JP5093578B2 - 受容体型プロテインチロシンホスファターゼPtprzによるErbB4シグナルの抑制 - Google Patents

受容体型プロテインチロシンホスファターゼPtprzによるErbB4シグナルの抑制 Download PDF

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本発明は、Ptprzを発現しうる組換えベクターを含むErbB4の脱リン酸化剤、ErbB4の過剰発現、あるいは過剰活性化に起因する疾病の予防・治療剤、及びPtprzアゴニスト・アンタゴニストのスクリーニング方法等に関する。
細胞内蛋白質のチロシン残基のリン酸化修飾は、細胞の増殖・分化・移動等や様々な細胞活動の制御に関わっている。リン酸化は、タンパク質中の特定のチロシン残基にリン酸基を付加するプロテインチロシンキナーゼ(PTK)と、これを除去するプロテインチロシンホスファターゼ(PTP)によって、可逆的に制御されている。そして、細胞内蛋白質のチロシン残基のリン酸化修飾は、細胞の増殖・分化・移動等や様々な細胞活動の制御に関わっており、リン酸化制御の破綻は、ガン化などの異常な細胞増殖の原因として広く認識されるとともに、神経細胞及びグリア細胞における異常は精神性疾患の原因として報告されている。ヒトゲノム中に同定されているPTK及びPTP遺伝子は数百を超えており、それぞれ特有の細胞機能に関与していると考えられる。
上記のPTPの中でも、受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)は細胞膜に発現しており、ヒトにおいては8種のサブファミリーに分類される21種の分子で構成されている(非特許文献1,2参照)。殆どのRPTPには、細胞質側にタンデムなPTPドメインが2個存在し、その触媒活性は、細胞膜に近い第1PTPドメイン(PTP−D1)に保持されている。細胞膜から遠位に位置する第2PTPドメイン(PTP−D2)の機能については殆ど解明されていないが、D2ドメインの構造的完全性は、RPTPの活性及び安定性に重要であるとされている(非特許文献1,2参照)。
受容体型プロテインチロシンホスファターゼZ(Ptprz、或いはPTPζ又はRPTPβとも呼ばれる)は、主として中枢神経系で発現するRPTPだが(非特許文献3参照)、胃などの末梢組織にも発現している(非特許文献4参照)。Ptprzには、Ptprz−A及びPtprz−Bの2種類の受容体アイソフォームがある。このうち、Ptprz−Bは、A型に比べ、細胞外領域に欠失がある(図1参照)。21種のRPTP(非特許文献1,2参照)のうち、R5サブファミリーに属するPtprz/PTPζとPtprg/PTPγだけが、そのカルボキシル末端に一般的なPDZドメイン結合モチーフ(−S−L−V)を有している(非特許文献5参照)。
本発明者らは、Ptprzのカルボキシル末端が、シナプス可塑性に関与する主要なシナプス足場タンパク質であるPSD95の第2PDZドメインに結合することを既に報告している(非特許文献6参照)。成獣ラット脳では、Ptprz及びPSD95のいずれも海馬及び大脳新皮質の錐体神経細胞の樹状突起に分布し、シナプス後肥厚部(PSD)画分に豊富に認められる。本発明者らはPtprzが、PSD95ファミリー以外にも、膜関連グアニル酸キナーゼ(membrane associated guanylate kinase)WWドメイン及びPDZドメイン含有タンパク質−1/3(MAGI−1/−3)、Veli−3、シナプトジャニン2結合タンパク質(Synj2bp:synaptojanin 2 binding protein)、酸性シントロフィン1及び塩基性シントロフィン1(Snta1及びSntb1:syntrophin acidic 1 and basic 1)、並びにマルチプルPDZタンパク質1(Mupp1:multiple PDZ protein 1)等、別のPDZドメイン含有タンパク質とも相互作用することを明らかにしている。
本発明者らは最近、PTP基質をスクリーニングする遺伝子法を報告し、「酵母基質トラッピング法(非特許文献7,8参照)」と命名した。この方法は、酵母ツーハイブリッドシステムを基本としているが、プレイ(prey)タンパク質をチロシンリン酸化するためにPTKを誘導的に発現させることと、基質−トラップPTP変異体(非特許文献9参照)をベイト(bait)としてスクリーニングを行うという2つの主要な変更を加えている。この方法によって本発明者らは、Gタンパク質共役受容体相互作用因子1(Git1:G protein-coupled receptor kinase-interactor1)、p190 RhoGAP、ゴルジ関連PDZ及びコイルドコイルモチーフ含有タンパク質(GOPC/PIST:golgi-associated PDZ and coiled-coil motif containing)、及びMAGI−1等の、Ptprzに対する基質をいくつか同定した(非特許文献7,8参照)。他方、別のグループは、β−カテニン(非特許文献10参照)及びナトリウムチャネルαサブユニット(非特許文献11参照)もまた基質であることを報告した。上記β−カテニンは上皮細胞のMAGI−1の第5PDZドメインと相互作用することが知られており(非特許文献12参照)、Ptprz及びβ−カテニンがMAGI−1足場タンパク質上に安定な酵素−基質複合体を形成することが示唆される。同様に、シントロフィンの第1プレックストリンホモロジー(PH:pleckstrinhomology)ドメイン及びシントロフィンユニーク(SU:syntrophin-unique)ドメインがナトリウムチャネルと相互作用し(非特許文献13参照)、シントロフィンのPDZドメインがPtprzと相互作用することから(非特許文献7参照)、ナトリウムチャネルとPtprzの相互作用は神経細胞のシントロフィンに介されると推測される。
本発明者らは以前、Ptprzのカルボキシル末端(−S−L−V)が、興奮性シナプスの後肥厚部(PSD)において最もよく特徴付けられている構成要素である(非特許文献18参照)PSD95の2番目のPDZドメインと関連していることを発見した(非特許文献6参照)。一方、ErbB4は、PSD95に結合することによって興奮性シナプスのPSDに集積する受容体型チロシンキナーゼであることが知られている(非特許文献15参照)。ErbB4もまた、PSD95の1番目及び2番目のPDZドメインとErbB4のカルボキシル末端尾部(−T−V−V)を通して結合することが報告されている(非特許文献17参照)。ErbB4の細胞質部分は、リガンドに誘導された二量化によって複数箇所でチロシン自己リン酸化される調節配列に隣接する、保存されたチロシンキナーゼドメインを有する(非特許文献14参照)。PSD95がアミノ末端“head to head”相互作用によって多量体を形成し(非特許文献22参照)、そのことでPSDに多くのシグナリング分子を凝集させることが報告されている。こうした凝集は、リガンド刺激なしにErbB4の二量化と自己リン酸化を誘導すると考えられる。EGFRの細胞内領域(ICR)全体もまた、様々な因子によって誘導される凝集によって活性化する(非特許文献19,20参照)。さらに最近の研究は、ErbB4と同じファミリーに属する上皮成長因子受容体(EGFR/ErbB1)キナーゼが、非対称二量体の形成によりその局所濃度が上昇することで、活性化しうると示唆している(非特許文献21参照)。その他、本発明者らは、Ptprzノックアウトマウスを作製しており(非特許文献16参照)、また、培養細胞において、全長を有するPtprz−Bがオリゴマー化によって不活性化されることを示した(非特許文献23参照)。
他方、細胞膜上に発現する受容体型のチロシンキナーゼ(Receptor tyrosine kinase, RTK)に属する(ErbB/EGFR)サブファミリーは、既に癌などの重篤な疾病の分子標的創薬の主要ターゲットになっている(例えば、特許文献1〜3参照)。ErbBファミリーの1つHer2(ErbB2)に対する抗体医薬トラスツズマブ(Trastuzumab)/ハーセプチンは、Her2陽性の乳ガン治療に優れた治療成果を挙げている。しかし肺ガン治療に有用なEGFRの選択阻害剤ゲフィチニブ(Gefitinib)/イレッサでは、間質性肺炎を中心とした副作用によって多くの死亡例が報告されるなど、元々生体に必須の生理作用をもつRTKを直接阻害する医薬品の高い副作用リスクは問題視されている。
特表2006−508336号公報 特表2003−508447号公報 特表2003−503366号公報 Mol. Cell. Biol. 21, 2001, 7117-7136 Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 7, 2006, 833-846 J. Biochem. 123, 1998, 458-467 Nat. Genet. 33, 2003, 375-381 Genome Res. 16, 2006, 1056-1072 Brain Res. Mol. Brain Res. 72, 1999, 47-54 Methods 35, 2005, 54-63 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 2001, 6593-6598 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 1997, 1680-1685 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 2000, 2603-2608 Nat. Neurosci. 3, 2000, 437-444 Biochem. Biophys. Res. Commun. 270, 2000, 903-909 J. Neurosci. 18, 1998, 128-137 Trends Cell Biol. 16, 2006, 649-656 Nature 366, 1993, 473-475 Neurosci. Lett. 247, 1998, 135-138 Neuron 26, 2000, 443-455 Nat. Rev. Neurosci. 5, 2004, 771-781 J. Biol. Chem. 264, 1989, 11346-11353 Biochemistry 32, 1993, 8742-8748 Cell 125, 2006, 1137-1149 Neuroscience 127, 2004, 91-100 FEBS Lett. 580, 2006, 4051-4056
本発明の課題は、ErbB4の脱リン酸化剤、ErbB4の過剰発現、あるいは過剰活性化に起因する疾病の予防・治療剤、及びPtprzアゴニスト・アンタゴニストのスクリーニング方法等を提供することにある。
本発明者らは、Ptprzについての生体内での役割の研究を進める過程で、RPTPは、少なくとも二つの異なる形態によって基質と選択的に相互作用していると考えた。一つは、酵母基質トラッピング系による検出が可能であるPTP−D1ドメインとチロシンリン酸化された基質分子との直接相互作用に基づく形態であり、もう一つは、PDZタンパク質等の足場タンパク質の助けを借りることにより、いくつかの分子が特異的基質となることができる間接的な形態である。本発明者らは、間接的相互作用によるPtprzに対する新たな基質を同定するため、成獣ラット大脳のシナプトソーム画分から得たPtprzのカルボキシル末端領域を用いたプルダウン実験を行ったところ、Ptprzに対する基質が含まれている可能性がある一連の分子をPSD95と共に同定することに成功した。これら分子のうち、本発明ではErbB4に着目した。ErbB4は、RTKのErbB受容体ファミリーのメンバーであり、ニューレグリン(NRG)及び他の成長因子によって活性化する。以下に述べるように、ErbB4がPtprzに対する新規な基質であることを確認し、本発明を完成した。
上記のように、本発明者らは、成獣ラットシナプトソーム由来のPSD95を含むタンパク質複合体において、ErbB4及びPtprzを同定した。ここで、PSD95はErbB4とPtprzとの相互作用のための足場タンパク質であると考えた。また、ErbB4のチロシンリン酸化は、野生型マウスと比較して成獣Ptprz欠損マウスの大脳シナプトソーム画分において増加した。これらの結果は全て、ErbB4がPtprzの新規基質であることを示している。
また、32P標識化ErbB4ICRに対するPtprzICRの脱リン酸化活性は、インビトロでPSD95に影響されなかったことから、Ptprzのホスファターゼ活性はPSD95への結合に影響されないことが明らかとなった。インビボ状態においても、カルボキシ末端尾部を通したPtprzのPSD95への結合は、ErbB4に対するPtprzの脱リン酸化活性を維持するようである。したがってPtprzは、PSD95による過剰活性化の抑制を通して、ErbB4シグナリングの調節物質として機能すると思われる。これは、PSDにおいて、リガンド(NRG)による刺激を通してErbB4シグナリング経路を調節する重要な機構であると考えられる。
また、32P標識化ErbB4ICRに対するPtprzICRの脱リン酸化活性は、インビトロでPSD95に影響されなかったことから、Ptprzのホスファターゼ活性はPSD95への結合に影響されないことが明らかとなった。インビボ状態においても、Ptprzのカルボキシ末端尾部を介したPSD95との結合は、ErbB4に対するPtprzの脱リン酸化活性を維持するようである。したがってPtprzは、PSD95による過剰活性化の抑制を通して、ErbB4シグナリングの調節物質として機能すると思われる。これは、PSDにおいて、リガンド(NRG)による刺激を通してErbB4シグナリング経路を調節する重要な機構であると考えられる。
本発明者らは、ErbB4のチロシンリン酸化レベルが、成獣Ptprz欠損マウスの大脳シナプトソーム画分において常に亢進していることを見い出した脳の興奮性シナプスのPSDにおいて、ErbB4は、NMDA受容体と共にPSD95と結合している(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 2000, 3596-3601)。近年の研究のいくつかは、NRG−ErbB4シグナリングがシナプス可塑性の維持及び/又は調節において機能的に重要であるということを示している。本発明者らは、Ptprz欠損マウスが、年齢依存的に空間学習能力を低下させ、また海馬CA1領域におけるLTPに異常な亢進がおこること(J. Neurosci. 25, 2005, 1081-1088)また海馬依存性恐怖学習の障害(Neurosci. Lett. 399, 2006, 33-38)を示すことを明らかにした。NRG1及びその受容体であるErbB4は、統合失調症の病因と関連があるとされている(Am. J. Med. Genet. B Neuropsychiatr. Genet. 141, 2006, 96-101;Nat. Med. 12, 2006, 824-828)。近年の研究は、NRG1‐ErbB4シグナリングの亢進がこの疾患のNMDA機能不全の一因であることを示唆している(Mol. Biol. Cell 12, 2001, 615-627)。本発明は、NRG1に誘導されたErbB4活性の実質的亢進が、その分子機構は解明されていないとはいえ、統合失調症患者死後脳前頭前野におけるErbB4‐PSD95間相互作用の亢進に依存することを示している。本発明は、Ptprzの活性又は発現レベルの減少が、こうした精神疾患におけるErbB4シグナリングを亢進させる一因であることを示唆している。
R5サブファミリー(Ptprz及びPtprg)のみにおいて、一般的なPDZ結合配列が存在するRPTPファミリーとは対照的に、RTKファミリーの多くが、PDZ含有タンパク質にそのカルボキシ末端又は細胞内領域を介して結合する。Ptprzのカルボキシ末端の‐S‐L‐Vモチーフは、様々なPDZタンパク質と相互作用可能であるので、Ptprz(及びPtprg)は、異なるPDZ含有タンパク質との結合を介して他のRTKを調節している可能性が考えられる。実際に本発明者らは、培養細胞において、GIPCのPDZドメインに結合するTrk受容体チロシンキナーゼファミリーである(Mol. Biol. Cell 12, 2001, 615-627)TrkAのチロシンリン酸化が、Ptprzの共発現によって効果的に減少することを見い出している。
すなわち本発明は、(1)ヒトPtprz遺伝子を含むヒトErbB4の脱リン酸化剤や、(2)ヒトPtprzを発現しうる組換えベクターを含むヒトErbB4の脱リン酸化剤に関する。
また本発明は、(3)ヒトPtprz遺伝子を含む、ヒトErbB4の過剰発現、あるいは過剰活性化に起因する疾病の予防・治療剤や、(4)ヒトPtprzを発現しうる組換えベクターを含む、ヒトErbB4の過剰発現、あるいは過剰活性化に起因する疾病の予防・治療剤に関する。
さらに本発明は、(5)リン酸化したErbB4を基質として、被検物質の存在下にPtprzをインビトロで作用させ、ErbB4の脱リン酸化の程度を測定し、被検物質の非存在下の場合と比較して、脱リン酸化の程度が大きくなるときに、前記被検物質をPtprzによる脱リン酸化促進物質と評価することを特徴とするPtprzによる脱リン酸化促進物質のスクリーニング方法や、(6)リン酸化したErbB4を基質として、被検物質の存在下にPtprzをインビトロで作用させ、ErbB4の脱リン酸化の程度を測定し、被検物質の非存在下の場合と比較して、脱リン酸化の程度が小さくなるときに、前記被検物質をPtprzによる脱リン酸化抑制物質と評価することを特徴とするPtprzによる脱リン酸化抑制物質のスクリーニング方法や、(7)Ptprz遺伝子欠損マウス、及び野生型マウスに被検物質を投与し、シナプトソーム画分中のErbB4のリン酸化の程度を測定し、野生型マウスとPtprz遺伝子欠損マウスとにおけるErbB4のリン酸化の程度の差が、被検物質の非投与の場合と比較して小さくなるときに、前記被検物質をPtprzアゴニストと評価することを特徴とするPtprzによる脱リン酸化促進物質のスクリーニング方法や、(8)Ptprz遺伝子欠損マウス、及び野生型マウスに被検物質を投与し、シナプトソーム画分中のErbB4のリン酸化の程度を測定し、野生型マウスとPtprz遺伝子欠損マウスとにおけるErbB4のリン酸化の程度の差が、被検物質の非投与の場合と比較して大きくなるときに、前記被検物質をPtprzアンタゴニストと評価することを特徴とするPtprzによる脱リン酸化抑制物質のスクリーニング方法に関する。
ErbBファミリーは、発癌や統合失調症などに対する治療薬開発の重要な分子標的である。ErbBの異常なリン酸化を、生体が元々持っているPTPの活性機能を高めることによって正常状態に戻す治療戦略が可能になれば、副作用のリスクは著しく回避することができると考えられる。本発明は、受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)に属するPtprzの細胞内領域を用いて、これに選択的に結合する分子の検索を行い、その中にErbB4が存在すること、加えてPtprzがErbB4を基質として効率的に脱リン酸化することの知見に基づくものであり、本発明によると、ErbB4の過剰発現、あるいは過剰活性化に起因する小児脳腫瘍(髄芽細胞腫や上皮腫)、統合失調症、がん等の疾病の予防・治療や、Ptprzのアゴニスト・アンタゴニストのスクリーニング方法などを提供することができる。
本発明のヒトErbB4の脱リン酸化剤や、ヒトErbB4の過剰発現、あるいは過剰活性化に起因する疾病の予防・治療剤としては、ヒトPtprz遺伝子、又はヒトPtprzを発現しうる組換えベクターを有効成分として含むものであれば特に制限されず、上記ヒトErbB4の過剰発現、あるいは過剰活性化に起因する疾病としては、小児脳腫瘍(髄芽細胞腫や上皮腫)、統合失調症、がん等の疾病を例示することができ、上記脱リン酸化剤は、ヒトErbB4の過剰発現、あるいは過剰活性化に起因する疾病の予防・治療剤として有用である。
上記ヒトPtprz遺伝子としては、例えばヒトPtprzをコードする配列番号1で示される塩基配列(ヌクレオチド配列)を有するDNAの他、例えば配列番号2で示されるアミノ酸配列からなる天然型のヒトPtprzタンパク質のアミノ酸配列に1個以上のアミノ酸の置換、欠失、付加、挿入等の変異が導入されたポリペプチドをコードする遺伝子や、配列番号1で示される塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有し、かつ受容体型プロテインチロシンホスファターゼPtprz活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列を有する遺伝子も使用することができる。ここで、ストリジェントな条件下とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、具体的には、50〜70%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である65℃、1×SSC、0.1%SDS、又は0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件を挙げることができる。
上記ヒトPtprz発現を発現しうる組換えベクターとしては、例えば配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるヒトPtprzタンパク質をヒト生体内で発現しうるものであれば特に制限されるものではなく、例えばヒトPtprzをコードする配列番号1で示される塩基配列(ヌクレオチド配列)からなるDNAなど、上記ヒトPtprz遺伝子を発現ベクターに適切にインテグレイトすることにより構築することができる。かかる発現ベクターとしては、動物細胞において発現しうるものが好ましく、宿主細胞において自立複製可能であるものや、あるいは宿主細胞の染色体中へ組込み可能であるものが好ましく、また、ヒトPtprz遺伝子を発現できる位置にプロモーター、エンハンサー、ターミネーター等の制御配列の他、選択マーカー遺伝子を導入しておくこともできる。発現ベクターへの抗体遺伝子の導入は、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた周知の方法(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照できる)により行うことができる。
上記動物細胞用の発現ベクターとして、例えば、pEGFP-C1(Clontech社製)、pGBT−9(Clontech社製)、pcDNAI(フナコシ社製)、pcDM8(フナコシ社製)、pAGE107(Cytotechnology, 3, 133, 1990)、pCDM8(Nature, 329, 840, 1987)、pCR2.1−TA(Invitrogen社製)、pcDNAI/AmP(Invitrogen社製)、pREP4(Invitrogen社製)、pAGE103(J.Blochem., 101, 1307, 1987)、pAGE210等のプラスミドベクターや、非分列細胞を含む全ての細胞(血球系以外)での一過性発現に用いられるアデノウイルスベクター(Science, 252, 431-434, 1991)や、***細胞での長期発現に用いられるレトロウイルスベクター(Microbiology and Immunology, 158, 1-23, 1992)や、非病原性、非***細胞にも導入可能で、長期発現に用いられるアデノ随伴ウイルスベクター(Curr. Top. Microbiol. Immunol., 158, 97-129, 1992)の他、SV40ウイルスベクター、EBウイルスベクター、パピローマウイルスベクター等のウイルスベクターを例示することができる。動物細胞用のプロモーターとしては、例えば、サイトメガロウイルス(ヒトCMV)のIE(immediate early)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター等を挙げることができる。
また、上記のヒトPtprz遺伝子やヒトPtprz発現を発現しうる組換えベクターを生体にデリバリーする方法としては、従来公知の方法を用いることができ、ウイルスベクターを用いる方法の他、皮膚や筋肉にエレクトロポレーションによりプラスミドDNAを単独で投与する方法や、超音波によるDNAの細胞内への導入方法や、ハイドロダイナミクスインジェクション法、ポリアミドアミン (PAMAM) デンドリマーなどの遺伝子キャリアー分子を使った方法、リポソーム法、リン酸カルシウム法、DNAでコートした金粒子を高圧ヘリウムガスで直接細胞に打ち込む遺伝子銃法等を挙げることができ、目的に応じて好適な方法を選択することが好ましい。また、本発明の遺伝子は、ヒトPtprz遺伝子やヒトPtprz発現を発現しうる組換えベクターは、インビボの他にエクスビボ(ex vivo)にても投与することができる。インビボで投与する場合、静脈、皮下、筋肉内に投与、あるいは疾患の対象部位等の局所に直接投与することができ、また、製剤形態として使用する場合、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を添加することができる。
本発明のインビトロ系でのPtprzによる脱リン酸化促進又は抑制物質のスクリーニング方法としては、リン酸化したErbB4を基質として、被検物質の存在下にPtprzを作用させ、ErbB4の脱リン酸化の程度を測定し、被検物質の非存在下の場合と比較して、脱リン酸化の程度が大きいときに、前記被検物質をPtprzによる脱リン酸化促進物質と評価し、反対に脱リン酸化の程度が小さいときに、前記被検物質をPtprzによる脱リン酸化抑制物質と評価する方法であれば特に制限されず、インビトロ脱リン酸化アッセイは、リン酸化したErbB4、あるいはErbB4の細胞内領域(ErbB4ICR)とPtprzとを被検物質の存在下で接触させることにより行うことができる。例えば、基質となるリン酸化したErbB4は、例えばグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)などのエピトープタグとの融合タンパク質として昆虫細胞、酵母、大腸菌などの宿主細胞で発現させたErbB4の細胞内領域全体(GST−ErbB4ICR)を精製後、ATPと接触させることにより調製することができる。次に、インビトロ脱リン酸化アッセイは、前記GST−ErbB4ICRとGST−PtprzICR(ラットPtprz−Aの細胞内領域全体もしくはPTP−D1ドメイン)とを緩衝液中でインキュベーションして接触させ、ErbB4のリン酸化の減少の程度、もしくは脱離したリン酸濃度を測定することにより行うことができる。なお、用いるErbB4やErbB4遺伝子、PtprzやPtprz遺伝子等の由来としては、ヒトに限らずラット、マウス等を有利に挙げることができる。また、リン酸濃度を測定する際に、標識ATPを使用することもできる。
また、本発明のインビボ系でのPtprzによる脱リン酸化促進又は抑制物質のスクリーニング(同定)方法としては、Ptprz遺伝子欠損マウス(ノックアウトマウス)、及び野生型マウスに被検物質を投与し、大脳シナプトソーム画分中のErbB4のリン酸化の程度を測定し、野生型マウスとPtprz遺伝子欠損マウスとにおけるErbB4のリン酸化の程度の差が、被検物質の非投与の場合と比較して、小さくなるとき(ノックアウトマウスにおけるErbB4のリン酸化の程度は被検物質の有無にかかわらず変わらないのに、野生型マウスにおけるErbB4のリン酸化の程度は被検物質の存在下において、Ptprzによる脱リン酸化が進んだ結果、ErbB4のリン酸化が減少しているとき)に、前記被検物質をPtprzアゴニストと評価し、大きくなるとき(ノックアウトマウスにおけるErbB4のリン酸化の程度は被検物質の有無にかかわらず変わらないのに、野生型マウスにおけるErbB4のリン酸化の程度は被検物質の存在下において、Ptprzによる脱リン酸化が抑制された結果、ErbB4のリン酸化が亢進しているとき)に、前記被検物質をPtprzアンタゴニストと評価(同定)する方法であれば特に制限されず、被検物質は経口又は非経口的に投与することができる。シナプトソーム画分は、公知の方法で調製することができ、また、大脳シナプトソーム画分中のErbB4のリン酸化の程度の測定も、抗ErbB4抗体を用いた免疫沈殿法によってシナプトソーム画分中のErbB4を回収し、ウエスタンブロットによってそのチロシンリン酸化レベルを解析するなど公知の方法を用いることができる。
上記インビトロ系やインビボ系でのスクリーニング方法により得られるPtprzによる脱リン酸化促進物質は、ErbB4の過剰発現、あるいは過剰活性化に起因する疾病の予防・治療剤となる可能性があり、また、Ptprzによる脱リン酸化抑制物質は、ErbB4の過剰発現、あるいは過剰活性化抑制に起因する疾病の予防・治療剤となる可能性がある。ErbB4の発現抑制によって、胎生期の心臓に小梁形成(embryonic heart trabeculation)が起こる可能性がある(Experimental Cell Research 284 (2003) 66-77 “ErbB-4: mechanism of action and biology” Graham Carpenter)。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。なお、供試動物として、成獣ラット(Sprague-Dawley、3ヶ月齢)、及び野生型及びPtprz遺伝子欠損の成獣マウス(Neurosci. Lett. 247, 1998, 135-138)を用いた。すべての動物実験は、自然科学研究機構の動物研究委員会(Committee for Animal Research)の承認を得た動物取り扱い指針(guidelines for Animal Care)に沿って行われた。
[PtprzとErbB4の結合及び居局在性;GSTプルダウン実験]
受容体型チロシンホスファターゼPtprzの分子構造は、大きく細胞外領域、細胞膜貫通ドメイン、細胞内領域に3つに分けられる(図1)。細胞内領域には、チロシンホスファターゼドメイン(PTP)がタンデムに並んでおり、細胞内領域のカルボキシル末端はPDZドメイン含有タンパク質との結合に関与するモチーフを有している。PtprzのPTP−D2及びカルボキシル末端に対する細胞内結合分子の同定を目的として、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質を設計した。市販システム(GEヘルスケア)を用いて、GSTとPtprzのD2ドメイン及びカルボキシル末端(ラットPtprz−A(GenBankアクセッション番号U09357)のアミノ酸残基2030から2316)との融合タンパク質(GST−Ptprz−D2、図1参照)を、大腸菌株BL21中で発現プラスミドpGEX-Ptrprz-D2を使って発現させ、該タンパク質を、クロマトグラフィー装置(AKTA prime plus、GE Healthcare社製)につなげたGSTrapカラムを用いたグルタチオン・アフィニティークロマトグラフィーにより精製した。pGEX-Ptprz-D2は、pZeoPTPζ(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 2001, 6593-6598)の適切なcDNAをpGEX-6P(GE Healthcare社製)にサブクローニングすることで調製した。また、GST−Ptprz−D2−SAはセリン2314がアラニンで置換された変異体である。QuickChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene社製)を用いてpGEX-Ptprz-D2から作製したpGEX-Ptprz-D2-SAから、GST−Ptprz−D2−SAを発現させた。
プルダウン実験に際して、GST融合タンパク質(50μg)を、GST Orientation Kit(Pierce社製)を用いてグルタチオンセファロースビーズ(500μl)に共有結合で結合させて、GST−D2結合担体を調製した。GST−D2カラムと比較対照用のGSTカラムを用いて、文献(Neuron 26, 2000, 443-455)記載の通りに成獣ラット大脳から調製したシナプトソーム溶解液(lysate)(50mgタンパク/mlビーズ)と一緒に4℃で一晩インキュベートした。ビーズを洗浄後、2%SDSを含む0.1MのTris-HClサンプルバッファー(pH6.8)で、結合したタンパク質を溶出し、次いでアセトン沈殿を行った。その後、タンパク質をSDS−PAGEで分離し、クーマシーブリリアントブルー染色した。特異的バンドを切り出し、ゲル内トリプシン消化した後、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI−TOFMS)にかけた(Reflex III, Bruker Daltonics社製)。NCBIの非重複タンパク質データベースに対してMascotサーチ(http://www.matrixscience.com/)を行い、ペプチドマスフィンガープリントを行った。
上記のように、成獣ラット脳のシナプトソーム画分におけるPtprzに結合する分子を同定するために、成獣ラット大脳シナプトソームのデオキシコール酸抽出物で、第2PTP領域とカルボキシ末端尾部(GST−Ptprz−D2、図1参照)を含むGST融合タンパク質を用いて、プルダウン実験を行った。その結果、図2に示されるように、GST−Ptprz−D2ビーズでプルダウンした画分で8本のバンドが特異的に観察されたが、GSTビーズでプルダウンした画分ではバンドは観察されなかった。質量分析により、95kDaの主要なバンドがSAP90A(PSD95のラットオルソログ)であり、180kDaのバンドが、ニューレグリンのレセプターとして知られるErbBレセプターチロシンキナーゼ(RTK)ファミリーのメンバー、ErbB4であることが明らかになった(その他はシナプス性Ras GTPase活性化タンパク質 synaptic Ras GTPaseactivating protein(SynGAP)、及びPSD93/chapsyn−110であった;データ非表示)。本発明者らは、ウエスタンブロットにより、プルダウン実験でのPSD95、ErbB4及びPtprz−D2の特異的な相互作用を確認した(図3)。また、PDZドメインに対する結合能を消失させた変異タンパク質(GST−Ptprz−D2−SA)を用いた場合では、ErbB4及びPSD95の結合は検出されず、PtprzとErbB4との結合は、PSD95などのPDZ含有タンパク質を介して起っていることが判明した(図3)。
カルボキシル末端(−T−V−V)と第1又は第2PDZ領域との間の相互作用を通して、ErbB4がPSD95に結合することが報告されている(Neuron 26, 2000, 443-455)。ErbB4とPSD95とも、成獣ラット脳のシナプス後肥厚部(PSD)画分に豊富に存在する。文献(Brain Res. Mol. Brain Res. 72, 1999, 47-54)の記載を少し変更を加え、二重染色実験を行った。切片を、Ptprzの細胞内領域に対するマウスモノクローナル抗体(抗RPTPβ抗体、BD transduction laboratories社製)とErbB4細胞内領域に対するウサギポリクローナル抗体(sc−283、Santa Cruz Biotechnology社製)と共に、一晩インキュベートした。結合している抗体を、蛍光アレクサ色素結合二次抗体(Molecular Probes社製)で可視化し、共焦点顕微鏡(LSM510、Carl Zeiss社製)で観察した。ラット大脳組織の二重免疫組織染色の結果、ErbB4とPtprzの局在は非常に良く一致し、ErbB4が、Ptprzによって脱リン酸化制御を受け生理的な基質分子である可能性が示唆された(図4)。Ptprzの免疫反応性は、文献(Brain Res. Mol. Brain Res. 72, 1999, 47-54)記載の通り前頭前野のニューロン群の樹状突起及び細胞体と関連性があった。ErbB4の免疫反応性は、同じニューロンの細胞体で主に検出された。
[Ptprz遺伝子欠損マウスにおけるErbB4のリン酸化レベルの亢進]
生体内において、ErbB4がPtprzによって脱リン酸化されているのか、野生型マウス及びPtprz遺伝子欠損マウスの脳組織サンプルを用いて検討した。野生型マウス(+/+)と、Ptprz欠損マウス(−/−)から大脳シナプトソームを調製した。可溶化液を用いて、シナプトソームにおけるチロシンリン酸化パターン全体とタンパク質発現とをウエスタンブロットで分析した。Ptprzの全てのスプライシングアイソフォームは、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンとして発現しているため、シナプトソーム可溶成分を文献(J. Biochem. 123, 1998, 458-467)記載の通りコンドロイチナーゼABCで処理した後、Ptprz−Bを検出した。野生型及びノックアウトマウス間のシナプトソーム全タンパク質のリン酸化状態をウエスタンブロットで見る限り両者間に差異はなく(図5A左側)、シナプトソーム中のErbB4(図5A右側上段)及びPSD95(図5右側中段)の含量も同程度であった。Ptprzは野生型のみに確認された(図5A下段)。
次にシナプトソーム画分中のErbB4を抗ErbB4抗体を用いた免疫沈殿法によって回収、ウエスタンブロットによってそのチロシンリン酸化レベルを解析した。その結果、ErbB4のリン酸化レベルはPtprz遺伝子欠損マウスで有意に増加していることが判明した(1.3倍増加。P=0.04、n=7、unpaired Student’s t test、図5B)。これらの結果は、Ptprzが脳におけるErbB4のリン酸化(活性)の制御に関連していることを示している。
[Ptprzのリン酸化ErbB4に対する脱リン酸化活性]
インビトロにおけるリン酸化アッセイを次のように行った。GST−ErbB4ICR(ErbB4の細胞内領域全体)をCell signaling technology社から購入した。pGEX-6PにラットPSD95の全長cDNAを含ませたpGEX-PSD95(Brain Res. Mol. Brain Res. 72, 1999, 47-54)を用いて、GST−PSD95を大腸菌で発現させ、グルタチオン・アフィニティークロマトグラフィー(GsTrap FF)、陰イオン交換クロマトグラフィー(Hitrap Q FF)、次いでゲルクロマトグラフィー(Superose 6 10/300 GL)で精製した。自己リン酸化のために、GST−ErbB4ICR(1.25ng)を、表示した量のGST−PSD95(又はコントロールGST)を含み、5mM MgCl、5mM MnCl、1.25mM DTT、及び100μg/ml ウシ血清アルブミンを含む10μlの60mM HEPES(pH7.4)(PTK緩衝液)と氷上で15分、プレ・インキュベートした。5μlのATP溶液(30μCi/ml[γ−32P]ATP及び30μM非標識ATPを溶かしたPTK緩衝液)を加え、30℃で、リン酸化反応を開始させた。[γ−32P]ATP(〜6000Ci/mmol)はGE Healthcare社製を用いた。SDS−PAGEサンプルバッファーを加えることで反応を停止させた。これらのサンプルをSDS−PAGEで分離し、ゲル上のシグナルを、バイオ・イメージングアナライザー(Fuji Photo Film社製)を用いて、イメージングプレート(BAS-MS 2025)で検出した。
次に、インビトロ脱リン酸化アッセイを次のように行った。GST−PtprzICR(ラットPtprz−Aの細胞内領域全体)を文献(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 2001, 6593-6598)に記載されている通りに調製した。インビトロ脱リン酸化のために、自己リン酸化されているErbB4を基質として調製した。GST−ErbB4ICR(300ng)を、上述の通り10μCi/mlの[γ−32P]ATP及び10μlの非標識ATPを含むPTK緩衝液100μlでリン酸化させた。5mM DTT、5mM EDTA、及び100μg/mlウシ血清アルブミンを含む10mM Tris-HCl(pH7.0)(PTP緩衝液)を用いたゲル濾過(Sephadex G-25, GE Healthcare社製)を行い、ATPと補因子を除去した後、リン酸化された該調整物を、使用まで−85℃で保存した。ゲル濾過後の32P標識GST−ErbB4ICRの回収率は、放射活性に基づけば54%であった。脱リン酸化アッセイの前に、表示した量のGST−PtprzICRとGST−PSD95を、5μlのPTP緩衝液中、氷上で15分、プレ・インキュベートした。次いで、10μlの32P標識GST−ErbB4ICR(約2ng)を加えて、30℃で、反応を開始させた。サンプルをSDS−PAGEで分離後、上述したオートラジオグラフィーにかけた。
上記のように、脱リン酸化アッセイにおいて、ErbB4ICRそのもののキナーゼ活性を排除するために、基質調製物からゲルろ過によりATPを除去した上で、インビトロで、32P−標識ErbB4ICRを用いて、PtprzICRの脱リン酸化活性を調べた結果を図6に示す。PtprzICRは、インビトロでErbB4ICRに対して2時間で、顕著な脱リン酸化活性を示した(図6B、上)。ErbB4ICRのリン酸化活性と対照的に、ErbB4ICRに対するPtprzICRの脱リン酸化活性は、GST−PSD95に影響されなかった(63B、下)。短時間(0.5時間)のインキュベーションでも同様の結果が得られた。PSD95の存在下でのPtprzICRの脱リン酸化活性に影響はなかった(図6B、下)。さらに、PTPドメインの活性部位に直接結合する低分子量化合物、p−ニトロフェニルリン酸(pNPP)を用いて、PTP活性を調べた。しかし、PtprzICRによるpNPPの加水分解は、GST−PSD95を添加しても変化しなかった(データ非表示)。これらの結果は、PSD95の結合が、Ptprzそのものの脱リン酸化活性に影響しないことを示している。市販のErbB4の細胞内領域のGST融合タンパク質(GST-ErbB4ICR, Cell signaling, cat No. 7724)を放射線標識ATPを用いて試験管内でリン酸化し、これを基質として、Ptprz(Ptprz-ICR部分のGSTタンパク質、図1参照)による脱リン酸化を解析した。その結果、PtprzがErbB4を効率的に脱リン酸化すること、Ptprzの脱リン酸化活性は、PSD95の共存下で変化しないことが判明した。
ラットPtprz−AとPtprz−Bアイソフォームの模式図である。プルダウン実験に用いる領域(GST−Ptprz−D2)と、インビトロ脱リン酸化アッセイに用いる領域(GST−PtprzICR)とを下線で示した。Ptprz−A及びPtprz−Bは、N末端炭酸脱水酵素様(CAH)ドメイン、フィブロネクチンIII型(FN)ドメイン、コンドロイチン硫酸の付着用のセリン・グリシンリッチ領域、膜貫通セグメント(TM)、2つのPTPドメイン(D1及びD2)、及びC末端のPDZ結合モチーフで構成されている。 GSTプルダウンアッセイによるGST−D2及びコントロールのGSTカラムを用いたラット大脳シナプトソーム画分中の結合成分の単離結果を示す図である。矢頭は、GST−Ptprz−D2を用いたプルダウンサンプルで特異的に検出されたバンドを示す。 GSTで異なる融合タンパク質を用いたプルダウンサンプルのウエスタンブロット分析の結果を示す図である。GST−D2、コントロールGST 及びPDZ結合配列部分の変異体(GST−D2−SA)を用いてラットシナプトソーム画分から結合成分の単離を行い、その中に含まれるErbB4(上段)及びPSD95(下段)をウエスタンブロットによって解析した。 成獣ラット前頭前野におけるPtprz及びErbB4の居局在性を示す図である。切片を抗RPTPβマウスモノクローナル抗体(赤色)及び抗ErbB4ウサギポリクロナール抗体(緑色)でラット大脳皮質を免疫染色した。最下段図の黄色部分は両抗体シグナルの分布が一致した場所を意味する。一次抗体なしでは、免疫蛍光は観察されなかった(データは示されていない)。右パネルは、左パネルの囲み部分の拡大図である。スケールバー、20μm。 野生型マウスとPtprz欠損マウスにおけるErbB4のチロシンリン酸化の比較結果を示す図である。(A) 野生型(+/+)及びPtprz遺伝子欠損(−/−)マウスのシナプトソーム画分の全タンパク質のウエスタンブロット解析、抗リン酸化チロシン抗体(左)、ErbB4抗体(右上段)、PSD95抗体(右中段)、Ptprz抗体(右下段)。(B)ErbB4抗体を用いた免疫沈降物を抗リン酸化チロシン抗体(上段)及びErbB4抗体でウエスタンブロットで解析した。 PSD95によるErbB4のリン酸化とPtPrzによる脱リン酸化のインビトロアッセイの結果を示す図である。(A)ErbB4のインビトロリン酸化アッセイ表示の量のGST−PSD95又はGSTでプレインキュベートしたGST−ErbB4(1.25g)を、10μCi/mlの[γ―32P]ATPと10μMの非標識ATPと、15μlの容積内で30℃で30分間、自己リン酸化に供した。SDS―PAGEサンプル緩衝液を添加して反応を停止し、sDS−PAGE及びオートラジオグラフィーで分析した。(B)ErbB4のインビトロ脱リン酸化アッセイこのアッセイにおけるErbB4そのもののキナーゼ活性の影響を排除するために、ATPと補助因子(Mg2+及びMn2+)を、32P標識GST−ErbB4ISRからゲルろ過によって除去した。表示量のGST−PtprzICR、GST−PSD95、及びGSTを混合し、5μlの容積内で15分間プレインキュベートし、10μlの32P標識ErbB4ICR(約2ng)を添加し、2時間(上)又は30分間(下)30℃でインキュベートした。SDS−PAGEサンプル緩衝液を追加して反応を停止し、上記のように分析した。

Claims (4)

  1. ヒトPtprz遺伝子を含むヒトErbB4の脱リン酸化剤。
  2. ヒトPtprzを発現しうる組換えベクターを含むヒトErbB4の脱リン酸化剤。
  3. ヒトPtprz遺伝子を含む、ヒトErbB4の過剰活性化に起因する疾病の予防・治療剤であって、
    前記疾病が、小児脳腫瘍、統合失調症、がんから選択される、予防治療剤
  4. ヒトPtprzを発現しうる組換えベクターを含む、ヒトErbB4の過剰活性化に起因する疾病の予防・治療剤であって、
    前記疾病が、小児脳腫瘍、統合失調症、がんから選択される、予防治療剤
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