上述の通り、一般的に広く利用されている鉄製の消火剤貯蔵容器は非常に重いため、特に女性や子供、あるいは年配者にとって、持ち運びの不便さや操作性の悪さの問題を生じさせていた。また、金属製消火器の重さが災いし、消火器の回収やリサイクルの際の輸送コストが高くなるといった問題も発生する。
また、鉄製の場合、廉価な消火器ではあるが腐食性があるため、その容器の表面を塗装して防錆処理を施すことが必要となる。実際に、この処理には手間と時間が掛かるため、結果として、消火器1台の単価からすれば無視できない製造コストの上昇につながる。また、リサイクルのためには防錆剤を鉄から分離することが必要である。しかし、この塗装面の分離工程にも相当の手間が掛かるため、鉄に代表される金属製の消火剤貯蔵容器のリサイクル作業を著しく煩雑化するとともに、そのコストも上昇する。
鉄に代表される金属であるが故の上述の各技術的課題は、一見すると、樹脂製の消火剤貯蔵容器が採用されることによって解決されるように見える。しかし、樹脂製の消火剤貯蔵容器が採用されることによって引き起こされる特有の問題も生じる。すなわち、紫外線等に対する耐性が低い樹脂製の消火剤貯蔵容器が採用されると、紫外線が照射された箇所の劣化の状況によっては、消火器として必要とされる品質を維持することができない。つまり、樹脂製の消火剤貯蔵容器が採用される場合には、各消火器の置かれる環境が様々であるため、特に樹脂製の消火剤貯蔵容器が採用される場合、消火器毎の劣化の速度に相違が生じ得る。そうすると、一般的な消火器の耐用年数(設置状況により異なるが、例えば8年)通りの性能を保持しないことも生じうる。加えて、環境の異なる複数の消火器が近接して配置されることは極めて稀であるため、たとえ定期的に消火器の点検を行う専門業者であっても、樹脂製の消火剤貯蔵容器を備えた消火器単体の劣化度を外観で観察することによって判別することは非常に困難である。
本発明は、上述の従来技術の問題点を解消することにより、樹脂製の消火剤貯蔵容器に特有の劣化度を外観だけで容易に把握し得る消火器の実現に大きく貢献するものである。
発明者は、樹脂製の消火剤貯蔵容器の利点を残しつつ、その弱点の一つである紫外線による影響が軽微な段階で発見できる方法について鋭意研究を重ねた。その結果、発明者は、ある環境下に設置される消火器がほぼ一様にその環境の影響を受けることが、点検の専門業者でさえも判別を困難にしている主たる原因の一つであることに着眼した。発明者は、さらに様々な視点からその専門業者のみならず、一般のユーザーであっても、外観だけで容易に樹脂製の消火剤貯蔵容器の劣化度を把握し得る消火器の開発を行った結果、上述の技術課題を解決しうる消火剤貯蔵容器及び消火器の構成を見出すことに成功した。本発明はそのような視点で創出された。
本発明の1つの消火器用被覆部材は、開口部となる口部を有するとともに継ぎ目のない樹脂によって成形される消火剤貯蔵容器の外周表面上又はその上方に着脱可能に配置されるとともに紫外線を遮蔽する。
この消火器用被覆部材によれば、消火剤貯蔵容器で消火器用被覆部材に覆われる部分と消火器用被覆部材に覆われない部分との間で、紫外線を受ける量が異なる。従って、消火器用被覆部材に覆われる部分と消火器用被覆部材に覆われない部分とが隣接するために、その劣化度乃至経時変化の差(以下、本願では総称して「劣化度」ともいう。)が、外観上、時間の経過とともにより鮮明になる。すなわち、上述の構成が採用されることにより、劣化度のコントラストの明確さが得られる。これにより、消火器単体であっても、その劣化度を外観だけで容易に判別することができる。また、この消火器用被覆部材は、着脱可能であるため、消火剤貯蔵容器の外周表面上又はその上方から一旦剥離した消火器用被覆部材を再度同じ場所に貼り付けることができる。従って、消火器の耐用年数の間を通じて単一の消火器用被覆部材を消火剤貯蔵容器の外周表面上又はその上方に配置させることができる。すなわち、上述の構成が採用されることにより、点検の都度、消火器用被覆部材を貼り換えることを要しないため、点検の負担を軽減することができる。
また、本発明の他の1つの消火器用被覆部材は、開口部となる口部を有するとともに継ぎ目のない樹脂によって成形される消火剤貯蔵容器の外周表面上又はその上方に前述の消火剤貯蔵容器の少なくとも一部の側面の全周を覆うように配置されるとともに紫外線を遮蔽する被覆部材であって、その被覆部材は、孔部又は切欠き部を有する。
この消火器用被覆部材によれば、消火剤貯蔵容器のうち消火器用被覆部材に覆われる部分と消火器用被覆部材の孔部又は切欠き部に対応する部分との間で、紫外線を受ける量が異なる。従って、消火器用被覆部材に覆われる部分の劣化度と消火器用被覆部材の孔部又は切欠き部に対応する部分の劣化度との差が、外観上、時間の経過とともにより鮮明になる。これにより、消火器単体であっても、その劣化度を外観だけで容易に判別することができる。
また、本発明の他の1つの消火器用被覆部材は、開口部となる口部を有するとともに継ぎ目のない樹脂によって成形される消火剤貯蔵容器の外周表面上又はその上方に前述の消火剤貯蔵容器の一部の側面の全周を覆うように配置されるとともに紫外線を遮蔽する被覆部材であって、その被覆部材は、200nm以上380nm以下の波長のいずれの紫外線に対しても50%以上遮蔽する。
この消火器用被覆部材によれば、消火剤貯蔵容器のうち消火器用被覆部材に覆われる部分と消火器用被覆部材に覆われない部分との間で、紫外線を受ける量が異なる。従って、消火器用被覆部材に覆われる部分の劣化度と消火器用被覆部材に覆われない部分の劣化度との差が、外観上、時間の経過とともにより鮮明になる。これにより、消火器単体であっても、その劣化度を外観だけで容易に判別することができる。
また、本発明の1つ消火器は、開口部となる口部を有するとともに継ぎ目のない樹脂によって成形される消火剤貯蔵容器の外周表面上又はその上方に着脱可能に配置されるとともに紫外線を遮蔽する消火器用被覆部材を備える。
この消火器によれば、消火剤貯蔵容器のうち消火器用被覆部材に覆われる部分と消火器用被覆部材に覆われない部分との間で、紫外線を受ける量が異なる。従って、消火器用被覆部材に覆われる部分と消火器用被覆部材に覆われない部分とが隣接するために、その劣化度の差が、外観上、時間の経過とともにより鮮明になる。すなわち、上述の構成が採用されることにより、劣化度のコントラストの明確さが得られる。これにより、消火器単体であっても、その劣化度を外観だけで容易に判別することができる。また、この消火器用被覆部材は、着脱可能であるため、消火剤貯蔵容器の外周表面上又はその上方から一旦剥離した消火器用被覆部材を再度同じ場所に貼り付けることができる。従って、消火器の耐用年数の間を通じて単一の消火器用被覆部材を消火剤貯蔵容器の外周表面上又はその上方に配置させることができる。すなわち、上述の構成が採用されることにより、点検の都度、消火器用被覆部材を貼り換えることを要しないため、点検の負担を軽減することができる。
また、本発明の他の1つの消火器は、開口部となる口部を有するとともに継ぎ目のない樹脂によって成形される消火剤貯蔵容器の外周表面上又はその上方に前述の消火剤貯蔵容器の少なくとも一部の側面の全周を覆うように配置されるとともに紫外線を遮蔽する被覆部材であって、その被覆部材は、孔部又は切欠き部を有する消火器用被覆部材を備える。
この消火器によれば、消火剤貯蔵容器のうち消火器用被覆部材に覆われる部分と消火器用被覆部材の孔部又は切欠き部に対応する部分との間で、紫外線を受ける量が異なる。従って、消火器用被覆部材に覆われる部分の劣化度と消火器用被覆部材の孔部又は切欠き部に対応する部分の劣化度との差が、外観上、時間の経過とともにより鮮明になる。これにより、消火器単体であっても、その劣化度を外観だけで容易に判別することができる。
また、本発明の他の1つの消火器は、開口部となる口部を有するとともに継ぎ目のない樹脂によって成形される消火剤貯蔵容器の外周表面上又はその上方に前述の消火剤貯蔵容器の一部の側面の全周を覆うように配置されるとともに紫外線を遮蔽する被覆部材であって、その被覆部材は、200nm以上380nm以下の波長のいずれの紫外線に対しても50%以上遮蔽する消火器用被覆部材を備える。
この消火器によれば、消火剤貯蔵容器のうち消火器用被覆部材に覆われる部分と消火器用被覆部材に覆われない部分との間で、紫外線を受ける量が異なる。従って、消火器用被覆部材に覆われる部分の劣化度と消火器用被覆部材に覆われない部分の劣化度との差が、外観上、時間の経過とともにより鮮明になる。これにより、消火器単体であっても、その劣化度を外観だけで容易に判別することができる。
なお、本出願において、紫外線遮蔽率とは、分光光度計により200nm乃至380nmの各波長の透過率(%)を測定し、100からその透過率の値を差し引いた値をいう。
本発明の消火剤貯蔵容器又は消火器によれば、樹脂製の消火剤貯蔵容器に特有の紫外線による劣化度を外観だけで容易に把握することができる。
本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。尚、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしもスケールどおりに示されていない。また、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
<第1の実施形態>
図1は、本実施形態の消火器100の全体外観図である。図2は、消火剤貯蔵容器11及び被覆部材12の側面図であり、図3は、消火剤貯蔵容器11及び被覆部材12の側面断面図である。
図1に示すように、本実施形態の消火器100は、消火剤60(例えば、粉末消火薬剤)が充填された消火剤貯蔵容器11と、消火剤貯蔵容器11の外周表面の上方に配置される被覆部材12と、消火剤貯蔵容器11の底部と嵌合して消火剤貯蔵容器11を支持する支持台50と、消火剤貯蔵容器11の上方に配設される消火器用ハンドレバー30と、消火剤貯蔵容器11内に貯蔵される消火剤60を消火器用ハンドレバー30に導くためのサイホン管70と、消火器用ハンドレバー30を操作することによりサイホン管70と流通可能に接続される消火剤ホース40とを備える。
また、消火器用ハンドレバー30は、蓋体31、固定レバー32、起動レバー33、起倒杆34、及び安全栓35を備えている。本実施形態では、安全栓35が起倒杆34と係合することにより、起動レバー33が固定レバー32に対して回動不可能な状態に固定される。また、安全栓35が起倒杆34との係合状態から解放されると、起動レバー33が固定レバー32に対して回動可能な状態になる。
加えて、図1乃至図3に示すように、本実施形態における消火剤貯蔵容器11は、消火剤貯蔵部13と、消火剤貯蔵部13の上部に位置する開口部に形成される雄ネジ部14とで構成される。この雄ネジ部14と消火器用ハンドレバー30とが螺合することにより、消火剤貯蔵容器11と消火器用ハンドレバー30とが固定される。尚、消火剤貯蔵容器11と消火器用ハンドレバー30との固定手段は、螺合に限られず、公知の接合手段が適用され得る。また、本実施形態の消火剤貯蔵容器11は、ポリエチレンナフタレート(PEN)によって形成されている。加えて、本実施形態の消火剤貯蔵容器11は、図1乃至図3に示すように、金属製の消火剤貯蔵容器のような継ぎ目が形成されていない。なお、本実施形態の消火剤貯蔵容器11は、ポリエチレンナフタレート(PEN)のみで形成されている。
次に、本実施形態の消火剤貯蔵容器11の製造方法について説明する。ポリエチレンナフタレート(PEN)製の消火器用貯蔵容器11は、延伸ブロー成形、溶融整形などの従来公知の樹脂成形方法により製造することができるが、この中でも、継ぎ目がなく、成形状態が良好で、かつ適度な肉厚の容器が得られる点で、延伸ブロー成形が好ましい。
このような消火剤貯蔵容器11の外周表面の上には、フィルム15が装着される。このフィルム15は、伸縮性又は熱収縮性のフィルムにより構成される。このため、消火剤貯蔵容器11は、フィルム15を消火剤貯蔵容器11に密着させた状態で装着することができる。
また、このフィルム15は、表面に顔料が印刷されるとともに、顔料を保護するための保護膜が顔料の上層に形成された複合材料である。フィルム15の一部を構成する保護膜は、一般的に紫外線照射による化学変化を含む劣化が起こり易く、この保護膜が紫外線照射によって劣化し、剥がれ落ち易くなると考えられる。このため、保護膜に紫外線が照射されることにより、保護膜が剥がれ落ちて顔料が剥き出しの状態になる。ここで、顔料には有機顔料と無機顔料とが存在する。有機顔料は、比較的耐候性が悪いため、無機顔料よりも紫外線や風雨等により剥がれ落ち易い性質を有すると考えられる。このため、顔料として有機顔料が採用されると、保護膜が剥がれ落ちた後、有機顔料が直接外気に曝されることにより剥がれ落ちる。従って、この場合には、劣化度のコントラストを際立たせることができる。他方、無機顔料は、有機顔料等の他の顔料よりも、粒子が粗く、外観から凹凸が鮮明に表れると考えられる。このため、顔料として無機顔料が採用されると、保護膜が剥がれ落ちた後、無機顔料が直接可視光線に照射される。従って、この場合には、無機顔料に照射された可視光線が乱反射することにより、視覚的には、経時変化によるコントラストを際立たせることができる。
ここで、被覆部材12は、フィルム15の上に着脱可能に接着される。また、被覆部材12は、紫外線を遮蔽する機能を有する。このため、フィルム15のうち被覆部材12に覆われる部分と被覆部材12に覆われない部分との間で、紫外線を受ける量が異なる。従って、フィルム15のうち被覆部材12に覆われる部分の劣化度と被覆部材12に覆われない部分の劣化度との差が、外観上、時間の経過とともにより鮮明になっていく。つまり、フィルム15のうち被覆部材12に覆われる部分と被覆部材12に覆われない部分との間で、紫外線の照射によって主として化学変化と考えられるフィルム15に含有される顔料の色の変化の度合いが異なっていく。その結果、紫外線照射によって変色した部分と変色が少ない部分が隣接した状況で視認されることなるため、観察者は、消火器100の新しさの度合い、換言すればその劣化度を外観だけで容易に判別できる。
また、被覆部材12が着脱可能であるため、フィルム15から一旦剥離した後も再度同じ場所に貼り付けることができる。従って、消火器100の耐用年数の間を通じて単一の被覆部材12をフィルム15の上方に配置させることができる。すなわち、点検の都度、被覆部材12を貼り換えることを要しないため、点検の負担を軽減することができる。
以下、消火器100の劣化度を判別する方法を、具体的に説明する。本実施形態の消火器100の劣化度を判別する際、先ず、観察者は、着脱可能な被覆部材12をフィルム15から剥離する。次に、フィルム15のうち被覆部材12に覆われていた部分と被覆部材12に覆われていなかった部分との色の相違を対比観察する。すなわち、観察者は、被覆部材12に覆われていた部分の変色度合いと、被覆部材12に覆われていなかった部分の変色度合いとを比較する。上述のとおり、フィルム15のうち被覆部材12に覆われる部分は、被覆部材12に覆われない部分よりも紫外線を受ける量が少ない。従って、消火フィルム15のうち被覆部材12に覆われていた部分の変色度合いよりも、被覆部材12に覆われていなかった部分(直接紫外線を受けていた部分)の変色度合いの方が強くなる。加えて、フィルム15のうち被覆部材12に覆われていた部分の変色度合いとフィルム15のうち被覆部材12に覆われていなかった部分の変色度合いとの差は、時間の経過とともに大きくなる。その結果、観察者は、その違いを1つの消火器100の中で、隣接する2つの領域を観察するだけで、フィルム15の劣化度を外観だけで容易に判別することができる。
ところで、紫外線による材料の劣化度を外見だけで容易に判別するためには、被覆部材12の紫外線遮蔽率が、200nm以上380nm以下のいずれの波長の紫外線に対しても50%以上であることが好ましい。この紫外線遮蔽率が採用されることにより、劣化度のコントラストを際立たせることになる。なお、本実施形態の被覆部材12の材料は、ポリエチレンテレフタレート(PET)である。これは、取扱性が良好であり、且つ、塩化ビニル等と比較して環境への負担を軽減できるためである。また、劣化度のコントラストを際立たせる観点から、本実施形態の被覆部材12の紫外線遮蔽率を200nm以上380nm以下のいずれの波長の紫外線に対しても80%以上とすることがさらに好ましく、200nm以上380nm以下のいずれの波長の紫外線に対しても90%以上とすることが最も好ましい。さらに、接着後の剥離及び剥離後の接着など繰り返しの着脱が可能である観点から、被覆部材12をフィルム15に接着させる接着剤の材料として、アクリル酸エステルモノマーを改質し剥離後の再接着性を持たせた接着剤等が採用され得る。
<第2の実施形態>
図4は、本実施形態の消火器200の全体外観図である。図5は、本実施形態の消火剤貯蔵容器11及び被覆部材の側面図であり、図6は、消火剤貯蔵容器11及び被覆部材の側面断面図である。
本実施形態の消火器200は、第1の実施形態のフィルム15の代わりに被覆部材としての紫外線遮蔽フィルム215が用いられ、かつ第1の実施形態の被覆部材12を備えない点以外は、第1の実施形態と同じ構成を備える。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略される。
図4乃至図6に示すとおり、本実施形態の紫外線遮蔽フィルム215は、消火剤貯蔵容器11の外周表面の上に装着される。この紫外線遮蔽フィルム215は、第1の実施形態のフィルム15と同様に伸縮性又は熱収縮性のフィルムで構成される。このため、紫外線遮蔽フィルム215は、消火剤貯蔵容器11に密着した状態で装着される。紫外線遮蔽フィルム215には、孔部216が形成される。なお、本実施形態の紫外線遮蔽フィルム215は可視光を透過するため、消火剤貯蔵容器11の樹脂材料の色が視認できる。また、紫外線による消火剤貯蔵容器11の樹脂材料の劣化度を外見だけで容易に判別するためには、紫外線遮蔽フィルム215の紫外線遮蔽率が、200nm以上380nm以下のいずれの波長の紫外線に対しても50%以上であることが好ましい。この紫外線遮蔽率が採用されることにより、劣化度のコントラストを際立たせることになる。また、本実施形態の紫外線遮蔽フィルム215の材料は、ポリエチレンテレフタレート(PET)である。これは、取扱性が良好であり、且つ、塩化ビニル等と比較して環境への負担を軽減できるためである。また、劣化度のコントラストを際立たせる観点から、本実施形態の紫外線遮蔽フィルム215の紫外線遮蔽率を200nm以上380nm以下のいずれの波長の紫外線に対しても80%以上とすることがさらに好ましく、200nm以上380nm以下のいずれの波長の紫外線に対しても90%以上とすることが最も好ましい。
本実施形態の消火器200の劣化度、より具体的には、消火剤貯蔵容器11の樹脂材料の劣化度を判別する際、観察者は、紫外線遮蔽フィルム215に覆われた消火剤貯蔵容器11と孔部216に対応する消火剤貯蔵容器11の色との相違を対比観察する。ここで、消火剤貯蔵容器11を構成する樹脂材料は、紫外線が照射されることにより化学反応を起こし、劣化すると考えられている。この劣化は色の変化(例えば、黄ばみ等)や材質の変質(例えば、割れ等)の視覚として認識できる変化として現れる。従って、消火剤貯蔵容器11のうち被覆フィルム15に覆われる部分と孔部216に対応する部分との間で、変色(又は変質)の度合いが異なっていく。すなわち、孔部216に対応する消火剤貯蔵容器11の変色(又は、変質)の度合いと、その孔部216に隣接する紫外線遮蔽フィルム215に覆われた消火剤貯蔵容器11の変色(又は、変質)の度合いとが比較される。上述のとおり、消火剤貯蔵容器11のうち、紫外線遮蔽フィルム215に覆われる部分の消火剤貯蔵容器11の変色(又は、変質)の度合いよりも、孔部216のために直接紫外線の照射を受けていた消火剤貯蔵容器11の一部の変色(又は、変質)の度合いの方が強くなる。加えて、紫外線遮蔽フィルム215に覆われていた部分の消火剤貯蔵容器11の変色(又は、変質)の度合いと孔部216に対応する消火剤貯蔵容器11の一部の変色(又は、変質)の度合いとの差は、時間の経過とともに大きくなる。観察者は、その違いを1つの消火器200の中で、隣接する2つの領域を観察するだけで、消火剤貯蔵容器11を構成する樹脂材料の劣化度を容易に判別することができる。このような消火器200であれば、第1の実施形態の消火器100のように別途被覆部材を備えることを要しないため、点検時に被覆部材12を剥離せずとも一見して劣化度を判別することができる。
なお、本実施形態では、紫外線遮蔽フィルム215は可視光を透過するため、その紫外線遮蔽フィルム215に覆われた消火剤貯蔵容器11の表面の色を視認することができるが、紫外線遮蔽フィルム215はこれに限定されない。仮に、紫外線遮蔽フィルム215が可視光を透過しない場合であっても、その孔部216に隣接する領域の紫外線遮蔽フィルム215の一部を剥がしたり、その一部を切除することによって変色度合いの違いを容易に確認することができる。
<第3の実施形態>
図7は、本実施形態の消火剤貯蔵容器11及び被覆部材の側面図であり、図8は、消火剤貯蔵容器11及び被覆部材の側面断面図である。
本実施形態の消火器は、第1の実施形態のフィルム15の代わりに被覆部材としての紫外線遮蔽フィルム315が用いられ、かつ第1の実施形態の被覆部材12を備えない点以外は、第1の実施形態と同じ構成を備える。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略される。
図7及び図8に示すとおり、本実施形態の紫外線遮蔽フィルム315は、消火剤貯蔵容器11の外周表面の上に消火剤貯蔵容器11の少なくとも一部の側面の全周を覆うように装着される。より詳細には、紫外線遮蔽フィルム315は、消火剤貯蔵部13の円筒状領域である胴部13aの外周表面上に装着され、断面が曲面状となる肩部13bの一部及び底部13cの一部の外周表面上に装着されていない。このため、紫外線遮蔽フィルム315の消火剤貯蔵容器11への装着を簡易に行うことができる。さらに、紫外線遮蔽フィルム315は、第1の実施形態のフィルム15と同様に、伸縮性又は熱収縮性のフィルムで構成される。このため、紫外線遮蔽フィルム315を消火剤貯蔵容器11に密着させた状態で装着することができる。なお、紫外線による劣化度を外見だけで容易に判別するためには、紫外線遮蔽フィルム315の紫外線遮蔽率が、200nm以上380nm以下のいずれの波長の紫外線に対しても50%以上であることが好ましい。この紫外線遮蔽率が採用されることにより、劣化度のコントラストを際立たせることになる。加えて、本実施形態の紫外線遮蔽フィルム315を構成する材料は、ポリエチレンテレフタレート(PET)である。これは、取扱性が良好であり、且つ、塩化ビニル等と比較して環境への負担を軽減できるためである。また、劣化度のコントラストを際立たせる観点から、本実施形態の紫外線遮蔽フィルム315の紫外線遮蔽率を200nm以上380nm以下のいずれの波長の紫外線に対しても80%以上とすることがさらに好ましく、200nm以上380nm以下のいずれの波長の紫外線に対しても90%以上とすることが最も好ましい。
上述の消火剤貯蔵容器11の樹脂材料の劣化度を判別する際、観察者は、紫外線遮蔽フィルム315に覆われた消火剤貯蔵容器11と肩部13bの一部又は底部13cの一部との色の相違を対比観察する。すなわち、肩部13bの一部又は底部13cの一部の変色(又は、変質)の度合いと、その肩部13bの一部又は底部13cの一部に隣接する紫外線遮蔽フィルム315に覆われた消火剤貯蔵容器11の変色(又は、変質)の度合いとが比較される。上述のとおり、消火剤貯蔵容器11のうち、紫外線遮蔽フィルム315に覆われる部分の消火剤貯蔵容器11の変色(又は、変質)の度合いよりも、直接紫外線の照射を受けていた肩部13bの一部又は底部13cの一部の変色(又は、変質)の度合いの方が強くなる。加えて、紫外線遮蔽フィルム315に覆われていた部分の消火剤貯蔵容器11の変色(又は、変質)の度合いと肩部13bの一部又は底部13cの一部の変色(又は、変質)の度合いとの差は、時間の経過とともに大きくなる。観察者は、その違いを1つの消火器の中で、隣接する2つの領域を観察するだけで、消火剤貯蔵容器11を構成する樹脂材料の劣化度を容易に判別することができる。このような消火器であれば、第1の実施形態の消火器100のように別途被覆部材を備えることを要しないため、点検時に被覆部材12を剥離せずとも一見して劣化度を判別することができる。
<第4の実施形態>
図9は、本実施形態の消火剤貯蔵容器11及び被覆部材12の側面図であり、図10は、消火剤貯蔵容器11及び被覆部材12の側面断面図である。
本実施形態の消火器は、第1の実施形態のフィルム15を備えない点以外は、第1の実施形態と同じ構成を備える。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略される。
図9及び図10に示すとおり、本実施形態の被覆部材12は、消火剤貯蔵容器11の外周表面上に着脱可能に接着される。
上述の構成の消火剤貯蔵容器11の樹脂材料の劣化度を判別する際、先ず、観察者は、着脱可能な被覆部材12を消火剤貯蔵容器11から剥離する。次に、消火剤貯蔵容器11のうち、被覆部材12に覆われていた部分と被覆部材12に覆われていなかった部分との色の相違を対比観察する。すなわち、被覆部材12に覆われていた部分の変色(又は、変質)の度合いと、被覆部材12に覆われていなかった部分の変色(又は、変質)の度合いとが比較される。上述のとおり、消火剤貯蔵容器11のうち、被覆部材12に覆われていた部分の消火剤貯蔵容器11の変色(又は、変質)の度合いよりも、直接紫外線の照射を受けていた被覆部材12に覆われていなかった部分の変色(又は、変質)の度合いの方が強くなる。加えて、被覆部材12に覆われていた部分の消火剤貯蔵容器11の変色(又は、変質)の度合いと被覆部材12に覆われていなかった部分の消火剤貯蔵容器11の変色(又は、変質)の度合いとの差は、時間の経過とともに大きくなる。観察者は、その違いを1つの消火器の中で、隣接する2つの領域を観察するだけで、消火剤貯蔵容器11を構成する樹脂材料の劣化度を容易に判別することができる。このような消火器であれば、第1の実施形態の消火器100のように別途フィルム15を備えることを要しないため、フィルム15のコストを低減することができる。
ところで、上述の第1の実施形態における被覆部材12、第2の実施形態における紫外線遮蔽フィルム215、及び第3の実施形態における紫外線遮蔽フィルム315の材料をポリエチレンテレフタレート(PET)が採用されているが、これに限定されない。例えば、塩化ビニルが、第1の実施形態における被覆部材12、第2の実施形態における紫外線遮蔽フィルム215、及び第3の実施形態における紫外線遮蔽フィルム315の材料として採用されても、本発明の少なくとも一部の効果が奏されると考えられる。但し、環境への影響を考えると、ポリエチレンテレフタレート(PET)が採用される方が好ましい。
また、上述の第1の実施形態では、消火剤貯蔵容器11の外周表面上にフィルム15を装着しているが、本実施形態のように、フィルム15無しに消火剤貯蔵容器11の外周表面上に直接、被覆部材12を接着してもよい。但し、消火剤貯蔵容器11の保護及び/又は意匠性向上のための印刷、装飾の容易性の観点から、フィルム15を装着する方が好ましい。
また、上述の第1の実施形態では、上下左右の4方向に紫外線遮蔽率の異なる部材としてのフィルム15が一様に配置されるように被覆部材12を接着しているが、これに限定されない。被覆部材12をフィルム15の上端又は下端に接着し、被覆部材12の全周に紫外線遮蔽率の異なる部材としてのフィルム15及び消火剤貯蔵容器11が配置されてもよい。同様に、被覆部材12をフィルム15と消火剤貯蔵容器11とを架橋するように接着してもよい。なお、被覆部材12の形状は、円形、多角形、又は円形と多角形とを組み合わせた形状等が採用され、特にその形状は限定されない。意匠性を高めるために、面白い形状を有する被覆部材12が採用されることは好ましい一態様である。
また、上述の第1の実施形態では、フィルム15の一部を構成する顔料として有機顔料及び無機顔料の例を挙げているが、これに限定されない。フィルム15の一部を構成する顔料として、他の顔料が採用されても良い。但し、劣化度のコントラストを際立たせる観点から、有機顔料や無機顔料が採用されることが好ましい。また、周囲環境にもよるが、有機顔料の風雨等による剥がれ落ちによるコントラストの際立ちの方が、無機顔料の凹凸を原因とする可視光線の乱反射によるコントラストの際立ちよりも明確であると考えられる。このことから、フィルム15を構成する顔料として有機顔料が採用されることが好ましい。
また、顔料が印刷されない材料がフィルム15として採用されても、消火剤貯蔵容器11自体の劣化度を外観だけで容易に判別することができる。すなわち、消火剤貯蔵容器11のうちその上方に被覆部材12が配置される部分の劣化度とその上方に被覆部材12が配置されない部分の劣化度との差が、外観上、時間の経過とともにより鮮明になっていく。より具体的には、消火剤貯蔵容器11のうちその上方に被覆部材12が配置される部分とその上方に被覆部材12が配置されない部分との間で、紫外線の照射によって主として化学変化と考えられる消火剤貯蔵容器11の色の変化(例えば、黄ばみ等)の度合い又は材料の変質(例えば、割れ等)の度合いが異なっていく。その結果、消火剤貯蔵容器11のうち紫外線照射によって変色(又は変質)した部分と変色(又は変質)が少ない部分が隣接した状況で視認されることなる。このため、観察者は、消火器100の劣化度を外観だけで容易に判別できる。但し、一般的には、顔料の変色の進度の方が、消火剤貯蔵容器11を構成する樹脂材料の変色(又は、変質)の進度よりも早い。このため、顔料が印刷された複合材料がフィルム15として採用される方が、顔料が印刷されない材料がフィルム15として採用されるよりも、より劣化度のコントラストを際立たせる点で好ましい。
また、上述の第2の実施形態では、上下左右の4方向に紫外線遮蔽率の異なる部材としての消火剤貯蔵容器11が一様に存在するように孔部216が形成されているが、これに限定されない。さらに、孔部216の形状は、円形、多角形、又は円形と多角形とを組み合わせた形状が採用され、特にその形状は限定されない。意匠性を高めるために、面白い形状を有する孔部216が採用されることは好ましい一態様である。
また、上述の第2及び第3の実施形態では、消火剤貯蔵容器11の外周表面上に直接、紫外線遮蔽フィルム215,315が装着されているが、これに限定されない。消火剤貯蔵容器11の外周表面上に紫外線遮蔽性能を有さないフィルムを装着させた上で、紫外線遮蔽フィルム215,315を装着してもよい。この構成が採用されることにより、消火剤貯蔵容器11表面の傷等を防止することができる。但し、フィルムの材料及び取付けを要する点で、消火剤貯蔵容器11の外周表面上に直接紫外線遮蔽フィルム215,315を装着する方が好ましい。
また、上述の第3の実施形態では、紫外線遮蔽フィルム315は、消火剤貯蔵部13の円筒状領域である胴部13aの外周表面上に装着されているが、これに限定されない。断面が曲面状となる肩部13bや底部13cの外周表面上に装着されていてもよい。すなわち、消火剤貯蔵容器11の外周表面上に少なくとも一部の側面の全周を覆うように装着されていれば、第3の実施形態と実質的に同様の効果が奏される。
また、上述の第2の実施形態及び第3の実施形態では、第1の実施形態のフィルム15を備えない構成が採用されているが、これに限定されない。第2の実施形態における紫外線遮蔽フィルム215の下方で、かつ、消火剤貯蔵容器11の上方に、顔料が印刷されたフィルム15が配置される構成が採用されてもよい。また、第3の実施形態における紫外線遮蔽フィルム315の下方で、かつ、消火剤貯蔵容器11の上方に顔料が印刷されたフィルム15が配置される構成が採用されることも好ましい一態様である。このような構成を採用することにより、劣化度のコントラストをさらに際立たせることができる。
加えて、上述の各実施形態では、1箇所に被覆部材、孔部、又は紫外線遮蔽フィルムが配置されていたが、これに限定されない。互いに離れた位置に(例えば、等間隔に)複数の被覆部材、孔部、又は紫外線遮蔽フィルムが配置されることも好ましい一態様である。消火器の設置環境によっては、紫外線が全く照射されないような場所に被覆部材、孔部、又は紫外線遮蔽フィルムが位置する可能性も考えられる。そこで、それらが複数箇所に配置されることにより、劣化度を判別する指標となる被覆部材、孔部、又は紫外線遮蔽フィルムに対して全く紫外線が照射されなくなるという状況を回避することができる。具体的な一例として、図11は、第1の実施形態の変形例である消火器150を示している。
さらに、上述の各実施形態では、消火剤貯蔵容器11を構成する樹脂としてポリエチレンナフタレートが採用されているが、これに限定されない。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ジカルボン酸成分として主にナフタレンジカルボン酸またはテレフタル酸、ジオール成分として主にエチレングリコール又はブタンジオールを用いて重縮合させて得られたポリエステル樹脂、又はこれらのポリエステル樹脂を主とする材料が消火剤貯蔵容器の材料として採用されても、本発明の少なくとも一部の効果が奏されると考えられる。換言すれば共重合ポリエステル樹脂であれば、本発明の少なくとも一部の効果が奏されると考えられる。
また、他の採用し得る消火剤貯蔵容器11の材料の一例として、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリスチレン、又はポリカーボネートが挙げられる。但し、上述の全ての材料の中でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)が採用されることが、強度の観点から好ましい。また、透明性を高めるためには、ポリエチレンナフタレート(PEN)を単独で、又はポリエチレンナフタレート(PEN)を主とし、ポリエチレンテレフタレート(PET)を従とするブレンド材料が採用されることが好ましい。さらに、透明性、強度、及びガスバリア性の観点から、ポリエチレンナフタレート(PEN)が単独で採用されることが最も好ましい。すなわち、ポリエチレンナフタレート(PEN)が採用されることにより、適度な透明性を維持しつつ高強度の消火剤貯蔵容器がより確度高く得られる。
上述の各実施形態の消火器の消火剤貯蔵容器に充填される消火剤の種類は特に限定されない。消火剤容器を構成する樹脂への影響がない限り、公知のいかなる消火剤も採用することできる。例えば、粉末消火器としても使用することができる。また、消火剤の充填方法、及びホースやノズルなどの構成部品の材質と形状等については、従来から提案されているものを適宜採用することができる。
また、消火剤の放射方式として、加圧式又は蓄圧式のどちらも採用され得る。但し、上述の各実施形態は蓄圧式の消火器であり、従来の消火器と同等以上の高圧の消火剤にも対応しうる点は特筆に値する。さらに、消火剤貯蔵容器を構成する樹脂は、変色の防止や耐候性の向上のために、光安定剤、紫外線吸収剤、老化防止剤などの公知の添加剤を適宜配合することができる。以上、述べたとおり、本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。