JP5158560B2 - 重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された、1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム(以下、Al2O3で示す)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆工具が知られており、この被覆工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられていることも知られている。
(a)従来被覆工具の硬質被覆層を構成する下部層としてのl−TiCN層は、例えば、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:2〜10%、CH3CN:0.5〜3%、N2:10〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件(通常条件という)で蒸着形成されるが、この蒸着条件を変更し、
まず、第1ステップとして、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:5〜15%、C3H3N:0.7〜2.5%、N2:7〜20%、H2:残り、
反応雰囲気温度:700〜850℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件で、蒸着層の層厚が目標層厚の約20%の層厚となるまで蒸着し、
その後、第2ステップとして、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:3〜12%、CH3CN:0.2〜2%、C3H3N:0.1〜0.5%、Ar:10〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:700〜850℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件で、目標層厚になるまで蒸着形成すると、このような第1ステップ及び第2ステップの条件で順次形成されたl−TiCN層(以下、「改質TiCN層」という)は、切削加工時に層に発生する応力を緩和・吸収する作用を有し、高温強度が一段と向上することから、硬質被覆層の上部層が前記Al2O3層で構成され、また、下部層がTiC層、TiN層、TiCN層、l−TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの2層以上のTi化合物層からなり、かつ前記Ti化合物層のうちの少なくとも一つの層が前記改質TiCN層で構成された被覆工具は、特に大きな熱的・機械的負荷がかかる重切削加工でも、前記硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮し、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すようになること。
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図2(a),(b)に概略説明図で例示される通り、縦断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角(図2(a)には前記結晶面のうち(001)面の傾斜角が0度、(011)面の傾斜角が45度の場合、同(b)には(001)面の傾斜角が45度、(011)面の傾斜角が0度の場合を示しているが、これらの角度を含めて前記結晶粒個々のすべての傾斜角)を測定し、この場合前記結晶粒は、上記の通り格子点にTi、炭素、および窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求めた場合に、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定し、その上で電界放出型査電子顕微鏡を用い、上記改質TiCN層の縦断面研磨面を、例えば、高さ15μm×幅30μmの範囲で測定し、粒界として識別される部分のうち前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界の長さ(μm。以下、GBLという)を求め、さらに、このGBLと改質TiCN層の層厚(μm。以下、Tで示す)の比(即ち、GBL/T)を求めると、前記従来TiCN層は、表5に示される通り、GBL/Tは小さな値であるのに対して、前記改質TiCN層は、表4に示される通り、GBL/Tが295〜520という大きな値を示し、この高いGBL/Tの値は、成膜時の反応ガス組成、反応雰囲気温度、反応雰囲気圧力の組み合わせによって変化すること。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
WC基超硬合金またはTiCN基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された、1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
上記(a)のTi化合物層のうちの少なくとも一つの層を、2.5〜15μmの平均層厚を有し、かつ、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記層の縦断面研磨面の幅30μmの測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定傾斜角から、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、また、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定した上で、電界放出型査電子顕微鏡を用い、層の縦断面研磨面における測定領域について、粒界として識別される部分のうち前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界の長さ(μm)を求め、この粒界の長さ(μm)と測定したTi化合物層の層厚(μm)との比の値が295〜520を示す縦長成長結晶組織をもつ炭窒化チタン層、
で構成したことを特徴とする重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具(被覆工具)、
に特徴を有するものである。
(a)下部層(Ti化合物層)
TiC層、TiN層、TiCN層(l−TiCN層も含む)、TiCO層、TiCNO層と後記改質TiCN層からなるTi化合物層は、自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体と上部層であるAl2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴う高速断続切削でチッピングを起し易くなることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
下部層の改質TiCN層を構成する結晶粒は、格子点にTi、炭素、および窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有しているが、改質TiCN層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、縦断面研磨面の測定範囲内に存在する改質TiCN層の結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この結果得られた測定傾斜角から、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、さらに、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定した上で、電界放出型査電子顕微鏡により、改質TiCN層の縦断面研磨面を、測定領域、例えば、高さ15μm×幅30μmの範囲、で測定し、粒界として識別される部分のうちで前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界についてその粒界の長さGBL(μm)を求め、そして、GBL(μm)と、改質TiCN層の層厚T(μm)との比を求めると、GBL/Tは295〜520という値を示し、そして、GBL/Tが295〜520という大きな値を示す改質TiCN層は、重切削加工により、切刃部に対して大きな熱的・機械的負荷が加わったとしても、その際に生じる応力を緩和・吸収する作用を有し、一段とすぐれた高温強度を備えるようになるため、硬質被覆層にチッピングが発生する危険性を大幅に低減することができるが、GBL/T値が295未満の小さな値では、上記応力の緩和・吸収作用を期待することはできず、一方、GBL/T値が520を超えるものについては、改質TiCN層自体に脆化傾向がみられるようになるため、GBL/Tの値を295〜520と定めた。
なお、従来TiCN層におけるGBL/Tの値は、100〜200程度の小さな値(表5参照)であって、応力の緩和・吸収作用を有さないTiCN層であるため、重切削加工においては硬質被覆層にチッピングの発生が見られた(表6参照)。
また、前記改質TiCN層は、上記の通りTiCN自体のもつ高温硬さと高温強度に加えて、さらに一段とすぐれた高温強度を有するようになるが、その平均層厚が2.5μm未満では所望のすぐれた応力の緩和・吸収作用、高温強度向上効果を硬質被覆層に十分に具備せしめることができず、一方その平均層厚が15μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を2.5〜15μmと定めた。
Al2O3層からなる上部層は、すぐれた高温硬さと耐熱性を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、その平均層厚が1μm未満では、硬質被覆層に十分な耐摩耗性を発揮せしめることができず、一方その平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
ついで、前記改質TiCN層を、
まず、第1ステップとして、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:5〜15%の範囲内の所定量、C3H3N:0.7〜2.5%の範囲内の所定量、N2:7〜20%の範囲内の所定量、H2:残り、
反応雰囲気温度:700〜850℃の範囲内の所定温度、
反応雰囲気圧力:6〜20kPaの範囲内の所定圧力、
の条件で、目標層厚の約20%の層厚となるまで蒸着成膜し、
その後、第2ステップとして、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:3〜12%の範囲内の所定量、CH3CN:0.2〜2%の範囲内の所定量、C3H3N:0.1〜0.5%の範囲内の所定量、Ar:10〜30%の範囲内の所定量、H2:残り、
反応雰囲気温度:700〜850℃の範囲内の所定温度、
反応雰囲気圧力:6〜20kPaの範囲内の所定圧力、
の条件で、表4に示される組み合わせで、かつ同じく表4に示される目標層厚で蒸着形成し、その後同じく表3に示される条件にて、上部層としてのAl2O3層を同じく表4に示される組み合わせで、かつ目標層厚で蒸着形成することにより本発明被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:2〜10%の範囲内の所定量、CH3CN:0.5〜3%の範囲内の所定量、N2:10〜30%の範囲内の所定量、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃の範囲内の所定温度、
反応雰囲気圧力:6kPa、
の条件で、表5に示される組み合わせで、かつ同じく表5に示される目標層厚で蒸着形成し、さらに上部層としてのAl2O3層を、表3に示される条件で、かつ目標層厚で蒸着形成することにより従来被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
すなわち、上記の改質TiCN層および従来TiCN層の縦断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記縦断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、所定測定領域を0.1μm/stepの間隔で、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、さらに、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定した上で、電界放出型走査電子顕微鏡により、改質TiCN層の縦断面研磨面の測定領域(高さ15μm×幅30μmの範囲の領域)を走査し、該測定領域内で、粒界として識別される部分のうちで前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界についてその粒界の長さGBL(μm)を求めた。そして、GBL(μm)と、改質TiCN層の層厚T(μm)との比の値(改質TiCN層の単位層厚当たりの粒界の長さに相当)を求めた。
また、これらの被覆工具の硬質被覆層の構成層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて測定(同じく縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
被削材:JIS・S35Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 400 m/min、
切り込み: 1.0 mm、
送り: 0.55 mm/rev、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件A)での炭素鋼の乾式高送り断続切削試験(通常の切削速度、送りは、それぞれ、250m/min、0.25mm/rev)、
被削材:JIS・SNCM220の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 350 m/min、
切り込み: 4.0 mm、
送り: 0.3 mm/rev、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件B)での合金鋼の乾式高切り込み断続切削試験(通常の切削速度、切り込みは、それぞれ、250m/min、1.5mm)、
被削材:JIS・FC300の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 450 m/min、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.5 mm/rev、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件C)での鋳鉄の乾式高送り断続切削試験(通常の切削速度、送りは、それぞれ、250m/min、0.3mm/rev)を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された、1〜15μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
上記(a)のTi化合物層のうちの少なくとも一つの層を、2.5〜15μmの平均層厚を有し、かつ、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記層の縦断面研磨面の幅30μmの測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記縦断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定傾斜角から、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、また、前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を粒界であるとして設定した上で、電界放出型査電子顕微鏡を用い、層の縦断面研磨面における測定領域について、粒界として識別される部分のうち前記(001)面の法線同士、および(011)面の法線同士の交わる角度が15度以上の粒界の長さ(μm)を求め、この粒界の長さ(μm)と測定したTi化合物層の層厚(μm)との比の値が295〜520を示す縦長成長結晶組織をもつ炭窒化チタン層、
で構成したことを特徴とする重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具。
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