つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。図1はこの発明の参考例を示す図であって、ここに示す例では、原動機(エンジン:ENG)1と、発電機あるいは電動機として二つのモータ・ジェネレータ(MG1、MG2)2,3とが動力装置として設けられ、また、三組の遊星歯車機構4,5,6が用いられている。その原動機1は、要は内燃機関であって、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン、あるいは天然ガスエンジンなどの燃料を燃焼して動力を出力する動力装置である。好ましくはスロットル開度などの負荷を電気的に制御でき、また所定の負荷に対して回転数を制御することにより燃費が最も良好な最適運転点に設定できる内燃機関である。以下の説明では、原動機1をエンジン1と記す。
このエンジン1が第1の遊星歯車機構4に連結されている。第1遊星歯車機構4は、動力の合成もしくは分配の機能を有する三要素の差動歯車機構であり、この発明の動力分配遊星歯車機構に相当する。したがって第1遊星歯車機構4は、シングルピニオン型遊星歯車機構やダブルピニオン型遊星歯車機構を用いて構成することができ、図1に示す例では、キャリヤ(以下、仮に第1キャリヤと記すことがある。)Cfを入力要素、サンギヤ(以下、仮に第1サンギヤと記すことがある。)Sfを反力要素、リングギヤ(以下、仮に第1リングギヤと記すことがある。)Rfを出力要素としたシングルピニオン型遊星歯車機構によって構成されている。すなわち、外歯歯車であるサンギヤSfの外周側に、内歯歯車であるリングギヤRfがサンギヤSfに対して同心円上に配置され、これらのサンギヤSfとリングギヤRfとに噛み合っているピニオンギヤがキャリヤCfによって自転自在および公転自在に保持されている。そして、そのキャリヤCfにエンジン1のクランクシャフトなどの出力用の部材が連結されている。なお、エンジン1とキャリヤCfとの間に、発進用のクラッチやトルクコンバータ(ロックアップクラッチ付のトルクコンバータ)などの動力伝達機構を適宜に設けてもよいことは勿論である。したがってキャリヤCfが入力要素となっている。
また、第1遊星歯車機構4のサンギヤSfに第1モータ・ジェネレータ(MG1)2が連結されている。この第1モータ・ジェネレータ2は、この発明の発電機に相当し、一例として、ロータに永久磁石を備えた同期電動機によって構成され、発電機および電動機として機能するように構成されている。そして、そのロータがサンギヤSfに連結され、ステータがケーシング(図示せず)などに固定されている。したがってサンギヤSfが反力要素となっている。
さらに、リングギヤRfが出力要素となっており、このリングギヤRfに第2モータ・ジェネレータ(MG2)3が連結されている。この第2モータ・ジェネレータ3は、この発明の電動機に相当し、一例として、上述した第1モータ・ジェネレータ2と同様に、永久磁石式同期電動機によって構成されており、そのロータがリングギヤRfに連結され、かつステータがケーシングに固定されている。
上記の第2モータ・ジェネレータ3を挟んで前記エンジン1とは反対側に増減速遊星歯車機構が配置されている。この増減速遊星歯車機構は、一組の遊星歯車機構や、複数組の遊星歯車機構を組み合わせて構成した複合遊星歯車機構によって構成することができ、さらにはラビニョ型遊星歯車機構などによって構成することができる。図1に示す例では、第2および第3の遊星歯車機構5,6によって構成されている。これらの遊星歯車機構5,6はいずれもシングルピニオン型の遊星歯車機構であり、したがって第2遊星歯車機構5は、外歯歯車であるサンギヤ(以下、仮に第2サンギヤと記すことがある。)Smと、そのサンギヤSmに対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ(以下、仮に第2リングギヤと記すことがある。)Rmと、これらのサンギヤSmとリングギヤRmとに噛み合っているピニオンギヤを自転自在および公転自在に保持しているキャリヤ(以下、仮に第2キャリヤと記すことがある。)Cmとを回転要素として有している。また同様に、第3遊星歯車機構6は、外歯歯車であるサンギヤ(以下、仮に第3サンギヤと記すことがある。)Srと、そのサンギヤSrに対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ(以下、仮に第3リングギヤと記すことがある。)Rr、これらのサンギヤSrとリングギヤRrとに噛み合っているピニオンギヤを自転自在および公転自在に保持しているキャリヤ(以下、仮に第3キャリヤと記すことがある。)Crとを回転要素として有している。
そして、第2サンギヤSmと第3サンギヤSrとが一体となって回転するように連結され、また第2キャリヤCmと第3リングギヤRrとが一体となって回転するように連結されている。この互いに連結されている第2キャリヤCmと第3リングギヤRrとに出力部材7が連結されている。この出力部材7は、回転軸あるいは歯車あるいはプーリなどの適宜の部材であり、前記各遊星歯車機構4,5,6の中心軸線の延長上に配置され、エンジン1とは反対側の端部で動力を他の部材(図示せず)に対して出力するようになっている。
さらに、複数の動力伝達形態(すなわち駆動モード)を設定するための係合機構が設けられている。具体的には、第2リングギヤRmを選択的に固定するブレーキ機構(以下、第1ブレーキと記す。)B1が設けられている。この第1ブレーキB1は、湿式多板ブレーキあるいはバンドブレーキによって構成され、電気信号に基づいて動作するアクチュエータ(図示せず)によって係合・解放動作するように構成されている。
また、第2モータ・ジェネレータ3の回転を選択的に止めるブレーキ機構(以下、第2ブレーキと記す)B2が設けられている。この第2ブレーキB2は、スプラインや凹凸部などの互いに噛み合う部分を有するドグクラッチあるいは噛み合いクラッチなどの噛み合い係合機構から構成されている。具体的には、第2モータ・ジェネレータ3と前記各サンギヤSm,Srとを連結している円筒軸にハブ8が一体化され、その外周部に形成されたスプラインにスリーブ9が軸線方向に移動自在に嵌合している。そのハブ8に軸線方向で隣接した位置に、トランスミッションケース10に一体化されているスプライン11が設けられ、前記スリーブ9がこのスプライン11に係合するようになっている。このスリーブ9を軸線方向に前後動させるアクチュエータについては後に説明する。なお、図1に示す例では、出力要素である前記第1遊星歯車機構4のリングギヤRfと第2モータ・ジェネレータ3と各サンギヤSm,Srとが互いに連結されているので、第2ブレーキB2によって第2モータ・ジェネレータ3を固定することにより、前記リングギヤRfと各サンギヤSm,Srとが固定される。
さらに、第1キャリヤCfもしくはエンジン1と第3キャリヤCrとを選択的に連結するクラッチ機構(以下、単にクラッチもしくは第1クラッチと記す。)C1が設けられている。このクラッチC1は、一例として湿式多板クラッチなどの摩擦係合機構によって構成され、電気信号に基づいて動作するアクチュエータ(図示せず)によって係合・解放動作するように構成されている。したがって、トランスミッションケース10やキャリヤなどの回転要素がこの発明における「他の所定の部材」に相当している。
上記の各モータ・ジェネレータ2,3は、それぞれに対応して設けたインバータ12,13を介してバッテリあるいはキャパシタなどの蓄電装置14に接続されている。したがって、一方のモータ・ジェネレータ2(もしくは3)を発電機として機能させ、その発電された電力を他方のモータ・ジェネレータ3(もしくは2)に与えてこれをモータとして機能させるように構成されている。また、蓄電装置14からいずれかのモータ・ジェネレータ2,3に電力を供給して、そのモータ・ジェネレータ2,3をモータとして機能させるようになっている。
そして、上記の各インバータ12,13やブレーキB1,B2およびクラッチC1などを制御する電子制御装置(ECU)15が設けられている。この電子制御装置15は、マイクロコンピュータを主体として構成され、各モータ・ジェネレータ2,3による発電やモータとしての出力トルクあるいはブレーキB1,B2およびクラッチC1の係合・解放などの各制御を行う制御信号を出力するように構成されている。なお、この電子制御装置15には、車速やアクセル開度、蓄電装置14における蓄電容量(SOC:State Of Charge)などの各種の信号が入力されている。
つぎに上述した構成のハイブリッド駆動装置の作用について説明する。上記のハイブリッド駆動装置では、前進走行するための駆動モードとして二種類のモードを設定することができる。ここで駆動モードとは、エンジン1から出力部材7にトルクを伝達する形態もしくは動力伝達経路であり、あるいは各モータ・ジェネレータ2,3の動作状態の組み合わせである。具体的には、これらの駆動モードは、この発明における低速モードに相当する第1モードLoとこの発明における高速モードに相当する第2モードMidとであり、上記のブレーキB1,B2およびクラッチC1の係合・解放状態に応じて設定される。
図2に、各駆動モードとブレーキB1,B2およびクラッチC1の係合・解放の状態との関係をまとめて示してある。なお、図2で「〇」印は係合状態を示し、「×」印は解放状態を示す。先ず、第1モードLoは、第1ブレーキB1を係合させ、かつクラッチC1および第2ブレーキB2を解放させて設定される。したがって、第1遊星歯車機構4は、第2および第3の遊星歯車機構5,6に対してリングギヤRfのみが連結されているので、単独で増減速作用もしくはトルクの合成・分配作用を行い、その出力トルクを第2もしくは第3の遊星歯車機構5,6に伝達する。これに対して、第2遊星歯車機構5は、リングギヤRmが第1ブレーキB1によって固定され、その状態でサンギヤSmに第1遊星歯車機構4からトルクが伝達されるので、そのサンギヤSmが入力要素、リングギヤRmが固定要素(もしくは反力要素)、キャリヤCmが出力要素となる。したがって、第2遊星歯車機構5が減速機として機能する。さらに、第3遊星歯車機構6は、そのキャリヤCrが他のいずれの部材とも連結されておらず、自由に回転できるので、トルクの伝達もしくは変速機として特に機能しない。
この状態における共線図を図3に示してあり、第1キャリヤCfにエンジン1から動力を入力するとともに、第1モータ・ジェネレータ2を発電機として機能させて第1サンギヤSfに反力トルクを与えると、第1リングギヤRfにこれらのトルクを合成したトルクが現れる。言い換えれば、エンジントルクが第1モータ・ジェネレータ2と第1リングギヤRfとに分配される。またその第1リングギヤRfが第1キャリヤCfおよび第1サンギヤSfの回転数に対して第1遊星歯車機構4のギヤ比(第1サンギヤSfと第1リングギヤRfとの歯数の比)で定まる回転数で回転する。
これは、図3のほぼ左半分に示す状態であり、第1リングギヤRfの回転数を一定とした場合、第1モータ・ジェネレータ2の回転数に応じて第1キャリヤCfの回転数すなわちエンジン回転数が変化する。したがって、例えば車両が停止していることにより第1リングギヤRfが停止している場合であっても、第1モータ・ジェネレータ2の回転数を大きくすることにより、エンジン1をアイドリング状態に維持できる。また、このような場合、第1リングギヤRfに現れるトルクは、エンジン1の出力したトルクより小さくなる。
一方、第2遊星歯車機構5は、そのリングギヤRmが第1ブレーキB1によって固定された状態で、そのサンギヤSmに第1リングギヤRfからトルクが入力され、さらにキャリヤCmが出力部材7に連結されているので、サンギヤSmを入力要素、キャリヤCmを出力要素、リングギヤRmを固定要素(もしくは反力要素)とした減速機として機能する。これは図3のほぼ右半分に示す状態であり、出力要素である第2キャリヤCmもしくはこれと一体の出力部材7の回転数は、入力要素であるサンギヤSmの回転数より小さくなり、またトルクは増幅されて出力部材7に伝達される。
したがって、この第1モードLoでは、エンジン回転数に対して出力部材7の回転数を低下させ、エンジントルクに対して出力部材7のトルクを大きくすることができる。そのため、高負荷低車速状態でエンジン回転数を低下させたり、それに伴うトルクの不足を第2モータ・ジェネレータ3で大きく補うなどの事態を回避できる。その結果、電力への変換を伴う動力伝達の割合を少なくして動力伝達損失を防止もしくは抑制し、燃費を向上させることができる。また、上述したように、第1遊星歯車機構4から出力したトルクを第2遊星歯車機構5を介して出力部材7に出力するから、動力循環が生じることがなく、そのため、歯車に係る荷重を低下させて歯車の耐久性を向上させることができるとともに、ギヤノイズを低減でき、さらには摩擦による動力損失を低減して燃費の向上の点で有利になる。
車速がある程度増大した後に、第2モードMidに切り替えられる。この第2モードMidは、図2に示すように、第1クラッチC1および第2ブレーキB2を係合させて設定される。すなわち、第1モードLoを設定していた第1ブレーキB1を解放するとともに、第1クラッチC1および第2ブレーキB2を係合させることになる。その第1クラッチC1は、エンジン1と第3キャリヤCrとを連結するものであるから、駆動モードの切り替えに伴うショックを防止するために、いわゆる同期切替を実行することが好ましい。その同期切替とは、第1クラッチC1の係合・解放の状態の変更に伴っていずれかの回転部材の回転数に変化を生じさせない切替制御であり、具体的には、エンジン回転数もしくは第1キャリヤCfの回転数と、第3キャリヤCrとの回転数を一致させた状態で、第1クラッチC1を係合もしくは解放させる。
このようにして設定される第2モードMidでは、第1遊星歯車機構4のリングギヤRfと第3遊星歯車機構6のサンギヤSr、および第1遊星歯車機構4のキャリヤCfと第3遊星歯車機構6のキャリヤCrとがそれぞれ連結されるから、第1および第3の遊星歯車機構4,6が、四つの回転要素を有する複合遊星歯車機構を構成する。すなわち、第1キャリヤCfが入力要素、第1サンギヤSfが他の入力要素、第1リングギヤRfおよびこれと一体の第3サンギヤSrが反力要素、第3リングギヤRrが出力要素となる。この複合遊星歯車機構についての共線図を図4に示してある。図4の共線図に示すように、第2モードMidでは、第1モータ・ジェネレータ2が連結された回転要素(第1サンギヤSf)、出力部材7が連結された回転要素(第2キャリヤCm、第3リングギヤRr)、エンジン1が連結された回転要素(第3キャリヤCr、第1キャリヤCf)、第2モータ・ジェネレータ3が連結された回転要素(第1リングギヤRf、第2および第3のサンギヤSm,Sr)が、ここに挙げた順に配列される。
この第2モードMidでは、サンギヤSrが固定されている第3遊星歯車機構6のキャリヤCrにエンジン1から動力を入力し、そのリングギヤRrから出力することになる。したがって、第3遊星歯車機構6が増速機構(オーバードライブ機構)として機能する。その場合、第1遊星歯車機構4のサンギヤSfおよびこれに連結されている第1モータ・ジェネレータ2が正回転するが、第2モータ・ジェネレータ3が固定されているので、第1モータ・ジェネレータ2で特に発電する必要はなく、また蓄電装置14でのSOCが十分であれば、この点でも第1モータ・ジェネレータ2で発電する必要はなく、したがって第1モータ・ジェネレータ2を空転させておくことができる。すなわち、電力を介した動力の伝達が生じない。
このように、第2モードMidでは、第3遊星歯車機構6を増速機構として機能させて、いわゆる機械的伝達のみによってエンジン1から出力部材7に動力を伝達することができる。そのため、低負荷高速走行時にエンジン回転数を相対的に低く抑えて燃費の良い運転を行うことができる。また、電力損失が殆ど皆無であり、また当然に動力循環が生じないから、その点での動力損失を防止できる。さらに、第2モードMidを設定するために係合している第2ブレーキB2は、噛み合い係合機構であって係合状態を維持するために油圧を発生させるなどのエネルギーを消費しないから、この点での動力損失を防止できる。結局、第2モードMidでは、動力損失を防止もしくは抑制して動力の伝達効率を向上させることができる。また、第2モードMidは、車両が走行する際に比較的、高頻度で設定されるから、第2モードMidを上記のように構成することにより、車両の燃費を向上させることができる。
なお、噛み合い式係合機構は、解放状態と係合状態とでトルクの伝達容量が0%と100%とに切り替わる。しかしながら、上述したハイブリッド駆動装置では、噛み合い式係合機構である第2ブレーキB2を、第2モードMidを設定する際にのみ係合させるように構成され、第1モードLoでは摩擦式係合機構である第1ブレーキB1を係合させるように構成されており、しかも第2モードMidを設定する際の第2ブレーキB2の係合制御は、車速がある程度高車速になっており、またトルクが比較的低トルクであるために容易である。したがって、噛み合い式係合機構である第2ブレーキB2を使用するとしても、駆動モードの切り換えに伴うショックを防止もしくは抑制することができる。
上述したように、第1ブレーキB1を係合させることにより第1モードLoが設定されるから、この第1ブレーキB1がこの発明における「低速モードを設定する機構」もしくは「非最高速用係合機構」に相当する。また、第1クラッチC1および第2ブレーキB2を係合させることにより第2モードMidが設定されるから、この第1クラッチC1および第2ブレーキB2がこの発明における「高速モードを設定する機構」もしくは「最高速用係合機構」に相当する。
つぎにこの発明の一具体例について説明する。上述した参考例は、二つの駆動モードを設定できるように構成した例であるが、上記のギヤトレーンの構成を僅かに変更することにより三つの駆動モードを設定可能なハイブリッド駆動装置を得ることができる。その例を図5に示してある。ここに示す例は、上述した第2遊星歯車機構5におけるリングギヤRmとサンギヤSmとを選択的に連結する他のクラッチ機構(以下、仮に第2クラッチと記すことがある。)C2を設け、かつこの第2クラッチC2を噛み合い式係合機構によって構成した例である。すなわち、この第2クラッチC2は、前述した第2ブレーキB2と同様に、ハブ8とスリーブ9とスプライン11とからなり、そのスプライン11が第2リングギヤRmと一体化されている。なお、この第2クラッチC2は、要は、第2遊星歯車機構5もしくは第3遊星歯車機構6の全体を一体化させるためのものであるから、第2遊星歯車機構5における少なくともいずれか二つの回転要素もしくは第3遊星歯車機構6における少なくともいずれか二つの回転要素を連結するものであればよい。他の構成は図1に示す構成と同様であるから、図5に図1と同様の符号を付してその説明を省略する。
したがって図5に示す構成のハイブリッド駆動装置では、上述した二つの駆動モードLo,Midに加えて、より高速で走行する場合に適した第3モードHiを設定することができる。図6に、図5に示すハイブリッド駆動装置で各駆動モードを設定するための係合装置の係合・解放の状態をまとめて示してあり、第3モードHiは、第2クラッチC2を係合させることにより設定される。この場合、第1クラッチC1および第1ブレーキB1は、解放状態とされるから、第1遊星歯車機構4は前述した第1モードLoの場合と同様の状態になる。すなわち、キャリヤCfに入力されたエンジントルクに対して、第1モータ・ジェネレータ2を発電機として駆動するトルクがサンギヤSfに反力トルクとして作用し、これらのトルクを合成したトルクが出力要素である第1リングギヤRfに生じる。
これに対して、第2遊星歯車機構5では、そのサンギヤSmとリングギヤRmとが第2クラッチC2によって連結されるので、第2遊星歯車機構5の全体が一体となって回転する。さらに、この第2遊星歯車機構5に対して第3遊星歯車機構6のサンギヤSrとキャリヤCrとが連結されているので、第2遊星歯車機構5の全体が一体となって回転することに伴って第3遊星歯車機構6もその全体が一体となって回転する。すなわち、第2および第3遊星歯車機構5,6は、それらの全体が一体回転し、特に変速作用は生じない。
この状態を図7に共線図で示してあり、エンジン1による駆動トルクと第1モータ・ジェネレータ2による反力トルクとを合成したトルクが、第1リングギヤRfからそのまま出力部材7に出力される。したがってこの場合は、第1モータ・ジェネレータ2が発電機として機能し、その電力が第2モータ・ジェネレータ3に供給されてこれがモータとして機能する。この各モータ・ジェネレータ2,3を介した動力の伝達方向は、エンジントルクをそのまま伝達する方向(いわゆる直達トルクの方向)と同じであるから、動力循環は生じない。そのため、歯車に係る荷重を低下させて歯車の耐久性を向上させることができるとともに、ギヤノイズを低減でき、さらには摩擦による動力損失を低減して燃費の向上の点で有利になる。
この第3モードHiでは、エンジン回転数に対して第1モータ・ジェネレータ2の回転数を僅かに低回転数とするだけで、出力部材7の回転数(すなわち出力回転数)をエンジン回転数(すなわち入力回転数)より高回転数とすることができる。これは、いわゆるオーバードライブ状態であって、高車速時にエンジン回転数を相対的に低くして効率の良い運転を行い、燃費を向上させることができる。特に第2クラッチC2は噛み合い式の係合機構であるから、係合状態を維持するために油圧を発生させるなどの動力もしくはエネルギーを特には必要としないので、この点での動力損失がほぼ皆無となる。そして、第3モードHiはこの発明における最高速モードに相当し、車両の巡航の際に設定される頻度が高いから、動力損失が少なく、動力伝達効率が良好であることにより、燃費の向上効果に優れている。そして、図5に示す構成では、噛み合い式係合機構である第2クラッチC2を最高速モードである第3モードHiで係合させるように構成されているので、第2クラッチC2の係合・解放の制御が比較的容易であり、したがってモードの切り換えによるショックを防止もしくは低減と燃費の向上とを両立させることができる。
上述したように、第2クラッチC2を係合させることにより第3モードHiが設定されるから、この第2クラッチC2がこの発明における「最高速用係合機構」に相当する。
上述した図5に示す例では、単一の噛み合い式係合機構によって第2クラッチC2が構成されているが、その噛み合い式係合機構と並列に摩擦式係合機構(すなわち摩擦クラッチ)C20を設けることもできる。その例を図8に示してある。この摩擦クラッチC20は、たとえば油圧が供給されて係合するように構成されたクラッチであって、第3モードHiを設定する場合に油圧が次第に高くなることによりトルク容量が徐々に増大するようになっている。そして、この摩擦クラッチC20が完全に係合した後、もしくはこれとほぼ同時に噛み合い式の第2クラッチC2が係合させられ、かつ摩擦クラッチC20が解放させられる。すなわち、第2リングギヤRmと第2サンギヤSmとを連結するクラッチが、摩擦クラッチC20から噛み合い式の第2クラッチC2に切り換えられる。なお、第3モードHiから他の駆動モードに切り換える場合には、摩擦クラッチC20を係合させるとともに第2クラッチC2を解放した後、摩擦クラッチC20が次第に解放させられる。
したがって、図8に示すように構成した場合には、駆動モードの切り替え時に摩擦クラッチC20に滑りを生じさせてトルクの変化を滑らかにすることができるので、駆動モードの切り換えに伴うショックを、より確実に防止もしくは抑制することができる。なお、第3モードHiの状態を維持するために特に動力を消費しないことにより燃費を向上できることは、上述した図5に示す例と同様である。
さらに、この発明の他の参考例を説明する。図9は、図1を参照して説明した第1モードLoの動力伝達状態と、第2モータ・ジェネレータ3を固定する状態と、後進走行時の動力伝達状態とを、一つの係合機構で設定するように構成した例である。すなわち、図1を参照して説明した第2ブレーキB2が、第1リングギヤRfとトランスミッションケース10との間に設けられ、さらに連結部材であるスリーブ9によって、第1リングギヤRfと第2モータ・ジェネレータ3および第2ならびに第3のサンギヤSm,Srとが選択的に連結されるように構成されている。具体的に説明すると、スリーブ9がスプライン嵌合したハブ8が、第1リングギヤRfに一体化して設けられており、そのハブ8を挟んで第2モータ・ジェネレータ3とは反対側に、トランスミッションケース10に一体化したスプライン11が配置されている。また、前記ハブ8を挟んで前記スプライン11とは反対側に、第2モータ・ジェネレータ3のロータと第2および第3のサンギヤSm,Srとを連結している円筒軸に一体化されたハブ16が設けられ、そのハブ16の外周部に、前記スリーブ9が係合するスプラインが形成されている。
そして、そのスリーブ9の長さ(軸長)は、スプライン11とハブ8とハブ16との三者に同時に係合することのできる長さに設定されている。また、スリーブ9は、これら三者に同時に係合する位置(電動機ロック位置)と、各ハブ8,16に係合する位置すなわち第1リングギヤRfと第2モータ・ジェネレータ3とを連結する通常位置と、ハブ8とスプライン11とに係合する位置すなわち第1リングギヤRfを固定する後進位置との三つの位置に移動できるように構成されている。これらの位置を図10に模式的に示してある。なお、その移動は、図示しないアクチュエータによって行うようになっている。
図9に示すハイブリッド駆動装置において、スリーブ9を上記の通常位置に移動させれば、第1リングギヤRfと第2モータ・ジェネレータ3とが連結されるので、これに加えて第1ブレーキB1を係合させれば、図1に示す例と同様に、低速モードに相当する第1モードLoを設定することができる。したがって、この場合は、第2ブレーキB2がクラッチ機構として機能する。また、スリーブ9を電動機ロック位置に移動させれば、第1リングギヤRfと第2モータ・ジェネレータ3とを連結した状態でその第2モータ・ジェネレータ3を固定することができる。すなわち、第2ブレーキB2がブレーキ機構として機能する。したがってこの状態で前記第1クラッチC1を係合させれば、図1に示す例と同様に、高速モードに相当する第2モードMidを設定することができる。
さらに、スリーブ9を後進位置に移動させると、出力要素である第1リングギヤRfと第2モータ・ジェネレータ3との連結が解除されるとともに、第1リングギヤRfが固定される。したがって、第1遊星歯車機構4と第2および第3の遊星歯車機構5,6との間での動力の伝達が行われなくなるので、走行のための駆動力は第2モータ・ジェネレータ3で発生させることになる。すなわち、エンジン1の動力が第1遊星歯車機構4のキャリヤCfに入力されるが、その遊星歯車機構4におけるリングギヤRfが固定されているので、サンギヤSfおよびこれに連結されている第1モータ・ジェネレータ2が、エンジン1あるいはこれが連結されているキャリヤCfより高速で正回転する。したがって、第1モータ・ジェネレータ2を発電機として機能させて電力を得ることができる。
一方、第2モータ・ジェネレータ3に前記蓄電装置14あるいは第1モータ・ジェネレータ2から電力を供給してこれをモータとして機能させると、その動力が第2サンギヤSmに伝達される。第2遊星歯車機構5では、そのリングギヤRmを第1ブレーキB1で固定しておくことにより、キャリヤCmがサンギヤSmに対して減速されて回転する。すなわち、第2遊星歯車機構5が減速機として機能し、そのキャリヤCmから出力部材7に動力が出力される。したがって、いわゆるシリーズハイブリッドと称される駆動形態となる。
このように、スリーブ9を後進位置に設定した状態では、第2モータ・ジェネレータ3が電動機として機能することによる動力によって走行することになるから、第2モータ・ジェネレータ3の回転方向を前進走行時とは反対方向にすることにより、後進走行することができる。この状態における各遊星歯車機構4,5,6の動作状態を図11に共線図によって示してある。なお、シリーズハイブリッドの駆動状態では、蓄電装置14から第2モータ・ジェネレータ3に電力を供給して走行し、蓄電装置14のSOCが低下した場合に、エンジン1で第1モータ・ジェネレータ2を駆動して発電し、その電力を第2モータ・ジェネレータ3に供給することとしてもよい。いずれの場合であっても、第1遊星歯車機構4と他の遊星歯車機構5,6との機械的な連結が解かれているので、第2モータ・ジェネレータ3の逆回転方向のトルクとエンジン1の正回転方向のトルクとが干渉することがなく、その結果、後進走行時の駆動力を大きくすることができ、また動力の伝達効率が良好になる。なお、動力循環が生じないので、この点でも動力の伝達効率が良好になる。
さらに、図9および図10に示す構成では、通常の動力伝達状態と、通常の動力伝達状態に加えて第2モータ・ジェネレータ3を固定した動力伝達状態と、第1リングギヤRfと第2モータ・ジェネレータ3との連結を解除しかつ第1リングギヤRfを固定した動力伝達状態とを設定することができ、しかもこれらの駆動状態を一つの係合機構によって切り換えて設定することができる。そのため、構成部品点数を少なくして、装置の全体としての構成を小型化することができる。
ここで、前述した噛み合い式係合機構のスリーブを駆動するためのアクチュエータについて説明する。図12は前記第2ブレーキB2のスリーブ9を軸線方向に移動させるためのアクチュエータ20を示しており、第2モータ・ジェネレータ3と第2遊星歯車機構5との間に、センターサポート21が設けられている。このセンターサポート21は、中心部に軸貫通孔を形成した板状の部材であって、トランスミッションケース10の内周面に固定されている。このセンターサポート21の中心側の部分には、軸線方向に延びた円筒状の部分が一体に形成されており、その円筒状部分における第2モータ・ジェネレータ3側の端部が閉じられ、したがってここにシリンダー部22が形成されている。一方、第2モータ・ジェネレータ3におけるステータコイル23は、図12に示すように軸線方向に突出している。そして、このシリンダー部22の端部が、ステータコイル23の内周側に入り込み、両者が軸線方向でオーバーラップしている。
シリンダー部22の内部には、油圧によって軸線方向に前後動するピストン24が液密状態を維持して収容されており、このピストン24にスリーブ9が一体化されている。このスリーブ9は、センターサポート21を貫通して第2遊星歯車機構5側に突出しており、そのセンターサポート21を貫通している部分でセンターサポート21にスプライン嵌合している。すなわち、センターサポート21の内周側の端部にスプライン11が形成され、スリーブ9はこのスプライン11に係合して廻り止めされるとともに、軸線方向に前後動自在となっている。
さらに、スリーブ9の先端側すなわち第2遊星歯車機構5側の端部内周面にスプラインが形成されており、そのスプラインが係合する前記ハブ8が、スリーブ9の先端側に配置されている。したがって、シリンダー部22の内部に図示しない油路を介して油圧を供給すると、ピストン24が図12の右方向に前進し、その先端部が前記ハブ8にスプライン嵌合する。その結果、ハブ8がスリーブ9を介してセンターサポート21に連結されるので、ハブ8およびこれが一体化されているロータ軸26が固定されるようになっている。すなわち、ここに第2ブレーキB2が形成されている。また一方、シリンダー部22における後端側(図12の左側)の内周部に軸受25が挿入されて取り付けられている。そして、この軸受25によって第2モータ・ジェネレータ3のロータ軸26が回転自在に支持されている。他の構成は、図1を参照して説明した構成となっているので、図12に図1と同様の符号を付してその説明を省略する。
したがって図12に示すように構成した場合には、前記シリンダー部22とステータコイル23とを軸線方向で一部オーバーラップさせてあるため、軸線方向でのスペースを有効に使用でき、その結果、装置の全体としての軸長を短縮し、ひいては小型化を図ることができる。また、アクチュエータ20のケースであるシリンダー部22が軸受25を介した軸支持部を兼ねるので、この点でも部品点数を少なくして装置の全体としての構成を小型化することができる。
図13は、上記のアクチュエータ20を、図5に示す第2クラッチC2のスリーブ9を移動させるためのアクチュエータとした例を示している。ここに示すハブ8は、第2リングギヤRmとほぼ等しい外径のドラム状の部材として構成され、その内周部でロータ軸26にスプライン嵌合している。また、第2リングギヤRmの外周部にスプライン11が形成され、このスプライン11に選択的に係合するスリーブ9が、ハブ8にスプライン嵌合するとともに、ピストン24に連結され、ピストン24と共に軸線方向に前後動するように構成されている。他の構成は、図5あるいは図12に示す構成と同様であるから、図13に図5もしくは図12と同様の符号を付してその説明を省略する。
したがって、図13に示すように構成した場合であっても、軸長の短縮化や装置の全体としての構成の小型化を図ることができる。
なお、この発明は上述した各例に限定されないのであって、各遊星歯車機構は、シングルピニオン型のものに限らず、ダブルピニオン型のものやラビニョ型などの他の構成の遊星歯車機構に置き換えることができる。その場合、各回転要素の連結関係やその機能が互いに入れ替わることになるが、それらの回転要素の連結関係が特許請求の範囲に記載した関係になっていればよい。