JP5042942B2 - スラスト軸受の組立方法 - Google Patents
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Description
また、保持器および軌道輪の剛性が高い場合には、保持器や軌道輪の変形が難しくなるので、軌道輪鍔部の先端の抜け止め突起の破損や保持器の欠損が発生し、やはり軸受寿命が短くなるという問題がある。
また、手作業であることから、作業者の習熟度によっては、前記抜け止め突起の破損や、保持器や軌道輪の変形が起こり、不良品の発生の要因となる。
上記軌道輪に対して上記保持器付きころを組み込むスラスト軸受の組立方法であって、前記軌道輪を載せる載置面を有しこの載置面における前記軌道輪の鍔部に対応する箇所が凹む形状である台座と加圧治具とを準備し、前記台座に前記軌道輪を鍔部を上向きとして載せて、冷間で前記台座上の軌道輪の鍔部を前記加圧治具で上方から押し付けることで、前記軌道輪の前記鍔部を正面板部に対して開く方向に弾性変形させ、この開き状態で、前記保持器付きころを、前記抜け止め突起を通過させて正面板部に接する状態に組み込むことを特徴とする。台座の載置面は、軌道輪の鍔部に対応する箇所に近づくに従って次第に大きく凹む形状が好ましく、例えば円錐面とする。
この組立方法によると、軌道輪を、その鍔部に対応する箇所が凹む形状の台座で受け、加圧治具で押し付けるため、軌道輪の鍔部の拡開が可能となり、保持器および軌道輪に傷や変形を発生させないで組み立てることができる。軌道輪の鍔部を拡開させるため、保持器を変形させて組み立てる必要がなく、組立不良の発生原因となっていた保持器の塑性変形の問題が解消される。軌道輪を拡開させるが、上記形状の台座を用いて拡開させるため、常に弾性変形の範囲内での拡開とできて、組立後の変形による寿命への影響がない。また、上記形状の台座および加圧治具を用いるため、作業者の習熟を要することなく、誰でもが適正に組み立てることができる。
特に、台座の載置面を円錐面とした場合は、この台座で受けることにより、加圧治具の押し付けによって生じる軌道輪の正面板部への荷重が一様に掛かる。そのため、鍔部の拡開が全周に渡って均等に行われ、軌道輪が局部的に大きく変形して塑性変形を生じることが回避される。
鍔部を大きく拡開させると、抜け止め突起に接することなく保持器付きころを組み込むことができるが、軌道輪を塑性変形させる恐れがある。鍔部をあまり大きく拡開させることなく、抜け止め突起と保持器付きころとの接触で、押し込みが可能な程度の挿入抵抗が生じる拡開の程度とすれば、保持器付きころの組み込みが可能で、かつ軌道輪の塑性変形を防止することができる。
軌道輪の鍔部の弾性変形の程度と押し付け荷重とは比例するため、押し付け荷重によって鍔部の弾性変形の程度を規制することができる。このため、押し付け荷重が設定荷重に達すると、加圧治具による押し付けを止めるものとすると、軌道輪が弾性変形の範囲を超えて塑性変形するのを回避できる。これにより、作業者の習熟度に左右されることなく、だれでも同じようにスラスト軸受を組み立てることができる。
加圧治具の押し付け面が円錐面であると、鍔部の拡開変形に前記押し付け面によるガイド作用が加わる。そのため、より円滑に、また全周にわたりより均等に軌道輪の鍔部を拡径変形させることができる。
図1は、前記組立装置11を用いてスラスト軸受1を組み立て終わった状態を示すが、加圧治具13で軌道輪2の鍔部2bを押し付ける前には、保持器付きころ4は、その保持器5が軌道輪2の抜け止め突起2cに係合した状態で、軌道輪2の上に載せられる。この組み込み前の保持器付きころ4が加圧治具13と干渉しないように、加圧治具13における治具本体13aの下端と鍔部押付け部13bで囲まれる空間は、保持器付きころ4を収容可能な保持器付きころ収容空間13cとされる。
この押さえ治具14の治具本体14aに、上方から図示しない荷重印加手段によって所定の押し付け荷重を印加することで、台座12と加圧治具13の軸心が揃えられた状態で、加圧治具13による軌道輪2の鍔部2bの拡開変形が行なわれる。なお、図2においても、スラスト軸受1を組み立て終わった状態を示す。
図3に断面図で示すように、保持器付きころ4のリング状の保持器5は、M形保持器とされており、その内外の周縁に各々二重の折り返し状態とされて軸方向に延びる円筒状部5aが形成されている。各ポケット7間の柱部5bは、幅方向両端の正面板部5baと、これらの正面板部5baから前記円筒状部5aが延びる軸方向へ斜めに続く傾斜部5bcと、中央の突出板部5bbとでなる台形状に形成され、保持器全体の断面形状が略M形とされている。柱部5bの正面板部5baは、ポケット7に挿入されるころ5の軸心に対して軌道輪正面板部2a側に位置し、突出板部5bbはころ6の軸心に対して前記軌道輪正面板部2aから離反する側に位置する。図3および図5のように、前記正面板部5baには、ころ6が軌道輪正面板部2a側に脱落するのを防止するころ脱落防止部5cがポケット7内に突出して形成されている。また、前記突出板部5bbには、ころ6が軌道輪正面板部2aから離反する側に脱落するのを防止するころ脱落防止部5dがポケット7内に突出して形成されている。これにより、ころ6は、保持器5の両面側への抜け止めがなされている。
このセット状態で、押さえ治具14(図2)に所定の押し付け荷重を印加して、冷間で、図6(B)のように加圧治具13の鍔部押付け部13bを台座12上の軌道輪2の鍔部2bに押し付ける。このとき、軌道輪2の鍔部2bの押し付けは、前記押し付け荷重が設定荷重に達すると止めるようにし、軌道輪2が弾性変形の範囲を超えて塑性変形しないようにする。これにより、軌道輪2の鍔部2bを、正面板部2aに対して開く方向に弾性変形させ、この拡開状態で、保持器付きころ4を、軌道輪2の抜け止め突起2cを通過させて正面板部2aに接する状態に組み込む。このとき、軌道輪2の正面板部2aは、円錐面とされた台座12の載置面12cに沿って載置される。なお、軌道輪2の鍔部2bの好適な拡径量は、軌道輪2の抜け止め突起2cの突出量によっても異なるが、0.25mm〜0.5mmとするのが好ましい。
次に、図6(C)のように、加圧治具13に印加されていた荷重を解除すると、鍔部2bが開く方向に弾性変形していた軌道輪2が元の形状に復元して、軌道輪2の抜け止め突起2cが保持器5に係合した状態となる。すなわち、軌道輪2と保持器付きころ4が非分離に組み合わされる。
次に、図7(B)のように、冷間で、軌道輪2の鍔部2bを加圧治具13で上方から押し付けることで、軌道輪2の鍔部2bを正面板部2aが前記載置面12cに沿うまで開く方向に弾性変形させる。この弾性変形は先の実施形態の場合に比べて程度が低いので、保持器付きころ4の保持器5が軌道輪2の抜け止め突起2cに若干係合した状態にあるが、その係合度合いは、保持器付きころ4を押し込み可能な程度である。
次に、図7(C)のように、加圧治具13の押し込みロッド挿通孔17に押し込みロッド18を挿通し、この押し込みロッド18で保持器付きころ4の保持器5を、軌道輪2の抜け止め突起2cを通過するまで押し込むことにより、保持器付きころ4を軌道輪2の正面板部2aに接する状態に組み込む。この場合の好適な保持器押し込み量は、保持器5の外径寸法や厚さによっても異なるが、1.1mm〜2.4mmとするのが好ましい。
この後、押し込みロッド18による押し込み、および加圧治具13による押し付けを解除し、軌道輪2を弾性変形状態から復元させることで、その抜け止め突起2cが保持器付きころ4の保持器5に係合する状態にする。
この例の場合の軌道輪3は、スラスト軸受1Aの内輪となるものであって、保持器付きころ4のころ6が転接する環状の正面板部3aと、この正面板部3aの内周縁から軸方向に突出する円筒状の鍔部3bとを有する。軌道輪3の鍔部3bには、その先端から外周側に突出して保持器5の周縁に係合可能な抜け止め突起3cが形成されている。軌道輪3の抜け止め突起3cは、図10に平面図で示すように、鍔部3bの周方向の等配位置(ここでは90°間隔)に局部的な加締により形成されている。また、軌道輪3の鍔部3bの円周方向複数箇所に、鍔部3bを全幅に渡って除去した分断部3dが設けられている。
このセット状態で、冷間で、押さえ治具14(図8)に所定の押し付け荷重を印加して、図11(B)のように加圧治具13の鍔部押付け部13bを台座12上の軌道輪3の鍔部3bに押し付ける。軌道輪3の鍔部3bの押し付けは、前記押し付け荷重が設定荷重に達すると止める。これにより、軌道輪3の鍔部3bを、正面板部3aに対して開く方向に弾性変形させ、この拡開状態で、保持器付きころ4を、軌道輪3の抜け止め突起3cを通過させて正面板部3aに接する状態に組み込む。このとき、軌道輪3の正面板部3aは、円錐面とされた台座12の載置面12cに沿って載置される。
次に、図11(C)のように、加圧治具13に負荷されていた押し付け荷重を解除すると、鍔部3bが開く方向に弾性変形していた軌道輪3が元の形状に復元して、軌道輪3の抜け止め突起3cが保持器5に係合した状態となる。すなわち、軌道輪3と保持器付きころ4が非分離に組み合わされる。
このセット状態で、冷間で、押さえ治具14(図16)に所定の押し付け荷重を印加して、図18(B)のように加圧治具13の鍔部押付け部13bを台座12上の軌道輪2の鍔部2bに押し付ける。軌道輪2の鍔部2bの押し付けは、前記押し付け荷重が設定荷重に達すると止める。このとき、加圧治具13の鍔部押付け部13bの鍔部2bに対する押し付け面13baは、鍔部2bの広げ方向に後退する円錐面とされているので、鍔部2bの拡径変形には押し付け面13baのガイド作用が加わる。その結果、より安定して、保持器付きころ4の押し込みが可能な程度まで、軌道輪2の鍔部2bを拡径変形させることができる。また、この実施形態の場合、軌道輪2の正面板部2aの鍔部2bに続く外周部位が薄肉部2aaとされているので、この点からも鍔部2bの拡径変形が容易となる。そのため、台座12の載置面12cの傾斜角度θもより小さくできる。この場合、鍔部2bの拡径変形の程度が低く、保持器付きころ4の保持器5が軌道輪2の抜け止め突起2cに若干係合した状態にあるが、その係合度合いは、保持器付きころ4を押し込み可能な程度である。
次に、図18(C)のように、加圧治具13の押し込みロッド挿通孔17に押し込みロッド18を挿通し、この押し込みロッド18で保持器付きころ4の保持器5を、保持器付きころ4が軌道輪2の抜け止め突起2cを通過するまで押し込むことにより、保持器付きころ4を軌道輪2の正面板部2aに接する状態に組み込む。
この後、図18(D)のように、押し込みロッド18による押し込み、および加圧治具13による押し付けを解除し、軌道輪2を弾性変形状態から復元させることで、その抜け止め突起2cが保持器付きころ4の保持器5に係合した状態となる。すなわち、軌道輪2と保持器付きころ4が非分離に組み合わされる。
この絞り込み機構29は、加圧治具13の鍔部押付け部13bが、絞り込みレバー19の先端部から下方へ突出する突片として形成されている。絞り込みレバー19は、加圧治具13の中心回りに複数個(図示の例では3個)配置され、それぞれ加圧治具13の半径方向に延びている。これら各絞り込みレバー19は、加圧治具13の治具本体13Aの下面に放射状に設けられた溝28内に配置され、半径方向に直交する水平な支点軸24の回りに上下回動自在に支持されている。また、治具本体13Aには、各絞り込みレバー19に対して、絞り込みレバー位置調整ねじ26および絞り込みレバー押し付けプランジャ27が設けられている。絞り込みレバー位置調整ねじ26は、絞り込みレバー19の上面に
係合して鍔部押付け部13b側の上昇端を規制するねじであり、ねじ込み量によって軌道輪の鍔部との位地関係の調整が可能とされる。絞り込みレバー押し付けプランジャ27は、絞り込みレバー19の上面を押し付けて絞り込みレバー19の鍔部押付け部13b側端を上方へ回動付勢する手段である。台座12には、加圧治具13の絞り込みレバー19の内端が当接する絞り込み量調整部材31が設けられている。絞り込み量調整部材31は、台座12の中心に形成されたねじ孔30に外周が螺合する中空ねじ軸からなり、その内径孔がロッド挿通孔16となり、加圧治具13側のガイドロッド14bが昇降自在に嵌合する。絞り込み量調整部材31は、上端が台座12の上面よりも突出しており、台座12のねじ孔30に対するねじ込み量の調整により、その突出高さが調整可能である。
具体的には、加圧治具3に取付けられた支点軸24が、治具13の下降による加圧と同時に垂直に下降し、絞り込みレバー19の先端部からなる鍔部押付け部13bが軌道輪3の鍔部2bに係合する。この後、絞り込み量調整部材31に絞り込みレバー19の内側端部当たり、治具13が下降を続けることで、支点軸24を中心として絞り込みレバー19が回動し、絞り込みレバー19の先端の鍔部押付け部13bが、軌道輪3の鍔部3bを内径側へ絞り込む。なお、絞り込みレバー19は、絞り込み量調整部材31に当たっていない状態では、絞り込みレバー押し付けプランジャ27で回動付勢され、かつ絞り込みレバー位置調整ねじ26に当たることで、一定の揺動角度を保持している。
このセット状態で、押さえ治具14(図8)に所定の押し付け荷重を印加して、図22(B)のように加圧治具13の鍔部押付け部13bを台座12上の軌道輪3の鍔部3bに押し付ける。これにより、軌道輪3の鍔部3bを、正面板部3aに対して開く方向に弾性変形させ、この拡開状態で、スラスト軸受1(外輪となる軌道輪2+保持器付きころ4)を、軌道輪3の抜け止め突起3cを通過させ、正面板部3aに接する状態に組み込む。
次に、図22(C)のように、加圧治具13に負荷されていた押し付け荷重を解除すると、鍔部3bが開く方向に弾性変形していた軌道輪3が元の形状に復元して、軌道輪3の抜け止め突起3cが保持器5に係合した状態となる。すなわち、軌道輪3とスラスト軸受1(軌道輪2+保持器付きころ4)が非分離に組み合わさって、2つの軌道輪2,3と保持通器付きころ4とからなるスラスト軸受1Bが組み立てられる。
2,3…軌道輪
2a,3a…正面板部
2b,3b…鍔部
2c,3c…抜け止め突起
4…保持器付きころ
5…保持器
6…ころ
7…ポケット
11…組立装置
12…台座
12c…載置面
13…加圧治具
13b…鍔部押付け部
13ba…押し付け面
17…押し込みロッド挿通孔
18…押し込みロッド
Claims (8)
- 環状の保持器の円周方向複数箇所に軸方向に開口して設けられた各ポケット内にころを抜け止め状態に保持した保持器付きころと、上記ころが転接する環状の正面板部およびこの正面板部の外周縁または内周縁から軸方向に突出する円筒状の鍔部を有しかつこの鍔部の先端から突出し保持器の周縁に係合可能な抜け止め突起を有する軌道輪とを有するスラスト軸受において、上記軌道輪に対して上記保持器付きころを組み込むスラスト軸受の組立方法であって、
前記軌道輪を載せる載置面を有しこの載置面における前記軌道輪の鍔部に対応する箇所が凹む形状である台座と加圧治具とを準備し、前記台座に前記軌道輪を鍔部を上向きとして載せて、冷間で前記台座上の軌道輪の鍔部を前記加圧治具で上方から押し付けることで、前記軌道輪の前記鍔部を正面板部に対して開く方向に弾性変形させ、この開き状態で、前記保持器付きころを、前記抜け止め突起を通過させて正面板部に接する状態に組み込むことを特徴とするスラスト軸受の組立方法。 - 請求項1において、前記加圧治具の押し付けによる前記鍔部の弾性変形の程度を、抜け止め突起に対する保持器付きころの押し込みが、この押し込みによって生じる軌道輪の弾性変形、および抜け止め突起と保持器間の摩擦による抵抗に抗して可能な程度とするスラスト軸受の組立方法。
- 請求項1または請求項2において、前記台座の前記載置面を円錐面とするスラスト軸受の組立方法。
- 請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記加圧治具による前記軌道輪の鍔部の押し付けを、押し付け荷重が設定荷重に達すると止めるスラスト軸受の組立方法。
- 請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記加圧治具による前記軌道輪の鍔部の押し付けを、前記加圧治具の押し込みストロークが設定ストロークに達すると止めるスラスト軸受の組立方法。
- 請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記加圧治具の前記鍔部に対する押し付け面を、鍔部の広げ方向に後退する円錐面とするスラスト軸受の組立方法。
- 請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記軌道輪の鍔部の前記弾性変形時の拡径量を0.25mm〜0.5mmとするスラスト軸受の組立方法。
- 請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、抜け止め突起に対して保持器付きころを押し込む場合の保持器押し込み量を1.1mm〜2.4mmとするスラスト軸受の組立方法。
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