JP5131078B2 - 硬質非晶質炭素被覆部材およびその製造方法 - Google Patents

硬質非晶質炭素被覆部材およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、基材の表面に中間層を介して硬質非晶質炭素膜が被覆されてなる被覆部材に関するものである。
非晶質構造を有する硬質非晶質炭素(ダイヤモンドライクカーボン:DLC)は、耐摩耗性、固体潤滑性などの機械的特性に優れ、耐食性、絶縁性、可視光/赤外光透過率、酸素バリア性などを合わせもつ。そのため、DLC膜は、各種基材の表面に被覆され、保護膜として用いられることが多い。ところが、硬質なDLC膜は、基材に被覆された状態で非常に高い内部応力を有し、基材表面から剥離しやすいことが知られている。基材とDLC膜との密着性が低いと、DLC膜を厚く成膜するのが困難であったり、DLCが有する上記の特性が良好に発揮されなかったり、という問題がある。
基材とDLC膜との密着性を向上させる方法としては、基材の表面に適度の凹凸を形成してアンカー効果により両者の密着性を高める、DLC膜の内部応力を低減させる、等の方法がある。たとえば、特許文献1では、基材の表面に中間層を介して形成されたDLC膜において、中間層とDLC膜との間に中間層の成分と炭素とからなる混合成分層を設けて中間層とDLC膜との密着性を向上させることで、基材とDLC膜との密着性を向上させている。また、特許文献2には、基材の表面に中間層を介して形成され、基材から遠い部分ほど珪素の含有量が少ないDLC膜が開示されている。
特許文献3および特許文献4には、DLC膜が形成される表面の酸素濃度が高いと、その表面とDLC膜との密着性が低下することが記載されている。そのため、これらの文献では、DLC膜が形成される表面の酸素濃度を低減させることで、DLC膜の表面への密着性を向上させている。
特開2000−256850号公報 特開2006−161075号公報 特開2000−8155号公報 特開2006−250348号公報
アンカー効果では、基材の表面に凹凸を形成するのに高温処理を必要とすることがあり(特許第3453033号公報参照)、耐熱性の低い基材には不向きである。また、摺動部材のように表面にある程度の平滑性が必要な場合には、基材に形成された凹凸がDLC膜の表面に影響することがあるため、そのまま使用すると摺動特性が低下することもある。
特許文献1および特許文献2に記載のように中間層とDLC膜との間に他の層を形成したり、DLC膜の成分を傾斜させたり、といった場合には、成膜装置および成膜条件が複雑となり、成膜手順が煩雑となる。こうした成膜処理を大量に行うと膜厚や膜組成にバラツキが生じやすいため、十分な密着性が得られない場合もある。
また、既に述べたが、特許文献3および特許文献4に記載のように、DLC膜は酸化物のように酸素が存在する表面に密着しにくいとされていた。しかしながら、本発明者等は、中間層を介して基材に被覆されたDLC膜をもつ被覆部材では、中間層およびDLC膜の組成によっては、中間層に酸素が含まれることで中間層とDLC膜とが強固に密着することを新たに見出した。
すなわち、本発明は、基材と硬質な非晶質炭素膜との密着性に優れた新規の構成をもつ硬質非晶質炭素被覆部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明の硬質非晶質炭素被覆部材は、基材と、該基材の表面に形成されモリブデンおよび/またはチタンを含む中間層と、該中間層の表面に形成された硬質非晶質炭素膜と、を備え、
少なくとも前記中間層と前記硬質非晶質炭素膜との界面部において、該中間層は酸素および炭素を含み、該硬質非晶質炭素膜は珪素を含むことを特徴とする。
また、本発明の硬質非晶質炭素被覆部材は、基材と、該基材の表面に形成されアルミニウムを含む中間層と、該中間層の表面に形成された硬質非晶質炭素膜と、を備え、
少なくとも前記中間層と前記硬質非晶質炭素膜との界面部において、該中間層は酸素を含み、該硬質非晶質炭素膜は珪素を含むことを特徴とする。
本発明の硬質非晶質炭素被覆部材では、中間層と硬質非晶質炭素膜との界面部において、中間層は酸素(O)を、硬質非晶質炭素膜は珪素(Si)を含む。そのため、中間層と硬質非晶質炭素膜との界面では、SiとOとの強い結合が得られる。その結果、硬質非晶質炭素膜は、中間層を介して基材に強く密着する。また、界面部において中間層に炭素(C)が含まれる場合には、界面部で中間層の主成分と硬質非晶質炭素膜の主成分とが混在するため、界面部の硬質非晶質炭素膜の内部応力が緩和され、両者の密着性はさらに向上する。
上記の構成をもつ硬質非晶質炭素被覆部材であれば、たとえば300℃以下の低温で作製しても、硬質非晶質炭素膜は中間層を介して基材に強固に密着する。そのため、高温に曝されることで特性が劣化するような材料からなる基材であっても好適である。
本発明の硬質非晶質炭素被覆部材は、下記の本発明の硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法により容易に作製可能である。
本発明の硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法は、基材の表面にモリブデンおよび/またはチタンを含み少なくとも表面部に酸素を含む酸素含有金属層を形成する酸素含有金属層形成工程と、
前記酸素含有金属層の表面に炭素および珪素を堆積させて珪素を含む硬質非晶質炭素膜を形成するとともに該酸素含有金属層に該表面から炭素を拡散させる成膜拡散工程と、
を含むことを特徴とする。
また、本発明の硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法は、基材の表面にアルミニウムを含み少なくとも表面部に酸素を含む酸素含有金属層を形成する酸素含有金属層形成工程と、
前記酸素含有金属層の表面に炭素および珪素を堆積させて珪素を含む硬質非晶質炭素膜を形成する硬質非晶質炭素膜成膜工程と、
を含むことを特徴とする。
以下に、本発明の硬質非晶質炭素被覆部材およびその製造方法を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の硬質非晶質炭素被覆部材は、基材と、基材の表面に形成された中間層と、中間層の表面に形成された硬質非晶質炭素膜と、を備える。以下に、基材、中間層および硬質非晶質炭素膜について説明する。
[基材]
基材は、その形状や材質に特に限定はない。ただし、後に説明する中間層との密着性が高い材料からなる基材を用いるのが望ましい。したがって、少なくとも中間層が形成され部分が、鉄、鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、超硬合金、などの金属からなる基材を用いるとよい。さらに、本発明の硬質非晶質炭素被覆部材は、後に詳説するように、300℃以下の低温処理により作製することが可能である。そのため、耐熱性の低いアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金など、また、高温で処理することで強度が低下する鋼、チタン、チタン合金などからなる基材であってもよい。
[中間層]
[モリブデンおよび/またはチタンを含む中間層]
中間層は、基材の表面に形成され、モリブデンおよび/またはチタンを含む。そして、この中間層は、少なくとも中間層と硬質非晶質炭素膜(後述)との界面部において、酸素および炭素を含む。なお、界面部のうち、硬質非晶質炭素膜と接する中間層の表面部を中間層側界面部と記す。すなわち中間層において、少なくとも中間層側界面部は、酸素および炭素を含む。中間層を構成するモリブデンおよびチタンは、表面部に酸素が取り込まれても、その膜の表面から炭素を拡散させることができる。そのため、中間層側界面部に酸素および炭素を存在させることが容易である。
中間層は、10〜900nmさらには200〜700nmの厚さが好ましい。中間層が薄すぎると、基材の表面が十分に被覆されずに基材が露出する部分が残り、中間層と硬質非晶質炭素膜との密着性が良好に発現しないことがある。また、中間層が厚すぎると、硬質非晶質炭素膜や基材の表面よりも強度が低いために中間層にて破壊することがあるため、好ましくない。
中間層は、中間層側界面部全体を100原子%としたときに、中間層側界面部に酸素を4原子%以上さらには7原子%以上含むのが好ましい。中間層側界面部に酸素が少しでも含まれていれば、硬質非晶質炭素膜の剥離を抑制する効果は得られるが、4原子%以上とすることで、密着性が向上する。一方、中間層は、中間層側界面部全体を100原子%としたときに、中間層側界面部に酸素を50原子%以下さらには30原子%以下含むのが好ましい。なお、酸化モリブデン(MoO)および酸化チタン(TiO)の化学量論的組成より求められる酸素量は、66原子%である。安定なMoOおよびTiOは絶縁性が高いため、硬質非晶質炭素膜を成膜する際に安定なプラズマを形成することが難しく、成膜が困難となる場合があるため酸素含有量を50原子%以下とするのがよい。
上記の酸素含有量は、いずれも、中間層側界面部を、硬質非晶質炭素膜が形成された表面から10nmまでと規定した場合の値である。少なくとも中間層側界面部に上記所定量の酸素が含まれていればよく、酸素は、中間層側界面部のみに含まれていてもよいし、中間層全体に含まれていてもよい。そのとき、中間層の基材側(中間層側界面部を除いた部分)の酸素含有量は、基材と中間層との密着性に影響のない程度であれば特に限定はない。
また、中間層は、硬質非晶質炭素膜が形成される表面から内部に拡散した炭素の拡散層を有するのがよい。中間層の表面部が炭素の拡散層である場合には、中間層と硬質非晶質炭素膜との間で組成的な傾斜状態が生じるため、両者の密着性はさらに向上する。このとき、拡散層は、拡散深さが50nm以上さらには100nm以上であるのが好ましい。また、炭素は、拡散層全体を100原子%としたとき炭素量が10原子%以上となるように拡散するのが好ましい。
[アルミニウムを含む中間層]
中間層として、アルミニウムを含み、中間層側界面部に酸素を含む中間層を用いてもよい。アルミニウムは、膜中に酸素が取り込まれると、その膜の表面は緻密となり、炭素の拡散は起こりにくい。しかし、アルミニウムを含む中間層をもつ硬質非晶質炭素被覆部材は、中間層側界面部に炭素が存在しなくても、高い密着性を示す。
中間層は、10〜900nmさらには200〜700nmの厚さが好ましい。中間層が薄すぎると、基材の表面が十分に被覆されずに基材が露出する部分が残り、中間層と硬質非晶質炭素膜との密着性が良好に発現しないことがある。また、中間層が厚すぎると、硬質非晶質炭素膜や基材の表面よりも強度が低いために中間層にて破壊することがあるため、好ましくない。
中間層は、中間層側界面部全体を100原子%としたときに、中間層側界面部に酸素を4原子%以上さらには7原子%以上含むのが好ましい。中間層側界面部に酸素が少しでも含まれていれば、硬質非晶質炭素膜の剥離を抑制する効果は得られるが、4原子%以上とすることで、密着性が向上する。一方、中間層は、中間層側界面部全体を100原子%としたときに、中間層側界面部に酸素を50原子%以下さらには30原子%以下含むのが好ましい。これは、表面がアルミニウムの酸化物で覆われると密着性が低下するためである。なお、60原子%は、酸化アルミニウム(Al)の化学量論的組成より求められる値である。Alは絶縁性が高いため、硬質非晶質炭素膜を成膜する際に安定なプラズマを形成することが難しく、成膜が困難となる場合があるため酸素含有量を50原子%以下とするのがよい。
上記の酸素含有量は、いずれも、中間層側界面部を、硬質非晶質炭素膜が形成された表面から10nmまでと規定した場合の値である。少なくとも中間層側界面部に上記所定量の酸素が含まれていればよく、酸素は、中間層側界面部のみに含まれていてもよいし、中間層全体に含まれていてもよい。そのとき、中間層の基材側(中間層側界面部を除いた部分)の酸素含有量は、基材と中間層との密着性に影響のない程度であれば特に限定はない。あえて規定するのであれば、中間層に含まれる酸素量は、中間層全体を100原子%としたときに、4原子%以上50原子%以下さらには7原子%以上30原子%以下とするのが好ましい。なお、既に説明した通り、アルミニウムを含む中間層は、炭素の拡散層をもたない。
[硬質非晶質炭素膜]
硬質非晶質炭素膜は、中間層の表面に形成され、少なくとも中間層と硬質非晶質炭素膜との界面部において、珪素を含む。なお、界面部のうち、中間層と接する硬質非晶質炭素膜の表面部を硬質非晶質炭素膜側界面部と記す。すなわち硬質非晶質炭素膜において、少なくとも硬質非晶質炭素膜側界面部は、珪素を含む。上述のように、中間層側界面部には、酸素(O)が含まれる。硬質非晶質炭素膜が珪素(Si)を含むことで、中間層と硬質非晶質炭素膜との界面で共有結合性のO−Si−Cが形成され、中間層と硬質非晶質炭素膜との間の密着性が向上し、ひいては、基材と硬質非晶質炭素膜との密着性も向上する。
硬質非晶質炭素膜の膜厚は、硬質非晶質炭素被覆部材の用途に応じて適宜選択すればよい。あえて規定するのであれば、0.5〜10μmさらには0.8〜3μmである。硬質非晶質炭素膜の膜厚がこの範囲にあれば、高い密着性が保たれる。
硬質非晶質炭素膜は、硬質非晶質炭素膜側界面部全体を100原子%としたときに、硬質非晶質炭素膜側界面部に珪素を4原子%以上さらには7原子%以上含むのが好ましい。硬質非晶質炭素膜側界面部に珪素が少しでも含まれていれば、硬質非晶質炭素膜の剥離を抑制する効果は得られるが、4原子%以上とすることで、密着性が向上する。硬質非晶質炭素膜側界面部の珪素量の上限に特に限定はないが、硬質非晶質炭素膜側界面部全体を100原子%としたときに、硬質非晶質炭素膜側界面部に珪素を30原子%以下さらには25原子%以下含むのが好ましい。
上記の珪素含有量は、いずれも、硬質非晶質炭素膜側界面部を、中間層と接する表面から100nmまでと規定した場合の値である。少なくとも硬質非晶質炭素膜側界面部に上記所定量の珪素が含まれていればよく、珪素は、硬質非晶質炭素膜側界面部のみに含まれていてもよいし、硬質非晶質炭素膜全体に含まれていてもよい。膜全体に珪素が含まれる硬質非晶質炭素膜である場合には、硬質非晶質炭素被覆部材の最外層となる硬質非晶質炭素膜の表層の珪素含有量に特に限定はない。また、硬質非晶質炭素膜は、炭素および珪素の他、水素、酸素、窒素などを含んでもよい。ただし、トライボロジー用途として低摩擦特性を目的とする場合には、少なくとも表層に珪素を含有する硬質非晶質炭素膜が好ましく、その組成は硬質非晶質炭素膜側界面部の組成と同等さらには全体的に均一組成であると生産および品質の面で望ましい。
本発明の硬質非晶質炭素被覆部材は、最表面に硬質非晶質炭素膜をもち、硬質非晶質炭素膜が中間層を介して基材と強固に密着することから、表面に保護膜が必要な各種部材に好適である。本発明の非晶質炭素被覆部材の具体的な用途としては、軸受け、動弁系部品などの摺動部品、自動車エンジン、補機、エアコン等に用いられる摺動部品、ポンプや配管などの耐食部品、ギアやピストンリング等の機械摺動部品、などが挙げられる。
なお、本発明の硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法の一例を以下に説明する。
[硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法]
本発明の硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法は、既に詳説した本発明の硬質非晶質炭素被覆部材を容易に製造することができる製造方法である。本発明の硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法は、酸素含有金属層形成工程と成膜拡散工程とを含む。以下に、各工程について説明する。
酸素含有金属層形成工程は、基材の表面にモリブデンおよび/またはチタンを含み少なくとも表面部に酸素を含む酸素含有金属層を形成する工程である。酸素含有金属層は、あらかじめモリブデンおよび/またはチタンからなる被膜を形成した後、該被膜を酸素を含む雰囲気中に曝すことで形成可能である。すなわち、はじめに、物理蒸着(PVD)または化学蒸着(CVD)などの蒸着、めっき等により基材の表面に金属被膜を形成する。金属被膜が形成された基材を大気中などの酸素を含む雰囲気中に放置することで、金属被膜の表面部は酸化する。金属被膜全体に酸素を取り込みたい場合には、モリブデンおよび/またはチタンからなる被膜の蒸着を、酸素を含む雰囲気中で行うとよい。その後、さらに、金属被膜が形成された基材を酸素を含む雰囲気中に曝してもよい。これらの方法により酸素含有金属層形成工程を行えば、基材を高温に曝すことなく、たとえば300℃以下で酸素含有金属層の形成が可能である。
成膜拡散工程は、酸素含有金属層の表面に炭素および珪素を堆積させて珪素を含む硬質非晶質炭素膜を形成するとともに酸素含有金属層にその表面から炭素を拡散させる工程である。
硬質非晶質炭素膜を酸素含有金属層の表面に堆積させるだけであれば、既に公知の蒸着法を用いればよいが、酸素含有金属層の表面から炭素を拡散させるためには、硬質非晶質炭素膜を堆積中の酸素含有金属層の表面へのプラズマ放電を制御する必要がある。最も好適な方法は、以下に詳説するような、パルス電源を放電電源として用いた直流プラズマCVD法である。
直流プラズマCVD法では、真空容器内に酸素含有金属層が形成された基材(被処理材)を配置して、処理ガスを導入する。次いで、プラス極とマイナス極の二つの電極の間に電力を印加することによってグロー放電によりプラズマを生成させ、電極間に導入した処理ガスをプラズマ化させる。このとき、被処理材はマイナス電位側の電極と接触して配置されるため、被処理材の表面にプラズマ化した陽イオンが堆積することで成膜される。特に、放電電源としてパルス電源を用いることで、グロー放電をパルスで発生させることにより瞬時に強いプラズマを発生させることができ、かつ、パルス放電には休止時間があるため低電流により300℃以下の低温成膜が可能となる。したがって、低温成膜であってもアーク放電の発生が抑制されて、安定した放電が得られる。さらに、原料ガスにデューティー比が2%〜70%さらには5%〜70%かつ0.6kV以上さらには1〜10kVの高電圧を印加してプラズマを発生させると、300℃以下の低温であっても酸素含有金属層の表面から内部へ炭素を拡散させやすい。すなわち、放電電源としては、高電圧パルス電源を用いるのが望ましい。このとき、パルス波形の繰り返し周波数に特に限定はないが、パルス幅が50μ秒の場合に0.4kHz以上さらには1〜9kHzとするのがよい。ここで「デューティー比」とは、1周期の矩形波のうちON状態またはOFF状態である割合のことで、本明細書ではON状態の割合を示す。つまり、デューティー比が大きいほどON状態が長い。
処理ガスは、少なくとも珪素を含む有機金属含有ガスおよびハロゲン化合物ガスから選ばれる一種以上を含む原料ガスからなる、または、該原料ガスと水素および希ガスから選ばれる一種以上を含む希釈ガスとの混合ガスからなるのが望ましい。必要に応じて炭化水素ガスを混合してもよい。処理ガスは、得られる硬質非晶質炭素膜の組成が所望の組成となるように、その種類や混合比または流量比を適宜選択すればよい。
この際、炭化水素ガスは、メタン、エチレン、アセチレン、ベンゼン、ヘキサン等であるのが望ましい。また、有機金属含有ガスは、Si(CH[TMS]、Si(CHH、Si(CH、Si(CH)H、SiH、SiCl、SiH等であるのが望ましい。また、ハロゲン化合物ガスは、四塩化シリコンであるのが望ましい。また、希釈ガスは、たとえば水素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス等であるのが望ましい。これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
なお、原料ガスの混合比、成膜温度、電圧、などの成膜条件を成膜中に変化させることで、厚さ方向で組成の異なる硬質非晶質炭素膜を成膜することも可能である。したがって、硬質非晶質炭素膜の厚さ方向に珪素濃度を傾斜させるなどして、硬質非晶質炭素膜側界面部とそれ以外の部分で組成の異なる硬質非晶質炭素膜を成膜してもよい。
また、本発明の他の硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法において、酸素含有金属層形成工程は、基材の表面にアルミニウムを含み少なくとも表面部に酸素を含む酸素含有金属層を形成する工程である。酸素含有金属層は、あらかじめアルミニウムからなる被膜を形成した後、該被膜を酸素を含む雰囲気中に曝すことで形成可能である。すなわち、はじめに、PVDまたはCVDなどの蒸着、めっき等により基材の表面にアルミニウム膜を形成する。アルミニウム膜が形成された基材を大気中などの酸素を含む雰囲気中に放置することで、アルミニウム膜の表面部は酸化する。金属被膜全体に酸素を取り込みたい場合には、アルミニウム膜の蒸着を、酸素を含む雰囲気中で行うとよい。その後、さらに、アルミニウム膜が形成された基材を酸素を含む雰囲気中に曝してもよい。これらの方法により酸素含有金属層形成工程を行えば、基材を高温に曝すことなく、たとえば300℃以下で酸素含有金属層の形成が可能である。
なお、アルミニウム膜は、その表面部に他の部分よりも酸素濃度の高い酸素濃化層が形成されやすい。酸素濃化層は、2〜50nmさらには5〜30nmであるのが望ましい。アルミニウム膜が形成された基材を大気中に放置するだけで、アルミニウム被膜の表面部に2〜50nmの酸素濃化層が形成された酸素含有金属層が容易に得られる。
本発明の他の硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法は、酸素含有金属層の表面に炭素および珪素を堆積させて珪素を含む硬質非晶質炭素膜を形成する硬質非晶質炭素膜成膜工程を含む。硬質非晶質炭素膜は、プラズマCVD法、イオンプレーティング法、スパッタリング法など、既に公知のCVD法、PVD法により形成することができる。ただし、たとえば300℃以下の低温で処理したい場合には、放電電源としてパルス電源を用いた直流プラズマCVD法により硬質非晶質炭素膜を成膜するのが望ましい。なお、直流プラズマCVD法については既に述べた通りである。
以上、本発明の硬質非晶質炭素被覆部材およびその製造方法の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下に、本発明の硬質非晶質炭素被覆部材およびその製造方法の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
[酸素含有金属層(中間層)の作製]
基材として2種類の鋼材(軸受け鋼:SUJ2、マルテンサイト系ステンレス鋼:SUS440C)を準備した。軸受け鋼からなる基材は、表面硬さ:HRC62、表面粗さ(算術平均粗さ):Ra0.01μmであった。ステンレス鋼からなる基材は、表面硬さ:HRC60、表面粗さ:Ra0.007μmであった。
これらの基材の表面に、アンバランスドマグネトロンスパッタリング装置(株式会社神戸製鋼所製UBMS504)を用い、モリブデン膜、チタン膜、アルミニウム膜、および比較例としてニオブ、バナジウム、クロム、珪素、タングステン、金、銅、からなる10種類の金属被膜を形成した。成膜条件は、成膜圧力:0.1〜10Pa、成膜温度(基材の表面温度):240℃、成膜時間:膜厚が300〜600nmとなるように制御、とした。
金属被膜が形成されたそれぞれの基材は、UBMS装置から取り出し、空気中に50時間放置した。なお、SUJ2からなる基材の成膜後の表面(金属被膜が付いてない表面)の硬さは、HRC60であった。成膜前の基材の硬さがHRC62であったことから、240℃で成膜したことで、基材の強度低下は抑制されることが示された。
[硬質非晶質炭素膜の成膜]
次に、図12に示す直流プラズマCVD装置を用いて、珪素を含む非晶質炭素(DLC−Si)膜を成膜した。直流プラズマCVD装置9は、ステンレス鋼製のチャンバー90と、基台91と、ガス導入管92と、ガス導出管93とを備える。ガス導入管92は、バルブ(図略)を介して各種ガスボンベ(図略)に接続される。ガス導出管93は、バルブ(図略)を介してロータリーポンプ(図略)および拡散ポンプ(図略)に接続される。
基材100は、チャンバー90内に設置された基台91の上に配置される。基材100を配置したら、チャンバー90を密閉し、ガス導出管93に接続されたロータリーポンプおよび拡散ポンプにより、チャンバー90内のガスを排気する。
基材100にDLC−Si膜を形成する際には、はじめに、チャンバー90内にガス導入管92からアルゴン等を導入する。その後、高電圧パルス電源8を作動させてチャンバー90の内側に設けたステンレス鋼製陽極板94と基台91との間に直流電圧を印加すると、放電が開始する。この放電によるイオン衝撃により、基材100の表面温度を所定の成膜温度まで昇温させられる。次に、ガス導入管92から、希釈ガスおよび原料ガスを導入する。その後、チャンバー90の内側に設けたステンレス鋼製陽極板94と基台91(基材100)との間に所定の電力を印加すると、放電95が開始し、基材100の表面にDLC−Si膜が形成される。
前の工程で金属被膜が形成された基材には、上記装置に水素ガスを100sccm、アルゴンガスを100sccm導入してガス圧を13Paに調整して、3.0kV(88mA)の直流電圧を印加し、1時間のイオン衝撃を行った。このイオン衝撃により、基材の表面温度をDLC−Si膜の成膜温度である220℃まで昇温させた。また、DLC−Si膜は、水素ガスおよびアルゴンガスを100sccmずつ導入した状態でCHガスを100sccm、TMSガスを6sccm導入してガス圧を13Paに調整して、3.0kV(95mA)の直流電圧を印加して成膜を行った。このとき、高電圧パルス電源8のパルス発振条件は、デューティー比:5%(パルス幅:50μ秒(休止:950μ秒))、繰り返し周波数:1kHzとした。3時間の成膜により、厚さ1μmのDLC−Si膜が形成された。
なお、比較例として、高電圧パルス電源の替わりにサイリスタ電源を用いて、クロム膜が形成されたSUJ2製基材とチタン膜が形成されたSUJ2製基材の表面に厚さ1μmのDLC−Si膜を成膜した。サイリスタ電源は、成膜圧力400Paにおいて、200V(0.5A)、成膜温度を250℃とした。
得られたDLC−Si膜のSi含有量を電子線プローブマイクロ分析(EPMA)により求めた。高圧パルス電源を用いて成膜したDLC−Si膜のSi含有量は16at%、H含有量は23at%、また、サイリスタ電源を用いて成膜したDLC−Si膜のSi含有量は12at%、H含有量は30at%であり、いずれの試料においてもSiおよびHは膜中に均一分布しており、厚さ方向で含有量はほぼ一定であった。
[評価1]
[断面観察および元素分布分析]
以上の手順により得られた硬質非晶質炭素被覆部材のうち、モリブデン、チタンまたはアルミニウムを含む中間層と、高電圧パルス電源を用いた直流プラズマCVD法により成膜されたDLC−Si膜と、を備える硬質非晶質炭素被覆部材について、断面観察を行った。断面観察および元素分布分析は、オージェ電子分光分析法(AES分析)により行った。結果を図1〜図3に示す。
図1は、モリブデン(Mo)を含む中間層をもつ硬質非晶質炭素被覆部材の断面をオージェ電子分光分析法により測定して得られた二次電子像および元素分布である。Moを含む中間層では、中間層全体に酸素の存在が認められた。中間層全体を100at%としたときの酸素含有量は8at%であった。なお、中間層の表面部(中間層側界面部:表面から10nm)を100at%としたときの表面部の酸素含有量も8at%程度であった。この酸素は、UBMS装置内に残存した酸素が膜中に取り込まれたものと推測される。また、中間層の表面から内部へ拡散した炭素も確認され、DLC−Si膜との界面部に多く検出された。すなわち、DLC−Si膜の成膜時に、中間層の表面から炭素が拡散したことがわかった。モリブデン膜の表面に緻密な酸化膜は形成され難く、炭素がモリブデン膜に拡散しやすかったと推察される。また、炭素の拡散深さは200nm程度であるが、炭素含有量が多かった。また、AES分析による炭素スペクトルの詳細な検討結果は、中間層とDLC−Si膜との界面において、中間層のMoとDLC−Si膜のCとの化合物の形成を示唆している。
Moを含む中間層を備える硬質非晶質炭素被覆部材の構成を図5に模式的に示す。基材1の表面には、中間層2が形成されている。中間層2は酸素を含むモリブデン膜である。中間層2の表面部(中間層側界面部)2’は炭素の拡散層である。中間層2(表面部2’)の表面には、DLC−Si膜3が形成されている。拡散層は、DLC−Si膜3が形成される際に中間層2の表面より炭素が拡散してなる。なお、硬質非晶質炭素膜側界面部を3’で示す。
図2は、チタン(Ti)を含む中間層をもつ硬質非晶質炭素被覆部材の断面をAES分析により測定して得られた二次電子像および元素分布である。Tiを含む中間層では、中間層全体に酸素の存在が認められた。中間層の表面部(中間層側界面部:表面から10nm)を100at%としたときの表面部の酸素含有量は20at%であった。この酸素は、UBMS装置内に残存した酸素が膜中に取り込まれたものだけでなく、チタン膜の表面部が大気中で酸化されたものと推測される。また、中間層の表面から内部へ拡散した炭素も確認された。すなわち、DLC−Si膜の成膜時に、中間層の表面から炭素が拡散したことがわかった。また、AES分析による炭素スペクトルの詳細な検討結果は、中間層とDLC−Si膜との界面において、中間層のTiとDLC−Si膜のCとの化合物の形成を示唆している。
図3は、アルミニウム(Al)を含む中間層をもつ硬質非晶質炭素被覆部材の断面をAES分析により測定して得られた二次電子像および元素分布である。Alを含む中間層では、DLC−Si膜側の表面部に酸素濃化層の存在が認められた。中間層の表面部(中間層側界面部:表面から10nm)を100at%としたときの表面部の酸素含有量は20at%であった。この酸素は、アルミニウム膜の表面部が大気中で酸化されたものと推測される。しかし、中間層への炭素の拡散は確認されなかった。表面部に形成された酸素濃化層が緻密であったために、炭素が中間層内に移動できなかったと考えられる。
なお、Alを含む中間層を備える硬質非晶質炭素被覆部材については、その断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した。結果を図4に示す。中間層の表面から10nmの厚さでAlの酸化被膜が形成されたことがわかった。
[密着性の評価]
DLC−Si膜の剥離強度(密着力)を、ロックウェル試験およびスクラッチ試験により測定した。ここでは、実用性および評価方法の安定性の点から、光学顕微鏡を用いた観察においてDLC−Si膜の剥離が生じたときの荷重を密着力と定義した。
ロックウェル試験については、Cスケールにて圧痕周囲のDLC−Si膜の剥離形態より密着力を評価した。スクラッチ試験においては、円錐型ダイヤモンド(圧子径:0.2mm)を用い、テーブル速度10mm/分、荷重増加速度:100N/分で行った。結果を図6および図7に示す。
図6は、実施例および比較例の硬質非晶質炭素被覆部材について中間層の種類と密着力の関係を示すグラフであって、それぞれ2種類の基材を用いた場合の密着力を示す。グラフ中、黒色のバーはSUJ2製基材を用いた場合の密着力、その右側のバーはSUS440C製基材を用いた場合の密着力をそれぞれ示す。いずれの基材を用いても、密着力に大きな差は生じなかったが、SUS440C製基材を用いた硬質非晶質炭素被覆部材の密着性の方がやや劣る結果となった。これ以後、SUJ2製基材を用いた硬質非晶質炭素被覆部材に対して、中間層の種類と密着性とを評価する。炭化物を形成しないAuおよびCuを含む中間層を用いた場合、密着力はいずれも12〜15Nと最も低い値を示した。炭化物を形成する元素を含む中間層を比較すると、Nb、V、Cr、SiおよびWの場合に密着力15〜20N程度であったのに対し、Ti、AlおよびMoの場合には25〜30Nと顕著に優れた密着力を示した。特に、Moを含む中間層およびTiを含む中間層を備える硬質非晶質炭素被覆部材では、最も高い値である30Nを示した。これは、密着性の向上が、中間層への炭素の拡散のみに起因するのではなく中間層に含まれる酸素によるところも大きいことを示す結果である。
なお、V、Cr、SiおよびWは炭化物を形成しやすい元素であるが、その中でも大気中で酸化されやすいCrおよびSiは、中間層の表面に緻密な酸化物を形成するため、炭素が中間層内に移動できなかったと考えられる。また、VおよびWに関しては、酸化の程度が低いとともに、後述のように中間層の表面が平滑であった(図8)ために炭素の拡散層が形成されにくく、密着力が向上しなかったと考えられる。
Alを含む中間層を備える硬質非晶質炭素被覆部材は、図4から明らかなように中間層に炭素は存在しないが、高い密着力を示した。ただし、Tiを含む中間層を備える部材およびMoを含む中間層を備える部材の密着力を超える結果は得られなかった。
図7は、上記の手順により作製した実施例および比較例の硬質非晶質炭素被覆部材について中間層の種類と密着力の関係を示すグラフであって、それぞれ2種類の電源を用いてDLC−Si膜を成膜した場合の密着力を示す。グラフ中、黒色のバーは高電圧パルス電源を用いてDLC−Si膜を成膜した場合の密着力、その右側の白いバーはサイリスタ電源を用いてDLC−Si膜を成膜した場合の密着力をそれぞれ示す。なお、図6と図7とで同じ印を付したデータは、同じ試料から得られた同じデータである。
中間層を形成せず、基材に直接DLC−Si膜を成膜した場合には、高電圧パルス電源よりもサイリスタ電源を用いた方が高い密着力を示した。しかしながら、中間層を形成した場合においては、中間層の種類にかかわらず、高電圧パルス電源を用いた方が高い密着力を示した。これは、高電圧パルス電源を用いたことにより、酸素含有金属層(中間層)の表面への高電圧のイオン照射により、中間層への炭素の拡散および中間層とDLC−Si膜との界面での結合が生じ、密着性が向上したためである。
さらに、中間層への炭素の拡散に関しては、DLC−Si膜が形成される中間層の表面の表面粗さの影響も考えられる。たとえば、Tiを含む中間層では400nmの拡散層が形成された(図2)が、表面が平滑なTiのバルク体に同じ条件でDLC−Si膜を成膜しても8nm程度しか拡散層が形成されないからである。図8に、Tiを含む中間層またはWを含む中間層の走査型電子顕微鏡による表面観察結果を示す。Tiを含む中間層では、表面に微細な凹凸が見られたが、Wを含む中間層の表面は平坦であった。密着性の向上は、中間層の表面の凹凸によるアンカー効果だけでなく、凹凸の影響による拡散層の形成されやすさにも起因すると推測される。
なお、Tiを含む中間層は中間層側界面部における酸素含有量が20at%であったが、中間層の酸素含有量は12〜28at%であれば誤差範囲であり、この範囲で30N程度の密着力が得られる。Moを含む中間層は中間層側界面部における酸素含有量が8at%であったが、中間層の酸素含有量は7〜15at%であれば誤差範囲であり、この範囲で30N程度の密着力が得られる。また、Alを含む中間層は中間層側界面部における酸素含有量が20at%であったが、中間層の酸素含有量は10〜30at%であれば誤差範囲であり、この範囲で25N程度の密着力が得られる。
[評価2]
異なるデューティー比でDLC−Si膜を成膜して硬質非晶質被覆部材を作製し、デューティー比に対する密着性を評価した。
DLC−Si膜を成膜する際のデューティー比を5%〜80%の範囲内で変化させた他は上記と同様な方法で、Moを含む中間層またはTiを含む中間層を備える硬質非晶質炭素被覆部材を作製した。いずれのデューティー比であっても、DLC−Si膜の成膜中の基材の温度が300℃を超えることはなかった。なお、放電電源にはパルス電源を用いたが、5〜67%までを高電圧パルス電源、80%をDCパルスにて実施した。デューティー比と放電電圧との関係を図9に示す。
その後、DLC−Si膜の剥離強度を、前述の方法で測定した。結果を図10に示す。デューティー比が5%〜67%では、25N以上の高い密着力が得られた。しかし、デューティー比が67%を超えると密着性が低下した。デューティー比を高めると電流が増加するが、図9からわかるように電圧は低下するためであると推測される。なお、デューティー比を25%にしてDLC−Si膜を成膜したTiを含む中間層を備える硬質非晶質被覆部材の炭素拡散層をAES分析したところ、拡散深さは250nm程度であった。
[評価3]
珪素含有量の異なるDLC−Si膜を成膜して硬質非晶質被覆部材を作製し、珪素含有量に対する密着性を評価した。
DLC−Si膜を成膜する際の原料ガスの流量比を変化させた他は上記と同様な方法で、Moを含む中間層またはTiを含む中間層を備える硬質非晶質炭素被覆部材を作製した。なお、いずれの部材も、デューティー比を5%で作製した。
その後、DLC−Si膜の剥離強度を、前述の方法で測定した。また、EPMAにより各部材のDLC−Si膜に含まれるSi量を測定した。なお、Si量は、DLC−Si膜の厚さ方向においてほぼ一定であった。結果を図11に示す。Siを含有しないDLC膜の密着力は、20Nを下回った。一方、Siを含有するDLC−Si膜では、高い密着性が得られた。特に、Si含有量が6〜22at%では、密着性に大きな変化は認められなかった。すなわち、硬質非晶質炭素膜がSiを含有することにより、酸素を含有した中間層でも密着性を確保できることがわかった。
モリブデンを含む中間層をもつ硬質非晶質炭素被覆部材の断面をオージェ電子分光分析法により測定した結果を示す図面代用写真であって、二次電子像および元素分布を示す。 チタンを含む中間層をもつ硬質非晶質炭素被覆部材の断面をオージェ電子分光分析法により測定した結果を示す図面代用写真であって、二次電子像および元素分布を示す。 アルミニウムを含む中間層をもつ硬質非晶質炭素被覆部材の断面をオージェ電子分光分析法により測定した結果を示す図面代用写真であって、二次電子像および元素分布を示す。 アルミニウムを含む中間層をもつ硬質非晶質炭素被覆部材の断面を透過型電子顕微鏡により観察した結果を示す図面代用写真である。 本発明の硬質非晶質炭素被覆部材の一例を模式的に示す断面図である。 実施例および比較例の硬質非晶質炭素被覆部材について中間層の種類と密着力の関係を示すグラフであって、それぞれ2種類の基材を用いた場合の密着力を示す。 実施例および比較例の硬質非晶質炭素被覆部材について中間層の種類と密着力の関係を示すグラフであって、それぞれ2種類の電源を用いてDLC−Si膜を成膜した場合の密着力を示す。 Tiを含む中間層またはWを含む中間層の走査型電子顕微鏡による表面観察結果をそれぞれ示す。 硬質非晶質炭素膜を成膜する際のデューティー比と放電電圧との関係を示すグラフである。 硬質非晶質炭素膜を成膜する際のデューティー比と密着力の関係を示すグラフである。 硬質非晶質炭素膜の珪素含有量と密着力の関係を示すグラフである。 直流プラズマCVD成膜装置の説明図である。
符号の説明
1:基材
2:中間層 2’:中間層側界面部(中間層の表面部)
3:硬質非晶質炭素膜(DLC−Si膜) 3’:硬質非晶質炭素膜側界面部
8:高電圧パルス電源
9:直流プラズマCVD装置

Claims (14)

  1. 基材と、該基材の表面に形成されモリブデンおよび/またはチタンを含む中間層と、該中間層の表面に形成された硬質非晶質炭素膜と、を備え、
    前記中間層は、前記硬質非晶質炭素膜が形成された表面から内部に拡散した炭素の拡散層を有し、
    少なくとも前記中間層と前記硬質非晶質炭素膜との界面部において、該中間層は酸素および炭素を含み、かつ、該中間層は、少なくとも前記硬質非晶質炭素膜が形成された表面から10nmまでの中間層側界面部に酸素を4原子%以上50原子%以下含み、該硬質非晶質炭素膜は珪素を含むことを特徴とする硬質非晶質炭素被覆部材。
  2. 前記硬質非晶質炭素膜は、少なくとも前記中間層と接する表面から100nmまでの硬質非晶質炭素膜側界面部に珪素を4原子%以上30原子%以下含む請求項1に記載の硬質非晶質炭素被覆部材。
  3. 請求項1又は2に記載の硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法であって、
    基材の表面にモリブデンおよび/またはチタンを含み少なくとも表面部に酸素を含む酸素含有金属層を形成する酸素含有金属層形成工程と、
    前記酸素含有金属層の表面に炭素および珪素を堆積させて珪素を含む硬質非晶質炭素膜を形成するとともに該酸素含有金属層に該表面から炭素を拡散させる成膜拡散工程と、
    を含むことを特徴とする硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法。
  4. 前記酸素含有金属層形成工程および前記成膜拡散工程は、前記基材の温度を300℃以下にして行う工程である請求項3に記載の硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法。
  5. 前記成膜拡散工程は、パルス電源を放電電源として用いた直流プラズマCVD法により前記硬質非晶質炭素膜を成膜するとともに前記酸素含有金属層に炭素を拡散させる工程である請求項3または4に記載の硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法。
  6. 前記成膜拡散工程は、デューティー比が2%〜70%かつ0.6kV以上のパルス電圧を原料ガスに印加してプラズマを発生させる工程である請求項5に記載の硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法。
  7. 前記酸素含有金属層形成工程は、モリブデンおよび/またはチタンからなる被膜を形成した後、該被膜を酸素を含む雰囲気中に曝す工程である請求項3〜6のいずれかに記載の硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法。
  8. 前記酸素含有金属層形成工程は、モリブデンおよび/またはチタンからなる被膜を酸素を含む雰囲気中で蒸着する工程である請求項3〜7のいずれかに記載の硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法。
  9. 基材と、該基材の表面に形成されアルミニウムを含む中間層と、該中間層の表面に形成された硬質非晶質炭素膜と、を備え、
    少なくとも前記中間層と前記硬質非晶質炭素膜との界面部において、該中間層は酸素を含み、かつ、該中間層は、少なくとも前記硬質非晶質炭素膜が形成された表面から10nmまでの中間層側界面部に酸素を4原子%以上50原子%以下含み、該硬質非晶質炭素膜は珪素を含むことを特徴とする硬質非晶質炭素被覆部材。
  10. 前記硬質非晶質炭素膜は、少なくとも前記中間層と接する表面から100nmまでの硬質非晶質炭素膜側界面部に珪素を4原子%以上30原子%以下含む請求項9に記載の硬質非晶質炭素被覆部材。
  11. 請求項9又は10に記載の硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法であって、
    基材の表面にアルミニウムを含み少なくとも表面部に酸素を含む酸素含有金属層を形成する酸素含有金属層形成工程と、
    前記酸素含有金属層の表面に炭素および珪素を堆積させて珪素を含む硬質非晶質炭素膜を形成する硬質非晶質炭素膜成膜工程と、
    を含むことを特徴とする硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法。
  12. 前記酸素含有金属層形成工程および前記硬質非晶質炭素膜成膜工程は、前記基材の温度を300℃以下にして行う工程である請求項11に記載の硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法。
  13. 前記硬質非晶質炭素膜成膜工程は、パルス電源を放電電源として用いた直流プラズマCVD法により前記硬質非晶質炭素膜を成膜する工程である請求項11または12に記載の硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法。
  14. 前記酸素含有金属層形成工程は、アルミニウムからなる被膜を形成した後、該被膜を酸素を含む雰囲気中に曝す工程である請求項11に記載の硬質非晶質炭素被覆部材の製造方法。
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