JP4955358B2 - 新規枯草菌変異株 - Google Patents

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本発明は、新規な枯草菌変異株に関し、特に、各種タンパク質の分泌生産性が向上した新規枯草菌変異株に関する。
枯草菌は、グラム陽性菌のモデルとして広く分子生物学の研究に供されているのみならず、アミラーゼやプロテアーゼといった各種酵素の生産菌として発酵工業及び医薬品工業等に広く利用されている。日欧共同ゲノムプロジェクトにより、枯草菌ゲノムの全塩基配列が既に決定されているが、枯草菌ゲノムに存在する約4100種類の遺伝子に関する機能同定は完了していない。
現在まで、枯草菌ゲノムに存在する約4100種類の遺伝子の破壊株が網羅的に研究され、271個の遺伝子が成育に必須であることが指摘されている(非特許文献1)。
また、枯草菌等の胞子形成初期に関わる遺伝子やプロテアーゼ遺伝子、又は細胞壁或いは細胞膜中のテイコ酸へのD-アラニン付加に関わる遺伝子、更にはサーファクチンの生合成或いは分泌に関わる遺伝子を単独に欠失又は不活性化した菌株が構築されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8参照)。しかしながら、それらの菌株によるタンパク質の生産性の向上は十分ではなく、また、現在まで、各種タンパク質の生産性が向上した枯草菌由来の変異株及び当該変異株の網羅的解析に関する有用な知見は得られていない。
K. Kobayashi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 100, 4678-4683, 2003 特開昭58-190390号公報 特開昭61-1381号公報 国際公開第89/04866号パンフレット 特表平11-509096号公報 特許第3210315 特表2001-527401 特表2002−520017 特表2001−503641
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、枯草菌に由来する遺伝子破壊株を網羅的に解析し、各種酵素の生産性に優れた新規な枯草菌変異株を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明者らは、枯草菌ゲノムの大領域を欠失させた変異株を網羅的に解析し、各種酵素の生産性に優れた多くの枯草菌変異株を取得することに成功し、発明を完成するに至った。
本発明に係る枯草菌変異株は、下記表1に示す、欠損領域の欄に記載された領域を欠失させたゲノム構造を有するものである。この枯草菌変異株は、目的タンパク質をコードする遺伝子が発現可能に導入された際に、当該目的タンパク質の分泌生産性が、野生株に同遺伝子が導入された場合と比較して有意に向上している。また、枯草菌変異株は目的タンパク質をコードする遺伝子が発現可能に導入されたものであってもよい。更に、目的タンパク質をコードする遺伝子は、分泌シグナルに相当する領域をコードする塩基配列を含むか、或いは、その上流において分泌シグナルに相当する領域をコードする塩基配列を含むDNAと適切に連結したものであってもよい。ここで、上記目的タンパク質はセルラーゼ、プロテアーゼ及びアミラーゼからなる群から選ばれる少なくとも1つの酵素であってもよい。さらにまた、枯草菌変異株は、枯草菌168株を野生株として作製されたものであってもよい。さらに、下記表1における欠損領域の欄に記載されたゲノム領域は、下記表2のオリゴヌクレオチド・セットにより挟み込まれる領域を含むものであってもよい。
本発明により、各種酵素の生産性に優れた新規な枯草菌変異株を提供することができる。本発明に係る枯草菌変異株を用いることによって、生産性に優れた各種酵素の工業的生産方法を実現することができるのみならず、各種酵素の産生メカニズム等の解明に有用な生物材料を提供することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において提供される新規な枯草菌変異株は、枯草菌ゲノムから大領域を欠失させることで取得できる。これら枯草菌変異株は、クローニングした遺伝子を導入した場合に当該遺伝子に由来する目的タンパク質またはポリペプチドの分泌生産性が向上したものである。ここで、導入する遺伝子は、タンパク質をコードするものであれば良く、外来性及び内在性のいずれであっても良い。当該遺伝子は、分泌シグナルに相当する領域をコードする塩基配列を含むものであってもよいし、或いは、その上流において分泌シグナルに相当する領域をコードする塩基配列を含むDNAと適切に連結したものであってもよい。また、当該遺伝子は、枯草菌変異株のゲノムに導入されても良いし、発現ベクターとして枯草菌変異株に導入されてもよい。さらに、導入する遺伝子は、1つであっても良いし、複数であっても良い。複数の遺伝子を導入する場合には、複数の遺伝子を1つのDNA断片上に並列させて導入しても良いし、複数の遺伝子をそれぞれ異なるDNA断片として導入してもよい。遺伝子を導入する手法としては、何ら限定されることなく、従来公知の形質転換方法、形質導入方法等を使用することができる。
また、導入する遺伝子としては、特に限定されないが、例えば、分泌型アルカリセルラーゼ、分泌型アルカリプロテアーゼ及び分泌型アルカリアミラーゼを挙げることができる。
本発明に係る新規枯草菌変異株の名称及び欠失領域を表1に示す。
Figure 0004955358
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Figure 0004955358
Figure 0004955358
なお、表1に示した欠失領域は、表2に示す一対のオリゴヌクレオチド・セットにより挟み込まれる領域として言い換えることができる。
Figure 0004955358
なお、本発明に係る各枯草菌変異株には、枯草菌168株等の標準野生株のゲノムDNAから上述のように定義した欠失領域に加えてその他の領域を欠失したゲノム構造を有するものも含まれる。その他の領域としては、例えば、生育必須遺伝子を除く遺伝子領域及び非コード領域が挙げられ、ゲノム上から欠失しても上述した分泌生産能を低下させない領域が好ましい。
表1に示した欠失領域を枯草菌ゲノム上から欠失させる方法としては、特に限定されないが、例えば図1に示す以下の方法を適用することができる。
すなわち、いわゆるSOE-PCR法(Gene,77,61 (1989))によって調製される欠失用DNA断片を挿入した欠失用プラスミドを用いた2段階の1重交差法を用いる方法によって、表1に示した欠失領域を枯草菌ゲノム上から欠失させる。本方法で用いる欠失用DNA断片は、欠失対象領域の上流に隣接する約0.1〜3kb断片(上流断片と称する)、同じく下流に隣接する約0.1〜3kb断片が結合したDNA断片(下流断片と称する)とを連結したDNA断片である。また当該DNA断片の下流或いは上流にクロラムフェニコール耐性遺伝子などの薬剤耐性マーカー遺伝子断片を結合させたDNA断片を用いることもできる。
まず、1回目のPCRによって、欠失対象遺伝子の上流断片及び下流断片、並びに必要に応じて薬剤耐性マーカー遺伝子断片の3断片を調製する。この際、結合対象となるDNA断片の末端10〜30塩基対の配列を付加したプライマーを設計する。例えば、上流断片及び下流断片をこの順で結合させる場合、上流断片の下流末端に位置する(アニールする)プライマーにおける5’末端に、下流断片の上流側10〜30塩基に相当する配列を付加し、また下流断片の上流末端に位置する(アニールする)プライマーにおける5’末端に、上流断片の下流側10〜30塩基に相当する配列を付加する。このように設計したプライマーセットを用いて上流断片及び下流断片を増幅した場合、増幅された上流断片の下流側には下流断片の上流側に相当する領域が付加されることとなり、増幅された下流断片の上流側には上流断片の下流側に相当する領域が付加されることとなる。
次に1回目に調製した上流断片及び下流断片を混合して鋳型とし、上流断片の上流側に位置する(アニールする)プライマー及び下流断片の下流側に位置する(アニールする)プライマーからなる1対のプライマーを用いて2回目のPCRを行う。この2回目のPCRにより、上流断片及び下流断片をこの順で結合した欠失用DNA断片を増幅することができる。
なお、欠失用DNA断片に薬剤耐性マーカー遺伝子断片を連結する場合には、1回目のPCRにおいて、下流断片の下流側に相当する領域を付加するように、薬剤耐性マーカー遺伝子断片を増幅する。さらに2回目のPCRにおいて、上流断片の上流側に位置する(アニールする)プライマーと薬剤耐性マーカー遺伝子断片の下流側に位置する(アニールする)プライマーからなる一対のプライマーを使用する。これにより、上流断片、下流断片及び薬剤耐性マーカー遺伝子断片の順で結合した欠失用DNA断片を増幅することができる。
また、上流断片及び下流断片をこの順で結合した欠失用DNA断片を2回目のPCRによって増幅した後、薬剤耐性マーカー遺伝子を含むプラスミドに欠失用DNA断片を挿入することで、上流断片、下流断片及び薬剤耐性マーカー遺伝子断片をこの順で有する欠失用DNA断片を調製しても良い。
更に、上述の方法などによって得られる欠失用DNA断片を、通常の制限酵素とDNAリガーゼを用いて宿主菌内で増幅されないプラスミドDNA、又は温度感受性プラスミド等、容易に除去できるプラスミドDNAに挿入することによって、欠失導入用プラスミドを構築する。宿主菌内で増幅されないプラスミドDNAの例としては、例えば枯草菌を宿主とする場合、pUC18、pUC118、pBR322などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
次いで、欠失用プラスミドによる宿主菌の形質転換をコンピテントセル形質転換法(J. Bacteriol. 93, 1925 (1967))などによって行い、プラスミドに挿入された上流断片或いは下流断片とゲノム上の相同領域間での1重交差の相同組換えによって欠失用プラスミドが宿主菌ゲノムDNA内に融合した形質転換体を得る。形質転換体の選択には欠失導入用プラスミドのクロラムフェニコール耐性遺伝子などのマーカー遺伝子による薬剤耐性を指標に行えば良い。
かくして得られる形質転換体のゲノム上には欠失すべきゲノム上の薬剤耐性遺伝子の上流領域及び下流領域の配列について、宿主菌ゲノム由来と欠失用プラスミドに由来するものが重複して存在している。この上流領域又は下流領域のうち、形質転換体を獲得する際に相同組換えした領域と異なる領域でゲノム内相同組換えを起こさせることにより、欠失用プラスミド由来の領域と共にゲノム上の薬剤耐性遺伝子など欠失すべき標的遺伝子の欠失が生じる。ゲノム内の相同組換えを起こさせる方法としては、例えばコンピテンスを誘導する方法(J. Bacteriol. 93, 1925 (1967))が挙げられるが、単に通常の培地での培養中においても自然誘発的に相同組換えが生じる。目的通りにゲノム内相同組換えを起こした菌株は同時に薬剤耐性遺伝子を欠失して薬剤に対する耐性能を失うため、薬剤感受性となった菌株より選択することができる。こうした菌株からゲノムDNAを抽出し、PCR法などによって目的遺伝子の欠失を確認すれば良い。
目的の欠失株を選択する際、薬剤耐性から感受性に変化した菌株を直接選択することは難しく、またゲノム内での相同組換えは約10-4以下の低い頻度で生じるものと考えられる。そこで、目的欠失株を効率的に取得するためには薬剤感受性株の存在比率を高めるなどの工夫を施すことが望ましい。薬剤感受性株の濃縮方法としては、例えばアンピシリンなどのペニシリン系抗生物質が、増殖細胞に対して殺菌的に作用し、一方、非増殖細胞には作用しないことを利用した濃縮法(Methods in Molecular Genetics, Cold Spring Harbor Labs, (1970))などが挙げられる。アンピシリンなどによる濃縮を行う場合、例えばテトラサイクリンやクロラムフェニコールなどの様に宿主細胞に対して静菌的に作用する薬剤に対する耐性遺伝子の欠失に関して有効である。こうした静菌的作用の薬剤を適量含む適当な培地において、当該薬剤耐性遺伝子を保持する耐性株は増殖可能であり、当該薬剤耐性遺伝子を欠失した感受性株は増殖も死滅もしない。この様な条件下において適当な濃度のアンピシリンなどのペニシリン系抗生物質を添加して培養を行うと、増殖しようとする耐性株が死滅する一方、感受性株はアンピシリンなどの作用を受けず、結果として感受性株の存在比率が高まることになる。この様な濃縮操作を行った培養液を適当な寒天培地に塗抹、培養し、出現したコロニーのマーカー薬剤に対する耐性の有無をレプリカ法などによって確認することにより、効率的に感受性株を選択することが可能となる。
以上のようにして、ゲノム上の所定の領域を単独で欠失したゲノム構造を有する枯草菌変異株を製造することができる。さらに、複数の領域を欠失したゲノム構造を有する枯草菌変異株は、いわゆる、LP(lysis of protoplasts)形質転換方法によって製造することができる。LP形質転換法は、『T. Akamatsu及びJ. Sekiguchi, 「Archives of Microbiology」, 1987年, 第146巻, p.353-357』及び『T. Akamatsu及びH. Taguchi, 「Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry」, 2001年, 第65巻,第4号, p.823-829』を参照することで利用することができる。すなわち、LP形質転換法では、細胞壁を溶解させたプロトプラストを供与体DNAとして、レシピエント菌株のコンピテントセルに供与する。添加されたプロトプラストは浸透圧ショックにより破壊され、培養液中に放出された供与体DNAがレシピエント菌株のコンピテントセルに取り込まれるものと考えられている。また、LP形質転換方法によれば、一般的な形質転換方法に比べて、導入すべきDNAの損傷は大幅に軽減する。
このLP形質転換法を適用することによって、単独で欠失したゲノム構造を有する枯草菌変異株から複数の領域を欠失したゲノム構造を有する枯草菌変異株をあらたに製造することができる。具体的には、先ず、特定の領域(第1の欠失領域と呼ぶ)を欠失したゲノム構造を有する枯草菌変異株をプロトプラスト化し、異なる領域を(第2の欠失領域)を欠失したゲノム構造を有する枯草菌変異株のコンピテントセルと共存させる。これにより、第1の欠失領域を有するゲノムDNA(供与体DNA)と、第2の欠失領域を有するゲノムDNA(宿主DNA)との間で一組の鎖間交換構造を形成することとなる。この一組の鎖間交換構造が供与体DNAにおける第1の欠失領域を挟み込んだ位置で生じることによって、供与体DNAにおける第1の欠失領域が宿主DNAに導入されることとなる。このようにして、LP形質転換法を適用することによって、第1の欠失領域及び第2の欠失領域を欠失したゲノム構造を有する枯草菌変異株を製造することができる。この方法を応用すれば、成育に必須な遺伝子を欠失しない限り、複数の領域を欠失したゲノム構造を有する枯草菌変異株を製造することができる。
以上のようにして製造された本発明に係る枯草菌変異株は、枯草菌168株等の野生標準菌株と比較して、導入した遺伝子によりコードされるタンパク質またはポリペプチドの分泌生産能が優れているといった特徴を有する。本発明の枯草菌変異株を用いて生産される目的タンパク質又は目的ポリペプチドは、特に限定されず、例えば洗剤、食品、繊維、飼料、化学品、医療、診断など各種産業に使用される産業用酵素や生理活性ペプチドなどが挙げられるが、特に産業用酵素であることが好ましい。産業用酵素には、機能別に分類すると、酸化還元酵素(Oxidoreductase)、転移酵素(Transferase)、加水分解酵素(Hydrolase)、脱離酵素(Lyase)、異性化酵素(Isomerase)及び合成酵素(Ligase/Synthetase)等が含まれる。この中でも、本発明の枯草菌変異株を用いて生産される目的タンパク質としては、好適には、セルラーゼ、α-アミラーゼ、プロテアーゼ等の加水分解酵素が挙げられる。
例えば、遺伝子としてセルラーゼ、プロテアーゼ及びアミラーゼを導入した枯草菌変異株においては、野生標準菌株に導入した場合と比較して菌体外に分泌する酵素生産量が著しく向上している。本発明に係る枯草菌変異株におけるこれら酵素の分泌生産性は、従来公知の各種手法を限定されることなく適用して測定することができる。
セルラーゼの生産性は、一例として以下のようにして測定することができる。先ず、セルラーゼ遺伝子を有するベクターを用いて供試枯草菌変異株を形質転換する。次に、得られた形質転換体を培養した後、遠心分離等によって菌体を除いた培養液上清を得る。そして、得られた上清に基質として例えば、p-nitrophenyl-β-D-cellotrioside(生化学工業)を添加し、所定時間反応させ、反応を行った際に遊離するp-ニトロフェノール量を420nmにおける吸光度(OD420nm)変化により定量する。これにより、供試枯草菌変異株に導入したセルラーゼ遺伝子にコードされるセルラーゼの生産性を測定することができる。なお、枯草菌168株等の標準野生株におけるセルラーゼの生産性を同様に測定することで、供試枯草菌変異株におけるセルラーゼ生産性を相対値として評価することができる。
セルラーゼとしては、例えば、多糖加水分解酵素の分類(Biochem.J.,280,309,1991)中でファミリー5に属するセルラーゼが挙げられ、中でも微生物由来、特にBacillus属細菌由来のセルラーゼが好適である。より具体的な例として、配列番号116で示されるアミノ酸配列からなるBacillus属細菌KSM-S237株(FERM BP-7875)由来のアルカリセルラーゼ、または、配列番号118で示されるアミノ酸配列からなるBacillus属細菌KSM-64株(FERM BP-2886)由来のアルカリセルラーゼ、或いは、当該アミノ酸配列と70%、好ましくは80%、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるセルラーゼが挙げられる。尚、配列番号116で示されるアミノ酸配列を有するアルカリセルラーゼと配列番号118で示されるアミノ酸配列を有するアルカリセルラーゼは、アミノ酸配列間の比較において約92%の同一性を示し、いずれも本発明で用いるセルラーゼの具体的な例としては好適であるが、配列番号116で示されるアミノ酸配列を有するアルカリセルラーゼがより好適である。
かかるセルラーゼの生産においては、本発明の枯草菌変異株のうち、表1記載の中のMGB653株、MGB683株、MGB781株、MGB723株、MGB773株、MGB822株、MGB834株、MGB846株、MGB872株、MGB885株、MGB913株、MGB860株、MGB874株、MGB887株、NED02021株、NED0400株、NED0600株、NED0803株、NED0804株、NED1100株、NED1200株、NED1400株、NED1500株、NED1901株、NED1902株、NED2201株、NED2202株、NED2402株、NED2500株、NED2602株、NED2702株、NED2802株、NED3000株、NED3200株、NED3303株、NED3701株、NED3800株、NED4000株、NED4001株、NED4002株及びNED4100株から選ばれる枯草菌変異株を用いるのがより好ましい。
プロテアーゼの生産性は、一例として以下のようにして測定することができる。先ず、プロテアーゼ遺伝子を有するベクターを用いて供試枯草菌変異株を形質転換する。次に、得られた形質転換体を培養した後、遠心分離等によって菌体を除いた培養液上清を得る。そして、得られた上清に基質として例えば、Succinyl-L-Alanyl-L-Alanyl-L-Alanine p-Nitroanilide (STANA ペプチド研究所)を添加し、所定時間反応させ、反応を行った際に遊離するp-ニトロアニリン量を420nmにおける吸光度変化(OD420nm)により定量する。これにより、供試枯草菌変異株に導入したプロテアーゼ遺伝子にコードされるプロテアーゼの生産性を測定することができる。なお、枯草菌168株等の標準野生株におけるプロテアーゼの生産性を同様に測定することで、供試枯草菌変異株におけるプロテアーゼ生産性を相対値として評価することができる。
プロテアーゼの具体例としては、微生物由来、特にBacillus属細菌由来のセリンプロテアーゼや金属プロテアーゼ等が挙げられる。より具体的な例として、配列番号119で示されるアミノ酸配列からなるバチルス クラウジ(Bacillus clausii)KSM-K16株(FERM BP-3376)由来のアルカリプロテアーゼや、当該アミノ酸配列と70%、好ましくは80%、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるプロテアーゼが挙げられる。
かかるプロテアーゼの生産においては、本発明の枯草菌変異株のうち、MGB533株、MGB592株、MGB604株、MGB625株、MGB653株、MGB683株、MGB781株、MGB723株、MGB773株、MGB822株、MGB834株、MGB846株、MGB872株、MGB885株、MGB913株、MGB943株、MGB860株、MGB874株、MGB887株、NED0302株、NED0400株、NED0600株、NED0803株、NED1500株、NED1902株及びNED3200株から選ばれる枯草菌変異株を用いるのがより好ましい。
アルカリアミラーゼの生産性は、一例として以下のようにして測定することができる。先ず、アルカリアミラーゼ遺伝子を有するベクターを用いて供試枯草菌変異株を形質転換する。次に、得られた形質転換体を培養した後、遠心分離等によって菌体を除いた培養液上清を得る。そして、例えば、アミラーゼ活性測定キットであるリキテックAmy EPS(ロシュ・ダイアグノスティック社)を使用して、上清に含まれるアルカリアミラーゼの活性を測定することができる。これにより、供試枯草菌変異株に導入したアルカリアミラーゼ遺伝子にコードされるアルカリアミラーゼの生産性を測定することができる。なお、枯草菌168株等の標準野生株におけるアルカリアミラーゼの生産性を同様に測定することで、供試枯草菌変異株におけるアルカリアミラーゼ生産性を相対値として評価することができる。
アミラーゼの具体例としては、微生物由来のα−アミラーゼが挙げられ、特にBacillus属細菌由来の液化型アミラーゼが好ましい。より具体的な例として、配列番号120で示されるアミノ酸配列からなるBacillus属細菌KSM-K38株(FERM BP-6946)由来のアルカリアミラーゼや、当該アミノ酸配列と70%、好ましくは80%、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるアミラーゼが挙げられる。
かかるα−アミラーゼの生産においては、本発明の枯草菌変異株のうち、MGB653株、NED0301株、NED0302株、NED0400株、NED0600株、NED0802株、NED0804株、NED0900株、NED1002株、NED1003株、NED1100株、NED1602株、NED2602株、NED2702株、NED3402株、NED3701株及びNED3800株から選ばれる枯草菌変異株を用いるのがより好ましい。
本発明の枯草菌変異株に導入される目的タンパク質又はポリペプチドの遺伝子は、その上流に当該遺伝子の転写、翻訳、分泌に関わる制御領域、即ち、プロモーター及び転写開始点を含む転写開始制御領域、リボソーム結合部位及び開始コドンを含む翻訳開始領域並びに分泌シグナルペプチド領域から選ばれる1以上の領域が適正な形で結合されていることが望ましい。特に、転写開始制御領域、翻訳開始制御領域及び分泌シグナル領域からなる3領域が結合されていることが好ましく、更に分泌シグナルペプチド領域がバチルス(Bacillus)属細菌のセルラーゼ遺伝子由来のものであり、転写開始領域及び翻訳開始領域が当該セルラーゼ遺伝子の上流0.6〜1kb領域であるものが、目的のタンパク質又はポリペプチド遺伝子と適正な形で結合されていることが望ましい。例えば、特開2000-210081号公報や特開平4-190793号公報等に記載されているバチルス(Bacillus)属細菌、すなわちKSM-S237株(FERM BP-7875)、KSM-64株(FERM BP-2886)由来のセルラーゼ遺伝子の転写開始制御領域、翻訳開始領域及び分泌シグナルペプチド領域が目的のタンパク質又はポリペプチドの構造遺伝子と適正に結合されていることが望ましい。より具体的には配列番号115で示される塩基配列の塩基番号1〜659の塩基配列、配列番号117で示される塩基配列からなるセルラーゼ遺伝子の塩基番号1〜696の塩基配列、また当該塩基配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNA断片、或いは上記いずれかの塩基配列の一部が欠失した塩基配列からなるDNA断片が、目的のタンパク質又はポリペプチドの構造遺伝子と適正に結合されていることが望ましい。尚、ここで、上記塩基配列の一部が欠失した塩基配列からなるDNA断片とは、上記塩基配列の一部を欠失しているが、遺伝子の転写、翻訳、分泌に関わる機能を保持しているDNA断片を意味する。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
本実施例では、枯草菌168株を野生株としてゲノム上の様々な領域を欠失させた変異株を製造した。なお、本実施例で使用した各種のプライマーに関し、プライマー名と、塩基配列と、配列番号との対応を末尾に表10として示した。
〔実施例1〕複数領域を欠失した変異株の作製
<upp遺伝子欠失株(cat-uppカセットを含む)の作製>
図2に示すように、枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、upp-AFWとupp-ARV、及びupp-BFWとupp-BRVの各プライマーセットを用いて、ゲノム上のupp遺伝子(BG 13408;uracil phosphoribosyl-transferase)の上流に隣接する1.0kb断片(a1)、及び下流に隣接する1.0kb断片(b1)をPCRにより増幅した。また、プラスミドpMutinT3 (Microbiology ,144, 3097 ,1998)を鋳型として、Erm-FWとErm-RVプライマーのセットを用いてエリスロマイシン耐性遺伝子を含む1.2kb断片(c1)を、PCRによって調製した。尚、PCR反応は反応系を20μLとして、LATaqポリメラーゼ(タカラバイオ社製)を用いて添付のプロトコールに従い、(a1)、(b1)については鋳型DNAである枯草菌168株ゲノム50ng、(c1)についてはプラスミドDNA1ng、上記プライマーを各200nM、dATP、dTTP、dCTP、dGTPを各200μM、LATaq0.2U、添付の10×緩衝液を1×となるように混合した。増幅反応には、PCRシステム(アプライドバイオシステム社製GeneAmp9700)を用い、95℃で5分間の熱変性の後、95℃で15秒、次に55℃で30秒、さらに72℃で60秒間恒温し、これを繰り返し25回おこない、最後に30秒間72℃で伸長を完了させた。このようにして得られた上記3つ(a1)、(b1)及び(c1)のPCR増幅断片をセントリコン(ミリポア社製)にて精製後、各0.5μLを混合し、さらに、プライマーupp-AFWとupp-BRVを加えて上記PCR条件の72℃での恒温を3分間に変更し、SOE−PCRをおこなった。このPCRの結果、3断片を(a1)、(c1)及び(b1)の順になる様に結合させた3.2kbのDNA断片(d1)を得た。このDNA断片を用いてコンピテント法(J.Bacteeriol.,81,741,1960)により枯草菌168株の形質転換を行った。すなわち、枯草菌168株をSPI培地(0.20% 硫酸アンモニウム、1.40% リン酸水素二カリウム、0.60% リン酸二水素カリウム、0.10% クエン酸三ナトリウム二水和物、0.50% グルコース、0.02% カザミノ酸 (Difco)、5mM 硫酸マグネシウム、0.25μM 塩化マンガン、50μg/ml トリプトファン)において37℃で、生育度(OD600)の値が1程度になるまで振盪培養した。振盪培養後、培養液の一部を9倍量のSPII培地(0.20% 硫酸アンモニウム、1.40% リン酸水素二カリウム、0.60% リン酸二水素カリウム、0.10% クエン酸三ナトリウム二水和物、0.50% グルコース、0.01% カザミノ酸 (Difco)、5mM 硫酸マグネシウム、0.40μM 塩化マンガン、5μg/ml トリプトファン)に接種し、更に生育度(OD600)の値が0.4程度になるまで振盪培養することで、枯草菌168株のコンピテントセルを調製した。次いで調製したコンピテントセル懸濁液(SPII培地における培養液)100μLに上記DNA断片(d1)を含む溶液(上記SOE−PCRの反応液)5μLを添加し、37℃で1時間振盪培養後、0.5g/mLのエリスロマイシンを含むLB寒天培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl、1.5%寒天)に全量を塗沫した。37℃における静置培養の後、生育したコロニーを形質転換体として分離した。得られた形質転換体のゲノムを抽出し、これを鋳型とするPCRによってupp遺伝子がゲノム上から欠失し、エリスロマイシン耐性遺伝子に置換していることを確認した。以後この株を168Δuppと表記する。尚、後述するコンピテント法による形質転換は、使用するDNAや形質転換体選抜の為の寒天培地を適宜変更する他は、上述の方法と同様にして行った。
<cat-uppカセットDNA断片の構築>
図3に示すように、upp遺伝子とクロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)の転写が確実に行われる様、枯草菌で転写が確認されているプラスミドpSM5022 (Mol. Microbiol. 6, 309 ,1992) のcat遺伝子の下流にupp遺伝子を結合させた。即ち、cat-Fwとcat-Rvのプライマーセットを用い、pSM5022を鋳型として、PCRによりcatを含む1.3kbのDNA断片を増幅した。また、プライマーupp-Fwとupp-RVを用いて168株ゲノムを鋳型としてPCRを行いupp遺伝子を含む1.1kbのDNA断片を得た。次にこれら2断片を精製後、SOE−PCRにより結合し、cat遺伝子の下流にupp遺伝子が結合した2.4kbのca-uppカセットDNA断片(C)を調製した。更にこの断片をプラスミドpBR322のClaI切断部位に挿入することにより組換えプラスミドpBRcatuppを得た。
<Pro1領域欠失株(cat-uppカセット断片を含む)の作製>
図4に示すように、Pro1-AFWとPro1-ARV、Pro1-BFWとPro1-BRVの各プライマーセットを用いて、168株ゲノムを鋳型として、PCRによってPro1領域の上流に隣接する0.6kbの断片(A)及び下流に隣接する0.3kbの断片(B)を調製した。なお、図4において、Pro1領域は「欠失標的領域」と記載した。
次いで、得られたPCR増幅断片(A)及び(B)と、上述のcat-uppカセット断片(C)とを鋳型として、プライマーPro1-AFWとPro1-BRVによるSOE−PCRを行って3断片を(A)、(C)及び(B)の順になる様に結合させた。得られたDNA断片(D)を用いてコンピテント法により実施例2で示した168Δupp株の形質転換を行い、10ppmのクロラムフェニコールを含むLB寒天培地に生育可能な形質転換体を分離した。得られた形質転換体はPCRによってPro1領域がゲノム上から欠失し、cat-uppカセットDNA断片に置換していることを確認した。更に、本形質転換体を種々の濃度の5FU(シグマアルドリッチ社製)を添加したCg + グルコース寒天培地(7%リン酸水素二カリウム、3%リン酸二水素カリウム、0.5%クエン酸ナトリウム、1%硫酸アンモニウム、0.1%硫酸マグネシウム、0.05%グルタミン酸、0.5%グルコース、10ng/mL L-トリプトファン、0.55μg/mL塩化カルシウム、0.17μg/mL塩化亜鉛、43ng/mL塩化銅二水和物、60ng/mL塩化コバルト六水和物、60ng/mLモリブデン酸(IV)ナトリウムニ水和物、1.5%寒天)上で培養を行ったが、0.5μg/mL以上の5FUを加えた培地では生育が認められなかった。一方、形質転換体の親株である168Δupp株は同一条件で5μg/mLの5FUを加えた培地でも生育が観察された。以上の結果から、形質転換体に導入されたupp遺伝子がcat遺伝子プロモーターからの転写により発現して5FUに感受性になったものと推定された。このようにして得られた株をΔPro1::cat-upp株とした。なお、図4において、ΔPro1::cat-upp株は、Δ欠失標的領域::cat-upp株と記載した。
<Pro1領域欠失株からのcat-uppカセット断片(C)の削除>
図5に示すように、ΔPro1::cat-upp株ゲノムを鋳型とし、Pro1-AFWとPro1-ERV及びPro1-FFWとPro1-BRVのプライマーセットを用いてcat-uppカセット断片(C)の上流に隣接する0.6kbの断片(E)、下流に隣接する0.3kbの断片(F)を増幅し、更に、得られた両DNA断片を鋳型としPro1-AFW及びPro1-BRVプライマーセットによるSOE−PCRによって、両断片が結合した0.9kbの断片(G)を調製した。この断片(G)によって、上述のΔPro1::cat-upp株をコンピテント法により形質転換し、1μg/mL/の5FUを添加したCg + グルコース寒天培地に生育可能な株を取得した。得られた株においてクロラムフェニコール感受性と、ゲノム上のPro1領域及びcat-uppカセットDNA断片が欠失していることを確認し、これをΔPro1株とした。なお、図5において、ΔPro1::cat-upp株及びΔPro1株は、それぞれ「Δ欠失標的領域::cat-upp株」「Δ欠失標的領域株」と記載した。
<単独領域欠失株の作製1>
上述したΔPro1株の作製手順に準じて、図4で説明した方法により、ΔPro2::cat-upp株、ΔPro3::cat-upp株、ΔPro4::cat-upp株、ΔPro5::cat-upp株、ΔPro6::cat-upp株、ΔPro7::cat-upp株、ΔPBSX::cat-upp株、ΔSPβ::cat-upp株、ΔSKIN::cat-upp株、Δpks::cat-upp株及びΔpps::cat-upp株を作製した。また、図5で説明した方法により、ΔPro2株、ΔPro3株、ΔPro4株、ΔPro5株、ΔPro6株、ΔPro7株、ΔPBSX株、ΔSPβ株、ΔSKIN株、Δpks株及びΔpps株を作製した。これら各株を作製する工程における、断片(A)〜断片(G)を増幅する際に使用したプライマーセットを下記の表3に示す。
Figure 0004955358
<多重欠失株の構築(MGB01株〜MGB07株まで)>
次に、ΔPro7株(MGB01株とも称する)を用いて、複数の領域が欠失した株(多重欠失株)を構築した。まず、Pro7領域及びPro6領域の二重欠失株を以下のように構築した。すなわち、Pro6領域がcat-uppカセット断片で置換されたΔPro6::cat-upp株のゲノムDNAを用いてΔPro7株をコンピテント法により形質転換し、10ppmのクロラムフェニコールを含むLB寒天培地に生育したコロニーを形質転換体として分離した。次に、得られたクロラムフェニコール耐性の形質転換体を、ΔPro6株のゲノムDNAを用いてコンピテンと法により形質転換し、1μg/mLの5FUを添加したCg + グルコース寒天培地に生育可能な株を取得した。得られた株においてクロラムフェニコール感受性を確認し、Pro6領域とPro7領域の両方が欠失し、更に、cat-uppカセット断片を含まない二重欠失株を分離した。この株をMGB02株と命名した。
同様の操作を繰り返すことによってPro7領域、Pro6領域及びPro1領域を順次欠失させたMGB03株を構築した。同様の操作を繰り返すことによってPro7領域、Pro6領域、Pro1領域及びPro4領域を順次欠失させたMGB04株を構築した。同様の操作を繰り返すことによってPro7領域、Pro6領域、Pro1領域、Pro4領域及びPBSX領域を順次欠失させたMGB05株を構築した。同様の操作を繰り返すことによってPro7領域、Pro6領域、Pro1領域、Pro4領域PBSX領域及びPro5領域を順次欠失させたMGB06株を構築した。同様の操作を繰り返すことによってPro7領域、Pro6領域、Pro1領域、Pro4領域、PBSX領域、Pro5領域及びPro3領域を順次欠失させたMGB07株を構築した。
<各単独領域欠失株の作製2>
上述した<単独領域欠失株の作製1>とは異なる方法で、SPβ領域、pks領域、SKIN領域、pps領域、Pro2領域、Pro5領域、NED0302領域(ydcL-ydhU領域)、NED0803領域(yisB-yitD領域)、NED3200領域(yunA-yurT領域)、NED1902領域(cgeE-ypmQ領域)、NED0501領域(yeeK-yesX領域)、NED0400領域(ydiM-yebA領域)、NED1100領域(ykuS-ykqB領域)、NED4002領域(pdp-rocR領域)、NED02021領域(ycxB-sipU領域)、SKIN-Pro7領域(spoIVCB-yraK領域)、NED3701領域(sbo-ywhH領域)、NED0600領域(cspB-yhcT領域)、NED4100領域(yybP-yyaJ領域)、NED2702領域(ytxK-braB領域)及びNED1602領域(yncM-fosB領域)を単独で欠失した株を構築した。
ここでは、SPβ領域を単独で欠失した株の構築例を説明する。図6に示すように、spB-AFWとspB-ARV2、及びspB-BFW2とspB-BRVのプライマーセットを用いて、168株ゲノムを鋳型として、PCRによってSPβ領域の上流に隣接する0.6kbの断片(H)及び下流に隣接する0.3kbの断片(I)を調製した。なお、図6には、SPβを「欠失標的領域」と記載した。
またtet-FWとtet-RVのプライマーセットを用いて、テトラサイクリン耐性遺伝子領域断片(J)を増幅した。次いで、得られたPCR増幅断片(H)(I)(J)を鋳型として、プライマーspB-AFWとspB-BRVによるSOE−PCRを行って3断片を(H)(J)(I)の順になる様に結合させた。得られたDNA断片(K)を用いてコンピテント法により、上述した168Δupp株の形質転換を行い、15ppmのテトラサイクリンを含むLB寒天培地に生育可能な形質転換体を分離した。得られた形質転換体はPCRによってSPβ領域がゲノム上から欠失し、テトラサイクリン耐性遺伝子断片に置換していることを確認し、これをΔSPβ::tet株とした。なお、図6には、ΔSPβ::tet株を「Δ欠失標的領域::tet株」と記載した。
同様にして上述した各領域を単独で欠失した株を作製した。作製した株は、ΔSPβ::tet株と同様に「Δ欠失標的領域::tet株」と呼称する。
<MGB07株からのSPβ領域の欠失>
上記で作製したΔSPβ::tet株のゲノムDNAを用いてΔPro7株を形質転換し、テトラサイクリン耐性株MGB07ΔSPβ::tet株を取得した。一方、次の様にしてテトラサイクリン耐性遺伝子断片のゲノム上からの除去を行った。
図7に示すように、spB-AFWとspB-ERV、及びspB-FFWとspB-BRVのプライマーセットを用いて、168株ゲノムを鋳型としてPCRによってSPβ領域の上流に隣接する0.6kbの断片(L)及び下流に隣接する0.3kbの断片(M)を調製した。なお、図7には、SPβを「欠失標的領域」と記載した。
次いで、得られたPCR増幅断片(L)(M)を鋳型として、プライマーspB-AFWとspB-BRVによるSOE−PCRを行って2断片を(L)(M)の順になる様に結合させた。得られたDNA断片(N)を、上述したpBRcatuppのsacI-KpnI制限酵素部位(切断後に平滑末端化)に挿入して、テトラサイクリン耐性遺伝子断片削除用プラスミドpBRcatuppΔSPβを構築した。なお、図7には、pBRcatuppΔSPβを「pBRcatuppΔ欠失標的領域」と記載した。
構築したpBRcatuppΔSPβにてMGB07ΔSPβ::tet株を形質転換し、プラスミド上のSPβ上流または下流の領域と、ゲノム上のSPβ上流または下流の領域との間で一重交差の組換えが起こったことにより、プラスミドがゲノム上に導入され、クロラムフェニコール耐性を示す株MGB07ΔSPβ(pBR)株を取得した。
得られた形質転換株MGB07ΔSPβ(pBR)株をテトラサイクリン1.5μg/mLを含むLB培地50mL(500mL容坂口フラスコ)に、OD600=0.3となる様に植菌し、37℃で振盪培養して1時間目にアンピシリン15mg (300μg/mL)を加え、以降2時間毎にアンピシリン15mgを添加しながら培養を継続、培養8.5時間後に培養液を2%塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、薬剤を含まないLB寒天培地に塗沫した。生育したコロニーのうち、プラスミド領域の脱落に伴ってクロラムフェニコール感受性となったものを選抜した。
選抜した菌株のゲノムDNAを鋳型とし、PCRを行うことにより、SPβ領域及びテトラサイクリン耐性遺伝子断片が欠失していることを確認し、MGB08株を取得した。
<MGB08株からのpks領域の欠失とPro5領域の復帰>
上記で作製したMGB08株からのpks領域の欠失を、上述した方法(図7)に準じ、Δpks::tet株を用いて行った。MGB08株からpks領域を欠失させた株をMGB09株と命名した。取得したMGB09株のゲノムDNAをPCRにて確認したところ、pks領域は欠失していたが、pks領域とゲノム上で近い位置に存在するPro5領域内部の配列の存在が認められ、Pro5領域が復帰していることが分かった。これはΔpks::tet株のゲノムDNAを用いてMGB08株を形質転換した際に、pks領域の欠失に伴うテトラサイクリン耐性遺伝子の導入と同時に、Δpks::tet株ゲノム上のpks領域の上流領域とPro5領域下流の領域が、MGB08株ゲノム上の相当する領域との間で相同組換えが起こったことによるものと考えられた。
<MGB09株からのSKIN領域の欠失とPro7領域の復帰>
上記で作製したMGB09株からのSKIN領域の欠失を、上述した方法(図7)に準じ、ΔSKIN::tet株を用いて行った。MGB09株からSKIN領域を欠失させた株をMGB10株と命名した。取得したMGB10株のゲノムDNAをPCRにて確認したところ、SKIN領域は欠失していたが、SKIN領域とゲノム上で近い位置に存在するPro7領域内部の配列の存在が認められ、Pro7領域が復帰していることが分かった。これはΔSKIN::tet株のゲノムDNAを用いてMGB09株を形質転換した際に、SKIN領域の欠失に伴うテトラサイクリン耐性遺伝子の導入と同時に、ΔSKIN::tet株ゲノム上のSKIN領域の上流領域とPro7領域下流の領域が、MGB09株ゲノム上の相当する領域との間で相同組換えが起こったことによるものと考えられた。
<MGB10株からのpps領域の欠失>
上記で作製したMGB10株からのpps領域の欠失を、上述した方法(図7)に準じ、Δpps::tet株を用いて行った。MGB10株からpps領域を欠失させた株をMGB11株と命名した。取得したMGB11株のゲノムDNAをPCRにて確認したところ、他の領域が復帰することなくpps領域が欠失していた。
<MGB11株からのPro2領域の欠失>
上記で作製したMGB11株からのPro2領域の欠失を、上述した方法(図7)に準じ、ΔPro2::tet株を用いて行った。MGB11株からPro2領域を欠失させた株をMGB12株と命名した。取得したMGB12株のゲノムDNAをPCRにて確認したところ、他の領域が復帰することなくPro2領域が欠失していた。
<MGB12株からのPro5領域の欠失>
MGB09株を作製する際に復帰したPro5領域を再び欠失させるため、上記で作製したMGB12株からのPro5領域の欠失を、上述した方法(図7)に準じ、ΔPro5::tet株を用いて行った。MGB12株からPro5領域を欠失させた株をMGB11d株と命名した。取得したMGB11d株のゲノムDNAをPCRにて確認したところ、他の領域が復帰することなくPro5領域が欠失していた。
以上のように作製されたMGB11d株は、枯草菌168株における、Pro6(yoaV-yobO)領域、Pro1(ybbU-ybdE)領域、Pro4(yjcM-yjdJ)領域、PBSX(ykdA-xlyA)領域、Pro5(ynxB-dut)領域、Pro3(ydiM-ydjC)領域、SPβ(yodU-ypqP)領域、pks(pksA-ymaC)領域、SKIN(spoIVCB-spoIIIC)領域、pps (ppsE-ppsA)領域及びPro2(ydcL-ydeJ)領域が欠失されたゲノム構造を有している。
<本発明に係る枯草菌変異株の構築>
本発明に係る枯草菌変異株は、上述したように作製したMGB11d株から以下のように作製した(図8参照)。すなわち、上述した方法(図7)に準じ、MGB11d株からのNED0302領域の欠失を、ΔNED0302::tet株を用いて行った。MGB11d株からNED0302領域を欠失させた株をMGB533株と命名した。取得したMGB533株は、MGB11d株における欠失領域の他にNED0302領域が欠失したゲノム構造を有することとなる。
その後、NED0803領域、NED3200領域、NED1902領域、NED0501領域、NED0400領域、NED1100領域及びNED4002領域を順に欠失させて変異株を構築した。構築された変異株を、それぞれMGB559株、MGB592株、MGB604株、MGB625株、MGB653株、MGB683株及びMGB781株と命名した。
なお、NED3200領域はPro2領域を含んでおり、MGB592株構築の際にMGB559株より欠失された実際の領域はydeK-ydhUの領域である。またNED1902領域はSPβ領域を含んでおり、MGB604株構築の際にMGB592株より欠失された実際の領域はcgeE-phyの領域とyppQ-ypmQの領域である。同様にNED0400領域はPro3領域を含んでおり、MGB653株構築の際にMGB625株より欠失された実際の領域はgutR-yebAの領域である。
次に、上述した方法(図7)に準じ、構築されたMGB625株からのNED40002領域の欠失を、ΔNED40002::tet株を用いて行った。MGB625株からNED40002領域を欠失させた株をMGB723株と命名した。
その後、NED02021領域、SKIN-Pro7領域、NED3701領域、NED0600領域、NED4100領域、NED2702領域、NED0400領域及びNED1100領域を順に欠失させて変異株を構築した。構築された変異株を、それぞれMGB773株、MGB822株、MGB834株、MGB846株、MGB872株、MGB885株、MGB913株及びMGB943株と命名した。
なお、SKIN-Pro7領域はSKIN領域を含んでおり、MGB822株構築の際にMGB773株より欠失された実際の領域はyrkS-yraKの領域である。同様にNED0400はPro3領域を含んでおり、MGB913株株構築の際にMGB885株より欠失された実際の領域はgutR-yebAの領域である。
次に、上述した方法(図7)に準じ、構築されたMGB834株からのNED4100領域の欠失を、ΔNED4100::tet株を用いて行った。MGB834株からNED4100領域を欠失させた株をMGB860株と命名した。
その後、NED1602領域及びNED2702領域を順に欠失させて変異株を構築した。構築された変異株を、それぞれMGB874株及びMGB887株と命名した。
これら各株を作製する工程における、断片(H)〜断片(N)を増幅する際に使用したプライマーセットを下記の表4に示す。
Figure 0004955358
〔実施例2〕単独領域を欠失した変異株
本例では、枯草菌168株における特定の領域を、cat-uppカセットで置換或いはクロラムフェニコール耐性遺伝子で置換することによって、当該領域を単独で欠失した変異株を作製した。
<cat-uppカセットでの置換による単独領域欠失株の構築>
cat-uppカセットで置換する対象の領域を下記表5にまとめた。
Figure 0004955358
なお、NED0100領域はPro1領域を含んでおり、NED0302領域はPro2領域、NED1500領域はpks領域、NED1802領域はPro6領域、NED2500領域はSKIN-Pro7領域をそれぞれ含んでいる。
本例では、実施例1で作製したcat-uppカセット断片を用いて図4に示した方法に準じて特定の領域をcat-uppカセット断片で置換してなる変異株を構築した。なお、本例では、図4における断片(A)、断片(B)、断片(C)及び断片(D)を、それぞれ断片(O)、断片(P)、断片(Q)及び断片(R)と呼称する。これら各株を作製する工程における、断片(P)〜断片(R)を増幅する際に使用したプライマーセットを下記の表6に示す。
Figure 0004955358
<クロラムフェニコール耐性遺伝子での置換による単独領域欠失株の構築>
クロラムフェニコール耐性遺伝子での領域置換は、まずテトラサイクリン耐性遺伝子で対象となる領域を置換した後、テトラサイクリン耐性遺伝子の中央部をクロラムフェニコール耐性遺伝子で置換することにより行った。クロラムフェニコール耐性遺伝子で置換する対象の領域を下記表7にまとめた。
Figure 0004955358
なお、NED0400領域はPro3領域を含んでおり、NED1002領域はPro4領域、NED1003領域はPBSX領域、NED1902領域はSPβ領域をそれぞれ含んでいる。
以下、先ずNED0301領域を欠失させる方法について説明する。NED0301-AFWとNED0301-ARV、NED0301-BFWとNED0301-BRVの各プライマーセットを用いて、168株ゲノムを鋳型として、PCRによってNED0301領域の上流に隣接する0.6kbの断片(S)及び下流に隣接する0.3kbの断片(T)を増幅した。また、tet-FWとtet-RVのプライマーセットを用いて、テトラサイクリン耐性遺伝子領域断片(U)を増幅した。。次いで、得られたPCR増幅断片(S)(T)(U)を鋳型として、プライマーNED0301-AFWとNED0301-BRVによるSOE−PCRを行って3断片を(S)(U)(T)の順になる様に結合させた断片(V)を取得した。得られた断片(V)を用いてコンピテント法により実施例1で作製した168Δupp株の形質転換を行い、15ppmのテトラサイクリンを含むLB寒天培地に生育可能な形質転換体を分離した。得られた形質転換体はPCRによってNED0301領域がゲノム上から欠失し、テトラサイクリン耐性遺伝子断片に置換していることを確認した。次にtet-FWとtet-ARV、tet-BFWとtet-RVの各プライマーセットを用いて、テトラサイクリン耐性遺伝子の上流側0.5kb断片(W)及び下流側0.5kb断片(X)を増幅した。更に実施例1で使用したプラスミドpSM5022を鋳型として、cat-FWとcat-RVを用いてクロラムフェニコール耐性遺伝子を含む1.3kbの断片(Y)を増幅した。次いで、得られたPCR増幅断片(W)(X)(Y)を鋳型として、プライマーtet-FWとtet-RVによるSOE−PCRを行って3断片を(W)(Y)(X)の順になる様に結合させた断片(Z)を取得した。得られた断片(Z)を用いてコンピテント法により上記テトラサイクリン耐性株の形質転換を行い、10ppmのクロラムフェニコールを含むLB寒天培地上に生育可能な形質転換体を分離した。得られた形質転換体は、PCRによってテトラサイクリン耐性遺伝子の一部が欠失し、クロラムフェニコール耐性遺伝子に置換していることを確認した。NED0301領域を欠失した菌株をNED0301株と命名した。
同様にして、上記表7に示した各領域を単独で欠失させた変異株を作製し、NED0301株と同様にして命名した。これら各株を作製する工程における、断片(S)〜断片(V)を増幅する際に使用したプライマーセットを下記の表8に示す。
Figure 0004955358
〔実施例3〕変異株の評価
実施例3では、実施例1及び2で作製した本発明に係る枯草菌変異株における、分泌生産能を評価した。本例では、枯草菌変異株に導入する目的タンパク質として、アルカリセルラーゼ、アルカリプロテアーゼ及びアルカリアミラーゼを使用した。
<アルカリセルラーゼ分泌生産評価>
アルカリセルラーゼ分泌生産性評価は以下の様に行った。即ち、バチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM-S237株(FERM BP-7875)由来のアルカリセルラーゼ遺伝子(特開2000-210081号公報)断片(3.1 kb)がシャトルベクターpHY300PLKのBamHI制限酵素切断点に挿入された組換えプラスミドpHY-S237を、プロトプラスト形質転換法によって各菌株に導入した。これによって得られた組換え菌株を10 mLのLB培地で一夜37℃で振盪培養を行い、更にこの培養液0.05 mLを50 mLの2×L−マルトース培地(2% トリプトン、1% 酵母エキス、1% NaCl、7.5% マルトース、7.5 ppm硫酸マンガン4-5水和物、15 ppmテトラサイクリン)に接種し、30℃にて3日間振盪培養を行った。遠心分離によって菌体を除いた培養液上清のアルカリセルラーゼ活性を測定し、培養によって菌体外に分泌生産されたアルカリセルラーゼの量を求めた。
セルラーゼ活性測定については、1/7.5M リン酸緩衝液(pH7.4 和光純薬)で適宜希釈したサンプル溶液50μLに0.4mM p-nitrophenyl-β-D-cellotrioside(生化学工業)を50μL加えて混和し、30℃にて反応を行った際に遊離するp-ニトロフェノール量を420nmにおける吸光度(OD420nm)変化により定量した。1分間に1μmolのp-ニトロフェノールを遊離させる酵素量を1Uとした。
<アルカリプロテアーゼ分泌生産評価>
アルカリプロテアーゼの分泌生産性評価は以下の様に行った。即ち、バチルス クラウジ(Bacillus clausii)KSM-K16株(FERM BP-3376)より抽出したゲノムDNAを鋳型として、S237pKAPpp-FとKAPter-R(BglII)のプライマーセットを用いてPCRを行い、アミノ酸配列を有するアルカリプロテアーゼ(Appl. Microbiol. Biotechnol., 43, 473, (1995))をコードする1.3kbのDNA断片を増幅した。またバチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM-S237株(FERM BP-7875)より抽出したゲノムDNAを鋳型として、S237ppp-F2(BamHI)とS237pKAPpp-Rのプライマーセットを用いてPCRを行い、アルカリセルラーゼ遺伝子(特開2000-210081号公報)のプロモーター領域を含む0.6kbのDNA断片を増幅した。次いで、得られた2断片を混合して鋳型とし、S237ppp-F2(BamHI)とKAPter-R(BglII)のプライマーセットを用いたSOE-PCRを行うことによって、アルカリセルラーゼ遺伝子のプロモーター領域の下流にアルカリプロテアーゼ遺伝子が連結した1.8 kbのDNA断片を得た。得られた1.8 kbのDNA断片をシャトルベクターpHY300PLK(ヤクルト)のBamHI-BglII制限酵素切断点に挿入し、アルカリプロテアーゼ生産性評価用プラスミドpHYKAP(S237p)を構築した。
構築したプラスミドpHYKAP(S237p)をプロトプラスト形質転換法によって各菌株に導入した。これによって得られた組換え菌株を、上記<アルカリセルラーゼ分泌生産評価>と同様の条件にて3日間、振盪培養を行った。培養後、遠心分離によって菌体を除いた培養液上清のアルカリプロテアーゼ活性を測定し、培養によって菌体外に分泌生産されたアルカリプロテアーゼの量を求めた。培養上清中のプロテアーゼの活性測定は以下のとおり行った。すなわち、2mM CaCl2溶液で適宜希釈した培養上清50μlに、7.5mMのSuccinyl-L-Alanyl-L-Alanyl-L-Alanine p-Nitroanilide (STANA ペプチド研究所)を基質として含む75mM ほう酸-KCl緩衝液(pH10.5)を100μL加えて混和し、30℃にて反応を行った際に遊離するp-ニトロアニリン量を420nmにおける吸光度変化(OD420nm)により定量した。1分間に1μmolのp-ニトロアニリンを遊離させる酵素量を1Uとした。
<アルカリアミラーゼ分泌生産評価>
アルカリアミラーゼの分泌生産性評価は以下の様に行った。即ち、バチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM-K38株(FERM BP-6946)より抽出したゲノムDNAを鋳型として、K38matu-F2(ALAA)とSP64K38-R(XbaI)のプライマーセットを用いてPCRを行い、アルカリアミラーゼ(Appl. Environ. Microbiol., 67, 1744, (2001))をコードする1.5kbのDNA断片を増幅した。またバチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM-S237株(FERM BP-7875)より抽出したゲノムDNAを鋳型として、S237ppp-F2(BamHI)とS237ppp-R2(ALAA)のプライマーセットを用いてPCRを行い、アルカリセルラーゼ遺伝子(特開2000-210081号公報)のプロモーター領域と分泌シグナル配列をコードする領域を含む0.6kbのDNA断片を増幅した。次いで、得られた2断片を混合して鋳型とし、S237ppp-F2(BamHI)とSP64K38-R(XbaI)のプライマーセットを用いたSOE-PCRを行うことによって、アルカリセルラーゼ遺伝子のプロモーター領域と分泌シグナル配列をコードする領域の下流にアルカリアミラーゼ遺伝子が連結した2.1kbのDNA断片を得た。得られた2.1kbのDNA断片をシャトルベクターpHY300PLK(ヤクルト)のBamHI-XbaI制限酵素切断点に挿入し、アルカリアミラーゼ生産性評価用プラスミドpHYK38(S237ps)を構築した。
構築したプラスミドpHYK38(S237ps)をプロトプラスト形質転換法によって各菌株に導入した。これによって得られた組換え菌株を、上記<アルカリセルラーゼ分泌生産評価>と同様の条件にて5日間、振盪培養を行った。培養後、遠心分離によって菌体を除いた培養液上清のアルカリアミラーゼ活性を測定し、培養によって菌体外に分泌生産されたアミラーゼの量を求めた。培養上清中のアミラーゼの活性測定にはリキテックAmy EPS(ロシュ・ダイアグノスティック社)を使用した。すなわち1% NaCl-1/7.5M リン酸緩衝液 (pH7.4 和光純薬工業)で適宜希釈したサンプル溶液50μLに、100μLのR1・R2混合液(R1(カップリング酵素):R2(アミラーゼ基質)=5:1(Vol.))を加えて混和し、30℃にて反応を行った際に遊離するp-ニトロフェノール量を405nmにおける吸光度(OD405nm)変化により定量した。1分間に1μmolのp-ニトロフェノールを遊離させる酵素量を1Uとした。
<結果>
アルカリセルラーゼ、アルカリプロテアーゼ及びアルカリアミラーゼの各酵素について、分泌生産能を表9にまとめた。なお、表9において、各種酵素の分泌生産能は、各遺伝子を同様に導入した枯草菌168株における酵素生産量を100としたときの相対値で示している。
Figure 0004955358
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Figure 0004955358
Figure 0004955358
Figure 0004955358
枯草菌のゲノム上から所定の領域を欠失させる方法の一例を説明するための模式図である。 枯草菌168株から168Δupp株を作製する手順を説明するための模式図である。 cat-uppカセットDNA断片を挿入してなる組換えプラスミドpBRcatuppを作製する手順を説明するための模式図である。 Δ欠失標的領域::cat-upp株を作製する手順を説明するための模式図である。 Δ欠失標的領域株を作製する手順を説明するための模式図である。 Δ欠失標的領域::tet株を作製する手順を説明するための模式図である。 pBRcatuppΔ欠失標的領域を用いて、所定の変異株における欠失標的領域を欠失させる手順を説明するための模式図である。 本発明に係る複数の欠失領域を欠失した枯草菌変異株の作製過程を説明するための模式図である。

Claims (7)

  1. 表1に示す、欠損領域の欄に記載された領域を欠失させたゲノム構造を有する枯草菌変異株。
    Figure 0004955358
    Figure 0004955358
    Figure 0004955358
  2. 目的タンパク質をコードする遺伝子が発現可能に導入された際に、当該目的タンパク質の分泌生産性が、野生株に同遺伝子が導入された場合と比較して有意に向上していることを特徴とする請求項1記載の枯草菌変異株。
  3. 目的タンパク質をコードする遺伝子が発現可能に導入されたことを特徴とする請求項1又は2記載の枯草菌変異株。
  4. 上記目的タンパク質をコードする遺伝子が、分泌シグナルに相当する領域をコードする塩基配列を含むか、或いは、その上流において分泌シグナルに相当する領域をコードする塩基配列を含むDNAと適切に連結していることを特徴とする請求項2又は3記載の枯草菌変異株。
  5. 上記目的タンパク質がセルラーゼ、プロテアーゼ及びアミラーゼからなる群から選ばれる少なくとも1つの酵素であることを特徴とする請求項2乃至4いずれか一項記載の枯草菌変異株。
  6. 枯草菌168株を野生株とすることを特徴とする請求項1乃至5いずれか一項記載の枯草菌変異株。
  7. 表1における欠損領域の欄に記載されたゲノム領域は、表2のオリゴヌクレオチド・セットにより挟み込まれる領域を含むことを特徴とする請求項1乃至6いずれか一項記載の枯草菌変異株。
    Figure 0004955358
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