以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態によるバルブタイミング調整装置1を車両の内燃機関に適用した例を示している。バルブタイミング調整装置1は、カム軸2が開閉する「動弁」としての吸気弁のバルブタイミングを、「作動液」としての作動油により調整する。バルブタイミング調整装置1は、クランク軸(図示しない)からカム軸2に機関トルクを伝達する伝達系に設置されて作動油により駆動される駆動部10、並びに駆動部10への作動油供給を制御する制御部40を備えている。
(駆動部)
まず、駆動部10の詳細を説明する。図1および図2に示す駆動部10においてハウジング11は、シューハウジング12、スプロケット13およびフロントプレート15等から構成されている。
金属製のシューハウジング12は、円筒状のハウジング本体120と、仕切部として複数のシュー121,122,123とを有している。各シュー121,122,123は、ハウジング本体120において回転方向に所定間隔ずつあけた箇所から径方向内側に突出している。各シュー121,122,123の突出側端部はシール部材を介してベーンロータ14の回転軸140の外周面に摺接する。回転方向において隣り合うシュー121,122,123の間には、それぞれ収容室20が形成される。
スプロケット13およびフロントプレート15はともに金属で円環状に形成されており、それぞれシューハウジング12の両端部に同軸上に固定されている。ここで、複数の歯19が径方向外側に突出してなるスプロケット13は、それらの歯19に掛けられるタイミングチェーン(図示しない)を介してクランク軸と連繋する。これにより内燃機関の運転中は、クランク軸からスプロケット13に機関トルクが伝達されることで、ハウジング11がクランク軸と連動して図2の時計方向に回転する。
金属製のベーンロータ14は、ハウジング11内に同軸上に収容されており、軸方向の両側にてハウジング11のスプロケット13およびフロントプレート15と摺接する。ベーンロータ14は、円筒状の回転軸140と、ベーン141,142,143とを備えている。
回転軸140は、カム軸2に対して同軸上に固定されている。これによりベーンロータ14は、カム軸2と連動して図2の時計方向に回転するとともに、ハウジング11に対して相対回転可能となっている。ここで本実施形態の回転軸140は、軸本体140aの両側に、スプロケット13を軸方向に貫通してハウジング11外部のカム軸2に固定されるボス140bと、フロントプレート15を軸方向に貫通してハウジング11外部に開口するブッシュ140cとを固定してなる。カム軸2は、軸受5によって回転可能に支持されている。各ベーン141,142,143は、回転軸140の軸本体140aにおいて回転方向に所定間隔ずつあけた箇所から径方向外側に突出し、それぞれ対応する収容室20内に収容されている。各ベーン141,142,143の突出側端部はシール部材を介してハウジング本体120の内周面と摺接する。
各ベーン141,142,143は、それぞれ対応する収容室20を回転方向に区画することにより、進角室22,23,24並びに遅角室26,27,28をハウジング11内部に形成している。シュー121およびベーン141の間には進角室22が形成され、シュー122およびベーン142の間には進角室23が形成され、シュー123およびベーン143の間には進角室24が形成されている。これら進角室22,23,24は、作動油が導入されることにより容積拡大して、シュー121,122,123に対してベーン141,142,143を進角方向に押圧する。これに対して、シュー122およびベーン141の間には遅角室26が形成され、シュー123およびベーン142の間には遅角室27が形成され、シュー121およびベーン143の間には遅角室28が形成されている。これら遅角室26,27,28は、作動油が導入されることにより容積拡大して、シュー122,123,121に対してベーン141,142,143を遅角方向に押圧する。
(制御部)
次に、制御部40の詳細を説明する。図1および図2に示す制御部40において進角主通路41は、回転軸140のブッシュ140cの内周面に沿って形成されている。進角分岐通路42,43,44は回転軸140の軸本体140aおよびブッシュ140cを貫通して、それぞれ対応する進角室22,23,24および共通の進角主通路41に連通している。遅角主通路45は、回転軸140の軸本体140aの内周面に開口する環状溝により形成されている。遅角分岐通路46,47,48は軸本体140aを貫通して、それぞれ対応する遅角室26,27,28および共通の遅角主通路45に連通している。ロック通路200は、回転軸140の軸本体140aおよびボス140bを貫通してロック室31と連通している。
主供給通路50は、回転軸140の軸本体140aおよびボス140bを貫通し、カム軸2の搬送通路3を介して供給源としてのポンプ4に接続され、且つ主供給ポート664にも接続されている。主供給通路50は、その途中に設けられた分岐部51で副供給通路52に分岐し、副供給通路52は副供給ポート665に接続されている。ここでポンプ4は、内燃機関の運転に伴ってクランク軸により駆動されるメカポンプであり、機関運転中は、オイルパン6から吸入した作動油を継続して吐出する。
主供給通路50の分岐部51よりもポンプ4側の部位には、リード状の弁体を有する主逆止弁500が設けられ、主逆止弁500は作動油が主供給ポート664側からポンプ4側へ流れることを防止する。さらに、副供給通路52には、リード状の弁体を有する副逆止弁520が設けられ、副逆止弁520は作動油が副供給ポート665側から分岐部51側へ流れることを防止する。また、搬送通路3は、カム軸2の回転に拘らず常にポンプ4の吐出口と連通可能となっており、故に機関運転中は、ポンプ4から吐出される作動油を主供給通路50側に継続して搬送する。
排出通路53は、制御部40の両端側に設けられた排出ポートである、スリーブ部66における第一方向X(スリーブ70の直線移動方向の一方)の端部の排出開口部666およびスリーブ部66における第二方向Y(スリーブ70直線移動方向の他方)の端部の排出開口部667と、オイルパン6とを接続する通路である。両排出開口部666,667は、第一ドレンポート704a、第二ドレンポート704bに連通している。これにより、排出通路53は、スプール66の内部の作動油をオイルパン6へ排出する通路として機能する。
制御弁60は、金属製の弁ボディ61に弁部材としてのスプール70を収容してなるスプール弁であり、ベーンロータ14の回転軸140に同軸上に内蔵されて一体回転可能となっている。
弁ボディ61は、雄螺子状の固定部62と有底円筒状のスリーブ部66とを軸方向に並んで有している。固定部62はカム軸2に螺着されており、それによって回転軸140の構成要素140a,140b,140cを、スリーブ部66の周壁に形成された鍔部660とカム軸2との間に挟んで固定している。スリーブ部66は回転軸140の構成要素140a,140b,140cを軸方向に跨るように配置され、固定部62とは軸方向の反対側においてブッシュ140c内部に排出開口部666によって開口している。
スリーブ部66は、その周壁を径方向に貫通する複数のポート661,662,663,664,665を、軸方向に所定間隔ずつあけて形成している。ここで、固定部62から最も離間している「作動ポート」としての進角ポート661は、進角主通路41に連通している。進角ポート661よりも固定部62側に位置している「作動ポート」としての遅角ポート662は、遅角主通路45に連通している。遅角ポート662よりも固定部62側に位置しているロックポート663は、ロック通路200に連通している。進角ポート661および遅角ポート662の間に位置している供給ポートとしての主供給ポート664と、ロックポート663よりも固定部62側に位置している副供給ポート665とはともに、主供給通路50と連通している。スリーブ部66における、第一方向Xの端部の排出開口部666および第二方向Yの端部の排出開口部667は、排出通路53と連通する排出ポートを形成している。金属製のスプール70は有底円筒状に形成され、開口部を固定部62側に向けてスリーブ部66内部に同軸上に配置されて軸方向両側に直線移動可能となっている。
(変動トルクの作用構造)
ベーンロータ14の回転軸140にカム軸2が固定されている駆動部10において内燃機関の回転中は、カム軸2が開閉駆動する吸気弁からのスプリング反力等に起因して、変動トルクがベーンロータ14に作用する。ここで、図4に例示するように変動トルクは、ハウジング11に対する進角側へベーンロータ14を付勢する負トルクと、ハウジング11に対する遅角側へベーンロータ14を付勢する正トルクとの間において、交番するものである。そして、特に本実施形態の変動トルクについては、カム軸2および軸受間のフリクション等に起因して、正トルクのピークトルクT+が負トルクのピークトルクT−よりも大きくなっており、それらの平均トルクTaveが正トルク側へ偏っている。したがって、内燃機関の回転中においてベーンロータ14は、カム軸2から伝達される変動トルクにより、ハウジング11に対する遅角側へ平均的に偏って付勢されるようになっている。
(付勢構造)
図1および図3に示す駆動部10においてハウジング11には、フロントプレート15に固定されてシューハウジング12とは反対側へ突出する金属製の第一ストッパ18が、設けられている。第一ストッパ18は、回転軸140の回転中心Oに対して設定距離Lsを挟んで偏心する位置から、回転軸140の軸方向に沿う円柱ピン状に突出している。なお、図3において、制御弁60の図示は図面の理解を容易にするため省略している。
ベーンロータ14において、フロントプレート15からシューハウジング12とは反対側へ突出する回転軸140のブッシュ140cは、正八角形状の外周面1401により、輪郭が回転方向にて屈曲する八つの角部1402を形成している。さらにベーンロータ14は、ブッシュ140cから径方向の相反方向へ平板状に突出する一対のアーム1403,1404を有している。一方のアーム1403は、フロントプレート15側へ突出する金属製の第二ストッパ1405を一体に形成している。第二ストッパ1405は、回転軸140の回転中心Oに対して第一ストッパ18の場合と実質的に同距離Lsを挟んで偏心する位置から、回転軸140の軸方向に沿う円柱ピン状に突出し、且つ回転軸140の回転方向において第一ストッパ18と重ならないようになっている。他方のアーム1404には、それに固定されてフロントプレート15側へ突出する金属製のガイド1406が設けられている。ガイド1406は、回転軸140の回転中心Oに対してストッパ18,1405の場合のLsよりも小さな距離Lgを挟んで偏心する位置から、回転軸140の軸方向に沿う円柱ピン状に突出している。
回転軸140においてブッシュ140cの外周側には、アシストスプリングとしての金属製の渦巻きばね100が配置されている。渦巻きばね100は、実質的に平面内での渦巻き状に形成されて内外周の素線同士が互いに離間する非接触型のひげぜんまいからなる。渦巻きばね100は、その渦巻き中心Pが回転軸140の回転中心Oに対して位置合わせされて、フロントプレート15とアーム1403,1404との間に配置されている。
渦巻きばね100において最内周部分101は、回転軸140の回転方向の少なくとも180度の範囲にてブッシュ140cの外周面1401に沿う形状に屈曲されることで、四つの屈曲部102を形成している。各屈曲部102は、ブッシュ140cの外周面1401においてそれぞれ対応する角部1402に嵌合している。これにより渦巻きばね100の最内周部分101は、回転方向の少なくとも180度の範囲に形成の四つの角部1402を跨いでブッシュ140cに巻付けられて、回転軸140により回転方向の両側に係止されている。さらに、渦巻きばね100の最内周部分101のうち、先端部から数えて二つ目の屈曲部102と三つ目の屈曲部102との間を結ぶ線状部分103については、ガイド1406とブッシュ140cの外周面1401との間に挟まれている。これにより渦巻きばね100の最内周部分101は、回転軸140による係止位置のずれを規制された状態となっている。したがって、本実施形態では、回転軸140に対して溶着や接着等による渦巻きばね100の固着が不要となっているが、そうした渦巻きばね100の固着を行ってもよい。
渦巻きばね100において、最内周部分101よりも外周部分となる最外周部分104はU字状に湾曲または屈曲されることで、係止部104a,104bを形成している。ここで、係止部104a,104bの形成位置は、回転軸140の回転中心Oに対してストッパ18,1405の場合と実質的に同距離Lsを挟む位置に、設定されている。
図1および図3に示すように第一係止部104bは、最外周部分104において回転軸140の軸方向のフロントプレート15側に設けられ、回転軸140の回転方向のうちハウジング11に対する遅角側へ向かってU字状に開口している。規制位相である始動位相よりも遅角側の回転位相において第一係止部104bは、回転軸140の径方向に第一ストッパ18を挟んだ状態で第一ストッパ18により係止されることで、内周側への位置ずれを規制されるようになっている。
図1および図3に示すように第二係止部104aは、最外周部分104において回転軸140の軸方向のアーム1403側に第一係止部104bからずれて設けられ、回転軸140の回転方向のうちハウジング11に対する遅角側へ向かってU字状に開口している。規制位相である始動位相よりも進角側の回転位相において第二係止部104aは、回転軸140の径方向に第二ストッパ1405を挟んだ状態で第二ストッパ1405により係止されることで、内周側への位置ずれを規制されるようになっている。
以上の付勢構造によれば、回転位相が規制位相である始動位相よりも遅角側へ変化するときには、ベーンロータ14の回転軸140に最内周部分101が係止される渦巻きばね100は、最外周部分104のうち第一係止部104bがハウジング11の第一ストッパ18に係止される。このとき、渦巻きばね100の最外周部分104のうち第二係止部104aからはベーンロータ14の第二ストッパ1405が遅角側へ離間するので、渦巻きばね100によって回転軸140、つまりベーンロータ14が進角側へ付勢された状態となる。
これに対し、回転位相が規制位相である始動位相よりも進角側へ変化するときには、回転軸140に最内周部分101を係止される渦巻きばね100は、最外周部分104のうち第二係止部104aを第二ストッパ1405に係止される。このとき、渦巻きばね100の最外周部分104のうち第一係止部104bは第一ストッパ18から進角側へ離間するので、渦巻きばね100によるベーンロータ14の付勢が禁止された状態となる。
このように、規制位相である始動位相よりも遅角側では、ハウジング11の第一ストッパ18とベーンロータ14の回転軸140とに係止される渦巻きばね100により、平均的に遅角側へ偏る変動トルクに抗してベーンロータ14が進角側へ付勢される。また一方、規制位相である始動位相よりも進角側では、ベーンロータ14の第二ストッパ1405および回転軸140に渦巻きばね100が係止されるので、平均的に遅角側へ偏る変動トルクによってベーンロータ14が遅角側へ付勢されることになる。これらによれば、内燃機関の停止に際して回転位相を遅角側からでも進角側からでも規制位相まで変化させることができるので、規制位相でのロック性能が向上し、内燃機関の始動時における回転位相を規制位相に保持して機関始動性を確保し得るのである。
また、渦巻きばね100は、平均的に遅角側へ偏る変動トルクの平均値よりも大きな付勢力で変動トルクに抗してベーンロータを進角側へ付勢するため、規制位相よりも遅角側では、渦巻きばね100の付勢力により内燃機関の停止に際して回転位相を規制位相まで変化させ得る。一方、規制位相よりも進角側では、遅角側へ偏る当該変動トルクを利用することにより、内燃機関の停止に際して回転位相を規制位相まで変化させ得る。これらによれば、規制位相でのロック性能が向上し、内燃機関の始動時における回転位相を規制位相に保持して、機関始動性を確保することができる。
また、渦巻きばね100の最内周部分101は、ベーンロータ14の回転軸140をなすブッシュ140cに対して回転方向の巻付状態で係止されているので、ハウジング11に対するベーンロータ14の相対回転に伴って変形し難い。また特に、最内周部分101については、回転方向の少なくとも180度の範囲にてブッシュ140cの外周面1401に形成の四つの角部1402を跨いで巻付けられているので、形状が安定するだけでなく、係止位置のずれが規制されることになる。さらにベーンロータ14において、角部1402を跨いだ巻付状態とともにブッシュ140cおよびガイド1406間に挟まれた最内周部分101は、係止位置のずれの規制作用を高めている。これらによれば、最内周部分101とブッシュ140cとの摺動に起因して、ハウジング11に対するベーンロータ14の遅角側への相対回転時と進角側への相対回転時とで、すなわち回転位相の遅角変化時と進角変化時とで相反方向に摺動抵抗が発生する事態を、抑制し得る。
加えて、ひげぜんまいからなる渦巻きばね100は、ハウジング11に対するベーンロータ14の相対回転に伴うねじりによっても、内外周の素線同士を互いに離間させた形状を維持し得る。さらに、渦巻きばね100の最外周部分104は、係止部104a、または104bがストッパ18または1405に係止されることにより、素線間隔を狭める内周側への位置ずれを回転位相に拘らず規制されることになる。これらによれば、回転位相の遅角変化時と進角変化時とで相反方向の摺動抵抗が渦巻きばね100の素線間に発生する事態を、抑制し得るのである。
(第一規制・ロック構造)
次に、本実施形態の位相ロック部30を説明する。図1、図6および図7に示すように、フロントプレート15には、第一規制凹部151およびロック凹部152を形成している。第一規制凹部151は、フロントプレート15の内面に開口してハウジング11の回転方向に伸びており、閉塞された両端部に一対の規制ストッパ151a,151bが設けられた形態となっている。ロック凹部152は、カム軸2に軸平行な有底筒孔状を呈している。
ベーン141には、第一収容孔310が形成されている。第一収容孔310は、カム軸2に軸平行な有底円筒孔状を呈しており、フロントプレート15の内面に対するベーンロータ14の摺接端面に開口している。第一収容孔310には、金属製のインナーピンで構成される第一主規制部材32と、弾性変形により復原力を発生して第一主規制部材32をフロントプレート15側に付勢し金属製の圧縮コイルスプリングで構成される第一主弾性部材33と、内嵌された第一主規制部材32が内部を摺動する金属製のアウターピンで構成される第一副規制部材34と、弾性変形により復原力を発生して第一副規制部材34をフロントプレート15側に付勢し金属製の圧縮コイルスプリングで構成される第一副弾性部材35と、が内蔵されている。
第一収容孔310は、当該凹部151,152の形成されたフロントプレート15側の開口部に、小径支持部311を有している。小径支持部311は、第一規制凹部151およびロック凹部152に対し、それぞれ所定の回転位相において対向するように形成されている。また、本実施形態の小径支持部311については、ベーン141におけるフロントプレート15側に形成された小径の内周面により形成されている。第一収容孔310は、当該凹部151,152の形成されたフロントプレート15側に対して反対側となる底面側に、小径支持部311よりも大径の大径支持部312を有している。
大径支持部312においてフロントプレート15側の端部は、ベーンロータ14に貫通形成されたロック通路200と常時連通することで、作動油の入出可能なロック室31を形成している。ロック室31は、フロントプレート15の内面と第一副規制部材34におけるフロントプレート15側の外面との間に形成される円環状の空間である。また、大径支持部312においてフロントプレート15側とは反対側には、ベーンロータ14に貫通形成された進角連通路201および遅角連通路202が形成されている。進角連通路201は進角室22に繋がっており、遅角連通路202は遅角室26に繋がっている。
大径支持部312においてフロントプレート15側とは反対側の端部には、大径支持部312に摺動自在に内嵌された第一副規制部材34の内面とによって連通室313が形成される。連通室313は、大径支持部312の内側を摺動する第一副規制部材34が所定範囲の摺動位置であるときに進角連通路201および遅角連通路202と連通可能となる。また、ベーン141は、大径支持部312の内面に開口し外部と連通して外気が流出入可能な大気孔203を形成している。この大気孔203は、その通路断面積が進角連通路201および遅角連通路202の通路断面積よりも大きくなるように設けてもよい。
第一収容孔310には、それぞれ金属により形成された円筒状の規制部材32,34が、同心収容されている。第一主規制部材32は、小径支持部311により外周面を支持されることで、軸方向に往復移動可能となっている。第一主規制部材32は、外周側に突出する円環状の突出部320を、その軸方向の略中央部に形成している。また、第一主規制部材32は、フロントプレート15側とその反対側とを常時連通する通孔321を内周孔によって形成している。
ここで第一主規制部材32は、ロック位相を含む規制位相の領域において突入方向Xに移動することで、図7(b)のようにハウジング11の第一規制凹部151に突入する。こうして第一規制凹部151に突入した第一主規制部材32は、図7(b)のように第一規制凹部151の遅角側端部の規制ストッパ151aにより係止されることで、規制位相の領域のうちその遅角側限界の第一規制位相にて回転位相の遅角側変化を規制する。また一方、第一規制凹部151に突入した第一主規制部材32は、第一規制凹部151の進角側端部の規制ストッパ151bにより係止されることで、ロック位相にて回転位相の進角側変化を規制する。
また、第一主規制部材32は、ロック位相において第一規制凹部151側から突入方向Xに移動することで、図7(c)のようにハウジング11のロック凹部152に突入する。こうしてロック凹部152に突入した第一主規制部材32は、ロック凹部152との嵌合により回転位相の進角側および遅角側双方への変化を規制することで、回転位相をロック位相にロックする。
さらに第一主規制部材32は、ロック位相を含む規制位相の領域において図9〜図11のように脱出方向Yに移動することで、ハウジング11のロック凹部152および第一規制凹部151の双方から脱出する。こうして第一主規制部材32が凹部152,151から脱出することによれば、回転位相の規制が解除されるので、任意の回転位相変化を許容することが可能となる。
以上の第一主規制部材32に対して、第一副規制部材34は、第一収容孔310の小径支持部311よりも大径支持部312側にて第一主規制部材32の外周面に嵌合し、且つ大径支持部312によって外周面を支持されている。このような嵌合および支持の形態によって第一副規制部材34は、第一主規制部材32の場合と同方向となる軸方向に往復移動可能且つ第一主規制部材32に対して相対移動可能となっている。
第一副規制部材34は、ロック室31に露出して小径支持部311のフロントプレート15側とは反対側の端面311aと対向する受圧部340を、フロントプレート15側を向いた円環状の端面によって形成している。この受圧部340がロック室31の作動油から脱出方向Yに圧力を受けることで、第一副規制部材34を脱出方向Yに駆動する駆動力が発生する。
また、第一副規制部材34は、連通室313に露出して大径支持部312の底面と対向する係合部341を、フロントプレート15側とは反対側を向いた円環状の面部によって形成している。この係合部341が突出部320に対して図9〜図11のように脱出方向Yに係合した状態では、第一副規制部材34に発生する駆動力を第一主規制部材32に伝達して、それら規制部材32,34を脱出方向Yに一体に駆動することが可能となる。
さらに、第一副規制部材34の脱出方向Yの端部が進角連通路201および遅角連通路202と連通室313との間を連通遮断する遮断位置よりも突入方向Xに移動することで、図6〜図8のように連通室313が進角連通路201および遅角連通路202と連通可能になり、進角連通路201および遅角連通路202が連通室313を介して大気孔203と連通可能となる。
第一収容孔310において少なくとも連通室313を含む部分には、弾性部材33,35が同心に収容されている。第一主弾性部材33は、第一収容孔310におけるフロントプレート15側と反対側の底面と第一主規制部材32との間に介装されている。第一主弾性部材33は、第一収容孔310および第一主規制部材32間での圧縮変形により第一主復原力を発生することで、第一主規制部材32を突入方向Xに付勢する。したがって、最遅角位相を含む規制位相の領域外においては、第一主弾性部材33の第一主復原力により第一主規制部材32を突入方向Xに駆動することで、図7(a)のように第一主規制部材32をフロントプレート15側の内面に当接させることが可能となっている。また、図9〜図11のように係合部341が突出部320に対して係合した状態では、第一主弾性部材33の第一主復原力によって第一主規制部材32を第一副規制部材34に合わせて突入方向Xに一体に駆動することが可能となる。
以上の第一主弾性部材33に対して、第一副弾性部材35は、第一収容孔310におけるフロントプレート15側と反対側の底面と第一副規制部材34との間に介装されている。第一副弾性部材35は、第一収容孔310および第一副規制部材34間での圧縮変形により第一副復原力を発生することで、第一副規制部材34を突入方向Xに付勢する。したがって、規制位相の領域外において第一主規制部材32が図7(a)のようにフロントプレート15の内面と当接した状態では、第一副弾性部材35の第一副復原力により第一副規制部材34のみを駆動して、係合部341を突出部320から突入方向Xに離間させることが可能となっている。また、第一副弾性部材35の第一副復原力により係合部341を突出部320から離間させた第一副規制部材34については、図7(a)のように第一副規制部材34におけるフロントプレート15側の端部を小径支持部311の端面311aに当接させることが可能となっている。
以上の構成により駆動部10では、図7(c)のように第一主規制部材32がロック凹部152に嵌合することによるロックの実現時に、ハウジング11に対するベーンロータ14の回転位相が保持される。これに対して、図7(a)のように第一主規制部材32がロック凹部152および第一規制凹部151から離脱することによるロックの解除時には、進角室22,23,24への作動油導入および遅角室26,27,28からの作動油排出により回転位相が進角側に変化し、バルブタイミングが進角する。また、ロック解除時には、遅角室26,27,28への作動油導入および進角室22,23,24からの作動油排出により回転位相が遅角側に変化し、バルブタイミングが遅角することになる。
なお、ここまでの説明からも明らかなように本実施形態では、要素30,31,32,33,151,152が「ロック手段」として機能する。
(第二規制構造)
ベーンロータ14のベーン142および対応する位置のフロントプレート15には、前述の第一規制構造と類似の構成である第二規制構造110が設けられている。この第二規制構造110は、規制位相の領域のうち前述の第一規制位相よりも進角側の位相(第二規制位相、第三規制位相)において回転位相の遅角側変化を規制するものである。第二規制構造に関しては、前述の第一規制構造の説明と異なる部分について簡潔に説明する。
ベーン142に形成される第一収容孔には、第一規制構造における各要素と同様の第二主規制部材、第二主弾性部材、第二副規制部材、および第二副弾性部材、が内蔵されている。また、フロントプレート15に形成される第二規制凹部は、フロントプレート15の内面に開口してハウジング11の回転方向に伸びており、遅角側から進角側に向かって一段階凹むことで浅底部および深底部を有した形態となっている。第二規制凹部の浅底部および深底部においてそれぞれ閉塞された遅角側端部には、規制ストッパが設けられている。
第二主規制部材は、ロック位相を含む規制位相の領域において突入方向Xに移動することで、第二規制凹部のうち遅角側の浅底部または進角側の深底部に突入する。こうして、浅底部に突入した第二主規制部材は、浅底部の遅角側端部の規制ストッパによって係止されることで、規制位相の領域のうち第一規制位相よりも進角側の第二規制位相にて回転位相の遅角側変化を規制する。また一方、深底部に突入した第二主規制部材は、深底部の遅角側端部の規制ストッパによって係止されることで、規制位相の領域のうち第二規制位相よりも進角側且つロック位相よりも遅角側の第三規制位相にて回転位相の遅角側変化を規制する。さらに第二主規制部材は、ロック位相を含む規制位相の領域において脱出方向Yに移動することで、第二規制凹部から脱出する。こうして第二主規制部材が第二規制凹部から脱出することによれば、回転位相の規制が解除されるので、任意の回転位相変化を許容することが可能となる。
次に、スプール70の詳細構成について説明する。図1、図6、図8〜図11に示すように、スプール70は、スリーブ部66の内周面に対して摺動するように形成された円環状の複数のランド700,701,702,703を軸方向に所定間隔ずつあけて有している。固定部62から最も離間している進角ランド700は、進角ポート661および排出開口部666間と進角ポート661および主供給ポート664間とのうち、スプール70の移動位置に応じた少なくとも一方においてスリーブ部66に支持される。進角ランド700よりも固定部62側となる遅角ランド701は、遅角ポート662および主供給ポート664間と遅角ポート662およびロックポート663間とのうち、スプール70の移動位置に応じた少なくとも一方においてスリーブ部66に支持される。
遅角ランド701よりも固定部62側となる第一ロックランド702は、スプール70の移動位置に応じて、ロックポート663および遅角ポート662間においてスリーブ部66に支持される。ただし、第一ロックランド702は、スリーブ部66の内周面に開口する環状溝668の存在により、スプール70の移動位置に応じて、スリーブ部66に支持されない状態にもなる。第一ロックランド702よりも固定部62側となる第二ロックランド703は、副供給ポート665およびロックポート663間において、スプール70の移動位置に応じてスリーブ部66に支持される。それとともに第二ロックランド703は、副供給ポート665および固定部62間において、スプール70の移動位置に拘らずスリーブ部66に支持される。
スプール70は、その内部に連通通路704を形成している。連通通路704は、進角ランド700においてスプール70の外周面に開口する第一ドレンポート704aを有しており、スプール70の移動位置に拘らず、その第一ドレンポート704aを介して排出通路53と連通するとともに、スプール70の移動位置に応じて進角ポート661に第一ドレンポート704aを介して連通する。第一ドレンポート704aは、スプール70の移動位置に応じて、進角室22,23,24の作動油を排出通路53へ排出する進角ドレンポートとして機能する。
さらに連通通路704は、第一ロックランド702においてスプール70の外周面に開口する第二ドレンポート704bを有しており、遅角ポート662およびロックポート663のうちスプール70の移動位置に応じたポートに対して、その第二ドレンポート704bを介して連通する。第二ドレンポート704bは、スプール70の移動位置に応じて、遅角室26,27,28の作動油を排出通路53へ排出する遅角ドレンポートとして機能し、あるいはロック室31の作動油をロック通路200およびロックポート663を介して排出通路53へ排出するピンドレンポートとして機能する。
進角ランド700と遅角ランド701との間には、スプール70の外周面から径方向に突出する円環状の第一絞り部710が設けられている。第一絞り部710は、対応するスリーブ部66の内周面との間に絞り通路を形成し、作動油が当該絞り通路をスプール70の軸方向に流通するときに流通抵抗を与えて、流通する作動油の流量を調整する機能を有する。第一絞り部710は、主供給ポート664から進角ポート661へ作動油が流通する進角供給絞り通路を形成し得る。第一絞り部710は、スプール70の移動位置に応じて、進角供給絞り通路を流通する作動油の流量を調節し、進角室22,23,24へ供給される作動油の流量を調整する進角供給流量絞り部として機能する。
遅角ランド701と第一ロックランド702との間には、スプール70の外周面から径方向に突出する円環状の第二絞り部711が設けられている。第二絞り部711は、対応するスリーブ部66の内周面との間に絞り通路を形成し、作動油が当該絞り通路をスプール70の軸方向に流通するときに流通抵抗を与えて、流通する作動油の流量を調整する機能を有する。第二絞り部711は、遅角ポート662から第一ドレンポート704aへ流通する作動油が流通する遅角ドレン絞り通路を形成し得る。第二絞り部711は、スプール70の移動位置に応じて、遅角ドレン絞り通路を流通する作動油の流量を調節し、遅角室26,27,28から排出通路53へ排出される作動油の流量を調整する遅角ドレン流量絞り部として機能する。
さらに第一絞り部710および第二絞り部711のそれぞれにおいて絞り通路を形成する際に、径方向に対向するスリーブ部66側の部位には、第一スリーブ側突出部669、第二スリーブ側突出部670がそれぞれ設けられている。スリーブ側突出部669,670は、周囲部分よりもスリーブ部66の内周面から内方に突出する円環突出部である。このスリーブ側突出部669,670を備える場合には、第一絞り部710および第二絞り部711のそれぞれは、スリーブ側突出部669,670の軸方向前後の位置では流通抵抗が小さい通路を形成し、スリーブ側突出部669,670に対向する部分の表面積が大きくなるにつれて流通抵抗が大きくなる絞り通路を形成するものである。
第一ロックランド702と第二ロックランド703との間には、スプール70の外周面から径方向に突出する円環状のピンドレン開閉部712が設けられている。ピンドレン開閉部712は、スプール70の移動位置に応じて、スリーブ部66の内周面に対して摺動する摺動領域と、スリーブ部66の内周面との間で通路を形成する通路形成領域とを形成するように、スリーブ部66の内周面に対してスプール70の所定位置に設けられている。ピンドレン開閉部712は、図9〜図11に示すように当該摺動領域ではロックポート663と第二ドレンポート704bの連通を遮断し、図6および図8に示すように当該通路形成領域ではロックポート663と第二ドレンポート704bの連通を許容する。
以上の構成により、図5に示すように第一領域Rl(以下、ロック領域Rlともいう)は、第一方向Xの移動端であるスプール基点位置と、進角供給流量(進角室22,23,24に供給される作動油の流量)および遅角ドレン流量(遅角室26,27,28から排出される作動油の流量)が絞られる絞り領域と、を含むストローク範囲の領域である。
ロック領域Rlでは、位相ロック部30において、図7(c)のように第一主規制部材32がロック凹部152に嵌合することにより、ハウジング11に対するベーンロータ14の回転位相が保持される。ロック領域Rlに移動したスプール70は、図6および図8に示すように進角ランド700および遅角ランド701の間において進角ポート661を主供給ポート664に接続する。また、ロック領域Rlにおけるスプール70は、遅角ランド701および第二ロックランド703の間において環状溝668を介してロックポート663に接続した遅角ポート662を、さらに連通通路704を介して排出開口部666,667に接続する。さらに、ロック領域Rlにおけるスプール70は、副供給ポート665を他のポートに対して遮断する。
さらに、絞り領域では、図6に示すように、ポート661,664間において作動油の流通流量を決める流路面積(ここでは、第一絞り部710による絞り通路の開口面積)が図8に示すスプール基点位置における当該絞り通路の開口面積よりも小さく制御される。このため、絞り領域では進角供給流量および遅角ドレン流量はスプール基点位置のときよりも少量になってより緩やか回転速度で進角させる(位相変化させる)ことができる。
また、第一領域Rlのスプール基点位置からスプール位置が第二方向Yに進んで絞り領域に向かうにつれて、第一絞り部710とスリーブ部66の内周面(第一スリーブ側突出部669)との距離が小さくなってポート間流路面積が減少するため、進角供給流量は減少し、第二絞り部711とスリーブ部66の内周面(第二スリーブ側突出部670)との距離が小さくなってポート間流路面積が減少するので、遅角ドレン流量は減少する。また、第一領域Rlのスプール基点位置から絞り領域にかけて、ピンドレン開閉部712によってロックポート663および第二ドレンポート704b間のポート間流路面積が保たれるのでピンドレン流量(ロック室31から排出される作動油の流量)は略一定である。さらに絞り領域の途中から第一領域Rlにおける第二方向Yの終端まで、当該ポート間流路面積が小さくなるようにピンドレン開閉部712によって通路が閉じられるので、ピンドレン流量は減少し続け、当該第二方向Yの終端でピンドレン開閉部712によって通路は遮断され、ピンドレン流量はゼロになる。
また、絞り領域の第二方向Yの終端からスプール位置が第二方向Yに進んで第二領域Rfに向かうにつれて、第一絞り部710とスリーブ部66の内周面(第一スリーブ側突出部669)との距離が大きくなってポート間流路面積が増加するため、進角供給流量は増加し、第二絞り部711とスリーブ部66の内周面(第二スリーブ側突出部670)との距離が大きくなってポート間流路面積が増加するので、遅角ドレン流量は増加する。
図5に示すようにロック領域Rlに対して第二方向Yにずれる第二領域Rfは、進角領域Ra、保持領域Rhおよび遅角領域Rrを含む領域である。第二領域Rfでは、位相ロック部30において図9〜図11のように第一主規制部材32がロック凹部152および第一規制凹部151から離脱することによりハウジング11に対するベーンロータ14の回転位相のロックが解除されるとともに、制御弁60におけるスプール70の位置制御により、回転位相が進角側に変化する進角領域Ra、回転位相が保持される保持領域Rh、回転位相が遅角側に変化する遅角領域Rrにそれぞれ設定される。
進角領域Raに移動したスプール70は、ロック領域Rlと同様、図9に示すように進角ランド700および遅角ランド701の間において進角ポート661を主供給ポート664に接続する。ポート661,664間において作動油の流通流量を決める流路面積(ここでは、第一絞り部710による絞り通路の開口面積)は、図9に示すように、ロック領域Rlにおける絞り領域の当該絞り通路の開口面積(図6参照)よりも大きくなっている。このため、図5に示すように、進角供給流量は進角領域Raの方が絞り領域よりも多くなる。
また図9に示すように、進角領域Raにおけるスプール70は、遅角ランド701および第一ロックランド702の間において遅角ポート662を第二ドレンポート704bを介して連通通路704に接続し、さらに当該通路704を介して排出開口部666,667に接続する。さらに、進角領域Raにおけるスプール70は、第一および第二ロックランド702,703の間においてロックポート663を副供給ポート665に接続し、スリーブ部66の内周面に対して摺動するピンドレン開閉部712によってロックポート663と第二ドレンポート704bの連通を遮断するため、ロックポート663は、当該ポート665に連通の副供給通路52を介して主供給ポート664に接続されるようになる。
進角領域Raでは、スプール位置が第二方向Yに進むにしたがい、進角ランド700とスリーブ部66の内周面(第一スリーブ側突出部669)との距離が小さくなってポート間流路面積が減少するので、進角供給流量は減少し、遅角ランド701とスリーブ部66の内周面(第二スリーブ側突出部670)との距離が小さくなってポート間流路面積が減少するので、遅角ドレン流量は減少する。また、第二領域Rfでは、スプール位置が第二方向Yに進むにしたがい、進角領域Raの途中まで第二ロックランド703によってポート間流路面積が増加した後、以降は第二領域Rfの第二方向Yの終端まで略一定になるので、ピン供給流量(ロック室31に供給される作動油の流量)は増加後、一定になる。
図5に示すように進角領域Raに対して第二方向Yにずれる保持領域Rhに移動したスプール70は、図10のように進角ポート661を他のポートに対して遮断する。また保持領域Rhにおけるスプール70は、遅角ポート662を他のポートに対して遮断する。
さらに図11に示すように、遅角領域Rrに移動したスプール70は、進角ランド700を挟んで遅角ランド701とは反対側において進角ポート661を第一ドレンポート704aに連通させ、排出通路53に接続する。また遅角領域Rrにおけるスプール70は、進角ランド700および遅角ランド701の間において遅角ポート662を主供給ポート664に接続する。さらに遅角領域Rrにおけるスプール70は、進角領域Raの場合と同様に、ロックポート663を第一および第二ロックランド702,703間において副供給ポート665に接続し、ピンドレン開閉部712によってロックポート663と第二ドレンポート704bの連通を遮断するため、ロックポート663は、当該ポート665に連通の副供給通路52を介して主供給ポート664に接続されるようになる。
制御弁60を駆動するために制御部40には、スプリング80、駆動源90、並びに制御回路92が設けられている。スプリング80は金属製の圧縮コイルスプリングからなり、スリーブ部66の底壁およびスプール70の第二ロックランド703の間に同軸上に介装されている。スプリング80は、スリーブ部66およびスプール70間での圧縮に伴う弾性変形により復原力を発生して、スプール70を第一方向Xに付勢する付勢手段である。
図1に示すように駆動源90は、金属製の駆動軸91を有する電磁ソレノイドであり、例えば内燃機関においてエンジンヘッドに固定のチェーンカバーによって保持されている。駆動軸91はロッド状に形成され、スプール70の固定部62とは反対側に同軸上に配置されて軸方向両側、すなわち第一および第二方向X,Yに直線移動可能となっている。駆動軸91は、第一方向Xの付勢力によりスプール70の移動位置に拘らずスプール70の固定部62とは反対側の端部に当接するようになっている。したがって、駆動源90は、通電されたソレノイドコイル(図示しない)の励磁により駆動力を駆動軸91に発生することで、駆動軸91を介してスプール70を第二方向Yに駆動する。このとき、駆動源90により発生した第二方向Yの駆動力と、第一方向Xの付勢力とが釣り合う位置まで、スプール70は移動することになる。このような構成により、スプール70は、駆動源90によって駆動軸91を介した第二方向Yに作用する駆動力を制御することにより、スプリング80による第一方向Xの付勢力と釣り合った状態で前述した第一領域Rlおよび第二領域Rfの任意の位置に制御可能となる。
制御回路92は、例えばマイクロコンピュータ等からなる電子式制御装置であり、駆動源90のソレノイドコイルと電気接続されている。制御回路92は、駆動源90のソレノイドへの通電により制御弁60の駆動を制御するともに、内燃機関の運転についても制御する。
(装置作動)
次に、バルブタイミング調整装置1の作動の詳細を説明する。
(I−1)ロック作動、絞り領域作動(第一領域Rl)
内燃機関において作動油の圧力が低圧となる停止時、始動時、並びにアイドル運転時等に制御回路92は、駆動源90への通電により制御弁60を駆動制御してスプール70をロック領域Rl(第一領域Rl)に移動させる。このとき、位相ロック部30の第一主規制部材32によるロックが解除されている通常の作動状態からロック状態にする場合には、制御回路92は駆動軸91を介してスプール70を駆動して、位相を一旦ロック位相より遅角側に誘導し、第一領域Rlの絞り領域(図6参照)に対応する指令を与える。
その結果、通路41,42,43,44を介して各進角室22,23,24に連通する進角ポート661と、通路50,3を介してポンプ4に連通する主供給ポート664とが接続されて、ポンプ4から供給の作動油が各進角室22,23,24に導入される。また、通路45,46,47,48を介して各遅角室26,27,28に連通する遅角ポート662と、排出通路53に連通する排出開口部666,667とが連通通路704を介して接続されて各遅角室26,27,28から作動油が排出される。この絞り領域における進角供給流量および遅角ドレン流量は、第一領域Rlのうち絞り領域を除く他の領域における流量よりも非常に少量に制御される。このときのベーンロータ14の進角側への回転速度は、当該少量に制御される流量に応じ、絞り領域を除く第一領域Rlの他の領域における挙動に比べてゆっくりした遅い速度になる。
さらに、ロック通路200を介してロック室31に連通するロックポート663と、排出開口部666,667とが連通通路704を介して接続されてロック室31から作動油が排出される。このロック室31からの作動油の流出に伴う第一主規制部材32の突入方向Xへの移動とベーンロータ14の当該遅い回転とによって、図7の(a)図、(b)図、(c)図の順にベーン141が緩やかに進角し、このような制御弁60によるバルブタイミング調整装置1の緩やかな進角側作動において第一主規制部材32がロック凹部152に対応する位相になると、第一主弾性部材33の復原力によって第一主規制部材32がロック凹部152に嵌合し、位相ロックが完了する。
このように、第一領域Rlの絞り領域におけるスプール70の位置に対応して、位相ロック部30では第一主規制部材32による回転位相のロックが行われる。さらに、バルブタイミング調整装置1に対しては、絞られた流量を与えることにより、緩やかな回転速度で進角させることができ、確実な回転位相のロックが実施される。
さらに、渦巻きばね100による作用力は最遅角位相からロック位相までの間で作用し、且つカム軸2の平均トルクより大きなトルクをベーンロータ14に与えているので、ベーンロータ14は渦巻きばね100によってロック位相まで進角することができる。この進角により第一主規制部材32がロック凹部152に対応する位相になると、第一主弾性部材33の弾性力によって第一主規制部材32がロック凹部152に嵌合し、前述のように位相ロックが完了する。
さらに、この絞り領域におけるスプール位置では、位相ロック部30に対しては第一副規制部材34が第一副弾性部材35の弾性力によって作動油を排出する方向(突入方向X)に移動することによって、第一主規制部材32が弾性力により位相をロックすることを許容するとともに、進角連通路201および遅角連通路202を連通室313を介して連通させる。これにより、進角室22,23,24と遅角室26,27,28が連通し、さらに進角室22,23,24および遅角室26,27,28が常時開放の大気孔203とも連通するようになる。したがって、この連通により進角室22,23,24と遅角室26,27,28の圧力差が無くなり、ベーンロータ14で発生する油圧回転トルクを消失させる。
さらに、ロック凹部152および第一規制凹部151によって構成されるロック孔は、このような緩やかな速度の回転に応じて段階的な第一主規制部材32の突出動作を許容する複数の段差を有している。このような突出動作によって、第一主規制部材32がロック凹部152で構成されるロックのための嵌合位置を通り過ぎて進角してしまうことを抑制している。
仮に、第一主規制部材32がロック凹部152に嵌合できずに通り過ぎてさらに進角してしまうような事態が起きた場合には、ベーン141,142による油圧進角トルクは消失しており、且つ渦巻きばね100による進角トルクもロック位相より進角側では消失している。このため、ベーンロータ14は、図4に示すカム軸2の平均トルクによって遅角し加えてカムトルク変動の正成分により再度ロック位相より遅角側まで移動する。したがって、本実施形態のバルブタイミング調整装置1の機構によれば、第一主規制部材32による位相のロック動作を自動的に再度実行することができ、より確実な位相ロック制御を実施できる。
(I−2)内燃機関始動時(第一領域Rl)
内燃機関の始動前は、作動油の供給前であり、バルブタイミング調整装置1の本体内や供給源であるポンプ4からの供給通路等には空気が含まれている。内燃機関の始動時において制御弁60のスプール70は図5および図8に示すスプール基点位置にある。このとき、進角ポート661と主供給ポート664とが連通する状態であり、ポンプ4から供給される作動油は各進角室22,23,24に導入される。さらに、位相ロック部30においては、第一副規制部材34が第一副弾性部材35の弾性力によってロック室31の作動油を排出した状態で、第一主規制部材32が弾性力により位相をロックするとともに、進角連通路201および遅角連通路202が連通室313を介して連通する状態になっている。
そして、内燃機関の始動に伴いポンプ4が作動油の供給を開始すると、作動油は主供給通路50を通って主供給ポート664に流入し、スプール70の外周面周りを通り、進角ポート661から進角室22,23,24に供給される。進角室22に供給された作動油は、進角連通路201、連通室313、遅角連通路202、遅角室26、遅角ポート662、第二ドレンポート704b、連通通路704、排出通路53、オイルパン6を順に流れる。このようにポンプ4により供給される作動油は速やかに循環するため、循環経路に含まれる空気は作動油で置換されるように排出される。
以上のように内燃機関の始動時には、作動油をバルブタイミング調整装置1の内部にまで速やかに行き渡らせる作動油循環作動が行われるので、バルブタイミング調整装置1の起動までの待ち時間を短縮でき、内燃機関が必要とする位相変換を速やかに実行することができる。また、内燃機関の始動時に、第一主規制部材32がロック凹部152に嵌まらずに停止していた場合であっても、第一副規制部材34は第一主規制部材32の状態に関わらず、第一副弾性部材35の弾性力によって進角連通路201および遅角連通路202間を連通状態にするため、循環経路の確保が第一副規制部材34によって行われ、循環経路への速やかな作動油の循環を実施することができる。
さらに、この作動油循環作動が開始された後は、制御回路92によりスプール70は上記(I−1)の絞り領域の状態に移動する。このスプール70の移動により、第一絞り部710と第一スリーブ側突出部669との距離が小さくなってポート間流路面積が減少するため、作動油の循環流量を抑制される。このように作動油の循環流量を内燃機関の始動当初よりも抑制することにより、バルブタイミング調整装置1の速やかな起動を確保する作動油循環作動をより少量の循環流量によって維持することにより、ポンプ4の作動負荷を低減することができる。
(II)進角作動(進角領域Ra)
内燃機関において比較的大きな機関トルクが必要となる低・中速高負荷運転時等に制御回路92は、駆動源90への通電により制御弁60を駆動制御してスプール70を図9の進角領域Raに移動させる。
その結果、上記(I−1)のロック作動に準じて、進角ポート661と主供給ポート664とが接続されてポンプ4から供給の作動油が各進角室22,23,24に導入されるとともに、遅角ポート662と第二ドレンポート704bとが接続されて各遅角室26,27,28から作動油が排出通路53に向けて排出される。また、ロック通路200を介してロック室31に連通するロックポート663と、副供給通路52を介してポンプ4に連通する副供給ポート665とが接続されて、ロック室31に作動油が導入される。
ロック室31への作動油の導入により、第一副規制部材34が第一副弾性部材35の弾性力に抗して脱出方向Yに移動することによって、大径支持部312の底面が係合部341を脱出方向Yに押さえ、第一主規制部材32はロック凹部152および第一規制凹部151から離脱してロックが解除された状態となる。さらに、進角室22,23,24と遅角室26,27,28の連通が遮断され、さらに進角室22,23,24および遅角室26,27,28が常時開放の大気孔203とも連通しないようになる。
以上によりスプール70の進角領域Raにおいては、ロック室31への作動油導入により第一主規制部材32のロックが解除された状態下、各進角室22,23,24への作動油導入および各遅角室26,27,28からの作動油排出が実施される。したがって、例えば図5の進角領域Raにおけるロック領域Rl側の領域限界位置にスプール70を移動させることにより、ポート間流路面積が進角領域Raでの最大となるポート661,664間において作動油の流通流量も最大となるので、バルブタイミングの迅速な進角が可能となる。
第二領域Rfに制御する状態、すなわち回転位相を進角側に変化させる進角領域Ra、遅角側に変化させる遅角領域Rr、もしくは進角領域Raおよび遅角領域Rr間に保持する保持領域Rhに制御する状態においては、第一主規制部材32によるロック解除状態を維持しておく必要がある。
しかし、内燃機関が運転状態にあるとき、例えばバルブタイミング調整装置1を進角作動させる場合(進角領域Ra)に、カム軸2のトルク変動成分のうち負トルクを受容すると、ベーン141は進角方向に移動し、進角室22の容積が拡大することにより進角室22の圧力が低下する。そして、圧力が低下した進角室22に向かってポンプ4から作動油が移動するとともに、さらに作動油が副供給ポート665側から副供給通路52を通り分岐部51に向かって移動しようとする。この作動油の移動は位相ロック部30の第一副規制部材34を突入方向Xに移動させることになり、これに伴って第一主規制部材32によるロック解除状態を維持できない状態が引き起こされる。このため、ベーン141が位相変換する際に第一主規制部材32がロック凹部152や第一規制凹部151へ突出して当該凹部に対する引っ掛かりが生じ、円滑なベーン141の位相変換を妨げることになる。
例えば、前述の特許文献1の装置について、位相制御用のスプール弁と位相ロックのためのロック手段とを比較的近い距離に設定する配置を採用した場合、特に位相制御用のスプール弁がバルブタイミング調整装置1の本体(例えばベーンロータ)に内蔵される構成の場合には、スプール弁とロック手段とが近い距離に配置されるため、ロック室とスプール弁とを連絡するロック通路を通じて作動油の脈動がロック室に伝わりやすくなる。したがって、このような作動油の脈動がロック手段の挙動に悪影響を及ぼし、バルブタイミング調整装置の適切な調整動作を妨げることがある。
以上の問題点に鑑みて、本実施形態のバルブタイミング調整装置1においては、作動油供給源の下流側において分岐部51で主供給通路50から分岐する副供給通路52に、リード状の弁体を有する副逆止弁520が設けられている。この副逆止弁520によれば、作動油が副供給ポート665側から分岐部51側へ移動することが阻止され、この逆流防止機能によって第一主規制部材32のロック解除状態を維持することができる。したがって、第二領域Rfにおけるバルブタイミングの迅速な調整動作が可能となる。
一方、内燃機関の運転状態で、バルブタイミング調整装置1を進角作動させる場合に、カム軸2の変動成分のうち正トルクを受容すると、ベーン141は遅角方向に移動し、進角室22の容積が減少することにより進角室22の圧力が上昇する。そして、圧力が上昇した進角室22からはポンプ4に向かって作動油が移動しようとするが、この移動は主供給ポート664とポンプ4の間の主供給通路50に設けた主逆止弁500によって阻止されるため、このような作動油の挙動は抑制されることとなる。また、主逆止弁500の逆流防止による作動油の挙動が、分岐部51を経由して副供給通路52およびロック通路200を介してロック室31の第一副規制部材34を脱出方向Yに移動させるように作用するが、このことは第一主規制部材32の解除状態を維持する方向になるため、バルブタイミング調整装置1の作動に悪影響を与えるものではない。
(III)保持作動(保持領域Rh)
車両のアクセルが保持されること等による内燃機関の安定運転時に、制御回路92は駆動源90への通電により制御弁60を駆動制御して、スプール70を図10の保持領域Rhに移動させる。
その結果、通路41,42,43,44を介して各進角室22,23,24に連通する進角ポート661は他のポートに対して遮断されるため、各進角室22,23,24に作動油が出入りなく留められる。また、通路45,46,47,48を介して各遅角室26,27,28に連通する遅角ポート662も他のポートに対して遮断されるため、各遅角室26,27,28に作動油が出入りなく留められる。さらにまた、上記(II)の進角作動に準じてロックポート663と、主供給ポート664および副供給ポート665とが接続されてロック室31に作動油が導入される。
以上によりスプール70の保持領域Rhにおいては、ロック室31への作動油導入により、上記(II)と同様に第一主規制部材32のロックが解除された状態下、進角室22,23,24および遅角室26,27,28のいずれにも作動油が捕捉される。これにより、バルブタイミングの保持が可能となるのである。
(IV)遅角作動(遅角領域Rr)
内燃機関において必要とされる機関トルクが比較的小さな軽負荷運転時等に、制御回路92は駆動源90への通電により制御弁60を駆動制御して、スプール70を図11の遅角領域Rrに移動させる。
その結果、通路41,42,43,44を介して各進角室22,23,24に連通する進角ポート661と、排出通路53に連通する排出開口部666とが第一ドレンポート704aおよび連通通路704を介して接続されて、各進角室22,23,24から作動油が排出される。また、通路45,46,47,48を介して各遅角室26,27,28に連通する遅角ポート662とポンプ4に連通する主供給ポート664とが接続されて、ポンプ4から供給の作動油が各遅角室26,27,28に導入される。さらにまた、上記(II)の進角作動に準じてロックポート663と副供給ポート665とが接続されてロック室31に作動油が導入される。
以上によりスプール70の遅角領域Rrにおいては、ロック室31への作動油導入により、上記(II)および(III)と同様に第一主規制部材32のロックが解除された状態下、各遅角室26,27,28への作動油導入および各進角室22,23,24からの作動油排出が実施される。したがって、例えば図5の進角領域Raにおける第二方向Yの移動端となる領域限界位置にスプール70を移動させることにより、ポート間流路面積が遅角領域Rrでの最大となるポート662,664間において作動油の流通流量も最大となるので、バルブタイミングの迅速な遅角が可能となる。
内燃機関の停止時には、通常、次回の始動に備えて第一主規制部材32をロック凹部152に嵌合した状態で停止するが、何らかの異常時には第一主規制部材32によるロックが実施できずに停止する場合がある。この場合で特に最遅角位置で停止したときには吸気弁の閉じ位相が遅角することにより圧縮比が下がり、低温になるほど内燃機関の始動性が悪化する傾向にある。このため、内燃機関の始動時に極力早く始動位相に復帰することが望まれる。そこで、内燃機関始動のためのクランキング時においてもカムトルクの変動があり、本実施形態ではクランキング時の負トルクを利用することによって始動時位相まで自己復帰させることができる。
すなわち、制御弁60のスプール70は基点位置にあり、図7(a)に示すように、第一主規制部材32がロック凹部152および第一規制凹部151に非嵌合状態にある場合、内燃機関始動時のクランキング中のカムトルク変動のうち負トルクの成分によりベーンロータ14は進角方向に揺動される。しかし、作動油の温度が低く粘度が高い状態では、ベーンロータ14が進角方向に揺動して進角室22の容積が拡大してもポンプ4からの作動油の供給が間に合わず進角室22の内圧が大気圧以下となってしまうことにより、負トルク期間における進角側の揺動が小さく、またカムトルク変動サイクルの正トルクの期間に再度最遅角まで戻されてしまうことになる。
そこで、本実施形態によれば、第一主規制部材32が非嵌合であっても第一副規制部材34は弾性力によりロック室31の作動油を排出するとともに、進角室22および遅角室26を大気孔203に連通するように動作するものである。この場合、クランキング中の負トルクにより進角室22の内圧が大気圧以下になると大気孔203から進角連通路201および遅角連通路202を介して進角室22に大気を導入することができるため、負トルク期間における進角側の揺動が大きくなる。
位相ロック部30にはロック位相に向かって進角していく方向に延びる第一規制凹部151がフロントプレート15側に設けられ、第一規制凹部151よりも進角側に形成される深底部であるロック凹部152がフロントプレート15側に設けられている。第一主規制部材32は、図7(b)に示すように、進角側の揺動によって、まず浅底部である第一規制凹部151に突出し、カムトルク変動サイクルの正トルクが作用しても最遅角に戻されることを防ぎ得る。さらに、次の負トルク期間でこの図7(b)に示す位相を基点にさらに進角側の揺動が発生し、この動作を繰り返すことにより、図7(c)に示すようにクランキング中に始動に適したロック位相まで進角動作する。
本実施形態のバブルタイミング調整装置1は、ロック手段として、ベーンロータ14において第一主規制部材32と同方向に往復移動可能に収容され、ロック室31に導入される作動油から脱出方向に圧力を受ける受圧部340、並びに第一主規制部材32に対して脱出方向に係合し且つ突入方向に離間する係合部320を有する第一副規制部材34と、第一副規制部材34を突入方向に付勢する第一副弾性部材35と、を備える。
この構成においては、内燃機関の回転に伴ってポンプ4から供給される作動油はロック室31に導入される。よって、ロック凹部152に第一主規制部材32が突入して回転位相が最進角位相および最遅角位相の間の規制位相に規制される前に、内燃機関がロックして停止すると、ロック室31に導入された作動油の圧力は低下することになる。その結果、受圧部340においてロック室31の作動油から脱出方向に圧力を受ける第一副規制部材34は、第一副弾性部材35の付勢により突入方向へと移動する。このとき、第一副規制部材34の係合部320が脱出方向に係合する第一主規制部材32は、第一主弾性部材33の付勢により第一副規制部材34に合わせて移動するため、特に規制位相と異なる回転位相では、ハウジング11の内面と当接することになる。こうした当該ハウジング内面との当接により第一主規制部材32が移動し得ない状態となった後でも、第一副弾性部材35により付勢される第一副規制部材34は、ロック室31に残る残存作動液を受圧部340により押し出しつつ、第一主規制部材32に対して係合部320を突入方向に離間させるように移動することができる。これにより、内燃機関をクランキングして始動する始動時には、当該クランキング中に発生する変動トルクにより回転位相を規制位相に変化させて第一主規制部材32をロック凹部152に突入させるに際して、ロック室31の残存作動液に拘らずに第一主規制部材32を、離間した係合部320側となる突入方向に高速移動させることができる。したがって、回転位相のロックをより確実に実施して位相ロック性能をさらに向上できる。また、低温環境下であっても、第一主規制部材32をロック凹部152に迅速に且つ確実に突入させて回転位相を規制位相に規制することができるので、機関始動性の確保が可能となる。
さらに、第一副規制部材34は第一主規制部材32の外周面に嵌合し、ベーンロータ14は、第一主規制部材32の外周面を支持する小径支持部311を有し、第一副規制部材34において小径支持部311に対向する受圧部340との間にロック室31を形成する。
これによれば、ロック室31に導入される作動油の圧力が第一主規制部材32には作用し難くなる。よって、ロック室31に残存する作動油によって第一主規制部材32の突入方向Xへの移動速度が低下する事態を抑制することができる。したがって、位相ロックの性能を確保することができる。また、内燃機関をクランキングして始動する始動時において、ロック室31に作動油が残存していたとしても、当該残存作動油に起因して第一主規制部材32の突入方向Xへの移動速度が低下する事態を抑制することができる。したがって、回転位相を規制位相まで変化させて第一主規制部材32をロック凹部152に突入させる際の迅速性、さらに機関始動性の確保効果を、低温環境下であっても確実に向上すことができる。
また、ベーン141は、大径支持部312の内面に開口し外部と連通して外気が流出入可能な大気孔203を形成している。第一副規制部材34の脱出方向Yの端部が進角連通路201および遅角連通路202と連通室313との間を連通遮断する遮断位置よりも突入方向Xに移動することにより、進角連通路201および遅角連通路202の間を大気孔203に連通させる。
これによれば、第一主規制部材32の突入方向Xの移動により回転位相がロックされる前に内燃機関が停止した場合には、当該遮断位置よりも突入方向Xに第一副規制部材34が移動することにより、それら連通路間を大気孔203に連通させることができる。この連通状態下において内燃機関のクランキングが開始される始動時には、進角室22および遅角室26の一方に作動油が残存していたとしても、各室に連通の進角連通路201および遅角連通路202を通じて残存作動油を一方の室から他方の室へと移動させることができる。これとともに始動時には、作動油の粘度が高く作動油の移動が困難な状態(例えば、作動油の劣化状態や低温状態等)であっても、進角室22および遅角室26へ大気孔203を通じて大気を導入することができる。これらのことから、回転位相を規制位相に変化させて第一主規制部材32をロック凹部152に突入させる際には、進角室22または遅角室26の残存作動油に起因して回転位相の変化速度が低下する事態のみならず、クランキング中の変動トルクにより容積拡大する進角室22または遅角室26に負圧が発生することにより回転位相の変化速度が低下する事態をも、抑制することができる。したがって、第一主規制部材32をロック凹部152に突入させるのに必要な回転位相変化を迅速に生じさせるため、バルブタイミング調整装置1の始動性を向上することができる。
なお、第一主規制部材32をロック凹部152から脱出させる際には、連通路間の連通位置よりも脱出方向Yとなる遮断位置に第一副規制部材34を移動させることにより、進角連通路201および遅角連通路202間の連通遮断が可能となる。よって、かかる遮断状態下、進角室22および遅角室26の一方への作動油の導入によりバルブタイミングを調整する際には、進角連通路201および遅角連通路202を通じて当該一方から他方に作動油が漏れる事態を抑制して、バルブタイミング調整の応答性を高めることも可能である。
さらに大気孔203の開口面積は、進角連通路201および遅角連通路202の通路断面積よりも大きいとするのが好ましい。これによれば、第一副規制部材34の突入方向Xへの移動により形成されて大気孔203から進角連通路201および遅角連通路202まで至る連通経路においては、大気の流通抵抗が作動液の流通抵抗よりも小さくなる。このため、進角連通路201および遅角連通路202の大気孔203との連通状態下において内燃機関のクランキングが開始される始動時には、進角連通路201および遅角連通路202にそれぞれ連通の進角室22および遅角室26から作動油を漏れにくくして、進角室22および遅角室26に対して大気を容易に導入しやすくできる。したがって、回転位相を規制位相に変化させて第一主規制部材32をロック凹部152に突入させる際には、回転位相の変化速度が低下する事態を抑制する作用を高めて、バルブタイミング調整装置1の始動性の向上に寄与することができる。
また、本実施形態のバブルタイミング調整装置1によれば、第一領域Rlにおける絞り領域で進角供給流量と遅角ドレン流量の両方を絞ることにより、図5に示すカムトルク変動が大きい場合に、位相ロックを行うときにベーンロータ14の揺動により、遅角室26の作動油が排出され空気が流入すると、次にロックを解除したときに位相が変動してしまうことを抑制し得る。また、進角室22と遅角室26を連通させる進角連通路201および遅角連通路202を備える場合には、絞り領域において、進角供給流量に加え遅角ドレン流量も絞ることにより、ベーンロータ14の進角側への緩やかな位相変化をさらに助長することができる。
また、バルタイミング調整装置1は、カム軸2から伝達され平均的に遅角側へ偏る変動トルクの平均値よりも大きな付勢力で、当該変動トルクに抗してベーンロータ14を進角側へ付勢するアシストスプリングとしての渦巻きばね100を備える。これにより、中間位相よりも遅角側では、渦巻きばね100の付勢力によって内燃機関の停止に際して回転位相を中間位相まで変化させ得る。一方、中間位相よりも進角側では、平均的に遅角側へ偏る変動トルクを利用することにより、内燃機関の停止に際して回転位相を中間位相まで変化させ得る。これらによれば、内燃機関の始動時における回転位相を中間位相に両側から保持して、機関始動性を確保することができる。
また、バブルタイミング調整装置1において、スプール70は外周面から径方向に突出する円環状の第一絞り部710を有し、進角室22に連通する進角ポート661と主供給ポート664とを接続し、第一絞り部710とスリーブ部66との間に形成される進角供給通路の断面積は、スプール70が第一方向Xの移動端にあるときよりも、絞り領域において小さくなるように調整される。これによれば、第一領域Rlに含まれる絞り領域を、円環状の第一絞り部710を形成することにより実現する。これにより、第一絞り部710とスプール70との間に形成される進角供給通路の断面積を、所望の絞り流量となる進角供給流量が得られるようにスプール70に第一絞り部710を形成すればよいため、高い生産性のバルブタイミング調整装置1を提供できる。
さらにスプール70は、外周面から径方向に突出する円環状の第二絞り部711を有し、遅角室26に連通する遅角ポート662と排出開口部666,667とを接続し、第二絞り部711とスプール70との間に形成される遅角ドレン通路の断面積は、スプール70が第一方向の移動端にあるときよりも、絞り領域において小さくなるように調整される。
これによれば、第一領域Rlに含まれる絞り領域を、円環状の第二絞り部711を形成することにより実現する。これにより、第二絞り部711とスプール70との間に形成される遅角ドレン通路の断面積を、所望の絞り流量となる遅角ドレン流量が得られるようにスプール70に第二絞り部711を形成すればよいため、進角供給流量および遅角ドレン流量を絞る絞り領域を有するバルブタイミング調整装置1を高い生産性で提供できる。
(第二実施形態)
図12および図13に示す本発明の第二実施形態は、第一実施形態の変形例である。図12に示すように、第二実施形態の位相ロック部30Aは、第一実施形態の位相ロック部30に対して単一のピン部である第一規制部材32Aによって構成される点、進角連通路201および遅角連通路202を備えない点が大きく異なっている。
(第一規制・ロック構造)
第二実施形態の第一収容孔310には、金属製の第一主規制部材32Aと、弾性変形により復原力を発生して第一規制部材32Aをフロントプレート15側に付勢し金属製の圧縮コイルスプリングで構成される第一弾性部材33Aと、が内蔵されている。ロック室31は、フロントプレート15の内面と第一規制部材32Aの軸方向中ほどに形成された円環状の突出部320Aのフロントプレート15側の外面との間に形成される円環状の空間である。ベーン141は、大径支持部312の内面に開口し外部と連通して外気が流出入可能な大気孔203Aを形成している。この大気孔203Aは、第一収容孔310の内面と突出部320Aのフロントプレート15側と反対側の外面との間に形成される円環状の空間と、外部とを連通させている。
第一規制部材32Aは、小径支持部311により外周面を、大径支持部312の内面により突出部320Aの外周面を、摺動可能に支持されることで、軸方向に往復移動可能となっている。また、第一規制部材32Aは、フロントプレート15側とその反対側とを常時連通する通孔321を内周孔によって形成している。
ここで第一規制部材32Aは、ロック位相を含む規制位相の領域において突入方向Xに移動することで、図13(b)のようにハウジング11の第一規制凹部151に突入する。こうして第一規制凹部151に突入した第一規制部材32Aは、図13(b)のように第一規制凹部151の遅角側端部の規制ストッパ151aにより係止されることで、規制位相の領域のうちその遅角側限界の第一規制位相にて回転位相の遅角側変化を規制する。また一方、第一規制凹部151に突入した第一規制部材32Aは、第一規制凹部151の進角側端部の規制ストッパ151bにより係止されることで、ロック位相にて回転位相の進角側変化を規制する。
また、第一規制部材32Aは、ロック位相において第一規制凹部151側から突入方向Xに移動することで、図13(c)のようにハウジング11のロック凹部152に突入する。こうしてロック凹部152に突入した第一規制部材32Aは、ロック凹部152との嵌合により回転位相の進角側および遅角側双方への変化を規制することで、回転位相をロック位相にロックする。
さらに第一規制部材32Aは、ロック位相を含む規制位相の領域において脱出方向Yに移動することで、ハウジング11のロック凹部152および第一規制凹部151の双方から脱出する。こうして第一規制部材32Aが凹部152,151から脱出することによれば、回転位相の規制が解除されるので、任意の回転位相変化を許容することが可能となる。
第一規制部材32Aは、ロック室31に露出してフロントプレート15側の突出部320Aの外面がロック室31の作動油から脱出方向Yに圧力を受けることで、第一規制部材32Aを脱出方向Yに駆動する駆動力が発生する。
第一弾性部材33Aは、第一収容孔310におけるフロントプレート15側と反対側の底面と第一規制部材32Aとの間に介装されている。第一弾性部材33Aは、第一収容孔310および第一規制部材32A間での圧縮変形により第一復原力を発生することで、第一規制部材32Aを突入方向Xに付勢する。したがって、最遅角位相を含む規制位相の領域外においては、第一弾性部材33Aの第一主復原力により第一規制部材32Aを突入方向Xに駆動することで、図13(a)のように第一規制部材32Aをフロントプレート15側の内面に当接させることが可能となっている。
以上の構成により駆動部10Aでは、図13(c)のように第一規制部材32Aがロック凹部152に嵌合することによるロックの実現時に、ハウジング11に対するベーンロータ14の回転位相が保持される。これに対して、図13(a)のように第一規制部材32Aがロック凹部152および第一規制凹部151から離脱することによるロックの解除時には、進角室22,23,24への作動油導入および遅角室26,27,28からの作動油排出により回転位相が進角側に変化し、バルブタイミングが進角する。また、ロック解除時には、遅角室26,27,28への作動油導入および進角室22,23,24からの作動油排出により回転位相が遅角側に変化し、バルブタイミングが遅角することになる。
さらに、第二実施形態のバルブタイミング調整装置1Aにおいては、前述のように、第一実施形態の進角連通路201および遅角連通路202を備えないため、第一実施形態で説明した内燃機関の始動時における作動油循環作動は実施されない。また、バルブタイミング調整装置1Aは、副供給通路52に副逆止弁520を備えないため、逆流防止機能による第二領域Rfに制御する状態における位相ロックの解除状態を維持できる効果はない。また、バルブタイミング調整装置1Aのその他の構成については、第一実施形態のバルブタイミング調整装置1と同様であるため、同様の作用効果を奏するものである。
(第三実施形態)
図14〜図19に示す本発明の第三実施形態は、第二実施形態の変形例である。図14に示すように、第三実施形態のバルブタイミング調整装置1Bは、ロック領域(第一領域)Rlの絞り領域において、進角供給流量を絞り遅角ドレン流量を絞らないように制御することが第一および第二実施形態と異なっている。図14の当該絞り領域以外のその他の領域については、前述の図5と同様の制御が行われるものである。第三実施形態のバルブタイミング調整装置1Bは、このような絞り領域での流量制御を行うことに伴い、制御弁60Aにおけるスプール70Aおよびスリーブ部66Aの構造が第一および第二実施形態と異なり、位相ロック部30Aについては第二実施形態の構造と同一である。
(制御部)
以下に、制御部40Aが駆動する制御弁60Aの構成について、第一および第二実施形態と異なる点について説明する。図15〜図19に示すように、スプール70Aは、スリーブ部66Aの内周面に対して摺動するように形成された円環状の複数のランド700,701A,703を軸方向に所定間隔ずつあけて有している。固定部62から最も離間している進角ランド700は、進角ポート661および排出開口部666間と進角ポート661および主供給ポート664間とのうち、スプール70Aの移動位置に応じた少なくとも一方においてスリーブ部66Aに支持される。進角ランド700よりも固定部62側となる遅角ランド701Aは、遅角ポート662および主供給ポート664間と遅角ポート662およびロックポート663間とのうち、スプール70の移動位置に応じた少なくとも一方においてスリーブ部66に支持される。この遅角ランド701Aは、第一実施形態における遅角ランド701と第一ロックランド702とを一体となるように遅角ランド701を第一ロックランド702まで延長したものと同様の構造となっている。
遅角ランド701Aよりも固定部62側となるロックランド703は、副供給ポート665およびロックポート663間において、スプール70Aの移動位置に応じてスリーブ部66Aに支持される。それとともに第二ロックランド703は、副供給ポート665および固定部62間において、スプール70Aの移動位置に拘らずスリーブ部66Aに支持される。
スプール70A内部に形成された連通通路704は、遅角ランド701Aにおいてスプール70Aの外周面に開口する第二ドレンポート704bを有しており、遅角ポート662およびロックポート663のうちスプール70Aの移動位置に応じたポートに対して、その第二ドレンポート704bを介して連通する。第二ドレンポート704bは、スプール70Aの移動位置に応じて、遅角室26,27,28の作動油を排出通路53へ排出する遅角ドレンポートとして機能し、あるいはロック室31の作動油をロック通路200およびロックポート663を介して排出通路53へ排出するピンドレンポートとして機能する。
進角ランド700と遅角ランド701Aとの間には、スプール70の外周面から径方向に突出する円環状の第一絞り部710が設けられている。第一絞り部710は、対応するスリーブ部66Aの内周面との間に絞り通路を形成し、作動油が当該絞り通路をスプール70Aの軸方向に流通するときに流通抵抗を与えて、流通する作動油の流量を調整する機能を有する。第一絞り部710は、スプール70Aの移動位置に応じて、主供給ポート664から進角ポート661へ流通する作動油の流量を調節し、進角室22,23,24へ供給される作動油の流量を調整する進角供給流量絞り部として機能する。
なお、制御弁60Aは、第一実施形態の制御弁60が有する第二絞り部711を備えていない。したがって、制御弁60Aは、第二絞り部711を備えない構造により、図14に示すロック領域(第一領域)Rlの絞り領域において、遅角ドレン流量を絞らずに略一定量に保つようになっている。
さらに第一絞り部710において絞り通路を形成する際に、径方向に対向するスリーブ部66A側の部位には、第一スリーブ側突出部669が設けられている。また、制御弁60Aは、第一実施形態の第二絞り部711を備えない構造に伴い、第一実施形態の制御弁60が有する第二スリーブ側突出部670を備えていない。
遅角ランド701Aと第二ロックランド703との間には、スプール70Aの外周面から径方向に突出する円環状のピンドレン開閉部712が設けられている。ピンドレン開閉部712は、スプール70Aの移動位置に応じて、スリーブ部66Aの内周面に対して摺動する摺動領域と、スリーブ部66Aの内周面との間で通路を形成する通路形成領域とを形成するように、スリーブ部66Aの内周面に対してスプール70Aの所定位置に設けられている。ピンドレン開閉部712は、図17〜図19に示すように当該摺動領域ではロックポート663と第二ドレンポート704bの連通を遮断し、図15よび図16に示すように当該通路形成領域ではロックポート663と第二ドレンポート704bの連通を許容する。
以上の構成により、図14に示すように第一領域Rl(以下、ロック領域Rlともいう)は、第一方向Xの移動端であるスプール基点位置と、進角供給流量(進角室22,23,24に供給される作動油の流量)が絞られる絞り領域と、を含む領域である。
ロック領域Rlでは、位相ロック部30Aにおいて、第一規制部材32Aがロック凹部152に嵌合することにより、ハウジング11に対するベーンロータ14の回転位相が保持される。ロック領域Rlに移動したスプール70Aは、図15および図16に示すように進角ランド700および遅角ランド701Aの間において進角ポート661を主供給ポート664に接続する。さらに、ロック領域Rlにおけるスプール70Aは、副供給ポート665を他のポートに対して遮断する。
さらに、絞り領域では、図15に示すように、ポート661,664間において作動油の流通流量を決める流路面積(ここでは、第一絞り部710による絞り通路の開口面積)が図16に示すスプール基点位置における当該絞り通路の開口面積よりも小さく制御される。このため、絞り領域では進角供給流量はスプール基点位置のときよりも少量になってより緩やか回転速度で進角させる(位相変化させる)ことができる。
また、第一領域Rlのスプール基点位置からスプール位置が第二方向Yに進んで絞り領域に向かうにつれて、第一絞り部710とスリーブ部66Aの内周面(第一スリーブ側突出部669)との距離が小さくなってポート間流路面積が減少するため、進角供給流量は減少する。
また、第一領域Rlのスプール基点位置から絞り領域にかけて、ピンドレン開閉部712によってロックポート663および第二ドレンポート704b間のポート間流路面積が保たれるのでピンドレン流量は略一定である。さらに絞り領域の途中から第一領域Rlにおける第二方向Yの終端まで、当該ポート間流路面積が小さくなるようにピンドレン開閉部712によって通路が閉じられるので、ピンドレン流量は減少し続け、当該第二方向Yの終端でピンドレン開閉部712によって通路は遮断され、ピンドレン流量はゼロになる。
また、絞り領域の第二方向Yの終端からスプール位置が第二方向Yに進んで第二領域Rfに向かうにつれて、第一絞り部710とスリーブ部66Aの内周面(第一スリーブ側突出部669)との距離が大きくなってポート間流路面積が増加するため、進角供給流量は増加する。また、第一領域Rlにおいては、遅角ポート662および第二ドレンポート704b間のポート間流路面積は、大きく変化しないため、遅角ドレン流量は略一定である。
図14に示すようにロック領域Rlに対して第二方向Yにずれる第二領域Rfは、進角領域Ra、保持領域Rhおよび遅角領域Rrを含む領域である。第二領域Rfでは、位相ロック部30Aにおいて図9〜図11のように第一規制部材32Aがロック凹部152および第一規制凹部151から離脱することによりハウジング11に対するベーンロータ14の回転位相のロックが解除されるとともに、制御弁60Aにおけるスプール70Aの位置制御により、回転位相が進角側に変化する進角領域Ra、回転位相が保持される保持領域Rh、回転位相が遅角側に変化する遅角領域Rrにそれぞれ設定される。
進角領域Raに移動したスプール70Aは、ロック領域Rlと同様、図17に示すように進角ランド700および遅角ランド701Aの間において進角ポート661を主供給ポート664に接続する。ポート661,664間において作動油の流通流量を決める流路面積(ここでは、第一絞り部710による絞り通路の開口面積)は、図17に示すように、ロック領域Rlにおける絞り領域の当該絞り通路の開口面積(図15参照)よりも大きくなっている。このため、図14に示すように、進角供給流量は進角領域Raの方が絞り領域よりも多くなる。
また図17に示すように、進角領域Raにおけるスプール70Aは、遅角ランド701Aおよび第二ロックランド703の間において遅角ポート662を第二ドレンポート704bを介して連通通路704に接続し、さらに当該通路704を介して排出開口部666,667に接続する。さらに、進角領域Raにおけるスプール70Aは、遅角ランド701Aおよび第二ロックランド703の間においてロックポート663を副供給ポート665に接続し、スリーブ部66Aの内周面に対して摺動するピンドレン開閉部712によってロックポート663と第二ドレンポート704bの連通を遮断するため、ロックポート663は、当該ポート665に連通の副供給通路52を介して主供給ポート664に接続されるようになる。
進角領域Raでは、スプール位置が第二方向Yに進むにしたがい、進角ランド700とスリーブ部66Aの内周面(第一スリーブ側突出部669)との距離が小さくなってポート間流路面積が減少するので、進角供給流量は減少し、遅角ランド701Aとスリーブ部66Aの内周面との距離が小さくなってポート間流路面積が減少するので、遅角ドレン流量は減少する。また、第二領域Rfでは、スプール位置が第二方向Yに進むにしたがい、進角領域Raの途中まで第二ロックランド703によってポート間流路面積が増加した後、以降は第二領域Rfの第二方向Yの終端まで略一定になるので、ピン供給流量(ロック室31に供給される作動油の流量)は増加後、一定になる。
図14に示すように進角領域Raに対して第二方向Yにずれる保持領域Rhに移動したスプール70Aは、図18のように進角ポート661を他のポートに対して遮断する。また保持領域Rhにおけるスプール70Aは、遅角ポート662を他のポートに対して遮断する。
さらに図19に示すように、遅角領域Rrに移動したスプール70Aは、進角ランド700を挟んで遅角ランド701Aとは反対側において進角ポート661を第一ドレンポート704aに連通させ、排出通路53に接続する。また遅角領域Rrにおけるスプール70Aは、進角ランド700および遅角ランド701Aの間において遅角ポート662を主供給ポート664に接続する。さらに遅角領域Rrにおけるスプール70Aは、進角領域Raの場合と同様に、ロックポート663を遅角ランド701Aおよび第二ロックランド703間において副供給ポート665に接続し、ピンドレン開閉部712によってロックポート663と第二ドレンポート704bの連通を遮断するため、ロックポート663は、当該ポート665に連通の副供給通路52を介して主供給ポート664に接続されるようになる。
(装置作動)
次に、バルブタイミング調整装置1Bの作動について第一実施形態と異なる部分のみ説明する。
(I−1)ロック作動、絞り領域作動(第一領域Rl)
内燃機関において作動油の圧力が低圧となる停止時、始動時、並びにアイドル運転時等に制御回路92は、駆動源90への通電により制御弁60Aを駆動制御してスプール70Aをロック領域Rl(第一領域Rl)に移動させる。このとき、位相ロック部30Aの第一規制部材32Aによるロックが解除されている通常の作動状態からロック状態にする場合には、制御回路92は駆動軸91を介してスプール70Aを駆動して、位相を一旦ロック位相より遅角側に誘導し、第一領域Rlの絞り領域(図15参照)に対応する指令を与える。
その結果、通路41,42,43,44を介して各進角室22,23,24に連通する進角ポート661と、ポンプ4に連通する主供給ポート664とが接続されて、ポンプ4から供給の作動油が各進角室22,23,24に導入される。また、通路45,46,47,48を介して各遅角室26,27,28に連通する遅角ポート662と、排出通路53に連通する排出開口部666,667とが連通通路704を介して接続されて各遅角室26,27,28から作動油が排出される。この絞り領域における進角供給流量は、第一領域Rlのうち絞り領域を除く他の領域における流量よりも非常に少量に制御される。このときのベーンロータ14の進角側への回転速度は、当該少量に制御される流量に応じ、絞り領域を除く第一領域Rlの他の領域における挙動に比べてゆっくりした遅い速度になる。
さらに、ロック通路200を介してロック室31に連通するロックポート663と、排出開口部666,667とが連通通路704を介して接続されてロック室31から作動油が排出される。このロック室31からの作動油の流出に伴う第一規制部材32Aの突入方向Xへの移動とベーンロータ14の当該遅い回転とによって、図13の(a)図、(b)図、(c)図の順にベーン141が緩やかに進角し、このような制御弁60Aによるバルブタイミング調整装置1Bの緩やかな進角側作動において第一規制部材32Aがロック凹部152に対応する位相になると、第一弾性部材33Aの復原力によって第一規制部材32Aがロック凹部152に嵌合し、位相ロックが完了する。
このように、第一領域Rlの絞り領域におけるスプール70Aの位置に対応して、位相ロック部30Aでは第一規制部材32Aによる回転位相のロックが行われる。さらに、バルブタイミング調整装置1Bに対しては、絞られた流量を与えることにより、緩やかな回転速度で進角させることができ、確実な回転位相のロックが実施される。
さらに、渦巻きばね100による作用力は最遅角位相からロック位相までの間で作用し、且つカム軸2の平均トルクより大きなトルクをベーンロータ14に与えているので、ベーンロータ14は渦巻きばね100によってロック位相まで進角することができる。この進角により第一規制部材32Aがロック凹部152に対応する位相になると、第一弾性部材33Aの弾性力によって第一規制部材32Aがロック凹部152に嵌合し、前述のように位相ロックが完了する。
(I−2)内燃機関始動時(第一領域Rl)
内燃機関の始動前は、作動油の供給前であり、バルブタイミング調整装置1Bの本体内や供給源であるポンプ4からの供給通路等には空気が含まれている。内燃機関の始動時において制御弁60Aのスプール70Aは図14および図16に示すスプール基点位置にある。このとき、進角ポート661と主供給ポート664とが連通する状態であり、ポンプ4から供給される作動油は各進角室22,23,24に導入される。さらに、位相ロック部30Aにおいては、第一規制部材32Aが第一弾性部材33Aの弾性力によってロック室31の作動油を排出した状態で、第一規制部材32Aが弾性力により位相をロックする。
(II)進角作動(進角領域Ra)
内燃機関において比較的大きな機関トルクが必要となる低・中速高負荷運転時等に制御回路92は、駆動源90への通電により制御弁60Aを駆動制御してスプール70Aを図17の進角領域Raに移動させる。
その結果、上記(I−1)のロック作動に準じて、進角ポート661と主供給ポート664とが接続されてポンプ4から供給の作動油が各進角室22,23,24に導入されるとともに、遅角ポート662と第二ドレンポート704bとが接続されて各遅角室26,27,28から作動油が排出通路53に向けて排出される。また、ロック通路200を介してロック室31に連通するロックポート663と、副供給通路52を介してポンプ4に連通する副供給ポート665とが接続されて、ロック室31に作動油が導入される。ロック室31への作動油の導入により、第一規制部材32Aが第一弾性部材33Aの弾性力に抗して脱出方向Yに移動することによって、第一規制部材32Aはロック凹部152および第一規制凹部151から離脱してロックが解除された状態となる。
以上によりスプール70Aの進角領域Raにおいては、ロック室31への作動油導入により第一規制部材32Aのロックが解除された状態下、各進角室22,23,24への作動油導入および各遅角室26,27,28からの作動油排出が実施される。したがって、例えば図14の進角領域Raにおけるロック領域Rl側の領域限界位置にスプール70Aを移動させることにより、ポート間流路面積が進角領域Raでの最大となるポート661,664間において作動油の流通流量も最大となるので、バルブタイミングの迅速な進角が可能となる。
(III)保持作動(保持領域Rh)
車両のアクセルが保持されること等による内燃機関の安定運転時に、制御回路92は駆動源90への通電により制御弁60を駆動制御して、スプール70Aを図18の保持領域Rhに移動させる。
その結果、通路41,42,43,44を介して各進角室22,23,24に連通する進角ポート661は他のポートに対して遮断されるため、各進角室22,23,24に作動油が出入りなく留められる。また、通路45,46,47,48を介して各遅角室26,27,28に連通する遅角ポート662も他のポートに対して遮断されるため、各遅角室26,27,28に作動油が出入りなく留められる。さらにまた、上記(II)の進角作動に準じてロックポート663と、主供給ポート664および副供給ポート665とが接続されてロック室31に作動油が導入される。
以上によりスプール70Aの保持領域Rhにおいては、ロック室31への作動油導入により、上記(II)と同様に第一規制部材32Aのロックが解除された状態下、進角室22,23,24および遅角室26,27,28のいずれにも作動油が捕捉される。これにより、バルブタイミングの保持が可能となるのである。
(IV)遅角作動(遅角領域Rr)
内燃機関において必要とされる機関トルクが比較的小さな軽負荷運転時等に、制御回路92は駆動源90への通電により制御弁60Aを駆動制御して、スプール70Aを図19の遅角領域Rrに移動させる。
その結果、通路41,42,43,44を介して各進角室22,23,24に連通する進角ポート661と、排出通路53に連通する排出開口部666とが第一ドレンポート704aおよび連通通路704を介して接続されて、各進角室22,23,24から作動油が排出される。また、通路45,46,47,48を介して各遅角室26,27,28に連通する遅角ポート662とポンプ4に連通する主供給ポート664とが接続されて、ポンプ4から供給の作動油が各遅角室26,27,28に導入される。さらにまた、上記(II)の進角作動に準じてロックポート663と副供給ポート665とが接続されてロック室31に作動油が導入される。
以上によりスプール70Aの遅角領域Rrにおいては、ロック室31への作動油導入により、上記(II)および(III)と同様に第一規制部材32Aのロックが解除された状態下、各遅角室26,27,28への作動油導入および各進角室22,23,24からの作動油排出が実施される。したがって、例えば図14の進角領域Raにおける第二方向Yの移動端となる領域限界位置にスプール70Aを移動させることにより、ポート間流路面積が遅角領域Rrでの最大となるポート662,664間において作動油の流通流量も最大となるので、バルブタイミングの迅速な遅角が可能となる。
(他の実施形態)
以上、本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明はそれらの実施形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
例えば、分岐通路42,43,44を遅角室26,27,28に連通させるとともに、分岐通路46,47,48を進角室22,23,24に連通させることで、領域Rl,Raにおいて、通路41,42,43,44を介して遅角室26,27,28に連通するポート661を主供給ポート664と接続するようにしてもよい。また、制御弁60については、ベーンロータ14に内蔵させる代わりに、カム軸2に内蔵させてもよいし、ポンプ4からカム軸2を通じて駆動部10に至る作動油経路においてカム軸2よりも上流側に配置してもよい。
また、上記第一実施形態の第二規制構造110における回転位相の遅角側変化を規制するピンは、単一のピンによって構成してもよい。また上記第一実施形態において、第二規制構造を備えないバルブタイミングを調整装置としてもよい。
そして、本発明は、吸気弁のバルブタイミングを調整する装置以外にも、「動弁」としての排気弁のバルブタイミングを調整する装置や、吸気弁および排気弁の双方のバルブタイミングを調整する装置に適用することができる。
また、上記第二実施形態および第三実施形態に記載の装置について副供給通路52に副逆止弁520を設けるようにしてもよい。このように副逆止弁520を設けた場合には、第一実施形態と同様の作用効果が得られ、その逆流防止機能によって第一規制部材32Aのロック解除状態を維持することができる。したがって、第二領域Rfにおけるバルブタイミングの迅速な調整動作が可能となる。