JP5098726B2 - 被覆工具及び被覆工具の製造方法 - Google Patents

被覆工具及び被覆工具の製造方法 Download PDF

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Description

本願発明は、切削工具、金型等の耐摩耗性の要求される被覆工具及び、被覆工具の製造方法に関する。
特許文献1から3には、硬質皮膜と基材との密着性を向上させるための技術が開示され、特に特許文献4には、被覆前処理として金属イオンボンバードメントによる基材の表面処理の技術が開示されている。
特開平4−128362号公報 特開平7−310173号公報 特開2000−129423号公報 特開2002−103122号公報
本願発明はWC基超硬合金を基材とする被覆工具において、皮膜と基材の密着強度を改善し、実用環境下において皮膜剥離を格段に低減し耐摩耗性に優れた被覆工具及び被覆工具の製造方法を提供する。
本願発明の被覆工具は、WC基超硬合金を基材と、該基材の表面結晶構造がbcc構造からなるW改質相を有し該W改質相は、Ti、Zr、Hf、Nb及びTaから選択される1種以上の金属のイオンの照射によって該基材のWCがWとCとの分解を経て形成されたWであり、該W改質相の直上にTi、Zr、Hf、Nb及びTaから選択される1種以上の金属の炭化物相を有し、該炭化物相の直上に硬質皮膜を有することを特徴とする
本願発明の被覆工具の製造方法は、WC基超硬合金を基材とし、該基材の上に硬質皮膜を被覆した被覆工具の製造方法においてアーク放電式蒸発源を配備した成膜装置を用いて、Ti、Zr、Hf、Nb及びTaから選択される1種以上の金属(陰極物質)のイオンボンバードメント処理を行う第1の工程と、該硬質皮膜を形成する第2の工程とからなり、該第1の工程において、該基材に負のバイアス電圧P1として−1000≦P1≦−600(V)を印加し、圧力0.01〜2Paで、水素ガスとAr又はN2との混合ガス(但し、該混合ガスの水素ガス体積比率が1から20%である。)を用いて、該アーク放電式蒸発源から陰極物質を蒸発させ、陰極物質から蒸発した金属イオンを該基材に照射し、もって該基材の表面温度を800〜860℃の範囲として、該基材表面結晶構造がbcc構造からなるW改質相を形成するとともに該W改質相の直上にTi、Zr、Hf、Nb及びTaから選択される1種以上の金属の炭化物相を形成し、
該第2の工程において、該炭化物相の直上に該硬質皮膜を成膜することを特徴とする
上記の構成を採用することによって、WC基超硬合金を基材とする被覆工具において、皮膜と基材の密着強度を改善し、実用環境下において皮膜剥離を格段に低減し、耐摩耗性に優れた被覆工具及び被覆工具の製造方法を提供することができる。
本願発明におけるW改質相は、10≦T1≦300nmであること、X線回折においてbcc構造の(110)に最大回折強度を有すること、I(200)/I(110)>0.1又は、I(210)/I(110)>0.2、であること、格子定数が0.315〜0.316nmであることが好ましい。また、W改質相の粒子成長方向に対して垂直方向の粒子長さをE(nm)としたとき、E≦40(nm)であること、及びW改質相の粒子成長方向の粒子長さをH(nm)としたとき、1≦H/E≦7であることが、工具基材と皮膜の密着強度向上の観点から好ましい。また、W改質相の直上に炭化物相を有し、TiCであること、及び該炭化物相の厚さをT2(nm)としたとき20≦T2≦300(nm)であることが、工具基材と皮膜の密着強度向上の観点から、より好ましい。更に、炭化物相の直上の硬質皮膜は窒化物層であり、結晶構造がfcc構造であり、窒化物層のうち少なくとも1層がAlを必須成分とし、残りTi、Cr、W、Nb、Y、Ce、Si及びら選択される1種以上の窒化物であること、炭化物相と窒化物層の界面がエピタキシャルの関係にあることが、工具基材と皮膜の密着強度向上の観点から、より好ましい。
本願発明において、該第1の工程で使用する混合ガスの水素ガス体積比率が1から20%であること、硬質皮膜がAlとCrを金属成分とした化合物であることが好ましい。
本願発明は、WC基超硬合金を基材とする被覆工具において、皮膜と基材の密着強度を改善し、実用環境下において皮膜剥離を格段に低減し、耐摩耗性に優れた被覆工具、及び被覆工具の製造方法を提供した。これより、工具の耐久性や工具寿命を改善し、切削加工の高能率化を実現した。
本願発明は、被覆工具の耐久性を向上させるために、硬質皮膜と工具基材との密着強度を改善した。硬質皮膜は優れた機械的特性を発揮する前に、剥離を起点とした異常摩耗を誘発し工具寿命に至っている場合が多く、特に高速切削時や高硬度材切削時における工具逃げ面側の皮膜と基材間の皮膜剥離、破壊、また、湿式切削時におけるすくい面側の皮膜と基材間の皮膜剥離を起点とした異常摩耗が発生する。この皮膜剥離が工具寿命を支配している。従って、本願発明は、皮膜と基材との密着強度を改善して被覆工具の寿命を向上させた。密着強度改善を可能にするには、工具基材の表面結晶構造がbcc構造からなるW改質相とすることが必要である。ここで、W改質相と、Tiイオンの照射処理によって超硬合金のWCがWとCとの分解を経てWとなったもの言う。W改質相の存在によって、優れた密着強度を有する理由は、以下の様に考える。通常、超硬合金の工具基材の表面は複数の化合物、又は単体金属が存在し、皮膜はこれらの何れかの直上から成長を開始する。このとき、化合物上に成長する皮膜と単体金属上に成長する皮膜では成長方位、格子ミスフイット、結晶粒径が夫々異なるため、成長する皮膜は成長初期から比較的微細な結晶の多結晶となり、超硬合金工具の基材と皮膜界面に極めて高い残留応力を蓄え、密着強度の低下を招いている。そこで本願発明は、超硬合金の工具基材に予め含有するWCの1部をW改質相として基材表面上に析出させ、結晶構造をbcc構造とし、その直上に成長する皮膜や、皮膜と基材の界面近傍の残留応力を大幅に低減させた。その結果、基材と皮膜との高い密着強度を実現した。この点が、中間層の被覆によって密着強度を改善しようと試みた従来の技術と本願発明とが本質的に異なる点である。本願発明は、工具基材に予め含有するWC成分をW改質相として析出させるので、三次元形状を有した工具基材でも均一に、しかもその厚さを容易に制御することができる。一方、従来の中間層の被覆では、三次元形状の均一被覆には限界がある。本願発明ではCoと硬質皮膜との間に直接的な界面がなく、優れた界面密着強度が発揮される。これに対し、超硬合金の基材成分であるCo上に成長する硬質皮膜は、微細な多結晶として成長するため、基材と皮膜間の界面近傍で残留圧縮応力が高くなり、成長の連続性が阻害され、基材と皮膜間の密着強度が低下していた。
本願発明のT1値は、10≦T1≦300nmに制御することにより、工具基材と皮膜の優れた密着強度が得られ好ましい。10nm未満の場合はW改質相の効果に乏しく、300nmを超えて厚い場合、密着強度が低下傾向にある。その結果、W改質相の効果が得られず、逆に耐剥離性が低下する場合もある。本願発明のW改質相は、工具基材上に層状に存在することが好ましいが、工具基材の化合物上に優先的に島状に存在する場合もあり、何れも工具基材と皮膜の密着強度を改善することができる。また超硬合金のWC粒子が1μmを超え、T1値が50nm以下の場合、W改質相が島状に形成され易い。
本願発明のW改質相は、bcc構造の(110)面に最大回折強度を有することが好ましい。この理由は、皮膜の残留応力が低くなり、密着強度が高く、耐剥離性を改善できるからである。特に、I(200)/I(110)>0.1、又は、I(210)/I(110)>0.2、の関係を満足することにより、皮膜の残留応力が低減し密着強度が高くなって耐剥離性を改善できる。I(200)/I(110)値が0.1以下の場合、又は、I(210)/I(110)値が0.2以下の場合、残留応力が高くなり、耐剥離性が低下するため工具の耐久性が低下する。工具の耐久性より、I(200)/I(110)値の好ましい上限値は0.19であり、I(210)/I(110)値の好ましい上限値は0.27である。
本願発明のW改質相はWであり、格子定数が0.315〜0.316nmであることが特に工具の耐久性向上に有効である。JCPDSカードによるWの格子定数は0.3164〜0.3165nm程度である。より格子定数が小さいことは格子内の歪が少なく、残留応力が低いことを示しており、本願発明のより好ましい構成である。
本願発明のE値を、E≦40nmに制御することにより、基材と皮膜の密着強度が向上し、工具の耐久性がより向上する。E値が小さい値であって、W改質相が微細であるほど密着強度に優れる。40nmを超えるとW改質相の機械的強度が低下し、摩耗環境においてW改質相を起点とした滑りにより、異常摩耗が発生する傾向にある。H/E値は、1≦H/E≦7とすることにより、残留応力が低く、摩耗環境においてW改質相での滑りが抑制され、基材と皮膜の密着強度が向上し、工具の耐久性が向上する。
本願発明の被覆工具は、W改質相の直上に炭化物相、更に炭化物相の直上に硬質皮膜を有する。工具基材、W改質相、炭化物相、硬質皮膜の順番に構成することにより、夫々の接合界面が優れた密着強度を有し、工具耐久性が向上する。具体的には、炭化物相がTiCであること、T2値は20≦T2≦300nmであることが好ましい。炭化物相がTiCの場合、基材との密着強度の点から最適である。同様な効果が得られる他の炭化物には、炭化タングステンよりも生成自由エネルギーの低い、炭化ジルコニウム、炭化ニオブ、炭化ハフニウム、炭化タンタルが挙げられる。結晶構造をfccとすることにより、優れた密着強度と工具の耐久性を向上させることができる。T2値は20nm未満の場合、炭化物相形成による密着強度向上の効果が確認できない。一方、300nmを超えると耐熱性が低下し、耐摩耗性が低下する。炭化物相はW改質相の直上に層状であることが好ましいが、基材化合物上に優先的に島状に存在する場合もあり、何れも基材と皮膜の密着強度を改善することができる。
また、炭化物相の直上の硬質皮膜は、結晶構造がfcc構造の窒化物であること、この窒化物は、Alを必須成分とし、残りTi、Cr、W、Nb、Y、Ce、Si及びから選択される1種以上の元素からなる窒化物であることが好ましい。窒化物の結晶構造がfcc構造を有することで炭化物相との整合性が良く、密着強度が高くなり耐久性向上に有効である。硬質皮膜は窒化物、炭化物、硼化物、硫化物又は酸化物の何れか、又はこれらの固溶体から構成されて良いが、炭化物相の直上にはfcc構造の窒化物層を被覆することが特に好ましい。窒化物組成は、原子%で、Al含有量が50〜80%、残20〜50%Ti、Cr、W、Nb、Y、Ce、Si及びから選択される1種以上の元素からなる窒化物であることが好ましい。特に好ましくは、AlとCrの窒化物、またAlとCrの窒化物にTi、Si、W、Y、B、Ce又はNbを10原子%未満含有する窒化物である。更に窒化物は、O、C、S等を含有しても良く、その置換量は窒素の30%未満である。
炭化物相と硬質皮膜との界面をエピタキシャルの関係とすることにより、夫々の接合界面が極めて優れた密着強度を有した状態で被覆できるため、工具の耐久性を格段に向上させることができ、好ましい。本願発明の特に好ましい形態は、超硬合金の工具基材上に、結晶構造がbcc構造のW改質相、fcc構造の炭化物相、窒化物層の順番で積層することである。これにより、夫々の接合界面が格段に高い密着強度を有した状態で夫々接合し、工具の耐久性を格段に向上させることができる。即ち、W改質相、炭化物相は1部格子の連続性を保った状態による結合強化、炭化物相と硬質皮膜はエピタキシャルの関係による結合強化により、夫々が優れた密着強度を有し、工具の耐久性を格段に向上する。
本願発明の被覆工具の製造方法を述べる。まず第1の工程では、工具基材をバイアス電圧が印加可能な減圧容器内に設置し、真空排気、加熱する。基材表面に負のバイアス電圧値P1(V)を印加して陰極物質の蒸発源からの陰極物質のイオン照射により基材表面のクリーニングを行う。ここで、陰極物質は、Ti、Zr、Hf、Nb及びTaから選択される1種以上の金属である。例えばTi蒸発源からのTiイオン照射により基材表面のクリーニングを行うことができる。基材の表面温度は、ヒーター等の加熱装置や金属イオン照射の照射電力、照射時間等によって、800〜860℃に制御する。本願発明におけるP1値は、−1000≦P1≦−600とする。この理由は、−600Vよりも高いと工具基材の表面にW改質相が形成されず、硬質皮膜と工具基材の密着強度を高めることができない。一方、−1000Vより小さいと高温度となり過ぎてしまい、超硬合金工具の表面の強度が急激に低下するためである。陰極物質の金属イオンは、Ti、Zr、Hf、Nb及びTaから選択される1種以上の金属イオンを用いる。これらの金属の炭化物は、W炭化物よりも生成自由エネルギーが低く、WCを脱炭するのに好都合であり、W改質相を安定して形成することができるためである。工具基材の表面温度を800〜860℃とする理由は、800℃未満の場合、W改質相が形成されず、860℃を超えて高い温度では、工具基材の強度が急激に低下し、チッピングや異常摩耗が発生し易くなるからである。また、雰囲気ガスとしてH2を含む混合ガスを用いる。これは工具基材と皮膜界面に他の元素が吸着されることを抑制する効果が高い。所謂、還元作用とTiイオン等によるイオンゲッター効果作用であり、界面近傍における異種元素の混入を抑制する効果がある。またH2以外にもAr、N2、Kr等これらの混合ガスを用いることも有効である。容器内圧力は0.01〜2Paとする。この理由は、圧力が0.01Pa未満では、ガス添加効果がなく、W改質相は形成されない。一方、2Paを超えると金属イオンボンバードメント処理に用いる金属が付着する傾向にあり、この場合もW改質相が形成されないため、密着強度を改善することができないからである。第1の工程において、基材表面のクリーニングと同時に、基材表面のWCは表面に衝突するTiイオン等によってW改質相となり、WCのCはWから分解し、Ti等と結合してW改質相の直上にTiの炭化物相が形成される。更にTi等の蒸発源近傍では、イオンゲッター効果も働き、工具基材と皮膜界面近傍の異種元素混入を抑制する。異種元素を取り込んだTiは電位を持たないため、バイアス電圧を印加した基材へ到達することができない。このようにして形成、析出したW改質相が、その後に被覆される皮膜の残留応力の緩和、工具基材と皮膜の密着強度の向上に大きく寄与する。T1値の制御、W改質相のX線回折における面指数の制御、格子定数の制御、E値の制御には、例えばTiイオンの照射時間、バイアス電圧、容器内圧力、ガス種、Ti蒸発源への電力等を調整する。特に、T1値の制御には、Tiイオン照射時間の影響が大きく、面指数の制御には、P1値と容器内圧力の影響が大きい。例えば、W改質相形成時のP1値が−800V以上の場合、(110)の回折強度が高くなる傾向にあり、I(200)/I(110)値、I(210)/I(110)値を夫々下限値に近い値に設定することができる。
次に、第2の工程では、負のバイアス電圧P2値を、−300≦P2≦−20に印加した状態とし、反応性ガスを供給しながらプラズマ中でアーク放電式蒸発源から陰極物質を蒸発させ、陰極物質と反応性ガスとが反応した化合物をW改質相の直上に硬質皮膜として形成し被覆する。こうすることにより、超硬工具基材と硬質膜が格段に優れた密着強度を発揮し、工具の耐久性を格段に向上させることができる。
本願発明の被覆工具は、特に高硬度鋼、ステンレス鋼、耐熱鋼、鋳鋼、炭素鋼の切削加工用に用いる切削工具が特に好ましい。例えばボールエンドミル、多刃エンドミル、インサート、ドリル、カッター、ブローチ、リーマ、ホブ、ルーター等が挙げられる。金型、パンチ等の工具も優れた耐摩耗性を発揮する。本願発明の被覆工具は、研削加工面、焼結肌、鏡面状態等、基材側の面正常に影響されずきわめて優れた耐久性を発揮することができる。以下、本願発明の実施例について述べる。
(実施例1)
本発明例1の作成にはアークイオンプレーティング(以下、AIPと記す。)方式の成膜装置を用いた。本装置は、ターゲット背面に永久磁石を配備し、ターゲットに垂直方向の磁場を有したアーク蒸発源を3基搭載している。夫々ターゲットをC1、C2、C3と記す。また、各ターゲット背面に配置する永久磁石の磁束密度は、C2とC3は同等、C3>C1の関係にある。真空容器内は真空ポンプにより排気され、ガスは供給ポートより導入される。バイアス電源は基材に接続され、独立して基材に負のDCバイアス電圧を印加する。基材回転機構は、3軸のプラネタリー機構であり、主軸が毎分3回転の速さで回転する。超硬合金基材は、組成がwt%で、Co:8%、Cr:0.5%、VC:0.3%、残部WC及び不可避不純物であり、WC平均粒度0.6μm、硬度はHRA93.9の日立ツール株式会社製の2枚刃ボールエンドミル用インサート、R:5mmを使用した。X線回折用基材として、Co:10%、Cr:0.7%、WC平均粒度0.8μm、鏡面加工を施したSNMN120408形状の試験片を準備した。残留応力測定用基材として、Co:13.5%、Cr:0.5%、TaC:0.3%、WC平均粒度0.8μm、試験片寸法が4×8×25mm、厚さ0.7〜0.9mmの試験片を準備した。基材を冶具に固定し、まず真空容器内を8×10−3Pa以下に真空排気後、ヒーターにより、基材温度600℃まで熱した。圧力が1×10−3Pa以下に達した後、基材の前処理を実施した。処理条件は、ArとH2の混合比が90:10の混合ガスを、流量が20sccmで導入した。このときの圧力は8×10−2Pa程度であった。次に−600Vの負のバイアス電圧を印し、C1ターゲットに120Aのカソード電流を供給した。C1から放出されるTiイオン及びガスイオンにより、基材のクリーニングを開始した。バイアス電圧を−1000Vまで傾斜的に減少させ、1000Vの状態で10分間のクリーニング処理を実施した。処置後の基材温度は820℃であった。基材のクリーニング処理に続いて、硬質皮膜の成膜工程を実施した。C1への電力供給を中断し、供給ガスをN2に切り替え、圧力を5Paに設定した。バイアス電圧を−100V、C2に150Aの電力を供給し、C2組成の硬質皮膜を略1.5μm被覆した。引き続き、C2への電力供給を中断し、次に、C3に150Aの電力を供給し、C3組成の最表層の硬質皮膜を1.5μm被覆した。その後、略200℃以下に基材を冷却し、真空容器から取り出した。得られた試料を本発明例1とした。被覆前のクリーニング条件、使用したターゲットと成膜条件を表1に示す。
(実施例2)
本発明例2から30、比較例31から37の基材クリーニング処理は、本発明例1の操作手順に準拠した。但し、本発明例16から19、比較例37で使用した基材クリーニング処理の混合ガスは、N2とH2の混合比を90:10とした。クリーニング後の基材温度は、C1に設置する金属ターゲット種により異なるが、略760〜850℃の範囲であった。本発明例2から19の成膜工程も本発明例1の条件に準拠して実施した。特に断りの無い限り本発明例1と同条件で処理した。本発明例20の成膜工程は、炭化物相の直上の層が及ぼす工具の耐久性を比較するために、以下ように実施した。基材のクリーニング処理後、直ちに真空容器内のガスをArとアセチレンの混合比が70:30の混合ガスに置換し、圧力を2Paに設定し、負のバイアス電圧を−100V、C2に設置したAlCr合金ターゲットに150Aの電力を供給し、炭化物膜を略1.5μm被覆した。次に、N2ガスに置換し、圧力を5Paに設定し、C3に設置したTiSi合金ターゲットに150Aの電力を供給し、C2とC3金属成分を含有する窒化物皮膜を0.5μm被覆した。次にC2への電力供給を中断し、C3のみの金属成分を含有する窒化物膜を略1μm被覆した後、略200℃以下に基材を冷却して取り出した。成膜前のクリーニング工程は、本発明例1と同一とした。窒化物層の組成が異なる本発明例21〜28の成膜工程は、C2に設置するターゲット組成が異なる以外は本発明例1と同一とした。本発明例29はC3にターゲットを設置しない状態とし、本発明理例30は、C3にCrSiBターゲットを設置して、本発明例1同様に被覆した。
被覆した工具基材を用い、基材と硬質皮膜との界面の断面を日本電子製の電界放射型透過電子顕微鏡(以下、FE−TEMと記す。)を用い、加速電圧200kVで観察した。各相、各層の結晶構造、結晶成長方向、炭化物相と硬質皮膜とのエピタキシャルの状態の有無を調査するために、制限視野回折像又は電子線回折像を撮影した。W改質相、炭化物相の概略の組成はFE−TEM付属のエネルギー分散形X線分析装置(以下、EDSと記す。)により決定した。T1値、T2値、H値、E値は断面FE−TEM像から実測したが、電界放射型走査電子顕微鏡(以下、FE−SEMと記す。)による破断面組織写真からも測定可能であった。被覆したX線回折用基材を用い、X線回折による解析を行った。X線回折の条件は、管電圧120kV、管電流40μm、X線源Cukα、X線入射角5度、X線入射スリット0.4mm、2θを20〜70度の測定条件で実施した。X線回折結果から、結晶構造、最大強度面指数、配向強度比、格子定数を決定した。T1値が100nm以下の結晶構造を決定するためには、十分なX線強度が得られない場合があるため、FE−TEMによる電子線回折結果を優先した。本発明例1〜30のW改質相の結晶構造はbcc構造、炭化物相はfcc構造を有した。W改質相、炭化物相の評価結果を表2に示す。
次に被覆した工具基材を用い、硬質皮膜の組成を波長分散型電子線プローブ微小分析(以下、WDS−EPMAと記す。)により、加速電圧10kV、試料電流5×10−8A、取り込み時間10秒、分析領域直径1μm、分析深さが略1μmの測定条件で5点測定し、その平均値を求めた。数値は、原子比で全体を100として示す。被覆した残留応力測定用基材を用い残留応力を化1から決定した。ここで、Eが517.54GPa、vが0.238、Dが試験片の厚み、δが試験片のたわみ量、dが皮膜全体の厚み、Lは最大たわみ量までの長さである。これらの測定結果を表3に示す。
図1に、本発明例1の基材と硬質皮膜間の断面における界面構造を観察した断面FE−TEM写真を示す。工具基材(1)と硬質皮膜(4)の界面に工具基材(1)と粒子径が異なる層状のW改質相(2)、層状の炭化物相(3)が観察された。図2は、図1とは別視野の工具基材(1)と硬質皮膜の界面近傍の断面TEM写真を示す。図2から図1と同様に、層状で粒子状のW改質相(2)がより明確に観察され、W改質相(2)は工具基材(1)と明らかに粒子径が異なる。図3に、図2の暗視野STEM像を示す。図3中のスポット番号1〜6の直径1nmφのEDS分析を実施した。EDS分析は夫々W−Lα、C−Kα、Co−Kα、Ti−Kα、Cr−Kαを使用した。EDS分析結果から、図1、2に示すW改質相(2)はW、炭化物相(3)はTiCであった。図4に、図1、2に示すW改質相(2)をビーム径20nmで撮影した電子線回折写真を示す。W改質相は電子線回折写真とEDS分析結果から、結晶構造がbcc構造のWであった。図5に、図1、2に示す炭化物相(3)の制限視野領域140nmの制限視野回折写真を示す。炭化物相は先のEDS分析結果と合わせ、結晶構造がfcc構造のTiCであった。
図6に、炭化物相と窒化物層の界面近傍の断面TEM写真を示す。図6の中に、スポット番号9の炭化物相、スポット番号10の皮膜付近の制限視野領域140nmの[110]入射制限視野回折を左上と左下に夫々示す。炭化物相と窒化物層はfcc構造であり、窒化物層と炭化物相とも同一回折パターンであり、結晶成長方向も[−111]〜[−113]方向、又はこれに等価な方向として同一あることから、炭化物相と窒化物層はエピタキシャルの関係にあることを確認した。また、EDS分析結果から、W改質相と工具基材の界面付近は、W、Co、Ti、Cr等が固溶した炭化物相を形成し、結合力を高めていた。W改質相の形成は、工具基材内のWCがTiイオンの衝突により、WCのCがTiと結合し、TiC相を形成したものであるが、夫々工具基材とW改質相、W改質相と炭化物相は、拡散を伴った結合に加えて、化合物を形成している。特に、結晶構造がbcc構造のW改質相の形成は、皮膜全体の残留圧縮応力の低減に有効であった。また炭化物相と窒化物層は、エピタキシャルな成長であり、本発明例1は極めて強固な結合を達成していた。一方、比較例31は、W、Ti、C、Coの組成混合層、又は工具基材成分と皮膜成分の組成傾斜領域が確認されるに留まり、W改質相、炭化物相の形成はなかった。比較例32は、工具基材と皮膜の界面構造は全く確認されなかった。工具基材のWCは結晶構造がhcp構造であり、fcc構造を有する皮膜と結晶構造が異なること、また工具基材内のCo上に成長する皮膜は、fcc構造を有する皮膜と結晶構造が異なる上に、多結晶の皮膜粒子が成長する傾向にあることから、密着強度に乏しかった。
図7に本発明例1、比較例31、32のX線回折結果を示す。本発明例1は、W改質相によるbcc構造のWの(110)面の回折強度が認められたが、比較例31、32には無かった。更に確認のため被覆前処理のみを施した試料を準備し、表面近傍の構造解析を行った。その結果、本発明例1は、結晶構造がbcc構造のW改質相、fcc構造のTiC相の存在が明瞭に観察され、W改質相は(110)面に最も強く配向し、(211)、(200)の順番に回折強度が高く、またTiC相は(200)面に最大回折強度を示したが、比較例31は、W改質相、炭化物相が無かった。
(実施例3)
得られた被覆工具及び基材を用い、工具の耐久性を以下の条件で評価した。工具寿命を工具の逃げ面摩耗幅が0.1mmに達したときの切削長(m)とし、工具の耐久性を評価し、200m以上の切削長を示す被覆工具が本願発明の効果を発揮できたと判断した。切削長は10m未満の値は四捨五入して示した。評価結果を表3に併記した。
(試験条件)
工具:2枚刃ボールエンドミルインサート、半径5mm
被削材:SKD11、硬さHRC60
切り込み:軸方向、0.2mm、径方向、0.2mm
回転数:8000/分
テーブル送り量:2000mm/分
一刃当たりの送り量:0.1mm/刃
切削油:なし、エアブロー
表3より本発明例1〜3と比較例31〜35を比較した結果、本発明例は皮膜と基材の密着強度が改善され、皮膜剥離が低減し、工具の耐久性、耐摩耗性の改善に有効であった。C1のターゲット材種は、本発明例1のTi、本発明例2のZr、本発明例3のHfを使用する場合において、W改質相、炭化物相の形成が確認できた。一方、比較例33のCr、比較例34のV、比較例35のTiAlでは、W改質相は形成されなかった。Cr、V、TiAlを用いた場合は、Ti、Zr、Hfを用いる場合に比べて基材の温度上昇が低く、W改質相の形成には至らなかったと考えられる。切削距離を比較すると、本発明例1〜3が200〜300mであるのに対し、比較例33〜35は140m未満であり、本発明例は工具の耐久性に優れた。これは、本発明例1〜3はW改質相の形成により、皮膜全体の残留圧縮応力が2.1〜2.5GPaまで低減され、密着強度が改善された。しかし、比較例33〜35は3.5〜3.9GPaであった。
T1値、T2値の及ぼす工具の耐久性の影響を考察するために、本発明例1、4〜10を比較した。T1値が5〜1000nmへ増加するに従い、I(200)/I(110)値、I(210)/I(110)値、格子定数、E値、T2値が増加する傾向にあった。また、T1値が10〜200nmの範囲で切削距離は300m以上の切削距離を示したことから、より最適なT1値であった。
成膜前のクリーニング工程のガス種、ガス流量が及ぼす工具の耐久性を考察するために、本発明例1、11〜19、比較例36〜37を比較した。本発明例11、12を比較すると、H2ガスを用いることにより、基材と皮膜の剥離が抑制され密着強度を高めることによって切削距離が長くなった。Arガスのみを用いた本発明例11は高周波グロー放電発光分析結果から、基材と皮膜の界面近傍に微量の酸素元素や冶具成分の1部である鉄元素が確認された。そこで、H2ガスとの混合ガスを使用した本発明例12は、界面の不純物濃度を低減でき、密着強度改善に有効であると考えられる。ArとH2の混合ガス流量、N2とH2の混合ガス流量の増加に伴い、T1値が減少し、同時にW改質相の(200)、(210)面のX線強度が高くなり、最大強度面指数、I(200)/I(110)値、I(210)/I(110)値、格子定数が増加し、E値、H/E値、T2値が減少する傾向にあった。ArとH2の混合ガス流量が500sccmの比較例36、N2とH2の混合ガス流量が1000sccmの比較例37は伴に、W改質相、炭化物相の形成が確認されなかった。比較例36はbcc構造のTi金属層、比較例37はfcc構造のTi窒化物層が確認された。しかし、Ti金属層、Ti窒化物層は、基材と皮膜界面の密着性が不十分のため工具の耐久性を改善できなかった。本発明例1、11〜19の耐久性評価結果から、切削距離が300m以上のものが、特に工具基材と皮膜界面からの剥離が少なく本願発明の好ましい形態であり、T1値が10〜300nm、I(200)/I(110)値が0.10〜0.18、I(210)/I(110)値が0.20〜0.27、格子定数が0.3150〜0.3160nm、E値が40nm以下、H/E値が1〜7、T2値が20〜300nmの範囲とすることにより、切削初期の皮膜剥離が低減し、密着強度が高いことを示した。
炭化物相の直上の層が及ぼす工具の耐久性を考察するために、本発明例1と20を比較した。本発明例20は、炭化物相の直上の層が非晶質相となったため、炭化物相とのエピタキシャル成長が確認されなかった。そのためfcc構造の窒化物層の場合に比べて基材と皮膜界面での剥離が多く、工具耐久性が低下した。
窒化物層の組成が及ぼす工具の耐久性を考察した。AlとCrの窒化物である本発明例1に対して、Siを添加した本発明例21は1.2倍の切削距離を示した。よって本願発明の好ましい形態であった。また、Wを添加した本発明例22は1.2倍の切削距離を示し、Nbを添加した本発明例23は1.1倍、Tiを添加した本発明例24は同等、Yを添加した本発明例25は1.2倍、Ceを添加した本発明例26は1.2倍、SiとYを添加した本発明例27は1.4倍、SiとBを添加した本発明例28は1.3倍の切削距離を示した。本発明例29はTiSi系の硬質皮膜が存在しない場合であり、比較例に対して優れるが、硬質皮膜のある方がより工具耐久性が向上した。硬質皮膜がCrSiB系の窒化物を採用した本発明例30は本発明例1に比べ、工具の耐久性に劣っているものの、炭素鋼、合金鋼等を同一切削加工条件で加工した場合、3倍以上の耐久性を示した。
(実施例4)
本発明例38の作成方法を述べる。超硬合金製の基材は、組成がwt%で、Co:8%、Cr:0.5%、VC:0.3%、残部WC及び不可避不純物であり、WC平均粒度0.6μm、硬度はHRA93.9の2枚刃ボールエンドミルインサート、R:5mmを準備した。X線回折用基材として、実施例1と同じ形状の試験片を準備した。基材のクリーニング条件は、ArとH2の混合比が95:5の混合ガスを使用した以外は実施例1と同じである。基材のクリーニング処理に続いて、硬質皮膜の成膜工程を実施した。C1への電力供給を中断し、供給ガスをN2に切り替え、圧力を5Paに設定した。バイアス電圧を−150V、C2に150Aの電力を供給し、C2組成の硬質皮膜を略3μm被覆した。その後、略200℃以下に基材を冷却し、真空容器から取り出した。得られた試料を本発明例38とした。他の本発明例39から62も、断りのない限り上記方法に準拠して作成した。
本発明例39〜43、比較例63〜65は、成膜前のクリーニング処理において、ArとH2の混合比が95:5の混合ガス流量が及ぼす工具の耐久性の影響を比較するために、流量が0〜1000sccmの範囲に設定した。ArとH2の混合ガス流量以外の成膜前、成膜後の製造方法は本発明例38と同一とした。同様に、本発明例44〜47、比較例66は、ArとH2の混合比の影響を比較するために混合比を変えて作成し、本発明例48〜52、比較例67は、ArとN2の混合比が95:5の混合ガス流量の影響を比較するために、流量を10〜1000sccmの範囲で変化させて作成した。本発明例53、54、比較例68〜70は、バイアス電圧の影響を比較するために、−1200〜−500Vの範囲で変化させて作製した。特に本発明例53は、−600V、30分間のクリーニング処理を、本発明例54は、−800V、15分間のクリーニング処理を実施した。本発明例55〜58、比較例71〜74は、成膜前の金属イオンボンバードメント処理において、C1ターゲット成分の影響を比較するために作成した。本発明例60〜62、比較例75、76は、成膜バイアス電圧の影響を比較するために、−400〜−10Vの範囲で作成した。特に本発明例59は、成膜ターゲットにTiAlを用いた。被覆前のクリーニング条件、使用したターゲットと成膜条件を表4に、W改質相、炭化物相と工具寿命の評価結果を表5に示す。
得られた被覆工具及び基材を用い、実施例3と同様の条件で工具の耐久性を評価した。まず、成膜前の基材クリーニングにおいて、C1ターゲット成分の影響を比較した。C1組成がTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Al、V、TiAlをもちいた本発明例38、55〜58、比較例71〜74の工具の耐久性を比較した。C1が、Ti、Zr、Hf、Nb、Taの場合、工具基材温度が800℃以上に達し、W改質相が形成され、工具の耐久性が向上した。一方、C1が、Cr、Al、V、TiAlでは、基材温度が800℃に到達せず、W改質相の形成が認められず、工具の耐久性を向上させることができなかった。
次に、成膜前のクリーニング工程のガス流量、混合比、ガス種が及ぼす工具の耐久性を考察するために、本発明例、比較例の工具の耐久性を比較した。まず、ArとH2の混合ガス流量が10〜400sccmの本発明例38〜43は、比較例に比べ2.3倍以上の耐久性を示した。これは、W改質相が形成され、工具基材と硬質皮膜の密着強度が向上した結果である。W改質相は、ArとH2の混合ガス流量が多くなるほど、T1値が減少する傾向にあった。混合ガス流量が0.5sccmの比較例63、64は、工具の耐久性が向上しなかった。これは、工具基材の温度が何れも780℃と800℃未満であり、W改質相が形成されなかったためである。同様に、混合ガス流量が1000sccmの比較例65は硬質皮膜の剥離が多く観察され、工具の耐久性が向上しなかった。これは、工具基材の温度が870℃まで上昇してしまったためである。また、ArとH2の混合ガスの混合比を変化させて工具の耐久性を比較した。混合ガス流量が20sccmでも、H2を含有しない比較例66は、W改質相が形成されず、工具の耐久性が向上しなかった。これは、工具基材と硬質皮膜の界面で酸素や鉄等の不純物元素が多く観察されたことから、界面でのW改質相の形成を妨げられたものと考えられた。W改質相の形成にはH2添加が有効であることが分かった。またH2含有率が増加するに従ってT1値が大きくなる傾向を示し、H2添加がW改質相の形成を促進しているものと考えられる。しかしながら、安全性に配慮して、体積比で20%以下であることが好ましい。但し、特別な排気設備を有する場合はH2含有量が高いことがより短時間でW改質相を形成できる。更に、N2とH2の混合ガス流量の影響を比較するために、本発明例48〜52、比較例67の工具の耐久性を比較した。N2とH2の混合ガスの場合でも、ArとH2の混合ガスの場合同様にW改質相が形成され、工具の耐久性が向上した。
成膜前のクリーニング工程において、P1値(V)の影響を比較するために、本発明例53、54、比較例68〜70の工具の耐久性を比較した。P1値が−600Vを超える比較例68では、処理時間を延長させても、工具基材温度が800℃に到達せず、W改質相が形成しないため工具の耐久性を向上させることができなかった。一方、P1値が−1100V以下では、工具基材温度が870℃以上、T1値が400nm以上となり、切削中にW改質相から硬質皮膜が剥離し、工具の耐久性を向上させることができなかった。
成膜中のP2値(V)の影響を比較するために、本発明例60〜62、比較例75、76の工具の耐久性を比較した。P2値が−300〜−20Vの範囲では、工具の耐久性が向上した。一方、P2値が−10Vの比較例75は、工具摩耗の進行と剥離が同時に進行し、またP2値が−400Vの比較例76は特に剥離が多く認められ、工具の耐久性が向上しなかった。成膜時ターゲットC2にTiAlを用いて本発明例59を作成して工具の耐久性を比較した。AlとCrの窒化物の方がTiとAlの窒化物よりも、耐熱性、耐摩耗性に優れ、工具基材との密着強度にも優れていた。
図1は、本発明例1の皮膜界面の断面TEM写真を示す。 図2は、本発明例1の皮膜界面の断面TEM写真を示す。 図3は、図2の暗視野STEM写真を示す。 図4は、図3に示す炭化物相の電子線回折を示す。 図5は、図3に示す炭化物相の制限視野回折を示す。 図6は、炭化物相と窒化物層の界面近傍の断面TEM写真を示す。 図7は、本発明例1、比較例31、32のX線回折を示す。
符号の説明
1:工具基材
2:W改質相
3:炭化物相
4:硬質皮膜

Claims (7)

  1. WC基超硬合金を基材とし、
    該基材の表面結晶構造がbcc構造からなるW改質相を有し、
    該W改質相は、Ti、Zr、Hf、Nb及びTaから選択される1種以上の金属のイオン照射によって該基材のWCがWとCとの分解を経て形成されたWであり、
    該W改質相の直上にTi、Zr、Hf、Nb及びTaから選択される1種以上の金属の炭化物相を有し、該炭化物相の直上に硬質皮膜を有することを特徴とする被覆工具。
  2. 請求項1記載の被覆工具において、該W改質相の平均厚さをT1(nm)としたとき、10≦T1≦300、であることを特徴とする被覆工具。
  3. 請求項1又は2記載の被覆工具において、該W改質相はX線回折において(110)面に最大回折強度を有することを特徴とする被覆工具。
  4. 請求項1乃至3何れかに記載の被覆工具において、該W改質相のX線回折における(110)面、(200)面及び(210)面の回折強度をI(110)、I(200)及びI(210)、としたとき、I(200)/I(110)≧0.1又はI(210)/I(110)≧0.2、であることを特徴とする被覆工具。
  5. 請求項1乃至4何れかに記載の被覆工具において、該W改質相の格子定数(nm)が0.315から0.316、であることを特徴とする被覆工具。
  6. 請求項1乃至何れかに記載の被覆工具において、該硬質皮膜の少なくとも1層は、Ti、Cr、W、Nb、Y、Ce、Si及びら選択される1種以上の元素とAlとを含有する窒化物であることを特徴とする被覆工具。
  7. WC基超硬合金を基材とし、該基材の上に硬質皮膜を被覆した被覆工具の製造方法において
    アーク放電式蒸発源を配備した成膜装置を用いて、Ti、Zr、Hf、Nb及びTaから選択される1種以上の金属(陰極物質)のイオンボンバードメント処理を行う第1の工程と、
    該硬質皮膜を形成する第2の工程とからなり、
    該第1の工程において、該基材に負のバイアス電圧P1として−1000≦P1≦−600(V)を印加し、圧力0.01〜2Paで、水素ガスとAr又はN2との混合ガス(但し、該混合ガスの水素ガス体積比率が1から20%である。)を用いて、該アーク放電式蒸発源から陰極物質を蒸発させ、陰極物質から蒸発した金属イオンを該基材に照射し、もって該基材の表面温度を800〜860℃の範囲として、該基材表面結晶構造がbcc構造からなるW改質相を形成するとともに該W改質相の直上にTi、Zr、Hf、Nb及びTaから選択される1種以上の金属の炭化物相を形成し、
    該第2の工程において、該炭化物相の直上に該硬質皮膜を成膜することを特徴とする被覆工具の製造方法。
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