JP4983291B2 - 鋼材 - Google Patents
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Description
(1)高周波焼入れによる表面硬化層を少なくとも部分的に有する鋼材であって、
C:0.35〜0.7 mass%、
Si:1.1 mass%以下、
Mn:0.05 〜2.0 mass%、
Al:0.008mass%以下、
Ti:0.005 〜0.1 mass%、
Mo:0.05〜0.6 mass%、
B:0.0003〜0.006 mass%および
S:0.01〜0.06mass%
を含み、さらに
Ca: 0.0021mass%以上、
REM:0.0021mass%以上および
Mg:0.0021mass%以上
のうちの1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、
アスペクト比が50以上のMnSの全MnS中に占める比が累積頻度で5%以下であることを特徴とする鋼材。
Cr:2.5mass%以下、
Cu:1.0mass%以下、
Ni:2.5mass%以下、
Co:1.0mass%以下、
V:0.3mass%以下、
W:1.0mass%以下
Nb:0.1mass%以下、
Zr:0.1mass%以下、
Ta:0.5mass%以下、
Hf:0.5mass%以下および
Sb:0.015mass%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する鋼材。
まず、本発明において、鋼材の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。
Mn:0.05mass%以上2.0mass%以下
Mnは、焼入れ性を向上させ、焼入れ時の硬化深さを確保する上で不可欠の成分である。また、硫化物介在物を形成して被削性の向上に寄与する成分である。これらの効果を得るには、0.05mass%以上で含有することが肝要である。
特に、焼入れ時の硬化深さを確保するためには、含有量が 0.2mass%未満ではその添加効果に乏しいので、0.2mass%以上好ましくは 0.3mass%以上である。
Sは、鋼中でMnSを形成し、切削性を向上させる有用元素であり、そのためには0.01mass%以上は必要である。一方、0.06mass%を超えて含有させると粒界に偏析して粒界強度を低下させるため、Sは0.06mass%以下にする。より好ましくは0.04mass%以下である。
ここに、C:0.46mass%,S:0.38mass%,Mn:0.75mass%,S:0.043mass%,Mo:0.40 mass%を含有する脱炭処理後の溶鋼を脱酸処理する際に、Ti、Al、Ca、REMおよびMgのいずれか1種または2種以上を添加し、MnSの析出形態を変化させた鋼材aないしhについて、析出した全MnSのアスペクト比を光学顕微鏡観察に基づいて調査するとともに、各鋼材の疲労強度および被削性を調査した。
まず、溶製段階の処理として、転炉から取鍋に出鋼する際に、Mn含有量を0.05mass%以上に、およびS含有量を0.01mass%に、それぞれ調整し、その他SiやMnなども必要に応じて調整した後、取鍋において0.005mass%以上のTiを添加して真空脱酸処理を施す。その際、Ti添加前にAlを微量添加し、予備脱酸を行い、Ti合金使用量を削減することでコスト低減を図ることも可能であるが、Al量は0.008mass%以下とする必要がある。Al量が0.008mass%超であると、さらに、タンディッシュ内においてCa:0.0021 mass%以上、REM:0.0021 mass%以上およびMg:0.0021 mass%以上のいずれか1種または2種以上を添加して、MnSの析出に先立って、Ti(S、C)、CaS、CaO系介在物等のいずれか一つ以上を析出させる。MnSはこれら介在物を起点に析出するため、圧延時あるいは鋳造時にMnS単体の場合よりもMnSが伸延しにくくなり、大きなアスペクト比のMnSの存在頻度、すなわち、アスペクト比50以上のMnSの存在頻度が5%以下となる。
すなわち、Ti:0.005mass%、Ca:0.0080mass%、REM:0.0100mass%およびMg:0.0050mass%を、いずれかの成分が超えると、介在物の融点が1800℃以上となりノズル詰まりが発生しやすくなる。
上記融点の制御により、連続鋳造時の浸漬ノズル内部への介在物付着が抑制され、操業が阻害されるのを回避できる。次に、溶解酸素量の制御により、ブリードの発生が抑制できる。具体的には、酸化物系介在物の融点は多元素介在物の組成によって制御し、また添加後の溶解酸素量は酸素プローブ等によってあらかじめ溶解酸素を測定し、計算によって添加量を決定することによって制御する。
C:0.35〜0.7 mass%
Cは、焼入れ性への影響が最も大きい元素であり、焼入れ硬化層の硬さおよび深さを高めて疲労強度の向上に有効に寄与する。しかしながら、含有量が0.35mass%に満たないと必要とされる疲労強度を確保するためには焼入れ硬化深さを飛躍的に高めねばならず、その際焼割れの発生が顕著となり、またベイナイト組織も生成し難くなるため、0.35mass%以上を添加する。一方、0.7 mass%を超えて含有させると粒界強度が低下し、それに伴い疲労強度も低下し、また切削性、冷間鍛造性および耐焼き割れ性も低下する。このためCは、0.35〜0.7 mass%の範囲に限定した。好ましくは 0.4〜0.6 mass%の範囲である。
Siは、焼入れ加熱時にオーステナイトの核生成サイト数を増加させると共に、オーステナイトの粒成長を抑制し、焼入れ硬化層の粒径を微細化する作用を有する。また、炭化物生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制する。さらに、ベイナイト組織の生成にも有用な元素であり、これらのことにより疲労強度を向上させる。
しかしながら、Si量が 1.1mass%を超えると、フェライトの固溶硬化により硬さが上昇し、切削性および冷間鍛造性の低下を招く。従って、Siは、1.1 mass%以下の範囲に限定した。好ましくは0.40〜1.0 mass%の範囲である。
Mnは、焼入れ性を向上させ、焼入れ時の硬化深さを確保する上で不可欠の成分であるため、積極的に添加するが、含有量が 0.2mass%未満ではその添加効果に乏しいので、0.2mass%以上とした。好ましくは 0.3mass%以上である。一方、Mn量が 2.0mass%を超えると焼入れ後の残留オーステナイトが増加し、かえって表面硬度が低下し、ひいては疲労強度の低下を招くので、Mnは 2.0mass%以下とした。なお、Mnは含有量が多いと、母材の硬質化を招き、被削性に不利となるきらいがあるので、1.2 mass%以下とするのが好適である。さらに好ましくは 1.0mass%以下である。
Alは、0.008mass%以下にする。Alが0.008mass%超では脱酸処理時にTi系酸化物が生成しなくなり、介在物の形態抑制が困難となる。
Tiを上述のとおり、脱酸剤として用い、Ca、REM、Mgのうちの一種以上と複合して添加することにより、鋼中に生成するMnSのアスペクト比の大きなものの存在頻度が小さくなる。このため、0.005mass%以上が必須である。さらに、Tiは、不可避的不純物として混入するNと結合することで、BがBNとなってBの焼入れ性向上効果が消失するのを防止し、Bの焼入れ性向上効果を十分に発揮させる作用を有する。この効果を得るためには、少なくとも 0.005mass%の含有を必要とするが、0.1 mass%を超えて含有されるとTiNが多量に形成される結果、これが疲労破壊の起点となって疲労強度の著しい低下を招くので、Tiは 0.005〜0.1 mass%の範囲に限定した。好ましくは0.01〜0.07mass%の範囲である。さらに、Nを確実に固定して、Bによる焼入れ性向上により、ベイナイトとマルテンサイト組織を得る観点からは、Ti(mass%)/N(mass%)≧3.42を満足させることが好適である。
Moは、ベイナイト組織の生成を促進することにより、焼入れ加熱時のオーステナイト粒径を微細化し、焼入れ硬化層の粒径を細粒化する作用がある。また、焼入れ加熱時におけるオーステナイトの粒成長を抑制することにより、焼入れ硬化層の粒径を微細化する作用がある。特にこの効果は、高周波焼入れ時の加熱温度を 800〜1000℃より好ましくは 800〜950 ℃とすることにより、一層顕著となる。さらに、焼入れ性の向上に有用な元素であるため、焼入れ性を調整するために用いられる。加えて、Moは、炭化物の生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を有効に阻止する元素でもある。
このように、Moは、本発明において非常に重要な元素であり、含有量が0.05mass%に満たないと、製造条件や焼入れ条件をいかように調整しても硬化層全厚にわたって旧オーステナイト粒径が12μm 以下の微細粒とすることができない。しかしながら、 0.6mass%を超えて含有させると、圧延材の硬さが著しく上昇し、加工性の低下を招く。従って、Moは0.05〜0.6 mass%の範囲に限定した。好ましくは 0.1〜0.6 mass%の範囲である。さらに好ましくは 0.3〜0.4 mass%の範囲である。
Bは、ベイナイト組織あるいはマルテンサイト組織の生成を促進する効果を有する。またBは、微量の添加によって焼入れ性を向上させ、焼入れ時の焼入れ深さを高めることによりねじり強度を向上させる効果もある。さらにBは、粒界に優先的に偏析して、粒界に偏析するPの濃度を低減し、粒界強度を向上させ、もって疲労強度を向上させる作用もある。
このため、本発明では、Bを積極的に添加するが、含有量が0.0003mass%に満たないとその添加効果に乏しく、一方 0.006mass%を超えて含有させるとその効果は飽和し、むしろ成分コストの上昇を招くため、Bは0.0003〜0.006 mass%の範囲に限定した。好ましくは0.0005〜0.004 mass%の範囲である。さらに好ましくは0.0015〜0.003 mass%の範囲である。
Sは上述の通り、鋼中でMnSを形成し、切削性を向上させる有用元素であり、0.01mass%以上である必要がある。しかし、0.06mass%を超えて含有させると粒界に偏析して粒界強度を低下させるため、Sは0.06mass%以下に制限した。好ましくは0.04mass%以下である。
Cr:2.5 mass%以下
Crは、焼入れ性の向上に有効であり、硬化深さを確保する上で有用な元素である。しかし、過度の添加すると、炭化物を安定化させて残留炭化物の生成を助長し、粒界強度を低下させて疲労強度を劣化させる。従って、Crの含有は極力低減することが望ましいが、2.5mass%までは許容できる。好ましくは1.5mass%以下である。
Cuは、焼入れ性の向上に有効であり、またフェライト中に固溶し、この固溶強化によって、疲労強度を向上させる。さらに、炭化物の生成を抑制することにより、炭化物による粒界強度の低下を抑制し、疲労強度を向上させる。しかしながら、含有量が1.0 mass%を超えると熱間加工時に割れが発生するため、1.0 mass%以下の添加とする。なお好ましくは0.5 mass%以下である。
Niは、焼入れ性を向上させる元素であるので、焼入れ性を調整する場合に用いる。また、炭化物の生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制して、疲労強度を向上させる元素でもある。しかしながら、Niは極めて高価な元素であり、3.5 mass%を超えて添加すると鋼材のコストが上昇するので、3.5 mass%以下の添加とする。なお、0.05mass%未満の添加では焼入れ性の向上効果および粒界強度の低下抑制効果が小さいので、0.05mass%以上含有させることが望ましい。好ましくは 0.1〜1.0 mass%である。
Coは、炭化物の生成を抑制して、炭化物による粒界強度の低下を抑制し、強度および疲労強度を向上させる元素である。しかしながら、Coは極めて高価な元素であり、1.0 mass%を超えて添加すると鋼材のコストが上昇するので、1.0 mass%以下の添加とする。なお、0.01mass%未満の添加では、粒界強度の低下抑制効果が小さいので、0.01mass%以上添加することが望ましい。好ましくは0.02〜0.5 mass%である。
Nbは、焼入れ性の向上効果があるだけでなく、鋼中でC, Nと結合し析出強化元素として作用する。また、焼もどし軟化抵抗性を向上させる元素でもあり、これらの効果によって疲労強度を向上させる。しかしながら、0.1 mass%を超えて含有させてもその効果は飽和するので、0.1 mass%を上限とする。なお、0.005 %未満の添加では、析出強化作用および焼もどし軟化抵抗性の向上効果が小さいため、0.005 mass%以上添加することが望ましい。好ましくは0.01〜0.05mass%である。
Vは、鋼中でC, Nと結合し析出強化元素として作用する。また、焼もどし軟化抵抗性を向上させる元素でもあり、これらの効果により疲労強度を向上させる。しかしながら、0.5 mass%を超えて含有させてもその効果は飽和するので、0.5 mass%以下とする。なお、0.01mass%未満の添加では、疲労強度の向上効果が小さいので、0.01mass%以上添加することが望ましい。好ましくは0.03〜0.3 mass%である。
Wは、オーステナイト粒の成長を抑制する上で有用な元素であり、そのためには0.005mass%以上で含有することが好ましいが、1.0mass%を超えて添加すると、被削性の劣化を招くため、Wは1.0mass%以下とすることが好ましい。
Co:1.0mass%以下
Coは、炭化物の生成を抑制して、炭化物による粒界強度の低下を抑制し、疲労強度を向上させる元素である。しかしながら、Coは極めて高価な元素であり、1.0mass%を超えて添加すると鋼材のコストが上昇するので、1.0mass%以下の添加とする。なお、0.01mass%未満の添加では、粒界強度の低下抑制効果が小さいため、0.01mass%以上は添加することが望ましい。より好ましくは0.02〜0.5mass%である。
Nbは、焼入れ性の向上効果があるだけでなく、鋼中でC,Nと結合し析出強化元素として作用する。また、焼もどし軟化抵抗性を向上させる元素でもあり、これらの効果によって疲労強度を向上させる。しかしながら、0.1mass%を超えて含有させてもその効果は飽和するので、0.1mass%以下とすることが好ましい。なお、0.005mass%未満の添加では、析出強化作用および焼もどし軟化抵抗性の向上効果が小さいため、0.005mass%以上添加することが望ましい。さらに好ましくは0.01〜0.05mass%である。
Zrは、焼入れ性向上効果があるだけでなく、鋼中でC,Nと結合し析出強化元素として作用する。また、焼もどし軟化抵抗性を向上させる元素であり、これらの効果によって疲労強度を向上させる。しかしながら、0.1mass%を超えて含有させてもその効果は飽和するため、0.1mass%以下とすることが好ましい。なお、0.005mass%未満の添加では、析出強化作用および焼もどし軟化抵抗性の向上効果が小さいため、0.005mass%以上添加することが望ましい。さらに、好ましくは0.01〜0.05mass%である。
Ta:0.5mass%以下
Taは、ミクロ組織変化の遅延に対して効果があり、疲労強度、特に転動疲労の劣化防止する効果があるので、添加してもよい。しかし、その含有量が0.5mass%を超えて含有量を増加させても、それ以上強度向上に寄与しないので、0.5mass%以下とする。なお、疲労強度の向上作用を発現させるためには、0.02mass%以上とすることが好ましい。
Hfは、ミクロ組織変化の遅延に対して効果があり、疲労強度、特に転動疲労の劣化防止する効果があるので、添加してもよい。しかし、その含有量が0.5mass%を超えて含有量を増加させても、それ以上強度向上に寄与しないので、0.5mass%以下とする。なお、疲労強度の向上作用を発現させるためには、0.02mass%以上とすることが好ましい。
Sbは、ミクロ組織変化の遅延に対して効果があり、疲労強度、特に転動疲労の劣化防止する効果があるので、添加してもよい。しかし、その含有量が0.015mass%を超えて含有量を増加させると靭性が劣化するので、0.015mass%以下、好ましくは0.010mass%以下とする。なお、疲労強度の向上作用を発現させるためには、0.005mass%以上とすることが好ましい。
すなわち、本発明においては、母材の組織、すなわち焼入れ前の組織(高周波焼入れ後の硬化層以外の組織に相当)が、ベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織を有し、かつこれらベイナイト組織とマルテンサイト組織の合計の組織分率を体積分率( vol%)で10%以上とすることが好ましい。この理由は、ベイナイト組織あるいはマルテンサイト組織は、フェライト−パーライト組織に比べて炭化物が微細に分散した組織であるため、焼入れ加熱時にオーステナイトの核生成サイトである、フェライト/炭化物界面の面積が増加し、生成したオーステナイトが微細化するため、焼入れ硬化層の粒径を微細化するのに有効に寄与するからである。そして、焼入れ硬化層の粒径の微細化により、粒界強度が上昇し、疲労強度が向上する。
ここに、ベイナイト組織とマルテンサイト組織の合計の組織分率は20 vol%以上とすることがより好ましい。
また、ベイナイト組織とマルテンサイト組織の合計の組織分率の上限は90 vol%程度とするのが好適である。というのは、これらの合計の組織分率が90vol %を超えると焼入れによる硬化層の旧オーステナイト粒の微細化効果が飽和するだけでなく、被削性が急激に劣化するからである。
同図に示したとおり、ベイナイト組織とマルテンサイト組織は、微細化による高強度化の面ではほぼ同等であったが、被削性(硬さ)の面ではベイナイト組織の方が優れていた。特にベイナイト組織分率が25〜85%の範囲では、高強度化と被削性の両者をバランス良く得ることができた。特に好ましいベイナイト組織分率は30〜70%の範囲である。
その結果、EPMAで評価した円相当径が2μm以上の介在物のうちMnSの存在比率が30%以下であり、さらにCaOの存在比率が20%以下である場合に、被削性および疲労特性が良好となることがわかった。
高周波焼入れ後の本発明の鋼材では、高周波焼入れした部分の鋼材最表層は面積率で 100%のマルテンサイト組織を有する。そして、表面から内部にいくに従い、ある深さまでは 100%マルテンサイト組織の領域が続くが、ある深さから急激にマルテンサイト組織の面積率が減少する。
本発明では、高周波焼入れした部分について、鋼材表面から、マルテンサイト組織の面積率が98%に減少するまでの深さ領域を硬化層と定義する。
そして、この硬化層について、表面から硬化層厚の 1/5位置、1/2 位置および4/5 位置それぞれの位置における平均旧オーステナイト粒径を測定し、いずれの平均旧オーステナイト粒径も12μm 以下である場合に、焼入れ硬化層の全厚にわたる旧オーステナイト粒径が12μm 以下であるとする。
なお、平均旧オーステナイト粒径の測定は、光学顕微鏡により、400 倍(1視野の面積:0.25mm×0.225 mm)から1000倍(1視野の面積:0.10mm×0.09mm)で、各位置毎に5視野観察し、画像解析装置により平均粒径を測定することにより行う。
すなわち、所定の成分組成に調整した鋼材を、棒鋼圧延または熱間鍛造後、必要に応じて冷間圧延、冷間鍛造または切削加工を施したのち、高周波焼入れを施して、製品とする。
本発明では、母材組織を、上述したベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織を有し、かつこれらベイナイト組織とマルテンサイト組織の合計の組織分率が10 vol%以上の組織とするために、高周波焼入れを施す前の素材鋼材については、圧延・鍛造等の熱間加工により所定の形状に加工したのち、0.1 ℃/s以上の速度で冷却する必要がある。というのは、冷却速度が0.1 ℃/s未満の場合には、ベイナイトあるいはマルテンサイト組織が得られ難くなり、これら組織の合計の組織分率が10 vol%に達しない場合が生じるからである。熱間加工後の冷却速度の好適範囲は 0.3〜30℃/sである。
なお、熱間加工は 900℃超〜1250℃の温度範囲で行うことが好ましい。900 ℃以下では、必要なベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織が得られず、一方1250℃超では加熱コストが大きくなるため、経済的に不利となるからである。
図3に、Mo添加鋼(Mo:0.05〜0.6 mass%)とMo無添加鋼について、高周波焼入れ時の加熱温度と硬化層の旧オーステナイト粒径との関係について調べた結果を示す。
同図に示したとおり、Mo添加鋼およびMo無添加鋼いずれにおいても、高周波焼入れ時の加熱温度を低下させることで硬化層の旧オーステナイト粒径を小さくできるが、Mo添加鋼においては、加熱温度を1000℃以下好ましくは 950℃以下とすることにより、特に顕著に硬化層粒径の微細化が達成される。
なお、高周波焼入れを複数回繰り返す場合、少なくとも最終の高周波焼入れによる焼入れ深さは、それ以前の高周波焼入れによる焼入れ深さと同等またはそれ以上とすることが好ましい。というのは、硬化層の結晶粒径は、最後の高周波焼入れに一番強く影響されるので、最後の高周波焼入れによる焼入れ深さが、それ以前の高周波焼入れによる焼入れ深さよりも小さいと、それ以前の焼入部分が焼戻されることになり焼入れ深さが低下するために、かえって疲労強度が低下する傾向にあるからである。
さらに、高周波焼入れ時の加熱速度および上記加熱時間で保持した後の降温速度が大きいと、オーステナイトの粒成長が生じ易くなるので、高周波焼入れ時の加熱速度および加熱保持後の降温速度は 200℃/s以上とすることが好ましい。より好ましくは 500℃/s以上である。部品によっては、加熱速度を200℃/s以上とすることが難しくなる場合もあるので、加熱速度は特に限定するものではない。
得られた結果を表3に併記する。
被削性は前記棒鋼より厚さ25mmの圧延方向と直交する断面の平行を出した被削性試験片を採取し、SKH4、4mmφのドリルを用いて1500rpmの条件にて12mm長さの穴あけを行い、切削不能となるまでの総穴長さ(mm)を工具寿命として評価した。
なお、得られた棒鋼を別途被削性試験片として用いて、被削性について上述したところに従って調査した。
このシャフトに、周波数:25kHzの高周波焼入れ装置を用いて、表5に示す条件下で焼入れを行った後、加熱炉を用いて170℃×30分の条件で焼もどしを行い、その後ねじり疲労強度について調査した。
この耐焼割れ性は、高周波焼入れ後のスプライン部のC断面5ヶ所を切断・研磨し、光学顕微鏡(倍率:100〜200倍)で観察した時の焼割れ発生個数で評価した。
得られた結果を表5に併記する。
ここに、クランクシャフトの曲げ疲労寿命は、次のようにして評価した。
図9に示すように、クランクシャフトの端部は固定した状態で、各コネクティングロッドに繰り返し曲げ応力を負荷する耐久試験を行い、疲労限によって曲げ疲労寿命を評価した。なお、母相の被削性は、圧延した棒鋼に対して、上述と同様の工具寿命の評価を行なった。
これらの結果も表6に併記する。
この等速ジョイント12は、外輪13および内輪14の組み合わせになる。すなわち、外輪13のマウス部13aの内面に形成したボール軌道溝に嵌めるボール15を介して、マウス部13aの内側に内輪14を揺動可能に固定してなり、この内輪14にドライブシャフト10を連結する一方、外輪13のステム部13bをハブ11に例えばスプライン結合させることによって、ドライブシャフト10からの動力を車輪のハブ11に伝えるものである。
記
ボール:高炭素クロム軸受鋼SUJ2の焼入れ焼戻し鋼
内輪:クロムSCrの浸炭焼入れ焼もどし鋼
ハブ:機械構造用炭素鋼
さらに、この動力伝達系において、ねじり疲労強度に関する耐久試験を実施した。ここでのねじり疲労試験は、等速ジョイントユニットの作動角(外輪の軸線とドライブシャフト軸線とのなす角度):0°とし、最大トルク:4900N・mのねいじり疲労試験機を用いて、ハブとドライブシャフトとの間にねじり力を負荷するようにし、ステム部の最大トルクを変化させることで両振りで応力条件を変えて行い、1×105回の寿命となる応力をねじり疲労強度として評価した。
なお、ねじり疲労試験にあたっては、等速ジョイント外輪のねじり疲労を評価するため、ハブ、ドライブシャフトの強度が十分大きくなるように、ハブ、ドライブシャフト形状、寸法を調整した。
同様に、転動疲労試験に当たっても、等速ジョイント内輪および鋼球等の寸法、形状を、耐久試験時に等速ジョイント外輪内周面が最弱部になるように設定した。
表7には、これらの結果も併記する。
この等速ジョイント12は外輪13および内輪14の組み合わせになる。すなわち、外輪13のマウス部13aの内面に形成したボール軌道溝に嵌めるボール15を介して、マウス部13aの内側に内輪14を揺動可能に固定してなり、この内輪14にドライブシャフト10を連結する一方、外輪13のステム部13bをハブ11に例えばスプライン結合させることによって、ドライブシャフト10からの動力を車輪のハブ11に伝えるものである。
記
ボール:高炭素クロム軸受鋼SUJ2の焼入れ焼戻し鋼
外輪:機械構造用炭素鋼の高周波焼入れ焼戻し鋼
ハブ:機械構造用炭素鋼の高周波焼入れ焼戻し鋼
ドライブシャフト:機械構造用炭素鋼の高周波焼入れ焼戻し鋼
表8には、これらの結果も併記する。
この自動車の車輪のハブ17は、軸受けの内輪を兼ねる軸部18を有し、その外周面において外輪20との間に挿入したボール21を介して軸受けを構成している。なお、図16中の符号19はハブの軸部18と外輪20との間にボール21を保持するためのスペーサである。この図16に示したところにおいて、ハブの軸受けをなすボールが転動する外周面(転動面)22では転動疲労寿命の向上が要求される。
ハブの転動疲労寿命は、次のようにして評価した。
ハブの軸部の外周面に軸受けボールを配置すると共に、外輪を装着し、ハブを固定した状態で、図16に示すように、ハブ外輪20に一定の荷重(950N)を負荷した状態でハブ外輪20を一定の回転速度(300rpm)で回転させる耐久試験を行って、高周波焼入れ組織層22が転動疲労破壊するまでの時間を転動疲労寿命として評価した。
なお、ここで、他の外輪、鋼球等の寸法・形状は、耐久試験時にハブの軸部転動面が最弱部になるように設定した。
これらの結果も表9に併記する。
2 スプライン部
3 つかみ具
4 クランクシャフト
5 ジャーナル部
6 クランクピン
7 クランクウェブ部
8 カウンタウェイト部
9 焼入れ組織層
10 ドライブシャフト
11 ハブ
12 等速ジョイント
13 外輪
13a マウス部
13b ステム部
14 内輪
15 ボール
16 焼入れ組織層
17 ハブ
18 ハブの軸部
19 スペーサ
20 ハブの外輪
21 ボール
22 転動面
Claims (4)
- 高周波焼入れによる表面硬化層を少なくとも部分的に有する鋼材であって、
C:0.35〜0.7 mass%、
Si:1.1 mass%以下、
Mn:0.05 〜2.0 mass%、
Al:0.008mass%以下、
Ti:0.005 〜0.1 mass%、
Mo:0.05〜0.6 mass%、
B:0.0003〜0.006 mass%および
S:0.01〜0.06mass%
を含み、さらに
Ca:0.0021mass%以上、
REM:0.0021mass%以上および
Mg:0.0021mass%以上
のうちの1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の成分組成になり、
アスペクト比が50以上のMnSの全MnS中に占める比が累積頻度で5%以下であることを特徴とする鋼材。 - 請求項1において、前記成分組成として、さらに
Cr:2.5mass%以下、
Cu:1.0mass%以下、
Ni:2.5mass%以下、
Co:1.0mass%以下、
V:0.3mass%以下、
W:1.0mass%以下
Nb:0.1mass%以下、
Zr:0.1mass%以下、
Ta:0.5mass%以下、
Hf:0.5mass%以下および
Sb:0.015mass%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する鋼材。 - 請求項1または2において、鋼材がベイナイト組織およびマルテンサイト組織を有し、かつ、これらベイナイト組織とマルテンサイト組織の合計の組織分率が10%以上であり、かつ、前記表面硬化層の旧オーステナイト粒径の平均値が12μm以下であることを特徴とする鋼材。
- 請求項1、2または3において、円相当径が2μm以上の介在物は、MnSの存在比率が30%以下およびCaOの存在比率が20%以下であることを特徴とする鋼材。
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