである。なお、複数の電磁鋼板は、インプットシャフト5の軸線方向に積層されている。ロータ14は、インプットシャフト5の外周に取り付けられた中空シャフト17に連結されている。中空シャフト17は、インプットシャフト5と相対回転可能に構成されており、ロータ14は、中空シャフト17の外周側に連結されている。
動力合成機構(言い換えれば動力分配機構)7は、いわゆるシングルピニオン形式の遊星歯車機構7Aと、後述するカウンタドライブギヤ23およびカウンタドリブンギヤ35とを有している。遊星歯車機構7Aは、サンギヤ18と、サンギヤ18と同心状に配置されたリングギヤ19と、サンギヤ18およびリングギヤ19に係合するピニオンギヤ20を保持したキャリヤ21とを有している。そして、サンギヤ18と中空シャフト17とが連結され、キャリヤ21とインプットシャフト5とが連結されている。インプットシャフト5の径方向外方には、インプットシャフト5と同心状に配置された環状部材(言い換えれば円筒部材)22が配置されている。リングギヤ19は、この環状部材22と連結されており、環状部材22の外周側にはカウンタドライブギヤ23が形成されている。
第2のモータジェネレータ9は、第1のモータジェネレータ6と径方向に対向している。第2のモータジェネレータ9の回転軸としてのMGシャフト45は、車両の幅方向にほぼ水平に配置されている。このMGシャフト45とインプットシャフト5および中空シャフト17とは非同心状に配置されている。
第2のモータジェネレータ9は、トランスアクスルケース4に固定されたステータ25と、回転自在なロータ26とを有している。ロータ26が、MGシャフト45の外周に連結されている。ステータ25およびロータ26は、所定肉厚の電磁鋼板を、その厚さ方向に複数枚を積層して構成したものである。なお、複数の電磁鋼板は、MGシャフト45の軸線方向に積層されている。
トランスアクスルケース4の内部には、インプットシャフト5と平行なカウンタシャフト34が設けられている。カウンタシャフト34には、カウンタドリブンギヤ35と、カウンタドリブンギヤ35よりも小径のファイナルドライブピニオンギヤ36が形成されている。ファイナルドライブピニオンギヤ36は、カウンタシャフト34における後述するファイナルリングギヤ39と径方向に対向する位置に設けられている。カウンタドリブンギヤ35、および、ファイナルドライブピニオンギヤ36は、それぞれカウンタシャフト34に一体回転可能に連結されている。そして、カウンタドライブギヤ23とカウンタドリブンギヤ35とが係合されている。
MGシャフト45におけるエンジン1側の端部にはギヤ46が形成(連結)されている。ギヤ46は、はすば歯車であり、カウンタドリブンギヤ35と噛み合って(係合して)いる。カウンタドリブンギヤ35とギヤ46とは、ギヤ46からカウンタドリブンギヤ35に動力が伝達される場合の変速比が“1”より大きくなるように構成されている。これらのギヤ46およびカウンタドリブンギヤ35により、変速機構8が構成されている。第2のモータジェネレータ9の動力がMGシャフト45を介してギヤ46に伝達されると、ギヤ46の回転速度が減速されてカウンタドリブンギヤ35に伝達される。すなわち、第2のモータジェネレータ9のトルクが増幅されてカウンタドリブンギヤ35に伝達される。カウンタドライブギヤ23を介して伝達されるエンジン1の動力と、ギヤ46を介して伝達される第2のモータジェネレータ9の動力とが、カウンタドリブンギヤ35で合成されてカウンタシャフト34に伝達される。
さらに、トランスアクスルケース4の内部にはデファレンシャル37が設けられている。デファレンシャル37は、デフケース38の外周側に形成されたファイナルリングギヤ(第一の回転部材)39と、デフケース38内に設けられた差動機構40とを有している。ファイナルリングギヤ39は、ファイナルドライブピニオンギヤ36と噛み合っており、ファイナルドライブピニオンギヤ36との間で動力を伝達する。差動機構40は、ファイナルリングギヤ39を介して入力される伝達トルクを左右のフロントドライブシャフト43に分配する。フロントドライブシャフト43は、インプットシャフト5と平行であり、フロントドライブシャフト43には図示しない前輪(駆動輪)が連結されている。このように、トランスアクスルケース4の内部に、変速機構8およびデファレンシャル37を一括して組み込んだ、いわゆるトランスアクスルが構成されている。
上記のように構成されたハイブリッド車においては、車速およびアクセル開度などの条件に基づいて、前輪に伝達するべき要求トルクが算出され、その算出結果に基づいて、エンジン1、クラッチ11、第1のモータジェネレータ6、第2のモータジェネレータ9が制御される。エンジン1から出力されるトルクを前輪に伝達する場合は、クラッチ11が係合される。すると、クランクシャフト2の動力(言い換えればトルク)がインプットシャフト5を介してキャリヤ21に伝達される。
キャリヤ21に伝達されたトルクは、リングギヤ19、環状部材22、カウンタドライブギヤ23、カウンタドリブンギヤ35、カウンタシャフト34、ファイナルドライブピニオンギヤ36、デファレンシャル37を介して前輪に伝達され、駆動力が発生する。また、エンジン1のトルクをキャリヤ21に伝達する際に、第1のモータジェネレータ6を発電機として機能させ、発生した電力を蓄電装置(図示せず)に充電することもできる。
さらに、第2のモータジェネレータ9を電動機として駆動させ、その動力をカウンタドリブンギヤ35に伝達することができる。第2のモータジェネレータ9の動力がMGシャフト45を介してギヤ46に伝達されると、ギヤ46の回転速度が減速されてカウンタドリブンギヤ35に伝達される。すなわち、第2のモータジェネレータ9のトルクが増幅されて動力合成機構7に伝達される。このようにして、エンジン1の動力および第2のモータジェネレータ9の動力が動力合成機構7に入力されて合成され、合成された動力が前輪に伝達される。つまり、動力合成機構7は、エンジン1の動力、あるいは、第2のモータジェネレータ9の動力のうち少なくともいずれか一方を駆動輪に伝達する。
次に、図1を参照して動力伝達装置100における各軸の配置について説明する。図1には、エンジン1側から見た動力伝達装置100の径方向の断面図が示されている。
まず、各軸の回転方向について説明する。各軸5,45,43,34の回転方向は、図1に矢印A3からA6でそれぞれ示した方向である。インプットシャフト5の回転方向は、図1において反時計方向(矢印A3)である。これに対応して、MGシャフト45およびフロントドライブシャフト43は、それぞれ反時計方向(矢印A4,A5)に回転する。一方、カウンタシャフト34は、時計方向(矢印A6)に回転する。なお、図示の回転方向は、車両の前進時のものである。また、本実施形態の説明における上下方向とは、特にことわりのない限り、車両に搭載された状態における上下方向(鉛直方向)を意味している。
本実施形態では、第1のモータジェネレータ6の回転中心であるインプットシャフト5の中心軸線C3と、第2のモータジェネレータ9の回転中心であるMGシャフト45の中心軸線C4とが異なる複軸式のギヤトレーンとされることで、トランスアクスルの全長(軸方向の長さ)が短縮されている。また、複軸式のギヤトレーンでは各軸の配置における自由度が増し、車両搭載性が向上する。
動力伝達装置100内において、図1に示すように、MGシャフト45を上方に配置することが検討されている。具体的には、MGシャフト45の中心軸線C4は、カウンタシャフト34の中心軸線C6よりも上方に位置している。また、カウンタシャフト34の中心軸線C6は、フロントドライブシャフト43の中心軸線C5よりも上方に位置している。本実施形態では、MGシャフト45の中心軸線C4は、フロントドライブシャフト43の真上に配置されている。インプットシャフト5の中心軸線C3は、カウンタシャフト34の中心軸線C6の側方に位置している。
また、車両の前後方向において、カウンタシャフト34を挟んで、フロントドライブシャフト43およびMGシャフト45と、インプットシャフト5とは、異なる側に配置されている。本実施形態では、フロントドライブシャフト43およびMGシャフト45は、カウンタシャフト34よりも車両後方側(図1の右側)に、インプットシャフト5は、カウンタシャフト34よりも車両前方側(図1の左側)に、それぞれ配置されている。このように、MGシャフト45がトランスアクスルケース4内の上部に配置されることで、各軸をコンパクトに配置することが可能となる。
また、動力伝達装置100内の各部を潤滑・冷却する潤滑油をギヤの回転により動力伝達装置100内の上部に送ることが検討されている。トランスアクスルケース4内の下部には、潤滑油を貯留する貯留部29が形成されている。貯留部29は、トランスアクスルケース4内におけるフロントドライブシャフト43よりも鉛直方向下方に形成されており、トランスアクスルケース4の底部4aと、トランスアクスルケース4においてファイナルリングギヤ39の側面と対向する内壁面(側壁)とにより構成されている。貯留部29に貯留された潤滑油を回転するファイナルリングギヤ39により上方に送り出して(掻き揚げて)、掻き揚げられた潤滑油を動力伝達装置100の各部に供給することにより、従来の伝達装置で用いられていたオイルポンプを廃止することが可能となる。これにより、低コスト化できるメリットがある。
トランスアクスルケース4内には、ファイナルリングギヤ39により送り出された潤滑油を貯留するオイル受け部50が設けられている。オイル受け部50は、潤滑油のタンクであり、ファイナルリングギヤ39よりも上方に配置されている。オイル受け部50は、各ギヤ23,35,46のいずれと比較しても相対的に上方に位置している。言い換えると、各ギヤ23,35,39,46は、オイル受け部50の底部よりも下方に位置している。オイル受け部50は、リブ51と、トランスアクスルケース4の上部の内壁部4bと、トランスアクスルケース4の軸方向の両側の側壁とで構成されている。
オイル受け部50の底部は、トランスアクスルケース4の側壁に形成されたリブ51で構成されている。リブ51は、トランスアクスルケース4の両方の側壁から軸方向に突出して先端部において互いに当接している。トランスアクスルケース4内の空間は、リブ51により上下方向に仕切られており、リブ51よりも下方には、各ギヤ23,35,39,46を収容するギヤ室30が形成されている。オイル受け部50に貯留された潤滑油は、図示しないオイル通路を介して、トランスアクスルケース4内の各部に供給される。潤滑油は、各ギヤ23,35,39,46や軸受部、各モータジェネレータ6,9等に供給されて各部を潤滑・冷却する。
オイル受け部50には、ファイナルリングギヤ39の回転により貯留部29から送り出された潤滑油が流入する流入口52が形成されている。さらに、トランスアクスルケース4内には、潤滑油を流入口52に導くガイド部材53が設けられている。流入口52は、オイル受け部50における車両後方側の上部に形成されており、トランスアクスルケース4の上部の内壁部4bと、リブ51との間に形成されている。流入口52は、全てのギヤ23,35,39,46と比較して鉛直方向上方の位置に設けられている。
ガイド部材53は、ファイナルリングギヤ39により貯留部29から送り出された潤滑油を流入口52に導くものであり、リブ51の一部により構成されている。リブ51における車両後方側の端部は、車両後方側へ向かうに連れて下方へ向かう傾斜部となっており、この傾斜部が、ガイド部材53として機能する。ガイド部材53は、トランスアクスルケース4の内壁面(ファイナルリングギヤ39と径方向に対向する内壁面)に沿って上下方向に形成されており、ファイナルリングギヤ39の外周部の近傍から流入口52まで連続している。
図3は、ファイナルリングギヤ39により送り出された潤滑油の流れを説明するための図である。図3には、ファイナルリングギヤ39が比較的高速で回転している場合の潤滑油の流れが示されている。
ファイナルリングギヤ39により貯留部29から鉛直方向上方に向けて送り出された潤滑油は、矢印Y1に示すように、トランスアクスルケース4の内壁面とガイド部材53との間に形成された流路31を流入口52へ向けて進む。流路31を進む潤滑油の一部は、矢印Y2に示すように、ガイド部材53に沿う流れとなって流入口52に到達する。流入口52に到達した潤滑油は、流入口52からオイル受け部50に流入する(矢印Y3,Y4)。
リブ51には、流入口52からオイル受け部50に流入した潤滑油が流路31へ流出(逆流)することを抑制する逆流防止リブ54が形成されている。逆流防止リブ54は、リブ51における流入口52を形成する部分、言い換えると、リブ51におけるガイド部材53の上端部に形成されている。逆流防止リブ54は、上方に向けて突出しており、逆流防止リブ54を越えてオイル受け部50内に流入した潤滑油が流路31へ逆流することを抑制する。
ここで、ファイナルリングギヤ39による掻き揚げ方式では、低速時にオイル受け部50に十分な量の潤滑油を供給できない場合がある。車両が低速で走行している場合、ファイナルリングギヤ39の回転速度が低速となり、ファイナルリングギヤ39の回転では、オイル受け部50の流入口52に到達可能となるだけの十分なエネルギーを潤滑油に与えられない場合がある。特に、本実施形態の動力伝達装置100のように、第2のモータジェネレータ9の回転軸であるMGシャフト45が、トランスアクスルケース4内の比較的高い位置に配置されている場合、流入口52がより高い位置に設けられることとなる。これにより、ファイナルリングギヤ39による掻き揚げ方式では、オイル受け部50に十分な量の潤滑油を供給できなくなる虞がある。
以下の説明において、ファイナルリングギヤ39の回転速度が低速であるとは、上記回転速度が、ファイナルリングギヤ39により送り出される潤滑油が流入口52に到達しない速度域にあることを意味する。なお、ファイナルリングギヤ39により送り出される潤滑油が流入口52に到達しないことに代えて、ファイナルリングギヤ39により送り出されて流入口52からオイル受け部50に流入する潤滑油の流量が所定量未満となる速度域を低速域としてもよい。ここで、潤滑油の流量における所定量とは、例えば、オイル受け部50から流出する潤滑油の流量や、被潤滑部に供給すべき潤滑油の流量であることができる。
図1には、低速時の潤滑油の流れが示されている。低速時には、矢印Y5に示すように上方に向けて送られた潤滑油が、流入口52まで到達せずに、矢印Y6に示すように流路31内を下方へ向けて落下するようになる。このため、低速時には、落下する潤滑油が抵抗となり、ファイナルリングギヤ39によってオイル受け部50へ潤滑油を送る効率が低下してしまっていた。
これに対して、本実施形態では、ファイナルリングギヤ39の回転により上方に向けて送られた潤滑油を、さらに、MGシャフト45のギヤ46により上方へと送る。ファイナルリングギヤ39とギヤ46とによる二段階掻き揚げにより、潤滑油をオイル受け部50へ供給することで、ファイナルリングギヤ39の回転速度が低速である場合における潤滑油を送る効率を向上することができる。
ファイナルリングギヤ39が潤滑油を貯留部29から上方に送り出すときに、送り出された潤滑油の一部は、矢印Y7に示すように、ガイド部材53よりも流路31側と反対側を流れる。言い換えると、送り出された潤滑油の一部が、ギヤ室30をギヤ46へ向けて上昇する。ギヤ46に到達した(ギヤ46に掛かった)潤滑油は、ファイナルリングギヤ39と同方向に回転するギヤ46の回転のエネルギーにより、さらに上方へ送り出される。鉛直方向において、ギヤ46は、流入口52の下端よりも下方に配置されている。よって、ファイナルリングギヤ39により送り出される潤滑油が流入口52まで到達しない場合、すなわち、ファイナルリングギヤ39の回転速度が低速である場合であっても、ファイナルリングギヤ39により送り出された潤滑油がギヤ46に到達可能である。
リブ51には、ギヤ46から送られる潤滑油が流入する開口部55が形成されている。開口部55は、流入口52とは異なる、オイル受け部50への潤滑油の流入経路であり、リブ51におけるギヤ46と径方向に対向する部分に形成されている。リブ51は、開口部55により、リブ51を流れる潤滑油の流れ方向の上流側に位置し、かつ、流入口52を有する第一リブ57と、第一リブ57よりも上記流れ方向の下流側に位置する第二リブ56とに分割されている。つまり、ギヤ46と径方向に対向する壁部であるリブ51は、潤滑油の流れ方向の上流側の第一リブ57と、下流側の第二リブ56とに分割されており、第二リブ56と第一リブ57との間には、流入口52よりも上記流れ方向の下流側に位置する開口部55が形成されている。ファイナルリングギヤ39により送り出されてギヤ46に到達し、ギヤ46から送られる潤滑油は、矢印Y8に示すように、開口部55を介してオイル受け部50に流入する。
このように、本実施形態の動力伝達装置100では、ファイナルリングギヤ39によりオイル受け部50に直接潤滑油を送るだけでなく、ファイナルリングギヤ39とギヤ46の二段階で潤滑油をオイル受け部50に送る手段を有することにより、低速時であっても効率よくオイル受け部50に潤滑油を供給することができる。例えば、ファイナルリングギヤ39により送り出された潤滑油が流入口52まで到達しないような低車速域(低回転域)の場合、言い換えると、ファイナルリングギヤ39の回転速度が、ファイナルリングギヤ39により送り出された潤滑油が流入口52まで到達する速度域と比較して低速域にある場合であっても、二段階の掻き上げによればオイル受け部50に潤滑油を送ることができる。
リブ51におけるギヤ46と径方向に対向する位置に開口部55を形成するだけでギヤ46により送られる潤滑油をオイル受け部50に受け入れることができ、新たに油路等を設置する必要がないため、製造の容易さやコスト面で有利である。開口部55を形成する方法は、リブ51を潤滑油の流れ方向における上流側と下流側とで完全に分割する方法には限定されず、リブ51の一部に開口部55として機能する切欠部を設けるようにしてもよい。
ギヤ46により送り出され、開口部55を介してオイル受け部50に流入する潤滑油は、ガイド部材53よりも流路31側と反対側を通るため、流路31を落下する潤滑油(矢印Y6)による抵抗を受けることがない。よって、低速時においてギヤ46により効率よくオイル受け部50へ潤滑油を送ることが可能となる。
また、ファイナルリングギヤ39により送り出されてギヤ46に到達した潤滑油を貯留することなくそのままギヤ46により送り出すことで、攪拌抵抗の増加を抑制することができる。例えば、ギヤ46の下方に潤滑油を一時的に貯留し、貯留された潤滑油をあらためてギヤ46により上方に送り出すことが考えられるが、この場合、ギヤ46において攪拌抵抗が増加してしまうこととなる。本実施形態では、ギヤ46に到達した潤滑油をそのままギヤ46の回転により上方に送り出すため、ギヤ46における攪拌抵抗の増加を抑制することができる。ギヤ46は、ファイナルリングギヤ39の真上にあるため、短い経路長でオイル受け部50に潤滑油を供給することができる。ファイナルリングギヤ39により鉛直方向上方に送り出された潤滑油は、ギヤ46によりさらに上方へ向けて送り出される。このように、ファイナルリングギヤ39からほぼ真上の方向に向けて二段階で潤滑油を掻き揚げることで、オイル受け部50の上部まで短い経路で、かつ、効率的に潤滑油を掻き揚げることが可能である。
また、ギヤ46は、低車速時であっても比較的高速で回転するギヤであるため、潤滑油に十分なエネルギーを与えることができる。通常、動力伝達装置において、モータジェネレータの回転軸の回転速度は、他の回転軸の回転速度と比較して、高速となっている。言い換えると、通常、モータジェネレータの回転軸のギヤは、他の回転軸のギヤと比較して、高速で回転する。本実施形態の動力伝達装置100では、MGシャフト45のギヤ46の回転速度は、他のギヤ23,35,36の回転速度と比較して高速であるため、潤滑油を送るギヤとして適している。例えば、トランスアクスルケース4内において、ファイナルリングギヤ39と同方向に回転するギヤとしては、ギヤ46の他にカウンタドライブギヤ23がある。カウンタドライブギヤ23と比較して、ギヤ46は、高速で回転するため、二段階目の掻き揚げを行うギヤとして望ましい。
このように高速で回転するギヤ46が二段階目の掻き揚げを行うことで、潤滑油に十分なエネルギーが与えられ、潤滑油が確実に開口部55まで上昇することができる。モータジェネレータは、一般的に、高回転・低トルク化した方が小型、低損失、低コスト化できる。本実施形態において、第2のモータジェネレータ9を高回転・低トルク化した場合には、第2のモータジェネレータ9の小型、低損失、低コスト化ができると共に、オイル受け部50への潤滑油の供給効率をさらに向上させることができる。
また、本実施形態の動力伝達装置100によれば、ファイナルリングギヤ39が中高速で回転する場合の潤滑油の供給効率も向上させることができる。ファイナルリングギヤ39が低速で回転する場合に限らず、中高速で回転する場合にも、ファイナルリングギヤ39からギヤ46へ向けて上昇する潤滑油がある。ギヤ46に到達した潤滑油は、ギヤ46の回転により、開口部55を介してオイル受け部50へ送られる。本実施形態の動力伝達装置100では、このようにギヤ46に向けて飛ぶ潤滑油を二段階の掻き上げによりオイル受け部50に送ることができ、ファイナルリングギヤ39が中高速で回転する場合にオイル受け部50に潤滑油を送る効率も向上させることができる。
本実施形態のリブ51は、以下に説明するように、ギヤ46からオイル受け部50に潤滑油を送る効率が向上する形状に形成されている。第一リブ57は、ギヤ46と径方向に対向し、かつ、ギヤ46の外周に沿って開口部55まで連続的に形成されている。よって、ギヤ46により送られる潤滑油は、第一リブ57により開口部55に導かれる。ギヤ46により送り出された潤滑油が、第一リブ57に当たると、慣性力により、あるいは、後から流れてくる潤滑油に押されることにより、第一リブ57に沿って開口部55へ向けて流れる。つまり、第一リブ57は、ギヤ46により送り出された潤滑油が径方向に飛散してしまうことを抑制しつつ、潤滑油を開口部55へ向けて導く機能を有している。
また、第二リブ56には、開口部55からオイル受け部50へ流入した潤滑油がギヤ室30へ流出する(逆流する)ことを抑制する逆流防止リブ58が形成されている。逆流防止リブ58は、第二リブ56における開口部55を形成する部分、言い換えると、第二リブ56における第一リブ57側の端部に形成されている。第二リブ56の端部は、先端が上方に向かうL字状に屈曲しており、上方に向けて突出する先端部が、逆流防止リブ58として機能する。ギヤ46により送られる潤滑油が、開口部55からオイル受け部50に流入すると、逆流防止リブ58が、潤滑油の逆流を抑制する。これにより、一度オイル受け部50に流入した潤滑油がギヤ室30に逆流してしまうことが抑制され、ギヤ46によりオイル受け部50へ潤滑油を効率よく供給することができる。
さらに、リブ51は、流入口52からオイル受け部50に流入した潤滑油が開口部55から流出してしまうことを抑制できる形状に形成されている。流入口52からオイル受け部50に流入した潤滑油は、車両後方側から前方側へ向けてオイル受け部50内を流れる。言い換えると、潤滑油は、ファイナルリングギヤ39の回転方向に沿って、第一リブ57から第二リブ56へ向けて流れる。第一リブ57と第二リブ56との間に開口部55が形成されているため、潤滑油が第一リブ57から第二リブ56へ流れる際に、開口部55からギヤ室30へ潤滑油が流出してしまう虞がある。
これに対して、本実施形態のリブ51では、第一リブ57における第二リブ56側の端部57aが、第二リブ56の鉛直方向上方の領域に位置している。言い換えると、リブ51を流れる潤滑油の流れ方向において、第一リブ57の下流側の端部57aは、逆流防止リブ58よりも下流側に位置し、かつ、鉛直方向において、第二リブ56よりも上方に位置している。これにより、流入口52からオイル受け部50に流入した潤滑油(図3の矢印Y3参照)が、第一リブ57から第二リブ56へ流れるときに、第一リブ57から流れ落ちる潤滑油を第二リブ56で確実に受けることができる。よって、開口部55からギヤ室30へ潤滑油が流出することを抑制することができる。また、第一リブ57から流れ出る潤滑油が、第二リブ56における逆流防止リブ58から離れた位置に落ちることで、第二リブ56に流入した潤滑油が逆流防止リブ58を越えて流出してしまうことが抑制される。本実施形態では、このように第一リブ57における下流側の端部57aが、第二リブ56の上方まで伸ばされていると共に、逆流防止リブ58が設けられていることにより、潤滑油のギヤ室30への流出を効果的に抑制することができる。
(第2実施形態)
図4および図5を参照して第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
本実施形態の動力伝達装置100のオイル受け部(図4の符号60参照)が、上記第1実施形態の動力伝達装置100のオイル受け部50と異なる点は、オイル受け部60の開口部(図4の符号65参照)から鉛直方向上方に向かう通路(図4の符号80参照)が形成されている点である。ギヤ46から送られる潤滑油は、通路80を介してオイル受け部60に流入する。通路80の流出口が、開口部65よりも上方の位置に開口していることで、開口部65よりも上方まで潤滑油を貯留することができる。その結果、オイル受け部60内の水頭差を高く保つことが可能となり、オイル受け部60から冷却油路や被潤滑部への供給圧を高めることができる。
図4は、本実施形態の動力伝達装置100を示す径方向の断面図、図5は、動力伝達装置100の側面図である。
図4に示すように、本実施形態のオイル受け部60には、開口部65から鉛直方向上方に向かう通路80が形成されている。リブ61には、開口部65から上方に向かう煙突状の壁部66a,67a,81が形成されており、壁部66a,67a,81と、トランスアクスルケース4の側壁とにより通路80が形成されている。上記第1実施形態のリブ51と同様に、本実施形態のリブ61は、開口部65により、リブ61を流れる潤滑油の流れ方向の上流側に位置する第一リブ67と、第一リブ67よりも上記流れ方向の下流側に位置する第二リブ66とに分割されている。第二リブ66における第一リブ67側の端部(流れ方向の上流側の端部)には、開口部65から鉛直方向上方に向かう壁部66aが形成されている。一方、第一リブ67における第二リブ66側の端部(流れ方向の下流側の端部)には、開口部65から鉛直方向上方に向かう壁部67aが形成されている。壁部66aと壁部67aとは互いに対向しており、壁部66aおよび壁部67aは、それぞれ通路80の壁部を構成している。つまり、通路80は、第一リブ67における潤滑油の流れ方向の下流側端部と、第二リブ66における潤滑油の流れ方向の上流側端部とを含んで構成されている。
壁部81は、第二リブ66の壁部66aと第一リブ67のリブ67aとを接続するものであり、軸方向と直交している。図5に示すように、開口部65は、リブ61のうち、エンジン側ハウジング70とエクステンションハウジング71との境界よりもエンジン側ハウジング70の側に形成されている。壁部81は、トランスアクスルケース4の側壁(ファイナルリングギヤ39の側面と対向する内壁面4c)と対向している。壁部81は、エンジン側ハウジング70とエクステンションハウジング71との境界に形成されており、オイル受け部60内を軸方向のエンジン側ハウジング70側とエクステンションハウジング71側とに仕切っている。トランスアクスルケース4の側壁4cおよび壁部81は、それぞれ通路80の壁部を構成している。
エクステンションハウジング71側には通路80を構成する壁部が設けられていないため、ファイナルリングギヤ39に送り出されて直接オイル受け部60に流入する潤滑油(矢印Y9参照)は、壁部81よりもエクステンションハウジング71側を通ってオイル受け部60内の奥へ向けて流れることができる。
通路80は、車両前後方向において壁部66a、67aに囲まれ、軸方向においてトランスアクスルケース4の側壁4cと壁部81とに囲まれており、ギヤ46により送られて開口部65から流入する潤滑油は、通路80を経てオイル受け部60に流入する。通路80における開口部65側と反対側の端部(鉛直方向上方の端部)82が、開口部65よりも鉛直方向上方にあることで、オイル受け部60内における開口部65よりも高い位置まで潤滑油を貯留することができる。
また、本実施形態では、通路80の鉛直方向上方の端部82が、第一リブ67の逆流防止リブ54の上端部よりも上方に位置している。言い換えると、通路80の鉛直方向上方の端部82は、流入口52の鉛直方向の下端よりも上方に位置している。よって、オイル受け部60内のオイルレベルを逆流防止リブ54の上端部まで高く保つことが可能である。これにより、オイル受け部60から冷却油路や被潤滑部への潤滑油の供給圧を高く保つと共に、オイル受け部60内の潤滑油の循環を促進することができる。また、高速時に開口部52からオイル受け部60へ潤滑油が供給される場合に、開口部65からギヤ室30へ潤滑油が流出することを抑制することができる。よって、ギヤ室30へ潤滑油が流出することによる各ギヤの攪拌損失の増加を抑制することができる。
なお、上記各実施形態において、ファイナルリングギヤ39の回転速度が低速である場合のオイル受け部50,60に潤滑油を送る効率を向上できるように、ファイナルリングギヤ39の捩れ角を設定してもよい。ファイナルリングギヤ39とギヤ46とは、軸方向の位置がずれている。従って、ファイナルリングギヤ39により送り出される潤滑油がギヤ46へ向かいやすくなるように捩れ角を設定することで、低速回転時に潤滑油を送る効率をさらに向上させることができる。具体的には、ファイナルリングギヤ39の回転方向前方の歯面が、ギヤ46に対向するようにファイナルリングギヤ39の捩れ角が設定される。これにより、ファイナルリングギヤ39により送り出された潤滑油の軸方向の進行方向は、ファイナルリングギヤ39からギヤ46へ向かう方向となり、潤滑油がギヤ46へ到達しやすくなる。