以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明を実現するための基本的な構成を説明する図である。ここで図1は、診断対象の回路基板のレイアウト例とこの回路基板を対象とした故障診断システムの概要を示す。
図1に示すように、故障診断システム1が診断対象とする電子回路システム内に設けられている回路基板(電子回路システムの一例)10には、図示しないプリント配線パターン(以下単にパターンという)が形成され、所定の対応位置に回路部材20が搭載されている。この回路部材20(図1(A)中の22、23、24・・・参照)としては、抵抗素子、誘導素子、あるいは容量素子などの受動部品であってもよいし、トランジスタやIC(Integrated Circuit)などの能動部品であってもよい。
故障診断システム1は、所定の回路部材20や配線パターンが形成されてなる回路基板10の動作を検査するためのものであり、回路基板10上の回路部材20もしくは配線などの故障診断の対象部位に対して非接触かつ固定的に配置された検知プローブとしての機能をなす信号検出手段としての信号変化検出部(センサ部)30(図1(A)中、32a、32b、32c・・、33参照)と、信号変化検出部30が検出した電気信号と、予め取得しておいた電子回路システムの正常時や異常時における信号変化に対応した電気信号とを比較することで、電子回路システム(具体的には回路基板10)が正常であるか否か(故障の有無)を診断する故障診断装置としての故障診断部90とを備えて構成されている。
故障診断部90は、回路基板10に電源が供給され回路部材20が動作することで信号変化検出部30と回路部材20や配線パターンとの間での電磁的結合もしくは静電的結合により信号変化検出部30に誘起される信号変化に対応した電気信号を検出する。また信号を周波数変換して周波数スペクトルを解析し、予め測定しておいた正常状態での周波数スペクトル強度分布と比較することで、回路部材20の故障の有無を診断する。また、予め測定しておいた回路部品や配線パターンが異常状態における周波数スペクトル強度分布と比較することで、何れの回路部材20の故障であるのかを診断する。
信号変化検出部30としては、診断箇所に対して非接触での検査を行なうべくリアクタンス成分を使用した構成の受動素子とする。すなわち、診断対象部位とリアクタンス成分との間での静電的結合または電磁的結合によりリアクタンス成分に誘起される信号ラインの信号変化に対応した電気信号(誘導起電力)を検出する構成のものとする。たとえば、回路部品や配線を流れる電流により発生する磁界と電磁的に結合することで誘導起電力を発生する誘導性リアクタンス成分(コイル)を使用する。また、信号配線との間での静電的な結合(静電カップリング)により誘起電圧(カップリング電圧)を発生する容量性リアクタンス成分(コンデンサ)を使用する。
この信号変化検出部30は、回路基板10の部品実装面と略平行に配置される支持基板4上に、支持基板4が回路基板10と略平行に配置された状態で支持基板4における診断対象部位と対向する位置に設ける。
図1(A)では、支持基板4上に、回路基板10上に配置されているコネクタ22の周辺を包囲するようにコイル32aが、また回路基板10の外周を包囲するようにコイル32bが配置されている。また、特定の部品(たとえば集積回路24)の周囲を包囲するようコイル32cが配置されている。また、特定のコネクタ23に接続される入出力配線群23aに直交するように容量成分として機能する構成(たとえばコンデンサ33a)が配置されている。説明を割愛するが、他の診断対象部位に対向するようにコイル32d,32eやコンデンサ33bが配置されている。以下、信号変化検出部30をなす各コイルを纏めてコイル32といい、各コンデンサを纏めてコンデンサ33という。
支持基板4は、適用する回路基板10と縦横略同サイズであり、回路基板10と支持基板4とを略平行に重ねたときに、支持基板4上に形成されているコイル32やコンデンサ33が、ちょうど所望の箇所へ宛われるような位置にくるように配置する。また、回路基板10と支持基板4とが、電気的には非接触でかつ近接して(極めて密接するように)配置する。このようにして、配置された各部からの電気的な信号は信号取出部7へと接続され、そこから電子回路システム(たとえば複写装置など)の外部へ配置されている故障診断部90に取り出すようにする。なお、故障診断部90を支持基板4上に設けることで、複写装置などの起動時などに装置自身が基板の診断を行なう自己診断システムを構築するようにしてもよい。
なお、信号変化検出部30をなすコイル32としては、支持基板4上にて、故障診断の対象部位(診断対象部位)に応じた所定の範囲を包囲するように1ターンコイルや複数巻きの平面コイルを形成することで、回路基板10に電源が供給され回路部材20が動作することにより発生する、この回路基板10に垂直方向(図の奥行き方向)の磁界によりコイル32に誘起される誘導起電力を検出する磁界センシング部として機能するようにする。診断対象部位の外周に沿ってコイル巻線(コイルをなす配線)を配置することで特定の配線や端子を意識することなく、対象部分の故障を診断することができる。
ここで、「故障診断の対象部位に応じた所定の範囲」としての具体的な態様としては、たとえば、故障診断の対象部位を搭載した回路基板の外周、故障診断の対象部位そのものの外周、対象部位の端子の外周などが考えられる。また、回路の機能ブロック単位で故障診断の対象とする場合、その機能ブロックを構成する回路部材20のより多くのもの(好ましくは全部)が含まれるように包囲する。また、複数の基板を有してなる装置に適用する場合には、複数の回路基板間の信号インタフェースを取るための入出力コネクタの外周や複数の回路基板を一体的としたその外周などを包囲するようにしてもよい。
センシング用プローブとしてのコイル位置を固定しても、コイル巻線が取り囲む範囲を設定することで検出範囲を設定できる。逆に言えば、故障診断の希望範囲に応じて、コイル巻線が取り囲む範囲を設定することができ、検出範囲を広くすることも自由であり、使い勝手がよくなる。従来のセンシング用プローブでは、プローブ位置を固定すると、固定されたプローブ位置近傍の範囲しか検出できず、検出範囲が非常に狭くなってしまったのと大きく異なる。なお、コイルをなす配線が支持基板4上において固定的に配置されるようにする。固定的に配置するには、支持基板4上にプリント形成するのがよい。あるいは、テーピング部材や接着部材などを利用して固定してもよい。
また、信号変化検出部30をなすコンデンサ33としては、平板状の金属部材を診断対象部位の配線パターンに対して非接触でかつ交差するように配置することで、電界センシング部として機能するようにする。配線パターンを2枚の金属板で挟む構成でもよいし、1枚の金属板を配線パターン上に設ける構成でもよい。何れの場合も、金属部材がパターン上において固定的に配置されるようにする。固定的に配置するには、支持基板4上にプリント形成するのがよい。あるいは、テーピング部材や接着部材などを利用して固定してもよい。
コイル32やコンデンサ33を支持基板4上にプリント形成する場合、支持基板4としては、たとえば、平面状の絶縁性の板であるフレキシブル(可撓性)基板(Flexible Printed Circuit board;FPC基板)を用いるのがよい。ある程度柔軟性があるので、電気的には非接触となりかつ近接して配置する上で都合がよいからである。
また、プリント形成されたコイル32やコンデンサ33からなる信号変化検出部30が複数ある場合には、各コイル32やコンデンサ33の片方の端子を支持基板4の端部で共通接続してもよい。また、共通で接続された端子を支持基板4の外部で接地するようにしてもよい。さらに、各コイル32やコンデンサ33の配線は、近接させた状態で略平行にして支持基板4を引き回すようにする。このような配線によってコイル32やコンデンサ33による信号変化を精度良く捉えることが可能となる。
すなわち、プリント配線パターンにより信号変化検出部30をなすコイル32やコンデンサ33を形成すれば、特段の固定部材を用いることなく、センシング部として機能する信号変化検出部30と回路基板10上の診断対象部位との物理的な位置関係を固定することができる。そしてこれにより、期待値取得時(正常時)や故障診断中の誘導起電力の状態を確実に安定化させることができる。つまり、故障診断の判断指標となる誘導起電力を精度よく取得することができ、診断性能も向上する。回路基板10を作り込むときに、信号変化検出部30をなすコイル32やコンデンサ33を診断対象部位に(複数の場合にはそれぞれに)応じて、支持基板4上の対応する位置にパターンニングしておけばよい。
また支持基板4における、回路基板10上の回路部材20部品もしくは配線パターンと対応する位置に信号変化検出部30を配置する手法を採れば、この信号変化検出部30が配置された支持基板4を回路基板10と略平行に配置することで回路部材20もしくは配線パターンに対応して信号変化検出部30の位置が合わされ、回路基板10に実装される回路部材20や配線パターンの検査を容易かつ的確に行なうことができるようになる。また、回路基板10に予め信号変化検出部30を組み込む必要がなく、支持基板4に信号変化検出部30を配置するため、検査対象となる回路基板10の部品レイアウトに合わせて後から信号変化検出部30が配置された支持基板4を提供することができ、既存の回路基板10への対応も可能となる。
また、プリント配線パターンによりコイル32やコンデンサ33を固定配置しているので、当然に、診断箇所にプローブを近づけて観察したり、プローブを対象部位に近づけたりするためのメカニカルな手段を必要としない。これにより、任意の複数の範囲の回路動作を監視する場合でも、電子回路に複雑な故障診断回路を付加することなく、低コストでセンシング部をシステムに組み込み可能で、しかも高精度に回路動作を監視することのできる故障診断システムを提供することができるようになる。
信号変化検出部30を形成する際に、電磁的結合を利用するのかそれとも静電的結合(容量結合)を利用するのかは、信号ラインの電流や電圧の変動の周波数成分との関係で、次のような観点で決めるとよい。静電的結合を利用する形態では、周波数が高くなるほどインピーダンスが低くなり検知感度が低下する傾向にあると考えられる。一方、電磁的結合を利用する形態では、周波数が低くなるほどインピーダンスが低くなり検知感度が低下する傾向にあると考えられる。したがって、精度のよい検知を行なうには、信号ラインの電圧変動の周波数成分が主に低周波の場合には静電的結合、主に高周波の場合には電磁的結合とすればよい。
ただし、静電的結合を利用する形態では、感度調整の自由度が電磁的結合に比べて少ない。たとえば、感度を高めるには電極面積を大きくするか診断対象部位との間の距離を小さくしなければならない。電極面積を大きくする手法では隣接する部位との間に余裕がなければ実現できない。また、診断対象部位との間の距離を小さくする手法では、支持基板4と回路基板10との間の距離を調整するしかなく、実際には限度がある。これに対して、電磁的結合を利用する形態では、巻線数を大変えることで感度を調整することができ、この手法はパターン形成でもある程度自由度がある。よって、トータルで考えた場合、診断対象部位の動作周波数に拘わらず、静電的結合を利用する形態の信号変化検出部30としてもよい。実際には、必ずしもこのように言い切れるものではなく、カットアンドトライ(試行錯誤)で決めるのがよい。
なお、支持基板4における信号変化検出部30を配置しない部分で、支持基板4を回路基板10に近接させる際に干渉してしまう部品がある場合、その部品と対応する支持基板4の位置に孔(図示せず)を設けておき、部品と支持基板4とが接触しないようにすることもできる。
図1(B)は、支持基板4の一例を拡大して示すもので、ここでは、4巻きコイル32が2個と、図示したサイズの2個のコンデンサ33とがプリントパターンにて形成されている。支持基板4は、図中上部に断面図を示すように、厚さ方向dに対して、中央部に絶縁層4aを設け、その両面にコイル32やコンデンサ33をなすパターン4bが形成される信号層を設ける構成とする。また、外部との電気的接触を避けるように、絶縁樹脂などで信号層をコーティングしたラミネート層4cを設ける。ラミネート層4cは支持基板4の両面に設けるのが好ましいが、片面だけでもかまわない。ただし、本例では回路基板10側には少なくとも設けるのが好ましい。
コイル32は両信号層に渦状に配線して作製する。図示した例では、2巻きずつ同じ方向に回転するようにして形成し、両層の間をスルーホール34で接続する。したがって、図1(B)では、2巻きコイル配線が形成されている層の反対側の層に形成されている2巻きコイル(図の一点斜線)へ実線で示されている2巻きコイルからスルーホール34を介して接続される。
そして、コイルが2回転したところで再びスルーホール34を介して表層へと導かれる。コイル32の両端に接続された配線36は、2本対になるようにして並行して信号取出部7近傍まで配線され、片方の配線が再びスルーホール34を介して別の層へ移り、そこで他の信号線対の片方の配線と接続され、それが信号取出部7を介して故障診断部90へと導かれるようにする。もう片方の配線はそれぞれが独立して信号取出部7から故障診断部90へと導かれるようにする。
コンデンサ33も同様に、支持基板4の表裏に形成された電極対に各々配線37が接続され、一方の配線がスルーホール34を介して反対の層へ導かれている。そして、この配線37が2本対になるようにして並行して信号取出部7近傍まで配線され、片方の配線が再びスルーホール34を介して別の層へ移り、そこで他の信号線対の片方の配線と接続され、それが信号取出部7を介して故障診断部90へと導かれるようにする。
図2は、支持基板4の信号取出部7を介して取り出された信号を解析し、回路基板10に異常が発生しているかどうか等を診断する故障診断部90の一構成例を示すブロック図である。
図2に示すように、故障診断部90は、検査対象部位としての複数の配線パターンや回路部材20に対応するように、アナログマルチプレクサ40を備えている。また故障診断部90は、アナログマルチプレクサ40にて選択されたコイル32やコンデンサ33と接続され、それらに誘起される誘導起電力を検出するとともに所定レベルに増幅する差動増幅器で構成されたバッファ41と、バッファ41から出力されたアナログ信号を整形する整形回路42と、整形されたアナログ信号をデジタルデータに変換するA/D(Analog to Digital )変換部43とを備えている。
また、故障診断部90は、A/D変換部43にてデジタル化されたデータに基づいて、取得された動作信号波形(誘導起電力波形)をデジタル的にフーリエ変換(周波数変換)する周波数変換部44と、変換された周波数成分から後述する異音指数を算出する異音指数算出部45と、周波数変換された周波数成分を統計処理(特徴量を求める)する統計処理部と、異音指数算出部45からの結果と統計処理部46からの結果を入力して異音故障の発生の判定と故障箇所の判定とを行う異音故障判定部47とを備えるとともに、周波数変換部44で変換された信号成分に含まれる周波数成分を解析する周波数解析部48と、回路基板10の正常時にコイル32やコンデンサ33に誘起された誘導起電力を周波数解析部48にて周波数解析した結果を期待値として記憶する半導体メモリなどの記憶部49と、記憶部に記憶された期待値と実働状態の誘導起電力信号を周波数解析部にて周波数解析した結果とを比較して電気的故障の有無を判定する比較判定部と、故障診断システム1の全体を制御する制御部51とを備えている。制御部51は、たとえば、アナログマルチプレクサ41の切換えやA/D変換部43のサンプリング周波数ADCKを制御する。
前述のように、個々のコイル32やコンデンサ33の一方の配線は共通に接続されて故障診断部90に導かれ、故障診断部90のグランドに接続される。そして、他方の配線が信号線として、個々に、アナログマルチプレクサ40の対応する入力端子に接続されている。アナログマルチプレクサ40の選択動作は、制御部51からの制御信号MPXにより制御されるようになっている。
整形回路42内には、図2(B)に示すように、信号変化検出手段としてのコイル32により検知された誘導起電力信号を積分する積分回路52と、周波数成分を調整するフィルタ回路53とが設けられている。上記誘導起電力信号は回路を流れる電流の微分波形なので、積分回路52は、これを元の電流波形に戻すために設けられるものである。すなわち、コイルの誘導起電力は、回路を流れる電流の変化(微分)に比例する。したがって、誘導起電力を積分回路52によって積分して、元の電流波形に変換した後にA/D変換部43でA/D変換し、周波数変換部44にて周波数変換を行なう。
フィルタ回路53は、信号解析に際して不要な成分を取り除くために使用されるもので、ローパス特性、ハイパス特性、あるいはバンドパス特性やバンドエリミネーション特性のそれぞれ単独もしくはそれらの任意の組合せのものが使用される。必要に応じてスルー特性が選択可能としてもよい。たとえば、A/D変換時の折返し歪み成分の問題を防止するため、A/D変換部43におけるサンプリング周波数の1/2以上の成分を除去する特性を呈するようにするとよい。
後述するように、本実施の形態の構成では、信号変化検出部30をなすコイル32は、回路基板10上の各機能ブロックの動作周波数に応じて設けられ、診断対象のコイル32に応じてアナログマルチプレクサ40とA/D変換部43のサンプリング周波数が切り替えられる。よって、フィルタ回路53は、A/D変換部43におけるサンプリング周波数に連動してそのカットオフ特性が切り替えられる構成とするとよい。
周波数変換部44は、単なる波形比較による故障診断を行なうのではなく、読み取った波形をフーリエ変換すること(図示せず)などにより、ピークが発生する周波数値を確認することと、異音指数と統計値を算出して異音のパターンを判定して、回路基板10に異常が発生しているかどうかを解析するために設けられている。
波形解析による故障診断では、正常時の波形パターンと実働時の波形パターンとを比較するため信号取得時に同期を取る、つまり回路動作のタイミングにおける同一時点の動作波形を取得する必要がある。しかしながら、この同期を取る作業は、検証対象部位にもよるが、実際には難しい。これに対して、周波数解析による故障診断では、このような同期処理が不要であり、波形取得の作業が非常に楽になる。
たとえば、異音指数算出部45は、回路基板10内の回路部材20の動作信号波形の周波数スペクトラム(周波数)を特徴量として抽出する。たとえば、人間の可聴周波数範囲(20Hz〜20kHz)などの範囲で周波数スペクトラムを抽出し、補正部55にて周波数ごとの補正を行ったのちに積分部56で積分して異音指数として算出するとともに、統計処理部46で周波数スペクトラムの特徴量を表す統計量を算出して異音故障判定部47で、発生した異音の故障原因となる回路部材を特定する判定を行う。
また、たとえば、周波数解析部48は、回路基板10内の回路部材20の動作信号波形の周波数スペクトラム(周波数)を特徴量として抽出する。たとえば、周波数解析部48は、信号変化検出部30を介して得た動作信号波形に含まれる基本周波数成分や、その高調波成分とを抽出する。なお、周波数解析部48が抽出する周波数は1つでもよい。また複数であってもよい。コイル32などからの誘導起電力信号に含まれる特定の周波数成分は回路によって様々であるが、機能ブロックごとに特徴的な周波数成分を持っているので、これを利用して機能ブロック単位で故障箇所を特定する。
また、特徴的な周波数成分は回路によっては幅広い周波数レンジを持つので、制御部51によってA/D変換のサンプリング周波数を切り換え、たとえば低周波領域と高周波領域と分けてサンプリングする。
たとえば、回路の機能ブロックに分けて配置した複数の平面コイル(図示せず)32やコンデンサ33からの信号がアナログマルチプレクサ40に入力され、増幅機能を持つバッファ41により所定レベルに増幅された後に積分回路52に入力され、A/D変換部43によってデジタルデータに変換される。制御部51は、正常動作時に、コイル32の誘導起電力信号を取り込み、周波数変換部44により周波数変換させて、周波数解析部48を通して正常時の周波数データを記憶部49に保存させておく。なお、1回の測定で得られた誘導起電力信号の周波数データをもとに特徴抽出を行なって期待値としてもよいし、複数回検知した平均的なデータを期待値してもよい。
故障診断時には、比較判定部50は、実際に回路を動作させて、コイル32の誘導起電力信号を常時取り込みながら、制御部51の指示に従い、記憶部49に記憶しておいた正常時の周波数データと常時取り込んでいる誘導起電力信号についての周波数変換された診断サンプルのデータ(実働データ)とを常に比較し、データに差が生じた時に、回路基板10の配線や搭載部品に電気的故障が生じていると判定する。つまり、抽出された差異が正常状態と比較して同等の範囲にあるかどうかを診断することで、コイル32やコンデンサ33が対象とした機能ブロックが正常に動作しているかどうかを診断する。また、読み取った周波数スペクトルの状態を詳細に解析することで、さらに故障内容を詳しく同定することもできる。
そして、故障を検知した際には、図示しない警報部で警報(アラーム)を発するか故障内容を通知するようにする。警報部は、故障診断部90を有する装置の内部に設けてもよいし、故障診断部90が診断対象装置から遠くに離れた場所にある場合などは、電話回線やインターネットを介して装置の状態を集中管理する場所に設置して、そこで警報を発するようにしてもよい。
<スイッチング電源回路を対象とした事例>
次に、故障診断対象の回路としてのスイッチング電源回路(スイッチングレギュレータ)について説明する。図3は、スイッチング電源回路の基本的な構成を示す機能ブロック図である。このスイッチング電源回路200は、1次巻線210aと2次巻線210bとを有するスイッチングトランス210により、図中左側の1次系統(入力系統)200aと、図中右側の2次系統(出力系統)200bと、スイッチングトランス210をドライブ制御するための制御系統200cとに分けられる。
1次系統200aは、たとえば50Hzや60Hzで100〜120Vの交流入力(Alternating Current) に対して設けられるノイズフィルタ202と、スイッチング動作時の突入電流を制限する突入電流制限回路204と、図示しない整流素子(ダイオードなど)と平滑コンデンサなどを含み交流入力を整流し平滑化して所定電圧の直流電圧を得る入力整流平滑回路206と、スイッチングトランス210の1次巻線210aをスイッチング駆動するスイッチング回路208とを備える。
2次系統200aは、スイッチングトランス(変圧器)210の2次巻線210bの出力を整流し平滑化して、所定電圧の直流電圧を得る第1および第2の出力整流平滑回路222,224と、第2の出力整流平滑回路222を制御する制御回路226とを備える。第1の出力整流平滑回路222は、図示しない整流素子(ダイオードなど)と平滑コンデンサなどを含み、たとえば直流24Vを出力電圧として得る。また、第2の出力整流平滑回路224は、図示しないスイッチング素子や整流素子(ダイオードなど)や平滑コンデンサなどを含み、スイッチング動作により、たとえば直流5Vを出力電圧として得る。制御回路226による出力整流平滑回路224の駆動中心周波数は、数10kHz〜数100kHzとする。たとえば50kHzにする。
制御系統200cは、出力整流平滑回路222の出力電圧を監視する帰還回路232と、帰還回路232により得られる出力電圧に対応した電圧が一定値を維持するようにスイッチング回路208を介してスイッチングトランス210を駆動する制御回路234と、回路動作時に過剰電流がスイッチング回路208やスイッチングトランス210に流れないように保護する過電流保護回路236とを備える。
スイッチング回路208の方式としては様々なものがある。制御回路234によるスイッチング回路208の駆動中心周波数は、数10kHz〜数100kHzとする。たとえば120kHzにする。
過電流保護回路236は、動作電流を反映した監視電圧を制御回路234に伝える。制御回路234は、監視電圧が所定範囲外となったとき、スイッチング回路208の動作を停止させ、回路が破壊するのを防止する。なお、制御系統200cは、過電流保護機能に限らず、帰還回路232により得られる出力電圧に対応した電圧が所定範囲外となったとき、スイッチング回路208の動作を停止させることで、回路が破壊するのを防止する過電圧保護機能も備える。
図4は、図3に示したスイッチング電源回路200の部品レイアウト例と、このスイッチング電源回路200に故障診断用の支持基板4を配置する形態を示す図である。ここで、図4(A)は回路基板10上に配されたスイッチング電源回路200と支持基板4の側面図であり、図4(B)は支持基板4上に設けられる検知プローブとしてのコイル32の配置概要を示す平面図である。プリントコイル30としてコイル32のみを使用した例で示しているが、コンデンサ33を使用することも可能であるのは言うまでもない。
検知プローブとしてのコイル32は、図1にて示したように、支持基板4としてのFPC基板に渦状に配線して作製する。たとえば、図3で示したブロック図の各機能ブロック単位で、その機能ブロックを構成する部品が配置されている領域を囲むように巻線をプリント配線パターンにて配置することでコイル32を形成する。部品の配置制限やプリント配線の制約で機能ブロック単位で明確に回路を区切ることはできないのが、機能ブロック単位で概略包囲されていればよい。
この(平面)コイル32をスイッチング電源回路200の回路基板10に対し図3のように配置する。コイルとプリント基板との間隔はできるだけ近接させる。このようにするだけで、故障診断対象の回路に何ら回路を付加することなく、回路機能ブロック単位の電流波形を検出することができる。
たとえば、フォワードコンバータ方式のスイッチング電源回路200が構成される回路基板10にて、図3に示したように、11個の機能ブロックに分割(ノイズフィルタ202、突入電流制限回路204、入力整流平滑回路206、スイッチング回路208、スイッチングトランス210、など)する。回路は、たいてい回路図に沿って部品配置されていくので、概略で機能ブロックを囲むことは可能である。機能ブロックに対応する位置にコイル32を作製した図4(B)に示すFPC基板を、図4(A)に示すように、スイッチング電源回路200の回路基板10に並行に近接させて設置する。
<異音検出および故障診断の基本原理>
次に本実施の形態により、異音を検出し異音指数を算出する方法について説明する。図3で示したスイッチング電源回路を例にとる。たとえば、入力整流平滑回路206、出力整流平滑回路222あるいは出力整流平滑回路224の整流コンデンサ(図示せず)の部品不良や経時変化による性能劣化によって、平滑性能が低下すると、帰還回路232を通して、フィードバックが不安定になり、時には間欠発振を起こし、内部電流が変動し、トランスやチョークコイルなどの部品を振動させる。その変動周波数はさまざまだが、人間の可聴周波数範囲、特に7000Hz〜15000Hz程度で起こると、トランスやチョークコイルなどの部品の振動が、異音となって人間の耳に聞こえるようになる。したがって、トランスやチョークコイル近傍の回路内部の電流変動を検出部としてのコイルで検出して周波数変換することで、発生している異音に対応した周波数特性を検出することができる。しかも、マイクロフォンのように音を検出するのではなく、電気信号を検出するので、検査環境の騒音に全く影響せずに異音のみの周波数特性を検出することができる。図5(A)に検出した異音の一例を示す。この例では13000Hz近傍にピークが生じており、高音の異音が観測されている。参考までにマイクロフォンで測定した異音の周波数特性を図5(B)に示す。全く同じ特性が得られており、本発明で異音を検出することが可能なことが示される。
次に、異音の検査などで判定するための基準として、本発明で得られる異音指数について説明する。人間の聴力は周波数によって感度に差があり、また可聴範囲での積分値として音の大きさを感じている。そのため、本発明で得られる異音の周波数特性を補正して積分した指数が異音の大きさを客観的に表すことになる。これを異音指数とする。そこで、異音指数算出部45の補正部55では周波数ごとの感度の差を補正する。具体的には、一例として等ラウドネス曲線を補正するための曲線として知られているA特性(図6参照)を周波数ごとに乗じる。他にもいろいろな補正曲線があり、適宜選択すればよい。次に積分部56では特に異音が発生する周波数範囲(6000Hz〜17000Hzなど)で補正した周波数特性を積分する。すなわち、式1で示した演算を行うことで異音指数を算出する。
周波数範囲は、異音が発生する周波数やスイッチング電源回路で発生するACの高調波の発生度合いに応じて精度よく検出できる範囲を適宜選択すればよい。
図7は、故障の状態に応じて発生する異音の周波数パターンを示す図である。図7(A)のように急峻なピークの単一の音の場合もあれば、図7(B)のように明確なピークを持たないブロードな周波数スペクトルの場合もある。図8(A)に異音の故障診断を行う際に算出した異音指数および統計量の例を示す。ケース1は急峻なピークを持つ周波数スペクトラムの場合で、ケース2はブロードな周波数スペクトラムの場合である。どちらも人間の耳には不快な異音として聞こえる。算出する統計量は、たとえば、ピーク周波数とその強度のリストおよび算出する周波数範囲での分散や標準偏差などを計算する。ピークが急峻な場合分散または標準偏差の値は小さく、ブロードな場合は大きな値となるので、この統計量は周波数スペクトラムの形状を反映する特徴量である。
図8(B)は、異音の故障診断を行う診断テーブルである。診断No.1は急峻なピークを持つ異音を判定する判定基準であり、診断No.2はブロードな異音を判定する判定基準である。故障箇所の特定は、予め周波数スペクトラムの形状と故障箇所との関係を実験などで関連付けてもよいし、回路シミュレーションなどで算出してもよい。異音パターンと故障箇所とを対応づけたテーブルを異音故障判定部に保持しておき、逐次参照しながら、異音故障の判定を行う。
<周波数解析の基本原理>
図9は、コイル32の誘導起電力信号を周波数解析して故障診断する手法を説明する概念図である。ここでは、図4に示したスイッチング電源回路200を対象とした診断事例で説明する。図9(A)〜(D)に示すものは、スイッチング電源回路200に対するコイル信号の周波数データ(周波数スペクトル)を示している。
A/D変換部は、低周波領域と高周波領域の2つの帯域でサンプリングできるようにする。低周波領域は商用周波数(50Hz)を中心に周波数スペクトルがとれるようにする。高周波領域はスイッチング周波数(たとえば100kHz)を中心にとれるようにする。すなわち、スイッチング電源回路200では、たとえば交流入力が50Hzでスイッチング周波数が数10Hz〜数100kHzと周波数レンジが広いため、A/D変換部94では低周波領域と高周波領域の2領域でサンプリングを行ない、周波数解析部にて周波数変換する。
低周波領域では交流入力の基本周波数である50Hzをはじめ、100Hz、200Hzなどの高調波成分を含む。同様に、高周波領域では、2系統のスイッチング周波数の基本周波数である50kHz,120kHzをはじめその高調波成分を含む。図9(A)は、スイッチング電源回路200が正常状態にある場合の周波数スペクトル例を示している。
ここで、たとえば、ノイズフィルタ202部分(AC入力部)に故障が起こると、回路全体が動作しないため、図9(B)に示すように、低周波側の50Hzなどはもとより、高周波領域についても50kHzなどが検出されない。よって、正常時と比較してこのような比較結果となった場合、AC入力部の故障と診断することができる。
また、第1の出力系統(出力整流平滑回路222)の制御回路234が故障した場合は、図9(C)に示すように、スイッチングトランス210の1次側までは交流入力に起因した電流が流れるため低周波領域で50Hzなどが検出されるが、高周波領域では第1の出力系統のスイッチング周波数である120kHzなどが検出されない。さらに第2の出力系統(出力整流平滑回路224)は第1の出力系統から発生させているので第2の出力系統のスイッチング周波数である50kHzも検出されない。よって、正常時と比較してこのような比較結果となった場合は、第1の出力系統の制御回路234の故障と診断することができる。
また、第2の出力系統(出力整流平滑回路224)の制御回路236のみが故障した場合は、図9(D)に示すように、そのスイッチング周波数である50kHzのみが検出されず、その他は正常時と同様の検出となる。よって、正常時と比較してこのような比較結果となった場合は、第2の出力系統の制御回路226の故障と診断することができる。
このようにして、回路機能ブロックの動作に対応させた周波数成分の変動を正常時と比較することで、故障の機能ブロックを特定することができる。また、完全な故障でないケース(不良状態)では、各周波数成分のスペクトルはあるが、その強度が正常時と異なるケースも起こり得る。このような場合は、その強度パターンを解析することで、不良状態の機能ブロックを特定することも可能である。つまり、正常状態と異常状態ではスペクトル強度分布が異なるので、その違いを解析すれば、異常の有無や異常の状態を判定することができる。
スイッチング電源回路200は、機能ブロックによってその動作の基本周波数が比較的明確に分かれているので、周波数解析により故障の有無を判定する上では都合のよいものである。ただし、本実施の形態のような周波数解析により故障診断する手法の適用範囲は、必ずしもスイッチング電源回路に限定されない。
なお、基本周波数だけでなくその高調波の状態を参照することで、よりきめ細かに比較することができるので、異常状態の判定に有利である。たとえば、50Hzの整数倍の周波数スペクトルに着目し、AC入力〜入力整流平滑回路206〜スイッチングトランス210付近に配置したコイルからこの周波数スペクトルが観測されない場合、AC入力直後の故障と診断される。同様に、制御回路234近傍のコイルからスイッチング周波数のスペクトルが観測されない場合、その制御回路234の故障と診断される。複数コイルの信号と、低周波/高周波、スペクトルの組合せ、負荷のあり/なし、などを組み合わせることで、より精度の高い故障診断が可能となる。
<スイッチング電源回路を対象とした周波数解析の実施の形態>
次に、スイッチング電源回路を対象とした周波数解析の実施の形態を示す。図10は、本実施の形態にて対象としたスイッチング電源回路200の概略回路図である。図3に示した機能ブロックと同等の機能部分には同一の参照符号を付す。
制御回路234としては、図10(B)に示すように、三菱電機社製の制御用集積回路(型番M51195P)を使用した。その周辺部材は、この集積回路の標準アプリケーションと同等のものである。なお、図3に示したスイッチング電源回路200とは異なり、出力系統は1つしか備えていない。その他の回路についての詳細については説明を割愛する。
各機能ブロックには、故障診断用のコイル32を、機能ブロックごとにその周囲を包囲するように設けた。ここでは、ノイズフィルタ202に対して第1番目のコイル31、突入電流制限回路204に対してコイル2、入力整流平滑回路206に対してコイル3、過電流保護回路236に対してコイル4、スイッチング回路208に対してコイル5を設けた。また、制御回路234に対してコイル6、スイッチングトランス210に対してコイル7、出力整流平滑回路222に対してコイル8、帰還回路232に対してコイル9を設けた。
図11は、図10に示したスイッチング電源回路200のノイズフィルタ202に設けたコイル1の誘導起電力信号を積分した後に周波数解析した結果を示す周波数スペクトルを示している。ノイズフィルタ202は、交流入力系統の部材であり、回路が正常時には図11(A)に○印で示すように、50Hzや100Hz部分に比較的高強度のFFTパワーを呈している。また、50Hzの3次以上の高調波成分も多数見受けられる。これに対して、回路が故障した状態を示しているのが図11(B)である。図11(A)及び図11(B)から分かるように、50Hzや100Hzはもとより、50Hzの3次以上の高調波成分も、殆どFFTパワーがなくなっている。
図12は、図10に示したスイッチング電源回路200の制御回路234に設けたコイル6の誘導起電力信号を積分した後に周波数解析した結果を示す周波数スペクトルを示している。回路が正常時には図12(A)に○印で示すように、120kHz部分に比較的高強度のFFTパワーを呈している。これに対して、図11(B)と同一の故障が生じている状態を示しているのが図12(B)である。図12(A)及び図12(B)から分かるように、120kHz部分では殆どFFTパワーがなくなっている。
図11と図12の診断結果から、この故障時には、低周波側の50Hzなどはもとより、高周波領域についてもスイッチング周波数が検出されていないので、ノイズフィルタ202の故障と診断することができる。
以上説明したように、上記実施の形態のように、信号変化検出部30にて得られた回路の動作信号を周波数解析する(信号を周波数変換し周波数スペクトルを解析する)ことで、回路部材20の故障の有無を診断することが可能となる。信号変化検出部30として設けたリアクタンス成分の一例である容量成分やインダクタンス成分をテーピング部材や接着部材あるいはプリント配線パターンなどを利用して固定的に設けるという簡単かつ低コストな構成で、センシング部として機能するリアクタンス成分と回路基板やケーブルの物理的な位置関係を固定することができる。そしてこれにより、故障診断中の検知信号の状態を確実に安定化させることができる。つまり、故障診断の判断指標となるリアクタンス成分に誘起される信号を精度よく取得することができ、診断性能も向上する。
加えて、誘導起電力波形そのものの正常時と実働時の比較ではなく、波形を周波数解析するようにしたので、たとえば低周波と高周波に分けて診断する、スペクトル強度の組合せを細かに診断する、負荷のあり/なしでの動作を検証するなどを組み合わせて診断することなども可能となり、より精度の高い故障診断が可能となった。波形診断に対して周波数解析部分の回路要素が増えるものの、それ以外は、波形診断の回路構成を流用することができる。よって、複雑な故障診断回路を付加することなく、低コストでシステムに組み込み可能でしかも高精度に回路動作をモニタできる故障診断システムを提供することができる。
また、診断時には、リアクタンス成分を診断対象部位に対して固定的に配置しているので、診断箇所にプローブを近づけて観察したり、プローブを対象部位に近づけたりするためのメカニカルな手段を必要としない。コイル巻線や平板電極などで構成された簡易な構造のリアクタンス成分を診断対象部位に応じて、それぞれの場所に設けても、コストアップはさほど生じない。
これらのことにより、コスト面と故障診断の対象部位の設定の自由度という点で、利用者にとって、使い勝手のよい故障診断の仕組みを提供することができるようになった。
<コイルの他の構成例>
図13は、検知プローブをなすコイル32の他の構成例を示す図である。上記実施の形態で示したコイル32の巻線は、回路基板10の回路部材20や配線パターンから発生する回路基板10に対して垂直方向の磁界を検知するべく、検知対象部位を包囲するように、支持基板4上にて平面的にパターンを形成して平面コイルを形成していた。これに対して、この変形例は、回路基板10の回路部材20や配線パターンから回路基板10に対して並行に発生する磁界を検知するべく、たとえば配線パターン80に隣接するようにスパイラルコイル(スパイラルコイル状をしたインダクタ)70を配置している。
配線パターン80a,80bは、主にマイクロストリップ線路であるが、配線を流れる電流によって、図13(A)に示す磁界が発生する。磁路長LENが配線パターンの幅PWと略同一幅のスパイラルコイル70を図13(A)に示すように、検査対象の配線パターン80a上に非接触で近接して、その配線パターン80aを流れる電流方向に対して垂直に配置する。
こうすると、検査対象の配線パターン80aに隣接する他方の配線パターン26bよる磁界は距離が離れている分微弱な磁界しかコイル径Wのスパイラルコイル70中を通過せず、検査対象とする一方の配線パターン80aの電流による磁界のみが効率よくスパイラルコイル70を通過するようになる。そして、このスパイラルコイル70の誘導起電力によって検査対象の配線パターン80aのみの電流変化を監視することができるようになる。これにより、機能ブロック単位ではなく、配線パターン単位で故障を診断可能となる。
たとえば、配線パターン80を流れる電流によって生じる、スパイラルコイル70を通過する磁束をΦとすると、スパイラルコイル70の両端に誘起される誘導起電圧Vは、式(2)により求められる。
なお、磁界センシング部としてのスパイラルコイル70に発生する誘導起電力を読み取るものであればよく、式(2)で示したように、スパイラルコイル70の開放端に生じる誘起起電圧を読み取る態様に限らず、スパイラルコイル70に流れる電流を読み取る態様としてもよい。
隣接配線の影響を軽減するには、検査対象の配線パターン80aに隣接する配線パターン80bからの磁界ができるだけスパイラルコイル70を通過しないようにすることが好ましい。このためには、スパイラルコイル70の磁路長が回路基板の故障診断の対象部位に応じた所定の配線パターンの幅と略同一もしくはそれ以下であることが好ましい。
また、精度のよい検査をするには、検査対象の配線パターン80aとスパイラルコイル70との物理的な位置関係を固定することが望ましい。故障診断の対象部位に応じた所定の配線パターンに対して固定的にスパイラルコイル70を配置するに際しては、回路基板上の外層(表面や裏面)もしくは内層にプリント配線パターンにより形成するとよい。
また、予め巻き線にて形成したコイルをテーピング部材などの固定部材を用いて電気的に非接触となるように、略密着して固定してもよい。この際には、たとえば、磁路の開口部断面が略円形若しくは楕円状にコイルを形成した後に、そのコイルを扁平状にしてから、診断対象部位に対応する位置に、診断対象部位の配線パターンとコイルの扁平面とが対向するように固定配置してもよい。
たとえば、図13(B)に示すように、回路基板10は、2枚の絶縁体87が積層されており、一方(図では右側)の絶縁体87aの表面に配線パターン80がプリント形成されている。そして、絶縁体87aを挟んだ配線パターン26に対向する反対側の(図では左側)の絶縁体87bの両面に形成されたプリント配線パターンにて、スパイラルコイル70が形成されている。つまりスパイラルコイル70は、回路を構成する回路基板(プリント配線基板)10と同一基板上に構成されている。
具体的には、スパイラルコイル70は、対向する2層の導体層の一部を切り取ってできる複数の導体(それぞれ複数本配された第1の導体134および第2の導体135)をスルーホール(バイアホール)136を使用して所定の順に(巻き線を形成するように)接続して構成されている。スルーホール136の間には、絶縁体87bと同様の絶縁体137cが配されている。こうすることで、配置の安定性がよくなる。
また、図13(C)に示すように、上記実施の形態で示した同様に、回路基板10とは別の支持基板4上にて診断対象部位の配線パターンとコイルの扁平面とが対向するように位置を合わせて近接配置してもよい。
なお、スパイラルコイルを形成する際には、絶縁体37b内におけるスルーホール136の間に配されていた絶縁体137cやスルーホール136の外側を、絶縁性磁性体層に置き換えた構造としてもよい。つまり、スパイラルコイル70を構成するために用いられる対向する2層の導体層(コイル層)間の一部に絶縁性の磁性材が層状に配置された構造としてもよい。
2層の導体層間に絶縁性の磁性材を層状に配置する技術としては、たとえば特開平11−40915号に記載の技術を利用するのがよい。たとえば、絶縁性磁性体層を構成する磁性材として、絶縁性磁性体を用いるとよい。絶縁性磁性体は、たとえば、Ni−Zn系フェライト微粒粉末、Mn−Zn系フェライト微粒粉末、センダスト微粒粉末、あるいはLi系フェライト微粒粉末と、絶縁溶剤との混合物が用いられるとよい。絶縁溶剤にはエポキシ系絶縁溶剤が含まれる。
2つのコイル層間に配置される絶縁性の磁性体として、両面に絶縁コーティングが施された金属箔が用いられてもよい。両面に絶縁コーティングが施された金属箔は、アモルファス磁性箔多層帯を含む。
さらに、絶縁層137b内におけるスルーホール136の間に配されていた絶縁体137cの部分に限らず、絶縁層137bの全体を絶縁性磁性体層に置き換えてもよい。つまり、スパイラルコイル70を構成するために用いられる対向する2層の導体層(コイル層)間の全面領域に絶縁性の磁性材が層状に配置された構造としてもよい。
このように、スパイラルコイル70を構成するために用いられる対向する2層の導体層(コイル層)間の一部または全面領域に絶縁性の磁性材を配することで、スパイラルコイル70のインダクタンスを増大することができるので、スパイラルコイル70による検知感度を向上させることができ、より精度の高い故障診断システムを構築することができる。
なお、上述した一連の故障診断処理は、ハードウェアにより実行させることもできるが、ソフトウェアにより実行させることもできる。一連の故障診断処理をソフトウェアにより実行させる場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、専用のハードウェアに組み込まれているコンピュータ(組込みマイコンなど)、あるいは、CPU、論理回路、記憶装置などの機能を1つのチップ上に搭載して所望のシステムを実現するSOC(System On a Chip:システムオンチップ)、または、各種のプログラムをインストールすることで各種の機能を実行することが可能な汎用のパーソナルコンピュータなどに、記録媒体からインストールされる。
この記録媒体は、コンピュータのハードウェア資源に備えられている読取装置に対して、プログラムの記述内容に応じて、磁気、光、電気などのエネルギの変化状態を引き起こして、それに対応する信号の形式で、読取装置にプログラムの記述内容を伝達できるものである。たとえば、コンピュータとは別に、ユーザにプログラムを提供するために配布される、プログラムが記録されている磁気ディスク(フレキシブルディスクを含む)、光ディスク(CD−ROM(Compact Disc-Read Only Memory )、DVD(Digital Versatile Disc)を含む)、光磁気ディスク(MD(Mini Disc )を含む)、もしくは半導体メモリなどよりなるパッケージメディア(可搬型の記憶媒体)により構成されるだけでなく、コンピュータに予め組み込まれた状態でユーザに提供される、プログラムが記録されているROMやハードディスクなどで構成されてもよい。あるいは、ソフトウェアを構成するプログラムが、有線あるいは無線などの通信網を介して提供されてもよい。
図14は、CPUやメモリを利用してソフトウェア的に故障診断システムを構成する、すなわちパーソナルコンピュータなどの電子計算機を利用して故障診断システムを構築する場合のハードウェア構成の一例を示した図である。
故障診断部90を構成するコンピュータシステム900は、CPU902、ROM(Read Only Memory)904、RAM906、および通信I/F(インタフェース)908を備える。RAM906は、撮像画像データを格納する領域を含んでいる。
また、たとえばメモリ読出部907、ハードディスク装置914、フレキシブルディスク(FD)ドライブ916、あるいはCD−ROM(Compact Disk ROM)ドライブ918などの、記憶媒体からデータを読み出したり記録したりするための記録・読取装置を備えてもよい。データは、データバスを通じて各ハードウェア間をやり取りされる。
ハードディスク装置914、FDドライブ916、あるいはCD−ROMドライブ918は、たとえば、CPU902に周波数変換や周波数解析などの処理をソフトウェアにて実行させるためのプログラムデータを登録するなどのために利用される。また、ハードディスク装置914は、処理対象データを格納する領域を含んでいる。
通信I/F908は、インターネットなどの通信網との間の通信データの受け渡しを仲介する。またコンピュータシステム900は、回路基板10との間のインタフェースの機能をなすI/F部930を備える。
なお、上記実施の形態で示した故障診断部90の各機能部分(特に比較判定部)の全ての処理をソフトウェアで行なうのではなく、これら機能部分の一部をハードウェアにて行なう処理回路940として設けてもよい。
回路基板10には、故障診断部90の一部を構成する回路部材20として、アナログマルチプレクサ950、バッファ回路952、およびA/D変換部954が配されている。たとえば、検査対象部位としての複数の配線パターン80に対応するように、アナログマルチプレクサ950が設けられている。回路基板10上における検査対象の個々の配線パターン80には、上述した信号変化検出部30(たとえばコイル32やコンデンサ33;図ではコイルのみを示す)が配される。
個々の信号変化検出部30は、その一方の端子が共通にグランドに接続され、他方の端子が、個々に、アナログマルチプレクサ950の対応する入力端子に接続されている。アナログマルチプレクサ950の選択動作は、コンピュータシステム900側のI/F部930からの制御信号MPXにより制御されるようになっている。
アナログマルチプレクサ950の出力信号は、バッファ回路952を介してA/D変換部954によってデジタルデータに変換される。A/D変換部954から出力されるデジタルの検知データは、図示しない出力バッファを介してコンピュータシステム900側のI/F部930に入力される。
このような構成のコンピュータシステム900は、上記実施の形態に示した故障診断部90の基本的な構成および動作と同様とすることができる。また、上述した処理をコンピュータに実行させるプログラムは、CD−ROM922などの記録媒体を通じて配布される。あるいは、プログラムは、CD−ROM922ではなくFD920に格納されてもよい。また、MOドライブを設け、MOに前記プログラムを格納してもよく、またフラッシュメモリなどの不揮発性の半導体メモリカード924など、その他の記録媒体に前記プログラムを格納してもよい。
さらに、他のサーバなどからインターネットなどの通信網を経由して前記プログラムをダウンロードして取得したり、あるいは更新したりしてもよい。なお、記録媒体としては、FD920やCD−ROM922などの他にも、DVDなどの光学記録媒体、MDなどの磁気記録媒体、PDなどの光磁気記録媒体、テープ媒体、磁気記録媒体、ICカードやミニチュアーカードなどの半導体メモリを用いることができる。
記録媒体の一例としてのFD920やCD−ROM922などには、上記実施の形態で説明した故障診断部90における処理の一部または全ての機能を格納することができる。すなわち、RAM906などにインストールされるソフトウェアは、上記実施の形態に示された故障診断部90と同様に、比較判定部98や特徴量抽出部、あるいは周波数解析部などの機能部をソフトウェアとして備える。このようなソフトウェアは、故障監視用のアプリケーションソフトとして、CD−ROMやFDなどの可搬型の記憶媒体に格納され、あるいはネットワークを介して配布されるとよい。
そして、故障診断部90をコンピュータにより構成する場合、CD−ROMドライブ918は、CD−ROM922からデータまたはプログラムを読み取ってCPU902に渡す。そしてソフトウェアはCD−ROM922からハードディスク装置914にインストールされる。ハードディスク装置914は、FDドライブ916またはCD−ROMドライブ918によって読み出されたデータまたはプログラムや、CPU902がプログラムを実行することにより作成されたデータを記憶するとともに、記憶したデータまたはプログラムを読み取ってCPU902に渡す。
ハードディスク装置914に格納されたソフトウェアは、RAM906に読み出された後にCPU902により実行される。たとえばCPU902は、記録媒体の一例であるROM904およびRAM906に格納されたプログラムに基づいて上記の処理を実行する。たとえば、先ず、正常動作時に、信号変化検出部30の誘導起電力信号をアナログマルチプレクサ950で切り換えながら取り込み、ハードディスク装置914などの記憶装置に記憶させておく。次に、実際に回路を動作させて、信号変化検出部30の信号を常時取り込みながら、CPU902の指示に従い、ハードディスク装置914などに記憶しておいた正常時の波形と常時取り込んでいる波形とを常に比較し、あるいは波形を周波数変換して、実働時と正常時との間に差が生じた時に、故障と判定して、アラームを発するか故障内容を通知する。また、故障した際の波形の変化状態や周波数スペクトルの状態を詳細に解析することで、さらに故障内容を詳しく同定する。
以上、本発明を上記実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施の形態に多様な変更または改良を加えることができ、そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
また、上記の実施の形態は、クレーム(請求項)にかかる発明を限定するものではなく、また実施の形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。前述した実施の形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜の組合せにより種々の発明を抽出できる。実施の形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、効果が得られる限りにおいて、この幾つかの構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
たとえば、上記実施の形態で示したコイル(スパイラルコイルを含む)やコンデンサでは、それらを診断対象部位に対応するようにプリント基板上にパターン形成する態様を示したが、これらは、パターン形成以外の手法にて形成してもかまわない。たとえば、予め巻き線にて形成したコイルを、テーピング部材などの固定部材を用いて電気的に非接触となるように固定してもよい。
なお、上記実施の形態では、センシングするコイルやコンデンサの設置位置を回路基板にフレキシブル基板を近接した際に回路部周囲にくるように配置したが、これはもっとも必要な情報をセンシングできる位置に設置することを意味している。
また、上記実施の形態では、コイルやコンデンサを形成するものをフレキシブル基板とし、回路基板やケーブルなどに固定することを示唆したが、支持基板4となるフレキシブル基板を箱体に組立自在にしておき、検査対象となる回路基板やケーブルを箱体に組み立てた内部に収納して検査を行なうようにしてもよい。
以上のように、本実施の形態では、電子回路から発する異音から回路基板の配線や搭載部品などの診断対象部位における故障の有無を診断する故障診断方法であって、診断対象部位の近傍に、信号変化検出部を前記診断対象部位に対して非接触かつ固定的に配置し、診断対象部位と信号変化検出部との間での静電的結合または電磁的結合により信号変化検出部に誘起される診断対象部位における信号変化に対応した電気信号を検出し、この検出した電気信号を周波数変換し、所定の周波数範囲で補正するとともに積分した値と、周波数特性に対してやはり所定の周波数範囲で算出した統計量とを解析することで、異音の原因となる診断対象部位の故障の有無を診断するとともに、電気的故障に対しては、検出した電気信号と予め取得しておいた診断対象部位の正常時または異常時における信号変化に対応した電気信号とを周波数解析することで、診断対象部位の電気的故障の有無を診断するようにした。
このため、機器に組み込み可能で回路動作をモニタしながら周囲の騒音に全く影響されずに異音を検出することが可能となり、異音発声の原因故障箇所を自動的に診断し特定することができる。さらに電気的特性を同時に検出するので、周波数解析により、回路の電気的な故障も細かに診断することができる。
また、信号変化検出部を固定的に配置しているので、診断箇所にプローブを近づけて観察したり、プローブを対象部位に近づけたりするためのメカニカルな手段を必要としない。パターン形成などの手法を利用した簡易な構造の信号変化検出部を診断対象部位に応じて、それぞれの場所に設けても、コストアップはさほど生じない。
これらのことにより、コスト面と故障診断の対象部位の設定の自由度という点で、利用者にとって、使い勝手のよい故障診断の仕組みを提供することができるようになった。
よって、電子回路基板の故障診断において、複雑な故障診断回路を付加することなく、低コストでシステムに組み込み可能でしかも高精度に回路動作と異音をモニタできる故障診断システムを構築することができる。