JP4998703B2 - 立向姿勢溶接装置の制御システム - Google Patents
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Description
このような立向姿勢溶接法としては、一対の鋼板同士を板幅方向に1パス施工で溶接完了するエレクトロガスアーク溶接法が知られている(特許文献1、非特許文献1参照)。
また、一般的な方法として、一対の鋼板同士をMAG溶接法やMIG溶接法により板幅方向で多パス溶接を行う多層盛溶接法も知られている。
このように鋼板が厚板化すると、上記エレクトロガスアーク溶接法では、もともと入熱が大きいうえにさらに大入熱となり、溶接部分の性能劣化が広範囲に生じ、当該溶接部分の靱性、即ち強度を十分に確保できないという問題がある。
しかしながら、このような大入熱溶接用の特殊な鋼材を使用することは大幅なコスト増に繋がり好ましいことではない。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、厚板鋼板であってもコスト増を抑え且つ小入熱化により強度維持を図りながら効率よく高品質な溶接を実現可能な立向姿勢溶接装置の制御システムを提供することにある。
また、請求項3の立向姿勢溶接装置の制御システムでは、請求項2において、前記制御手段は、前記溶接ワイヤの溶融量をVmとし前記溶接ワイヤの送給速度をVfとし前記溶接トーチの上昇速度をVtとし前記板厚方向に対する前記溶接ワイヤの角度をθとしてVm=Vf+α・Vt/sinθ(αは0.5〜1.0の定数)なる式に基づき加算補正し、前記板厚方向に前記アーク溶接機側の開口に向けて復動させる際には前記溶接トーチの下方への下降速度に応じて溶接ワイヤの送給速度を、前記溶接ワイヤの溶融量をVmとし前記溶接ワイヤの送給速度をVfとし前記溶接トーチの下降速度をVtとし前記板厚方向に対する前記溶接ワイヤの角度をθとしてVm=Vf−β・Vt/sinθ(βは0.5〜1.0の定数)なる式に基づき減算補正することを特徴とする。
また、請求項4の立向姿勢溶接装置の制御システムでは、請求項1乃至3のいずれかにおいて、前記制御手段は、前記溶接電流が一定となりアーク長さが一定となるよう溶接ワイヤの送給速度を可変させつつ溶接ワイヤの前記溶接トーチからの突き出し量を伸長または短縮させることを特徴とする。
また、請求項5の立向姿勢溶接装置の制御システムでは、請求項1乃至4のいずれかにおいて、前記I形開先の前記所定の狭開先ギャップが15mm以下であることを特徴とする。
また、請求項6の立向姿勢溶接装置の制御システムでは、請求項1乃至5のいずれかにおいて、前記一対の厚板鋼板は、それぞれ板厚が20mm以上の厚板であることを特徴とする。
請求項2、3の立向姿勢溶接装置の制御システムによれば、溶接ワイヤの先端を板厚方向に往動させる際には溶接トーチの上方への上昇速度に応じて溶接ワイヤの送給速度を加算補正し、板厚方向に復動させる際には溶接トーチの下方への下降速度に応じて溶接ワイヤの送給速度を減算補正するようにしたので、目標値に対する溶接電流の変動を適切に防止してアーク長のばらつきを抑えることができ、より効率よく安定した高品質の溶接を実現できる。
請求項4の立向姿勢溶接装置の制御システムによれば、溶接電流が一定となりアーク長さが一定となるよう溶接ワイヤの送給速度を可変させて溶接ワイヤの溶接トーチからの突き出し量を伸長または短縮させるようにしたので、アーク長を約一定に保持し、板厚方向の溶け込み分布、即ち溶接ワイヤの溶融量を一定にでき、より安定した高品質の溶接を実現することができる。
請求項5の立向姿勢溶接装置の制御システムによれば、厚板鋼板であってもI形開先の所定の狭開先ギャップを15mm以下と狭くできるので、十分な小入熱化を図ることができ、効率よく溶接を実現しつつ溶接部分の強度を十分に確保することができる。
請求項6の立向姿勢溶接装置の制御システムによれば、鋼構造物の大型化により厚板鋼板の板厚が特に20mm以上と厚い場合であっても、小入熱化を図り、効率よく溶接を実現しつつ溶接部分の強度を十分に確保することができる。
図1及び図2には、本発明に係る立向姿勢溶接装置の制御システムに適用される一対の厚板鋼板1、1とアーク溶接用の自動溶接ユニット(立向姿勢溶接装置)10とが、立向姿勢溶接の途中の状態で示されている。詳しくは、厚板鋼板1、1はこれら厚板鋼板1、1の端縁間に開先ギャップG(所定の狭開先ギャップ)を有してI形開先を形成するよう立向姿勢に端縁同士を突き合わせて設置されており、一方自動溶接ユニット10は溶接ワイヤ30を送出する溶接トーチ20を備えて構成されており、図1には、I形開先内に溶接ワイヤ30のみを挿入した状態の厚板鋼板1と自動溶接ユニット10とがI形開先内に形成された溶接金属の縦断面図として示され、図2には、図1の矢視A方向から視た一対の厚板鋼板1、1と自動溶接ユニット10とが上視図として示されている。
厚板鋼板1、1間に形成されるI形開先の開先ギャップGは、I形開先内に溶接ワイヤ30のみが挿入されることから、ここでは、溶接ワイヤ30の外径寸法(例えば、φ1.2mmまたはφ1.6mm)よりも若干幅広程度の小さな寸法(例えば、φ1.2mm:7〜10mm、φ1.6mm:8〜12mm)に設定される。
溶接トーチ20は溶接ワイヤ30のワイヤ送り装置を介して溶接ワイヤコイル(共に図示せず)に接続されており、これにより、溶接ワイヤ30を溶接トーチ20に送り、溶接ワイヤ30の先端を溶接トーチ20から常時突き出し可能である。
溶接トーチ20は、送出される溶接ワイヤ30が斜め上方からI形開先内に挿入されるよう、板厚方向(水平方向)に対し所定の挟角θ(例えば、10°〜45°)を有し、且つ、スライドユニット16を介して上下方向に揺動可能、即ち上下移動可能に構成されている。
走行ユニット14には、自動溶接ユニット10側に位置して当て板40が設けられており、当該当て板40内には溶接部分にシールドガス(炭酸ガス、MAGガス等)を供給するシールドガス通路42が形成されている。シールドガス通路42の入口部にはガスホース44が接続されており、これより、シールドガスが、ガスホース44を介してガス源(図示せず)からシールドガス通路42に供給され、シールドガス通路42の出口部から溶接部分に向け供給される。ここに、当て板40としては耐熱性部材(例えば、セラミック板)が採用される。
さらに、走行ユニット14上には、溶接制御装置(制御手段)18が設置されており、当該溶接制御装置18によりアーク溶接のための種々の制御、例えば通電制御、ワイヤ送り装置による溶接ワイヤ送り制御、シールドガス制御、溶接トーチ20のスライドユニット16上での上下移動制御、走行ユニット14のレール12上でのリフト制御等が行われる。
図3には、本発明に係る立向姿勢溶接装置の制御システムにおける溶接手順が(1)〜(6)まで時系列的に示されており、図4には、当該溶接手順の全体概念図がそれぞれ斜視図(a)と正面図(b)で示されており、以下、上記図1及び図2をも参照しながら、図3、図4に基づき本発明に係る立向姿勢溶接装置の制御システムの作用について説明する。
そして、I形開先の下端のうち自動溶接ユニット10側のI形開先の開口近傍において、予め溶接ワイヤ30の外径寸法に応じて設定した電流値(例えば、φ1.2mm:120〜350A、φ1.6mm:160〜500A)及び電圧値(例えば、φ1.2mm:25〜40V、φ1.6mm:27〜45V)の下、溶接制御装置18により通電制御を開始する。即ち、溶接ワイヤ30の先端から厚板鋼板1、1に向けてアーク放電を行い、アーク溶接を開始する(図3の(1)に対応)。これにより、溶接ワイヤ30及び一対の厚板鋼板1、1の各端縁の溶融が開始され、I形開先内において溶接金属の生成が開始される。
ここに、a、bは実験等に基づき任意に設定される定数である。
同式(1)によれば、溶接ワイヤ30の突き出し量Lを変化させないような通常の溶接では、溶接電流Iwの目標値を定めてアーク長のばらつきを抑えるようにすることにより、板厚方向の溶け込み分布、即ち溶接ワイヤ30の溶融量Vmを安定させ、高い溶接品質を実現することが可能である。具体的には、例えば溶接電流Iwを一定にしてアーク長を約一定に保持することで、板厚方向の溶け込み分布、即ち溶接ワイヤ30の溶融量Vmを一定にし、安定した高い溶接品質を実現することが可能である。
これより、上記の如く溶接ワイヤ30の突き出し量Lを変化させる場合であっても、安定した高い溶接品質を実現するためには溶接電流Iwを例えば一定にしてアーク長を約一定に保持するのがよいといえ、ここでは、上記式(1)と溶融量Vmと送給速度Vfとの関係に基づき、溶接電流Iwが一定となるように溶接ワイヤ30の溶融量Vmひいては溶接ワイヤ30の送給速度Vfを可変制御する。
しかしながら、このように突き出し量Lの伸長に応じて溶接ワイヤ30の送給速度Vfを増大させるようにしても、実際には溶接トーチ20はスライドユニット16上を定速で上方に移動するため、その上昇速度に対応する分だけ溶接ワイヤ30の送給速度Vfに不足が生じることになる。つまり、図5(a)には、溶接トーチ20をスライドユニット16上で定速Vtで上昇させつつ(+Vt)送給速度Vfで溶接ワイヤ30を送出したときの時間Tから微小時間ΔT後(T+ΔT)における溶接ワイヤ30の突き出し増加量ΔLと、溶接トーチ20の定速Vtでの上昇に伴い溶融池面との間で幾何学的に生じる突き出し量の偏差Δd(Δd=Δw/sinθ、Δw=Vt・ΔT)との関係が模式的に図示されているが、同図に示すように、突き出し増加量ΔLの一部が溶接に寄与しない偏差Δdに占められて不足し、安定した溶接に必要な突き出し増加量ΔLを確保できないという問題がある。
Vm=Vf+α・Vt/sinθ …(2)
ここに、αは実験等に基づき任意に設定される定数である(例えば、0.5〜1.0)。
溶接トーチ20の上下移動制御により、溶接ワイヤ30の先端が自動溶接ユニット10から離間する側のI形開先の開口近傍に達し、溶接金属の層が形成されたら(図3の(3)に対応)、今度は溶接トーチ20を下方に定速(例えば、5〜150cm/minの範囲)で移動させ、上記定電圧特性に基づくアーク長の自己復元機能に基づいて溶接トーチ20からの溶接ワイヤ30の突き出し量を短縮させつつ、溶接ワイヤ30の先端を徐々に自動溶接ユニット10側に移動(復動)させながら溶接を継続する(図3の(4)、(5)に対応)。この場合にも、上記同様、溶接ワイヤ30の送給速度については溶接電流が一定となるように可変制御する。
つまり、図5(b)には、溶接トーチ20をスライドユニット16上で定速で下降させつつ(−Vt)送給速度Vfで溶接ワイヤ30を送出したときの時間Tから微小時間ΔT後(T+ΔT)における溶接ワイヤ30の突き出し増加量ΔLと、溶接トーチ20の定速Vtでの下降に伴い溶融池面との間で幾何学的に生じる突き出し量の偏差Δd(Δd=Δw/sinθ、Δw=Vt・ΔT)との関係が模式的に図示されているが、溶接トーチ20を下降させる場合には、同図に示すように、突き出し増加量ΔLに加えて偏差Δdの部分が溶接に寄与し、溶接ワイヤ30の突き出し量が過剰となってしまう問題がある。
Vm=Vf−β・Vt/sinθ …(3)
ここに、βは実験等に基づき任意に設定される定数である(例えば、0.5〜1.0)。なお、βは上記式(2)のαと同値であってもよい。
なお、溶接ワイヤ30の先端がI形開先内を往復動する間は、生成される溶接金属の往復二層の厚み分だけ溶接トーチ20ともども走行ユニット14をレール12上で上方に移動させるようにする。詳しくは、溶接制御装置18により、走行ユニット14をレール12上で上方(図1中に矢印で示す)に積層厚さに応じた速度(例えば、溶接ワイヤ30の外径寸法により、φ1.2mm:2〜8m/min、φ1.6mm:2〜10cm/min)で連続的にリフト制御する。また、走行ユニット14を断続的にリフト制御するようにしてもよい。
ここで、図6を参照すると、上述の如く溶接ワイヤ30の送給速度を溶接トーチ20の上下移動に応じて補正しつつ可変制御した場合の溶接位置(図3の(1)〜(6))に応じた溶接ワイヤ30の送給速度Vfと溶接電流Iwと突き出し量Lとの関係がそれぞれ実線で示され、比較として補正を行わなかった場合の溶接ワイヤ30の送給速度が併せて破線で示されているが、溶接ワイヤ30の送給速度を溶接トーチ20の上下移動に応じて補正して可変制御することにより、溶接ワイヤ30の突き出し量の変化に依らず溶接電流の変動を好適に防止してアーク長を約一定に保持することができ、安定した高い溶接品質を実現することが可能である。
例えば、上記実施形態では、溶接電流Iwの目標値を一定にしてアーク長を約一定に保持するようにしたが、これに限られるものではなく、安定した高い溶接品質を実現可能であれば、状況に応じ、溶接電流Iwの目標値は任意に可変設定可能である。
10 自動溶接ユニット(立向姿勢溶接装置)
16 スライドユニット
12 レール
14 走行ユニット
18 溶接制御装置(制御手段)
20 溶接トーチ
30 溶接ワイヤ
40 当て板
42 シールドガス通路
Claims (6)
- 定電圧特性を有するアーク溶接機を用いてアーク溶接を施す立向姿勢溶接装置の制御システムであって、
前記アーク溶接機は、一対の厚板鋼板を互いに立向姿勢としてこれら一対の厚板鋼板の端縁間に所定の狭開先ギャップを有して形成されたI形開先内に、溶接ワイヤが送出される溶接トーチから突き出した溶接ワイヤのみを前記厚板鋼板の板厚方向に対し斜め上方から挿入するものであり、
前記溶接トーチを前記厚板鋼板に沿い上下方向に揺動させ、溶接電流が目標値となるよう溶接ワイヤの送給速度を可変させつつ溶接ワイヤの前記溶接トーチからの突き出し量を伸縮させて該溶接ワイヤの先端を前記板厚方向に往復動させることにより前記I形開先内に前記溶接金属を積層させる制御手段を備え、
前記制御手段は、前記溶接ワイヤの先端を前記板厚方向に往復動させる際、前記溶接トーチの揺動方向に応じて溶接ワイヤの送給速度を加減算補正することを特徴とする立向姿勢溶接装置の制御システム。 - 前記制御手段は、前記板厚方向に前記溶接ワイヤの先端を前記アーク溶接機から離間する側の開口に向けて往動させる際には前記溶接トーチの上方への上昇速度に応じて溶接ワイヤの送給速度を加算補正し、前記板厚方向に前記アーク溶接機側の開口に向けて復動させる際には前記溶接トーチの下方への下降速度に応じて溶接ワイヤの送給速度を減算補正することを特徴とする、請求項1記載の立向姿勢溶接装置の制御システム。
- 前記制御手段は、前記溶接ワイヤの溶融量をVmとし前記溶接ワイヤの送給速度をVfとし前記溶接トーチの上昇速度をVtとし前記板厚方向に対する前記溶接ワイヤの角度をθとしてVm=Vf+α・Vt/sinθ(αは0.5〜1.0の定数)なる式に基づき加算補正し、前記板厚方向に前記アーク溶接機側の開口に向けて復動させる際には前記溶接トーチの下方への下降速度に応じて溶接ワイヤの送給速度を、前記溶接ワイヤの溶融量をVmとし前記溶接ワイヤの送給速度をVfとし前記溶接トーチの下降速度をVtとし前記板厚方向に対する前記溶接ワイヤの角度をθとしてVm=Vf−β・Vt/sinθ(βは0.5〜1.0の定数)なる式に基づき減算補正することを特徴とする、請求項2記載の立向姿勢溶接装置の制御システム。
- 前記制御手段は、前記溶接電流が一定となりアーク長さが一定となるよう溶接ワイヤの送給速度を可変させつつ溶接ワイヤの前記溶接トーチからの突き出し量を伸長または短縮させることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか記載の立向姿勢溶接装置の制御システム。
- 前記I形開先の前記所定の狭開先ギャップが15mm以下であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか記載の立向姿勢溶接装置の制御システム。
- 前記一対の厚板鋼板は、それぞれ板厚が20mm以上の厚板であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか記載の立向姿勢溶接装置の制御システム。
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