以下に、本発明に係る放射線検出器の実施形態の一例を図面に基づき説明する。
本実施形態に係る放射線検出器は、X線撮影装置等に使用されるものであり、放射線の照射を受けることにより導電性を呈する光導電層を含む静電記録部を備えてなり、画像情報を担持する放射線の照射を受けて画像情報を記録し、記録した画像情報を表す画像信号を出力するものである。
放射線検出器としては、光の照射により電荷を発生する半導体材料を利用して読み取る、いわゆる光読取方式の放射線検出基板500と、放射線の照射により発生した電荷を蓄積し、その蓄積した電荷を薄膜トランジスタ(TFT:thin film transistor)などの電気的スイッチを1画素ずつオン・オフすることにより読み取る方式(以下、TFT方式という)の放射線検出器400等がある。
(光読取方式の放射線検出基板500の構成)
まず、光読取方式の放射線検出基板500の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る放射線検出基板500の概略構成を示す平面図である。図2は、本実施形態に係る放射線検出基板500の概略構成を示す側断面図である。
本実施形態に係る放射線検出基板500としては、例えば、***用X線検出に用いられるマンモグラフィがある。なお、マンモグラフィに用いる場合においては、図1におけるA側が、検診を受ける者の胸壁側となる。
本実施形態に係る放射線検出基板500は、図1及び図2に示すように、放射線が入射されることにより電荷を生成する電荷変換層として、入射されるX線を電荷に変換して電荷を生成する放射線検出層522を備えている。
放射線検出層522下には、放射線検出層522が生成した電荷に対応する電荷を収集する下部電極部としての下部電極520が配置されている。この下部電極520は、ガラス基板536に設けられている。
下部電極520が設けられたガラス基板536により放射線検出用下部基板524が構成されている。放射線検出用下部基板524には、TCP(Tape Carrier Package)510を介して読み出し装置512が接続されている。
TCP510は、信号検出用IC(チャージアンプIC)511を搭載したフレキシブルの配線基板である。このTCP510はACF(Anisotropic Conductive Film、異方性導電膜)を用いて熱圧着にて放射線検出用下部基板524及び読み出し装置512に接続されている。
放射線検出層522上には、放射線検出層522へバイアス電圧を印加するための上部電極部の一例として、矩形状に形成された上部電極518が積層されている。
また、本実施形態に係る放射線検出基板500は、上部電極518に高電圧を印加するための高電圧線514を備えている。
この上部電極518には、高電圧線514と上部電極518とを接続するための延長電極部519が形成されている。この延長電極部519は、図1におけるA側(マンモグラフィにおいて胸壁側)とは反対方向へ上部電極518から延長されており、延長電極部519には高電圧線514が接続されている。
ここで、上部電極518の端部は、1辺以上が放射線検出層522よりも外側に配置されている。すなわち、上部電極518の端部は、上部電極518の周囲四方のそれぞれにある辺のうち、少なくとも周囲一方にある辺が放射線検出層522よりも外側に配置される構成となる。
本実施形態の構成では、図1におけるA側にある辺に隣り合う両側の辺518Aが、放射線検出層522よりも外側に配置される構成となっている。
なお、延長電極部519のように、上部電極518から突出する部分がある場合には、図3(B)に示すように、突出する部分の辺519Aのみが、放射線検出層522よりも外側に配置される構成ではなく、図3(A)に示すように、突出する部分の辺519A及び上部電極518の辺518Bが放射線検出層522よりも外側に配置されることにより、上部電極518の端部は、放射線検出層522よりも外側に配置される。
また、図1及び図2に示すように、上部電極518の端部と放射線検出用下部基板524との間には、上部電極518の端部が積層される絶縁部516が設けられている。
絶縁部516は、上部電極518の端部が積層される積層面が、上部電極518が積層される放射線検出層522の積層面の延長線上に沿って形成されており、上部電極518の端部が積層される絶縁部516の積層面の高さは、上部電極518が積層される放射線検出層522の積層面の高さと略一致する。
これにより、絶縁部516の前記積層面は、放射線検出層522の前記積層面の略同一面上に形成され、放射線検出層522と絶縁部516との境界で上部電極518に屈曲点が形成されにくくなる。
また、放射線検出用下部基板524上であって、放射線検出層522から少し離れた放射線検出層522の外側には、絶縁部516としての樹脂の流出を防止するための壁体としてのリブ523が設けられている。
リブ523としては、例えば、ガラスが用いられるが、下部電極520と絶縁が十分とれる材料であるならば選択は自由である。また、絶縁部516の形成後、このリブ523を除去するのであれば、導電性を持っていてもかまわない。
また、絶縁部516は、例えば、絶縁性を有する樹脂で形成されており、放射線検出用下部基板524上であってリブ523と放射線検出層522との間に充填されて形成される。樹脂としては、例えば、硬化性樹脂が用いられる。硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ、シリコン等の常温硬化性樹脂が用いられる。なお、硬化性樹脂としては、成形性の観点から粘性が低いことが望ましい。
本実施形態に係る放射線検出基板500の製造は大きく分けて、下部電極520を含む放射線検出用下部基板524の製造、放射線検出層522及び上部電極518の形成、高電圧線514の接続に分けられる。
以下、放射線検出用下部基板524の構造について説明する。図4には、放射線検出用下部基板524の概略構造が示されている。図4では、TCP510は左右1つずつ、チャンネル数も各3チャンネル、合計6チャンネルと単純化している。放射線検出用下部基板524は、図4に示すように、放射線検出部526、ピッチ変換部528、TCP接続部530から構成されている。
放射線検出部526は、信号取り出しのための下部電極520がストライプ状(線状)に配置されている。また、その下層には透明の有機絶縁層532を介して一部任意の波長の光だけを透過させるカラーフィルター層534が形成されている。
カラーフィルター層534上部にある層を共通Bライン520B、カラーフィルター層534のない部分にある信号Sライン520Sと呼ぶ。Bライン520Bは放射線検出部の外側で共通化され、くし型電極構造を有している。Sライン520Sは信号ラインとして用いられる。Bライン520Bの幅は、例えば20μm、Sライン520Sの幅は、例えば10μmとされ、Bライン520BとSライン520Sとの間隔は、例えば、10μmである。
カラーフィルター層534の幅は、例えば、30μmである。下部電極520は、裏面より光を照射するため透明であることと、高電圧印加時の電界集中による破壊などを避けるため平坦性が必要であり、たとえばIZO、ITOが用いられる。IZOを用いた場合、厚さは0.2μm、平坦性はRa=1nm程度である。
カラーフィルター層534は、顔料を分散させた感光性のレジスト、例えばLCDのカラーフィルターに用いられる赤色レジストである。このカラーフィルター層534の段差を無くすために感光性有機の透明絶縁層532、たとえばPMMAが用いられる。
更に支持部材となる基板536は透明で剛性のあるガラスが望ましく、さらにはソーダライムガラスが望ましい。各層の厚さの一例は、下部電極520が0.2μm、カラーフィルター層534が1.2μm、有機透明絶縁層532が1.8μm、ガラス基板536が1.8mmである。このカラーフィルター層534、有機絶縁層532は放射線検出部526のみにあり、その境界は放射線検出部526、ピッチ変換部528にある。このためIZO配線は有機絶縁層532の境界段差部分を介してTCP接続部530ではガラス基板536上に形成される。
放射線検出部526ではある数を単位として左右のTCP510へ配線が取り出される。図4では3ライン単位である。ライン数の一例は256ラインである。放射線検出部526でのライン幅はTCP接続部530でのライン幅と異なりこれを調整することと、所定のTCP接続位置まで配線を引き回すためピッチ変換部528にてライン幅が調整される。Bライン520Bは共通化されて同様にTCP接続部530へ引き出される。
TCP接続部530では信号Sライン520Sと放射線検出部外側で共通化された共通Bライン520Bが配置される。共通Bライン520Bは信号Sライン520Sの外側に配置される。その数の一例としては信号ライン256、共通ライン上下各5ラインを用いてTCPへ接続される。その電極ライン/スペースは40/40μmである。
また、このTCP接続部530にてTCPを接続するためTCP用のアライメントマークが必要である。透明電極で形成することが望ましいが、透明なため認識が難しく、不透明な材料として、例えばこの基板の構成部材であるカラーフィルター層534を用いて合わせマークを形成する。
次に、放射線検出層522について説明する。図5は、放射線検出基板500の構成を模式的に示した概略図である。放射線検出層は、図5に示すように、記録用光導電層542、電荷蓄積層544、読取用光導電層546、電極界面層548、下引き層550、上引き層552を備えて構成されている。
<記録用光導電層>
記録用光導電層542は、電磁波を吸収し電荷を発生する光導電物質であり、アモルファスセレン化合物、Bi12MO20(M:Ti、Si、Ge)、Bi4M3O12 (M:Ti、Si、Ge)、Bi2O3、BiMO4(M:Nb、Ta、V)、Bi2WO6、Bi24B2O39、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe,MNbO3(M:Li、Na、K)、PbO,HgI2、PbI2,CdS、CdSe、CdTe、BiI3、GaAs等のうち少なくとも1つを主成分とする化合物により構成される。この中で特にアモルファスセレン化合物よりなることが好ましい。
アモルファスセレン化合物の場合には、その層中にLi, Na, K, Cs, Rb等のアルカリ金属を0.001ppmから1ppmまでの間で微量にドープしたもの、LiF, NaF, KF, CsF, RbF等のフッ化物を10ppmから10000ppmまでの間で微量にドープしたもの、P、As、Sb、Geを50ppmから0.5%までの間添加したもの、Asを10ppmから0.5%までドープしたもの、Cl、Br、Iを1ppmから100ppmの間で微量にドープしたもの、を用いることができる。
特に、Asを10ppmから200ppm程度含有させたアモルファスセレン、Asを0.2%〜1%程度含有させさらにClを5ppm〜100ppm含有させたアモルファスセレン、0.001ppm〜1ppm程度のアルカリ金属を含有させたアモルファスセレンが好ましく用いられる。
また、数ナノから数ミクロンのBi12MO20(M:Ti、Si、Ge)、Bi4M3O12 (M:Ti、Si、Ge)、Bi2O3、BiMO4(M:Nb、Ta、V)、Bi2WO6、Bi24B2O39、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe,MNbO3(M:Li、Na、K)、PbO,HgI2、PbI2,CdS、CdSe、CdTe、BiI3、GaAs等の光導電性物質微粒子を含有させたものも用いることができる。
記録用光導電層542の厚みは、アモルファスセレンの場合100μm以上2000μm以下であることが好ましい。特にマンモグラフィ用途では150μm以上250μm以下、一般撮影用途においては500μm以上1200μm以下の範囲であることが特に好ましい。
<電荷蓄積層>
電荷蓄積層544は、蓄積したい極性の電荷に対して絶縁性の膜であれば良く、アクリル系有機樹脂、ポリイミド、BCB、PVA、アクリル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド等のポリマーやAs2S3、Sb2S3、ZnS等の硫化物、その他に酸化物、フッ化物より構成される。更には、蓄積したい極性の電荷に対して絶縁性であり、それと逆の極性の電荷に対しては導電性を有する方がより好ましく、移動度×寿命の積が、電荷の極性により3桁以上差がある物質が好ましい。
好ましい化合物としては、As2Se3、As2Se3にCl、Br、Iを500ppmから20000ppmまでドープしたもの、As2Se3のSeをTeで50%程度まで置換したAs2(SexTe1-x)3(0.5<x<1)、As2Se3のSeをSで50%程度まで置換したもの、As2Se3からAs濃度を±15%程度変化させたAsxSey(x+y=100、34≦x≦46)、アモルファスSe-Te系でTeを5-30wt%含むものを挙げることができる。
この様なカルコゲナイド系元素を含む物質を用いる場合、電荷蓄積層544の厚みは0.4μm以上3.0μm以下であること好ましく、より好ましくは0.5μm以上2μm以下である。この様な電荷蓄積層544は、1度の製膜で形成しても良いし、複数回に分けて積層しても良い。
有機膜を用いた好ましい電荷蓄積層544としては、アクリル系有機樹脂、ポリイミド、BCB、PVA、アクリル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド等のポリマーに対し、電荷輸送剤をドープした化合物が好ましく用いられる。好ましい電荷輸送剤としては、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq3)、N,N-ジフェニル-N,N-ジ(m-トリル)ベンジジン(TPD)、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリアルキルチオフェン、ポリビニルカルバゾール(PVK)、トリフェニレン(TNF)、金属フタロシアニン、4-(ジシアノメチレン)-2-メチル-6-(p-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)、液晶分子、ヘキサペンチロキシトリフェニレン、中心部コアがπ共役縮合環あるいは遷移金属を含有するディスコティック液晶分子、カーボンナノチューブ、フラーレンからなる群より選択される分子を挙げることができる。ドープ量は0.1から50wt.%の間で設定される。
<読取用光導電層>
読取用光導電層546は、電磁波、特に可視光を吸収し電荷を発生する光導電物質であり、アモルファスセレン化合物、アモルファスSi:H、結晶Si、GaAs等のエネルギーギャップが0.7-2.5eVの範囲に含まれる半導体物質を用いることができる。特にアモルファスセレンであることが好ましい。
アモルファスセレン化合物の場合には、その層中にLi, Na, K, Cs, Rb等のアルカリ金属を0.001ppmから1ppmまでの間で微量にドープしたもの、LiF, NaF, KF, CsF, RbF等のフッ化物を10ppmから10000ppmまでの間で微量にドープしたもの、P、As、Sb、Geを50ppmから0.5%までの間添加したもの、Asを10ppmから0.5%までドープしたもの、Cl、Br、Iを1ppmから100ppmの間で微量にドープしたもの、を用いることができる。
特に、Asを10ppmから200ppm程度含有させたアモルファスセレン、Asを0.2%〜1%程度含有させさらにClを5ppm〜100ppm含有させたアモルファスセレン、0.001ppm〜1ppm程度のアルカリ金属を含有させたアモルファスセレンが好ましく用いられる。
読取用光導電層546の厚みは、読取光を十分吸収でき、かつ電荷蓄積層544に蓄積された電荷による電界が光励起された電荷をドリフトできれば良く、1μmから30μm程度が好ましい。
<電極界面層>
電極界面層548は、記録用光導電層542と上部電極518の間、あるいは読取用光導電層546と下部電極520の間に敷設される。結晶化を防止する目的において、アモルファスセレンにAsが1%-20%の範囲で添加されたもの、S、Te、P、Sb、Geを1%から10%の範囲で添加したもの、上記の元素と他の元素を組合せて添加したものが好ましい。
または、より結晶化温度の高いAs2S3やAs2Se3も好ましく用いることができる。更に、電極層からの電荷注入を防止する目的で上記、添加元素に加えて、特に正孔注入を防止するためにLi、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属や、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、LiCl、NaCl、KCl、RbF、CsF、CsCl、CsBr等の分子を10ppm-5000ppmの範囲でドープすることも好ましい。 逆に電子注入を防止するためには、Cl、I、Br等のハロゲン元素や、In2O3等の分子を10ppm-5000ppmの範囲でドープすることも好ましい。界面層の厚みは、上記目的を十分果たすように0.05μmから1μmの間に設定されることが好ましい。
上記の電極界面層548、読取用光導電層546、電荷蓄積層544、記録用光導電層542は、真空度10-3から10-7Torrの間の真空槽内において、基板を25℃以上70℃以下の間に保持し、上記各合金を入れたボート、あるいはルツボを、抵抗加熱あるいは電子ビームにより昇温し、合金、化合物を蒸発または昇華させることにより基板上に積層される。
合金、化合物の蒸発温度が大きく異なる場合には、複数の蒸着源に対応した複数のボートを同時に加熱し個々に制御することで、添加濃度、ドープ濃度を制御することも好ましく用いられる。例えば、As2Se3・アモルファスセレン・LiFをそれぞれボートに入れ、As2Se3のボートを340℃、アモルファスセレン(a-Se)のボートを240℃、LiFのボートを800℃として、各ボートのシャッターを開閉することで、As10%ドープアモルファスセレンにLiFを5000ppmドープした層を形成することができる。
<下引き層>
読取用光導電層546と下部電極(電荷収集電極)520の間には、下引き層550を設けることが出来る。電極界面層(結晶化防止層(A層))548がある場合には、電極界面層548と下部電極520の間に設けることが好ましい。下引き層550は、暗電流、リーク電流低減の観点から、整流特性を有することが好ましい。上部電極518に正バイアスが印加される時には電子ブロック性を、負バイアスが印加される時にはホールブロック性を有することが好ましい。
この下引き層の抵抗率は、108Ωcm以上であること、膜厚は、0.01μm〜10μmであることが好ましい。電子ブロック性を有する層、すなわち電子注入阻止層としては、Sb2S3,Sb2Te3,ZnTe,CdTe,As2Se3,As2S3等の組成から成る層、または有機高分子層が好ましい。有機高分子層としては、PVK等のホール輸送性高分子、またはポリカーボネート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリシクロオレフィン等の絶縁性高分子に、NPD,TPDを混合した膜を好ましく用いることが出来る。
ホールブロック性を有する層、すなわち正孔注入阻止層としては、CdS,CeO2,等の膜、または有機高分子層が好ましい。有機高分子層としては、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリシクロオレフィン等の絶縁性高分子に、C60(フラーレン)、C70等のカーボンクラスターを混合した膜を好ましく用いることが出来る。
一方、薄い絶縁性高分子層も好ましく用いることが出来、例えば、パリレン、ポリカーボネート、PVA、PVP,PVB,ポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂が好ましい。この時の膜厚としては、2μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。
<上引き層>
記録用光導電層542と上部電極(電圧印加電極)518の間には、上引き層552を設けることが出来る。電極界面層(結晶化防止層(C層))548がある場合には、電極界面層548と上部電極518の間に設けることが好ましい。上引き層552は、暗電流、リーク電流低減の観点から、暗電流、リーク電流低減の観点から、整流特性を有することが好ましい。
上部電極518に正バイアスが印加される時にはホールブロック性を、負バイアスが印加される時には電子ブロック性を有することが好ましい。この上塗り層の抵抗率は、108Ωcm以上であること、膜厚は、0.01μm〜10μmであることが好ましい。
電子ブロック性を有する層、すなわち電子注入阻止層としては、Sb2S3,SbTe,ZnTe,CdTe,SbS,AsSe,As2S3等の組成から成る層、または有機高分子層が好ましい。有機高分子層としては、PVK等のホール輸送性高分子、またはポリカーボネート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリシクロオレフィン等の絶縁性高分子に、NPD,TPDを混合した膜を好ましく用いることが出来る。
ホールブロック性を有する層、すなわち正孔注入阻止層としては、CdS,CeO2,等の膜、または有機高分子層が好ましい。有機高分子層としては、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリシクロオレフィン等の絶縁性高分子に、C60(フラーレン)、C70等のカーボンクラスターを混合した膜を好ましく用いることが出来る。
一方、薄い絶縁性高分子層も好ましく用いることが出来、例えば、パリレン、ポリカーボネート、PVA、PVP,PVB,ポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂が好ましい。この時の膜厚としては、2μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。
次に、上部電極518及びその上部電極518の表面に形成される表面保護層554について説明する。
<上部電極>
記録用光導電層542の上面に形成される上部電極518としては金属薄膜が好ましく用いられる。材料としてはAu、Ni、Cr、Au、Pt、Ti、Al、Cu、Pd、Ag、Mg、MgAg3-20%合金、Mg-Ag系金属間化合物、MgCu3-20%合金、Mg-Cu系金属間化合物などの金属から形成するようにすればよい。
特にAuやPt、Mg-Ag系金属間化合物が好ましく用いられる。例えばAuを用いた場合、厚みとして15nm以上200nm以下であることが好ましく、より好ましくは30nm以上100nm以下である。例えばMgAg3-20%合金を用いた場合は、厚さ100nm以上400nm以下を用いることがより好ましい。
作成方法は任意であるが、抵抗加熱方式による蒸着により形成されることが好ましい。
たとえば、抵抗加熱方式によりボート内で金属塊が融解後にシャッターを開け、15秒間蒸着し一旦冷却する。抵抗値が十分低くなるまで複数回繰り返すことで形成される。
<表面保護層>
放射線照射によって放射線検出デバイスに潜像を形成するため、上部電極518には数kVの高電圧を印加する。この上部電極518が大気に開放されていると沿面放電を生じ、被写体が感電する危険がある。上部電極518における沿面放電を防止するため、電極上面に表面保護層554を形成し絶縁処理を施す。
絶縁処理は電極面が全く大気に触れない構造にすることが必要で、絶縁体で密着被覆する構造とする。尚且つ、この絶縁体は印加電位を上回る絶縁破壊強度を有することが必要である。更に、放射線検出デバイスの機能上、放射線透過を妨げない部材であることが必要である。これら要求される被覆性、絶縁破壊強度および放射線透過率の高い材料および製法として、絶縁性ポリマーの蒸着または溶剤塗布が好ましい。
具体例としては、常温硬化型エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂、ポリパラキシリレン誘導体をCVD法で成膜する方法等があげられる。この中でも常温硬化型エポキシ樹脂、ポリパラキシリレンをCVD法で成膜するが好ましく、特にポリパラキシリレン誘導体をCVD法で成膜する方法が好ましい。好ましい膜厚は10μm以上1000μm以下であり、さらに好ましくは20μm以上100μm以下である。
ポリパラキシリレン膜は、室温で形成できるため被着体に熱ストレスを与えることなく、極めて段差被覆性の高い絶縁膜が得られるが、化学的に非常に安定であるため、被着体との密着性は一般に好ましくない場合が多い。被着体との密着性を上げるため、ポリパラキシリレン形成前の被着体への処理として、カップリング剤、コロナ放電、プラズマ処理、オゾン洗浄、酸処理、表面租化等の物理的、化学的処理が一般的に知られており用いることができる。特にシランカップリング剤もしくはシランカップリング剤を必要によりアルコール等で希釈したものを、少なくとも被着体との密着性を向上させたい部分に塗布処理を施した後ポリパラキシリレン膜を形成することで被着体との密着性を向上させる方法が好ましい。
さらに、放射線検出デバイスの経時劣化防止のため、防湿処理を施すことが好ましい。具体的には防湿部材で覆う構造とする。防湿部材としては、前記絶縁性ポリマーのような樹脂単独では機能不足であり、ガラス、アルミラミネートフィルムといった少なくとも無機材層を有する構成が効果的である。但し、ガラスは放射線透過を減衰するため、防湿部材は薄いアルミラミネートフィルムが望ましい。例えば、一般的に防湿包材として用いられているアルミラミネートフィルムとして、PET12μm/圧延アルミ9μm/ナイロン15μmを積層したものがある。
アルミの厚みは5μm以上30μm以下が好ましく、前後のPET厚み、ナイロン厚みはそれぞれ10μm以上100μm以下が好ましい。このフィルムのX線減衰は約1%程度であり、防湿効果とX線透過を両立する部材として最適である。
例えば、図6に示すように、ポリパラキシリレン554Aによる絶縁処理を施した放射線検出デバイス全面を防湿フィルム554Bで覆い、放射線検出デバイス領域外において防湿フィルム554Bの周囲を接着剤で基板と接着固定する。これによって、放射線検出デバイスを基板と防湿フィルム554Bで密封した構成とする。
この接着固定に際し、ポリパラキシリレン554Aは、化学的に非常に安定であるため、一般的には接着材による他の部材との接着性が悪いが、接着に先立ち紫外光による光照射処理を施すことにより接着性を向上させることが出来る。必要な照射時間は使用する紫外光源の波長、ワット数により適時、最適な時間に調節するが、低圧水銀灯で1から50Wのものが好ましく、光照射は1分から30分で行なうのが好ましい。
尚、本実施形態に係る放射線検出デバイスは、アモルファスセレンを用いており、40℃以上の高温ではアモルファスセレンが結晶化して潜像形成の機能が得られなくなるおそれがあることから、接着加工においては加熱処理は適さない。そこで、室温硬化型の接着剤が望ましく、接着強度が高い2液混合室温硬化型エポキシ接着剤が最適である。このエポキシ接着剤を放射線検出デバイスの外周に塗布し、防湿フィルム554Bを被せる。接着部を防湿フィルム554Bの上面から均一に押圧固定し、この状態のまま室温環境にて12時間以上置いて硬化させる。接着剤硬化後に押圧を開放して封止構造が完成する。
封止構造部材について補足する。放射線検出デバイスをマンモグラフィに用いる場合、X線撮影における被曝を抑えるため、低線量での撮影検出が望まれる。低線量照射での陰影変化を検出するため、放射線源からデバイスまでの経路における、被写体(マンモ)以外の部材はX線の透過率を高くすること望ましく、これにより明瞭な画像が得られる。
好ましい保護層・封止構造の一例を図6に示しているが、これに限定されるものではない。保護膜の形成によりデバイスの湿度環境が30%以下、より好ましくは10%以下になるように維持されることが好ましい。
以下、好ましい層構成の例を示すが、本発明はこれに限定される物ではない。その断面のモデル図を図5に示す。
<構成1>
図4に示すような、放射線検出用下部基板524の上に、以下の順に層構成を作製した。下部電極520としては表面粗さRa<1nmの平坦なIZO電極を用いた。
下引き層550 :CeO2 厚み20nm
下電極界面層548 :As10%ドープアモルファスセレン:LiF500ppmドープ、厚み0.1μm
読取用光導電層546:アモルファスセレン、厚み7μm
電荷蓄積層544 :As2Se3、厚み1μm
記録用光導電層542:アモルファスセレン Naを0.001ppm含有、厚み200μm
上電極界面層548 :As10%ドープアモルファスセレン、厚み0.2μm
上引き層552 :Sb2S3、厚み0.5μm
上部電極518 :Au、厚み70nm
<構成2>
図4に示すような、放射線検出用下部基板524の上に、以下の順に層構成を作製した。下部電極520としては表面粗さRa<1nmの平坦なIZO電極を用いた。
下引き層550 :なし
下電極界面層548 :As3%ドープアモルファスセレン、厚み0.15μm
読取用光導電層546:アモルファスセレン、厚み15μm
電荷蓄積層544 :As2Se3、厚み2μm
記録用光導電層542:アモルファスセレン Naを0.001ppm含有、厚み180μm
上電極界面層548 :As10%ドープアモルファスセレン、厚み0.1μm
上引き層552 :Sb2S3、厚み0.2μm
上部電極518 :Au、厚み150nm
<構成3>
図4に示すような、放射線検出用下部基板524の上に、以下の順に層構成を作製した。下部電極520としては表面粗さRa<1nmの平坦なIZO電極を用いた。
下引き層550 :CeO2、厚み30nm
下電極界面層548 :As6%ドープアモルファスセレン、厚み0.25μm
読取用光導電層546:アモルファスセレン、厚み10μm
電荷蓄積層544 :As2Se3、厚み0.6μm
記録用光導電層542:アモルファスセレン Naを0.001ppm含有、厚み230μm
上電極界面層548 :As10%ドープアモルファスセレン、厚み0.3μm
上引き層552 :Sb2S3、厚み0.3μm
上部電極518 :Au、厚み100nm
<電荷取り出しアンプ>
本実施形態において、電荷はアンプを通して増幅後A/D変換される。図7は、電荷取り出しアンプの構成、並びにこれらと放射線検出基板500の外部に配された画像処理装置150などとの接続態様を示したブロック図である。
電荷取り出しアンプとしてのチャージアンプIC511は、放射線検出基板500の各エレメント15aごとに接続された多数のチャージアンプ33aおよびサンプルホールド(S/H)33b、各サンプルホールド33bからの信号をマルチプレクスするマルチプレクサ33cを備えている。
下部電極から流れ出す電流は、各チャージアンプ33aにより電圧に変換され、該電圧がサンプルホールド33bにより所定のタイミングでサンプルホールドされ、サンプルホールドされた各エレメント15aに対応する電圧がエレメント15aの配列順に切り替わるようにマルチプレクサ33cから順次出力される(主走査の一部に相当する)。
マルチプレクサ33cから順次出力された信号はプリント基板31上に設けられたマルチプレクサ31cに入力され、さらに各エレメント15aに対応する電圧がエレメント15aの配列順に切り替わるようにマルチプレクサ31cから順次出力され主走査が完了する。
マルチプレクサ31cから順次出力された信号はA/D変換部31aによりデジタル信号に変換され、デジタル信号がメモリ31bに格納される。一旦メモリ31bに格納された画像信号は、信号ケーブルを介して外部の画像処理装置150に送られ、この画像処理装置150において適当な画像処理が施され、撮影情報と共にネットワーク151にアップロードされ、サーバもしくはプリンタに送られる。
<画像取得シーケンス>
本画像記録読取システムの画像形成シーケンスは、基本的には、高圧印加中に記録光(例えばX線)を照射し潜像電荷を蓄積する過程、および、高圧印加を終了後、読取光を照射して潜像電荷を読み出す過程からなる。読取光Lとしてはライン光源301を電極方向に走査する方法(図8参照)が最適であるが、他の方法でも可能である。
さらに、必要に応じて、読み残した潜像電荷を十分に消去する過程を組み合わせることができる。この消去過程は、パネル全面に消去光を照射することにより行われ、全面に一度に照射させても、あるいはライン光やスポット光を全面に走査させても良く、読取過程の後、または/および、潜像蓄積過程の前に行われる。消去光を照射する際に、高圧印加を組み合わせて消去効率を高めることもできる。また、高圧印加後、記録光を照射する前に「前露光」を行うことにより、高圧印加の際に発生する暗電流による電荷(暗電流電荷)を消去することができる。
さらに、これら以外の原因によっても静電記録体に種々な電荷が記録光の照射の前に蓄積されることが知られている。これらの残存信号は、残像現象として次に出力される画像情報信号に影響を及ぼすため、補正により低減させることが望ましい。
残像信号を補正する方法として、上記の画像記録読取過程に、残像画像読取過程を加える方法が有効である。この残像画像記録過程は、記録光を照射しないで高圧印加のみ行った後、読取光により「残像画像」を読取ることで行われ、この「残像画像」信号に適当な処理を施し、「記録画像」信号から差し引くことで、残像信号を補正することができる。残像画像読取過程は、画像記録読取過程の前、あるいは後に行われる。また、残像画像読取過程の前、または/および後に、適当な消去過程を組み合わせることができる。
(光読取方式の放射線検出基板500の作用効果)
次に、上記の光読取方式の放射線検出基板500の作用効果について説明する。
本実施形態の構成では、上部電極518の端部の1辺以上が放射線検出層522よりも外側に配置されており、その端部が放射線検出層522上にかからないので、上部電極518の端部における電界集中によって増大したリーク電流が放射線検出層522に流れず、放射線検出層522の劣化を抑制できる。
また、本実施形態の構成では、上部電極518の端部と放射線検出層522との間に絶縁性物質を形成することなく、上部電極518の端部を放射線検出層522の外側に配置することで放射線検出層522の劣化を抑制するので、放射線検出層522の全領域において放射線検出が可能となり、放射線検出層522において放射線検出のできない無駄な領域ができない。
また、本実施形態の構成によれば、上部電極518の端部が積層される絶縁部516が、上部電極518の端部とガラス基板536との間に配置されているので、上部電極518と下部電極520との間の絶縁性を確保できる。
また、本実施形態の構成では、上部電極518の端部が積層される絶縁部516の積層面の高さが、上部電極518が積層される放射線検出層522の積層面の高さと略一致しているので、放射線検出層522と絶縁部516との境界で上部電極518に屈曲点が形成されにくいので、電界集中がおきにくく、放射線検出層522の劣化を抑制できる。
(本実施形態に係る放射線検出基板500と比較例に係る放射線検出器600との比較試験)
本実施形態に係る放射線検出基板500と比較例に係る放射線検出器600との比較試験を行った。
比較例に係る放射線検出器600は、図9に示すように、放射線検出層522上に上部電極518を積層し、上部電極518の端部が放射線検出層522の内側に(放射線検出層522の領域内に)配置された構成とされている。そのほかの構成は上記の放射線検出基板500と同様とされている。
本実施形態係る放射線検出基板500及び比較例に係る放射線検出器600において、高電圧を上部電極518に印加し、高電圧印加中に光を放射線検出層522表面に当てることで電荷発生を行い、耐久性試験を行った。
その結果、比較例に係る放射線検出器600は、5万回の電圧印加程度で上部電極518の端部画像に変化が認められ、7万回程度で、目視により放射線検出層522の端部に結晶化が発生していることが確認できた。
一方、本実施形態に係る放射線検出基板500は、5万回の電圧印加及び7万回の電圧印加のいずれにおいても、異常が認められなかった。
(TFT方式の放射線検出器400の構成)
TFT方式の放射線検出器400についても、本発明の適用は可能である。ここで、TFT方式の放射線検出器400の構成について説明する。
図10は、TFT方式の放射線検出器400の概略構成を示す側断面図である。図11及び図12は、TFT方式の放射線検出器400において、バイアス電極401の端部と光導電層404との位置関係を説明するための平面図である。図13は、TFT方式の放射線検出器400の要部構成を示すものであり、ガラス基板上に積層された各部を示す図である。
本実施形態に係るTFT方式の放射線検出器400は、図10及び図13に示すように、放射線の一例としてのX線が入射されることにより電荷を生成する電荷変換層として、電磁波導電性を示す光導電層404を備えている。光導電層404としては、暗抵抗が高く、X線照射に対して良好な電磁波導電性を示し、真空蒸着法により低温で大面積成膜が可能な非晶質(アモルファス)材料が好まれる。
非晶質(アモルファス)材料としては、例えば、アモルファスSe(a-Se)膜が用いられている。また、アモルファスSeにAs、Sb、Geをドープした材料が、熱安定性に優れ、光導電層404の好適な材料となる。
光導電層404下には、下部電極部の一例として、複数の電荷収集電極407aが形成されている。電荷収集電極407aは、図13に示すように、それぞれ電荷蓄積容量407c及びスイッチ素子407bに接続されている。また、電荷収集電極407aは、ガラス基板408に設けられている。
光導電層404上には、光導電層404へバイアス電圧を印加するための上部電極部の一例として、バイアス電極401が形成されている。このバイアス電極401は、例えば、金(Au)により形成されている。
ここで、バイアス電極401の端部は、図10、図11及び図12に示すように、1辺以上が光導電層404よりも外側に配置されている。すなわち、バイアス電極401の端部は、バイアス電極401の周囲四方のそれぞれにある辺のうち、少なくとも周囲一方にある辺が光導電層404よりも外側に配置される構成となる。
本実施形態の構成では、一方にある辺401A及びその辺401Aに対向する辺401Bが、光導電層404よりも外側に配置される構成となっている。
なお、後述の延長電極部431のように、バイアス電極401から突出する部分がある場合には、突出する部分の辺431Aのみが、光導電層404よりも外側に配置される構成ではなく、図12に示すように、突出する部分の辺431A及びバイアス電極401の辺401Bが光導電層404よりも外側に配置されることにより、バイアス電極401の端部は、光導電層404よりも外側に配置される。
また、図10に示すように、バイアス電極401の端部とガラス基板408との間には、バイアス電極401の端部が積層される絶縁部456が設けられている。
絶縁部456は、バイアス電極401の端部が積層される積層面が、バイアス電極401が積層される光導電層404の積層面の延長線上に沿って形成されており、バイアス電極401の端部が積層される絶縁部456の積層面の高さは、バイアス電極401が積層される光導電層404の積層面の高さと略一致する。
これにより、絶縁部456の前記積層面は、光導電層404の前記積層面の略同一面上に形成され、光導電層404と絶縁部456との境界でバイアス電極401に屈曲点が形成されにくくなる。また、絶縁部456は、例えば、絶縁性を有する樹脂で形成されている。
また、図10及び図13に示すように、光導電層404とバイアス電極401との間には、中間層として、正孔注入阻止層402が設けられている。ここで、中間層とは、バイアス電極401と光導電層404の間に存在する層であり、電荷注入阻止層(電荷蓄積とダイオード形成を包含)を兼ねるものであっても良い。電荷注入阻止層として、抵抗層や絶縁層が用いられる場合もあるが、好ましくは、電子に対しては導電体でありながら正孔の注入を阻止する正孔注入阻止層や、正孔に対しては導電体でありながら電子の注入を阻止する電子注入阻止層が用いられる。正孔注入阻止層としては、CeO2、ZnS、Sb2S3を用いることができる。このうちZnSは低温で形成できて望ましい。電子注入阻止層としては、Sb2S3、CdS、TeをドープされたSe、CdTe、有機物系の化合物等がある。なお、Sb2S3は設けられる厚みにより、正孔注入阻止層にも電子注入阻止層にもなる。本実施形態では、バイアス電極が正極であるため、中間層として、正孔注入阻止層402が設けられている。また、光導電層404と電荷収集電極407aとの間には、図13に示すように、電子注入阻止層406が設けられている。
また、正孔注入阻止層402と光導電層404との間と、図13に示すように、電子注入阻止層406と光導電層404との間とには、それぞれ結晶化防止層403、405が設けられている。結晶化防止層403、405としてはGeSe、GeSe2、Sb2Se3、a-As2Se3や、Se−As、Se−Ge、Se−Sb系化合物等を用いることが可能である。
なお、電荷収集電極407aとスイッチ素子407bと電荷蓄積容量407cとからアクティブマトリックス層407が構成され、ガラス基板408とアクティブマトリックス層407とからアクティブマトリックス基板450が構成されている。
図14は、放射線検出器400の1画素単位の構造を示す断面図であり、図15は、その平面図である。図14及び図15に示す1画素のサイズは、0.1mm×0.1mm〜0.3mm×0.3mm程度であり、放射線検出器全体としてはこの画素がマトリクス状に500×500〜3000×3000画素程度配列されている。
図14に示すように、アクティブマトリックス基板450は、ガラス基板408、ゲート電極411、電荷蓄積容量電極(以下、Cs電極と称する)418、ゲート絶縁膜413、ドレイン電極412、チャネル層415、コンタクト電極416、ソース電極410、絶縁保護膜417、層間絶縁膜420、及び電荷収集電極407aを有している。
また、ゲート電極411やゲート絶縁膜413、ソース電極410、ドレイン電極412、チャネル層415、コンタクト電極416等により薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)からなるスイッチ素子407bが構成されており、Cs電極418やゲート絶縁膜413、ドレイン電極412等により電荷蓄積容量407cが構成されている。
ガラス基板408は支持基板であり、ガラス基板408としては、例えば、無アルカリガラス基板(例えば、コーニング社製#1737等)を用いることができる。ゲート電極411及びソース電極410は、図15に示すように、格子状に配列された電極配線であり、その交点には薄膜トランジスタからなるスイッチ素子407bが形成されている。
スイッチ素子407bのソース・ドレインは、それぞれ、ソース電極410とドレイン電極412とに接続されている。ソース電極410は、信号線としての直線部分と、スイッチ素子407bを構成するための延長部分とを備えており、ドレイン電極412は、スイッチ素子407bと電荷蓄積容量407cとをつなぐように設けられている。
ゲート絶縁膜413はSiNxやSiOx等からなっている。ゲート絶縁膜413は、ゲート電極411及びCs電極418を覆うように設けられており、ゲート電極411上に位置する部位がスイッチ素子407bにおけるゲート絶縁膜として作用し、Cs電極418上に位置する部位は電荷蓄積容量407cにおける誘電体層として作用する。つまり、電荷蓄積容量407cは、ゲート電極411と同一層に形成されたCs電極418とドレイン電極412との重畳領域によって形成されている。なお、ゲート絶縁膜413としては、SiNxやSiOxに限らず、ゲート電極411及びCs電極418を陽極酸化した陽極酸化膜を併用することもできる。
また、チャネル層(i層)415はスイッチ素子407bのチャネル部であり、ソース電極410とドレイン電極412とを結ぶ電流の通路である。コンタクト電極(n+層)416はソース電極410とドレイン電極412とのコンタクトを図る。
絶縁保護膜417は、ソース電極410及びドレイン電極412上、つまり、ガラス基板408上に、ほぼ全面(ほぼ全領域)にわたって形成されている。これにより、ドレイン電極412とソース電極410とを保護すると共に、電気的な絶縁分離を図っている。また、絶縁保護膜417は、その所定位置、つまり、ドレイン電極412においてCs電極418と対向している部分上に位置する部位に、コンタクトホール421を有している。
電荷収集電極407aは、非晶質透明導電酸化膜からなっている。電荷収集電極407aは、コンタクトホール421を埋めるようにして形成されており、ソース電極410上及びドレイン電極412上に積層されている。電荷収集電極407aと光導電層404とは電気的に導通しており、光導電層404で発生した電荷を電荷収集電極407aで収集できるようになっている。
続いて、電荷収集電極407aについて詳細に説明する。本実施形態で用いる電荷収集電極407aは、非晶質透明導電酸化膜によって構成されている。非晶質透明導電酸化膜材料としては、インジウムと錫との酸化物(ITO:Indium-Tin-Oxide)や、インジウムと亜鉛との酸化物(IZO:Indium-Zinc-Oxide)、インジウムとゲルマニウムとの酸化物(IGO:Indium-Germanium-Oxide)等を基本組成とするものを使用することができる。
また、電荷収集電極407aとしては、各種の金属膜や導電酸化膜が使用されているが、下記の理由により、ITO(Indium-Tin-Oxide)等の透明導電酸化膜が用いられることが多い。放射線検出器400において入射X線量が多い場合、不要な電荷が半導体膜中(あるいは半導体膜と隣接する層との界面付近)に捕獲されることがある。
このような残留電荷は、長時間メモリーされたり、時間をかけつつ移動したりするので、以降の画像検出時にX線検出特性が劣化したり、残像(虚像)が現れたりして問題になる。そこで、特開平9−9153号公報(対応米国特許第5563421号)には、光導電層404に残留電荷が発生した場合に、光導電層404の外側から光を照射することで、残留電荷を励起させて取り除く方法が開示されている。この場合、光導電層404の下側(電荷収集電極407a側)から効率よく光を照射するためには、電荷収集電極407aが照射光に対して透明である必要がある。
また、電荷収集電極407aの面積充填率(フィルファクター)を大きくする目的、またはスイッチ素子407bをシールドする目的で、スイッチ素子407bを覆うように電荷収集電極407aを形成することが望まれるが、電荷収集電極407aが不透明であると、電荷収集電極407aの形成後にスイッチ素子407bを観察することができない。
例えば、電荷収集電極407aを形成後、スイッチ素子407bの特性検査を行う場合、スイッチ素子407bが不透明な電荷収集電極407aで覆われていると、スイッチ素子407bの特性不良が見つかった際、その原因を解明するために光学顕微鏡等で観察することができない。従って、電荷収集電極407aの形成後もスイッチ素子407bを容易に観察することができるように、電荷収集電極407aは透明であることが望ましい。
層間絶縁膜420は、感光性を有するアクリル樹脂からなり、スイッチ素子407bの電気的な絶縁分離を図っている。層間絶縁膜420には、コンタクトホール421が貫通しており、電荷収集電極407aはドレイン電極412に接続されている。コンタクトホール421は、図14に示すように逆テーパ形状で形成されている。
バイアス電極401とCs電極418との間には、図示しない高圧電源が接続されている。ここで、高圧電源に接続された高電圧線432をバイアス電極401と電気的に接続する構成について説明する。
図10及び図12に示すように、TFT方式の放射線検出器400は、バイアス電極401からガラス基板408上の光導電層404の無い領域へ延長された延長電極部431を備えている。延長電極部431は、図10に示すように、光導電層404の下方へ傾斜する下り勾配の側面に沿って、放射線検出器400の最低部にあたるガラス基板408まで引き下ろされている。
また、図10及び図12に示すように、中間層の一例としての正孔注入阻止層402は、光導電層404とバイアス電極401との間から延長電極部431とガラス基板408との間へわたって形成されており、ガラス基板408上の光導電層404の無い領域へ延長されている。
また、正孔注入阻止層402は、ガラス基板408上に直接形成されており、延長電極部431をガラス基板408に接合する下地としても用いられている。
延長電極部431は、延長電極部431からバイアス電極401を介して光導電層404へバイアス電圧を印加する導線としての高電圧線432と、ガラス基板408上の光導電層404の無い領域で電気的に接続されている。高電圧線432は、外部から引き込まれており、導電性ペースト433により、延長電極部431の先端部と電気的に接続されている。
次に、光導電層404を被覆する構成について説明する。図10に示すように、バイアス電極401の上方には、バイアス電極401を覆うカバー部材の一例としてのカバーガラス440が設けられている。
ガラス基板408には、カバーガラス440が接合される保護部材442が設けられている。
保護部材442は、光導電層404の周囲を囲んでおり、全体として上部及び下部が開放された箱状に形成されている。
また、保護部材442は、ガラス基板408の外周部上に立設された側壁442aと、側壁442aの上部からガラス基板408中央部の上方側へ張り出すフランジ部442bとを有しており、断面L字状に形成されている。
カバーガラス440は、その外周部の上面がフランジ部442b下面(内壁)に接合されており、保護部材442により支持されている。
この保護部材442とカバーガラス440との接合部分は、光導電層404の外側に配置されている。すなわち、光導電層404の上方ではなく、ガラス基板408上の光導電層404の無い領域で、保護部材442とカバーガラス440とが接合されている。
なお、保護部材442には、絶縁性を有する絶縁性部材が用いられている。絶縁性部材としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(アクリル)、ポリ塩化ビニールが用いられる。
また、保護部材442は、下部開放がガラス基板408で閉鎖されると共に上部開放がカバーガラス440で閉鎖されており、保護部材442内に所定の大きさの閉鎖空間が形成される。この閉鎖空間に光導電層404が収容されて、光導電層404がカバーガラス440、ガラス基板408及び保護部材442で被覆される。
また、カバーガラス440と保護部材442とガラス基板408とに囲まれた空間には、充填部材としての硬化性樹脂444が充填されている。硬化性樹脂444としては、例えば、エポキシ、シリコン等の常温硬化性樹脂が用いられる。
(TFT方式の放射線検出器の動作原理)
次に、上記のTFT方式の放射線検出器400の動作原理について説明する。光導電層404にX線が照射されると、光導電層404内に電荷(電子−正孔対)が発生する。バイアス電極401とCs電極418との間に電圧が印加された状態、すなわちバイアス電極401とCs電極418とを介して光導電層404に電圧が印加された状態において、光導電層404と電荷蓄積容量407cとは電気的に直列に接続された構造となっているので、光導電層404内に発生した電子は+電極側に、正孔は−電極側に移動し、その結果、電荷蓄積容量407cに電荷が蓄積される。
電荷蓄積容量407cに蓄積された電荷は、ゲート電極411への入力信号によってスイッチ素子407bをオン状態にすることによりソース電極410を介して外部に取り出すことが可能となる。そして、ゲート電極411とソース電極410とからなる電極配線、スイッチ素子407b及び電荷蓄積容量407cは、すべてマトリクス状に設けられているため、ゲート電極411に入力する信号を順次走査し、ソース電極410からの信号をソース電極410毎に検知することにより、二次元的にX線の画像情報を得ることが可能となる。
(TFT方式の放射線検出器の作用効果)
次に、上記のTFT方式の放射線検出器400の作用効果について説明する。
本実施形態の構成では、バイアス電極401の端部の1辺以上が光導電層404よりも外側に配置されており、その端部が光導電層404上にかからないので、バイアス電極401の端部における電界集中によって増大したリーク電流が光導電層404に流れず、光導電層404の劣化を抑制できる。
また、本実施形態の構成では、バイアス電極401の端部と光導電層404との間に絶縁性物質を形成することなく、バイアス電極401の端部を光導電層404の外側に配置することで光導電層404の劣化を抑制するので、光導電層404の全領域において放射線検出が可能となり、光導電層404において放射線検出のできない無駄な領域ができない。
また、本実施形態の構成によれば、バイアス電極401の端部が積層される絶縁部456が、バイアス電極401の端部とガラス基板536との間に配置されているので、バイアス電極401と下部電極520との間の絶縁性を確保できる。
また、本実施形態の構成では、バイアス電極401の端部が積層される絶縁部456の積層面の高さが、バイアス電極401が積層される光導電層404の積層面の高さと略一致しているので、光導電層404と絶縁部456との境界でバイアス電極401に屈曲点が形成されにくいので、電界集中がおきにくく、光導電層404の劣化を抑制できる。
本発明は、上記の実施形態に限るものではなく、種々の変形、変更、改良が可能である。