本発明のフッ素樹脂系高分子分離膜は、三次元網目構造と球状構造の両方を有し、三次元網目構造中にセルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種を有する親水性高分子を含有させることが特徴である。ここで、三次元網目構造とは、図1の表面ないし図2に示すように、固形分が三次元的に網目状に広がっている構造のことをいう。三次元網目構造は、網を形成する固形分に仕切られた細孔およびボイドを有する。
また、ここで、球状構造とは、多数の球状もしくは略球状の固形分が、直接もしくは筋状の固形分を介して連結している構造のことをいう。
また、本発明の高分子分離膜の構造は、球状構造層と三次元網目構造層の両方を有していれば特に限定されないが、球状構造層と三次元網目構造層とが積層されたものであることが好ましい。一般に層を多段に重ねると、各層の界面では層同士が互いに入り込むために緻密になり、透過性能が低下する。層同士が互いに入り込まない場合は、透過性能は低下しないが、界面の剥離強度が低下する。従って、各層の界面の剥離強度と透過性能を考慮すると、球状構造層と三次元網目構造層の積層数は少ない方が好ましく、球状構造層1層と三次元網目構造層1層の合計2層からなるようにすることが特に好ましい。また、球状構造層と三次元網目構造層以外の層、例えば多孔質基材などの支持体層を含んでいても良い。多孔質基材としては、有機材料、無機材料等、特に限定されないが、軽量化しやすい点から有機繊維が好ましい。さらに好ましくは、セルロース系繊維、酢酸セルロース系繊維、ポリエステル系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維などの有機繊維からなる織布や不織布である。
三次元網目構造層と球状構造層の上下や内外の配置は、ろ過方式によって変えることができるが、三次元網目構造層が分離機能を担い、球状構造層が物理的強度を担うため、三次元網目構造層を分離対象側に配置することが好ましい。特に、汚れ物質の付着による透過性能の低下を抑制するためには、分離機能を担う三次元網目構造層を分離対象側の最表層に配置することが好ましい。三次元網目構造層と球状構造層の各厚みは、分離特性、透水性能、化学的強度(耐薬品性)、物理的強度、耐汚れ性の各性能が要求される条件を満足するように自由に調整できるが、三次元網目構造層が薄いと分離特性や物理的強度が低く、厚いと透水性能が低くなる。球状構造層が薄いと物理的強度が低く、厚いと透水性能が低くなる。従って、上述した各性能のバランスや運転コストを考慮すると、三次元網目構造層の厚みは5μm以上50μm以下、より好ましくは10μm以上40μm以下が良く、球状構造層の厚みは100μm以上500μm以下、より好ましくは200μm以上300μm以下が良い。さらに、三次元網目構造層と球状構造層の厚みの比も上述した各性能や運転コストにとって重要であり、三次元網目構造層の割合が大きくなると物理的強度が低下する。従って、三次元網目構造層の平均厚みの球状構造層の平均厚みに対する比は、0.03以上0.25以下が良く、より好ましくは0.05以上0.15以下が良い。
なお、球状構造と三次元網目構造の界面は、両者が互いに入り組んだ構造をしている。本発明における球状構造層とは、高分子分離膜の断面を走査型電子顕微鏡を用いて3000倍で写真撮影した際に、球状構造が観察される範囲の層をいう。また、本発明における三次元網目構造層とは、高分子分離膜の断面を走査型電子顕微鏡を用いて3000倍で写真撮影した際に、球状構造が観察されない範囲の層をいう。
また、球状構造の平均直径が大きくなると、空隙率が高くなり透水性が増大するが、物理的強度が低下する。一方、平均直径が小さくなると、空隙率が低くなり、物理的強度が増大するが、透水性が低下する。従って、球状構造の平均直径は0.1μm以上5μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以上4μm以下である。球状構造の平均直径は、高分子分離膜の断面を走査型電子顕微鏡を用いて10000倍で写真撮影し、10個以上、好ましくは20個以上の任意の球状構造の直径を測定し、数平均して求める。画像処理装置等を用いて、球状構造の直径の平均値を求め、等価円直径の平均孔径とすることも好ましく採用できる。
三次元網目構造が分離対象側の最表層にある場合、最表層の表面をこの層の真上から観察すると、細孔が観察される。上述したように三次元網目構造が分離機能を担うため、該細孔の平均孔径は用途によって制御されるべきである。この三次元網目構造の表面の平均孔径の好ましい値は、分離対象物質によって異なるが、高い阻止性能と高い透水性能を両立するためには、1nm以上1μm以下が好ましく、より好ましくは5nm以上0.5μm以下である。特に、水処理用途においては、三次元網目構造の表面の平均孔径は、0.005〜0.5μmの範囲が好ましく、0.01〜0.2μmの範囲がより好ましい。表面の平均孔径がこの範囲にあると、水中の汚れ物質が細孔に詰まりにくく、透水性能の低下が起こりにくいため、高分子分離膜をより長期間連続して使用することができる。また、詰まった場合でも、いわゆる逆洗や空洗によって汚れを除去することができる。ここで、汚れ物質とは、水源によって異なるが、例えば、河川や湖沼などでは、土や泥に由来する無機物やコロイド、微生物やその死骸、植物に由来するフミン質などを挙げることができる。逆洗とは、通常のろ過と逆方向に透過水などを通す操作であり、空洗とは、中空糸膜の場合に空気を送って中空糸膜を揺らし膜表面に堆積した汚れ物質を除去する操作である。
三次元網目構造の表面の平均孔径は、三次元網目構造の表面を走査型電子顕微鏡を用いて60000倍で写真撮影し、10個以上、好ましくは20個以上の任意の細孔の直径を測定し、数平均して求める。細孔が円状でない場合、画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円(等価円)を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求められる。
本発明の高分子分離膜は、50kPa、25℃における純水透過性能が0.20m3/m2・hr以上10m3/m2・hr以下、破断強度が6MPa以上、かつ、破断伸度が50%以上であることが好ましい。また、0.843μm径粒子の阻止率が90%以上であることが好ましい。純水透過性能は、より好ましくは0.30m3/m2・hr以上7m3/m2・hr以下である。破断強度は、より好ましくは7MPa以上である。破断伸度は、より好ましくは70%以上である。また、0.843μm径粒子の阻止率は、より好ましくは95%以上である。以上の条件を満たすことで、水処理、荷電膜、燃料電池、血液浄化用膜等の用途に十分な強度、透水性能を有する高分子分離膜を得ることができる。
本発明の高分子分離膜は、中空糸膜形状、平膜形状いずれの形態でも好ましく用いることができるが、中空糸膜は効率良く充填することが可能であり、単位体積当たりの有効膜面積を増大させることができるため好ましく用いられる。
純水透過性能と0.843μm径粒子の阻止率の測定は、中空糸膜では、中空糸膜4本からなる長さ200mmのミニチュアモジュールを作製して行った。温度25℃、ろ過差圧16kPaの条件下に、逆浸透膜ろ過水の外圧全ろ過を10分間行い、透過量(m3)を求めた。その透過量(m3)を単位時間(h)および有効膜面積(m2)あたりの値に換算し、さらに(50/16)倍することにより、圧力50kPaにおける値に換算することで純水透過性能を求めた。また、温度25℃、ろ過差圧16kPaの条件下に、平均粒径0.843μmのポリスチレンラテックス粒子(Seradyn社製)を分散させた逆浸透膜ろ過水の外圧全ろ過を10分間行った。原水中およびろ過水中のラテックス粒子の濃度を波長240nmの紫外吸光度を測定して求め、それらの濃度比から阻止率を求めることができる。平膜では、例えば、膜を直径43mmの円形に切り出し、円筒状のろ過ホルダー(アドバンテック社製攪拌型ウルトラホルダーUHP−43K)にセットし、その他は中空糸膜と同様の操作をすることで求めることができる。純水透過性能は、ポンプ等で加圧や吸引して得た値を換算して求めても良い。水温についても評価液体の粘性で換算しても良い。純水透過性能が0.20m3/m2・hr未満の場合には、透水性能が低すぎ、高分子分離膜として実用的でない。また、逆に純水透過性能が10m3/m2・hrを超える場合には、高分子分離膜の孔径が大きすぎて、不純物の阻止性能が低くなり好ましくない。また、不純物の阻止性能については、0.843μmのポリスチレンラテックス粒子の阻止率を参考にすることができ、その阻止率が90%に満たない場合、不純物の阻止性能が低くなり好ましくない。
破断強度と破断伸度の測定方法は、特に限定されるものではないが、例えば、引っ張り試験機を用い、測定長さ50mmの試料を引っ張り速度50mm/分で引っ張り試験を試料を変えて5回以上行い、破断強度の平均値と破断伸度の平均値を求めることで測定することができる。破断強度6MPa未満、または破断伸度50%未満の場合には、高分子分離膜を扱う際のハンドリング性が悪くなり、かつ、ろ過時における膜の破断、糸切れおよび圧壊が生じやすくなるので好ましくない。一般に、破断強度や破断伸度が大きくなると、透過性能が低下する。従って、高分子分離膜の破断強度や破断伸度は、上述したハンドリング性とろ過時における物理的耐久性が達成される範囲であれば良く、透過性能や運転コストなどとのバランスによって決定される。
本発明は、三次元網目構造と球状構造の両方を有するフッ素樹脂系高分子分離膜において、前記三次元網目構造がセルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種を有する親水性高分子を含有してなることを特徴とするが、本発明におけるフッ素樹脂系高分子とは、フッ化ビニリデンホモポリマーおよび/またはフッ化ビニリデン共重合体を含有する樹脂のことである。複数の種類のフッ化ビニリデン共重合体を含有していても良い。フッ化ビニリデン共重合体としては、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンから選ばれる少なくとも1種とフッ化ビニリデンとの共重合体が挙げられる。また、フッ素樹脂系高分子の重量平均分子量は、要求される高分子分離膜の強度と透水性能によって適宜選択すれば良いが、重量平均分子量が大きくなると透水性能が低下し、重量平均分子量が小さくなると強度が低下する。このため、重量平均分子量は5万以上100万以下が好ましい。高分子分離膜が薬液洗浄に晒される水処理用途の場合、重量平均分子量は10万以上70万以下が好ましく、さらに15万以上60万以下が好ましい。
また、本発明におけるセルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種を有する親水性高分子とは、主鎖および/または側鎖に分子ユニットとしてセルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種を有する(ここで、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドの場合は、それらをモノマーに用いて誘導される分子ユニットを有することを意味する)ものであれば特に限定されず、これら以外の分子ユニットが存在しても良い。セルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド以外の分子ユニットを構成するモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレンなどのアルケン、アセチレンなどのアルキン、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、メチルメタクリレート、メチルアクリレートなどが挙げられる。特に、エチレン、メチルメタクリレート、メチルアクリレートは安価に入手可能であり、主鎖および/または側鎖に導入しやすいため好ましく用いられる。導入方法としては、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの公知の重合技術を用いることができる。該親水性高分子は、フッ素樹脂系高分子とともに三次元網目構造を形成するために用いるので、フッ素樹脂系高分子と適当な条件で混和することが好ましい。さらには、フッ素樹脂系高分子の良溶媒に、該親水性高分子とフッ素樹脂系高分子が混和溶解する場合には、取り扱いが容易になるので特に好ましい。
該親水性高分子のセルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドの含有率が高くなると、得られる高分子分離膜の親水性が増大し、透過性能や耐汚れ性が向上するので、フッ素樹脂系高分子との混和性を損なわない範囲であれば含有率は高いほうが好ましい。セルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドの該親水性高分子中の含有率は、フッ素樹脂系高分子との混和比や要求される高分子分離膜の性能に依るが、50モル%以上が好ましく、より好ましくは60モル%以上が良い。ただし、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドの場合、含有率が高くなると水可溶性を示すようになる。本発明の高分子分離膜は水中で使用されるため、該親水性高分子が実質的に水不溶性である必要があり、該親水性高分子自身が水不溶性であるか、適切な処理によって水不溶性が付与されていなければならない。ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドを主鎖および/または側鎖に有する親水性高分子の場合、他のモノマーと共重合させて水不溶性にする方法が好ましく採用される。例えば、ビニルピロリドンとメチルメタクリレートとのランダム共重合体(PMMA−co−PVP)、ビニルピロリドンのポリメチルメタクリレートへのグラフト重合体(PMMA−g−PVP)は、共重合モル比を適切に設定することにより水不溶性の親水性高分子が得られる。
一方、セルロースエステル、脂肪酸ビニルエステルの場合、含有率が高くなっても一般的に水可溶性にはならず、広範囲で含有率を調整することができる。セルロースエステル、脂肪酸ビニルエステルのエステルの一部を加水分解すると、エステルよりも親水性基である水酸基が生成する。水酸基の割合が大きくなると、疎水性であるフッ素樹脂系高分子との混和性は低下するが、得られる高分子分離膜の親水性が増大し、透過性能や耐汚れ性は向上する。従って、フッ素樹脂系高分子と混和する範囲で、エステルを加水分解する手法は、膜性能向上の観点から好ましく採用できる。
そして、本発明の三次元網目構造と球状構造の両方を有するフッ素樹脂系高分子分離膜において、前記三次元網目構造が主にセルロースエステルおよび/または脂肪酸ビニルエステルで構成される親水性高分子を含有することが特に好ましい。これは、主にセルロースエステルおよび/または脂肪酸ビニルエステルで構成されると、フッ素樹脂系高分子との混和性を損なわない範囲においても、エステルの加水分解の程度を広範囲で調整可能であり、得られる高分子分離膜に親水性を付与しやすいからである。主にセルロースエステルおよび/または脂肪酸ビニルエステルで構成される親水性高分子とは、セルロースエステルまたは脂肪酸ビニルエステルの含有率が70モル%以上であるか、あるいはセルロースエステルの含有率と脂肪酸ビニルエステルの含有率の和が70モル%以上である親水性高分子のことであり、より好ましくは80モル%以上のものが良い。
特に、セルロースエステルは、繰り返し単位中に3つのエステル基を有し、それらの加水分解の程度を調整することにより、フッ素樹脂系高分子との混和性と高分子分離膜の親水性をともに達成しやすいため好ましく用いられる。セルロースエステルとしては、セルロールアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートが挙げられる。
脂肪酸ビニルエステルとしては、脂肪酸ビニルエステルのホモポリマー、脂肪酸ビニルエステルと他モノマーとの共重合体、脂肪酸ビニルエステルを他ポリマーにグラフト重合したものが挙げられる。脂肪酸ビニルエステルのホモポリマーとしては、ポリ酢酸ビニルが安価で取り扱いが容易なため好ましく用いられる。脂肪酸ビニルエステルと他モノマーとの共重合体としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体が安価で取り扱いが容易なため好ましく用いられる。
また、本発明の三次元網目構造および球状構造には、発明の目的を阻害しない範囲で他の成分、例えば、有機物、無機物、高分子などが含まれていても良い。
上述の高分子分離膜は、原液流入口や透過液流入口などを備えたケーシングに収容され膜モジュールとして使用される。膜モジュールは、膜が中空糸膜である場合には、中空糸膜を複数本束ねて円筒状の容器に納め、両端または片端をポリウレタンやエポキシ樹脂等で固定して、透過液を回収できるようにしたり、平板状に中空糸膜を固定して透過液を回収できるようにする。膜が平膜状である場合には、平膜を集液管の周りに封筒状に折り畳みながらスパイラル状に巻き取り、円筒状の容器に納め、透過液を回収できるようにしたり、集液管の両面に平膜を配置して周囲を密に固定し、透過液を回収できるようにする。
そして、膜モジュールは、少なくとも原液側に加圧手段または透過液側に吸引手段を設け、水などを分離する分離装置として用いられる。加圧手段としてはポンプを用いても良いし、水位差による圧力を利用してもよい。また、吸引手段としては、ポンプやサイフォンを利用すればよい。
この分離装置は、水処理分野であれば浄水処理、上水処理、排水処理、工業用水製造などで利用でき、河川水、湖沼水、地下水、海水、下水、排水などを被処理水とする。
また、上記高分子分離膜は、電池の内部で正極と負極とを分離する電池用セパレーターに用いることもでき、この場合、イオンの透過性が高いことによる電池性能の向上や、破断強度が高いことによる電池の耐久性向上などの効果が期待できる。
さらに、上記の製造方法により作製した高分子分離膜は、荷電基(イオン交換基)を導入して荷電膜とすると、イオンの認識性向上や、破断強度が高いことによる荷電膜の耐久性向上などの効果が期待できる。
さらにまた、上記の高分子分離膜にイオン交換樹脂を含浸し、イオン交換膜として燃料電池に用いると、特に燃料にメタノールを用いる場合、イオン交換膜のメタノールによる膨潤が抑えられるので、燃料電池性能の向上が期待できる。さらに、破断強度が高いことによる燃料電池の耐久性向上なども期待できる。
そして、上記の高分子分離膜を血液浄化用膜として用いると、血中老廃物の除去性向上や、破断強度が高いことによる血液浄化用膜の耐久性向上などが期待できる。
本発明の、三次元網目構造と他方に球状構造を有するフッ素樹脂系高分子分離膜は、種々の方法により製造することができる。例えば、球状構造からなるフッ素樹脂系高分子分離膜の上に、セルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種を有する親水性高分子を含有する三次元網目構造層を積層する方法、二種類以上の樹脂溶液を口金から同時に吐出し、三次元網目構造と球状構造とを同時に形成する方法が挙げられる。
まず、球状構造からなるフッ素樹脂系高分子分離膜の上に、セルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種を有する親水性高分子を含有する三次元網目構造層を積層させる方法について説明する。
この製造方法においては、まず球状構造からなるフッ素樹脂系高分子分離膜を製造する。球状構造からなるフッ素樹脂系高分子分離膜の製造方法は、フッ素樹脂系高分子を20重量%から60重量%以下程度の比較的高濃度で、該高分子の貧溶媒または良溶媒に比較的高温で溶解して該高分子溶液を調製し、該高分子溶液を冷却固化することにより相分離せしめて、球状構造を形成させる。ここで、貧溶媒とは、高分子を60℃以下の低温では、5重量%以上溶解させることができないが、60℃以上かつ高分子の融点以下(例えば、高分子がフッ化ビニリデンホモポリマー単独で構成される場合は178℃程度)の高温領域で5重量%以上溶解させることができる溶媒のことである。貧溶媒に対し、60℃以下の低温領域でも高分子を5重量%以上溶解させることができる溶媒を良溶媒、高分子の融点または溶媒の沸点まで、高分子を溶解も膨潤もさせない溶媒を非溶媒と定義する。フッ素樹脂系高分子分離膜の場合、貧溶媒としては、シクロヘキサノン、イソホロン、γ−ブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、フタル酸ジメチル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジアセトンアルコール、グリセロールトリアセテート等の中鎖長のアルキルケトン、エステル、グリコールエステルおよび有機カーボネート等およびそれらの混合溶媒が挙げられる。非溶媒と貧溶媒の混合溶媒であっても、上記貧溶媒の定義を満足するものは、貧溶媒であると定義する。また良溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル等の低級アルキルケトン、エステル、アミド等およびそれらの混合溶媒が挙げられる。さらに、非溶媒としては、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o−ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、またはその他の塩素化有機液体およびそれらの混合溶媒が挙げられる。
上記製造方法では、まずフッ素樹脂系高分子を20重量%から60重量%以下程度の比較的高濃度で、該高分子の貧溶媒または良溶媒に、80〜170℃程度の比較的高温で溶解して該高分子溶液を調製することが好ましい。高分子濃度は高くなれば高い強度、伸度を有する高分子分離膜が得られるが、高すぎると高分子分離膜の空孔率が小さくなり透過性能が低下する。また、該高分子溶液の粘度が適正な範囲に無ければ、取り扱いが困難であり、製膜することができなくなる。従って、高分子濃度は、30重量%以上50重量%以下の範囲とすることがより好ましい。
該高分子溶液を冷却固化するにあたっては、口金から該高分子溶液を冷却浴中に吐出する方法が好ましい。この際、冷却浴に用いる冷却液体としては温度が5〜50℃であり、濃度が60〜100重量%の貧溶媒もしくは良溶媒を含有する液体を用いて固化させることが好ましい。冷却液体には、貧溶媒、良溶媒以外に非溶媒を含有していても良いが、冷却液体に非溶媒を主成分とする液体を用いると、冷却固化による相分離よりも非溶媒滲入による相分離が優先し、球状構造が得られにくくなる。フッ素樹脂系高分子を比較的高濃度で、該高分子の貧溶媒もしくは良溶媒に比較的高温度で溶解し、急冷して固化することによって、得られる高分子分離膜の構造は、球状構造、もしくは、緻密な網目構造となる。球状構造を形成させるためには、高分子溶液の濃度および温度、用いる溶媒の組成、冷却液体の組成および温度の組み合わせで制御しなければならない。
高分子分離膜の形状を中空糸膜とする場合には、高分子溶液を調製した後、二重管式口金の外側の管から吐出するとともに、中空部形成流体を二重管式口金の内側の管から吐出しながら冷却浴中で固化して、中空糸膜とする。この際、中空部形成流体には、通常気体もしくは液体を用いることができるが、本発明においては、冷却液体と同様の濃度が60〜100重量%の貧溶媒もしくは良溶媒を含有する液体を用いることが好ましく採用できる。なお、中空部形成流体は冷却して供給しても良いが、冷却浴の冷却力のみで中空糸膜を固化するのに十分な場合は、中空部形成流体は冷却せずに供給しても良い。
また、高分子分離膜の形状を平膜とする場合には、高分子溶液を調製した後、スリット口金から吐出し、冷却浴中で固化し平膜とする。
以上のようにして得られた球状構造からなるフッ素樹脂系高分子分離膜の上に、セルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種を有する親水性高分子を含有する三次元網目構造を積層させる。その方法は、特に限定されないが、以下の方法を好ましく用いることができる。すなわち、球状構造からなるフッ素樹脂系高分子分離膜の上に、該親水性高分子を含有するフッ素樹脂系高分子溶液を塗布した後、凝固浴に浸漬することで三次元網目構造を有する層を積層させる方法である。
ここで、三次元網目構造を形成させるための、セルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種を有する親水性高分子を含有するフッ素樹脂系高分子溶液は、前記した親水性高分子、フッ素樹脂系高分子および溶媒で構成されるものであるが、溶媒としてはフッ素樹脂系高分子の良溶媒を用いることが好ましい。フッ素樹脂系高分子の良溶媒としては、前記のようなものを用いることができる。親水性高分子を含有するフッ素樹脂系高分子溶液の高分子濃度は、通常5〜30重量%が好ましく、より好ましくは10〜25重量%の範囲である。5重量%未満では、三次元網目構造層の物理的強度が低下し、30重量%を超えると透過性能が低下する。また、該親水性高分子を含有するフッ素樹脂系高分子溶液は、フッ素樹脂系高分子や親水性高分子の種類・濃度、溶媒の種類、後述する添加剤の種類・濃度によって溶解温度が異なる。再現性良く安定な該溶液を調製するためには、溶媒の沸点以下の温度で攪拌しながら数時間加熱して、透明な溶液となるようにすることが好ましい。さらに、該溶液を塗布する際の温度も重要であり、高分子分離膜を安定して製造するためには、該溶液の安定性を損なわないように温度を制御しつつ、系外からの非溶媒の侵入を防止することが好ましい。該溶液の塗布温度が高すぎると、球状構造からなるフッ素樹脂系高分子分離膜を溶解して、三次元網目構造層と球状構造層の界面に緻密な層を形成しやすく、透水性能が低下する。逆に、塗布温度が低すぎると、塗布中に該溶液の一部分がゲル化し、欠点を多く含む分離膜が形成して、分離性能が低下する。このため、塗布温度は、該溶液の組成や求める分離膜の性能によって鋭意検討して決定する必要がある。
高分子分離膜の形状が中空糸膜である場合、球状構造からなるフッ素樹脂系高分子分離膜の上に、セルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種を有する親水性高分子を含有するフッ素樹脂系高分子溶液を塗布する方法としては、中空糸膜を該高分子溶液中に浸漬したり、中空糸膜に該高分子溶液を滴下したりする方法が好ましく用いられ、中空糸膜の内表面側に該高分子溶液を塗布する方法としては、該高分子溶液を中空糸膜内部に注入する方法などが好ましく用いられる。さらに、該高分子溶液の塗布量を制御する方法としては、該高分子溶液の塗布量自体を制御する以外に、高分子分離膜を該高分子溶液に浸漬したり、高分子分離膜に該高分子溶液を塗布した後に、該高分子溶液の一部を掻き取ったり、エアナイフを用いて吹き飛ばしたりする方法も好ましく用いられる。
また、ここで凝固浴は、樹脂の非溶媒を含むことが好ましい。非溶媒としては、前記のようなものを好ましく用いることができる。塗布された樹脂溶液を非溶媒に接触させることで、非溶媒誘起相分離が生じ、三次元網目構造層が形成される。
表面の平均孔径を前記の範囲に制御する方法は、セルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種を有する親水性高分子の種類や濃度によって異なるが、例えば以下の方法で行うことができる。該親水性高分子を含有するフッ素樹脂系高分子溶液に、孔径を制御するための添加剤を入れ、三次元網目構造を形成する際に、または、三次元網目構造を形成した後に、該添加剤を溶出させることにより、表面の平均孔径を制御することができる。該添加剤としては、有機化合物および無機化合物が挙げられる。有機化合物としては、フッ素樹脂系高分子溶液に用いる溶媒および非溶媒誘起相分離を起こす非溶媒の両方に溶解するものが好ましく用いられる。例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、デキストランなどの水溶性ポリマー、界面活性剤、グリセリン、糖類などを挙げることができる。無機化合物としては、フッ素樹脂系高分子溶液に用いる溶媒および非溶媒誘起相分離を起こす非溶媒の両方に溶解するものが好ましく、例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、硫酸バリウムなどを挙げることができる。また、添加剤を用いずに、凝固浴における非溶媒の種類、濃度および温度によって相分離速度を制御し、表面の平均孔径を制御することも可能である。一般的には、相分離速度が速いと表面の平均孔径が小さく、遅いと大きくなる。また、該高分子溶液に非溶媒を添加することも、相分離速度の制御に有効である。
さらに、本発明の三次元網目構造と他方に球状構造を有するフッ素樹脂系高分子分離膜の別の製造方法として、以下に二種類以上の樹脂溶液を口金から同時に吐出し、三次元網目構造と球状構造とを同時に形成する方法を説明する。この製造方法において、例えば三次元網目構造形成用フッ素樹脂系高分子溶液と球状構造形成用フッ素樹脂系高分子溶液を、口金から同時に吐出した後、非溶媒を含む冷却浴で固化せしめることにより、製造することができる。この方法によると、三次元網目構造と球状構造を同時に形成することができ、製造工程を簡素なものにすることができる。ここで三次元網目構造形成用フッ素樹脂系高分子溶液とは、セルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種を有する親水性高分子を含有し、非溶媒誘起相分離により、三次元網目構造を形成可能なフッ素樹脂系高分子溶液であれば特に限定されないが、例えば、フッ素樹脂系高分子を溶媒に溶解した溶液であって、凝固浴に接触することで、非溶媒誘起相分離が生じ、三次元網目構造が形成するものが挙げられる。また、球状構造形成用フッ素樹脂系高分子溶液とは、冷却固化せしめることにより、球状構造を形成可能なフッ素樹脂系高分子溶液であれば特に限定されないが、例えば、フッ素樹脂系高分子を20重量%以上60重量%以下程度の比較的高濃度で、該フッ素樹脂系高分子の貧溶媒や良溶媒に比較的高温(80〜170℃程度)で溶解したものが挙げられる。ここで、フッ素樹脂系高分子、親水性高分子、凝固浴、貧溶媒、良溶媒としては、前記のものを好ましく用いることができる。
三次元網目構造形成用フッ素樹脂系高分子溶液と球状構造形成用フッ素樹脂系高分子溶液とを同時に吐出する場合の口金としては、特に限定されないが、高分子分離膜の形状を平膜とする場合には、スリットが2枚並んだ二重スリット形状のものが好ましく用いられる。また、高分子分離膜の形状を中空糸とする場合には、三重管式口金が好ましく用いられる。三重管式口金の外側の管と中間の管から三次元網目構造形成用フッ素樹脂系高分子脂溶液と球状構造形成用フッ素樹脂系高分子溶液を吐出し、中空部形成流体を内側の管から吐出しながら冷却浴中で冷却固化し、中空糸膜とすることができる。このような製造方法で中空糸膜を製造した場合、中空部形成流体の量を、平膜を製造した場合の冷却固化液体の量よりも少なくすることができ、特に好ましい。三次元網目構造形成用フッ素樹脂系高分子溶液を外側の管から、球状構造形成用フッ素樹脂系高分子溶液を中間の管から吐出することにより、三次元網目構造を外側に、球状構造を内側に有する中空糸膜を得ることができ、逆に三次元網目構造形成用フッ素樹脂系高分子溶液を中間の管から、球状構造形成用フッ素樹脂系高分子溶液を外側の管から吐出することにより、三次元網目構造を内側に、球状構造を外側に有する中空糸膜を得ることができる。
上述の高分子分離膜は、原液流入口や透過液流出口などを備えたケーシングに収容され膜モジュールとして使用される。高分子分離膜が中空糸膜の場合には、中空糸膜を複数本束ねて円筒状の容器に納め、両端または片端をポリウレタンやエポキシ樹脂等で固定し、透過液を回収できるようにしたり、平板状に中空糸膜の両端を固定して透過液を回収できるようにする。
高分子分離膜が平膜である場合には、平膜を集液管の周りに封筒状に折り畳みながらスパイラル状に巻き取り、円筒状の容器に納め、透過液をできるようにしたり、集液板の両面に平膜の配置して周囲を水密に固定し、透過液を回収できるようにする。
そして、膜モジュールは、少なくとも原液側に加圧手段もしくは透過液側に吸引手段を設け、造水を行う分離装置として用いられる。加圧手段としてはポンプを用いてもよいし、また水位差による圧力を利用してもよい。また、吸引手段としては、ポンプやサイフォンを利用すればよい。
以下に具体的実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
実施例における高分子分離膜の球状構造の平均直径は、高分子分離膜の断面を走査型電子顕微鏡(S−800)(日立製作所製)を用いて10000倍で写真撮影し、30個の任意の細孔の孔径および球状構造の直径を測定し、数平均して求めた。また、三次元網目構造の表面の平均孔径は、高分子分離膜の表面を上記の走査型電子顕微鏡を用いて60000倍で写真撮影し、30個の任意の細孔の孔径の直径を測定し、数平均して求めた。
そして、三次元網目構造層の平均厚みや球状構造層の平均厚みは、高分子分離膜の断面を上記の走査型電子顕微鏡を用いて100倍および1000倍で写真撮影し、その写真から次のような方法で算出した。まず、三次元網目構造層の平均厚みを次の方法で求めた。実施例の高分子分離膜は外層に三次元網目構造層を有し、内層に球状構造を有している。1000倍の写真において、外層表面の任意の1点から内層に向かって外層表面接線に対して垂直に進み、初めて球状構造が観察されるまでの距離を測定する。この距離が、三次元網目構造層の厚みである。この操作を任意の30カ所で行い、数平均して、三次元網目構造層の平均厚みを算出した。同様にして、球状構造層の平均厚みも算出できるが、実施例では球状構造層が厚いため、高分子分離膜断面の表面から反対側の表面までを1000倍で写真撮影すると画面に収まらず、数枚の写真を貼り合わせなければならない。そこで、1000倍で数枚の写真撮影を行う代わりに、次の方法を選択した。すなわち、100倍で写真撮影し、高分子分離膜の厚み(高分子分離膜断面の表面から反対側の表面まで)を求める。この高分子分離膜の厚みから三次元網目構造層の平均厚みを引き算したものが球状構造層の厚みである。この操作を任意の30カ所で行い、数平均して、球状構造層の平均厚みを算出した。
純水透過性能は、次のように求めた。まず、高分子分離膜が中空糸膜の場合には、中空糸膜4本からなる長さ200mmのミニチュアモジュールを作製し、また、高分子分離膜が平膜の場合には、直径43mmの円形に切り出し、円筒型のろ過ホルダーにセットし、温度25℃、ろ過差圧16kPaの条件下に、逆浸透膜ろ過水の外圧全ろ過を10分間行い、透過量(m3)を求めた。次に、その透過量(m3)を単位時間(h)および有効膜面積(m2)あたりの値に換算し、さらに(50/16)倍することにより、圧力50kPaにおける値に換算することで純水透過性能を求めた。
阻止性能は、次のように求めた。まず、高分子分離膜が中空糸膜の場合には、中空糸膜4本からなる長さ200mmのミニチュアモジュールを作製し、また、高分子分離膜が平膜の場合には、直径43mmの円形に切り出し、円筒型のろ過ホルダーにセットし、温度25℃、ろ過差圧16kPaの条件下に、平均粒径0.843μmのポリスチレンラテックス粒子を分散させた水の外圧全ろ過を10分間行い、原水中と透過水中のラテックス粒子の濃度を波長240nmの紫外吸光度を測定して求め、その濃度比から阻止性能を求めた。次に、波長240nmの紫外吸光度の測定は、分光光度計(U−3200)(日立製作所製)を用いた。
破断強度および破断伸度は、引張り試験機(TENSILON/RTM−100)(東洋ボールドウィン製)を用いて、測定長さ50mmの試料を引張り速度50mm/分で引張り試験を試料を変えて5回行い、破断強度の平均値と、破断伸度の平均値を求めることで測定した。
また、膜の物理的耐久性を、次のエアースクラビング耐久性評価により行った。まず、中空糸膜1500本を束ね、直径10cm長さ100cmの円筒状透明容器内に詰めて膜モジュールを作製した。次に、膜モジュール内を飲料水で満たし、容器下部より100L/分の空気を連続的に122日間供給し、エアースクラビング耐久性評価を行った。なお、122日間は、実運転において30分に1回の頻度でエアースクラビングを1分間実施する運転方法を採用した場合に、10年間分のエアースクラビングに相当する。
さらに、エアースクラビング耐久性評価で、糸切れを起こさなかった中空糸膜については、次の運転性評価を行った。まず、直径3cm、長さ50cm、有効膜面積が0.3m2となるように膜モジュールを作製した。この膜モジュールを用いて、琵琶湖水の定流量外圧全ろ過を行った。ろ過運転は、原水側の加圧ポンプで原水を加圧供給することにより行った。ろ過線速度は、3m/dとした。120分毎に、5ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液による逆洗を30秒、空気によるエアースクラビングを1分行った。このろ過運転を平成16年10月5日〜11月5日までの1ヶ月間継続して実施した。ろ過運転開始時の物理洗浄直後のろ過差圧(A)とろ過運転終了時の該ろ過差圧(B)を計測した。Aが低いほど、低エネルギーで運転開始できることを意味する。また、ろ過差圧上昇度(%)を、(B−A)×(1/A)×100で算出した。ろ過差圧上昇度が低いほど安定に運転できる、すなわち、運転性が優れることを意味する。よって、Aとろ過差圧上昇度の両方が低い膜ほど、低エネルギーで安定に運転できることを意味する。なお、ろ過時間(120分)は、短期間で運転性を評価するために、実運転で想定されるろ過時間(30分)より長く設定した。
<実施例1>
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマーとγ−ブチロラクトンとを、それぞれ38重量%と62重量%の割合で170℃の温度で溶解した。この高分子溶液をγ−ブチロラクトンを中空部形成液体として随伴させながら口金から吐出し、温度20℃のγ−ブチロラクトン80重量%水溶液からなる冷却浴中で固化して球状構造からなる中空糸膜を作製した。
次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、セルロースアセテート(イーストマンケミカル社、CA435−75S:三酢酸セルロース)を1重量%、N−メチル−2−ピロリドンを77重量%、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン(三洋化成株式会社、商品名イオネットT−20C)を5重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この製膜原液を球状構造からなる中空糸膜表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させて球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させた中空糸膜を作製した。
得られた中空糸膜は、外径1340μm、内径780μm、球状構造の平均直径3.0μm、三次元網目構造層の表面の平均孔径0.04μm、三次元網目構造層の平均厚み34μm、球状構造層の平均厚み246μm、純水透過性能0.6m3/m2・hr、阻止性能99%、破断強度8.2MPa、破断伸度88%であった。
得られた中空糸膜の断面写真を図1に示す。また、表面写真を図2に示す。
エアースクラビング耐久性評価を実施した結果、122日後にも糸切れは全く観察されなかった。
運転性評価を実施した結果、ろ過運転開始時はろ過差圧30kPaであり、ろ過運転終了時はろ過差圧34kPaと、ろ過運転開始時のろ過差圧が低かった。また、ろ過差圧上昇度は13.3%と低く、安定に運転できることが分かった。
従って、得られた中空糸膜は、物理的耐久性に優れ、運転性も優れるため長期間安定に運転できることが分かった。なお、評価結果を表1aにまとめた。
<実施例2>
まず、実施例1と同様の方法で球状構造からなる中空糸膜を作製した。
次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社、CAP482−0.5)を1重量%、N−メチル−2−ピロリドンを77重量%、T−20Cを5重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この製膜原液を球状構造からなる中空糸膜表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させて球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させた中空糸膜を作製した。
得られた中空糸膜は、外径1340μm、内径780μm、球状構造の平均直径2.4μm、三次元網目構造層の表面の平均孔径0.05μm、三次元網目構造層の平均厚み30μm、球状構造層の平均厚み251μm、純水透過性能1.0m3/m2・hr、阻止性能99%、破断強度8.5MPa、破断伸度87%であった。
エアースクラビング耐久性評価を実施した結果、122日後にも糸切れは全く観察されなかった。
運転性評価を実施した結果、ろ過運転開始時はろ過差圧28kPaであり、ろ過運転終了時はろ過差圧30kPaと、ろ過運転開始時のろ過差圧が低かった。また、ろ過差圧上昇度は7.1%と低く、安定に運転できることが分かった。
従って、得られた中空糸膜は、物理的耐久性に優れ、運転性も優れるため長期間安定に運転できることが分かった。なお、評価結果を表1aにまとめた。
<実施例3>
まず、実施例1と同様の方法で球状構造からなる中空糸膜を作製した。
次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、セルロースアセテートブチレート(イーストマンケミカル社、CAB551−0.2)を1重量%、N−メチル−2−ピロリドンを77重量%、T−20Cを5重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この製膜原液を球状構造からなる中空糸膜表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させて球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させた中空糸膜を作製した。
得られた中空糸膜は、外径1340μm、内径780μm、球状構造の平均直径2.8μm、三次元網目構造層の表面の平均孔径0.06μm、三次元網目構造層の平均厚み29μm、球状構造層の平均厚み250μm、純水透過性能1.1m3/m2・hr、阻止性能99%、破断強度8.3MPa、破断伸度82%であった。
エアースクラビング耐久性評価を実施した結果、122日後にも糸切れは全く観察されなかった。
運転性評価を実施した結果、ろ過運転開始時はろ過差圧28kPaであり、ろ過運転終了時はろ過差圧31kPaと、ろ過運転開始時のろ過差圧が低かった。また、ろ過差圧上昇度は10.7%と低く、安定に運転できることが分かった。
従って、得られた中空糸膜は、物理的耐久性に優れ、運転性も優れるため長期間安定に運転できることが分かった。なお、評価結果を表1aにまとめた。
<実施例4>
まず、実施例1と同様の方法で球状構造からなる中空糸膜を作製した。
次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、ポリ酢酸ビニル(ナカライテスク社、75%エタノール溶液、重合度500)を1.25重量%、N−メチル−2−ピロリドンを76.75重量%、T−20Cを5重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この製膜原液を球状構造からなる中空糸膜表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させて球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させた中空糸膜を作製した。
得られた中空糸膜は、外径1340μm、内径780μm、球状構造の平均直径3.0μm、三次元網目構造層の表面の平均孔径0.04μm、三次元網目構造層の平均厚み28μm、球状構造層の平均厚み252μm、純水透過性能0.6m3/m2・hr、阻止性能99%、破断強度8.8MPa、破断伸度85%であった。
エアースクラビング耐久性評価を実施した結果、122日後にも糸切れは全く観察されなかった。
運転性評価を実施した結果、ろ過運転開始時はろ過差圧33kPaであり、ろ過運転終了時はろ過差圧37kPaと、ろ過運転開始時のろ過差圧が低かった。また、ろ過差圧上昇度は12.1%と低く、安定に運転できることが分かった。
従って、得られた中空糸膜は、物理的耐久性に優れ、運転性も優れるため長期間安定に運転できることが分かった。なお、評価結果を表1aにまとめた。
<実施例5>
まず、実施例1と同様の方法で球状構造からなる中空糸膜を作製した。
次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、エチレン−酢酸ビニル共重合体(大成化薬社、ポリエースRDH、68.5〜71.5モル%酢酸ビニル含有)を1重量%、N−メチル−2−ピロリドンを77重量%、T−20Cを5重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この製膜原液を球状構造からなる中空糸膜表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させて球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させた中空糸膜を作製した。
得られた中空糸膜は、外径1340μm、内径780μm、球状構造の平均直径2.5μm、三次元網目構造層の表面の平均孔径0.03μm、三次元網目構造層の平均厚み30μm、球状構造層の平均厚み251μm、純水透過性能0.5m3/m2・hr、阻止性能99%、破断強度8.7MPa、破断伸度85%であった。
エアースクラビング耐久性評価を実施した結果、122日後にも糸切れは全く観察されなかった。
運転性評価を実施した結果、ろ過運転開始時はろ過差圧35kPaであり、ろ過運転終了時はろ過差圧41kPaと、ろ過運転開始時のろ過差圧が低かった。また、ろ過差圧上昇度は17.1%と低く、安定に運転できることが分かった。
従って、得られた中空糸膜は、物理的耐久性に優れ、運転性も優れるため長期間安定に運転できることが分かった。なお、評価結果を表1aにまとめた。
<実施例6>
まず、実施例1と同様の方法で球状構造からなる中空糸膜を作製した。
次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、重量平均分子量4.2万のビニルピロリドンとメチルメタクリレートとのランダム共重合体(PMMA−co−PVP、共重合モル比55:45)を1重量%、N−メチル−2−ピロリドンを77重量%、T−20Cを5重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この製膜原液を球状構造からなる中空糸膜表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させて球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させた中空糸膜を作製した。
得られた中空糸膜は、外径1340μm、内径780μm、球状構造の平均直径2.5μm、三次元網目構造層の表面の平均孔径0.03μm、三次元網目構造層の平均厚み33μm、球状構造層の平均厚み246μm、純水透過性能0.4m3/m2・hr、阻止性能98%、破断強度8.3MPa、破断伸度88%であった。
エアースクラビング耐久性評価を実施した結果、122日後にも糸切れは全く観察されなかった。
運転性評価を実施した結果、ろ過運転開始時はろ過差圧38kPaであり、ろ過運転終了時はろ過差圧46kPaと、ろ過運転開始時のろ過差圧が低かった。また、ろ過差圧上昇度は21.1%と低く、安定に運転できることが分かった。
従って、得られた中空糸膜は、物理的耐久性に優れ、運転性も優れるため長期間安定に運転できることが分かった。なお、評価結果を表1bにまとめた。
<実施例7>
まず、実施例1と同様の方法で球状構造からなる中空糸膜を作製した。
次いで、T−20Cを添加しなかった以外は実施例1と同様にして球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させた中空糸膜を作製した。
得られた中空糸膜は、外径1340μm、内径780μm、球状構造の平均直径2.5μm、三次元網目構造層の表面の平均孔径0.02μm、三次元網目構造層の平均厚み25μm、球状構造層の平均厚み255μm、純水透過性能0.1m3/m2・hr、阻止性能99%、破断強度8.4MPa、破断伸度85%であり、実施例1に比べて透水性能の低い膜であった。
エアースクラビング耐久性評価を実施した結果、122日後にも糸切れは全く観察されなかった。
運転性評価を実施した結果、ろ過運転開始時はろ過差圧48kPaであり、ろ過運転終了時はろ過差圧60kPaと、透水性能が低いためにろ過運転開始時のろ過差圧が実施例1よりもやや高かった。ただし、ろ過差圧上昇度は25.0%と低く、安定に運転できることが分かった。
従って、得られた中空糸膜は、ろ過運転開始時のろ過差圧がやや高いものの、物理的耐久性に優れ、運転性も優れるため長期間安定に運転できることが分かった。なお、評価結果を表1bにまとめた。
<実施例8>
まず、実施例1と同様の方法で球状構造からなる中空糸膜を作製した。
次いで、実施例1と同様にして球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させた中空糸膜を作製した。ただし、実施例1よりも三次元網目構造層を厚く形成させた。
得られた中空糸膜は、外径1400μm、内径780μm、球状構造の平均直径2.5μm、三次元網目構造層の表面の平均孔径0.02μm、三次元網目構造層の平均厚み60μm、球状構造層の平均厚み250μm、純水透過性能0.2m3/m2・hr、阻止性能99%、破断強度8.3MPa、破断伸度87%であり、実施例1に比べて三次元網目構造層の平均厚みが厚い膜であった。
エアースクラビング耐久性評価を実施した結果、122日後にも糸切れは全く観察されなかった。
運転性評価を実施した結果、ろ過運転開始時はろ過差圧55kPaであり、ろ過運転終了時はろ過差圧67kPaと、三次元網目構造層の平均厚みが厚いためにろ過運転開始時のろ過差圧が実施例1よりもやや高かった。ただし、ろ過差圧上昇度は21.8%と低く、安定に運転できることが分かった。
従って、得られた中空糸膜は、ろ過運転開始時のろ過差圧がやや高いものの、物理的耐久性に優れ、運転性も優れるため長期間安定に運転できることが分かった。なお、評価結果を表1bにまとめた。
<実施例9>
まず、実施例1と同様の方法で球状構造からなる中空糸膜を作製した。
次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(アルドリッチ社、数平均分子量475)とメチルメタクリレートとのランダム共重合体(PMMA−co−PEGMA、共重合モル比55:45、重量平均分子量4.5万)を1重量%、N−メチル−2−ピロリドンを77重量%、T−20Cを5重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この製膜原液を球状構造からなる中空糸膜表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させて球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させた中空糸膜を作製した。
得られた中空糸膜は、外径1400μm、内径780μm、球状構造の平均直径2.5μm、三次元網目構造層の表面の平均孔径0.05μm、三次元網目構造層の平均厚み31μm、球状構造層の平均厚み252μm、純水透過性能0.7m3/m2・hr、阻止性能99%、破断強度8.4MPa、破断伸度87%であった。
エアースクラビング耐久性評価を実施した結果、122日後にも糸切れは全く観察されなかった。
運転性評価を実施した結果、ろ過運転開始時はろ過差圧30kPaであり、ろ過運転終了時はろ過差圧34kPaと、ろ過運転開始時のろ過差圧が低かった。また、ろ過差圧上昇度は13.3%と低く、安定に運転できることが分かった。
従って、得られた中空糸膜は、物理的耐久性に優れ、運転性も優れるため長期間安定に運転できることが分かった。なお、評価結果を表1bにまとめた。
<実施例10>
まず、実施例1と同様の方法で球状構造からなる中空糸膜を作製した。
次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、ポリプロピレングリコールメチルエーテルアクリレート(アルドリッチ社、数平均分子量202)とメチルメタクリレートとのランダム共重合体(PMMA−co−PPGA、共重合モル比55:45、重量平均分子量3.8万)を1重量%、N−メチル−2−ピロリドンを77重量%、T−20Cを5重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この製膜原液を球状構造からなる中空糸膜表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させて球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させた中空糸膜を作製した。
得られた中空糸膜は、外径1400μm、内径780μm、球状構造の平均直径2.5μm、三次元網目構造層の表面の平均孔径0.06μm、三次元網目構造層の平均厚み33μm、球状構造層の平均厚み251μm、純水透過性能0.6m3/m2・hr、阻止性能99%、破断強度8.3MPa、破断伸度88%であった。
エアースクラビング耐久性評価を実施した結果、122日後にも糸切れは全く観察されなかった。
運転性評価を実施した結果、ろ過運転開始時はろ過差圧33kPaであり、ろ過運転終了時はろ過差圧38kPaと、ろ過運転開始時のろ過差圧が低かった。また、ろ過差圧上昇度は15.1%と低く、安定に運転できることが分かった。
従って、得られた中空糸膜は、物理的耐久性に優れ、運転性も優れるため長期間安定に運転できることが分かった。なお、評価結果を表1bにまとめた。
<比較例1>
重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを25重量%、セルロースアセテート(イーストマンケミカル社、CA435−75S:三酢酸セルロース)を2.5重量%、N−メチル−2−ピロリドンを64.5重量%、T−20Cを5重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この高分子溶液を20重量%N−メチル−2−ピロリドン水溶液を中空部形成液体として随伴させながら口金から吐出し、温度40℃の水浴中で固化して三次元網目構造のみからなる中空糸膜を作製した。
得られた中空糸膜は、外径1340μm、内径780μm、三次元網目構造層の表面の平均孔径0.03μm、三次元網目構造層の平均厚み280μm、純水透過性能0.4m3/m2・hr、阻止性能98%、破断強度2.2MPa、破断伸度28%であった。得られた中空糸膜は、球状構造層を有さないので、破断強度、破断伸度が低い膜であった。
エアースクラビング耐久性評価を実施した結果、12日後に糸切れが観察され、20日後には数十本の糸切れが観察された。
エアースクラビング耐久性評価で糸切れが観察されたので、長期間運転することは困難であると判断し、運転性評価は実施しなかった。なお、評価結果を表2にまとめた。
<比較例2>
まず、実施例1と同様の方法で球状構造からなる中空糸膜を作製した。
次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを15重量%、N−メチル−2−ピロリドンを77重量%、T−20Cを5重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この製膜原液を球状構造からなる中空糸膜表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させて球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させた中空糸膜を作製した。
得られた中空糸膜は、外径1340μm、内径780μm、球状構造の平均直径2.0μm、三次元網目構造層の表面の平均孔径0.05μm、三次元網目構造層の平均厚み30μm、球状構造層の平均厚み250μm、純水透過性能1.0m3/m2・hr、阻止性能98%、破断強度9.2MPa、破断伸度80%であった。
エアースクラビング耐久性評価を実施した結果、122日後にも糸切れは全く観察されなかった。
運転性評価を実施した結果、ろ過運転開始時はろ過差圧27kPaであり、ろ過運転終了時はろ過差圧70kPaと、ろ過運転開始時のろ過差圧が低かった。しかし、ろ過差圧上昇度は160%と高く、安定に運転できないことが分かった。
従って、得られた中空糸膜は、物理的耐久性には優れるが、運転性が劣るため長期間安定に運転できないことが分かった。なお、評価結果を表2にまとめた。
<比較例3>
まず、実施例1と同様の方法で球状構造からなる中空糸膜を作製した。
次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、ポリメチルメタクリレート(三菱レイヨン社、ダイヤナールBR−85)を1重量%、N−メチル−2−ピロリドンを77重量%、T−20Cを5重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この製膜原液を球状構造からなる中空糸膜表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させて球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させた中空糸膜を作製した。
得られた中空糸膜は、外径1340μm、内径780μm、球状構造の平均直径2.5μm、三次元網目構造層の表面の平均孔径0.04μm、三次元網目構造層の平均厚み23μm、球状構造層の平均厚み257μm、純水透過性能0.8m3/m2・hr、阻止性能99%、破断強度8.7MPa、破断伸度84%であった。
エアースクラビング耐久性評価を実施した結果、122日後にも糸切れは全く観察されなかった。
運転性評価を実施した結果、ろ過運転開始時はろ過差圧36kPaであり、ろ過運転終了時はろ過差圧60kPaと、ろ過運転開始時のろ過差圧が低かった。しかし、ろ過差圧上昇度は66.7%と高く、安定に運転できないことが分かった。
従って、得られた中空糸膜は、物理的耐久性には優れるが、運転性が劣るため長期間安定に運転できないことが分かった。なお、評価結果を表2にまとめた。
<比較例4>
実施例1と同様の方法で球状構造からなる中空糸膜を作製した。この中空糸膜には、球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させなかった。
得られた中空糸膜は、外径1340μm、内径780μm、球状構造の平均直径2.5μm、球状構造層の平均厚み280μm、純水透過性能2.0m3/m2・hr、阻止性能97%、破断強度8.3MPa、破断伸度84%であった。
エアースクラビング耐久性評価を実施した結果、122日後にも糸切れは全く観察されなかった。
運転性評価を実施した結果、ろ過運転開始時はろ過差圧15kPaであり、ろ過運転終了時はろ過差圧148kPaと、ろ過運転開始時のろ過差圧が低かった。しかし、ろ過差圧上昇度は887%と高く、安定に運転できないことが分かった。
従って、得られた中空糸膜は、物理的耐久性には優れるが、運転性が劣るため長期間安定に運転できないことが分かった。なお、評価結果を表2にまとめた。