JP4869462B2 - 人工皮革基体 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、外観が極めて良好でかつ機械的物性に優れ、軽量で柔軟なスエード調人工皮革およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
人工皮革の各分野で、機械的諸物性に優れ、軽量で柔軟な製品が求められている。従来から、海成分が溶出可能な海島構造の多成分繊維、例えば海成分がポリエチレンからなる海島構造の繊維を用いて不織布とし、それを用いて人工皮革とすることは公知である。かかる海島構造繊維は最終製品となるまでのいずれかの工程で海成分を除去して繊維を極細化し極細繊維を得る。このような製品は極細繊維特有の風合いと良好なスエード外観を有し、市場での一定の評価を得ている。しかし極細繊維化時の厚み減少による比重の上昇は避け難く、軽量化性能を兼ね備えたものではなかった。
また異種の繊維を目的にあわせて混合し、絡合不織布とすることは従来から行われている方法である。2種類以上のウェッブ、シート類を積層して絡合させた交絡体およびこれらの交絡体に高分子弾性体溶液を含浸、凝固する方法について特公昭48−11925号公報に記載されている。これらは皮革ライクで機械的物性に優れているものもあるが、良好なスエード外観及び軽量化性能を兼ね備えたものではなかった。
また、衣料製品などに軽量、保温性等の観点からポリエステル、ナイロンの中空繊維が一般的に用いられている。合成皮革、人工皮革の分野においては、特開昭47−28104号公報および特開昭50−5502号公報に、中空繊維を用いた軽量で通気性の良好な合成皮革の記載がある。また微小中空粒子を混合して軽量化と保温性の向上をはかった合成皮革について特開平1−292188号公報に記載されている。このように、繊維を含めた中空構造を持つ物質を合成皮革、人工皮革に用いる技術は公知であるが、これらは軽量化性能はもっが、スエードとしての外観が不十分なものであり、また軽量化性能と必要な機械的性能をもつものであっても近年強く要求される柔軟性および表面の外観に関しては不十分であり、これらすべてを併せもつものではなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
人工皮革の各分野では一般的に0.5〜1.3mmの厚みの基体が用いられている。この厚みの範囲のなかでより軽く、機械的物性に優れた、柔軟な製品が求められており、特にスエード調人工皮革において機械的物性に優れていることと、軽量で柔軟なスエード感に優れていることとは裏腹の関係にあり、これらすべてを満足する人工皮革基体は未だ開発されていない。
このように人工皮革の各分野では、高級感の向上が求められ、その中でも、外観の高級感と軽量性能はもっとも強く望まれているものである。その一方で、用途に応じた機械的物性、とくにスポーツ用の人工皮革では、靴底ゴム部と人工皮革製品との剥離強力、運動時に必要な引裂強力は最も重視されている特性であって、この機械的物性と製品としての軽くて、優れた外観を併せもつことが極めて重要となる。
【0004】
その課題解決の方策として、抽出等で極細化可能な多成分繊維からなる、例えば海島構造繊維シートから抽出等で除去する成分の比率を増加させる方法が考えられるが、製造工程でのテンションやプレス処理によって厚みが低下し、軽量化出来ず、機械的物性も不足することとなる。また、人工皮革製品の繊維量自体を減ずる方法では軽量化は出来るが、諸物性が不足する問題点がある。
また、中空繊維のステープルの嵩高さを利用して人工皮革にこれらの中空繊維を用いて基体とする方法は、確かには軽量化は達成出来るが、繊維中に中空を形成させるため、必然的に繊維デシテックスが大きくなり表面の平滑性に欠け、特にスエード用途としての外観が確保出来ず、また風合いも柔軟ではない。
本発明の目的は、このような問題を解決し、外観が極めて良好でかつ機械的物性に優れ、軽量で柔軟なスエード調人工皮革基体を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
前述の目的を達成するために本発明者らは鋭意研究を行い、その結果、0.1デシテックス以下の極細繊維集束体の集束体断面内に中空部を有し、該繊維を三次元絡合されている不織布を用いることで、外観が極めて良好でかつ軽量で柔軟なスエード調人工皮革にすることができることを見いだした。 すなわち本発明は、極細繊維集束体が三次元絡合されている不織布とその内部に含浸された高分子弾性体からなる人工皮革基体において、不織布を構成する極細繊維集束体が、0.1デシテックス以下の極細繊維からなる集束体であって、かつ該極細繊維集束体は芯鞘型の断面構造における鞘部分には極細繊維が存在し、芯部分には実質的に極細繊維が存在しない中空部を有するものであることを特徴とする人工皮革基体であり、好ましくは、該極細繊維集束体の断面形状が下記式で表わされる中空率が6〜20%の範囲である上記の人工皮革基体である。
中空率(%)=(A/B)×100
A=極細繊維集束体の内周に囲まれた空間部の面積
B=極細繊維集束体の外周に囲まれた部分の面積
さらに本発明の人工皮革基体は、以下の(1)〜(3)の工程を順次行うことにより製造することができる。
(1)下記工程(3)により、0.1デシテックス以下の極細繊維からなる集束体は芯鞘型の断面構造における鞘部分には極細繊維が存在し、芯部分には実質的に極細繊維が存在しない中空部を有することとなる芯鞘型極細繊維発生型繊維から不織布を製造する工程、
(2)上記不織布に高分子弾性体溶液または分散液を含浸し、高分子弾性体を凝固させる工程、
(3)該芯鞘型極細繊維発生型繊維の鞘部分において極細繊維を発生させる処理を行った後に、その極細繊維集束体断面に中空部を発生させる処理を行い、極細繊維集束体断面において芯鞘型の断面構造における鞘部分には極細繊維が存在し、芯部分には実質的に極細繊維が存在しない中空部を有する極細繊維集束体を発生させる工程、
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明に用いる、繊度0.1デシテックス以下の極細繊維からなる集束体の断面部に中空部を存在させることが可能となる極細繊維発生型繊維は、相溶性を有していない3種以上の熱可塑性ポリマーを複合紡糸することにより得られる。その代表的な繊維の形態はいわゆる芯鞘型繊維と呼ばれるものである。
繊維の鞘部分は2成分からなる海島構造を有し、芯部分は繊維断面の中心部分にあっても、中心部からずれていてもよく、また芯部分の形状は、繊維断面内である程度の面積を形成していれば不定形であっても、円、楕円、四角、三角等の幾何学的形態を有するものでもよい。
【0007】
また、鞘部分は、相溶性を有していない2種以上の熱可塑性ポリマーからなり、これらポリマーが海島構造を形成している。その島成分を構成するポリマーとしては、溶融紡糸可能で、十分に強度等の繊維物性を発揮するポリマーであって、紡糸条件下で海成分ポリマーより溶融粘度が大きく、かつ表面張力が大きいポリマーが好ましく、例えば6−ナイロン、66−ナイロン等のポリアミド系ポリマー、およびこれを主体とする共重合体、ポリエチレンテレフタート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系ポリマー、およびこれを主体とする共重合体等が好適に用いられる。
海成分ポリマーとしては、島成分ポリマーよりも溶融粘度が低く、島成分との溶解性、分解性を異にし、海成分の溶解除去又は分解除去に用いられる溶剤または分解剤等への溶解性が大きく(島成分ポリマーは海成分ポリマーの除去時に実質的に溶解又は分解除去されない)、島成分との相溶性の小さい成分が好ましい。例えばポリエチレン、変性ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、変性ポリエステルなどが好適に用いられる。
【0008】
本発明における繊度0.1デシテックス以下の極細繊維を発生させる鞘部分の海島繊維の好適な海島体積比率は海/島=30/70〜70/30の範囲である。海成分が30%未満では溶剤または分解剤などで、溶解または分解除去する成分が少なすぎて柔軟効果が十分発揮できず、海成分が70%を超える比率では、溶解または分解除去後の島成分からなる繊維の絶対量が少なくなり皮革様シートとしての充分な物性が確保できず、また溶解または分解除去する成分が多いことは生産性の観点からも不適切である。
【0009】
本発明における鞘部分を形成する海島構造の海成分を溶解除去した後の好適な島成分の平均繊維太さは0.1デシテックス以下、好ましくは0.05デシテックス以下である。一般的に太デシテックスの繊維絡合体からなる不織布は繊維が抜けやすい傾向にあり、本発明においても島の繊維太さが0.1デシテックスを超える場合には、海成分除去後の極細繊維のぬけ現象が顕著になり、基体の柔軟性が損なわれゴワゴワとした触感となり、また、スエード調としての表面の美観に欠けたものになる。本発明でいう極細繊維の太さ(繊度)は、極細繊維集束体の繊維軸方向に直角な断面を顕微鏡により写真にとり、極細繊維集束体のトータルデシテックスを顕微鏡写真から求めた該集束体構成極細繊維の本数で割ることにより求められる。
【0010】
芯部分を形成するポリマーとしては、鞘部分を形成する海島構造の海成分の溶解除去又は分解除去に用いられる溶剤または分解剤と溶解性又は分解性を異にし(海成分除去時には、芯成分ポリマーは実質的に溶解又は分解されない)、なおかつ、鞘部分を形成する海島構造の島成分とも溶解性又は分解性を異にする(芯成分除去時には、島成分ポリマーは実質的に溶解又は分解されない)ポリマーであって、たとえば、希アルカリで溶出可能な、または水可溶性のポリエステル共重合体、水溶性かつ熱可塑性の変性ポリビニルアルコールなどが好適に用いられる。
【0011】
本発明の極細繊維発生型繊維から極細繊維集束体断面に中空部を有する極細繊維集束体を発生させる際に、鞘部分を形成する海島構造部分の海成分のみをまず溶解または分解除去した後、芯成分を溶解または分解除去する。
例えば、不織布に高分子弾性体溶液または分散液を含浸し、高分子弾性体を凝固させた海島構造繊維シートから海成分を抽出等で除去する際、製造工程でのテンションやプレス処理によって厚みが低下し、軽量化が出来ない。すなわち、極細繊維発生型繊維の海成分除去時に、海成分の除去による繊維の痩の発生と、不織布に含浸された高分子弾性体が膨潤軟化した状態で、テンションやプレス処理工程を通るため厚みが低下するためである。
【0012】
本発明は、本発明の極細繊維発生型繊維からの鞘部分の海島構造繊維部の海成分を抽出等で除去し極細繊維を発生させる際に、その溶剤、薬剤等の影響を受けることなく芯成分部分が耐え、製造工程のテンションやプレスによる厚み低下を軽減、緩和する働きをする点にある。その後、鞘部分を形成する海島構造の海成分の溶解除去又は分解除去に用いられる溶剤または分解剤と異にし、なおかつ鞘部分を形成する海島構造の島成分を実質的に溶解又は分解させることがなく、芯成分を溶解または分解させる溶剤または分解剤で処理することにより芯成分を除去することにより、鞘部分の島成分を残し、繊度0.1デシテックス以下の極細繊維集束体断面部に中空部が存在する極細繊維集束体を発生させることができる。
【0013】
この芯成分の除去工程は、鞘部分の海成分の除去後、基体中に残存する使用溶剤、分解剤を除去する時の湯洗または、染色前の湯通し及び染色後の洗い工程で除去できるのが好ましい。例えば、エチレン単位を5〜10モル%含有し、重合度が200〜500、鹸化度が90〜99モル%である水溶性かつ熱可塑性の変性ポリビニルアルコールは、50〜80℃の熱水に容易に溶解するので特に好ましい。
【0014】
本発明に用いる繊度0.1デシテックス以下の極細繊維集束体断面部に中空部を存在させる極細繊維発生型繊維の芯鞘型繊維の断面における中空部分を発生させる芯部の面積率は7〜30%の範囲が好ましい。芯部の面積率が7%未満では軽量化の効果が不十分であり、30%を超える場合は芯部除去工程のテンション、プレス処理工程によって繊維断面の中空部分の潰れが顕著になり、基体の比重が上がり軽量な基体が得られにくい。一般に芯部分の太さとしては、0.3〜1.3デシテックスの範囲が芯成分除去後の中空部を有する極細繊維収束体の形状安定性の点で好ましい。
また、中空率は極細繊維を発生させる鞘部分の海島繊維の海島体積比率、極細繊維の太さ、極細繊維を構成するポリマーによって、芯部の除去時の形態維持性が異なるので、適宜組み合わせをするのが好ましい。一般的に鞘部分の島比率が少なく、またデニールが細いと中空部分の潰れが顕著になる傾向にある。
【0015】
このように、実際の極細繊維集束体断面部に発性する中空率は、芯鞘繊維の芯部の面積率とは異なるが、一般に6〜20%なるように調節するのが好ましい。極細繊維集束体断面部に発性する中空率が6%未満では、軽量化の効果が不十分であり、20%を超える場合は、基体の表面の毛羽感が粗くなり、スエードとしでの外観および機械的物性が劣ったものとなる。
【0016】
本発明の芯鞘型多成分繊維の延伸処理においては,延伸時の繊維膠着防止の点で鞘部の海成分ポリマーの軟化点以下の温度にて延伸することが好ましく、より好ましくは海成分ポリマーの軟化温度より5〜10℃低い温度である。
ついで、この海島型多成分繊維は、捲縮、乾燥、カットなどの処理工程を経て繊度2〜10デシテックスの繊維とする。
【0017】
芯鞘型多成分繊維を、カードで開繊し、ウェバーを通してランダムウェブまたはクロスラップウエブを形成し、得られた繊維ウェブを所望の重さ、厚さに積層する。次いで、ニードルパンチ、高速流体流処理などの公知の方法で絡合処理を行って不織布とする。製品の一体感や表面の平滑性を向上させる目的で複数のカード、ラッパーを用いて、不織布とすることはさしつかえない。なお本発明において、不織布を構成する繊維の一部として、前記芯鞘型多成分繊維以外の繊維を本発明の目的を損なわない範囲内でブレンドすることもできる。
【0018】
本発明におけるニードルパンチのフェルト針は公知のものが用いられるが、ウェッブの厚さ方向への縫いつけを行うには繊維切れの起きにくい1バーブ針が好適に用いられる。不織布の表面の比重を上げるためには3バーブ、6バーブ、9バーブ等の多バーブの針が使用できる。目的によってこれらの針を組み合わせて良い。
【0019】
ニードルパンチ工程におけるパンチ数は使用する針の形状や、ウェッブの厚みにより異なるが、200〜2500パンチ/cm2の範囲で設定される。一般的に極細繊維発生型繊維のニードルパンチにおいては、ニードルパンチ条件が強すぎる場合には極細繊維発生型繊維の切断や繊維割れがおこり、絡合が向上せず、またニードルパンチ条件が弱すぎる場合には厚み方向に並ぶ繊維数の不足をまねき絡合が向上しない。
【0020】
ニードルパンチされた不織布は次に表面を平滑化し、厚みを規制するため、厚さ方向にプレスするのが好ましい。プレスの方法は、複数の加熱ロール間を通す方法、予熱した不織布を冷却ロール間に通す方法等従来公知の方法が利用でき、繊維中の海成分すなわちポリエチレンなどの低溶融粘度成分の溶融・圧着により、より不織布の平滑化を達成することが出来る。なおこの工程の際に、テンションやプレス等による工程の形態変化を抑制する目的でポリビニルアルコールやデンプン、樹脂エマルジョン等の接着剤を添加することは差し支えない。
【0021】
面を平滑化した不織布は次に高分子弾性体溶液または分散液を含浸し、スポンジ状に凝固させる。高分子弾性体としては従来から皮革様シートの製造に用いられている樹脂が好適に用いられる。すなわち、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリアミノ酸系樹脂、シリコン系樹脂、およびこれらの共重合、これらの混合物が好適である。これらの樹脂は水系エマルジョンまたは有機溶剤溶液として前記不織布に含浸した後、湿式凝固等を行うことによりスポンジ状に凝固する。なお本発明において、繊維の鞘部分の海成分を除去するに先立って、高分子弾性体を含浸凝固させるのが中空部を有する極細繊維収束体の形状安定化の点で好ましい。
【0022】
高分子弾性体溶液または分散液を含浸凝固した繊維質基体に、次に、芯成分ポリマーと鞘部分の島成分ポリマーと含浸した高分子弾性体の非溶剤であり、鞘部分の海成分ポリマーの溶剤または分解剤である液により該海成分を溶解または分解除去することにより芯成分繊維の周辺に0.1デシテックス以下の極細繊維を発生させ、次に極細繊維および高分子弾性体の非溶剤であり、芯成分繊維の溶剤または分解剤である液により芯成分ポリマーを溶解または分解除去することにより0.1デシテックス以下の極細芯繊維の集束体断面内に中空部を有する繊維束と高分子弾性体からなる人工皮革基体を得る。
【0023】
次に、スエード調人工皮革を得る方法としては,この人工皮革基体を必要により厚さ方向に複数枚にスライスしたのち、その表面の少なくとも一面を起毛処理して極細繊維を主体とした繊維立毛面を形成させる。繊維立毛面を形成させる方法は、サンドペーパーなどによるバフィングなどによる公知の方法を用いる。次に染色したスエード調繊維質基体に対して、もみ、柔軟化処理、ブラッシングなどの仕上げ処理を行うことにより、優美な外観であり、かつ毛羽脱落のないスエード調人工皮革の製品が得られる。
本発明により、密度が0.3g/cm3以下、剥離強力が8kg/2.5cm以上、厚み1mmあたりの引裂強力が6kg以上という機械物性に優れかつ軽量なスエード調人工皮革が得られる。
【0024】
人工皮革基体の厚みは用途に応じて任意に選択でき、特に限定されるものではないが、好ましくは0.3mm〜3mm、特に好ましくは0.7mm〜1.8mmの範囲である。また極細繊維と高分子弾性体との量比としては、重量比で35/65〜65/35が好ましい。この範囲を外れると繊維と弾性重合体とのバランスが悪くなり、製品としての充実感や柔軟性が得られなくなる。
【0025】
本発明における人工皮革基体の密度としては0.3g/cm3以下が好ましい。各分野において重い、軽いは使用する人の相対的、感覚的な要素であるが、一般的な人工皮革の密度は0.35〜0.5g/cm3であり、密度0.3g/cm3以下の基体というのは、明らかに従来の人工皮革基体の感覚から軽く感じる範囲であって、本発明によれば人工皮革基体の密度を確実に0.3g/cm3以下にすることが出来る。
【0026】
また,本発明の人工皮革基体は銀付調人工皮革の分野にも好適に利用できる。すなわち,この人工皮革基体の表面に皮革様フィルムの接着や樹脂エマルジョン,樹脂溶液,溶融樹脂のコート,グラビア,エンボス,これらの組合わせ等の仕上げを行うことにより柔軟で充実感のある銀付調人工皮革が得られる。
【0027】
【実施例】
次に本発明の実施を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び%はことわりのない限り重量に関するものである。以下の実施例および比較例において中空率、比重の測定、機械的物性、その他の評価は以下の方法に従った。
【0028】
[人工皮革基体の引裂強力測定方法]
縦10cm×横4cmの試験片を切り取り、短辺の中央に辺と直角に5cmの切れ目をいれ、各舌片をチャックに挟み引張試験機で100mm/分の速度で引裂く。引裂最大荷重を求め、あらかじめ求めた試験片の厚みで除し試験片3個の平均値で表す。
【0029】
[密度の測定]
人工皮革基体の単位面積あたりの重量(g/cm2)を厚み(cm)で除した数字を密度(g/cm3)とする。なお厚みは、JISL1096に準じて測定される。
【0030】
[芯鞘複合繊維の芯鞘比率]
複合繊維の芯鞘の面積比率は電子顕微鏡にて糸断面を500倍の拡大写真を撮影し、平均繊維直径および芯部の平均直径から比率を算出する。
[極細繊維収束体の断面内の中空率]
極細繊維収束体の収束体断面内の中空率は電子顕微鏡にて製品の断面を500倍の拡大写真を撮影し、下記式にて中空率を算出する。
中空率(%)=(A/B)×100
A=極細繊維集束体の内周に囲まれた空間部の面積
B=極細繊維集束体の外周に囲まれた部分の面積
【0031】
実施例1
2基のエクストルーダ溶融系で溶融したポリマー流を芯鞘型複合紡糸紡糸装置を用いて、芯成分がエチレン単位を7モル%含有し、重合度が300、鹸化度が97モル%である水溶性かつ熱可塑性の変性ポリビニルアルコールを、また鞘部分は、島成分が6−ナイロンであって、海成分が高流動性低密度ポリエチレン(海成分/島成分比率=40/60)からなる海島型繊維からなる芯鞘型複合繊維を紡糸した。芯鞘複合繊維の芯鞘成分の比率は芯/鞘=25/75であった。
得られた糸を延伸、クリンプ、カットし、3.5デシテックス、カット長さ51mmのステープル繊維を得た。
このステープル繊維をカードに通し、クロスラッパー方式によりウエッブとし、積層した。次に針に1箇所のバーブのついたフェルト針を用いて980P/cm2の針刺し密度でニードルパンチして目付450g/m2の不織布を得た。この不織布を加熱乾燥、プレスして表面を平滑にした後に13%のポリウレタンのDMF溶液を含浸し、DMF水溶液で凝固し、水洗、乾燥後、熱トルエンで鞘部分の海成分であるポリエチレンを抽出除去し、6−ナイロンの極細繊維が芯成分の変性ポリビニールアルコールを覆い包んだ状態の繊維と含浸したポリウレタンからなる基体を得た。その後得られた基体を80℃の温水で30分間ウインス染色機で処理し中空部を有する6ナイロンの極細繊維収束体とポリウレタンからなる厚み1.2mm、目付310g/m2の人工皮革用基体を得た。
【0032】
この繊維質基体の極細繊維束の断面を電子顕微鏡で観察すると、中空率が17%で、極細繊維の平均繊度は0.007デシテックスであった。この基体の一面をバフィングして厚さ1.0mmに厚み合わせを行なった後、他の面をエメリーバフ機で処理して極細繊維立毛面を形成し、さらにIrgalan Brown 2BLN(Chiba Geigy)を用いて、4%owfの濃度で染色した。仕上げをして得られたスエード調人工皮革は、引き裂き強力9kg/2.5cmあり、比重は0.26で非常に強く、外観、風合い,タッチ感共に良好で毛羽脱落のほとんどない軽いものであった。
【0033】
比較例1
実施例1の繊維を、実施例1の鞘成分のみからなる混合紡糸繊維に置き換え、かつ芯成分を除去する工程を省く以外は実施例1と同様の操作を行い、スエード調人工皮革を得た。このスエード調人工皮革は外観、風合い、タッチ感共に良好で毛羽脱落のほとんどないものであったが、極細繊維束の断面を電子顕微鏡で観察すると、中空部が存在せず、引裂強力9kg/2.5cmあるが、密度は0.39g/cm3であり、軽量性に欠けるものであった。
【0034】
比較例2
2基のエクストルーダ溶融系で溶融したポリマー流を芯鞘型複合紡糸紡糸装置を用いて、芯成分が、高流動性低密度ポリエチレン、また鞘部分は、島成分が6−ナイロンであって、海成分が高流動性低密度ポリエチレン(海成分/島成分比率=40/60)からなる海島型繊維からなる芯鞘型複合繊維を紡糸した。芯鞘複合繊維の芯鞘成分の比率は実施例1と同様に芯/鞘=25/75とした。
実施例1と同様の操作で不織布化後、加熱乾燥、プレスして表面を平滑にした後に13%のポリウレタンのDMF溶液を含浸し、DMF水溶液で凝固し、水洗後、熱トルエンで芯部分および鞘部分の海成分であるポリエチレンを抽出除去した。得られた基体の極細繊維束の断面を電子顕微鏡で観察すると、極細繊維束中に中空部分が存在せず、引き裂き強力は8kg/2.5cmであり、また密度が0.36g/cm3で軽量性に欠けるものであった。
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、スポーツシューズ等の用途に耐えうる機械的物性を持ち、軽量で柔軟なスエード調人工皮革基体が得られるものである。また本発明により得られた人工皮革基体の表面層に皮革様フィルムの接着や樹脂エマルジョン、樹脂溶液、溶融樹脂のコート、グラビア、エンボス、等を組み合わせて仕上げを行い銀付調人工皮革に仕上げることが出来る。
Claims (3)
- 極細繊維集束体が三次元絡合されている不織布とその内部に含浸された高分子弾性体からなる人工皮革基体において、不織布を構成する極細繊維集束体が、0.1デシテックス以下の極細繊維からなる集束体であって、かつ該極細繊維集束体は芯鞘型の断面構造における鞘部分には極細繊維が存在し、芯部分には実質的に極細繊維が存在しない中空部を有するものであることを特徴とする人工皮革基体。
- 該極細繊維集束体の断面形状が下記式で表わされる中空率が6〜20%の範囲である請求項1記載の人工皮革基体。
中空率(%)=(A/B)×100
A=極細繊維集束体の内周に囲まれた空間部の面積
B=極細繊維集束体の外周に囲まれた部分の面積 - 以下の(1)〜(3)の工程
(1)下記工程(3)により、0.1デシテックス以下の極細繊維からなる集束体は芯鞘型の断面構造における鞘部分には極細繊維が存在し、芯部分には実質的に極細繊維が存在しない中空部を有することとなる芯鞘型極細繊維発生型繊維から不織布を製造する工程、
(2)上記不織布に高分子弾性体溶液または分散液を含浸し、高分子弾性体を凝固させる工程、
(3)該芯鞘型極細繊維発生型繊維の鞘部分において極細繊維を発生させる処理を行った後に、その極細繊維集束体断面に中空部を発生させる処理を行い、極細繊維集束体断面において芯鞘型の断面構造における鞘部分には極細繊維が存在し、芯部分には実質的に極細繊維が存在しない中空部を有する極細繊維集束体を発生させる工程、
を順次行うことを特徴とする人工皮革基体の製造方法。
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Cited By (1)
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