JP4838953B2 - Yag粉末の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はYAG粉末の製造方法に関し、更に詳細はアルミニウム化合物粉末とイットリウム(Y)含有化合物粉末とを混合粉砕して混合粉体を得た後、前記混合粉体を焼成して実質的にイットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG)粉末を製造するYAG粉末の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
イットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG)粉末を原料に用いた燒結体は、アルミナ(Al2O3)粉末を原料に用いた燒結体に比較して、ハロゲン系ガスに対する耐蝕性、特に1273℃以上の高温でのハロゲン系ガスに対する耐蝕性が良好であり、ハロゲンランプ等の種々の用途に用いられている。
かかるYAG粉末の製造方法としては、アルミニウム化合物粉末としてのアルミナ(Al2O3)粉末とイットリウム(Y)含有化合物粉末としてのY2O3粉末との混合粉体を、1500℃以上で焼成する固相反応法が知られている。
しかし、この固相反応法では、焼成温度が1500℃以上の高温を必要とするため、工業的に実施するには、高温装置を必要とし、ランニングコストも高くなる。
このため、アルミニウム化合物粉末とY2O3粉末との混合粉体の焼成温度を1500℃未満とし得る低温固相反応法が検討されている。
この低温固相反応法としては、特許第2934859号には、Al2O3粉末とY2O3粉末とを室温下でボールミルによってミリングしつつ固相反応を惹起して非平衡状態の粉末を合成した後、1200℃以下で焼成する方法が提案されている。
ここで、「非平衡状態」とは、X線回折パターンにおいて、原料のAl2O3やY2O3の結晶構造に対応するピークがほぼ消失し、ハローパターンが表れる状態を言う。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
かかる特許公報に提案されている低温固相反応法によれば、焼成温度を1200℃以下とすることができ、従来の固相反応法の焼成温度よりも低温とすることはできる。
しかしながら、この低温固相反応法では、Al2O3粉末とY2O3粉末とを室温下でボールミルによってミリングしつつ、両者の固相反応を惹起して非平衡状態となるまでは、約一昼夜ほどの時間が必要である。
この様に、長時間のミリングを必要とする方法では、そのエネルギーも嵩み、工業的には採用し得ないものである。
そこで、本発明の課題は、アルミニウム化合物粉末とイットリウム(Y)含有化合物粉末とを可及的に短時間で混合粉砕した後、1500℃未満の低温で焼成を施し、実質的にYAGから成る粉末を製造し得るYAG粉末の製造方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、前記課題を解決すべく検討した結果、出発原料であるアルミニウム化合物粉末として、アンモニウム−アルミニウム−カーボネイト−ハイドロオキサイド[NH4AlCO3(OH)2]粉末(以下、AACH粉末と称することがある)を用い、AACH粉末とY2O3粉末とを混合し短時間の混合粉砕を施した後、1500℃未満の低温焼成温度で焼成を施すことによって、実質的にYAGから成る粉末が得られることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、アルミニウム化合物粉末とイットリウム(Y)含有化合物粉末とを混合粉砕して混合粉体を得た後、前記混合粉体を焼成して実質的にYAGから成る粉末を製造する際に、該アルミニウム化合物粉末として、NH4AlCO3(OH)2(AACH)を用いることを特徴とするYAG粉末の製造方法にある。
【0005】
かかる本発明において、AACH粉末とイットリウム(Y)含有化合物粉末とを、イットリウム(Y)とアルミニウム(Al)との原子比が3/4.5〜3/5.2となるように混合することが好ましく、AACH粉末とイットリウム(Y)含有化合物粉末との混合粉体を、1400℃以下で且つ実質的にYAGから成る粉末が得られる温度で焼成する温度で焼成することが好ましい。
また、AACH粉末とイットリウム(Y)含有化合物粉末との混合粉砕を、両者を混合して混合スラリーとした後、前記混合スラリーを媒体攪拌型粉砕機によって行うことにより、混合粉砕時間を可及的に短時間とすることができる。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明においては、YAG粉末の原料として用いるアルミニウム化合物として、AACH粉末を用いることが肝要である。このAACH粉末とは、アンモニウム−アルミニウム−カーボネイト−ハイドロオキサイド[NH4AlCO3(OH)2]のことである。
かかるAACH粉末は、窯業協会誌84[5]1976第215〜220頁、或いは特公昭56−9447号公報に記載されている様に、重炭酸アンモニウム溶液とアルミニウム塩溶液とを反応させて得ることができる。
また、このAACH粉末と混合使用されるイットリウム(Y)含有化合物粉末としては、市販されているY2O3粉末又は焼成してイットリアとなるイットリウム化合物粉末を使用できる。
ここで、焼成してイットリアとなるイットリウム化合物粉末としては、水酸化イットリウム、フッ化イットリウム、炭酸イットリウム、シュウ酸イットリウムを挙げることができる。
【0007】
本発明では、AACH粉末とイットリウム(Y)含有化合物粉末とを混合する。その際に、イットリウム(Y)とアルミニウム(Al)との原子比(Y/Al)が3/4.5〜3/5.2、特に3/4.8〜3/5.1となるように混合することが好ましい。
ここで、AACH粉末のイットリウム(Y)含有化合物粉末に対する混合量が過剰となり、混合物の原子比(Y/Al)が3/5.2よりも小さくなると、最終的に得られるYAG粉末中にα―アルミナ相が混在し易くなる傾向にある。
一方、AACH粉末のイットリウム(Y)含有化合物粉末に対する混合量が過小となり、混合物の原子比(Y/Al)が3/4.5よりも大きくなると、最終的に得られるYAG粉末中にイットリウム−アルミニウム−ペロブスカイト(以下、YAPと称することがある)の混在比率が高くなる傾向にある。
【0008】
かかるAACH粉末とイットリウム(Y)含有化合物粉末とを混合して得られた混合物は、スラリー状として混合粉砕を施す。このAACH粉末とイットリウム(Y)含有化合物粉末との混合スラリーは、両粉末を混合した後、水等を供給して混合スラリーとしてもよく、AACH粉末に水等を供給してスラリーとした後、イットリウム(Y)含有化合物粉末を添加して混合スラリーとしてもよい。
この混合スラリーの混合粉砕には、媒体攪拌型粉砕機を用いることが好ましい。媒体攪拌型粉砕機は、「粉砕・分級と表面処理」(2001年4月20日、(有)エヌジーティー発行)の第112〜118頁に記載されているように、小粒径のセラミックビーズ等の媒体を用い、媒体相互間の生ずるせん断力を利用して粉末の微粉砕を行う粉砕機である。
かかる媒体攪拌型粉砕機の一例を図1に示す。図1に示す媒体攪拌型粉砕機は、アトライタ型の湿式媒体攪拌型粉砕機である。このアトライタ型の湿式媒体攪拌型粉砕機は、粉砕する混合粉体が水等の液体に縣濁された混合スラリー14と媒体としての小粒径のセラミックビーズ24,24・・とが充填される容器10と、容器10内に充填された混合スラリー14とセラミックビーズ24,24・・とを攪拌する攪拌装置18と、容器10の外側に、容器10の下方に設けられたノズル20から抜き出された混合スラリー14を、容器10の上方に設けられたノズル22に循環する循環ポンプ26とを具備する。
尚、容器10内の混合スラリー14とセラミックビーズ24,24・・とを、攪拌装置18で攪拌すると、攪拌熱によって混合スラリー14の温度が上昇するため、容器10の外周面に設けたジャケット12に冷却水を流して攪拌熱を除去する。
【0009】
図1に示すアトライタ型の湿式媒体攪拌型粉砕機では、混合スラリー14とセラミックビーズ24,24・・とを攪拌装置18によって攪拌すると、攪拌によってセラミックビーズ24,24・・間に大きなせん断力が発生する。このため、混合スラリー14中の粒子は、セラミックビーズ24,24・・間に発生している大きなせん断力を受けて粉砕される。
本発明で使用できる湿式媒体攪拌型粉砕機としては、図1に示すアトライタ型の他に、前述した「粉砕・分級と表面処理」の第118頁に掲載されているビーズミルやSCミルを使用できる。
ここで、ビーズミルは、粉砕部が二つの回転子と固定子の円錐体で構成されているものであり、400PS程度の中高粘度の混合スラリーに好適に使用できる。また、SCミルは、横型の循環型粉砕機であって、媒体として直径0.1〜1mm程度のビーズを使用するものである。
【0010】
かかる湿式媒体攪拌型粉砕機による混合粉砕は、60〜120分程度でよく、このような短時間では、混合スラリー14中のAACH粉末及びイットリウム(Y)含有化合物粉末としてのY2O3粉末の各結晶形態には、殆ど影響を与えない。このことを図2に示す。
図2は、サンプルとして採取した混合スラリーを乾燥して得た混合粉体のX線回折パターンを示すものである。図2(a)に示すX線回折パターンは、AACH粉末のスラリーとY2O3粉末のスラリーとの各々をボールミルで予備粉砕した後、混合した混合スラリーであって、湿式媒体攪拌型粉砕機による混合粉砕を施す直前の混合スラリーのものである。
また、図2(b)に示すX線回折パターンは、AACH粉末のスラリーとY2O3粉末のスラリーとの各々をボールミルで予備粉砕した後、混合した混合スラリーに、湿式媒体攪拌型粉砕機による混合粉砕を120分間施したものである。
図2(a)(b)に示すX線回折パターンのピーク等を比較すると、両者は殆ど同じであり、湿式媒体攪拌型粉砕機による120分程度での混合粉砕では、混合スラリー中のAACH粉末及びY2O3粉末の各結晶形態には、殆ど影響を与えないことが判る。
【0011】
この様に、混合粉砕が施された混合スラリーは、乾燥して混合粉体とした後、混合粉体に焼成を施してYAG粉末とする。この焼成温度は、1400℃以下で且つ実質的にYAGから成る粉末が得られる温度とすることが好ましく、具体的には1000〜1400℃、特に1050〜1300℃とすることが好ましい。
この焼成温度を、1400℃を越える高温としても、YAG粉末の収率等は既に平衡状態に到達しており、エネルギーロスが増大する傾向にある。一方、焼成温度を1000℃未満の低温とすると、得られる粉末中のYAGの占める率が減少し、実質的にYAGから成るYAG粉末が得られなくなる傾向にある。
ここで、本発明において言う「実質的にYAGから成るYAG粉末」とは、図3に示す様に、得られたYAG粉末のX線回折パターンに表れるYAGについてのメインピークの回折強度[YAG(420)]と、YAPについてのメインピークである回折強度[YAP(121)]との強度比が、YAG(420)/[YAG(420)+YAP(121)]≧0.7を満足するYAG粉末をいう。
このYAG(420)及びYAP(121)は、各ピークのバッググランドを差し引いた正味のピーク長である。
尚、YAGについてのメインピークは、YAG結晶の(420)面についてのものであり、YAPについてのメインピークは、YAP結晶の(121)面についてのものである。
【0012】
【実施例】
以下、本発明ついて実施例によって更に詳細に説明する。
実施例1
AACH粉末944gに4.6リットルの水を加えてスラリーとし、ナイロン製ボールが充填されたボールミルを用いて約5時間の予備粉砕を行った。更に、予備粉砕を施したスラリーに、市販されているY2O3粉末460gを加え、ナイロン製ボールが充填されたボールミルを用いて更に2時間の予備粉砕を施して混合スラリーを得た。
次いで、得られた混合スラリーに、前述した「粉砕・分級と表面処理」に掲載された湿式媒体攪拌型粉砕機を用いて60分間の混合粉砕を施した。この湿式媒体攪拌型粉砕機の媒体としては、直径0.3mmのジルコニアビーズを用いた。
湿式媒体攪拌型粉砕機によって混合粉砕して得られた混合スラリーを、80℃で乾燥した後、36メッシュの網体を通過させて混合粉体とした。
この混合粉体を、大気雰囲気の電気炉中で焼成した。この焼成条件では、焼成温度を1050℃とし、焼成時間を5時間とした。
得られた焼成粉体のX線回折パターンを図4(a)に示す。このX線回折パターンから、YAGについてのメインピークの回折強度[YAG(420)]と、YAPについてのメインピークである回折強度[YAP(121)]との各々について、バッググランドを差し引いた正味のピーク長を測定した。その測定値を用いて強度比を計算したところ、強度比は0.92であった。この強度比の値は、0.7以上であるため、得られた焼成粉末は実質的にYAGから成るYAG粉末である。
尚、強度比は、YAG(420)/[YAG(420)+YAP(121)]
の計算式で計算した。
【0013】
実施例2
実施例1において、焼成温度を1100℃、焼成時間を2時間とした他は、実施例1と同様にして焼成粉体を得た。
得られた焼成粉体のX線回折パターンを図4(b)に示す。このX線回折パターンから、実施例1と同様にして強度比を計算したところ、0.70であった。このため、得られた焼成粉体は、実質的にYAGから成るYAG粉末である。
【0014】
実施例3
実施例1において、焼成温度を1200℃、焼成時間を1時間とした他は、実施例1と同様にして焼成粉体を得た。
得られた焼成粉体のX線回折パターンを図4(c)に示す。このX線回折パターンから、実施例1と同様にして強度比を計算したところ、0.99であった。このため、得られた焼成粉体は、実質的にYAGから成るYAG粉末である。
【0015】
実施例4
実施例1において、焼成温度を1300℃、焼成時間を1時間とした他は、実施例1と同様にして焼成粉体を得た。
得られた焼成粉体のX線回折パターンを図4(d)に示す。このX線回折パターンから、実施例1と同様にして強度比を計算したところ、1.00であった。このため、得られた焼成粉体は、実質的にYAGから成るYAG粉末である。
【0016】
比較例
実施例1において、AACH粉末944gに代えてγ―アルミナ346gを用い、焼成温度を1300℃、焼成時間を1時間とした他は、実施例1と同様にして焼成粉体を得た。
得られた焼成粉体のX線回折パターンを図4(e)に示す。このX線回折パターンから、実施例1と同様にして強度比を計算したところ、0.55であった。この強度比の値は、0.7未満であるため、得られた焼成粉体は実質的にYAGから成るYAG粉末に該当しないものである。
【0017】
【発明の効果】
本発明によれば、実質的にYAGから成るYAG粉末を、アルミナ(Al2O3)粉末とY2O3粉末との混合粉体を焼成する従来の製造方法よりも低温の焼成で得ることができる。このため、YAGの製造装置を従来よりも簡略化でき、ランニングコストの低減も図ることができる。
更に、アルミニウム化合物粉末とY2O3粉末との混合粉砕に要する時間を、従来の低温固相反応法よりも著しく短時間とすることができ、混合粉体の焼成温度の低温化と相俟って、省資源、省エネルギを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で用いる媒体攪拌型粉砕機の一例を説明するための断面図である。
【図2】本発明で用いる媒体攪拌型粉砕機の混合粉砕による原料の結晶構造に与える影響を調査したX線回折パターンである。
【図3】X線回折パターンから強度比を求めるピークについて説明する説明図である。
【図4】実施例1〜4及び比較例で得られた焼成粉末の各々のX線回折パターンである。
【符号の説明】
10 容器
12 ジャケット
14 混合スラリー
18 攪拌装置
20,22 ノズル
24 媒体(セラミックビーズ)
26 循環ポンプ
Claims (4)
- アルミニウム化合物粉末とイットリウム(Y)含有化合物粉末とを混合粉砕して混合粉体を得た後、前記混合粉体を焼成して実質的にイットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG)から成る粉末を製造する際に、
該アルミニウム化合物粉末として、アンモニウム−アルミニウム−カーボネイト−ハイドロオキサイド[NH4AlCO3(OH)2]を用いることを特徴とするYAG粉末の製造方法。 - NH4AlCO3(OH)2粉末とイットリウム(Y)含有化合物粉末とを、イットリウム(Y)とアルミニウム(Al)との原子比(Y/Al)が3/4.5〜3/5.2となるように混合する請求項1記載のYAG粉末の製造方法。
- NH4AlCO3(OH)2粉末とイットリウム(Y)含有化合物粉末との混合粉砕を、両者を混合して混合スラリーとした後、前記混合スラリーを媒体攪拌型粉砕機によって行う請求項1又は請求項2記載のYAG粉末の製造方法。
- NH4AlCO3(OH)2粉末とイットリウム(Y)含有化合物粉末との混合粉体を、1400℃以下で且つ実質的にYAGから成る粉末が得られる温度で焼成する請求項1〜3のいずれか一項記載のYAG粉末の製造方法。
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