本発明は、高い{222}面集積度を有する積層鋼板及びその製造方法に関するものである。
自動車の車体や部品用、家電用、建材用等に使用される鋼板は、板厚を薄くして軽量化しても十分な強度が確保できるように高強度鋼板が要求されている。一方、これらの用途では、鋼板をプレス成形、深絞り成形などによって目的とする形状に加工するため、プレス成形時の加工が割れやしわを発生することなく実施できる優れた加工性が要求されている。また、ほとんどの場合、鋼板表面を塗装するため、即ち、良好な塗装性を得るために、成形しても鋼板の表面が肌荒れしない、耐肌荒れ性も要求される。同時に優れた耐食性が要求される用途もある。
特許文献1には、NbとCの含有量を調整し、特定の(222)集積度を有し、引張強さ440MPa以上の高強度と平均r値(ランクフォード値)1.2以上を有する、深絞り性に優れた高強度鋼板が記載されている。引用文献2には、板厚が1.2mm以上で、r値2.9以上が得られる、厚物の冷延鋼板が記載されている。引用文献3には、成形時に生じる深絞り高さの変動を低減し、部品の加工プロセスの簡略化を可能にする高炭素冷延鋼板が記載されている。引用文献4には、耐肌荒れ性と加工性の両立を図った極低炭素冷延鋼板が記載されている。
鋼板の加工性はαFe相やγFe相の集合組織に依存し、特に鋼板面に結晶の{222}面集積度を増加させることによって向上できるとされている。
特許文献5は、高強度冷延鋼板及び溶融亜鉛めっき鋼板に関するものであり、鋼板に含有されるSi、Mn、Pの各量を、板面に平行な{222}面と{200}面によるX線回折強度の比との間の一定式に基づいて制御することによって、鋼板の深絞り性が確保できることが示されている。しかしながら、表面に付与されるめっきが集合組織に与える影響については示されていない。
特許文献6は、ほうろう用高強度冷延鋼板およびその製造方法に関するものである。ここでは、含有するC量でNb添加量を規定し、さらに、熱間圧延と冷間圧延の条件を規定することによって(111)集合組織を制御している。
特許文献7は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関するものである。X線回折強度のうち、{200}面強度と{222}面強度の比、I(200)/I(222)が、0.17未満となると、めっき表面に筋模様欠陥の発生がなくなること、および熱間圧延の仕上圧延温度をAr3+30℃(冷却時のフェライト変態が始まる温度+30℃)以上とすることによりX線回折強度比、I(200)/I(222)が0.17未満となるという知見が示されている。しかしながら、めっきを付与することによって、鋼板の集合組織が制御されたことは示されていない。
特許文献8は、加工性および耐肌荒れ性に優れた極低炭素冷延鋼板に関するものである。重量%で鋼中のC含有量が0.01%以下の極低炭素冷延鋼板であって、鋼板の表面より全板厚の1/10を占める表層部のフェライト粒度No.をa、板厚中心を中心として全板厚の1/2を占める内層部のフェライト粒度No.をbとするとき、a−b≧0.5、a≧7.0、b≦7.5を満足し、さらに{222}面と{200}面からの回折X線強度の比I(222)/I(200)を鋼板の表面より全板厚の1/15の部分で5.0以上、かつ鋼板の板厚中心部で12以上に制御することによって、プレス成型時の鋼板の肌荒れが軽減できるものであった。
以上に示したように、従来から鋼板の加工性を向上させるためにαFe相やγFe相の{222}面集積度を向上させる手法が考案され、鋼板成分、圧延条件や温度条件が最適化されてきた。
さらに特許文献9では、Al含有量が6.5質量%以上10質量%以下の高Al含有鋼板で、αFe結晶の{222}面集積度が60%以上95%以下、又は{200}面集積度が0.01%以上15%以下にすることで、高いAl含有量でも加工性を高くできることが開示されている。また高Al含有鋼板で、前記の特定面の面集積度を向上させる方法として、Al含有量が3.5質量%以上6.5質量%未満の母材の表面に溶融Alめっき法でAl合金を付着させ、冷間圧延し、更に拡散熱処理することが開示されている。
一方、種類の異なる鋼板や金属板を積層した、いわゆる、クラッド鋼板が知られている。例えば、特許文献10〜12には、炭素鋼を母材として母材と種類の異なる鋼板や金属板を積層したクラッド鋼板が記載されている。
特許文献10では、母材を低炭素鋼として合わせ材をステンレス鋼にすることで耐食性に優れたクラッド鋼板が得られることが示されている。更に、前記低炭素鋼の酸可溶Al含有量を0.10〜1.5重量%の範囲にすることで、得られるクラッド鋼板の加工性を向上させ、加工時のしわ発生の抑制ができるとしている。
特許文献11では、炭素鋼板の片面又は両面に非晶質合金をバンダとして耐食性金属板を積層した耐食性クラッド鋼板が示されている。前記耐食性金属板としては、チタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、ニッケル、銅及びこれらの合金が使用できることも示されている。
特許文献12では、炭素鋼を母材として、合わせ材がステンレス鋼、高Ni合金あるいはNi基合金からなるクラッド鋼板が示され、靭性と耐食性に優れたクラッド鋼板とすることが記載されている。
特開2005−120467号公報
特開平11−50211号公報
特開2000−328172号公報
特開平11−350072号公報
特開平6−2069号公報
特開平8−13081号公報
特開平10−18011号公報
特開平11−350072号公報
特開2006−144116号公報
特開平11−77888号公報
特開2002−239741号公報
特開2003−27140号公報
従来から鋼板成分、圧延条件や温度条件を最適化してαFe相やγFe相の{222}面集積度を向上させる手法が考案され、鋼板の加工性向上のニーズに応えてきた。特許文献9では、Al含有量が6.5質量%以上10質量%以下の高Al含有鋼板で、αFe結晶の{222}面集積度が60%以上95%以下、又は{200}面集積度が0.01%以上15%以下にすることで、高いAl含有量でも加工性を高くできることが示された。
自動車用鋼板、家電用鋼板をはじめとする、加工して使用される鋼板では、上記従来の手法で実現されるレベルを超えた加工性の向上が要求されている。また、加工性の向上と高強度化を合わせて具備することが要求されている。さらに、加工性の向上と高強度化のみならず、成形しても鋼板の表面が肌荒れしない耐肌荒れ性、あるいは優れた耐食性を同時に具備する鋼板が要求されている。これら鋼板は、当然ながら特許文献9に示されたような高Al含有鋼板で実現することはできない。
特許文献9に記載の鋼板は、板厚5mmを上限とする。一方、板厚が5mmを超える厚鋼板において、加工性を向上する要求が高まっている。
また、上述のように、クラッド鋼板とすることで、単一鋼板では達成できない機能複合させることがなされている。特に、特許文献10〜12のように、炭素鋼板を母材として、耐食性を有する鋼板や金属板を張り合わせることで炭素鋼板に耐食性を付与できる。また、母材の成分を調整することで加工性を高めることも行われている。しかしながら、従来のクラッド鋼板では、強加工すると、積層界面(クラッド界面)で剥離が生じるという問題があり、母材の成分調整で加工性を高めるとしても限界があった。また、前記積層界面での剥離は、クラッド鋼板の板厚が大きいほど顕著に現れるという問題があった。
本発明は、従来の鋼板やクラッド鋼板では達成できない高い加工性を実現するとともに、高強度化、耐肌荒れ性の向上、耐食性の向上を合わせて実現することのできる積層鋼板とその製造方法を提供することを目的とする。併せて、板厚が5mmを超える厚鋼板において、高い加工性を実現することのできる積層鋼板とその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、複数の鋼板が積層され一体化した構造の積層鋼板で、前記積層鋼板の{222}面集積度を高くすることで、強加工しても積層界面での剥離が生じ難く、積層鋼板全体の板厚を大きくしても優れた加工性を有する積層鋼板が得られることを見い出した。更に、本発明者らは、前記積層鋼板を製造するにあたり、複数の鋼板を準備し、該複数の鋼板の積層面に、Fe以外を主成分とする金属である第二層を付着させ、第二層を付着させた該複数の鋼板を重ね合わせ、重ね合わせた鋼板に圧延を施し、その後、熱処理を施して鋼板組織の結晶を再結晶させることによって、得られる積層鋼板の{222}面集積度が著しく高くなり加工性が向上し、従来にない高い加工性を実現するとともに、耐肌荒れ性の向上を合わせて実現するに至った。更に、前記積層鋼板の各層の種類を選択することにより、高強度化や耐食性の向上も実現するに至った。
即ち、その要旨とするところは以下のとおりである。
(1)炭素鋼と合金鋼の一方又は両方からなる複数の鋼板が積層され一体化している積層鋼板であって、前記積層鋼板の鋼板面と板厚中心の両方におけるαFe相またはγFe相の一方または両方の、鋼板面に対する{222}面集積度が60%以上99%以下または鋼板面に対する{200}面集積度が0.01%以上15%以下の一方または両方であることを特徴とする積層鋼板。
(2)前記炭素鋼が極低炭素鋼、低炭素鋼、中炭素鋼、あるいは高炭素鋼の少なくとも1種であることを特徴とする上記(1)に記載の積層鋼板。
(3)前記合金鋼がステンレス鋼であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の積層鋼板。
(4)積層鋼板を構成する各層の鋼板は、Al含有量が6.5質量%未満の鋼板であることを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の積層鋼板。
(5)積層鋼板を構成する各層鋼板の積層面及び積層鋼板の両表面の一部又は全部において、隣接する各層鋼板に比較し、Al、Ni、Si、Sn、V、Znのうち1つ以上の元素が濃化していることを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の積層鋼板。
(6)積層鋼板の厚みが5μm以上10mm以下であることを特徴とする上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の積層鋼板。
(7)積層鋼板を構成する各層の鋼板が同一の品種であることを特徴とする上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の積層鋼板。
(8)板厚が10μm以上10mm以下の複数の鋼板を準備し、該複数の鋼板の一部又は全部の少なくとも片面に、Fe以外を主成分とし厚みが0.05μm以上1000μm以下である金属の第二層を付着させ、前記複数の鋼板を積層させ、該積層した鋼板を圧延し、その後熱処理によって再結晶させると同時に積層鋼板を一体化させる、ことを特徴とする積層鋼板の製造方法。
(9)前記第二層は、Fe、Al、Co、Cu、Cr、Ga、Hf、Hg、In、Mn、Mo、Nb、Ni、Pb、Pd、Pt、Sb、Si、Sn、Ta、Ti、V、W、Zn、Zrのうち1つ以上の元素を含有し、左記元素のうちFeを除くいずれかの元素を主成分とすることを特徴とする上記(8)に記載の積層鋼板の製造方法。
(10)前記第二層はAlを含有し、前記準備した複数の鋼板はAl含有量が3.5質量%未満であることを特徴とする上記(8)又は(9)に記載の積層鋼板の製造方法。
(11)前記第二層はAlを含有せず、前記準備した複数の鋼板はAl含有量が6.5質量%未満であることを特徴とする上記(8)又は(9)に記載の積層鋼板の製造方法。
本発明の積層鋼板は、高い{222}面集積度を有するので、強加工しても積層界面で剥離が生じ難く、加工性に優れる。よって、本発明の積層鋼板は、様々な形状に容易に加工できるようになり、さらに冷間圧延によって薄い箔とすることも可能である。また、積層鋼板の各層の種類を選択することにより、従来にない高い加工性を実現するとともに、高強度化、耐肌荒れ性の向上、耐食性の向上を合わせて実現することができる。さらに、板厚が5mmを超える厚鋼板においてこれらの優れた品質を実現することができる。これらは、複雑形状のプレス成型が必要な自動車用部品や家電製品部品などの外板をはじめとした各種構造材料、機能材料等に有用される。また、本発明の方法では、新たな設備を作らなくとも既存設備の工程を入れ替えるだけで容易に高い{222}面集積度を有する鋼板の製造が可能となる。したがって、容易に低コストで本発明の鋼板の製造が可能となる。
特許文献9に記載の鋼板は、Al含有量が6.5質量%以上10質量%以下の高Al含有鋼板であって、αFe相の{222}面集積度が60%以上95%以下、または{200}面集積度が0.01%以上15%以下の一方または両方の高Al含有鋼板である。この鋼板の製造はAlを3.5質量%以上6.5質量%以下含有する鋼板の少なくとも片面にAl合金を付着させ、冷間で加工歪みを付与させた後にAlを拡散させる熱処理を施すものであった。
本発明者らは、{222}面集積度をさらに向上させる技術開発に取り組み、各種実験を行ってきた。その結果、鋼板に付着させる金属はAlに限定されず、Fe以外の金属からなる第二層を鋼板に付着させたまま冷間圧延(冷延)を施し、その後に熱処理で鋼板組織の結晶を再結晶させることによって{222}面集積度が向上できること、この現象が冷延の際に鋼中に形成される特別な転位組織によって発現できることを発見した。熱処理により該転位組織から{222}面集合組織を発達させるような再結晶核が発生するようになるのである。さらに、再結晶後の鋼板のAl含有量が6.5質量%未満となるような成分系であると上記再結晶核の発生頻度が高くなる傾向にあり、結果としてより高い{222}面集積度を有する鋼板が得られるようになった。第二層を付着させる鋼板のAl含有量を3.5質量%以下とすることにより、再結晶後の鋼板のAl含有量が6.5質量%未満である鋼板製造を可能とした。
そして、第二層を付着した鋼板を複数重ね合わせた上で圧延し、熱処理によって再結晶させることにより、重ね合わせた鋼板を一体化させて積層鋼板とし、その積層鋼板の{222}面集積度を著しく向上できることを明らかにした。{222}面集積度が著しく高くなり加工性が向上するとともに、積層している各層が同じ{222}面で配向して接しているので、強加工して積層界面で剥離し難くなり、従来にない高い加工性を実現するに至った。更に、積層鋼板の各層の種類を選択することにより、高強度化、耐肌荒れ性の向上、耐食性の向上を合わせて実現するに至った。
本発明の積層鋼板は、炭素鋼と合金鋼の一方又は両方からなる複数の鋼板が積層され一体化している積層鋼板であって、積層鋼板の鋼板面の表面と板厚中心の両方におけるαFe相またはγFe相の一方または両方の、鋼板面に対する{222}面集積度が60%以上99%以下または{200}面集積度が0.01%以上15%以下の一方または両方である。複数の鋼板が配向して積層されて一体化しているので、積層鋼板の各層の種類を選択することにより、従来にない高い加工性を実現するとともに、高強度化、耐肌荒れ性の向上、耐食性の向上を合わせて実現することができる。各層の鋼板には、炭素鋼と合金鋼の一方又は両方を選択することができる。自動車用鋼板や家電用鋼板として通常に使用される鋼板が、炭素鋼と合金鋼だからである。
本発明における上記一体化とは、積層鋼板の各層が前述のように配向してお互いに直接金属結合している状態である。特許文献8又は9の配向鋼板を複数用意して、それぞれを接着剤で張り合わせたり、ろう付けしたりして得られる積層鋼板では、本発明の効果は得られない。
本発明の積層鋼板を構成する各鋼板は、αFe相またはγFe相の一方または両方から構成されている。αFe相は構造が体心立方のFe結晶相であり、他原子がFeを一部置換したり、Fe原子間に侵入したりしたものを含んでいる。γFe相は構造が面心立方のFe結晶相であり、他原子がFeを一部置換したり、Fe原子間に侵入したりしたものを含んでいる。
本発明の積層鋼板では、鋼板面に対するαFe相またはγFe相の一方または両方の、{222}面集積度が60%以上99%以下または{200}面集積度が0.01%以上15%以下の一方または両方であることを特徴としている。{222}面集積度が低くかつ{200}面集積度が高いと、プレス加工、深絞り加工の際に破断、割れが生じやすくなるが、{222}面集積度が60%以上又は{200}面集積度15%未満であれば良好な加工性を実現することができる。一方、{222}面集積度が99%超かつ{200}面集積度が0.01%未満となると加工性の効果は飽和する。そのため、{222}面集積度が60%以上99%以下または{200}面集積度が0.01%以上15%以下の一方または両方であることとした。各面集積度が本発明の範囲であると、絞り加工の評価値である平均r値が2.5以上となり、優れた加工性が得られるようになる。
ここで面集積度の測定は、MoKα線によるX線回折法で行うことができる。αFe相の{222}面集積度、および、{200}面集積度は以下のように求める。試料表面に対して平行なFeのα結晶11面{110}、{200}、{211}、{310}、{222}、{321}、{411}、{420}、{332}、{521}、{442}の積分強度を測定し、その測定値それぞれをランダム方位である試料の理論積分強度で除した後、{200}あるいは{222}強度の比率を百分率で求めた。これは、例えば、{222}強度比率では、以下の式(1)で表される。
{222}面集積度
=[{i(222)/I(222)}/{Σi(hkl)/I(hkl)}]×100 … (1)
ただし、記号は以下の通りである。
i(hkl):測定した試料における{hkl}面の実測積分強度
I(hkl):ランダム方位をもつ試料における{hkl}面の理論積分強度
Σ :α−Fe結晶11面についての和
同様に、γFe相の{222}面集積度および{200}面集積度は以下のように求める。試料表面に対して平行なFeのγ結晶6面{111}、{200}、{220}、{311}、{331}、{420}の積分強度を測定し、その測定値それぞれをランダム方位である試料の理論積分強度で除した後、{200}あるいは{222}強度の比率を百分率で求めた。これは、例えば、{222}強度比率では、以下の式(2)で表される。
{222}面集積度
=[{i(222)/I(222)}/{Σi(hkl)/I(hkl)}]×100 … (2)
ただし、記号は以下の通りである。
i(hkl):測定した試料における{hkl}面の実測積分強度
I(hkl):ランダム方位をもつ試料における{hkl}面の理論積分強度
Σ :γ−Fe結晶6面についての和
ここで、αFe結晶粒に関しては、別途EBSP(後方散乱電子回折像(Electron Backscattering Diffraction Pattern))法によっても{222}面集積度を求められる。EBSP法で測定できる結晶面の総面積に対する{222}の面積率が、{222}集積度となる。したがって、前記方法によっても、本発明の積層鋼板は、{222}面集積度が60%以上98%以下である。本発明では、前記すべての分析手法で得られる値が本発明の規定範囲を満足する必要はなく、一つの分析手法で得られる値が本発明の規定範囲を満足すればその効果が得られるものである。
また、EBSP法では、鋼板面に対して{222}面のずれが生じるが、前記ずれが30°以内であることが好ましい。{222}面のずれをL断面で観察し、L断面における{222}面のずれが30°以下の結晶粒の面積割合が80〜99.9%である方がより好ましい。更に好ましくは、L断面における{222}面のずれが0〜10°の結晶粒の面積割合が40〜98%である。
また、平均r値はJIS Z 2254で求められる平均塑性ひずみ比を意味し、以下の式で算出される値である。
平均r値=(r0+2r45+r90)/4 … (3)
なお、r0、r45、r90は、試験片を板面の圧延方向に対し、それぞれ0°、45°、90°方向に採取し測定した塑性ひずみ比である。
ここで、ランダム方位を持つ試料の積分強度は、試料を用意して実測して求めてもよい。
本発明に使用できる炭素鋼は、特に限定しないが、例えば、極低炭素鋼、低炭素鋼、中炭素鋼、高炭素鋼、超高炭素鋼(炭素含有量1.6%以上)等が挙げられる。特に、炭素鋼が極低炭素鋼、低炭素鋼、中炭素鋼、あるいは高炭素鋼の少なくとも1種であると好ましい。炭素濃度が数十ppm以下の極低炭素鋼を用いることにより、自動車用鋼板のような優れた深絞り性を実現することができる。低炭素鋼を用いることにより、極低炭素鋼よりも高い降伏強度と優れた深絞り性を実現することができる。中炭素鋼を用いることにより、高い引っ張り強度と優れた深絞り性を実現することができる。高炭素鋼を用いることにより、高い耐磨耗性と優れた深絞り性を実現することができる。
本発明に使用できる合金鋼は、特に限定しないが、例えば、ステンレス鋼、クロムモリブデン鋼、マンガンモリブデン鋼等が挙げられる。また、前記合金鋼としては、低合金鋼、中合金鋼、高合金鋼のいずれの場合でもよい。特に、合金鋼がステンレス鋼であると好ましい。積層鋼板の最表面を構成する鋼板をステンレス鋼とすることにより、優れた耐食性を具備した鋼板とすることができる。
高い{222}面集積度を有する積層鋼板を3層とし、両表面をステンレス鋼、内部を極低炭素鋼とすれば、内部の極低炭素鋼の特質によって積層鋼板のプレス成形性と深絞り性を実現し、両表面のステンレス鋼によって積層鋼板の耐食性を合わせて実現することができる。プレス成形性、深絞り性、鋼板強度の必要条件に応じ、内部の鋼板を極低炭素鋼に替えて低炭素鋼、中炭素鋼、高炭素鋼とするとよい。積層鋼板を2層とし、一方をステンレス鋼、他方を極低炭素鋼(又は低炭素鋼、中炭素鋼、高炭素鋼)とすれば、鋼板の一方のみを高耐食性とすることができる。
通常、耐肌荒れ性は鋼板の結晶粒径が小さい方がより優れるが、結晶粒径が小さくなると深絞り性が劣化してしまう。そこで本発明の積層鋼板の製造工程において、複数の鋼板を積層させる場合に両側表面に配置する鋼板の結晶粒径を中心部に配置する鋼板の結晶粒径よりも小さくなる鋼種とすれば、耐肌荒れ性は表面に配置した鋼板が担い、深絞り性はそれらより中心部に配置した鋼板が担うことによって、耐肌荒れ性と深絞り性の両者に優れた積層鋼板とすることができる。両側表層に配置する結晶粒径の小さな鋼板は、例えば、第二層を付着させる前の鋼板のC、Ti、Mn、Siなどの含有量を高くするなどの従来公知の方法を適用することによって製造できる。
積層鋼板を構成する各層の鋼板は、Al含有が6.5質量%未満であると好ましい。Al含有量が6.5質量%未満であると、それより高いAl含有量に比較し、高い{222}面集合組織が容易に得られるようになり、引っ張り破断伸びが向上し、高い{222}面集積度を有しかつ十分な加工性が得られるからである。
本発明の積層鋼板を構成する各層鋼板の積層面及び積層鋼板の両表面の一部又は全部において、隣接する各層鋼板に比較し、Al、Co、Cu、Cr、Ga、Hf、Hg、In、Mn、Mo、Nb、Ni、Pb、Pd、Pt、Sb、Si、Sn、Ta、Ti、V、W、Zn、Zr等のうち1つ以上の元素が濃化していることが好ましい。特に、好ましい元素は、Al、Ni、Si、Sn、V、Znのうち1つ以上の元素である。前記元素は、強加工しても積層界面で剥離を起さないで、高い加工性を得られ易い。
本発明の積層鋼板の厚みは、特に限定しないが、製造上より好ましくは、5μm以上10mm以下である。積層鋼板の厚みが薄すぎると製造歩留まりが低下することがあるが、厚みが5μm以上であればこのような問題を発生させることなく製造することができる。特許文献9に記載の鋼板は、板厚最大値が5mmであった。本発明においては、積層鋼板の各層を構成する鋼板について{222}面集積度を低下させることのない板厚は最大5mmである。各層の鋼板の板厚が5mm以下であれば、圧延後の積層鋼板に形成された第二層相互間の距離の最大値も5mm以下となるので、圧延後の熱処理において各層の鋼板の{222}面集積度を十分に向上することができる。このような各層鋼板が複数積層されているので、積層鋼板の板厚は最大10mmまでとするのが効率的な製造上好ましい。積層鋼板の厚みが厚すぎると{222}面集積度が低下することがあるが、厚みが10mm以下であればこのような問題のない積層鋼板とすることができる。
本発明の積層鋼板は、積層鋼板を構成する各層の鋼板が同一の品種であることとしてもよい。同一の品種の鋼板を積層しているので、積層鋼板の品質は、同じ厚みを有する単層鋼板と同等の品質を具備することとなる。従来、高い{222}面集積度を有する単層鋼板としては、特許文献9にあるように、最大厚み5mmが限界であった。それに対し、本発明においては5mmを超え10mmに至る厚鋼板を得ることができるので、板厚5mmを超える厚鋼板における加工性向上の要求に応えることが初めて可能になった。本発明の、各層の鋼板が同一の品種である積層鋼板において、積層鋼板であることを確認する手段として、板厚方向の断面組織観察を用いることができる。また、積層面に第二層を付着させた鋼板を重ね合わせた後、圧延し、その後、熱処理する工程をとって製造した本発明の積層鋼板に関しても、積層鋼板であることを確認する手段として、板厚方向の断面組織観察を用いることができる。重ね合わせられる各鋼板は必ず第二層を介していることになる。熱処理によって第二層を均一に拡散せて一体化して積層した後においても、熱処理前に第二層が存在していた部位近傍の結晶粒界は直線的な形状となっているために、通常の金属組織の観察手段によって、結晶粒の形を観察すれば、積層され一体化したものであるかどうかを容易に判別することができる。
次に、本発明の積層鋼板の製造方法について説明する。
板厚が10μm以上10mm以下の複数の鋼板を準備し、該複数の鋼板の一部又は全部の少なくとも片面に第二層を付着させる。第二層はFe以外を主成分とする金属である。前記複数の鋼板を重ね合わせ、該重ね合わせた鋼板を圧延し、その後熱処理によって再結晶させると同時に各鋼板を一体化して積層させることにより、本発明の高い{222}面集積度を有する積層鋼板を製造することができる。
積層する前の鋼板の板厚は10μm以上10mm以下とする。板厚が10μm未満では積層する際のハンドリングが煩雑になり歩留が低下してしまう。一方、積層する前の板厚が10mmを超えると、積層鋼板の{222}面集積度が低下してしまう。
高い{222}面集積度を得るためには、積層鋼板を構成する各層の鋼板の一部又は全部の少なくとも片面に、第二層を付着した状態で圧延を施すことが必須である。この際、第二層を付着した後のこれら鋼板を重ね合わせたとき、各鋼板の接触面のすべてに第二層が形成されていると好ましい。従って、重ね合わせる前に第二層が付着されていない鋼板が含まれていても、重ね合わせた後に隣り合わせになる鋼板の第二層に接するように重ね合わせればよい。さらに重ね合わせた鋼板の両最表面に第二層が形成されていると好ましい。ここで、第二層はFe以外を主成分とする金属である。Feを主成分としたのでは、本発明の高い{222}面集積度を実現することができない。ここでFe以外を主成分とするとは、Fe以外の金属成分の含有量が合計で90質量%以上であることを意味する。
第二層の鋼板への付着は溶融めっき法、電気めっき法、ドライプロセス法、クラッド法等によって実施でき、いずれの方法で付着を行っても本発明の効果を得ることができる。また、付着させる第二層に希望する合金元素を添加させ、同時に合金化させることも可能である。
第二層が付着した鋼板を少なくとも2枚以上重ね合わせる。重ね合わせた鋼板枚数が多くなると、圧延中に鋼板のずれが生じやすくなる。このずれを抑制するためには、周囲の数箇所を仮溶接すればよい。又は、軟鋼などの金属製容器で包んで圧延するパック圧延を用いればよい。重ね合わせる枚数は、重ね合わせた鋼板を所定の圧延率で圧延した後の重ね合わせた鋼板全体の厚みが5μm以上10mm以下に入る枚数がより好ましい。
さらに重ね合わせた鋼板に冷間圧延もしくは温間圧延を施す。圧延率は30%以上95%以下が望ましい。圧延率が低すぎると、熱処理工程後に得られる積層鋼板の{222}面集積度が十分に得られない場合があるが、30%以上であれば十分な{222}面集積度を得ることができる。圧延率が95%超では{222}面集積度の増加は飽和し、圧延コストが増加することになるので、工業的メリットが低下する場合がある。冷間圧延では歪エネルギーの蓄積が高くなるため、その後の熱処理工程における再結晶が効果的に進行する。数10℃から600℃程度で温間圧延を施せば、歪エネルギーの蓄積は低減されるが、重ね合わせた鋼板どうしの密着性が向上し、その後の熱処理工程での一体化がより促進される効果がある。
その後の工程において熱処理を施して再結晶させる必要がある。重ね合わせた鋼板の各層の接触面に、Fe以外の金属を主成分とする第二層が付着し、その状態で圧延を行い、さらに熱処理によって再結晶させた結果として、積層鋼板が得られ、積層鋼板の各層が高い面集積度となる。その際には第二層に含まれている元素を鋼中に拡散する効果も含んでいる。第二層に含まれている元素が鋼中に拡散することによって、より高い{222}面集積度が得られる傾向もあり、かつ、高温耐酸化性や機械的特性も向上する。
鋼板を再結晶させる目的を担う熱処理工程は、真空雰囲気、Ar雰囲気、H2雰囲気、ヘリウム雰囲気といった非酸化性雰囲気で行うことができる。この際、熱処理温度は600℃以上1200℃以下とすると好ましい。600℃未満であると{222}面集積度は低く、本発明の範囲には到達できない場合がある。また、600〜1000℃の温度範囲であれば熱処理時間は30秒以上が望ましい。温度が1000℃以下であり熱処理時間が30秒未満であると、{222}面集積度は低く、本発明の範囲には到達できない場合がある。熱処理温度が1000℃超であると、熱処理時間の制限はなく高い{222}面密度が得られる。特に1000℃超であると30秒以下の熱処理時間であっても{222}面集積度は容易に増加させられる。なお、熱処理温度が1200℃超であると熱処理設備費用が高くなり、工業的メリットが薄れる場合がある。
次に、熱処理時の好ましい昇温速度は1℃/分以上1000℃/分以下である。昇温速度を1000℃/分以下にすると、より高い{222}面集積度が容易に得られるようになる。また1℃/分以上にすると生産性が各段に向上できる。従って、昇温速度の好ましい範囲は1℃/分以上1000℃/分以下である。
第二層と隣接する各層鋼板が合金化しており、鋼板面に対するαFe相またはγFe相の一方または両方の、{222}面集積度が60%以上99%以下または{200}面集積度が0.01%以上15%以下の一方または両方であることを特徴とする高い{222}面集積度を有する積層鋼板は本発明の積層鋼板に含まれる。{222}面集積度が60%未満かつ{200}面集積度が15%以上になると、絞り、曲げ、圧延加工時に割れや破断が生じやすくなる。また、{222}面集積度が99%超かつ{200}面集積度が0.01%未満になると効果は飽和し、また、製造も難しくなる。
本発明では冷延前に母材に付着させる第二層それぞれの厚みに関し、より望ましい範囲は0.05μm以上1000μm以下である。鋼板と第二層が合金化している場合には、合金化している厚みは第二層の厚みに含める。また、両面に第二層が付着している場合には両面の厚みの合計である。第二層の厚みが0.05μm未満であると、{222}面集積度が低くなる場合があり、本発明の範囲に入らなくなる可能性が高まるため0.05μm以上が好ましい。1000μm超の場合にも、{222}面集積度が低くなる場合があり、本発明の範囲に入らなくなる可能性が高まるため1000μm以下が好ましい。
本発明において第二層はFe以外を主成分とする金属である。さらに望ましい第二層を構成する元素は、Fe、Al、Co、Cu、Cr、Ga、Hf、Hg、In、Mn、Mo、Nb、Ni、Pb、Pd、Pt、Sb、Si、Sn、Ta、Ti、V、W、Zn、Zrのうち1つ以上の元素を含有し、左記元素のうちFeを除くいずれかの元素を主成分とする。ここで左記元素のうちFeを除くいずれかの元素を主成分とするとは、左記元素のうちFeを除く成分の合計含有量が90質量%以上であることを意味する。特に好ましい元素は、Al、Ni、Si、Sn、V、Znのうち1つ以上の元素である。例えば第二層としては、Al−SiなどのAl合金、Zn−AlなどのZn合金、Sn−NiなどのSn合金等が具体的に選択される。これらの元素は、重ね合わせた鋼板を圧延する際に歪エネルギーを効果的に蓄積させる効果がある。さらに、隣り合う鋼板どうしの合金化を促進することによって、重ね合わせた鋼板を一体化させやすくする効果がある。
第二層に含有する成分がすべて積層鋼板に均一に拡散したと仮定したとき、第二層に含有する成分のうちFeを除く成分の合計が、積層鋼板中に0.5質量%以上の含有量とすると好ましい。これにより、積層鋼板の{222}面集積度を十分に高めることができる。一方、第二層に含有する成分のうちFeを除く成分の合計の鋼板中濃度が高すぎると、鋼板の破断伸びが低下してプレス成形性が劣化する場合がある。鋼板中濃度が6.5質量%以下であればこのような問題の発生を防止することができる。
ここで、第二層にAlが含有される場合には、母材鋼板の望ましいAl含有量は3.5質量%未満とした。母材鋼板のAl濃度が3.5質量%以上であり、第二層にAl合金を付着したまま熱処理すると、熱処理中に収縮を起こして寸法精度が著しく低下する場合がある。したがって、本発明では第二層にAlが含有される場合には母材鋼板のより好ましいAl含有量は3.5質量%未満とした。
次に、第二層にAlが含有されない場合には、母材としてのAl含有量は6.5質量%未満を本発明の範囲とした。少なくとも片面に第二層としてFe、Co、Cu、Cr、Ga、Hf、Hg、In、Mn、Mo、Nb、Ni、Pb、Pd、Pt、Sb、Si、Sn、Ta、Ti、V、W、Zn、Zrのうち1つ以上の元素を付着させる工程が含まれる場合には、母材鋼板のAl含有量が6.5質量%以上になると、得られる鋼板の引っ張り破断伸びが低下して、高い{222}面集積度を有しても十分な加工性が得られなくなる場合がある。したがって、この場合の母材鋼板のより好ましいAl含有量は6.5質量%未満とした。
本発明の製造方法において、準備する複数の鋼板(「母材鋼板」ともいう。)の厚みは10μm以上10mm以下である。鋼板の厚さが10μm未満であると冷延以降の製造歩留まりが低下するため、実用に適さない。10mm超であると、{222}面集積度が本発明の範囲に入らなくなる。したがって、準備する鋼板の厚みは10μm以上10mm以下である。
さらに優れた本発明の効果を発現させる為には、第二層を付着させる前の母材鋼板に予備熱処理を施すと良い。この予備熱処理は、母材鋼板の製造過程で蓄積された転位構造を再配列させるもので、再結晶を起こさせることが望ましいが、必ずしも再結晶を起こさせる必要はない。
ここで、望ましい予備熱処理温度は700℃以上1100℃以下である。700℃未満であると、より優れた本発明の効果を得る為の転位組織の変化が起こりにくい場合がある。1100℃超にすると、鋼板表面に好ましくない酸化皮膜が形成され、その後の第二層の付着および、冷間圧延に悪影響を及ぼす場合があるため1100℃以下を好ましい温度とした。この予備熱処理の雰囲気は、真空中、不活性ガス雰囲気中、水素雰囲気中、弱酸化性雰囲気中のどの条件においても、上述した効果を得ることができるが、予備熱処理後の第二層の付着および、その後の冷間圧延に悪影響を及ぼすような鋼板表面の酸化膜を形成しない条件が求められる。予備熱処理の時間は特別限定する必要は無いが、鋼板の製造性等を考慮すると数秒から数時間以内が適当である。
表1に示す成分組成を有する極低炭素鋼、低炭素鋼、中炭素鋼、高炭素鋼A、高炭素鋼B、ステンレス鋼、マンガンモリブデン鋼を積層前鋼板として用い、本発明の各種積層鋼板を製造した。積層前鋼板の両面に第二層元素を付着し、積層し、冷間圧延を行い、その後熱処理を行った。
以下、実施例1〜6について、積層前鋼板の鋼種、積層前の第二層付着前鋼板の厚み、第二層元素、第二層厚み、積層枚数、積層後の冷間圧延における冷間圧延率、圧延後熱処理の熱処理温度、時間、圧延及び熱処理後の積層鋼板の板厚に関し、それぞれ表2〜7に示す条件を採用した。本発明範囲から外れる数値にアンダーラインを付している。
積層前の各鋼板の両面に第二層を付着した。表2〜7の「第二層厚み」には片面の付着量が表示されている。各表の「第二層厚み」欄に括弧で示された値(例えば(+2.9%Al))は、第二層の主要元素が鋼板内に拡散した結果として、鋼板の成分含有量の上昇量を示す数値である。「積層枚数」に括弧書きで示された値は、積層後圧延前の第二層を含めた合計板厚を示す数値であり、単位はmmである。
熱処理までを完了した積層鋼板について、表面及び板厚中心それぞれの{222}面集積度、{200}面集積度の評価を行った。面集積度の測定は、MoKα線によるX線回折により、前述のとおりの手順を用いて行った。ここで、表面とは、鋼板面の表面から前記X線の侵入深さを意味するものである。板厚中心は、板厚tの鋼板の1/2tの深さまでエッチングしてX線回折測定を行った。
また、ランクフォード値の評価を、前記(3)式で得られる平均r値によって行った。
また、加工後の積層界面の剥離の有無に関しては、鋼板を0Tで180度折り曲げし、曲げ部分の断面を電子顕微鏡で観察して、積層界面の剥離の有無を調べた。
(実施例1)
表2に示す条件で積層鋼板を製造した。積層する鋼板は、極低炭素鋼、低炭素鋼、中炭素鋼、高炭素鋼A、高炭素鋼B、マンガンモリブデン鋼、又はステンレス鋼のいずれかの単一鋼種を選択した。積層鋼板は、単一の鋼種の鋼板を積層しているので、積層後も単一の鋼種の鋼板として用いることができる。
第二層元素の付着方法として、Al−10質量%Siは溶融めっき法、Alはイオンプレーティング、Zn−6%Niは溶融めっき法を採用した。
本発明例2〜5、7、10、13〜14、16〜18はいずれも、本発明の積層鋼板であり、{222}面集積度は、積層鋼板の板厚全体にわたって60%以上と良好な面集積度を実現することができた。
比較例1、6、11、12、15については、積層枚数が1枚、即ち単層鋼板であり、そのため{222}面集積度が本発明例に比較して低い値となっている。その結果、r値が低く、即ち、加工性に乏しいものである。母材鋼板、第二層元素、圧延率、熱処理温度、時間、最終厚み、が全て同じである比較例1と本発明例2を比べてみると、本発明例2では{222}面集積度が90%以上と優れた面集積度が得られるのに対して、比較例1では、特に、板厚中心部における{222}面集積度が60%未満と低い値となった。単層鋼板では、圧延する際に鋼板の中に形成される特別な転位組織が板厚中心近傍まで効果的に形成され難くなり、その結果、熱処理によって該転位組織から形成される{222}面を持つ再結晶核の発生頻度が低下したためによるものと考えられる。
また、比較例8では、積層枚数が4枚であるが、熱処理温度が本発明範囲から外れているため、鋼板面の表面及び板厚中心部共に{222}面集積度が60%未満と低い値であり、その結果、r値が低く、更に加工により積層界面での剥離が起こった。比較例9は、第二層を施していない積層鋼板であるが、鋼板面の表面及び板厚中心部共に{222}面集積度が60%未満と低い値であり、その結果、r値が低く、更に加工により積層界面での剥離が起こった。
本発明例の積層鋼板のr値(ランクフォード値)は2.5以上の良好な値であった。
(実施例2)
表3に示す条件で積層鋼板を製造した。本発明例21〜26について、積層する鋼板は、最表面にステンレス鋼、内部に極低炭素鋼を用いた。本発明例21の積層鋼板は、単一の鋼種の鋼板を積層しているので、積層後も単一の鋼種の鋼板として用いることができる。
第二層元素の付着方法として、Al−10質量%Siを溶融めっき法によって付着した。
本発明例21〜26はいずれも、本発明の積層鋼板であり、{222}面集積度は、積層鋼板の板厚全体にわたって60%以上と良好な面集積度を実現することができた。
積層鋼板のランクフォード値は、いずれも2.5以上の良好な値であった。
腐食試験として、1ヶ月間にわたる野外大気中暴露試験を行った。本発明例22〜26については、両表面にステンレス鋼を有している積層鋼板であるから、何ら腐食が発生しなかった。それに対し本発明例21については、表面に極低炭素鋼が露出しているので、全面に錆が発生した。
(実施例3)
表4に示す条件で積層鋼板を製造した。第二層として、Al、Mo、Ni、Si、Sn、V、Znを用いた。積層する母材鋼板は、極低炭素鋼あるいは低炭素鋼いずれかの単一鋼種を選択した。積層鋼板は、単一の鋼種の鋼板を積層しているので、積層後も単一の鋼種の鋼板として用いることができる。
第二層元素の付着方法として、Al、Sn、Znは溶融めっき法、Niは電気めっき法、Mo、Si、Vはイオンプレーティングを採用した。
本発明例31〜37はいずれも本発明の積層鋼板であり、{222}面集積度が60%以上と良好な面集積度を実現することができた。
本発明例の積層鋼板のランクフォード値は2.5以上の良好な値であった。
積層前鋼板として中炭素鋼を選択した本発明例については、極低炭素鋼を選択した本発明例と比較して、引張強度が高い値であった。
(実施例4)
表5に示す条件で積層鋼板を製造した。冷間圧延及び熱処理後の積層鋼板板厚を、4μmから11.8mmまで変化させた。積層する母材鋼板は、極低炭素鋼あるいは低炭素鋼いずれかの単一鋼種を選択した。積層鋼板は、単一の鋼種の鋼板を積層しているので、積層後も単一の鋼種の鋼板として用いることができる。
第二層元素の付着方法として、Al−10質量%Siを溶融めっき法で付着した。
本発明例41〜49、51はいずれも、本発明の積層鋼板であり、{222}面集積度が60%以上と良好な面集積度を実現することができた。特に本発明例47〜49、51については、圧延・熱処理後の積層鋼板の板厚が5mm以上と極めて厚い鋼板であるにかかわらず、{222}面集積度60%以上を実現することができた。本発明例41については、圧延・熱処理後の積層鋼板の板厚が本発明の良好範囲下限である5μm未満となったため、製造時の歩留が低下する結果を招いた。本発明例42については、圧延・熱処理後の積層鋼板板厚が8μmと薄いため、板厚中心の{222}面集積度、{200}面集積度がが、それぞれ表面と同じ値となった。発明例51は、圧延・熱処理後の積層鋼板の板厚が10mmを超えているので、{222}面集積度は大きくは無いが、本発明の範囲内であり、良好な加工性(ランクフォード値)を示した。
比較例50については、{222}面集積度が60%未満となり、高いランクフォード値が得られず、加工後の積層界面で剥離が見られた。
本発明例の積層鋼板のランクフォード値は2.5以上の良好な値であった。
(実施例5)
表6に示す条件で積層鋼板を製造した。積層前母材鋼板の板厚を、8μmから10.9mmまで変化させた。積層する母材鋼板は、極低炭素鋼あるいは低炭素鋼いずれかの単一鋼種を選択した。積層鋼板は、単一の鋼種の鋼板を積層しているので、積層後も単一の鋼種の鋼板として用いることができる。
第二層元素の付着方法として、Al−10質量%Siを溶融めっき法で付着させた。
本発明例61〜67はいずれも、本発明の積層鋼板であり、{222}面集積度が60%以上と良好な面集積度を実現することができた。本発明例41については、積層前鋼板の板厚が8μmであり、好適範囲下限の10μm未満であるため、積層前鋼板を積層する際にずれ防止などの積層工程が煩雑となった。
比較例68については、積層前の母材鋼板板厚が10mmを超えており、{222}面集積度が60%未満となり、良好な加工性が得られず(低いランクフォード値)、加工後の積層界面で剥離が見られた。
本発明例の積層鋼板のランクフォード値は2.5を超える良好な値であった。
(実施例6)
表7に示す条件で積層鋼板を製造した。積層する母材鋼板は、極低炭素鋼あるいは低炭素鋼いずれかの単一鋼種を選択した。積層鋼板は、単一の鋼種の鋼板を積層しているので、積層後も単一の鋼種の鋼板として用いることができる。
第二層としてAl、Al−10質量%Si、Znを選択し、第二層の付着厚みを0.03μmから1040μmまで変化させた。第二層元素の付着方法として、Alはイオンプレーティング、Al−10質量%Si、Znは溶融めっき法を採用した。
本発明例73〜78、81〜84はいずれも、本発明の積層鋼板であり、{222}面集積度が60%以上と良好な面集積度を実現することができた。
第二層厚みについてみると、0.05μm以上1000μm以下の範囲にある本発明例がより{222}面集積度が高く、加工性に優れる(高いランクフォード値)結果となった。
本発明例の積層鋼板のランクフォード値は2.5以上の良好な値であった。
(実施例7)
耐肌荒れ性の改善を目的として、表8に示す条件で積層鋼板を製造した。積層する母材鋼板は、両表面に中炭素鋼、内層に4層の極低炭素鋼を選択した。
第二層としてAl−10質量%Siを選択し、第二層の付着厚みを24μm(極低炭素鋼)、10μm(中炭素鋼)とし、各鋼板の両面に第二層を付着した。第二層元素の付着方法として溶融めっき法を採用した。
本発明例91は本発明の積層鋼板であり、{222}面集積度が60%以上と良好な面集積度を実現することができた。
積層鋼板のランクフォード値は2.5以上の良好な値であった。
鋼板の結晶粒径を評価したところ、両表面の中炭素鋼部分の結晶粒径は、内部の極低炭素鋼部分の結晶粒径の約2/3であった。
表8に示す本発明例91と、実施例1の本発明例2に示す0.6mm厚の積層鋼板を用いて、耐肌荒れ性を評価する試験を行った。評価方法は、絞り比3.0にて直径30mmのカップを成形し、目視によって側面の肌荒れ(オレンジピール)の有無を調べた。その結果、本発明例91では肌荒れの発生が全くなかったのに対し、本発明例2では、製品としては影響ないレベルではあるが、カップ底部近くにオレンジピールが僅かに発生した。