本発明は、臭気の発生が抑制された、ポリ乳酸系重合体を主体とする成形品さらにはフィルムに関し、さらに詳細には可塑剤などにより柔軟性が付与されたフィルムとして使用の際には、臭気が抑制されていることに加えて可塑剤の揮発や滲出、抽出(ブリードアウト)の問題がなく実用性に優れ、ラップフィルムなど物品や食品の包装用として好適なフィルム、およびこのフィルムに好適に使用される可塑剤に関するものである。
従来、プラスチック廃棄物は主に焼却や埋め立てにより処理されてきたが、焼却による有害副産物の生成・排出や埋立地の減少、さらには不法投棄による環境汚染などの問題が顕在化してきている。このようなプラスチック廃棄物の処理問題について社会的に関心が高まるにつれて、酵素や微生物で分解される生分解性を有するプラスチックの研究開発が盛んに行われており、その中でも、脂肪族ポリエステルが注目されている。最近、特に積極的な研究開発が行われている生分解性の脂肪族ポリエステルとして、ポリ乳酸が挙げられる。
ポリ乳酸は、トウモロコシや芋類などから得られるでんぷんなどを原料として乳酸を製造しさらに化学合成により得られる重合体であり、脂肪族ポリエステルの中でも機械的物性や耐熱性、透明性に優れているため、フィルム、シート、テープ、繊維、ロープ、不織布、容器などの各種成形品への展開を目的とした研究開発が盛んに行われている。しかしながら、通常のポリ乳酸系重合体からなる成形品では特有の臭気を有するため、特に食品用容器や包装材料など、内容物への臭気の移行や味および性質の変化などを嫌う用途においては使用範囲が限られてしまう問題があった。
ポリ乳酸の臭気の問題に関して、重合時あるいは重合反応終了後に減圧下・加熱して残留ラクチドや臭気成分を脱揮する方法や、重合反応終了後に重合触媒の失活剤を添加し減圧下に残留ラクチドや臭気成分を脱揮する方法が開示されている(例えば、特許文献1および2)。しかしながら上記の方法は、ポリ乳酸の重合やペレット化工程における方法であって、引き続いて行う溶融成形やその後の処理については何らの技術的な示唆はなく、また臭気成分に関する具体的、定量的記載もないものであり、ポリ乳酸系重合体からなる成形品の臭気抑制に関しては不十分な技術であった。
さらに、生分解性樹脂を含む成形品を臭気物質吸着剤とともに密閉・被包する技術(例えば特許文献3)、生分解性樹脂を含む成形品の表面に香料成分または消臭成分を含む塗膜を形成する技術(例えば特許文献4)、生分解性樹脂を含む成形品に臭気物質吸着剤を含有させる技術(例えば特許文献5)などが開示されている。しかしながら、生分解性樹脂を含む成形品を臭気物質吸着剤とともに密閉・被包しても成形品中に一定量残存してしまう臭気物質を除去できない、また、生分解性樹脂を含む成形品の表面に香料成分または消臭成分を含む塗膜を形成しても一定量の臭気成分は塗膜を通過してしまい臭気成分の周囲への揮散を十分に抑制できない、あるいは生分解性樹脂を含む成形品に臭気物質吸着剤を含有させても成形品との相溶性が不十分であったり、成形時に臭気物質吸着剤の吸着能が大きく損なわれてしまうために臭気の発生を十分に抑制できないなどの問題があった。
また、ポリ乳酸を各種成形品として展開するため行われている研究開発の中でも、例えば包装用ラップフィルムなどの用途においては、ポリ乳酸はそのままでは柔軟性が不十分なために主に可塑剤の添加による柔軟化技術が各種検討されている。
例えば、通常塩化ビニル用として広く用いられているフタル酸エステルなどの可塑剤を用いる技術が開示されている(例えば、特許文献6)。しかしながら、フタル酸エステルなど通常の可塑剤を添加して柔軟化した場合、添加直後は柔軟性を発現するものの、成形品を大気雰囲気下、特に高温の雰囲気下に放置して時間が経つと、可塑剤が揮発・滲出して柔軟性が著しく低下したり、あるいは透明性が低下するという問題があった。さらには水中、特に熱水中雰囲気では可塑剤が抽出されてやはり柔軟性が著しく低下したり、あるいは透明性が低下するという問題があった。
また、乳酸や線状の乳酸オリゴマーまたは環状の乳酸オリゴマーを可塑剤として使用する技術が開示されている(例えば、特許文献7〜9)。しかしながら、このような乳酸や線状の乳酸オリゴマーまたは環状の乳酸オリゴマーを相当量含んだポリ乳酸は成形時の熱安定性が低く、また通常の使用条件下において容易に加水分解されてしまうために、このような組成物からフィルムなどの成形品を製造しても比較的短期間に強度が落ちて実用性に劣るという大きな欠点があった。さらに、成形品として高温や多湿条件で使用したり、水や溶媒と接触して使用する場合には、可塑剤として成形品中に含有されるラクチドや乳酸オリゴマーが系外に揮発や滲出、抽出(ブリードアウト)したり、臭気を発するといった問題があった。
さらに、ポリ乳酸とポリアルキレンエーテルの共重合体中に、ポリアルキレンエーテルを主成分とする可塑剤を混合した組成物に関する技術が開示されている(例えば、特許文献10)。しかしながら本技術においても、組成物の柔軟性は実用レベルながら、臭気の抑制、さらには可塑剤の揮発や滲出、抽出(ブリードアウト)の抑制といった観点からは未だ不十分な技術であった。
さらに、乳酸を主成分とする重合体と、ポリアルキレンエーテルとポリ乳酸のブロック共重合体とを含む組成物に関する技術が開示されている(例えば、特許文献11)。しかしながら本技術は帯電防止性の付与を目的とした技術であり、制電剤として添加されるブロック共重合体に含まれるポリ乳酸成分の作用については、母材(マトリックス)との化学的な親和性の向上による微分散化以外の示唆はなく、組成物の柔軟性や、成形品とした時の添加剤(可塑剤)の揮発や滲出、抽出(ブリードアウト)、さらには臭気の抑制といった観点から実際に類似技術の追試を試みたが、不十分な技術であった。
また、ポリ乳酸−ポリエチレングリコール−ポリ乳酸三元ブロック共重合体の精製方法の技術が開示されている(例えば、特許文献12)。本技術は、精製により使用目的に応じた狭い分子量分布と狭い共重合組成分布を有するポリ乳酸−ポリエチレングリコール−ポリ乳酸三元ブロック共重合体を得るための技術である。しかしながら、本技術は、医薬品や化粧品用のマイクロカプセル、ナノパーティクル、ナノカプセル等の製造に用いられることを意図しており、この三元ブロック共重合体をポリ乳酸との組成物として使用することや溶融混練などにより実際に組成物とするための方法、さらにはこのような組成物をフィルムなどの成形品として使用することなどについては一切の示唆はない。また、組成物の柔軟性や、成形品とした時の添加剤(可塑剤)の揮発や滲出、抽出(ブリードアウト)、さらには臭気の抑制といった観点から実施例記載の三元ブロック共重合体を実際にポリ乳酸と溶融混練し、組成物と成して評価してみたものの、不十分な技術であった。
以上のように、従来からポリ乳酸に可塑剤を添加するなどして柔軟性を付与する試みはなされていたものの、十分な柔軟性を付与しなおかつ成形品として使用する際には可塑剤の揮発や滲出、抽出(ブリードアウト)、さらには臭気の発生を抑制したポリ乳酸系重合体を主体とする成形品については未だ達成されていないのが実状であった。
また、ポリ乳酸からなるフィルムが本来備える透明性や耐熱性に加えて、主に柔軟性などの特性を付与してゴミ袋や農業用マルチフィルムなどの用途へ適用する技術の検討や、さらには柔軟性や密着性などを付与することにより包装用ラップフィルムなどの用途へ適用するための技術も検討されている。
特に包装用ラップフィルム用途に関しては、例えば、乳酸系脂肪族ポリエステルを主体とする樹脂と液状添加剤を含有する組成物からなる延伸フィルムに関する技術が開示されている(例えば、特許文献13)。しかしながら、該特許文献記載の実施例に従って実際に延伸フィルムの製膜を試みたところ、製膜直後に限れば食品包装用ラップフィルムとして一定レベルの柔軟性、を有するものの、室温にて数週間程度の使用あるいは保管した後には液状添加剤が容易に揮発したり滲出してしまい、被包装物に液状添加剤が付着したり、フィルムの柔軟性が全く損なわれてしまうなど、実用性に欠ける全く不十分な技術であった。以上のように、柔軟性に優れ、さらには臭気の十分抑制されたポリ乳酸系重合体組成物よりなる包装用ラップフィルムは未だ達成されていなかった。
特開平7−173266号公報([0097]〜[0103]段落)
特開平8−301993号公報([0052]〜[0079]段落)
特開2003−127166号公報([0014]〜[0017]段落)
特開2003−128076号公報([0014]〜[0023]段落)
特開2003−128076号公報([0012]〜[0013]段落)
特開平4−335060号公報([0016]〜[0026]段落)
米国特許第5180765号(第10欄第9行〜第11欄第26行)
米国特許第5076983号(第4欄第37行〜第5欄第13行)
特開平6−306264号公報([0012]〜[0022]段落)
特開平8−199052号公報([0004]〜[0022]段落)
特開平8−253665号公報([0005]〜[0017]段落)
特開平9−157368号公報([0016]〜[0022]段落)
特開2000−26623号公報([0005]〜[0044]段落)
本発明の課題は、従来技術ではなしえなかった、臭気の発生が抑制された、ポリ乳酸系重合体を主体とするフィルムなどの成形品、さらには可塑剤などにより柔軟性が付与されたフィルムとして使用の際には、臭気が抑制されていることに加えて可塑剤の揮発や滲出、抽出(ブリードアウト)の問題がなく実用性に優れた包装用ラップフィルム、およびこのフィルムに好適に使用される可塑剤を提供することにある。
上記課題を解決するため本発明のポリ乳酸系重合体を主体とする成形品は、主として次の構成を有する。すなわち、
ポリ乳酸系重合体(A)を主体とするフィルムであって、該フィルムは、ポリ乳酸系重合体(A)と可塑剤(B)を含有する組成物からなり、ポリ乳酸系重合体(A)が、結晶性を有するホモポリ乳酸と非晶性のホモポリ乳酸を併用したものであり、可塑剤(B)が一分子中に分子量が1,500以上のポリ乳酸セグメントを一つ以上有し、さらにポリエーテル系セグメントを有し、該可塑剤(B)のポリエーテル系セグメントが、ポリアルキレンエーテルからなるセグメントであり、該フィルムを不活性ガス下で100℃、30分間加熱して発生する揮発成分のうち、アセトアルデヒド、2,3−ペンタンジオン、メトキシエチルアセテート成分の総量が2μg/g以下であることを特徴とするフィルムである。
また、柔軟性を付与したフィルムとする際に好適に使用される可塑剤としては、主として次の構成を有する。すなわち、
一分子中に、ポリエーテル系および/またはポリエステル系セグメントを有するか、あるいはエーテル結合部分とエステル結合部分をともに有する構造の化合物であって、水分率が0.5wt%以下であることを特徴とするポリ乳酸用可塑剤である。
本発明のポリ乳酸系重合体を主体とする成形品は、従来技術では成し得なかった、臭気の発生が十分に抑制された成形品であり、可塑剤などにより柔軟性が付与されたフィルムとして使用の際には、臭気が抑制されていることに加えて、可塑剤の揮発や滲出、抽出(ブリードアウト)の問題がなく実用性に優れ、特に包装用ラップフィルムを初めとするフィルムなど成形品の分野において従来以上に幅広い利用が可能である。
さらに、本発明の成形品は、従来のプラスチックに対して自然環境中での生分解性が高く、使用後は自然環境中で比較的容易に分解されるという利点を有する。本発明の成形品は、産業界およびプラスチック廃棄物に係る環境問題の解決に寄与するところが非常に大きい。
本発明の成形品はポリ乳酸系重合体(A)を主体とするが、ポリ乳酸系重合体(A)とは、L−乳酸および/またはD―乳酸を主成分とし、重合体中の乳酸由来の成分が70重量%以上のものを示し、実質的にL−乳酸および/またはD―乳酸からなるホモポリ乳酸が好ましく用いられる。また、本発明に用いられるポリ乳酸系重合体は結晶性を有することが好ましく、この場合、後述する一分子中に分子量が1,500以上のポリ乳酸セグメントを一つ以上有し、ポリエーテル系および/またはポリエステル系セグメントを有する可塑剤(B)とを含有する組成物とすることで、柔軟性を付与したうえで可塑剤の揮発や滲出、抽出(ブリードアウト)を十分に抑制できる。ポリ乳酸系重合体が結晶性を有するとは、該ポリ乳酸系重合体を加熱下で十分に結晶化させた後に、適当な温度範囲でDSC(示差走査熱量分析装置)測定を行った場合、ポリ乳酸成分に由来する結晶融解熱が観測されることを言う。ポリ乳酸系重合体(A)として、例えば均一なホモポリ乳酸を用いる場合にはその光学純度が70%以上のホモポリ乳酸を使用すればよい。あるいは、繊維、フィルムなどの成形品として使用する際の用途によっては、必要な機能の付与あるいは向上を目的として、光学純度の異なる2種以上のホモポリ乳酸を併用してもよく、例えば、結晶性を有するホモポリ乳酸と非晶性のホモポリ乳酸を併用することも可能である。この場合、非晶性のホモポリ乳酸の割合は本発明の効果を損ねない範囲で決定すれば良い。また、通常、ホモポリ乳酸は光学純度が高いほど融点が高く、例えば光学純度が98%以上のポリL−乳酸では融点が約170℃程度であるが、成形品とした際に高い耐熱性を付与したい際には、使用するポリ乳酸重合体のうち少なくとも1種に光学純度が95%以上のポリ乳酸を含むことが好ましい。
ポリ乳酸の製造方法には、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸(ラセミ体)を原料として一旦環状2量体であるラクチドを生成せしめ、その後開環重合を行う2段階のラクチド法と、当該原料を溶媒中で直接脱水縮合を行う一段階の直接重合法が知られている。本発明においてホモポリ乳酸を用いる場合はいずれの製法によって得られたものであってもよいが、ラクチド法によって得られるポリマーの場合にはポリマー中に含有されるラクチドが成形時に気化して、例えば溶融製膜時にはキャストドラム汚れやフィルム表面の平滑性低下の原因となったり、臭気成分発生の原因となることがあるため、成形時あるいは溶融製膜以前の段階でポリマー中に含有されるラクチドの含有量を0.3重量%以下とすることが望ましい。また、直接重合法の場合にはラクチドに起因する問題が実質的にないため、成形性あるいは製膜性の観点からはより好適である。本発明におけるポリ乳酸系重合体(A)の重量平均分子量は、通常少なくとも5万、好ましくは8万〜30万、さらに好ましくは10万〜20万である。平均分子量をかかる範囲とする場合には、フィルムなどの成形品とした場合の強度物性を優れたものとすることができる。
また、本発明におけるポリ乳酸系重合体(A)は、L−乳酸、D−乳酸のほかにエステル形成能を有するその他の単量体成分を共重合した共重合ポリ乳酸であってもよい。共重合可能な単量体成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸等の分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体が挙げられる。なお、ポリ乳酸系重合体(A)の共重合成分としては、生分解性を有する成分を選択することが好ましい。
本発明の成形品は、不活性ガス下で100℃、30分間加熱して発生する揮発成分のうち、アセトアルデヒド、2,3−ペンタンジオン、メトキシエチルアセテート成分の総量が2μg/g以下であることを特徴とする。ここで、揮発成分の分析・定量方法は実施例記載の方法に準じる。
通常、ポリ乳酸系重合体を主体とする成形品は、特有の不快感を伴う臭気を有し、この臭気は成形品を加熱すると顕著にその発生が認められる。本発明の発明者らはこの特有の臭気抑制のため鋭意検討を行った結果、該特有の臭気成分のうち主要な成分としてアセトアルデヒド、2,3−ペンタンジオン、メトキシエチルアセテートが含まれていることをつきとめた。なお、アセトアルデヒドは沸点が約21℃、水やエタノールへの溶解性を有する化合物であり、2,3−ペンタンジオンはその他の名称としてエチルメチルジケトン、エチルメチルグリオキサール、2,3−ジケトペンタンなどとも称され、常温で液体、沸点が約108℃、水への溶解性を有する化合物であり、また、メトキシエチルアセテートはその他の名称としてメチルセロソルブ酢酸エステルとも称され、常温で液体、沸点が約145℃、水やその他多くの有機溶媒への溶解性を有する化合物であり、いずれも不快感を伴う強度の臭気特性を有している。これらの化合物は、いずれも生成に至る反応経路の詳細は不明であるが、多くの場合ポリ乳酸系重合体を成形するにあたり加熱溶融時に分解物として生成するものと推定され、ごく少量でも成形品に含有されることで、特有の不快感を伴う臭気の主要な原因となるものである。なお、一般的に、強度の臭気特性を有する化合物が存在する場合、ppmオーダーのごく微量であっても不快感を伴って知覚される場合が多い。
そのため、本発明の成形品は、不活性ガス下で100℃、30分間加熱して発生する揮発成分のうち、アセトアルデヒド、2,3−ペンタンジオン、メトキシエチルアセテート成分の総量が2μg/g以下に抑えることが必須となる。上記した三つの揮発成分の総量が2μg/gを超えると、成形品の臭気が非常に強く、各種容器類やフィルム、繊維などの成形品とした際の商品価値を損ねたり、特に袋やラップフィルムなどの包装材料として使用すると臭気が移行したり内容物を変質させるなどの問題を生じる場合がある。また、これらの化合物は、ポリ乳酸系重合体を140℃以上の高温に加熱する場合において、熱分解(ラジカル分解)や酸化分解、加水分解、エステル交換、あるいはその結果生じた不純物との副反応など複雑な分解反応により生成するが、通常ポリ乳酸系重合体の重合時や溶融成形時には140℃以上の温度に加熱するため、一般的に前述した三つの揮発成分の総量を0とすることは困難である。さらに、上記した三つの揮発成分の総量の範囲は、好ましくは1.5μg/g以下であり、さらに好ましくは0.5μg/g以下であり、より好ましくは0.05μg/g以下である。
また、前述した、アセトアルデヒド、2,3−ペンタンジオン、メトキシエチルアセテートのなかでも、特に2,3−ペンタンジオン、メトキシエチルアセテートの二つの成分はより強度の臭気特性を有している。そのため、本発明の成形品は、不活性ガス下で100℃、30分間加熱して発生する揮発成分のうち、2,3−ペンタンジオン、メトキシエチルアセテート成分の総量が1μg/g以下であることが好ましい。さらに好ましい範囲としては、0.5μg/g以下であり、より好ましい範囲としては、0.05μg/g以下である。
成形品中に含まれる、アセトアルデヒド、2,3−ペンタンジオン、メトキシエチルアセテートの総量を低減し、ひいては揮発成分のうちこれら三つの揮発成分を低減させる手段としては、例えば、ポリ乳酸系重合体などの原料中に含まれる上記の揮発成分をあらかじめ低減、除去する方法、ポリ乳酸系重合体などの原料を合成したり成形したりするため加熱溶融する際の分解による揮発物質生成を抑制する方法、成形したり加工する際あるいはその後に揮発物質を低減、除去する方法等が挙げられる。
例えばフィルムの場合について具体的に例を挙げると、ポリ乳酸系重合体などの原料類の合成時に触媒種や量、反応時間、温度等を調整し合成時の揮発成分生成を抑制する方法、原料の合成時あるいは合成終了後に、減圧下・加熱して揮発成分や、さらには溶融時に揮発成分生成の要因となる残留ラクチドなどのオリゴマー、不純物としての低分子量物などを脱揮処理する方法、原料をペレット化するなどした後に、例えば乾燥工程をかねて、減圧下・加熱して揮発成分や、さらには溶融時に揮発成分生成の要因となる残留ラクチドなどのオリゴマー、不純物としての低分子量物などを脱揮処理する方法、溶融押出性を損ねない範囲で、溶融製膜時の押出温度をより低く、滞留時間をより短く調整し揮発成分の生成を抑制する方法、製膜性を損ねない範囲で延伸後の熱処理温度をより高く、処理時間をより長く調整し揮発成分を除去する方法、あるいは製膜後のフィルムに減圧下や不活性ガス下での熱処理を施し揮発成分を除去する方法、水あるいは有機溶媒を用いて揮発成分を抽出・除去する方法などが挙げられる。好ましくは、原料を水あるいは有機溶媒を用いて、揮発成分や、さらには溶融時に揮発成分生成の要因となる残留ラクチドなどのオリゴマー、不純物としての低分子量物などを抽出、洗浄し除去する方法や原料乾燥時の乾燥温度を90〜120℃、乾燥時間をより長く、真空度をより高く調整する方法、溶融製膜時の押出温度をより低く、滞留時間より短く調整する方法、製膜工程で100〜135℃のより高い温度で10秒以上のより長時間熱処理する方法、製膜後のフィルムを0.1〜30Torrの高真空下、100〜135℃のより高い温度で、処理時間30分以上のより長時間脱揮処理する方法、さらには水あるいは有機溶媒を用いて揮発成分を抽出・除去する方法などが挙げられる。
本発明の成形品を得るために、必要に応じて上記したいずれの方法を用いても良く、また、複数の方法を組み合わせても良いが、不活性ガス下で100℃、30分間加熱して発生する揮発成分のうち、アセトアルデヒド、2,3−ペンタンジオン、メトキシエチルアセテート成分の総量が2μg/g以下となるように、適宜方法を選択・組み合わせれば良い。これらの化合物は、ポリ乳酸系重合体を140℃以上の高温に加熱する場合において、熱分解(ラジカル分解)や酸化分解、加水分解、エステル交換、あるいはその結果生じた不純物との副反応など複雑な分解反応により生成するが、通常ポリ乳酸系重合体の重合時や溶融成形時には140℃以上の温度に加熱する。そのため、例えばフィルムを例にすると、一旦溶融・固化してシートやフィルム状にした後に、生成し、含有される上記成分を製膜工程中の熱処理工程や、或いは製膜後に水や有機溶媒を用いて抽出除去したり、さらには高真空の加熱下で脱揮処理する方法が、上記した揮発成分含有量の低減に効率的である。
本発明のフィルムは、23℃における引張試験により得られる初期引張弾性率が0.1〜2GPaであることが好ましい。フィルムの初期引張弾性率が0.1GPa以上である場合、実用的な寸法安定性に優れ、フィルム製膜および加工工程で伸びや弛みが発生し難く、取扱い性や工程通過性、スリット加工性に優れるフィルムとすることができる。また2GPa以下であると、特に袋やラップフィルムなどの包装材料と使用する際には、包装する物品や食品の形状に追随して変形し易く、効率よく包装するするにあたって好適である。さらに、初期引張弾性率を上記の範囲とした場合、実用的な柔軟性を付与できるため、例えば、包装用ラップフィルムなどの包装材料、農業用フィルム、自動車塗膜保護シート、ごみ袋、堆肥袋などの産業資材、各種軟質塩化ビニルが用いられている工業材料用途など幅広い用途での使用に好適となる。初期引張弾性率のより好ましい範囲としては、0.1〜1.5GPaであり、さらに好ましくは0.15〜1.2GPa、特に好ましくは0.2〜1GPaである。なお、本発明において引張試験とは、23℃の雰囲気下でJIS K7161およびJIS K7127に準じて、テンシロン万能試験機を用い、引張速度300mm/分条件で行う試験を意味する。また、本発明において初期引張弾性率とは、上記引張試験で得られる応力−歪み曲線の最初の直線部分を用いて、直線上の2点間の応力の差を同じ2点間の歪みの差で除し求められる値である。
ポリ乳酸は本来硬質な樹脂であるため、柔軟性を付与するためには一般的に可塑剤の添加や、柔軟化成分の共重合化、さらにはより柔軟な他のポリマーとのブレンドなどの手法が取られる。このうち、一般的に融点降下がほとんどなくまた柔軟性の制御も比較的容易であることから、可塑剤の添加による方法が好ましい。この場合、安定性などの観点から、可塑剤の揮発や滲出、抽出(ブリードアウト)などの現象を抑制することが重要であり、また臭気抑制の観点からは、添加する可塑剤以外の第3成分として微量な低分子量物が系内へ混入し易いがこれを低減し、溶融成形時の臭気成分生成を抑制すること、さらには前述した方法と同様にして成形品から臭気物質を除去することが重要である。
本発明のポリ乳酸用可塑剤は、一分子中に、ポリエーテル系および/またはポリエステル系セグメントを有するか、あるいはエーテル結合部分とエステル結合部分をともに有する構造の化合物であって、水分率が0.5wt%以下であることを特徴とするポリ乳酸用可塑剤である。
ポリ乳酸用可塑剤としては、現在までに様々な化合物が提案されているが、基質となるポリ乳酸系重合体との十分な親和性を有する必要があるため、本発明のポリ乳酸用可塑剤は、少なくともポリエーテル系および/またはポリエステル系セグメントを有するか、あるいはエーテル結合部分とエステル結合部分をともに有する構造の化合物が選択される。また、本発明のポリ乳酸用可塑剤は、好ましくはポリエーテル系および/またはポリエステル系セグメントを有する。
本発明のポリ乳酸用可塑剤は、水分率が0.5wt%以下であることが必要である。水分率が0.5wt%を越える可塑剤をポリ乳酸系重合体に添加した場合には、混練時や加熱溶融して成形する際にポリ乳酸成分の加水分解が進み、さらには加水分解により生じたオリゴマーや低分子量物に起因する熱劣化が進むため、成形品とした際には、特有の臭気成分を有するアセトアルデヒド、2,3−ペンタンジオン、メトキシエチルアセテートの含有量が大きく増加してしまう。また、本発明のポリ乳酸用可塑剤の水分率は、好ましくは0.2wt%以下であり、さらに好ましくは0.1wt%以下である。
さらに、本発明のポリ乳酸用可塑剤は酸価が50当量/t以下であることが好ましい。ポリ乳酸系重合体に可塑剤を添加し加熱溶融、混練した場合、可塑剤がカルボキシル基を有すると、その触媒作用を受けて、極少量併存する水分によっても加水分解が進みやすく、引いては熱劣化が起こり易くなるが、可塑剤の酸価が50当量/t以下であるとこの劣化を良好に抑制し、溶融成形時における、特有の臭気成分を有するアセトアルデヒド、2,3−ペンタンジオン、メトキシエチルアセテートの生成を抑制することができる。同様の観点から、さらに好ましくは可塑剤の酸価は20当量/t以下である。
本発明のポリ乳酸用可塑剤は、ポリエーテル系および/またはポリエステル系セグメント、あるいはエーテル結合部分とエステル結合部分をともに有することに加えて、一分子中に分子量が1,500以上のポリ乳酸セグメントを一つ以上有することが好ましい。この場合、特に、ポリエーテル系および/またはポリエステル系セグメントを有することが好ましく、ポリ乳酸系重合体との組成物とした際には以下の様な効果を発揮する。
すなわち、本発明の好ましい様態のフィルムとしては、ポリ乳酸系重合体(A)と可塑剤(B)を含有する組成物(以下、「組成物(A/B)」と記載する)からなるフィルムであって、ポリ乳酸系重合体(A)が結晶性を有し、可塑剤(B)が一分子中に分子量が1,500以上のポリ乳酸セグメントを一つ以上有し、さらにポリエーテル系および/またはポリエステル系セグメントを有するものである。この場合、可塑剤(B)の有するポリ乳酸セグメントが母材であるポリ乳酸系重合体(A)から形成される結晶中に取り込まれることで可塑剤の分子を母材につなぎ止める作用を生じ、この作用によって可塑剤の揮発や滲出、抽出(ブリードアウト)を十分に抑制することができる。
本発明における可塑剤(B)中のポリ乳酸セグメントの分子量は通常、10,000未満である。分子量が10,000以上の場合、可塑化効率が低くなり、実用的な柔軟性の付与が困難となる場合がある。なお、可塑剤(B)の有するポリ乳酸セグメントは、L−乳酸由来の成分がその95重量%以上であるか、あるいはD−乳酸由来の成分がその95重量%以上であることが好ましく、L−乳酸由来の成分がその98重量%以上であるか、あるいはD−乳酸由来の成分がその98重量%以上であることがさらに好ましい。これらの可塑剤を添加した場合には可塑剤の揮発や滲出、抽出(ブリードアウト)が特に抑制されたポリ乳酸系重合体からなる成形品を得ることができる。
本発明における可塑剤(B)は、可塑剤のポリ乳酸セグメント成分の重量割合が、可塑剤全体の50重量%未満であることが好ましい。この場合、可塑剤の可塑化効率が比較的高いため、より少量の添加で所望の柔軟性を有する耐ブリード性組成物を得ることができる。また、可塑剤のポリ乳酸セグメント成分の重量割合は、可塑剤分子中の可塑化成分割合などの構成にもよるが、通常可塑剤全体の5重量%以上である。なお、本発明のポリ乳酸用可塑剤の好ましい様態についても同様である。
また、本発明のフィルムは、母材であるポリ乳酸系重合体を配向させ、透明性を保持したまま結晶化を促進させることが可能となることから、延伸して用いることが好ましい。延伸倍率は、少なくとも一軸方向に1.1倍以上であることが好ましく、さらに好ましくは少なくとも一軸方向に1.1〜10倍である。さらに、組成物(A/B)を用いた場合には配向結晶化と同時に可塑剤のポリ乳酸セグメントがこの結晶中に取り込まれることを促進することで、可塑剤の揮発や滲出、抽出(ブリードアウト)をさらに抑制することができる。また、配向結晶化によりフィルムの強度物性も向上するため、柔軟性と強度を併せ持つフィルムを得ることができる。フィルムとしての延伸条件は、目的とする熱収縮特性、寸法安定性、強度、弾性率などに応じて、適宜調整し任意の方法で行うことができるが、例えば延伸温度は、用いるポリ乳酸系重合体のガラス転移温度以上、結晶化温度以下で行うことが、延伸性や透明性の点で好ましい。延伸倍率は、フィルムの長手方向、幅方向にそれぞれ1.1倍〜10倍の範囲の任意とすることが好ましく、特に長手方向、幅方向のどちらかの延伸倍率を大きくしてもよく、同一であってもよい。なお、一軸方向の延伸倍率が10倍を超えると、延伸性が低下してフィルムの破断が頻発し、安定した延伸性を得られないことがある。また、延伸温度や延伸(変形)速度などの条件によっては不均一延伸となる場合もあり、一軸方向の好ましい延伸倍率は好ましくは2倍以上、さらに好ましくは2.5倍以上である。また、例えば2軸延伸フィルムとする場合の延伸倍率としては、延伸前後のフィルムの面積割合である面積倍率として、好ましくは4倍以上、さらに好ましくは7倍以上である。
なお、本発明のフィルムに組成物(A/B)を用いる場合、延伸を伴わない場合も含めて、例えばタルクなどの無機系あるいはエルカ酸アミドなどの有機系核剤を併用すると、延伸時の配向結晶化と同様に、可塑剤の有するポリ乳酸セグメントが母材であるポリ乳酸系重合体から形成される結晶中に取り込まれ可塑剤の分子を母材につなぎ止める作用を促進し、この効果によって可塑剤の揮発や滲出、抽出(ブリードアウト)をさらに抑制できる場合がある。
本発明のフィルムに組成物(A/B)を用いる場合、所望の用途で必要な柔軟性や強度などの特性に合わせて適宜可塑剤(B)の添加量を決定すれば良いが、可塑剤のポリ乳酸セグメント成分を除いた可塑化成分の重量割合が、組成物全体の5重量%以上、30重量%以下であることが好ましい。この場合、柔軟性と強度物性などの機械的物性のバランスに優れたフィルムを得ることができる。
また、本発明における可塑剤(B)は、ポリエーテル系および/またはポリエステル系セグメントを有することが好ましい。ポリエーテル系および/またはポリエステル系セグメントを可塑剤(B)に導入することによって、実用的な柔軟性を成形品に付与することができる。ポリエーテル系の中でもポリアルキレンエーテルからなるセグメントを有することが好ましく、ポリエチレングリコールからなるセグメントを有することがさらに好ましい。可塑剤(B)がポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールあるいはポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体などのポリアルキレンエーテル、中でも特にポリエチレングリコールセグメントを有する場合、ポリ乳酸系重合体(A)との親和性が高いため可塑化効率に優れ、特に少量の可塑剤の添加で所望の柔軟性を有する組成物(A/B)を得ることができる。なお、本発明の可塑剤(B)がポリアルキレンエーテルからなるセグメントを有する場合、成形時などで加熱する際にポリアルキレンエーテルセグメント部分が酸化や熱分解され易い傾向があるため、後述するヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系などの酸化防止剤やリン系などの熱安定剤を併用することが好ましい。なお、本発明のポリ乳酸用可塑剤の好ましい様態についても同様である。
また、本発明における可塑剤(B)としては、成型品の臭気を抑制する観点より、水分率が0.5wt%以下の可塑剤(B)を用いることが好ましく、さらに好ましくは0.2wt%以下、特に好ましくは0.1wt%以下である。同じく成型品の臭気を抑制する観点より、酸価が50当量/t以下の可塑剤(B)を用いることも好ましく、さらに好ましくは20当量/t以下である。
なお、本発明における可塑剤(B)のポリ乳酸セグメント以外の成分としては、生分解性を有する成分を選択することが好ましい。
さらに、本発明のフィルムは、90℃、30分間の熱水処理後の重量減少率が2%以下であることが好ましい。この場合、フィルムを熱水と接して使用する際には流出物で周囲を汚染したり、フィルムの柔軟性が失われたりする等の問題がほとんどなく、例えば、包装材として用い、食品を包装して水中で加熱使用する場合には内容物に移行したりする恐れも非常に低く、実用性に優れた、特に袋やラップフィルムなどの包装材料に好適なフィルムとすることができる。本発明のフィルムは、90℃、30分間の熱水処理後の重量減少率が1%以下であることがさらに好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。
なお、本発明の成形品は、本発明の効果を損なわない範囲で上記した特定の可塑剤以外の成分を含有してもよい。例えば、公知の各種可塑剤、酸化防止剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、離型剤、抗酸化剤、イオン交換剤あるいは着色顔料等として無機微粒子や有機化合物を必要に応じて添加してもよい。公知の可塑剤としては、例えば、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジシクロヘキシルなどのフタル酸エステル系、アジピン酸ジ−1−ブチル、アジピン酸ジ−n−オクチル、セバシン酸ジ−n−ブチル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシルなどの脂肪族二塩基酸エステル系、リン酸ジフェニル−2−エチルヘキシル、リン酸ジフェニルオクチルなどのリン酸エステル系、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリ−2−エチルヘキシル、クエン酸トリブチルなどのヒドロキシ多価カルボン酸エステル系、アセチルリシノール酸メチル、ステアリン酸アミルなどの脂肪酸エステル系、グリセリントリアセテート、トリエチレングリコールジカプリレートなどの多価アルコールエステル系、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油脂肪酸ブチルエステル、エポキシステアリン酸オクチルなどのエポキシ系可塑剤、ポリプロピレングリコールセバシン酸エステルなどのポリエステル系可塑剤、ポリアルキレンエーテル系、エーテルエステル系、アクリレート系などが挙げられる。なお、安全性の面から、米食品衛生局(FDA)の認可がなされている可塑剤を用いることが好ましい。酸化防止剤としてはヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系などが例示される。着色顔料としてはカーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄などの無機顔料の他、シアニン系、スチレン系、フタロシアイン系、アンスラキノン系、ペリノン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、キノクリドン系、チオインディゴ系などの有機顔料等を使用することができる。また、成形品の易滑性や耐ブロッキング性の向上を目的として、無機微粒子を添加する際には、例えば、シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナゾル、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウムなどを用いることができる。その平均粒径は、特に限定されないが、0.01〜5μmが好ましく、より好ましくは0.05〜3μm、最も好ましくは0.08〜2μmである。
さらに、本発明の成形品は、溶融粘度を低減させたりあるいは生分解性を向上させるなどの目的で、本発明の効果を損なわない範囲でポリ乳酸系重合体(A)以外の脂肪族ポリエステルを含有しても良い。ポリ乳酸系重合体以外の脂肪族ポリエステルとしては、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート・3−ヒドロキシバリレート)、ポリカプロラクトン、あるいはエチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの脂肪族ジオールとコハク酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸よりなるポリエステル、ポリグリコール酸などの脂肪族ポリヒドロキシカルボン酸などが挙げられる。
なお、本発明のフィルムに、ポリ乳酸系重合体(A)や一分子中に分子量が1,500以上のポリ乳酸セグメントを一つ以上有し、ポリエーテル系および/またはポリエステル系セグメントを有する可塑剤(B)以外の成分を含有させる場合は、生分解性を有する成分を選択することが好ましい。
本発明の可塑剤(B)は、例えば、あらかじめ分子量が1,500以上のポリ乳酸オリゴマーをラクチド開環法あるいは乳酸縮合重合法などの常法により重合し、一つ以上の官能基を有する、可塑剤の主成分と成すポリエーテル系および/またはポリエステル系セグメントを有する化合物と適量反応させることで得ることができるが、可塑剤の主成分と成す化合物を重合開始剤としてラクチドの開環重合によりこれに付加する、あるいは可塑剤の主成分と成す化合物を重合開始剤とし乳酸の脱水縮合重合によりこれに付加しても良い。また、分子量が1,500以上のポリ乳酸オリゴマーと可塑剤の主成分と成す化合物の併存下で加熱混練などの処理により、ジカルボン酸無水物系化合物やジイソシアネート系化合物などの2官能性化合物を鎖連結剤として作用させて、両者を化学的に結合させても良い。なお、本発明のポリ乳酸用可塑剤の好ましい様態についても同様である。
次に、一分子中に分子量が1,500以上のポリ乳酸セグメントを一つ以上有し、ポリエーテル系および/またはポリエステル系セグメントを有する可塑剤(B)のより具体的な例を説明する。なお、以下は、本発明のポリ乳酸用可塑剤の好ましい様態についても同様である。
両末端に水酸基末端を有するポリエチレングリコール(PEG)を用意する。両末端に水酸基末端を有するポリエチレングリコール(PEG)の平均分子量(MPEG)は、通常、市販品などの場合、中和法などにより求めた水酸基価から計算される。両末端に水酸基末端を有するポリエチレングリコール(PEG)wB重量部に対し、ラクチドwA重量部を添加した系において、PEGの両水酸基末端にラクチドを開環付加重合させ十分に反応させると、実質的にPLA(A)−PEG(B)−PLA(A)型のブロック共重合体を得ることができる。この反応は、必要に応じてオクチル酸錫などの触媒併存下でおこなわれる。このブロック共重合体からなる可塑剤の一つのポリ乳酸セグメントの数平均分子量は、実質的に(1/2)×(wA/wB)×MPEGと求めることができる。また、ポリ乳酸セグメント成分の可塑剤全体に対する重量割合は、実質的に100×wA/(wA+wB)%と求めることができる。さらに、ポリ乳酸セグメント成分を除いた可塑化成分の可塑剤全体に対する重量割合は、実質的に100×wB/(wA+wB)%と求めることができる。前記に例示した数値は、実際には平均値としての値となり生成した可塑剤の分子量やポリ乳酸部分のセグメント長などは一定の分布を有するが、前記した値のA−B−A型ブロック共重合体を主成分とする化合物を得ることができる。
可塑剤が未反応PEGや末端のポリ乳酸セグメント分子量が1,500に満たないPEGなどの未反応物や、ラクチドオリゴマーなどの副生成物、あるいは、不純物を多量に含む場合には、例えば次の精製方法によりこれを除去することが好ましい。通常、ラクチドオリゴマーやこれが加水分解した乳酸を精製により除去することで、可塑剤の酸価を大きく低減することができる。精製方法としては、例えば、クロロホルムなどの適当な良溶媒に、合成した可塑剤を均一溶解した後、水/メタノール混合溶液やジエチルエーテルなど適当な貧溶媒を滴下する。あるいは、大過剰の貧溶媒中に良溶媒溶液を加えるなどして沈殿させ、遠心分離あるいはろ過などにより沈殿物を分離した後に溶媒を揮散させる。可塑剤を水に浸漬後50〜90℃に加熱し必要に応じて攪拌の後、可塑剤を含有する有機相を抽出し乾燥して水を除去する。精製方法は上記に限られず、また、必要に応じて上記の操作を複数回繰り返しても良い。
上記した方法で、PLA(A)−PEG(B)−PLA(A)型のブロック共重合体の可塑剤を作成した場合、作成した可塑剤が有する一つのポリ乳酸セグメントの分子量は、次の方法で求めることができる。すなわち、可塑剤の重クロロホルム溶液を用いて、1H−NMR測定により得られたチャートを基に、(1/2)×(IPLA×72)/(IPEG×44/4)×MPEGと算出する。ただし、IPEGは、PEG主鎖部のメチレン基の水素に由来するシグナル積分強度、IPLAは、PLA主鎖部のメチン基の水素に由来するシグナル積分強度である。可塑剤合成時のラクチドの反応率が十分に高くほぼ全てのラクチドがPEG末端部に開環付加する条件にて合成した場合は、多くの場合、1H−NMR測定により得られたチャートを基にした方法が好ましい。
なお、本発明における組成物(A/B)から成形品を得た後などに、可塑剤(B)のポリ乳酸セグメント分子量などの評価のために使用した可塑剤(B)を分離する方法としては、例えばクロロホルムなどの適当な良溶媒に組成物(A/B)を均一溶解した後、水や水/メタノール混合溶液など適当なポリ乳酸系重合体(A)の貧溶媒に滴下してろ過などによりポリ乳酸系重合体(A)を主に含む沈殿物を除去し、ろ液の溶媒を揮散させて分離した可塑剤を得る方法などが挙げられるが、これに限られるものではなく、使用する可塑剤やポリ乳酸系重合体などに応じて適当な手法を選択し、あるいは組み合わせると良い。
例えば上述した方法により得られた、一分子中に分子量が1,500以上のポリ乳酸セグメントを一つ以上有するPLA(A)−PEG(B)−PLA(A)型のブロック共重合体を可塑剤(B)として使用すれば、従来技術ではなしえなかった、十分な柔軟性を有し臭気が抑制されていることに加えて可塑剤の揮発や滲出、抽出(ブリードアウト)の問題がなく実用性に優れた、特に包装用ラップフィルムに好適なフィルムを提供するにあたり十分な効果を得ることができる。
また、ポリ乳酸系重合体(A)に前述した可塑剤(B)を添加する方法としては、ポリ乳酸系重合体の溶融状態で可塑剤を所望の重量割合にて添加・溶融混練することで得ることができるが、ポリ乳酸系重合体の高重合度化、ラクチドや残存低分子量物の抑制などの観点から、ポリマーの重合反応終了後に可塑剤を添加・溶融混練することが好ましい。また、本発明のポリ乳酸用可塑剤ではポリ乳酸系重合体へ添加・溶融混練する際の水分率の管理が重要である。通常雰囲気下での保管などにより水分率の高くなった可塑剤を使用する際には、あらかじめ加熱・減圧下で脱水するなどして可塑剤の水分率を0.5wt%以下とすると良い。さらに、上述したポリ乳酸系重合体と可塑剤の添加・溶融混練方法としては、例えば、重縮合反応終了直後、溶融状態のポリ乳酸系重合体に可塑剤を添加し攪拌・溶融混練させる方法、ポリ乳酸系重合体のチップに可塑剤を添加・混合した後に反応缶あるいはエクストルーダなどで溶融混練する方法、エクストルーダ中でポリ乳酸系重合体に必要に応じて加熱するなどして液状とした可塑剤を連続的に添加し、溶融混練する方法、可塑剤を高濃度含有させたポリ乳酸系重合体のマスターチップとポリ乳酸系重合体のホモチップとを混合したブレンドチップをエクストルーダなどで溶融混練する方法などにより行うことができる。
本発明の成形品では既存の溶融成形法により得ることができるが、特にアセトアルデヒド、2,3−ペンタンジオン、メトキシエチルアセテートなどの揮発成分含有量を低減させる方法を含めて、フィルムを例にして以下に説明する。
フィルムでは、インフレーション法、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法などの既存の延伸フィルムの製造法により得ることが出来る。いずれの場合にも使用するポリ乳酸系重合体の水分量に加えて、ラクチドや残存低分子量物、揮発成分含有量を低減するため、80℃〜120℃にて真空乾燥し、真空度を10Torr以下の高真空とし、乾燥時間は6時間以上とすることが好ましい。また、さらに好ましい方法としては、ポリ乳酸重合体を10倍体積量以上のアセトンに24時間以上浸漬したのち、アセトン溶液を分離してさらに真空乾燥する方法が挙げられる。逐次二軸延伸法や同時二軸延伸法でのフィルムの製造においては、ポリ乳酸系重合体あるいはこれを主体とする組成物を公知の方法でスリット状の口金よりシート状に溶融押し出しすることができるが、押出し機やポリマー配管、口金などの温度は200℃以下が好ましく、190℃以下がさらに好ましく、180℃以下がより好ましい。また、ポリ乳酸重合体組成物が押出し機内で溶融されてから口金より吐出されるまでの滞留時間は20分以下であることが好ましく、10分以下であることがさらに好ましく、5分以下であることがより好ましい。押出されたシート状の溶融物はキャスティングドラムに密着させて冷却固化せしめて未延伸フィルムを得る。ポリ乳酸系重合体(A)に可塑剤(B)を添加する方法は、例えば、可塑剤を高濃度含有させたポリ乳酸系重合体のマスターチップとポリ乳酸系重合体のホモチップとを混合したブレンドチップをエクストルーダなど製膜機の押出系へ供して溶融混練しても良いが、組成物の熱劣化を最小限にしラクチド含有量を低減するためには、2軸の押出機を使用するなどして押出機中で溶融したポリ乳酸系重合体に、必要に応じて加熱するなどして液状とした可塑剤を計量しつつ連続的に添加し、溶融混練する方法が好ましい。さらに2軸押出機の途中にベントポートを設け、ベントポートの減圧化により溶融時に発生する揮発成分を除去する方法がより好ましい。かかる方法で得た未延伸フィルムを連続して少なくとも一方向に延伸した後、必要に応じて1段目延伸方向と直交する方向に延伸する。延伸に引き続いてあるいは一旦巻き取った後、100〜135℃のより高い温度で、10秒以上のより長時間熱処理しフィルム中の揮発成分を除去することが好ましい。製膜後のフィルムを0.1〜30Torrの高真空下、100〜135℃のより高い温度で、処理時間30分以上のより長時間脱揮処理する方法が好ましい。
さらに、フィルムに成形した後に、印刷性、ラミネート適性、コーティング適性などを向上させる目的で各種の表面処理を施しても良い。表面処理の方法としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、酸処理などが挙げられ、いずれの方法をも用いることができが、連続処理が可能であり、既存の製膜設備への装置設置が容易な点や処理の簡便さからコロナ放電処理が最も好ましいものとして例示できる。
本発明のフィルムの厚さは特に制限はなく、用途に応じて要求される性能、例えば、柔軟性、機械特性、透明性、生分解速度、価格などにより適宜な厚さにすればよいが、通常5μm以上、1mm以下であり、特に5μm以上、200μm以下の範囲が好んで選択される。また、包装用ラップフィルム、中でも食品包装用ラップフィルムとしては、5μm以上、25μm以下の範囲が好んで選択される。
本発明のフィルムは、フィルムヘイズ値が0.2〜5%であることが好ましい。フィルムヘイズ値は、実施例に記載の方法にて評価され、実際の測定値から比例計算によりフィルム厚さが10μmの場合に換算して得られる値を言う。特に包装用ラップフィルム、中でも食品包装用ラップフィルムの用途においては、フィルムヘイズ値が0.2〜5%であれば内容物を容易に見分けることができ、好適である。フィルムヘイズ値の好ましい範囲としては、0.2〜3%であり、さらに好ましい範囲は0.2〜1.5%である。また、実際の測定値においてもフィルム厚さにかかわらず10%以下であることが好ましい。さらに、ゴミ袋や農業用マルチフィルムなどむしろ一定の隠蔽性が必要とされたり、光線透過率が低いあるいは太陽光などの吸収率が高い方が好ましい用途においては、必要に応じて例えば着色顔料などを添加すると良い。
また、本発明の成形品が繊維である場合についても、既存の溶融紡糸法により得ることができる。すなわち、乾燥処理されたポリ乳酸系重合体をはじめとする原料ポリマーを例えばエクストルーダーやプレッシャーメルターで溶融した後メタリングポンプによって計量し、紡糸パック内等で濾過を行った後、口金から吐出される。吐出された糸は冷却風等によって冷却・固化された後、油剤を付与されて、引き取られ、その後延伸される。口金の吐出孔径は丸断面の場合0.2〜1.0mm程度が好ましく使用される。冷却域では、常温、加熱あるいは冷却されたの気体を、15〜50m/分の速度で吹き付ければよい。この冷却域の条件も、紡出される糸条の粘度、単糸太さ、ドラフト率、単糸数等の設定条件て選択すればよい。
延伸に当たっては延伸の前に一旦巻き取る2工程法を用いても、紡糸後巻き取ることなく引き続いて延伸を行う直接紡糸延伸法を用いてもどちらでも構わない。引き取り速度は繊維強度の観点から4000m/分以下、また生産性の観点から300m/分以上であることが好ましい。延伸倍率は引き取り速度によって変わり、用途によって適宜調整されればよい。さらに、紡出直下、冷却・固化の前には加熱帯を設置して糸条をポリマーの融点以上の温度に加熱し、繊維の強度を高めることが好ましい。延伸は1段延伸でも2段以上の多段延伸でも構わないが、強度を得る観点からは2〜4段延伸が好ましく、巻き取り前にはポリマーの融点より20〜80℃程度低い温度で熱処理が行われることが好ましく、また寸法安定性の観点から1〜20%の弛緩処理が行われることが好ましい。
本発明の成形品の繊維としての形態は特に限られないが、例えば、マルチフィラメント、ステープルファイバー、トウ、スパンボンドなどとして用いることができる。また単繊維繊度は使用形態や、機械的強度、生分解速度などの要求特性に応じて選択すればよいが、通常0.5dtex以上、11111dtex以下である。また、マルチフィラメントとしての総繊度では33dtex以上、11111dtex以下とすることが好ましい。さらに、断面形状は、丸、扁平、中空、Y型、T型、多角形など任意であるが、製糸性の観点から丸断面が好ましい。
本発明の成形品は、従来技術では成し得なかった、臭気の発生が十分に抑制された成形品であり、従来以上に広い分野での利用が可能である。例えば、フィルムやシートでは包装用ラップフィルムなどの包装材料、農業用フィルム、自動車塗膜保護シート、ごみ袋、堆肥袋などの産業資材、各種軟質塩化ビニルが用いられている工業材料用途、繊維分野では衣料用途、漁網、海苔網、植生保護用不織布、土木用ネット、土嚢、育苗用ポット、農業用資材、水切り袋などの用途、その他の成形品では飲料や化粧品のボトル、ディスポーザブルカップ、トレイなどの容器類、育苗ポット、植木鉢などが挙げらる。
本発明のフィルムに組成物(A/B)を用いる場合、上述した形態のなかでも体積比表面積が大きく、臭気の原因となる揮発物質が揮散し易く、また可塑剤の揮発や滲出、抽出(ブリードアウト)が問題となり易いフィルムの分野において特に有効である。例えば、包装用ラップフィルムとして使用する場合では、使用開始直後から実用上十分な柔軟性や透明性および強度物性を併せ持ち、使用時においては経時における可塑剤の揮発や滲出、抽出(ブリードアウト)が事実上ほとんどないために柔軟性や透明性は使用開始時の性能を使用期間の長期にわたって維持することができ、さらに、特に加熱使用時においても強い臭気を発生するといった問題がない。また可塑剤として生分解性を有するものを含有させた場合には、使用後は食品などの内容物とともに分別することなくそのままコンポスト化可能な包装用ラップフィルムを得ることができる。さらには経時安定性に富んでいるため製造後長期間経た後でも劣化することもなく当初の性能を発揮するフィルムを得ることができる。また、フィルム製膜後に行われる、各種後加工工程で種々の乾熱加工時や高温雰囲気中で処理した後においても、安定した柔軟性や透明性を有するフィルムとすることができる。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、実施例中の物性は次の方法で測定した値である。
(1)揮発成分の分析・定量方法:
熱脱離装置としてヘッドスペースサンプラーJHS−100A型(日本分析工業社製)を用い、成形品試料0.5gをJHS−100A用試料管(約10cm×1cmφ)に採取し、Heを流しながら100℃、30分間加熱し、発生した揮発成分を−40℃のTENAX−TA管に一旦捕集した。さらに、このTENAX−TA管をGC/MS装置に接続してから急速加熱(220℃、20分間)により捕集した揮発成分を脱離させ、GC/MS装置に導入し、揮発成分のうち、アセトアルデヒド、2,3−ペンタンジオン、メトキシエチルアセテートの各成分量を測定した。GC装置にはHP5890型(ヒューレットパッカード社製)を、MS装置にはJMS SX102A型質量分析計(日本電子社製)を、データ処理にはMS−MP7000データ処理システム(日本電子社製)を用いた。GC用カラムには“Pora PROT Q”(クロムパック社製、30m×0.25mmID)を使用し、カラム温度:60℃(4分ホールド)〜250℃(昇温速度:8℃/分)、キャリアーガス:He、注入口温度:270℃とした。また、MS装置のイオン化方式:EI、イオン化エネルギー:70eVとした。
また、既知濃度のエタノール標準ガスで検量線を作成し、作成した検量線を用いて、検出されたアセトアルデヒド、2,3−ペンタンジオン、メトキシエチルアセテートの各揮発成分を定量し、発生量を次式により求めた。
揮発成分発生量(μg/g)=検出量(μg)/成形品試料量(g) 。
(2)フィルムの初期引張弾性率[GPa]
フィルムサンプルを長手方向150mm、幅方向10mmに切り出し、あらかじめ温度23℃、湿度65%RHの雰囲気下で24時間調湿した。この試料を23℃の雰囲気下でJIS K7161およびJIS K7127に準じて、テンシロン万能試験機UTC−100型(株式会社オリエンテック)を用い、初期長50mm、引張速度300mm/分条件で引張試験を行った。次いで引張試験で得られた応力−歪み曲線の最初の直線部分を用いて、直線上の2点間の応力の差を同じ2点間の歪みの差で除し、計5回の試験を行い、平均値を求め、これを初期引張弾性率とした。
(3)熱水処理後の重量減少率[%]
あらかじめ、温度23℃、湿度65%RHの雰囲気下で24時間調湿した二軸延伸フィルムサンプルについて処理前の重量を測定し、90℃の蒸留水中で30分間処理した後に再度処理前と同様の条件で調湿してから重量を測定した。重量減少率は、処理前後での重量変化(減少)の処理前の重量に対する割合として算出した。
(4)フィルムヘイズ値[%]
フィルムサンプルを長手方向40mm、幅方向に30mmに切り出し、温度23℃、湿度65%RHの雰囲気下で24時間調湿した。この試料を23℃の雰囲気下でJIS K7136に準じて、ヘイズメーターHGM−2DP(スガ試験器株式会社)を用い、計5回測定してその平均値を求め、厚み10μmのフィルムとした場合の換算値としてフィルムヘイズ値%を求めた。
なお、上記測定器により得られるフィルムヘイズ値は、散乱光透過率を全光線透過率で除し、100を乗じて得られる値である。
(5)加熱時の臭気:
成形品サンプル2gを120℃のホットプレート上に置き、直ちにガラス製のシャーレを下向きにして覆い被せて1分間放置した後、覆い被せたシャーレを取り除いた直後の臭気の有無を下記基準にて評価した。
◎:無作為に抽出した10人中9人以上が臭気を感じない。
○:無作為に抽出した10人中7人以上が臭気を感じない。
△:無作為に抽出した10人中5人以上が臭気を感じない。
×:上記以外。
(6)可塑剤の水分率[wt%]
カ−ルフィッシャ−水分計MKC−510N(京都電子工業株式会社)を使用してカールフィッシャー法(電量滴定法)により測定した。
(7)可塑剤の酸価[当量/t]
精秤した試料をo−クレゾール(水分5%)調整液に溶解し、この溶液にジクロロメタンを適量添加の後、0.02規定のKOHメタノール溶液にて滴定することにより測定した。
本実施例で用いたポリ乳酸系重合体、脂肪族ポリエステル、可塑剤は次のとおりにして得られた。
<ポリ乳酸系重合体(P1)>
L−ラクチド100重量部に対しオクチル酸錫を0.1重量部、ラウリルアルコールを0.1重量部混合し、撹拌装置付きの反応容器中で窒素雰囲気中190℃で15分間重合し、さらに2軸混練押出し機にてチップ化した後、140℃の窒素雰囲気下で3時間固相重合してポリ乳酸系重合体P1を得た。P1についてDSC測定を行ったところ、P1は結晶性を有し、結晶化温度は128℃、融点は172℃であった。
<ポリ乳酸系重合体(P2)>
L−ラクチド65重量部およびDL−ラクチド35重量部に対しオクチル酸錫を0.1重量部、ラウリルアルコールを0.1重量部混合し、撹拌装置付きの反応容器中で窒素雰囲気中190℃で3時間重合し、さらに2軸混練押出し機にてチップ化してポリ乳酸系重合体P2を得た。P2についてDSC測定を行ったところ、P2は結晶性を示さず、結晶化温度および融点は観測されなかった。
<脂肪族ポリエステル(P3)>
昭和高分子社製PBSA系樹脂:“ビオノーレ”#3001を用いた。
<可塑剤(S1)>
平均分子量8,000のポリ(1,3−ブタンジオールアジペート)40重量部とL−ラクチド60重量部に対し、オクチル酸錫0.05重量部を混合し、撹拌装置付きの反応容器中で窒素雰囲気中190℃で60分間重合し、両末端に平均分子量6,000のポリ乳酸セグメントを有する、ポリ(1,3−ブタンジオールアジペート)とポリ乳酸のブロック共重合物を得た。この化合物をクロロホルムに溶解し撹拌した後、クロロホルムの20倍体積量のジエチルエーテル中に投入し沈殿物を得た。この沈殿物をろ過・分離し、10torrの高真空下、常温で24時間乾燥して可塑剤(S1)を得た。
<可塑剤(S2)>
平均分子量2,000のポリプロピレングリコールの両末端にエチレンオキサイドを付加反応させて作成した、分子量10,000のポリプロピレングリコール・エチレングリコールブロック共重合体71重量部とL−ラクチド29重量部に対し、オクチル酸錫0.07重量部を混合し、撹拌装置付きの反応容器中で窒素雰囲気中190℃で60分間重合し、両末端に平均分子量2,000のポリ乳酸セグメントを有する、ポリプロピレングリコール・エチレングリコールとポリ乳酸のブロック共重合物を得た。この化合物をクロロホルムに溶解し撹拌した後、クロロホルムの20倍体積量のジエチルエーテル中に投入し沈殿物を得た。この沈殿物をろ過・分離し、10torrの高真空下、常温で24時間乾燥して可塑剤(S2)を得た。
<可塑剤(S2’)>
可塑剤(S2)と同様の重合方法により得た、両末端に平均分子量2,000のポリ乳酸セグメントを有する、ポリエチレングリコールとポリ乳酸のブロック共重合物を用い、クロロホルム/ジエチルエーテルによる精製操作を行わずそのまま可塑剤(S2’)として用いた。
<可塑剤(S3)>
平均分子量10,000のポリエチレングリコール71重量部とL−ラクチド29重量部に対し、オクチル酸錫0.07重量部を混合し、撹拌装置付きの反応容器中で窒素雰囲気中190℃で60分間重合し、両末端に平均分子量2,000のポリ乳酸セグメントを有する、ポリエチレングリコールとポリ乳酸のブロック共重合物を得た。この化合物をクロロホルムに溶解し撹拌した後、クロロホルムの20倍体積量のジエチルエーテル中に投入し沈殿物を得た。この沈殿物をろ過・分離し、10torrの高真空下、常温で24時間乾燥して可塑剤(S3)を得た。
可塑剤(S3)の重クロロホルム溶液を1H−NMR測定して得られたチャートを基に、
(1/2)×(IPLA×72)/(IPEG×44/4)×MPEG
(ただし、IPEG:PEG主鎖部のメチレン基の水素に由来するシグナル積分強度、IPLA:PLA主鎖部のメチン基の水素に由来するシグナル積分強度、MPEG:ポリエチレングリコールの平均分子量)
の式より算出したポリ乳酸セグメントの数平均分子量は1910であった。この値は、原料仕込み比から
(1/2)×(wA/wB)×MPEG
(ただし、wA:L−ラクチド重量部、wB:ポリエチレングリコール重量部、MPEG:ポリエチレングリコールの平均分子量)
の式により算出した値と非常に良く対応していた。
<可塑剤(S3’)>
可塑剤(S3)と同様の重合方法により得た、両末端に平均分子量2,000のポリ乳酸セグメントを有する、ポリエチレングリコールとポリ乳酸のブロック共重合物を用い、クロロホルム/ジエチルエーテルによる精製に代えて、水に浸漬し80℃まで加熱して攪拌した後、分離した有機相を抽出し、さらに90℃の加熱窒素にて乾燥して水分率が1%となるまで乾燥して可塑剤(S3’)を得た。
<可塑剤(S3”)>
可塑剤(S3)と同様の重合方法により得た、両末端に平均分子量2,000のポリ乳酸セグメントを有する、ポリエチレングリコールとポリ乳酸のブロック共重合物を用い、可塑剤(S3)と同様のクロロホルム/ジエチルエーテルによる一連の精製工程(含む沈殿・ろ過・乾燥)を3回繰り返して可塑剤(S3”)を得た。
<可塑剤(S4)>
旭電化工業(株)社製エーテルエステル系可塑剤“RS−1000”(室温で液状)を可塑剤S4として使用した。
<可塑剤(S5)>
平均分子量10,000のポリエチレングリコールを可塑剤S5として使用した。なお、数平均分子量は、JIS K−1557 6.4に準じてピリジン無水フタル酸法より求めた水酸基価より算出した。
(比較例11)
ポリ乳酸系重合体(P1)100重量部とチバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤“イルガノックス1010”0.3重量部の混合物を120℃で6時間、10torrの高真空下で乾燥した後、溶融温度200℃に設定した一軸エクストルーダーにて溶融し、溶融してから口金から吐出されるまでの滞留時間を3分となるように吐出量を調整し、溶融ポリマーをTダイ口金に導いてシート状に押し出し、5℃に冷却したドラム上にキャストして厚さ200μmの未延伸フィルムを形成した。バッチ式のフィルム用二軸延伸装置により、この未延伸フィルムを用いて、延伸温度80℃、縦および横方向の延伸倍率をともに3.2倍、面積倍率として10倍となるように同時二軸延伸した後、緊張下、130℃の雰囲気下で60秒加熱処理して二軸延伸フィルムに成形した。さらに、成形した二軸延伸フィルムを100℃で12時間、5torrの高真空下で脱揮処理した。得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。
(比較例12)
成形した二軸延伸フィルムを1000倍体積量の水中に浸漬し、常温で48時間処理した後に水中から取り出し、100℃で12時間、5torrの高真空下で乾燥したこと以外は比較例11と同様にして二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。
(比較例13)
成形した二軸延伸フィルムを1000倍体積量の水/エタノール(85/15)混合溶液中に浸漬し、常温で24時間処理した後に混合溶液から取り出し、100℃で12時間、5torrの高真空下で乾燥したこと以外は比較例11と同様にして二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。
(比較例14)
10torrの高真空下、120℃で6時間減圧乾燥したポリ乳酸系重合体(P1)70重量部と、10torrの高真空下、50℃で48時間減圧乾燥した脂肪族ポリエステル(P3)30重量部の混合物をシリンダー温度200℃の二軸混練押出機に供して溶融混練し均質化した後にチップ化した組成物を得た。得られた組成物は白濁していた。このチップをさらに10torrの高真空下、70℃で24時間乾燥し以下の製膜に供した。
上記のチップを溶融温度200℃に設定した一軸エクストルーダーにて溶融し、溶融してから口金から吐出されるまでの滞留時間を3分となるように吐出量を調整し、溶融ポリマーをTダイ口金に導いてシート状に押し出し、5℃に冷却したドラム上にキャストして厚さ200μmの未延伸フィルムを形成した。バッチ式のフィルム用二軸延伸装置により、この未延伸フィルムを用いて、延伸温度70℃、縦および横方向の延伸倍率をともに3.2倍、面積倍率として10倍となるように同時二軸延伸した後、緊張下、130℃の雰囲気下で90秒加熱処理して二軸延伸フィルムに成形した。さらに、成形した二軸延伸フィルムを1000倍体積量の水/エタノール(85/15)混合溶液中に浸漬し、常温で24時間処理した後に混合溶液から取り出し、80℃で6時間、5torrの高真空下で乾燥した。得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。
(比較例15)
10torrの高真空下、120℃で6時間減圧乾燥したポリ乳酸系重合体(P1)を二軸混練押出機で200℃で溶融しつつ、10torrの高真空下、90℃で6時間減圧乾燥した市販のエーテルエステル系可塑剤(S4)を(P1)75重量部あたり(S4)25重量部となるように連続的に計量・供給し、溶融混練して均質化した後にチップ化した組成物を得た。このチップを、10torrの高真空下、80℃で24時間乾燥し以下の製膜に供した。
上記のチップを溶融温度190℃に設定した一軸エクストルーダーにて溶融し、溶融してから口金から吐出されるまでの滞留時間を3分となるように吐出量を調整し、溶融ポリマーをTダイ口金に導いてシート状に押し出し、5℃に冷却したドラム上にキャストして厚さ200μmの未延伸フィルムを形成した。バッチ式のフィルム用二軸延伸装置により、この未延伸フィルムを用いて、延伸温度60℃、縦および横方向の延伸倍率をともに3.2倍、面積倍率として10倍となるように同時二軸延伸した後、緊張下、130℃の雰囲気下で90秒加熱処理して二軸延伸フィルムに成形した。さらに、成形した二軸延伸フィルムを60℃で12時間、5torrの高真空下で脱揮処理した。得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。なお、溶融混練に用いた可塑剤(S4)の水分率は0.2wt%、酸価は5当量/tであった。
(比較例16)
10torrの高真空下、120℃で6時間減圧乾燥したポリ乳酸系重合体(P1)50重量部と、10torrの高真空下、100℃で6時間減圧乾燥した可塑剤(S1)50重量部およびチバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤“イルガノックス1010”0.3重量部の混合物をシリンダー温度200℃の二軸混練押出機に供して溶融混練し均質化した後にチップ化した組成物を得た。このチップをさらに10torrの高真空下、80℃で24時間乾燥し以下の製膜に供した。
上記のチップを溶融温度190℃に設定した一軸エクストルーダーにて溶融し、溶融してから口金から吐出されるまでの滞留時間を3分となるように吐出量を調整し、溶融ポリマーをTダイ口金に導いてシート状に押し出し、5℃に冷却したドラム上にキャストして厚さ200μmの未延伸フィルムを形成した。バッチ式のフィルム用二軸延伸装置により、この未延伸フィルムを用いて、延伸温度70℃、縦および横方向の延伸倍率をともに3.2倍、面積倍率として10倍となるように同時二軸延伸した後、緊張下、130℃の雰囲気下で90秒加熱処理して二軸延伸フィルムに成形した。さらに、成形した二軸延伸フィルムを1000倍体積量の水/エタノール(85/15)混合溶液中に浸漬し、常温で24時間処理した後に混合溶液から取り出し、80℃で12時間、5torrの高真空下で乾燥した。得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。なお、溶融混練に用いた可塑剤(S1)の水分率は0.1wt%、酸価は46当量/tであった。
(比較例17)
10torrの高真空下、120℃で6時間減圧乾燥したポリ乳酸系重合体(P1)72重量部と、10torrの高真空下、100℃で6時間減圧乾燥した可塑剤(S2)28重量部およびチバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤“イルガノックス1010”0.3重量部の混合物を用い、未延伸フィルムの厚さを120μmとし、未延伸フィルムの延伸温度を60℃としたこと以外は比較例16と同様にして二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。なお、溶融混練に用いた可塑剤(S2)の水分率は0.2wt%、酸価は23当量/tであった。
(比較例18)
10torrの高真空下、120℃で6時間減圧乾燥したポリ乳酸系重合体(P1)86重量部と、10torrの高真空下、100℃で6時間減圧乾燥した可塑剤(S3)14重量部およびチバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤“イルガノックス1010”0.3重量部の混合物を用い、未延伸フィルムの延伸温度を60℃としたこと以外は実施例6と同様にして二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。なお、溶融混練に用いた可塑剤(S3)の水分率は0.2wt%、酸価は26当量/tであった。
(比較例19)
10torrの高真空下、120℃で6時間減圧乾燥したポリ乳酸系重合体(P1)72重量部と、10torrの高真空下、100℃で6時間減圧乾燥した可塑剤(S3)28重量部およびチバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤“イルガノックス1010”0.3重量部の混合物を用い、未延伸フィルムの延伸温度を60℃としたこと以外は実施例6と同様にして二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。なお、溶融混練に用いた可塑剤(S3)の水分率は0.2wt%、酸価は26当量/tであった。
(実施例10)
10torrの高真空下、120℃で6時間減圧乾燥したポリ乳酸系重合体(P1)17重量部と、10torrの高真空下、100℃で6時間減圧乾燥した可塑剤(S3)28重量部と、10torrの高真空下、50℃で48時間減圧乾燥したポリ乳酸系重合体(P2)55重量部およびチバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤“イルガノックス1010”0.3重量部の混合物をシリンダー温度200℃の二軸混練押出機に供して溶融混練し均質化した後にチップ化した組成物を得た。このチップをさらに10torrの高真空下、70℃で24時間乾燥し以下の製膜に供した。
上記のチップを溶融温度190℃に設定した一軸エクストルーダーにて溶融し、溶融してから口金から吐出されるまでの滞留時間を3分となるように吐出量を調整し、溶融ポリマーをTダイ口金に導いてシート状に押し出し、5℃に冷却したドラム上にキャストして厚さ120μmの未延伸フィルムを形成した。バッチ式のフィルム用二軸延伸装置により、この未延伸フィルムを用いて、延伸温度50℃、縦および横方向の延伸倍率をともに3.2倍、面積倍率として10倍となるように同時二軸延伸した後、緊張下、130℃の雰囲気下で90秒加熱処理して二軸延伸フィルムに成形した。さらに、成形した二軸延伸フィルムを1000倍体積量の水/エタノール(85/15)混合溶液中に浸漬し、常温で24時間処理した後に混合溶液から取り出し、80℃で12時間、5torrの高真空下で乾燥した。得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。なお、溶融混練に用いた可塑剤(S3)の水分率は0.2wt%、酸価は26当量/tであった。
(実施例11)
10torrの高真空下、120℃で6時間減圧乾燥したポリ乳酸系重合体(P1)27重量部と、10torrの高真空下、100℃で6時間減圧乾燥した可塑剤(S3)43重量部と、10torrの高真空下、50℃で48時間減圧乾燥したポリ乳酸系重合体(P2)30重量部の混合物を用いたこと以外は実施例10と同様にして二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。なお、溶融混練に用いた可塑剤(S3)の水分率は0.2wt%、酸価は26当量/tであった。
(比較例22)
ポリ乳酸系重合体(P1)100重量部とチバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤“イルガノックス1010”0.3重量部の混合物を120℃で6時間、10torrの高真空下で乾燥した後、以下の製糸に供した。
上記のチップを溶融温度190℃で2カ所のベントポート付きの2軸エクストル−ダー型の押出機に供し、ペントポートを10torr以下の高真空として低分子量物を吸引・除去しながら押し出し、環状3列配孔で0.6φの吐出孔を96個持つ口金から吐出して、口金から吐出直後長さ300mm、の断熱筒内を通過させた後、環状チムニーを通過させて風速20m/分のチムニー風により冷却し油剤を付与した後、1000m/分の速度で引取ることにより未延伸糸を一旦巻き取った。この未延伸糸を1段目延伸温度80℃、2段目延伸温度100℃、総延伸倍率6.5倍にて2段延伸し、引き続いて温度135℃において熱固定、0.5%の弛緩処理を施した後、延伸糸を引き取った。このようにして556dtex/96fil、のポリ乳酸系重合体からなる繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
(比較例23)
ポリ乳酸系重合体(P1)と、チバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤“イルガノックス1010”との溶融混連に供した可塑剤(S1)をあらかじめ10torrの真空下、60℃で6時間減圧乾燥したこと以外は、実施例6と同様にして二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。なお、溶融混練に用いた可塑剤(S1)の水分率は0.4wt%、酸価は46当量/tであった。
(実施例14)
可塑剤(S3)に代えて可塑剤(S3”)を使用したこと以外は、実施例10と同様にして二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。なお、溶融混練に用いた可塑剤(S3”)の水分率は0.2wt%、酸価は13当量/tであった。
(比較例25)
可塑剤(S2)に代えて可塑剤(S2’)を使用したこと以外は、実施例7と同様にして二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。なお、溶融混練に用いた可塑剤(S2’)の水分率は0.2wt%、酸価は135当量/tであった。
(比較例26)
10torrの高真空下、120℃で6時間減圧乾燥したポリ乳酸系重合体(P1)80重量部と、10torrの高真空下、40℃で12時間減圧乾燥した可塑剤(S5)20重量部およびチバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤“イルガノックス1010”0.3重量部の混合物を用い、未延伸フィルムの延伸温度を60℃としたこと以外は実施例9と同様にして二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。なお、溶融混練に用いた可塑剤(S5)の水分率は0.2wt%、酸価は4当量/tであった。
(比較例1)
ポリ乳酸系重合体(P1)100重量部とチバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤“イルガノックス1010”0.3重量部の混合物を100℃で3時間、200torrの減圧下で乾燥した後、溶融温度230℃に設定した一軸エクストルーダーにて溶融し、溶融してから口金から吐出されるまでの滞留時間を3分となるように吐出量を調整し、溶融ポリマーをTダイ口金に導いてシート状に押し出し、5℃に冷却したドラム上にキャストして厚さ200μmの未延伸フィルムを形成した。バッチ式のフィルム用二軸延伸装置により、この未延伸フィルムを用いて、延伸温度80℃、縦および横方向の延伸倍率をともに3.2倍、面積倍率として10倍となるように同時二軸延伸した後、緊張下、140℃の雰囲気下で60秒加熱処理して二軸延伸フィルムに成形した。得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。
(比較例2)
5torrの高真空下、100℃で6時間減圧乾燥したポリ乳酸系重合体(P1)72重量部および可塑剤(S2’)28重量部の混合物をシリンダー温度190℃の二軸混練押出機に供して溶融混練し均質化した後にチップ化した組成物を得た。このチップをさらに5torrの高真空下、80℃で24時間乾燥し以下の製膜に供した。
上記のチップを溶融温度190℃に設定した一軸エクストルーダーにて溶融し、溶融してから口金から吐出されるまでの滞留時間を10分となるように吐出量を調整し、溶融ポリマーをTダイ口金に導いてシート状に押し出し、5℃に冷却したドラム上にキャストして厚さ120μmの未延伸フィルムを形成した。バッチ式のフィルム用二軸延伸装置により、この未延伸フィルムを用いて、延伸温度60℃、縦および横方向の延伸倍率をともに3.2倍、面積倍率として10倍となるように同時二軸延伸した後、緊張下、140℃の雰囲気下で60秒加熱処理して二軸延伸フィルムに成形した。得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。なお、溶融混練に用いた可塑剤(S2’)の水分率は0.8wt%、酸価は135当量/tであった。
(比較例3)
10torrの高真空下、100℃で6時間減圧乾燥したポリ乳酸系重合体(P1)17重量部および可塑剤(S3’)28重量部と、10torrの高真空下、50℃で48時間以上減圧乾燥したポリ乳酸系重合体(P2)55重量部と、チバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤“イルガノックス1010”0.3重量部の混合物をシリンダー温度200℃の二軸混練押出機に供して溶融混練し均質化した後にチップ化した組成物を得た。このチップをさらに10torrの高真空下、70℃で24時間乾燥し以下の製膜に供した。
上記のチップを溶融温度190℃に設定した一軸エクストルーダーにて溶融し、溶融してから口金から吐出されるまでの滞留時間を10分となるように吐出量を調整し、溶融ポリマーをTダイ口金に導いてシート状に押し出し、5℃に冷却したドラム上にキャストして厚さ120μmの未延伸フィルムを形成した。バッチ式のフィルム用二軸延伸装置により、この未延伸フィルムを用いて、延伸温度50℃、縦および横方向の延伸倍率をともに3.2倍、面積倍率として10倍となるように同時2軸延伸した後、緊張下、140℃の雰囲気下で90秒加熱処理して二軸延伸フィルムに成形した。得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。なお、溶融混練に用いた可塑剤(S3’)の水分率は1.0wt%、酸価は29当量/tであった。
(比較例4)
市販のエーテルエステル系可塑剤(S4)を乾燥することなくポリ乳酸系重合体(P1)に溶融混練した以外は、実施例5と同様にして二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。なお、溶融混練に用いた可塑剤(S4)の水分率は1.1wt%、酸価は5当量/tであった。
本発明は、包装用ラップフィルムに限らず、その他包装材料、農業用フィルム、自動車塗膜保護シート、ごみ袋、堆肥袋などの産業資材用フィルム、各種軟質塩化ビニルが用いられている工業材料用フィルムや、ボトル、ディスポーザブルカップ、トレイなどの容器類、あるいは繊維などフィルム以外の成形品などにも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。