しかしながら、上記構成によれば、駆動電極40を作製するプロセスの追加や、SOIウェハなどの高価な基板材料を用いる必要があり、2次元的にレイアウトされた機構を作製することが得意なMEMSプロセスに適用しにくく、大きなコストダウンは望めないという問題があった。
本発明はかかる従来技術に鑑みなされたものであり、2次元的にレイアウトされた主要機構によって一次振動をリング部と同一平面外に変化させることができ、MEMSプロセスによって容易かつ安価に作製することができる角速度センサを提供することを目的とする。
本発明に係る角速度センサは、検出対象の角速度に応じて振動状態が変化するリング部を有する振動子が形成された半導体基板を備える角速度センサであって、振動子に対して静電駆動させることにより一次振動を生じさせる駆動電極と、一次振動に基づいた二次振動により、振動子との間で変化した静電容量を検出する二次振動検出電極とを具備し、駆動電極および二次振動検出電極は、リング部と略同一平面上に配置され、リング部に固有の振動数の2倍以上の周波数の交流電圧を駆動電極に印加することにより、一次振動としてリング部を平面外cosnθモード(n:モード次数)で3次元に振動させるとともに、前記平面内におけるリング部および二次振動検出電極間の距離の変化を前記静電容量の変化として二次振動検出電極から検出することにより、前記平面内の所定の軸回りの角速度を検出することを特徴とするものである。
上記構成の角速度センサによれば、半導体基板にリング部を有する振動子が形成される。このリング部は、検出対象の角速度に応じて振動状態が変化する。
この振動状態の変化を検出するべく、駆動電極および二次振動検出電極がリング部と略同一平面上に配置される。まず、駆動電極により、リング部を静電駆動して一次振動を生じさせる。一次振動が生じた状態で検出対象において所定の軸方向に角速度が生じるとコリオリ力が生じて、二次振動が励起される。一方、二次振動検出電極を用いて、検出対象の角速度に応じて変化した振動状態である二次振動を検出すべく、振動子と二次振動検出電極との間で変化した静電容量を検出する。こうして、検出した静電容量変化により、検出対象の角速度が検出される(算出可能となる)。二次振動は、リング部と略同一平面内に振動する成分であるため、当該平面内におけるリング部および二次振動検出電極間の距離の変化を二次振動検出電極から検出することで、振動状態の変化による静電容量の変化を検出することができる。
ここで、リング部の一次振動を3次元に振動させる(リング部と同一平面外に変位させる)ために、発明者は、駆動電極に印加する電圧をリング部に固有の振動数に基づいた周波数の交流電圧値とすることで、リング部と駆動電極とが略同一平面内に配置された場合であっても当該交流電圧による共振により、リング部を3次元に振動させることができることを見出した。
理論上、完全に同一平面に構成されたリング部と駆動電極には、3次元方向の振動を励起する平面に鉛直な方向の力ベクトルは発生しない。しかし、実際に製作されたデバイスは、必ず存在する加工誤差などによって、鉛直方向に力が発生し、振動が始まる。一度、振動を始めると、駆動電極とリング部の対向面にはズレが生じるため、十分な駆動力が得られる。
したがって、上記振動状態の変化を検出する構成要素であるリング部、駆動電極および二次振動検出電極を略同一平面内に配置した上で、一次振動をリング部と同一平面外に変化させることができる。しかも、3次元に振動可能な角速度センサを二次元的に構成することにより、角速度センサの作製においてMEMSプロセスを容易に適用することができ、より安価に作製することができる。
なお、駆動に用いる交流電圧の周波数は、リング部の一次振動の固有振動数の2倍以上に設定される。
リング部と駆動電極とが同一平面上に配置された場合、リング部の一次振動の一周期の間に、リング部と駆動電極の距離(もしくは対向面積)の変化が2周期分、発生する。さらに、リング部と駆動電極との間に働く静電引力が、弾性作用としても機能するため、電圧を印加すると、リング部の固有振動数が高めに移行してしまう。したがって、駆動電圧を固有振動数の2倍以上に設定した方が、共振を生じさせ易い。さらには、静電引力による弾性定数の変化は、非線形(変位量によって変化する)であり、共振のピーク周波数よりも低周波数側では、振動が不安定になることがあるため、駆動周波数を高周波数側に設定するのが好ましい。
好ましくは、駆動電極または二次振動検出電極のいずれか一方がリング部の内側に設けられ、駆動電極または二次振動検出電極のいずれか他方がリング部の外側に設けられるように構成される。
この場合、駆動電極がリング部の内側に設けられ、二次振動検出電極がリング部の外側に設けられる。あるいは、駆動電極がリング部の外側に設けられ、二次振動検出電極がリング部の内側に設けられる。
したがって、リング部と同一面内かつリング部の両側に駆動電極および二次振動検出電極が設けられるため、空間効率よく電極を配置することができる。しかも駆動電極と二次振動検出電極とをリング部の内側または外側にそれぞれ分けて配置することにより、各電極間の静電容量型の結合(クロストーク)を起こり難くすることができる。したがって、駆動電極においては、より安定な一次振動を生成することができ、二次振動検出電極においては、より高感度かつ高精度に二次振動を検出することができる。
さらに好ましくは、駆動電極は、リング部の一次振動における前記平面に垂直な方向の変位量が最大となる位置の近傍に設けられるように構成される。
この場合、駆動電極に印加される電圧により一次振動が生じた際、駆動電極の近傍に位置するリング部において、当該一次振動によるリング部の平面に垂直な方向の変位量が最大となる。
このように、駆動電極の近傍においてリング部の3次元方向の変位量が最大となるため、リング部における一次振動をよりエネルギー効率よく生成することができる。
さらに好ましくは、二次振動検出電極は、リング部の二次振動における前記平面に平行な方向の変位量が最大となる位置の近傍に設けられるように構成される。
この場合、検出対象の角速度に応じて振動状態が変化して二次振動が生じたときに、リング部を含む平面に平行な方向のリング部の変位量が最大となる位置に二次振動検出電極が予め配置される。
したがって、二次振動検出電極の近傍においてリング部を含む平面に平行な方向のリング部の変位量が最大となるため、リング部における二次振動をより高感度に検出することができる。
さらに好ましくは、駆動電極による一次振動を検出する一次振動検出電極を具備するように構成される。
この場合、一次振動検出電極により、駆動電極によりリング部に生じた一次振動(による振動子と一次振動検出電極との間の静電容量変化)が検出される。
ここで、リング部の振動は、温度等の周囲の環境の変化により振動の固有振動数が変化したり、振動子雰囲気の粘性が変化して振動の振幅値が変化する可能性がある。したがって、リング部の一次振動を安定にするためには、上記固有振動数の変化や振幅の変化に応じて駆動電極に印加する電圧を変化させる必要が生じる。そこで、一次振動検出電極によりリング部に生じた一次振動を検出することにより、駆動電極に対してフィードバックをかけることが可能となり、温度等の周囲の環境の変化に関わらず、リング部における一次振動をより安定的に生成することができる。
さらに好ましくは、二次振動検出電極から検出された静電容量の変化を打ち消すように振動子に対して静電引力を働かせる振動抑制電極を具備し、振動抑制電極に印加した電圧を前記二次振動の静電容量変化の代わりに検出することにより角速度を検出するように構成される。
この場合、リング部の二次振動により二次振動検出電極から検出された静電容量に基づいて、この変化を打ち消すような振動を生じさせるべく、振動抑制電極に所定の電圧が印加される。そして、振動抑制電極に印加された電圧が二次振動の静電容量変化の代わりに検出されることにより角速度が検出される。
ここで、リング部において二次振動が生じた場合、当該二次振動と検出対象の角速度との間で一次振動との間で生じたのとは別のコリオリ力が生じ得る。このような別のコリオリ力は、二次振動検出の外乱となり得るので発生しないことが好ましい。そこで、振動抑制電極に所定の電圧を印加することにより、二次振動の発生を打ち消すとともに、当該打ち消すための振動抑制電極に印加した電圧を二次振動の静電容量変化の代わりに検出する。つまり、振動抑制電極に働く静電引力を用いて一次振動により生じたコリオリ力を打ち消すことにより、二次振動を現実に発生させることなく二次振動を励起させるコリオリ力の大きさ(角速度の大きさ)を検出することができる。したがって、外乱の発生を取り除きつつ、角速度をより高精度に検出することができる。
さらに好ましくは、振動子は、リング部の中心部で一端が支持され、他端がリング部に接続される複数の梁部を有し、梁部は、振動子の一次振動における振動モードのモード次数の2倍の個数設けられ、隣り合う梁部の略中間であって、リング部の内側または外側に駆動電極が設けられるように構成される。
この場合、振動子は、梁部のリング部の中心部側の一端で支持され、他端がリング部に接続されている。梁部は、振動子の一次振動における振動モード(cos2θ、cos3θ、…cosnθモード)のモード次数(2,3,…,n)の2倍の個数(4,6,…,2n)設けられる。また、駆動電極は、梁部の略中間かつリング部の内側または外側に設けられる。
ここで、リング部の平面外に振動する一次振動においては、リング部の平面に垂直な方向の変位量が最大となる位置が一次振動における振動モードのモード次数の2倍の個数、リング部の周方向に等間隔に発生する。一方、同様にリング部の平面に垂直な方向の変位量が最小となる位置がこの数と同数、リング部の周方向に等間隔に発生する。また、変位量が最大となる位置と変位量が最小となる位置とは、リング部の周方向に交互に等間隔に発生する。
したがって、梁部(および駆動電極)の数を上記振動モードのモード次数の2倍とし、隣り合う梁部の略中央に駆動電極を設けることにより、駆動電極を一次振動による変位量が最大となる位置に配置することが可能となるとともに、梁部を一次振動による変位量が最小となる位置に配置することが可能となる。駆動電極を一次振動による変位量が最大となる位置に配置することにより、駆動電極による一次振動をより安定化させることができるとともに、梁部を一次振動による変位量が最小となる位置に配置することにより、梁部の変形(捻れ)を小さくして振動子の耐久性を向上させることができるとともに、梁部の存在による一次振動への影響を最小限にすることができる。
また、好ましくは、二次振動検出電極は、前記平面内の直交する第1軸および第2軸のそれぞれについて、第1軸の軸回りに作用する角速度による二次振動を検出する第1軸二次振動検出電極と、第2軸の軸回りに作用する角速度による二次振動を検出する第2軸二次振動検出電極とを具備するように構成される。
この場合、第1軸二次振動検出電極により、検出対象における所定の第1軸の軸回りに作用する角速度による静電容量変化が検出され、第2軸二次振動検出電極により、検出対象における第1軸に直交する第2軸の軸回りに作用する角速度による静電容量変化が検出される。
したがって、検出対象における直交する2つの軸回りに作用する角速度をそれぞれ同時に検出することができる。
さらに好ましくは、駆動電極は、振動子の一次振動における振動モードのモード次数の2倍の個数設けられ、第1軸二次振動検出電極および第2軸二次振動検出電極のそれぞれは、振動子の二次振動における振動モードのモード次数の2倍の個数設けられるように構成される。
この場合、駆動電極が振動子の一次振動における振動モードのモード次数の2倍の個数設けられ、第1軸二次振動検出電極および第2軸二次振動検出電極のそれぞれは、振動子の二次振動における振動モードのモード次数の2倍の個数設けられる。
ここで、リング部の平面外に振動する一次振動においては、リング部の平面に垂直な方向の変位量が最大となる位置が一次振動における振動モードのモード次数の2倍の個数、リング部の周方向に等間隔に発生する。同様に、リング部の平面内に振動する二次振動においては、第1軸の軸回りに作用する角速度による二次振動および第2軸の軸回りに作用する角速度による二次振動のそれぞれについて、リング部の平面に平行な方向の変位量が最大となる位置が二次振動における振動モードのモード次数の2倍の個数、リング部の周方向に等間隔に発生する。
したがって、駆動電極を一次振動の振動モードのモード次数の2倍とすることにより、リング部において一次振動による変位量が最大となるすべての位置に駆動電極を配置することが可能となるため、駆動電極による一次振動をよりエネルギー効率よく発生させることができる。また、第1軸および第2軸に関するそれぞれの二次振動検出電極をそれぞれ二次振動の振動モードのモード次数の2倍とすることにより、リング部において二次振動による変位量が最大となるすべての位置に第1軸および第2軸二次振動検出電極をそれぞれ配置することが可能となるため、二次振動の静電容量変化をより高感度かつ高精度に検出することができる。
さらに好ましくは、第1軸二次振動検出電極から検出された静電容量の変化を打ち消すように振動子に対して静電引力を働かせる第1軸振動抑制電極と、第2軸二次振動検出電極から検出された静電容量の変化を打ち消すように振動子に対して静電引力を働かせる第2軸振動抑制電極とを具備し、第1軸振動抑制電極および第2軸振動抑制電極にそれぞれ印加した電圧に基づいて各軸の角速度を検出するように構成される。
この場合、第1軸および第2軸に関する二次振動のぞれぞれに対し、第1軸および第2軸振動抑制電極により、第1軸および第2軸二次振動検出電極から検出された静電容量の変化を打ち消すように振動子に対して静電引力を働かせる。
第1軸および第2軸振動抑制電極のそれぞれに独立した所定の交流電圧を印加することにより、第1軸の軸回りおよび第2軸の軸回りのそれぞれに作用する二次振動の発生を打ち消すとともに、当該打ち消すための振動抑制電極に印加した電圧が、発生したコリオリ力の大きさとして、二次振動の静電容量変化の代わりに検出されることにより各軸の角速度が検出される。したがって、外乱の発生を取り除きつつ、直交する2つの軸についての角速度をより高精度に検出することができる。
さらに好ましくは、前記駆動電極のうち、半分を一次振動検出電極として用い、前記第1軸二次振動検出電極および第2軸二次振動検出電極のうち、それぞれ半分を第1軸振動抑制電極および第2軸振動抑制電極としてそれぞれ用いるように構成される。
この場合、それぞれの電極がそれぞれの電極の効果を最大限に発揮する位置にもれなく配置される。したがって、各電極における効果を互いに阻害することなく効果的に各電極を配置することができる。
また、好ましくは、リング部に直流電圧を印加可能に構成される。
この場合、リング部に直流電圧が印加される。リング部に直流電圧を印加した状態で駆動電極により交流電圧を印加してリング部を静電駆動させると、小さい交流電圧でも大きな静電力を発生させることができる。ここで、駆動電極に印加する交流電圧が大きいと、駆動電極と二次振動検出電極側とが静電誘導によって電気的に統合してしまうクロストーク現象が生じ易くなり、ノイズの原因となって、高精度な検出を阻害してしまう。したがって、リング部に直流電圧を印加することにより、小さい交流電圧で有効な静電力を発生させつつ、二次振動のより高精度な検出を行うことができる。
本発明に係る角速度センサによれば、上記振動状態の変化を検出する構成要素であるリング部、駆動電極および二次振動検出電極を略同一平面内に配置した上で、一次振動をリング部と同一平面外に変化させることができる。しかも、3次元に振動可能な角速度センサを二次元的に構成することにより、角速度センサの作製においてMEMSプロセスを容易に適用することができ、より安価に作製することができる。
以下、本発明に係る角速度センサの好ましい実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。図1は本発明に係る第1実施形態における角速度センサの概略図である。図1(a)は平面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A断面図である。なお、本実施形態においては、振動子の一次振動の振動モードとして平面外cos2θモードを採用し、対応する二次振動の振動モードの1つである平面内cos3θモードにおける振動子の状態変化を検出する構成としているが、他の平面外の振動モードも適宜採用可能である。
本発明に係る角速度センサは、図1に示すように、検出対象の角速度に応じて振動状態が変化するリング部11を有する振動子1が形成された半導体基板2を備える角速度センサであって、振動子1に対して静電駆動させることにより一次振動を生じさせる駆動電極3と、一次振動に基づいた二次振動により、振動子1との間で変化した静電容量を検出する二次振動検出電極4とを具備し、駆動電極3および二次振動検出電極4は、リング部11と略同一平面上に配置され、リング部11に固有の振動数に基づいた交流電圧を駆動電極3に印加することにより、一次振動としてリング部11を3次元に振動させるとともに、前記平面内におけるリング部11および二次振動検出電極4間の距離の変化を前記静電容量の変化として二次振動検出電極4から検出することにより角速度を検出することを特徴とするものである。
上記構成の角速度センサによれば、半導体基板2にリング部11を有する振動子1が形成される。このリング部11は、検出対象の角速度に応じて振動状態が変化する。
この振動状態の変化を検出するべく、駆動電極3および二次振動検出電極4がリング部11と略同一平面上に配置される。まず、駆動電極3により、リング部11を静電駆動して一次振動を生じさせる。一次振動が生じた状態で検出対象において所定の軸方向に角速度が生じるとコリオリ力が生じて、二次振動が励起される。一方、二次振動検出電極4を用いて、検出対象の角速度に応じて変化した振動状態である二次振動を検出すべく、振動子1と二次振動検出電極4との間で変化した静電容量を検出する。こうして、検出した静電容量変化より、検出対象の角速度が検出される(算出可能となる)。二次振動は、リング部11と略同一平面内に振動する成分であるため、当該平面内におけるリング部11および二次振動検出電極4間の距離の変化を二次振動検出電極4から検出することで、振動状態の変化による静電容量の変化を検出することができる。
ここで、リング部11の一次振動を3次元に振動させる(リング部11と同一平面外に変位させる)ために、発明者は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を利用し、駆動電極3に印加する電圧をリング部11に固有の振動数に基づいた電圧値とすることで、リング部11と駆動電極3とが略同一平面内に配置された場合であってもリング部11を3次元に振動させることができることを見出した。
理論上、完全に同一平面に構成されたリング部11と駆動電極3には、3次元方向の振動を励起する平面に鉛直な方向の力ベクトルは発生しない。しかし、実際に製作されたデバイスは、必ず存在する加工誤差などによって、鉛直方向に力が発生し、振動が始まる。一度、振動を始めると、駆動電極と3リング部11の対向面にはズレが生じるため、十分な駆動力が得られる。
したがって、上記振動状態の変化を検出する構成要素であるリング部11、駆動電極3および二次振動検出電極4を略同一平面内に配置した上で、一次振動をリング部11と同一平面外に変化させることができる。しかも、主要な構成機構が2次元的に配置されているので、MEMSプロセスで容易に製作でき、安価な角速度センサを提供できる。以下、各構成についてより詳しく説明する。
本実施形態においては、図1(b)に示すように、ガラス基板5上に、MEMS技術により振動子1や各電極が形成されたシリコン等の半導体基板2が陽極接合により貼着されている。なお、図示しないが、半導体基板2の上面に同様のガラス基板を貼着することにより、振動子1を低圧に封止することとしてもよい。
この半導体基板2をMEMS技術を用いてエッチングすることにより、振動子1を形成する。振動子1は、リング部11の中心部の支持部12により、一端がガラス基板5上に支持され、他端がリング部11に接続される複数の梁部13を有し、梁部13は、振動子1の一次振動における振動モードcos2θのモード次数n=2の2倍の個数、すなわち4個、等間隔に設けられている。すなわち、梁部13とリング部11との接続点は、リング部11の周方向に45°ずつ離間して設けられている。振動子1の構成要素であるリング部11、支持部12および梁部13をともに同一材料で作製することにより、製造コストが低く抑えられ、また、MEMS技術の導入が容易であり、微細な構造でも高精度かつ容易に製造することができる。なお、リング部11およびリング部11に連れて揺動し得る梁部13の揺動を阻害しないようにするため、当該リング部11および梁部13の下方(上方にガラス基板がある場合は上方も)がガラス基板5と接触しないように、ガラス基板5表面の該当部分にサンドブラスト加工による凹部(切り欠き部)51が設けられる。
駆動電極3は、図1(a)に示すように、静止状態における隣り合う梁部13の略中間であって、リング部11の内側に駆動電極3が等間隔に設けられるように構成される。すなわち、本実施形態においては、駆動電極3も振動子1の一次振動における振動モードcos2θのモード次数n=2の2倍の個数、すなわち4個、リング部11の周方向に沿って内側に設けられている。駆動電極3は、リング部11と同時に、同じ半導体基板2をエッチングして作製されるため、半導体基板2に形成された振動子1と同一平面内に設けられる。後述するその他の各電極についても同様である。
図2は図1の角速度センサにおける振動態様を示す図である。図2(a)は一次振動である平面外cos2θモードを示すy−z平面図およびx−y平面図であり、図2(b)はx軸回りの角速度が生じた際の二次振動である平面内cos3θモードを示すx−y平面図であり、図2(c)はy軸回りの角速度が生じた際の二次振動である平面内cos3θモードを示すx−y平面図である。破線部は静止状態のリング部11を示し、太線部は各振動状態のリング部11を示す。
図2(a)に示すように、リング部11の平面外に振動する一次振動においては、リング部11の平面に垂直な方向の変位量が最大となる位置が一次振動における振動モードcos2θのモード次数2の2倍の個数、すなわち4つずつリング部11の周方向に等間隔(45°間隔)に発生する。図2(a)において、x軸およびy軸上にそれぞれ2箇所ずつ最大の変位点Pdが存在する。一方、同様にリング部11の平面に垂直な方向の変位量が最小となる位置がこの数と同数、リング部11の周方向に等間隔に発生する。また、変位量が最大となる位置と変位量が最小となる位置とは、リング部の周方向に交互に等間隔に発生する(図2(a)において変位量が最大となる位置はy=±x上にそれぞれ2箇所ずつ)。
したがって、梁部13の数および駆動電極3の数を上記振動モードcos2θのモード次数2の2倍とした上で、隣り合う梁部13の略中央に駆動電極3を設けることにより、駆動電極3を一次振動による変位量が最大となる位置に配置することが可能となるとともに、梁部13を一次振動による変位量が最小となる位置に配置することが可能となる。駆動電極3を一次振動による変位量が最大となる位置に配置することにより、駆動電極3による一次振動をよりエネルギー効率よく励起させることができるとともに、梁部13を一次振動による変位量が最小となる位置に配置することにより、梁部13の変形を小さくして振動子1の耐久性を向上させることができるとともに、梁部13の存在による一次振動への影響を最小限にすることができる。
一方、二次振動検出電極4は、リング部11の外側に設けられる。つまり、本実施形態においては、駆動電極3がリング部11の内側に設けられ、二次振動検出電極4がリング部11の外側に設けられる。
したがって、リング部11と同一面内のリング部11の両側に駆動電極3および二次振動検出電極4が設けられるため、空間効率よく電極を配置することができる。しかも駆動電極3と二次振動検出電極4とをリング部11の内側または外側にそれぞれ分けて配置することにより、駆動電極3においては、より安定な一次振動を生成することができ、二次振動検出電極4においては、より高感度かつ高精度に二次振動を検出することができる。なお、駆動電極3をリング部11の外側に設け、二次振動検出電極4をリング部11の内側に設けてもよい。
ここで、図2(a)において、x軸回りに作用する角速度Ωxが生じた場合と、y軸回りに作用する角速度Ωyが生じた場合とでは、作用するコリオリ力が異なるため、図2(b)および図2(c)に示すように、二次振動はいずれもx−y平面内であるが、その振動方向はそれぞれ異なり、かつ、それぞれ独立である。
したがって、本実施形態において、二次振動検出電極4は、前記平面内の直交する第1軸であるx軸および第2軸であるy軸のそれぞれについて、x軸の軸回りに作用する角速度Ωxによる二次振動を検出するx軸二次振動検出電極(第1軸二次振動検出電極)41と、y軸の軸回りに作用する角速度Ωyによる二次振動を検出するy軸二次振動検出電極(第2軸二次振動検出電極)42とを具備するように構成される。
この場合、x軸二次振動検出電極41により、図2(b)に示すような、検出対象におけるx軸回りに作用する角速度Ωxによる静電容量変化が検出され、y軸二次振動検出電極42により、検出対象におけるx軸に直交するy軸回りに作用する角速度Ωyによる静電容量変化が検出される。
したがって、検出対象における直交する2つの軸回りに作用する角速度Ωx,Ωyをそれぞれ同時に検出することができる。
さらに、x軸二次振動検出電極41およびy軸二次振動検出電極42のそれぞれは、振動子1の二次振動における振動モードcos3θのモード次数3の2倍の個数、すなわち6個ずつ設けられるように構成され、x軸およびy軸二次振動検出電極41,42のそれぞれは、リング部の二次振動における前記平面に平行な方向の変位量が最大となる位置の近傍に設けられるように構成される。
ここで、リング部11の平面内に振動する二次振動においては、x軸回りに作用する角速度Ωxによる二次振動およびy軸回りに作用する角速度Ωyによる二次振動のそれぞれについて、リング部11の平面に平行な方向の変位量が最大となる位置が二次振動における振動モードcos3θのモード次数3の2倍の個数、すなわち6個ずつリング部11の周方向に等間隔に発生する。
より具体的に説明すると、図2(a)の一次振動において、x軸回りの角速度Ωxが生じた場合、図2(b)に示すように、y軸上の2点と、当該2点からリング部11の周方向に60°間隔で離間した位置に最大の変位点Pxが存在する。同様に、図2(a)の一次振動において、y軸回りの角速度Ωyが生じた場合、図2(c)に示すように、x軸上の2点と、当該2点からリング部11の周方向に60°間隔で離間した位置に最大の変位点Pyが存在する。したがって、本実施形態においては、変位点Pxの径方向外側にx軸二次振動検出電極41を配置し、変位点Pyの径方向外側にy軸二次振動検出電極42を配置している。
このように、x軸およびy軸に関するそれぞれの二次振動検出電極41,42をそれぞれ二次振動の振動モードcos3θのモード次数3の2倍とすることにより、リング部11において二次振動による変位量が最大となるすべての位置(変位点)Px,Pyにx軸およびy軸二次振動検出電極41,42をそれぞれ配置することが可能となるため、二次振動の静電容量変化をより高感度かつ高精度に検出することができる。
図3は図1の角速度センサの配線図である。なお、図3においては理解容易のためx軸二次振動検出電極41についての配線は省略してあるが、y軸二次振動検出電極42についての配線と同様に実現できる。
まず、駆動電極3に駆動電極3とリング部11との間に一次振動のための駆動電圧を印加するための交流電源7が接続されている。また、(y軸)二次振動検出電極4(42)には、検出アンプ8が接続されている。一方、振動子1のリング部11には、支持体12および梁部13を介して直流電源6が接続され、リング部11に直流電圧が印加される。これにより、振動子1側は、検出アンプ8により接地された二次振動検出側に対して直流電圧分だけ高電位となっている。
この状態で、駆動電極3に交流電源7から電圧を印加して一次振動を生じさせておく。この状態で、検出対象の角速度に応じて振動状態が変化し、図2(c)に示すような二次振動が生じると、リング部11と二次振動検出電極4との間の距離が変位する。したがって、静電容量Cが変化する。静電容量Cの変化(dC/dt)は、検出される電流値(I=dQ/dt)に比例する(dQ/dt=VdC/dt Vは振動子1と二次振動検出電極4との電位差)。したがって、検出アンプ8では、二次振動検出電極4に流れる交流電流値を交流電圧値に変換して出力している。
なお、本実施形態においては、二次振動検出電極4は二次振動の最大変位点Pyの6箇所すべてに設けられているが、図2(c)に示すように、隣り合う変位点Pyは互いに逆相となるため、配線においても、図3に示すように、検出される二次振動が同相の電極同士を同じ検出アンプ8に接続する。ここでは、検出アンプ8をy軸二次振動検出電極41に対して2個(x軸系も含めると計4個)備え、y軸二次振動検出電極42(またはx軸二次振動検出電極41)に関して隣り合うy軸二次振動検出電極42(またはx軸二次振動検出電極41)同士は互いに異なる検出アンプ8に接続される。したがって、それぞれの二次振動検出電極4から検出された同相の検出電流がそれぞれの検出アンプ8で足し合わされた上で交流電圧に変換される。ここで、一方の検出アンプ8から出力された交流電圧と他方の検出アンプ8から出力された交流電圧とは、位相が反転したものとなっている。したがって、いずれか一方の出力を反転回路9により反転させて加算することにより、すべての二次振動検出電極4から検出された静電容量変化をすべて有効に加算することができる。これにより、二次振動検出電極4における検出感度を高くすることができ、高精度かつ安定な検出を行うことができる。
ここで、リング部11に直流電圧を印加することは、上記検出アンプ8における電流検出に利用できるだけでなく、小さい交流電圧でも大きな静電力を発生させることができるという利点がある。ここで、駆動電極3に印加する交流電圧が大きいと、駆動電極3と二次振動検出電極4側とが静電誘導によって電気的に統合してしまうクロストーク現象が生じ易くなり、ノイズの原因となって、高精度な検出を阻害してしまう。したがって、リング部に直流電圧を印加することにより、小さい交流電圧で有効な静電力を発生させつつ、二次振動のより高精度な検出を行うことができる。
なお、駆動に用いる交流電圧の周波数は、リング部11の一次振動の固有振動数の2倍以上に設定されることが好ましい。
リング部11と駆動電極3とが同一平面上に配置された場合、リング部11の一次振動の一周期の間に、リング部11と駆動電極3の距離(もしくは対向面積)の変化が2周期分、発生する。さらに、リング部11と駆動電極3との間に働く静電引力が、弾性作用としても機能するため、電圧を印加すると、リング部11の固有振動数が高めに移行してしまう。したがって、駆動電圧3を固有振動数の2倍以上に設定した方が、共振を生じさせ易い。さらには、静電引力による弾性定数の変化は、非線形(変位量によって変化する)であり、共振のピーク周波数よりも低周波数側では、振動が不安定になることがあるため、駆動周波数を高周波数側に設定するのが好ましい。
また、二次振動検出電極4は、一次振動での容量変化も検出してしまうが、一次振動での容量変化は、二次振動検出電極4とリング部11が同一平面上に設置されているため、一次振動の振動周波数および二次振動の振動周波数の2倍の周波数で発生する。したがって、ローパスフィルタ等を用いることにより、容易に分離して、二次振動による信号のみを取り出すことができる。
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。図4は本発明に係る第2実施形態における角速度センサを示す平面図である。第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。なお、配線図についても第1実施形態に準じたものである。
本実施形態が第1実施形態と異なる点は、第1実施形態における駆動電極3のうち、半分を駆動電極3による一次振動を検出する一次振動検出電極31として用い、前記x軸二次振動検出電極41およびy軸二次振動検出電極42のうち、それぞれ半分をx軸二次振動検出電極41から検出された静電容量の変化を打ち消すように振動子1に対して静電引力を働かせるx軸振動抑制電極(第1軸振動抑制電極)411およびy軸二次振動検出電極42から検出された静電容量の変化を打ち消すように振動子1に対して静電引力を働かせるy軸振動抑制電極(第2軸振動抑制電極)421としてそれぞれ用いるように構成される。
一次振動検出電極31は、駆動電極3により生じた一次振動を検出する電極である。検出の方法は、二次振動検出電極4と同様である。したがって、上記駆動電極3について説明したように、一次振動による変位が最大となる変位点(図2(a)の変位点Pd)のいずれかに配置されることが好ましい。本実施形態においては、2つの駆動電極3が対向し、2つの一次振動検出電極31が対向するように、x軸上に一次振動検出電極31が配置され、y軸上に駆動電極3が配置される。
また、振動抑制電極411,421は、二次振動検出電極41,42から検出された静電容量の変化を打ち消すように振動子1に対して静電駆動させる電極である。静電駆動の方法は、駆動電極3と同様である。したがって、上記二次振動検出電極41,42について説明したように、二次振動による変位が最大となる変位点(x軸回りの角速度Ωxについて図2(b)の変位点Px、y軸回りの角速度Ωyについて図2(c)の変位点Py)のいずれかに配置されることが好ましい。本実施形態においては、x軸二次振動検出電極41、y軸二次振動検出電極42のそれぞれについて、第1実施形態において使用した検出アンプ8のいずれか一方に接続された二次振動検出電極41の一組(x軸、y軸についてそれぞれ3個ずつ)を振動抑制電極411,421として用いる。
このように、すべての電極を均等に配置することにより、駆動電極3、一次振動検出電極31、二次振動検出電極4(41,42)および振動抑制電極411,421のそれぞれの電極がそれぞれの電極の効果を最大限に発揮する位置にもれなく配置される。したがって、各電極における効果を互いに阻害することなく効果的に各電極を配置することができる。
ここで、一次振動検出電極31を設けることにより、駆動電極3によりリング部11に生じた一次振動(による振動子1と一次振動検出電極31との間の静電容量変化)が検出される。
リング部11の振動は、温度等の周囲の環境の変化により振動の固有振動数が変化する可能性がある。したがって、リング部11の一次振動を安定にするためには、上記固有振動数の変化に応じて駆動電極3に印加する交流電圧を変化させる必要が生じる。そこで、一次振動検出電極31によりリング部11に生じた一次振動を検出することにより、駆動電極3に対してフィードバックをかけることが可能となり、温度等の周囲の環境の変化に関わらず、リング部11における一次振動をより安定的に生成することができる。
また、振動抑制電極411,421を設け、リング部11の二次振動により二次振動検出電極41,42から検出された静電容量に基づいて、この変化を打ち消すような静電引力を働かせるべく、振動抑制電極411,421に所定の交流電圧が印加される。そして、振動抑制電極411,421に印加された交流電圧が発生したコリオリ力の大きさとして、二次振動の静電容量変化の代わりに検出されることにより各軸の角速度が検出される。
ここで、リング部11において二次振動が生じた場合、当該二次振動と検出対象の角速度との間で一次振動との間で生じたのとは別のコリオリ力が生じ得る。このような別のコリオリ力は、二次振動検出の外乱となり得るので発生しないことが好ましい。そこで、振動抑制電極411,421のそれぞれに独立した所定の交流電圧を印加することにより、x軸回りおよびy軸回りのそれぞれに作用する二次振動の発生を打ち消すとともに、当該打ち消すための振動抑制電極411,421に印加した交流電圧を二次振動を発生させるコリオリ力の大きさとして検出する。したがって、外乱の発生を取り除きつつ、直交する2つの軸についての角速度をより高精度に検出することができる。
以上、本発明に係る実施の形態を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。特に、各電極の大きさ、数および配置態様や一次振動および対応する二次振動の振動モードの選択(平面外一次振動のモード次数n(n≧2)に対してn−1またはn+1のいずれかのモード次数を有する平面内二次振動を選択可能)等は、検出対象や検出環境等に応じて適宜採用可能である。
また、本実施形態においては、リング部11がリング部11の内側にある支持部12により梁部13を介して支持される構成について説明したが、これに限られず、リング部11の外側に支持部を設けて、当該支持部とリング部とを梁部により接続することにより、リング部11が外側から支持される構成としてもよい。
また、本実施形態においては、梁部13が振動モードcos2θのモード次数2の2倍設けられる構成について説明したが、これに限られず、例えば、梁部が2本1組で構成され、支持部12側の端部は、いずれも駆動電極3に対向する位置に取り付けられ、リング部11側の端部は、駆動電極3の両脇に1本ずつ位置するように取り付けられる。図5は図1の角速度センサの変形例を示す概略図である。図5においては図1の梁部13の代わりに2本1組の梁部13’が取り付けられている点のみが異なる。これにより、時計回りまたは反時計回りのいずれのコリオリ力が生じた場合であっても、梁部13’ひいてはリング部11にかかる応力が回転方向によって変化せず、より高精度に角速度を検出することができる。