本発明の静電チャックの実施例を、図面を用いつつ説明する。
図1は、本発明の一実施例の静電チャックを示す断面図である。この図1に示される静電チャック10は、概略円盤形状を有するセラミックスよりなる基体11を有している。この基体11は、この静電チャック10に保持される基板(図示せず)が載置される基板載置面11aを有している。載置される基板は、例えば半導体ウエハである。
基体11は、アルミナセラミックスよりなる支持部12と、この支持部の上側に形成されたイットリアセラミックスよりなる表面部13とを有している。この表面部13は、基体11の基板載置面11aを形成している。この表面部13と支持部12との間には、イットリアとアルミナとが反応して形成されたYAG(3Y2O3・5Al2O3:イットリウムアルミニウムガーネット)相やYAM(2Y2O3・Al2O3)相を含む中間セラミックス部14が形成されている。
基体11の内部には、基板載置面11aに静電力を生じさせるための誘電電極15が、この基板載置面11aと平行でかつ、基板載置面11aに近接して埋設されている。図1に示した本実施例においては、この誘電電極15が、支持部12と表面部13との間に形成されている。この誘電電極15から基板載置面11aまでの間の領域、つまり、イットリアセラミックスよりなる表面部13の、基板載置面11aを含む領域が、静電チャックの誘電体層となり、誘電電極15に電力が供給されることによって、この誘電体層が分極し、基板載置面11a上に静電吸着力を生じさせる。誘電電極15はW、WC等の高融点低膨張導電性物質とアルミナとの混合物から形成されている。
この誘電電極15に電力を供給するために、基体11の裏面11bから誘電電極15に達する導通孔11cが形成されていて、この導通孔11cに端子16が装着され、誘電電極15に対してろう付け等により接合されることにより、この誘電電極15と電気的に接続している。この端子16は、図示しない給電部材を介して電源に接続される。なお、誘電電極15と端子16とを直接接合する代わりに、この誘電電極15と端子16との間に、導電性を有する接続部材(図示せず)を支持部12内に埋設させて、端子16が、この接続部材を介して電極15に電気的に接続されるようにすることもできる。接続部材が端子16と電極15との間に介在することにより、導通孔11cが穿設されることによる基体11の強度低下を抑制することが可能となる。
図1に示した実施例の静電チャックにおいて、支持部12のアルミナセラミックスは、アルミナ(Al2O3)を主成分とするセラミックスのことである。アルミナセラミックスは、高純度のアルミナよりなるセラミックスを適用することが好ましいが、これに限定されない。例えば、ジルコニア(ZrO2)やマグネシア(MgO)、シリカ(SiO2)などの焼結助剤を含むアルミナセラミックスを適用することができる。
そして、本発明に係る静電チャックは、誘電電極15の近傍におけるアルミナセラミックスの炭素含有量が0.05wt%以下である。図1に示した実施例においては、アルミナセラミックスよりなる支持部12の炭素含有量が0.05wt%以下である。支持部12の炭素含有量が0.05wt%以下であることにより、この支持部12の絶縁性がいっそう高まるとともに、体積抵抗率の温度依存性が低下して、高温においても高い体積抵抗率を有することになる。さらに、炭素含有量を0.05wt%以下とし、イットリアセラミックスとアルミナセラミックスの界面に中間セラミックス部14を形成することにより、支持部12と表面部13の密着性が高まるとともに静電チャック全体の強度が高くなる。そのため、この支持部12に接している電極15に高電圧電力が供給されているときに、誘電電極15から支持部12に漏れるリーク電流が抑制される。さらに、中間セラミックス部14の存在により、この支持部12と表面部13の接合部に沿った外周縁部へのリーク電流の伝播も効果的に抑制される。外周縁部へのリーク電流が低減されることにより、電極15に供給された電力が効率的に吸着力に変換される。
支持部12のアルミナセラミックスの炭素含有量のより好ましい炭素含有量は0.03wt%以下である。この場合、さらにリーク電流が抑制されることによって、より高い吸着力や長期的信頼性を得ることができる。
図1に示した実施例の静電チャックにおいては、支持部12のアルミナセラミックスが厚み方向にほぼ均質であり、厚み方向の炭素含有量の変動はない。しかし、リーク電流の抑制のためには、誘電電極の近傍におけるアルミナセラミックスの炭素含有量が0.05wt%以下であれば、上述の効果は得られるのであって、基体11の厚み方向に炭素含有量が変化していてもよい。例えば、基体11の裏面11b近傍では炭素含有量が0.05wt%を超えていてもよい。
なお、炭素含有量が0.05wt%以下のアルミナセラミックスであっても、静電チャックとしての十分な機械的強度を得ることができる。また、炭素含有以外の強度向上手段により、機械的強度を向上させることができる。例えば、焼結助剤の調整や焼結条件の調整によってアルミナセラミックスをいっそう緻密化させることにより、機械的強度を向上させることが可能となる。
次に、図1に示した静電チャックの、より好適な態様について説明する。
支持部12のアルミナセラミックスは、体積抵抗率が室温で1×1016Ω・cm以上であり、かつ150℃で1×1014Ω・cm以上であることが好ましい。体積抵抗率が、これらの数値を下回る場合は、リーク電流が増加するおそれがある。上掲した数値範囲の体積抵抗率のアルミナセラミックスは、例えば、アルミナセラミックス原料を仮焼することにより、バインダーや残留炭素分を除去して、炭素含有量を低減することにより得ることができる。
このアルミナセラミックスにおけるアルミナ含有量は、95wt%以上であることが好ましい。アルミナ以外の成分の含有量を5wt%以下にすることにより、製作時にイットリアセラミックス層に拡散する不純物を抑制でき、もって、静電チャック10に保持される基板の汚染を防止できる。アルミナセラミックスの、より好ましいアルミナ含有量は、98wt%以上である。
アルミナセラミックスよりなる支持部12の相対密度は、95%以上であることが好ましい。相対密度が95%以上であることにより、支持部12の機械的強度を向上させることができる。アルミナセラミックスのより好ましい相対密度は、98%以上である。また、支持部12の室温における4点曲げ強度(JIS R1601)は、400MPa以上であることが好ましい。より好ましい4点曲げ強度は、600MPa以上である。更に、支持部12のアルミナセラミックスの平均粒子径は、1〜10μmであることが好ましく、1〜3μmであることがより好ましい。
表面部13のイットリアセラミックスは、イットリア(Y2O3)を主成分とするセラミックスのことである。イットリアセラミックスは、高純度のイットリアよりなるセラミックスを適用することが好ましいが、これに限定されない。例えば、イットリアの他に、強化剤や焼結助剤として、アルミナ、シリカ、ジルコニア、炭化珪素(SiC)、窒化珪素(Si3N4)などの微粒子を分散させたイットリアセラミックスを適用することができる。これらの強化剤や焼結助剤を含有するイットリアセラミックスは、イットリアセラミックスの曲げ強度や破壊靱性などの機械的強度を向上させることができる。
イットリアセラミックスに含まれるイットリア量は、90wt%以上であることが好ましい。イットリア量が90wt%以上であることにより、イットリアセラミックスの耐食性低下を防止でき、基板の汚染も防止できる。より好ましくは、イットリア含有量は、99wt%以上である。
イットリアセラミックスよりなる表面部13は、体積抵抗率が室温で1×1016Ω・cm以上であり、かつ150℃で1×1015Ω・cm以上であることが好ましい。表面部13は、誘電電極15の上方で基板載置面11aを含む領域において、誘電体層となり、この誘電体層の体積抵抗率が室温で1×1016Ω・cm以上であり、かつ150℃で1×1015Ω・cm以上であることにより、高い静電吸着力を発現させることができるとともに、また、脱着応答性を向上させることができる。また、体積抵抗率が、これらの数値を満足する場合は、リーク電流を有効に抑制することができる。
アルミナセラミックスよりなる支持部12とイットリアセラミックスよりなる表面部13との界面に形成される中間セラミックス部14は、YAG相及びYAM相の少なくとも一方の相を含み、この中間セラミックス部の厚さが10μm以上100μm以下であることが好ましい。中間セラミックス部の厚さが10μm以上であることにより、支持部12と表面部13の密着性が高まるとともに静電チャック全体の強度が高くなり、支持部12と表面部13の接合部に沿った外周縁部へのリーク電流の伝播も効果的に抑制される。中間セラミックス部の厚さが100μmを超えるとYAG相もしくはYAM相の結晶粒が肥大化し、強度が低下するという不利がある。
表面部13のイットリアセラミックスは、基体11の基板載置面11aを含む領域の厚さが、0.2〜0.5mmであることが好ましい。この領域は、静電チャックの誘電体層に相当する領域であり、厚さが、0.2〜0.5mmの範囲にあることにより、高い吸着力を発現させることができ、また、脱着応答性を向上させることができる。より好ましい厚さは、0.3〜0.4mmである。
イットリアセラミックスよりなる表面部13の相対密度は、基体11の基板載置面11aを含む領域で95%以上であることが好ましい。この領域の相対密度が95%以上であることにより、誘電体層は高い体積抵抗率を有することができ、よって、高い静電吸着力を発現させることができるとともに、また、脱着応答性を向上させることができる。また、相対密度が95%以上であることにより、イットリアセラミックスの曲げ強度や破壊靭性などの機械的強度を向上させるとともに高い耐蝕性を持たせることができる。イットリアセラミックスのより好ましい相対密度は、98%以上である。また、機械的特性の観点からイットリアセラミックスの平均粒子径は、10μm以下であることが好ましい。
表面部13のイットリアセラミックスは、基板載置面11aを形成する部分の絶縁耐圧が12kV/mm以上あることが好ましい。基板載置面11aを形成する部分は、静電チャックの誘電体層に相当する部分であるため、クーロンタイプの静電チャック10の誘電電極15に加えられる高電圧に十分に耐え得る絶縁耐圧を表面部13が具備していることが好ましく、具体的には、12kV/mm以上の絶縁耐圧を具備することが好ましい。
表面部13のイットリアセラミックスは、基板載置面11aの表面粗さが中心線平均粗さRaで0.4μm以下であることが好ましい。基板載置面11aの表面粗さが0.4μm以下であることにより、基板を吸着するために十分な吸着力を得ることができ、更に、基板と基体11との摩擦によるパーティクル発生も抑えることができる。
支持部12のアルミナセラミックスと表面部13のイットリアセラミックスとの熱膨張係数(CTE:Coefficient of Thermal Expansion)の差は、0.50×10−6/K以下であることが好ましい。なお、この熱膨張係数の差は、室温から1200℃までの温度範囲で測定した熱膨張係数の差のことである。この熱膨張係数の差が、0.50×10−6/K以下であることにより、アルミナセラミックスとイットリアセラミックスとを、より強固に接合できる。より好ましい熱膨張係数の差は、0.30×10−6/K以下であり、更に好ましくは、0.10×10−6/K以下である。
更に、支持部12のアルミナセラミックスの熱膨張係数は、表面部13のイットリアセラミックスの熱膨張係数よりも大きいことが好ましい。アルミナセラミックスが、イットリアセラミックスよりも熱膨張係数が大きいときには、製造工程における焼成後の降温過程において、イットリアセラミックスに加わる熱応力を圧縮応力とすることができ、イットリアセラミックスのクラック発生を防止できる。この熱膨張係数の調整は、例えば、アルミナセラミックスに含まれるジルコニアやマグネシア、シリカの量や、イットリアセラミックスに含まれるアルミナやシリカ、ジルコニア、炭化珪素、窒化珪素などの量を調整することによって実現できる。一例として、アルミナセラミックスに含まれるアルミナ量を98wt%、シリカ量を2wt%とし、イットリアセラミックスに含まれるイットリア量を99.9wt%以上とすることにより、適切な熱膨張係数差とすることができる。
支持部12のアルミナセラミックスと表面部13のイットリアセラミックスとの間には、イットリウムとアルミニウムとを含む中間セラミックス部14が形成されている。この中間セラミックス部14は、例えば支持部12と表面部13とを高温で加圧しつつ焼結することにより形成することができる。中間セラミックス部14が形成されていることにより、支持部12と表面部13とは、中間セラミックス部14を介して接合され、これにより、支持部12と表面部13とを、より強固に接合できる。
中間セラミックス部14は、イットリウムとアルミニウムとを含んでいる酸化物セラミックスであればよく、化合物の種類は限定されない。例えば、イットリウム酸化物とアルミニウム酸化物をそれぞれ含むことができ、また、イットリウムとアルミニウムとの複合酸化物を含むことができる。具体的には、中間セラミックス部14は、YAG(3Y2O3・5Al2O3:イットリウムアルミニウムガーネット)や、YAM(2Y2O3・Al2O3)、YAL(Y2O3・Al2O3)などを含むことがより好ましい。
中間セラミックス部14は、イットリウムとアルミニウムの含有量が異なる複数層を有することができる。例えば、中間セラミックス部14は、YAG層とYAM層を有することができる。中間セラミックス部14が複数層を有することにより、支持部12と表面部13との間で組成を段階的に変化させることができ、よって、支持部12と表面部13とを、より一層強固に接合できる。また、中間セラミックス部14は、イットリウムとアルミニウムの含有量が、厚み方向に無段階に変化した傾斜組成材料であってもよい。
誘電電極15は、アルミナセラミックスよりなる支持部12とイットリアセラミックスよりなる表面部13との間に介在することが好ましい。誘電電極15は、支持部又は表面部に埋設されてもよいが、支持部12と表面部13との間に埋設されていることにより、支持部12の内部や表面部13の内部に埋設されている場合に比べて、製造工程が簡素化できる。また、体積抵抗率の高いイットリアセラミックスが、クーロン力を利用する静電チャック10の誘電体層として機能でき、静電チャック10は優れた吸着性を発現できる。また、脱着応答性も向上できる。
誘電電極15が、支持部12と表面部13との間に介在する例は、図1に示したような、支持部12の上面と接している例がある。静電チャック10の製造過程の一つの例においては、誘電電極15の隙間や周囲を通って、アルミナセラミックスやイットリアセラミックスの成分が相互に拡散する。また、誘電電極15中に含まれるアルミナと表面部13のイットリアセラミックスとが反応する。その結果、誘電電極15の周囲に、誘電電極15を覆うように中間セラミックス部14が形成される。
誘電電極15は、支持部12及び表面部13との熱膨張係数の差が3×10−6/K以下であることが好ましい。熱膨張係数の差が3×10−6/K以下であることにより、誘電電極15と基体11との密着性を向上させることができる。また、基体11における誘電電極15周辺の領域にクラックが発生することを防止することもできる。
誘電電極15は、融点が1650℃以上の導電性材料粉末とアルミナ粉末の混合物から形成されることが好ましい。誘電電極15が高融点材料により形成されることにより、静電チャック10の製造過程において、誘電電極15がセラミックス部分に拡散せず、低抵抗を実現できる。また、誘電電極15中のアルミナ粉末は焼結しやすく、表面部13との間に中間セラミックス部14を形成しながら、電極15および支持部12を強固に密着させる。誘電電極15に用いられる高融点材料は、具体的には、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、炭化タングステン(WC)、炭化モリブデン(MoC)、タングステン−モリブデン合金、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ロジウム(Rh)、レニウム(Re)及び白金(Pt)の少なくとも1つの材料を含む高融点材料があるが、特にWおよびWCが融点の観点からより好ましい。
誘電電極15の形成手段は限定されず、電極材料(高融点材料)のバルク体やシート(箔)、メッシュ(金網)、パンチングメタル、CVD(Chemical Vapor Deposition)やPVD(Physical Vapor Deposition)による薄膜等があるが、上述した電極材料粉末(高融点材料粉末とアルミナ粉末の混合物)を含む印刷ペーストを印刷して形成した誘電電極であることが上述の観点から好ましい。さらに、アルミナ焼結体に印刷ペーストを印刷して誘電電極15を形成することにより、誘電電極15の平坦度を向上させることができるからである。
誘電電極15は、平坦度が200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることが、より好ましい。平坦度が200μm以下であることにより、誘電体層となる表面部13の膜厚分布を均等にならしめ、基板載置面11a全体にわたって均一な吸着力を発現させることができる。
誘電電極15の平面形状も限定されない。例えば、円形、半円形、櫛歯形状、孔あき形状などにできる。更に、誘電電極15は、静電チャックにおける電極数が1つの単極型のものでもよく、2つの双極型のものでもよく、それ以上に分割されたものであってもよい。
基体11の支持部12、表面部13及び誘電電極15は、焼結により一体的に形成されたものであることが好ましい。一体的に焼結されることにより、支持部12と表面部13と誘電電極15とは、より強固に接合される。このことにより、アーキングなどの電気的不良を防止することもできる。また、有機系の接着剤を用いて接合し、一体化する場合に比べて、熱伝導性に優れ、冷却能力の高い静電チャックを得ることができるといった利点もある。焼結手段のなかでも、ホットプレス法により一体焼結体に焼結されたものであることが、より好ましい。
次に、図2を用いて、他の実施形態を説明する。図2は、本発明の他の実施例の静電チャックを示す断面図である。図2に示した静電チャック20について、図1に示した静電チャック10と同一部材については同一の符号を付している。このため、静電チャック20に関する以下の説明では、図1に示した静電チャック10と同一部材についての重複する説明は省略する。
図2に示した静電チャック20は、図1に示した静電チャック10と対比すると、基体11の内部、具体的にはアルミナセラミックスよりなる支持部12が、炭素含有量が異なる2つの領域を有し、すなわち、支持部12が、誘電電極15と接する上部12aと、この上部より下方にある下部12bとからなり、この下部12bは、アルミナセラミックス中に炭素を0.05〜0.25wt%含み、下部12bに抵抗発熱体17が埋設されていることで相違している。誘電電極15と接する上部12aは、炭素含有量が0.05wt%以下である。
そして、この抵抗発熱体17に発熱体用端子18の先端部が固着され、これにより抵抗発熱体17と発熱体用端子18とが電気的に接続されている。この発熱体用端子18は、図示しない給電部材と接続され、この給電部材を介して電源と接続されている。
この抵抗発熱体17は、高融点材料よりなり、誘電電極15と同様の材料を適用することができる。例えば、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、炭化タングステン(WC)、炭化モリブデン(MoC)、タングステン−モリブデン合金、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ロジウム(Rh)、レニウム(Re)及び白金(Pt)の少なくとも1つの材料を適用することができるが、特にNbを用いることが好ましい。
また、抵抗発熱体17の形成手段は限定されず、例えば、電極材料粉末(高融点材料粉末)を含む印刷ペーストを印刷したもの、抵抗発熱体17(高融点材料)の線状、コイル状、帯状などのバルク体やシート(箔)などがある。
また、抵抗発熱体17の平面形状も限定されない。例えば、渦巻状、メッシュ(金網)形状、孔あき形状(パンチングメタル)、複数の折り返し部を有する形状などにできる。更に、抵抗発熱体17は、単数個であってもよく、分割されて複数個のものであってもよい。例えば、基板載置面11aの支持部と円周部の2つの領域に分割された抵抗発熱体とすることができる。
図2に示した本実施形態の静電チャック20は、抵抗発熱体17を具備することにより、この抵抗発熱体17によって静電チャック20により吸着保持される基板の温度を調節することができる。また、抵抗発熱体17を具備する静電チャック20であっても、図1に示した静電チャックにより説明した、本発明による効果を有するとともに、他の構成要件による効果も同様に有している。そして、この抵抗発熱体17が埋設された支持部12の下部12bは、アルミナセラミックス中の炭素含有量が0.05〜0.25wtである。この抵抗発熱体17周囲のアルミナセラミックスの炭素含有量が0.05〜0.25wtであることにより、抵抗発熱体17に含まれるニオブがアルミナセラミックス中に拡散することを抑制することができ、これにより抵抗発熱体17の加熱特性の変動を防止することができる。また、誘電電極15と接する支持部12の上部12aは、炭素含有量が0.05wt%以下であるから、誘電電極近傍の絶縁性は十分に確保される。
次に、本発明の他の実施形態を図3を用いて説明する。図3は、本発明の他の実施例の静電チャックを示す断面図である。なお、図3に示した静電チャック30について、図1に示した静電チャック10と同一部材については同一の符号を付していて、以下では同一部材についての重複する説明は省略する。
図3に示した本実施形態の静電チャックは、イットリアセラミックスよりなる表面部13が、支持部12の上方のみならず側面の一部を覆って形成されている例であって、より好ましい例として、側面全体がイットリアセラミックスより形成されている。そして、この表面部13は、基体11の上面(基板載置面11a)及び側面11dを形成している。この基体11の基板載置面11a及び側面11dは、厳しい腐食性環境に曝されるのであり、これらの部分が、アルミナセラミックスよりも耐食性の優れるイットリアセラミックスにより形成されていることにより、基体の耐食性が向上する。そのため、基体の基板載置面のみがイットリアセラミックスよりなる従来公知の静電チャックのように、基体の側面部が腐食されて化学反応し、アルミニウムのハロゲン化物などが生じるおそれが回避される。
また、基体11の側面部が、イットリアセラミックスよりなる表面部13で覆われていることは、リーク電流が基体11の表面に伝達されるのを有効に抑制できるという効果もある。これを説明すると、誘電電極15近傍に生じたリーク電流は、既に述べたように、アルミナセラミックスよりなる支持部12と表面部13との接合部に沿って伝わる。従来の静電チャックは、イットリアセラミックスが基体の基板載置面のみに形成されているから、上記接合部が基体の側面に表出している。したがって、リーク電流は、基体の側面に表出している接合部から基体の表面に伝達されるおそれがある。これに対して、本実施形態の静電チャックは、基体の側面11dが、絶縁性の高いイットリアセラミックスよりなる表面部13で覆われているから、接合部に沿って伝わるリーク電流は、基体の側面11dに伝達されることが防止される。しかも、支持部12と表面部13との接合部は、基体の側面11dではなく、裏面11bで表出している。したがって、リーク電流は、裏面11bに至るまでの経路で減衰される。このことによっても、リーク電流が基体11の表面に伝達されるのを有効に抑制できる。
また、表面部13のイットリアセラミックスは、基体11の側面11dを含む領域の厚さが0.2〜10mmであることが好ましい。この領域は、誘電体層の静電吸着力に対して影響をほとんど及ぼさず、耐食性の観点で厚みを定めることができる。基体の側面11dを含む領域の厚さが0.2mmに満たないと、十分な耐食性を得るのが難しくなる。耐食性の観点からは、この領域の厚さの上限はないが、厚さが10mmを超えると、製造上の歩留りの低下を招くおそれがある。
表面部13の、基体11の側面11dを含む領域の相対密度は、特に限定されないが、基体11の基板載置面11aを含む領域と同様に、95%以上であることが耐蝕性および機械的強度の観点から好ましい。
図3に示した実施例では、表面部13が、支持部12の上方及び側面の一部に形成されているが、表面部13は、支持部12の上方及び側面のみならず、更に、下面を覆って形成することもできる。
次に、本発明の他の実施形態を図4を用いて説明する。図4は、本発明の他の実施例の静電チャックを示す断面図である。なお、図4に示した静電チャック40について、図2に示した静電チャック20と同一部材については同一の符号を付していて、以下では同一部材についての重複する説明は省略する。
また、図4に示した静電チャック40は、図2に示した実施形態と同様に、抵抗発熱体17を備える静電チャックであって、かつ、図3に示した実施形態と同様に、イットリアセラミックスよりなる表面部13が、支持部12の上方のみならず側面の一部を覆って形成されている例であって、より好ましい例として、側面全体がイットリアセラミックスより形成されている。したがって、図2に示した実施形態と同様の効果を具備するとともに、図3に示した実施形態と同様に、この基体11の基板載置面11a及び側面11dが、アルミナセラミックスよりも耐食性の優れるイットリアセラミックスにより形成されていることにより、基体の耐食性が向上する等の効果を具備する。
次に、本発明に係る静電チャックの製造方法について説明する。本発明に係る静電チャックは、一例として、アルミナセラミックス原料から炭素含有量が0.05wt%以下の板状のアルミナ部材を成形して焼結する工程と、このアルミナ部材の一つの表面上に誘電電極を形成する工程と、この誘電電極並びに当該誘電電極が形成されたアルミナ部材の前記表面及び側面を炭素含有量が0.05wt%以下のイットリア原料粉末で覆って、イットリア部材を形成する工程と、アルミナ部材とイットリア部材とを一体的に一軸方向に加圧しながら焼結して基体を形成する工程と、をそなえる方法により、製造することができる。
この製造方法の一例を、図5を用いて説明する。図5は、本発明に係る製造方法の一例の工程図である。
まず、図5(a)に示すように、アルミナセラミックス原料から炭素含有量が0.05wt%以下の板状のアルミナ部材120を成形して焼成する。図5(a)では、アルミナ部材120として、焼結体を示している。この工程は、静電チャック10の基体11における、支持部12を含む部材を作成する工程である。具体的には、アルミナセラミックスの原料粉末に、バインダー、水、分散剤等を添加して混合し、原料スラリーを作製する。原料粉末には、アルミナ粉末や、アルミナ粉末とジルコニア粉末、マグネシア粉末又はシリカ粉末等との混合粉末などを用いることができる。ただし、原料粉末に含まれるアルミナ量は、95wt%以上であることが好ましく、より好ましくは、98wt%以上である。また、アルミナ粉末の純度は、99.5重量%以上であることが好ましく、99.9重量%以上であることがより好ましい。また、アルミナ粉末や混合粉末の平均粒子径は、0.2〜1.0μmであることが好ましい。
この原料粉末には、更に、有機バインダーなどを添加した上で、原料スラリーを調整したのち、スプレードライヤー等で造粒した後、空気中で仮焼し、有機バインダーを酸化除去することで、アルミナ部材の炭素含有量を0.05wt%以下にしながら、成形しやすい造粒顆粒を得ることができる。
この仮焼した造粒顆粒を用いて、金型成形法、CIP(Cold Isostatic Pressing)法などの成形方法によりアルミナ部材を成形する。
焼結体のアルミナ部材121を得るには、例えば、成形体を、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中、減圧下、又は、大気中などの酸化雰囲気中で、ホットプレス法や常圧焼結法等の焼結方法により焼成する。焼成温度は、1400〜1700℃とすることが好ましい。より好ましい焼成温度は、1600〜1700℃である。アルミナ成形体を比較的低温で焼成することにより、焼結体のアルミナ部材121の過剰な粒成長を防止でき、ひいては静電チャックの基体11の機械的強度を向上できる。焼結体のアルミナ部材121であることは、アルミナ部材が緻密化、高強度化され、このアルミナ部材の表面の平坦度を高くすることができ、この表面上に形成される誘電電極の形成精度を高めることができる点で有利である。
次に、図5(b)に示されているように、アルミナ部材121上に誘電電極15を形成する。この誘電電極15の形成は、例えば、アルミナ部材121の表面に、電極材料粉末を含む印刷ペーストを、スクリーン印刷法などを用いて印刷することにより形成できる。スクリーン印刷法は、誘電電極15の平坦度を向上させることができ、様々な平面形状の誘電電極15を容易に高精度に形成できるために好ましい。印刷ペーストは、高融点材料粉末に、アルミナ粉末を混合した印刷ペーストであることが好ましい。アルミナ粉末を印刷ペーストに含むことにより、誘電電極15と、基体11の支持部12又は表面部13との熱膨張係数を近づけることができ、かつ、アルミナ粉末は焼結しやすいので基体11と誘電電極15との密着性を向上できる。印刷ペーストに含まれるアルミナ粉末の総量は、5〜30体積%であることが好ましい。5〜30体積%であれば、誘電電極15としての機能に影響を与えることなく、高い密着性向上効果を得ることができる。なお、電極材料粉末はWCと炭素量0.05wt%以下のアルミナ粉末の混合物か、Wと炭素量0.05〜0.25wt%のアルミナ粉末の混合物がより好ましい。これらの組み合わせの場合は、導電性物質が支持部12および表面部13に拡散せず、安定してとどまることにより、電極層を低抵抗とすることができる。かつ、焼結後の電極層のアルミナの炭素含有量を0.05wt%以下にすることができるので、イットリアセラミックスと中間セラミックス層14を形成し、表面部13と支持部12を電極を介在しても強固に接合できる。
なお、誘電電極15の形成前に、アルミナ部材121の誘電電極を形成する面に研削や研磨などの表面加工を施し、平面度10μm以下の平滑面を形成しておくことが好ましい。
次に、図5(c)に示すように、アルミナ部材121及びこのアルミナ部材121上に形成された誘電電極15上に、イットリア成形体130を形成する。イットリア成形体130の形成のために、まず、イットリアセラミックスの原料粉末に、バインダー、水、分散剤等を添加して混合し、原料スラリーを作製する。
原料スラリーを噴霧乾燥し、又は造粒法等により造粒して、粉末又は造粒顆粒を得る。この粉末又は造粒顆粒は、酸化雰囲気中400℃以上で仮焼することが好ましい。粉末又は造粒顆粒を仮焼することにより、イットリアの焼結を阻害するイットリア粉末中の水分やカーボンを除去することができる。そのため、イットリアの焼結体を得るための焼成時間の短縮、焼成温度の低温化を図ることができる。しかも、より緻密なイットリアの焼結体を得ることができる。その結果、イットリアの焼結体の過剰な粒成長を防止でき、イットリアの焼結体の機械的強度を向上できる。更に、色調のばらつきが抑えられた、色むらの目立たない焼結体とすることもできる。イットリア粉末又は造粒顆粒の仮焼温度は、500〜1000℃であることがより好ましい。
また、仮焼した造粒顆粒は、含有水分量が1%以下であることにより、後工程の焼成における焼成温度を低温化でき、より緻密で、より機械的強度の高いイットリアの焼結体を得ることができる。更に、誘電電極15の酸化を防止できる。また、イットリア粉末や混合粉末の平均粒子径は、0.1〜3.5μmであることが好ましい。仮焼した造粒顆粒を用いることにより、後述する成形体強度が向上し、ハンドリングしやすくなるという効果もある。
なお、原料粉末には、このイットリア造粒顆粒に、アルミナ粉末やシリカ粉末、ジルコニア粉末、炭化珪素粉末、窒化珪素粉末などを、強化剤や焼結助剤として添加した混合粉末などを用いることができる。このような混合粉末は、イットリアセラミックスよりなる表面部13の曲げ強度や破壊靱性などの機械的強度を向上させることができる。ただし、原料粉末に含まれるイットリア量は、90重量%以上であることが好ましい。より好ましいイットリア量は99重量%以上である。また、イットリア粉末の純度は、99.5重量%以上であることが好ましく、より好ましくは、99.9重量%以上である。
上述した造粒顆粒もしくは混合粉末から、イットリア成形体130を成形する。イットリア成形体130は、アルミナ部材121が収容されたプレス金型を用いて、アルミナ部材121と共に加圧成形することにより、イットリア成形体130を成形することができる。図5(c)は、金型50が側壁51、上型52及び下型53を備え、この金型50にアルミナ部材121が収容されて、このアルミナ部材121上にイットリア成形体130が成形されている例を縦断面図で示している。
この金型50による加圧成形は、まず、金型50の下型53の上面に、誘電電極15が形成されたアルミナ部材121を、この誘電電極15が形成された面を上向きにして載置し、次いで、アルミナ部材121及び誘電電極15上を覆うように、上述したイットリアセラミックス造粒顆粒もしくは混合粉末を金型内に装入する。このとき、アルミナ部材121の上周縁部に形成されている切り欠き部にも、イットリアセラミックスの粉末が充たされるようにする。
次に、金型50の上型52及び下型53のいずれか一方又は両方を、互いに向けて動作させ、イットリアセラミックスの粉末を、アルミナ部材121と共に加圧する。この加圧によりイットリア成形体130が形成されるとともに、このイットリア成形体130と、アルミナ部材121及び誘電電極15とが一体化される。
次に、図5(d)に示すように、アルミナ部材121と、誘電電極15と、イットリア成形体130とを、例えばホットプレス法により一体的に焼成して、基体材料の焼結体を得る。この焼成により、イットリア焼結体131の形成と、このイットリア焼結体131の、アルミナ部材121及び誘電電極15との一体化とは、同時に行われる。また、この焼成により中間セラミックス部(図示せず)が形成される。
この焼成は、例えば、一軸方向に加圧しながら、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中で焼成することが好ましい。イットリア成形体の焼成温度ともなる一体焼結体作製時の焼成温度は、1400〜1800℃とすることが好ましい。より好ましい焼成温度は、1600〜1700℃である。このように一体焼結体を低温焼成で作製することにより、この一体焼結体における焼結体のアルミナ部材121及びイットリア焼結体131の過剰な粒成長を防止でき、ひいては基体11の機械的強度を向上できる。
また、焼成時の昇温速度については、緻密化が始まらない1000℃以下では焼成時間短縮の為に500〜1000℃/時間、それ以上の温度領域では、昇温速度100〜300℃/時間で昇温することが好ましい。更に、加える圧力は、50〜300kgf/cm2の範囲が好ましい。この範囲であれば、より緻密なイットリア焼結体131を得ることができる。より好ましくは、100〜200kgf/cm2である。なお、イットリア焼結体131の原料粉末として、400℃以上の仮焼を行っていないイットリア粉末を用いる場合には、昇温過程において、400〜1000℃の範囲内でいったん所定時間保持し、イットリア粉末中の水分及び炭素等を除去するようにしてもよい。
次に、図5(d)に仮想線で示された範囲を残し、その範囲以外の、基体材料の焼結体の表面部分を除去する加工を行って、図5(e)に示されるような基体11を形成する。この加工は、切削加工、研削加工、又はそれらの組合せによることができ、その後、表面研磨加工を行うことができる。加工後の基体11は、図5(e)に示されるようにアルミナセラミックスよりなる支持部122(図1の支持部12に相当する)及び電極15を覆うように形成されたイットリアセラミックスよりなる表面部132(図1の表面部13に相当する)が、基体の基板載置面及び側面部を形成している形状になり、誘電体層が所定の厚みを有している。
次に、図5(f)に示すように、この基体の裏面に導通孔を穿設加工して、端子16を誘電電極15と接合し、基体に誘電電極15が埋設された静電チャックを得る。この静電チャックは具体的には、研削加工により、誘電体層となる部分である、イットリア焼結体よりなる表面部132の厚さを0.2〜0.5mmに調整される。また、研磨加工により、基板載置面の中心線平均表面粗さ(Ra)を0.6μm以下に調整される。更に、穴あけ加工により、基体に端子16を挿入するための穴が形成される。そして、端子16を穴cから挿入し、誘電電極15と端子16とをろう付けや溶接により接合される。このようにして、本発明に従う静電チャック10を得ることができる。
図5に示した製造方法によれば、イットリアセラミックスよりなる表面部132を基体の基板載置面のみならず、側面にも形成することできることから、静電チャックの耐食性を向上させることができる。この表面部132は、プレス成形により基体の基板載置面と側面とが一体的に成形され、焼結されることから、イットリアセラミックスを基板載置面と側面とに、別工程で形成する方法に比べて、工程を簡略化できる。
また、この基板載置面と側面とが繋ぎ目なく成形されるので、基体の基板載置面部と側面部とを個々に形成して、接着剤で接合する場合に比べて、耐食性に優れる。
更に、ホットプレス法を用いてアルミナ部材とイットリア成形体とを一体的に焼成することにより、アルミナセラミックスよりなる支持部122及びイットリアセラミックスよりなる表面部132を、接着剤などを介さずに接合でき、その接合界面に密着性を高める中間セラミックス層を形成できる。よって、誘電電極15を外部雰囲気と遮断でき、静電チャックの耐食性を向上できる。また、支持部122と、表面部132と、誘電電極15とを強固に接合した静電チャックを得ることができる。
また、アルミナセラミックスの原料ならびにイットリアセラミックスの原料における炭素含有量を、仮焼などにより0.05wt%以下に低減しているので、静電チャックの支持部12の炭素含有量を低減でき、よってリーク電流を抑制することができるとともに、強固で緻密な表面耐蝕層を形成することができる。
次に、図6を用いて、本発明に係る静電チャックの製造方法の別の例を説明する。図6は、静電チャックの製造方法の時系列的な工程図である。同図に示す工程により製造される静電チャックは、最終形態として同図(f)に示されるような、基体11の内部に誘電電極15とともに抵抗発熱体17を有する、ヒータ付き静電チャックである。より具体的には、イットリアセラミックスよりなる表面部232が、アルミナセラミックスより支持部221の上面及び側面を覆うばかりでなく、下面を覆って形成されていて、これにより、表面部232は、基体11の基板載置面11a、裏面11b及び側面11dを形成することになる。誘電電極15は、支持部221と表面部232との間に形成されている。この誘電電極15に接続して端子16が設けられている。また抵抗発熱体17は、支持部221に接して形成されていて、この抵抗発熱体17に発熱体用端子18が接続されている。
このヒータ付き静電チャックを製造するには、まず、図6(a)に示されるように、支持部となる板状のアルミナ部材220を製造する。このアルミナ部材220は、図5に示したアルミナ部材120及び121が有する上周縁部の切り欠き部を有してない。しかし、このアルミナ部材220は、図5に示したアルミナ部材121と同じ原料及び同じ製法により、別の金型を用いてプレス成形されたのち、焼結することにより製造される。
次に、この図6(b)に示されるように、焼結体のアルミナ部材221の一方の表面上に誘電電極15を形成する。この誘電電極15の形成は、図5を用いて説明した製造方法における誘電電極の製造工程と同じ工程により行うことができる。
また、このアルミナ部材221における、誘電電極15が形成された面とは反対の表面上に、抵抗発熱体17を形成する。この抵抗発熱体17は、誘電電極15と同様の材料で形成することができる。
次に、図6(c)に示されるように、この抵抗発熱体17及び誘電電極15が形成されたアルミナ部材221の周囲にイットリア成形体を形成する。このイットリア成形体形成は、金型50を用いて行うことができる。この金型50は、側壁51、上型52及び下型53を備えている。この下型53上に、図5を用いて説明したのと同様なイットリアセラミックスの粉末を装入して、下半分のイットリア成形体230aをプレス成形する。得られたイットリア成形体230aは上側の中央部に、アルミナ部材221の外形と嵌まりあう凹部を有する形状になっている。このような形状にプレス加工するには、例えば、アルミナ部材221の下半分の模型を用意し、この模型を金型内のイットリアセラミックスの粉末上に載置して、この模型と共にプレス成形する方法がある。また、イットリアセラミックスの粉末を、上面が平面となるようにプレス成形した後、この成形体の上側の中央部を除去して凹部を形成する加工を施す方法もある。更に、イットリアセラミックスの粉末を金型内に装入後、この粉末又は造粒顆粒をプレス成形することなくアルミナ部材221をこの粉末上に載置し、その後に、このアルミナ部材221上を覆ってイットリアの粉末を金型内に装入し、その後に行うプレス成形を行うことにより、下半分のイットリア粉末をアルミナ部材221により押圧して、上記した凹部を形成する方法もある。
次に、この上側の中央部が凹型に成形されたイットリア成形体230aの当該上側の中央部に、アルミナ部材221を載置する。図6(c)に示した例では、アルミナ部材221における抵抗発熱体17が形成されている面が下向きに、この下半分のイットリア成形体230aに対向するようにアルミナ部材221が載置されている。しかし、アルミナ部材221の向きは、図6(c)に示した例に限られない。アルミナ部材221における誘電電極15が形成されている面が、下半分のイットリア成形体230aに対向するようにアルミナ部材221を載置してもよい。
次に、同一金型50内において、このアルミナ部材221及び下半分のイットリア成形体230a上を覆うように、この下半分のイットリア成形体230aと同じ原料からなるイットリアセラミックスの粉末又は造粒顆粒を装入する。装入後、金型50の上型52及び下型53のいずれか一方又は両方を、互いに向けて動作させ、イットリアセラミックスの粉末又は造粒顆粒を加圧する。この加圧により上半分のイットリア成形体230bが形成されるとともに、このイットリア成形体230bと、アルミナ部材221とが一体化される。
次に、図6(d)に示すように、アルミナ部材221と、誘電電極15と、抵抗発熱体17と、イットリア成形体230a及び230bとを、例えばホットプレス法により一体的に焼成して、これらのイットリア成形体230a及び230bをそれぞれイットリア焼結体231とするとともに、このイットリア焼結体231がアルミナ部材221、誘電電極15又は抵抗発熱体17とが接合して一体化した基体材料の焼結体を得る。この焼成により、イットリア焼結体231の形成と、このイットリア焼結体231の、アルミナ部材221、誘電電極15及び抵抗発熱体17との一体化とは、同時に行われる。また、この焼成により、中間セラミックス部(図示せず)が形成される。この焼成の条件は、例えば、図5を用いて既に説明した製造方法と同じ条件により行うことができる。
次に、図6(d)に仮想線で示された範囲を残し、その範囲以外の、基体材料の焼結体の表面部分を除去する加工を行って、図6(e)に示されるような基体11を形成する。この加工は、切削加工、研削加工、又はそれらの組合せによることができ、その後、表面研磨加工を行うことができる。加工後の基体11は、図6(e)に示されるようにアルミナセラミックスよりなる支持部221(基体の支持部に相当する)、電極15及び抵抗発熱体17を覆うように形成されたイットリアセラミックスよりなる表面部232(基体の表面部13に相当する)が、基体11の基板載置面、側面部及び裏面を形成している形状になり、誘電体層が所定の厚みを有している。また、抵抗発熱体17が埋設されている。
次に、図6(f)に示すように、この基体の裏面に導通孔を穿設加工して、端子16を誘電電極15と接合するとともに、発熱体用端子18を、抵抗発熱体17と接合して、基体11に誘電電極15及び抵抗発熱体17が埋設された静電チャック60を得る。この静電チャックは具体的には、研削加工により、誘電体層となるイットリア焼結体131の厚さを0.2〜0.5mmに調整される。また、研磨加工により、基板載置面11aの中心線平均表面粗さ(Ra)を0.6μm以下に調整される。更に、穴あけ加工により、基体11に端子16又は端子18を挿入するための穴11cが形成される。そして、端子16及び端子18を、それぞれ穴11cから挿入し、誘電電極15と端子16とをろう付けや溶接により接合される。このようにして、本発明に従う静電チャック60を得ることができる。
図6に示した製造方法によれば、図5を用いて説明した製造方法と同様の効果を得ることができる。それのみならず、図6に示した製造方法では、耐食性の高いイットリアセラミックスよりなる表面部が、アルミナセラミックスよりなる支持部の全面9を覆って形成された静電チャックを、容易に製造することができる。また、抵抗発熱体17は、アルミナセラミックスよりなる支持部とイットリアセラミックスよりなる表面部との間に位置するように製造することができることから、抵抗発熱体を、この支持部の内部、又は表面部の内部に形成する製造方法に比べて、製造工程を簡略化することができる。さらにこの製造方法によれば、アルミナセラミックスをイットリアセラミックスで上下両面からサンドイッチする構造となっているので、アルミナとイットリアの熱膨張係数の差異があっても、上下界面で径方向に均等に残留応力が発生し、それらが互いにバランスをとっているので、より信頼性の高い構造とすることができる。
なお、図5及び6に示した製造方法は、本発明の範囲に含まれる限り、幾多の変形をすることができる。例えば、図6に示した製造方法においては、同図(d)に示されるように、上述した説明では、焼結後に基体材料の焼結体の表面部分を除去する加工を行っているが、基体材料の焼結体の形状が、基体の寸法形状とほぼ同じであるならば、上述した焼結後の基体材料の焼結体の表面部分を大量に除去する加工を省略することができる。
また、図2及び図4に示したような、抵抗発熱体17がアルミナセラミックスよりなる支持部12に埋設され、この支持部12が、誘電電極15と接する上部12aと抵抗発熱体の周囲の下部12bとで炭素含有量が異なる静電チャックを製造する際は、支持部12となるアルミナ焼結体を、次のようにして作製することができる。
まず、アルミナセラミックスの原料粉末に、更に、有機バインダーなどを添加した上で、原料スラリーを調整したのち、スプレードライヤー等で造粒して、アルミナ造粒顆粒を作成する。この造粒顆粒のC量は0.2〜1.8wt%とする。次に、この造粒顆粒の所定量を仮焼して、仮焼造粒粉を作成する。このようにして、仮焼しないで炭素含有量の高い造粒顆粒と、仮焼して炭素含有量が低い仮焼造粒粉との二種類を用意する。
上記した造粒顆粒をこの金型内に装入し、この造粒顆粒上にNbを含むコイル状の抵抗加熱素子(抵抗発熱体)を置いた後、この抵抗加熱素子の周囲を覆うように上記した造粒顆粒を再度装入してから、金型の上型及び下型によりプレスすることにより、支持部12の下部12bになる部分の成形体を作成する。
金型内で作成された成形体上に、前記した仮焼造粒粉を装入して加圧成形する。この仮焼造粒粉の成形部分が、支持部12の上部12aの部分になる。このようにして成形された支持部12の上部12a及び下部12bとなる部分の成形体を一体的にホットプレスすることにより、ヒータ(抵抗加熱素子)が支持部12の下部12bの内部に埋設された概略円盤形状のアルミナ焼結体を得る。
得られたアルミナ焼結体は、支持部12の下部12bとなる部分の炭素量は0.05〜0.25wt%となり、支持部12の上部12aとなる部分の炭素量は0.05wt%以下となる。このアルミナ焼結体の上部12a側の表面を研削後、この表面上に誘電電極15を形成する。
この誘電電極15の形成及びその後のイットリアセラミックスからなる表面部の形成等は、既に述べた方法に従って行えばよい。
本発明の静電チャック及びその製造方法を、実施例により更に具体的に説明する。なお、本発明の静電チャック及びその製造方法は、以下に述べる実施例に何ら限定されるものではない。
〔実施例1〕
実施例1は、図5に示した工程に従い、図3に示す静電チャックを製造する例である。
アルミナ焼結体の原料粉末として、純度99.9重量%、平均粒子径0.5μmのアルミナ粉末を用意した。このアルミナ粉末に、水、分散材及びバインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)を添加し、トロンメルで16時間混合して原料スラリーを作製した。得られた原料スラリーを目開き20μmの篩通しを行って不純物を取り除いた後、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、平均粒子径約80μmのアルミナの造粒顆粒を作製した。得られた造粒顆粒を、常圧酸化雰囲気炉にて500℃で仮焼し、脱脂を行った。
次に、アルミナの造粒顆粒を金型に充填し、一軸プレス装置により50kgf/cm2で加圧し、アルミナ成形体を作製した。得られたアルミナ成形体をカーボン製のサヤに詰めてホットプレス装置により焼成し、アルミナ焼結体を得た。具体的には、窒素雰囲気中で、室温から500℃までを500℃/時間で昇温して500℃で1時間保持し、500℃から1000℃までを500℃/時間で昇温して1000℃で1時間保持し、1000℃から1600℃までを200℃/時間で昇温して1600℃で2時間保持し、焼成した。次にアルミナ焼成体を上周縁部に切り欠き部を有する形状となるように加工した。
次に、タングステンカーバイド80体積%とアルミナ粉末20体積%の混合粉末に、バインダーとしてエチルセルロースを混合して印刷ペーストを作製した。また、アルミナ焼結体の誘電電極を形成する面に研削加工を施し、平面度10μm以下の平滑面を形成した。アルミナ焼結体の平滑面上に、印刷ペーストを用いてスクリーン印刷法により、直径290mm、厚さ20μmの誘電電極を形成し、乾燥させた。
次に、イットリア焼結体の原料粉末として、純度99.9重量%、平均粒子径1μmのイットリア粉末を用意した。イットリア粉末に、水、分散材及びバインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)を添加し、トロンメルで16時間混合して原料スラリーを作製した。得られた原料スラリーを目開き20μmの篩通しを行って不純物を取り除いた後、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、平均粒子径約80μmのイットリアの造粒顆粒を作製した。得られた造粒顆粒を、常圧酸化雰囲気炉にて500℃で仮焼し、脱脂するとともに、含有水分量を1%以下に調整した。
そして、金型に、前述した誘電電極が形成されたアルミナ焼結体をセットした。このアルミナ焼結体及び誘電電極上に、上述したイットリアの造粒顆粒を充填し一軸プレス装置により、50kgf/cm2で加圧してプレス成形を行い、イットリア成形体を形成した。
そして、一体に成形されたアルミナ焼結体、誘電電極、イットリア成形体をカーボン製のサヤにセットし、ホットプレス法により焼成した。具体的には、100kgf/cm2で加圧しながら、窒素加圧雰囲気(窒素150kPa)で焼成した。室温から500℃までを500℃/時間で昇温して500℃で1時間保持し、500℃から1000℃までを500℃/時間で昇温して1000℃で1時間保持し、1000℃から1600℃までを200℃/時間で昇温して1600℃で2時間保持して焼成した。
このようにして得られたアルミナ焼結体と、誘電電極と、イットリア焼結体の一体焼結体の表面部分を除去する加工を行った。この加工は、ダイヤモンド砥石による研削加工により行われ、この加工により、基体の基板載置面及び側面がイットリアセラミックスよりなる表面部で形成されている基体形状を得た。
更に、焼結体表面をダイアモンド砥石により平面研削加工を行い、誘電体層となるイットリア焼結体の厚さ(誘電電極と基板載置面との距離)を、0.35±0.05mmとした。更に、一体焼結体の側面及び底面を研削し、静電チャックの厚さを3mmとした。基体のアルミナ焼結体に端子を挿入するための穴あけ加工を行い、誘電電極に端子をろう付けし、静電チャックを得た。
〔実施例2〕
実施例2は、図6に示した工程に従い、ヒータ付き静電チャックを製造する例である。
アルミナ焼結体の原料粉末として、純度99.9重量%、平均粒子径0.5μmのアルミナ粉末を用意した。このアルミナ粉末に、水、分散材及びバインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)を添加し、トロンメルで16時間混合して原料スラリーを作製した。得られた原料スラリーを目開き20μmの篩通しを行って不純物を取り除いた後、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、平均粒子径約80μmのアルミナの造粒顆粒を作製した。得られた造粒顆粒を、常圧酸化雰囲気炉にて500℃で仮焼し、脱脂を行った。
次に、アルミナの造粒顆粒を金型に充填し、一軸プレス装置により50kgf/cm2で加圧し、板状のアルミナ成形体を作製した。得られたアルミナ成形体をカーボン製のサヤに詰めてホットプレス装置により焼成し、アルミナ焼結体を得た。具体的には、窒素雰囲気中で、室温から500℃までを500℃/時間で昇温して500℃で1時間保持し、500℃から1000℃までを500℃/時間で昇温して1000℃で1時間保持し、1000℃から1600℃までを200℃/時間で昇温して1600℃で2時間保持し、焼成した。
次に、タングステンカーバイド80体積%とアルミナ粉末20体積%の混合粉末に、バインダーとしてエチルセルロースを混合して印刷ペーストを作製した。また、アルミナ焼結体の誘電電極を形成する面に研削加工を施し、平面度10μm以下の平滑面を形成した。アルミナ焼結体の平滑面上に、印刷ペーストを用いてスクリーン印刷法により、直径290mm、厚さ20μmの誘電電極を形成し、乾燥させた。
また、アルミナ焼結体における上記誘電電極が形成された面とは反対側の面に、上記した印刷ペーストを用いて、スクリーン印刷法により、抵抗発熱体を形成し、乾燥させた。
次に、イットリア焼結体の原料粉末として、純度99.9重量%、平均粒子径1μmのイットリア粉末を用意した。イットリア粉末に、水、分散材及びバインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)を添加し、トロンメルで16時間混合して原料スラリーを作製した。得られた原料スラリーを目開き20μmの篩通しを行って不純物を取り除いた後、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、平均粒子径約80μmのイットリアの造粒顆粒を作製した。得られた造粒顆粒を、常圧酸化雰囲気炉にて500℃で仮焼し、脱脂するとともに、含有水分量を1%以下に調整した。
このイットリアの造粒顆粒を金型に充填し、一軸プレス装置により、50kgf/cm2で加圧してイットリア成形体を作製した。
そして、金型内のイットリア成形体上に誘電電極が形成されたアルミナ焼結体をセットした。このアルミナ焼結体及び誘電電極上に、作製したイットリアの造粒顆粒を充填し一軸プレス装置により、10kgf/cm2で加圧してプレス成形を行い、イットリア成形体を形成した。
そして、一体に成形されたアルミナ焼結体、誘電電極、イットリア成形体をカーボン製のサヤにセットし、ホットプレス法により焼成した。具体的には、100kgf/cm2で加圧しながら、窒素加圧雰囲気(窒素150kPa)で焼成した。室温から500℃までを500℃/時間で昇温して500℃で1時間保持し、500℃から1000℃までを500℃/時間で昇温して1000℃で1時間保持し、1000℃から1600℃までを200℃/時間で昇温して1600℃で2時間保持して焼成した。
このようにして得られたアルミナ焼結体と、誘電電極と、イットリア焼結体の一体焼結体を加工した。この加工は、研削加工により行われ、この加工により、基体の基板載置面、側面及び裏面が、イットリアセラミックスよりなる表面部で形成されている基体形状を得た。
更に、焼結体表面をダイアモンド砥石により平面研削加工を行い、誘電体層となるイットリア焼結体の厚さ(誘電電極と基板載置面との距離)を、0.35±0.05mmとした。更に、一体焼結体の側面及び底面を研削し、静電チャックの厚さを5.5mmとした。基体のアルミナ焼結体に端子を挿入するための穴あけ加工を行い、誘電電極に端子をろう付けし、静電チャックを得た。
〔比較例1〕
比較例1は、イットリア焼結体をアルミナ成形体よりも先に作成する例である。
イットリア焼結体の原料粉末として、純度99.9重量%、平均粒子径1μmのイットリア粉末を用意した。イットリア粉末に、水、分散材、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)を添加し、トロンメルで16時間混合してスラリーを作製した。得られたスラリーを20μmの篩通しを行って不純物を取り除いた後、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、平均粒子径約80μmのイットリアの造粒顆粒を作製した。得られた造粒顆粒を、常圧酸化雰囲気炉にて500℃で仮焼し、脱脂するとともに、含有水分量を1%以下に調整した。
イットリアの造粒顆粒を金型に充填し、一軸プレス装置により、50kgf/cm2で加圧して、板状で中央部に凹部を有するような、図1の表面部に相当する形状のイットリア成形体を作製した。このイットリア成形体をカーボン製のサヤに詰めてホットプレス装置により焼成し、イットリア焼結体を形成した。具体的には、100kgf/cm2で加圧しながら、窒素加圧雰囲気(窒素150kPa)で焼成した。室温から500℃までを500℃/時間で昇温して500℃で1時間保持し、500℃から1000℃までを500℃/時間で昇温し、1000℃から1600℃までを200℃/時間で昇温して、1600℃で4時間保持して焼成した。
次に、タングステンカーバイド80体積%とアルミナ粉末20体積%の混合粉末に、バインダーとしてエチルセルロースを混合して印刷ペーストを作製した。また、イットリア焼結体の誘電電極を形成する面(凹部の底面)に研削加工を施し、平面度10μm以下の平滑面を形成した。イットリア焼結体の平滑面上に、印刷ペーストを用いてスクリーン印刷法により、直径290mm、厚さ20μmの誘電電極を形成し、乾燥させた。
次に、アルミナ焼結体の原料粉末として、純度99.9重量%、平均粒子径0.5μmのアルミナ粉末を用意した。アルミナ粉末に、水、分散材、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)を添加し、トロンメルで16時間混合してスラリーを作製した。得られたスラリーを20μmの篩通しを行って不純物を取り除いた後、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、平均粒子径約80μmのアルミナの造粒顆粒を作製した。
一軸プレス装置の金型に、この誘電電極が形成されたイットリア焼結体を、そのイットリア焼結体の中央部の凹部が上向きになるようにセットした。そして、このイットリア焼結体の凹部上及び誘電電極上に、作製したアルミナの造粒顆粒を充填し、50kgf/cm2で加圧してプレス成形を行い、アルミナ成形体を形成した。
そして、一体に成形されたイットリア焼結体、誘電電極、アルミナ成形体をカーボン製のサヤにセットし、ホットプレス法により焼成した。具体的には、100kgf/cm2で加圧しながら、窒素加圧雰囲気(窒素150kPa)で焼成した。室温から500℃までを500℃/時間で昇温して500℃で1時間保持し、500℃から1000℃までを500℃/時間で昇温して1000℃で1時間保持し、1000℃から1600℃までを200℃/時間で昇温して1600℃で2時間保持して焼成した。
このようにして得られたアルミナ焼結体と、誘電電極と、イットリア焼結体の一体焼結体を詳細に観察したところ、イットリア部分にマイクロクラックが入っていた。
〔実施例3〕
実施例3は、図4に示すヒータ付き静電チャックを製造する例である。
アルミナ焼結体の原料粉末として、純度99.9重量%、平均粒子径0.5μmのアルミナ粉末を用意した。このアルミナ粉末に、水、分散材及びバインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)を添加し、トロンメルで16時間混合して原料スラリーを作製した。得られた原料スラリーを目開き20μmの篩通しを行って不純物を取り除いた後、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、平均粒子径約80μmのアルミナの造粒顆粒を作製した。得られた造粒顆粒の炭素量は、1.2〜1.8wt%であった。
次に、得られた造粒顆粒の一部を所定量だけ取り分けて、常圧酸化雰囲気炉にて500℃で仮焼し、脱脂を行った。このようにして、仮焼しないで炭素含有量の高い造粒顆粒と、仮焼して炭素含有量が低い仮焼造粒粉との二種類を用意した。
次に、上記した炭素含有量の高いアルミナの造粒顆粒の所定量を金型に装入し、この造粒顆粒上にNbを含むコイル状の抵抗発熱体を置いた後、このアルミナの造粒顆粒及びコイル状の抵抗発熱体上に、当該抵抗発熱体を覆って造粒顆粒を所定量で装入してから、一軸プレス装置により50kgf/cm2で加圧し、基体の支持部の下部に相当する部分の成形体を作成した。
次いで、同一金型内でこの成形体上に、上記した炭素含有量が低い仮焼造粒粉を装入し、一軸プレス装置により50kgf/cm2で加圧して、支持部の上部に相当する部分を、上記した基体の支持部の下部に相当する部分の成形体上に一体的に成形した、板状のアルミナ成形体を作製した。得られたアルミナ成形体をカーボン製のサヤに詰めてホットプレス装置により焼成し、アルミナ焼結体を得た。具体的には、窒素雰囲気中で、室温から500℃までを500℃/時間で昇温して500℃で1時間保持し、500℃から1000℃までを500℃/時間で昇温して1000℃で1時間保持し、1000℃から1600℃までを200℃/時間で昇温して1600℃で2時間保持し、焼成した。
次に、タングステンカーバイド80体積%とアルミナ粉末20体積%の混合粉末に、バインダーとしてエチルセルロースを混合して印刷ペーストを作製した。また、アルミナ焼結体の誘電電極を形成する面に研削加工を施し、平面度10μm以下の平滑面を形成した。アルミナ焼結体の平滑面上に、印刷ペーストを用いてスクリーン印刷法により、直径290mm、厚さ20μmの誘電電極を形成し、乾燥させた。
次に、イットリア焼結体の原料粉末として、純度99.9重量%、平均粒子径1μmのイットリア粉末を用意した。イットリア粉末に、水、分散材及びバインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)を添加し、トロンメルで16時間混合して原料スラリーを作製した。得られた原料スラリーを目開き20μmの篩通しを行って不純物を取り除いた後、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、平均粒子径約80μmのイットリアの造粒顆粒を作製した。得られた造粒顆粒を、常圧酸化雰囲気炉にて500℃で仮焼し、脱脂するとともに、含有水分量を1%以下に調整した。
そして、金型に、前述した誘電電極が形成されたアルミナ焼結体をセットした。このアルミナ焼結体及び誘電電極上に、作製したイットリアの造粒顆粒を充填し一軸プレス装置により、50kgf/cm2で加圧してプレス成形を行い、イットリア成形体を形成した。
そして、一体に成形されたアルミナ焼結体、誘電電極、イットリア成形体をカーボン製のサヤにセットし、ホットプレス法により焼成した。具体的には、100kgf/cm2で加圧しながら、窒素加圧雰囲気(窒素150kPa)で焼成した。室温から500℃までを500℃/時間で昇温して500℃で1時間保持し、500℃から1000℃までを500℃/時間で昇温して1000℃で1時間保持し、1000℃から1600℃までを200℃/時間で昇温して1600℃で2時間保持して焼成した。
このようにして得られたアルミナ焼結体と、誘電電極と、イットリア焼結体の一体焼結体を加工した。この加工は、研削加工により行われ、この加工により、基体の基板載置面、側面及び裏面が、イットリアセラミックスよりなる表面部で形成されている基体形状を得た。
更に、焼結体表面をダイアモンド砥石により平面研削加工を行い、誘電体層となるイットリア焼結体の厚さ(誘電電極と基板載置面との距離)を、0.35±0.05mmとした。更に、一体焼結体の側面及び底面を研削し、静電チャックの厚さを5.5mmとした。基体のアルミナ焼結体に端子を挿入するための穴あけ加工を行い、誘電電極に端子をろう付けし、静電チャックを得た。
〔実施例4〕
実施例4は、実施例1と同様の工程に従って製造される静電チャックであって、イットリアセラミックスが、基体の基板載置面のみに形成され、基体の側面には形成されていない静電チャックの例である。
アルミナ焼結体の原料粉末として、純度99.9重量%、平均粒子径0.5μmのアルミナ粉末を用意した。このアルミナ粉末に、水、分散材及びバインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)を添加し、トロンメルで16時間混合して原料スラリーを作製した。得られた原料スラリーを目開き20μmの篩通しを行って不純物を取り除いた後、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、平均粒子径約80μmのアルミナの造粒顆粒を作製した。得られた造粒顆粒を、常圧酸化雰囲気炉にて500℃で仮焼し、脱脂を行った。
次に、アルミナの造粒顆粒を金型に充填し、一軸プレス装置により50kgf/cm2で加圧し、板状のアルミナ成形体を作製した。このアルミナ成形体の径は、次工程における焼結時の収縮が考慮された、基体の径よりも大きい径になっている。得られたアルミナ成形体をカーボン製のサヤに詰めてホットプレス装置により焼成し、アルミナ焼結体を得た。具体的には、窒素雰囲気中で、室温から500℃までを500℃/時間で昇温して500℃で1時間保持し、500℃から1000℃までを500℃/時間で昇温して1000℃で1時間保持し、1000℃から1600℃までを200℃/時間で昇温して1600℃で2時間保持し、焼成した。
次に、実施例1と同様にして印刷ペーストを作製し、アルミナ焼結体の誘電電極を形成する面に研削加工を施して平面度10μm以下の平滑面を形成した。アルミナ焼結体の平滑面上にスクリーン印刷法により、直径290mm、厚さ30μmの誘電電極を形成し、乾燥させた。
次に、イットリア焼結体の原料粉末として、純度99.9重量%、平均粒子径1μmのイットリア粉末と、純度99.9重量%、平均粒子径0.5μmのアルミナ粉末を用意した。イットリア粉末に、水、分散材、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)を添加し、トロンメルで16時間混合して原料スラリーを作製した。得られた原料スラリーを目開き20μmの篩通しを行って不純物を取り除いた後、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、平均粒子径約80μmのイットリア/アルミナの造粒顆粒を作製した。得られた造粒顆粒を、常圧酸化雰囲気炉にて500℃で仮焼し、脱脂するとともに、含有水分量を1%以下に調整した。
そして、金型に誘電電極が形成されたアルミナ焼結体をセットした。アルミナ焼結体及び誘電電極上に、上述した作製したイットリアの造粒顆粒を充填し、一軸プレス装置により、50kgf/cm2で加圧してイットリア成形体を作製した。
そして、一体に成形されたアルミナ焼結体、誘電電極、イットリア成形体をカーボン製のサヤにセットし、ホットプレス法により焼成した。具体的には、100kgf/cm2で加圧しながら、窒素加圧雰囲気(窒素150kPa)で焼成した。また、室温から500℃までを500℃/時間で昇温して500℃で1時間保持し、500℃から1000℃までを500℃/時間で昇温して1000℃で1時間保持し、1000℃から1600℃までを200℃/時間で昇温して1600℃で2時間保持し、焼成した。このようにして得られたアルミナ焼結体と、誘電電極と、イットリア焼結体の一体焼結体を、実施例1と同様にして加工した。
更に、基体のアルミナ焼結体に端子を挿入するための穴あけ加工を行い、誘電電極に端子をろう付けし、静電チャックを得た。
〔評価1〕
実施例1〜4及び比較例1により得られた静電チャックについて、基体の支持部と表面部との接合強度に及ぼすアルミナセラミックス中の炭素含有量の影響を調べた。この調査のために、実施例1〜4及び比較例1の静電チャックにおけるアルミナ焼結体とイットリアの接合体に相当する接合体サンプルを製造した。この接合体サンプルを製造するにあたっては、アルミナの造粒顆粒に含まれる炭素含有量を種々に変えることにより、アルミナ焼結体の炭素含有量を0.01wt%未満〜0.5wt%の範囲で種々に変化させた。
得られた接合体サンプルから、基体の厚み方向に、表面部と支持部との接合界面を含む棒状の試験片を切り出した。この試験片は円柱状であり軸線方向の長さが20mm、直径が9.9mmである。また、接合界面が試験片の20mmの長さの中央に位置している。この試験片の剪断強度を調べた。その結果を表1に示す。
表1から明らかなように、アルミナ焼結体中の炭素含有量が0.05wt%以下の例は、せん断強度が高く、かつ、破壊が接合界面ではなく、イットリア内部で生じている。また、加工時においても、接合界面で界面剥離が生じることはなかった。これに対して、炭素含有量が0.05wt%を超える例は、炭素含有量が0.05wt%以下の例よりもせん断強度が低く、かつ、破壊が接合界面で生じていた。また、加工時には界面剥離が生じた。
〔評価2〕
実施例1〜4及び比較例1により得られた静電チャックについて、以下の(1)〜(6)の評価を行った。(1)機械的強度:基体の一部を構成するアルミナ焼結体の室温における4点曲げ強度をJIS R1601に従って測定した。(2)体積抵抗率:誘電体層として機能するイットリア焼結体の室温における体積抵抗率をJIS C2141に従って測定した。印加電圧は2000V/mmとした。(3)相対密度:誘電体層として機能するイットリア焼結体の相対密度を、純水を媒体に用いたアルキメデス法により測定した。(4)熱膨張係数差:JIS R1618に従い、室温から1200℃までの温度範囲で、アルミナ焼結体の熱膨張係数とイットリア焼結体の熱膨張係数を測定し、両者の熱膨張係数の差を求めた。
(5)耐食性試験:腐食性ガスに曝されるイットリア焼結体の一部をマスキングし、NF3と酸素の混合ガス中で、プラズマソースパワー800W、バイアスパワー300W、圧力0.1Torrの条件下で5時間保持して耐食性試験を行った。耐食性試験後、マスキングした部分とマスキングしていない部分との段差を測定し、その段差を腐食により減少した量(以下「腐食減少量」という)として耐食性を評価した。
(6)中間層分析:アルミナ焼結体とイットリア焼結体との間に形成されている中間層の組成をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)及びX線回折分析を用いて分析した。更に、誘電電極より外周部の中間層周辺を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。
表2に、実施例1〜4及び比較例1のアルミナ焼結体及びイットリア焼結体の組成と併せて(1)〜(6)の評価結果を示す。
表2により理解されるように、実施例1〜4いずれの静電チャックも、基体の一部を構成するアルミナ焼結体の室温における4点曲げ強度が高く、機械的強度に優れていた。また、実施例1〜4いずれの静電チャックも、イットリア焼結体の室温における体積抵抗率が1×1016Ω・cm以上と高く、クーロン力を利用する静電チャックにおいて高い吸着力を実現するために誘電体層に必要な値を有していた。
更に、実施例1〜4いずれの静電チャックも、イットリア焼結体の相対密度が98%以上と非常に高く、非常に緻密な焼結体が得られていた。また、実施例1〜4いずれの静電チャックも、アルミナ焼結体とイットリア焼結体の熱膨張係数差は小さく抑えられていた。
更に、実施例1〜4いずれの静電チャックも、イットリア焼結体の耐食性試験による腐食減少量が非常に少なく、表面腐食が軽微であり、耐食性に非常に優れていた。側面部の耐食性について調べるため、プラズマチャンバ内に各静電チャックを装着し、前記(5)の耐食性試験と同じ条件にてプラズマを発生させ、各静電チャックをプラズマに暴露させ、側面表面の非マスク部分の腐食減少量を測定した。結果、表2に示すように、実施例1〜4は、比較例1と比べて、側面部の耐食性に優れていた。特に側面部をイットリアで覆った実施例1〜4は特に優れた耐蝕性を示した。比較例1ではイットリア中のマイクロクラックが原因と思われる剥離が生じた。
また、実施例1〜4いずれの静電チャックも、アルミナ焼結体とイットリア焼結体との間に、イットリウムとアルミニウムを含む中間層が形成されていた。具体的には、YAG層とYAM層を含む中間層が形成されていた。YAG層とYAM層を含む中間層の厚さは、SEM観察により10〜100μmであった。一方、比較例1では明瞭な中間層が形成されていなかった。
〔実施例5〜7及び比較例2〜4〕
実施例5〜7並びに比較例2〜4は、実施例3と同じ作成方法で、Nbを含むコイル状の抵抗発熱体が基体の支持部の下部に埋設され、また、表面部のイットリアセラミックスが、基板載置面のみならず側面部に形成されている例であり、かつ、実施例3とは、支持部のアルミナ焼結体中のカーボン量が異なる例である。アルミナ焼結体中のカーボン量をそれぞれ変化させるために、アルミナ焼結体の製造時に、支持部の上部を形成する際に、アルミナ仮焼造粒顆粒に加えて、仮焼していないアルミナ造粒顆粒を混合するようにして、その混合比を種々に変化させて作成した。また、比較例4は、イットリア仮焼造粒粉の代わりに、仮焼していないイットリア粉を用いて、表面部を形成するイットリア焼結体中の炭素量を多くしたものである。
これらの実施例及及び比較例について、熱サイクル試験、リーク電流の測定及び吸着力の測定を行った。この熱サイクル試験は室温(RT)から200℃までの昇温と降温とを繰り返すの加速試験である。静電チャック内のヒータに電力を供給し、アルミナ部分に空けられた孔に熱電対を挿入し、イットリアセラミックス部近傍の温度を測定しながら熱サイクルをかけた。
リーク電流の測定は、吸着電圧800Vを印加したときに静電チャック電源とアース間に流れる電流であり、誘電電極からヒーター及びイットリア−アルミナ界面を通じて静電チャック外周縁部へ流れる電流を計測器により測定した。
吸着力は800V印加時の値であり、直径1インチのシリコン製の円盤を静電チャック表面に載せ、それを引き剥がすときの力をロードセルで測定するプローブ法で測定した。
表3から理解できるように、本発明に従う各実施例は、誘電電極近傍のアルミナの炭素量が0.05wt%以下であり、およびイットリアの炭素量が0.05wt%以下であり、イットリア−アルミナ界面に中間セラミックス層を形成している。これにより、リーク電流を抑制し、吸着力を高めるとともに、長時間の使用によっても安定して吸着力を維持できる静電チャックを作成できる。アルミナセラミックスの体積抵抗率は、実施例5〜7においては室温で1×1016Ω・cm以上、150℃で1×1014Ω・cm以上であり、比較例2〜4においては室温で1×1016Ω・cm未満、150℃で1×1014Ω・cm未満であった。
イットリアセラミックス誘電体層の体積抵抗率は、実施例5〜7においては室温で1×1016Ω・cm以上、150℃で1×1015Ω・cm以上であり、比較例4においては室温で1×1014Ω・cmであった。