本発明のより具体的な実形態を挙げれば、以下のとおりである。
まず、添加する原料溶融物は、原料の融点よりも高く、添加される中間重合物の温度よりも低い温度に保たれていることが望ましい。また、ヒドロキシカルボン酸の環状縮合物を原料として、これを少なくとも3段階で開環重合反応を行って連続的にポリマーを製造する方法である。第1段階と最終段階との間の中間段階の重合物に対し、原料溶融物を添加し、攪拌・混合を行いながら重合反応を進めることが望ましい。
本発明により、直列的に接続された3個以上の反応槽と、その第1段目及び最終段の反応槽を除く1個以上の中間反応槽内の中間重合物に、上記原料を添加する手段及び攪拌装置を備えたポリマー重合装置が提供される。
上記ポリマー重合装置において、第1段目の反応装置は、その回転軸が実質的に水平になるように設置された攪拌装置を有することが望ましい。最終段の反応装置は、その回転軸が水平面に対し、実質的に垂直になるように設置された攪拌装置を有する縦型反応槽とすることができる。
また、添加する原料溶融物の温度を、原料の融点よりも高く、添加される中間重合物の温度よりも低い温度に保つ手段を有することが望ましい。
より好ましいポリマー重合装置は、ヒドロキシカルボン酸の環状縮合物を原料とするポリマー重合装置であって、以下の要件を備えている。即ち、該重合装置は、直列的に接続された3個以上の反応槽と、ヒドロキシカルボン酸の環状縮合物を該反応槽に供給する手段と、その第1段目及び最終段の反応槽を除く1個以上の中間反応槽内の中間重合物に、上記原料を添加する手段とを備えている。そして、上記反応槽は、攪拌装置を備え、最終段の反応槽を除く中間反応槽は実質的に水平の攪拌回転軸を有する横型反応槽であり、最終段の反応槽は実質的に垂直の攪拌回転軸を有する縦型反応槽である。
上記ポリマー重合装置において、添加する原料溶融物の温度を、原料の融点よりも高く、添加される中間重合物の温度よりも低い温度に保つ手段を有することが望ましい。更に、上記中間反応槽の攪拌装置はニ軸型であるのが望ましい。また、上記中間反応槽の攪拌装置の攪拌翼間の間隔は、その前段の横型反応装置の攪拌装置の攪拌翼の間隔よりも狭いことが望ましい。
縦型反応装置の内壁面は少なくとも縦方向に非平滑であることが望ましい。また、上記縦型反応装置の攪拌装置は二軸型であることが望ましい。上記中間反応槽の前段の横型反応装置は、特開平6−218260号公報に記載されたように、その長さ方向に適宜間隔で配置された複数の堰を有し、かつ堰の下部に貫通孔を有することが望ましい。また、上記反応槽はそれぞれ液面計を備えることが望ましい。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、反応初期段階において、その回転軸が実質的に水平になるように設置された攪拌装置及びその槽内に設置され、少なくとも1つの堰を有する反応槽で開環重合反応を行うことにより、重合度及び粘度の異なる重合物の混合を抑制できることがわかった。
また、中間段階において、重合物に原料溶融物を追加添加し混合することによって反応熱を原料溶融物のエンタルピーとして吸収し重合物の温度上昇を抑制できることがわかった。また、反応最終段階において、その回転軸が水平面に対して実質的に垂直になるように設置された攪拌装置を有する反応槽で開環重合反応を行うことによって反応熱の除去効率を高め重合物の温度上昇を抑制できることができることを見出した。そして、中間段階において重合物への原料溶融物の追加添加・混合を行う工程を含む重合方法により、重合物の熱分解に伴う着色を抑制できることを見出した。その前段及び後段工程にそれぞれ1つの中間反応槽を有し、これらが直列的に接続された反応装置において、開環重合反応を行うことによって、本発明の課題を解決することができた。なお、上記工程を少なくとも1個の反応槽で行うこともできる。
本発明の一実施形態において、ヒドロキシカルボン酸の環状縮合物を開環重合することによりポリエステルを製造する反応装置において、原料溶融物と最終重合物の中間状態の重合物(中間重合物)に原料溶融物を追加添加し、攪拌・混合を行うことを特徴とする。
本発明の別の実施形態においては、原料溶融物と最終重合物の中間状態の重合物に原料溶融物を添加し、攪拌・混合を行うものである。追加添加する原料溶融物の温度が原料の融点よりも高く、添加される中間状態の重合物の温度よりも低いことを特徴とする。
別の実施形態において、ポリマー合成装置は以下の要件を備えている。即ち、反応装置が直列的に接続された3個以上の反応槽を含み、その第1段目及び最終段の反応槽を除く1個以上の中間反応槽において、中間合成物にポリマー原料を追加供給すると共に、攪拌しながら重合を行うことを特徴とする前記ポリマー合成装置である。
本発明の別の実施形態においては、直列的に接続された3個以上の反応槽を含み、その第1段目及び最終段の反応槽を除く1個以上の反応槽における中間合成物にポリマー原料を追加供給し、攪拌手段を有する。さらに第1段目の反応槽は、その回転軸が実質的に水平になるように設置された攪拌装置及びその槽内に設置された堰を有するポリマー合成装置に関する。
別の実施形態は、直列的に接続された3個以上の反応槽を含み、その第1段目及び最終段の反応槽を除く1個以上の反応槽において、中間合成物にポリマー原料を追加供給し、攪拌を行う手段を有する。最終段の反応槽が、その回転軸が水平面に対して実質的に垂直になるように設置された攪拌装置を有する前記ポリマー合成装置に関する。
本発明のポリマー合成方法及び装置は、重合反応に伴い反応熱が発生するポリマーの重合反応に好適に用いられる。そのようなポリマーには、開環重合反応又は付加重合反応によって生成するポリマーが含まれる。開環重合反応によって生成するポリマーについては、環式縮合物のポリマー原料、特に環式二量体の開環重合反応によって合成されるポリマー、特にポリエステルの重合反応に好適に用いられる。例えば、ポリ乳酸、乳酸を主成分とする共重合体、ポリグリコール酸、グリコール酸を主成分とする共重合体等が挙げられる。
本発明の方法及び装置は、ラクチドの開環重合によるポリ乳酸、グリコリドの開環重合によるポリグリコール酸の合成に特に好適に使用される。ここで、ポリ乳酸の原料として使用されるラクチドは、乳酸2分子から水2分子を脱水することにより生じる環式エステルを意味する。ポリ乳酸は、乳酸を主成分とする重合体を意味し、ポリL−乳酸ホモポリマー、ポリD−乳酸ホモポリマー、ポリL/D−乳酸共重合物、これらのポリ乳酸に他のエステル結合形成性成分、例えば、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類、ジカルボン酸とジオールなどを共重合した共重合ポリ乳酸及びそれらに副次成分として添加物を混合したものを包含する。
また、グリコリドはグリコール酸2分子から水2分子を脱水することにより生じる環式エステルを意味し、ポリグリコール酸は、グリコール酸を主成分とする重合体を意味する。他のエステル結合形成性成分、例えば、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類、ジカルボン酸とジオールなどを共重合した共重合ポリグリコール酸及びそれらに副次成分として添加物を混合したものを包含する。乳酸、グリコール酸以外のヒドロキシカルボン酸の例としては、ヒドロキシブチルカルボン酸、ヒドロキシ安息香酸などがある。ラクトンの例としては、ブチロラクトン、カプロラクトンなど、ジカルボン酸の例としては炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸がある。ジオールの例としては、炭素数2〜20の脂肪族ジオールがあげられる。
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレンエーテルなどポリアルキレンエ〜テルのオリゴマー及びポリマーも共重合成分として用いられる。同様にポリアルキレンカーボネートのオリゴマー及びポリマーも共重合成分として用いられる。添加物の例としては、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、無機粒子、各種フィラー、離型剤、可塑剤、その他類似のものが挙げられる。これらの共重合成分及び添加剤の添加率は任意であるが、主成分は乳酸又は乳酸由来のもので、共重合成分及び添加剤は50重量%以下、特に30%以下とすることが好ましい。
本発明のポリマー合成方法及び装置は、ポリマー原料を溶融状態で重合させてポリマーを連続的又は間欠的に合成するためのものであり、溶融状態にある原料及び触媒を含む反応液を反応装置で加熱し、重合反応を行うものである。原料とは、重合反応によりポリマーを合成するための構成要素となる、モノマー、環式モノマー、モノマーの環式縮合物及びオリゴマー等を意味する。ポリ乳酸の合成においては、原料としてラクチドを使用し、溶融状態にある原料ラクチド及び触媒を含む反応液を反応装置で加熱し、ラクチドの開環重合反応を行うことにより、ラクチドを溶融状態で重合させてポリ乳酸を連続的又は間欠的に合成する。また、ポリグリコール酸の合成においては、原料としてグリコリドを使用する。溶融状態にある原料グリコリド及び触媒を含む反応液を反応装置で加熱し、グリコリドの開環重合反応を行うことにより、グリコリドを溶融状態で重合させてポリグリコール酸を連続的又は間欠的に合成する。本明細書において、反応液とは、溶融したポリマー原料、溶融原料と触媒の混合物、溶融原料と触媒と各種重合度の重合物との混合物など、ポリマーの合成行程で流通する溶融物や生成物などを全て包含するものとする。
本発明において、連続的又は間欠的に合成するとは、当技術分野において通常用いられる意味である。原料の供給と生成物であるポリマーの排出を行う時間帯が少なくとも一部重なる場合や、原料の供給を連続的又は間欠的に行い、ポリマーを連続的又は間欠的に排出する場合を含むものである。
原料が溶融状態にある場合は、溶融原料にそのまま触媒を添加して反応装置に供給し、重合反応に付すことができるが、原料が粉体状などの固形状である場合は、原料溶融装置によって原料を加熱することにより、予め原料を溶融する。原料溶融装置における加熱温度は、原料の融点以上であれば特に制限されない。従って、原料がラクチドである場合、95℃以上であれば特に限定されないが、通常95〜160℃、好ましくは110〜130℃である。160℃以下の温度とすることにより、ラクチドの熱による劣化を防止することができる。また、原料がグリコリドである場合、83℃以上であれば特に限定されないが、通常83〜160℃、好ましくは90〜130℃である。160℃以下の温度とすることにより、グリコリドの熱による劣化を防止することができる。
重合反応のための触媒としては、合成するポリマーによって好適なものを適宜選択できる。例えば、ラクチド、グリコリドの開環重合に用いられる触媒としては、従来公知のポリ乳酸、ポリグリコール酸の重合用触媒を用いることができる。例えば、周期表IA族、IVA族、IVB族及びVA族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属又は金属化合物を含む触媒を用いることができる。
IVA族に属するものとしては、例えば、有機スズ系の触媒(例えば、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジラウリル酸スズ、ジパルミチン酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α〜ナフトエ酸スズ、β〜ナフトエ酸スズ、オクチル酸スズ等)、及び粉末スズ等が挙げられる。
IA族に属するものとしては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)、アルカリ金属と弱酸の塩(例えば、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、オクチル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、乳酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム、オクチル酸カリウム等)、アルカリ金属のアルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド等)等が挙げられる。
IVB族に属するものとしては、例えば、テトラプロピルチタネ〜ト等のチタン系化合物、ジルコニウムイソプロポキシド等のジルコニウム系化合物等が挙げられる。VA族に属するものとしては、例えば、三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物等が挙げられる。これらの中でも、有機スズ系触媒又はスズ化合物が活性の点から特に好ましい。
触媒は、当技術分野で通常用いられる触媒添加装置により溶融原料に添加することができる。溶融原料に触媒を添加してから反応槽に供給してもよいし、又は反応槽に直接触媒を添加してもよい。
本発明において、原料を重合するための反応装置は、直列的に接続された3個以上の反応槽を含み、該反応槽内で溶融原料及び触媒を含む反応液を加熱することにより重合反応を行うものである。反応装置に含まれる反応槽の数は、3個以上であればよく、通常3〜5個、好ましくは3〜4個、より好ましくは3個である。
以下に、重合反応のための反応方法、及び装置の実施形態について説明する。
本発明の一実施形態においては、原料溶融物と最終重合物の中間状態の重合物に原料溶融物を追加添加し、攪拌・混合を行う。重合反応を実施するための反応装置は、直列的に接続された3個以上の中間反応槽を含み、中間合成物にポリマー原料を追加供給・攪拌を行う中間反応槽を、第1段目及び最終段以外の位置に設置された中間反応槽を使用することが望ましい。ただし、特に問題がなければ、2個以下の反応槽で構成された反応装置を用いて、ポリマー原料の供給口と最終ポリマー排出口の間で原料の追加添加、中間重合物との攪拌・混合を行ってもかまわない。
反応槽の形状等については、特に制限されず、当技術分野で通常用いられるものを使用できる。上記実施形態は、実質的に重合反応が行われていないような槽をそれ以前の段に含む反応装置を使用する場合も、本発明の範囲に包含される。ここでは重合反応を実施するための反応装置として、直列的に接続された3個の反応槽を含み、第2段目の中間反応槽の中間合成物にポリマー原料を追加供給・攪拌を行う反応槽を使用する場合を説明する。
第1段目の反応槽としては特に制限されず、当技術分野で通常用いられるものを使用できるが、その回転軸が実質的に水平になるように設置された攪拌装置及びその槽内に設置された少なくとも1つの堰を有する反応槽を使用することが望ましい。以下、その回転軸が実質的に水平になるように設置された攪拌装置を有する上記反応槽を横型反応槽と称する。実質的に水平とは、攪拌装置の回転軸が厳密に水平であることを意図するものではなく、水平面と回転軸とのなす角度が、通常、−5°〜+5°、好ましくは−1°〜+1°、より好ましくは0°であることを意味する。
横型反応槽の形状は、撹拌装置を、その回転軸が実質的に水平になるように設置できるような形状であればタンク型でも筒型でもよく特に制限されないが、好ましくは実質的に水平な中心軸を有する円筒状である。そして、該横型反応槽は、撹拌装置の回転軸方向の一端に溶融原料を含む反応液を供給するための供給口を有し、他端に反応液を取り出すための排出口を有する。従って、供給された反応液は供給口から排出口の方向に、実質的に水平方向に移っていくことになる。供給口は、撹拌装置の軸より下側に位置するのが好ましく、排出口は撹拌装置の回転軸より下側に位置するのが好ましい。
横型反応槽に設置される撹拌装置としては、実質的に水平方向に配置される回転軸を中心とした回転により攪拌を行うものであれば特に限定されない。例えば、円形、長円形、3角形、4角形及び多葉形などの攪拌翼が回転軸上に間隔をあけて2枚以上設置された1軸又は互いに噛み合う2軸以上の混合機などが挙げられる。互いに噛み合う2軸以上の撹拌装置は、撹拌装置の回転軸や反応槽への反応液の付着を防止することができるため、セルフクリーニング作用の観点から好ましい。複数の攪拌翼を有する2軸の混合機を使用する場合は、各回転軸の攪拌翼が互い違いに設置されているのが好ましく、また、各回転軸を逆方向に回転させるのが好ましい。回転軸は、必ずしも実在の回転軸部材を意味するものではなく、単なる回転中心としての回転軸線をも包含する。従って、撹拌装置の回転運動の回転中心が実質的に水平に配置されるものであれば、必ずしも実在の回転軸部材は存在しなくてもよい。
横型反応槽における加熱方法としては、当技術分野において通常用いられる方法を使用することができる。例えば、反応槽外周部に熱媒のジャケットを設置し、反応槽壁面を通して伝熱により反応液を加熱する方法、あるいは攪拌装置の回転軸内部に熱媒を通して、伝熱により加熱する方法等、様々な方法がある。これらを単独で使用しても組み合わせて使用してもよい。反応槽を実質的に一定の温度で加熱することが好ましい。横型反応槽内に供給された溶融原料は当初、上記加熱方法より加熱されて重合するが、反応熱に伴う温度上昇により、反応液の温度が熱媒よりも高くなると逆に反応液から熱媒に熱が逃げることになる。すなわち、上記加熱方法は、冷却方法としても作用しうる。そのため重合反応によって反応熱が発生するようなポリマーの場合には、熱を効果的に逃がすことができ、有利である。
必要に応じて、反応槽内部を複数個の領域に区分けし、区分けした領域ごとに熱媒温度を変えられるような加熱方法を使用してもよい。そのために複数個の熱媒ジャケットを利用することが考えられる。反応槽内部は、例えば、堰間の領域に基づいて区分けすることができる。これにより、例えば低温の反応液を加熱する領域では熱媒温度を高く設定し、反応熱により反応液温度が高くなり除熱が必要となる領域では逆に熱媒温度を低く設定するといったことが可能となる。熱媒加熱装置で加熱した熱媒を供給口付近に供給することによって反応槽内部に温度勾配を設定することもできる。熱媒温度が低くなると、一部溶融物が固化して反応槽内面に付着する可能性があるが、この場合は、反応槽に設置された撹拌装置により付着物を引き剥がすことができる。
横型反応槽は、その槽内に設置された堰を有するのが望ましい。この堰は、反応槽供給口から排出口に向けて反応液が急速に流れるのを阻害するように設置される。堰の形状は、反応液の流れの阻害が可能な形状であればよく、反応槽の形状に基づいて決定することができ、好ましくは板状である。堰の設置方法についても特に制限されないが、例えば、堰が板状である場合は、水平面に対し垂直に近い角度となるように設置される。また、攪拌装置回転軸と垂直な反応槽断面における下側、例えば下側半分又は1/3を遮るように、反応槽の底部内壁に設置される。ここで、水平面に対し垂直に近い角度とは、水平面と板状の堰とのなす角度が、85〜95°、好ましくは89〜91°、より好ましくは90°であることを意味する。堰の材質としては、断熱性を有するものを使用するのが好ましい。
ポリマーの流通性を高める観点から、堰には貫通孔を設置する場合もあり、貫通孔は、反応槽の底部に近い部分、好ましくは反応槽底部内壁との境目に存在する。貫通孔の数は、通常1〜10個、好ましくは1〜5個である。上記のような貫通孔を設けることにより、反応液を適度な速度で流通させることができる。堰の設置位置及び間隔等は、当業者であれば反応条件等に基づき適宜決定することができる。例えば、ポリマーの粘度分布が同程度になる領域を分けるように堰の設置位置を決定することができる。また、反応槽内の堰の設置位置を決めた後、所定の流量で反応液が貫通孔を通過する際の抵抗が、堰の前後における反応液ヘッド差による駆動力よりも小さくなるように貫通孔の孔径を決定することができる。
2つの堰間の領域は、単一の混合セルと同様に作用し、攪拌装置によって攪拌されることにより反応液が均一化される。これにより、粘度の低い原料溶融物や重合度の低い低粘度の重合物が、重合度の高い高粘度の重合物よりも速く流れて最終ポリマー中に両者が混ざり合う影響を抑制することができる。なお、重合物の粘度がある程度期待でき上記の混ざり合う効果が小さいときには堰を省略してもよい。
横型反応槽における供給口と排出口において、ヘッド差を設けることにより、反応液が供給口から排出口へと移動するための駆動力を与えることができる。反応液は、上記貫通孔を通って流れるか、あるいは堰よりも高い位置にある反応液がヘッド差により後段の領域に流れることにより、横型反応槽を排出口方向へ流れることができる。横型反応槽において、反応液の供給量は特に制限されないが、横型反応槽の容量に対し、通常10〜70%、好ましくは40〜50%まで液が張り込まれる量で供給される。また、堰の高さを超えない量で供給するのが好ましい。こうすれば、未反応のラクチドが急速に流れるのを、効果的に抑制できるからである。横型反応槽には、必要に応じて反応液の液面を測定する装置を設置し、計測信号を反応槽供給口の送液ポンプ又は反応槽排出口の送液ポンプ等にフィードバックすることにより、液面の高さが所定値となるよう反応液の輸送量を調節することができる。
液面の測定方法としては、例えば、放射性物質を横型反応槽上部に設置し、そこから発生するガンマ線の反応液に対する透過量により測定する方法がある。また、横型反応槽の上部から超音波又は電磁波を発射してその反射波を計測することにより測定する方法がある。更に、横型反応槽上部に筒状のコンデンサーを設置して、これを反応液中に差込み、筒内部の反応液高さに伴う誘電率の変化を計測することで測定する方法等が挙げられる。
第1段目の横型反応槽における反応条件については、当業者であれば適宜決定することができるが、反応槽内の平均反応温度は、通常140〜180℃、好ましくは160〜170℃、滞留時間は、通常5〜15時間、好ましくは7〜10時間である。第1段目の横型反応槽の排出口から、重量平均分子量が、通常5万〜20万、好ましくは7万〜15万の重合物が得られるように反応条件を設定することが好ましい。
第1段目の反応槽を横型反応槽とし、第1段目の反応槽内に上記のような堰を設けることにより、粘度が低い溶融原料並びに重合度・粘度の低い重合物が、ある程度重合反応が進んだ重合物と混合するのを抑制する。それにより、反応槽内でのピストンフロー性を確保することができる。そして、反応液が未反応のまま次の行程に移動することを防止でき、第1段目の反応槽において十分な反応を行うことができる。従って、滞留時間のばらつきに由来する温度履歴の長時間化が防止されるため、熱分解による重合物の劣化が抑制され、高品質のポリマーを得ることができる。
第2段目の中間反応槽としては特に制限されず、当技術分野で通常用いられるものを使用できるが、横型反応槽で、かつ複数の攪拌翼を有する回転軸が2本ある混合機が好ましい。混合機の形態については、各回転軸上に所定の間隔をあけて攪拌翼が2枚以上設置されたものが望ましい。これにより撹拌装置の回転軸や反応槽への重合物等の付着を防止することができるためで、セルフクリーニング作用の観点から、重合反応が進み重合物の粘度が上昇している後段の反応槽においては特に有効である。回転軸の回転方向については、攪拌翼が互いに噛み合うようにされていれば、各回転軸を逆方向に回転させるもの、同じ方向に回転するもののいずれでも構わない。
攪拌翼の形状については例えば、円形、長円形、3角形、4角形及び多葉形など一般的なものを用いることができ、特に限定されない。そして、該横型反応槽は、撹拌装置の回転軸方向の一端に溶融原料を含む反応液を供給するための供給口を有し、他端に反応液を取り出すための排出口を有する。従って、供給された反応液は供給口から排出口の方向に、実質的に水平方向に移っていくことになる。供給口は、撹拌装置の軸より下側に位置するのが好ましく、排出口は撹拌装置の回転軸より下側に位置するのが好ましい。
第2段目の反応槽では、原料溶融物と最終重合物の中間状態の重合物(以下、プレポリマー)に原料溶融物を追加添加し、攪拌・混合を行いながら重合反応を進める。原料溶融物とプレポリマーの混合により、プレポリマーに蓄積した反応熱が原料溶融物に移行してプレポリマーの温度が低下し、その熱分解を抑制することができる。また、その際、原料溶融物はプレポリマーから熱を受けることにより、重合器等、外部からの加熱が少なくても重合反応の進捗に必要となる温度を得ることができる。その際、原料溶融物とプレポリマーの間で粘度の違いが大きい場合、攪拌による混合性が低下する可能性がある。
このような場合、例えば特開平6−218260号公報に開示されている発明にあるような、一方の回転軸に設置されている攪拌翼が他方の回転軸の攪拌翼と微小間隔を介して配置される攪拌装置が有効となる。これは翼間の間隔が狭いことにより、翼間にある原料溶融物とプレポリマーに対して大きなせん断力が攪拌で与えられ、混合性が向上するためである。原料溶融物とプレポリマーの混合性が増すことで、プレポリマーに蓄積した反応熱がプレポリマーよりも低温の原料溶融物に移行性が向上し、プレポリマーの熱分解抑制性能が向上する。追加添加する原料溶融物には触媒や重合開始剤が含まれていてもよいが、分子量分布が広がり、最終ポリマーの安定性が損なわれるのを防ぐ上では、通常はこれらが含まれていないのが好ましい。
横型反応槽における加熱方法、反応槽内部を複数個領域に区分けして加熱する方式に液面の測定方法については、一段目の横型攪拌機と同様の扱いとなる。また、必要に応じて反応槽供給口から排出口に向けて反応液が急速に流れるのを阻害するため、槽内に堰を設置してもよい。
第2段目の中間反応槽における反応条件については、当業者であれば適宜決定することができるが、反応槽内の平均反応温度は、通常140〜200℃、好ましくは160〜180℃、滞留時間は、通常0.5〜15時間、好ましくは1〜5時間である。第2段目の反応槽の排出口から、重量平均分子量が、通常7万〜30万、好ましくは10万〜20万の重合物が得られるように反応条件を設定することが好ましい。
第2段目の中間反応槽でプレポリマーに原料溶融物を追加添加し、攪拌・混合を行いながら重合反応を進めることにより、熱分解による重合物の劣化が抑制され、高品質のポリマーを得ることができる。
第3段目の反応槽としては、重合反応を行うための反応装置として、その回転軸が水平面に対して実質的に垂直になるように設置された攪拌装置を有する反応槽を少なくともその最終段に含む反応装置を使用する。以下、その回転軸が水平面に対して実質的に垂直になるように設置された攪拌装置を有する上記反応槽を縦型反応槽と称する。この実施形態において、反応装置は、少なくとも最終段に縦型反応槽を有するが、最終段以外の段にさらに縦型反応槽を有していてもよい。最終段以外の反応槽の形状等については、特に制限されず、当技術分野で通常用いられるものを使用できる。上記実施形態は、最終段に縦型反応槽を含む反応装置を使用するものであるが、実質的に重合反応が行われていないような槽をそれ以降の段に含む反応槽を使用する場合も、本発明の範囲に包含される。
水平面に対して実質的に垂直とは、攪拌装置の回転軸が厳密に垂直であることを意図するものではなく、水平面と回転軸とのなす角度が、通常85〜95°、好ましくは89〜91°、より好ましくは90°であることを意味する。横型反応槽と同様に、上記回転軸は、必ずしも実在の回転軸部材を意味するものではなく、単なる回転中心としての回転軸線をも包含する。従って、撹拌装置の回転運動の回転中心が水平面に対して実質的に垂直に配置されるものであれば、必ずしも実在の回転軸部材は存在しなくてもよい。
縦型反応槽の形状は、撹拌装置を、その回転軸が水平面に対して実質的に垂直になるように設置できるような形状であればタンク型でも筒型でもよく特に制限されないが、好ましくは、攪拌装置の回転軸と実質的に平行に中心軸を有する円筒状である。そして、該縦型反応槽は、攪拌装置回転軸方向の一端に前段の反応槽からの反応液を供給するための供給口を有し、他端に反応液を取り出すための排出口を有する。従って、供給された反応液は供給口から排出口の方向に、実質的に垂直方向に移っていくことになる。供給口は反応槽の上部に存在し、排出口は反応槽の下部に存在するのが好ましい。重合反応の進展に伴い重合物の比重が大きくなっていくため、上部に供給口を設けることにより、重合度の低い重合物が重合度の高い重合物に混入するのを抑制することができる。
縦型反応槽に設置される撹拌装置としては、水平面に対して実質的に垂直に配置される回転軸を中心とした回転により攪拌を行うものであれば特に限定されない。例えば、円形、長円形、3角形、4角形及び多葉形などの攪拌翼が回転軸上に間隔をあけて2枚以上設置された1軸又は互いに噛み合う2軸以上の混合機などが挙げられる。複数の攪拌翼を有する2軸の混合機であって、各回転軸の攪拌翼が互い違いになるように設置されているものが好ましい。また、この場合、各回転軸を逆方向に回転させるのが好ましい。互いに噛み合う2軸以上の撹拌装置は、撹拌装置の回転軸や反応槽への重合物等の付着を防止することができ、セルフクリーニング作用の観点から、重合反応が進み重合物の粘度が上昇している後段の反応槽において使用するのが特に有利である。
縦型反応槽における加熱方法としては、横型反応槽の場合と同様に、当技術分野において通常用いられる方法を使用することができる。例えば、反応槽外周部に熱媒のジャケットを設置し、反応槽壁面を通して伝熱により反応液を加熱する方法、あるいは攪拌装置の回転軸内部に熱媒を通して、伝熱により加熱する方法等、様々な方法がある。これらを単独で使用しても組み合わせて使用してもよい。
縦型反応槽内に供給された溶融原料は当初、上記加熱方法より加熱されて重合反応が進むが、反応熱に伴う温度上昇により、反応液の温度が熱媒よりも高くなると逆に反応液から熱媒に熱が逃げることになる。従って、横型反応槽の場合と同様に、必要に応じて、反応槽内部を複数個の領域に区分けし、区分けした領域ごとに熱媒温度を変えられるような加熱方法を使用してもよい。これにより例えば、低温の反応液を加熱する領域では熱媒温度を高く設定し、反応熱により反応液温度が高くなり除熱が必要となる領域では逆に熱媒温度を低く設定するといったことが可能となる。除熱がさらに必要な場合には、例えば、縦型反応槽内部にフィン(反応槽内の側面の凹凸)を設置することにより、除熱効率をさらに向上させることもできる。また、熱媒加熱装置で加熱した熱媒を排出口付近に供給することにより、ポリマーを保温し、冷え過ぎるのを防止する態様も考えられる。
重合反応後段においては高温で反応を行うのが好ましいため、温度上昇に伴う重合物の劣化が問題となるが、最終段に縦型反応槽を用いることで、温度上昇を抑制することができ、重合物が劣化し着色する問題を低減することができる。
縦型反応槽において、反応液の供給量は特に制限されないが、縦型反応槽の容量に対し、通常20〜100%、好ましくは60〜100%まで液が張り込まれる量で供給される。従って、反応液が反応槽容量の通常の半量程度しか導入されない従来の横型反応槽と比較して、反応液が反応槽内壁と接する面積が大きく、伝熱面積を広く取ることができる(図4)。
原料の重合に伴う反応熱を伝熱により除去することで反応液の温度上昇を低減することができ、重合反応の後段において、生成した重合物の熱分解に伴う劣化を効果的に抑制し、着色を防止することができる。特にラクチドの開環重合においては、ポリ乳酸の着色を効果的に防止することができる。
また、縦型反応槽の内面形状を、凹凸を有する形状とすることにより、伝熱面積をさらに増加させることができ、熱除去効率を向上させることもできる。側面に凹凸を設ける上記態様においては、攪拌翼を反応槽の凹部分と噛み合うように設置することにより、反応槽内壁にこびりついた高粘度の重合物を掻き取ることができる(例えば、図4の反応槽参照)。
縦型反応槽においても横型反応槽と同様に、必要に応じて反応液の液面を測定する装置を設置する。そして、計測信号を反応槽供給口の送液ポンプ又は反応槽排出口の送液ポンプにフィードバックすることにより、液面の高さが所定値となるよう反応液の輸送量を調節することができる。液面の測定方法としては、例えば、放射性物質を横型反応槽上部に設置し、そこから発生するガンマ線の反応液に対する透過量により測定する方法がある。また、縦型反応槽上部から超音波又は電磁波を発射してその反射波を計測する事により測定する方法がある。さらに、縦型反応槽上部に筒状のコンデンサーを設置して、これを反応液中に差込み、筒内部の反応液高さに伴う誘電率の変化を計測することで測定する方法等が挙げられる。
最終段の縦型反応槽における反応条件についても、当業者であれば適宜決定することができるが、反応槽内の平均反応温度は、通常180〜220℃、好ましくは190〜210℃、滞留時間は、通常1〜7時間、好ましくは3〜5時間である。最終段の縦型反応槽の排出口から、重量平均分子量が、通常10万〜50万、好ましくは15〜30万の重合物が得られるように反応条件を設定することが好ましい。
本発明のポリマー合成装置においては、重合のための反応装置の後段に残存原料除去装置を設置して、反応装置から排出される反応液から未反応の原料を除去することができる。残存原料除去装置では、溶融状態を維持しつつ負圧環境を作ることにより、未反応の原料、例えばラクチドが除去される。さらに、本発明の合成方法を経て得られた重合物には、通常、水冷及びチップカッターによるペレット化処理等が施されるが、これらの処理は省略することができる。
本発明のポリマー合成装置に使用される、原料溶融装置、触媒供給装置、各種反応槽を含む反応装置、残存原料除去装置等の装置にはそれぞれ、窒素ガスで内部をパージするための窒素ガス供給配管及び排気管が設置されていることが好ましい。そして、合成プロセスの運転は基本的に、プロセス内の全装置が窒素パージされた後に開始されるのが好ましい。これにより、酸素の存在による反応液の焼け焦げを防ぐことができる。また、原料溶融装置、触媒供給装置、原料供給装置、各種反応槽等は、大気圧程度の圧力で運転するのが好ましい。そうすることにより、溶融原料の揮発を低減することができる。
本発明の別の実施形態においては、反応装置において、プレポリマーに原料溶融物を追加添加し、攪拌・混合を行うと共に、追加添加する原料溶融物について、その温度が原料の融点よりも高く、添加されるプレポリマーの温度よりも低くなるように制御する。追加添加する原料溶融物の温度がその融点よりも高いことにより、これを液体として取り扱い、供給することができると共に、プレポリマーとの混合性を向上することができる。また、プレポリマーの温度よりも低温とすることで、プレポリマーの反応熱を吸収し、混合物全体の温度を低減することを通して、熱分解の抑制に寄与することができる。
追加添加する原料溶融物の温度がその融点よりも高いことを確認するため、原料溶融物の貯蔵タンク内の温度、あるいは反応槽への供給配管内における原料溶融物の温度をタンク又は配管内に挿入した熱伝対で測定する。その結果をタンク、配管の加熱・保温装置にフィードバックして、所定の温度となるように制御すればよい。また、プレポリマーよりも低温とするには、原料溶融物だけでなくプレポリマーの温度についても測定する必要がある。そのためには反応槽内部やプレポリマー供給配管内に熱電対を挿入し、温度を計測すればよく、その結果を原料溶融物のタンク、原料供給配管の加熱・保温装置にフィードバックして、所定の温度となるよう、制御すればよい。
更に、上記のいずれの実施形態においても、反応装置に含まれる反応槽内の温度が後段になるほど高く、該反応槽内の滞留時間が後段になるほど短くなるように設定することが好ましい。反応の初期段階では、熱分解の影響が比較的小さい低温での重合反応を長時間実施することで重合反応をできるだけ進める。重合反応の進捗が遅くなってきた後段では、より高温の条件で重合反応を進めることで、高温条件での反応時間を短縮し、重合物の劣化を抑制することにより着色の少ない高品質のポリマーを得ることができる。この態様においては、例えば、第1段目の反応槽内の温度を、140〜180℃、好ましくは160〜170℃とし、最終段の反応槽内の温度を180〜220℃、好ましくは190〜210℃とし、第1段目から最終段に向けて、順次温度が上がるように温度を設定する。
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
図1に、本発明のポリマー重合装置の一実施例として、ポリ乳酸重合装置の実施例を示す。本実施例では、ラクチド供給装置1〜3、ラクチド溶融装置4〜6、触媒供給装置7〜9、重合開始剤供給装置10〜12、ラクチド供給装置13〜15、横型反応槽16、追加添加原料混合槽17、縦型反応槽18、残存ラクチド除去装置19、送液ポンプ20〜35、バルブ36〜51を備える装置によってポリ乳酸の重合を行う。本実施例は、反応装置として横型反応槽16、追加添加原料混合槽17、縦型反応槽18の3つが直列的に接続されており、追加添加原料混合槽17への原料追加添加を2系統で実施する反応装置を用いる例である。追加添加原料混合槽17への原料追加添加の系統数については必要に応じて増減することができる。送液ポンプ20〜35については、輸送する液の粘度が低く、重力を利用して送液できる場合等については、一部省略することができる。また、バルブ36〜51についても必要に応じて省略することができる。
ラクチド供給装置1〜3は、固体または粉体状のラクチドをラクチド溶融装置4〜6に供給する。ラクチド供給装置1〜3の輸送方式として、例えばスクリューフィーダによる輸送、超音波振動による輸送、ガス流による輸送等の方式がある。ラクチド溶融装置4〜6では送られてきたラクチドを加熱して溶融する。その際の温度は、ラクチドの融点以上で、望ましくは熱による劣化が起こらないよう160℃以下の範囲とする。
原料ラクチドが固体または粉体状ではなく液体で供給される場合にはラクチド供給装置1〜3は送液ポンプとなり、ラクチド溶融装置4〜6はバッファタンクとして機能する。ラクチド溶融装置4〜6で生成した溶融ラクチドはバルブ36〜38を開いた後、送液ポンプ20〜22により排出され、バルブ39〜44を開き、ポンプ23〜28を用いて、触媒供給装置7〜9、及び重合開始剤供給装置10〜12から触媒及び重合開始剤が、溶融ラクチドが供給された後、ラクチド供給装置13〜15に供給される。
なお、送液ポンプ20〜22により排出される溶融ラクチドの流量、触媒供給装置7〜9から供給される触媒量の溶融ラクチド流量に対する割合、及び重合開始剤供給装置10〜12から供給される重合開始剤の溶融ラクチド流量に対する割合は、同一である必要はない。それらは必要に応じて変更することができる。さらに追加添加の溶融ラクチドに触媒や重合開始剤を添加する必要がない場合には、バルブ40〜41、43〜44、ポンプ24〜25、27〜28、触媒供給装置8〜9、及び重合開始剤供給装置11〜12を省略することができる。
ラクチド供給装置13〜15では溶融ラクチドの温度をラクチドの融点以上で、望ましくは160℃以下の範囲に保持する。ラクチド供給装置13〜15は本質的にバッファ〜タンクであり、必要なければ省いてもよい。ラクチド供給装置13の溶融ラクチドはバルブ45を開き、送液ポンプ29により横型反応槽16に連続供給される。なお、ラクチド供給装置13を省略する場合は送液ポンプ29も省略される。送液ポンプ20〜29、31〜32の前後の送液配管は、温度低下に伴うラクチドの凝固、閉塞を回避するため、全て、加熱・保温等によりラクチドの融点以上で、望ましくは160℃以下の範囲に保持される。
ラクチド溶融装置4〜6、ラクチド供給装置13〜15、送液ポンプ20〜22、29、31〜32の前後の配管内には熱電対が挿入されており、各位置における溶融原料の温度を測定する。
横型反応槽16内では、溶融ラクチドが供給口と排出口の間のヘッド差により流れ、重合反応が進行する。横型反応槽16において反応液は、反応槽外周部の熱媒のジャケットによって加熱される。
堰を有する横型反応槽16の拡大図を図2に示す。攪拌装置の回転軸83には一定間隔で攪拌翼84が設けられている。横型反応槽16内部には貫通孔52を有する堰53が設置されている。堰間の領域54では攪拌翼84により反応液が均一化される(この領域は単一の混合セルと見なすことができる)。そして、堰よりも高い位置にある反応液のみがヘッド差により後段の混合セルに流れることができる。横型反応槽16内部の反応液はバルブ48を開いた状態で、重力及び送液ポンプ30により追加添加原料混合槽(中間反応槽)17に輸送される。送液ポンプ30については、反応液の粘度に応じて抜き出し用のスクリュー、ギアポンプ等を選定できる。
また、横型反応槽16から重力で反応液を抜き出すことが可能な場合は送液ポンプ30を省略することができる。送液ポンプ30前後の輸送配管は内部の反応液の凝固に伴う閉塞を回避するため、加熱・保温が必要である。その際の温度としては反応液が熱分解しないよう、200℃以下であることが望ましい。横型反応槽16内部では必要に応じて反応液の液面を測定する装置(液面計55)を設置し、液面の高さが所定値となるよう、計測信号を送液ポンプ29、又は送液ポンプ30にフィードバックし、反応液の輸送量を調節する。図2及び図3においても、反応槽には液面計55,58を設置するのが好ましい。
追加添加原料混合槽17内では、プレポリマーが供給口と排出口の間のヘッド差により流れ、重合反応が進行する。追加添加原料混合槽17において反応液は、反応槽外周部の熱媒のジャケットによって加熱される。
追加添加原料混合槽または中間層反応槽17の拡大図を図3(a)、(b)、(c)に示す。本ケースでは図3(c)に示すように、攪拌翼56の回転軸57は同じ方向に回転する。各攪拌翼は隣の軸の攪拌翼及び回転軸と微小な間隔だけ離れて回転するように設置される。攪拌翼間の微小な間隔の中に比較的粘度の高いプレポリマーと粘度の低い追加供給の溶融原料の混合物が入ると、前後の位置にある翼の回転により大きなせん断力を受けて混合物の粘度が低下するので、混合物の均一化が進行する。
追加添加原料混合槽17内では、各位置でのプレポリマーと追加供給の溶融原料の混合物における粘度に従い、所定の攪拌翼数の領域が実質的に完全混合槽と見なすことができる領域が複数生成する。この領域は、その後の領域への混合物の局所的な逆流現象が存在しない単一の混合セルである。この完全混合槽数は追加添加原料混合槽17における原料の追加添加系統数以上あることが望ましい。
ラクチド供給装置14〜15の溶融ラクチドはバルブ46〜47を開き、送液ポンプ31〜32により追加添加原料混合槽17に連続供給される。なお、ラクチド供給装置14、15を省略する場合は送液ポンプ31、32も省略される。追加添加原料混合槽17内におけるプレポリマー流れ方向で追加添加原料供給口の位置において、プレポリマーと追加供給の溶融原料の混合物温度を測定する。測定は上記位置に熱電対を挿入して実施する。ラクチド供給装置14〜15の溶融ラクチド流量は追加添加原料混合槽17内のプレポリマーと追加供給の溶融原料の混合物温度が所定の値となるよう制御される。
追加添加原料混合槽17内部の反応液はバルブ49を開いた状態で、重力及び送液ポンプ33により縦型反応槽18に輸送される。送液ポンプ33については、反応液の粘度に応じて抜き出し用のスクリュー、ギアポンプ等を選定できる。また、追加添加原料混合槽17から重力で反応液を抜き出すことが可能な場合は送液ポンプ33を省略することができる。
送液ポンプ33前後の輸送配管は内部の反応液の凝固に伴う閉塞を回避するため、加熱・保温が必要である。その際の温度としては反応液が熱分解しないよう、200℃以下であることが望ましい。追加添加原料混合槽17内部では必要に応じて反応液の液面を測定する装置(液面計58)を設置し、液面の高さが所定値となるよう、計測信号を送液ポンプ30にフィードバックし、反応液の輸送量を調節する。あるいは追加添加原料混合槽17を満液状態で運転する場合、液面計58は特に必要でなければ除去することができると共に、送液ポンプ33は送液ポンプ30〜32の流量に合わせて調整される。
反応液は、縦型反応槽18の上部に設置された供給口に輸送され、重力により縦型反応槽18下部の排出口を目指して流れ、重合反応が進行する。これにより、重合度の低い重合物が重合度の高い重合物に混入するのを防止することができる。縦型反応槽18において反応液は、反応槽外周部の熱媒のジャケットによって加熱、または熱媒温度が重合物よりも低い場合は除熱される。
図4(a),(b)に示す縦型反応槽18では横型反応槽16と比べて伝熱面積が大きく取れるため、加熱、除熱の効率が高い。このため、最終段に縦型反応槽18を用いることで、反応熱に伴う温度上昇で重合物が劣化するのを低減することができる。縦型反応槽18では、高粘度重合物の攪拌に適している、攪拌翼56‘が設置された回転軸57’を2本持った攪拌装置(以下、2軸攪拌装置と呼ぶ)を用いる。本反応槽は内部側面に凹凸を有する形状を有しており、これにより伝熱面60を大きく取ることができるので、重合物の温度が熱媒よりも高い場合は除熱量が大きくなり、重合物が熱劣化する影響をさらに低減することができる。なお、除熱量を大きくとる必要がない場合には、このような凹凸状の側面とする必要はない。なお、窒素ガス流通バルブ61〜80によって、反応槽内の反応物が酸素等により劣化するのを防止する。
縦型反応槽18の内部の反応液はバルブ50を開いた状態で、重力及び送液ポンプ34により連続排出され、図1に示す残存ラクチド除去装置19に輸送される。送液ポンプ34として、反応液の粘度に応じて抜き出し用のスクリュー、ギアポンプ等を選定できる。送液ポンプ34前後の輸送配管は内部の反応液の凝固に伴う閉塞を回避するため、加熱・保温が必要である。その際の温度としては重合物が熱分解しないよう、200℃以下であることが望ましい。縦型反応槽18の内部には、横型反応槽16の場合と同様、必要に応じて反応液の液面を計測する装置(液面計59)を設置し、液面の高さが所定値となるよう、計測信号を送液ポンプ33、又は送液ポンプ34にフィードバックし、反応液の輸送量を調節する。
残存ラクチド除去装置19では溶融状態を維持しつつ負圧環境を作り、未反応のラクチドを除去処理する。処理後の反応液はバルブ51を開いた状態で送液ポンプ35により連続排出される。送液ポンプ35としては、反応液の粘度に応じて抜き出し用のスクリュー、ギアポンプ等を選定できる。排出された重合物は通常、水冷、チップカッターによるペレット化処理が施される。
以上の各反応槽の出入り口における、好ましい温度範囲を整理すると、以下のとおりである。図2の原料入り口aにおける原料モノマーの温度は、100〜140℃、出口bの温度は150〜210℃となるように制御するのが好ましい。中間反応槽における入り口cの温度は150〜210℃、出口dの温度が150〜210℃になるように制御する。更に、最終段の反応槽の入り口eの温度は150〜210℃、出口fの温度が170〜220℃になるように制御するのが好ましい。
図1に示す実施例においては、ラクチド供給装置1〜3、ラクチド溶融装置4〜6、触媒供給装置7〜9、重合開始剤供給装置10〜12、ラクチド供給装置13〜15、横型反応槽16、追加添加原料混合槽17、縦型反応槽18を備える。残存ラクチド除去装置19にはそれぞれ、窒素ガスで内部をパージするための窒素ガス供給配管、排気管61〜80が設置されている。これは酸素の存在による反応液の焼け焦げを防ぐためである。プロセスの運転は基本的に、プロセス内の全装置を窒素パージした後に開始されるのが望ましい。また、ラクチド供給装置1〜3、ラクチド溶融装置4〜6、触媒供給装置7〜9、重合開始剤供給装置10〜12、ラクチド供給装置13〜15、横型反応槽16、追加添加原料混合槽17、縦型反応槽18は大気圧程度の圧力で運転する。これは溶融ラクチドの揮発を低減するためである。
(実施例2)
実施例1で示した装置によってポリ乳酸を重合した。ラクチド溶融装置2〜4の温度を120℃に設定し、横型反応槽16に、触媒及び重合開始剤を分散した溶融ラクチド(分子量144)を120℃で供給した。横型反応槽16内において、反応液を平均温度160℃、滞留時間10時間に保持した。滞留時間の前半においては、反応槽外周部のジャケットからの熱伝導により加熱され、後半においては、重合に伴う反応熱に伴い重合物自身の温度が上昇したが、一部の反応熱は反応槽の内壁を介して熱伝導により除去された。横型反応槽から排出されたポリ乳酸は、重合反応度(転化率)が30%(重合反応度=1−残存ラクチド濃度/初期ラクチド濃度として算出)、重量平均分子量7万、粘度100Pa・s程度であった。
この重合物を、次に追加添加原料混合槽17に供給した。追加添加原料混合槽17において、重合物は平均温度190℃、滞留時間2時間に保持し、その間、2箇所から100℃の溶融原料の追加添加を行った。追加添加量はプレポリマー流量の50%であった。滞留時間の間、重合に伴う反応熱に伴い重合物自身の温度が上昇したが、一部の反応熱は追加添加モノマーの温度上昇により吸収され、また、反応槽の内壁を通して熱伝導により除去された。なお、重合反応の進展に伴い、単位体積当たりの発熱率は低下するため、発熱率が熱伝導による熱の除去率を上回る間は重合物自身の温度は上昇するが、下回るようになると重合物自身の温度は低下する。追加添加原料混合槽17から排出されるポリ乳酸は、重合反応度で60%、重量平均分子量14万、粘度1000Pa・s程度であった。
この重合物を、次に縦型反応槽18に供給した。縦型反応槽18において、重合物は平均温度190℃、滞留時間3時間に保持した。滞留時間の間、重合に伴う反応熱に伴い重合物自身の温度が上昇したが、一部の反応熱は反応槽の内壁を通して熱伝導により除去された。なお、重合反応の進展に伴い、単位体積当たりの発熱率は低下するため、発熱率が熱伝導による熱の除去率を上回る間は重合物自身の温度は上昇するが、下回るようになると重合物自身の温度は低下する。縦型反応槽18から排出されるポリ乳酸は、重合反応度で85%、重量平均分子量20万、粘度2500Pa・s程度であった。
得られたポリ乳酸の色相(b)を色彩色度計で測定したところ、b=4であった。以上
から、本発明の方法により、b=4以下の着色が少なく高品質のポリ乳酸が得られること
が明らかとなった。
1〜3…ラクチド供給装置、4〜6…ラクチド溶融装置、7〜9…触媒供給装置、10〜12…重合開始剤供給装置、13〜15…ラクチド供給装置、16…横型反応槽、17…追加添加原料混合槽、18…縦型反応槽、19…残存ラクチド除去装置、20〜35…送液ポンプ、36〜51…バルブ、52…貫通孔、53…堰、54…堰間の領域、55、58、59…液面計、56…攪拌翼、57…回転軸、60…凹凸状伝熱面、61〜80…窒素ガス流通バルブ、81…真空ポンプ、83…回転軸、84…攪拌翼。