JP5085964B2 - 電磁棒鋼及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、強度が高くかつ磁気特性に優れた電磁棒鋼とその製造方法に関するものである。
近年、電気自動車やハイブリッド型電気自動車のメインモータに代表されるように、モータには省エネルギー化並びに高効率化が強く求められている。
例えば、モータの省エネルギー化や高効率化を図るには、その高周波化が有効な手段の一つとして挙げられるが、周波数が上がるとモータの回転速度も増大し、ローターを構成するコアに加わる遠心力も増大するため、コア材には高い降伏強度が要求される。即ち、コア材の降伏強度が不十分な場合、遠心力によってコア材が塑性変形を起こし、ローターコアとステーターコアとの間のエアギャップが設計値から変化することよりモータ性能が劣化したり、更には、回転中にローターとステーターとが接触し、モータを破損する結果となる。従って、高周波化によりモータの省エネルギー化や高効率化を図るには、ローターコア材の高強度化が不可欠となる。
ところで、従前のローターコアの製造は、板厚0.35〜0.5mmの電磁鋼板を積層するのが一般的であったが、所定のコア形状に電磁鋼板を一枚一枚打抜き、これを数百枚積層するのに多大な費用を要するため、電磁鋼板に替えて積層が不要な電磁棒鋼を用いてローターを作製するモータが実用化され始めている。
しかしながら、現状の電磁棒鋼は電磁鋼板と同様に低炭素鋼若しくは珪素鋼からなり、フェライトの固溶強化を主な強化機構としているため、強度は必ずしも高くない。例えば、3%Si鋼の場合でも降伏強度は350MPa程度である。また電磁鋼板の例では、特許文献1に開示されているように、高強度化を目的としたものでも、降伏強度は概略300〜450MPa程度であり、十分な降伏強度は得られていない。
また、特許文献2には、フェライト組織にTiとMoおよびWの少なくとも一方とを含む10nm未満の炭化物を分散析出させることによって、高位の磁束密度と高強度とを併せ持つ回転機鉄芯用の熱延鋼板について、記載されている。
しかしながら、特許文献2では、鋼の成分を規定した上で、鋼組織をフェライトとしてフェライト中に微細析出物を分散析出させること、炭化物の長辺と短辺の長さの比を規定することによって、優れた加工性と磁気特性とを兼ね備えた熱延鋼板を得られるとしているが、磁気特性上重要な磁壁移動については何ら考慮されておらず、実用上十分な磁気特性を有するとは言えない。事実、特許文献2の実施例においては、30000A/mと励磁電流が極端に高く、ほぼ成分(特にFe)によってのみ決まる飽和磁束密度近傍の磁束密度B300の値のみが示されている。しかし、モータ等の性質にとっては、5000A/mでの磁束密度B50に代表されるような、より低磁場領域での磁束密度が重要であるものの、特許文献2に記載の鋼板では高いB50が得られない。また、モータ等の効率を支配する鉄損については一切考慮されておらず、鉄損値も高いため、実用上十分な磁気特性を具備するに至らないものであった。
特開2002−371340号公報 特開2003−268509号公報
そこで、本発明は、ローターコア材として十分な磁気特性を有すると共に、降伏強度の高い電磁棒鋼とその製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、上記の知見に基づくものであり、その要旨構成は次の通りである。
1.質量%で
C:0.04〜0.12%、
Si:0.5%以下、
Mn:0.5〜3.0%、
Al:0.1%以下、
Ti:0.03〜0.35%および
Mo:0.05〜0.8%
を含み、残部Fe及び不可避的不純物の成分組成を有し、平均結晶粒径60μm以上のフェライトの面積率が95%以上の組織からなり、該フェライト中に粒径10nm未満の微細析出物が分散していることを特徴とする電磁棒鋼。
2.前記組織は、粒径が10μm以下のフェライトの面積率が10%以下であることを特徴とする前記1に記載の電磁棒鋼。
3.前記成分組成が、下記(1)式を満たすことを特徴とする前記1または2に記載の電磁棒鋼。

0.50≦(C/12)/[(Ti/48)+(Mo/96)]≦1.50 ----(1)
ただし、化学成分表示は当該成分の含有量(質量%)を示す。
4.前記微細析出物が、TiおよびMoの炭化物であることを特徴とする前記1ないし3のいずれかに記載の電磁棒鋼。
5.前記成分組成として、更に質量%で
Nb:0.08%以下、
V:0.15%以下および
W:1.5%以下
の1種または2種以上を含むことを特徴とする上記1または2に記載の電磁棒鋼。
6.前記成分組成が下記(2)式を満たすことを特徴とする前記5に記載の電磁棒鋼。

0.50≦(C/12)/[(Ti/48)+(Mo/96)+(Nb/93)+(V/51)+(W/184)]≦1.50 ----(2)
ただし、化学成分表示は当該成分の含有量(質量%)を示す。
7.前記微細析出物が、TiおよびMoと、Nb、VおよびWのうちの少なくとも1種とを含む炭化物であることを特徴とする前記5または6に記載の電磁棒鋼。
8.前記成分組成として、更に質量%で
S:0.01〜0.1%
を含み、かつ
Pb:0.2%以下、
Ca:0.005%以下、
Bi:0.1%以下および
B:0.02%以下
の1種または2種以上を含むことを特徴とする前記1ないし7のいずれかに記載の電磁棒鋼。
9.質量%で
C:0.04〜0.12%、
Si:0.5%以下、
Mn:0.5〜3.0%、
Al:0.1%以下、
Ti:0.03〜0.35%および
Mo:0.05〜0.8%
を含み、残部Fe及び不可避的不純物の成分組成を有する鋼素材を、1100℃以上に加熱したのち、最終パスにおける減面率:25%以下および仕上温度:880℃以上の条件下で熱間圧延を施し、次いで1.0℃/s以下の冷却速度で冷却することを特徴とする電磁棒鋼の製造方法。
ここで、最終パスにおける減面率は、次式のとおりである。
減面率(%)=(D−d)/D×100
ただし、D:最終パスにおける圧延前の断面積
d:最終パスにおける圧延後の断面積
10.前記冷却を行った後、さらに下記の温度域で焼鈍することを特徴とする前記9に記載の電磁棒鋼の製造方法。

Mn含有量(質量%)が0.5〜1.7%のとき:600℃以上800℃以下
Mn含有量(質量%)が1.7%超〜3.0%のとき:600℃以上750℃以下
11.前記成分組成が、下記(1)式を満たすことを特徴とする前記9または10に記載の電磁棒鋼の製造方法。

0.50≦(C/12)/[(Ti/48)+(Mo/96)]≦1.50 ----(1)
ただし、化学成分表示は当該成分の含有量(質量%)を示す。
12.前記成分組成として、更に質量%で
Nb:0.08%以下、
V:0.15%以下および
W:1.5%以下
の1種または2種以上を含むことを特徴とする前記9または10に記載の電磁棒鋼の製造方法。
13.前記成分組成が下記(2)式を満たすことを特徴とする前記12に記載の電磁棒鋼の製造方法。

0.50≦(C/12)/[(Ti/48)+(Mo/96)+(Nb/93)+(V/51)+(W/184)]≦1.50 ----(2)
ただし、化学成分表示は当該成分の含有量(質量%)を示す。
14.前記成分組成として、質量%で
S:0.01〜0.1%
を含み、かつ
Pb:0.2%以下、
Ca:0.005%以下、
Bi:0.1%以下および
B:0.02%以下
の1種または2種以上を含むことを特徴とする前記9ないし13のいずれかに記載の電磁棒鋼の製造方法。
本発明によれば、十分な磁気特性を有すると共に、降伏強度の高い電磁棒鋼が提供されることから、モータの回転速度を増大しても上述した不具合を回避することができる。従って、モータにおける周波数の一層の増加が可能となり、モータの省エネルギー化並びに高効率化が実現されるため、本発明は産業上極めて有用といえる。
本発明の成分組成、ミクロ組織及び製造条件について以下に詳述する。なお、成分組成に関する「%」表示は、特に断らない限りは「質量%」を意味する。
[成分組成]
C:0.04〜0.12%
Cが0.04%未満であると、微細析出物の析出量が不足し、高い降伏強度が得られないため、Cは0.04%以上とする必要がある。一方、Cを0.12%超で含有すると、析出物が粗大化し、やはり高い降伏強度が得られないため、Cの上限は0.12%とする必要がある。
Si:0.5%以下
Siは、冷間加工性を低下させるため、Siの添加量は0.5%以下とする。より好ましくは0.15%以下である。
Mn:0.5〜3.0%
本発明において、析出物の析出挙動は、オーステナイトからフェライトへの変態(以降、フェライト変態という)の進行と密接に関係しており、圧延後の冷却中に生じるフェライト変態の変態開始温度と析出物の析出開始温度との差が小さく、フェライト変態と析出が競合する場合に、析出物がフェライト中に微細に分散析出する。ここで、Mnはフェライト変態温度を下げ、フェライト変態の変態開始温度と析出物の析出開始温度との差を減少させることで、フェライト変態と析出を競合させることに寄与するが、その効果を得るにはMnを0.5%以上添加する必要がある。一方、Mn量が3.0%を超えると、フェライト以外にベイナイト等の低温変態相が生成するようになり、微細析出物による析出強化が不足し、強度が低下する。さらに、低温変態相が生成すると磁気特性が劣化する。このため、Mnの上限は3.0%とする。
なお、Mn量が1.7%以下で、特に高い磁束密度B50が得られるため、高い磁気特性を得ようとする場合には、1.7%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.6〜1.65%である。一方、Mn量を1.7%超で添加することにより、Mnの固溶強化による高強度化の効果が顕著になる。よって、特に高強度化を指向する場合は1.7%超とすることが好ましい。より好ましくは、1.75〜2.80%である。
Al:0.1%以下
Alは、脱酸剤として、添加してよいが、過剰に添加するとその効果が飽和するだけでなく、Nとの析出物であるAlNの量が増え、このAlNは10nm未満の径で析出することがないため、磁気特性を劣化させることになる。これを避けるために、Alの添加量は0.1%以下とする。より好ましくは0.05%以下である。脱酸剤として用いる場合には、0.01%以上が好ましい。
Ti:0.03〜0.35%
Tiは、Ti系炭化物やTi−Mo系炭化物を含む析出物を微細に析出させ、強度を向上させるために添加する。すなわち、高い降伏強度を確保するためには0.03%以上が必要であり、一方0.35%を超えて添加すると、析出物が粗大化し、却って強度が低下するため、Tiは0.03〜0.35%の添加範囲とする。より好ましくは0.03〜0.30%である。
Mo:0.05〜0.8%
Moは、Mo系炭化物やTi−Mo系炭化物を含む析出物を微細に析出させ、強度を向上させるために添加する。また、Moは拡散速度が遅く、Tiと共に析出する場合、析出物の成長速度が低下し、微細な析出物が得られ易いという利点も有する。ここで、高い降伏強度を確保するためには、0.05%以上のMoの添加が必要であり、一方0.8%を超えて添加すると、フェライト以外にベイナイト等の低温変態相が生成するようになり、微細析出物による析出強化が不足し、強度が低下すると共に磁気特性が劣化する。このため、Moの添加は0.05〜0.8%とする。より好ましくは0.15〜0.50%である。
上記成分組成において、特にC、Ti及びMo量の原子比に関し、下記(1)式を満足させると、析出物を微細化する上で有利である。

0.50≦(C/12)/[(Ti/48)+(Mo/96)]≦1.50 ----(1)
本パラメーターは、析出物の大きさに影響を与えるもので、0.50以上、1.50以下とした場合、粒径10nm未満の微細析出物の形成が容易となり好ましい。
尚、微細なTi−Mo系炭化物では、炭化物中のTiおよびMoは原子比Ti/Moが0.2〜2.0、更に微細な炭化物では0.7〜1.5であることが観察された。
以上、必須成分について説明したが、本発明では強度や靭性等の一層の向上を図るため、Nb、VおよびWの1種または2種以上を添加することができる。
Nb:0.08%以下
Nbは、TiおよびMoと共に微細析出物を形成して強度上昇に寄与する。また、フェライトを整粒化することで延性及び靭性を向上させる。これらの効果を得るには、0.005%以上とすることが好ましい。但し、0.08%を超えて含有するとフェライトが微細化し、微細析出物が磁気特性に悪影響を及ぼすようになるため、添加量は0.08%以下とする。より好ましくは0.04%以下である。
V:0.15%以下
VもTi、Moと共に微細析出物を形成して強度上昇に寄与することから、好ましくは0.005%以上で添加するが、0.15%を超えて含有すると、析出物が粗大化するようになるため、添加量は0.15%以下とする。より好ましくは0.10%以下である。
W:1.5%以下
WもTi、Moと共に微細析出物を形成して強度上昇に寄与することから、好ましくは0.01%以上で添加するが、1.5%を超えて含有すると、析出物が粗大化するようになるため、添加量は1.5%以下とする。より好ましくは1.0%以下である。
これらの元素を添加した場合、これらの元素とC、TiおよびMo量の原子比を下記(2)式のように規定すると、析出物の微細化に有利となる。

0.50≦(C/12)/[(Ti/48)+(Mo/96)+(Nb/93)+(V/51)+(W/184)]≦1.50 ----(2)
本パラメーターは、析出物の大きさに影響を与えるもので、0.50以上1.50以下とした場合、粒径10nm未満の微細析出物の形成が容易となり好ましい。
尚、Nb、VおよびWの1種または2種以上を含む微細な炭化物では、炭化物中のTi、Mo、Nb、V、Wの原子比(Ti+Nb+V)/(Mo+W)が0.2〜2.0、更に微細な炭化物では0.7〜1.5であることが観察された。
更に、本発明では、部品加工時の切削性を向上させるため、S:0.01〜0.1%とした上で、Pb≦0.2%、Ca≦0.005、Bi≦0.1%およびB≦0.02%の1種または2種以上を添加することができる。
ここで、S量を0.01〜0.1%としたのは、S量が0.01%未満であると、切削性の向上が図られないためであり、0.1%を超えると、延性や靭性が低下するためである。なお、Sは0.01%未満で不純物として含有されるものである。本発明において、0.1%以下の含有量では、強度ならびに磁気特性には影響を及ぼさない。そのため、積極的に添加して、0.01〜0.1%の含有量とすることができる。
また、Pb、Ca、BiおよびBについても、添加量がそれぞれの上限を超えると、延性や靭性が低下するため、その添加量は、Pb≦0.2%、Ca≦0.005%、Bi≦0.1%およびB≦0.02%とする必要がある。
その他、強度、延性及び靭性を向上させる目的で、Cr、NiおよびCuの1種または2種以上をCr≦0.5%、Ni≦0.5%およびCu≦0.5%の範囲で添加しても構わない。
不可避的不純物であるPとNは、磁気特性にとって好ましくない元素であるため、PとNは低減することが望ましい。具体的には、Pについては0.03%以下に規制することが好ましい。Nについては0.01%以下に規制することが好ましく、0.005%以下に規制することが更に好ましい。
尚、これらの元素の添加有無や含有量により、本発明の効果が損なわれることは無い。
[ミクロ組織]
本発明では、ミクロ組織を、平均結晶粒径が60μm以上のフェライトの面積率が95%以上で、かつ粒径10nm未満の微細析出物が分散析出した組織に規定することが肝要である。これは、以下の理由による。
まず、フェライトの面積率を95%以上、好ましくは98%以上とするのは、フェライト相が磁気特性にとって最も好ましい組織であるからである。尚、本発明におけるフェライトの面積率は、断面組織観察(200倍の光学顕微鏡組織観察)で求める。以下、フェライトの面積率が95%以上の組織をフェライト単相組織という
更に、本発明では、フェライトの平均結晶粒径を60μm以上とする。これは、従来、磁気特性にとって有害と考えられてきた析出物であっても、これが10nm未満と微細な場合には、フェライトの平均結晶粒径を大きくすることで、悪影響を排除できるからである。この点については、以下に詳述する。
成分組成が本発明範囲にある、C:0.068%、Si:0.11%、Mn:1.48%、Ti:0.24%、Mo:0.28%、P:0.018%、S:0.023%、Al:0.029%およびN:0.0041%を含み残部が鉄および不可避不純物の成分組成を有する鋼(鋼1)と、成分組成が本発明範囲から外れた、C:0.072%、Si:0.08%、Mn:1.38%、Ti:0.41%、Mo:0.16%、P:0.015%、S:0.017%、Al:0.031%およびN:0.0030%を含み残部が鉄および不可避不純物の成分組成を有する鋼(鋼2)との二種類の鋼を溶製した。これらを1180℃に加熱後、直径100mmの棒鋼に熱間圧延し、圧延後室温まで空冷した(500℃までの平均冷却速度は0.18℃/s)。その際、結晶粒径を変化させるため、熱間圧延における圧延パススケジュール(各圧下パスの温度と減面率)を種々に変化させた。かくして得られた棒鋼について組織観察を行うと共に、引張試験値および磁気特性を測定した。
ここで、引張試験値については、棒鋼の1/4D(D:棒鋼の直径、100mm)の位置から、平行部の直径6mmおよび平行部長さ40mmの試験片を棒鋼の長手方向に採取し、測定に供した。
磁気特性については、得られた棒鋼の中央部から内径33mm、外径45mmおよび厚み5mmのリング状試験片を、リング板面が棒鋼断面と平行になるように採取し、1次巻線100回および2次巻線100回を施し、直流の励磁電流5000A/mでの磁束密度B50ならびに交流50Hzで磁束密度1.0Tまで励磁したときの鉄損W10/50を測定した。
組織観察は、棒鋼の任意の位置、計20箇所から組織観察用試験片を採取し、組織の同定を行うと共に、それぞれの試験片についてJIS G 0552の切断法で結晶粒の平均断面積を求め、これより相当円の直径として各試験片の結晶粒径を算出し、更に計20箇所の平均値を求めて、棒鋼全体の平均結晶粒径を求めた。更に、後に詳述する電子顕微鏡観察により析出物の大きさを評価した。
組織観察の結果、鋼1および2は共に、圧延条件を問わず組織がフェライト単相となっていたが、結晶粒径を変えるために熱間圧延でのパススケジュールを変化させたため、フェライト粒径は30μm程度から100μm程度まで変化していた。また、析出物の大きさに関しては、成分組成が本発明範囲にある鋼1ではほぼ5nm程度と微細になっていたが、成分組成が本発明範囲から外れた鋼2では20〜30nmと粗大になっていた。
次に、図1に、フェライト粒径と、降伏強度YS、磁束密度B50および鉄損W10/50との関係を示す。
同図から判るように、成分組成が本発明範囲にある鋼1及び成分組成が本発明範囲から外れた鋼2はともに、降伏強度YSはフェライト粒径が増加すると低下する傾向を示すが、析出物が5nmと微細な鋼1では、500MPa以上と十分高い降伏強度が得られるのに対し、析出物が20〜30nmと粗大な鋼2では、500MPa未満の降伏強度しか得られない。
磁気特性もフェライト粒径に依存して変化するが、粒径依存性は鋼1と鋼2で大幅に異なる。成分組成が本発明範囲にあり、かつ析出物径が5nmと微細な鋼1では、フェライト粒径が小さい場合、磁束密度は1.59T前後と低く、鉄損は44W/kg程度と高いが、フェライト粒径が60μm以上になると磁束密度、鉄損とも著しく改善し、磁束密度は1.63T以上および鉄損は40W/kg以下と、優れた磁気特性を示すようになる。
一方、成分組成が本発明範囲から外れており析出物が20〜30nmと粗大な鋼2では、フェライト粒径の増加と共に、磁束密度は上昇し鉄損は低下する傾向を示すものの、その程度は僅かであり、磁束密度は1.59T前後および鉄損は40W/kg以上と、低位な磁気特性しか示さない。
このように、析出物を5nmと微細にすると、高い降伏強度が得られると共に、平均結晶粒径を60μm以上に粗大化させると、磁気特性にとって有害と考えられてきた析出物の影響が抑制され、優れた磁気特性を得ることができる。
以上の検討を析出物の大きさが種々変化した鋼について行ったところ、析出物の大きさが10nm未満の場合、何れもフェライト粒径を60μm以上とすることで、高い磁束密度B50と鉄損W10/50が得られたため、本発明ではフェライト粒径を60μm以上と規定する。
尚、析出物を微細化した上でフェライト粒径を粗大にすると、析出物の悪影響が抑制され優れた磁気特性が得られる理由については必ずしも明らかではないが、磁化過程での磁壁移動と析出物の関係が示唆される。
すなわち、一般に、磁気特性上は磁壁移動が容易な程好ましく、析出物はこの磁壁移動を妨げることで磁気特性に悪影響を及ぼすとされる。ところで、フェライト粒径が増大すると、磁区の大きさも増大し、磁区の境界である磁壁の長さも増大する。ここで、磁壁長さが十分に長く、析出物が十分に微細な場合には、析出物による磁壁移動の抑止力と磁壁
移動の駆動力そのものとの相対関係から、析出物の影響が無視できるようになると推察される。このため、析出物を微細化した上でフェライト粒径を粗大にすると、優れた磁気特性が具備されると考えられる。
さらに、本発明では、微細析出物の粒径は10nm未満とする。析出物の粒径が10nm以上の場合、析出強化能が不足し、高い降伏強度が得られない。
すなわち、微細析出物の粒径は、小さい程強度上昇に有効であり、10nm未満、望ましくは5nm、更に望ましくは3nm以下とする。そのような微細析出物としては、TiおよびMoを複合含有した炭化物、またそれらに更にNb、VおよびWの1種または2種以上を含む炭化物が好ましい。尚、微細析出物は、熱間圧延後の冷却中に析出させる。
微細析出物の個数については、1000個/μm3以上、更に望ましくは5000個/μm3以上あることが、強度確保の観点から好ましい。
これらの微細析出物は、母相中に均一に分散析出することが望ましい。また、本発明において、析出物の大きさは、全析出物の90%以上が上記の条件を満足すれば、高い降伏強度が得られる。但し、10nm以上の大きさの析出物は、析出物形成元素を徒に消費し、強度に悪影響を与えるため、その大きさを50nm以下に抑えることが好ましい。
上述した析出物とは別に、少量のFe炭化物を含有しても本発明の効果は損なわれないが、平均粒径が1μm以上のFe炭化物を多量に含むと磁気特性を阻害するため、本発明においては、含有されるFe炭化物の大きさの上限は1μm、含有率は析出物全体の1%以下とすることが望ましい。
尚、析出物の大きさ及び微細析出物の全析出物に占める割合は、以下の方法により求める。
電子顕微鏡試料として、ツインジェット法を用いた電解研磨法で作製したものを用いて、加速電圧200kVで観察する。その際、析出物が母相に対して計測可能なコントラストになるように、母相の結晶方位を制御し、析出物の数え落としを最低限に抑えるため、焦点を正焦点からずらしたデフォーカス法にて観察を行う。また、析出物粒子の計測を行った領域の試料厚さは、電子エネルギー損失分光法を用いて、弾性散乱ピークと非弾性散乱ピーク強度を測定することで評価する。
この方法により、粒子径及び粒子数の計測と試料厚さの計測とを、同じ領域について実行することができる。粒子径及び粒子数の測定は、試料の0.5μm×0.5μmの領域4箇所について行い、1μm2当りに分布する析出物を粒径ごとの個数として算出する。次いで、この値と試料の厚さから析出物の1μm3当りに分布する粒子径ごとの個数を算出する。これにより、析出物の大きさと、全析出物に占める粒径が10nm未満の析出物の割合を求める。
さらに、粒径が10μm以下のフェライトの面積率は10%以下であることが、より高い磁束密度を得る上で好ましい。この点について以下に詳述する。
成分組成が本発明範囲にある、C:0.095%、Si:0.15%、Mn:1.50%、Ti:0.22%、Mo:0.44%、P:0.022%、S:0.018%、Al:0.015%およびN:0.0053%を含み、残部が鉄および不可避的不純物の成分組成を有する鋼(鋼3)と、成分組成が本発明範囲から外れた、C:0.060%、Si:0.05%、Mn:1.25%、Ti:0.65%、Mo:0.12%、P:0.02%、S:0.008%、Al;0.020%およびN:0.0045%を含み残部が鉄および不可避的不純物の成分組成を有する鋼(鋼4)との2種類の鋼を溶製した。これらを1200℃に加熱後、直径100mmの棒鋼に熱間圧延し、圧延後に500℃までの平均冷却速度が0.18℃/sで室温まで冷却した。その際、結晶粒径を変化させるため、熱間圧延における圧延スケジュール(圧下パスの温度と減面率)ならびにその後の焼鈍温度を種々変化させた。得られた棒鋼について組織観察を行うと共に、引張試験値と磁気特性を測定した。
ここで、引張試験値については、棒鋼の1/4D(D:棒鋼の直径、100mm)の位置から、平行部の直径6mmおよび平行部長さ40mmの試験片を棒鋼の長手方向に採取し、測定に供した。
磁気特性については、得られた棒鋼の中央部から内径33mm、外径45mmおよび厚み5mmのリング状試験片を、リング板面が棒鋼断面に平行になるように採取し、1次巻線100回および2次巻線100回を施し、直流の励磁電流5000A/mでの磁束密度B50ならびに、交流50Hzで磁束密度1.0Tまで励磁したときの鉄損W10/50を測定した。
また、組織観察は、棒鋼の任意の位置、計20箇所から組織観察用試験片を採取し、組織の同定を行った。それぞれの試験片について、各100個の粒を任意に選び、これらの断面積を画像処理によって求め、これと等価な断面積を持つ相当円の直径として計2000個の結晶粒の粒径を個別に算出すると共に、これらの平均値を求めることによって、棒鋼全体の平均結晶粒径を求めた。更に、粒径10μm以下のフェライト粒の面積率(以下、Ρと略記する)は、各視野における組織写真の粒径10μm以下の結晶粒を黒塗りした後、画像解析により求めた。更にまた、後述する電子顕微鏡観察により析出物の大きさを評価した。
組織観察の結果、圧延条件を問わず組織はフェライト単相となっていたが、結晶粒径を変えるために熱間圧延でのパススケジュールならびに焼鈍温度を種々変化させたため、個々のフェライト粒径は2μm程度から100μm程度まで変化していた。
また、析出物の大きさに関しては、成分組成が本発明範囲にある鋼3ではほぼ5nm程度と微細になっていたが、成分組成が本発明範囲から外れた鋼4では20〜30nmと粗大になっていた。
図2に、フェライトの平均結晶粒径と、降伏強度YS、磁束密度B50および鉄損W10/50との関係を示す。
同図から判るように、成分組成が本発明範囲にある鋼3および成分組成が本発明範囲から外れた鋼4はともに、降伏強度YSはフェライト粒径が増加すると低下する傾向を示すが、析出物が5nmと微細な鋼3では、最低でも520MPaと十分高い降伏強度が得られるのに対し、析出物が20〜30nmと粗大な鋼4では、最高でも500MPa未満の降伏強度しか得られない。
磁気特性も、フェライト粒径に依存して変化するが、粒径依存性は鋼3と鋼4で大幅に異なる。成分組成が本発明範囲内であり析出物が5nmと微細な鋼3では、フェライト粒径が小さい場、粒径10μm以下のフェライト粒が10%以下の場合に優れた磁気特性を示す。すなわち、粒径10μm以下のフェライト粒が10%以下ではフェライト平均粒径が60μm以上の範囲で、磁束密度B50は1.67T以上、鉄損は34W/kg以下と、優れた特性を示す。これに対し、粒径10μm以下のフェライト粒が10%超では、フェライト平均粒径が60μm以上でも、磁束密度が最大でも1.66Tであり、鉄損は35W/kg以上となる。
一方、成分組成が本発明範囲外であり、析出物が20〜30nmと粗大な鋼4では、フェライト粒径の増加と共に磁束密度は上昇し、鉄損は低下する傾向を示すが、磁束密度は1.60T以下、鉄損は40W/kg以上と、低位な磁気特性しか示さない。
また、鋼3、鋼4に対してMn含有量が高い鋼5、鋼6についても、同様に平均結晶粒径および粒径10μm以下のフェライト粒の面積率(以下、Ρと略記する)の影響を調査した結果を図3に示す。ここで、鋼5は、成分組成が本発明範囲にある、C:0.075%、Si:0.09%、Mn:2.15%、Ti:0.24%、Mo:0.48%、P:0.018%、S:0.023%、Al:0.029%およびN:0.0041%を含み、残部が鉄および不可避的不純物の成分組成を有する鋼であり、鋼6は、成分組成が本発明範囲から外れた、C:0.072%、Si:0.08%、Mn:2.20%、Ti:0.46%、Mo:0.12%、P:0.015%、S:0.017%、Al:0.031%およびN:0.0030%を含み残部が鉄および不可避的不純物の成分組成を有する鋼である。
図3に、フェライトの平均結晶粒径と、降伏強度YS、磁束密度B50および鉄損W10/50との関係を示す。
同図から判るように、成分組成が本発明範囲にある鋼5および成分組成が本発明範囲から外れた鋼6はともに、降伏強度YSはフェライト粒径が増加すると低下する傾向を示すが、析出物が5nmと微細な鋼5では、最低でも550MPaと十分高い降伏強度が得られるのに対し、析出物が20〜30nmと粗大な鋼6では、530MPa未満の降伏強度しか得られない。
磁気特性も、フェライト粒径に依存して変化するが、粒径依存性は鋼5と鋼6で大幅に異なる。成分組成が本発明範囲内であり析出物が5nmと微細な鋼5では、フェライト粒径が小さく、かつ粒径10μm以下のフェライトの面積率が10%以下の場合に優れた磁気特性を示す。すなわち、粒径10μm以下のフェライトの面積率が10%以下であれば、フェライト平均粒径が60μm以上の範囲で、磁束密度B50は1.66T以上、鉄損は35W/kg以下と、優れた特性を示す。これに対し、同フェライト面積率が10%超では、フェライト平均粒径が60μm以上でも、磁束密度が最大でも1.66Tであり、鉄損は35W/kg超えとなる。
一方、成分組成が本発明範囲外であり、析出物が20〜30nmと粗大な鋼6では、フェライト粒径の増加と共に磁束密度は上昇し、鉄損は低下する傾向を示すが、磁束密度は1.60T以下および鉄損は40W/kg以上と、低位な磁気特性しか示さない。
このように、析出物を5nmと微細にすると高い降伏強度が得られると共に、平均結晶粒径を60μm以上に粗大化させることで、磁気特性にとって有害と考えられてきた析出物の影響が軽減され、さらに粒径10μm以下のフェライトの面積率を10%以下とすることで、さらに優れた磁気特性を得ることができる。そして、かような検討を析出物の大きさが種々変化した鋼について行ったところ、析出物の大きさが10nm未満の場合、何れもフェライト粒径を60μm以上、Ρを10%以下とすることで、高い磁束密度B50と低い鉄損WlO/50が得られた。
更に、この点を確認するため、同様の検討を化学組成、析出物径及びフェライト粒径が種々変化した鋼について行ったところ、析出物の大きさが10nm未満の場合、フェライトの平均粒径を60μm以上とすると共に、粒径10μm以下のフェライトの面積率を10%以下とすれば、高い磁束密度B50ならびに低い鉄損WlO/50が得られることが明らかとなった。従って、磁気特性の点からは、フェライトの平均粒径を60μm以上粒径が10μm以下のフェライトの面積率を10%以下とすることが好ましいのである。
ここで、粒径10μm以下の微細なフェライトが少ない場合には、磁気特性に対する析出物の悪影響が抑制される理由については必ずしも明らかではないが、磁壁移動に対する抑止力と結晶粒径の関係が示唆される。
すなわち、一般に、磁気特性上は磁壁移動が容易な程好ましく、析出物はこの磁壁移動を妨げることで磁気特性に悪影響をおよぼすとされる。ところで、フェライト粒径が増大すると磁区の大きさも増大し、磁区の境界である磁壁の長さも増大する。ここで、磁壁長さが十分に長く、かつ析出物が十分に微細な場合は、析出物による磁壁移動の抑止力と磁壁移動の駆動力との相対関係から、磁壁移動に対する析出物の影響が事実上無視できるようになると推察される。このため、フェライト粒径は大きい程磁気特性上有利となるが、鋼材全体を考えると、フェライト粒径は必ずしも同一ではなく、フェライト粒径にはある程度バラツキがあることに配慮する必要がある。
フェライト粒径にバラツキがあると、フェライトの大きな部分では磁壁は析出物の影響を受けず容易に移動できるが、フェライトの小さな部分では破壁移動が析出物によって妨げられるため、これが磁壁の移動をある程度律速することになる。従って、フェライトの平均的な大きさを増大させることに加えて、磁壁移動の律速となる微細なフェライトが占める割合を低減することが磁気特性上重要となる。このため、粒径10μm以下の微細なフェライトの割合を減じると、磁気特性に対する析出物の悪影響を防止するためのフェライ
トの平均粒径が、微細なフェライトの割合を特段考慮しない場合より低下するものと考えられる。
[製造条件]
以下に、望ましい製造条件について説明する。
加熱温度
本発明では、熱間圧延後の冷却中に析出物を微細に析出させるために、熱間圧延前の鋳片に析出している析出物を、加熱炉にて一旦固溶させる必要がある。その際、加熱温度が1100℃未満であると、Ti−Mo系炭化物等が十分に固溶しないため、加熱温度は1100℃以上とする。
減面率
本発明では優れた磁気特性を得るために、フェライトの平均結晶粒径を60μm以上とする必要があり、そのため熱間圧延での減面率を制御する。その場合、熱間圧延の最終パスにおける減面率を低下させることが有効である。具体的には、これを25%以下にすると粒径60μm以上のフェライトが得られるため、熱間圧延の最終パスにおける減面率については、その上限を25%とする。
仕上温度
本発明では、析出物の析出挙動がフェライト変態の進行と密接に関係しており、圧延後の冷却中に生じるフェライト変態の変態開始温度と析出物の析出開始温度との差が小さく、フェライト変態と析出が競合する場合に、析出物がフェライト中に微細に分散析出する。フェライト変態と析出を競合させるには、フェライト変態の開始温度を下げる必要があるが、熱間圧延における仕上温度が低い場合には、圧延で導入される歪がフェライト変態の開始温度を上昇させ、析出物の微細化を阻害する。これを避けるためには、仕上温度を歪の影響が現れない高温にすれば良く、この点から仕上温度は880℃以上とする。
冷却速度
本発明では、熱間圧延後の冷却中に微細析出物を析出させる。その場合、熱間圧延後の冷却速度が1.0℃/sを超えると、低温変態相が生成して析出が十分に進行せず、高い降伏強度が得られなくなる。そこで、熱間圧延後の冷却速度は1.0℃/s以下とする必要がある。また、冷却速度が1.0℃/s以下であれば、本発明鋼は低Cであるため、フェライト単相組織が得られる。尚、析出は500℃までで実質上終了するため、熱間圧延後から500℃までを1.0℃/s以下の冷却速度で冷却すれば良い。
上述した成分組成を有する鋼素材を用いて、以上説明した製造条件に従い、棒鋼を製造することで、平均結晶粒径60μm以上のフェライト単相の組織に成り、該フェライト中に粒径10nm未満の微細析出物が分散した棒鋼を得ることができる。
本発明では、さらに、微細析出物を十分に析出させ、また組織を均一化させることで、高い強度、磁気特性並びに被削性を兼備させるために、熱間圧延終了後に焼鈍を施してもよい。焼鈍温度を適正とすることにより、上述のように粒径10μm以下のフェライトの面積率を10%以下として、良好な磁気特性を得ることもできる。以下、焼鈍温度の適正範囲について、説明する。
焼鈍温度
以下に、焼鈍温度範囲を決定するために行った実験について詳述する。
成分組成が本発明の範囲にある、C:0.075%、Si:0.09%、Mn:1.62%、Ti:0.24、Mo:0.48%、P:0.015%、S:0.023%、Al:0.025%およびN:0.0038%を含み、残部が鉄および不可避的不純物の成分組成を有する鋼Aを溶製した。これらを1150℃に加熱後、熱間圧延の開始パスにおける減面率が32%および圧延最終パスにおける減面率が15%となる熱間圧延を施し、長さ6mおよび直径120mmの棒鋼にした。圧延終了後、500℃までの平均冷却速度が0.165℃/sで室温まで冷却した。その後、焼鈍温度を500℃から850℃の範囲で種々変化させた。
また、成分組成が本発明の範囲にある、C:0.069%,Si:0.05%,Mn:2.23%,Ti:0.26%,Mo:0.52%,P:0.010%,S:0.022%およびN:0.0035%を含み残部が鉄および不可避的不純物の成分組成を有する鋼Bを溶製した。これらを1180℃に加熱後、熱間圧延の開始パスにおける減面率が35%および圧延最終パスにおける減面率が16%となる熱間圧延を施し、長さ6mおよび直径110mmの棒鋼にした。圧延終了後、500℃までの平均冷却速度が0.160℃/sで室温まで冷却した。その後、焼鈍温度を500℃から850℃の範囲で種々変化させた。
かくして得られた棒鋼について、磁気特性を測定した。磁気特性については、図4に示すように、棒鋼の端面より50cmの断面から1m置きの1/4D位置より、内径33mm、外径45mmおよび厚み5mmのリング状試験片を、リング板面が棒鋼断面に平行になるように採取し、1次巻線100回および2次巻線100回を施し、直流の励磁電流5000A/mでの磁束密度B50並びに交流50Hzで磁束密度1.0Tまで励磁したときの鉄損WlO/50を測定した。
図5、図6に、それぞれ鋼A、鋼Bについての磁気測定結果に及ぼす焼鈍温度の影響を示す。図5より、鋼Aでは焼鈍温度が600℃以上800℃以下である時に、磁気特性のばらつきが少なく、B50が1.67T以上、W10/50が34W/kg以下となっていた。また、図6より、鋼Bでは、焼鈍温度が600℃以上750℃以下である本発明鋼では、磁気特性のばらつきが少なく、B50が1.65T以上、W10/50が36W/kg以下となっていた。これに対し、圧延後の焼鈍を行わない非調質鋼や焼鈍温度が鋼Aで焼鈍温度を600℃以上800℃以下の範囲外とした鋼、および、鋼Bで焼鈍温度が600℃以上750℃以下の範囲外とした鋼は、磁気特性のばらつきが大きく、適正な温度範囲で焼鈍を行った場合に比べ低位の磁気特性を示した。
焼鈍温度が600℃未満では、微細析出物を析出させることができないため、高強度化が図れない。加えて、粒径10μm以下のフェライトの面積率を10%以下とすることができず、また焼鈍を施さない鋼に対して磁気特性と被削性の改善が図れない。したがって、焼鈍温度は600℃以上とする。また、焼鈍温度が高すぎると、微細析出物が粗大化するとともに、焼鈍後の冷却中に第2相が生成することで磁気特性が低下する。鋼中のMn含有量が1.7%以下の場合には、焼鈍温度を800℃以下とすれば良好な磁気特性が確保でき、また、鋼中のMn含有量が1.7%超の場合には、焼鈍温度を750℃以下とすれば良好な磁気特性が確保できることがわかった。
以上のような検討の結果、焼鈍を行う場合の焼鈍温度は、
Mn含有量(質量%)が0.5〜1.7%の時:600℃以上800℃以下
Mn含有量(質量%)が1.7%超〜3.0%の時:600℃以上750℃以下
とする。
[実施例1]
表1に示す組成の鋼を溶製し、これらを表2及び表3記載の条件で所定寸法の棒鋼に熱間圧延した。
熱間圧延においては、加熱温度、パススケジュール、仕上温度及び圧延後から500℃までの冷却速度を変化させた。ここで、冷却速度については、圧延仕上寸法を変え、これを圧延後空冷することで変化させた。
かくして得られた棒鋼について、組織観察並びに引張試験を行うと共に、磁気特性を測定した。
組織観察は、棒鋼の任意の位置、計20箇所から組織観察用試験片を採取し、組織の同定を行うと共に、それぞれの試験片についてJIS G O552の切断法で結晶粒の平均断面積を求め、これより相当円の直径として各試験片の結晶粒径を算出し、更に計20箇所の平均値を求めて、棒鋼全体の平均結晶粒径を求めた。
更に、電解研磨にて薄膜試料を作製し、前記した方法に従い透過型電子顕微鏡(TEM)観察することで析出物の粒子径を測定するとともに、エネルギー分散型X線分光装置(EDX)を併用し、析出物を同定した。引張試験は棒鋼の1/4Dの位置から平行部の直径が6mmおよび平行部長さが40mmの試験片を棒鋼の長手方向に採取し、測定に供した。磁気特性については、棒鋼の中心部から内径33mm、外径45mmおよび厚み5mmのリング状試験片を、リング板面が棒鋼断面と平行になるように採取し、1次巻線100回および2次巻線100回を施し、直流の励磁電流5000A/mでの磁束密度B50ならびに交流50Hzで磁束密度1.0Tまで励磁したときの鉄損W10/50を測定した。
上記した組織観察、引張試験および磁気測定の結果を、表2及び表3に併記する。
表中のNo.は個々の結果を区分するためのものであり、供試鋼と熱延条件の組合せが明示されるように、鋼番と熱延条件を組み合せに基づいて番号を付与(例えば、鋼番1を条件Aで熱間圧延した場合は1−Aとする)した。
組織については、フェライトはF、ベイナイトやマルテンサイト等の低温変態相が生成し、その体積分率が5%以上を超える場合をTと略記した。析出物については、平均粒子径を記載した。尚、粒子径のバラツキは10nm未満の析出物では最大でも±1nm、それ以上の大きさの析出物では±3nmから±5nmであった。尚、組織に低温変態相が生成した場合については、結晶粒径と析出物の粒子径の測定は割愛した。
Figure 0005085964
Figure 0005085964
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表2は、熱間圧延条件を本発明範囲とし、鋼組成の影響を示したものであるが、同表から明らかなように、鋼組成及び熱間圧延条件ともに本発明範囲を満たす本発明例では、500MPa以上の降伏強度が得られており、磁気特性についても磁束密度B50が1.60T以上および鉄損W10/50が40w/kg以下と、高い強度と磁気特性を兼備している。
これに対して、鋼組成が本発明範囲を外れた比較例では、降伏強度が500MPa未満であり、磁気特性も劣っている。
No.17−Aは、C量が低く微細析出物の析出量が不足しており、降伏強度が低い。
No.18−Aは、C量が高く析出物が粗大化しており、降伏強度が低い。析出物が粗大な場合には、詳述したように析出物が磁気特性に悪影響を及ぼすため、磁束密度B50は1.59T、鉄損W10/50は40.4W/kg程度となっており、磁気特性に劣る。
No.19−Aは、Mnが低いためにフェライト変態と析出が十分競合せず、析出物が粗大に析出する結果、降伏強度が低い。また、析出物粗大化による磁気特性の劣化に起因して、鉄損W10/50が43.8W/kgと高い。
Mnの高いNo.20−Aでは、低温変態相が生成し、微細析出物による析出強化が不足するため、降伏強度が低い。また、低温変態相の生成に起因すると思われるが、磁束密度B50が1.55Tと低い。
No.21−Aは、Tiが低いために微細析出物の析出量が不足し、降伏強度が低い。一方、Tiが高いNo.22−Aでは、析出物が粗大化しており、降伏強度が低く、磁束密度B50および鉄損W10/50ともに劣っていた。
No.23−Aは、Moが低いために微細析出物の析出量が不足し、降伏強度が低い。一方、Moが高いNo.24−Aでは、低温変態相が生成しており、微細析出物による析出強化が不足するため降伏強度が低い。また、Mnが高くて同じく低温変態相を生成したNo.20−Aと同様に、磁束密度B50が1.56Tと低くなっている。
また、表3は、本発明鋼である鋼番3を種々の条件で熱間圧した結果であるが、同表から明らかなように、本発明鋼である鋼番3を本発明範囲の条件で熱間圧延した本発明例では、570MPa以上と高い降伏強度が得られており、磁気特性についても、磁束密度B50が1.60T以上、鉄損W10/50が40W/kg以下と優れた値を示している。
ここで、熱間圧延の最終パスにおける減面率に着目すると、減面率によってフェライト粒径が変化し、これが磁気特性に影響を及ぼすことが判る。
すなわち、減面率を25%以下とすると(No.3−D〜No.3−G)、フェライト粒径が60μm以上となる。析出物が10nm未満と微細な場合、フェライト粒径が60μm以上となると、磁気特性に対する析出物の悪影響が無くなるため、減面率が25%以下であるNo.3−D〜No.3−Gは、優れた磁気特性を示している。しかしながら、減面率が25%を超えると、フェライトが粒径60μm未満に細粒化する(No.3−H及びNo.3−I)ため、析出物が1Onm未満と微細であっても、析出物が磁気特性に悪影響を及ぼすようになり、磁束密度B
50が1.58Tおよび鉄損W10/50が42W/kgまで劣化している。このように、磁気特性に対する析出物の悪影響を防止し、高位の磁気特性を得るためには、熱間圧延の最終パスにおける減面率を25%以下とする必要がある。
最終パスにおける減面率に加えて、加熱温度、仕上温度及び冷却速度についても適正化の必要があり、これらが本発明範囲を外れた比較例では、降伏強度が低い。
No.3−Kは、加熱温度が低く、熱間圧延前の鋳片に析出している析出物が加熱炉にて十分に固溶しないため、析出物の微細析出が阻害される結果、降伏強度が低く、加えて磁気特性も目標値を満たさない。析出物に関しては、圧延後の冷却中に微細に析出したと思われるものと、鋳片で析出した析出物の溶け残りと思われるものが混在しており、析出物の平均粒子径は100nm以上となっていた。
No.3−Nは、仕上温度が低く、圧延で導入される歪がフェライト変態の開始温度を上昇させ、フェライト変態と析出の競合を妨げる結果、析出物が粗大し、降伏強度が低下すると共に磁気特性が劣化している。
No.3−Oは、熱間圧延後の冷却速度が過大な例であるが、これのみ冷却速度を増加させるため、圧延後ミスト冷却を行った。冷却速度が速いと冷却中に低温変態相が生成し、微細析出物が十分析出しないため、降伏強度が低下することが判る。
[実施例2]
表4に示す組成の鋼を溶製し、これらを表5および表6に記載の条件に従って、所定寸法の棒鋼に熱間圧延した。熱間圧延においては、加熱温度、パススケジュール、仕上温度および圧延後から500℃までの冷却速度を変化させた。ここで、圧延仕上寸法を変え、この圧延後に空冷することによって、冷却速度を変化させた。さらに、圧延後に、0〜850℃の温度での焼鈍を施した。
かくして得られた棒鋼について、組織観察および引張試験を行うと共に、磁気特性を測定した。組織観察として、捧鋼の任意の位置、計20箇所から組織観察用試験片を採取し、組織の同定を行った。それぞれの試験片について各100個の粒を任意に選び、これらの断面積を画像処理によって求め、これと等価な断面積を持つ相当円の直径として計2000個の結晶粒の粒径を個別に算出すると共に、これらの平均値を求めることで、棒鋼全体の平均結晶粒径を求めた。
また、粒径10μm以下のフェライト粒径の面積率は、各視野における組織写真の粒径10μm以下の結晶粒を黒塗りした後、画像解析により求めた。
更に、電子顕微鏡観察により析出物の大きさを評価した。
更にまた、電解研磨にて薄膜試料を作製し、前記した方法に従い透過型電子顕微鏡(EDX)にて観察することによって析出物の粒子径を測定するとともに、エネルギー分散型X線分光装置(EDX)を併用し、析出物を同定した。
引張試験は棒鋼の1/4Dの位置から平行部の直径が6mmおよび平行部長さが40mmの試験片を棒鋼の長手方向に採取し、測定に供した。
磁気特性については、棒鋼の中心部から内径33mm、外径45mmおよび厚み5mmのリング状試験片を、リング板面が棒鋼断面と平行になるように採取し、1次巻線100回および2次巻線100回を施し、直流の励磁電流1000A/mでの磁束密度B10および励磁電流5000A/mでの磁束密度B50、並びに交流50Hzで磁束密度1.0Tまで励磁したときの鉄損W10/50を測定した。
上記した組織観察、引張試験、磁気測定の結果を表5および表6に示す。
表中のNo.は個々の結果を区分するためのものであり、供試鋼と熱延条件の組合せが明示されるように、鋼番と熱延条件を組み合せて起番した(例えば、鋼番1を条件Aで熱間圧延した場合は1-Aと起番)。
組織については,フェライトはF、べイナイトやマルテンサイト等の低温変態相が生成し、その体積分率が5%以上を超える場合をTと略記した。析出物については平均粒子径を記載した。尚、粒子径のバラツキは10nm未満の析出物では最大でも±1nm、それ以上の大きさの析出物では±3nm〜±5nmであった。尚、組織に低温変態相が生成した場合については、結晶粒径と析出物の粒子径の測定は割愛した。
Figure 0005085964
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表5は、熱間圧延条件を本発明範囲とし、鋼組成の影響を示したものであるが、同表から明らかなように、鋼組成および熱間圧延条件とも本発明範囲を満たす本発明例では500MPa以上の降伏強度が得られており、磁気特性についても、破束密度B50が1.65T以上および鉄損W10/50が34W/kg以下と優れている。
これに対して、鋼組成が本発明範囲を外れた比較例では、降伏強度が低く500MPa未満であり、磁気特性にも劣っている。 No.14−AはCが低く、微細析出物の析出量が不足しており、降伏強度が低い。
No.15−AはCが高く、析出物が粗大化しており、降伏強度が低い。析出物が粗大な場合には、前述したように析出物が磁気特性に悪影響をおよぼすため、磁気特性が劣っている。
No.16−Aは、Mnが低いためフェライト変態と析出が十分競合せず、析出物が粗大に析出する結果、磁気特性が低下する。
Mnの高いNo.17-Aでは低温変態相が生成し、微細析出物による析出強化が不足するため降伏強度が低い。また、低温変態相の生成に起因して、磁束密度B10が0.93T、B50は1.59Tと低い。
No.18−Aは、Tiが低いため微細析出物の析出量が不足し降伏強度が低い。一方、Tiが高いNo.19−Aでは析出物が粗大化しており、降伏強度が低く、磁束密度B50、鉄損W10/50とも低位である。
No.20−Aは、Moが低いため微細析出物の析出量が不足し降伏強度が低い。一方、Moが高いNo.21−Aでは、低温変態相が生成し、微細析出物による析出強化が不足するため降伏強度が低く、磁気特性も劣っている。Mnが高く、同じく低温変態相を生成したNo.17−Aと同様、磁束密度B50が低くなっている。
表6は、本発明鋼である鋼番4を種々の条件で熱間圧延して焼鈍したものの結果を示しているが、同表から明らかなように、本発明例では500MPa以上と高い降伏強度が得られており、磁気特性についても、磁束密度B10が1.00T以上、B50が1.65T以上、鉄損W10/50が34W/kg以下と優れた値を示している。
No.4−G鋼は、焼鈍温度が高いため、析出物が固溶し、冷却中に第2相が析出するため、焼鈍温度が適正の場合に比べると磁気特性が劣っている。
No.4−H鋼は、焼鈍を行わないため、粒径10μm以下のフェライトの面積率が高く、焼鈍温度が適正の場合に比べると、磁束密度B10が低位である。
No.4−I鋼およびNo.4−N鋼は、熱間圧延における圧延最終パスの減面率が高く、フェライトの平均結晶粒径が本発明の下限である60μmを下回っており、かつ10μm以下のフェライトの面積率も高いため、磁気特性が低位である。
熱間圧延における減面率に加えて、加熱温度仕上げ温度および冷却速度についても適正化する必要がある。これらの製造条件が本発明範囲を外れた比較例では、降伏強度が低い。
すなわち、No.4−O鋼は、加熱温度が低いため、熱間圧延前の鋳片の析出物が加熱炉で十分に固溶せず、析出物が粗大化する。その結果、降伏強度が低いことに加え、磁気特性も劣っている。
No.4−S鋼は仕上げ温度が低く、圧延で導入される歪がフェライト変態の開始温度を上昇させ、フェライト変態と析出の競合を阻害する結果、析出物が粗大化し、降伏強度が低下することに加え、磁気特性が劣化する。
No.4−T鋼は、熱間圧延後の冷却速度が過大な例であり、冷却速度を増大させるために圧延後にミスト冷却を行った。冷却速度が速いと低温変態相が析出し、焼鈍を行っても微細析出物が十分に析出しないため、降伏強度が低下する。
[実施例3]
表7に示す組成の鋼を溶製し、これらを表8および表9に記載の条件に従って、所定寸法の棒鋼に熱間圧延した。
熱間圧延においては、加熱温度、パススケジュール、仕上温度および圧延後から500℃までの冷却速度を変化させた。ここで、圧延仕上寸法を変え、この圧延後に空冷することによって、冷却速度を変化させた。さらに、圧延後に、0〜850℃の温度での焼鈍を施した。
かくして得られた棒鋼について、組織観察および引張試験を行うと共に、磁気特性を測定した。
組織観察は、棒鋼の任意の位置、計20箇所から組織観察用試験片を採取し、組織の同定を行った。それぞれの試験片について各100個の粒を任意に選び、これらの断面積を画像処理によって求め、これと等価な断面積を持つ相当円の直径として計2000個の結晶粒の粒径を個別に算出すると共に、これらの平均値を求めることによって、平均結晶粒径を求めた。
また、粒径10μm以下のフェライト粒径の面積率は、各視野における組織写真の粒径10μm以下の結晶粒を黒塗りした後、画像解析により求めた。
更に、電子顕微鏡観察により析出物の大きさを評価した。
更にまた、電解研磨にて薄膜試料を作製し、前記した方法に従い透過型電子顕微鏡(EDX)にて観察することによって析出物の粒子径を測定するとともに、エネルギー分散型X線分光装置(EDX)を併用し、析出物を同定した。
引張試験は棒鋼の1/4Dの位置から平行部の直径が6mmφ、平行部長さが40mmの試験片を棒鋼の長手方向に採取し、測定に供した。
磁気特性については、棒鋼の中心部から内径33mm、外径45mmおよび厚み5mmのリング状試験片を、リング板面が棒鋼断面と平行になるように採取し、1次巻線100回および2次巻線100回を施し、直流の励磁電流1000A/mでの磁束密度B10および励磁電流5000A/mでの磁束密度B50、並びに交流50Hzで磁束密度1.0Tまで励磁したときの鉄損W10/50を測定した。
上記した組織観察、引張試験、磁気測定の結果を表8および表9に示す。
表中のNo.は個々の結果を区分するためのものであり、供試鋼と熱延条件の組合せが明示されるように、鋼番と熱延条件を組み合せて起番した(例えば、鋼番1を条件Aで熱間圧延した場合は1-Aと起番)。
組織については,フェライトはF、べイナイトやマルテンサイト等の低温変態相が生成し、その体積分率が5%以上を超える場合をTと略記した。析出物については平均粒子径を記載した。尚、粒子径のバラツキは10nm未満の析出物では最大でも±1nm、それ以上の大きさの析出物では±3nmから±5nmであった。尚、組織に低温変態相が生成した場合については、結晶粒径と析出物の粒子径の測定は割愛した。
Figure 0005085964
Figure 0005085964
Figure 0005085964
表8は、熱間圧延条件は本発明範囲とし、鋼組成の影響を示したものであるが、同表から明らかなように、鋼組成および熱間圧延条件とも本発明範囲を満たす発明例では500MPa以上の降伏強度が得られており、磁気特性についても、磁束密度B50が1.63T以上、鉄損W10/50が35W/kg以下と優れている。
これに対して、鋼組成が本発明範囲を外れた比較例では、降伏強度が500MPa未満であり、磁気特性にも劣っている。
No.14−AはCが低く、微細析出物の析出量が不足しており、降伏強度が低い。
No.15−AはCが高く、析出物が粗大化しており、降伏強度が低い。析出物が粗大な場合には、前述したように析出物が磁気特性に悪影響をおよぼすため、磁気特性が劣っている。
No.16−AはMnが低いためフェライト変態と析出が十分競合せず、析出物が粗大に析出する結果、強度が低く、磁気特性が低下する。
Mnの高いNo.17−Aでは低温変態相が生成し、微細析出物による析出強化が不足するため降伏強度が低い。また、低温変態相の生成に起因して、磁束密度B10が0.94T、B50が1.55Tと低い。
Tiが高いNo.19−Aでは析出物が粗大化しており、降伏強度が低く、磁束密度B50、鉄損W10/50とも低位である。
No.20−AはMoが低いため微細析出物の析出量が不足し降伏強度が低い。一方Moが高いNo.21−Aでは低温変態相が生成し、微細析出物による析出強化が不足するため降伏強度が低く、磁気特性も劣っている。Mnが高く、同じく低温変態相を生成したNo.17−Aと同様、磁束密度が低くなっている。
表9は、本発明鋼である鋼番2を種々の条件で熱間圧延し、焼鈍した結果であるが、同表から明らかなように、本発明例では500MPa以上と高い降伏強度が得られており、磁気特性についても、磁束密度B10が1.00T以上、B50が1.63T以上および鉄損W10/50が35W/kg以下と優れた値を示している。
No.2−G鋼は焼鈍温度が高いため、析出物が固溶し冷却中に第2相が析出する。その結果、焼鈍温度が適正な場合に比べると、磁気特性は劣っている。
No.2−HとNo.2−M鋼は焼鈍を行わないため、粒径10μm以下のフェライトの面積率が高く、磁束密度B10が、焼鈍を行い場合よりも低いものである。
No.2−I鋼およびNo.2−N鋼は熱間圧延における圧延最終パスの減面率が高く、フェライトの平均結晶粒径が本発明の下限である60μmを下回っており、かつ10μm以下のフェライトの面積率も高いため、磁気特性が低いものである。
熱間圧延における減面率に加えて、加熱温度、仕上げ温度および冷却速度についても適正化する必要がある。これらの製造条件が本発明範囲を外れた比較例では、降伏強度が低い。
No.2−O鋼は加熱温度が低いため、熱間圧延前の鋳片の析出物が加熱炉で十分に固溶せず、析出物が粗大化する。その結果、降伏強度が低いことに加え、磁気特性も劣っている。
No.2−S鋼は仕上げ温度が低く、圧延で導入される歪がフェライト変態の開始温度を上昇させ、フェライト変態と析出の競合を阻害する。その結果、析出物が粗大化し、降伏強度が低下する。また、粗大な析出物に起因して、磁気特性が劣化する。
No.2−T鋼は熱間圧延後の冷却速度が過大な例であり、冷却速度を増大させるために圧延後にミスト冷却を行った。冷却速度が速いと低温変態相が析出し焼鈍を行っても微細析出物が十分に析出しないため、降伏強度が低下する。
フェライトの平均結晶粒径と磁気特性(磁束密度B50、鉄損W10/50)及び降伏強度との関係を示す図。 フェライトの平均結晶粒径が諸特性に及ぼす影響を示す図であり、(a)フェライトの平均結晶粒径と降伏強度との関係を、(b)はフェライトの平均結晶粒径と鉄損W10/50との関係を、(c)はフェライトの平均結晶粒径と磁束密度B50との関係を示す。 他の鋼に関して、フェライトの平均結晶粒径が諸特性に及ぼす影響を示す図であり、(a)フェライトの平均結晶粒径と降伏強度との関係を、(b)はフェライトの平均結晶粒径と鉄損W10/50との関係を、(c)はフェライトの平均結晶粒径と磁束密度B50との関係を示す。 試料採取位置を示す図である。 焼鈍温度と磁気特性との関係を示す図である。 他の鋼に関して、焼鈍温度と磁気特性との関係を示す図である。

Claims (14)

  1. 質量%で
    C:0.04〜0.12%、
    Si:0.5%以下、
    Mn:0.5〜3.0%、
    Al:0.1%以下、
    Ti:0.03〜0.35%および
    Mo:0.05〜0.8%
    を含み、残部Fe及び不可避的不純物の成分組成を有し、平均結晶粒径60μm以上のフェライトの面積率が95%以上の組織からなり、該フェライト中に粒径10nm未満の微細析出物が分散していることを特徴とする電磁棒鋼。
  2. 前記組織は、粒径が10μm以下のフェライトの面積率が10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の電磁棒鋼。
  3. 前記成分組成が、下記(1)式を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の電磁棒鋼。

    0.50≦(C/12)/[(Ti/48)+(Mo/96)]≦1.50 ----(1)
    ただし、化学成分表示は当該成分の含有量(質量%)を示す。
  4. 前記微細析出物が、TiおよびMoの炭化物であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電磁棒鋼。
  5. 前記成分組成として、更に質量%で
    Nb:0.08%以下、
    V:0.15%以下および
    W:1.5%以下
    の1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の電磁棒鋼。
  6. 前記成分組成が下記(2)式を満たすことを特徴とする請求項5に記載の電磁棒鋼。

    0.50≦(C/12)/[(Ti/48)+(Mo/96)+(Nb/93)+(V/51)+(W/184)]≦1.50 ----(2)
    ただし、化学成分表示は当該成分の含有量(質量%)を示す。
  7. 前記微細析出物が、TiおよびMoと、Nb、VおよびWのうちの少なくとも1種とを含む炭化物であることを特徴とする請求項5または6に記載の電磁棒鋼。
  8. 前記成分組成として、更に質量%で
    S:0.01〜0.1%
    を含み、かつ
    Pb:0.2%以下、
    Ca:0.005%以下、
    Bi:0.1%以下および
    B:0.02%以下
    の1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の電磁棒鋼。
  9. 質量%で
    C:0.04〜0.12%、
    Si:0.5%以下、
    Mn:0.5〜3.0%、
    Al:0.1%以下、
    Ti:0.03〜0.35%および
    Mo:0.05〜0.8%
    を含み、残部Fe及び不可避的不純物の成分組成を有する鋼素材を、1100℃以上に加熱したのち、最終パスにおける減面率:25%以下および仕上温度:880℃以上の条件下で熱間圧延を施し、次いで1.0℃/s以下の冷却速度で冷却することを特徴とする電磁棒鋼の製造方法。
  10. 前記冷却を行った後、さらに下記の温度域で焼鈍することを特徴とする請求項9に記載の電磁棒鋼の製造方法。

    Mn含有量(質量%)が0.5〜1.7%のとき:600℃以上800℃以下
    Mn含有量(質量%)が1.7%超〜3.0%のとき:600℃以上750℃以下
  11. 前記成分組成が、下記(1)式を満たすことを特徴とする請求項9または10に記載の電磁棒鋼の製造方法。

    0.50≦(C/12)/[(Ti/48)+(Mo/96)]≦1.50 ----(1)
    ただし、化学成分表示は当該成分の含有量(質量%)を示す。
  12. 前記成分組成として、更に質量%で
    Nb:0.08%以下、
    V:0.15%以下および
    W:1.5%以下
    の1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項9または10に記載の電磁棒鋼の製造方法。
  13. 前記成分組成が下記(2)式を満たすことを特徴とする請求項12に記載の電磁棒鋼の製造方法。

    0.50≦(C/12)/[(Ti/48)+(Mo/96)+(Nb/93)+(V/51)+(W/184)]≦1.50 ----(2)
    ただし、化学成分表示は当該成分の含有量(質量%)を示す。
  14. 前記成分組成として、更に質量%で
    S:0.01〜0.1%
    を含み、かつ
    Pb:0.2%以下、
    Ca:0.005%以下、
    Bi:0.1%以下および
    B:0.02%以下
    の1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項9ないし13のいずれかに記載の電磁棒鋼の製造方法。
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