以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
図1は、本実施の形態における交通パラメータ算出装置を含む交通管制システムの構成を示す模式図である。交通管制システムは、交通道路上の各交差点C1,C2,C11,…に設置されている信号灯器1,1,…と、各信号灯器1,1,…に接続されて信号灯器1,1,…を制御する信号制御機2,2,…と、車両V,V,…の通行を検知する車両感知器3,3,…と、一部の車両V,V,…に搭載された車載器との通信を行なう通信装置7,7,…とを含む。なお、図1では、一部の符号及び車両V,V,…、車両感知器3,3,…の図示を省略している。
交通管制システムは基本的に、車両感知器3,3,…により各交差点C1,C2,C11,…へ流入する車両群V,V,…の交通量が検知され、各信号制御機2,2,…にて交通量に応じた信号制御が行なわれる。
実施の形態1における交通管制システムは更に、中央装置4と、交通パラメータ算出装置5と、位置情報収集装置6とを含む。中央装置4、交通パラメータ算出装置5、及び位置情報収集装置6は、図1中に示す交通道路からは離隔した場所にある交通管制センタ内に設置され、相互に通信可能に接続されている。信号制御機2,2,…、車両感知器3,3,…及び通信装置7,7,…は、交通管制センタ内の中央装置4、交通パラメータ算出装置5、及び位置情報収集装置6と無線又は有線により通信が可能に構成されている。
車両感知器3,3,…は、交差点C1,C2,C11,…の内、全部又は一部の交差点の上流の所定地点の路側に設置される。所定地点は例えば、停止線から500m〜1000m程度上流の地点である。車両感知器3,3,…は、各リンクを通過する車両数を示すリンク交通量を計測する。車両感知器3,3,…は超音波式、ループ式、超音波ドップラー式、光学式(光ビーコン)、画像処理型、赤外線式などを用いて、リンクを通行する車両V,V,…を検知してリンク交通量を計測する。車両感知器3,3,…は、計測したリンク交通量を交通管制センタ内の中央装置4、交通パラメータ算出装置5、又は位置情報収集装置6へ送信する。
車両感知器3,3,…がカメラを有して画像処理により車両の存在を感知する画像処理型である場合、車両感知器3,3,…はナンバープレートに対する画像処理によって各車両V,V,…を識別するようにしてもよい。この場合、車両感知器3,3,…は車両を識別する情報と車両感知器3,3,…自身を識別する情報とを位置情報収集装置6へ送信する。これにより、位置情報収集装置6で車両V,V,…の軌跡情報を把握することができる。
通信装置7,7,…は、交差点付近に設置される。通信装置7,7,…は全てのリンクに対応させて設置せずともよい。通信装置7,7,…は、車両V,V,…の内の一部の車両V,V,…に搭載された車載器に対し情報を送受信する双方向通信機能を有し、通信可能領域を通過した場合に、車両の車載器から車載器の識別情報及びプローブ情報を受信し、中央装置4、又は位置情報収集装置6へ送信する。通信装置7,7,…は、プローブ情報を受信した際の時刻情報を付加して位置情報収集装置6へ送信してもよい。通信装置7,7,…としては例えば、車載器との双方向通信機能を有する光ビーコン又は路側無線機が利用できる。通信装置7,7,…として光ビーコンを利用する場合、例えば各リンクの上流地点、即ち交差点出口の直下流に設置される。車載器から送信される情報としては、車載器の識別情報、及び、直前に通過したリンクに設置されていた車両感知器3の識別番号(ビーコン番号)などが含まれる。通信装置7,7,…は車載器から受信した情報に自身の識別情報又は設置されているリンクを識別するための情報を付加して位置情報収集装置6へ送信する。位置情報収集装置6では、車載器の識別番号で識別される車両の軌跡を、通過したリンクの識別番号を時系列に関連付けた軌跡情報(L11→L12→…)として把握することができる。また、車両V,V,…に搭載されている車載器がGPS機能を有している場合、通信装置7,7,…は車載器から車載器の識別情報と共に送信されるプローブ情報を受信し、位置情報収集装置6へ送信するようにしてもよい。
なお、車両感知器3,3,…が光ビーコンである場合など、車両感知器3,3,…自身が車載器に対する双方向通信機能を有している場合、通信装置7,7,…は必ずしも設置されていなくともよい。
なお、上述のプローブ情報は、一定時間又は一定の走行距離毎の、時刻、車両の位置及び速度を含む情報である。車載器は、一定時間又は一定の走行距離毎に、時刻、GPS機能により測定される車両の位置及び速度を取得して記録、蓄積しておき、通信装置7,7,…の通信可能領域内に入った場合に送信する。プローブ情報は、車両に設置された携帯電話機等から直接的に位置情報収集装置6にて収集されてもよい。
位置情報収集装置6は、車両感知器3,3,…及び通信装置7,7,…から送信される情報を収集する。位置情報収集装置6は、車両感知器3,3,…にて計測された交通量を記憶する。また、位置情報収集装置6は、通信装置7,7,…を介して車載器からの情報を受信し、軌跡情報を特定して記憶してもよい。具体的には、位置情報収集装置6は、各車両V,V,…が通過した車両感知器3,3,…の識別情報、及び各車両V,V,…の車載器の識別情報を受信する。これにより、位置情報収集装置6は、車両感知器3,3,…の識別情報により特定される各リンクと、当該リンクを通過した車両を特定し、各車両がいずれのリンクを通過したかを示す軌跡情報(L11→L12→…)を特定することができる。なお、位置情報収集装置6は、車両V,V,…に搭載されている車載器から送信されるGPS機能に基づく位置情報に基づき、各車両V,V,…の位置情報を時系列に記憶して軌跡情報を特定してもよい。このように、位置情報収集装置6に各車両の軌跡情報が収集されることで中央装置4又は交通パラメータ算出装置5が軌跡情報を利用可能である。
交通パラメータ算出装置5は後述するように、車両の交通量に基づく信号制御パラメータなど、交通流を円滑とする交通管制のための交通パラメータを算出する。
中央装置4は、交通パラメータ算出装置5及び位置情報収集装置6から出力される情報を用いて信号制御機2,2,…へ指示を送信することにより、各路線上の信号灯器1,1,…を系統的に制御させることが可能に構成されている。中央装置4は、交通パラメータ算出装置5によって算出される交通パラメータ、及び位置情報収集装置6から取得可能な車両の軌跡情報などに基づいて信号制御を実行することが可能である。
図1の模式図には、第1交差点C1及び第2交差点C2を含む交通道路の一部が模式的に示されている。なお、図1中の破線にて示される矩形領域を制御対象領域とする。図1には、第1交差点C1から第2交差点C2に至るまでの経路として、4つの経路が示されている。図1中のL11,L12,…は、各経路上のリンクである。第1経路はリンクL11,L12,L13,L14,L15,L16からなり、交差点C1,C11,C12,C13,C14,C15,C2を経路上に含む。第2経路はリンクL21,L22,L23,L24からなり、交差点C1,C21,C22,C23,C2を経路上に含む。第3経路はリンクL31,L32,L33,L34,L35からなり、交差点C1,C31,C32,C33,C34,C2を経路上に含む。第4経路は、リンクL41,L42,L43,L44からなり、交差点C1,C41,C42,C43,C2を経路上に含む。
本実施の形態における交通パラメータ算出装置5は、第1交差点C1から第2交差点C2までの複数の経路Pi(i=1,…,N、ここではN=4)における交通流を円滑とする交通管制のための交通パラメータを算出する。交通パラメータとは、第1交差点C1から第2交差点C2までの交通流を円滑化するための、各経路Piへの交通流の配分率と、各経路上の交差点C1,C2,C11,…での信号制御パラメータとを含む。配分率は例えば、交差点C22がボトルネックとなり、第2経路P2にて慢性的に渋滞が発生する状況にある場合、交差点C22を通過する交通流を他の経路へどの程度分散させたときに渋滞が緩和され、交通流が円滑化されるかを推定するための参考値となる。信号制御パラメータは、各経路Piへ前記配分率で交通流が配分された場合に、交通流を円滑化させる信号制御パラメータであって、各交差点での交通の負荷率に基づいて求められる。
以下に、このような交通パラメータの算出を実現するための交通パラメータ算出装置5の構成、及び交通パラメータの算出処理について詳細を説明する。図2は、本実施の形態における交通パラメータ算出装置5の構成を示すブロック図である。本実施の形態における交通パラメータ算出装置5には、CPU(Central Processing Unit)又は記憶装置を備えたサーバコンピュータ又はパーソナルコンピュータを用いることができる。交通パラメータ算出装置5は、CPUを利用した制御部50と、ハードディスクを利用した記憶部51と、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等を利用した一時記憶部52と、ディスクドライブを利用した補助記憶部53と、ネットワークカードを利用した通信部54とを備える。
記憶部51には、コンピュータを本発明に係る交通パラメータ算出装置5として機能させる制御プログラム5Pが記憶されている。一時記憶部52は、制御部50の処理によって発生する情報を一時的に記憶するために利用される。なお、記憶部51又は一時記憶部52には、制御部50により、車両の軌跡情報(時系列の位置情報)、及び各リンクのリンク交通量が記憶される。
補助記憶部53は、DVD、CD−ROM、フレキシブルディスク等の可搬型記録媒体6からデータを読み出すことが可能である。可搬型記録媒体6には、コンピュータを交通パラメータ算出装置5として動作させる制御プログラム6Pが記録されている。記憶部51に記憶されている制御プログラム5Pは、制御部50が補助記憶部53によって可搬型記録媒体6から読み出した制御プログラム6Pを複製したものであってもよい。
通信部54は、交通パラメータ算出装置5と、車両感知器3,3,…、中央装置4、位置情報収集装置6、又は通信装置7,7,…との通信を実現する機能を有する。制御部50は通信部54を介して車両感知器3,3,…からリンク交通量、位置情報収集装置6から各車両の軌跡情報(複数時点での位置情報)を取得することが可能であり、中央装置4へ算出した交通パラメータを出力することも可能である。なお、リンク交通量は位置情報収集装置6から取得してもよい。
上述のようなハードウェア構成を持つ交通パラメータ算出装置5にて、記憶部51から制御プログラム5Pを一時記憶部52に読み出して実行することによって実現される交通パラメータ算出処理の詳細を説明する。
図3は、本実施の形態における交通パラメータ算出装置5の制御部50が行なう交通パラメータ算出処理の一例を示すフローチャートである。
制御部50はまず交通パラメータを算出するにあたり、位置情報収集装置6から、制御対象領域内を所定期間に実際に走行した車両の軌跡情報を取得し、記憶する(ステップS101)。ここで、制御対象領域は、第1交差点C1から第2交差点C2までの複数の経路を含む範囲とする(図1の破線で示す矩形領域)。車両の軌跡情報は、一時的に記憶部51又は一時記憶部52に記憶される。
制御部50は、車両感知器3,3,…又は位置情報収集装置6から、前記所定期間における各リンクのリンク交通量を取得し、記憶部51又は一時記憶部52に記憶する(ステップS102)。リンク交通量は、リンク毎のリンクを通過する車両の台数である。リンク交通量は、各リンク上に設置されている車両感知器3,3,…にて計測されて送信される全車両の交通量である。なお、リンク交通量は、第1交差点C1から第2交差点C2までの経路上のリンクL11,L12,…の交通量のみならず、制御対象領域内の他のリンク、特に境界リンクのリンク交通量も含む。
制御部50は、記憶部51又は一時記憶部52に記憶してある車両の軌跡情報に基づき、第1交差点C1から第2交差点C2までの4本の経路Pi(i=1,…,N(=4))夫々について、第1交差点C1から第2交差点C2まで走行した車両(台数R)の内、経路Piを走行した車両(台数ri)の比率xi(=ri/R)を算出し、基準となる配分率xi(i=1,…,N)の初期値として設定する(ステップS103)。なお、第1交差点C1から第2交差点C2まで走行した車両台数Rは、以下の式(1)にて表わされる。
制御部50は、記憶部51又は一時記憶部52に記憶してある車両の軌跡情報に基づき、経路Pi上の交差点Cim(m=1,…,M(任意の自然数);i=1,…,N)における車両の分岐率akを算出する(ステップS104)。例えば制御部50は、車両の軌跡情報から各交差点C1,C2,C11,…で実際に左折したか、直進したか、又は右折したかを判別し、左折、直進、右折の台数が夫々q1、q2、q3であった場合、
左折率a1=q1/(q1+q2+q3)
直進率a2=q2/(q1+q2+q3)
右折率a3=q3/(q1+q2+q3)
と分岐率を求める。
このとき、左折と直進とを合わせて左折・直進率a1、右折率a2として算出してもよい。
制御部50は、各経路Pi上の各リンクLim(m=1,…,M+1;n=1,…,N)にて検知される車両の軌跡情報に基づき、各リンクLimを走行する車両台数Qim(m=1,…,M+1;i=1,…,N)の内、経路Piを走行する車両台数riの比率である経路利用率bim(=ri/Qim)を、リンクLim毎に算出する(ステップS105)。例えば、第2経路P2は、リンクL21、リンクL22、リンクL23及びリンクL24からなる。リンクL22を走行する車両は全てがリンクL21を走行してきた車両ではなく、他のリンクから流入してきた車両も含み、更に交差点C22にてリンクL23へ流出せずに他のリンクを走行するなど、異なる経路を走行する可能性がある。つまり、経路利用率は、各経路Pi上の各リンクLimについて、経路Piを利用する確率である。
制御部50は、車両感知器3,3,…から取得して記憶してある全車両についてのリンク交通量に基づき、制御対象領域の境界リンクにおける発生交通量を算出する(ステップS106)。具体的には、制御部50は、境界リンクにおいて制御対象領域から流出する交通量、及び流入する交通量を特定し、夫々を総合して制御対象領域での全車両の発生交通量を算出する。
制御部50は、ステップS104で算出した分岐率、及びステップS106で算出した発生交通量を入力データとして、交通シミュレーションを実行する(ステップS107)。ステップS107の交通シミュレーションにより、第1交差点C1から第2交差点C2までの4つの経路P1,P2,P3,P4をステップS103で設定した配分率x1,x2,x3,x4の比率で車両V,V,…が走行した場合の、遅れ時間及び停止回数が得られる。
制御部50は、ステップS107の交通シミュレーションにより得られる遅れ時間及び停止回数の加重和を、評価指標値の初期値として算出する(ステップS108)。初期値として算出される評価指標値は、実測された車両の軌跡情報に基づく、現状における第1交差点C1から第2交差点C2までの4つの経路全体での交通流の状況を示す。
次に制御部50は、実際の配分率x1,x2,x3,x4で交通流が配分された場合の交通流の評価指標値に対し、配分率を少しずつ変化させて評価指標値を算出し、評価指標値が最適となる配分率を探索する処理を行なう(ステップS109)。ステップS109の処理は後述にて詳細を説明する。
制御部50は、ステップS109の処理により探索された配分率、及びその場合の信号制御パラメータを得る。制御部50は、得られた配分率及び信号制御パラメータを中央装置4へ出力し(ステップS110)、処理を終了する。
図4及び図5は、本実施の形態における交通パラメータ算出装置5の制御部50が行なう配分率の探索処理の詳細を示すフローチャートである。
制御部50は、実測に基づく配分率x1,x2,x3,x4に交通流が配分された場合の評価指標値、即ち図3のフローチャートにおけるステップS108で算出された評価指標値の初期値を最適解に設定する(ステップS201)。
制御部50は、第1交差点C1から第2交差点C2までの4つの経路P1,P2,P3,P4の内、配分率を変化させる経路Pi,Pj(i=1,…,N;j=1,…N:i≠j)を選択する(ステップS202)。なお、制御部50は、N本の経路がある場合にはN(N−1)通りで経路を選択し、夫々以下の処理を行なう。
制御部50は、選択した経路Pi,Pjへの交通流の配分率xi,xjの内、経路Piの配分率xiをΔx増加させる(xi←xi+Δx)と共に、一方の経路Pjの配分率xjをΔx減少させる(xj←xj−Δx)(ステップS203)。ここでΔxは、例えば0.01など任意の定数である。
なお、ステップS202における選択処理においては、例えば実測に基づき求めた初期配分率x1,x2,x3,x4を参照し、最も配分率が高い経路を優先的に選択するようにしてもよい。
次に制御部50は、ステップS203で増減させた配分率xi,xjを交通シミュレーションに反映させるため、選択した経路Pi,Pj上の各交差点Cimにおける分岐率akを夫々再度算出する(ステップS204)。詳細には、経路Pi上の各交差点Cimにて、増加された配分率Δx分に応じて、経路Piに沿う方向への分岐率が増加するように分岐率akを式(2)により修正する。逆にPj上の交差点Cjmでは、減少された配分率Δx分に応じて、経路Piに沿う方向への分岐率が減少するように、算出してある分岐率akを式(3)により修正する。なお、下記の式(2)及び(3)では、修正後の分岐率をak´で示している。また、式(2)及び(3)におけるQim(m=1,…,M+1)は、選択された経路Pi上の各交差点Cimへの流入路であるリンクLimを通過する車両の台数である。同様に、Qjm(m=1,…,M+1)は選択された経路Pj上の交差点Cjmへの流入路であるリンクLjmを通過する車両の台数である。
式(2)及び(3)から判るように、制御部50は配分率xiを増減させるために、経路Piに沿った方向への分岐率を配分率の増減分に応じて増減させ、且つ分岐率を合計した場合に「1」となるように修正する。
図6は、配分率の増減に応じた分岐率の修正の概要を示す説明図である。図6には、図1に示した第1交差点C1及び第2交差点C2までの経路P1〜P4の内、第2経路P2及び第3経路P3、並びに各経路上の交差点C21,C22,…を示している。制御部50の処理により、第2経路P2及び第3経路P3が選択された場合、第2経路P2上の交差点C21,C22,C23における分岐率、及び、第3経路P3上の交差点C31,C32,C33,C34における分岐率が修正される。
図6の説明図に示す場合、交差点C22における修正前の分岐率は、左折率a1、直進率a2、右折率a3である。第2経路P2の配分率をΔx分増加させたいにも拘わらず、分岐率a1,a2,a3を修正せずにそのままとして交通シミュレーションを行なった場合、配分率がΔx分増加されたという条件下で交通シミュレーションを行なったことにならない。つまり、交差点C1直後のリンクL21へ流入した車両はΔx分増加するが、増加した分からも交差点C21,C22,C23で夫々左折車又は右折車が発生した場合、結果的に第2経路P2の配分率をΔx分増加させた状態で交通シミュレーションを行なったことにならない。そこで、交差点C22でも、第2経路P2に沿う方向への分岐率である直進率a2を増加されたΔx分に応じて増加させる。他の方向への分岐率a1,a3は、経路P2の全体の交通流が増加されたことに応じて減少させる。
図6の説明図に示す場合、交差点C22において左折する台数、右折する台数は修正前と同じはずである。Δx分の増加に、右左折の台数は関係がない。修正後の他の方向への分岐率a1,a3は、修正前の台数を、リンクL22における増加後の車両の台数で割った比率として求められ(式(2))、減少する。修正後の第2経路P2に沿う方向への分岐率a2は、修正前の台数にリンクL22において増加した分だけの台数を加えたものを、増加後の車両の台数で割った比率として求められ、増加する。
また、第3経路P3の配分率をΔx分に応じて減少させるため、交差点C31,C32,C33,C34における分岐率を、第3経路P3に沿う方向への分岐率である直進率a2を減少されたΔx分に応じて減少させる。他の方向への分岐率a1,a3は、経路P3の全体の交通流が減少されたことに応じて増加させる。
これにより、各経路Piの配分率が実質的に増加される。したがって、配分率を変更した場合の分岐率を用いた交通シミュレーションを精度よく実行することができ、精度よく、交通流が最も円滑となる配分率及び信号制御パラメータを、有効に求めることができる。
図4及び図5のフローチャートに戻り説明を続ける。次に制御部50は、ステップS203で増減させた配分率xi,xjを信号制御パラメータに反映させるため、選択した経路Pi,Pj上の交差点Cim(m=1,…,M+1)における負荷率を夫々算出する(ステップS205)。詳細には、経路Pi上にあるメインの交差点(例えば第2経路P2が選択されている場合には交差点C22など)における負荷率を算出する。また、負荷率は例えば、交差点における2つの現示について、負荷率ρ1、ρ2として算出される。負荷率は基本的に、以下に示す式(4)のように表わされる。式(4)は、経路Piに沿う方向に対応する現示1に対する負荷率ρ1を求める式である。式(4)中のQimは、単位時間当たりの交差点Cimへの流入台数、Eは捌け残り台数、sは飽和交通流率である。負荷率の算出は公知の技術であり、式(4)を基本とする種々の方法を用いてよい。
制御部50はステップS205にて、負荷率ρを算出する際に、式(4)における分子の流入台数Qimに、配分率の増減に応じた増減分を加えて算出する。これにより、負荷率が精度よく求まる。例えば、配分率xiをΔx分増加させたことに応じて経路Piの方向の走行台数Qimを式(5)に示すように増加させて負荷率を算出し、配分率xjをΔx減少させたことに応じて経路Pjの方向の走行台数Qjmを式(6)に示すように減少させて負荷率を算出する。
次に制御部50は、ステップS205にて算出した負荷率を用い、経路Pi,Pj上のサブエリアのサイクル長C、各交差点Cim,Cjm,…でのスプリットT等の信号制御パラメータを算出する(ステップS206)。詳細には制御部50は、サイクル長C及びスプリットTを例えば、以下に示す式(7)〜(9)に基づき算出する。式(7)〜(9)中のLは、損失時間(交差点における現示間で全ての信号灯器1,1,…が赤色となる時間)であり、a,bは求められるサイクル長Cに余裕を加味する所定の係数である。
制御部50は、ステップS206で算出した信号制御パラメータ、及び、選択した経路Pi,Pj上の各リンクLim,…,Ljm,…の、現状の基準のオフセット値を用い、交通シミュレーションを実行する(ステップS207)。
ここで現状の基準のオフセット値の初期値は、実測の交通量に対応する、現実に信号灯器1,1,…にて設定されていたオフセット値である。基準のオフセット値は後述の処理にて評価指標値がより良好となるように更新され、処理がステップS202に戻り、再度ステップS207が実行されるので、現状の基準のオフセット値とは、その都度の更新後のオフセット値である。
またステップS207で制御部50は、選択した経路Pi,Pjのサブエリアにおける中心の交差点の信号制御機2での制御に、ステップS206で算出した信号制御パラメータ(サイクル長、スプリット)が用いられるとして交通シミュレーションを実行する。そして、中心の交差点以外の交差点の信号制御機2,2,…には、算出されたサイクル長Cを用い、スプリットを固定として交通シミュレーションを実行する。
制御部50は、ステップS207の交通シミュレーションにより得られる遅れ時間及び停止回数の加重和を、評価指標値として算出し(ステップS208)、候補解に設定する(ステップS209)。
制御部50は、ステップS207での交通シミュレーションを実行するに際し、現状の基準のオフセット値を用いた。以下の処理では、選択したPi,Pj上の各リンクLim,…,Ljm,…におけるオフセット値を少しずつ増減させながら交通シミュレーションを実行し、評価指標値を最適とするのに最も影響があるリンクと、当該リンクのオフセット値を探索する。
制御部50は、選択したPi,Pj上からリンクを選択し(ステップS210)、選択したリンクのオフセット値をΔofs分増加又は減少させ(ステップS211)、交通シミュレーションを実行する(ステップS212)。制御部50は、選択Pi,Pj上から全リンクを選択してオフセット値を増減させ、シミュレーションを実行したか否かを判断する(ステップS213)。制御部50は、全てのリンクについては実行していないと判断した場合(S213:NO)、処理をステップS210へ戻し、他のリンクを選択して処理を継続する。
制御部50は、全てのリンクについて実行したと判断した場合(S213:YES)、全リンク夫々に対応して算出した評価指標値の内の最適な値を特定する(ステップS214)。ここでは評価指標値は、遅れ時間及び停止回数の加重和であるから、最も値が小さいものが最適な値として特定される。
制御部50は、ステップS214にて特定された評価指標値が、リンクを探索する処理を行なう前の状況でのオフセット値を元に実行された交通シミュレーションに基づいて算出された評価指標値の候補解よりも良好か否かを判断する(ステップS215)。具体的には、制御部50は、ステップS209で設定した候補解と、ステップS214にて特定した評価指標値とを比較し、ステップS214にて特定した評価指標値の方がより良好か否かを判断する。この場合も、評価指標値は、遅れ時間及び停止回数の加重和であるから、ステップS214にて特定した評価指標値が候補解よりも小さいか否かを判断する。
制御部50は、ステップS215にて、候補解よりも良好であると判断した場合(S215:YES)、ステップS214にて特定した評価指標値に対応するリンクのオフセット値を、Δofs分だけ増加又は減少させた値に更新し、基準のオフセット値とする(ステップS216)。そして、ステップS214で特定した値により候補解を更新し(ステップS217)、処理をステップS210へ戻す。これにより、選択した経路Pi,Pjの組み合わせで最も評価指標値を良好にするリンクと、該リンクのオフセット値を特定できる。ここで、処理をステップS210へ戻すのは、ステップS214で特定された評価指標値に対応するリンクのオフセット値の増加又は減少が、評価指標値の最適化に効果的であり、更にいずれかのリンクのオフセット値を増加又は減少させることにより、評価指標値が良好となることが期待されるからである。
制御部50は、ステップS215にて、候補解よりも良好でないと判断した場合(S215:NO)、経路Pi,Pjを全通り(N(N−1)通り)選択したか否かを判断する(ステップS218)。制御部50は、ステップS218にて全通りを選択していないと判断した場合(S218:NO)、処理をステップS202へ戻し、他の組み合わせのPi,Pjを選択し、選択したPi,Pjに対し最も評価指標値を良好にするリンク及びオフセットを探索する処理を継続する。
制御部50は、ステップS218にて、経路Pi,Pjを全通り選択したと判断した場合(S218:YES)、全通りの経路Pi,Pjの組み合わせにて特定された評価指標値の内で最も良好であるとして更新されている候補解が、ステップS201で設定した最適解よりも良好か否かを判断する(ステップS219)。制御部50は、候補解が最適解よりも良好であると判断した場合(S219:YES)、候補解となった評価指標値が算出されたときに選択されていた経路Pi,Pjの変更後の配分率xi,xj(xi←xi−Δx,xj←xj−Δx)を基準の配分率として更新し(ステップS220)、候補解により最適解を更新する(ステップS221)。そして制御部50は、処理をステップS202へ戻し、基準の配分率xi(i=1,…,N=4)に対し、選択する経路Pi,Pjの配分率xi,xjを更にΔxずつ変更させて、より良好な評価指標値が特定される配分率があるかを探索する。
そして、制御部50は、ステップS219にて候補解は最適解よりも良好でないと判断した場合(S219:NO)、処理を終了する。いずれかの経路Piの配分率xiを変更してもより良好な評価指標値が得られない場合は、その時点で最適解として記憶している評価指標値が最も円滑な交通流であるときの評価指標値であるといえるからである。
このように着実に、いずれの経路Piの配分率を変更させると評価指標値が良好となるかを制御部50が認識可能となり、結果的に処理を効率化させることができる。
上述の図4及び図5のフローチャートに示した処理を図面を参照して詳細を説明する。図7は、最適な評価指標値となるリンク及びオフセット値を探索する処理の概要を示す説明図である。図7中の上段には、図1に示した第1交差点C1及び第2交差点C2までの経路P1〜P4の内、第2経路P2及び第3経路P3、並びに各経路上の交差点C21,C22,…、リンクL21,L22,…を示している。図7中の下段には、各リンクL21,L22,…のオフセット値の増減値を示している。
制御部50はまず、第2経路P2,第3経路P3を選択し、第2経路P2への配分率x2を、実測における配分率x2に比してΔx分増加させ、第3経路P3への配分率x3を、Δx分減少させる。配分率x2,x3の増減に応じた分岐率、負荷率、信号制御パラメータ等を算出して交通シミュレーションを実行する。制御部50は、評価指標値を得て候補解とする。制御部50は、第2経路P2,第3経路P3上のリンクL21,…,L24,L31,…,L35からいずれかを選択し、選択したリンクのオフセット値を増加又は減少させる。
図7の説明図に示す例では、例えば制御部50はステップS210からステップS213までのループ処理の第1回目に、リンクL21を選択してΔofs分だけ増加させ(+Δofs)、交通シミュレーションを実行し、第2回目に、リンクL21を選択してΔofs分だけ減少させ(−Δofs)、交通シミュレーションを実行している。制御部50は、第3回目にリンクL22を選択し、Δofs分増加させている。ステップS210からステップS213までの処理を全リンクについて第18回目まで実行した結果、第2回目のリンクL21のオフセット値をΔofs分だけ減少させたときが最適な評価指標値として特定されるとする(S214)。
制御部50は、このときの評価指標値が候補解よりも良好であると判断した場合(S215:YES)、リンクL21のオフセット値をΔofs分だけ減少させて基準のオフセット値とし(S216)、評価指標値により候補解を更新する(S217)。第2経路P2及び第3経路P3の組み合わせでは、リンクL21のオフセット値を減少させることが、変更した配分率x2にて配分される交通流を更に円滑化させると判断できる。
処理がステップS210へ戻り、第19回目以降が行なわれる。リンクL21のオフセット値は基準値とした上(当初のオフセット値からΔofs分減少)で更に、各リンクL21,…,L24,L31,…,L35のいずれかのオフセット値を増加又は減少させた場合に、最も評価指標値が良好となるかが探索される。ループ処理を第36回目まで実行した結果、第20回目のリンクL21のオフセット値を更にΔofs分だけ減少させたときが最適な評価指標値として特定される場合、リンクL21のオフセット値は、当初の値からΔofsの2倍分だけ減少される。
ループ処理を第36回目まで実行した結果、第20回目のリンクL21のオフセット値を更にΔofs分だけ減少させたときが最適な評価指標値として特定された場合でも、候補解が第2回目の処理のときの候補解よりも良好でない場合がある。この場合制御部50は、経路P2,P3の組み合わせでは、これ以上の候補解は得られないから、他の経路Pi,Pjを選択し処理を繰り返す。このようにステップS210からステップS215までの処理により、選択された経路Pi,Pjの組み合わせにおいて夫々の配分率をΔx分だけ増減させた場合に最も交通流の円滑化に寄与するリンクと、該リンクのオフセット値と、該オフセット値の増減量が特定される。
そして、経路Pi,Pjを選択し処理を繰り返すことによって、全経路Pi,Pjの組み合わせ(N(N−1)通り)について処理を行なった後、得られた候補解が最適解よりも良好であるときは(S219:YES)、ステップS203の変更後の配分率が基準の配分率として更新され(S220)、候補解により最適解が更新される(S221)。そして、更に以後選択するPi,Pjの配分率を更にΔx分増減させて再度、最適解の探索がされる。
ステップS219にて、候補解が最適解よりも良好でないと判断された場合(S219:NO)に、その時点で基準の配分率として更新されている配分率、配分率に応じて算出される信号制御パラメータ、及び基準のオフセット値として更新されているリンクのオフセット値が、最も交通流を円滑化させる交通パラメータとして得られる。
探索により得られた交通流を円滑にする配分率、オフセット値を含む信号制御パラメータ等の交通パラメータは、交通パラメータ算出装置5により中央装置4へ出力される。このとき、配分率については現状の配分率も比較のため送信されることが望ましい。交通パラメータは中央装置4にて交通管制のための情報として利用される。
例えば、通信装置7,7,…から各車両の車載器へ情報(ダウンリンク情報)を送信することができる。したがって中央装置4は、第1交差点C1への流入路に設置されている通信装置7,7,…により、第1交差点C1へ進入しようとする車両V,V,…へ、得られた交通パラメータに基づく交通情報を送信してもよい。なお、車両感知器3,3,…が車載器との双方向通信機能を有する場合、車両感知器3,3,…から情報が車載器へ送信される構成としてもよい。
図8は、交通パラメータを用いて行なわれる処理の一例を示すフローチャートである。なお、以下の処理は本実施の形態では中央装置4が行なうとして説明するが、交通パラメータ算出装置5自身が行なってもよい。
中央装置4は、制御対象領域の第1交差点C1への流入路に設置されている車両感知器3,3,…又は通信装置7,7,…により、第1交差点C1へ進入しようとする車両V,V,…を特定する(ステップS301)。中央装置4は、特定した車両V,V,…の車載器へ送信すべく、第2交差点C2への複数の経路と、各経路に対して得られた配分率とを含む交通情報を、通信装置7,7,…へ送信する(ステップS302)。また中央装置4はステップS301及びS302の処理によって得られた配分率に交通流が配分されることが期待されるので、その場合に遅れ時間及び停止回数が最も小さくなる信号制御パラメータにて各信号灯器1,1,…が制御されるべく、信号制御機2,2,…へ得られた信号制御パラメータを送信し(ステップS303)、処理を終了する。
この場合、各車両V,V,…の車載器は、通信装置7,7,…から経路の情報及び配分率を受信した場合、例えばナビゲーション装置へ送信する。ナビゲーション装置は、受信した経路の情報と目的の地点までの設定経路の情報とを比較する。そして、ナビゲーション装置は、目的の地点までの経路が受信した情報に含まれる経路上にあり、且つ当該経路の現状の配分率が交通流を円滑にする配分率よりも高い場合に、他の経路へ向かうべくディスプレイへ他の経路の情報を表示させる。これにより、混雑が予想されるので他の経路を選択すべく運転者へ促すことができる。
なお、ステップS302で送信する交通情報は、第1交差点C1から第2交差点C2までの経路と、配分率とを含まなくともよい。例えば中央装置4は、現状の配分率と、交通パラメータ算出装置5の処理によって得られた交通流を円滑とする配分率とを比較する。そして、現状の配分率の内、交通流を円滑とする配分率よりも高く、低下されるべき配分率に相当する経路は混雑が予想される旨の交通情報を送信するのみでもよい。
更に、中央装置4は、第1交差点C1へ進入しようとする車両V,V,…を第2交差点C2までの複数の経路への配分率でグループ分けし、夫々のグループの車両へ対応する経路を選択すべく通知するため、経路の情報を送信するようにしてもよい。
実際に各車両V,V,…へ、配分率に応じて他の経路を選択すべく通知がなされることにより、最も交通流を円滑とする配分率に交通流が配分されることが期待できる。また、最も交通流を円滑とするとして探索された信号制御パラメータが信号制御機2,2,…へ送信され、各信号制御機2,2,…にて実際に信号制御がなされるので、交通シミュレーションの通りに車両の遅れ時間及び停止回数が最も小さくなることが更に期待される。
このように、信号制御のみでは本質的に実現することができない交通流を円滑化させる交通管制を、複数の経路への配分率を求めて用いることによって実現することができる。
本実施の形態では中央装置4、交通パラメータ算出装置5及び位置情報収集装置6は夫々別々の装置として構成した。しかしながら、中央装置4、交通パラメータ算出装置5及び位置情報収集装置6の機能を全て有する一の装置にて実現される構成としてもよい。
なお、開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。