JP5018305B2 - 軸受粗成形品の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、複数回の鍛造加工によって軸受粗成形品を製造する方法に関し、詳しくは、熱間鍛造によって所定の形状に粗成形した後の球状化焼鈍を省略あるいはその球状化焼鈍の時間を短縮することが可能な軸受粗成形品の製造方法に関する。
従来、自動車や産業機械などに用いられる軸受部品のうちでも軌道輪のような部品は、一般に、JIS G 4805(1999)に規定されたSUJ1〜5に代表される高炭素クロム軸受鋼鋼材を素材として、熱間鍛造によって所定の形状に粗成形した後、転造加工などの冷間加工や切削加工を施して最終形状とし、その後さらに焼入れ−焼戻しのいわゆる「調質処理」を行って仕上げられていた。そして、その際の熱間鍛造としては、非特許文献1に示されているように、鍛造加工を複数回施すことにより内外輪を同時に粗成形する方法が採られている。
しかしながら、熱間鍛造後の軸受粗成形品のミクロ組織は、通常パーライトの単相組織あるいはパーライト組織に加えてベイナイトなど硬質相を含んだ混合組織であるので、熱間鍛造ままの軸受粗成形品は冷間加工性や切削加工性に劣っている。
このため、熱間鍛造後の軸受粗成形品には、冷間加工性や切削加工性を高めるために、球状化焼鈍と呼ばれる20時間を超えるような長時間の熱処理を施し、ミクロ組織をフェライトと球状セメンタイトの混合組織に変えることが一般に行われてきた。
しかしながら、上記長時間の球状化焼鈍は多大なエネルギーを消費するばかりか、生産性を低下させてコスト上昇を招く処理である。
したがって、産業界からは、熱間鍛造後の軸受粗成形品の球状化焼鈍を省略するか、あるいは省略できないまでもその時間を大幅に短縮して、エネルギー消費を少なくし、また工程を簡略化して生産性を高めたいとの要望が大きくなっている。
軸受部品の製造工程における生産性改善のため、軸受鋼鋼材の製造過程の熱履歴を改善し、球状化焼鈍を省略あるいは球状化焼鈍時間の短縮を可能とする製造方法は、例えば、特許文献1〜4に提案されている。
すなわち、特許文献1には、特定の成分範囲に調整された炭素鋼を850℃以上の温度に加熱し圧下率30〜60%の熱間圧延を行う段階と、前記熱間圧延後Ac1変態点〜Acm変態点の温度域で60〜900秒間の保持をした後に同一温度域で圧下率30〜60%の熱間圧延を行う段階と、前記熱間圧延後600℃の温度まで1℃/s以下の冷却速度で徐冷する段階と、を有して成る「高炭素鋼材の直接軟化熱処理方法」が開示されている。
なお、この特許文献1で提案された技術は、熱間圧延の加工途中において、Ac1変態点〜Acm変態点の温度域で60〜900秒間の保持させることによりオーステナイト粒から初析セメンタイトを析出させ、さらに圧下率30〜60%の熱間圧延を行った後に600℃の温度まで1℃/s以下の冷却速度で徐冷することで、軟質なパーライト組織または疑似パーライト組織を得ることを特徴とするものである。
また、特許文献2には、C:0.8〜1.3質量%を含有する鋼材を、熱間圧延における仕上圧延温度を850℃以下、冷却開始温度を850℃以下に制御し、且つ、該冷却開始温度から600℃の範囲における平均冷却速度を0.1〜5℃/sで冷却する「伸線前の熱処理が省略可能な伸線加工性に優れた線状または棒状鋼の製造方法」が開示されている。
なお、上記特許文献2で提案された技術は、「加熱」→所定の線径まで「圧延」→「冷却」という一連の製造工程において、仕上圧延の前に初析セメンタイトを析出させ、仕上圧延温度を850℃以下に制御することによってその初析セメンタイトを仕上圧延過程で破壊して10以下のアスペクト比(「長径/短径」)になるようにし、さらに、冷却開始温度から600℃の範囲における平均冷却速度を0.1〜5℃/sとして冷却することによって、短径が2μm以下の初析セメンタイトを得るものである。
特許文献3には、特定の化学組成を有する鋼素材に対し、熱間圧延の仕上圧延を該鋼素材の(Ar1−50℃)〜(Ar1+50℃)の温度域で減面率が20%以上となるように行い、直ちに冷却速度0.5℃/s以下で、500℃以下まで冷却する「熱間圧延ままで球状化炭化物組織を有する軸受け用線材・棒鋼の製造方法」が開示されている。
この特許文献3で提案された技術は、Ar1点近傍の温度で圧延加工を施すことによる加工歪の蓄積によって、層状パーライトを構成している板状セメンタイトが微細に分断され、同時にパーライトおよびフェライト組織全体も加工を受けて、転位密度の上昇や各相間の界面エネルギーが増加し、続く冷却速度0.5℃/s以下での徐冷によってセメンタイトが球状化されるものである。
さらに、特許文献4には、重量%で、C:0.8〜1.2%およびCr:0.9〜1.8%を含有する高炭素クロム軸受鋼を、抽出から仕上げ圧延に至る間、全断面内において温度がA1点〜Acm点の間にあるように制御して圧延することにより球状化組織を得、後続する球状化焼鈍工程を省略または短縮して棒鋼または線材を得る「軸受鋼圧延材の製造方法」が開示されている。
上記の特許文献4で提案された技術は、圧延を、全断面が同じ二相領域にあるように温度の均一化をはかり、かつ、従来法より低い温度範囲で圧延を行うことにより、被圧延材の中に大きな歪みを生じさせて、その歪みを後続する焼鈍工程における速やかな球状化の駆動力として利用させるものである。
特開平1−255623号公報 特開2003−129176号公報 特開2004−190127号公報 特開平11−286724号公報 「リング素形材」(平岡和彦:特殊鋼、Vol.47(1998)No.2、p.42)
特許文献1〜4で提案された技術はいずれも、「熱間圧延」によって棒鋼や線材を製造する過程の技術である。このため、自動車や産業機械などに用いられる軸受部品のうちでも軌道輪のような、「熱間鍛造」によって所定の形状に粗成形する部品に対して必ずしも適用できるものではなかった。
これは、「熱間鍛造」が、素材に複数回の加工を加えるという点では、複数回の圧下を加える「熱間圧延」と同様であるものの、次の(イ)〜(ハ)の点で「熱間圧延」とは大きく異なる加工であるためである。
(イ)加工開始から終了までの時間が短い、
(ロ)加工から次の加工までの時間である加工間隔(以下、「加工間のインターバル時間」ともいう。)が短い、
(ハ)圧延設備とは異なって鍛造設備の場合には鍛造機の間に水冷設備や再加熱設備などを連続的に設置することができない。
したがって、前記特許文献1〜4に開示された熱間圧延の熱履歴は熱間鍛造にそのまま適用できるものではなく、たとえ適用しても、意図する球状化焼鈍の省略効果や球状化焼鈍時間の短縮効果が得られるものではなかった。
すなわち、特許文献1で提案された技術は、熱間加工の途中段階においてAc1変態点〜Acm変態点の温度域で60〜900秒間の保持工程が必要であり、熱間鍛造の工程にこのような長時間の保持工程を導入するには、鍛造工程を分割して、例えば、トンネル加熱炉のような新たな設備を設ける必要が生じてしまう。
また、特許文献2や特許文献3で提案された、仕上加工温度を低くして徐冷するという技術を熱間鍛造に適用してみても、それだけでは、十分な球状化焼鈍時間の短縮効果が得られなかった。
さらに、特許文献4で提案された、抽出から仕上圧延に至る間、全断面の温度を二相領域とする熱間加工の技術を熱間鍛造に適用した場合にも、十分な球状化焼鈍時間の短縮効果は得られなかった。
そこで、本発明の目的は、熱間鍛造後の軸受粗成形部品に対して、冷間加工性や切削加工性を高めるために施されていた、20時間を超えるような長時間の球状化焼鈍を省略あるいはその球状化焼鈍の時間を短縮することが可能な軸受粗成形品の製造方法を提供することである。
より具体的には、球状化焼鈍時間を従来の半分程度に短縮することが可能な軸受粗成形品の製造方法を提供することである。さらには、従来の球状化焼鈍で得られる球状セメンタイトを球状化焼鈍を行わずとも得ることが可能な軸受粗成形品の製造方法を提供することである。
本発明者らは、前記した課題を解決するために、先ず、球状化焼鈍時間短縮効果を得るための最適なミクロ組織について検討を行った。その結果、下記(1)〜(4)の知見を得た。
(1)球状化焼鈍時間短縮のためには、熱間鍛造された状態で、セメンタイトをアスペクト比の小さい、すなわち可能な限り球状に近い形態にしておく必要がある。
(2)しかしながら、通常の熱間鍛造では旧オーステナイト粒界に沿って初析セメンタイトがネットワーク状に析出する。したがって、初析セメンタイトを旧オーステナイト粒界以外の多数の析出サイトで核生成・成長させることが、旧オーステナイト粒界に沿ったネットワーク状の初析セメンタイトの析出を抑制するのに有効である。
(3)球状化焼鈍時間短縮にはアスペクト比の小さい微細なセメンタイトが多ければ効果的であるものの、セメンタイトが微細化しすぎると軸受粗成形品の硬さが高くなりすぎるので、最終形状にするための冷間加工や切削加工における加工性を阻害する可能性がある。
(4)したがって、セメンタイトは適度な大きさに成長させる必要がある。
そこで本発明者らは、上記のミクロ組織を得るための手段を検討し、「熱間圧延」に対して「熱間鍛造」の短所と考えられていた前記(ロ)の「加工間のインターバル時間が短いこと」を積極的に活用する次の(5)を着想するに至った。
(5)熱間鍛造の加工温度を低くするとともに、加工から次の加工までの時間である加工間隔に制限を加えれば加工歪を蓄積することができるので、この加工歪を利用して初析セメンタイトを旧オーステナイト粒内にも均一に加工誘起析出させれば、旧オーステナイト粒界に沿って析出するネットワーク状の初析セメンタイトの形成を抑制できる可能性がある。
そこで、上記(5)の着想に基づいて確認試験を行ったところ、下記(6)に示す事項が明らかになった。
(6)熱間鍛造の加工温度を低くするとともに加工間隔を短くすれば、旧オーステナイト粒界に沿って析出していた初析セメンタイトを、ネットワーク状からアスペクト比の小さい形状に変化させることができる。しかしながら、その析出サイトは依然として旧オーステナイト粒界に限られ、旧オーステナイト粒内においてはパーライト変態による板状セメンタイトが析出してしまう。すなわち、熱間鍛造の加工温度を低くして加工間隔を短くするだけでは、旧オーステナイト粒内にアスペクト比の小さい初析セメンタイトを加工誘起析出させることはできない。
そこでさらに、本発明者らは、旧オーステナイト粒内においてもアスペクト比の小さい形態のセメンタイトを得る手段について種々検討を行い、下記(7)〜(10)の知見を得た。
(7)旧オーステナイト粒内にセメンタイトを予め残存させておけば、その残存セメンタイトの周辺にも加工歪を蓄積することが可能となり、初析セメンタイトを旧オーステナイト粒内にも均一に加工誘起析出させることができる可能性がある。
(8)すなわち、熱間鍛造の加熱において素材を完全にオーステナイト化するのではなく、加熱前の素材に存在していたパーライト中のセメンタイトが粒状や球状にある程度残るような状態、すなわち急速に加熱して、速やかに熱間鍛造を開始すれば、その旧オーステナイト粒内の微細な粒状や球状の残存セメンタイトが初析セメンタイトの加工誘起析出の析出サイトとなる。
(9)そして、鍛造温度を低くするとともに加工間隔を短くして、特定量以上の変形量で複数回の鍛造加工を行って所定の粗成形品形状にし、さらにその後特定の冷却速度で冷却すれば、旧オーステナイト粒界だけではなく旧オーステナイト粒内にも初析セメンタイトが微細に加工誘起析出し、さらに蓄積された加工歪によって炭素の拡散も促進されるので、加工誘起析出した初析セメンタイトや残存セメンタイトを適度な大きさに成長させることができる。
(10)その結果、従来の熱間鍛造方法の場合に析出していた旧オーステナイト粒界に沿ったネットワーク状の初析セメンタイト、さらには、従来の熱間鍛造方法や加工温度を低くするとともに加工間隔を短くしただけの熱間鍛造方法の場合に析出する旧オーステナイト粒内に生成されるパーライトを構成する板状セメンタイトは、ともに生成が抑制されることとなるので、アスペクト比の小さいセメンタイト、換言すれば、球状に近い形態のセメンタイトが得られる。
そこで本発明者らは、さらに、質量%で、0.7〜1.2%のCおよび0.8〜1.8%のCrを含有する種々の高炭素クロム軸受鋼鋼材を用いて、具体的に種々の熱間鍛造条件で試験を繰り返した。その結果、下記(11)〜(15)の知見を得た。
(11)600℃以上の加熱速度を10℃/s以上としてAe1点〜(Aem点+50℃)の温度域の温度T℃まで加熱し、次いで該温度に到達後10min以内(10minを含む)に加工を開始することにより、熱間鍛造の素材である被鍛造材に存在していたパーライト中の微細な粒状や球状のセメンタイトを、熱間鍛造の開始時に、旧オーステナイト粒内に残存させることができる。
(12)(Ar1点+150℃)〜Ar1点の温度域において、鍛造の加工間隔を2s以下として1加工あたり5%以上の変形量で複数回の加工を行うことにより、微細な初析セメンタイトを旧オーステナイト粒界および旧オーステナイト粒内に均一に加工誘起析出させることができ、さらに、加工後の冷却過程において、この初析セメンタイトと残存セメンタイトを適度な大きさに成長させて、アスペクト比の極めて小さい球状に近い形態のセメンタイトにすることができる。
(13)但し、上記(12)における鍛造はAr1点以上で行うため、オーステナイト中に固溶しているC(炭素)が全て鍛造時に初析セメンタイトとして加工誘起析出する訳ではないので、鍛造後の冷却過程においてもなおセメンタイトの析出が生じる。しかしながら、初析セメンタイトが加工誘起析出することによってオーステナイト中の炭素の固溶量が少なくなっているため、鍛造終了後400℃までの温度域を5℃/s以下の冷却速度で冷却すれば、パーライト変態が抑制され、換言すれば、板状セメンタイトの析出が抑制されるので、球状とまではいえないもののアスペクト比の比較的小さい初析セメンタイトが析出することとなる。
(14)そして、上記のようにして熱間鍛造することにより、下記に示す(a)〜(c)を満たす球状に近いセメンタイトとフェライトからなるミクロ組織を有する軸受粗成形品が得られる。
(a)セメンタイトのうちで、アスペクト比が2.0以下であるものの割合が50%以上、
(b)セメンタイトのうちで、アスペクト比が5.0以下であるものの割合が75%以上、
(c)上記(a)のアスペクト比が2.0以下であるセメンタイトの平均粒径が0.16μm以上。
なお、前記の「アスペクト比」とは「長径/短径」のことを指す。以下の説明においては、長径を「L」、短径を「W」といい、さらに、アスペクト比を「L/W」ということがある。
(15)上記(a)〜(c)を満たす球状に近いセメンタイトとフェライトからなるミクロ組織を有することにより、球状化焼鈍時間の短縮が可能となるに加え、さらにより望ましい加熱条件や鍛造条件を選択すれば、球状化焼鈍の省略も可能となる。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記に示す軸受粗成形品の製造方法にある。
「複数回の鍛造加工による軸受粗成形品の製造方法であって、質量%で、C:0.7〜1.2%およびCr:0.8〜1.8%を含有する高炭素クロム軸受鋼鋼材を、600℃以上の加熱速度を10℃/s以上としてAe1点〜(Aem点+50℃)の温度域の温度T℃まで加熱し、次いで該温度T℃に到達後10min以内(10minを含む)に加工を開始し、(Ar1点+150℃)〜Ar1点の温度域において、加工間隔を2s以下として1加工あたり5%以上の変形量で複数回の鍛造加工を行って所定の粗成形品形状にした後、400℃までの温度域を5℃/s以下の冷却速度で冷却することを特徴とする軸受粗成形品の製造方法。」
なお、本発明における「Ae1点」および「Aem点」はそれぞれ、平衡状態における共析温度および平衡状態においてセメンタイトがオーステナイトに完全に固溶する温度を指す。
また、上記の「変形量」とは、粗成形品に加わった相当塑性歪の平均値を指し、相当塑性歪は、益田らが「改訂工業塑性力学」(1995年2月20日 第15版、株式会社養賢堂発行)の第113ページに示した手法により、鍛造で変形した断面内の歪を一軸引張りの塑性歪へ換算することにより求めることができる。
以下、上記の軸受粗成形品の製造方法に係る発明を、「本発明」という。
本発明によれば、従来、熱間鍛造後の軸受粗成形部品に対して、冷間加工性や切削加工性を高めるために施されていた20時間を超えるような長時間の球状化焼鈍を省略あるいはその球状化焼鈍の時間を短縮することができるので、エネルギー消費の少ない低コストかつ高い生産性の下に軸受部品、なかでも軌道輪のような部品を製造することができる。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお。以下の説明における各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
(A)高炭素クロム軸受鋼鋼材の化学組成
C:0.7〜1.2%
Cは、最終製品としての自動車や産業機械などに用いられる軸受部品に、必要な強度を確保させるために必須の元素である。特に、疲労寿命向上の目的でセメンタイト量を増加させることが必要なため、0.7%以上の量を含有させる必要がある。しかしながら、その含有量が1.2%を超えると、熱間鍛造によって所定の形状に成形した軸受粗成形品の硬さが高くなりすぎるため、最終形状にするための冷間加工性や切削加工の低下を招いてしまう。また、最終形状にした後に行う焼入れ処理の際に、焼割れを生じやすくなる。したがって、Cの含有量は、0.7〜1.2%とした。なお、所望の効果を安定して得るために、Cの含有量は0.8〜1.1%とすることが好ましい。
Cr:0.8〜1.8%
Crは、鋼の焼入性を高めるとともに、セメンタイトを熱的に安定化させ、高温域におけるセメンタイトのマトリックス中への固溶を抑止する作用を有する。この効果はCrの含有量が0.8%以上で発揮される。しかしながら、Crの含有量が1.8%を超えると、前記の効果が飽和するだけでなく、最終形状にした後に行う焼入れ処理の際に、焼割れを生じやすくなり、また、耐疲労特性など機械的性質の低下を招く。したがって、Crの含有量を0.8〜1.8%とした。なお、Crの含有量は0.9〜1.6%とすることが好ましい。
上記の理由から、本発明に係る軸受粗成形品の製造方法においては、C:0.7〜1.2%およびCr:0.8〜1.8%を含有する高炭素クロム軸受鋼鋼材を用いることとした。
高炭素クロム軸受鋼鋼材の好ましい化学組成としては、例えば、C:0.7〜1.2%、Cr:0.8〜1.8%、Si:1.2%以下、Mn:1.5%以下、P:0.03%以下、S:0.025%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなるものが挙げられる。
上記高炭素クロム軸受鋼鋼材のうちでもより好ましい化学組成としては、C:0.7〜1.2%、Cr:0.8〜1.8%、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.2〜1.2%、P:0.02%以下、S:0.02%以下を含有し、残部がおよ及び不純物からなるものが挙げられる。
上述した各高炭素クロム軸受鋼鋼材の不純物としては、Cu、Ni、Al、NおよびOのような炭化物を形成しない元素の含有量は、Cu:0.2%以下、Ni:0.25%以下、Al:0.05%以下、N:0.015%以下およびO:0.002%以下程度であれば何ら球状化には影響しない。一方、不純物のうち炭化物を形成する元素の場合は、特にMoについて、その含有量を0.08%以下とするのが好ましい。
また、高炭素クロム軸受鋼鋼材の好ましい化学組成としては、C:0.7〜1.2%、Cr:0.8〜1.8%、Si:1.2%以下、Mn:1.5%以下、P:0.03%以下、S:0.025%以下、Mo:0.5%以下を含有し、残部がFe及び不純物からなるものも挙げられる。
上記の高炭素クロム軸受鋼鋼材うちでもより好ましい化学組成としては、C:0.7〜1.2%、Cr:0.8〜1.8%、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.2〜 1.2%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Mo:0.05〜0.4%を含有し、残部がFe及び不純物からなるものが挙げられる。
上述した各高炭素クロム軸受鋼鋼材の不純物としても、Cu、Ni、Al、NおよびOのような炭化物を形成しない元素の量は、Cu:0.2%以下、Ni:0.25%以下、Al:0.05%以下、N:0.015%以下およびO:0.002%以下程度であれば何ら球状化には影響しない。
(B)高炭素クロム軸受鋼鋼材の加熱条件
本発明においては、前記(A)項で述べた化学組成を有する高炭素クロム軸受鋼鋼材を、600℃以上の加熱速度を10℃/s以上としてAe1点〜(Aem点+50℃)の温度域の温度T℃まで加熱し、次いで該温度T℃に到達後10min以内(10minを含む)に加工を開始する必要がある。
これは、被鍛造材、すなわち、熱間鍛造によって所定の形状に粗成形する前の鋼材に存在していたパーライト中のセメンタイトを、鍛造のための加熱段階でマトリックス中に全て固溶させてしまうのではなく、熱間鍛造過程での初析セメンタイトの析出サイトとして活用できるように、微細な粒状または球状の状態で可能な限り残存させるようにすることが重要なためである。
したがって、被鍛造材は急速に加熱して、速やかに熱間鍛造を開始する必要がある。
600℃以上の加熱速度を10℃/s以上にすることで、比較的高温域まで非平衡状態を保ち、Aem点を多少超えた温度でも短時間であればセメンタイトが残存可能となる。600℃以上の加熱速度が10℃/s未満の場合には、加熱保持時にセメンタイトが残存できる温度範囲が狭くなってしまう。したがって、600℃以上の加熱速度は10℃/s以上とした。600℃以上の加熱速度は15℃/s以上とすることが好ましい。
なお、上記の加熱速度を大きくしすぎると、過剰な加熱設備の増強が必要となりコストが増大するため、600℃以上の加熱速度は500℃/s以下とするのが好ましい。
600℃以上の加熱速度を10℃/s以上とした場合であっても、加熱温度T℃が(Aem点+50℃)を超えた場合には、熱間鍛造開始時に素材は完全にオーステナイト化し、炭素は完全に固溶してしまうのでセメンタイトは残存できず、熱間鍛造後の冷却過程でオーステナイトはパーライト変態し、旧オーステナイト粒内に板状セメンタイトが析出してしまう。
一方、加熱温度T℃がAe1点より低い場合には、素材のパーライトそのものが残存し、熱間鍛造後のミクロ組織はパーライト組織となり、板状セメンタイトが多数残存する。このような場合には、球状化焼鈍時間の短縮効果は得られない。
したがって、加熱温度T℃はAe1点〜(Aem点+50℃)とした。なお、球状化焼鈍の省略効果を得るためには、加熱温度T℃は(Ae1点+15℃)〜(Aem点−45℃)とすることが好ましい。
前記加熱温度T℃に到達後加工開始までの時間が長くなるにつれ、残存セメンタイトは時間とともにその数が減少し、10minを超えると、炭素は完全に固溶してしまうのでセメンタイトは残存できず、熱間鍛造後の冷却過程でオーステナイトはパーライト変態し、旧オーステナイト粒内に板状セメンタイトが析出してしまう。したがって、前記加熱温度T℃に到達後加工開始までの時間は10min以内(10minを含む)とした。加熱温度T℃に到達後加工開始までの時間は5min以内(5minを含む)とすることが望ましい。
なお、加熱温度T℃に到達すれば、その直後に加工を開始しても問題ない。
また、その加熱方法については特に規定する必要はなく、600℃以上の加熱速度が10℃/s以上になりさえすればよいので、例えば、高周波誘導加熱や通電加熱方式を用いるのが望ましい。
(C)高炭素クロム軸受鋼鋼材の加熱後の鍛造条件
本発明においては、前記(A)項で述べた化学組成を有する高炭素クロム軸受鋼鋼材を、前記(B)項に記載の条件で加熱し、次いで、(Ar1点+150℃)〜Ar1点の温度域において、加工間隔を2s以下として1加工あたり5%以上の変形量で複数回の鍛造加工を行う必要がある。
これは、初析セメンタイトのアスペクト比を小さくするには、旧オーステナイト粒界に沿って析出するネットワーク状の初析セメンタイトを抑制する必要があって、そのためには、熱間鍛造時に旧オーステナイト粒界および旧オーステナイト粒内に、初析セメンタイトを加工誘起析出させ、さらに成長させることが重要なためである。
したがって、熱間鍛造の加工温度を低くするとともに、加工間隔を短くする必要がある。
先ず、鍛造温度を低くすることによって、加工歪を蓄積することが可能となる。すなわち、鍛造によって多くの転位が導入されるが、鍛造温度が低い場合には導入された転位は容易には消失せず、旧オーステナイト粒界や、旧オーステナイト粒内の残存セメンタイトの付近に集積することとなって転位密度が高くなり、その近傍で初析セメンタイトが優先的に析出、つまり、加工誘起析出することとなる。さらに、加工歪によってC(炭素)の拡散が促進されるので、初析セメンタイトあるいは残存セメンタイトは適度な大きさに成長する。そして、このような効果は、(Ar1点+150℃)〜Ar1点の温度域で鍛造加工を行うことによって得ることができる。
鍛造温度が(Ar1点+150℃)より高い場合には、導入された転位はオーステナイト粒の再結晶駆動力として消費されるため、加工誘起析出は起こらず、初析セメンタイトは旧オーステナイト粒界に沿ってネットワーク状に析出してしまう。一方、鍛造温度がAr1点より低い場合には、多くの転位を導入できるももの、鍛造加工の前にオーステナイトがフェライトとセメンタイトへの分解反応であるパーライト変態を開始してしまうため、パーライトを加工することになって、パーライト中の一部の板状セメンタイトはわずかに分断されるものの、セメンタイトのアスペクト比はそれほど小さくならない。このような場合には、球状化焼鈍時間の短縮効果は得られない。したがって、(Ar1点+150℃)〜Ar1点の温度域において鍛造する必要がある。なお、球状化焼鈍の省略効果を得るためには、(Ar1点+120℃)〜(Ar1点+20℃)の温度域において鍛造加工することが好ましい。
しかしながら、(Ar1点+150℃)〜Ar1点の温度域において鍛造する場合であっても、1加工あたりの変形量が5%未満の場合には加工歪は蓄積されず、このため、旧オーステナイト粒界および旧オーステナイト粒内に微細な初析セメンタイトを加工誘起析出させることができないので、初析セメンタイトは旧オーステナイト粒界に沿ってネットワーク状に析出してしまう。したがって、熱間鍛造時の1加工あたりの変形量は5%以上とする必要がある。
上記の「変形量」とは、粗成形品に加わった相当塑性歪の平均値を指し、相当塑性歪は、益田らが「改訂工業塑性力学」(1995年2月20日 第15版、株式会社養賢堂発行)の第113ページに示した手法により、鍛造で変形した断面内の歪を一軸引張りの塑性歪へ換算することにより求めることができることは前述のとおりである。
なお、既に述べたように、軌道輪のような部品に対しては、鍛造加工を複数回施すことにより内外輪を同時に粗成形する方法が採られているが、熱間鍛造の1加工あたりの変形量が5%未満の場合、加工歪は蓄積されず、旧オーステナイト粒界および旧オーステナイト粒内に微細な初析セメンタイトを加工誘起析出させることはできず、初析セメンタイトは旧オーステナイト粒界に沿ってネットワーク状に析出してしまう。
したがって、上述の1加工あたりの変形量で5%以上の鍛造加工は2回以上であればその上限回数は特に規定する必要はなく、素材と最終製品の寸法や形状などから適宜決定すればよい。
1加工あたり5%以上の変形量で複数回の鍛造加工を行う場合であっても、加工間隔が2sを超えると、加工歪の蓄積効果は乏しくなり、旧オーステナイト粒界および旧オーステナイト粒内に微細な初析セメンタイトを加工誘起析出させることはできず、初析セメンタイトは旧オーステナイト粒界に沿ってネットワーク状に析出してしまう。したがって、加工間隔を2s以下として鍛造加工する必要がある。より効果を発揮するには、加工間隔を1s以下として鍛造加工することが好ましい。
なお、上記の加工間隔は短時間であればあるほど、加工歪の蓄積効果が発揮できるが、鍛造設備の制約から、その下限は0.1s程度である。
(D)高炭素クロム軸受鋼鋼材の鍛造後の冷却条件
本発明においては、前記(A)項で述べた化学組成を有する高炭素クロム軸受鋼鋼材を、前記(B)項に記載の条件で加熱し、次いで、前記(C)項で述べた鍛造を行って所定の粗成形品形状にした後、400℃までの温度域を5℃/s以下の冷却速度で冷却する必要がある。
鍛造終了後400℃までの温度域の冷却速度が5℃/sを超える場合には、冷却時における初析セメンタイトや残存セメンタイトの成長が阻害されるとともに、パーライト変態するので、旧オーステナイト粒内にパーライトを構成する板状セメンタイトが析出することとなって、アスペクト比の極めて大きなセメンタイトの量が全体として増えてしまう。なお、冷却速度が極めて大きくなった場合には、パーライト変態ではなく、ベイナイト変態やマルテンサイト変態が生じるため、パーライトを構成する板状セメンタイトの析出は抑制できるものの、軸受粗成形品の硬さが高くなりすぎるので、最終形状にするための冷間加工性や切削加工の低下を招いてしまう。したがって、所定の粗成形品形状にした後、400℃までの温度域を5℃/s以下の冷却速度で冷却する必要がある。
なお、上述の5℃/s以下の冷却速度で冷却する温度域は鍛造後400℃までとすれば十分であって、400℃を下回る温度域については特に規定する必要がない。このため、製造設備や生産性を勘案して、例えば、空冷(放冷)、強制風冷やミスト冷却などから適宜決定すればよい。
また、上記の400℃までの温度域の冷却速度の下限は、冷却速度を遅くすれば、パーライトの抑制効果が大きくなるが、冷却速度を遅くするための温度制御設備が必要となり、結果として製造コストの増加を招くことから、5℃/hとするのが好ましい。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
(実施例1)
表1に示す鋼A〜Cを150kg真空溶解炉で溶解した後、インゴットに鋳造した。なお、表1には、株式会社材料設計技術研究所で開発・販売されている状態図計算ソフトウェア「Pandat ver.6.0」によって求めた各鋼のAe1点およびAem点も併せて示した。
Figure 0005018305
鋼A〜鋼Cのインゴットは1250℃で60min加熱し、仕上げ温度を1000℃以上として熱間鍛造し、直径30mmの丸棒を得た。
このようにして得た直径が30mmの丸棒から、機械加工によって、直径が3mmで長さが10mmの変態点測定用試験片および直径が8mmで高さが12mmの加工用円柱試験片を作製した。
次いで、上記の直径が3mmで長さが10mmの試験片を用いて、フォーマスタ試験機によって、各鋼の冷却過程におけるAr1点を測定した。前記の表1に、各鋼のAr1点を併記して示す。
また、上記直径が8mmで高さが12mmの円柱試験片を用いて、熱間加工試験機(加工フォーマスタ試験機)により、表2に示す種々の条件で、熱間での2段圧縮加工を行った。
熱間加工後、400℃までの温度域は冷却ガス(Heガス)の流量を変化させて冷却速度を制御し、400℃を下回る温度域は冷却制御は行わず、自然放冷して冷却した。
Figure 0005018305
次いで、次に示す方法で、各熱間加工後の試験片のミクロ組織を調査した。
先ず、各熱間加工後の試験片の中心軸を通り、加工方向である圧縮軸に平行に切り出した断面(以下、「縦断面」という。)が被検面になるように樹脂に埋め込み、鏡面研磨した後、ピクリン酸アルコール(ピクラル液)で腐食して、倍率を5000倍として走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10視野についてミクロ組織画像を撮影した。なお、各視野の面積は25μm×20μmである。
次に、上記の撮影画像を用いて、画像処理ソフトによって各セメンタイトの長径Lと短径Wとを個々に測定し、L/Wが5.0以下であるセメンタイトの割合と、L/Wが2.0以下であるセメンタイトの割合をそれぞれ、算出した。
また、画像処理ソフトによってL/Wが2.0以下である各セメンタイトの円相当直径を導出し、それを算術平均してL/Wが2.0以下であるセメンタイトの平均粒径を求めた。
さらに、前記のミクロ組織を観察した試験片を用いて、2.94Nの試験力で各試験片について5カ所ずつHV硬さの測定を行い、その値を算術平均して各試験片のHV硬さを調査した。
なお、以下の説明においては、上記のようにして求めたL/Wが2.0以下であるセメンタイトの割合を「球状化率」という。また、後述するように一般に球状化処理条件として用いられている20時間を超えるような長時間処理で得られる場合の球状化率は85%程度であるため、球状化率85%を球状化焼鈍が必要か否かの判断基準とした。
表2に、上記の各試験結果を併せて示す。なお、表2の「評価」欄における「◎」は球状化率85%以上を満たすもの、すなわち球状化焼鈍の省略効果が得られるものを示し、球状化率85%以上を満たさなかったものは、「−」で示した。
表2から、本発明で規定する条件を満たす試験番号1〜12のうち、加熱温度T℃が(Ae1点+15℃)〜(Aem点−45℃)で、(Ar1点+120℃)〜(Ar1点+20℃)の温度域において鍛造加工を行った試験番号2〜4、試験番号8、試験番号10および試験番号11の評価は「◎」であって、球状化率は85%以上であり、球状化焼鈍が省略可能である。この場合、HV硬さも270以下と低いことが判る。
(実施例2)
前記の実施例1で作製した、直径が8mmで高さが12mmの円柱試験片を用いて、表3に示す条件で熱間での2段圧縮加工を行った。
なお、表3に示す試験番号21〜34の2段圧縮加工はそれぞれ、加熱条件、加工条件および冷却条件がいずれも、表2の試験番号1、試験番号5〜7、試験番号9および試験番号12〜20と同じものであり、これらは、表2における評価が「−」、すなわち球状化焼鈍省略効果が得られなかったものである。
次いで、上記のようにして加工した試験片のうち、試験番号21〜33の試験片には図1に示す全在炉時間が12hの条件で、また、試験番号34の試験片には図2に示す全在炉時間が24hの条件で、いずれも大気雰囲気の箱型電気加熱炉装置を用いて、球状化処理を行った。
なお、図2に示す熱処理パターンは、一般に球状化処理条件として用いられている長時間処理の一例である。
上記のようにして得た各試験片について、ミクロ組織を調査した。
すなわち、各熱間加工後の試験片の中心軸を通り、縦断面が被検面になるように樹脂に埋め込み、鏡面研磨した後、ピクリン酸アルコール(ピクラル液)で腐食して、倍率を5000倍として走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10視野についてミクロ組織画像を撮影した。なお、各視野の面積は25μm×20μmである。
次に、上記の撮影画像を用いて、画像処理ソフトによって各セメンタイトの長径Lと短径Wとを個々に測定し、L/Wが2.0以下であるセメンタイトの割合、すなわち球状化率を算出した。
なお、球状化率については、一般に球状化処理条件として用いられている長時間処理を模擬した試験番号34の85%を判定基準とした。
表3に、上記の試験結果を示す。なお、表3の「評価」欄における「○」および「×」はそれぞれ、「球状化率が目標の85%に達していること」および「球状化率が目標の85%に未達であること」を意味する。
Figure 0005018305
表3から、本発明で規定する条件を満たす試験番号21〜26の場合には、図1の全在炉時間12時間の熱処理パターンで球状化処理を行っても、通常用いられている図2の全在炉時間24時間の長時間の熱処理パターンで球状化処理を施した試験番号34の場合よりも高い、すなわち85%を超える球状化率が得られており、球状化焼鈍時間の短縮効果が得られることが明らかである。
一方、本発明で規定する条件を満たさない試験番号27〜33の場合には、図1の処理時間短縮の熱処理パターンでは、図2の長時間の熱処理パターンで球状化処理を施した試験番号34の場合よりも球状化率が低く、球状化焼鈍の時間短縮ができないことが明らかである。
なお、図3に、球状化焼鈍の省略効果が得られた場合、すなわち表2の評価が「◎」であったもののミクロ組織の一例として、試験番号2におけるものを示す。また、図4および図5に、球状化焼鈍の省略効果も球状化焼鈍時間の短縮効果が得られなかった場合、すなわち表2の評価が「−」でかつ表3の評価が「×」であったものの球状化焼鈍前のミクロ組織の一例として、試験番号15および試験番号17におけるものを示す。
図3に示すように、表2の評価が「◎」の場合のミクロ組織は、板状セメンタイトが極めて少なく、球状セメンタイトが占める割合が多く、球状化されていることは明らかである。一方、図4および図5に示すように、表2の評価が「−」でかつ表3の評価が「×」の場合のミクロ組織は、球状セメンタイトがほとんど生成せず、板状セメンタイト、つまりパーライト組織を形成しており、球状化時間短縮に適するような好ましいミクロ組織が得られていないことが明らかである。
本発明によれば、従来、熱間鍛造後の軸受粗成形部品に対して、冷間加工性や切削加工性を高めるために施されていた20時間を超えるような長時間の球状化焼鈍を省略あるいはその球状化焼鈍の時間を短縮することができるので、エネルギー消費の少ない低コストかつ高い生産性の下に軸受部品、なかでも軌道輪のような部品を製造することができる。
実施例2の試験番号21〜33の試験片について、大気雰囲気の箱型電気加熱炉装置を用いて行った球状化処理条件を説明する図である。 実施例2の試験番号34の試験片について、大気雰囲気の箱型電気加熱炉装置を用いて行った球状化処理条件を説明する図で、一般に球状化処理条件として用いられている長時間処理の一例である。 実施例1の試験番号2の試験片について走査型電子顕微鏡で観察したミクロ組織を示す図である。 実施例1の試験番号15の試験片について走査型電子顕微鏡で観察したミクロ組織を示す図である。 実施例1の試験番号17の試験片について走査型電子顕微鏡で観察したミクロ組織を示す図である。

Claims (1)

  1. 複数回の鍛造加工による軸受粗成形品の製造方法であって、質量%で、C:0.7〜1.2%およびCr:0.8〜1.8%を含有する高炭素クロム軸受鋼鋼材を、600℃以上の加熱速度を10℃/s以上としてAe1点〜(Aem点+50℃)の温度域の温度T℃まで加熱し、次いで該温度T℃に到達後10min以内(10minを含む)に加工を開始し、(Ar1点+150℃)〜Ar1点の温度域において、加工間隔を2s以下として1加工あたり5%以上の変形量で複数回の鍛造加工を行って所定の粗成形品形状にした後、400℃までの温度域を5℃/s以下の冷却速度で冷却することを特徴とする軸受粗成形品の製造方法。
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