本発明は上記の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、可変圧縮比機構を備えたエンジンシステムに異常が有るかどうかを好適に診断することのできるエンジンシステムの異常診断装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明に係るエンジンシステムの異常診断装置は以下の手段を採用する。すなわち、
エンジンの圧縮比を該エンジンの運転状態に応じた目標圧縮比に制御可能な可変圧縮比機構を備える可変圧縮比エンジンに適用され、
前記エンジンの圧縮比が前記目標圧縮比に制御されている状態において、前記エンジンに発生するノッキング強度に応じて該エンジンの点火時期に要求される遅角要求値、及び前記エンジンの始動時において初爆が発生するまでに燃料噴射弁から噴射される燃料の総噴射量(以下、始動時総噴射量という)に相関する値の少なくとも何れかを取得値として取得する取得手段と、
前記取得手段が取得する前記取得値に対する異常判定値を前記目標圧縮比に応じて設定する異常判定値設定手段と、
前記取得手段が取得した前記取得値が前記異常判定値を超えるときにエンジンシステムに異常が有ると診断する異常診断手段と、
を備えることを特徴とする。
ノッキング強度とは、エンジンに発生するノッキングの強さの程度を表すものである。
例えば、公知のノッキングセンサによってエンジンの振動の大きさを検出する場合には、その検出値が大きいほどノッキング強度が大きいと判断することができる。エンジンにノッキングが発生した場合、ノッキングを低減、或いは抑制させるためにエンジンの点火時期に遅角要求が出される。本発明における遅角要求値は、ノッキング強度に応じて点火時期が遅角側に補正(変更)されるときの補正量の大きさを意味する。この場合、点火時期に対する遅角補正1回分の遅角補正量を遅角要求値として採用しても良いし、或いは、遅角要求値を取得するための取得時間を予め定めておき該取得時間内における遅角補正量の積算値を遅角要求値として採用しても良い。何れを採用しても、ノッキング強度が高いほど遅角要求値が大きくなるという関係が成り立つ。以下、本明細書中で単に「遅角要求値」と述べるときは、エンジンに発生するノッキング強度に応じてエンジンの点火時期に要求される遅角要求値の意味として用いる。
また、「始動時総噴射量に相関する値」には、始動時総噴射量の他、燃料噴射弁からエンジンの始動に係る燃料噴射が開始されてから初爆が発生するまでに要する燃料の噴射回数(以下、始動時噴射回数という)や、エンジンの始動に係る燃料噴射が開始されてから初爆が発生するまでに要する時間(以下、初爆所要時間という)等が該当する。例えば、エンジンの始動時において一燃焼サイクルに噴射される燃料の燃料噴射量が等しい場合、始動時総噴射量が多いほど始動時噴射回数も多くなり、初爆所要時間も長くなることによる。以下、本明細書中で単に「始動時総噴射量に相関する値」と述べるときは、エンジンの始動時において初爆が発生するまでに燃料噴射弁から噴射される燃料の総噴射量に相関する値の意味として用いるものとする。
何らかの原因によってエンジンシステムに異常が生じる場合がある。本明細書中におけるエンジンシステムとは、可変圧縮比機構、燃料噴射系、エンジンの運転状態や燃料性状を検出するための各種センサ等を包括する概念である。エンジンシステムの異常としては、各種センサの異常検出によって目標圧縮比が実際のエンジンの運転状態に適切な値として設定されない、目標圧縮比が適切な値に設定されてもその設定値通りに圧縮比を制御できない、或いは燃料噴射弁による燃料噴射に係る制御が適切に行われない等の状況を例示できる。
エンジンシステムに上記のような異常が生じると、エンジンの圧縮比を目標圧縮比に制御しようと可変圧縮比機構を作動させた場合、遅角要求値、或いは始動時総噴射量に相関する値が正常範囲(通常の運転状態において想定される範囲)を逸脱して過度に大きくなってしまう。これは、エンジンシステムの異常の有無に応じてエンジンに発生するノッキング強度や、エンジンの始動性(始動のし易さの程度)が変化するからである。
そこで、本発明では、エンジンの圧縮比が目標圧縮比に制御されている状態において、エンジンシステムの異常の有無に応じて大きさが変化する遅角要求値、及び始動時総噴射量に相関する値の少なくとも何れかを取得値として取得し、取得した取得値を異常判定値と比較することでエンジンシステムに異常が有るかどうかを診断する。
異常判定値は、取得手段が取得する取得値(遅角要求値或いは始動時総噴射量に相関する値)が異常値を呈しているかどうかを判定するための基準値である。当然ながら、取得手段が遅角要求値を取得する場合と始動時総噴射量に相関する値を取得する場合とでは、異常判定値が異なる値に設定されても構わない。遅角要求値に対して設定される異常判定値を第1異常判定値とし、始動時総噴射量に相関する値に対して設定される異常判定値を第2異常判定値とすると、これらは、エンジンシステムが正常と判断できるときの遅角要求値、始動時総噴射量に相関する値の夫々の上限値として捉えることができる。
ここで、エンジンの圧縮比はノッキング強度や、エンジンの始動性に影響を及ぼすため
、目標圧縮比に応じて異常判定値に対する最適値も変化する。本発明では、異常判定値を目標圧縮比に応じた値に設定するため、目標圧縮比を考慮した上で異常判定値を適切な値に設定できる。これにより、エンジンシステムの異常診断を精度良く実行できる。
ここで、本発明におけるエンジンはガソリンとアルコールとの混合燃料を使用可能であって、且つ燃料のアルコール濃度を検出する濃度検出装置を備えた混合燃料エンジンである場合に、目標圧縮比はアルコール濃度の検出値が高いほど高圧縮比側の値として設定され、異常判定値設定手段はアルコール濃度の検出値及び目標圧縮比に応じて異常判定値を設定し、異常診断手段は取得手段が取得した取得値が異常判定値を超えるときに濃度検出装置に異常が有ると診断するようにしても良い。ここで、ガソリンとアルコールとの混合燃料を使用可能とは、上記混合燃料の他、ガソリンのみ(アルコール濃度0%)或いはアルコールのみ(アルコール濃度100%)の燃料も使用できる意味である。
この構成において、遅角要求値を取得値として取得し、濃度検出装置におけるアルコール濃度の過大検出がなされているかどうかを診断する手法について説明する。この過大検出とは、アルコール濃度の検出値が実際(真)のアルコール濃度(以下、実アルコール濃度という)よりも高濃度側に誤検出されることをいう。
ここで、アルコール濃度が低い場合に比べて高い場合の方が燃料の揮発性が低く、エンジンに供給された燃料は気化し難くなる。従って、他の条件が等しい場合には実アルコール濃度が高いほど混合気の燃焼温度や燃焼速度が低くなるため、ノッキング強度が低減される。逆に、他の条件が等しい場合にはエンジンの圧縮比が高いほどノッキング強度が高くなる。
この構成によれば、アルコール濃度の検出値が高いほど目標圧縮比が高圧縮比側の値として設定される。そのため、燃料性状がノッキングを誘発し難いと判断される場合には目標圧縮比が高めに設定され、逆に燃料性状がノッキングを誘発し易いと判断される場合には目標圧縮比が低めに設定される。従って、濃度検出装置が正常であり、アルコール濃度の検出値が実アルコール濃度に略一致していれば、燃料の実アルコール濃度が変化してもその濃度に応じて目標圧縮比の値が適宜変更されるため、ノッキング強度が過度に増大することがない。
しかし、濃度検出装置によるアルコール濃度の検出値が実アルコール濃度よりも高濃度側に誤検出された場合(アルコール濃度の過大検出)、燃料の揮発性が実際よりも低いと誤って判断されてしまう。これにより、目標圧縮比の値は実アルコール濃度との関係で不相応に高く設定されることになる。そのため、設定された目標圧縮比の値は高濃度側に誤検出されたアルコール濃度との関係では適切であっても実アルコール濃度に対しては高すぎるため、アルコール濃度が正常に検出された場合に比べてエンジンに発生するノッキング強度が増加する。
次に、始動時総噴射量に相関する値を取得値として取得し、濃度検出装置におけるアルコール濃度の過小検出がなされているかどうかを診断する手法について説明する。この過小検出とは、アルコール濃度の検出値が実アルコール濃度よりも低濃度側に誤検出されることをいう。
上記のように、他の条件が等しいとすれば実アルコール濃度が高いほど燃料の揮発性が低くなるため、エンジンが始動し難くなる(始動性が低下する)。つまり、実アルコール濃度が高いほど始動時総噴射量、始動時噴射回数、初爆所要時間が増加する傾向があり、始動時総噴射量に相関する値はより大きな値を呈する。一方、エンジン始動時における圧縮比が高いほど筒内温度も高まるため、他の条件が等しければ始動時総噴射量に相関する
値はより小さな値を呈する。
この構成では、アルコール濃度の検出値が低くエンジンの始動性が高いと判断される場合には目標圧縮比が低めに設定され、アルコール濃度の検出値が高く該始動性が低いと判断される場合には目標圧縮比が高めに設定される。そのため、濃度検出装置が正常であり、アルコール濃度の検出値が実アルコール濃度と略一致していれば、実アルコール濃度が変化してもその濃度に応じて目標圧縮比が設定されるため、始動時総噴射量に相関する値が過度に増大することがない。
しかし、濃度検出装置によるアルコール濃度の検出値が実アルコール濃度よりも低濃度側に誤検出された場合(アルコール濃度の過小検出)、燃料の揮発性が実際よりも高いと誤って判断されてしまう。これにより、目標圧縮比の値は実アルコール濃度との関係で不相応に低く設定されることになる。そのため、設定された目標圧縮比の値は低濃度側に誤検出されたアルコール濃度との関係では適切であっても実アルコール濃度に対しては低すぎるため、アルコール濃度が正常に検出された場合に比べてエンジンの始動性が悪化する。
上述したように、燃料の実アルコール濃度と圧縮比とは、エンジンのノッキング強度及びエンジンの始動性に影響を及ぼす。これに対して、この構成によれば、アルコール濃度の検出値及び目標圧縮比に応じて異常判定値が設定される。そのため、濃度検出装置によりアルコール濃度の過大検出がなされた場合に取得される遅角要求値が第1異常判定値を超えるように該第1異常判定値を設定し、アルコール濃度の過小検出がなされた場合に取得される始動時総噴射量に相関する値が第2異常判定値を超えるように該第2異常判定値を設定することができる。
例えば、エンジンの圧縮比をアルコール濃度の検出値に対応して設定された目標圧縮比に制御した場合に、該アルコール濃度の検出値が実アルコール濃度に略一致しているならば得られるべき遅角要求値の上限値を求めておき、その上限値に所定のマージンを加えた値として第1異常判定値を設定することができる。また、エンジンの圧縮比をアルコール濃度の検出値に対応して設定された目標圧縮比に制御してエンジンを始動させた場合に、該アルコール濃度の検出値が実アルコール濃度に略一致しているならば得られるべき始動時総噴射量に相関する値の上限値を求めておき、その上限値に所定のマージンを加えた値として第2異常判定値を設定することができる。
これによれば、濃度検出装置に異常が生じた場合には確実にその異常の検知を行うことができ、また、濃度検出装置が正常である場合には異常であるとの誤診断がなされてしまうことを確実に抑制できる。また、この構成によれば、燃料のアルコール濃度が高いほどエンジンの始動性が低下するところ、始動時における圧縮比を高めることによってエンジンの始動性を改善できるという効果を奏する。また、エンジン始動後においても、燃料のアルコール濃度が高いほどノッキング強度を高めることなく圧縮比をより高圧縮比とすることができるので、可及的にエンジンの出力向上や燃費向上を実現することができる。
本発明において、エンジンの点火時期はアルコール濃度の検出値が高いほど進角側に制御されても良い。エンジンのノッキング強度は、他の条件が等しければ点火時期が進角側に制御されるほど高まる。従って、この場合には、異常判定値設定手段は、遅角要求値に対して設定される異常判定値(すなわち第1異常判定値)を、アルコール濃度の検出値、目標圧縮比、及び点火時期の設定値に応じて設定すると好適である。これによれば、エンジンのノッキング強度に影響を及ぼす点火時期も考慮して第1異常判定値を設定することによって、濃度検出装置の異常診断をより精度良く行うことができる。
ところで、他の条件が等しい場合であっても、エンジンの負荷が低負荷であるときに比べて高負荷であるときにノッキングが発生し易く、また負荷が高いほどノッキング強度が高くなる傾向がある。そこで、取得手段が遅角要求値を取得する場合、異常判定値設定手段は、エンジンの負荷が高いほど遅角要求値に対して設定される異常判定値(すなわち第1異常判定値)をより大きい値として設定すると良い。これによれば、濃度検出装置の異常診断を行う際のエンジンの負荷が相違しても、そのときの負荷に応じて第1異常判定値をより細やかに設定することができる。例えば、濃度検出装置の異常診断を行う際のエンジンの負荷が非常に高いことに起因してノッキング強度が増加しても、濃度検出装置における異常の有無について誤診断がなされることを抑制できる。
また、本発明において、エンジンの始動時において燃料噴射弁から一燃焼サイクルに噴射される燃料の燃料噴射量(以下、始動時噴射量という)はアルコール濃度の検出値が高いほど多くなるように制御されても良い。エンジンの始動性は他の条件が等しければ始動時噴射量が増えるほど改善されるため、これに伴って始動時総噴射量に相関する値も減少する。そこで、取得手段が始動時総噴射量に相関する値を取得値として取得する場合、異常判定値設定手段は、始動時総噴射量に相関する値に対して設定される異常判定値(すなわち第2異常判定値)を、アルコール濃度の検出値、目標圧縮比、及び始動時噴射量に応じて設定すると良い。これによれば、エンジンの始動性に影響を及ぼす始動時噴射量も考慮して第2異常判定値を設定することができるので、濃度検出装置の異常診断をより精度良く行うことができる。
ここで、エンジンの始動性と、エンジンの始動時における機関温度(以下、始動時機関温度という)と、燃料のアルコール濃度との関係について考える。かかる関係については、アルコール濃度が等しい条件ではエンジンの始動時における機関温度が低いほどエンジンの始動性が低下し、始動時機関温度が等しい条件ではアルコール濃度が高いほどエンジンの始動性が低下する。そこで、本発明において、取得手段が始動時総噴射量に相関する値を取得する場合、異常判定値設定手段は、アルコール濃度の検出値が等しい条件では始動時機関温度が低いほど始動時総噴射量に相関する値に対して設定される異常判定値(すなわち第2異常判定値)をより大きい値として設定すると良い。また、始動時機関温度が等しい条件ではアルコール濃度の検出値が高いほど第2異常判定値をより大きい値として設定すると良い。
これによれば、エンジンの始動性の悪化が顕著になって始動時総噴射量に相関する値の増大が顕著になる条件下、例えば実アルコール濃度が比較的高く且つ始動時機関温度が低温領域であるときにエンジンを始動させる場合でも、濃度検出装置が正常であれば第2異常判定値が、始動時機関温度及びアルコール濃度の検出値に応じてより大きい値に設定されるため、始動時総噴射量に相関する値が第2異常判定値を超えることがない。そのため、濃度検出装置が正常であるにも拘わらず異常であるとの誤診断がなされてしまうことが確実に抑制される。一方、濃度検出装置によってアルコール濃度を過小検出してしまう場合、第2異常判定値が、始動時機関温度及び実アルコール濃度との関係においては不相応に小さく設定される。その結果、始動時総噴射量に相関する値は第2異常判定値を確実に超えるため、濃度検出装置にアルコール濃度の過小検出が有ることを確実に検知することができる。
また、濃度検出装置によりアルコール濃度の過小検出がなされた場合のアルコール濃度の検出値と実アルコール濃度との乖離量が同等であっても、始動時機関温度が高いときよりも低いときの方が、濃度検出装置に異常が無い場合に比して始動時総噴射量に相関する値が増加する程度がより大きくなる。従って、濃度検出装置の異常診断を行う場合、始動時機関温度が常温領域にあるときよりも比較的低温の低温領域にあるときに濃度検出装置の異常診断を行うことによって、異常診断にかかる精度をより向上できるという効果を奏
する。
しかし、始動時機関温度が所定の極低温領域にある場合、エンジンの始動性の低下が顕著になり過ぎてしまい、取得手段が取得する始動時総噴射量に相関する値のばらつきの程度が過度に増大する可能性が高くなる。そうすると、この取得値に基づいた濃度検出装置の異常の有無に対する診断結果の信頼性が著しく低下する虞がある。この極低温状態とは、上述した低温状態に比べて相対的により低温の領域である。例えば、始動時総噴射量に相関する値を取得した場合に取得値の信頼性を十分に維持できると判断される下限温度よりも低温側の温度領域として捉えることができる。このように、始動時機関温度が極低温領域にあるときに、取得手段による始動時総噴射量に相関する値の取得が禁止されると良い。この構成によれば、濃度検出装置の異常の有無についての診断結果に対する信頼性が低下する条件下においては始動時総噴射量に相関する値の取得が禁止されるため、当該異常の有無について誤診断してしまうことを確実に回避することができる。
尚、本発明における課題を解決するための手段は、可能な限り組み合わせて使用することができる。
本発明によれば、可変圧縮比機構を備えたエンジンシステムに異常が有るかどうかを好適に診断することのできるエンジンシステムの異常診断装置を提供することができる。
<基本構成>
本発明を実施するための第1の実施例について説明する。図1は、本実施例におけるエンジンシステムの異常診断装置が適用される可変圧縮比機構18を備えたエンジン1の概略構成を示した図である。本実施例におけるエンジン1は、ガソリンとアルコールとが混合された混合燃料、アルコールのみ、ガソリンのみ、の何れであっても燃料として使用可能な混合燃料エンジンであって、所謂フレキシブル燃料自動車(Flexible Fuel Vehicle
:FFV)に搭載されるものである。
尚、本実施例においては、内燃機関1を簡潔に表示するため、一部の構成要素の表示を省略している。
図1に示すエンジン1は、気筒2を4つ有する4ストロークサイクル・ガソリンエンジンである。エンジン1の気筒2内の燃焼室には、シリンダヘッド3に設けられた吸気ポート4を介して吸気管5が接続されている。吸気ポート4から気筒2内の燃焼室への吸気の流入は吸気弁6によって制御される。また気筒2内の燃焼室には、シリンダヘッド3に設けられた排気ポート7を介して排気管8が接続されている。気筒2内の燃焼室から気筒2外の排気ポート7への排気の排出は、排気弁9によって制御される。
吸気ポート4には、燃料噴射弁10が配置されている。この燃料噴射弁10は燃料供給管11を介して燃料タンク12と接続されており、該燃料タンク12からの燃料が燃料噴射弁10に供給される。本実施例のエンジン1は、ガソリンとアルコールとの混合燃料を使用可能な所謂混合燃料エンジンである。そのため、燃料タンク12には、ガソリンにアルコールを混入させたアルコール混合燃料、若しくはガソリン(アルコール濃度0%)、
又はアルコール(アルコール濃度100%)が貯留される。燃料供給管11の途中には、燃料噴射弁10に供給される燃料のアルコール濃度を検出するアルコール濃度センサ13が配置されている。このアルコール濃度センサ13は、燃料中に浸漬させた一対の白金電極を有し、アルコール濃度に応じた電極間の抵抗値の変化により、出力電圧が変化するものである。本実施例においてはアルコール濃度センサ13が本発明における濃度検出装置に相当する。
気筒2の頂部には、点火プラグ14が配置されている。点火プラグ14は、気筒2内の燃焼室の燃料と空気が混合された混合気に着火を行う。そして、この混合気が着火されることにより、クランクシャフト15にコンロッド16を介して連結されたピストン17が、気筒2内で往復動を行う。また、クランクシャフト15の近傍には、該クランクシャフト15の回転角度(クランク角)を検出するクランクポジションセンサ22が配置されている。また、エンジン1のシリンダブロック19には、ノッキングセンサ23が取り付けられている。このノッキングセンサ23は電圧素子を有し、エンジン1の振動の大きさ(レベル)に対応した電気信号を出力する。
更に、エンジン1の吸気管5には、アクセルペダル(不図示)の踏み込み量と連動してその開度が変更されることで該吸気管5内を流れる吸気の流路断面積を変更可能なスロットル弁25が設けられている。また、吸気管5におけるスロットル弁25よりも上流側には、吸気管5内を流れる吸気の流量に対応する電気信号を出力するエアフローメータ26が配置されている。また、エンジン1の排気管8には、図示しない排気浄化装置(例えば、三元触媒)が配置されており、排気管8における排気浄化装置28よりも上流側には、排気の空燃比を検出する空燃比センサ29が取り付けられている。
圧縮比可変機構18は、シリンダブロック19をクランクケース20に対して気筒2の軸線方向に相対移動させることによって、エンジン1の圧縮比を変更する。すなわち、圧縮比可変機構18が、シリンダブロック19と共にシリンダヘッド3を、気筒2の軸線方向にクランクケース20に対して相対移動させることによって、シリンダブロック19、シリンダヘッド3及びピストン17によって構成される燃焼室の容積が変更され、その結果としてエンジン1の圧縮比が変更される。例えば、シリンダブロック19がクランクケース20から遠ざかる方向に相対移動されると、燃焼室容積が増えて圧縮比が低下する。一方、シリンダブロック19がクランクケース20に近づく方向に相対移動されると、燃焼室容積が減って圧縮比が上昇する。
圧縮比可変機構18の詳細構成について説明すると、該圧縮比可変機構18は、軸部18aと、軸部18aの中心軸に対して偏心された状態で軸部18aに固定された正円形のカムプロフィールを有するカム部18bと、カム部18bと同一外形を有し軸部18aに対して回転可能且つカム部18bと同じように偏心状態で取り付けられた可動軸受部18cと、軸部18aと同心状に設けられたウォームホイール18dと、ウォームホイール18dと噛み合うウォーム18eと、ウォーム18eを回転駆動させるモータ18f等によって構成される。カム部18bは、シリンダブロック19に設けられた収納孔内に設置され、可動軸受部18cはクランクケース20に設けられた収納孔内に設置され、また、モータ18fは、シリンダブロック19に固定されており、シリンダブロック19と一体的に移動する。ここでモータ18fからの駆動力は、ウォーム18eとウォームホイール18dとを介して軸部18aに伝えられる。そして偏心状態にあるカム部18b、可動軸受部18cが駆動されることで、シリンダブロック19がクランクケース20に対して気筒2の軸線方向に相対移動させられる。
以上述べたように構成されたエンジン1には、該エンジン1を制御するための電子制御ユニットであるECU21が併設されている。このECU21は、CPUの他、後述する
各種のプログラム及びマップを記憶するROM、RAM等を備えており、エンジン1の運転条件や運転者の要求に応じてエンジン1の運転状態を制御するユニットである。
ECU21には、アルコール濃度センサ13、クランクポジションセンサ22、ノッキングセンサ23、エアフローメータ26、空燃比センサ29、及びエンジン1の冷却水温度に対応する電気信号を出力する温度センサ27などの各種センサが電気配線を介して接続され、これら各種センサの出力信号がECU21に入力される。ECU21は、エアフローメータ26の出力信号に基づいてエンジン1に吸入される吸気量を計測し、また、クランクポジションセンサ22の出力信号に基づいてエンジン回転数NEを検出する。また、ECU21は、アルコール濃度センサ13、ノッキングセンサ23、温度センサ27の出力信号に基づいて、燃料のアルコール濃度Ra、ノッキング強度Kc、機関温度の夫々を検出する。尚、ノッキング強度Kcは、エンジン1に発生するノッキングの強さの度合いを表す指標であり、エンジンの振動のレベルに対応する。一方、ECU21には、燃料噴射弁10、点火プラグ14、及びモータ18fが電気配線を介して接続されており、該ECU21によりこれらの機器が制御される。
<エンジンの基本制御>
本実施例のエンジン1は混合燃料エンジンであるため、燃料のアルコール濃度Raが相違する燃料(例えば、0%、20%、40%、60%、80%、100%等)が各燃料噴射弁10からエンジン1へと供給される。このように、燃料のアルコール濃度Raが相違すると、該アルコール濃度Raに対応する理論空燃比も相違する。より詳しくは、燃料のアルコール濃度Raが高いほど理論空燃比が低い値となる。そのため、吸気量が同等の場合においては燃料のアルコール濃度Raが高いほど、混合気の空燃比を理論空燃比に制御するために必要な燃料量が多くなる。言い換えると、吸気量が同等の場合において混合気の空気過剰率λ(混合気の空燃比を燃料の理論空燃比で除した値)を等しくするには、アルコール濃度Raが高いほど燃料噴射弁10からより多くの燃料を噴射する必要がある。
そこで、ECU21は、エンジン1に吸入される吸気量Gaとエンジン回転数NEとからエンジン1の運転状態に応じた基本燃料噴射量Qbを演算する。そして、アルコール濃度センサ13からの出力信号に基づくアルコール濃度Raの検出値(アルコール検出濃度という)Radに応じて設定される補正値CEqによって基本燃料噴射量Qbを補正することで各燃料噴射弁10から一燃焼サイクル毎に噴射される燃料噴射量(以下、単に燃料噴射量という)QFの目標値(以下、目標燃料噴射量QFtという)を演算する(QFt=Qb・CEq)。ここで、アルコール検出濃度Radに応じて基本燃料噴射量Qbを補正する補正値CEqは、該アルコール検出濃度Radが高いほど大きい値に設定される。そのため、本実施例においては、運転状態が同等であればアルコール検出濃度Radが高いほど目標燃料噴射量QFtがより多い量に設定され、その結果として燃料噴射量QFがより多くなるように制御される。
次に、エンジン1の圧縮比ε、点火時期θに係る基本制御について説明する。ここで、エンジン1の運転状態に応じて設定される圧縮比ε及び点火時期θの目標値を、それぞれ基本圧縮比εb、基本点火時期θbとする。これらは、ECU21のROMに記憶されているマップとして、エンジン1の運転状態を代表するエンジン回転数NE及び基本燃料噴射量Qbとの関係が対応付けられている。そして、ECU21は、このマップにエンジン回転数NE及び基本燃料噴射量Qbを代入することで、運転状態に適切な基本圧縮比εb及び基本点火時期θbを演算する。
[エンジン始動時]
エンジン1の始動時には、図示しないスタータによってクランクシャフト15のクランキングが行われると共に、燃料噴射弁10による燃料噴射が行われる。ここで、アルコー
ル濃度Raが高いほど燃料の揮発性が低くなる(気化し難くなる)ため、エンジン1の始動性が悪化する。そこで、ECU21はエンジン始動時においては、アルコール検出濃度Radに応じて補正値CEεsを設定し、この補正値CEεsによって基本圧縮比εbを補正する。具体的には、基本圧縮比εbに補正値CEεsを乗ずることによってエンジン始動時における目標圧縮比εtsが演算される(εts=εb・CEεs)。この補正値CEεsは、アルコール検出濃度Radが高いほどより大きい値に設定される。そのため、エンジン始動時における目標圧縮比εtsは、アルコール検出濃度Radが高いほど高圧縮比側の値として設定される。
そして、ECU21からの制御信号が可変圧縮比機構18(モータ18f)に対して出されることで、エンジン始動時における圧縮比εが目標圧縮比εtsに制御される。その結果、エンジン1の始動性が悪化する可能性が高まるほど、圧縮比εが高圧縮比側に制御されることで気筒2の筒内温度がより高められ、その始動性が改善される。また、エンジン始動時においてもアルコール検出濃度Radが高いほど燃料噴射量QFがより多くなるように制御されるため、エンジンの始動性が改善される。
[通常運転時]
次に、エンジン1の通常運転時における圧縮比ε、点火時期θについて説明する。通常運転時とは、エンジン始動時を除いた時期として捉えることができる。圧縮比ε及び点火時期θが相違するとノッキング強度Kcに影響を及ぼす。より詳しくは、点火時期θが等しい条件下では圧縮比εがより高圧縮比側に制御されるときほど、また、圧縮比εが等しい条件下では点火時期θがより進角側に制御されるほど、ノッキング強度Kcが高まり易くなる。一方、燃料のアルコール濃度Raが高いほど燃焼室内において燃料が気化し難くなるため、混合気の燃焼温度や燃焼速度が低く抑えられ、ノッキング強度Kcが低減され易くなる。そこで、エンジン1の通常運転時においては、アルコール検出濃度Radが高いほど、圧縮比εをより高圧縮比側に追い込み、且つ点火時期θをより進角側に追い込む制御が行われる。
具体的には、上述した基本圧縮比εb及び基本点火時期θbの夫々を補正する補正値CEεn、補正値CEθをアルコール検出濃度Radに応じて設定する。そして、ECU21は、基本圧縮比εbに補正値CEεnを乗算することで通常運転時における目標圧縮比εtnを演算する(εtn=εb・CEεn)。この補正値CEεnは、アルコール検出濃度Radが高いほどより大きい値に設定される。そのため、通常運転時における目標圧縮比εtnも、エンジン始動時における目標圧縮比εtsと同様に、アルコール検出濃度Radが高いほど高圧縮比側の値として設定される。
一方、通常運転時における目標点火時期θtnは、基本点火時期θbに補正値CEθを加算した値として求められる。補正値CEθが基本点火時期θbに加算される際、補正値CEθが正の値であれば基本点火時期θbは進角側に補正され、負の値であれば遅角側に補正される。本実施例では、アルコール検出濃度Radが高いほど基本点火時期θbが進角側に補正されるように、より大きな正の値として設定される。
そして、ECU21からの制御信号が可変圧縮比機構18(モータ18f)及び点火プラグ14に対して出されることで、エンジン1の通常運転時における圧縮比ε及び点火時期θが目標圧縮比εtn及び目標点火時期θtnの夫々に制御される。これにより、エンジン1に発生するノッキング強度Kcが過度に高くなることを抑制しつつ、圧縮比εをより高圧縮比側に、点火時期θをより進角側に制御することができ、エンジン1の出力性能や燃費の向上が図られる。
また、ECU21は、エンジン1の通常運転時において一定周期毎にノッキングセンサ
23の出力信号を読み込み、ノッキングの有無を判定する。そして、ノッキングの発生が検知されると、ノッキングを抑制させるべくエンジン1の点火時期θを遅角側に補正する。具体的には、ECU21は、ノッキング強度Kcと遅角補正値CEθkcとの関係が格納されたマップに、ノッキングセンサ23の出力信号を代入することで、ノッキング強度Kcに対応する遅角補正値CEθkcを演算する。この遅角補正値CEθkcは0以上の値を採り、ノッキングが発生していなければ0(零)となる。一方、ノッキングが発生していれば正の値であって且つノッキング強度Kcが高いほど大きい値となる。そして、ECU21は、演算された遅角補正値CEθkcを目標点火時期θtnから減算することによって点火時期θが遅角側の点火時期に補正される(CEθkc>0の場合)。その結果、エンジン1に発生したノッキングが低減或いは抑制される。
<アルコール濃度センサの異常診断制御>
アルコール濃度センサ13は、その経時的変化により、或いは燃料中に浸漬された白金電極への金属イオンの析出・付着等によって、センサ出力値に異常を生じる場合がある。これを放置すると、上記各制御パラメータの制御値が不適切となってしまい、エンジン1の始動性不良・ドライバビリティの悪化・エミッションの悪化などを招く虞がある。そこで本実施例では、アルコール濃度センサ13に異常が有るかどうかを診断する異常診断制御が実行される。以下に説明する異常診断制御はECU21のROM内に記憶されているプログラムに従って実行されるものである。
図2は、本実施例における各制御パラメータの制御値と燃料のアルコール濃度Raとの関係を示したマップである。図2(a)は、通常運転時における目標圧縮比εts(実線)、目標点火時期θtn(破線)の夫々とアルコール濃度Raとの関係を示したマップである。図2(b)は、エンジン始動時における目標圧縮比εts(実線)、目標燃料噴射量QFt(破線)の夫々とアルコール濃度Raとの関係を示したマップである。尚、アルコール濃度Raに対応する各制御パラメータの制御値の関係については既述した通りである。また、このマップでは、アルコール濃度Raに対応する各制御パラメータの制御値の関係は直線関係にて表されているがこれに限定されるものではなく、適宜変更されても構わない。
ここで、横軸の符号Rarは、燃料噴射弁10に供給される燃料の実際(真)のアルコール濃度(以下、実アルコール濃度という)である。ここで、アルコール濃度センサ13が正常であれば、アルコール検出濃度Radは実アルコール濃度Rarに一致する。係る場合には、燃料タンク12に実アルコール濃度Rarの異なる燃料が投入され、或いは燃料タンク12内に貯留されている燃料の実アルコール濃度Rarが不均一となっていても、アルコール検出濃度Radに応じて各制御パラメータの制御値が適切に設定される。すなわち、通常運転時においてエンジン1に発生するノッキング強度Kcが過度に増大する虞がなく、また、エンジン始動時においては速やかな始動が過度に阻害される虞がない。
しかしながら、アルコール濃度センサ13のセンサ出力値に異常が生じると、図示のようにアルコール検出濃度Radが実アルコール濃度Rarから乖離してしまう。図2(a)においては、アルコール検出濃度Radが実アルコール濃度Rarよりも高濃度側に誤検出されている(以下、このような高濃度側への誤検出を過大検出異常という)。一方、図2(b)においては、アルコール検出濃度Radが実アルコール濃度Rarよりも低濃度側に誤検出されている(以下、このような低濃度側への誤検出を過小検出異常という)。以下、図2に基づいて、アルコール濃度センサ13がアルコール濃度Raを過大検出してしまうかどうかを診断する過大検出異常診断制御と、過小検出してしまうかどうかを診断する過小検出異常診断制御との夫々について説明する。
[過大検出異常診断制御]
まず、図2(a)を参照して過大検出異常診断制御について説明する。図2(a)の縦軸に示した符号εtnr、θtnrは、実アルコール濃度Rarに応じた通常運転時における圧縮比ε及び点火時期θの最適値を示している。このεtnr、θtnrは、アルコール検出濃度Radが実アルコール濃度Rarと一致していれば、設定されていたはずの目標圧縮比εtn、目標点火時期θtnと言い換えることができる。
しかし、アルコール濃度Raの過大検出がなされてしまうと、ECU21は、燃料の揮発性が実際よりも低いと誤って判断する。ここで、ECU21は、アルコール濃度Raの誤検出の有無に拘わらず、アルコール検出濃度Radに応じて目標圧縮比εtn及び目標点火時期θtnを設定する。従って、この場合には、目標圧縮比εtnはεtnrに比べて高圧縮比側のεtnfに設定され、目標点火時期θtnはθtnrに比べて進角側のθtnfに設定されてしまう。
つまり、目標圧縮比εtnが実アルコール濃度Rarとの関係において不相応に高く設定され、目標点火時期θtnが実アルコール濃度Rarとの関係において不相応に進角側に設定されることになる。その結果、エンジン1に発生するノッキング強度Kcが過度に増加する。そうすると、上述した遅角補正値CEθkcも当然ながら増大することになる。そこで、本制御では、アルコール濃度センサ13によるアルコール濃度の過大検出がなされてしまうと正常の範囲を超えて増大する遅角補正値CEθkcに基づいて、アルコール濃度センサ13の過大検出異常の有無について診断することとした。
図3は、本実施例における過大検出異常診断制御に係るルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンはECU21のROMに記憶されており、エンジン1の通常運転時において周期的に実行される。本ルーチンが実行されると、ステップS101では、アルコール濃度センサ13の出力信号に基づきアルコール検出濃度Radが取得される。
ステップS102では、図2(a)に示すようなマップに基づいてアルコール検出濃度Radに応じて目標圧縮比εtn及び目標点火時期θtnが設定される。ステップS103では、可変圧縮比機構18(モータ18f)及び点火プラグ14に対して制御信号が出され、エンジン1の圧縮比ε及び点火時期θの夫々が目標圧縮比εtn及び目標点火時期θtnに制御される。ステップS104では、ステップS103においてECU21から制御信号が出されてからの経過時間ΔTiの計測が開始される。
ステップS105では、ノッキングセンサ23の出力信号に基づき、ノッキング強度Kcに応じた遅角補正値CEθkcが取得され、該遅角補正値CEθkcが0(零)であるか否かが判定される。ここで、遅角補正値CEθkcとノッキング強度Kcとの関係については既述のため、詳しい説明を省略する。本ステップにおいて否定判定された場合(CEθkcは0以上の値の値をとるため、CEθkc>0)にはステップS106に進み、肯定判定された場合(CEθkc=0)にはステップS108に進む。
ステップS106では、目標点火時期θtnが、現在の値から遅角補正値CEθkcだけ減算されることで更新され、点火時期θが更新後の目標点火時期θtnに制御されるように点火プラグ14に制御信号が出される。続くステップS107では、ステップS104において経過時間ΔTiの計測が開始されてからの遅角補正値CEθkcが積算され、その積算値(以下、遅角補正積算値Σθkcという)が取得される。
ステップS108では、経過時間ΔTiが所定の遅角積算値取得時間ΔTBに到達したか否かが判定される。この遅角積算値取得時間ΔTBは、遅角補正値CEθkcの積算を継続する時間であり、予め定めておく。本ステップにおいて肯定判定された場合(ΔTi≧ΔTB)にはステップS109に進み、否定判定された場合(ΔTi<ΔTB)にはス
テップS104の処理に戻り、経過時間ΔTiの計測が継続される。
ステップS109では、第1異常判定値VS1が設定される。この第1異常判定値VS1は、取得された遅角補正積算値Σθkcが異常値を呈しているかどうかを判定するための基準値であり、アルコール濃度センサ13が正常であると判断できるときの遅角補正積算値の上限値として捉えられる。上述したように、ノッキング強度kcは、エンジン1の圧縮比ε、点火時期θ、実アルコール濃度Rarの夫々から影響を受ける。そのため、第1異常判定値VS1は、アルコール検出濃度Rad、目標圧縮比εtn及び目標点火時期θtnの設定値に応じて設定することとした。
より詳しくは、図2(a)に示したマップに従ってエンジン1を制御した場合に、アルコール濃度センサ13が正常(アルコール検出濃度Radが実アルコール濃度Rarと一致する)ならば、つまり、目標圧縮比εtn及び目標点火時期θtnをεtnr及びθtnrに設定できていたならば遅角積算値取得時間ΔTB内に得られる遅角補正積算値Σθkcの上限値を予め実験等によって求めておき、この上限値に所定のマージンを加えた値として第1異常判定値VS1を設定する。このマージンの大きさは、アルコール検出濃度Radと実アルコール濃度Rarとの乖離量をどの程度許容するかによって決定される。
そして、ステップS110では、遅角補正積算値Σθkcが第1異常判定値VS1を超えているか否かが判定される。遅角補正積算値Σθkcが第1異常判定値VS1を超えていると判定された場合(Σθkc>VS1)にはアルコール濃度センサ13に過大検出異常があると診断され、ステップS111に進む。一方、そうでない場合(Σθkc≦VS1)には、アルコール濃度センサ13に過大検出異常がないと判断され、ステップS112に進む。
本実施例では、上記のようにアルコール検出濃度Rad及びこれに応じた目標圧縮比εtn、目標点火時期θtnを考慮して第1異常判定値VS1が設定されることで、第1異常判定値VS1を適切な値として設定することができる。すなわち、アルコール検出濃度Radが実アルコール濃度Rarと一致していれば、遅角補正積算値Σθkcが第1異常判定値VS1を超えることがないため、アルコール濃度センサ13が正常であるにも拘わらず異常であるとの誤診断がなされてしまうことが抑制される。
一方、アルコール濃度Raの過大検出がなされている場合には、実アルコール濃度Rarとの関係において目標圧縮比εtnが不相応に高く、目標点火時期θtnが不相応に進角側に設定されるため、エンジン1のノッキング強度Kcが過度に増大する。その結果、遅角補正積算値Σθkcが第1異常判定値VS1を確実に超えるようになるため、アルコール濃度センサ13の過大検出異常を確実に検知することができる。
ステップS111では、アルコール濃度センサ13の故障フラグがONにされる。そして、この故障フラグがONにされると、車両の運転室内の警告灯(不図示)が点灯されることで、アルコール濃度センサ13の異常が運転者に報知される。そして、本ステップの処理が終了すると本ルーチンを一旦抜ける。ステップS112では、故障フラグがOFFにされる。そして、遅角補正積算値Σθkcの値をリセットして、本ルーチンを一旦抜ける。
本ルーチンにおいては、ノッキングセンサ23の出力信号に基づいて遅角補正積算値Σθkcを取得するECU21が本発明における取得手段に相当する。また、遅角補正積算値Σθkcが本発明における遅角要求値、及び取得手段が取得する取得値に相当する。また、アルコール検出濃度Rad、目標圧縮比εtn及び目標点火時期θtnに応じて第1異常判定値VS1を設定するECU21が本発明における異常判定値設定手段に相当する
。また、取得した遅角補正積算値Σθkcが第1異常判定値VS1を超えるときにアルコール濃度センサ13に過大検出異常が有ると診断するECU21が本発明における異常診断手段に相当する。
[過小検出異常診断制御]
次に、図2(b)を参照して過小検出異常診断制御について説明する。図2(b)の縦軸に示した符号εtsr、QFtrは、実アルコール濃度Rarに応じたエンジン始動時における圧縮比ε及び目標燃料噴射量QFtの最適値を示している。すなわち、εtsr、QFtrは、アルコール検出濃度Radが実アルコール濃度Rarと一致していれば、設定されていたはずの目標圧縮比εts及び目標燃料噴射量QFtである。
しかし、図2(b)に示すようにアルコール濃度Raの過小検出がなされてしまうと、ECU21は燃料の揮発性が実際よりも高いと誤って判断する。その結果、目標圧縮比εtsはεtsrよりも低圧縮比側のεtsfに設定され、目標燃料噴射量QFtはQFtrよりも少ないQFtfに設定されてしまう。つまり、目標圧縮比εtsが実アルコール濃度Rarとの関係において不相応に低く設定され、燃料噴射量QFtが実アルコール濃度Rarとの関係において不相応に少なく設定されてしまう。
そうすると、エンジン1の始動性が過度に悪化してしまい、エンジン始動時において初爆が発生するまでに燃料噴射弁10から噴射される燃料の総噴射量(以下、始動時総噴射量という)ΣQFs、燃料噴射弁10によるエンジン始動に係る燃料噴射が開始されてから初爆が発生するまでに要する燃料の噴射回数(以下、始動時噴射回数という)ΣNis、及びその所要時間(以下、初爆所要時間という)Σtmsが増大する。尚、ここでいう始動時総噴射量ΣQFsは、初爆が発生するまでに各燃料噴射弁10から噴射される燃料量の総和である。また、始動時噴射回数ΣNisは、何れかの燃料噴射弁10からの燃料噴射が行われる度にカウントされるものである。
ここで、上記の始動時総噴射量ΣQFs、始動時噴射回数ΣNis、初爆所要時間Σtmsは、これらのうち何れが変化した場合には、その他の値は相関して変化する。従って、これらをまとめて「始動時総噴射量相関値」と総称する。尚、本実施例においては、始動時総噴射量ΣQFs、始動時噴射回数ΣNis、初爆所要時間Σtmsが本発明の「エンジンの始動時において初爆が発生するまでに燃料噴射弁から噴射される燃料の総噴射量に相関する値」に相当する。本制御では、アルコール濃度センサ13によるアルコール濃度の過小検出がなされてしまうと正常の範囲を超えて増大する始動時総噴射量相関値に着目して、アルコール濃度センサ13の過小検出異常の有無について診断を行う。
図4は、本実施例における過小検出異常診断制御に係るルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンはECU21のROMに記憶されており、エンジン1のイグニッションがONされる毎に実行される。尚、本ルーチンでは、上述した「始動時総噴射量相関値」として始動時噴射回数ΣNisを取得し、これに基づいてアルコール濃度センサ13の異常診断を行う。
本ルーチンが実行されると、ステップS201では、アルコール濃度センサ13の出力信号に基づきアルコール検出濃度Radが取得される。ステップS202では、図2(b)に示すようなマップに基づいてアルコール検出濃度Radに応じてエンジン始動時における目標圧縮比εts及び目標燃料噴射量QFtが設定される。ステップS203では、スタータ(不図示)が通電されることでエンジン1のクランキングが開始されると共に、各燃料噴射弁10に対して制御信号が出されて燃料噴射が開始される。尚、そのときの燃料噴射量QFは目標燃料噴射量QFtに制御される。また、本ステップでは、可変圧縮比機構18(モータ18f)に制御信号が出され、エンジン1の圧縮比εが目標圧縮比εt
sに制御される。
ステップS204では、ステップS203において各燃料噴射弁10からの燃料噴射が開始されてからの噴射回数ΣNiがカウントされる。このカウントは、何れかの燃料噴射弁10から燃料噴射が行われる度にカウントされる。本実施例のエンジン1は4気筒エンジンであるため、各燃料噴射弁10から1回ずつ燃料噴射が行われれば、噴射回数ΣNiのカウント値は4である。
ステップS205では、クランクポジションセンサ22の出力信号に基づいて初爆が発生したかどうかを判定する。初爆とは、何れかの気筒2で燃料が着火することをいい、初爆が発生するとエンジン回転数NEが上昇する。従って、エンジン回転数NEをモニタリングすることで初爆を検知することができる。本ステップにおいて初爆が発生したと判定された場合にはステップS206に進む。一方、初爆が未だ発生していないと判定された場合にはステップS204に戻り、噴射回数ΣNiのカウントが継続される。
ステップS206では、ECU21は、現在までにおける噴射回数ΣNiのカウント値を始動時噴射回数ΣNisとして取得する。ステップS207では、第2異常判定値VS2が設定される。この第2異常判定値VS2は、取得された始動時噴射回数ΣNisが異常値を呈しているかどうかを判定するための基準値であり、アルコール濃度センサ13が正常であると判断できるときの始動時噴射回数の上限値として捉えられる。上述したように、エンジン1の始動性は、エンジン1の圧縮比ε、燃料噴射量QF、実アルコール濃度Rarの夫々から影響を受ける。そのため、第2異常判定値VS2は、アルコール検出濃度Rad、エンジン始動時における目標圧縮比εts及び目標燃料噴射量QFtに応じて設定することとした。
より詳しくは、図2(b)に示したマップに従ってエンジン1を始動制御した場合に、アルコール濃度センサ13が正常(アルコール検出濃度Radが実アルコール濃度Rarと一致する)ならば、つまり、目標圧縮比εts及び目標燃料噴射量QFtをεtsr及びQFtrに設定できていたならば得られる始動時噴射回数ΣNisの上限値を予め実験等によって求めておき、この上限値に所定のマージンを加えた値として第2異常判定値VS2を設定する。このマージンの大きさは、アルコール検出濃度Radと実アルコール濃度Rarとの乖離量をどの程度許容するかによって決定される。
そして、続くステップS208において、始動時噴射回数ΣNisが第2異常判定値VS2を超えているか否かが判定される。始動時噴射回数ΣNisが第2異常判定値VS2を超えていると判定された場合(ΣNis>VS2)にはアルコール濃度センサ13に過小検出異常があると診断され、ステップS209に進む。一方、そうでない場合(ΣNis≦VS2)には、アルコール濃度センサ13に過小検出異常がないと判断され、ステップS210に進む。
本制御では、上記のようにアルコール検出濃度Rad及びこれに応じた目標圧縮比εts、目標燃料噴射量QFtを考慮して第2異常判定値VS2が設定されることで、第2異常判定値VS2を適切な値として設定することができる。すなわち、アルコール検出濃度Radが実アルコール濃度Rarと一致していれば、始動時噴射回数ΣNisが第2異常判定値VS2を超えることがないため、アルコール濃度センサ13が正常であるにも拘わらず異常であるとの誤診断がなされてしまうことが抑制される。
一方、アルコール濃度Raの過小検出がなされている場合には、実アルコール濃度Rarとの関係において目標圧縮比εtsが不相応に低く、燃料噴射量QFtが不相応に少なく設定されるため、エンジン1の始動性が過度に悪化することにより、始動時噴射回数Σ
Nisが第2異常判定値VS2を確実に超える。その結果、アルコール濃度センサ13の過小検出異常を確実に検知することができる。
そして、ステップS209では、アルコール濃度センサ13の故障フラグがONにされる。そして、この故障フラグがONにされると、車両の運転室内の警告灯(不図示)が点灯されることで、アルコール濃度センサ13の過小検出異常が運転者に報知される。そして、本ステップの処理が終了すると本ルーチンを一旦抜ける。ステップS210では、上記故障フラグがOFFにされる。そして、始動時噴射回数ΣNisの値をリセットして、本ルーチンを一旦抜ける。
本ルーチンにおいては、初爆の発生が検知されるまでの期間にわたり燃料噴射弁10からの噴射回数ΣNiをカウントすることで始動時噴射回数ΣNisを取得するECU21が本発明における取得手段に相当する。また、始動時噴射回数ΣNisが本発明における「エンジンの始動時において初爆が発生するまでに燃料噴射弁から噴射される燃料の総噴射量に相関する値」、及び取得手段が取得する取得値に相当する。また、アルコール検出濃度Rad、目標圧縮比εts及び目標燃料噴射量QFtに応じて第2異常判定値VS2を設定するECU21が本発明における異常判定値設定手段に相当する。また、取得した始動時噴射回数ΣNisが第2異常判定値VS2を超えるときにアルコール濃度センサ13に過小検出異常が有ると診断するECU21が本発明における異常診断手段に相当する。
以上のように、本実施例に係る異常診断制御によれば、アルコール濃度センサ13の異常診断を精度良く好適に行うことができる。
<他の実施形態>
本実施例では、本発明を実施するための実施形態の一例を説明したが、上述した異常診断制御は本発明の本旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得る。以下、本実施例における他の実施形態について説明する。
第1の変形例では、過大検出異常診断制御時に取得される遅角補正値CEθkcが、該遅角補正値CEθkcに対して設定される第1異常判定値VS1aを超えるときにアルコール濃度センサ13に異常があると診断する。この遅角補正値CEθkcはノッキング強度Kcが高ければより大きな値として取得されるため、アルコール濃度センサ13における過大検出異常の有無を該遅角補正値CEθkcに基づいて判定することができる。係る場合に、第1異常判定値VS1aは、アルコール検出濃度Radが実アルコール濃度Rarと一致していたならば、つまり、目標圧縮比εtn及び目標点火時期θtnをεtnr及びθtnrに設定できていたならば得られるべき遅角補正値CEθkcの上限値を実験等によって求めておき、これに所定のマージンを加えた値として設定する。この第1異常判定値VS1aの設定値は、既述した第1異常判定値VS1とは異なる値を取り得ることは勿論である。本制御によれば、アルコール濃度センサ13にアルコール濃度Raの過大検出異常が有る場合には遅角補正値CEθkcが第1異常判定値VS1aよりも大きくなり、そうでない場合には第1異常判定値VS1a以下となる。そのため、アルコール濃度センサ13の過大検出異常の有無について精度良く診断することができる。
尚、本実施例の過大検出異常診断制御では、エンジン1の通常運転時において、アルコール検出濃度Radが高いほど目標圧縮比εtnを高圧縮比側に設定することに加えて、目標点火時期θtnをより進角側の時期として設定しているが、目標点火時期θtnをアルコール検出濃度Radに応じて設定しなくても本発明の適用が妨げられない。つまり、目標圧縮比εtn及び目標点火時期θtnのうち、目標圧縮比εtnのみをアルコール検出濃度Radに応じて設定することができる。かかる場合、第1異常判定値VS1は、ア
ルコール検出濃度Rad及び該アルコール検出濃度Radに対応する目標圧縮比εtnに応じて設定される。
第2の変形例では、図4の制御ルーチンにおいて始動時噴射回数ΣNisを取得する代わりに、始動時総噴射量ΣQFs或いは初爆所要時間Σtmsを「始動時総噴射量相関値」として取得する。ここで、始動時総噴射量ΣQFsを取得する場合には、該始動時総噴射量ΣQFsに対して設定される第2異常判定値VS2aを始動時総噴射量ΣQFsが超えるときに、アルコール濃度センサ13に過小検出異常が有ると診断する。一方、初爆所要時間Σtmsを取得する場合には、該初爆所要時間Σtmsに対して設定される第2異常判定値VS2bを初爆所要時間Σtmsが超えるときに、アルコール濃度センサ13に過小検出異常が有ると診断する。上記の第2異常判定値VS2a、及びVS2bは、VS2と同様にアルコール検出濃度Rad、目標圧縮比εts及び目標燃料噴射量QFtに応じて設定される。また、第2異常判定値VS2、VS2a及びVS2bの設定値が夫々異なる値を取り得ることは勿論である。
尚、本実施例の過小検出異常診断制御では、エンジン始動時のアルコール検出濃度Radが高いほど燃料噴射量QFがより多く制御されるように目標燃料噴射量QFtを設定しているが、該目標燃料噴射量QFtをこのように設定しなくても本発明の適用は妨げられない。例えば、目標圧縮比εts及び目標燃料噴射量QFtのうち、目標圧縮比εtsのみをアルコール検出濃度Radに応じて設定することができる。かかる場合に、第2異常判定値VS2は、アルコール検出濃度Rad及び該アルコール検出濃度Radに対応する目標圧縮比εtsに応じて設定される。
本実施例におけるエンジン1はいわゆる混合燃料エンジンであったが、本実施例にかかるエンジンシステムの異常診断装置を単一種類の燃料を使用するエンジンに適用することもできる。第3の変形例では、通常のガソリンエンジンに本実施例の異常診断装置を適用する。かかる場合、エンジンの圧縮比εは運転状態に応じた基本圧縮比εbに制御される。何らかの原因によってエンジンシステムに異常が生じると(例えば、可変圧縮比機構18、燃料噴射弁10等が正常に作動されないと)、エンジンの通常運転時にはノッキング強度Kcが過度に増大する。また、エンジン始動時ではその始動性が過度に悪化する。そこで、本変形例においても、エンジンの通常運転時における遅角補正積算値Σθkcを取得し、その取得値と第1異常判定値VS1とを対比することによってエンジンシステムの異常診断を行う。また、エンジン始動時には始動時噴射回数ΣNis(始動時総噴射量ΣQFs、或いは初爆所要時間Σtmsであっても構わない)を取得し、その取得値と第2異常判定値VS2とを対比することで同異常診断を行う。
先ず、本変形例における過大検出異常診断制御について、図3における制御ルーチンとの相違点を説明する。かかる場合、ステップS101の処理が省略され、ステップS102では目標圧縮比εtn及び目標点火時期θtnがエンジンの運転状態に基づいて設定される基本圧縮比εb及び基本点火時期θbに設定される。また、ステップS103では圧縮比ε及び点火時期θが目標圧縮比εtn(基本圧縮比εb)及び目標点火時期θtn(基本点火時期θb)に制御される。そして、ステップS109においては、目標圧縮比εtn(すなわち、基本圧縮比εb)及び目標点火時期θtn(すなわち、基本点火時期θb)に応じて第1異常判定値VS1が設定される。これは、エンジンシステムの異常の有無に拘わらず目標圧縮比εtn及び目標点火時期θtnに応じてノッキング強度Kcも変化し、これに伴って最適な第1異常判定値VS1も変化することによる。また、ステップS110では、遅角補正積算値Σθkcが第1異常判定値VS1を超えていると判定された場合にエンジンシステムに異常があると判定され、そうでない場合には同システムに異常が無いと判定される。そして、前者の場合にはステップS111において運転室内の警告灯が点灯されることで、エンジンシステムに何らかの異常があることが運転者に報知さ
れる。
次に、本変形例における過小検出異常診断制御について、図4における制御ルーチンとの相違点を説明する。ここでは、ステップS201の処理が省略され、ステップS202では目標圧縮比εts及び目標燃料噴射量QFtがエンジン始動用の基本圧縮比εb及び基本燃料噴射量Qbに設定される。また、ステップS206では、目標圧縮比εts(すなわち、基本圧縮比εb)及び目標燃料噴射量QFt(すなわち、基本燃料噴射量Qb)に応じて第2異常判定値VS2が設定される。これは、エンジンシステムの異常の有無に拘わらず目標圧縮比εts及び目標燃料噴射量QFtに応じてエンジンの始動性も変化し、これに伴って第2異常判定値VS2の最適値も変化することによる。また、ステップS208では、始動時噴射回数ΣNisが第2異常判定値VS2を超えていると判定された場合にエンジンシステムに異常があると判定され、そうでない場合に異常が無いと判定される。そして、前者の場合にはステップS209において運転室内の警告灯が点灯されることで、エンジンシステムに何らかの異常があることが運転者に報知される。
次に、本発明を実施するための第3の実施例について説明する。本実施例のエンジンシステムの異常診断装置が適用されるエンジンの概略構成は図1に示したものと同等であり、その説明を省略する。
ここで、図6は、エンジン始動時における始動時噴射回数ΣNisを等しくするために要求される当量比(equivalence ratio)Φとエンジン始動時における機関温度(以下、
始動時機関温度という)THの関係を、燃料のアルコール濃度Ra毎(この図では0%,80%,100%)に示した図である。ここで、燃料のアルコール濃度Raが0%のときの関係をE0、80%のときの関係をE80、100%のときの関係をE100にて表す。この当量比Φは、空気過剰率λの逆数であり(Φ=1/λ)、燃焼に用いる吸気中の酸素に当量の燃料量に対する、実際に燃焼室内に供給された燃料の割合を意味する。従って、当量比Φが大きいほど、酸素過剰率λが小さくなり、吸気量が等しい条件下において燃料噴射弁10から噴射される燃料噴射量QFがより多くなる。
ここで、アルコール濃度Raが等しい条件であれば、始動時機関温度THが低いほど燃焼室内にて燃料が気化し難くなるので、エンジン1の始動性は悪化する。従って、エンジン始動時における始動時噴射回数ΣNisを等しくするためには、E0〜E100の何れにおいても始動時機関温度THが低いほど要求される当量比Φが高くなる。また、同一始動時機関温度THにおいて、E0、E80、E100を比較すると、アルコール濃度Raが高いほど要求される当量比Φが高くなる。これは、アルコール濃度Raが高いほど始動時機関温度THの低下に伴う燃料の揮発性の悪化が顕著となり、エンジン1の始動性に及
ぼす影響が著しくなるからである。
ここで、始動時機関温度THの低下に伴う当量比Φの増加率(当量比Φが増加する傾き)は、アルコール濃度Raが高くなるほど大きくなる。そして、当量比Φの増加率が始動時機関温度THの低下に伴って急増する温度領域が存在するが、その温度領域はアルコール濃度Raが高くなるほどより高温側にシフトしていく。これは、アルコール濃度Raが高いほど、より高い始動時機関温度THから始動性の悪化が顕著になることを意味する。
そこで、本実施例では、始動時機関温度THがエンジン1の始動性に及ぼす影響を考慮して過小検出異常診断制御を実行することとした。ここでのエンジン始動時における燃料噴射量QFは実施例1と同様である。つまり、アルコール濃度Raに応じて空気過剰率λが等しくなるように(この場合、空気過剰率λの逆数である当量比Φも等しくなる)目標燃料噴射量QFtが設定される。かかる場合、アルコール濃度センサ13の異常の有無に拘わらず始動時機関温度THが低いほど始動時噴射回数ΣNisが増大する。また、アルコール濃度Raが高いほど、始動時機関温度THの低下に伴う始動時噴射回数ΣNisの増大が顕著になる。
これに対して、本実施例では、過小検出異常診断制御が実行されるときの始動時機関温度TH及びアルコール検出濃度Radに応じて第2異常判定値VS2が補正される。図7は、本実施例における始動時機関温度TH、アルコール検出濃度Rad、重み付け係数Wtvs4の関係を示したマップである。この重み付け係数Wtvs4は、過小検出異常診断制御が実行されるときの始動時機関温度TH及びアルコール検出濃度Radに応じて第2異常判定値VS2を補正するための補正係数である。尚、第2異常判定値VS2の設定手法については実施例1と同様である。また、始動時機関温度THは、冷却水温度センサ27の出力信号に基づいて検出される。
本実施例では、第2異常判定値VS2に重み付け係数Wtvs4を乗じることによって修正第2異常判定値AJVS2が算出される。そして、過小検出異常診断制御において取得した始動時噴射回数ΣNisが修正第2異常判定値AJVS2を超えていると判定された場合に、アルコール濃度センサ13にアルコール濃度Raの過小検出に係る異常があると診断する。図7では、アルコール検出濃度Radが等しい条件では始動時機関温度THが低いほど重み付け係数Wtvs4が大きい値に設定され、その結果、修正第2異常判定値AJVS2がより大きな値として設定される。また、始動時機関温度THが等しい条件ではアルコール検出濃度Radが高いほど重み付け係数Wtvs4が大きい値に設定され、その結果、修正第2異常判定値AJVS2がより大きな値として設定される。
このように修正第2異常判定値AJVS2を算出することで、エンジン1の始動性悪化が顕著になって始動時噴射回数ΣNisが過度に多くなる条件下、例えば実アルコール濃度Rarが比較的高く且つ始動時機関温度THが低温領域であるときにエンジン1を始動させる場合でも、アルコール濃度センサ13が正常であれば始動時噴射回数ΣNisが修正第2異常判定値AJVS2を超えることがない。修正第2異常判定値AJVS2が始動時機関温度TH及びアルコール検出濃度Radを考慮して設定されるからである。そのため、アルコール濃度センサ13が正常であるにも拘わらず異常であるとの誤診断がなされてしまうことが確実に抑制される。
一方、アルコール濃度Raが過小検出された場合には、重み付け係数Wtvs4が実アルコール濃度Rarに対応する値よりも小さく設定される。例えば、図7を参照すると、実アルコール濃度Rarに対応する重み付け係数Wtvs4を符号Wtrで表し、低濃度側に誤検出されたアルコール検出濃度Radに対応する重み付け係数Wtvs4を符号Wtfで表すと、Wtr>Wtfとして設定される。その結果、第2異常判定値VS2に値
Wtrを乗じて得られた修正第2異常判定値AJVS2は、実アルコール濃度Rarとの関係では不相応に小さくなり、始動時噴射回数ΣNisが修正第2異常判定値AJVS2を確実に超えることになる。これにより、アルコール濃度センサ13によるアルコール濃度Raの過小検出を確実に検知することができる。
尚、本制御において、噴射回数ΣNisを取得する代わりに、始動時総噴射量ΣQFsを「始動時総噴射量相関値」として取得する場合には、実施例1における第2の変形例で説明した第2異常判定値VS2aに重み付け係数Wtvs4を乗算することによって修正第2異常判定値AJVS2aを設定し、始動時総噴射量ΣQFsが修正第2異常判定値AJVS2aを超えるときにアルコール濃度センサ13に過小検出異常が有ると診断する。一方、初爆所要時間Σtmsを「始動時総噴射量相関値」として取得する場合には、実施例1における第2の変形例で説明した第2異常判定値VS2bに重み付け係数Wtvs4を乗算することによって修正第2異常判定値AJVS2bを設定し、初爆所要時間Σtmsが修正第2異常判定値AJVS2bを超えるときにアルコール濃度センサ13に過小検出異常が有ると診断する。
尚、図7における重み付け係数Wtvs4は、図6に示した始動時機関温度TH及びアルコール濃度Raの組み合わせに対応して要求される混合気の当量比Φの値に比例するように設定されている。これによれば、アルコール濃度センサ13による過小検出異常の有無をより精度良く診断することができる。
また、図6を参照すると、アルコール濃度Raの過小検出がなされた際(例えば、実アルコール濃度Rarが80%(E80)であるのに対してアルコール検出濃度Radが100%(E100)として取得された場合)、始動時機関温度THが常温領域(例えば、20℃程度)である場合よりも低温領域(例えば、0℃程度)である場合の方が、要求される当量比Φの差が顕著になる(図6中、符号A,B)。そのため、始動時機関温度THが常温領域である場合に比べて低温領域である場合に本実施例の制御を実行することで、アルコール濃度センサ13の異常診断に係る精度をより高めることができる。アルコール検出濃度Radの実アルコール濃度Rarとの乖離が同等であれば、始動時機関温度THが低い方が、アルコール濃度センサ13における異常の有無に応じた始動時噴射回数ΣNisの差が大きくなり、異常の有無についての判定誤差が生じ難くなるからである。
<他の実施形態>
本実施例における他の実施形態について説明する。第1の変形例では、第2異常判定値VS2の代わりに、過小検出異常診断制御時に取得される始動時噴射回数ΣNisを補正する。ECU21が取得した始動時噴射回数ΣNisを補正するための補正係数を重み付け係数Wtvs5とすると、始動時噴射回数ΣNisに重み付け係数Wtvs5を乗じることによって修正始動時噴射回数AJΣNisを算出する。この重み付け係数Wtvs5は、過小検出異常診断制御が実行されるときの始動時機関温度TH及びアルコール検出濃度Radに応じて設定される。
この場合、重み付け係数Wtvs5は、アルコール検出濃度Radが等しい条件では始動時機関温度THが低いほど小さい値に設定され、始動時機関温度THが等しい条件ではアルコール検出濃度Radが高いほど小さい値に設定される。すなわち、重み付け係数Wtvs5と始動時機関温度TH及びアルコール検出濃度Radとの関係は、図7に示した重み付け係数Wtvs4を概ね上下方向に反転した形となる。
そして、このように算出された修正始動時噴射回数AJΣNisを第2異常判定値VS2と対比し、該修正始動時噴射回数AJΣNisが第2異常判定値VS2を超えたときにアルコール濃度センサ13に過小検出異常が有ると診断する。これによれば、始動時機関
温度THがエンジン1の始動性に及ぼす影響の度合いが燃料のアルコール濃度Raに応じて変化しても、アルコール濃度センサ13の過小検出異常に係る誤診断を好適に抑制できる。
また、第2の変形例では、エンジン始動時における目標燃料噴射量QFtが既述した制御とは相違する。本制御では、エンジン始動時にアルコール検出濃度Rad及び始動時機関温度THを取得するとともに、これらを図6に示すようなマップに代入することで、対応する当量比Φを演算する。そして、求められた当量比Φと吸気量Gaとに基づいて目標燃料噴射量QFtを設定することとした。具体的には、当量比Φが高いほど大きな値に設定される補正係数CEΦを設定し、目標燃料噴射量QFtを演算する(QFt=Qb・CEq・CEΦ)ことができる。
これによれば、始動時機関温度THがエンジン1の始動性に及ぼす影響の度合いが燃料のアルコール濃度Raに応じて変化しても、アルコール濃度センサ13に過小検出異常が生じなければ始動時噴射回数ΣNisを略一定にすることができる。そのため、過小検出異常診断制御において取得した始動時噴射回数ΣNisと第2異常判定値VS2との大小関係を対比するだけで、アルコール濃度センサ13における過小検出異常の有無を簡易に診断でき、またその精度を高めることができる。尚、本制御は、始動時噴射回数ΣNisの代わりに、既述した始動時総噴射量ΣQFsを第2異常判定値VS2aと対比する場合、或いは初爆所要時間Σtmsを第2異常判定値VS2bと対比する場合においても適用できるのは当然である。
次に、本発明を実施するための第5の実施例について説明する。本実施例における燃料噴射量QFは、実施例1と同様、アルコール検出濃度Radに応じて演算された目標燃料噴射量QFtに則して制御される。燃料のアルコール濃度Raが高いほど理論空燃比が低くなるため、アルコール検出濃度Radが高いほど混合気の空燃比AFの目標値(AFt)がより高い値にシフトする。本実施例では、空燃比センサ29の出力信号に基づいて空燃比AFを検出し、空燃比AFが目標値AFtに一致するように燃料噴射量QFがフィードバック(FB)制御される。具体的には、空燃比センサ29の出力信号に基づいて目標燃料噴射量QFtを補正するためのFB補正値CEfbがECU21によって演算され、このFB補正量CEfbが目標燃料噴射量QFtに足される。具体的には、混合気の空燃比AFが目標値AFtよりも高いときにはFB補正量CEfbが正の値として演算されることで、燃料噴射量QFが増量補正される。一方、混合気の空燃比AFが目標値AFtよりも低いときにはFB補正量CEfbが負の値として演算されることで、燃料噴射量QFが減量補正される。
ここで、FB補正量CEfbの絶対値(|CEfb|)が過度に大きくなる場合、燃料噴射弁10の作動異常の疑いがあると判断できる。しかし、エンジン1はいわゆる混合燃料エンジンであるため、燃料噴射弁10がたとえ正常であってもアルコール濃度センサ13に異常があれば、FB補正量CEfbの絶対値が増大する。従って、FB補正量CEfbの絶対値が過度に大きくなった場合には、アルコール濃度センサ13に異常が無いことを確認してから燃料噴射弁10の異常検出を行うこととした。
図8は、本実施例における制御ルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンはECU21のROMに記憶されており、エンジン1のイグニッションがONされる毎に実行される。本ルーチンが実行されると、先ずステップS301では、過小検出異常診断フラグFsの設定が1であるか0であるかが判定される。過小検出異常診断フラグFsは、エンジン始動時に過小検出異常診断制御を実行するかどうかを決定するフラグであり、1に設定されていれば過小検出異常診断制御が実行され、0に設定されていれば過小検出異常診断制御が実行されない。本ステップにおいて過小検出異常診断フラグFsの設定が1であると判定された場合にはステップS302に進み、0であると判定された場合にはステップS303に進む。
ステップS302では、実施例1で説明した過小検出異常診断制御が実行され、アルコール濃度センサ13に過小検出異常が有るか否かが判定される。ここでは、具体的には、図4の制御ルーチンのステップS201〜S208が実行される。そして、アルコール濃度センサ13に過小検出異常がないと判定された場合にはステップS304に進み、そうでない場合にはステップS305に進む。ステップS304では、過小検出異常診断フラグFsが0に設定され(Fs←0)、後述するステップS312に進む。ステップS305では、アルコール濃度センサ13の異常を運転者に報知するための警告灯(不図示)が点灯される。本ステップの処理が終了すると本ルーチンを一旦抜ける。
ステップS303では、空燃比センサ29の出力信号に基づいてFB補正量CEfbが演算される。続くステップS306ではFB補正量CEfbの絶対値(|CEfb|)が規定値fbmaxよりも大きいか否かが判定される。この規定値fbmaxは、燃料噴射弁10に作動異常が生じている疑いがあると判断されるFB補正量CEfbの絶対値であり、予め実験等により求めておく。ここで、FB補正量CEfbの絶対値が規定値fbmaxを超えていても燃料噴射弁10が作動異常であると即座に結論付けられるものではない。燃料噴射弁10が正常であり、アルコール濃度センサ13に異常が有るときにも、FB補正量CEfbの絶対値の増大が過度に増大することが予測されるからである。
本ステップにおいて肯定判定された場合(|CEfb|>fbmax)にはステップS307に進み、そうでない場合には本ルーチンを一旦抜ける。ステップS307では、可変圧縮比機構18における異常検出が実行され、作動異常があるか否かが判定される。そして、可変圧縮比機構18に作動異常が無いと判定された場合にはステップS308に進む。一方、可変圧縮比機構18に作動異常が有ると判定された場合にはステップS309に進み、可変圧縮比機構18の異常を運転者に報知するための警告灯(不図示)が点灯される。そして、本ステップの処理が終了すると本ルーチンを一旦抜ける。
ステップS308では、ステップS303で演算したFB補正量CEfbが負の値(CEfb<0)であるか正の値(CEfb>0)であるかが判定される。FB補正量CEfbが負の値として演算されていた場合には混合気の空燃比AFが目標値AFtよりも低いこと(リッチ側であること)を意味し、正の値として演算されていた場合には空燃比AFが目標値AFtよりも高いこと(リーン側であること)を意味する。ここで、アルコール検出濃度Radが実アルコール濃度Rarよりも高濃度側に検出されると、目標燃料噴射
量QFtが実アルコール濃度Rarとの関係で不相応に多くなり、混合気の空燃比AFが目標値AFtに比べて低くなる。そのため、FB補正量CEfbが負の値であり、且つその絶対値が規定値fbmaxよりも大きい場合には、アルコール濃度センサ13に異常があるとすれば過大検出異常が生じている疑いがあると判断することができる。
一方、アルコール検出濃度Radが実アルコール濃度Rarよりも低濃度側に検出されると、目標燃料噴射量QFtが実アルコール濃度Rarとの関係で不相応に少なくなり、混合気の空燃比AFが目標値AFtに比べて高くなる。そのため、FB補正量CEfbが正の値であり、且つその絶対値が規定値fbmaxよりも大きい場合には、アルコール濃度センサ13に異常があるとすれば過小検出異常が生じている疑いがあると判断することができる。そこで、ステップS308においてFB補正量CEfbが負の値(CEfb<0)であると判定された場合にはステップS310に進み、正の値(CEfb>0)であると判定された場合にはステップS311に進む。
ステップS310では、実施例1で説明した過大検出異常診断制御が実行され、アルコール濃度センサ13に過大検出異常が有るか否かが判定される。ここでは、具体的には、図3の制御ルーチンにおけるステップS101〜S110の処理が実行される。そして、アルコール濃度センサ13に過大検出異常がないと判定された場合にはステップS312に進み、そうでない場合にはステップS305に進む。また、ステップS311では、過小検出異常診断フラグFsが1に設定され(Fs←1)、その後、本ルーチンを一旦抜ける。これにより、次回のエンジン始動時には、ステップS301で過小検出異常診断フラグFsの設定が1であると判定される。その結果、ステップS302で過小検出異常診断制御が行われる。そして、アルコール濃度センサ13に過小検出異常が無いと判定された場合には、ステップS312に進む。
ステップS312では、燃料噴射弁10が異常であるとの判断がなされ、燃料噴射弁10の異常を報知する警告灯(不図示)が点灯された後、本ルーチンを一旦抜ける。本制御では、ステップS310でアルコール濃度センサ13に過大検出異常がないと判定され、或いはステップS302でアルコール濃度センサ13に過小検出異常がないと判定されることによって、FB補正量CEfbの絶対値が規定値fbmaxを超えるほど大きくなった要因が燃料噴射弁10の作動異常であると特定される。これにより、アルコール濃度センサ13の異常に起因した燃料噴射弁10における異常の誤検出を回避できる。また、アルコール濃度センサ13の異常診断については可変圧縮比機構18がECU21の制御信号通りに作動することを前提に行われる。そのため、本実施例では、アルコール濃度センサ13の異常診断を実行する前に可変圧縮比機構18の異常検出を実行し、異常が無いことを確認してからアルコール濃度センサ13の異常診断を実行することとしている。
<他の実施形態>
上記制御ルーチンのステップS308でFB補正量CEfbが正の値(CEfb>0)であると判定された場合には、次回のエンジン始動時に過小検出異常診断を実行すべく、過小検出異常診断フラグFsを1に設定してからルーチンを抜けているが、この場合には次回の始動時まで過小検出異常診断、及び燃料噴射弁10の異常検出を行うことができない。そこで、エンジン始動後においても過小検出異常診断制御の実行可能な実施形態について説明する。
図9は、本実施例の変形例におけるエンジン1の概略構成を示した図である。このエンジン1は、アイドル運転中におけるエンジン回転数(以下、「アイドル回転数」という)NEiを、その目標値である目標アイドル回転数NEitに維持するアイドルスピードコントロール機能を有する。目標アイドル回転数NEitはアイドル運転中において、図示しないエアコンやオルタネータによる負荷の大きさに基づいて決定されるものであり、負
荷が高いほど高回転数側に設定されている。
吸気管5にはスロットル弁25をバイパスするバイパス管31が設けられている。バイパス管31には、その開度が変更されることでバイパス管31を流通する吸気の流路断面積を調節可能なアイドルスピードコントロールバルブ(以下、「ISC弁」という)32が設けられている。ISC弁32は、ECU21に電気配線を介して接続されており、ISC弁32の開度(以下、「ISC開度」という)ISCAがECU21によって制御される。
図10は、本実施例における第2制御ルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンはECU21のROMに記憶されており、エンジン1のイグニッションがONされる毎に実行される。本ルーチンにおいて図8と同様の処理は同符号を付すことでその説明を省略する。本ルーチンでは、ステップS308においてFB補正量CEfbが正の値(CEfb>0)であると判定された場合にはステップS401に進む。ステップS401では、エンジン1がアイドル運転中であるか否かが判定される。そして、エンジン1がアイドル運転中であると判定された場合には、ステップS402に進み、そうでない場合には本ルーチンを一旦抜ける。
ステップS402では、ECU21から可変圧縮比機構18に指令が出され、予め設定された異常診断用目標圧縮比εactの推移に則して圧縮比εがアクティブに変化するように可変圧縮比18が制御(これを、圧縮比εのアクティブ制御という)される。図11は、圧縮比εのアクティブ制御にかかる異常診断用目標圧縮比εactの推移とISC開度ISCAの推移とを示したタイムチャートである。上段は異常診断用目標圧縮比εactの推移を表し、下段はISC開度ISCAの推移を表す。縦軸の符号εidは、ステップS402においてECU21から指令が出される時点の圧縮比(以下、「基準圧縮比」という)であり、アイドル運転用に予め設定されている。
図11において異常診断用目標圧縮比εactの推移は、基準圧縮比εidから最小値εact1に向かって下降し、該最小値εact1を境に下降状態から上昇状態へと反転する。その後、異常診断用目標圧縮比εactは再び基準圧縮比εidまで上昇するように推移する。図中における下段の実線は、アルコール濃度センサ13が正常である場合のISC開度ISCAの推移を表すものである。上段に示した異常診断用目標圧縮比εactの推移に則して圧縮比εがアクティブ制御されると、これに応じてエンジン1の熱効率が変化する。その結果、エンジントルクが変化してアイドル回転数NEiが変動するため、アイドル回転数NEiを目標アイドル回転数NEitに維持させるべくISC開度ISCAがフィードバック制御される。
異常診断用目標圧縮比εactの上昇時には、ISC開度ISCAが閉じ方向に制御されて吸気量が減少することによってアイドル回転数NEiの上昇が抑制される。これにより、アイドル回転数NEiが目標アイドル回転数NEit近傍に維持される。一方、異常診断用目標圧縮比εactの下降時には、ISC開度ISCAが開き方向に制御されて吸気量が増加することによってアイドル回転数NEiの低下が抑制され、アイドル回転数NEiが目標アイドル回転数NEit近傍に維持される。
図11中、下段に示した破線は、アルコール濃度センサ13に過小検出異常が生じている場合のISC開度ISCAの推移を表す。上述のように、アルコール濃度センサ13に過小検出異常が有る場合には空燃比AFが目標値AFtよりも高く(リーン側に)なる。そうすると、アクティブ制御における異常診断用目標圧縮比εactの下降時には混合気の燃焼状態の悪化が顕著となるため、アイドル回転数NEiがより顕著に低下し易くなる。その結果、ISC開度ISCAがより開き側の開度に制御されるため、ISC開度IS
CAの変化量はアルコール濃度センサ13が正常である場合に比べて増大する。本制御では、圧縮比εのアクティブ制御の実行時において、アルコール濃度センサ13の過小検出異常の有無に応じたISC開度ISCAの変化量の差に着目し、該過小検出異常の有無を診断することとした。より詳しくは、圧縮比εのアクティブ制御を実行したときのISC開度ISCAにおける最大値ISCAmaxと最小値ISCAminとの差(以下、「ISC開度変化幅」という)ΔISCAwを求める。そして、このISC開度変化幅ΔISCAwが基準変化幅ΔBwを超えるときに、アルコール濃度センサ13に過小検出異常が有ると判断することとした。基準変化幅ΔBwは、アルコール濃度センサ13に過小検出異常が無いと判断されるISC開度変化幅ΔISCAwの上限値であり、予め実験的に求めておく。
ステップS402では、ISC開度ISCAの最大値(ISCAmax)及び最小値(ISCAmin)が取得される。より具体的には、ECU21は、アイドル回転数NEを目標アイドル回転数NEitに維持させるべくISC開度ISCAを制御する際の制御信号を記憶しておくことで、ISC開度ISCAの最大値ISCAmax及び最小値ISCAminを取得する。ステップS403では、ステップS402において取得した最大値ISCAmaxから最小値ISCAminを減算してISC開度変化幅ΔISCAwを算出する。
ステップS404では、ISC開度変化幅ΔISCAwが基準変化幅ΔBwよりも大きいか否かが判定される。本ステップにおいて、肯定判定(ΔISCAw>ΔBw)された場合(図11において破線)には、アルコール濃度センサ13に過小検出異常が生じていると判断され、ステップS305に進む。一方、否定判定(ΔISCAw≦ΔBw)された場合(図11において実線)には、アルコール濃度センサ13に過小検出異常が生じていないと判断され、ステップS312に進む。本制御では、エンジン始動後であっても、アルコール濃度センサ13の過小検出異常診断制御を実行できる。そのため、同制御及び燃料噴射弁10の異常検出をより円滑に行うことができる。