前記課題を解決するためになされた第1の発明は、基材と、前記基材の一方の面に形成され、前記基材と接する面とは反対側の露出面に凹凸を有する塗膜層と、前記基材と前記塗膜層との間でサンドブラスト処理またはマット塗工により凹凸が形成された下地荒らし面を有する表層であって、前記下地荒らし面の凹凸が60°鏡面光沢度により規定され、その範囲は1から65である下地荒らし表層と、を備え、前記塗膜層は、マトリックス樹脂に球状微粒子及び添加剤を内包して構成され、前記下地荒らし面には前記露出面の凹凸より密なる凹凸が形成された構成とする。
これによると、凹凸を有する塗膜層を形成する基材の塗膜層との接触面である下地荒らし表層において、サンドブラスト処理またはマット塗工により凹凸を形成するといういわゆる「下地荒らし処理」を施すことにより、光の拡散反射性がさらに向上するので、高輝度のプロジェクター装置においても、映し出された映像の中央にプロジェクターの光源が明るいスポット状に見える現象、いわゆるホットスポットを生じない鮮明な映写画像を得ることができるとともに、映写面へのマーカーの書き込みや消去が可能な映写用スクリーン及びこれを用いたホワイトボード装置を提供することができる。
また、下地荒らし面の凹凸が塗膜層の表面の光沢度に影響を及ぼすことから、下地荒らし面の凹凸が60°鏡面光沢度で1から65の範囲とすることにより、塗膜層の表面の光沢度が防眩性を失わず、かつ塗膜層の表面の光沢度を低くすることができる。
また、第2の発明は、前記第1の発明において、前記塗膜層の凹凸が、その算術平均粗さRaが0.3≦Ra≦4の範囲にあり、かつ、その平均山間隔Smを前記算術平均粗さRaで割った値Sm/Raを、30≦Sm/Ra≦150の範囲とした構成とする。
これによると、マーカーインクの良好な拭き取り性と、プロジェクターによるホットスポットが目立たない程度の光拡散反射性とを確保することができる。
また、第3の発明は、前記第1又は第2の発明において、前記露出面の60°鏡面光沢度を40以下とした構成とする。
全体となる塗膜層の露出面における60°鏡面光沢度が高い場合には、マーカー筆記消去性については十分な性能を有するが、防眩性については十分な性能を得られない虞があるため、全体の60°鏡面光沢度を40以下とすることにより、プロジェクターに対する防眩性、ならびにホワイトボードマーカーを用いた筆記消去性の十分な性能を確保し得る。
また、第4の発明は、筆記消去を行うボード面が請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の映写用スクリーンにより形成された構成とする。これにより、上記の効果を得ることができる実用的に優れたホワイトボード装置を得ることができる。
以下、本発明の映写用スクリーン及びこれを用いたホワイトボード装置の一実施例について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例におけるホワイトボード装置の概略構成図である。ホワイトボード装置本体1は、本発明の映写用スクリーンにより表層を形成したボード面2を有している。ボード面2は、パーソナルコンピュータ3等に接続されたプロジェクター装置4からの映写画像を映すプロジェクター用スクリーンとしての適正を有するとともに、ホワイトボード用マーカー5及びイレーサー6を用いた筆記消去に対する適正を有する。続いて、本発明の映写用スクリーンについて説明する。
図2は、本発明の一実施例における映写用スクリーンの断面構成を示す概略図である。基材7は、後述する球状微粒子8とマトリックス樹脂9により構成される塗膜層10の形成及び保持、ならびに、ホワイトボード面としての使用に際して、支障が無い程度の強度を有するものである。ただし、この基材7においては、塗膜層を形成する基材の塗工面に対して、いわゆる「下地荒らし処理」を施し、下地荒らし表層11を設けることにより、映写用スクリーン全体の光沢度を下げるようにしている。この点については、後ほど詳細に述べる。
基材7の材料としては、プラスチック、鋼板、木板、ガラス板、樹脂化粧版等を挙げることができる。また、基材の厚さも特に制限されず、ホワイトボード装置の構成やボード面の製造方法に合わせ、フィルム状の物や板状のものを用いることができる。特に、シート状の映写用スクリーンを製造する場合には、厚さ20〜200μm程度のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーカーボネートフィルム等を好適に用いることができる。
基材7は、塗膜層10に透明性を有する材料を用いる場合、塗膜層10を透過した映写光の反射層及びボード面の色彩を決定する層としても機能するため、その場合は、白色もしくは白色に近い淡色であることが好ましい。また、基材7として無色もしくは透明性の高い材料を用いて、塗膜層10を形成する面と反対側の面(裏面)に、別途光反射層(図示せず)を形成してもよい。この場合、光反射層は白色インクによる塗装や、別の光反射性フィルム材料を張り合わせる等の方法で形成することができる。ホワイトボード装置本体1のボード面2を形成する際には、板状の基材7を用いた場合にはそのまま利用することも可能であるが、フィルム状の基材7を用いる場合等には、別途、裏面を剛性の高い板部材と張り合わせて使用することも可能である。
塗膜層10は、マトリックス樹脂9に球状微粒子8及び後述する添加剤12を内包する形で構成され、マトリックス樹脂9で被覆された球状微粒子8の上部表面とその間を埋めるマトリックス樹脂9によって、本発明の特徴である後述のような寸法形状のなめらかな表面凹凸が形成される。塗膜層10の厚さは、マトリックス樹脂9と球状微粒子8の組み合わせと工法を用いて、後述のような寸法形状の表面凹凸を形成できれば特に限定されるものではないが、3〜30μm程度が好適範囲となる。また、ホワイトボード面としての強度と耐久性を確保するため、鉛筆硬度でB以上の表面硬度を有することが好ましい。
球状微粒子8は、マトリックス樹脂9との組み合わせにより、塗膜層10の基材7と接する面とは相反する反対側となる露出面としての表面10aに後述のような寸法形状の滑らかな凹凸を形成するために配合する。また、球状微粒子8は、光反射性とボード面色彩への影響を考慮して、透明もしくは白色であることが好ましい。
従来のホワイトボード装置における映写用スクリーンでは、粉砕型シリカ等、ランダム形状で、粒子径が比較的小さい微粒子が用いられることが多い。このような微粒子を用いた場合、凹凸形状がより細かく不規則になりやすいため、拡散反射性が高く、プロジェクター映写性に優れた表面形状を形成しやすく、また、原料コスト的に優位である等の利点がある。しかしながら、細かく鋭いカーブを有する凹凸形状が発生しやすく、また、複雑な形状の細かい粒子と樹脂との界面が表面10aに露出して形成されてしまう場合があること等により、表面10aに付着したマーカーインクがイレーサーで完全に拭き取れない場合が多く、十分なマーカー筆記消去性が確保しにくい。
このような理由から、本発明では、より滑らかなカーブによる凹凸を形成し、好適なプロジェクター映写性とマーカーによる筆記消去性を両立させるため、略球状の微粒子を用いることが好ましい。また、後述のような寸法形状の凹凸表面を形成するためには、平均粒径が3〜30μm、好ましくは5〜20μmの範囲にある略球状微粒子を用いるのがよい。ここで言う平均粒径とは体積平均径のことであり、コールターカウンタ(コールター社製)を使用して測定したものである。平均粒径が3μmより小さい場合、もしくは、30μmより大きい場合は、後述のような寸法範囲の凹凸形状を形成することが困難になり、良好な映写性と筆記消去性を両立できなくなる。球状微粒子8としては、樹脂充填用や表面処理用に用いられる種々のガラスビーズ、球状シリカ微粒子、球状アルミナ微粒子、球状樹脂微粒子等を用いることができる。
ガラスビーズの例としては、ソーダ石灰ガラスや低アルカリガラスを用いた球状ガラスビーズがあり、市販品の例としては、ポッターズ・バロティーニ株式会社製のフィラー用ガラスビーズ、株式会社ユニオン製のユニビーズ(商品名)シリーズがある。球状シリカ微粒子の例としては、球状溶融シリカ微粒子、球状合成シリカ微粒子があり、市販品の例としては、株式会社トクヤマ製のエクセリカ(商品名)シリーズ、株式会社龍森製の高純度真球状シリカ、電気化学工業株式会社製の溶融シリカ球状タイプがある。球状アルミナ微粒子の市販品の例としては、電気化学工業株式会社製の球状アルミナ、昭和電工株式会社製のアルナビーズ(商品名)、株式会社アドマテックスのアドマファイン(商品名)、株式会社マイクロン製の球状アルミナ微粒子がある。球状樹脂微粒子の例としては、球状アクリル樹脂微粒子、球状ポリスチレン微粒子、球状ポリアクリロニトリル微粒子、球状ナイロン微粒子などがあり、市販品の例としては、綜研化学株式会社製のケミスノー(商品名)シリーズ、東洋紡績株式会社製のタフチック(商品名)シリーズ、住友精化製のフロービーズ(商品名)シリーズ、積水化成品工業株式会社製のテクポリマー(商品名)シリーズがある。
上記のような球状微粒子の中でも、球状樹脂微粒子は、特に、平滑な表面を有し、形状が均一で、また、比重や熱膨張係数等の物理的特性、粒子表面の化学的性状等の点で、後述するマトリックス樹脂9との組み合わせにより塗膜層10を形成する上で有利であることから、本発明において特に好適に用いることができる。
マトリックス樹脂9は、球状微粒子8を内包し、後述のような寸法形状の滑らかな凹凸を形成するとともに、映写用スクリーンの最表面の物理的、化学的性状を支配的に決定するものである。このため、(1)単独、もしくは溶剤との混合により基材7上に塗膜形成が可能、(2)球状微粒子8の表面を被覆しながら、樹脂微粒子8の平均粒子径や塗膜層10中における配合比を調整することにより、所望の凹凸形状を形成することが可能、(3)映写用スクリーンの表面層として十分な強度と耐久性を有する塗膜層10を形成可能、(4)マーカーインクに対する適度な親和性、界面張力を有すること、(5)透明もしくは淡色であること、といった基本的な性能を有していることが必要である。この要求を満たすものであれば、マトリックス樹脂9は特に限定されるものでは無く、各種公知の塗料用樹脂やコーティング用樹脂を用いることができる。このような塗料用樹脂やコーティング樹脂の例としては、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂及びこれらの変性樹脂や共重合体樹脂があり、多種多様な製品が上市されている。
これらの樹脂を基材上に成膜する方法としては、例えば、(1)紫外線硬化型、電子線硬化型もしくは熱硬化型のモノマー、オリゴマー、樹脂等を含む反応性樹脂原料混合物を用いて、塗工後に光もしくは熱により樹脂原料を硬化させ、塗膜を形成する方法、(2)樹脂を溶剤に溶解もしくは分散した状態で基材上に塗工後、溶剤を揮発させることにより塗膜を形成する方法、(3)熱可塑性樹脂を押出成型等によりシート状に形成する方法がある。このうち、紫外線硬化型の樹脂を用いる方法は、前記のような基本的な性能を有するマトリックス樹脂9を形成するのに適しており、また、原料の選択肢が多い、原料混合物の物性調整が容易、樹脂の硬化反応が短時間で完了するといった点で、生産性の面でも有利であり、特に好ましい。
以上のような観点から、マトリックス樹脂9の原料として特に好ましいものとして、アクリル系、エポキシ系、及びそれらの変性化合物や共重合化合物を主成分とするモノマー、オリゴマー、樹脂を主成分とする紫外線硬化型樹脂が挙げられる。このような紫外線硬化型樹脂原料であるエポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシ樹脂、各種モノマーは、例えば、根上工業株式会社、新中村化学工業株式会社、共栄社化学株式会社、サートマー・ジャパン株式会社、東亞合成株式会社、日本化薬株式会社より上市されている。
通常、紫外線硬化型樹脂を作製する場合には、上記モノマー、オリゴマー、樹脂等に加えて、光重合開始剤を配合する必要がある。光重合開始剤としては、アルキルフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系等のラジカル重合開始剤、ヨードニウム塩系、スルホニウム塩系等のカチオン重合開始剤が挙げられ、市販品の例としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製のIRGACURE(商品名)シリーズ、DAROCURE(商品名)シリーズ、日本化薬株式会社製のKAYACURE(商品名)シリーズ、三新化学工業株式会社製のサンエイドSI(商品名)シリーズがある。
その他、表面の界面張力やすべり性を調整するための表面調整用添加剤12を始めとして、前記球状微粒子8の分散性を向上させるための分散剤、マトリックス樹脂9を着色するための色材等を適宜配合することが可能である。また、球状微粒子8との混合や塗布工程を行いやすくするため、揮発性有機溶剤を混合して樹脂溶液の粘度調整を行ってもよく、その場合は、基材7上に原料混合物を塗工後、紫外線照射を行う前に、加熱処理等により揮発性有機溶剤を除去する必要がある。好適な揮発性有機溶剤の例としては、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコールがある。添加剤12は、乾燥過程を経て、塗膜層10の表面張力を下げる効果や、乾燥後の塗膜層10の撥水・撥油性を上げる効果、表面の摩擦係数を下げることにより、すべり性を上げる効果を発現する。これにより、マーカーの筆記/消去性、特に消去性が向上する。
上記のような配合を基本として、塗料やコーティング用として調製された紫外線硬化型の樹脂原料混合物も各種上市されており、本発明に好適に用いることができる。市販品の例としては、日本合成化学株式会社製の紫光(商品名)シリーズ、株式会社ADEKA製のアデカオプトマー(商品名)シリーズ、荒川化学工業株式会社製のビームセット(商品名)シリーズ、DIC株式会社のユニディック(商品名)シリーズがある。
以上のような構成材料を用い、後述のような製造工程により、本発明の映写用スクリーンを作製することができる。
塗膜層10の表面10aの凹凸形状に関する各計測パラメータは、JIS B 0601:2001に規定されている。前記のような材料構成により表面塗膜層を形成し、さらに、JIS B 0601:2001に規定されている算術平均粗さRaが0.3≦Ra≦4(μm)の範囲にあり、JIS B 0601:2001に規定されている平均山間隔Sm(μm)を、算術平均粗さRaで割った値Sm/Raが、およそ30≦Sm/Ra≦150の範囲にあるような表面凹凸形状とすることにより、マーカーインクの拭き取り性と、ある程度の光拡散反射性を確保することができる。
算術平均粗さRaが0.3(μm)以下になると塗膜層10の表面10aの光沢度が急速に上昇し、その60°鏡面光沢度(後記するJIS Z 8741に基づく)を40以下にすることが困難となる。また、算術平均粗さRaが4以上になると、ペン先がフェルトで構成されたマーカーの磨耗が早くなる。最悪の場合、50回程度の筆記消去でマーカーのペン先が磨耗し、書けなくなる場合がある。また、塗膜層10の表面10aの凹凸が大きくなるので、塗膜層10の表面10aに筆記されたマーカーインクの消去が困難となる。
Sm/Raの値は、70程度が最も望ましい。これに対して、Sm/Raが150以上になると、光拡散反射性が小さくなりすぎ、ホットスポットが生じることにより、映写性が低下する。また、Sm/Raが30以下になると、マーカーインクの消去性が低下する。
以上のような凹凸を形成するために、先に述べたように、基材7の塗工面、すなわち下地荒らし表層11の上に形成されている塗膜層10には、その表層に凹凸を形成するための球状微粒子8や添加剤12が多数含まれている。
図2に示されるように、塗膜層10の表面10aすなわち筆記面より入射する光(矢印L)は、塗膜層10の表面10aで反射される1次反射光(矢印L1)と、塗膜層10を透過し、基材7の塗工面(すなわち、基材7の塗膜層10との接触面)で反射し、再び塗膜層10を透過して出射する2次反射光(矢印L2)とに、大きく分かれる。
塗膜層10の表面10aには、先に述べたような凹凸が形成されているため、1次反射光(L1)は完全な正反射とはならず、ある程度拡散された状態となる。同時に、塗膜層10の内部に入射する光も、ある程度拡散されて入射する。塗膜層10の内部において、それを構成する球状微粒子8、添加剤12及びそれらを被覆するマトリックス樹脂9は、互いにその材質が異なるため、光の屈折率も異なる。したがって、球状微粒子8、添加剤12、マトリックス樹脂9のそれぞれの間の界面において、2次反射光(L2)の屈折や散乱が発生する。そのように屈折や散乱がなされた2次反射光(L2)は、塗膜層10の表面10aより出射する際に、その凹凸により、さらに拡散される。このようにして、1次反射光(L1)及び2次反射光(L2)が二重、三重あるいはそれ以上に拡散されるので、映し出された映像の中央にプロジェクターの光源が明るいスポット状に見える現象、いわゆるホットスポットの発生を低減することができる。
ただし、このような塗膜層10の露出面における凹凸や、球状微粒子8、添加剤12、マトリックス樹脂9のそれぞれの間の界面における光の屈折・散乱だけでは、十分な光拡散反射性を確保することができない場合がある。特に近年、プロジェクター装置の光源が高輝度化しているため、特に会場の照明を消さなくても、その映写画像を快適に観ることができるようになっている。そうなると再び、映し出された映像の中央にプロジェクターの光源が明るいスポット状に見える現象、いわゆるホットスポットが発生し、映写性が低下してしまう。以前の低い輝度でしか映写しないプロジェクター装置であれば防眩性に問題無かったとしても、高輝度のプロジェクター装置に対しては、さらに高い防眩性が要求される。
そこで本発明の映写用スクリーンにおいては、基材7の塗膜層10が形成される面である塗工面(すなわち、基材7の塗膜層10との接触面)に対して、いわゆる「下地荒らし処理」を施している。図示例では、図2に示すように、基材7の塗工面には、微細な凹凸形状となる下地荒らし表層11が形成される。この「下地荒らし処理」は、サンドブラスト処理、酸化チタンや炭酸カルシウムなどの顔料や微粒子を用いたマット塗工などにより行われる。それらの工法のいずれを選択するかについては、基材7の材質や、形成する下地荒らし表層11の光沢度により決定される。
なお、サンドブラスト処理を選択した場合には、基材7の下地荒らし処理を施す面に当てる砂の粒径、数、形状、当てるスピード等を調整することにより、下地光沢度を変更することができる。そして、マット塗工を選択した場合には、酸化チタンや炭酸カルシウムなどの粒径や含有量などを変更することにより、下地光沢度を変更することができる。また、図2における下地荒らし表層11は、基材7と全く別の層として記載されているが、これはマット塗工の場合である。サンドブラスト処理などのように、基材7の表面に対して処理を施す工法の場合は、当然のことながら、基材7と下地荒らし表層11とは一体化している。いずれの場合においても、図2においては、下地荒らし表層11が存在することを認識しやすくするために、基材7との間に境界線を記載している。
このような下地荒らし表層11を形成することにより、塗膜層10を透過し、基材7の下地荒らし表層11上で反射する2次反射光はさらに拡散される。すなわち、光拡散反射性がさらに上積みされる。したがって、高輝度のプロジェクター装置においても、ホットスポットを生じない鮮明な映写画像を得ることができる。
本発明の映写用スクリーンは、前記のような材料構成により、種々公知の樹脂混合方法ならびに塗工方法を用いて製造することが可能であるが、以下に、製造方法の一実施例を説明する。
図3は、本発明の映写用スクリーンの製造工程を示すフロー図であり、図4は、図3のフロー図の工程に伴うスクリーン面の形成過程を示す図である。まず、基材7の塗工面に塗布し凹凸を形成するための、紫外線硬化型の塗工液を作製する(工程ST1−1)。これに際して、始めにウレタンアクリレートまたはエポキシアクリレートを主成分とする紫外線硬化型樹脂溶液を作製する。このとき、適量の揮発性有機溶剤を混合し、塗工に適した溶液粘度に調整することが好ましい。ここで、樹脂の混合には、各種公知のミキサー、シェイカー等を用いることができる。続いて、紫外線硬化型樹脂溶液に所定の平均粒径を有する球状アクリル樹脂微粒子8と、マーカーのすべり性や撥油性などを得るための添加剤12を混合する。先に述べたように、ここで言う平均粒径とは体積平均径のことであり、コールターカウンタ(コールター社製)を使用して測定したものである。なお、混合には、各種公知のミキサー、シェイカー等を用いることができる。以上のようにして、塗工用原液が得られる。
これと並行、または前後して、基材7の塗工面(すなわち、下地荒らし表層11の塗膜層10との接触面)に対して、いわゆる「下地荒らし処理」を施して、下地荒らし面11aを形成しておく(工程ST1−2,図4(a))。先に述べたように、この「下地荒らし処理」は、サンドブラスト処理やマット塗工などにより行われる。そして、それらの工法のいずれを選択するかについては、基材7の材質や、形成する下地荒らし表層11の光沢度により決定される。なお、図4(a)は、図2で示したマット塗工の例であり、図2と同様の部分には同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
このようにして下地荒らし処理が施された白色のPETからなる基材7の塗工面(下地荒らし面11a)に対して、工程ST1−1において作製された塗工用原液を塗布する(工程ST2)。塗工用原液の塗布には、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーターなど、公知の塗工装置を用いることができる。続いて、塗工後の基材をオーブン等で加熱し、揮発性有機溶剤を蒸発させる(工程ST3,図4(c))。ここで、先に例示したような揮発性有機溶剤を使用した場合には、例えば、80℃、数分程度の条件で加熱乾燥を行えばよい。このとき、揮発性有機溶剤の蒸発に伴い、前記のような表面凹凸形状がほぼ形成される。
さらに、揮発性有機溶剤が蒸発した後の凹凸形状となった塗工凹凸面21aに上部より紫外線を照射し、紫外線硬化型樹脂を硬化させることにより、塗膜層10が完成する(工程ST4,図4(d))。このとき、紫外線硬化型樹脂は重合反応に伴う硬化収縮により、若干収縮している。紫外線照射には、種々公知の紫外線照射用光源装置を用いることができ、例えば、メタルハライドランプ、水銀ランプ、クセノンランプ、LEDランプ等がある。紫外線の照射量は、一般的なウレタンアクリレート系樹脂の場合、波長365nmで計測した積算光量が、100〜2000mJ/cm2程度となるようにすればよい。
以上のような材料構成と工法により、塗膜層10の表面10a及び下地荒らし面11aにおける光の拡散反射性がさらに向上するので、高輝度のプロジェクター装置においても、映し出された映像の中央にプロジェクターの光源が明るいスポット状に見える現象、いわゆるホットスポットを生じない鮮明な映写画像を得ることができる、映写面へのマーカーの書き込みや消去が可能な映写用スクリーン及びこれを用いたホワイトボード装置を提供することができる。
なお、図2における塗膜層10表面(露出面)10aの凹凸の形成方法については、先に述べた球状微粒子8とマトリックス樹脂9を主体とするものに限らない。例えば、エンボス加工などの型押しによるものなど、一般に知られている他の凹凸形成方法でもよい。
以下、表1と図2とを併用して、本発明の実施例を示す。尚、以下の実施例において、算術平均粗さ及び平均山間隔は、それぞれ、上記において説明したように、JIS−B−0601により測定した値を示す。 また、「光沢度」とは、LED光源とシリコンフォトダーオード製受光部を有する光沢度計(堀場製作所製)を用いて、JIS Z 8741に規定された鏡面光沢度−測定方法により計測される60°鏡面光沢度のことである。以下、「光沢度」と称する。
(下地光沢度と表面光沢度・マーカー筆記消去性との関係)
[実施例1(サンプル番号3)]
厚さ125μmを有する白色ポリエステルフィルム(三菱樹脂製:ダイヤホイルW−200、光沢度99)を基材7(図2参照)として用いた。そして、その一方の面に対して、光沢度が3となるよう、下地荒らし処理としてのサンドブラスト処理を施した(先の図3における工程ST1−2)。この工程におけるポリエステルフィルム表面のサンドブラスト処理前の写真を図5(a)に、サンドブラスト処理後の写真を図5(b)に、それぞれ示す。
その状態で、先の図3における工程ST1−1に記載した方法により作成された塗工用原液を塗布し(先の図3における工程ST2)、加熱乾燥による溶媒除去を行った(先の図3における工程ST3)。このとき、塗工用原液に含まれる球状微粒子の平均粒径は10μmであった。先に述べたように、ここで言う平均粒径とは体積平均径のことであり、コールターカウンタ(コールター社製)を使用して測定したものである。その後、紫外線照射により硬化させて(先の図3における工程ST4)、厚さ15μmの凹凸を有する塗膜層10を、ポリエステルフィルムのサンドブラスト処理が施された下地荒らし面11a上に形成した。以上の工程により得られた映写用スクリーン(表1のサンプル番号3参照)の塗膜層10(図2参照)表面10aの光沢度は23.4であった。
このようにして作製された各映写用スクリーンサンプルについて、プロジェクターによる映写性、ならびにホワイトボードマーカーを用いた筆記消去性を評価した。それらの評価方法について次に述べる。
(1)防眩性
市販の液晶プロジェクター(パナソニック製 PT−LB75、最大輝度:2600ルーメン)を用いて、映写用スクリーン正面約2mの距離より画像を映写し、投影画像の品質を目視で評価した。ここで、表1の光沢度(防眩性)の欄に、スクリーン上にホットスポットの存在が認められない程度に鮮明な映写画像が得られたものについては◎と記した。そして、ホットスポットの存在は認められるが、映写された画像の視認には支障が無い程度にその影響が低く、容認できる程度に鮮明な映写画像が得られたものについては○と記した。さらに、ホットスポットの存在が大きく認められ、映写された画像の視認に支障をきたす(すなわち「目が疲れる」などの症状を訴える)程度にその影響が大きく、鮮明な映写画像が得られなかったものについては×と記した。また、表1に、光沢度バラツキσを、光沢度の9点を測定し、その標準偏差を算出した値として記した。また、変動係数を、光沢度バラツキσを光沢度で除算した値の百分率として記した。
(2)マーカー筆記消去性
黒色の市販ホワイトボード用マーカー(パナソニック電子黒板用マーカー(商品名:イレーサパナソニック))を用いて、映写用スクリーン上に文字を筆記した後、市販のホワイトボード用イレーサーを用いて文字を消去し、この筆記と消去を50セット繰り返した。そして、色差ΔE、すなわち、上記に述べた筆記・消去テスト開始前と筆記・消去テスト終了後とのL*a*b*値の変化量を測定することにより、マーカーインクの拭き取り性を評価した。表1の地汚れの欄に、ΔEが2以下のものを○、そうでないものを×と記した。
以上の評価を行った結果、表1に示すように、防眩性、マーカー筆記消去性のいずれも十分な性能を有していた。特に防眩性について、優れた性能を有する。
なお、このサンプル番号3の映写用スクリーンサンプルについて、JIS K 5600−5−4に記載の方法で、引っかき硬度(鉛筆法)を計測したところ、いずれのサンプルも鉛筆硬度B以上を有していた。すなわち、耐磨耗性についても十分な性能を有する。
[実施例2(サンプル番号1)、実施例3(サンプル番号2)]
先の実施例1と同様の製造方法により、表1に示すサンプル番号1及びサンプル番号2の映写用スクリーンサンプルを作製した。ただし、実施例1のサンプルとの構成の相違は、基材7(図2参照)として用いられるポリエステルフィルム表面の下地荒らし処理によって得られるポリエステルフィルム表面の下地光沢度にある。それらの下地光沢度は表1に示すとおり、それぞれ1と2である。
これらの下地荒らし処理が施されたポリエステルフィルムは、実施例1と同じく、三菱樹脂製:ダイヤホイルW−200に対してサンドブラスト処理を施したものである。同じサンドブラスト処理を用いて異なる下地光沢度を得るためには、先にも述べたように、基材7の下地荒らし処理を施す面に当てる砂の粒径、数、形状、当てるスピード等を調整すれば可能である。図3の工程ST1−2によるポリエステルフィルム表面のサンドブラスト処理後の写真を、図6に示す。表1に示されるように、以上の工程により得られるサンプル番号1(表1参照)の塗膜層10(図2参照)表面10aの光沢度は20.2、サンプル番号2の塗膜層10表面10aの光沢度は21.5であった。
このようにして作製された映写用スクリーンサンプル(サンプル番号1及び2)について、先の実施例1と同様の評価方法により、プロジェクターによる防眩性、ならびにホワイトボードマーカーを用いた筆記消去性を評価した。その結果、表1に示すように、防眩性、マーカー筆記消去性の両方について十分な性能を有していた。特に防眩性については、優れた性能を有する。
なお、このサンプル番号2の映写用スクリーンサンプルについて、JIS K 5600−5−4に記載の方法で、引っかき硬度(鉛筆法)を計測したところ、いずれのサンプルも鉛筆硬度B以上を有していた。すなわち、耐磨耗性についても十分な性能を有する。
[実施例4(サンプル番号4)〜実施例10(サンプル番号10)]
先の実施例1と同様の製造方法により、表1に示すサンプル番号4〜10の映写用スクリーンサンプルを作製した。これらの下地荒らし処理が施されたポリエステルフィルムのうち、サンプル番号4〜7の映写用スクリーンサンプルについては、実施例1と同じく、三菱樹脂製:ダイヤホイルW−200に対してサンドブラスト処理を施したものである。先にも述べたように、基材7の下地荒らし処理を施す面に当てる砂の粒径、数、形状、当てるスピード等を調整すれば、その下地光沢度を変更することができる。また、残りのサンプル番号8〜10の映写用スクリーンサンプルについては、同じ三菱樹脂製:ダイヤホイルW−200に対してマット塗工を施したものである。これらの異なる下地光沢度は、酸化チタンや炭酸カルシウムなどの粒径や含有量を変更することにより実現できる。
これらのサンプルのうち、サンプル番号5の下地光沢度は10であった。また、その他のサンプル番号4及び6〜10の下地光沢度についても、6〜65の範囲にあった。具体的には、表1に示すとおりである。サンプル番号5の映写用スクリーンサンプルについて、図3の工程ST1−2によるポリエステルフィルム表面のサンドブラスト処理後の写真を図7(a)に示す。また、サンプル番号9の映写用スクリーンサンプルについて、図3の工程ST1−2によるポリエステルフィルム表面のサンドブラスト処理後の写真を図7(b)に示す。
以上の工程により得られたサンプル番号5(表1参照)の塗膜層10(図2参照)表面10aの光沢度は25.6であった。また、他のサンプル番号4及び6〜10の塗膜層10(図2参照)の表面10aの光沢度については表1に示すとおりであり、いずれも24〜37の範囲内であった。
このようにして作製された映写用スクリーンサンプル(サンプル番号4〜10)について、先の実施例1と同様の評価方法により、プロジェクターによる防眩性、ならびにホワイトボードマーカーを用いた筆記消去性を評価した。その結果、いずれのスクリーンサンプルも、防眩性、マーカー筆記消去性の両方について十分な性能を有していた。特にサンプル番号4〜7の防眩性については、極めて優れた性能を有する。
なお、これらサンプル番号4〜10の各映写用スクリーンサンプルについて、JIS K 5600−5−4に記載の方法で、引っかき硬度(鉛筆法)を計測したところ、いずれのサンプルも鉛筆硬度B以上を有していた。すなわち、耐磨耗性についても十分な性能を有している。
[比較例1(サンプル番号11)、比較例2(サンプル番号12)]
先の実施例1と同様の製造方法により、表1に示すサンプル番号11及び12の映写用スクリーンサンプルを作製した。この下地荒らし処理が施されたポリエステルフィルムは、実施例3におけるサンプル番号8〜10の映写用スクリーンサンプルと同じく、三菱樹脂製:ダイヤホイルW−200に対してマット塗工を施したものである。それらの下地光沢度はそれぞれ75と90であり、表1に示すとおりである。
以上の工程により得られたサンプル番号11及び12(表1参照)の塗膜層10(図2参照)の表面10aの光沢度は、それぞれ40.2と45.2であった。先の実施例1と同様の評価方法により、プロジェクターによる防眩性、ならびにホワイトボードマーカーを用いた筆記消去性を評価した結果、マーカー筆記消去性については十分な性能を有するが、防眩性については十分な性能を得られていない。これにより、基材7(図2参照)の塗工面への下地荒らし処理が、防眩性の向上に寄与することが判明した。
なお、以上に述べた下地荒らし処理は、その下地光沢度が可能な限り低くなるよう、基材7に対して施された方がよい。先の表1の中で最も低い下地光沢度1を有するサンプル番号1の映写用スクリーンサンプルは、その塗膜層10の表面10aの光沢度が他のサンプル番号のものより低い値(20.2)を有している。すなわち、下地光沢度が下がれば下がるほど、全体としての塗膜層10の表面10aの光沢度も下がる傾向にある。その結果、光の拡散反射性がさらに向上する。しかしながら、下地荒らし処理により、基材7に対して際限なく低い下地光沢度が得られるものではない。現状では、値の低い側で実現容易な下地光沢度は、通常3〜2であり、さらに1まで可能である。
また、マーカー筆記消去性は、塗膜層10(図2参照)表面の凹凸形状、すなわち、その算術平均粗さRa及び平均山間隔Smの値が、基材7の塗工面の状態に影響される。基材7の下地光沢度を下げ過ぎると、今度は下地荒らし処理を施された塗工面、すなわち下地荒らし表層11(図2参照)の凹凸が大きくなる。その結果、塗膜層10の凹んだ部分に残ったマーカーのインクが拭き取りにくくなり、消去性を低下させる要因となる。
より具体的には次の通りである。下地荒らし表層11の上に塗布された塗膜層10に含まれる球状微粒子8(図2参照)が、下地荒らし表層11の凹凸に影響されて、上下に大きく変動して配置される。球状微粒子8と基材7とを被覆するマトリックス樹脂9(図2参照)の凹凸は、球状微粒子8の配置に追従して形成される。すなわち、球状微粒子が配置されている部分が、配置されていない部分よりも突出した状態となる。したがって、球状微粒子8が基材7の下地荒らし表層11上において、その凹凸により大きく変動して配置されると、それに追従して被覆するマトリックス樹脂9の凹凸も大きなものとなる。その結果、塗膜層10の凹んだ部分に残ったマーカーのインクが拭き取りにくくなり、消去性が低下する。最悪の場合、下地荒らし表層11の突出部分が塗膜層10の表面10aから露出することも考えられる。また、下地荒らし処理そのものにより、基材7自体の剛性が無くなったり、塗膜層10の保持に耐えられなくなったりすることも考えられる。このような現象を回避するためには、基材7の塗工面の下地光沢度を1以上にすることが望ましいし、製造上もそれが現在の限界となっている。
以上、実施例1〜10及び比較例1〜2により、基材7の塗工面、すなわち塗膜層10と接する面に下地荒らし処理を施し、下地荒らし表層11を形成し、基材7の下地光沢度を1〜65とすることにより、光の拡散反射性がさらに向上するので、高輝度のプロジェクター装置においても、映し出された映像の中央にプロジェクターの光源が明るいスポット状に見える現象、いわゆるホットスポットを生じない鮮明な映写画像を得ることができる、映写面へのマーカーの書き込みや消去が可能な映写用スクリーン及びこれを用いたホワイトボード装置を提供することができる。特に、基材7の下地光沢度を1〜30とすれば、高い防眩性能が得られる。
また、表1の「光沢度バラツキσ」及び「変動係数」の2つの評価項目から明らかなように、下地光沢度が30より高いと、30以下のものと比較して防眩性が劣るのみならず、表面光沢度の「バラツキσ」や「変動係数」も大きくなる。下地光沢度を30以下に抑えれば、表面光沢度自体を低く抑えることができるのみならず、表面光沢度の「バラツキσ」およびその比較指標である「変動係数」を、ともに小さくすることができる。これは、下地光沢度を低くした(下地荒らし面11aを適度に荒らした)方が、その上に形成される塗膜層10の表面10aの凹凸形状を安定して形成できることを意味している。
(表面凹凸形状と表面光沢度・マーカー筆記消去性との関係)
[実施例11(サンプル番号14)〜実施例17(サンプル番号20)]
表2は、異なる塗膜層10の表面凹凸形状を有する各映写用スクリーンサンプルについて、防眩性の評価指標である塗膜層10表面10aの光沢度と、マーカー筆記消去性の評価指標である塗膜層10の表面10aの地汚れの程度を示したものである。表2には、サンプル番号13から21までの映写用スクリーンサンプルについて、塗膜層10の表面10aの光沢度と地汚れの程度を示している。ここで、塗膜層10の表面10aの光沢度、すなわち防眩性の評価方法については、先の実施例1の「(1)防眩性」において述べたものと同様である。また、マーカー筆記消去性の評価方法についても、先の実施例1の「(2)マーカー筆記消去性」において述べたものと同様である。
これらのサンプル番号13から21までの映写用スクリーンサンプルは、先の実施例1と同様の工程により作製した。ただし、これらの映写用スクリーンサンプルの基材7(図2参照)としての、厚さ125μmを有する白色ポリエステルフィルム(三菱樹脂製:ダイヤホイルW−200、光沢度99)の一方の面の光沢度は、いずれも10とした。
これらサンプル番号13から21までの映写用スクリーンサンプルのうち、サンプル番号14から20については、防眩性及びマーカー筆記消去性のいずれも、十分な性能を有することがわかった。すなわち、これらの塗膜層10の表面10aの光沢度は、いずれも40以下であり、地汚れについてはΔEがいずれも2以下であった。特にサンプル番号14から18については、塗膜層10の表面10aの光沢度が30以下であり、極めて優れた防眩性能を有していた。
このような、防眩性及びマーカー筆記消去性について十分な性能を有するサンプル番号14から20までの映写用スクリーンサンプルにおいて、それぞれの塗膜層10の表面10aの凹凸形状を調べた。先の図2においても述べたように、塗膜層10の表面10aの凹凸形状に関する各計測パラメータは、JIS B 0601:2001に規定されている。先に述べたように、その算術平均粗さRaが0.3≦Ra≦4の範囲にあり、かつ、その平均山間隔Smを前記算術平均粗さRaで割った値Sm/Raが、およそ30≦Sm/Ra≦150の範囲にあるとよい。
表2には記載していない別の映写用スクリーンサンプルを評価した結果、算術平均粗さRaが0.3以下になると、塗膜層10の表面10aの光沢度が急速に上昇し、その光沢度を40以下にすることが困難であった。また、算術平均粗さRaが4以上になると、ペン先がフェルトで構成されたマーカーの磨耗が早くなる。また、塗膜層10の表面10aの凹凸が大きくなるので、塗膜層10の表面10aに筆記されたマーカーインクの消去が困難となる。この点については、後記する比較例3及び4において述べる。
なお、Sm/Raの値は、70程度のもの(サンプル番号15)が最も望ましかった。このSm/Raの値は、その初期値が70程度のものであっても、塗膜層10の表面10aに対して筆記と消去を繰り返すうちに100程度にまで上昇する。したがって、Sm/Raの初期値がこれよりも大きくなると、筆記と消去を繰り返した後はさらに上の値を示すことになる。Sm/Raが150以上になると、光拡散反射性が小さくなりすぎ、ホットスポットが生じることにより、映写性が低下する。また、Sm/Raが30以下になると、マーカーインクの消去性が低下する。この点についても、後記する比較例3及び4において述べる。
[比較例3(サンプル番号13)]
表2に示すサンプル番号13から21までの映写用スクリーンサンプルのうち、サンプル番号13については、防眩性については満足するものの、マーカー筆記消去性については十分な性能を得られていない。すなわち、この塗膜層10表面10aの光沢度は40以下であったが、地汚れについてはΔEが2.2であり、2を超えていた。
さらに、算術平均粗さRaは4.3であり、4を超えている。このため、ペン先がフェルトで構成されたマーカーの磨耗が早くなった。また、塗膜層10の表面10aの凹凸が大きくなるので、塗膜層10の表面10aに筆記されたマーカーインクの消去が困難となった。この点については、先に述べた地汚れの評価指標であるΔEが2を超えていたことから明らかである。
[比較例4(サンプル番号21)]
表2に示すサンプル番号13から21までの映写用スクリーンサンプルのうち、サンプル番号21については、マーカー筆記消去性については満足するものの、防眩性については十分な性能を得られていない。すなわち、この塗膜層10の表面10aの地汚れについてはΔEが2を大きく下回っていたが、光沢度については41.1であり、40を超えていた。
以上、実施例11〜17及び比較例3〜4により、あらかじめ基材7の塗工面に下地荒らし表層11を形成した上で、さらにその上に形成する塗膜層10の表面凹凸形状を規定する値のうち、JIS B 0601:2001に規定されている算術平均粗さRaを0.3≦Ra≦4の範囲とし、JIS B 0601:2001に規定されている平均山間隔Smを算術平均粗さRaで割った値Sm/Raを、およそ30≦Sm/Ra≦150の範囲とすることにより、マーカーインクの拭き取り性と、光拡散反射性を有することが判明した。そのため、高輝度のプロジェクター装置においても、映し出された映像の中央にプロジェクターの光源が明るいスポット状に見える現象、いわゆるホットスポットを生じない鮮明な映写画像を得ることができる、映写面へのマーカーの書き込みや消去が可能な映写用スクリーン及びこれを用いたホワイトボード装置を提供することができる。特に、基材7の下地光沢度を1〜30とすれば、高い防眩性能が得られる。