JP5100433B2 - 低サイクル疲労特性に優れた浸炭部品 - Google Patents
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Cは、浸炭部品の強度(心部の強度)を確保するための元素である。この効果を得るには、0.10%以上の含有が必要である。他方、過度に含有させると、靭性および低サイクル疲労強度が低下してしまうため、上限を0.30%未満とする。好ましくは、0.25%以下である。
Siは、溶製時の脱酸剤として添加される。このSiは、浸炭時における粒界酸化を助長する元素であり、低サイクル疲労強度の低下をもたらすため、その含有を極力制限する必要がある。具体的には、0.10%以下の含有とする。好ましくは0.05%以下である。なお、Siは、鋼の焼入れ性を高めるのに有効であるため、この効果を得るために0.01%以上を含有させることができる。
Mnは、浸炭時における粒界酸化を助長する元素であり、低サイクル疲労強度の低下をもたらすため、その含有を極力制限する必要がある。具体的には、0.60%以下の含有とする。他方、Mnは、鋼の焼入れ性を高めるのに有効な元素であり、また、靭性向上のためには浸炭後の適度なオーステナイトの残留が必要である。これらの効果を得るには、0.20%以上の含有が必要である。好ましくは0.40%以上である。
Pは、浸炭層の靭性を劣化させる元素である。特に、その含有量が0.015%を超えると、低サイクル疲労強度の低下が著しくなる。また、Pは、不純物元素であるので、できるだけ含有量を0%に近づけることが好ましい。
Sも、浸炭層の靭性を劣化させる元素であり、Pと同様にその含有量が0.035%を超えると、低サイクル疲労強度の低下が著しくなる。しかし、被削性を特に要求されている場合には、0.010〜0.020%含有してもよい。
Crも、Mnと同様に浸炭時における粒界酸化を助長する元素であり、低サイクル疲労強度の低下をもたらすため、その含有を極力制限する必要がある。具体的には、その含有量を1.00%以下に制限する。好ましくは0.80%以下である。他方、Crは、鋼の焼入れ性を高めるのに有効な元素であるから、この効果を得るには、0.50%以上の含有が必要である。
Moは、鋼の焼入れ性を高めるのに有効な元素であり、Cr含有量を制限したことにより不足する鋼の焼入れ性を補完するために添加する。また、浸炭された表層の靭性を向上させるのに有効な元素でもある。これらの効果を得るには、0.50%以上の含有が必要である。他方、過度の含有は、浸炭焼入れ後の硬さが高くなり過ぎ、製造性が悪化してしまうので、1.00%以下の含有とする。好ましくは0.80%以下である。
Bは、浸炭鋼の心部の焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。すなわち、Bの添加により、不完全焼入れによる強度低下が防止され、後述する有効硬化層深さが深くなる効果が得られる。また、Bは、浸炭層の結晶粒界に優先偏析して浸炭層の粒界を強化するのに有効な元素でもある。この効果を得るには、0.0005%以上の含有が好ましい。他方、過度の含有は、焼入れ性向上の効果が飽和するだけでなく、熱間および冷間での加工性が低下するので、0.0030%以下の含有とする。
Tiは、浸炭鋼中のNと結合して窒化物を生成し、NがBと結合することを防止することで、固溶Bを確保してBの焼入れ性向上の効果を維持するのに有効な元素である。ただし、0.010%未満では浸炭鋼中のNを固定するのに十分でなく、0.100%を超えるとTiNの大型化により冷間での加工性が低下するので、0.100%以下の含有とする。
Nbは、浸炭鋼中のCやNと反応して炭窒化物を形成し、浸炭時のオーステナイト結晶粒の粗大化を防止するのに有効な元素である。ただし、0.010%未満ではオーステナイト結晶粒の粗大化を防止する効果が得られにくく、0.100%を超えるとその効果が飽和する。
本発明の浸炭部品にはガス浸炭処理が施される。ガス浸炭処理によれば、表層C濃度を所定の設定値に容易に設定することができる。この場合、上述したように、通常の浸炭処理では、浸炭部品の表層C濃度が0.8%程度に設定される。しかし、本発明では、浸炭部品における浸炭層の延性を向上させ、き裂発生強度(疲労試験による、き裂が発生するまでの寿命)を向上させる観点から、後述する試験結果を踏まえて、0.40〜0.60%以下の含有とする。
ECDは耐塑性変形性を確保する観点から0.6mm以上が必要である。好ましくは、0.7mm以上である。一方、1.2mm以上にするためには長時間の浸炭が必要であり、コストが高く、また粒界酸化や不完全焼入れ層の生成が顕著となり、強度低下が起きるので、1.2mm以下が好ましい。
浸炭部品のガス浸炭処理は、表層を高C濃度とする浸炭期と、表層のC濃度を拡散させる拡散期との浸炭焼入れ工程を含んでなるのが一般的である。このガス浸炭処理において、浸炭期および拡散期のカーボンポテンシャル(以下、CPともいう)を何れも高く設定した場合には、浸炭期および拡散期を短くしながら、有効硬化層深さを深くすることができる。しかし、拡散期のCPを高くすると、最終的な表層C濃度が高くなって、き裂発生強度が低下するおそれがある。一方、浸炭期および拡散期のCPを何れも低く設定した場合には、浸炭期および拡散期を長くすることにより、有効硬化層深さを深くすることができる。しかし、浸炭期および拡散期を長くすると、浸炭処理のコストが高くなるおそれがある。そこで、浸炭期のCPを高めに設定し拡散期のCPを低めに設定、すなわち浸炭期におけるカーボンポテンシャルを拡散期におけるカーボンポテンシャルよりも0.30%以上高く設定するとよい。これによれば、浸炭期および拡散期のCPを何れも低く設定した場合に比べ、短い処理時間で有効硬化層深さを深くすることができ、浸炭処理にかかるコストを抑えながら、き裂発生強度を向上させることが可能である。
表層C濃度を低くすると、表層硬さが低下し浸炭部品(例えばギヤ)の面強度を確保することが困難となる。ガス浸炭処理後に浸炭部品にショットピーニング処理を施すことにより、き裂の起点となる表層の粒界酸化層を除去することができ、また圧縮残留応力の付与により表層の硬さを良好に確保することができる。
浸炭部品の表面強度を確保する観点から、表層にて少なくとも700HVの硬さが必要である。ここで、表層硬さとは、表面から0.05mmの深さ位置における硬さを意味する。
曲げ疲労による、き裂の発生を抑制する観点から、少なくとも800MPa以上の圧縮残留応力が必要である。好ましくは、後述する試験結果を踏まえて、1000MPa以上とする。絶対値が高い方が好ましいが、ショットピーニングのコストが高くなり、また被投射部材の降伏強度を超えると表層にき裂が発生し、曲げ疲労強度を低下させることになる。
浸炭部品の表層の応力値を確保するためである。好ましくは50μm以内とする。本発明のピーク深さを規定する目的は、表層の浅い部分に高い残留応力となっている部分を形成することであり、本発明のように表層から100μmの部分を高い残留応力とした上で、100μm以上のところにピークをもってきたものも対象である(複合的にショットピーニングをすればできる)。
まず、表1に示す化学成分の鋼Aを電気炉を用いて溶製した。この鋼Aを直径22mmの丸棒に熱間圧延し、920℃で1時間保持して空冷した後、図2に示す形状の試験片をそれぞれ作製した。この試験片は1.5Rの円弧溝状の切欠きを持ち、歯車の歯元(強度)を模擬している。そして、各試験片を図3、図4(A),4(B)に示す何れかの浸炭条件(浸炭焼入れ焼戻し工程)に従って表層C濃度を変化させたものを実施例1〜7、比較例1〜9とした。
各試験片の表層C濃度を、JIS G 1253に基づき、発光分光分析により測定した。ここでは、C量1%まで測定できるように検量線を作成した(誤差は±0.01%)。また、各試験片の表層C濃度分布を、X線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて線分析により測定した。ここでは、表層C濃度が0.40〜0.60%のものを良とする。
各試験片の有効硬化層深さおよび表層硬さを、ISO2639(1982)に準拠し荷重300gのビッカース硬度計を用いて測定した。ただし、有効硬化層深さの限界硬さを513HVとし、表面から0.05mmの深さ位置における硬さを表層硬さとして測定した。ここでは、有効硬化層深さが0.6〜1.2mmのものを良とし、また表層硬さが700HV以上のものを良とする。
実施例1〜7、比較例1〜9について、電解研磨により表面を研磨し、周知のディフラクトメータ法によるX線回折プロファイルに基づいて、ピークの半値幅とピーク中心位置との関係から圧縮残留応力(最大残留応力)を測定した。また、表層からの応力分布を求め、ピーク深さを測定した。ここでは、圧縮残留応力が800MPa以上のものを良とする。
各試験片について、図2(b)に示す試験方法に従って曲げ疲労試験(4点曲げ試験)を行った。そして、例えば図2(a)に示した試験片の切欠きに貼付した歪ゲージが破損するまでの負荷繰り返し数(き裂発生寿命)を測定した。ここでは、負荷繰り返し数が1100回以上のものを良とする。以上のSP条件、圧縮残留応力、表層硬さ、負荷繰り返し数を表3に示す。
次に、合金組成の影響を判断するために、表4に示すように合金組成を変え、表層C濃度が0.40〜0.60%となるように、何れも図3の浸炭条件aを採用し、SP条件(A条件)下でSPを施して実施例8〜13、比較例10〜15を作製した。そして、これらの鋼についても、上記第1実施例と同じ評価方法および試験を行った。以上の結果を表5に示す。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.10〜0.30%未満,Si:0.10%以下,Mn:0.20〜0.60%,P:0.015%以下,S:0.035%以下,Cr:0.50〜1.00%,Mo:0.50〜1.00%,B:0.0005〜0.0030%,Ti:0.010〜0.100%,Nb:0.010〜0.100%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、
ガス浸炭処理後の表層C濃度が0.40〜0.60%であり、限界硬さを513HVとする有効硬化層深さが0.6〜1.2mmであり、かつショットピーニング処理後の表層硬さが700HV以上であることを特徴とする低サイクル疲労特性に優れた浸炭部品。 - 前記ショットピーニング処理後にて、圧縮残留応力の最大値が800MPa以上であり、その圧縮残留応力が最大となる深さ位置が、表層から100μm以内であることを特徴とする請求項1に記載の低サイクル疲労特性に優れた浸炭部品。
- 前記浸炭部品は、ディファレンシャルギヤであることを特徴とする請求項1または2に記載の低サイクル疲労特性に優れた浸炭部品。
- 請求項1ないし3の何れか1項に記載の浸炭部品における浸炭焼入れ工程を、表層を高C濃度とする浸炭期と、表層のC濃度を拡散させる拡散期とを含んで構成し、前記浸炭期におけるカーボンポテンシャルを前記拡散期におけるカーボンポテンシャルよりも0.30%以上高く設定したことを特徴とする低サイクル疲労特性に優れた浸炭部品の製造方法。
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