JP2019171482A - 表面被覆切削工具 - Google Patents

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Shun Sato
峻 佐藤
雄斗 菅原
Yuto SUGAWARA
雄斗 菅原
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Takuya Maekawa
拓哉 前川
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達貴 木下
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Abstract

【課題】Ni基耐熱合金の高速切削加工において、耐剥離性にすぐれるとともに、溶着、チッピング、欠損等の耐異常損傷性にすぐれた表面被覆切削工具を提供する。【解決手段】炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体に下部層と上部層が設けられた表面被覆切削工具であって、前記下部層は、工具基体表面からその内部へ所定深さにわたって形成されたW層と、該W層直上に形成された金属炭化物層と、該金属炭化物層直上に形成された金属炭窒化物層からなり、前記上部層は、A層とB層との交互積層構造からなり、A層は、(AlxTi1−x)Nで表される(Al,Ti)N層(但し、xは原子比で、0.40≦x≦0.70を満足する)、B層は、(Al1−a−b−cCraSibCuc)Nで表される(Al,Cr,Si,Cu)N層(但し、a、b、cは原子比で、0.15≦a≦0.40、0.05≦b≦0.20、0.005≦c≦0.05を満足する)。【選択図】 図1

Description

この発明は、Ni基耐熱合金の高速切削加工において、硬質被覆層が剥離等を発生することもなく、すぐれた耐チッピング性、耐欠損性と耐摩耗性を発揮し、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
一般に、被覆工具として、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップ、前記被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、前記被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるエンドミル、前記被削材の歯形の歯切加工などに用いられるソリッドホブ、ピニオンカッタなどが知られている。
そして、被覆工具の切削性能改善を目的として、従来から、数多くの提案がなされている。
例えば、特許文献1では、焼入れ鋼などの高硬度材の切削加工における硬質被覆層の耐チッピング性、耐摩耗性、を向上させた被覆工具として、
工具基体の表面に、組成式:(Al1−a−b−cCrSiCu)Nで表した場合、0.15≦a≦0.40、0.05≦b≦0.20、0.005≦c≦0.05(ただし、a、b、cはいずれも原子比)を満足するAlとCrとSiとCuの複合窒化物層を少なくとも含む硬質被覆層を設け、前記複合窒化物層の結晶構造は六方晶構造からなり、該複合窒化物層についてX線回折により求めた2θ=55〜65°の範囲に存在する(110)面の回折ピークの半値幅は1.0〜3.5°である被覆工具が提案されている。
また、前記複合窒化物層は、該層中に六方晶構造の結晶とともに立方晶構造の結晶を含有しても良く、その場合、立方晶(200)面の回折ピーク強度をc(200)、六方晶(110)面の回折ピーク強度をh(110)としたとき、ピーク強度比c(200)/h(110)<1であることが好ましいとされている。
また、特許文献2では、焼入れ鋼などの高硬度材の切削加工における耐剥離性、耐チッピング性、耐摩耗性を向上させた被覆工具として、工具基体表面に、下部層と上部層を設け、
下部層は、組成式:(Al1−α−βTiαSiβ)Nで表される(但し、α、βはいずれも原子比であり、0.30≦α≦0.50 、0.01≦β≦0.10を満足する)AlとTiとSiの複合窒化物層からなり、
上部層は、組成式:(Al1−a−b−cCrSiCu)Nで表される(但し、a、b、cはいずれも原子比であり、0.15≦a≦0.40、0.05≦b≦0.20、0.005≦c≦0.05を満足する)AlとCrとSiとCuの複合窒化物層からなり、
六方晶構造の上部層についてX線回折により求めた2θ=55〜65°の範囲に存在する(110)面の回折ピークの半値幅は1.0〜3.5°である被覆工具が提案されている。
さらに、前記下部層と上部層との間に、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる中間層を介在形成し、前記薄層Aは、
組成式:(Al1−a−b−cCrSiCu)Nで表される(但し、0.15≦a≦0.40、0.05≦b≦0.20、0.005≦c≦0.05を満足する)AlとCrとSiとCuの複合窒化物層とし、
前記薄層Bは、組成式:(Al1−α−βTiαSiβ)Nで表される(但し、0.30≦α≦0.50 、0.01≦β≦0.10を満足する)AlとTiとSiの複合窒化物層とすることが提案されている。
また、特許文献3では、焼入れ鋼などの高硬度鋼の強断続切削加工における硬質被覆層の耐クラック性と耐摩耗性を向上させた被覆工具として、立方晶窒化硼素焼結体からなる工具基体の表面に、A層とB層の二層または三層以上の交互積層構造からなる硬質被覆層を形成し、
前記A層は、組成式:(Ti1−xAl)Nで表した場合、0.4≦x≦0.7(ただし、xは原子比)を満足する平均組成を有し、
前記B層は、組成式:(Al1−a−b−cCrSiCu)Nで表した場合、0.15≦a≦0.40、0.05≦b≦0.20、0.005≦c≦0.05(ただし、a、b、cはいずれも原子比)を満足する平均組成を有し、
さらに、前記B層は、層厚方向に沿ってCr成分濃度が周期的に変化する組成変調構造を有する被覆工具が提案されている。
また、特許文献4には、皮膜と基材の密着強度を改善し、合金工具鋼(SKD11)の切削加工における耐剥離性と耐摩耗性の向上を目的とした、WC基超硬合金を基材とする被覆工具およびその製造方法が提案されている。
特許文献4の記載によれば、この被覆工具は、WC基超硬合金基材の表面に結晶構造がbcc構造からなるW改質相(好ましくは、その平均厚さは10〜300nm)を有し、該W改質相は、Ti、Zr、Hf、NbおよびTaから選択される1種以上の金属のイオン照射によって該基材のWCがWとCとの分解を経て形成されたWであり、該W改質相の直上にTi、Zr、Hf、NbおよびTaから選択される1種以上の金属の炭化物相を有し、該炭化物相の直上に硬質皮膜(この硬質皮膜は、好ましくは、少なくとも1層が、Ti、Cr、W、Nb、Y、Ce、SiおよびBから選択される1種以上の元素とAlとを含有する窒化物である)を有する。
そして、この被覆工具は、基材にイオンボンバードメント処理を行う第1の工程と、硬質皮膜を形成する第2の工程とで製造することができ、前記イオンボンバードメント処理を行う第1の工程は、基材に−1000〜−600(V)の負のバイアス電圧を印加し、圧力0.01〜2Paで、水素ガスとAr又はNとの混合ガス(但し、該混合ガスの水素ガス体積比率が1から20%である。)を用いて、アーク放電式蒸発源から陰極物質(Ti、Zr、Hf、NbおよびTaから選択される1種以上の金属)を蒸発させ、該陰極物質から蒸発した金属イオンを基材に照射し、もって基材の表面温度を800〜860℃の範囲として、基材の表面に結晶構造がbcc構造からなるW改質相を形成するとともに該W改質相の直上にTi、Zr、Hf、NbおよびTaから選択される1種以上の金属の炭化物相を形成し、さらに、該炭化物相の直上に硬質皮膜を形成するものであることが開示されている。
特開2017−080878号公報 特開2017−080879号公報 特開2017−154200号公報 特許第5098726号公報
近年の切削加工装置のFA化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工はますます高速化・高能率化する傾向にあるとともに、できるだけ多くの材種の被削材の切削加工が可能となるような汎用性のある切削工具が求められる傾向にある。
前記特許文献1〜3として示した従来の被覆工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の切削条件での切削加工に用いた場合には、特段の問題は生じないが、これを、例えば、インコネル718(登録商標)に代表されるNi基耐熱合金の高速ミーリング加工、高速ドリル加工に供した場合には、切刃に大きな熱的負荷、機械的負荷が作用するのにもかかわらず、工具基体と硬質被覆層の密着性が十分ではないため、剥離等の異常損傷が発生し、これを原因として、短時間で使用寿命に至るのが現状である。
また、特許文献4では、工具基体の表面に、水素ガスとAr又はNとの混合ガスを用い、金属イオンボンバード処理を行うことにより、基体の表面に結晶構造がbcc構造のW改質相と、該W改質相の直上にTi、Zr、Hf、NbおよびTaから選択される1種以上の金属の炭化物相を形成し、硬質被覆層と工具基体の密着性を高めるとされているが、特許文献4に具体的に開示されている(Al,Cr)N系の硬質被覆層あるいは(Ti,Si)N系の硬質被覆層では、Ni基耐熱合金の高速ミーリング加工、高速ドリル加工のような、切刃に対して大きな熱的負荷、機械的負荷がかかる切削加工では、硬質被覆層に溶着が発生しやすく、また、硬質被覆層の耐塑性変形性も十分でないため、溶着、チッピング、欠損等の異常損傷の発生を抑制することができず、摩耗進行も促進されることから、やはり、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、Ni基耐熱合金などの高速ミーリング加工、高速ドリル加工のような、高熱発生を伴い、しかも、切刃に対して大きな熱的負荷、機械的負荷が作用する切削加工条件下で、硬質被覆層がすぐれた耐剥離性および耐溶着性、耐チッピング性を有し、もって、長期の使用にわたって、すぐれた耐摩耗性を発揮する被覆工具を開発すべく、鋭意研究を行った結果、以下のような知見を得た。
本発明者らは、まず、前記特許文献1〜3に示されるような(Al,Cr,Si,Cu)N系の硬質被覆層を形成した被覆工具を、Ni基耐熱合金の高速切削加工に供するにあたり、硬質被覆層を(Al,Ti)N層と前記(Al,Cr,Si,Cu)N層の交互積層構造として形成するとともに、前記特許文献4の教示にしたがって、硬質被覆層と工具基体との間に、W改質相と該相の直上の金属炭化物相からなる下部層を形成することにより、硬質被覆層と工具基体との密着性改善を図り、また、剥離発生の防止を試みたが、前記の下部層を設けたとしても、前記硬質被覆層と工具基体との間の密着性改善効果は満足できるものではなく、その結果、剥離発生を抑制することはできず、工具寿命は依然として短命であった。
そこで、本発明者らは、前記下部層についてさらに研究を進めたところ、金属イオンボンバード処理条件を変更し、特許文献4に記載される下部層とは異なった層構造を有する下部層を形成し、該下部層を介して硬質被覆層を形成することによって、硬質被覆層と工具基体との間の密着性改善効果を格段に向上させることができること、その結果、Ni基耐熱合金の高速切削加工において、剥離の発生を抑制することができると同時に、溶着、チッピング、欠損等の異常損傷の発生を抑制することができるため、長期の使用にわたって、すぐれた耐摩耗性を発揮する被覆工具を得られることを見出したのである。
即ち、本発明者らは、工具基体に対する金属イオンボンバードとして、Ti、Cr、Zr、Hf、NbおよびTaから選択される何れか一種の金属をイオンボンバードするに際し、その処理雰囲気を1×10−3Pa以下の高真空とし、工具基体の処理温度を約750〜800℃と高くし、かつ、処理時間を長くする(例えば、30分以上60分以下)ことにより、前記特許文献4に記載される下部層とは異なる下部層、具体的には、W層と該層の直上に形成される金属炭化物層と、さらに、該金属炭化物層の直上に形成される金属炭窒化物層からなる下部層、を形成することにより、硬質被覆層と工具基体の密着性を高めることができることを見出したのである。
そして、このような下部層を、硬質被覆層と工具基体との間に介在形成することにより、高熱発生を伴い、しかも、切刃に対して大きな熱的負荷、機械的負荷がかかるNi基耐熱合金の高速切削加工において、剥離の発生を抑制し、さらに、溶着、チッピング、欠損等の異常損傷の発生を抑制し、長期の使用にわたって、すぐれた切削性能を発揮する被覆工具を得られることを見出したのである。
この発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体に下部層が設けられ、該下部層の表面に交互積層構造の上部層が設けられた表面被覆切削工具において、
(a)前記下部層は、W層と金属炭化物層と金属炭窒化物層とからなり、
(b)前記W層は、工具基体表面からその内部へ10〜500nmの深さにわたって形成され、
(c)前記金属炭化物層は、Ti、Cr、Zr、Hf、NbおよびTaから選択されるいずれか一種の金属炭化物層であって、5〜500nmの平均層厚を有し、前記W層の直上に形成され、
(d)前記金属炭窒化物層は、前記金属炭化物層に含有される金属成分を含む金属炭窒化物層であって、5〜300nmの平均層厚を有し、前記金属炭化物層の直上に形成され、
(e)前記上部層は、A層とB層が少なくとも1層ずつ交互に積層された交互積層構造からなり、1.0〜8.0μmの合計平均層厚を有し、
(f)前記A層は、0.1〜5.0μmの一層平均層厚を有するAlとTiの複合窒化物層であって、その組成を、
組成式:(AlTi1−x)Nで表した場合、
0.40≦x≦0.70(ただし、xは原子比)を満足する平均組成を有し、
(g)前記B層は、0.1〜5.0μmの一層平均層厚を有するAlとCrとSiとCuの複合窒化物層であって、その組成を、
組成式:(Al1−a−b−cCrSiCu)Nで表した場合、
0.15≦a≦0.40、0.05≦b≦0.20、0.005≦c≦0.05(ただし、a、b、cはいずれも原子比)を満足する平均組成を有することを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記B層は、六方晶構造の結晶構造を有し、該B層についてX線回折により求めた2θ=55〜65°の範囲に存在する(110)面の回折ピークの半値幅は1.0〜3.5°であることを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3)前記表面被覆切削工具が、表面被覆インサート、表面被覆エンドミル、表面被覆ドリルのいずれかであることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4)前記(1)乃至(3)のいずれかに記載される表面被覆切削工具からなるNi基耐熱合金高速切削加工用の表面被覆切削工具。」
を特徴とするものである。
つぎに、この発明の被覆工具について、詳細に説明する。
図1は、本発明被覆工具の概略縦断面模式図を示す。
図1に示すように、本発明の被覆工具は、炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体に、下部層および交互積層構造からなる上部層が形成されている。
ここで、前記下部層は、W層と金属炭化物層と金属炭窒化物層とからなるが、前記W層は、工具基体表面に形成されているのではなく、工具基体の表面からその内部に向かう10〜500nmの平均深さにわたって形成されている。
そして、前記W層の直上には、前記金属炭化物層が5〜500nmの平均層厚で形成され、さらに、前記金属炭化物層の直上には、前記金属炭窒化物層が5〜300nmの平均層厚で形成されている。
そして、W層と金属炭化物層と金属炭窒化物層とからなる前記下部層の表面には、A層とB層が少なくとも1層ずつ交互に積層された交互積層構造からなり、1.0〜8.0μmの合計平均層厚を有する上部層が形成されている。
図2は、前記した本発明の層構造を形成するためのアークイオンプレーティング(以下、「AIP」という)装置を示す(なお、金属イオンボンバード処理用の金属ターゲットについては図示していない)が、AIP装置の回転テーブルに配置された工具基体表面に対して、所定条件で金属イオンボンバードを行って、W層と金属炭化物層と金属炭窒化物層とからなる下部層を形成し、その後、A層とB層とを交互に積層して上部層を成膜し、本発明の層構造を有する表面被覆切削工具を作製することができる。
なお、B層の成膜に際し、図2に示される磁力発生源を作動させない場合には、立方晶構造のB層を形成することができるが、前記磁力発生源を作動させた場合には、六方晶構造主体のB層を形成することができる。
ここでいう六方晶構造主体のB層とは、B層の結晶構造が全て六方晶構造である場合と、B層中に立方晶構造の結晶がわずかに含有される場合の双方を含む。
なお、本発明のB層は、層中に立方晶構造の結晶がわずかに含有されていても、耐チッピング性、耐摩耗性等、被覆工具の工具特性に悪影響を及ぼすことはない。
下部層:
下部層を構成するW層、金属炭化物層のいずれも、後記する本発明の金属イオンボンバード処理によって形成される層である。
前記層のうち、W層および該W層直上の金属炭化物層は、金属イオンボンバード(照射)により、工具基体表面近傍のWCがWとCに分解され、それにより、工具基体表面から所定深さにまでW層が形成され、また、該W層の表面には、イオンボンバードされた金属とCとが反応して、金属炭化物層が生成する。
ここで、形成されるW層の平均厚さ(深さ)が10nm未満では、直上の金属炭化物層が十分に形成されず、硬質相との十分な密着強度が得られない。一方、その平均厚さが500nmを超えると、工具基体表面の脆化によって、硬質被覆層が剥離しやすくなることから、工具基体表面からその内部に向かって形成されるW層の平均厚さ(深さ)は、10〜500nm以下とする。より好ましくは20nm〜300nmである。
また、前記W層直上に形成される金属炭化物層は、前述したように、ボンバードされた金属イオンが、WCからWとCに分解されたCとの反応によって形成されるが、その平均層厚が、
5nm未満ではW層の厚さも薄くなりすぎて硬質層との密着性向上効果が少なく、一方、その平均層厚が500nmを超えると、結果としてW層の平均厚さ(深さ)が、500nmを超えるようになるため、工具基体表面の脆化を招く。したがって、W層直上に形成される金属炭化物層の平均層厚は5〜500nmとする。より好ましくは10nm〜300nmである。
また、前記金属炭化物層の表面に金属炭窒化物層が形成されるが、この金属炭窒化物層は、本発明の金属イオンボンバード処理の後、上部層を蒸着形成する際に形成される層である。高真空下で長時間(30〜60分)にわたって金属イオンボンバード処理し、前記W層と前記金属炭化物層が形成された後、さらに窒素雰囲気下で上部層を蒸着形成することで前記金属炭窒化物層を形成でき、前記金属炭化物層に含有される金属成分を含む金属炭窒化物層である。
そして、この金属炭窒化物層は、金属炭化物層との密着強度にすぐれると同時に、金属炭窒化物層の表面に形成される硬質層、特に、AlとTiの複合窒化物層からなるA層、との密着性にすぐれるため、高熱発生を伴い、しかも、切刃に対して大きな熱的負荷、機械的負荷がかかるNi基耐熱合金の高速切削加工における硬質層の剥離発生を抑制する。
しかしながら、金属炭窒化物層の平均層厚が5nm未満では上記の金属炭化物層およびA層との密着性が充分に発揮されず、また、その平均層厚が300nmを超えると、層内の歪が大きくなり、かえって密着力の低下を招く。したがって、金属炭窒化物層の平均層厚は5〜300nmとする。より好ましくは10〜200nmである。
下部層の形成:
より具体的に、前記下部層の形成方法の一例を述べれば、例えば、次のとおりである。
まず、工具基体をAIP装置内の回転テーブル上に自転可能に載置し、装置内を1×10−3Pa以下の高真空に保持し、工具基体の温度を約500℃に加熱し、ついで、工具基体の温度を約750〜800℃にまで高めて、この温度をボンバード処理中維持するようにし、ついで工具基体に約−1000Vのバイアス電圧を印加し、金属イオンボンバード用のターゲット(例えば、Tiターゲット)約100Aのアーク電流を流し、この処理を約30〜60分間継続することにより金属イオンボンバード処理を行い、工具基体表面からその内部に向かった所定の深さにW層を形成し、同時に、W層表面に所定厚さの金属炭化物層を形成し、さらに、上部層を蒸着形成する際に上部層と金属炭化物層間の拡散反応によって金属炭窒化物層を形成する。
前記方法によって、工具基体に、所定平均深さのW層、所定平均層厚の金属炭化物層、所定平均層厚の金属炭窒化物層からなる下部層を形成することができる。
なお、前記W層および金属炭化物層、金属炭窒化物層は工具基体上に層状に形成されることが望ましいが、例えばWC粒子上に優先的に島状に形成される場合もあり、この場合も基材と硬質被覆層の密着力改善の効果を得ることができる。
前記金属炭化物層を構成する金属の種類としては、Ti、Cr、Zr、Hf、NbおよびTaから選択されるいずれか一種の金属が好適であり、特に、Ti、Crが好ましい。
金属炭化物層を構成する前記の金属をイオンボンバードした際、前記の各金属は、Wよりも炭化物を形成しやすいため、工具基体表面近傍でWとCに分解したCと反応し、その結果、W層表面に金属炭化物層が形成されるからである。
また、金属炭窒化物層は、前記金属炭化物層に含有される金属成分を含む炭窒化物層であるが、金属炭窒化物層を構成する金属の種類としては、Al、Ti、Cr、Zr、Hf、NbおよびTaから選択される少なくとも一種以上の金属が好適であり、特に、Ti、Crが好ましい。
前記金属炭窒化物層が形成されることで、上部層との界面における格子の不整合が緩和されるため、上部層との密着強度が向上する。
なお、金属炭窒化物層の炭素と窒素の比は限定されるものではないが、好ましくは炭素と窒素の原子濃度の合計に対する窒素の原子濃度の割合が金属炭窒化物層内の平均で0.1〜0.9である。また、金属炭化物層を構成する金属と、金属炭窒化物層を構成する金属が、同種の金属(例えば、Ti炭化物層とTi炭窒化物層)であることによって、金属イオンボンバード処理と金属炭窒化物層形成処理を連続して行えるという利点がある。
しかし、同種の金属に限定されるものではなく、異種の金属であっても差し支えはない。
なお、本発明の金属イオンボンバード処理において、下部層を形成する際の反応過程で部分的にW粒子が層内に残留する場合があるが、その場合においても下部層の密着力向上効果は発揮される。
上部層:
前記下部層の上に形成される上部層は、A層とB層が少なくとも1層ずつ交互に積層された交互積層構造からなり、1.0〜8.0μmの合計平均層厚を有し、
A層は、0.1〜5.0μmの一層平均層厚を有するAlとTiの複合窒化物(以下、「(Al,Ti)N」で示す場合がある。)層であって、その組成を、
組成式:(AlTi1−x)Nで表した場合、
0.40≦x≦0.70(ただし、xは原子比)を満足する平均組成を有する。
また、B層は、0.1〜5.0μmの一層平均層厚を有するAlとCrとSiとCuの複合窒化物(以下、「(Al,Cr,Si,Cu)N」で示す場合がある。)層であって、その組成を、
組成式:(Al1−a−b−cCrSiCu)Nで表した場合、
0.15≦a≦0.40、0.05≦b≦0.20、0.005≦c≦0.05(ただし、a、b、cはいずれも原子比)を満足する平均組成を有する。
なお、前記A層に関する組成式におけるN/(Ti+Al+N)の値、また、前記B層に関する組成式におけるN/((Al+Cr+Si+Cu+N)の値は、必ずしも、化学量論比である0.5である必要はない。
工具基体表面の汚染の影響などで不可避的に検出される炭素や酸素などの元素をのぞいてTi、Al、Nの含有割合の原子比を定量し、また、Al、Cr、Si、Cu、Nの含有割合の原子比を定量し、N/(Ti+Al+N)の値あるいはN/((Al+Cr+Si+Cu+N)の値が、0.45以上0.65以下の範囲であれば、前記化学量論比が0.5であるA層あるいはB層と同等の効果が得られるため、特に問題はない。
上部層のA層を構成する(Al,Ti)N層:
(Al,Ti)N層からなる前記A層について、その一層平均層厚が0.1μm未満の場合には、耐摩耗性向上効果、耐欠損性向上効果が十分でなく、一方、一層平均層厚が5.0μmを超えると、A層の内部歪みが大きくなり自壊しやすくなるため、A層の一層平均層厚は0.1〜5.0μmとする。
また、A層の組成式:(AlTi1−x)Nにおいて、Alの平均組成を示すxの値が0.40未満の場合には、下部層の金属炭窒化物層とA層との密着強度、また、A層とB層の密着強度は高くなる反面、A層の高温硬さおよび高温耐酸化性が低下する。一方、xの値が0.70を超える場合には、六方晶構造の結晶粒が形成されやすくなり、A層の硬度が低下し十分な耐摩耗性を得ることができなくなる。
したがって、Alの平均組成を示すxの値は、0.40≦x≦0.70とする。
なお、A層におけるAl成分の平均組成xは、SEM−EDSを用いて、A層の縦断面の複数個所(例えば、5箇所)でAl成分量を測定し、その測定値を平均することによって求めることができる。
上部層のB層を構成する(Al,Cr,Si,Cu)N層:
上部層のB層を構成する(Al,Cr,Si,Cu)N層におけるAl成分には高温硬さ、同Cr成分には高温靭性、高温強度を向上させると共に、AlおよびCrが共存含有した状態で高温耐酸化性を向上させ、さらに同Si成分には耐熱塑性変形性を向上させる作用があり、また、Cu成分には、結晶粒の微細化を図ることによって耐摩耗性を向上させる作用がある。
しかし、前記(Al,Cr,Si,Cu)N層におけるAlとCrとSiとCuの合量に占めるCrの含有割合を示すa値(原子比)が0.15未満では、最低限必要とされる高温靭性、高温強度を確保することができないため、チッピング、欠損の発生を抑制することができず、一方、同a値が0.40を超えると、相対的なAl含有割合の減少により、摩耗進行が促進することから、a値を0.15〜0.40と定めた。
また、AlとCrとSiとCuの合量に占めるSiの含有割合を示すb値(原子比)が0.05未満では、耐熱塑性変形性の改善による耐摩耗性向上を期待することはできず、一方、同b値が0.20を超えると、耐摩耗性向上効果に低下傾向がみられるようになることから、b値を0.05〜0.20と定めた。
さらに、AlとCrとSiとCuの合量に占めるCuの含有割合を示すc値(原子比)が0.005未満では、より一層の耐摩耗性の向上を期待することができず、一方、同c値が0.05を超えると、アークイオンプレーティング(以下、「AIP」で示す。)装置によって(Al,Cr,Si,Cu)N層を成膜する際にパーティクルが発生しやすくなり、大きな機械的負荷がかかる切削加工における耐チッピング性が低下することから、c値を0.005〜0.05と定めた。
なお、上記a、b、cについて、望ましい範囲は、0.15≦a≦0.25、0.05≦b≦0.15、0.01≦c≦0.03である。
前記(Al,Cr,Si,Cu)N層からなるB層は、その一層平均層厚が0.1μm未満では、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮することはできず、一方、その一層平均層厚が5.0μmを超えると、チッピング、欠損を発生しやすくなるので、(Al,Cr,Si,Cu)N層からなるB層の一層平均層厚は、0.1〜5.0μmと定めた。
なお、B層におけるCr成分、Si成分およびCu成分のそれぞれの平均組成a、b、cは、SEM−EDSを用いて、B層の縦断面の複数個所(例えば、5箇所)で各成分量を測定し、その測定値を平均することによって求めることができる。
前記B層は、既述のように、立方晶構造の層として、あるいは、六方晶構造主体の層として成膜することができるが、六方晶構造主体の結晶粒からなる層として形成した場合、該層の縦断面について、X線回折を行うと、図3に示されるように、2θが55°から65°の範囲内に、(110)面からの六方晶構造特有の回折ピークが観察される。
そして、この回折ピークが尖鋭な場合、即ち、半値幅が1.0°未満である場合には、(Al,Cr,Si,Cu)N層の耐摩耗性が低下傾向を示し、一方、ピークがブロードであり、半値幅が3.5°より大きい場合には、(Al,Cr,Si,Cu)N層の耐チッピング性が低下傾向を示すことから、耐摩耗性と耐チッピング性の向上を図るためには、X線回折により測定した2θが55°から65°の範囲内に存在する(110)面からの回折ピークについての半値幅は、1.0°以上3.5°以下とすることが望ましい。
図2に示すAIP装置により、六方晶構造主体のB層を形成する場合には、例えば、磁力発生源を作動させ磁場中でB層の成膜を行い、かつ、ターゲット表面に印加する最大磁束密度を制御するとともに、バイアス電圧を制御することによって、六方晶構造主体の結晶粒からなるB層を形成することができる。
より具体的にいえば、例えば、B層形成用のAl−Cr−Si−Cuターゲット表面に印加する最大磁束密度は7〜15mT(ミリテスラ)、また、工具基体に印加するバイアス電圧を−75〜−150Vの範囲内で蒸着することによって、立方晶構造ではなく六方晶構造主体の結晶からなるB層を形成することができる。
そして、B層の結晶構造が、六方晶構造で構成されることによって、耐摩耗性の低下を招くことなく靭性を向上させることができ、その結果として、耐チッピング性をより向上させることができる。
上部層の合計平均層厚:
前述のとおり、A層の一層平均層厚およびB層の一層平均層厚は、それぞれ、0.1〜5.0μmとするが、A層とB層が少なくとも1層ずつ交互に積層された積層構造の上部層の合計平均層厚は、1.0〜8.0μmとする。
これは、上部層の合計平均層厚が1.0μm未満では、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮することができず、一方、合計平均層厚が8.0μmを超えると、上部層がチッピング、欠損、剥離等の異常損傷を発生しやすくなるからである。
なお、下部層の表面に、上部層を成膜する場合、A層と下部層の金属炭窒化物層層との密着強度は高く、また、A層とB層の密着強度も高いことから、下部層の金属炭窒化物層直上には、上部層のA層を設けることが望ましい。
本発明の被覆工具は、下部層と上部層を備え、該下部層は、工具基体表面からその内部の所定深さにわたって形成されるW層と、該W層の表面に形成される金属炭化物層と、該金属炭化物層の表面に形成される金属炭窒化物層からなり、前記上部層は、(Al,Ti)N層からなるA層と(Al,Cr,Si,Cu)N層からなるB層が少なくとも1層ずつ交互に積層された交互積層構造からなり、工具基体と上部層との間に介在形成された前記下部層によって、工具基体と上部層との密着強度が高められるとともに、前記上部層は、すぐれた耐チッピング性、耐欠損性、耐摩耗性を備えている。
したがって、本発明の被覆工具は、高熱発生を伴い、かつ、切刃に対して大きな熱的負荷、機械的負荷がかかるNi基耐熱合金の高速切削加工において、剥離の発生を抑制し、さらに、溶着、チッピング、欠損等の異常損傷の発生を抑制し、長期の使用にわたって、すぐれた切削性能を発揮する。
本発明被覆工具の概略縦断面模式図の一例を示す。 本発明被覆工具の上部層を形成するのに用いたアークイオンプレーティング装置(なお、金属イオンボンバード用の金属ターゲットについては図示せず)の一例を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略正面図である。 本発明被覆工具9のB層について測定したX線回折チャート(2θが55°から65°の範囲)を示す。
つぎに、この発明の被覆工具について、実施例を用いてより具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも0.5〜5μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にホーニング加工を施すことによりISO・CNMG120408に規定するインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(インサート)1〜4を製造した。
前記の工具基体(インサート)1〜4に対して、以下の工程(但し、いずれの場合もAIP装置の磁力発生源は作動させない)で下部層と上部層を形成し、本発明の表面被覆インサート1〜5(以下、本発明工具1〜5という)をそれぞれ製造した。
工程(a):
上記の工具基体1〜4のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図2に示すAIP装置の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、AIP装置の一方に所定組成のAl−Ti合金からなるターゲット(カソード電極)を、他方側に所定組成のAl−Cr−Si−Cu合金からなるターゲット(カソード電極)を配置し、
工程(b):
まず、装置内を排気して真空(1×10−3Pa以下)に保持しながら、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体を、約500℃から表2に示す所定の温度(ボンバード処理中の工具基体温度)にまでヒータで順次加熱し、同じく表2に示すバイアス電圧を工具基体に印加し、工具基体と金属イオンボンバード用ターゲット(例えば、Ti)との間に同じく表2に示すアーク電流を流し、同じく表2に示す処理時間、工具基体に金属イオンボンバード処理を施すことにより表4に示す下部層を形成し、
工程(c):
ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して表3に示す窒素分圧とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体の温度を表3に示す温度範囲内に維持するとともに、表3に示す直流バイアス電圧を印加し、かつ前記Al−Ti合金ターゲットとアノード電極との間に150Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表4に示される組成および一層平均層厚のA層を蒸着形成し、
工程(d):
ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して表3に示す窒素分圧とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体の温度を表3に示す温度範囲内に維持するとともに表3に示す直流バイアス電圧を印加し、かつ前記Al−Cr−Si−Cu合金ターゲットとアノード電極との間に150Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、表4に示される組成および一層平均層厚のB層を蒸着形成した。
工程(e):
ついで、前記(c)と(d)を、上部層の合計平均層厚になるまで繰り返し行った。
上記工程(a)〜(e)により、表4に示す本発明工具1〜5をそれぞれ製造した。
実施例1では、前記工程(d)において、磁力発生源を作動させずに立方晶構造のB層を成膜した。
しかし、実施例2として、磁力発生源を作動させることにより、上部層のB層として、六方晶構造主体のB層を成膜することにより、表4に示す本発明の表面被覆インサート6〜10(以下、本発明工具6〜10という)をそれぞれ製造した。
具体的には、実施例2の工程は、実施例1の前記工程(a)〜(c)、(e)と同じであるが、実施例1の前記工程(d)を、以下の工程(d’)のとおりとした。
工程(d’):
ついで、Al−Cr−Si−Cu合金ターゲットの表面に表3に示す種々の最大磁束密度に制御した磁場を印加し、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して表3に示す窒素分圧とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体の温度を表3に示す温度範囲内に維持するとともに表3に示す直流バイアス電圧を印加し、かつ前記Al−Cr−Si−Cu合金ターゲットとアノード電極との間に150Aの電流を流してアーク放電を発生させ、工具基体の表面に、表4に示される組成および一層平均層厚のB層を蒸着形成した。
即ち、実施例1における工程(d)を、上記の工程(d’)に変更することにより、上部層のB層として、六方晶構造主体のB層を備えた表4に示す本発明工具6〜10をそれぞれ製造した。
比較例:
比較の目的で、実施例1で作製したWC基超硬合金製の工具基体(インサート)1〜4のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図2に示すAIP装置の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、実施例1とは、ボンバード処理条件を変更した以外、実施例1と同様な方法で、表7に示す比較例の表面被覆インサート1〜6(以下、比較例工具1〜6という)をそれぞれ製造した。
具体的に言えば、次のとおりである。
比較例工具1〜3については、表5の比較例条件1〜3に示されるように、AIP装置内を表5に示す炉内雰囲気、炉内圧力に維持しながら、ヒータで工具基体を表5に示す温度に加熱した後、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に表5に示す直流バイアス電圧を印加し、かつ、金属イオンボンバード用ターゲットとアノード電極との間に表5に示すアーク電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード処理した。
また、比較例工具4〜6については、表5の比較例条件4〜6に示されるようなボンバード処理を行ったが、比較例条件4〜6の処理は、前記特許文献4に開示される範囲内の条件である。例えば、前記特許文献4には、工具基体に−1000〜−600(V)の負のバイアス電圧を印加し、圧力0.01〜2Paで、水素ガスとAr又はNとの混合ガス(但し、該混合ガスの水素ガス体積比率が1から20%である。)を用いて、アーク放電式蒸発源から陰極物質(Ti、Zr、Hf、NbおよびTaから選択される1種以上の金属)を蒸発させ、該陰極物質から蒸発した金属イオンを基材に照射し、もって基材の表面温度を800〜860℃の範囲とすることがボンバード処理として開示されている。
また、比較例工具1〜3および比較例工具4〜6のボンバード処理後の、上部層の成膜条件は、表6に示すとおりである。
上記で作製した本発明工具1〜10および比較例工具1〜6について、収束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)を用いて縦断面を切り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いたエネルギー分散型X線分析法(EDS)、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)や電子線マイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)を用いた断面測定により、上部層のA層、B層の成分組成、各層厚を5箇所測定し、その平均値から平均組成および平均層厚を算出した。
下部層のW層、金属炭化物層および金属炭窒化物層においても、上部層と同様の分析手法を用いた断面の平均測定より、各層の同定ならびに各層厚を算出した。下部層の各層の層厚を求める手法を具体的に述べれば次の通りである。まず、工具の縦断面における顕微鏡像および組成マッピング像から下部層の各層の領域を決定し、各領域内で点分析あるいはエリア分析を行うことで、各層の平均組成を求める。次に工具の縦断面に対して、基体表面の法線方向に対する組成の線分析を行い、隣り合う各層の平均組成における炭素原子の原子数濃度の平均値を、その隣り合う層の境界と決定し、境界間の距離を各層の層厚とする。この測定を工具の縦断面において5箇所で繰り返し、その平均値を下部層の各層の平均層厚とした。
さらに、上記で作製した本発明工具1〜10および比較例工具1〜6について、B層のX線回折を行い、六方晶構造を示す2θ=55〜65°の範囲内に現れる(110)面のピーク強度の半値幅を測定した。
なお、X線回折は、X線回折装置としてスペクトリス社PANalytical Empyreanを用いて、CuKα線による2θ‐θ法で測定し、測定条件として、測定範囲(2θ):30〜80度、X線出力:45kV、40mA、発散スリット:0.5度、スキャンステップ:0.013度、1ステップ辺り測定時間:0.48sec/stepという条件で測定した。表4、表7に、測定・算出したそれぞれの値を示す。
なお、図3は、本発明工具9についてのX線回折チャート(2θが55°から65°の範囲)である。
Figure 2019171482
Figure 2019171482
Figure 2019171482
Figure 2019171482
Figure 2019171482
Figure 2019171482
Figure 2019171482
つぎに、上記本発明工具1〜10および比較例工具1〜6について、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、下記の条件(切削条件1という)によるNi基耐熱合金の湿式連続切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
<切削条件1>
被削材:Ni基耐熱合金(Cr19質量%−Fe19質量%−Mo3質量%−Ti0.9質量%−Al0.5質量%−Ni残部)の丸棒、
切削速度:100 m/min.、
切り込み:0.5 mm、
送り:0.15 mm/rev.、
切削時間:10 分、
切削油:水溶性クーラント
表8に、その結果を示す。
Figure 2019171482
表1に示される配合組成の原料粉末を、実施例1に示す条件で焼結して、直径が10mmの工具基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記丸棒焼結体から、研削加工にて、切刃部の直径×長さが6mm×12mmの寸法で、ねじれ角30度の4枚刃スクエア形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(エンドミル)1〜4をそれぞれ製造した。
次いで、前記の工具基体(エンドミル)1〜4ついて、AIP装置を用いて、実施例1の工程(a)〜(e)と同様な工程で、表9に示す本発明の表面被覆エンドミル11〜15(以下、本発明工具11〜15という)を製造した。
また、AIP装置の磁力発生源を作動させることにより、実施例1の工程(d)を工程(d’)に変更し、上部層のB層として、六方晶構造主体のB層が成膜した表9に示される本発明の表面被覆エンドミル16〜20(以下、本発明工具16〜20という)をそれぞれ製造した。
上記で作製した本発明工具11〜20について、実施例1と同様な方法で、下部層のW層、金属炭化物層および金属炭窒化物層の同定ならびに各層厚を算出した。上部層のA層、B層においても、各成分の平均組成、平均層厚を算出し、B層の六方晶構造を示す2θ=55〜65°の範囲内に現れる(110)面のピーク強度の半値幅を測定、算出した。
表9に、測定・算出したそれぞれの値を示す。
Figure 2019171482
つぎに、上記本発明工具11〜20のエンドミルについて、下記の条件(切削条件2という)によるNi基耐熱合金の側面切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
<切削条件2>
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのNi基耐熱合金(Cr19質量%−Fe19質量%−Mo3質量%−Ti0.9質量%−Al0.5質量%−Ni残部)の板材、
切削速度:40 m/min、
回転速度:2100 min.−1
切り込み:ae 0.3 mm、ap 6 mm、
送り速度(1刃当り):0.03 mm/tooth、
切削長:10 m、
表10に、切削試験結果を示す。
Figure 2019171482
上記の実施例3で製造した直径が10mmの丸棒焼結体を用い、この丸棒焼結体から、研削加工にて、溝形成部の直径×長さが6mm×30mmの寸法、並びにいずれもねじれ角30度の2枚刃形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(ドリル)を製造した。
ついで、この工具基体(ドリル)の切刃に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した。
ついで、AIP装置(但し、磁力発生源は作動させず)に装入し、前記実施例1と同一の条件で、表11に示される下部層、上部層を備える本発明の表面被覆ドリル21〜25(以下、本発明工具21〜25という)を製造した。
また、上記工具基体(ドリル)の切刃に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した後、実施例1の工程(d)を工程(d’)に変更し、上部層のB層として、六方晶構造主体のB層が成膜された表11に示される本発明の表面被覆ドリル26〜30(以下、本発明工具26〜30という)をそれぞれ製造した。
上記で作製した本発明工具21〜30について、実施例1と同様な方法で、下部層のW層、金属炭化物層および金属炭窒化物層の同定ならびに各層厚を算出した。上部層のA層、B層においても、各成分の平均組成、平均層厚を算出し、B層の六方晶構造を示す2θ=55〜65°の範囲内に現れる(110)面のピーク強度の半値幅を測定、算出した。
表11に、測定・算出したそれぞれの値を示す。
Figure 2019171482
つぎに、上記本発明工具21〜30について、下記の条件(切削条件3という)によるNi基耐熱合金の湿式穴あけ切削加工試験を実施し、穴あけ加工数を30穴とした時の切れ刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
<切削条件3>
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのNi基耐熱合金(Cr19質量%−Fe19質量%−Mo3質量%−Ti0.9質量%−Al0.5質量%−Ni残部)の板材、
切削速度:13.7 m/min.、
送り:0.06 mm/rev、
穴深さ:12 mm、
表12に、切削試験結果を示す。
Figure 2019171482
表8、表10、表12に示される結果から、本発明工具1〜30は、高熱発生を伴い、かつ、切刃に対して大きな熱的負荷、機械的負荷がかかるNi基耐熱合金の高速切削加工において、剥離の発生はなく、さらに、溶着、チッピング、欠損等の異常損傷の発生もなく、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮することがわかる。
これに対して、比較例工具1〜6は、切刃に作用する切削加工時の熱的負荷、機械的負荷により、剥離、チッピング、欠損等を発生し、しかも、寿命は短命であった。
上述のように、この発明の被覆工具は、Ni基耐熱合金の高速切削加工に供した場合に長期に亘ってすぐれた切削性能を示すが、Ni基耐熱合金以外にも、Co基耐熱合金、Fe基耐熱合金等の高速切削加工にも適用することが可能であって、汎用性のある切削工具であるといえる。

Claims (4)

  1. 炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体に下部層が設けられ、該下部層の表面に交互積層構造の上部層が設けられた表面被覆切削工具において、
    (a)前記下部層は、W層と金属炭化物層と金属炭窒化物層とからなり、
    (b)前記W層は、工具基体表面からその内部へ10〜500nmの平均深さにわたって形成され、
    (c)前記金属炭化物層は、Ti、Cr、Zr、Hf、NbおよびTaから選択されるいずれか一種の金属炭化物層であって、5〜500nmの平均層厚を有し、前記W層の直上に形成され、
    (d)前記金属炭窒化物層は、前記金属炭化物層に含有される金属成分を含む金属炭窒化物層であって、5〜300nmの平均層厚を有し、前記金属炭化物層の直上に形成され、
    (e)前記上部層は、A層とB層が少なくとも1層ずつ交互に積層された交互積層構造からなり、1.0〜8.0μmの合計平均層厚を有し、
    (f)前記A層は、0.1〜5.0μmの一層平均層厚を有するAlとTiの複合窒化物層であって、その組成を、
    組成式:(AlTi1−x)Nで表した場合、
    0.40≦x≦0.70(ただし、xは原子比)を満足する平均組成を有し、
    (g)前記B層は、0.1〜5.0μmの一層平均層厚を有するAlとCrとSiとCuの複合窒化物層であって、その組成を、
    組成式:(Al1−a−b−cCrSiCu)Nで表した場合、
    0.15≦a≦0.40、0.05≦b≦0.20、0.005≦c≦0.05(ただし、a、b、cはいずれも原子比)を満足する平均組成を有することを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 前記B層は、六方晶構造の結晶構造を有し、該B層についてX線回折により求めた2θ=55〜65°の範囲に存在する(110)面の回折ピークの半値幅は1.0〜3.5°であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  3. 前記表面被覆切削工具が、表面被覆インサート、表面被覆エンドミル、表面被覆ドリルのいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
  4. 請求項1乃至3のいずれか一項に記載される表面被覆切削工具からなるNi基耐熱合金高速切削加工用の表面被覆切削工具。

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