JP4948826B2 - 加齢性記憶障害が抑制された非ヒト動物 - Google Patents

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Description

本発明は、プロテインキナーゼA(PKA)触媒サブユニットをコードする遺伝子が変異された非ヒト動物に関する。
加齢性記憶障害(aged memory impair; AMI)は脳の老化の最も顕著な表現型であり、アルツハイマー病(AD)のような、加齢と関連性のある神経疾患を患っていない老人にも生じる障害である(参考文献1)。また、加齢性記憶障害(AMI)はショウジョウバエから人間まで、多くの動物でよく見られる現象である。AMIにおける解剖学的変化及び生理学的変化については、文献(Foster, T. C. Brain Res Brain Res Rev 30, 236-249,1999;Neurobiol Aging 20, 125-136,1999)で開示されている。個体老化に関わる遺伝子経路は、長寿変異体を調べることによって、広範囲にわたり調べられてきた。その一方で、AMIに関わる遺伝子経路は未だ不明な点が多く、個体老化とAMIとの相関も不明である(参考文献2)。老人性痴呆症のような老人性記憶障害は、高齢化社会における高齢者の社会参加を妨げる大きな原因となることが予想されている。しかしながら、未だ有効なモデル動物が確立されていないことから、分子レベルでの発現に至る経緯の解明や予防・治療薬の開発が大きく遅れている。
本発明者は、以前、寿命が短く遺伝学的解析に優れたショウジョウバエを用いて、AMIの遺伝的な特徴づけを行ない、野生型では年をとるとamn遺伝子依存性の中期記憶(MTM)が特異的に低下することを見出した(参考文献3)。即ちamn 遺伝子変異体は、他の記憶変異体とは対照的に、加齢による記憶力低下はおこらなかった。amn遺伝子の産物である神経ペプチドは、記憶と学習に必要なキノコ体に投射するDPM細胞(dorsal paired medial cell)で発現し、amn遺伝子が必要とされる中期記憶の形成に重要なステップであるcAMPシグナルを調節していることが示唆されている(参考文献4)。即ち、AMIは、老化と共に低下するamn遺伝子の活性が原因である可能性がある。しかしながら、amn遺伝子の発現量は年をとっても低下せず、また、DPM細胞にamn遺伝子を過剰発現させても、AMIは改善されなかった(参考文献3)。
ショウジョウバエを用いたPKAの記憶に関する研究として、PKAインヒビターを発現させると記憶障害が起こることが報告されている(非特許文献1)。この報告は、阻害ペプチドをヒートショックにより多量に発現させて、PKA活性を抑制させるというものである。
また、cAMPのinhibitory analogueを前頭前野に発現させると、記憶が少し改善されることが報告されている(非特許文献2)。
AMI発現の分子メカニズム解明を目的として、従来、加齢(AMI)に伴い、脳でどのような遺伝子の発現が変化するかについて、哺乳類モデル、特にヒトで多くの解析がなされてきた(Jiang et al, PNAS 98, 1930-1934, 2001; Lu et al, Nature 429, 883-891, 2004)。しかし、色々なアルゴリズムによる分類とAMIに対する意味づけが試みられてきたにもかかわらず、いずれも推測の域を出ず、直接的な検証は行われていない。直接的な検証が行われない理由(障害)は二つある。一つは加齢にともない発現変化を示す遺伝子の数が膨大であり、そこには多くのAMIとは無関係な発現変化が含まれている(擬陽性が多い)からであり、もう一つは哺乳類モデルの寿命が年単位と長く、老齢体での分子遺伝学的解析(変異体を作成し老化させての解析)が困難であるからである。
特表2000-515734号公報 特開2005-160361号公報 Drain, P. et al., Neuron 6, 71-82, 1991 Ramos, B. P. et al., Neuron 40, 835-845, 2003
本発明は、PKA触媒サブユニットをコードする遺伝子が変異された非ヒト動物及び加齢性記憶障害を抑制又は改善する物質の標的となる物質のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するために、まず、amn遺伝子の下流にあるキノコ体でのシグナル経路が、老化により阻害されることで記憶障害が生じるとの仮説を立てた(参考文献5)。即ち、AMIの発生に重要なステップはキノコ体で生じ、そのキノコ体でAMIを調節している遺伝子が見つかるであろう(参考文献6)と予想して鋭意研究を行った。その結果、DC0遺伝子によりコードされるPKA触媒サブユニット(DC0-PKAc)の活性を遺伝学的に40〜50%抑制した非ヒト動物で、寿命に影響することなくAMIを特異的に抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)プロテインキナーゼA触媒サブユニットをコードする遺伝子が変異された非ヒト動物。
プロテインキナーゼA触媒サブユニットをコードする遺伝子はショウジョウバエではDC0が、また哺乳類ではそのホモローグ遺伝子が好ましい。上記非ヒト動物は、加齢性記憶障害が抑制又は改善されていてもよい。さらに、上記非ヒト動物は、遺伝子変異によりプロテインキナーゼAの活性が野生型の活性の50〜60%に低下したものであってもよい。非ヒト動物としては、例えばショウジョウバエが挙げられる。また実施例4で説明するPKAの活性調節に関わる遺伝子が変異された非ヒト動物dncなども含む。
(2)加齢性記憶障害を抑制又は改善する物質の標的となる物質を同定する方法であって、以下の工程:
(a)上記(1)記載の非ヒト動物由来の遺伝子又はタンパク質及び野生型非ヒト動物由来の遺伝子又はタンパク質の発現パターンをそれぞれ測定し、
(b)得られた発現パターンを比較することにより、加齢性記憶障害を抑制又は改善す る物質の標的となる物質を同定すること
を含む、前記方法。
(3)上記(1)記載の非ヒト動物由来のタンパク質及び野生型非ヒト動物由来のタンパク質を用いてリン酸化の有無又はレベルを測定・比較し、得られる測定結果からリン酸化が抑制されたタンパク質を同定することを特徴とする、加齢性記憶障害を抑制又は改善する物質の標的となる物質の同定方法。
本発明により、PKA触媒サブユニットをコードする遺伝子が変異された非ヒト動物が提供される。本発明の非ヒト動物のうち、ショウジョウバエ等のハエ類のモデルでは、短期間で有効に老人性記憶障害の遺伝子解析を行うことが可能となる。したがって、本発明の非ヒト動物は、老人性記憶障害の遺伝的機能の解明により予防・治療薬のターゲットの同定と開発に大きく貢献することが期待される。
本発明は、PKA触媒サブユニットをコードする遺伝子が変異された変異型の非ヒト動物であり、好ましくは当該遺伝子のヘテロ接合体のショウジョウバエに関する。
1.発明の概要
本発明者はamn遺伝子産物の神経ペプチドを受け取るキノコ体にAMIの原因があると考え、キノコ体で発現する遺伝子の変異体からAMIの発現に異常のみられる系統の検索を試み、プロテインキナーゼA(PKA)の触媒サブユニットをコードする遺伝子DC0のヘテロ変異体DC0/+に強いAMIの発現抑制があることを見出した。そして、本発明者はPKAの活性を遺伝学的に50〜60%抑制した非ヒト動物でAMIを抑制することが出来ることを示した。本発明は一つにはAMIが抑制される遺伝学的条件を供与すること、また、マウスなどと比べて寿命の短いショウジョウバエを用いることにより、従来考えられていた背景技術に記載した二つの障害を克服するものである。
本発明においては、寿命が短いモデル動物でAMIが抑制された変異体を作製し(見出し)、この変異体での加齢にともなう遺伝子及び/又はタンパク質の発現変動を野生型と比較する。即ち、AMIが起こらない条件下(変異体)での加齢にともなう遺伝子及び/又はタンパク質の発現変動と、AMIが起こる(野生型)条件下での加齢にともなう遺伝子及び/又はタンパク質の発現変動とを比較し、相違点を検討することでAMIとは無関係の発現変動を示す擬陽性が排除できる。加えて、マウスなどと比べて寿命の短いモデル動物であればどの遺伝子及び/又はタンパク質の発現変動がAMIの発現に重要であるか、老齢体での分子遺伝学的解析が哺乳類モデルよりも容易に解析することができる。寿命の短いモデル動物でAMIの発現に重要な遺伝子及び/又はタンパク質を見出し同定できれば、次に、その遺伝子及び/又はタンパク質のAMIに対する働きを、哺乳類モデルで分子遺伝学的解析により検証することができる。このように哺乳類モデルで検証された、AMIの発現に重要な遺伝子及び/又はタンパク質は、AMIを抑制又は改善するための物質の有力な標的となる。
本発明は、AMIが抑制された変異体がこれまで存在しなかったという、従来からの最大の問題点を解決したものであり、AMIが抑制された変異体を提供するものである。
本発明者は、ショウジョウバエの記憶変異体であるamnesiac(amn)では、年をとっても、もはや記憶力は低下しないことを見出した。このことは、amn遺伝子が関与する記憶が特異的に障害されることがAMIの実体であることを示唆するものである。ここで、amn遺伝子は、嗅覚学習及び嗅覚記憶の神経の中心である記憶中枢のキノコ体において、アデニルシクラーゼ(adenyl cyclase:AC)の活性を調節する神経ペプチドをコードしていると想定されている(参考文献4)。
そこで、発明者は、AMIに関与する遺伝子を同定するために、キノコ体を主たる発現領域とする遺伝子の変異体のなかで、AMIの亢進・抑制など異常が見られるものがあるか、検索を行った。その結果、PKAの触媒サブユニットをコードする遺伝子DC0のヘテロ変異体(DC0/+)では寿命に影響されず、AMIが大きく抑制されていることを見いだした。DC0/+変異体は若齢期に正常な高い記憶力を示し、この記憶力は加齢によっても保持されている。
本発明者は、GAL4-UASシステムを用いてDC0遺伝子を過剰発現させるか、あるいは、dnc (cAMP分解酵素遺伝子)のヘテロ接合体を用いることによりPKAの活性を上昇させると、どちらの方法を用いた場合でも、AMIは早く生じることを見出した。さらに、本発明者は、DC0/+とは対照的に長生きするmethuselah(mth)変異体では、AMIが通常通り起こることも見出した。
これらの知見は、DC0遺伝子によりコードされた触媒サブユニットを有するPKA(DC0-PKA)が、寿命に影響することなくAMIを特異的に制御すること、そして、寿命の延長はAMIを抑制するための必要条件にも十分条件にもならないことを示している。
なお、Drainらは、ショウジョウバエでPKAインヒビターを発現させると記憶障害が起こることを報告している(Neuron vol. 6, pp.71-82, 1991、参考文献12)。しかし、彼らの方法は、阻害ペプチドをヒートショックにより多量に発現させてPKA活性を全部抑制するものであるのに対し、本発明において用いるDC0変異体はPKA触媒サブユニットに変異が起きていても、PKA活性は正常動物のPKA活性に比べて50〜60%保持されている(参考文献11)。ことから、本発明のDC0変異体を用いたPKAの阻害方法は、上記Drainらの方法とは異なるものである。
また、Ramosらは、cAMPのinhibitory analogueを前頭前野に発現させると、悪化した記憶力が少し改善されることを報告しているが(参考文献19)、本発明では悪化した記憶力の改善のみならず、若いときの正常な記憶力の維持も含む点で異なるものである。
2.PKA触媒サブユニットのヘテロ変異体動物
(1)PKA触媒サブユニット
PKAは、ATPのγ-リン酸基をタンパク質の特定のセリン又はスレオニンのヒドロシル基に転移する酵素であり、真核細胞に広く分布している。この酵素は、cAMPが結合する分子量約4万の調節サブユニットと分子量約5万の触媒サブユニットから構成され、1分子の調節サブユニットに2分子のcAMPが結合すると、触媒サブユニットと調節サブユニットが解離し、活性を示すようになる。本発明は、このような活性型PKAが加齢による記憶障害(AMI)を起こすことを見出したものである。従って、本発明においては、記憶過程に関わるcAMPシグナル経路において重要な役割を担っている触媒サブユニットに変異を導入するとともに、PKA活性を全部抑えることなくマイルドに低下させることにより、若年時の学習や記憶には影響を与えず、寿命に影響を与えることなくAMIを抑制した動物を提供する。
本発明の好ましいPKAの触媒サブユニットとしては、例えば、ハエの脳で発現しているPKAの触媒サブユニットであるDC0のほか、DC0のマウスホモローグであるCβやCα(Huang et al, J. Biol. Chem vol 277, pp19889-19896, 2002)等が挙げられるが、特に、ハエの脳で発現しているPKAの触媒サブユニットDC0が好ましい。以下、DC0について説明する。
DC0遺伝子はハエの脳で発現しているPKAの触媒サブユニットをコードし、そのホモ欠失変異体は胚致死である(参考文献11)。一方、成虫でDC0-PKAの活性を野生型の10%程度に抑制すると記憶の形成が阻害される。特に興味深いのは、DC0の温度感受性変異体は、amnと同様に中期記憶に欠陥が生じさせることである(参考文献13)。なお、DC0-PKAはキノコ体のlobesとcalycesで顕著に発現する(参考文献7)。
DC0遺伝子はDC0をコードしているゲノムDNAのほか、そのmRNA、cDNAも含む。該DC0遺伝子の塩基配列は公知であり、その配列はGenBank等の公共データベースを通じて容易に入手することができる(GenBank Accession No.X16969)。DC0の遺伝子の塩基配列を配列番号1、アミノ酸配列を配列番号2に示す。また、公共データベースにその配列が登録されていない動物の場合は、常法により、既知のPKAの触媒サブユニット遺伝子との相同性からそのPKAの触媒サブユニット遺伝子をクローニングし、配列を決定することができる。例えば、当該動物のゲノムDNAライブラリーを作製し、遺伝的に最も近い種に由来する既知のPKAの触媒サブユニット遺伝子、またはその一部をプローブとして該ライブラリーをスクリーニングし、目的とするPKAの触媒サブユニット遺伝子を同定することができる。上記遺伝子工学的手法は、例えば、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.(Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))などを参照することができる。
(2)ヘテロ変異体
PKAの触媒サブユニットのホモ欠失変異体は胚致死であるため、本発明の動物はヘテロ変異体であることが好ましい。また、本変異体は、染色体上のPKAの触媒サブユニット遺伝子に塩基置換が起こったことによる、PKA触媒サブユニットとしての機能が部分的に失われた低次形態型の変異体(hypomorph変異体という)であり、そのPKA活性はマイルドに抑制され、野生型PKA活性の50〜60%の活性を保持するものである(つまり、野生型と比較して活性が40〜50%低下している)。PKA活性が野生型と比較して50〜60%マイルドに低下していることにより、変異体動物では、若年時の学習や記憶は影響を受けることなくAMIが抑制されうることが可能となっている。しかしPKA活性が過剰に増加又は減少すると学習記憶が障害されてしまう。なお、このようなPKA活性がマイルドに低下する機能は対立遺伝子特異的に獲得されたものである。
ここで、「変異」には、遺伝子の一部又は全部が欠失して機能しなくなった変異のほか、塩基の置換やトランスポゾン因子の挿入などによる変異が含まれる。このような変異は、遺伝子ターゲティング法、部位特異的突然変異導入法、X線照射や発癌物質による変異誘導やエンハンサートラップ法などにより導入することができる。
(3)作製方法
本発明のPKA触媒サブユニットをコードする遺伝子のヘテロ変異体動物は、ショウジョウバエ等の非哺乳動物や、ラット、マウス等のヒト以外の哺乳動物が含まれるがこれらに限定されるものではない。特に、ショウジョウバエであるDrosophila melanogasterは、寿命が短く、老齢個体の行動遺伝学的解析に最適であり(Exp Gerontol 37, 1347-1357,2002)、本発明の動物として好ましい。
本発明において、ショウジョウバエ等のハエ類においてPKA触媒サブユニットをコードする遺伝子のヘテロ変異体動物を作製するためには、公知の遺伝子操作手段を用いて、染色体上のPKA触媒サブユニット遺伝子を変異することにより行なうことができる。例えば、DC0遺伝子近傍にトランスポゾン因子が挿入した系統とトランスポゾン因子を転移させるための酵素トランスポゼースを持つ系統と交配させると次世代(F1)の生殖細胞では、トランスポゾン因子の再転移が起こる。このときトランスポゾン因子が周辺の遺伝子を抱えたまま転移することが起こるが、DC0遺伝子の一部若しくは全部を抱えて再転移すればDC0遺伝子のコードするPKA触媒サブユニットの機能が一部、若しくは全部喪失することとなる。また、DC0の遺伝子配列をもとにした相同組換えによる所謂ジーンターゲッティングやRNA干渉法による機能低下変異体の作成も可能である。PKA触媒サブユニット遺伝子変異は、上記を含む遺伝子操作によりPKA触媒サブユニット遺伝子の一部を欠失、置換、又は付加により変異させて行なうことができる。欠失、置換、又は付加を行う部位や置換又は挿入される塩基は、上記したように、得られる変異体のPKA活性が、正常動物のPKA活性に比べ、50〜60%保持されている限り特に限定されるものではない。
ショウジョウバエ等のハエ類へのベクターの導入は、公知の方法を用いて行なうことができる。例えば、構築されたターゲッティングベクターを、例えば胚に導入することにより達成することができる。導入方法としては、マイクロインジェクション等公知の導入方法を用いることができる。
また、マウスのような非ヒト哺乳動物において、本発明のPKA触媒サブユニットのヘテロ変異体動物を作製するためには、ジーンターゲッティング、Cre-loxPシステム、体細胞クローン等の公知の遺伝子工学手法を用いて作製することができる。例えば、PKA触媒サブユニットをコードする遺伝子の塩基配列の一部または全てを改変したものを分化全能性細胞に導入し、改変された遺伝子が導入された細胞を選択する。次に、選択された遺伝子改変(欠損、破壊、変異等)が施された細胞を受精卵に導入してキメラ個体を作製すればよい。
具体的には、動物の脳から構築した遺伝子ライブラリーからPCR等の方法により得られたDC0遺伝子に相同性を有する遺伝子の全部又は一部の遺伝子フラグメントを、lac-Z遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等のマーカー遺伝子で置換して、必要に応じて、5′末端側にジフテリアトキシンAフラグメント(DT-A)遺伝子や単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子等のマーカー遺伝子を導入してターゲッティングベクターを作製する。このターゲッティングベクターを線状化し、エレクトロポレーション(電気穿孔)法等によって胚性幹細胞(ES細胞)に導入し、相同組換えを行う。その相同組換え体の中から、X-galによる染色、あるいはG418やガンシクロビル(GANC)等の抗生物質に抵抗性を示すES細胞を選択して、DC0遺伝子に相同性を有する遺伝子の上記機能を発現した標的胚幹細胞を、動物の胚盤胞中にマイクロインジェクションする。その後、胚盤胞を仮親に戻し、キメラマウスを作製し、このキメラ動物を野生型動物と交配させると、ヘテロ接合体変異動物を得ることができる。
3.加齢性記憶障害を抑制又は改善する物質のスクリーニングターゲット(標的物質)の同定方法
AMIの予防・改善薬を開発するためにはAMI発現の分子メカニズムを明らかにし、AMIの予防・改善薬のターゲットとなる生体内の分子・遺伝子を見出すことが重要である。
PKA触媒サブユニットをコードする遺伝子が変異された非ヒト動物、特にDC0のヘテロ変異体ショウジョウバエDC0/+では加齢性記憶障害(AMI)が抑制されている。これを利用して、本発明ではAMIの予防・改善薬がターゲットとしている生体内の分子又は遺伝子を同定することが可能となる。例えば、加齢によって脳が老化したときに消失するようなタンパク質が、AMIが抑制された同年齢の変異体では消失しないか消失のレベルが低い場合は、当該タンパク質は、加齢によって生じる記憶障害を起こさない方向に作用するマーカータンパク質であるといえる。したがって、加齢状態においてそのようなマーカータンパク質を発現させる化合物は、AMIの予防又は治療薬等として有用である。本発明は、加齢によって生じる記憶障害を起こさない方向に作用するマーカータンパク質又は遺伝子や、加齢によって生じる記憶障害を起こす原因となっているマーカータンパク質・遺伝子を同定する方法である。以下に、PKA触媒サブユニットをコードする遺伝子が変異された非ヒト動物のうちDC0/+を例示して説明する。
PKAの触媒サブユニットをコードする遺伝子DC0のヘテロ変異体であるDC0/+、は本発明者により初めて見出されたAMIの抑制変異体であり、PKAの活性が50〜60%に抑制されている。このことからDC0/+を用いて、AMI発現の抑制の鍵となる分子及び/又は遺伝子を同定しうる。たとえば、以下に、2つの具体的な方法を例示する。
1つは、DNAチップ又は2次元電気泳動により、加齢にともなうDC0/+(AMI抑制条件下)と野生型非ヒト動物(以下、「野生型」という)(AMI発現条件下)で発現動態が異なる遺伝子又はタンパク質を比較同定する方法である。もう1つは、AMIの発現に関与しているPKA基質、又はリン酸化タンパク質をリン酸化タンパク質認識カラムにより単離することにより、DC0/+(AMI抑制条件下)と野生型(AMI発現条件下)における加齢にともなう動態変化を比較同定する方法である。こうした方法により同定された遺伝子及び/又はタンパク質はAMIの予防及び/又は改善、ひいては治療薬開発のための有力な標的分子となる。以下各々の方法について説明する。
(1)DC0/+(AMI抑制条件下)と野生型(AMI発現条件下)での遺伝子又はタンパク質の加齢にともなう発現動態の比較によるAMI予防・改善薬の標的物質の同定方法
本発明の方法は、以下の工程:
(a)本発明の非ヒト動物由来の遺伝子又はタンパク質及び野生型非ヒト動物由来の遺伝子又はタンパク質の発現パターンをそれぞれ測定し、
(b)得られた発現パターンを比較することにより、加齢性記憶障害を抑制又は改善す る物質の標的となる物質を同定すること
を含むものである。
「標的となる物質」とはAMIの発現に連関して増減する物質であり、AMIを抑制又は改善しうる物質(AMI治療薬の候補物質)をスクリーニングする際にマーカー(指標)となる物質をいう。AMIを抑制又は改善しうる物質は、このマーカーに作用して、例えばAMIの発現に連関した増加を示すマーカーであればその発現を抑制できる物質、またAMIの発現に連関した減少を示すマーカーであればその発現を促進できる物質であり、AMIの予防・改善薬の候補物質として好ましい。
具体的には、野生型で発現しているタンパク質の加齢による発現パターン(動態)を解析する。例えば、野生型若齢体(7日齢)で発現しているタンパク質を緑色蛍光でラベルして、老齢体(20日齢)で発現しているタンパク質を赤色蛍光でラベルして、同一ゲル上で2次元電気泳動により展開する。このようにして展開された発現パターンをパネルAとする。そうすると、若齢体で発現し、加齢により消失するタンパク質では、若齢体の蛍光である緑色のスポットが現われる。若齢体及び老齢体の両者で発現するタンパク質(加齢に伴う発現変化がないタンパク質)では、若齢体の緑スポットと老齢体の赤スポットが反映されて黄色の蛍光スポットが現われる。若齢体では発現しないが加齢にともない発現が増加するタンパク質は、老齢体の蛍光である赤色の蛍光スポットが現われる。これらの蛍光スポットの相対的な強さ(量比)をイメージングアナライザーにより測定することにより、各年齢におけるタンパク質を定量することができる。この段階の解析結果では、加齢にともない発現量が変動するようなタンパク質にAMIに連関して増減するものが含まれると考えることができるが、その多くは擬陽性である。
一方、野生型及びDC0/+の加齢体で発現しているタンパク質の発現パターンについても解析する。例えば、DC0/+(AMI抑制条件下)加齢体で発現するタンパク質を緑色蛍光でラベルして、野生型(AMI条件下)加齢体を赤色蛍光でラベルして、同一ゲル上で2次元電気泳動により展開し、タンパク質の発現パターンを測定する。このようにして展開された発現パターンをパネルBとする。そうすると、野生型(AMI条件下)加齢体よりもDC0/+(AMI抑制条件下)加齢体で発現量が高いタンパク質は、DC0/+加齢体の蛍光ラベルが反映されて緑色のスポットを生じる。DC0/+加齢体(AMI抑制条件下)よりも野生型(AMI条件下)加齢体で発現量が高いタンパク質は、野生型加齢体の蛍光ラベルが反映されて赤色の蛍光スポットを生じる。野生型(AMI条件下)加齢体及びDC0/+(AMI抑制条件下)加齢体の両者において発現して発現量に変化がないタンパク質は、野生型加齢体の蛍光ラベルとDC0/+加齢体の蛍光ラベルの両方が反映されて黄色のスポットを生じる。
ここで同一スポットの発現パターンを上記2つの系で比較することにより(パネルAとパネルBとの比較)、擬陽性を排除したAMIの発現に関わるタンパク質の発現変化を見出すことができる。例えば、2つの系でともに緑色蛍光が強いスポットは、野生型では加齢によりタンパク質発現が減少するタンパク質であって(パネルAから読み取れる)、DC0/+(AMI抑制条件下)では加齢により発現が減少しないタンパク質(パネルBから読み取れる)のものであることを意味する。したがって、このタンパク質の発現を維持できるような化合物は、AMIの抑制又は改善剤の候補物質となり得る。また、野生型では発現しないが、DC0/+(AMI抑制条件下)加齢体において初めて発現が認められるようなタンパク質の発現を誘導する化合物も、AMIの抑制又は改善剤の候補物質となり得る。
一方、野生型においては加齢により発現量が増加するタンパク質であり(パネルAでは赤色スポット)、かつ、DC0/+(AMI抑制条件下)加齢体では発現量が減少するタンパク質(パネルBでは赤色スポット)は、AMIを促進するタンパク質である。このようなタンパク質の発現を抑制するような物質も、本発明においてはAMIを抑制又は改善する候補物質として採用することができる。
遺伝子の発現動態についても、DNAチップを用いた同様の解析により発現パターンを比較することにより解析することができる。
(2)DC0/+(AMI抑制条件下)と野生型(AMI発現条件下)でのリン酸化PKA基質タンパク質の動態変化の比較によるAMI予防・改善薬ターゲットの同定方法
本発明は、PKA触媒サブユニットをコードする遺伝子が変異された非ヒト動物由来のタンパク質及び野生型非ヒト動物由来のタンパク質を用いてリン酸化タンパク質の有無又はレベルを測定・比較し、得られる測定結果からPKA触媒サブユニットをコードする遺伝子が変異された非ヒト動物でリン酸化が抑制されたタンパク質を同定することを特徴とし、加齢性記憶障害を抑制又は改善する物質の標的となる物質の同定方法を提供する。
DC0/+ではPKAの活性が50〜60%に抑制されていることから、最終的に神経機能障害を引き起こすリン酸化PKA基質の量が野生型より減少し、そのことによりAMIの発現が抑制されていると考えられる。つまり、最終的に神経に機能障害を引き起こすリン酸化PKA基質の量が加齢と共に増加していくことで神経機能障害、即ちAMIが起こると考えられる。ここでいうリン酸化基質とはイオンチャンネルや転写、翻訳因子、他のキナーゼなどPKAによりリン酸化を受ける全てのタンパク質が含まれる。
従って、DC0/+でリン酸化が抑制されているDC0-PKAの基質タンパク質を同定することができれば、そのリン酸化若しくは蓄積を阻害する化合物を検索することでAMIの予防・改善薬、さらに治療薬の開発が期待できる。
リン酸化されたDC0-PKAの基質タンパク質はリン酸化タンパク質認識カラム(リン酸化カラム)により単離する。DC0/+ではPKAの活性が低下していることから、野生型と比べてリン酸化カラムに結合するリン酸化タンパク質の量が減少している。従ってリン酸化カラムに結合したリン酸化タンパク質を回収し、例えばDC0/+由来のリン酸化タンパク質は緑色蛍光でラベルして、また野生型由来のリン酸化タンパク質は赤色蛍光でラベルして、同一ゲル上で2次元電気泳動展開すれば、野生型でDC0/+より多いリン酸化タンパク質のスポットは赤色蛍光の強いスポットとなる。このようなスポットとなるリン酸化タンパク質がDC0-PKAのリン酸化基質であるといえる。
リン酸化カラムから単離されたリン酸化タンパク質が実際DC0-PKA基質か否かはin vitroでリコンビナントDC0-PKAによるリン酸化反応で容易に検証できる。
また、PKAはCREBなどの転写因子の活性をリン酸化により調節していることなどから、DC0/+ではPKAの活性の抑制により、結果として神経に機能障害を引き起こすタンパク質をコードする遺伝子の発現が抑制されていることも考えられる。この点に着目した標的物質の同定については上記(1)で説明したとおりである。
本発明はまた、本発明の非ヒト動物に被験物質を接触させて上記の方法により同定された標的物質の発現パターンを解析することで、AMIを抑制又は改善しうる物質をスクリーニングすることができる。このようにしてスクリーニングされた物質はAMIの予防・改善薬に適用できる。
本発明において、「非ヒト動物」には、ヒト以外の動物の生体の全身、及び限定された組織又は器官の両者を含む。限定された組織又は器官の場合は、動物から摘出されたものも含む。
PKA活性が加齢性記憶障害を引き起こすことを背景に、加齢性記憶障害を生化学的に測定又は評価する方法には、例えば、PKA活性を測定する方法が挙げられる。PKA活性を測定するには、PKAによる基質ペプチドのリン酸化を分析するための標準的なELISA法を用いて、ショウジョウバエ頭部のPKA活性を測定することによって行う。分析は、cAMP存在下で、組換えPKAcを用いた検量線を作成することにより行うことができる。
また、他の方法としては、DC0遺伝子の転写物の発現量を測定する方法もあげられる。DC0遺伝子の転写物の発現量は、例えばショウジョウバエの頭部由来の全RNAを用いたreal time PCRにより定量することができる。
さらに、行動学的に記憶障害を評価する方法として、典型的な匂い条件付け実験による学習記憶行動の変化等の解析があげられる。典型的な匂い条件付け実験は、文献(Tully and Quinn, 1985、参考文献10)に記載された方法のうち、標準的な単一サイクルトレーニングに修正を加えたものである。例えば所定数のショウジョウバエに対して条件刺激として、嫌悪的な匂い(例えば3−オクタノール[OCT])を電気ショックと共に与え、休憩後、他の嫌悪的な匂い(例えば4−メチルシクロヘキサノール[MCH])を電気ショック無しで与えることによって行う。
上記の学習記憶行動の障害が学習記憶障害によるものか評価する方法として、嗅覚や電気ショックに対する反応性を評価する記憶実験をあげることもできる。これらは、条件付けを受けていないハエに対してOCTと空気、MCHと空気の選択、電気ショックありとショックなしを選択させることにより評価することができる。もし条件付けを受けていないハエがOCTやMCHに対して空気を選択し、且つ電気ショックなしを電気ショックありに対して選択するのであればこのハエが示す学習記憶行動の障害は匂いや電気ショック感受性の障害ではなく、学習記憶障害によると評価できる。
PKA活性を指標とした加齢性記憶障害に対する予防・改善薬シーズの検索として、DC0-PKAおよびDC0マウスホモローグCβのリコンビナントを用いて化合物ライブラリーからリコンビナントPKAの活性をマイルドに抑制する化合物の検索を行うこともできる。
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で用いた実験の実験方法は、以下の通りである。
用いたハエの系統
野生型のハエとして用いたw(CS10)は、すでに報告のあるようにw1118をCanton-Sに10回交配して得られた白眼のCanton-Sである。この研究に用いたdnc1を除く、すべての変異体はw(CS10)と最低6回、交配して用いた。遺伝子の変異の位置がわかっていないdnc1はw(CS10)と交配して生まれたヘテロ個体を用いた。dnc遺伝子はX染色体上にあるので、dnc遺伝子のヘテロ個体は全てメスである。dnc1/+の実験のコントロールには、メスのw(CS10)、オスのw(CS10)、そしてオスのdnc1とメスのw(CS10)を交配して生まれたオスを用いた。その結果、全てのコントロール間で学習、記憶、そして匂い反応性に差は見られなかった。これより、dnc1/+の結果に遺伝学的バックグラウンドが影響を与えていないことが示された。
ハエは、特に明示しない限り全て25±2℃、60±10%の湿度、12時間周期の明暗期下で飼育した。行動実験のためのハエは約50匹を、寿命実験のためのハエは約20匹のハエを、それぞれエサの入ったバイアルで飼育し、2〜3日ごとに新しいエサの入ったバイアルに移し替えた。
mini-whiteマーカーを持たない変異体の交配では、世代毎に変異遺伝子が保持されていることをRT-PCRによる確認を行った。
記憶の分析法
典型的な匂い条件付け(参考文献10)では、ハエの嫌いな匂いを2種類(3-オクタノール [OCT]と4-メチルシクロヘキサノール [MCH])を用いる。約100匹のハエに対して最初の匂い(CS+)を60秒間電気ショックと共に与えた(電気ショックは1.5秒間、60Vの直流電気ショックを3秒間間隔で与えた)。最初の匂い呈示後、45秒間の休憩後、次の匂い(CS-)を60秒間、今度は電気ショック無しで与えた。記憶テストではトレーニングを受けたハエにCS+とCS-を選択させた。パフォーマンスインデックス(PI)は、ハエが50:50に分かれたときは0となり、CS+の匂いから離れた方へ0:100に分かれたときは100とした。記憶実験における嗅覚や電気ショックに対する反応性はトレーニングを受けていないハエに対してOCTと空気、MCHと空気の選択、電気ショックありとショックなしを選択させることにより調べた。なお、本発明において使用された変異体及び加齢体では、匂いとショックに対する反応性に顕著な異常は見られなかった。
PKA活性の数量化
ショウジョウバエ頭部のPKA活性は、PKAによる基質ペプチドのリン酸化を分析するための標準的なELISA法(MESACUP Protein Kinase Assay Kit、MBL、名古屋、日本)により調べた。
頭部抽出物は以下の手順で得た。まず、ショウジョウバエをドライアイスで凍らせ、頭部を分離した。次に、約100個の頭部を200μLのsample preparation buffer(MESACUP Protein Kinase Assay Kit)を用いて、乳棒ですりつぶした。その後、遠心分離して不純物を取り除き、頭部の抽出物を得た。分析を2μMのcAMP濃度存在下で行い、組換えPKAc(New England Biolabs)を用いて、検量線を作成した。それぞれのデータは最低4回の独立した実験の結果の平均から得た。
DC0遺伝子の転写物の発現
DC0転写物の発現レベルの比較はreal time PCR(Applied Biosystems,model 7500)を用いて定量した。ショウジョウバエの頭部を、ドライアイスを用いて分離し、全RNAをTRIzol reagent(Invitrogen)を用いて分離した。cDNAはHigh Capacity cDNA Archive Kit(Applied Biosystems)を用いて合成し、DC0とGAPDH2特異的なプライマーとSYBR-Greenを用いて定量PCRを行なった。用いたプライマーは以下のとおりである。
DC0-fwd: CAAGGAGGAGTTCGAGGACA (配列番号3)
DC0-rev: GTGCTGGACGATCATGACAC (配列番号4)
GAPDH2-fwd: GCGGTAGAATGGGGTGAGAC (配列番号5)
dGAPDH2-rev: TGAAGAGCGAAAACAGTAGC (配列番号6)
PCRは通常の条件で行った。DC0の発現はGAPDH2の発現を標準化して得た。それぞれのデータは最低4回の独立した実験の平均からなる。
免疫組織化学
口吻を取り除いた3〜5日目のショウジョウバエ成虫の頭部を4%ホルムアルデヒドで4時間固定した。その後、エタノールで30分×2回洗い、さらにトルエンで10分×3回洗った。頭部は100%パラフィンに4回、それぞれ1時間ずつ浸し、その後、パラフィンに包埋した。5ミクロンのスライスを集め、キシレンで5分×3回、濃度を下げたEtOHで5分×3回、再水和させた。DC0の抗体はDaniel Kalderon(コロンビア大学、ニューヨーク)から得た。抗体はPBHT (0.02M NaPO4、0.5M NaCl、0.2%Triton X-100 (pH7.4))と5%ヤギ血清で1:400に希釈して使用した。FITCが結合した抗ウサギ2次抗体は1:2000に希釈して使用した。
AMIに影響を与える単一遺伝子変異体のスクリーニング及びDC0変異体ショウジョウバエの同定
AMIに影響を及ぼす1遺伝子変異を同定するために、DC0(参考文献7, 11, 13)、volado (参考文献8)、fasciclin 2 (参考文献9)、dunce (参考文献10)、rutabaga(参考文献10)、など既知の変異体に加えてキノコ体でレポータシグナルを示す GAL4トランスポゾン因子系統などを含む、主にキノコ体で発現している約100個の遺伝子の変異体の供与を受け、それぞれの若齢体および加齢体で1時間記憶をテストし1時間記憶の低下を指標にAMIの抑制変異体を検索した。
DC0、volado(vol)、fasciclin 2(Fas II)、dunce(dnc)、rutabaga(rut)、など既知の変異体は野生型にX線照射若しくは発癌物質の摂取させることにより、遺伝子変異を誘導し作製されたものである。一方GAL4トランスポゾン因子系統は、酵母転写因子GAL4を含むトランスポゾン因子がエンハンサー領域周辺に挿入したことにより遺伝子の発現障害が起きている系統である。GAL4は遺伝子のUAS配列を認識しUAS配列下流の遺伝子発現を誘導する。従ってGAL4トランスポゾン因子系統とUAS配列下流にレポーター(例えばGFPなど蛍光タンパク質をコードする遺伝子など)遺伝子を持つレポーター系統を交配させると、次世代(F1)ではGAL4トランスポゾン因子の挿入により発現が抑制された遺伝子に代わりその発現領域でレポータータンパク質の発現がみられる(エンハンサートラップ系統ともいう)。本研究で用いたGAL4トランスポゾン因子系統は、レポーター系統との交配によるF1のキノコ体でレポーターが発現する系統であり、キノコ体に発現する遺伝子の発現が抑制されていることが予想される系統である。
AMIは羽化後20日目でみられる匂い条件付け一時間後の著しい記憶を特徴としているので、若い変異体(1日目)と年をとった変異体(20日目)で1時間記憶を比較した(図1a)。図1aは、キノコ体で発現している遺伝子の変異体1日齢と20日齢の1時間記憶の典型例を示している。1番の系統はコントロールの野生型、2-10番はenhancer GAL4系統、11番はfasIIrd2、12番はDC0B3/+、13番はvol1、14番はdnc1、15番はrut2080(すべてのグループでN数は4〜6ある)である。
野生型では20日齢で記憶スコア(Performance index)が20-30低下することを考慮すると2つの系統(8と12番)で加齢による記憶力の低下が抑制されること、3つの系統(2、3、6番)で記憶力低下がより顕著となることが見出された(図1b)。図1bは、キノコ体で発現している遺伝子変異体の1日目の1時間記憶と20日目の1時間記憶の差を示している。「+」は記憶が大きく衰えていることを示している。一方、「*」はコントロールの野性型よりも記憶低下が小さいことを示している。なお、14番のdnc変異体のホモと15番のrut変異体のホモでは、若いハエの1時間記憶はすでに極端に低いため、これらの系統では正確なAMIを測ることができなかった。
これらの中で、12番の系統はDC0遺伝子のhypomorph変異のヘテロ体DC0(DC0B3/+)である。若いDC0B3/+は普通の記憶力を有するが、その記憶力が老齢体となっても保持されていた。DC0B3変異体を野生型コントロール系統と10世代に渡って交配させ、遺伝学的バックグラウンドを平衡化した後でもDC0B3/+に顕著にAMIが抑制された。従って、AMIの抑制はDC0遺伝子変異のよるものであり、遺伝学的バックグラウンド効果ではないことが明らかとなった(図1d)。図1dは1時間記憶のスコアを示す。遺伝学的バックグラウンド効果を取り除くためにw(CS10)と10世代交配したDC0B3/+と5世代交配したDC0H2/+のハエでは、AMIが抑制されることが示された(全ての遺伝子型でN数は8〜12である)。
DC0遺伝子はハエの脳で発現しているPKAの触媒サブユニットをコードし、ホモ変異体は胚致死である。DC0は記憶過程に関わるcAMPシグナル経路において重要な役割を担っている。cAMPに反応しないPKAの調節サブユニットやPKAの抑制遺伝子(PKI)を過剰発現させDC0-PKAの活性を抑制すると記憶の形成が阻害される(参考文献12)。特に興味深いのは、DC0の温度感受性変異体は、amnと同様に中期記憶に欠陥が生じることが報告されていることである(参考文献13)。以前の報告同様、DC0-PKAがkenyon細胞ではなく、キノコ体のlobesとcalycesで顕著に発現していることが確認された(図1c)(参考文献7)。図1cは、抗DC0-PKA抗体を用いたDC0-PKA免疫蛍光写真であり、キノコ体におけるDC0-PKAタンパク質の局在を示すものである。
またDC0B3/+のPKA活性は、コントロールである野性型のPKA活性の約60%程度に低下していた(図1e)。図1eは、DC0B3/+とDC0H2/+のハエのPKA活性を比較したものである。DC0B3/+とDC0H2/+のハエのPKA活性は、野性型(+/+)に比べて、それぞれ65.6±4.8%、57.2±2.1%である(N=4)。なお、本明細書における全てのデータは平均±標準誤差で示されている。
DC0B3/+のAMI抑制が対立遺伝子特異的なのか否か明らかにするため、DC0H2/+の若いハエと年をとったハエで記憶を比較した。DC0H2はDC0B3/+のPKA活性に近い活性を有する2番目に強いDC0のhypomorph変異体である(図1e)。DC0H2/+もDC0B3/+同様、若い時に通常の記憶力を示しAMIは著しく抑制されていた(図1d)。このことから、普遍的にPKAの活性が低下するとAMIが抑制されることが示された。また、PKAの活性の過剰な増加や減少により学習記憶が障害されるものの、約40%というより微妙な活性の減少は若いハエの学習や記憶に影響せず、加齢による記憶低下を阻止することが示唆された。
DC0 変異体の寿命とAMI抑制との関係
AMIは一般に個体老化の結果生じると考えられていることから、DC0/+変異体は個体老化を遅らせることによってAMIを抑制している可能性がある。その可能性を調べるためにDC0B3/+の寿命を調べた。驚いたことにDC0B3/+のハエの寿命は野生型と変わらなかった。オスでは野生型の41.6日(N=238)に対してDC0/+は39.2日(N=239)、メスでは野性型の36.3日(N=236)に対してDC0/+は37.0日(N=227)であった(図2a)。
野生型のハエではAMIは羽化後15日で現れた。一方、DC0B3/+では羽化後30日目にならないと顕著なAMIはみられなかった(図2b)。図2bは、DC0B3/+ではAMIの発現が遅延していることを示す。1時間記憶の低下がコントロールの野生型では15日目で現れるのに対し、DC0B3/+のハエでは30日目になってようやく現れる(T検定によるP<0.05:1日目のDC0B3/+と30日目のPI値はそれぞれ、79.53±3.0(N=6)と65.0±5.6(N=6)である)。即ち、これらの結果はPKA活性が40%程度減少すると、寿命に影響を与えることなくAMIの発生が2倍以上遅れること、個体老化とAMIとは別の現象としてわけて考えることができること示している。
DC0変異によるAMIの抑制をより詳細に評価するため、記憶保持曲線を1日齢と20日齢の野性型、DC0B3/+及びDC0H2/+のハエで調べて比較した。その結果、加齢体(20日齢以降)野性型では中期記憶の特異的低下により1時間記憶が著しく低下し、0時間記憶と7時間記憶は若干の変化しか見られなかった。一方、DC0B3/+、DC0H2/+ではいずれも、加齢による記憶保持曲線の変化はみられなかった(図2c及びd)。図2c及びdは1日目と20日目における、DC0/+変異体とコントロールの野性型の記憶保持曲線を示す。DC0B3/+(c)とDC0H2/+(d)のハエで、記憶保持に違いは見られない。なお、図2b-dの全てのデータはN=6-12である。
結果として、全般的に、加齢による記憶保持曲線の変化がDC0/+ではみられなかったことから、PKA活性が減少するとAMIが抑制されることが示された。
寿命の延長とAMI抑制との関係
AMIの抑制モデル系からAMIと個体老化との関連性が示唆されている。しかしながら、たった1つの主要な生体内経路が、もっとも老化に関係する表現型を調節しているのか、あるいは、多くの生体内経路が関係しているのか不明である。心臓機能の老化は個体老化同様、インシュリン/インシュリン様成長因子経路(IIS)によって調節されている(参考文献14, 15)。従って心臓機能の老化は個体老化と同一のメカニズムにより制御されていると考えられる。同様に、哺乳類では代謝活性を下げると、寿命を延ばすのと同じようにAMIが抑制される。一方、過剰なカロリー制限による代謝活性の低下は、寿命は延ばすがAMIは抑制しないことが報告されている(参考文献16)。また、他の動物と比較して人間では更年期の開始時期から寿命による死亡時期までの間が比較的長い。これらのことはこれら2つの過程を分けて考えることができることを示している。また上記の通り、AMIが抑制されたDC0/+では寿命の延長が見られない。つまり、AMIは寿命に影響を与えず抑制できることを示しているが、このことはAMIと個体老化とを分けて考えることができる、というものである。
個体老化とAMIの相関をさらに調べるため、寿命を延ばすことができる2つの条件下でハエを飼育した。一つは、カロリー制限下で飼育すること、もう一つは低温度下で飼育することである。IISの抑制同様にこれらも代謝抑制という重複メカニズムによって寿命が延長される。予想通り、カロリー制限下で飼育した野生型のハエは、約30%寿命が延び、オスでは平均寿命が37.6日から48.4日に、メスでは27.4日から37.8日になった(図3a)。低温度下で飼育した野性型のハエは約2倍、寿命が延び、オスでは寿命が、52.3日から95.2日へ、メスは40.5日から82.6日になった(図3c)。
哺乳類で見られるように、カロリー制限下で飼育された20日齢のハエは、同日齢のコントロールより記憶スコアが高かった(図3b)。図3bは、カロリー制限によりAMIが抑制されたことを示す。羽化後1日目(1日齢)での1時間記憶のPI値は69.4±2.9(N=10)である。カロリー制限した20日齢の1時間記憶(53.1±2.9、N=10)は、普通に飼育した20日齢の1時間記憶(42.0±2.3、N=10)より有意に高い(P<0.01、T検定)。その一方、カロリー制限しても、1日齢からの有意な記憶低下が見られる(P<0.001、T検定)。
カロリー制限下のハエと同じように、低温度飼育下の20日齢のハエもコントロールより高い記憶スコアを示した。このことは、2つの条件とも、寿命を延ばすのと同様にAMIも改善させることを示している(図3d)。図3dは、低温飼育によりAMIが抑制されたことを示す。PI値は、1日齢で72.8±3.4(N=12)、低温飼育した20日齢では52.8±3.1(N=8)、通常飼育の20日齢では38.0±1.7(N=8)で有意に抑制された(P<0.005 T検定:20日齢の18℃で飼育と24℃で飼育との比較)。しかし低温飼育した場合でも、1日齢と比較すると20日齢では有意な記憶低下が見られた(P<0.001 T検定:18℃で飼育した20日齢と1日齢との比較)。特に、低温度下で飼育したハエはコントロールのハエと比べて2倍長生きする。従って、もし低温度飼育によって老化とAMIが等しく抑制されるなら、低温度飼育した20日齢のハエの記憶スコアは、若いハエの記憶スコアと差異を示さぬはずである。
これらの結果は、AMIと寿命に関連があっても、最大限に寿命を延ばす条件はAMIを抑制するためには必要十分でない、ということを示している。
個体老化の延長がAMIの抑制に十分なのか、さらに検証するため、長命変異体であるmethuselah(mth)でAMIを調べた(参考文献17)。発明者らの実験条件下ではmth1はコントロール野生型より30%以上長生きする(図3e)。図3eは、mth1変異体の寿命の延長を示す。オスのmth1と野生型のハエの平均寿命はそれぞれ、48.1日(N=198)と35.3日(N=202)であった。メスのmth1と野性型の平均寿命はそれぞれ、43.2日(N=194)と33.7日(N=196)であった。
それにもかかわらず、野生型のハエと同じように、羽化後15日で顕著なAMIの発現が起っていた(図3f)。野性型では、顕著なAMIが15日齢からみられた[P<0.001 T検定:野生型1日齢と15日齢;74.8±1.3(N=8)と52.8±3.1(N=8)]。mth1も野生型同様15日齢で顕著なAMIを示した。[P<0.001 T検定:mth11日齢と15日齢:61.5±1.6(N=8)と39.4±3.7(N=8)]
即ち15日齢での記憶力低下は、mth1と野性型で見分けが付かない。この結果は、mthでも運動活性が通常通り衰えるという以前の結果に類似している(参考文献18)。これらのことは、個体老化とAMIは部分的に一致しているが、個体老化の延長はAMI抑制の必要条件にも十分条件にもならないということを示唆している。
DC0-PKA活性とAMIとの関係
DC0-PKA活性の低下はAMIを強く抑制することから、加齢によりDC0の発現が上昇することで記憶力低下が低下するという可能性が考えられる。DC0をキノコ体に過剰発現させると顕著な記憶障害となる(図4a)。図4aは、DC0-PKAをキノコ体で過剰発現させると加齢体と同程度に1時間記憶が低下することを示す。野性型(+/+)と、キノコ体でDC0遺伝子を強制発現した系統(c747/PKAc+)において、1日齢と20日齢の1時間記憶をそれぞれ調べた。c747はGAL4をキノコ体で特異的に発現するエンハンサートラップ系統(GAL4トランスポゾン因子系統)で、PKAc+はUAS配列下流にDC0遺伝子を持つ系統である。即ち、c747/PKAc+ではGAL4/UASコントロール下、キノコ体で恒常的活性をもった触媒サブユニットを発現する。全てのデータはN=6である。
しかしながらPKAの活性、DC0-PKAタンパク質のレベルいずれにも加齢による変化はみられなかった(図4b)。図4bは、DC0の発現とPKAタンパク質のレベルはハエが年をとっても変化しないことを示す。全RNAは1日目と20日目の野生型のハエから分離した。また、DC0の転写物のレベルは定量PCRを用いて定量した。さらに、GAPDH2転写物のレベルで標準化した。PKAの活性は2μMのcAMP濃度下で、1日齢の野生型と20日目の野生型の頭部タンパク質の抽出物で測定した。サンプルは精製した組換えPKAcから作った検量線で標準化した。1日齢のハエの発現/活性の平均を100%と定義したところ、20日齢のハエの発現/活性は1日齢の発現/活性とほぼ同じであった。それぞれのデータは4回の独立した実験からの平均で示している。
DC0-PKAレベルの加齢による発現上昇はなかったが、依然DC0-PKA活性を上げることによりAMIが亢進する可能性がある。そこで、cAMPレベルを上昇させることでDC0-PKA活性を強めるとAMIが早く生じるかどうかを検討するため、cAMP特異的なホスホジエステラーゼをコードする遺伝子dunce(dnc)の変異体でAMIを調べた。ホモと比較して(図1a参照)、dnc1のヘテロ変異体であるメス(dnc1/+;dncはX染色体上に存在する)は、若いときに大きな記憶障害は示さない。驚いたことに、コントロールの野性型のメスでは羽化後15日目からAMIが現れるのに対して(図2b参照)、dnc1/+のメスでは、成虫になって5日目で既にAMIが起きていた(図5)。即ち、野生型のメスとdnc1/+のメスの1日齢、5日齢と10日齢で1時間記憶を比べると野生型では10日齢ではまだAMIが起っていないが、dnc1/+では5日齢で既に有意なAMIがみられる(P<0.02)。それそれのデータは平均±標準誤差で示してあり、N=8である。dnc1/+のメスと同じ遺伝子バックグラウンドを持つオスのハエ(dnc1のオスを野生型のメスと交配させ得たF1のオス、dnc1変異は持たないが、他の遺伝子バックグラウンドはdnc1/+メスと同じ)は、野生型のオス、メスと見分けのつかない記憶とAMIを示す。
このことは、dnc1/+で生じるAMIの亢進が遺伝学的バックグラウンド効果によるものではないことを示している。また10日齢のdnc1/+メスは記憶テストで用いたOCTとMCHに対して正常な回避性を示すことから(図5)、AMIの亢進は嗅覚の障害によるものではないことを示している。
加えて、protein phosphatase 1(Pp1-87B)の変異体でもAMIが早く生じる。また、DC0-PKAに対する抑制的なPKAの調節サブユニットをキノコ体で過剰発現させたハエでは、AMIが抑制されることを見出している。これらのことから、DC0-PKAの活性を下げるとAMIの始まりが遅れるが、活性が上がるとAMIが早く生じることが示された。
本実施例は、野生型及びDC0/+変異体から得られたタンパク質を2次元電気泳動により展開し、野生型で発現しているタンパク質の加齢による動態と(図6A)、野生型及びDC0/+の加齢体で発現しているタンパク質の発現量を比較した(図6B)。
図6Aは、野生型若齢体(7日齢)で発現しているタンパク質を緑色蛍光で、老齢体(20日齢)で発現しているタンパク質を赤色蛍光でラベルして同一ゲル上で2次元電気泳動により展開した結果を示す図である。加齢にともなう発現変化がみられないタンパク質であれば黄色蛍光スポットとして、加齢にともない発現が減少するタンパク質であれば緑色蛍光が強いスポットとして、加齢にともない発現が増加するタンパク質であれば赤色蛍光が強いスポットとして、相対的な強さ(量比)をイメージングアナライザーにより定量した。
図6Bは、DC0/+(AMIが抑制されている)加齢体で発現しているタンパク質を緑色蛍光で、野生型(AMIが起きている)加齢体を赤色蛍光でラベルして同一ゲル上で2次元電気泳動により展開した結果を示す図である。従って例えば緑色蛍光が強いスポットはDC0/+(AMIが抑制されている)加齢体での発現が、野生型(AMIが起きている)加齢体より高いタンパク質である。
次に、同一スポットの発現を図6Aと図6Bとで比較し、AMIの発現に関わるタンパク質の発現変化を検討した(図6C)。例えば図6A、図6Bともに緑色蛍光が強いスポットであれば野生型(AMIが起きる条件下)では加齢により発現が減少するが、DC0/+(AMIが抑制されている条件下)では加齢による発現減少が起きないタンパク質であり、このタンパク質の発現維持がAMIの抑制に重要であるといえる。図6Cでは、3番及び6番のスポットを示すタンパク質がAMI抑制に有用であるといえる。このタンパク質の発現維持がAMIの抑制に重要か否かは、このタンパク質の発現減少を野生型で遺伝学的操作により抑制したときにDC0/+同様にAMIが抑制されるか否かで簡単に検証できる。
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10. Tully, T. & Quinn, W. G. Classical conditioning and retention in normal and mutant Drosophila melanogaster. J Comp Physiol [A] 157, 263-77 (1985).
11. Lane, M. E. & Kalderon, D. Genetic investigation of cAMP-dependent protein kinase function in Drosophila development. Genes Dev 7, 1229-43 (1993).
12. Drain, P., Folkers, E. & Quinn, W. G. cAMP-dependent protein kinase and the disruption of learning in transgenic flies. Neuron 6, 71-82 (1991).
13. Li, W., Tully, T. & Kalderon, D. Effects of a conditional Drosophila PKA mutant on olfactory learning and memory. Learn Mem 2, 320-33 (1996).
14. Wessells, R. J., Fitzgerald, E., Cypser, J. R., Tatar, M. & Bodmer, R. Insulin regulation of heart function in aging fruit flies. Nat Genet 36, 1275-81 (2004).
15. Clancy, D. J., Gems, D., Hafen, E., Leevers, S. J. & Partridge, L. Dietary restriction in long-lived dwarf flies. Science 296, 319 (2002).
16. Yanai, S., Okaichi, Y. & Okaichi, H. Long-term dietary restriction causes negative effects on cognitive functions in rats. Neurobiol Aging 25, 325-32 (2004).
17. Lin, Y. J., Seroude, L. & Benzer, S. Extended life-span and stress resistance in the Drosophila mutant methuselah. Science 282, 943-6 (1998).
18. Cook-Wiens, E. & Grotewiel, M. S. Dissociation between functional senescence and oxidative stress resistance in Drosophila. Exp Gerontol 37, 1347-57 (2002).
19. Ramos, B. P. et al. Dysregulation of protein kinase a signaling in the aged prefrontal cortex: new strategy for treating age-related cognitive decline. Neuron 40, 835-45 (2003).
DC0/+変異によりAMIが抑制されることを示す図である。 DC0変異体は寿命に作用せずにAMIを抑制することを示す図である。 寿命が延びることはAMIの抑制の必要十分条件ではないことを示す図である。 PKA活性は加齢と関連して変化することを示す図である。 PKA活性が亢進するとAMIが促進することを示す図である。 野生型で発現しているタンパク質の加齢による動態(A)と、野生型及びDC0/+の加齢体で発現しているタンパク質の発現を比較(B)した写真である。
配列番号3:プライマー
配列番号4:プライマー
配列番号5:プライマー
配列番号6:プライマー

Claims (3)

  1. プロテインキナーゼA触媒サブユニットをコードする遺伝子が変異され、脳における当該プロテインキナーゼAの活性が野生型の活性の50〜60%に低下した非ヒト動物を、加齢性記憶障害の抑制又は改善モデル動として使用する方法であって、
    前記非ヒト動物がショウジョウバエであり、前記プロテインキナーゼA触媒サブユニットがDC0である、
    前記方法
  2. 加齢性記憶障害を抑制又は改善する物質の標的となる物質を同定する方法であって
    a)プロテインキナーゼA触媒サブユニットをコードする遺伝子が変異され、脳における当該プロテインキナーゼAの活性が野生型の活性の50〜60%に低下した非ヒト動物由来の遺伝子又はタンパク質及び野生型非ヒト動物由来の遺伝子又はタンパク質の発現パターンをそれぞれ測定し、
    (b)得られた発現パターンを比較することにより、加齢性記憶障害を抑制又は改善する物質の標的となる物質を同定すること
    を含
    前記非ヒト動物がショウジョウバエであり、前記プロテインキナーゼA触媒サブユニットがDC0である、
    前記方法。
  3. プロテインキナーゼA触媒サブユニットをコードする遺伝子が変異され、脳における当該プロテインキナーゼAの活性が野生型の活性の50〜60%に低下した非ヒト動物由来のタンパク質及び野生型非ヒト動物由来のタンパク質を用いてリン酸化の有無又はレベルを測定・比較し、得られる測定結果から、前記プロテインキナーゼAの活性が低下した非ヒト動物でリン酸化が抑制されたタンパク質を同定する、加齢性記憶障害を抑制又は改善する物質の標的となる物質の同定方法であって、
    前記非ヒト動物がショウジョウバエであり、前記プロテインキナーゼA触媒サブユニットがDC0である、
    前記方法
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