JP5135746B2 - リチウムイオン二次電池とその製造方法 - Google Patents
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Description
リチウム吸蔵材料は、リチウムを吸蔵すると体積が増加し、リチウムを放出すると体積が減少する。すなわち、リチウムイオン二次電池を充電するときにリチウム吸蔵材料の体積が増加し、リチウムイオン二次電池が放電するときにリチウム吸蔵材料の体積が減少する。リチウム吸蔵材料の体積の増減が繰り返されると、リチウム吸蔵材料を覆っている炭素元素を含有する材料の結晶に亀裂が入り、炭素元素を含有する材料が微粒化する。炭素元素を含有する材料が微粒化すると、負極の集電体と負極活物質の間を電子が移動しにくくなる。その結果、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が増大する。従来のリチウムイオン二次電池は、充放電を繰り返すに従って内部抵抗が増大する。
カーボンナノチューブの内側空間にリチウム吸蔵材料を収容する技術が、特許文献2にも開示されている。
しかしながら、カーボンナノチューブの内側空間にリチウム吸蔵材料を収容したとしても、カーボンナノチューブと負極の集電体が接していない場合には、カーボンナノチューブと集電体の間の電子の移動抵抗が大きくなり、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が大きくなってしまう。従来の技術では、カーボンナノチューブの内側空間にリチウム吸蔵材料を収容した後に、そのカーボンナノチューブを集電体の表面に成型している。カーボンナノチューブはアスペクト比が高いために、カーボンナノチューブを形成した後に集電体の表面に成型すると、集電体に接していないカーボンナノチューブが存在してしまう。集電体に接していないカーボンナノチューブと集電体の間は、電子が直接移動することができないため、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が増大する。
本発明では、円筒状の炭素構造体と集電体の間を、電子が直接移動することができる技術を実現することによって、リチウムイオン二次電池の内部抵抗の増大を抑制する。
炭素構造体の端部が集電体に結合していない場合には、各々の炭素構造体のアスペクト比が高いために、炭素構造体が束状になりやすい。炭素構造体が束状になってしまうと、集電体に接しない炭素構造体が存在してしまう。集電体に接していない炭素構造体と集電体の間は、電子が直接移動することができない。炭素構造体と集電体の間の電子の移動抵抗が大きくなり、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が大きくなってしまう。
(1)(m2/m1)≦(d2×r12)/(3×d1×(r22−r12))
(2)r1<500nm
を同時に満足するように選定されていることが好ましい。
上記のリチウムイオン二次電池によると、(1)式を満足するために、リチウム吸蔵材料がリチウムを吸蔵して体積が増加しても、リチウム吸蔵材料の体積が炭素構造体の内側空間の体積を超えることがない。
また(2)式を満足するために、リチウム吸蔵材料が炭素構造体の内側空間から外に移動してしまうことを抑制できる。炭素構造体の内径が500nmよりも大きい場合、炭素構造体の内側空間のポテンシャルが高く、リチウム吸蔵材料が炭素構造体の内壁に物理的に吸着している力が弱く、リチウム吸蔵材料の体積が炭素構造体の内側空間の体積を超えないにもかかわらず、リチウム吸蔵材料が炭素構造体の内側空間から外に移動してしまうことが起こりやすい。それに対し、炭素構造体の内径が500nm以下の場合、炭素構造体の内壁の相互作用によって、炭素構造体の内側空間のポテンシャルが低くなる。その結果、リチウム吸蔵材料が炭素構造体の内側空間にミクロ孔充填(マイクロポアフィリング)される現象が得られ、リチウム吸蔵材料が炭素構造体の内壁に物理的に吸着している力が強く、リチウム吸蔵材料の体積が炭素構造体の内側空間の体積を超えない限り、リチウム吸蔵材料が炭素構造体の内側空間から外に移動してしまうことがない。
(1)、(2)式を同時に満足することによって、リチウムイオン二次電池の充電と放電のサイクルを繰り返しても、リチウム吸蔵材料が炭素構造体の内側空間から外にでてしまうことがない(少なくとも外にでてしまうことが抑制される)。充放電サイクルを繰り返しても、リチウムイオン二次電池の電池容量が低下することが抑制される。
炭素構造体の終端の炭素原子は不対電子を有している。不対電子は化学的に不安定なため、他の物質との反応性が高い。炭素構造体を構成している終端の炭素原子(不対電子を有する炭素原子)に水素が結合していない場合、その不対電子に、電解液を構成している化合物や負極材料として使用されている高分子化合物が結合しやすい。すなわち、炭素構造体の開口の端部に、化合物の分子鎖が形成されやすい。分子鎖が形成されると、その分子鎖が炭素構造体の開口を塞いでしまい、炭素構造体の内側空間にリチウムイオンが出入りしづらくなる。
炭素構造体を構成している終端の炭素原子に水素原子が結合していると、化学的に安定し、他の物質との反応性が低くなる。上記の技術によると、リチウムイオン二次電池を充放電するときに、リチウムイオンが炭素構造体の端部に形成されている開口を経由して炭素構造体の内側空間に出入りしやすい特性を得ることができる。
上記の製造方法によると、内部抵抗の小さいリチウムイオン二次電池を製造することができる。
(1)(m2/m1)≦(d2×r12)/(3×d1×(r22−r12))
(2)r1<500nm
を同時に満足するように実施することが好ましい。
上記の製造方法によると、放充電サイクルを繰り返しても、電池容量が低下しづらく、内部抵抗が増大しづらいリチウムイオン二次電池を製造することができる。
上記の製造方法によると、集電体の表面と触媒の間に炭素元素を有する材料を供給することができ、集電体の表面と触媒の間に円筒状の炭素構造体を成長させることができる。形成する触媒の範囲を制御することによって炭素構造体が成長する範囲を制御することができる。炭素構造体の数やサイズを制御することもできる。
例えば気化したリチウム吸蔵材料を炭素構造体の内壁に析出させる等の手法によって、炭素構造体の少なくとも内壁にリチウム吸蔵材料を成長させることができる。なお本発明は、炭素構造体の内側空間に収容されているリチウム吸蔵材料を確保することが重要であって、炭素構造体の外側にまでリチウム吸蔵材料が存在してもよい。
上記の製造方法によると、炭素構造体の開口している端部において、炭素構造体を構成している終端の炭素原子に結合している化合物を脱離させ、それに代わって終端の炭素原子に水素を結合させることができる。炭素構造体の端部の開口から炭素構造体の内側空間にリチウムイオンが出入りしやすくすることができる。
(第1形態) 円筒状の炭素構造体に、多層カーボンナノチューブを使用する。
(第2形態) リチウム吸蔵材料に、スズ(Sn)を使用する。
(第3形態) 負極用集電体の表面にNiO2の粉末を付着した状態で還元雰囲気で熱処理する。すると負極用集電体の表面にNiが形成される。この場合、負極用集電体の随所で、Niで覆われず負極用集電体の表面が露出している。
(第4形態) 表面に触媒が形成されている負極用集電体に炭素原料を含むガスを供給しつつ、300〜1000℃で加熱する。
(第5形態) 負極用集電体の表面にカーボンナノチューブを形成した後、カーボンナノチューブとスズを同じ密閉空間に配置し、900℃で10〜20分加熱する。
図面を参照して本実施例のリチウムイオン二次電池の負極の構造を説明する。図1は、リチウムイオン二次電池の負極10の斜視図を模式的に示している。負極10は、1枚の銅箔12と、複数本のカーボンナノチューブ16と、各々のカーボンナノチューブ16の内側空間に収容されているスズ(Sn)で構成されている。図2(a),(b)は、1本のカーボンナノチューブ16の中心軸に沿った断面図を示している。
図1に示すように、カーボンナノチューブ16は、両端が開口している円筒状である。各々のカーボンナノチューブ16の内側空間に、スズ(Sn)18が収容されている。各々のカーボンナノチューブ16の一方の端部は、銅箔12に結合している。カーボンナノチューブ16と銅箔12は、ファンデルワールス(van der Waals)力によって物理的に吸着している。
図2(a),(b)を参照して、カーボンナノチューブ16とリチウム吸蔵材料(スズ)18の関係について説明する。図2(a)は、リチウム吸蔵材料18がリチウムを放出した状態(リチウムイオン二次電池が放電した状態)を示しており、図2(b)は、リチウム吸蔵材料18がリチウムを吸蔵した状態(リチウムイオン二次電池を充電した状態)を示している。リチウム吸蔵材料18がリチウムを吸蔵した状態の体積は、リチウム吸蔵材料18がリチウムを放出した状態の体積の約3倍である。リチウム吸蔵材料18がリチウムを吸蔵しても、リチウム吸蔵材料18はカーボンナノチューブ16の内側空間の体積を超えない。
カーボンナノチューブ16は、両端が開口している円筒状の炭素構造体の一例であり、銅箔12は、集電体の一例であり、スズ18は、リチウム吸蔵材料の一例である。
カーボンナノチューブ16の紙面上下方向の距離をL1とし、リチウムを吸蔵していない状態のリチウム吸蔵材料の紙面上下方向の距離をL2とすると、次の式(3)が成立すれば、v1≧3×v2の関係が得られる。
L1≧3×L2 (3)
カーボンナノチューブ16の質量をm1、カーボンナノチューブ16の内径(ここでは半径で内径をあらわす)をr1、カーボンナノチューブの外径(ここでは半径で外径をあらわす)をr2、カーボンナノチューブの真密度をd1とすると、次の式(4)、(5)が得られる。
v1=π×(r22−r12)×L1 (4)
v1=m1/d1 (5)
リチウム吸蔵材料18の質量をm2、リチウム吸蔵材料の真密度をd2とすると、次の式(6)、(7)が得られる。
v2=π×r12×L2 (6)
v2=m2/d2 (7)
式(4)、(5)より、次の式(8)が得られる。
L1=m1/(d1×π×(r22−r12)) (8)
式(6)、(7)より、次の式(9)が得られる。
L2=m2/(d2×π×r12) (9)
式(3)に、式(8),(9)を代入することによって、次の式(1)が得られる。
(m2/m1)≦(d2×r12)/(3×d1×(r22−r12)) (1)
本実施例では、式(1)を満足するように、カーボンナノチューブ16の内側空間にリチウム吸蔵材料18が収容されている。リチウム吸蔵材料18がリチウムを吸蔵し、リチウム吸蔵材料18の体積が増加しても、カーボンナノチューブ16の内側空間はリチウム吸蔵材料18を収容し続ける大きさを備えている。
さらに、本実施例のカーボンナノチューブ16は、内側空間の半径r1が、次式(2)を満足している。
r1<500nm (2)
式(2)を満足することによって、リチウム吸蔵材料18がカーボンナノチューブ16の内側空間にミクロ孔充填される。リチウム吸蔵材料18が、カーボンナノチューブ16の内側空間からカーボンナノチューブ16の外部に移動しようとしても、リチウム吸蔵材料18とカーボンナノチューブ16の内壁の間に強い引力(ファンデルワールス力)が働くために、リチウム吸蔵材料18がカーボンナノチューブ16の内側空間から外に移動することがない。リチウム吸蔵材料18の体積がカーボンナノチューブ16の内側空間の体積を越えない限り、リチウム吸蔵材料18がカーボンナノチューブ16の外部に移動することがない。
真密度d1,d2は既知の値を使用することができるため、カーボンナノチューブ16の形状と、カーボンナノチューブ16とリチウム吸蔵材料18の質量を測定することによって、上記式(1),(2)を満足するように調整することができる。
本実施例の負極10は、上記式(1)、(2)を同時に満足している。その負極10を利用してリチウムイオン二次電池を製造すると、リチウムイオン二次電池が充放電を繰り返しても、リチウムイオン二次電池の電池容量が低下することが抑制される。また、内部抵抗の上昇も抑制される。
それに対して、図7(a)は、カーボンナノチューブ16の終端の炭素原子に、高分子化合物が結合している場合を示している。図7(a)のような状態では、リチウムイオンがカーボンナノチューブ16の開口を通過しづらい。
なお、これ以降の製造方法で説明するカーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブである。
(第1製造方法)
図3〜5を参照して、第1製造方法について説明する。本製造方法では、触媒を利用して負極の集電体12の表面にカーボンナノチューブを成長させる。まず、直径20〜50nmのNiO2を5g用意して、アセトン20mL中に分散させる。ホモジナイザー(出力:100W、時間:10分)を用いてNiO2を分散させる。次に、NiO2を分散させたアセトン中に銅箔12(10mm×10mm×厚み1mm)を浸し、銅箔12をアセトン中から速度1.0mm/秒で取り出す。その後、銅箔12を大気中に1時間放置し、自然乾燥させる。
次に、銅箔12を電気炉(横置きのシリコニット電気炉、石英管の内径は12mm)内に配置する。次に、電気炉内に還元ガス(10%の水素(H2)と、90%の窒素(N2))を供給し、電気炉内の雰囲気が十分に還元ガスで置換された後に、銅箔12を300℃で1時間熱処理する。還元ガスは、熱処理中も電気炉内に供給し続ける。この結果、銅箔12の表面に付着している触媒が還元される(すなわち、NiO2がNiになる)。この段階で、図3に示すように、銅箔12の表面にカーボンナノチューブ16を成長させるための触媒20が形成される。触媒20は不連続であり、随所で銅箔12の表面が露出している(図3では、触媒20が島状に形成されている)。
次に、電気炉内に蒸発させた炭素原料ガス(例えば、窒素、メタノール(CH3OH)、水素の体積比が、8:1:1の混合ガス)を供給し、電気炉内の雰囲気が十分に原料ガスで置換された後に、銅箔12を600℃で5時間熱処理する。炭素原料ガスは、熱処理中も電気炉に供給し続ける(供給速度:100mL/分)。また、炭素原料ガスは、電気炉に供給される前の経路内で120℃に加熱してから電気炉に供給する。すると、図4に示すように、触媒20と集電体12の間にカーボンナノチューブ16が成長する。
次に、カーボンナノチューブ16から触媒20を除去する工程について説明する。図4に示している銅箔12を電気炉から取り出し、銅箔12とカーボンナノチューブ16と触媒20を、希塩酸(5%HCl)中に3時間浸漬する。すると、カーボンナノチューブ16から触媒20が除去され、図5に示すように、銅箔12の表面にカーボンナノチューブ16が成長している状態になる。
本製造方法では、CVD(Chemical Vapor Deposition)室と、複数のガスを混合させることができるガス予混合室と、ガス予混合室の混合ガスをCVD室内に供給することができる分子ビームノズルと、CVD室内に配置されている加熱ステージを有する装置を使用して負極10を製造する。
まず、硫酸スズ40g/L、硫酸150g/L、ホルマリン5cc/L、添加剤(商品名:プレサPMK-20、上村工業(株)製)40cc/Lを混合した電解溶液を用意し、電解溶液中に銅箔(10mm×10mm×厚み1mm)12を浸漬させる。次に、銅箔12を負極として通電し、銅箔12の表面にスズ膜22を形成する。
混合ガスを、銅箔12に対して所定時間吹き付けることによって、スズ膜22を厚み方向に貫通するカーボンナノチューブ16が成長する。カーボンナノチューブの内側の空間にスズが収容されている。
本製造方法は、第1,2製造方法で得られた負極をさらに処理し、リチウムイオンが、カーボンナノチューブ16の開口を、出入りしやすくするための方法である。
図7(a)に示しているように、カーボンナノチューブ16の終端の炭素原子には、高分子化合物が結合している。図7(a)のような状態では、リチウムイオンがカーボンナノチューブ16の開口を進退しづらい。そこで、カーボンナノチューブ16の終端の炭素原子に結合している高分子化合物を、炭素原子から脱離させる。
カーボンナノチューブ16の内側の空間にスズ18が配置が配置されている状態の負極12を用意し、石英管中に配置する。石英管中を、1×10−1Torr以下(好ましくは1×10−3Torr以下)に減圧し、石英管を400℃以上(好ましくは600℃以上)で加熱する。または、石英管中に不活性ガス(アルゴン(Ar),ヘリウム(He),N2等)を供給し、石英管を400℃以上(好ましくは600℃以上)で加熱する。この段階で、カーボンナノチューブ16の終端の炭素原子に結合している高分子化合物が、炭素原子から脱離する。カーボンナノチューブ16の終端の炭素原子が、不対電子を有する。
次に、石英管内に1体積%以上(好ましくは10体積%以上)の水素を有するガスを供給する。このとき、ガス中に含まれる水素以外のガスは、不活性ガス(Ar,He,N2等)とする。次に、石英管を400℃以上(好ましくは600℃以上)で加熱する。この段階で、図7(b)に示すように、カーボンナノチューブ16の終端の炭素元素に水素が結合する。
第1製造方法において、カーボンナノチューブ16内にスズ18を収容する工程で、石英管を加熱する時間を下記の5条件に変化させ、サンプルA〜Eの負極10を製造した。
サンプルA:加熱時間10分
サンプルB:加熱時間20分
サンプルC:加熱時間30分
サンプルD:加熱時間40分
サンプルE:加熱時間50分
得られた負極10について、TEM(Transmission Electron Microscopy:透過電子顕微鏡)によるカーボンナノチューブ16の形状観察と、TG(Thermogravimetry:熱重量分析計)によるカーボンナノチューブ16とスズ18の質量測定を行った。カーボンナノチューブ16の内側空間に収容されているスズ18の質量m2と、カーボンナノチューブ16の質量m1と内径r1と外径r2の測定を行った。測定結果を表1に示す。
表1から明らかなように、石英管を10〜20分加熱することによって、カーボンナノチューブ16の内側空間に、適切な量のスズを配置することができる。換言すると、スズ(リチウム吸蔵材料)18がリチウムを吸蔵しても、スズ18の体積が、カーボンナノチューブ16の内側空間の体積を超えることがない。
サンプルA〜Eの負極10を作用極とし、対極と参照極にリチウム金属箔を用いた三電極式セルを製造した。三電極式セルの電解液は、溶質としてLiPF6を使用し、溶媒としてエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合液を使用した。三電極式セルに対して、充電と放電の繰り返しを1000サイクル実施し、充放電初期の電池容量に対する充放電1000サイクル目の電池容量の割合(以後、劣化率と称す。)(%)を計算した。
図8は、サンプルA〜Eを用いた三電極式セルの充放電初期の電池容量に対する充放電1000サイクル目の電池容量の劣化率を示している。縦軸は三電極式セルの電池容量の劣化率(%)を示し、横軸は各々のサンプル名を示している。
図8から明らかなように、サンプルA,Bは、サンプルC,D,Eよりも電池容量の劣化率が低い。すなわち、上記式(1)、(2)を満足するリチウムイオン二次電池は、充放電を繰り返しても電池容量が低下しづらいことを示している。
内側空間の半径r1(図2を参照)が100〜1000nmのカーボンナノチューブを用意し、第1製造方法で、各々のカーボンナノチューブの内部空間にスズを収容した。但し、各々のカーボンナノチューブの内側空間の半径r1によって、石英管内に収容するスズの量とスズを加熱する時間を変更し、上記式(1)を満足するようにした。
次に、各々のカーボンナノチューブと、蒸留水10mLと、カルボキシメチルセルロース0.01gを混錬し、銅箔12の表面に塗布した。次に、実験例2と同じように三電極式セルを製造した。三電極式セルの製造方法は、実験例2と実質的に同じため省略する。各々の三電極式セルの放充電の繰り返しを1000サイクル実施した。
図9は、三電極式セルの充放電初期の電池容量に対する充放電1000サイクル目の電池容量の劣化率を示している。グラフの縦軸は、三電極式セルの充放電初期の電池容量に対する充放電1000サイクル目の電池容量の劣化率(%)を示している。グラフの横軸は、カーボンナノチューブの内側空間の半径(nm)を示している。
図9から明らかなように、カーボンナノチューブの内側空間の半径が500nmよりも小さい場合は、三電極式セルの充放電初期の電池容量に対する充放電1000サイクル目の電池容量の劣化率が小さい。一方、カーボンナノチューブの内側空間の半径が500nm以上になると、三電極式セルの充放電初期の電池容量に対する充放電1000サイクル目の電池容量の劣化率が大きくなる。各々の負極活物質は、式(1)を満足している。すなわち、スズ(リチウム吸蔵材料)がリチウムを吸蔵しても、カーボンナノチューブの内側空間には、スズを収容する場所が存在する。カーボンナノチューブ内側空間の半径が500nm未満の場合は、カーボンナノチューブとスズの間にファンデルワールス力が働き、スズがカーボンナノチューブ内側空間から外に移動しないことを示している。一方、カーボンナノチューブの内側空間の半径が500nm以上になると、カーボンナノチューブの内壁とスズの間のファンデルワールス力が弱くなり、スズの体積がカーボンナノチューブの内側空間の体積を超えないにもかかわらず、スズが、カーボンナノチューブの内側空間から外に移動することを示している。スズが、カーボンナノチューブの内部空間から外に移動してしまうと、リチウムを吸蔵できる量が少なくなり、リチウムイオン二次電池の電池容量が小さくなる(劣化する)。
第2製造方法において、ガス予混合室内のアセチレンのガス分圧を1Torr、ガス予混合室内の水素のガス分圧を2Torrに設定し、混合ガスを分子ビームノズルから銅箔12に対して1時間吹き付けた。混合ガスを銅箔12に吹き付けている間、CVD室内の圧力は、10−4〜10−5Torrの範囲内に調整した。
得られた負極(サンプルFとする)の負極活物質について、TEMを使用して形状観察と結晶構造の解析を実施した。カーボンナノチューブの内側空間にスズが収容されていることが確認できた。また、TGを用いて解析した結果、サンプルFは上記式(1),(2)を満足することが確認できた。
実験例4で得られたサンプルFに対して、第3製造方法の処理を行った。すなわち、サンプルFを石英管中に配置し、石英管内を10−3Torrに減圧し、石英管を600℃で3hr加熱した。次に、石英管内に水素25体積%、窒素75体積%のガスを供給し、600℃で3hr加熱した(サンプルGとする)。実験例4で得られたカーボンナノチューブの終端の炭素原子に結合していた有機化合物(図7(a)を参照)が脱離し、図7(b)に示すように、終端の炭素原子に水素が結合する。
負極サンプルA,F,Gと下記の条件で製造した負極サンプルH,Iを用意し、実験例2と同じ構造の三電極式セルを製造した。三電極式セルの製造方法は、実験例2と実質的に同じため省略する。
サンプルH:銅箔(10mm×10mm×厚み1mm)12と、第2製造方法と同じ電解液を用意した。電解液中に銅箔12を負極として通電し、銅箔12の表面にスズを0.034g形成した。
サンプルI:実験例1で製造したサンプルAと同じ負極を用意し、カーボンナノチューブを銅箔から剥離させた。剥離させたカーボンナノチューブと、蒸留水10mLと、カルボキシセルロース0.01gを混合してペーストを作製した。このペーストを銅箔の表面に塗布し、80℃で乾燥させた。
図10は、サンプルA,F,G,H,Iを用いて作製した三電極式セルの充放電初期の電池容量に対する充放電1000サイクル目の電池容量の劣化率と、サンプルA,F,G,H,I用いて作製した三電極式セルの反応抵抗を示している。左の縦軸は、三電極式セルの電池容量の劣化率(%)を示し、右の縦軸は、三電極式セルの作用極と対極の間の反応抵抗(mΩ)を示している。横軸は、各々のサンプル名を示している。各々のサンプルの電池電容量劣化率は図10中に○で示し、各々のサンプルの反応抵抗は図10中に△で示している。
図10から明らかなように、サンプルAの反応抵抗よりもサンプルFの反応抵抗の方が小さい。すなわち、銅箔の表面に触媒を形成し、その触媒の活性を利用して銅箔の表面にカーボンナノチューブを成長させる方法(第1製造方法)で負極を製造よりも、銅箔の表面にスズを形成して、分子イオンビームからスズの表面に、カーボンナノチューブの原料を吹き付ける方法(第2製造方法)で負極を製造する方が反応抵抗が小さくなることを示している。
サンプルFとサンプルGを比較すると、サンプルFの反応抵抗よりもサンプルGの反応抵抗の方が小さい。すなわち、銅箔の表面に内側空間にスズを収容したカーボンナノチューブを成長させた後に、負極を水素雰囲気で熱処理する(第3製造方法)ことによって、反応抵抗をより効果的に小さくすることができることを示している。
サンプルHとサンプルA,F,Gを比較すると、サンプルHの電池容量劣化率よりもサンプルA,F,Gの電池容量劣化率の方が小さい。すなわち、サンプルHは、銅箔の表面に直接スズが形成されているため、三電極式セルの充放電を繰り返すことによって、銅箔からスズが剥離していることを示している。
サンプルIとサンプルAを比較すると、サンプルIの反応抵抗よりもサンプルAの反応抵抗の方が小さい。すなわち、銅箔の表面にカーボンナノチューブの一方の端部が結合することによって、反応抵抗を小さくできることを示している。
例えば、上記実施例では、負極の集電体として銅箔を利用している。しかしながら、集電体は銅に限られない。ニッケル箔、タンタル(Ta)箔等を利用することもできる。すなわち、電子導電性があり、リチウムと合金をつくりにくい材料であればよい。
上記実施例では、炭素構造体が多層カーボンナノチューブの場合について説明した。しかしながら、内側空間を有する他の炭素構造体を使用することもできる。例えば、グラファイトナノファイバー等を使用することができる。また、カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであっても、多層カーボンナノチューブであってもよい。多層カーボンナノチューブと単層カーボンナノチューブは、製造条件をコントロールすることで作り分けることができる。上記実施例では示していないが、単層カーボンナノチューブが好ましい場合もある。単層カーボンナノチューブは、電子伝導機構がバリスティック伝導のため、電気抵抗が低い。例えば、多層カーボンナノチューブ、グラファイトナノファイバー等の炭素構造体は、電子伝導機構がドリフト伝導のため、単層のカーボンナノチューブよりも電気抵抗が高い。また、単層のカーボンナノチューブは、1層のグラフェンシートで構成されており、炭素構造体に対するリチウム吸蔵材料の割合を高くすることができる。すなわち、リチウムイオン二次電池の電池容量を高くすることができる。さらに、単層カーボンナノチューブは機械的強度が高いため、製造工程において破壊しにくい。例えば、負極活物質の密度を高くするために、負極をプレスしても構造が壊れることがない。
上記実施例では、銅箔の表面にカーボンナノチューブを成長させる触媒として、Ni(NiO2を水素で還元)を使用している。Ni以外にも、Fe,Cu,W,Co,ランタン(La),Si,酸素(O),プラチナ(Pt),パラジウム(Pd),金(Au),Agから成る群から選択される少なくとも一種の元素を含む単体または化合物を使用することもできる。特に、Fe,Ni,Co,Pt,Pdから成る群から選択される少なくとも一種の金属を含む単体または化合物が好ましい。すなわち、銅箔の表面にカーボンナノチューブを成長させる触媒として、活性の高い単体または化合物が好ましい。
上記実施例では、カーボンナノチューブから触媒を除去するために、希塩酸を使用している。しかしながら、触媒(実施例ではニッケル)を溶出できる材料であればよく、塩酸,硝酸,及び硫酸のいずれか1つを含む材料を使用することもできる、また、カーボンナノチューブを不活性ガス雰囲気中に配置し、加熱することによって触媒を蒸発させてもよい。カーボンナノチューブを減圧雰囲気に配置し、加熱することによっても触媒を蒸発させることができる。
触媒を利用してカーボンナノチューブを成長させる温度は600℃に限らず、カーボンナノチューブを成長させる材料によって変更することができる。しかしながら、カーボンナノチューブを成長させる温度は300〜1000℃の範囲で決定することが好ましい。カーボンナノチューブを成長させる温度が300よりも低い場合、カーボンナノチューブを成長させる触媒が活性化しにくいため、カーボンナノチューブが成長しにくい。または、カーボンナノチューブを成長させるために長時間を要する。一方、カーボンナノチューブを成長させる温度が1000℃よりも高い場合、銅箔が溶融してしまう(銅の融点:1080℃)ことがある。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
12:負極集電体
16:炭素構造体
18:リチウム吸蔵材料
20:触媒
Claims (6)
- 集電体を用意する工程と、
一方の端部が集電体の表面に結合しているカーボンナノチューブの集団を集電体の表面に形成する工程と、
各々のカーボンナノチューブの少なくとも内側空間にリチウムを吸蔵可能なリチウム吸蔵材料を収容する工程を備えていることを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。 - リチウム吸蔵材料が錫であり、カーボンナノチューブの質量m1と内径r1と外径r2と真密度d1と、リチウム吸蔵材料の質量m2と真密度d2が、下記の式、
(1)(m2/m1)≦(d2×r12)/(3×d1×(r22−r12))
(2)r1<500nm
を同時に満足するように前記工程を実施することを特徴とする請求項1の製造方法。 - カーボンナノチューブの集団を集電体の表面に形成する工程において、
集電体の表面に集電体の表面が随所で露出する状態に触媒を形成する工程と、
その集電体の表面に炭素元素を有する材料を供給し、集電体の表面と触媒の間に、カーボンナノチューブ体を成長させる工程を備えていることを特徴とする請求項1又は2の製造方法。 - カーボンナノチューブの少なくとも内壁に、リチウム吸蔵材料を成長させる工程を備えていることを特徴とする請求項3の製造方法。
- 集電体の表面にリチウム吸蔵材料の層を形成する工程と、
分子ビームノズルからリチウム吸蔵材料層の表面に向けて炭素原料を供給する工程を備えており、
カーボンナノチューブが成長する現象と、そのカーボンナノチューブの内側空間にリチウム吸蔵材料を収容する現象を同時に進行させることを特徴とする請求項1又は2の製造方法。 - リチウム吸蔵材料を収容しているカーボンナノチューブを熱処理する工程を備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかの製造方法。
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