JP5057299B2 - 強度傾斜部材用鋼板とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、強度傾斜部材用鋼板とその製造方法に関する。強度傾斜部材とは、部材内で部分的に強度の異なる部材であって、該部材用鋼板(素材)をプレス成形後に塗装後焼付け処理等の熱処理(時効処理ともいう)を施して製造されるものを意味する。この強度傾斜部材は、現状の主用途が自動車の分野にあるが、家電、建築等の分野に適用することも可能である。また、ここで強度傾斜部材は、強度が徐々に変化するか否かにかかわらず、部材内で部分的に強度の異なる部材を意味する。
【0002】
【従来の技術】
地球環境保護の観点から自動車車体の軽量化が要求されている。その一方で、自動車衝突時の安全確保のために車体の耐衝突強度を高めることも要請されている。この車体の軽量化と耐衝突強度向上とを十分なレベルで両立させることは難しく、例えば耐衝突強度を向上させようとして衝突部材の肉厚を厚くしあるいは補強材を用いると車体重量が増加するというジレンマに陥る。
【0003】
そのため、キャビンに近い部分は変形しにくい高強度材および/または厚肉材で形成され、キャビンから遠い(衝突物体に近い)部分は長さ方向に蛇腹状に座屈して衝突のエネルギーを吸収しやすい低強度材および/または薄肉材で形成された部材が使用され、衝突のエネルギーを効率よく吸収する部材が必要となっている。かかる部材の如く一つのプレス成形部材において部分部分で属性を違えたものを傾斜部材と称し、違えた属性が強度であるものを強度傾斜部材と称する。
【0004】
一方、プレス成形の分野ではプレスの効率化やプレス金型の保有数削減が指向されており、これに適合させた強度傾斜部材製作法として、複数の鋼板を予めレーザ等で接合して一体化した部材をプレス成形するテーラードブランク法や、プレス成形品の強度所望部位を該部位に高密度エネルギー源(レーザ等)を照射することにより焼入れ硬化部となす方法(特開平4−72010 号公報)などが知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前記従来の強度傾斜部材は、その製作過程で接合や焼入れにレーザ等を使用する必要があるため、設備費が高くまた生産性が悪いという問題があった。本発明の目的は、この問題を解決しうる手段、すなわち強度傾斜部材をレーザ等による接合あるいは焼入れを要さずに生産性良く製造できる強度傾斜部材用鋼板とその製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、プレス成形後熱処理された部材内に強度が他部よりも高い高強度部を有する強度傾斜部材の前記プレス成形前素材として用いる鋼板であって、下記の特性を有する高歪時効硬化鋼板の前記高強度部となす箇所にレベリング加工にて予歪5%以上を付与してなることを特徴とする強度傾斜部材用鋼板(本発明鋼板)である。
記
歪5%付与後に170℃×20分の熱処理を施した場合の引張強度が、歪を付与せず同じ熱処理を施した場合の引張強度に比べて40MPa 以上上昇する特性
また、本発明鋼板では、前記プレス成形前素材が、第1成分(C:0.01〜0.12%、Si:2.0 %以下、Mn:0.01〜3.0 %、P:0.2 %以下、Al:0.001 〜0.1 %、N:0.003 〜0.02%)を全て含有し、あるいはさらに、第2成分(Ti:0.001 〜0.1 %、Nb:0.001 〜0.1 %)のうちの1種または2種、および/または、第3成分(Ni:0.1 〜1.5 %、Cr:0.1 〜1.5 %、Mo:0.1 〜1.5 %)のうちの1種または2種以上を含有し、平均結晶粒径8μm 以下のフェライトを主相とする組織を有し、さらに、固溶N量=0.003〜0.01%であり、フェライト結晶粒界面から±5nmの範囲内に存在する平均固溶N濃度Ngb とフェライト結晶粒内に存在する平均固溶N濃度Ngとの比 Ngb/Ng =100 〜10000 である高張力熱延鋼板であることが好ましい。
【0007】
また、本発明は、プレス成形後時効処理された部材内に強度が他部よりも高い高強度部を有する強度傾斜部材の前記プレス成形前素材として用いる鋼板の製造方法であって、前記の特性を有する高歪時効硬化鋼板に前記高強度部となす箇所を定め、該箇所に対し予歪5%以上になるレベリング加工を施すことを特徴とする強度傾斜部材用鋼板の製造方法(本発明方法)である。
本発明方法では、前記プレス成形前素材が、第1成分(C:0.01〜0.12%、Si:2.0 %以下、Mn:0.01〜3.0 %、P:0.2 %以下、Al:0.001 〜0.1 %、N:0.003 〜0.02%)を全て含有し、あるいはさらに、第2成分(Ti:0.001 〜0.1 %、Nb:0.001 〜0.1 %)のうちの1種または2種、および/または、第3成分(Ni:0.1 〜1.5 %、Cr:0.1 〜1.5 %、Mo:0.1 〜1.5 %)のうちの1種または2種以上を含有し、平均結晶粒径8μm 以下のフェライトを主相とする組織を有し、さらに、固溶N量=0.003〜0.01%であり、フェライト結晶粒界面から±5nmの範囲内に存在する平均固溶N濃度Ngb とフェライト結晶粒内に存在する平均固溶N濃度Ngとの比 Ngb/Ng =100 〜10000 である高張力熱延鋼板であることが好ましい。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明は、歪5%付与後に比較的低温の熱処理である400 ℃以下の熱処理を施すことにより、歪を付与せず同じ熱処理を施したものに比して引張強度(引張強さ又はTSとも称する。)が40MPa 以上上昇する特性を有する高歪時効硬化鋼板の特徴を有利に引き出したものであり、この高歪時効硬化鋼板に部分的に予歪5%以上を与えてなる本発明鋼板にプレス成形→熱処理を施すと、前記予歪を与えた部分のTSが他の部分に比べて顕著に上昇する。
【0009】
それゆえ、予め実験等で求めておいた前記予歪の歪量と前記プレス成形→熱処理後のTSの上昇量との関係に基づいて、前記プレス成形→熱処理後のTSの目標値に対応する歪量の値εA を決定し、歪量εA の予歪を高強度部としたい箇所に与えておくだけで、プレス成形→熱処理後に前記高強度部としたい箇所のTSが前記目標値通りとなった強度傾斜部材を得ることができる。
【0010】
すなわち、本発明鋼板によれば、これをそのままプレス成形→400 ℃以下の熱処理するだけで、レーザ等の高価な接合あるいは照射加熱設備を必要とせず安価にかつ生産性良く強度傾斜部材を製造することができる。
通常の鋼板を使用しても予歪による加工硬化によりプレス成形後に部分的に材料が硬くなった部材を製造することが可能であるが、本発明によれば、高歪時効硬化鋼板を使用することにより、通常鋼板を単に加工硬化させた場合よりも異部分間の強度差が格段に大きい強度傾斜部材を製造することができる。
【0011】
本発明で用いる高歪時効硬化鋼板は、歪5%付与後に400 ℃以下の熱処理を施した場合のTSが、歪を付与せず同じ熱処理を施した場合に比べて40MPa 以上上昇する特性を有する鋼板でなければならない。このTS上昇量(ΔTS=(歪5%付与後に熱処理を施した場合のTS)−(歪を付与せず同じ熱処理を施した場合のTS))が40MPa に達しない鋼板では、部材内での強度の差が小さく、部材内で部分的に強度を変化させるメリットを享受することができない。
【0012】
ここで、熱処理温度は400 ℃以下とする。400 ℃を超える高温処理では、処理を行うための設備費が高くなる。また、熱処理として一般的に行われているプレス形成後の塗装焼き付け処理を採用することが、設備費を小さくする上で、非常に有利である。このため、プレス形成後の塗装焼き付け相当処理、すなわち170 ℃×20分処理する熱処理により40MPa 以上引張り強度が上昇する高歪時効硬化鋼板が好ましい。
【0013】
高歪時効硬化鋼板としては、例えば特開2000−297350号公報に開示される鋼板、すなわち、第1成分(C:0.01〜0.12%、Si:2.0 %以下、Mn:0.01〜3.0 %、P:0.2 %以下、Al:0.001 〜0.1 %、N:0.003 〜0.02%)を全て含有し、あるいはさらに、第2成分(Ti:0.001 〜0.1 %、Nb:0.001 〜0.1 %)のうちの1種または2種、および/または、第3成分(Ni:0.1 〜1.5 %、Cr:0.1 〜1.5 %、Mo:0.1 〜1.5 %)のうちの1種または2種以上を含有し、平均結晶粒径8μm 以下のフェライトを主相とする組織を有し、さらに、固溶N量=0.003 〜0.01%であり、フェライト結晶粒界面から±5nmの範囲内に存在する平均固溶N濃度Ngb とフェライト結晶粒内に存在する平均固溶N濃度Ngとの比 Ngb/Ng =100 〜10000 である高張力熱延鋼板が好適である。
【0014】
本発明では、高歪時効硬化鋼板に付与する予歪の歪量は5%以上とする必要がある。この歪量が5%に満たないと、高歪時効硬化鋼板を用いてもプレス成形→熱処理後の部材内強度差が過小となるおそれがあり、強度傾斜部材用鋼板として不十分なものとなる。
本発明において、予歪の歪量は次のように定義される。すなわち、予歪導入用の加工装置(例:レベラ、圧延機など)で加工する前の鋼板について引張試験を行って真応力(σ)−真歪(ε)曲線:σ=F(ε)を求め、次に同鋼板を同加工装置で加工したものについて引張試験を行って降伏点強度(YP)を求め、次に前記真応力−真歪曲線σ=F(ε)を用いてσ=YPに対応する真歪εの値εYPを求め、これを当該加工装置で導入された予歪の歪量とする(図1参照)。加工装置の操作量(加工操作量)とYPとの関係は別途実験により定めうるから、この関係と前記真応力−真歪曲線とを用いて、加工操作量を予歪の目標歪値に対応した値に設定することができる。
【0015】
本発明では、前記高歪時効硬化鋼板への予歪付与方法はレベリング加工とすることが好ましい。高歪時効硬化鋼板に予歪を与える方法としては、レベリング加工の他に圧延加工が考えられるが、圧延加工は1対のロールで板を挟んで圧下する加工であるため鋼板の被加工部分(高強度部としたい箇所)の板厚(肉厚)減少を伴い、剛性の面で不利となって好ましくない。これに対してレベリング加工は複数のロールを上下互い違いに配置したレベラ2を用いた曲げ曲げもどし主体の加工であるから鋼板1の被加工部分の板厚減少をほとんど生じることがなく、予歪導入方法として最適である(図2参照)。
【0016】
そして本発明方法によれば、レベラの加工操作量(矯正量、鋼板通し部位、鋼板通し回数など)を設定するだけで、任意の鋼板長さ部位に予歪を任意の歪量で与えることができるから、強度傾斜部材にテーパ状、ステップ状等の様々な強度分布を容易に付与することができる。
【0017】
【実施例】
耐衝突性評価試験では、図3に示す寸法形状を有する板状材料(強度傾斜部材用鋼板に相当)をプレス成形により図4に示す寸法形状を有するハット型成形部材(強度傾斜部材に相当)となし、これに熱処理として170 ℃×20分を施したものを試験片としその部位A側から重さ270kg の重りを時速20km/hで衝突させ、ハット型成形部材の潰れ量60mmまでの吸収エネルギーにより耐衝突性が評価される。
【0018】
表1に示す特徴を有する板厚1.4mm の熱延鋼板▲1▼〜▲4▼を用いて表2に示す方法で図4のハット型成形部材の成形素材となすべき図3の板状材料を作製して上記の耐衝突特性評価試験を行った。その結果を表2に示す。なお、表1においてΔTSは以下のような形で求めた。
ΔTS=(歪5%付与後に170 ℃×20分熱処理を施した場合のTS)
−(歪を付与せず170 ℃×20分熱処理を施した場合のTS)
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
実施例1、2はΔTSが40MPa 以上になる鋼板(高歪時効硬化鋼板)▲1▼、▲2▼の部位A相当部分に予歪を与えず部位B相当部分にレベラで予歪5%を与えたものでこの場合の板状材料が本発明鋼板に該当するもの、比較例1はΔTSが40MPa 未満になる鋼板▲3▼の部位A相当部分に予歪を与えず部位B相当部分にレベラで予歪5%を与えたもの、比較例2は部位A側に鋼板▲1▼、部位B側に高強度鋼板▲4▼を充当して両者をテーラードブランク法で接合したもの、比較例3は鋼板▲1▼の部位A相当部分にも部位B相当部分にも予歪を与えなかったものである。
【0022】
実施例1、2では、比較例2に匹敵する耐衝突性が得られており、本発明鋼板を強度傾斜部材の素材に用いることで、高価な接合装置等によらずとも生産性良く強度傾斜部材を製造できることがわかる。
【0023】
【発明の効果】
本発明によれば、特別な装置を必要とせずに生産性良く強度傾斜部材を製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】予歪の歪量の定義説明図である。
【図2】部分的に施すレベリング加工の説明図である。
【図3】ハット型成形部材用の板状材料を示す平面図である。
【図4】ハット型成形部材を示す立体図である。
【符号の説明】
1 鋼板
2 レベラ
Claims (2)
- プレス成形後熱処理された部材内に強度が他部よりも高い高強度部を有する強度傾斜部材の前記プレス成形前素材として用いる鋼板であって、該鋼板が第1成分(C:0.01〜0.12%、Si:2.0%以下、Mn:0.01〜3.0%、P:0.2%以下、Al:0.001〜0.1%、N:0.003〜0.02%)を全て含有し、あるいはさらに、第2成分(Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%)のうちの1種または2種、および/または、第3成分(Ni:0.1〜1.5%、Cr:0.1〜1.5%、Mo:0.1〜1.5%)のうちの1種または2種以上を含有し、平均結晶粒径8μm以下のフェライトを主相とする組織を有し、さらに、固溶N量=0.003〜0.01%であり、フェライト結晶粒界面から±5nmの範囲内に存在する平均固溶N濃度Ngbとフェライト結晶粒内に存在する平均固溶N濃度Ngとの比Ngb/Ng=100〜10000である高張力熱延鋼板であり、さらに下記の特性を有する高歪時効硬化鋼板の前記高強度部となす箇所にレベリング加工にて予歪5%以上を付与してなることを特徴とする強度傾斜部材用鋼板。
記
歪5%付与後に170℃×20分の熱処理を施した場合の引張強度が、歪を付与せず同じ熱処理を施した場合の引張強度に比べて40MPa以上上昇する特性 - プレス成形後熱処理された部材内に強度が、他部よりも高い高強度部を有する強度傾斜部材の前記プレス成形前素材として用いる鋼板の製造方法であって、該鋼板が第1成分(C:0.01〜0.12%、Si:2.0%以下、Mn:0.01〜3.0%、P:0.2%以下、Al:0.001〜0.1%、N:0.003〜0.02%)を全て含有し、あるいはさらに、第2成分(Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%)のうちの1種または2種、および/または、第3成分(Ni:0.1〜1.5%、Cr:0.1〜1.5%、Mo:0.1〜1.5%)のうちの1種または2種以上を含有し、平均結晶粒径8μm以下のフェライトを主相とする組織を有し、さらに、固溶N量=0.003〜0.01%であり、フェライト結晶粒界面から±5nmの範囲内に存在する平均固溶N濃度Ngbとフェライト結晶粒内に存在する平均固溶N濃度Ngとの比Ngb/Ng=100〜10000である高張力熱延鋼板であり、さらに下記の特性を有する高歪時効硬化鋼板に前記高強度部となす箇所を定め、該箇所に対し予歪5%以上になるレベリング加工を施すことを特徴とする強度傾斜部材用鋼板の製造方法。
記
歪5%付与後に170℃×20分の熱処理を施した場合の引張強度が、歪を付与せず同じ熱処理を施した場合の引張強度に比べて40MPa以上上昇する特性
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