以下に添付図面を参照して、本発明にかかる半導体装置および化合物半導体基板とその製造方法の最良な実施の形態を詳細に説明する。なお、これらの実施の形態により本発明が限定されるものではなく、種々工夫して用いることが可能である。また、以下の実施の形態で用いられる化合物半導体基板と半導体装置の断面図は模式的なものであり、層の厚みと幅との関係や各層の厚みの比率などは現実のものとは異なる。さらに、この明細書における化合物半導体基板とは、基板と積層領域との格子不整が大きかったり、不混和領域の組成の材料であったりする熱力学的には不安定な材料であるメタステーブル材料系からなる活性層を含む化合物半導体層が複数積層された構造が基板上に形成されたものであればよく、基板としては、化合物半導体基板でもよいし、サファイアなどの化合物半導体基板以外の基板でもよい。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態にかかる化合物半導体基板の構成の一例を模式的に示す断面図である。この化合物半導体基板は、N型のGaAs基板11上に、N型のAlGaAs層からなる下部クラッド層12、N型のGaAs層からなる下部光ガイド層13、GaAs基板11と格子整合しないGaInAs層からなる発光層14の上下がGaAs層からなる障壁層15で挟まれた構造を有する活性層16、P型のGaAs層からなる上部光ガイド層17、P型のAlGaAs層からなる上部クラッド層21、P型のGaAs層からなるコンタクト層22が積層された構成を有する。ここで、最上層の発光層14と上部クラッド層21との間の非発光領域20(ここでは、上部光ガイド層17に対応する)内には、接合面18aが形成され、接合面18a間に形成されたInAsの量子ドット(以下、InAsドットという)19によって両者が接合された接合層18が形成されることを特徴とする。この図1の例では、メタステーブル材料系を含む活性層16上に形成された格子欠陥が発生しない程度の厚さの第1の上部光ガイド層17−1と、図示しない別の基板上に形成された第2の上部光ガイド層17−2とが、そのいずれかまたはそれぞれの上面に形成されたInAsドット19をバンプとして、面方位を合わせて接合された構成を有する。ここで、InAsドット19は、特許請求の範囲におけるドット状突起物に対応している。
なお、接合面18aは、活性層16中の最上層の発光層14の上面から上部クラッド層21の下面までの間の発光層14よりもバンドギャップの大きな層からなる非発光領域20に形成されていればよい。
この図1の例では、活性層上の第1の光ガイド層と第2の光ガイド層との間に形成されたInAsドットが、貼り合わせ時に押し付けられて拡散するが、特にInがGaAs膜内を非常によく拡散し、InAsドットを挟んだ全体の歪が緩和される。つまり、活性層16の形成後、第1の上部光ガイド層17−1上にInAsドット19を介して形成されたコンタクト層22および上部クラッド層21、第2の上部光ガイド層17−2からの歪がInAsドットによって緩和されて、接合層18の下側の活性層16に与える影響が抑制される。
図2は、このような化合物半導体基板を用いて製造した半導体装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。この図2の例では、端面発光型の半導体レーザの場合を例示している。この半導体装置は、図1の化合物半導体基板のコンタクト層22と上部クラッド層21の面内中央付近に、それらの幅が狭められた電流狭窄領域を有する構造となっている。つまり、上部クラッド層21の面内中央付近が凸状の構造となっている。この凸状の電流狭窄領域が形成された上部クラッド層21とコンタクト層22の側面および上部クラッド層21の上面にはSiO2膜からなるパッシベーション膜24が形成され、このパッシベーション膜24上に、コンタクト層22の表面と同じ高さとなるようにポリマ埋め込み層25が形成される。コンタクト層22側の上面の全面にはP型電極26が形成され、GaAs基板11の下面の全面にはN型電極23が形成される。そして、劈開により基板面に垂直な方向の端面を形成して共振器構造を有する半導体レーザとして動作可能な半導体装置が得られる。
このような構造の半導体装置において、P型電極26とN型電極23との間に電流を流すと、電流狭窄領域を介して活性層16に注入されたキャリアによって、活性層16で発光する。この活性層16で発光された光は、両端面間での共振によって増幅され、レーザ光として端面から出射される。
つぎに、このような化合物半導体基板および半導体装置の製造方法について説明する。図3−1〜図3−4は、本発明にかかる化合物半導体基板の製造方法の一例を模式的に示す断面図である。まず、N型の第1のGaAs基板11上にMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法により下部クラッド層12(N型のAlGaAs層)、下部光ガイド層13(N型のGaAs層)を形成する。このとき、下部クラッド層12を構成するAlGaAs層は、650〜800℃の高温で形成される。ついで、成長温度をたとえば500〜650℃に下げて、発光層14(GaInAs層)の上下を障壁層15(GaAs層)で挟むように活性層16を形成する。なお、最下層の発光層14の下側と、最上層の発光層14の上側には、障壁層15が形成されるが、この例では、その部分に障壁層15と同一の材料からなる下部光ガイド層13と上部光ガイド層17がそれぞれ形成されるので、それらの位置には障壁層15は形成されない。その後、活性層16を形成した温度と同じかそれよりも低い温度で、第1の上部光ガイド層17−1(GaAs層)とInAsドット19を順次形成する(図3−1)。InAsドット19は、歪量が大きくて連続した膜になれずに盛り上がってしまう特徴を利用して形成するものである。このInAsドット19は、発光層14の厚さよりも厚く、発光層14での発光強度の最も高い光の波長の1/4よりも基板面に対する垂直方向への高さの低い突状体構造であればよく、たとえば高さが1〜10nmで、直径が10〜40nmの範囲であることが望ましいが、もっと小さくても可能である。
一方、P型の第2のGaAs基板27上に、後の工程で第2のGaAs基板27をエッチングして除去するためのGaAs層からなるダミー層28、後の工程で第2のGaAs基板27をエッチングする際にエッチングストップとして機能するAlGaAs層からなるエッチングストップ層29、P型のGaAs層からなるコンタクト層22、P型のAlGaAs層からなる上部クラッド層21、およびP型のGaAs層からなる第2の上部光ガイド層17−2を順にMOCVD法によって形成する(図3−2)。ここで、上部クラッド層21を構成するP型のAlGaAs層は、メタステーブル材料系を有する活性層16が形成された第1のGaAs基板11とは別の第2のGaAs基板27上に形成されるので、高品質な結晶が得られる活性層16の形成温度よりも高温で形成することができる。また、ダミー層28とエッチングストップ層29は必要に応じて省略可能である。
ついで、第1のGaAs基板11上のInAsドット19と第2のGaAs基板27の第2の上部光ガイド層17−2とを向かい合わせ、それぞれの基板上の第1の上部光ガイド層17−1の面方位と第2の上部光ガイド層17−2の面方位とを一致させて、両者を接触させる。その後、両基板間に基板面に垂直な方向に、たとえば錘41などで加重を加えるように、圧縮応力を加えた状態で、第2のGaAs基板27上の上部クラッド層21の形成温度よりも低温で、またはその形成時間よりも短時間でアニールして、第1のGaAs基板11と第2のGaAs基板27とを接合する(図3−3)。
ついで、エッチングにより第2のGaAs基板27側から、第2のGaAs基板27とダミー層28を除去し、さらにエッチングストップ層29の一部を除去する(図3−4)。引き続いて、エッチングストップ層29を選択エッチングにより除去して、コンタクト層22を表面に露出させることで、図1に示される化合物半導体基板が得られる。
なお、上記の工程において、特に上部および下部クラッド層12,21を構成するAlGaAs層の形成に関して、不純物の低減には活性な水素を供給することが望ましいことから、V族であるAsの原料(AsH3:アルシン)の供給量を、III族であるGaの原料(たとえば、トリメチルガリウム、以下、TMGという)よりもできるだけ多く供給することが望ましい。また、このような条件で高品質な結晶を成長するという観点からGaAsのコングルーエント温度である550℃以上で成長すると、供給されたAs原料が基板に堆積しても再蒸発してしまうので、As原料の供給を多くすることができるので望ましく、さらに、金属Alの融点である625℃を上回る温度で成長すると、AlAsなどの析出物の混入を防ぐ点からより望ましい。一方、発光層14を構成するメタステーブル材料系である高歪のGaInAs層に関しては、結晶表面での原子の過剰な動きを抑制するために、過剰なV族原料ガスの供給を抑制できるコングルーエント温度の550℃以下で実施することが望ましい。
つぎに、このような化合物半導体基板を用いた半導体装置の製造方法について説明する。図4−1〜図4−3は、本発明にかかる半導体装置の製造方法の一例を模式的に示す断面図である。まず、図1に示される化合物半導体基板のコンタクト層22上にSiO2膜を形成し、通常のリソグラフィ法により電流狭窄領域のみにSiO2膜が残るように、SiO2膜のストライプのマスク30を形成する(図4−1)。
ついで、このストライプのマスク30を用いて、コンタクト層22と上部クラッド層21の一部をエッチングしてメサ構造を形成する(図4−2)。その後、SiO2膜を堆積してパッシベーション膜24を形成し、図4−2の工程で除去された段差部分にポリマを埋め込みんでポリマ埋め込み層25を形成する(図4−3)。ついで、通常のリソグラフィ法によってメサ構造上を覆っている所定の位置のSiO2膜(24,30)を除去して下層のコンタクト層22を露出させる。その後、露出されたコンタクト層22の上面にコンタクトメタル層を蒸着してP型電極26を形成する。また、第1のGaAs基板11を、エッチングや研磨によって薄膜化(所定の厚さに)した後に、第1のGaAs基板11の下面にN型電極23を蒸着する。最後に、基板面に垂直な所定の方向に劈開して、素子の共振器構造を形成することで図2に示されるような半導体装置が得られる。
このような方法で化合物半導体基板を形成すると、メタステーブルな状態の高歪のGaInAs層(発光層14)を形成した後には、その層上に高温で成長させる必要がある他の半導体層を厚く形成することがないので、第1のGaAs基板11を長時間高温の環境にさらすことがない。このため、発光層14を構成するGaInAs層の歪量が障壁層15(第1の上部光ガイド層17−1)を構成するGaAs層に対して熱平衡的には臨界歪量を越えていても、温度を上げることにより生じる転位の成長を抑制することができる。一方、第1のGaAs基板11上の下部クラッド層12と第2のGaAs基板27上の上部クラッド層21を構成するAlGaAs層も、メタステーブルな状態のGaInAs層(発光層14)を有する第1のGaAs基板11に対する格子不整の問題を考えずに最適な温度での成長が可能となる。このため、きわめて高品質な結晶の成長が可能となる。その結果、高品質なAlGaAs層の間に(下部クラッド層12と上部クラッド層21との間に)転位密度の低い高品質なGaInAs結晶(発光層14)が形成されたヘテロ接合構造を有する化合物半導体基板の形成が可能となる。
またこのような化合物半導体基板を用いることで、高品質な半導体レーザなどの半導体装置の実現が可能となる。たとえば、本第1の実施の形態の上述した半導体レーザにおいては、結晶中への転位の導入が抑制されるので、しきい値電流密度を低減することができるとともに、最大光出力の増大、温度依存性の抑制、素子寿命の向上を可能とする。
上述したように、InAsドット19を第1の上部光ガイド層17−1(GaAs層)上に形成するとInAsドット19の下部および周辺部分でGaAs層との相互拡散が起こるために、InAsドット19の中心軸付近でIn組成が高く、外周部分ではGaAs組成が高い構造の接合層18が形成される。このため、InAsドット19は自然にGaAs層で埋め込んだ電流狭窄構造となる。またInAsドット19の上下から第1と第2のGaAs基板11,27のそれぞれに形成された第1と第2の上部光ガイド層17−1,17−2間を接合した場合には、InAsドット19の中央先端のIn組成の高い領域が第2の上部光ガイド層17−2のGaAs層と接触されて圧迫されるので、InがGaAs層(第2の上部光ガイド層17−2)中に拡散を起こし易い状態となる。このため通常よりも活発に上下の基板の原子の相互拡散が起こり、良質な接合が可能となる。
なお、上述した製造工程における図3−2では、第2のGaAs基板27上の上面は第2の上部光ガイド層17−2を構成するGaAs層であったが、第1のGaAs基板11の場合と同様に第2の上部光ガイド層17−2の表面上にInAsドットを形成してもよい。この場合には、第1と第2のGaAs基板11,27の両側から相互にInAsドット19が接着剤として働くのでより接着効果を高くすることができる。また、InAsドット19を、第2のGaAs基板27の第2の上部光ガイド層17−2の表面にのみ形成してもよい。
図5は、本発明にかかる化合物半導体基板を用いた半導体装置の構造の他の例を示す断面図である。この図5に示される半導体装置は、図1において、接合層18と活性層16の最も上部の発光層14との間の第1の上部光ガイド層17−1にキャリアの蓄積を行うAlGaAs層からなるキャリア蓄積層31を導入した構造を有する。このような構造によれば、接合面での欠陥の影響を抑制し、接合面と離れた領域でキャリアの蓄積を行うことができるので、半導体装置の特性を向上させることが可能となる。なお、図1と同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略している。なお、このようなキャリア蓄積層31は、メタステーブル材料系を含む活性層16が形成された後、第1の上部光ガイド層17−1上に500〜650℃の温度で形成される。
また、図1と図2では活性層16の内部の発光領域と接合面18a(接合層18)の間にはGaAs層(第1の上部光ガイド層17−1)のみが形成されていたが、接合層18の上下両側に不純物を添加して導電性を高めることによって、接合領域でのキャリア濃度を高め、欠陥の影響を低減することもできる。また、InAsドット形成時にドット内部に不純物添加を行うことも有効である。
図6は、本発明にかかる化合物半導体基板を用いた半導体装置の構造の他の例を示す断面図である。上述した例では、第1のGaAs基板11上に発光層14を含む活性層16が形成されており、接合層18は活性層16の上部に形成されていたが、図6に示されるように、図示しない第2のGaAs基板側に発光層14を有する活性層16を形成してもよい。つまり、接合層18を、活性層16の最下層の発光層14と下部クラッド層12との間の、発光層14よりもバンドギャップの大きい半導体層によって構成される非発光領域20(この図6の例では、第1と第2の下部光ガイド層13−1,13−2間)中に形成してもよい。なお、図1と同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略している。
上述した説明では、メタステーブル材料系からなる活性層16として、GaInAs層からなる発光層14の上下をGaAs層からなる障壁層15で挟んだ構造のものを例に挙げて説明したが、これに限られるものではなく、メタステーブル材料系を有する活性層16に対して広く本第1の実施の形態を適用することができる。
たとえば、図1に示される化合物半導体基板や図2に示される半導体装置において、発光層14としてGaInNAs層を用いてもよい。GaInNAsはGaInAsよりも不混和性が高いために、GaInNAs層形成後に650℃程度またはそれ以上の温度で長時間処理すると発光波長が短波長にシフトするとともに、組成が不均一になってしまう。そのため、GaInNAs層形成後の高温での熱処理は、半導体装置としての特性を急激に劣化させる原因となる。
しかし、上述した方法で化合物半導体基板と半導体装置を製造することで、メタステーブルなGaInNAs層を高温にさらすことが不要となる。その結果、GaInNAs層の均一性を維持できるようになるので、半導体装置としての特性を大幅に向上することができる。
また、図1に示される化合物半導体基板や図2に示される半導体装置において、発光層14としてInAsドット結晶を用いてもよい。InAsドットは局所的な歪量が大きいために、InAsドットの形成後に560℃程度またはそれ以上の温度で長時間処理すると発光波長が短波長にシフトするとともに、構造が不均一になってしまう。そのため、InAsドット形成後の高温での熱処理は、半導体装置としての特性を急激に劣化させる原因となる。
しかし、上述した方法で化合物半導体基板と半導体装置を製造することで、メタステーブルなInAsドット層を高温にさらすことが不要となる。その結果、InAsドット層の均一性を維持できるようになるので、半導体装置としての特性を大幅に向上することができる。
この第1の実施の形態によれば、第1の基板上にメタステーブル材料系を形成した後、メタステーブル材料系上に形成すべき材料のうち、メタステーブル材料系を高温環境下に置く材料やメタステーブル材料系に歪を過剰に与える材料を、他の第2の基板上に形成し、両者を量子ドット(ドット状突起物)によって面方位を合わせた後に接合するようにしたので、メタステーブル材料系が高温環境下にさらされてスピノーダル分解を起こしたり、メタステーブル材料系に過剰な歪が加えられることによって、塑性変形による歪緩和を起こしたりして、結晶性の低下を招くことを防ぐという効果を有する。また、低融点の量子ドットをバンプとして用いることで、メタステーブル材料系の形成温度付近の温度で量子ドットを構成する材料が他の基板中によく拡散して、2つの基板を接合することができ、メタステーブル材料系のスピノーダル分解や歪緩和の発生を抑えることができる。
(第2の実施の形態)
図7は、本発明の第2の実施の形態にかかる化合物半導体基板の構成の一例を模式的に示す断面図である。この化合物半導体基板は、N型のGaAs基板51上に、下部半導体多層膜反射鏡層52、下部クラッド層53、下部光ガイド層54、発光層56とこの発光層56の上下を挟むように設けられる障壁層55からなる活性層57、上部光ガイド層58、上部クラッド層61、AlGaAs層62、上部半導体多層膜反射鏡層63、コンタクト層64が順に積層された構成を有する。ここで、活性層57の上側に形成される上部光ガイド層58内には、InAsなどの量子ドット59を介した接合層60が形成される。つまり、メタステーブル材料系を含む活性層57上に形成された格子欠陥が発生しない程度の厚さの第1の上部光ガイド層58−1と、第2の上部光ガイド層58−2とが、いずれかまたはそれぞれの上面に形成された量子ドット59をバンプとして、面方位を合わせて接合された構成を有する。ここで、量子ドット59は、特許請求の範囲におけるドット状突起物に対応する。
なお、この第2の実施の形態でも、接合層60は、活性層57中の最上層の発光層56の上面から上部クラッド層61の下面までの間の発光層14よりもバンドギャップの大きな層からなる非発光領域20’に形成されていればよい。
図8は、このような化合物半導体基板を用いて製造した半導体装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。この図8の例では、面発光型の半導体レーザの場合を例示している。この半導体装置は、図7の化合物半導体基板のコンタクト層64から下部クラッド層53までと下部半導体多層膜反射鏡層52の一部が除去され、所定の平面形状を有するメサ型の構造を有している。メサ型に形成されたAlGaAs層62の面内中央付近の領域に電流狭窄領域62sが設けられ、この電流狭窄領域62sの外周部分に酸化アルミニウム層62xが設けられた電流狭窄構造が形成される。ここで、下部半導体多層膜反射鏡層52と上部半導体多層膜反射鏡層63によって基板面に対して垂直方向に光共振器が形成されている。
コンタクト層64の電流狭窄領域62sに対応する領域には、コンタクト層64が除去され、上部半導体多層膜反射鏡層63が露出したコンタクト層開口部64aが設けられる。コンタクト層64およびコンタクト層開口部64aはパッシベーション膜65により覆われており、パッシベーション膜65内には、電流狭窄領域62sの周囲を囲むようにコンタクト層64が露出した開口65aが設けられ、この開口65aを埋め込むようにたとえば金属からなる上面側電極66が設けられる。これによって、上面側電極66とコンタクト層64とが電気的に接続される。上面側電極66によって囲まれる領域を、ここでは電極開口部66aという。また、第1のGaAs基板51の下面側には基板側電極67が設けられている。
このように構成された面発光型半導体素子において、上面側電極66と基板側電極67との間に電流を流すと、活性層57に近接して配置された電流狭窄領域62sを介して、活性層57にキャリアが注入される。注入されたキャリアによって活性層57で発光された光は、下部半導体多層膜反射鏡層52と上部半導体多層膜反射鏡層63からなる光共振器によって共振され、コンタクト層開口部64aと電極開口部66aが重なる領域からレーザ光が外部に放射される。
ここで、図7に示される化合物半導体基板と図8に示される半導体装置の製造方法について説明する。化合物半導体基板は、第1の実施の形態の場合と同様に製造される。すなわち、第1のGaAs基板51上にMOCVD法などにより下部半導体多層膜反射鏡層52、下部クラッド層53、下部光ガイド層54、活性層57、第1の上部光ガイド層58−1を形成し、さらに第1の上部光ガイド層58−1の上面にInAsなどの量子ドット59を形成する。一方、図示しない第2のGaAs基板上にも、MOCVD法などによって、AlGaAs層からなる図示しないダミー層、コンタクト層64、上部半導体多層膜反射鏡層63、AlGaAs層62、上部クラッド層61、第2の上部光ガイド層58−2を形成する。ついで、上部半導体多層膜反射鏡層63の一部を構成するAlGaAs層62の外周部分を酸化して、酸化アルミニウム層62xを形成する。これにより、AlGaAs層62の面内中央付近には、酸化されていない電流狭窄領域62sが形成される。ついで、2つの基板上の第1の上部光ガイド層58−1と上部光ガイド層58−2とを、量子ドット59を介して対向させ、両者の面方位を合わせて上下から加圧し、加熱して接合する。そして、第2のGaAs基板とAlGaAs層(ダミー層)を除去してコンタクト層64を露出させることで図7に示される化合物半導体基板が得られる。
図9−1〜図9−4は、半導体装置の製造方法の一例を模式的に示す断面図である。上記のようにして製造された図7に示される化合物半導体基板の上面にSiO2膜71を堆積して、フォトリソグラフィとエッチングを用いて、コンタクト層開口部64aを形成する位置のSiO2膜を除去する。そして、このSiO2膜71をマスクとして、コンタクト層64をエッチングして、その中央部分にコンタクト層開口部64aを形成して、上部半導体多層膜反射鏡層63を露出させる(図9−1)。ついで、再度SiO2膜(図示せず)を堆積し、フォトリソグラフィとエッチングを用いて、コンタクト層開口部64aの形成領域を含む所定の領域を残すように、コンタクト層64から下部クラッド層53までと下部半導体多層膜反射鏡層52の一部を除去して、所定の平面形状を有するメサ構造を形成する(図9−2)。その後、メサ構造中のAlGaAs層62を外周から酸化して、AlGaAs層62の外周部内のAlを酸化させた酸化アルミニウム層62xを形成する。このとき、コンタクト層開口部64aとほぼ対応するAlGaAs層62の中央部分の領域が酸化されないような条件で、AlGaAs層62の外周部分を酸化させる。これによって、AlGaAs層62の中央部分には、電流狭窄領域62sが形成される(図9−3)。
ついで、メサ構造を形成した化合物半導体基板上にパッシベーション膜65を形成した後に、フォトリソグラフィとエッチングを用いて、コンタクト層開口部64aより外側の領域の電極を形成する位置に対応する部分でコンタクト層64を露出させ、コンタクト層開口部64a内の電流狭窄領域62sに対応する部分で上部半導体多層膜反射鏡層63を露出させるようにパッシベーション膜65の一部を除去する。その後、レジストを用いたリフトオフ法を用いて、開口65aでコンタクト層64と接触し、電極開口部66aが開口した状態の上面側電極66を形成する(図9−4)。そして第1のGaAs基板51を適切な厚さまで薄くした後に、第1のGaAs基板51の下面に基板側電極67を形成することによって、図8に示される半導体装置が得られる。
従来は、高歪な活性層57を低温で形成すると活性層57の表面に凹凸が生じてしまい、その上に成長させる結晶が不均一な歪を受けるために、活性層57の近傍での平坦な結晶成長が難しいという問題があった。しかし、本第2の実施の形態では、AlGaAs層とGaAs層が積層してなる高反射率層の半導体多層膜反射鏡層52,63をそれぞれ別の基板(GaAs基板)上に直接形成することができるので、半導体多層膜反射鏡層52,63に凹凸が形成されることがない。また、そのいずれかのGaAs基板上に活性層57を形成した後、両者を量子ドット59で接合するようにしたので、上記した問題点を回避して、高品質の化合物半導体基板とこの化合物半導体基板を用いた半導体装置を得ることができる。
また、上部および下部半導体多層膜反射鏡層52,63の形成時において高温での結晶成長が可能である。そのため、上部および下部半導体多層膜反射鏡層52,63中の低屈折率層に用いるAl組成の高いAlGaAs層の形成時において、温度が上がるほどAlの酸素の取り込み効率が低下するので、結晶中に酸素と結合するAlが減る。また、高温での結晶成長では、原料ガスに含まれるメチル基のCがP型のドーパントとしてAsのサイトを置き換えることを防ぐ。その結果、高純度のAl組成の高いAlGaAs層の結晶成長が可能であり、キャリア濃度の制御を容易に行うことができる。以上により、上部および下部半導体多層膜反射鏡層52,63での光の吸収の発生または反射率の低下が起こり難くなり、素子の特性を向上することができる。
この第2の実施の形態によれば、面発光型半導体素子のように発光層を挟んだ上下方向に半導体多層膜反射鏡層が形成されるような構造の化合物半導体基板や半導体装置も、高品質で製造することができるという効果を有する。
(第3の実施の形態)
図10は、本発明の第3の実施の形態にかかる化合物半導体基板の構成の一例を模式的に示す断面図である。この化合物半導体基板は、サファイア基板101上に、低温GaN層102、高温GaN層103、N型のGaInNからなるN型コンタクト層104、N型のGaN層105、N型のAlGaN層からなる下部クラッド層106、N型のGaN層からなる下部光ガイド層107、GaInN層からなる発光層108の上下をGaN層からなる障壁層109で挟んだ活性層(量子井戸層)110、GaN層からなる第1の上部光ガイド層111、AlGaN層からなるホールブロック層(キャリアブロック層)112、P型のGaN層からなる第2の上部光ガイド層113、InNの量子ドット(以下、InNドットという)114からなる接合層115、P型のGaN層からなる第3の上部光ガイド層116、P型のAlGaN層からなる上部クラッド層117、P型のGaN層からなるP型コンタクト層118が順に積層された構造を有する。InNドット114は、特許請求の範囲におけるドット状突起物に対応する。
ここで、接合層115は、活性層110を構成する最上層の発光層108の上面と上部クラッド層117の下面との間の発光層108よりもバンドギャップの大きい半導体層からなる非発光領域130内に形成されることを特徴とする。この図10の例では、メタステーブルな活性層110を有する第1のサファイア基板101上に形成された第2の上部光ガイド層113と、図示しない第2のサファイア基板に形成された第3の上部光ガイド層116とが、いずれかまたはそれぞれの上面に形成されたInNドット114をバンプとして、面方位を合わせて接合されて接合層115が形成される。
図11は、このような化合物半導体基板を用いて製造した半導体装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。この図11の例では、端面発光型の半導体レーザの場合を例示している。この半導体装置は、図10の化合物半導体基板の所定の位置のP型コンタクト層118からN型のGaN層105までを除去したリッジ状構造を有している。このリッジ状構造によって、電流狭窄構造が形成されている。リッジ状構造が形成された化合物半導体基板上の全面および側面には、SiO2膜からなるパッシベーション膜119が形成される。このパッシベーション膜119のP型コンタクト層118上の所定の位置には、P型コンタクト層118が露出するように開口が設けられ、パッシベーション膜119のN型コンタクト層104上の所定の位置には、N型コンタクト層104が露出するように開口が設けられる。そして、それぞれの開口には、P型コンタクト層118とN型コンタクト層104に接触するようにそれぞれP型電極120とN型電極121が形成される。これにより、端面を用いた共振器構造を有するレーザ発振可能な半導体装置が得られる。
このような半導体基板についての製造方法についても、上述した第1と第2の実施の形態と基本的に同じである。つまり、第1のサファイア基板101上に、低温GaN層102、高温GaN層103、N型コンタクト層104、N型のGaN層105、下部クラッド層106、下部光ガイド層107、GaInN層とGaN層による活性層110を順に形成し、この活性層110のメタステーブルな状態を壊さない条件でその上面に、第1の上部光ガイド層111、ホールブロック層112、第2の上部光ガイド層113を形成し、さらにその上にInNドット114を形成する。一方、図示しない第2のサファイア基板上には、低温GaNバッファ層、高温GaNバッファ層、P型コンタクト層118、P型の上部クラッド層117、第3の上部光ガイド層116を順に形成する。そして、第1のサファイア基板101上の第2の上部光ガイド層113と第2のサファイア基板の第3の上部光ガイド層116とを結晶方位を合わせて対向させて、InNドット114をバンプとして貼り合わせる。その後、両基板間に圧力をかけて、メタステーブル材料系の状態を壊さない条件の温度で熱処理して、両基板間を接合し、図10に示される化合物半導体基板が得られる。また、このような化合物半導体基板を用いた半導体装置の製造方法についても、第1と第2の実施の形態で説明した工程と基本的に同様な処理が行われるため、その詳細な説明は省略する。
GaInN系の材料はGaInAs系の材料よりも不混和性が高く、GaInN層の結晶成長中に容易に相分離を起こしてしまうために、低温での成長が不可欠である。そこで、本第3の実施の形態では、第1のサファイア基板101上に発光層108であるGaInN層を成長させた後には、このGaInN層の上面に薄くかつプロセス温度がGaInN層と同程度の層のみを成長させ、GaInN層上に配置されるべき厚い結晶(層)の成長は第2のサファイア基板で行うようにしている。これにより、結晶性の高いGaInN層を有する化合物半導体基板を得ることが可能となる。
また、第1と第2の実施の形態で示したAlGaAsとGaAsの系と異なり、GaNとAlGaNとの格子不整が大きく、GaNまたはAlGaNと最適な成長温度の差が大きい。そのため、GaN層上に高Al組成のAlGaN層を成長することが難しい。しかし、この第3の実施の形態では、各基板上には片側のクラッド層(AlGaN層)106,117のみを成長するようにしているので、従来の製造方法の場合と比べて同じ格子不整であれば蓄積されるエネルギを半分とすることができる。その結果、クラッド層を構成するAlGaN層のAl組成を高くすることができ(屈折率を小さくすることができ)、活性層への光の閉じ込めを大きくとることができるので、レーザ素子において低閾値化をはかることができるという効果を有する。また、クラッド層106,117での吸収係数を低減できるので、LED(Light-Emitting Diode)を作製した場合の光の取り出し効率を高くとることができる。
この第3の実施の形態によれば、格子不整の大きな材料系を上下に積層した構造を有する化合物半導体基板でも容易に得ることができるという効果を有する。
(第4の実施の形態)
図12は、本発明の第4の実施の形態にかかる化合物半導体基板の構成の一例を模式的に示す断面図である。この化合物半導体基板は、第1の実施の形態の図1において、第1の上部光ガイド層17−1と活性層16と下部光ガイド層13の一部が、基板面に垂直な方向に形成された溝42によって分離されていることを特徴とする。なお、その他の構成は第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
このような化合物半導体基板は、第1のGaAs基板11上に下部クラッド層12、下部光ガイド層13、活性層16および第1の上部光ガイド層17−1を形成したのち、たとえばエッチングによって、所定の位置の第1の上部光ガイド層17−1と活性層16と下部光ガイド層13の一部を除去して溝42を形成する。ついで、第1の上部光ガイド層17−1上にInAsドット19を形成する。その後は、第1の実施の形態で説明した手順で、第1の基板と第2の基板を貼り合わせ、所定の処理を行って化合物半導体基板を得る。
なお、ここでは、第1の実施の形態の場合で活性層と第1の上部光ガイド層に基板面に垂直な溝42を形成する場合を示したが、第2と第3の実施の形態に対しても同様に活性層とその上部の光ガイド層に基板面に垂直な溝を形成することができる。また、溝の形成位置や溝の深さは任意である。
この第4の実施の形態によれば、第1の上部光ガイド層17−1と活性層16と下部光ガイド層13の一部に基板面に垂直な方向に形成された溝を設けることで、第1と第2の基板を貼り合わせる場合に、基板が反っている場合でも他方の基板にそれほど強い力を与えずに押し付けることができるとともに、活性層16に歪を加えることもできるという効果を有する。
以下に、実施例を挙げて本発明についてより詳細に説明する。
この実施例1では、第1の実施の形態で説明した図1の化合物半導体基板と図2の半導体装置の具体例について説明する。この実施例1の図1で使用される化合物半導体基板は、N-型の第1のGaAs基板11上に、Siを添加した厚さ1.3μmのAl0.4Ga0.6As層からなる下部クラッド層12、厚さ0.15μmのGaAs層からなる下部光ガイド層13、厚さ7nmのGa0.6In0.4As層よりなる1層の発光層(量子井戸層)14、厚さ90nmのGaAs層からなる第1の上部光ガイド層17−1、Znを添加したInAsドット19により形成した接合層18、厚さ5nmのGaAs層からなる第2の上部光ガイド層17−2、厚さ1.3μmのP型のAl0.4Ga0.6As層からなる上部クラッド層21、厚さ0.3μmの高濃度のCを添加したGaAs層からなるコンタクト層22が積層された構造を有する。ただし、この実施例1では、活性層16は、1層のGaInAs層(発光層14)からなる場合を示している。
また、このような化合物半導体基板から図2に示されるような半導体装置が製造されるが、ここでは、パッシベーション膜24としてSiO2膜が用いられる。この半導体装置の詳細な構造は、第1の実施の形態で説明したので省略する。このような半導体装置は、端面発光型の半導体レーザ素子として用いられる。
このような構造の化合物半導体基板(半導体装置)においては、GaInAs層(活性層16)を形成後、GaAs層(第1の上部光ガイド層17−1)が形成され、このGaAs層上にはInAsドット19により構成した接合層18が形成されている。このため、このInAsドット19よりなる接合層18において、その接合層18上に形成されたGaAs層(第2の上部光ガイド層17−2)、AlGaAs層(上部クラッド層21)およびGaAs層(コンタクト層22)の積層体が活性層に与える歪の影響が抑制される。特に、AlGaAs層(上部クラッド層21)を成長する場合に基板の温度を560℃以上に上げる必要があるのに対して、2つの基板に形成された半導体層同士の接合を行う場合には、メタステーブルなGaInAs層(活性層16)を有する第1のGaAs基板11にAlGaAs層(上部クラッド層21)を成長するのではなく、第2のGaAs基板上に成長させればよい。その結果、第1のGaAs基板11上のGaInAs層(活性層16)は成長後にプロセス温度を超えるような温度環境下に置かれることがない。
このような製造方法によって、本実施例1のGaInAs量子井戸層では、従来行われていたGaInAs量子井戸層を挟んだ上下両側の面に厚いクラッド層を積層した場合と比べ、GaAs層との間の格子不整の影響を小さくすることができる。たとえば、通常の(従来の方法で製造した)GaInAs層では、そのIn組成が熱力学的臨界組成の0.4を大きく越えることはないが、本実施例1を用いてGaInAs層(活性層16)の形成を440℃の低温で行うと、In組成が0.46でも高品質なGaInAs層の結晶成長が可能となる。
つぎに、このような化合物半導体基板と半導体装置の製造方法について説明する。なお、化合物半導体基板と半導体装置の製造手順は、第1の実施の形態の図3−1〜図4−3に示したので、ここでは、詳細な説明は省略し、概略のみ述べる。
まず、Si添加のN-型の第1のGaAs基板11上にトリエチルガリウム(以下、TEGという)とトリメチルアルミニウム(以下、TMAという)とアルシン(AsH3)を原料として、MOCVD法により、680℃の温度で、AlGaAs層(下部クラッド層12)を成長させ、引き続いて同じ温度で、TEGとアルシンを原料として、GaAs層(下部光ガイド層13)を成長させる。ここで、AlGaAs層の成長には、シラン(SiH3)を原料としてSiを添加してN-型の導電型とする。ついで、成長温度を440℃に下げて、TMGとトリメチルインジウム(以下、TMIという)とアルシンを原料として、GaInAs層(活性層16)を成長させる。続けて、同じ温度で、TMGとアルシンを原料として、GaAs層(第1の上部光ガイド層17−1)を成長させ、さらに、TMIとアルシンを原料としてInAsドット19を形成する。
一方、第2のGaAs基板27上には、680℃の温度で、TEGとアルシンを原料としてGaAs層(ダミー層28)を成長させる。続けて、同じ温度で、TEGとTMAとアルシンを原料としてAl0.4Ga0.6As層(エッチングストップ層29)を成長させ、また、TEGとアルシンを原料としてGaAs層(コンタクト層22)を成長させる。さらに続けて、TEGとTMAとアルシンを原料としてAl0.4Ga0.6As層(上部クラッド層21)を成長させ、さらにまたTEGとアルシンを原料としてGaAs層(第2の上部光ガイド層17−2)を成長させる。ここで、AlGaAs層(上部クラッド層21)の形成時において、原料のTMAからのオートドーピングによって、2×1018cm-3の濃度のCのドーピングが行われる。
その後、第1のGaAs基板11上のGaAs層(第1の上部光ガイド層17−1)と第2のGaAs基板27のGaAs層(第2の上部光ガイド層17−2)とを対向させて結晶方位を合わせた後、第1のGaAs基板11上のInAsドット19をバンプとして接触させる。そして、400g/cm2の加重を加えた状態で、第2のGaAs基板27上のAlGaAs層(上部クラッド層21)の形成温度よりも低温である500℃で5分間アニールして第1のGaAs基板11と第2のGaAs基板27のGaAs層同士を、InAsドット19を介して接合する。ついで、第1のGaAs基板11の下面にSiO2膜を積層して被覆した状態で、硫酸過酸化水素系のウェットエッチングによって、第2のGaAs基板27の残り厚さが50μmとなるまで第2のGaAs基板27を除去し、引き続いて、ドライエッチングでAlが観察されるまで第2のGaAs基板27とダミー層28のエッチングを行う。その後、塩酸系またはバッファードフッ化水素アンモニア系溶液を用いて、第2のGaAs基板27上に形成されたAlGaAs層(エッチングストップ層29)を除去することでGaAs層(コンタクト層22)を露出させる。このようにすることで、図1に示した半導体基板を得ることができる。
なお、AlGaAs層(下部クラッド層12、上部クラッド層21)の形成に関しては、第1の実施の形態で説明したように不純物のCおよび酸素の濃度低減を実現するためには、活性な水素を供給することが望ましいため、本実施例1では、V族とIII族の原料供給比を100以上としている。また、本実施例1では、GaAsのコングルーエント温度の550℃よりも高く、金属Alの融点である625℃を上回る680℃で結晶成長を行って、高品質な結晶成長を実現している。このような条件を選択すると、Al組成が0.4を超える高Al組成AlGaAsについてもCと酸素の混入を抑制することができる。
一方、メタステーブル材料系である高歪のGaInAsに関しては、第1の実施の形態で説明したように、GaAsのコングルーエント温度の550℃以下の440〜520℃で結晶成長を実施することが望ましく、上記した例では440℃で結晶成長を行っている。
上記のようにして得られた化合物半導体基板のコンタクト層22上にSiO2膜を形成した後に、通常のリソグラフィ法により幅5μmのストライプ上のSiO2膜のマスク30を形成し、このマスク30を用いて、GaAs層(コンタクト層22)とP型のAlGaAs層(上部クラッド層21)の途中までエッチングを行ってメサ構造を形成する。その後、第1の実施の形態で説明したように、SiO2膜からなるパッシベーション膜24を形成し、ポリマによってエッチングによって形成された段差を埋め込んでポリマ埋め込み層25を形成し、メサ構造上のパッシベーション膜24を除去して露出させたコンタクト層22上にコンタクトメタル層を蒸着してP型電極26を形成し、薄膜化した第1のGaAs基板11の下面にコンタクトメタル層を蒸着してN型電極23を形成する。最後に、メサ構造の延在方向に垂直な方向で化合物半導体基板を劈開して素子の共振器構造を形成することで図2に示した半導体装置が得られる。
このような化合物半導体基板を用いることで、高品質な半導体装置の実現が可能となる。たとえば、本実施例1の半導体レーザ素子においては、多重量子井戸層を構成する結晶中への転位の導入が抑制される。その結果、しきい値電流密度を低減することができ、発振可能な波長域が、1.2〜1.25μmを超える波長まで実現可能となることが確認された。
上述した実施例1では活性層16の内部の発光領域と接合層18の間にはGaAs層(第1の上部光ガイド層17−1)のみが形成されていたが、図5に示されるように、量子井戸層(活性層16)上のGaAs層(第1の上部光ガイド層17−1)に、量子井戸層の上面から7nmの位置に、厚さ3nmのAl0.3Ga0.7As層からなるキャリア蓄積層31を導入してもよい。このように、キャリアの蓄積を接合層18とはなれた領域で行うと、接合層18での欠陥の影響を抑制することができるので半導体装置の特性向上が可能となる。
また、図2に示されるように、活性層16と隣接してInAsドット19からなる接合層18があり、キャリア蓄積層31がない場合に、発光する活性層16と発光しないInAsドット19にはほぼ均等にキャリアの注入が行われる。しかし、図5に示されるように、キャリア蓄積層31を形成すると、InAsドット19に注入されるキャリアはキャリア蓄積層31に蓄積される。その結果、本実施例1の場合は、発光層14が一層であることから、レーザ発振させた場合の量子効率を2倍程度に向上でき、閾値電流は半分程度となる。また、接合領域での欠陥の影響を低減するためには、InAsドット19の形成時にInAsドット内部にZnを1×1018cm-3の濃度で添加してもよい。