本発明のインクジェットプリンタは、インク流入口を有するインク流入流路、及び、前記インク流入流路と大気とを連通させる排気流路が形成されたインクジェットヘッドと、前記排気流路を選択的に開閉する排気バルブと、貯溜しているインクが流出するインク流出口及び空気が流入する空気流入口が形成されたインクタンクと、一端が前記インクジェットヘッドのインク流入口に、他端が前記インクタンクのインク流出口に接続されたインク供給流路を有する第1の接続部と、前記空気流入口を介して前記インクタンクに空気を供給する空気供給装置と、基準時からの経過時間tのときに前記インク供給流路及び前記インク流入流路に存在する空気の体積であるV=aebt(aは初期状態における空気量、bは前記インク供給流路の空気の透過率、eは自然対数の底)の値を算出する算出手段と、前記算出手段で算出した空気体積Vの値に基づいて、前記空気供給装置及び前記排気バルブの少なくとも一方の駆動を制御して、前記排気バルブにより開状態になった排気流路から空気及び/又は劣化したインクを排気する排気パージ制御手段とを備えている。
また、本発明のインクジェットプリンタの制御方法は、インク流入口を有するインク流入流路、及び、前記インク流入流路と大気とを連通させる排気流路が形成されたインクジェットヘッドと、前記排気流路を選択的に開閉する排気バルブと、貯溜しているインクが流出するインク流出口及び空気が流入する空気流入口が形成されたインクタンクと、一端が前記インクジェットヘッドのインク流入口に、他端が前記インクタンクのインク流出口に接続されたインク供給流路を有する接続部と、前記空気流入口を介して前記インクタンクに空気を供給する空気供給装置とを備えたインクジェットプリンタの制御方法であって、基準時からの経過時間tのときに前記インク供給流路及び前記インク流入流路に存在する空気の体積であるV=aebt(aは初期状態における空気量、bは前記インク供給流路の空気の透過率、eは自然対数の底)の値を算出する算出ステップと、前記算出手段で算出した空気体積Vの値に基づいて、前記空気供給装置及び前記排気バルブの少なくとも一方の駆動を制御して、前記排気バルブにより開状態になった排気流路から空気及び/又は劣化したインクを排気する排気パージ制御ステップとを備えている。
本発明者は、鋭意研究の結果、インク供給流路内の空気量を、上記の式に示すように、直近に排気流路を介してインク供給流路内及びインク流入流路内の空気及び/又は劣化したインクを排気し終えてからの経過時間tを変数とした指数関数として表すことができることを見いだした。本発明は、この知見に基づいてなされたものである。本発明によると、インク供給流路内及びインク流入流路内の空気量に相当するVの値に応じて空気供給装置の動作条件を決定するので、排気パージ時に無駄に消費されるインクを少なくすることができ、しかもインク吐出性能を低下しにくいものとすることができる。
本発明のインクジェットプリンタにおいては、前記算出手段が、直近に前記排気流路を介して前記インク供給流路内及びインク流入流路内の空気及び/又は劣化したインクを排気し終えてから所定以上の時間が経過すると、Vの値を算出することが好ましい。これによると、所定時間以上の時間が経過するごとに排気パージが自動的に実行されるので、排気パージを実行させるためにユーザが装置を操作する必要がない。
また、本発明においては、前記算出手段が、ユーザの指示に基づいてVの値を算出することがより好ましい。これによると、ユーザが任意のタイミングで排気パージを実行させることができる。
別の観点から見て、本発明のインクジェットプリンタは、インク流入口を有するインク流入流路、前記インク流入流路と大気とを連通させる排気流路、及び、それぞれが前記インク流入流路と連通していると共に圧力室を経てノズルに至る複数の個別インク流路が形成されたインクジェットヘッドを備えている。さらに、前記排気流路を開閉する排気バルブと、貯溜しているインクが流出するインク流出口及び空気が流入する空気流入口が形成されたインクタンクと、前記インク流入口及び前記インク流出口に接続されたインク供給流路と、前記空気流入口を介して前記インクタンクに空気を供給する空気供給装置とを備えている。そして、直近に前記排気流路を介して前記インク供給流路内及びインク流入流路内の空気及び/又は劣化したインクを排気し終えてからの経過時間をtとしたときに、V=aebt(aは初期状態における空気量、bは前記インク供給流路の空気の透過率、eは自然対数の底)の値が所定値に達する経過時間t1を算出する算出手段と、前記算出手段が算出した経過時間t1を経過すると、前記インクタンクに空気が供給されるように前記空気供給装置を制御し且つ開状態となるように前記排気バルブを制御する排気パージ制御手段とをさらに備えている。
また、別の観点から見て、本発明のインクジェットプリンタの制御方法は、インク流入口を有するインク流入流路、前記インク流入流路と大気とを連通させる排気流路、及び、それぞれが前記インク流入流路と連通していると共に圧力室を経てノズルに至る複数の個別インク流路が形成されたインクジェットヘッドと、前記排気流路を開閉する排気バルブと、貯溜しているインクが流出するインク流出口及び空気が流入する空気流入口が形成されたインクタンクと、前記インク流入口及び前記インク流出口に接続されたインク供給流路と、前記空気流入口を介して前記インクタンクに空気を供給する空気供給装置とを備えたインクジェットプリンタの制御方法である。そして、直近に前記排気流路を介して前記インク供給流路内及びインク流入流路内の空気及び/又は劣化したインクを排気し終えてからの経過時間をtとしたときに、V=aebt(aは初期状態における空気量、bは前記インク供給流路の空気の透過率、eは自然対数の底)の値が所定値に達する経過時間t1を算出する算出ステップと、前記算出ステップにおいて算出された経過時間t1を経過すると、前記インクタンクに空気が供給されるように前記空気供給装置を制御し且つ開状態となるように前記排気バルブを制御する排気パージ制御ステップとを備えている。
本発明によると、インク供給流路内及びインク流入流路内の空気量に相当するVの値が所定値に達するごとに排気パージが実行されるので、上記所定値を適切な値とすることによって、排気パージ時に無駄に消費されるインクを少なくすることができ、しかもインク吐出性能を低下しにくいものとすることができる。
さらにこのとき、周辺雰囲気の温度及び湿度の少なくともいずれかを検知する検知手段をさらに備えており、前記算出手段が、前記検知手段の検知結果に基づいて係数bを補正することが好ましい。これによると、経過時間t1又はインク供給流路内及びインク流入流路内の空気量をより正確に算出することができる。
本発明においては、前記インクジェットヘッド、前記インクタンク及び前記インク供給流路をそれぞれ複数備えており、複数の前記インクタンクの前記空気流入口及び前記空気供給装置の空気流出口に接続された空気供給流路と、前記インクタンク内の空気圧を大気圧にする大気開放手段とをさらに備えていてよい。そして、前記空気供給装置が、前記インクタンクに空気を供給する空気ポンプと、前記空気供給流路に取り付けられており、前記インクタンクと前記空気ポンプとを連通させる開状態と、前記インクタンクと前記空気ポンプとを連通させない閉状態とを取り得る空気バルブとを有している。前記空気バルブは、前記開状態において、複数の前記インクタンクの少なくとも1つと前記空気ポンプとを連通させ、前記閉状態において、複数の前記インクタンクと前記空気ポンプとを連通させない。これによると、複数のインクジェットヘッドに対して空気バルブを兼用しているため、インクジェットプリンタの低コスト化を図ることができる。
このとき、前記大気開放手段が、前記空気バルブを開状態としつつ前記インクタンクを大気開放してもよい。これによると、簡単な構成でインクタンクを大気開放することができる。
または、前記空気バルブが、前記インクタンクを大気に連通させる開放状態をさらに取り得、前記大気開放手段が、前記空気バルブを開放状態にしてもよい。これによると、インクタンクを素早く大気開放することができる。
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
<第1の実施の形態>
図1は、本発明に係る第1の実施の形態のインクジェットプリンタの概略構成図である。インクジェットプリンタ101は、インク滴を吐出することによって被記録媒体上に所望の画像を形成するものであり、図1に示すように、4つのインクジェットヘッド1と、各インクジェットヘッド1に対応する4つのインクタンク45と、空気ポンプ47と、切換ユニット(空気バルブ)48と、排気バルブ49と、温度湿度センサ90と、制御装置83とを有している。
インクジェットヘッド1は、図示しない搬送装置に搬送されている被記録媒体の搬送方向に直交する方向に移動し、被記録媒体上にインク滴を吐出するシリアル式のヘッドである。4つのインクジェットヘッド1は、各々がシアン、イエロー、マゼンタ、及びブラックの互いに異なるいずれかのインク滴を吐出するように構成されている。つまり、インクジェットプリンタ101はカラー式のインクジェットプリンタである。
図2及び図3を参照しつつインクジェットヘッド1について詳細に説明する。図2は、インクジェットヘッド1の外観斜視図である。図3は、図2に示す矢印III-III線に沿った断面図である。図2及び図3に示すように、インクジェットヘッド1は、主走査方向に長尺な形状であって、下から順に、ヘッド本体1a、リザーバユニット70、及び、ヘッド本体1aの駆動を制御する制御部80を有する。
制御部80は、制御装置83からの指示に基づいてインクジェットヘッド1を制御するものであり、メイン基板82、メイン基板82の両側にそれぞれ配置されたサブ基板81、及び、各サブ基板81におけるメイン基板82に対向する側面に固定されたドライバIC81aを有している。ドライバIC81aは、ヘッド本体1aに含まれるアクチュエータユニット21を駆動するための信号を生成するものである。各ドライバIC81aにおけるサブ基板81に対向する面にはヒートシンク84が固定されている。
給電部材であるFPC(Flexible Printed Circuit)50が、その一端においてアクチュエータユニット21と接続され、他端においてサブ基板81と接続されている。FPC50はアクチュエータユニット21からサブ基板81に至る途中でドライバIC81aとも接続されている。つまりFPC50は、サブ基板81及びドライバIC81aと電気的に接続されており、サブ基板81から出力された信号をドライバIC81aに伝達し、ドライバIC81aから出力された駆動信号をアクチュエータユニット21に供給する。
インクジェットヘッド1にはさらに、制御部80を覆う上カバー51及びヘッド下部を覆う下カバー52が設けられている。上カバー51は、アーチ形状の天井を有し、制御部80を覆っている。下カバー52は、上下に開口された略四角筒状で、メイン基板82の下部を覆っている。これら上カバー51、下カバー52によって印刷時に飛翔したインクが制御部80等に付着するのが防止される。なお、図1では制御部80が見えるよう上カバー51を省略している。
次に、図4をさらに参照しつつ、リザーバユニット70について説明する。図4は、リザーバユニット70及びヘッド本体1aの主走査方向に沿った断面図である。なお、図4では説明の都合上、鉛直方向の縮尺を拡大し、且つ、同一線に沿った断面では通常描かれないリザーバユニット70内のインク流路をも適宜示している。
リザーバユニット70は、インクを一時的に貯溜しつつヘッド本体1aに供給するものである。リザーバユニット70は、図4に示すように、主走査方向(図2参照)に長尺な矩形状の平面を有する6つのプレート71〜76が積層された積層構造を有している。また、リザーバユニット70内には、インク流入流路61とリザーバ62と複数本のインク導入流路63と排気流路64とが形成されている。リザーバユニット70上面における長手方向の一方端部近傍にはジョイント91が、他方端部近傍にはジョイント92が固定されている。これらジョイント91、92の内部には円筒形空間91a、92aが形成されている。ジョイント91にはインク供給管(インク供給流路)65が接続されており、ジョイント92には排気管68が接続されている。
インク流入流路61は、インクタンク45からのインクがインク供給管65を介して流入するものであり、円筒形空間91aと、円筒形空間91aに対応するようにプレート71に形成された孔71aと、円筒形空間91aと対向する領域から円筒形空間92aと対向する領域まで延在するようにプレート72に形成された孔72aとを含んでいる。また、円筒形空間91aの上側の開口がインク流入口61aとなっており、インク流入流路61の底面の略中央に形成された開口がリザーバ連通口61bとなっており、円筒形空間92aに対応するようにプレート71に形成された孔71bの下側の開口が排気連通口61cとなっている。
リザーバ62は、リザーバ連通口61bを介してインク流入流路61から流れ込んだインクを一時的に貯溜するものであり、プレート73に形成された孔73aと、円筒形空間91aと対向する領域から円筒形空間92aと対向する領域まで延在するようにプレート74に形成された孔74aとを含んでいる。また、リザーバ62の底面には、各インク導入流路63に連通する複数個の供給流路連通口62aが形成されている。孔73aの縁部には段差面が形成されており、この段差面上にインク内の塵埃等を除去するフィルタ74bが配置されている。
インク導入流路63は、リザーバ62に貯溜されたインクをヘッド本体1aに供給するものであり、供給流路連通口62aに対応するようにプレート76に形成されている。インク導入流路63は、供給流路連通口62a及び後述するヘッド本体1aの流路ユニット4の上面に開口しているインク供給口5b(図5参照)と連通している。
排気流路64は、インク供給管65及びインク流入流路61内の空気等を外部に排出するためのものであり、円筒形空間92aと、円筒形空間92aに対応するようにプレート71に形成された孔71bとを含んでいる。また、排気連通口61cを介してインク流入流路61と連通していると共に排気管68と連通している。
リザーバユニット70におけるインクの流れについて説明する。まず、インク流入口61aからインク流入流路61に流れ込んだインクが、図4中黒塗りの矢印で示すように、リザーバ連通口61bを介してリザーバ62に流れ込み、さらに、リザーバ62から供給流路連通口62aを介して各インク導入流路63に流れ込む。インク導入流路63に流れ込んだインクは、インク供給口5bを介してヘッド本体1aの流路ユニット4に供給される。
なお、後述する排気パージ時においては、排気管68が大気と連通しているときは、流路抵抗の違いのために、インク流入流路61に流れ込んだインクが、排気連通口61cを介して排気流路64に流れ込み、排気管68を介して外部に排出される。これにより、インク供給管65及びインク流入流路61内に滞留する気泡、粘度が高くなるなどインク特性が変化してしまったインク(劣化したインク)及びフィルタ74bに捕獲されていた異物が排出される。
次に、図5〜図8を参照しつつ、ヘッド本体1aについて説明する。図5は、ヘッド本体1aの平面図である。図6は、図5の一点鎖線で囲まれた領域の拡大図である。なお、図6では説明の都合上、アクチュエータユニット21の下方にあって破線で描くべき圧力室10及びアパーチャ12を実線で描いている。図7は、図6に示すVII-VII線に沿った部分断面図である。図8はアクチュエータユニット21の拡大断面図である。
ヘッド本体1aは、図5に示すように、流路ユニット4、及び、流路ユニット4上面に固定された4つのアクチュエータユニット21を含んでいる。アクチュエータユニット21は、流路ユニット4に形成された圧力室10内のインクに選択的に吐出エネルギーを付与するものである。
流路ユニット4は、主走査方向に延在する略直方体状の外形を有している。図6に示すように、流路ユニット4の下面には多数のノズル8がマトリクス状に配置されたインク吐出面が形成されている。また、流路ユニット4とアクチュエータユニット21との固定面において、圧力室10がノズル8に対応するようにマトリクス状に多数配列されている。
また、流路ユニット4は、図7に示すように、上から順に、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャプレート24、サプライプレート25、マニホールドプレート26、27、28、カバープレート29、及び、ノズルプレート30、という9枚の金属プレートが積層された積層構造を有している。
図5に示すように、流路ユニット4の上面には、リザーバユニット70の供給流路連通口62a(図4参照)に対応するように、複数個のインク供給口5bが開口している。流路ユニット4の内部には、インク供給口5bに連通するマニホールド流路5及びマニホールド流路5から分岐した副マニホールド流路5aが形成されている。図7に示すように、各ノズル8に対しては、マニホールド流路5から副マニホールド流路5a、そして副マニホールド流路5aの出口から圧力室10を経てノズル8に至る個別インク流路32が形成されている。リザーバユニット70からインク供給口5bを介して流路ユニット4内に供給されたインクは、マニホールド流路5から副マニホールド流路5aに分岐され、絞りとして機能するアパーチャ12及び圧力室10を介してノズル8に至る。
4つのアクチュエータユニット21は、図5に示すように、それぞれ台形の平面形状を有しており、流路ユニット4上面に開口したインク供給口5bを避けるよう千鳥状に配置されている。また、アクチュエータユニット21は、図8に示すように、4枚の圧電シート41、42、43、44が積層された積層構造を有している。圧電シート41〜44は、1つのインク吐出面に対応して形成された多数の圧力室10に跨って配置されている。
最上層の圧電シート41上における圧力室10に対応する位置には、個別電極35が形成されている。最上層の圧電シート41とその下側の圧電シート42との間にはシート全面に形成された共通電極34が介在している。圧電シート42、43の間及び圧電シート43、44の間には電極が配置されていない。
個別電極35は、圧力室10と相似な略菱形の平面形状を有している。略菱形の個別電極35における鋭角部の一方は延出され、その先端には個別電極35と電気的に接続された円形のランド36が設けられている。ランド36は、FPC50(図3参照)に設けられた接点と電気的に接合されている。
共通電極34は図示しない領域において接地されてグランド電位に保たれている。一方、個別電極35は、選択的に電位を制御することができるよう、個別電極35(ランド36)ごとに独立した別のリード線を含むFPC50及びランド36を介してドライバIC81aに接続されている(図3参照)。
ここで、アクチュエータユニット21の駆動方法について述べる。圧電シート41はその厚み方向に分極されており、個別電極35を共通電極34と異なる電位にして圧電シート41に対してその分極方向に電界を印加すると、圧電シート41における電界印加部分が圧電効果により歪む活性部として働く。即ち、圧電シート41はその厚み方向に伸長又は収縮し、圧電横効果により平面方向に収縮又は伸長しようとする。一方、残り3枚の圧電シート42〜44は、個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域をもたない非活性層であって、自発的に変形することができない。
つまりアクチュエータユニット21は、圧力室10から離れた上側1枚の圧電シート41を活性部を含む層とし且つ圧力室10に近い下側3枚の圧電シート42〜44を非活性層とした、いわゆるユニモルフタイプである。圧電シート41〜44は圧力室10を区画するキャビティプレート22の上面に固定されているため、圧電シート41における電界印加部分とその下方の圧電シート42〜44との間で平面方向への歪みに差が生じると、圧電シート41〜44全体が圧力室10側へ凸になるように変形(ユニモルフ変形)する。これにより圧力室10の容積が低下することによって、圧力室10内の圧力が上昇し、圧力室10からノズル8へとインクが押し出され、ノズル8からインクが吐出される。その後、個別電極35を共通電極34と同じ電位に戻すと、圧電シート41〜44は元の平坦な形状になって、圧力室10の容積が元の容積に戻る。これに伴い、マニホールド流路5から圧力室10へとインクが導入され、再び圧力室10内にインクが貯溜される。
次に、インクタンク45について、図9を参照しつつ説明する。図9はインクタンク45の断面図である。インクタンク45は、インクジェットヘッド1が吐出するインクを貯溜するものである。つまり、4つのインクタンク45は、各々がシアン、イエロー、マゼンタ及びブラックの互いに異なるいずれかのインクを貯溜している。また、図9に示すように、インクタンク45は、タンク本体45aと、インク流出管45bと、空気流入管45cとを有している。タンク本体45aは、インクを貯溜する箱体であり、上蓋が超音波溶着されることによって密封されている。インク流出管45b及び空気流入管45cは、タンク本体45aの上面からその内部空間に至るまで挿入されている。インク流出管45bの上端のジョイント部にはインク供給管65が接続されており、その下端の開口が内部空間の底部近傍、つまり、インクの液面よりも下方に位置している。空気流入管45cの上端のジョイント部には、空気供給管67aが接続されており、その下端の開口が内部空間の上面(インクの液面よりも上方)に位置している。インク流出管45bの上端の開口がインク流出口45dとなっており、空気流入管45cの上端の開口が空気流入口45eとなっている。後述する排気パージにおいて、空気流入口45eから空気が流入することによって、タンク本体45a内の空気圧が上昇し、貯溜しているインクがインク流出口45dから押し出されるように流出する。
図1に戻って、空気ポンプ(空気供給装置)47は、制御装置83からの指示に基づいて、空気供給管67a、67bを介して各インクタンク45に空気を供給するものである。
切換ユニット48について、図10を参照しつつ説明する。図10(a)〜図10(d)の各図は、切換ユニット48の上側部分の断面図であり、図10(e)〜図10(h)の各図は、切換ユニット48の下側部分の断面図である。なお、図10(a)〜図10(d)は、切換ユニット48の上側部分の各切換動作状態を示しており、図10(e)〜図10(h)は、切換ユニット48の下側部分の各切換動作状態を示している。後述するが切換ユニット48は上側部分と下側部分の2層構造を内部的に有しており、制御装置83からの指示に基づいて空気ポンプ47からの空気の供給先を切り換えるとともに、制御装置83からの指示に基づいて少なくとも1つのインクタンク内の空気を選択的に大気開放させるように切り換えるものである。
図10に示すように、切換ユニット48は、枠体48aと、流路体48bとを有している。枠体48aは、円筒形状を有する内部空間と、この内部空間から外周面に至る8つの貫通孔48cと、各貫通孔48cに接続された8つのジョイント部48dとを有している。8つの貫通孔48cはそれぞれが枠体48aの外周面に開口しており、上側の4つの貫通孔48cは互いに90度毎に等角に離れ、下側の4つの貫通孔48cも互いに90度毎に等角に離れ、上側の貫通孔48cと下側の貫通孔48cとは互いに上下に重なるように開口されている。また、上側の貫通孔48cの4つの開口に対応して上側の4つのジョイント部48dが、下側の貫通孔48cの4つの開口に対応して下側の4つのジョイント部48dが形成されている。そして、各ジョイント部48dには4本の空気供給管67aが接続されている。4本の空気供給管67aのそれぞれは、その端部が二叉に分岐されており、一方が上側のジョイント部48dに接続され、他方が対応する下側のジョイント部48dの接続されている。つまり、上下ペアになった4組の貫通孔48cと4つのインクタンク45とが4本の空気供給管67aを介して連通している。
流路体48bは、円筒形状を有するものであり、枠体48aの内部空間に回転自在に配置されている。流路体48bには、図10(a)〜図10(d)に示されるようにその上側部分に、回転軸に沿って延在している第1主流路48eと、第1主流路48eと連通しつつ径方向に延びて第1主流路48eから流路体48bの外周面に至る4つの第1副流路48f及び1つの第2副流路48gが形成されている。第1主流路48eは、一方端部が4つの第1副流路48f及び1つの第2副流路48gに通じ、他方端部はそのまま上方へ通じて空気供給管67bが接続されている(図1参照)。つまり、第1主流路48eと空気ポンプ47とが空気供給管67bを介して連通している。4つの第1副流路48fは、流路体48bの外周面において90度毎に開口している。第2副流路48gは、流路体48bの外周面において2つの第1副流路48fの開口同士の間に45度ずつ離れて開口するように配置されている。
さらに、流路体48bには、図10(e)〜図10(f)に示されるようにその下側部分に、回転軸に沿って延在している第2主流路48jと、第2主流路48jと連通しつつ径方向に延びて第2主流路48jから流路体48bの外周面に至る4つの第3副流路48h及び1つの第4副流路48iが形成されている。第2主流路48jは、一方端部が4つの第3副流路48h及び1つの第4副流路48iに通じ、他方端部はそのまま下方へ通じて枠体48aの外まで開口、つまり、大気開放されている。4つの第3副流路48hは、流路体48bの外周面において90度毎に開口している。第4副流路48iは、流路体48bの外周面において2つの副流路48hの開口同士の間に45度ずつ離れて開口するように配置されている。
尚、流路体48bの上側部分に形成された各流路(第1主流路48e、第1副流路48f、第2副流路48g)と下側部分に形成された各流路(第2主流路48j、第3副流路48h、第4副流路48i)とは完全に独立しており、上下で連通しないように間に隔壁が設けられている。また、上下の各流路の配置関係は、下側に設けられた各第3副流路48h及び第4副流路48iが上側に設けられた各第1副流路48f及び第2副流路48gに対して22.5度ずつズレが生じるように配置されている。
切換ユニット48は、図10(a)に示すように、上側の4つの貫通孔48cと4つの第1副流路48fとが共に連通する位置まで流路体48bが回転することによって、全てのインクタンク45と空気ポンプ47とが連通する「全開状態」となる。この状態のとき、流路体48bの下側に設けられた各流路は、図10(e)の状態にあり、下側の4つの貫通孔48cと4つの第3副流路48h及び第4副流路48iとがいずれも連通しない位置となる。つまり、いずれのインクタンク45も大気連通しない状態にされる。
また、切換ユニット48は、図10(b)に示すように、上側の選択された1つの貫通孔48cと第2副流路48gとが連通する位置まで流路体48bが回転することによって、貫通孔48cと連通するインクタンク45と空気ポンプ47とが連通する「選択開状態」となる。この状態のとき、流路体48bの下側に設けられた各流路は、図10(f)の状態にあり、この場合も、下側の4つの貫通孔48cと4つの第3副流路48h及び第4副流路48iとがいずれも連通しない位置となる。つまり、いずれのインクタンク45も大気連通しない状態にされる。
さらに、切換ユニット48は、図10(c)及び(d)に示すように、上側のどの貫通孔48cも第1副流路48fまたは第2副流路48gと連通しない位置まで流路体48bが回転することによって、全てのインクタンク45と空気ポンプ47との連通が閉じられる「閉状態」となる。また、切換ユニット48は、「閉状態」の一態様として、図10(g)に示すように、下側の4つの貫通孔48cと4つの第3副流路48hとが共に連通する位置まで流路体48bが回転した状態を取ることも出来る。このとき、全てのインクタンク45は空気供給管67aを介して大気と連通する「開放状態」となる。更には、図10(h)に示すように、下側の選択された1つの貫通孔48cと第4副流路48iとが連通する位置まで流路体48bが回転した状態を取ることも出来る。このとき、貫通孔48cと連通する選択された1つのインクタンク45と大気とが連通する「(一部)開放状態」となることができる。
図1に戻って、排気バルブ49は、排気管68に取り付けられており、制御装置83からの指示に基づいてインクジェットヘッド1内を大気と連通させるものである(図4参照)。
温度湿度センサ90は、インクタンク45の周辺雰囲気の温度及び湿度を検知するセンサである。温度湿度センサ90の検知結果は制御装置83に出力される。
次に、制御装置83について、図11を参照しつつ説明する。図11は、制御装置83の機能ブロック図である。制御装置83は、上述したように、インクジェットヘッド1、空気ポンプ47、切換ユニット48及び排気バルブ49を含むインクジェットプリンタ101全体を制御するものである。なお、本実施の形態においては、インクタンク45に空気を供給することによってインク供給管65内及びインク流入流路61内の空気及び/又は劣化したインクの空気を、インクジェットヘッド1及び排気管68を介して強制的に排出する排気パージを行うための機能を中心に説明する。制御装置83は、図11に示すように、排気パージ開始部83aと、空気量算出部83bと、インク量検知部83cと、動作条件決定部83dと、動作制御部83eとを有している。
排気パージ開始部83aは、ユーザからの指令があると又は前回排気パージを行ってから予め設定されている所定時間が経過すると、排気パージを開始させるものである。
空気量算出部83bは、インク供給管65内及びインク流入流路61内の空気量を算出するものである。インク供給管65内の空気は、インク供給管65の外壁を介して大気が浸透することによって時間の経過とともに成長、移動し、インク流入流路61内にも蓄積される。上述したように発明者は、インク供給管65内及びインク流入流路61内の空気量V(mL)が、初期状態からの経過時間をtとしたときに、
V=aebt(a、bはそれぞれ係数、eは自然対数の底)に基づいて成長することを知見した。ここで係数aは、初期状態におけるインク供給管65内及びインク流入流路61内の空気量(mL)を表す。また、係数bは、インク供給管65の材質、インク供給管65の内部空間を画定する壁の厚み、インク供給管65の内部空間におけるインクの流れる方向に直交する断面積、並びに、周辺雰囲気の温度及び湿度によって決定される空気の透過率を表すものである。インク供給管65の材質、インク供給管65の内部空間を画定する壁の厚み、インク供給管65の内部空間におけるインクの流れる方向に直交する断面積はインクジェットプリンタ101の設計事項であり固有値となっている。
空気量算出部83bは、インク供給管65の材質、インク供給管65の内部空間を画定する壁の厚み、インク供給管65の内部空間におけるインクの流れる方向に直交する断面積、並びに、予め設定された周辺雰囲気の温度及び湿度に基づいて係数bを一時的に決定する。さらに、空気量算出部83bは、温度湿度センサ90が検知した周辺雰囲気の温度及び湿度に基づいて係数bの値を補正する。ここで、係数bの温度及び湿度に関する特性を、図12を参照しつつ説明する。図12(a)は、湿度0%及び湿度50%のそれぞれにおいて、ブラックインクが使用されているインク供給管65に関する係数bの温度特性を、図12(b)は、湿度0%及び湿度50%のそれぞれにおいて、ブラック以外のカラーインク(シアン、イエロー及びマゼンタ)が使用されているインク供給管65に係る係数bの温度特性をそれぞれ示している。なお、縦軸は係数bの値を、横軸は温度をそれぞれ示している。図12(a)、図12(b)に示すように、温度が高くなると係数bの値が大きくなる。また、湿度が高くなると、係数bの値が低くなる。
本実施の形態においては、排気パージを行ったときを初期状態とし、前回排気パージを行ったときからの経過時間をtとする。また、初期状態におけるインク供給管65内及びインク流入流路61内の空気量を0.014(mL)とする。この値は、経験的に決定されたものである。したがって、空気量算出部83bは、V=0.014ebtに基づいて、経過時間tの関数として空気量を算出する。
インク量検知部83cは、インクタンク45に貯溜されているインク量を検知するものである。具体的には、各インクジェットヘッド1ごとのインク消費量を順次加算することに基づいて、インクタンク45に貯溜されているインク量を検知する。
動作条件決定部83dは、空気量算出部83bに算出されたインク供給管65内及びインク流入流路61内の空気量とインク量検知部83cが検知したインク量とに基づいて、排気パージ時における空気ポンプ47及び切換ユニット48の動作条件を決定するものである。具体的には、排気パージ時において、インクタンク45内の空気圧が、空気量算出部83bによって算出された量の空気が確実に排出されるような圧力(以下パージ圧と称する)となるように空気ポンプ47及び切換ユニット48の動作条件を決定する。動作条件決定部83dに決定される動作条件には、切換ユニット48の「全開状態」又は「選択開状態」の動作条件による空気ポンプ47の回転数(rpm)と運転時間とが含まれる。
切換ユニット48を「全開状態」又は「選択開状態」のいずれにするかは、排気パージの対象となるインクジェットヘッド1によって決定される。つまり、1つのインクジェットヘッド1に対して排気パージを行う場合は、切換ユニット48が所定のタイミングで「選択開状態」となるように決定し、4つのインクジェットヘッド1に対して排気パージを行う場合は、切換ユニット48が所定のタイミングで「全開状態」となるように決定する。
動作制御部83eは、排気パージ時において、動作条件決定部83dが決定した動作条件にしたがった動作が行われるように空気ポンプ47、切換ユニット48の制御を行うと共に排気バルブ49の制御を行うものである。
次に、制御装置83の処理手順について、図13を参照しつつ説明する。図13は、制御装置83の処理手順を示すフローチャートである。図13に示すように、インクジェットプリンタ101が起動されると、制御装置83の排気パージ開始部83aが、ユーザから排気パージを行う旨の指示があるか否かを判断する(ステップS101:以下S101と称する。他のステップでも同様)。ユーザから排気パージを行う旨の指示がないと判断した場合は(S101:NO)、さらに、前回排気パージを行ってから予め設定されている所定時間が経過したか否かを判断する(S102)。所定時間が経過していないと判断した場合は(S102:NO)、再び、ユーザから排気パージを行う旨の指示があるか否かを判断する(S101)。ユーザから排気パージを行う旨の指示があると判断した場合(S101:YES)、又は、前回排気パージを行ってから予め設定されている所定時間が経過したと判断した場合は(S102:YES)、空気量算出部83bが、温度湿度センサ90が検知した周辺雰囲気の温度及び湿度に基づいて補正された係数bを用いて供給管65内及びインク流入流路61内の空気量を算出する(S103)。その後、排気パージを実行する(S104)。
次に、排気パージを実行するときの処理手順について、図14を参照しつつ説明する。図14は、図13のS104に示す排気パージを実行するときの処理手順を示すフローチャートである。図14に示すように、排気パージが開始されると、インク量検知部83cがインクタンク45に貯溜されているインク量を検知する(S201)。次に、動作条件決定部83dが、空気量算出部83bに算出された空気量及びインク量検知部83cが検知したインク量、切換ユニット48の状態(「全開状態」又は「選択開状態」)に基づいて、空気ポンプ47の回転数(rpm)及び運転時間を決定する(S202)。
続いて、切換ユニット48を「全開状態」又は「選択開状態」にして(S203)、動作条件決定部83dで決定された空気ポンプ47の回転数(rpm)及び運転時間Tで空気ポンプ47を運転し、当該空気ポンプの動作完了と同時に排気バルブ49を開く(S204)。これにより、インクタンク45内の空気圧が上昇してパージ圧となり、インクタンク45内のインクがインク流出口45dから流出する。インクタンク45から流出したインクは、インク供給管65内の空気と共にリザーバユニット70のインク流入流路61に流入する。インク流入流路61に流れ込んだインク及び空気は、排気連通口61cを介して排気流路64に流れ込み、排気管68を介して外部に排出される。
予め算出された時間が経過した後、排気バルブ49を閉じ、切換ユニット48を「開放状態」にする(S205)。切換ユニット48が「開放状態」になると、インクタンク45の空気圧が直ちに大気圧に戻り、インクタンク45からのインクの流出が即座に停止する。これにより、排気パージが終了する。
以上に述べた、第1の実施形態に係るインクジェットプリンタ101によると、インク供給管65内及びインク流入流路61内の空気量に相当するVの値に応じて、排気パージ時における空気ポンプ47及び切換ユニット48の動作条件を決定するので、排気パージ時に無駄に消費されるインクがほとんどなく、しかもインク吐出性能が低下しない。
また、排気パージ開始部83aによって、所定時間以上の時間が経過するごとに排気パージが自動的に実行されるので、排気パージを実行させるためにユーザが装置を操作する必要がない。
さらに、排気パージ開始部83aが、ユーザからの指示によって排気パージを開始するため、ユーザが任意のタイミングで排気パージを実行させることができる。
加えて、空気量算出部83bが、インク供給管65の材質、インク供給管65の内部空間を画定する壁の厚み、インク供給管65の内部空間におけるインクの流れる方向に直交する断面積、並びに、予め設定された周辺雰囲気の温度及び湿度によって係数bを決定し、さらに、空気量算出部83bは、周辺雰囲気の温度及び湿度に基づいて係数bの値を補正するため、インク供給管65内及びインク流入流路61内の空気量を正確に算出することができる。
また、複数のインクジェットヘッド1に対して切換ユニット48が兼用されているため、インクジェットプリンタ101の低コスト化を図ることができる。
さらに、切換ユニット48が、インクタンク45を大気に連通させる「開放状態」を取り得るため、排気パージを停止させるためにインクタンク45を素早く大気開放させることができる。これにより、インクタンク45からのインクの流出が即座に停止し、インクが一層無駄に消費されにくくなる。
なお、本実施の形態の一変形例として、印刷を実行する直前に排気パージを行うように構成してもよい。また、直近の排気パージ終了時刻から所定時間が経過した時刻にインクジェットプリンタの電源がオフとなっていたときには、電源投入時に直ちに排気パージを行うように構成してもよい。
<第2の実施の形態>
次に、本発明に係る第2の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。第1の実施の形態とは制御装置の機能のみが異なるため、制御装置の機能についてのみ説明する。なお、第1の実施の形態と実質的に同じ部材及び機能部については同一の符号を付してその説明を省略する。図15は、第2の実施の形態に係るインクジェットプリンタが有する制御装置283の機能ブロック図である。制御装置283は、インクジェットヘッド1、空気ポンプ47、切換ユニット48及び排気バルブ49を含むインクジェットプリンタ全体を制御するものである。図15に示すように、制御装置283は、空気成長時間算出部283aと、排気パージ指令部283bと、インク量検知部83cと、動作条件決定部283dと、動作制御部83eとを有している。なお、インク量検知部83c及び動作制御部83eは、第1の実施の形態と同じであるのでその詳細な説明を省略する。
空気成長時間算出部283aは、温度湿度センサ90が検知した周辺雰囲気の温度及び湿度に基づいて、インク供給管65内及びインク流入流路61内の空気が、前回排気パージを行ってからインクの吐出性を維持することができる最大量(以下、許容最大量と称する)にまで成長する時間(以下、成長時間と称する)t1を算出するものである。具体的は、許容最大量をV0(mL)としたときに、
V=aebt1(a、bはそれぞれ係数、eは自然対数の底)に基づいて、インク供給管65内及びインク流入流路61内の空気量が、初期状態における空気量からV0になるのに要する成長時間t1を算出する。なお、係数a、bは第1の形態と同様であるため、詳細な説明を省略する。
また、空気成長時間算出部283aは、インク供給管65の材質、インク供給管65の内部空間を画定する壁の厚み、インク供給管65の内部空間におけるインクの流れる方向に直交する断面積、並びに、予め設定された周辺雰囲気の温度及び湿度によって係数bを一時的に決定し、さらに、周辺雰囲気の温度及び湿度に基づいて係数bの値を補正する。
本実施の形態においては、排気パージを行ったときを初期状態と設定し、初期状態におけるインク供給管65内及びインク流入流路61内の空気量を0.014(mL)とする。このときのブラックインク及びカラーインクが使用されているインク供給管65における成長時間t1と周辺雰囲気の温度との関係を表1に示す。
表1に示すように、周辺雰囲気の温度が高くなるに伴って、インク供給管65内及びインク流入流路61内の空気の成長速度が指数関数的に大きくなり、成長時間t1が短くなる。
排気パージ指令部283bは、前回排気パージを行ったときから、空気成長時間算出部283aが算出した成長時間t1が経過したときに排気パージを開始させるものである。
動作条件決定部283dは、インク量検知部83cが検知したインク量に基づいて、排気パージ時における空気ポンプ47及び切換ユニット48の動作条件を決定するものである。具体的には、排気パージ時において、インクタンク45内の空気圧が、インク供給管65内及びインク流入流路61内における許容最大量の空気が確実に排出されるような圧力(以下パージ圧と称する)となるように空気ポンプ47及び切換ユニット48の動作条件を決定する。動作条件決定部283dに決定される動作条件には、切換ユニット48及び排気バルブ49の動作タイミングと、切換ユニット48の状態(「全開状態」又は「選択開状態」)と空気ポンプ47の回転数(rpm)及び運転時間とが含まれる。
次に、制御装置283の処理手順について、図16を参照しつつ説明する。図16は、制御装置283の処理手順を示すフローチャートである。図16に示すように、インクジェットプリンタが起動されると、制御装置283の空気成長時間算出部283aが成長時間を算出する(S301)。そして、前回排気パージを行ってから成長時間が経過したか否かを排気パージ指令部283bが判断する(S302)。成長時間が経過していないと判断したときは(S302:NO)、成長時間が経過するまで待機する。成長時間を経過したと判断したときは(S302:YES)、排気パージを実行する(S303)。排気パージの詳細は、S202の動作条件決定ステップにおける動作条件決定部83dでの演算内容(図11、図14参照)を除いて(つまり、本実施の形態では、インク量検知部83cが検知したインク量だけに基づいて動作条件が決定される)、図14に示すフローチャートと同じであるため、詳細な説明を省略する。
以上に述べた第2の実施形態に係るインクジェットプリンタによると、インク供給管65内及びインク流入流路61内の空気量に相当するVの値が許容最大量に達するごとに排気パージが実行されるので、排気パージ時に無駄に消費されるインクを少なくすることができ、しかもインク吐出性能を低下しにくいものとすることができる。
また、空気成長時間算出部283aが、インク供給管65の材質、インク供給管65の内部空間を画定する壁の厚み、インク供給管65の内部空間におけるインクの流れる方向に直交する断面積、並びに、予め設定された周辺雰囲気の温度及び湿度によって係数bを決定し、さらに、空気成長時間算出部283aは、周辺雰囲気の温度及び湿度に基づいて係数bの値を補正するため、インク供給管65内及びインク流入流路61内の空気が許容最大量に達する時間を正確に算出することができる。
なお、本実施の形態において、直近の排気パージ終了時刻から成長時間が経過した時刻にインクジェットプリンタの電源がオフであった場合、再び電源がオンとなった時刻が成長時間から所定時間内の時刻であれば、上述したのと同じ動作条件で排気パージを実行してよい。ただし、再び電源がオンとなった時刻が成長時間から所定時間を超えた時刻であれば、インク供給管65内及びインク流入流路61内の許容最大量以上の空気をすべて排出できるように空気ポンプ47及び切換ユニット48の動作条件を変更した上で排気パージを実行することが好ましい。ここで、「インクジェットプリンタの電源がオフであった場合」は、排気パージが実行できなかった場合の一例である。
<第3の実施の形態>
次に、本発明に係る第3の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、第1の実施の形態と実質的に同じ部材及び機能部については同一の符号を付してその説明を省略する。図17は、第3の実施の形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。インクジェットプリンタ301は、インク滴を吐出することによって被記録媒体上に所望の画像を形成するものであり、図17に示すように、4つのインクジェットヘッド1と、各インクジェットヘッド1に対応する4つのインクタンク45と、空気タンク46と、空気ポンプ47と、切換ユニット(空気バルブ)48と、排気バルブ49と、温度湿度センサ90と、大気連通バルブ349と、制御装置383とを有している。
空気タンク46は、空気流出口46b、空気供給口46a、及び大気連通口46cを有しており、空気供給口46aから供給された空気を貯溜する。空気流出口46bに空気供給管67bを介して切換ユニット48が、空気供給口46aに空気ポンプ連通管47aを介して空気ポンプ47が接続されている。空気タンク46に貯溜された空気は、空気供給管67a、67bを介して各インクタンク45に供給される。空気ポンプ47は、制御装置383からの指示に基づいて、空気ポンプ連通管47aを介して空気タンク46に空気を供給するものである。なお、空気タンク46、空気ポンプ47及び空気ポンプ連通管47aにより空気供給装置が構成されている。
なお、制御装置383及び制御装置383の処理手順については、第1の実施形態の制御装置83及び制御装置83の処理手順と実質的に同じであるため説明を省略する。
以上に述べた、第3の実施形態に係るインクジェットプリンタ301によると、インク供給管65内及びインク流入流路61内の空気量に相当するVの値に応じて、排気パージ時における空気ポンプ47及び切換ユニット48の動作条件を決定するので、排気パージ時に無駄に消費されるインクがほとんどなく、しかもインク吐出性能が低下しない。
なお、本実施の形態においては、切換ユニット48が「開放状態」となることによって、インクタンク45を大気開放させる構成である。ただし、この切換ユニットが「開放状態」となっている状態では、空気タンク46内の空気の圧力は高いままである。よって、このタイミングで制御装置383からの大気連通バルブ349へ指令を出し、大気連通バルブ349を駆動することで大気連通口49cを開状態にする。尚、この構成に代えて、切換ユニット48を「全開状態」又は「選択開状態」としつつ、制御装置383からの指令を受けて大気連通バルブ349を駆動して大気連通口49cを開状態にする構成であっても良い。これにより、空気タンク46を大気圧とすることによって、インクタンク45を大気開放することが出来る。尚、制御装置383により開閉制御される大気連通バルブ349を有する構成に代えて、空気タンク46が排気パージ時において自然と大気圧になるような狭通路の大気連通路が空気タンク46に構成されていてもよい。これによると、簡単な構成でインクタンク45を大気開放することができる。
なお、上述の実施形態では切換ユニット48内の流路体48bを一部材のものとしてきたが、第1主流路48eと第1副流路48fと第2副流路48gとが形成されている上側部分と、第2主流路48jと第3副流路48hと第4副流路48iとが形成された下側部分とを別部材で構成し、流路体の上側部分と下側部分とをそれぞれ独立して回転制御可能とした構成を取っても良い。この場合、上側の流路体により切換ユニット48を「全開状態(図10(a)参照)」又は「選択開状態(図10(b)参照)」としつつ、下側の流路体により切換ユニットを「開放状態(図10(g)若しくは図10(h)参照)にする制御も可能となる。これにより、空気タンク46とインクタンク45とを同時に大気開放することが出来、大気連通バルブ349は不要となる。
また、本実施の形態においては、ユーザからの指令があると又は前回排気パージを行ってから予め設定されている所定時間が経過すると排気パージが実行される構成であるが、第2の実施形態のように、インク供給管65内及びインク流入流路61内の空気の成長時間を算出して、その成長時間経過後に排気パージが実行される構成であってもよい。
また、上記第3の実施形態の変形形態として、制御装置383の処理手順が上記と異なる形態を挙げる。この第3の実施形態では、空気タンク46が存在し、そこに空気ポンプ47から供給された圧縮した空気を溜めておける。それゆえ、排気バルブ49の開放タイミングと切替ユニット48を「全開状態」又は「選択開状態」とするタイミングとを入れ替えて動作させる制御によっても同様の排気バージを実行させることが可能である。
具体的には、排気パージが開始されると、インク量検知部83cがインクタンク45に貯溜されているインク量を検知する(図14のS201相当)。次に、動作条件決定部83dが、空気量算出部83bに算出された空気量及びインク量検知部83cが検知したインク量、切換ユニット48の状態(「全開状態」又は「選択開状態」)に基づいて、空気ポンプ47の回転数(rpm)及び運転時間を決定する(図14のS202相当)。
続いて、切替ユニット48を「閉状態」のまま排気バルブ49を開放状態にして、動作条件決定部83dで決定された空気ポンプ47の回転数(rpm)及び運転時間Tで空気ポンプ47を運転し、空気タンク46に圧縮空気を貯留する。そして、当該空気ポンプ47の動作完了と同時に切換ユニット48を「全開状態」又は「選択開状態」にする。これにより、インクタンク45内の空気圧が上昇してパージ圧となり、インクタンク45内のインクがインク流出口45dから流出する。インクタンク45から流出したインクは、インク供給管65内の空気と共にリザーバユニット70のインク流入流路61に流入する。インク流入流路61に流れ込んだインク及び空気は、排気連通口61cを介して排気流路64に流れ込み、排気管68を介して外部に排出される。
予め算出された時間が経過した後、排気バルブ49を閉じ、切換ユニット48を「開放状態」にする。切換ユニット48が「開放状態」になると、インクタンク45の空気圧が直ちに大気圧に戻り、インクタンク45からのインクの流出が即座に停止する。これにより、排気パージが終了する。
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。例えば、第1の実施の形態においては、排気パージ開始部83aが、ユーザからの指令があると又は前回排気パージを行ってから予め設定されている所定時間が経過すると排気パージを開始させる構成であるが、ユーザからの指令があるときのみ排気パージを開始させる構成でもよいし、前回排気パージを行ってから予め設定されている所定時間が経過したときのみ排気パージを開始させる構成でもよい。
さらに、第1の実施の形態においては、係数bが、インク供給管65の材質、インク供給管65の内部空間を画定する壁の厚み、インク供給管65の内部空間におけるインクの流れる方向に直交する断面積、並びに、周辺雰囲気の温度及び湿度に基づいて決定されているが、係数bが、これらの少なくとも1つに基づいて決定されていればよい。
加えて、第1の実施の形態においては、空気量算出部83bが、温度湿度センサ90が検知した周辺雰囲気の温度及び湿度に基づいて係数bの値を補正する構成であるが、係数bを補正しない構成でもよい。
また、第1の実施の形態においては、複数のインクジェットヘッド1に対して切換ユニット48が兼用される構成であるが、インクジェットプリンタ101が各インクジェットヘッド1に対して切換ユニット48を備えてもよい。
さらに、第1及び第2の実施の形態においては、制御装置83、283が、インクタンク45のインク量を検知するインク量検知部83cを有し、動作条件決定部83d、283dがインク量検知部83cの検知結果に基づいて排気パージ時における動作条件を決定する構成であるが、インク量検知部83cを備えず、インクタンク45のインク量に係わらず動作条件を決定する構成でもよい。
加えて、第2の実施の形態においては、インク供給管65内及びインク流入流路61内の空気が前回排気パージを行ってから許容最大量にまで成長する時間を成長時間として算出する構成であるが、インク供給管65内及びインク流入流路61内の空気が許容最大量以下の所定量にまで成長する時間を成長時間として算出する構成でもよい。