本願発明者らは、先の出願(特願2008−238831号)において、良好な品質で研削加工を行うことのできる研削方法の提案を行った。
以下、先の出願について述べる。
図1(A)〜(C)を参照して、本願発明者らの予備的考察について説明する。
本願発明者らは、従来の研削方法(往復ドレスされた砥石10で往復研削する研削方法)で研削加工されたワーク20の被研削面20aに、図1(A)に示すような、多くの菱形を画定するクロス模様の研削痕を発見し、これを砥石10の作用面10bとの関係において考察した。
図1(B)及び(C)を参照して、図18(C)を用いて概説した砥石10のドレッシング(往復ドレス)について詳細に説明する。
図1(B)は、砥石10の作用面10bを、y軸方向とθ方向に関して示す概略図である。固定的に配置されたドレッサー40を砥石10の作用面10bに接触させ、砥石10をθ方向に回転させるとともに、y軸負方向に移動させる。ドレッサー40は、作用面10b上を、相対的にy軸正方向に移動する。
この方向へ移動させながら行うドレッシングによって、砥石10の作用面10b上には、本図においては、右下がりの斜線で示されるドレッシング痕が形成される。
図1(C)を参照する。続いて、砥石10の回転方向はそのままθ方向とし、ドレッサー40を作用面10bに接触させたまま、砥石10をy軸正方向に移動させる。ドレッサー40は、作用面10b上を、相対的にy軸負方向に移動する。
この方向へ移動させながら行うドレッシングによって、砥石10の作用面10b上には、新たに、右上がりの斜線で示されるドレッシング痕が形成される。
このため、砥石10を一往復させた後には、往復ドレスの結果として、本図に示すようなクロス模様のドレッシング痕が形成される。
本願発明者らは、往復ドレスされた砥石10で往復研削する従来の研削方法で加工されたワーク20の被研削面20aに現れるクロス模様の研削痕は、往復ドレスにより、砥石10の作用面10b上に形成されたクロス模様のドレッシング痕が転写されたものである場合と、往復研削によって被研削面20aに形成されたクロス模様である場合とがあることを見出した。
図2(A)及び(B)を参照して、往復ドレスした砥石10で、ワーク20を一方向に研削(片側研削)した場合の研削痕について説明する。
図2(A)に、往復ドレスした砥石10の作用面10bの概略を示す。往復ドレスの結果、作用面10bには、クロス模様のドレッシング痕が形成される。このようなドレッシング痕の形成された作用面10bを備える砥石10を用いて、ワーク20の片側研削を行う。
図18(A)を参照して説明した往復研削においては、回転する砥石10の作用面をワーク20の被研削面20aに接触させ、ステージ30でワーク20をx軸負方向に送りながら被研削面20aの研削を行い、その後、ステージ30でワーク20を反対方向(x軸正方向)に送って、被研削面20aの同じ箇所を反対向きに研削した。
片側研削においては、回転する砥石10の作用面をワーク20の被研削面20aに接触させ、ステージ30でワーク20をx軸負方向に送りながら被研削面20aの研削を行うのみで、往復研削のように、反対方向からの研削は行わない。
図2(B)を参照する。往復ドレスした砥石10でワーク20を片側研削した場合にも、砥石10の作用面10bに形成されたクロス模様のドレッシング痕が、ワーク20の被研削面20aに転写される結果、本図に示すようなクロス模様の研削痕が、ワーク20の被研削面20aに形成される。
図3(A)及び(B)を参照して、片側ドレスした砥石10で、ワーク20を往復研削した場合の研削痕について説明する。
図3(A)に、片側ドレスした砥石10の作用面10bの概略を示す。片側ドレスとは、砥石10の作用面10bを一方向にドレッシングすることをいい、たとえば、図1(B)を参照して説明したように、固定的に配置されたドレッサー40を砥石10の作用面10bに接触させ、砥石10をθ方向に回転させるとともに、y軸負方向のみに移動させて行うドレッシングである。図1(C)を参照して説明したような、反対方向へのドレッシングは行わない。
片側ドレスした砥石10の作用面10bには、たとえば本図においては、右下がりの斜線で示されるドレッシング痕が形成される。クロス模様のドレッシング痕は形成されない。
図3(B)を参照する。片側ドレスした砥石10でワーク20を往復研削した場合、たとえば往路研削においては、図3(A)に示すドレッシング痕が転写されて、ワーク20の被研削面20aに右下がりの直線で示される研削痕が形成される。複路研削においては、図3(A)に示すドレッシング痕が反対方向に転写されて、ワーク20の被研削面20aに右上がりの直線で示される研削痕が形成される。
この結果、片側ドレスした砥石10でワーク20を往復研削した場合にも、本図に示すようなクロス模様の研削痕が、ワーク20の被研削面20aに形成される。
本願発明者らは、片側ドレスした砥石10で、ワーク20を往復研削した場合の研削痕につき、シミュレーション、及び実験による検証を行った。その結果を図4(A)〜(C)に示す。
図4(A)には、片側ドレスした砥石10を回転させながら、位相ずれがない状態で、ワーク20の往復研削を行ったときの、ワーク20の被研削面20aに形成された研削痕のシミュレーション結果を示す。ここで位相ずれとは、往復する砥石の作用面が被研削面のある位置に接触する場合における、前回接触時の砥石の回転角度と、今回接触時の砥石の回転角度との差を意味する。
図中にLで示す範囲が、砥石10の往路方向への一回転と復路方向への一回転とで形成された研削痕である。ワーク20の被研削面20aには、クロス模様の研削痕が形成され、その結果、加工方向(図の左右方向)と直交する方向(図の上下方向)に走る垂直縞Sが、加工方向に沿って、L/2の周期で現れているのが認められる。
図4(B)には、片側ドレスした砥石10を回転させながら、位相ずれを180°として、ワーク20の往復研削を行ったときの、ワーク20の被研削面20aに形成された研削痕のシミュレーション結果を示す。
180°の位相のずれがある場合には、垂直縞Sが、加工方向に沿って、L/4の周期で現れる。
図4(C)は、実際に、片側ドレスした砥石10を回転させながら、往復研削したワーク20の被研削面20aを掏り取りし、加工方向(研削方向)と直交する方向に引き伸ばした画像である。
図の左右方向が加工方向である。ワーク20の被研削面20aにクロス模様の研削痕が形成され、加工方向に直交する方向(図の上下方向)に、縞が現れているのがわかる。
図5(A)〜(D)を参照して、先の出願の実施例による研削方法について説明する。先の出願の実施例による研削方法は、片側ドレスした砥石10で、ワーク20を片側研削する研削方法である。
図5(A)は、砥石10の作用面10bを、y軸方向とθ方向に関して示す概略図である。固定的に配置されたドレッサー40を砥石10の作用面10bに接触させ、砥石10をθ方向に回転させるとともに、y軸負方向に移動させる。ドレッサー40は、作用面10b上を、相対的にy軸正方向に移動する。
図5(B)に、砥石10の作用面10b上に形成されるドレッシング痕を示す。砥石10の作用面10b上には、ドレッシング痕が一定の方向にらせん状に形成される。らせん状のドレッシング痕は、本図においては、右下がりの斜線で示される。片側ドレスであるため、ドレッシング痕は交差しない。
図5(C)を参照する。砥石10の作用面10bをワーク20の被研削面20aに接触させ、砥石10を回転軸10aの周囲に回転させるとともに、ステージ30でワーク20をx軸負方向(図の矢印方向)に送って、被研削面20aの研削を行う。砥石10の回転方向は、たとえば図のθ方向であり、回転速度は、たとえば790rpmである。また、ステージ30によるワーク20の送り速度は、たとえば0.5m/secである。
図5(D)は、ワーク20の被研削面20aを示す概略的な平面図である。被研削面20aには、一方向に沿った、相互に平行な直線群で表される研削痕が形成される。これらは、図5(B)に示すドレッシング痕が転写された結果である。
砥石10の作用面10bに形成されるドレッシング痕がクロスしていないので、ワーク20の被研削面20aに形成される研削痕もクロスしない。このため、被研削面20aには、たとえば図4(A)及び(B)に示したような垂直縞も現れない。したがって、実施例による研削方法によれば、良好な加工品質で研削加工を行うことができる。
なお、ワーク20をx軸負方向に移動させて一方向への研削が終了したら、砥石10をz軸正方向に浮かし、その間にワーク20をステージ30でx軸正方向に移動させる。その後、再び、砥石10の作用面10bをワーク20の被研削面20aに接触させ、砥石10を回転軸10aの周囲にθ方向に回転させるとともに、ステージ30でワーク20をx軸負方向に送って、被研削面20aの同一領域の研削を行う。
図6(A)に、先の出願の実施例による研削方法で研削したワークの写真を示す。
また、図6(B)に、従来技術(往復ドレス、往復研削)で研削されたワークの写真を示す。
それぞれ6枚のワークが撮影されている。これらは砥石を異なる回転数で回転させて研削したワークである。
両写真を比較すると、従来技術で研削されたワーク(図6(B))の研削面には、主に幅方向の端部に沿って、垂直縞が明瞭に認められるのに対して、先の出願の実施例による研削方法で研削されたワーク(図6(A))の被研削面には垂直縞が見られない。先の出願の実施例による研削方法によると、垂直縞の生じない、均一な研削加工面が得られることがわかる。
先の出願の実施例においては、ワーク20を一方向へ送って研削した後、砥石10をワークの被研削面から浮かし、その間にワーク20をステージ30で逆方向に移動させて、再び、ワーク20上の同じ方向に研削(片側研削)を行った。この際、砥石10の回転方向は一定方向であった。
たとえば、図7(A)に示すように、ワーク20をx軸負方向に送って、被研削面20aの研削を行った後、砥石10を逆向き(θ方向と反対方向)に回転させて、ワーク20をx軸正方向に送り、被研削面20aの研削を行ってもよい。往復研削になるが、往路と復路で砥石10の回転方向が反対であるため、良好な品質で研削加工を行うことができる。
また、図7(B)に示すように、ワーク20をx軸負方向に送って、被研削面20aの研削を行った後、砥石10をz軸に平行な軸の周囲に180°自転させて、ワーク20をx軸正方向に送り、被研削面20aの研削を行ってもよい。砥石10自体の回転方向は変化させないが、砥石10をz軸に平行な軸の周囲に180°自転させるため、図7(A)に示した例と同じ加工を行うことができる。
更に、図7(C)に示すように、ワーク20をx軸負方向に送って、被研削面20aの研削を行った後、z軸に平行な軸の周囲に180°自転させたワーク20をx軸正方向に送り、被研削面20aの研削を行ってもよい。この場合、砥石10の回転方向を逆向きとする。この例においても、図7(A)に示した例と同じ加工を行うことができる。
図8(A)及び(B)は、先の出願の実施例及び変形例についてまとめた表である。
図8(A)の「実施例(図5(C))」の欄を参照する。
図5(C)に示す先の出願の実施例において、砥石10の作用面10b上に、周方向に沿って固定的に画定された第1の方向を、たとえば図5(C)の反時計方向であるとする。先の出願の実施例における砥石の回転方向はθ方向(反時計回り方向)であるため、「砥石の回転方向」は「第1の方向」である。
また、図5(C)に示す先の出願の実施例において、ワーク20の被研削面20a上に、x軸正方向に固定的に第2の方向が画定されているとする。先の出願の実施例による研削方法では、砥石10は、ワーク20の被研削面20a上を、相対的にx軸正方向に移動するため、「ワーク上における砥石の移動方向」は「第2の方向」である。
更に、「砥石とワークが接触する位置における第1の方向と、第2の方向との関係」は、接触位置における第1の方向は第2の方向と等しいため、「同じ方向」となる。
図8(A)の「変形例(図7(A))」の欄を参照する。
図7(A)に示す先の出願の変形例においては、砥石10を逆回転させて、ワーク20をx軸正方向に送り、被研削面20aの復路研削を行う。このため、「砥石の回転方向」は「第1の方向と反対方向」であり、「ワーク上における砥石の移動方向」は「第2の方向と反対方向」である。
なお、砥石の回転方向を変化させても、砥石10の作用面10b上に周方向に沿って固定的に画定された第1の方向に変化はないため、砥石10とワーク20の接触位置における第1の方向は、変わらずx軸正方向である。したがって、「砥石とワークが接触する位置における第1の方向と、第2の方向との関係」は「同じ方向」となる。
図8(A)の「変形例(図7(B))」の欄を参照する。
図7(B)に示す先の出願の変形例においては、砥石10をz軸に平行な軸の周囲に180°自転させて、ワーク20をx軸正方向に送り、被研削面20aの復路研削を行う。砥石10は、変わらず「第1の方向」に回転している。「ワーク上における砥石の移動方向」は「第2の方向と反対方向」である。砥石10はz軸に平行な軸の周囲に180°自転されているので、砥石とワークが接触する位置における第1の方向はx軸負方向となる。これは、ワーク20の被研削面20a上に固定的に画定された第2の方向とは「反対方向」である。
図8(A)の「変形例(図7(C))」の欄を参照する。
図7(C)に示す先の出願の変形例においては、砥石10の回転方向を逆向きとするので、「砥石の回転方向」は「第1の方向と反対方向」である。また、ワーク20をz軸に平行な軸の周囲に180°自転させるため、ワーク20上に固定された第2の方向は、x軸負方向になる。このため、「ワーク上における砥石の移動方向」は「第2の方向」である。
更に、砥石10の回転方向を逆向きとしても、砥石10とワーク20の接触位置における第1の方向は、変わらずx軸正方向である。したがって「砥石とワークが接触する位置における第1の方向と、第2の方向との関係」は「反対方向」となる。
図8(A)に示す4つの方法の一つ、または複数の組み合わせにより研削を行うことで、クロス模様の研削痕、及びそれに起因する垂直縞の発生しない、良質の研削加工を行うことができる。
図8(B)を参照する。本図にパターン1〜4として示した研削方法を、図8(A)に示した研削方法と組み合わせた場合、クロス模様の研削痕や、それに起因する垂直縞の発生が見られる。しかし、パターン1〜4の4つの方法の一つで、または複数を組み合わせて研削を行うことで、クロス模様の研削痕、及びそれに起因する垂直縞の発生しない、良質の研削加工を行うことができる。
図9(A)及び(B)に砥石の別例を示す。回転砥石は、円筒形状のものに限らず、様々な形状のものを使用することができる。図9(A)及び(B)に図示した砥石の作用面10bを被研削面に接触させ、砥石を一点鎖線で示した回転中心の周囲に回転させることで研削を行うことができる。
以上、本願発明者らが行った先の出願に係る研削方法の発明について説明した。
しかしながら、たとえば先の出願の片側ドレス、片側研削による研削加工は、従来の往復ドレス、往復研削の研削加工に比べ、加工効率が低くなる場合がある。
そこで本願発明者らは、たとえ往復ドレス、往復研削で加工を行った場合であっても、良好な加工品質が得られる研削方法等について鋭意研究した。
先に、本願発明者らが、往復ドレスされた砥石10で往復研削する従来の研削方法で加工されたワーク20の被研削面20aに現れるクロス模様の研削痕は、往復ドレスにより、砥石10の作用面10b上に形成されたクロス模様のドレッシング痕が転写されたものである場合と、往復研削によって被研削面20aに形成されたクロス模様である場合とがあることを見出したことについて述べたが、更に、本願発明者は、この2つのクロス模様形成メカニズム(往復ドレスに起因するクロス模様形成メカニズム、及び、往復研削に起因するクロス模様形成メカニズム)で形成されるクロス模様が、同様な指標で整理できることを見出した。
すなわち本願発明者らは、クロス模様が往復ドレスに基づく場合には、ドレス深さΔと砥石10の作用面10bの最大溝深さh0を用いた式で表される評価値で、また、クロス模様が往復研削に基づく場合には、研削切り込み量Δと砥石10の作用面10bの最大溝深さh0を用いた式で表される評価値で、被研削面20aに形成されたクロス模様の評価を行うことができることを見出した。
クロス模様が往復ドレスに基づく場合も、往復研削に基づく場合も、ドレス深さまたは研削切り込み量Δと最大溝深さh0の比率により評価が可能である。たとえば以下の式(1)で求められる評価値を使用することができる。
(評価値)=(h0−Δ)/h0 ・・・ (1)
ここで、ドレッシングで砥石10に形成される最大溝深さh0は、ドレッサー40の先端角、ドレッサー40の先端部の曲率半径、ドレス時の砥石10の回転数、及びドレス速度の関数である。なお、式(1)によって求まる評価値が負の値となるときは、評価値は0とする。
式(1)で表される評価値を用いた場合、被研削面20aの垂直縞は、評価値が1に近いほど目立ち、0に近いほど目立たない。
なお、式(1)で求められる評価値を用いた研削品質の評価方法は、ドレス、研削のいずれの場合においても、過去の研削痕がクロスすることが縞の発生原因となるため、過去の研削痕をより早く更新することによって縞を目立たなくすることができるという発想から案出されたものである。
ドレス深さまたは研削切り込み量Δと最大溝深さh0の値を決定して、式(1)に代入し、研削品質を評価する評価値を算出する。最大溝深さh0の値は、ドレッサー40の先端角、ドレッサー40の先端部の曲率半径、ドレス時の砥石10の回転数、及びドレス速度から決定する。
ここでドレス速度とは、回転する砥石10の回転軸に平行な方向に沿う、ドレッサー40の相対移動速度をいう。
算出された評価値を用いて、研削品質を簡易、適正に評価することができる。この評価値は、研削加工への応用が容易である。
図10(A)〜(C)を参照して、ドレス深さΔ、研削切り込み量Δ、及び最大溝深さh0等の諸量について説明する。
図10(A)に、ドレッサー40の例を写真で示す。右から順に先端角が60°、90°、及び120°のドレッサーである。ドレッサー40のうち、砥石10の作用面10bのドレッシングを行う部分は、頂点が丸みを帯びた円錐形状をしている。
図10(B)は、ドレッサー40を用いて行う砥石10のドレッシングについて示す概略図である。砥石10のドレッシングは、たとえば図18(C)を参照して説明した往復ドレスにて行う。たとえばドレッサー40の先端部を、砥石10の作用面10bに垂直に接触させた状態で、砥石10を、y軸と平行な方向(図の左右方向)に画定された回転中心の周囲に回転させるとともに、砥石作用面10bの幅方向(y軸方向と平行な方向)に移動させる。
なお、図10(B)のドレッサー40には、ドレッサー40の先端角、及びドレッサー40の先端部の曲率半径Rを図示した。ドレッサー40の先端角は、円錐形の側面のなす角(円錐の中心角の2倍の大きさの角)である。また、ドレッサー40の先端部の曲率半径Rは、丸みを帯びた円錐の頂点の曲率半径のことである。
まず、ドレッサー40を砥石作用面10bに押し込めながら、砥石10を、たとえば800rpmの回転数で回転させつつ、y軸負方向(図の左側)に移動させる。ドレス速度(砥石10のy軸方向への移動速度)は、たとえば200mm/minである。ドレッサー40は、砥石10の作用面10b上を、相対的にy軸正方向(図の右側)に移動する。砥石10の作用面10bには、たとえば図1(B)に示されるらせん状のドレッシング痕が形成される(往路ドレス)。らせんのピッチは、砥石10の回転数とドレス速度とで定まる。
次に、ドレッサー40を押し込めるようにして、砥石10を回転させながら、y軸正方向(図の右側)に移動させる。砥石10の回転方向、回転数及びy軸方向への移動速さは、往路ドレスの場合と等しい。ドレッサー40は、砥石作用面10b上を、相対的にy軸負方向(図の左側)に移動し、砥石10の作用面10bには、たとえば図1(C)に右上がりの斜線で示されるドレッシング痕が形成される(復路ドレス)。
図10(B)には、ドレス深さΔ、及び最大溝深さh0を視覚的に示した。ドレス深さとは、前回ドレッシングの押し当て位置と今回ドレッシングの押し当て位置の砥石作用面の垂直方向に沿う差をいう。また、最大溝深さとは、連続体として構成されているとした砥石をドレッシングした場合に、砥石に形成されるであろう幾何学的な溝深さをいう。
図10(C)を参照する。上述のように往復ドレスされた砥石10を、y軸に平行な回転中心の周囲に回転させながら、作用面10bをワーク20の被研削面20aに押し込めるように接触させ、ステージでワーク20をx軸負方向(図の左方向)に送って、被研削面20aの研削を行う(往路研削)。
往路研削が終了したら、回転する砥石10の作用面10bをワーク20の被研削面20aに押し込めるように接触させ、ワーク20をx軸正方向(図の右方向)に送って、被研削面20aの研削を行う(復路研削)。往復研削により、ワーク20の被研削面20aには、たとえば図1(A)に示したクロス模様の研削痕が形成される。
図10(C)には、研削切り込み量Δを視覚的に示した。研削切込み量とは、前回砥石押し当て位置と今回砥石押し当て位置のワーク被研削面の垂直方向に沿う差をいう。
本願発明者らは、式(1)で示される評価値による被研削面20aの加工品質評価の妥当性を、人間の目視による感応検査によって検証した(10段階評価)。
図11は、評価値の妥当性の検証結果を示すグラフである。検証は往復ドレスした砥石10で片側研削加工したワーク20の被研削面20aを対象として行った。
グラフの横軸は、ドレッサーの先端角を単位「°」で示す。また、縦軸は、数値化された目視評価を示す。目視評価の数値の大小と垂直縞の目立ちにくさとは対応しており、目視評価の数値が大きくなるほど、垂直縞が目立たない関係にある。
黒丸で、評価値が0.5となる条件で加工を行った被研削面20aの目視評価を示す。また、黒四角で、評価値が0.9となる条件で加工を行った場合の目視評価を示す。
グラフより、ドレッサーの先端角が60°、90°、120°のいずれの場合においても、評価値を0.5とする条件で行った加工の品質は、評価値を0.9とする条件で行った加工の品質よりも、良好だと視認されたことがわかる。
本願発明者らは、同様の妥当性評価を他の評価値についても行い、式(1)で表される評価値が、1に近いほど垂直縞が目立ち、0に近いほど目立たないことを示す指標として、好適に使用されることを確認した。
更に、本願発明者らは、評価値による加工品質評価の妥当性をシミュレーションによっても検証した。
図12(A)〜(F)を参照する。
図12(A)〜(C)に、評価値を0.2とする条件で研削加工を行った場合の被研削面20aを示すシミュレーション結果を示す。
図12(A)〜(C)に示すのは、ドレッサーの先端角を90°、ドレッサー先端部の曲率半径を0.2mmとし、ドレス深さΔを最大溝深さh0に合わせてドレスを行い、位相ずれのない条件で研削を行ったときに被研削面20aに形成される研削痕である。
ただし、図12(A)に示す結果は、ドレス速度を100mm/min、研削切り込み量Δを8.0μm、最大溝深さh0を10.0μmとして得た。また、図12(B)及び(C)に示す結果は、それぞれドレス速度を200mm/min、400mm/min、研削切り込み量Δを35.0μm、130.0μm、最大溝深さh0を44.0μm、167.0μmとして得たものである。
図12(D)〜(F)に、評価値を0.8とする条件で研削加工を行った場合の被研削面20aを示すシミュレーション結果を示す。
図12(D)〜(F)に示すのは、ドレッサーの先端角を90°、ドレッサー先端部の曲率半径を0.2mmとし、ドレス深さΔを最大溝深さh0に合わせてドレスを行い、位相ずれのない条件で研削を行ったときに被研削面20aに形成される研削痕である。
ただし、図12(D)に示す結果は、ドレス速度を100mm/min、研削切り込み量Δを1.9μm、最大溝深さh0を10.0μmとして得た。また、図12(E)及び(F)に示す結果は、それぞれドレス速度を200mm/min、400mm/min、研削切り込み量Δを8.5μm、33.0μm、最大溝深さh0を44.0μm、167.0μmとして得たものである。
図12(A)〜(C)に示す、評価値を0.2としたシミュレーション結果と、図12(D)〜(F)に示す、評価値を0.8としたそれとを比較すると、評価値が0.2の場合の方が、明らかに垂直縞が目立たない。
シミュレーション結果からも、式(1)で表される評価値が、1に近いほど垂直縞が目立ち、0に近いほど目立たないことを示す指標として、好適に使用されることが確認された。
続いて、本願発明者らは、縞の目立ちやすさを評価値の一定範囲ごとにマップ化した。図13(A)〜(I)、及び図14(A)〜(I)にその例を示す。
これらのマップは、ドレス深さまたは研削切り込み量、ドレッサーの先端角、ドレッサーの先端部の曲率半径、砥石の回転数、及び、ドレス速度の5つのパラメータを変化させて、式(1)で示される評価値を求め、求められた評価値と、5つのパラメータの組み合わせとを対応づけて示すことで作成したものである。
図13(A)〜(I)、及び、図14(A)〜(I)のすべてのグラフにおいて、横軸は、ドレス深さまたは研削切り込み量Δを単位「μm」で示し、縦軸は、ドレス速度を単位「mm/min」で示す。図13(A)〜(I)は、ドレス深さまたは研削切り込み量Δが浅めの場合の計算例、図14(A)〜(I)は、ドレス深さまたは研削切り込み量Δが深めの場合の計算例である。
図13(A)〜(C)及び図14(A)〜(C)は、ドレッサー先端部の曲率半径を0.05mmとした場合、図13(D)〜(F)及び図14(D)〜(F)は、0.2mmとした場合、図13(G)〜(I)及び図14(G)〜(I)は、1.0mmとした場合の評価マップである。
また、図13(A)、(D)、(G)及び図14(A)、(D)、(G)は、ドレッサー先端角が60°である場合、図13(B)、(E)、(H)及び図14(B)、(E)、(H)は、90°である場合、図13(C)、(F)、(I)及び図14(C)、(F)、(I)は、120°である場合の評価マップである。なお、すべての評価マップの作成において、ドレス時の砥石の回転数は、800rpmとした。
各評価マップにおいて、領域a、b、c、d、e、f、g、h、i、及びjは、それぞれ評価値が、0〜0.1、0.1〜0.2、0.2〜0.3、0.3〜0.4、0.4〜0.5、0.5〜0.6、0.6〜0.7、0.7〜0.8、0.8〜0.9、及び0.9〜1である範囲を示す。
図13(A)〜(I)、及び図14(A)〜(I)に示すように、研削切り込み量またはドレス深さΔ、ドレス速度Vd、ドレッサーの先端角、ドレッサー先端部の曲率半径、及びドレス時の砥石回転数を計算パラメータとして、縞の目立ちやすさを表す評価マップを作成することができる。
また、図13(A)〜(I)、及び図14(A)〜(I)に示される評価マップから、たとえば以下のことが理解される。
まず、すべての評価マップから、ドレス速度を小さくすることによって、研削品質を向上させることができることがわかる。
更に、図13(A)、(D)、及び(G)に示される評価マップの比較等、図14(A)、(D)、及び(G)に示される評価マップの比較等から、ドレッサー先端部の曲率半径を大きくすることによっても、研削品質を向上させることができることがわかる。
なお、次図を用いて説明するように、図13(A)〜(I)や図14(A)〜(I)に示した評価マップは、研削加工に容易に応用が可能である。
図15は、実施例による研削条件設定方法を示すフローチャートである。
まず、ステップS101において、たとえば図13(A)〜(I)や図14(A)〜(I)に示した評価マップを準備する。
次に、ステップS102において、実施しようとする研削の品質を評価値によって決定する。たとえば、評価値0.05の研削品質で研削を行うと決定する。
続いて、ステップS103において、決定した評価値を評価マップ上の領域で探索し、探索された領域を与えるパラメータの値を研削条件として設定する。たとえば、図14(C)を参照する。評価値0.05が属するのは領域aであるため、領域aを与えるパラメータの値を研削条件として設定する。
図14(C)は、ドレッサー先端部の曲率半径を0.05mm、ドレッサーの先端角を120°、砥石の回転数を800rpmとして作成された評価マップである。領域aを参照すると、たとえばドレス深さまたは研削切り込み量が30μmで、ドレス速度が100mm/minであれば、評価値が0〜0.1の範囲を表す領域aに属することがわかる。
そこで、先端角120°、先端部の曲率半径0.05mmのドレッサーを用い、砥石を800rpmで回転させながら、ドレス速度100mm/min、ドレス深さ30μmでドレスした砥石を使って研削することを研削条件として設定する。そして、設定された研削条件で研削を行う。
実施例による研削条件設定方法で設定された研削条件で研削を行うと、容易に良質の加工を実現可能な研削条件を把握することができ、優れた研削品質で研削を行うことができる。また、往復ドレス、往復研削の方法で研削を行うことができるため、高効率で研削加工を行うことが可能となる。
なお、ステップS102において、実施しようとする研削の品質とともに、ドレス深さまたは研削切り込み量、ドレス速度、ドレッサーの先端角、ドレッサー先端部の曲率半径、及びドレス時の砥石回転数のうちの少なくとも一つを決定してもよい。
たとえば評価値0.05の研削品質で研削を行うことに加えて、ドレス深さまたは研削切り込み量を4μm、ドレッサーの先端角を60°、ドレッサー先端部の曲率半径を1.0mmとすることを決定する。
この場合、ステップS103において、図13(G)を参照し、領域aを与えるパラメータの値を研削条件として設定することになる。ステップS103においては、ステップS102であらかじめ決定されたドレス深さまたは研削切り込み量、ドレッサーの先端角、ドレッサー先端部の曲率半径の値のほかに、ドレス速度をたとえば100mm/min、砥石の回転数を800rpmとする設定がなされる。
研削条件の設定はコンピュータを用いて行うことも可能である。
図16(A)は、研削条件設定方法を実行する実行装置のシステム構成図であり、図16(B)は、当該装置により実行される処理のフローである。
まず、ステップS201において、キーボードなどの入力装置から、実施しようとする研削の品質を評価値として入力する。たとえば0.05という数値を入力する。
ここでファイル装置のデータファイルには、ドレス深さ、または、研削切り込み量を示す第1のパラメータ、ドレッサーの先端角を示す第2のパラメータ、ドレッサー先端部の曲率半径を示す第3のパラメータ、砥石の回転数を示す第4のパラメータ、及び、ドレス速度を示す第5のパラメータの値または範囲の組み合わせが、評価値、またはその範囲に対応づけて、記憶されている。この点、データファイルは、図13(A)〜(I)、図14(A)〜(I)に示した評価マップと同様の機能を有する。
ステップS202においては、このデータファイルが参照され、入力された評価値で示される研削品質で研削するための条件が探索される。
たとえば中央処理装置が、メインメモリ中の制御プログラムの指令を受け、データファイルから、0.05という評価値に対応づけられている研削条件を探索する。
たとえば、先端角120°、先端部の曲率半径0.05mmのドレッサーを用い、砥石を800rpmで回転させながら、ドレス速度100mm/min、ドレス深さ30μmでドレスした砥石を使って研削することが研削条件として探索される。この場合、たとえばドレス深さ「30μm以上」等、研削条件は範囲として探索されてもよい。
最後に、ステップS203において、中央処理装置は、メインメモリ中の制御プログラムの指令を受け、ディスプレイなどの出力装置から、入力された評価値(0.05)で示される品質で研削を行うための研削条件(ステップS202で探索された研削条件)を出力する。
図17は、実施例による研削方法を示すフローチャートである。本図を参照して、実施例による研削方法について説明する。
実施例による研削方法においては、まずステップS301で、既に実施された研削加工において加工方向と直交する方向に発生した縞模様に対し、片側ドレス片側研削で縞模様が低減されるか否かを判定する。ステップS301で行われる片側ドレス片側研削の加工効率をaとする。加工効率とは、単位時間当たりの研削量をいう。
縞模様が低減されると判定された場合、ステップS302において、あらかじめ決定された加工効率の基準値bと、ステップS301における片側ドレス片側研削の加工効率aとを比較して、それらの高低を判定する。
ステップS302において、a≧bと判定された場合は、ステップS303において、片側ドレス片側研削を含む、本願発明者らが先の出願で提案した研削方法で研削を行う。
ステップS302において、a<bと判定された場合は、ステップS304において、たとえば式(1)で表されるびびり目立ち評価値を用いて研削条件を設定し、研削加工を行う。研削条件の設定は、図15を参照して説明した研削条件設定方法を用いてもよいし、図16(A)及び(B)を参照して説明した研削条件設定プログラムを利用してもよい。たとえば、びびり目立ち評価値がなるべく小さくなるような研削条件で研削する。
なお、本フローチャートでは、ステップS302においてa=bとなる場合は、ステップS303に示される研削を行ったが、ステップS304のステップに示される研削を行うようにしてもよい。
ステップS301において、発生した縞模様が片側ドレス片側研削で低減されないと判定された場合は、当該縞模様は砥石の振動に起因するものであると考えられる。そこでこの場合は、ステップS305において実験モード解析を行う。実験モード解析において、縞模様の発生に影響を与えている振動モードを特定する。
そしてステップS306において、特定されたモードによる振動を制振装置にて抑制し、研削加工を行う。
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。たとえば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。