本発明は、前記課題、つまり耐熱性、透明性、光沢性が共に優れた成形体を得ることができる成形性の良好なポリ乳酸系樹脂シートについて、鋭意検討した結果、かかる成形性の良好なポリ乳酸系樹脂シートを、通常の結晶核剤を含有するポリ乳酸系樹脂シートを製造する樹脂組成物からなる層A、つまり結晶核剤を含有する層Aを、結晶核剤を実質的に含有しない樹脂組成物からなる層Bで、挟み込むように積層してみたところ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
つまり、本発明者らは、通常の結晶核剤を含有するポリ乳酸系樹脂シートが、結晶化する際に、該シート表面に微細な凹凸を形成することを究明し、この凹凸により透明性、光沢性を大きく低下せしめることをつきとめ、前記特定な手段を採用して特定な積層シートを構成することにより、初めてかかる微細な凹凸を排除することに成功し、前記課題を解決し得たものである。
本発明に用いられるポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は、適度な製膜、延伸適性および実用的な機械特性を満足させるため、5万〜50万であることが好ましく、より好ましくは10万〜25万である。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミテーションクロマトグラフィーでクロロホルム溶媒にて測定を行い、ポリメチルメタクリレート換算法により計算した分子量をいう。
本発明に用いられるポリ乳酸系樹脂とは、L−乳酸および/またはD−乳酸を原料として得ることができる構造を主たる構成成分とするポリマーであるが、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよい。他の単量体としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。上記の他共重合成分の共重合量は、全単量体成分に対し、0〜30モル%であることが好ましく、0〜10モル%であることがより好ましい。
本発明において、特に高い耐熱性を有する成形品を得るためには、ポリ乳酸系樹脂として乳酸成分の光学純度が高いものを用いることが好ましい。すなわち、ポリ乳酸系樹脂の総乳酸成分の内、L体が80モル%以上含まれるか、あるいはD体が80モル%以上含まれることが好ましく、L体が90モル%以上含まれるか、あるいはD体が90モル%以上含まれることがより好ましく、L体が95モル%以上含まれるか、あるいはD体が95モル%以上含まれることが特に好ましい。
本発明に用いられるポリ乳酸系樹脂の融点は、特に制限されるものではないが、120℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。かかるポリ乳酸系樹脂の融点は、通常、乳酸成分の光学純度を高くすることにより高くなり、融点120℃以上のポリ乳酸樹脂は、L体が90モル%以上含まれるか、あるいはD体が90モル%以上含まれることにより、また融点150℃以上のポリ乳酸樹脂は、L体が95モル%以上含まれるか、あるいはD体が95モル%以上含まれることにより得ることができる。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートの層Aおよび/または層Bには、本発明の目的、効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、ポリ乳酸系樹脂以外の樹脂を混合してもよい。例えば、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ(メタ)アクリレート、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリビニル樹脂などの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、エチレン/プロピレンターポリマー、エチレン/ブテン−1共重合体などの軟質の熱可塑性樹脂を使用することができる。これらの中でも、ポリ乳酸系樹脂との相溶性が良く、混合後の樹脂組成物のガラス転移温度が向上し、高温剛性が向上できる点から、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ガラス転移温度が60℃以上となるポリビニル樹脂が好ましい。
ポリ(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートから選ばれる少なくとも1種の単量体を構成単位とするものであり、2種以上の単量体を共重合して用いても構わない。ポリ(メタ)アクリレートを構成するに使用されるアクリレートおよびメタクリレートとしては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、シアノエチルアクリレート、シアノブチルアクリレートなどのアクリレート、およびメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどのメタクリレートが挙げられるが、より高い高温剛性および成形性を付与するには、ポリメチルメタクリレートを用いることが好ましい。
ガラス転移温度が60℃以上となるポリビニル樹脂の具体例としては、ポリスチレン、ポリ(4−アセチルスチレン)、ポリ(2−メチルスチレン)、ポリ(3−メチルスチレン)、ポリ(4−メチルスチレン)、ポリ(4−メトキシスチレン)、ポリ(4−ヒドロキシスチレン)(ポリビニルフェノール)、ポリ(2−ヒドロキシメチルスチレン)、ポリ(3−ヒドロキシメチルスチレン)、ポリ(4−ヒドロキシメチルスチレン)等の各種スチレン系重合体、およびポリ(ベンゾイルオキシエチレン)、ポリ(シクロヘキサノイルオキシエチレン)、ポリ(4−エトキシベンゾイルオキシエチレン)、ポリ(2−メトキシベンゾイルオキシエチレン)、ポリ(4−メトキシベンゾイルオキシエチレン)、ポリ(4−フェニルベンゾイルオキシエチレン)等の各種ポリビニルエステル等を使用することができるが、これらの中でもポリ乳酸系樹脂との相溶性の観点からポリ(4−ヒドロキシスチレン)(ポリビニルフェノール)を用いるのが好ましい。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートは、耐衝撃性付与、成形性向上の観点から、ポリ乳酸系樹脂積層シートを構成する層Aおよび/または層Bについて、ガラス転移温度が60℃以下のポリエステル系樹脂Rを、その層を構成するポリ乳酸系樹脂組成物全体に対して、0.1〜40重量%含有することが好ましい。より好ましくは0.2〜30重量%、特に好ましくは0.5〜20重量%である。かかるポリエステル系樹脂Rが40重量%を超えると、耐熱性、透明性が低下することがあり、ポリエステル系樹脂Rが0.1重量%未満であると耐衝撃性の改良効果が低くなることがある。
通常、ポリマーの耐衝撃性と柔軟性は相関しており、ポリマーの柔軟性を評価する一つの目安としてガラス転移点があげられる。すなわち、本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートの耐衝撃性を向上させるために、かかるポリエステル系樹脂Rとしては、ポリ乳酸系樹脂のガラス転移温度を考慮して、ガラス転移温度が60℃以下であるものを使用するのが好ましい。
該ポリエステル系樹脂Rの重量平均分子量には特に制限は無いが、主に耐熱性を維持する観点とポリ乳酸樹脂との相溶性の観点から、それぞれ下限と上限の好ましい値が存在し、具体的には2,000〜200,000であることが好ましく、より好ましくは5,000〜100,000、特に好ましくは10,000〜80,000である。
このガラス転移温度が60℃以下のポリエステル系樹脂Rの種類については、特に制限は無いが、芳香族および/または脂肪族ポリエステル、ポリエステル系および/またはポリエーテル系セグメントとポリ乳酸セグメントで構成される樹脂組成物であることが好ましい。
かかる芳香族および/または脂肪族ポリエステルの具体例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンセバケート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリプロピレンセバケート、ポリプロピレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート/テレフタレート、ポリプロピレンアジペート/テレフタレート、ポリプロピレンサクシネート/アジペートなどを使用することができる。これらの中でも特に耐衝撃性付与に効果的であるのが、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリブチレンサクシネート/アジペートである。
また、ポリエステル系および/またはポリエーテル系セグメントとポリ乳酸セグメントで構成される樹脂組成物は、ポリエステル系および/またはポリエーテル系樹脂とポリ乳酸樹脂のブロック共重合体であることがさらに好ましい。またこのブロック共重合体一分子中に分子量が1,500以上のポリ乳酸セグメントを一つ以上有することが好ましい。この場合、該ポリ乳酸セグメントが、母材であるポリ乳酸系重合体から形成される結晶中に取り込まれることで、母材につなぎ止められる作用を生じ、該ブロック共重合体のブリードアウトを十分に抑制することができる。
かかるポリエーテルの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体などを使用することができる。
また、ポリエステルの具体例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンセバケート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/サクシネート、ポリプロピレンセバケート、ポリプロピレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート/テレフタレート、ポリプロピレンアジペート/テレフタレート、ポリプロピレンアジペート/サクシネートなどを使用することができる。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートは、前記したガラス転移温度が60℃以下のポリエステル系樹脂Rを分散した形で、該層Aおよび該層Bから選ばれた少なくとも1層、つまり層Aおよび層Bのいずれか一方または両方に含有されているのが好ましいものであるが、その場合、分散径が好ましくは0.1μm以下、さらに好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.01μm以下の形でシート中に含有されているのがよい。すなわち、かかる分散径が0.1μmを超えると、シートの透明性が悪化したり、耐衝撃性の改善効果が現れなかったりすることがある。
次に、結晶核剤について説明する。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートを構成する樹脂組成物においては、ポリ乳酸系樹脂の結晶の過大な成長を抑制し、微細化するため、また、結晶化速度を促進するために結晶核剤を使用する。かかる結晶核剤は、ポリ乳酸系樹脂との相溶性が良好である必要があり、また、結晶化速度を高め、結晶化した時は該樹脂の透明性を維持する必要がある。このような結晶核剤としては、脂肪族カルボン酸アミド、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族アルコール、脂肪族カルボン酸エステル、脂肪族/芳香族カルボン酸ヒドラジド、メラミン系化合物及びフェニルホスホン酸金属塩等を使用することができる。
かかる脂肪族カルボン酸アミドの具体例としては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミドのような脂肪族モノカルボン酸アミド類、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミドのようなN−置換脂肪族モノカルボン酸アミド類、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、へキサメチレンビスステアリン酸アミド、へキサメチレンビスベヘニン酸アミド、へキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドのような脂肪族ビスカルボン酸アミド類、N,N´−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N´−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N´−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N´−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N´−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N´−ジステアリルテレフタル酸アミドのようなN−置換脂肪族カルボン酸ビスアミド類、N−ブチル−N´−ステアリル尿素、N−プロピル−N´−ステアリル尿素、N−ステアリル−N´−ステアリル尿素、N−フェニル−N´−ステアリル尿素、キシリレンビスステアリル尿素、トルイレンビスステアリル尿素、ヘキサメチレンビスステアリル尿素、ジフェニルメタンビスステアリル尿素、ジフェニルメタンビスラウリル尿素のようなN−置換尿素類を使用することができる。これらは一種類又は二種類以上の混合物であってもよい。これらの中でも、脂肪族モノカルボン酸アミド類、N−置換脂肪族モノカルボン酸アミド類、脂肪族ビスカルボン酸アミド類が好適に用いられ、特に、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドが好適に用いられる。
また、かかる脂肪族カルボン酸塩の具体例としては、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ラウリン酸水素カリウム、ラウリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸銀等のラウリン酸塩、ミリスチン酸リチウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸水素カリウム、ミリスチン酸マグネシウム、ミリスチン酸カルシム、ミリスチン酸亜鉛、ミリスチン酸銀等のミリスチン酸塩、パルミチン酸リチウム、パルミチン酸カリウム、パルミチン酸マグネシウム、パルミチン酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、パルミチン酸銅、パルミチン酸鉛、パルミチン酸タリウム、パルミチン酸コバルト等のパルミチン酸塩、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸マグネシウム、オレイン酸カルシウム、オレイン酸亜鉛、オレイン酸鉛、オレイン酸タリウム、オレイン酸銅、オレイン酸ニッケル等のオレイン酸塩、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸タリウム、ステアリン酸鉛、ステアリン酸ニッケル、ステアリン酸ベリリウム等のステアリン酸塩、イソステアリン酸ナトリウム、イソステアリン酸カリウム、イソステアリン酸マグネシウム、イソステアリン酸カルシウム、イソステアリン酸バリウム、イソステアリン酸アルミニウム、イソステアリン酸亜鉛、イソステアリン酸ニッケル等のイソステアリン酸塩、ベヘニン酸ナトリウム、ベヘニン酸カリウム、べヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸バリウム、ベヘニン酸アルミニウム、べヘニン酸亜鉛、ベヘニン酸ニッケル等のベヘニン酸塩、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カリウム、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸バリウム、モンタン酸アルミニウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸ニッケル等のモンタン酸塩等を使用することができる。これらは一種類又は二種類以上の混合物であってもよい。これらの中でも、ステアリン酸の塩類やモンタン酸の塩類が好適に用いられ、具体的には、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸亜鉛、モンタン酸カルシウムが特に好ましく用いられる。
また、かかる脂肪族アルコールの具体例としては、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール等の脂肪族モノアルコール類、1,6−ヘキサンジオール、1,7−へプタンジール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等の脂肪族多価アルコール類、シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール等の環状アルコール類等を使用することができる。これらは一種類又は二種類以上の混合物であってもよい。これらの中でも脂肪族モノアルコール類が好適に用いられ、具体的には、特にステアリルアルコールが好適に用いられる。
また、かかる脂肪族カルボン酸エステルの具体例としては、ラウリン酸セチルエステル、ラウリン酸フェナシルエステル、ミリスチン酸セチルエステル、ミリスチン酸フェナシルエステル、パルミチン酸イソプロピリデンエステル、パルミチン酸ドデシルエステル、パルミチン酸テトラドデシルエステル、パルミチン酸ペンタデシルエステル、パルミチン酸オクタデシルエステル、パルミチン酸セチルエステル、パルミチン酸フェニルエステル、パルミチン酸フェナシルエステル、ステアリン酸セチルエステル、べヘニン酸エチルエステル等の脂肪族モノカルボン酸エステル類、モノラウリン酸グリコール、モノパルミチン酸グリコール、モノステアリン酸グリコール等のエチレングリコールのモノエステル類、ジラウリン酸グリコール、ジパルミチン酸グリコール、ジステアリン酸グリコール等のエチレングリコールのジエステル類、モノラウリン酸グリセリンエステル、モノミリスチン酸グリセリンエステル、モノパルミチン酸グリセリンエステル、モノステアリン酸グリセリンエステル等のグリセリンのモノエステル類、ジラウリン酸グリセリンエステル、ジミリスチン酸グリセリンエステル、ジパルミチン酸グリセリンエステル、ジステアリン酸グリセリンエステル等のグリセリンのジエステル類、トリラウリン酸グリセリンエステル、トリミリスチン酸グリセリンエステル、トリパルミチン酸グリセリンエステル、トリステアリン酸グリセリンエステル、パルミトジオレイン、パルミトジステアリン、オレオジステアリン等のグリセリンのトリエステル類等を使用できる。これらは一種類又は二種類以上の混合物であってもよい。これらの中でもエチレングリコールのジエステル類が好適であり、特にエチレングリコールジステアレートが好適に用いられる。
また、かかる脂肪族/芳香族カルボン酸ヒドラジドの具体例としては、セバシン酸ジ安息香酸ヒドラジド、メラミン系化合物の具体例としては、メラミンシアヌレート、ポリビン酸メラミン、フェニルホスホン酸金属塩の具体例としては、フェニルホスホン酸亜鉛塩、フェニルホスホン酸カルシウム塩、フェニルホスホン酸マグネシウム塩、フェニルホスホン酸マグネシウム塩等を使用することができる。
これらの透明核剤の具体的な添加量は、層Aを構成するポリ乳酸系樹脂組成物全体に対して、0.1〜2.5重量%が好ましく、より好ましくは0.3〜2重量%、特に好ましくは0.5〜1.5重量%である。該添加量が0.1重量%より小さいと、透明核剤としての効果が不十分となり、耐熱性が低くなることがある。該添加量が2.5重量%より大きいと、透明性が低下するばかりか、外観や物性の変化を来す場合がある。
ところで、シートの透明性は、内部ヘイズとして表されるシート内部での光の吸収、散乱による曇り度合いと、表面ヘイズとして表されるシート両表面の表面粗さによって決まる。本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートは、結晶核剤を含有する層Aと、結晶核剤を実質的に含有しない層Bとで構成されることが必要である。ここでいう「実質的に含有しない」とは、結晶核剤として効果を発現する物質を含有しない、という意味である。層Aは、熱処理により結晶化し、シートの耐熱性向上に寄与し、層Bは熱処理により結晶化しないので、シート表面を平滑に保ち、表面ヘイズ低減に寄与する。また、シート表面が熱処理により結晶化しない層Bであることにより、シートの光沢性も良好となる。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートの構成には特に制限は無く、該層A、該層B以外の層を含んでいても構わないし、2層構成、3層構成あるいはそれ以上の多層構成であっても構わない。特に上記理由から、シートの最外層のどちらか一方の側が層Bであることが好ましく、シートの最外層の両側共に層Bであることがさらに好ましく、層Aを内層、層Bを両外層とした三層構造であることが特に好ましい。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートは、該積層シート全体厚みに対する該層Aの厚みの割合が50.1%〜99.9%であることが、耐熱性と透明性、光沢性を両立させる上から必要である。好ましくは60.1%〜97%、より好ましくは70.1%〜95%、さらに好ましくは80.1%〜90%である。すなわち、該層Aの厚みの割合が50.1%未満であると、熱処理によるシートの結晶化部分が少なく、耐熱性が不足する。一方、該層Aの厚みの割合が99.9%を超えると、シート表面を平滑に保つことができないため、表面ヘイズが大きくなり透明性が悪化し、また、光沢性も悪化する。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートには、各種粒子を含有することができる。かかる粒子の平均粒子径は、好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.02〜5μm、さらに好ましくは0.03〜2μmである。また、かかる粒子の含有量はポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.02〜5重量部、さらに好ましくは0.03〜3重量部である。すなわち、平均粒子径が0.01μmより小さいか、または含有量が0.01重量部より少ないと、成形金型とフィルムとの滑りが悪くなり、成形ムラが生じたり、フィルムが破断したり、また、金型からの離型性が悪くなるなど、成形性が不良となることがある。一方、平均粒子径が10μmより大きいか、または含有量が10質量部より多いと、フィルムの透明性が低下することがある。
かかる粒子の種類は、例えば、さらなる結晶化速度の向上や、成型金型との滑り性の向上など、目的や用途に応じて適宜選択され、本発明の効果を損なわなければ特に限定されないが、無機粒子、有機粒子、架橋高分子粒子、重合系内で生成させる内部粒子などを挙げることができる。もちろん、これらの粒子は、それぞれ単独で使用しても、混合して用いても構わない。混合して用いる場合は、それぞれの種類の粒子が、上記平均粒子径の範囲内となるようにすればよく、また、全種類の粒子の総含有量が上記範囲内となるようにすればよい。
かかる粒子の具体例について説明する。すなわち、前記無機粒子としては、特に限定されないが、シリカ等の酸化ケイ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等の各種炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の各種硫酸塩、カオリン、タルク等の各種複合酸化物、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等の各種リン酸塩、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の各種酸化物、フッ化リチウム等の各種塩等からなる微粒子、モンモリロナイト等の粘度鉱物等を使用することができる。
また、有機粒子としては、シュウ酸カルシウムや、カルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩などからなる微粒子が使用される。また、架橋高分子粒子としては、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸のビニル系モノマーの単独または共重合体からなる微粒子が挙げられる。その他、ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機微粒子も好ましく使用される。
最後に、前記重合系内で生成させる内部粒子としては、たとえばアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物などを反応系内に添加し、さらにリン化合物を添加する公知の方法で生成される粒子を使用することができる。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シート全体の厚みは、特に限定されないが、好ましくは50〜2000μm、より好ましくは100〜1500μmであり、さらに好ましくは200〜1000μmである。すなわち、シート厚みが50μmより小さい場合は、成形時にシート破れが発生しやすくなり、成形性が悪化するだけでなく、成形できた場合でも成形体の強度が弱くなってしまうといった問題が発生しやすくなる。また、シート厚みが2000μmより大きい場合は、成形前の加熱が長時間必要になってしまい、うまく成形できた場合でも脆くなりやすいといった問題が発生しやすくなる。
また、本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートには、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて添加剤、例えば、難燃剤、熱安定剤、耐衝撃改良剤、光安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、離型剤、可塑剤、粘着性付与剤、脂肪酸エステル、ワックス等の有機滑剤またはポリシロキサン等の消泡剤、顔料または染料等の着色剤などの機能性薬剤を適量配合することができる。
また、ブロッキング防止、帯電防止、離型性付与、耐傷付き性改良などの目的で、表面に該機能性薬剤を含有する塗布液を塗布して機能層を形成することが有効であり、かかる機能層の形成には、シートの製造工程内で行うインラインコーティング法、シートの巻き取り後に行うオフラインコーティング法を用いることができる。
かかる機能層を形成するための塗布する具体的方法としては、特に限定されないが、ワイヤーバーコート法、ドクターブレード法、マイクログラビアコート法、グラビアロールコート法、リバースロールコート法、エアーナイフコート法、ロッドコート法、ダイコート法、キスコート法、リバースキスコート法、含浸法、カーテンコート法、スプレーコート法、エアドクタコート法あるいはこれら以外の塗布装置を単独又は組み合わせて適用することができる。
また、かかる機能層を形成する別の方法として、延伸工程で該機能性薬剤を含有する塗布液を塗布する手段を採用することができる。かかる手段では、無延伸シートに該塗布液を塗布し、逐次あるいは同時に二軸延伸する方法、一軸延伸されたフィルムに該塗布液を塗布し、さらに先の一軸延伸方向と直角の方向に延伸する方法、あるいは二軸延伸フィルムに該塗布液を塗布した後、さらに延伸する法などがある。
なお、該塗布液のシートへの塗布性、接着性を改良するため、塗布前にシートに化学処理や放電処理を施すことができる。
特に本発明では、ポリ乳酸系樹脂積層シートの少なくとも片面に、離型層を有することが好ましい。これは、後に説明するが、本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートは、成型金型内の熱処理で結晶化させて耐熱性を発現させることが多く、その際、シートと金型間の離型性を良好にするためである。
かかる離型層の素材としては公知のものを用いる事ができ、長鎖アルキルアクリレート、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、セルロース誘導体、尿素樹脂、ポリオレフィン樹脂、パラフィン系離型剤などから選ばれた1種以上が好ましく用いられる。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートの離型層に用いる長鎖アルキルアクリレートとしては、炭素数12〜25個のアルキル基を側鎖に持つアクリル系モノマーと、このアクリル系モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合アクリル樹脂であり、該共重合アクリル樹脂中の炭素数12〜25個のアルキル基を側鎖に持つアルキルアクリレートモノマーの共重合比率は、35質量%以上のものである。なお、該共重合量は、35〜85質量%、さらには60〜80質量%であることが耐ブロッキング性や共重合化などの点で好ましい。
このようなアルキルアクリレートモノマーとしては、上記の要件を満たすものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、アクリル酸テトラデシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ヘキサデシル、アクリル酸ヘプタデシル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸ノナデシル、アクリル酸エイコシル、アクリル酸ヘンエイコシル、アクリル酸ドコシル、アクリル酸トリコシル、アクリル酸テトラコシル、アクリル酸ペンタコシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸エイコシル、メタクリル酸ペンタコシルなどの長鎖アルキル基含有アクリル系モノマーを用いることができる。
かかる長鎖アルキルアクリレートを離型層として用いる場合は、環境面の配慮から、水系の塗剤を用いることが特に好ましく、例えば、エマルション化するために、他の共重合可能なモノマーとしては、下記のアクリル系モノマーを用いることができる。モノマーとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−ブトキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリロニトニル、メタクリロニトニル、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、スチレン、イタコン酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、Nーメチロール(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルリン酸エステル、ビニルスルホン酸ソーダ、スチレンスルホン酸ソーダ、無水マレイン酸等を用いることができる。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートの離型層に用いるシリコーン樹脂としては、特に限定されないが、分散性、安定性の面から、エマルジョンタイプのものを用いることが好ましい。具体的には信越化学工業(株)社製シリコーンKM−786、KM−787、KM−788、KM−9736、KM−9737、KM−9738、KM−9744、KM−9745、KM−9746等を用いることができる。
また、硬化型シリコーンも好ましく用いることができ、例えば、溶剤付加型、無溶剤付加型などの付加反応系のもの、溶剤縮合型、無溶剤縮合型などの縮合反応系のもの、溶剤紫外線硬化型、無溶剤紫外線硬化型、無溶剤電子線硬化型などの活性エネルギー線硬化系のものなどを用いることができ、これらは1種だけでなく2種以上を併用して用いることができる。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートの離型層は、乾燥積層厚みが0.005〜10μmであることが好ましく、0.01〜1μmであることが特に好ましい。シート全体の厚みにもよるが、離型層の乾燥積層厚みが0.005μm未満の場合、均一な塗布層が得にくいため製品に塗布むらが生じやすく、その結果、目的とする離型性能に劣る。離型層の乾燥積層厚みが10μmを超えると、ポリ乳酸系樹脂積層シートはポリエステルとしての再利用が困難になり、回収性が悪化するので、好ましくない。
また、特に本発明では、ポリ乳酸系樹脂積層シートの少なくとも片面に、帯電防止層を有することが好ましい。
かかる帯電防止層の素材としては公知のものを用いる事ができるが、主鎖に4級アンモニウム塩を有する帯電防止剤が好ましい。また、スルホン酸、スルホン酸塩、ビニルイミダゾリウム塩、ジアニルアンモニウムクロライド、ジメチルアンモニウムクロリド、アルキルエーテル硫酸エステルの少なくとも1種を含む共重合体を含有させることにより帯電防止性を付与することができる。
該帯電防止層に使用する帯電防止性樹脂を含む塗布液には、塗布層の固着性(ブロッキング性)、耐水性、耐溶剤性、機械的強度の改良のため架橋剤としてメチロール化あるいはアルキロール化した尿素系、メラミン系、グアナミン系、アクリル系、アクリルアミド系、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリエステル系などの化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、オキザゾリン化合物、カルボジイミド化合物、ブロックポリイソシアネート、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコーアルミネートカップリング剤、熱、過酸化物、光反応性のビニル化合物や感光性樹脂などを含有していてもよい。
また、固着性や滑り性の改良のため無機系微粒子としてシリカ、シリカゾル、アルミナ、アルミナゾル、ジルコニウムゾル、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、バリウム塩、カーボンブラック、硫化モリブデン、酸化アンチモンゾルなどを含有していてもよく、さらに必要に応じて消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、有機系高分子粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料などを含有していてもよい。
また、上記の塗布液には、本発明における樹脂以外のポリマーを塗布液あるいは塗布層の特性改良のため含有していてもよい。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートの帯電防止層は、乾燥積層厚みが0.005〜10μmであることが好ましく、特に好ましくは0.01〜1μmである。乾燥積層厚みが0.005μm未満の場合、均一な塗布層が得にくいため製品に塗布むらが生じやすく、その結果、目的とする帯電防止性能に劣る。また、10μmを超えて大きい場合、透明性に劣る。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートは、シートおよびこれを用いて得られる成形体の分解による強度低下を抑制し耐熱性を良好とする点から、該積層シートのカルボキシル基末端濃度が30当量/103kg以下であることが好ましく、より好ましくは20当量/103kg以下、特に好ましくは10当量/103kg以下である。ポリ乳酸系樹脂中のカルボキシル基末端濃度が30当量/103kgを超える場合には、該積層シートおよび成形体が高温多湿条件下あるいは熱水との接触条件下で使用される際に加水分解により強度が低下し、容器などの成形体が脆くなり割れやすい等といった問題が発生する場合がある。
該積層シートのカルボキシル基末端濃度を30当量/103kg以下とする方法としては、例えば、ポリ乳酸系樹脂の合成時の触媒や熱履歴により制御する方法、シート製膜時の押出温度を低下あるいは滞留時間を短時間化する等熱履歴を低減する方法、反応型化合物を用いカルボキシル基末端を封鎖する方法等が挙げられる。
反応型化合物を用いカルボキシル基末端を封鎖する方法では、シート中のカルボキシル基末端の少なくとも一部が封鎖されていることが好ましく、全量が封鎖されていることがより好ましい。反応型化合物としては、例えば、脂肪族アルコールやアミド化合物等の縮合反応型化合物やカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物等の付加反応型化合物が挙げられるが、反応時に余分な副生成物が発生しにくい点で付加反応型化合物が好ましい。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートは、該積層シート中に含まれる乳酸オリゴマー成分量が0.5質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.4質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下である。該積層シート中に含まれるラクチド量が0.5質量%を超えると、該積層シート中に残留している乳酸オリゴマー成分が粉末状あるいは液状として析出したときに、ハンドリング性、透明性が悪化する場合がある。また、ポリ乳酸樹脂の加水分解を進行させ、シートの耐経時性が悪化する場合がある。ここでいう乳酸オリゴマー成分とは、シート中に存在する乳酸や乳酸の線状オリゴマー、環状オリゴマーなどの中で量的に最も代表的である乳酸の環状二量体(ラクチド)をいい、LL−ラクチドおよびDD−ラクチド、DL(メソ)−ラクチドである。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートは、主に耐経時性、寸法安定性の観点から、延伸シートとしてもよく、その場合は、二軸延伸シートとすることが好ましい。延伸シートを得る場合は、インフレーション法、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法などの既存の延伸シート製造法により行うことができるが、成形性と耐熱性を両立するシートの配向状態を制御しやすいこと、また、製膜速度を高速にできることから逐次二軸延伸法が好ましい。
次に、本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートを製造する方法を具体的に説明する。
すなわち、本発明におけるポリ乳酸を主体とするポリマーは、次のような方法で得ることができる。原料としては、L−乳酸またはD−乳酸の乳酸成分を主体とし、前述した乳酸成分以外のヒドロキシカルボン酸を併用することができる。またヒドロキシカルボン酸の環状エステル中間体、例えば、ラクチド、グリコリド等を原料として使用することもできる。更に前述したジカルボン酸類やグリコール類等も使用することができる。
ポリ乳酸を主体とするポリマーは、上記原料を直接脱水縮合する方法、または上記環状エステル中間体を開環重合する方法によって得ることができる。例えば直接脱水縮合して製造する場合、乳酸類または乳酸類とヒドロキシカルボン酸類を好ましくは有機溶媒、特にフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、特に好ましくは共沸により留出した溶媒から水を除き実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合することにより高分子量のポリマーが得られる。
また、ラクチド等の環状エステル中間体をオクチル酸錫等の触媒を用い開環重合することによっても高分子量のポリマーが得られることも知られている。このとき、有機溶媒を使用する場合は加熱還流時の水分および低分子化合物の除去の条件を調整する方法や、重合反応終了後に触媒を失活させ解重合反応を抑える方法、製造したポリマーを熱処理する方法などを用いることにより、ラクチド量の少ないポリマーを得ることができる。
以下に、本発明の無延伸のポリ乳酸系積層シートを得る場合、さらにはテンター式逐次二軸延伸を行う場合の好ましい製膜方法について説明する。
まず、ポリ乳酸からなる樹脂を5torrの減圧下、100〜150℃で3時間以上乾燥後、A層用の樹脂とB層用の樹脂を独立した別々の押出機に供給し、溶融粘度に応じて150〜300℃で溶融し、ダイ外またはダイ内で複合化し、例えばTダイ法によりリップ間隔2〜3mmのスリット状の口金から金属製冷却キャスティングドラム上に、直径0.5mmのワイヤー状電極を用いて静電印加して密着させ、無配向キャストシートを得る。
該金属製冷却キャスティングドラムの表面温度の好ましい範囲は0〜30℃であり、より好ましい範囲は3〜25℃であり、特に好ましい範囲は5〜20℃である。金属製冷却キャスティングドラムの表面温度をこの範囲に設定することで良好な透明性を発現させることができる。
延伸シートを得る場合は、こうして得られた無延伸キャストシートを加熱ロール上に搬送することによって縦延伸を行う温度まで昇温する。かかる昇温には赤外線ヒーターなど補助的な加熱手段を併用しても良い。延伸温度の好ましい範囲は80〜95℃であり、より好ましくは85〜90℃である。このようにして昇温した未配向の無延伸シートを加熱ロール間の周速差を用いてシート長手方向に1段もしくは2段以上の多段で延伸を行う。合計の延伸倍率は1.2〜3.5倍が好ましく、より好ましくは1.5〜3.0倍である。
このように一軸延伸したシートをいったん冷却した後、該シートの両端部をクリップで把持してテンターに導き、幅方向の延伸を行う。延伸温度は75〜90℃が好ましく、より好ましくは80〜85℃である。延伸倍率は1.2〜3.5倍が好ましく、より好ましくは1.5〜3.0倍である。
シートの幅方向の性能差を低減するためには、長手方向の延伸温度よりも1〜15℃低い温度で幅方向の延伸を行うことが好ましい。
さらに必要に応じて、再縦延伸および/または再横延伸を行ってもよい。
次に、この延伸シートを緊張下または幅方向に弛緩しながら熱固定する。主にシートに熱寸法安定性を付与する観点、また同時にシートに含有しているラクチドを飛散させラクチド量を低減させる観点から、好ましい熱処理温度は100〜160℃であり、より好ましくは120〜150℃である。熱処理時間は0.2〜30秒の範囲で行うのが好ましいが、特に限定されない。弛緩率は、幅方向の熱収縮率を低下させる観点から1〜8%であることが好ましく、より好ましくは2〜5%である。熱固定処理を行う前にいったんシートを冷却することがさらに好ましい。
さらに、シートを室温まで、必要ならば、長手および幅方向に弛緩処理を施しながら、シートを冷やして巻き取り、目的とするポリ乳酸系樹脂積層シートを得る。
次に、本発明の目的とする耐熱性、透明性、光沢性を併有する成形体を得る方法を説明する。
本発明では、前述したポリ乳酸系樹脂積層シートを成形時、又は成形後に結晶化させる事で、耐熱性、透明性、光沢性を併有する成形体を得ることができる。成形方法としては、真空成形、真空圧空成形、プラグアシスト成形、ストレート成形、フリードローイング成形、プラグアンドリング成形、スケルトン成形などの各種成形法を適用できる。但し、成形時、又は成形後において、成形体を何らかの方法(例えば、熱処理)で結晶化させる必要がある。ポリ乳酸系樹脂積層シートを成形時、又は成形後に結晶化させる具体例としては、例えば、成形時の金型内でそのまま結晶化させる方法(以下、金型内結晶化法という)、該シートの非晶性の成形体を熱処理する方法(以下、後結晶化法という)を挙げることができる。この金型内結晶化法及び後結晶化法では、成形体を結晶化する際の最適の温度条件は異なる。
金型内結晶化法の場合、金型の設定温度条件は、該シートの示差走査熱量分析における降温時の結晶化開始温度から、結晶化終了温度までの温度範囲が好ましく、結晶化ピークの頂点付近の温度がより好ましい。結晶化開始温度より高い温度では、結晶化速度が著しく小さくなり、生産性、操作性が悪くなったり、さらには結晶化しなくなり、目的とする成形体が得られない場合があり、逆に結晶化終了温度より低い温度では結晶化速度が著しく小さく、目的とする成形体が得られない場合がある。この方法では、金型内の保持時間は、該シートの種類によっても異なるが、金型内で、成形体が十分に結晶化するにたる時間以上であれば、特に制限はない。
一方、後結晶化法の場合、金型の設定温度条件は、該シートのガラス転移点(Tg)から融点(Tm)までの温度範囲、より好ましくは(Tg+5)℃から(Tm−20)℃、特に好ましくは(Tg+10)℃から(Tm−40)℃までの温度範囲がよい。設定温度がTmより高い場合は、短時間で結晶化させても透明性を損ねたり、形状が歪んだりする場合があり、さらに長時間加熱すると融解する場合がある。逆にTgより低い温度では、結晶化速度が著しく小さく、目的とする結晶性の成形体が得られない場合がある。この方法では成形体を熱処理する時間は、該シートの種類により異なるが、成形体が十分に結晶化するに足る時間以上であれば、特に制限されない。
本発明でいうポリ乳酸系樹脂積層シートを加熱成形して得られる成形体は、公知、公用の成形法で得られるカップ、トレー、ボトル等の各種容器、フィルム、シート、袋、チューブ、糸等を包含し、その形状、大きさ、厚み、意匠等に関して何ら制限はない。
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限を受けるものではない。
[測定及び評価方法]
実施例中に示す測定や評価は次に示すような条件で行った。
(1)表面比抵抗
常態(25℃、相対湿度65%)において24時間放置後、その雰囲気下でデジタル超高抵抗/微小電流計(アドバンテスト製R8340A)を用い、印可電圧100Vで測定を行った。単位はΩ/□である。
(2)成型性(離型性)
幅460mm、長さ630mm、厚さ0.5mmのポリ乳酸系樹脂積層シートの枚葉サンプルを、口径80mm、底径50mm、高さ40mmのカップ状金型を備えた一般的な真空圧空成形機により、シート温度が90℃となるように軟化させ、金型温度を110℃に設定した上記金型に1分間真空圧着させた。その後、金型から離型して得られたカップの形状により、以下の基準で評価した。
○:金型通りのカップ形状
△:一部変形(カップとして機能する)
×:大きく変形(カップとして機能しない)。
(3)成形体の耐熱性
(1)で成形したカップを用い、70℃の恒温漕に2時間入れたときのカップの変形を目視にて評価した。
○:変形無し
△:変形小
×:変形大。
(4)成形体の透明性
前記(1)で成形したカップの底面部分のヘイズ値をヘイズメーターHGM−2DP型(スガ試験機株式会社製)を用いて測定した。測定は1水準につき5回行い、5回の測定の平均値を用いて、以下の基準にて評価した。
○:ヘイズが5%未満
△:ヘイズが5%以上10%未満
×:ヘイズが10%以上。
(5)成形体の光沢性
前記(1)で成形したカップの底面部分の60度鏡面光沢度をJIS−Z8741に基づき測定し、5点の平均値を用いて、以下の基準にて評価した。
○:光沢度が100%以上
△:光沢度が60%以上100%未満
×:光沢度が60%未満。
(6)積層厚み比
透過型電子顕微鏡(日立製H−7100FA型)を用いて、加速電圧100kVでシート断面を超薄切片法(必要に応じてRuO4で染色)により倍率1万〜10万倍で観察し、その界面をとらえ、各層の積層厚さを求め、積層厚み比を割り出した。
(7)各層における結晶核剤含有の判定
(6)で作成、観察したシート断面の電子顕微鏡写真にて、各層の結晶核剤含有の有無の判定を行った。
[ポリ乳酸系樹脂P]
実施例で用いたポリ乳酸樹脂について示す。
P−1:
D体含有割合1mol%、PMMA換算の質量平均分子量18万のポリ乳酸樹脂
P−2:
D体含有割合5mol%、PMMA換算の質量平均分子量18万のポリ乳酸樹脂。
[結晶核剤Q]
実施例で用いた結晶核剤Qについて示す。
Q−1:
エチレンビスラウリン酸アミド
Q−2:
エチレンビスエルカ酸アミド
Q−3:
ステアリン酸ナトリウム。
[ポリエステル系樹脂R]
実施例で用いたポリエステル系樹脂Rについて示す。
R−1:
ポリブチレンサクシネート/アジペート(イレ化学製エンポール(登録商標)G4460、Tg≦60℃)
R−2:
ポリ乳酸とポリ(プロピレンセバケート)のブロック共重合体(大日本インキ製プラメート(登録商標)PD−150、Tg≦60℃)
R−3:
重量平均分子量12,000のポリエチレングリコール70重量部とL−ラクチド30重量部に対し、オクチル酸錫0.05重量部を混合し、撹拌装置付きの反応容器中で窒素雰囲気中150℃で2時間重合し、重量平均分子量2,500のポリ乳酸セグメントを有する、ポリエチレングリコールとポリ乳酸のブロック共重合体R−3を得た(Tg≦60℃)。
[離型剤の作成]
信越化学工業(株)社製シリコーンKM−787を純水で36倍に希釈して作成した。
[帯電防止剤の作成]
アクリル樹脂として、ガラス転移点が約40℃で、粒径が約50nmである、アクリル酸アルキルエステル及びメタクリル酸アルキルエステル(組成比50:50)から重合された共重合体(水性エマルジョン)、ポリエステル樹脂として、二次転移点が約80℃で、酸成分(テレフタル酸、5−ナトリウムイソフタル酸が90:10)とジオール成分(エチレングリコール、ジエチレングリコールが95:5)とから重合されたポリエステル共重合体、帯電防止剤として、ポリスチレンスルホン酸のアンモニウム塩(分子量1万)、粒径140nmのコロイダルシリカ、有機粒子として、粒径が約5μmの、メタクリル酸メチル及びエチレングリコールビスメタクリレート(組成比50:50)から重合された共重合体、界面活性剤として、脂肪族フッ素性界面活性剤、エチレングリコールモノターシャリブチルエーテル、水が10:60:30の割合で混合された混合物を用い、アクリル樹脂/帯電防止剤/ポリエステル樹脂/コロイダルシリカ/有機粒子/界面活性剤=50/25/25/0.3/0.5/0.03の比率で固形分濃度4.5%の水分散液を調製した。
[結晶核剤マスターペレットの作成]
P−1/Q−1:
ポリ乳酸(P−1)97重量部、エチレンビスラウリン酸アミド(Q−1)3重量部をベント式二軸押出機に供給し、200℃で混練してマスターペレットとした。
その他のマスターペレットも、ポリ乳酸系樹脂の種類、結晶核剤の種類を変えて同様に作成した。
[ポリ乳酸系樹脂積層シートの作成]
(実施例1)
層Aとしてポリ乳酸(P−1)とマスターペレット(P−1/Q−1)、ポリエステル系樹脂(R−1)を用いて、P−1:Q−1:R−1=98:1:1wt%となるように調整した混合原料、層Bとしてポリ乳酸(P−1)とポリエステル系樹脂(R−1)を用いてP−1:R−1=99:1wt%となるように調整した混合原料をそれぞれ独立した別々のベント式二軸押出機に供給し、口金温度200℃のTダイより共押出し、10℃に冷却したキャスティングドラム上にキャストして無延伸シートとした。このシートの両面に空気雰囲気中でコロナ放電処理を施し、キャスティングドラムと接触した側の面(D面)に離型剤を塗布し、D面の反対側の面(ND面)に帯電防止剤を塗布し、D面側の乾燥積層厚みが0.17μm、ND面側の乾燥積層厚みが0.17μmの被膜層が両面に形成された、層B:層A:層Bが0.5:9:0.5、厚さが0.5mmのシートを製造した。
(実施例2、3、5〜14、比較例1〜4)
各層を構成するポリ乳酸系樹脂P、結晶核剤Q、ポリエステル系樹脂R、層構成、厚み比、離型剤コーティング、帯電防止剤コーティングを表1〜3のように変えた以外は実施例1と同様に実施した。
上記表1〜3において、
D:キャスティングドラムに接触したシート面をコーティング
ND:キャスティングドラムに接触しなかったシート面をコーティング
である。
実施例のポリ乳酸系樹脂積層シートはいずれも成形性は良好であり、かつ、当該シートから得られる成形体の耐熱性、透明性、光沢性も良好であった。
一方、比較例においては、層Aに結晶核剤を全く含有しない、つまり、ポリ乳酸系樹脂単層の場合、成形体の透明性、光沢性は良好となるものの、成形時の微細結晶化が起こらないため、成形体の耐熱性が劣った(比較例1)。また、結晶核剤を実質的に含有しない層Bが無い、つまり、結晶核剤をするポリ乳酸系樹脂層A単層の場合、耐熱性は良好となるものの、成形時の加熱でのシート表面の結晶化の影響が大きく、透明性、光沢性が著しく悪化した(比較例2)。また、層Aの厚み割合が50%である場合、透明性、光沢性は良好となるものの、成形時の微細結晶化が起こる層割合が足らず、耐熱性に劣るシートとなった(比較例3)。