本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。まず、インクカートリッジと、このインクカートリッジから供給されたインクを使用して記録用紙に所望の文字や画像等を記録するインクジェットプリンタとを含む、インクジェット記録システムについて簡単に説明する。
図1に示すように、本実施形態のインクジェット記録システム1は、記録用紙Pに対してインクを噴射して所望の画像等を記録するインクジェットプリンタ2(インクジェット記録装置)と、このインクジェットプリンタ2の全体動作を制御する制御装置3(図10参照)と、インクジェットプリンタ2で使用される4色(シアン(C)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、及び、ブラック(BK))のインクをそれぞれ貯留する4つのインクカートリッジ4などを備えている。
インクジェットプリンタ2は、それぞれインクの液滴を下方へ噴射する複数のノズル(図示省略)を有するインクジェットヘッド5と、このインクジェットヘッド5の下方において記録用紙Pを所定の用紙搬送方向(図1の左方)へ搬送する搬送機構6と、4つのインクカートリッジ4がそれぞれ装着される4つのカートリッジ装着部8を有するホルダ7とを備えている。
インクジェットヘッド5は、図1の紙面垂直方向に延びる2本のガイド軸10に沿って往復移動可能なキャリッジ9に装着されている。また、ホルダ7の4つのカートリッジ装着部8には、4色のインクをそれぞれ貯留するインクカートリッジ4が所定の装着方向(図1の紙面垂直方向)に着脱自在に装着される。さらに、インクジェットヘッド5とホルダ7の4つのカートリッジ装着部8は、4本のチューブ15を介して互いに接続されている。従って、4つのカートリッジ装着部8に4つのインクカートリッジ4がそれぞれ装着されている状態では、4つのインクカートリッジ4に貯留されている4色のインクがチューブ15を介してインクジェットヘッド5にそれぞれ供給される。
そして、インクジェットプリンタ2は、インクジェットヘッド5をキャリッジ9と一体的に図1の紙面垂直方向に移動させながら、インクジェットヘッド5の複数のノズルから、搬送機構6により図1の左方へ搬送される記録用紙Pに対して4色のインクを噴射して、記録用紙Pに画像等を記録するように構成されている。
また、インクジェットプリンタ2は、インクジェットヘッド5のインク流路内に混入したエアや高粘度化したインクを吸引するパージ機構11をさらに備えている。このパージ機構11は、インクジェットヘッド5の複数のノズルが開口するインク吐出面(図1の下面)に対して接近/離隔する方向に移動可能で、且つ、インクジェットヘッド5にインク吐出面を覆うように装着可能なパージキャップ12と、ノズルからインクを吸引する吸引ポンプ13を備えている。そして、パージ機構11は、パージキャップ12がインク吐出面を覆っている状態で吸引ポンプ13による吸引動作を行うことにより、インク流路内に混入したエアや、あるいは、水分が蒸発して高粘度化したインクを、ノズルから強制的に排出するように構成されている。
次に、インクカートリッジ4について図2〜図7を参照して説明する。尚、4色のインクをそれぞれ貯留する4つのインクカートリッジ4は全て同様の構造を有することから、以下ではそれらのうちの1つについて説明する。
図2に示すように、インクカートリッジ4は、略6面体(直方体)に構成されている。さらに、その6面のうち最も大きな面積を有する2つの矩形面が対向し、これら2つの矩形面が他の4面によって連結された構造を有する。そして、インクカートリッジ4は、前記2つの矩形面が鉛直面となるような姿勢(図4に示す姿勢)で、矩形面の長手方向に沿ってインクカートリッジ4はホルダ7のインク収容室に収容される。尚、以下のインクカートリッジ4の説明において、インクカートリッジ4の装着方向である矩形面の長手方向を前後方向、矩形面の短手方向を上下方向と定義する。また、矩形面に直交する方向をインクカートリッジ4の幅方向と定義する。
図2、図3に示すように、インクカートリッジ4は、インクを貯留するカートリッジ本体20と、このカートリッジ本体20の略全体を覆う外部ケース21と、外部ケース21の前端部に取り付けられるプロテクタ22とを備えている。尚、本実施形態においては、カートリッジ本体20、外部ケース21、及び、プロテクタ22は、ナイロン、ポリエチレン、あるいは、ポリプロピレンなどの合成樹脂材料で形成されている。
まず、カートリッジ本体20について説明する。図3に示すように、カートリッジ本体20は、内部にインクを貯留するインク貯留室40を有するインク貯留体30と、このインク貯留体30の前端部の下部に設けられてインク貯留室40内のインクを前方へ導出するインク導出部31と、インク貯留体30の前端部の上部に設けられてインク貯留室40内に大気を前方から導入する大気導入部32とを備えている。
図4に示すように、インク貯留体30は、フレーム部41と、このフレーム部41に連結されたリブ43〜49と、フレーム部41及びリブ43〜49(特に、図4の黒塗りされた部分)に両側(図4の紙面手前側と紙面向こう側)からそれぞれ溶着される2枚のフィルム42とを有する。そして、フレーム部41により区画された空間が2枚のフィルム42により両側から塞がれることによって、その内部にインクを貯留する空間であるインク貯留室40が形成されている。尚、フィルム42は、例えば、超音波溶着によりフレーム部41及びリブ43〜49に溶着される。この構成によれば、インク貯留室40の周囲が全て合成樹脂材料の剛直な壁部で囲われている場合に比べて、インク貯留体30の厚みを薄くするとともに、フィルム42を用いることによる強度低下をリブ43〜49により補うことが可能になっている。
また、図4に示すように、インク貯留体30の前端部(図4の左端部)には、フィルム42が溶着されるフレーム部41よりもさらに前方(装着方向先端側)へ突出するとともに、透光性を有する被検知部50が設けられている。この被検知部50の内部空間は後方に位置するインク貯留室40とフレーム部41を越えて連通している。そして、インク貯留室40内に配設された次述のセンサアーム51の遮光板52が被検知部50内を上下に移動できるようになっている。また、インクカートリッジ4がホルダ7のカートリッジ装着部8(図8参照)に装着された状態では、被検知部50の下端部は、後述する光センサ160(図8参照)の発光部160aと受光部160bとの間に位置する。尚、図4、図5に示すように、被検知部50の下端部の内部には、センサアーム51の遮光板52がそれ以上下方へ移動しないように規制するストッパー50aが設けられている。さらに、被検知部50の下半部には、遮光性材料で形成された遮光部材60が前方から装着されている。この遮光部材60については、後ほど詳しく説明することにする。
インク貯留室40の下半部には、インク貯留室40内のインク液面(貯留されているインク量)の変動に応じて揺動するセンサアーム51が設けられている。図5は図4のA部拡大図、図6は図5のVI-VI線断面図である。図4〜図6に示すように、センサアーム51は、後述するカートリッジ装着部8に設けられた光センサ160の光を遮光可能な遮光板52(第2遮光部)と、フロート部53と、遮光板52とフロート部53とを連結するアーム部54(連結部材)とを有する。また、遮光板52、フロート部53、及び、アーム部54は、インクよりも比重の小さい合成樹脂材料(例えば、スチレン樹脂)から、射出成形等により一体成形されている。
アーム部54は、フロート部53に連結された一端部(図4の右端部)から略鉛直方向に延び、さらに、斜め上方へ傾斜して延びて、その他端部(図4の左端部)に遮光板52が連結されている。また、このアーム部54には、インク貯留体30に設けられたアーム支持部55に枢支されており、センサアーム51は、アーム支持部55を中心に揺動自在に構成されている。尚、アーム支持部55から遮光板52の先端までの距離は、フロート部53の先端までの距離よりもやや長くなっている。
遮光板52は被検知部50内の空間に収容されており、センサアーム51の揺動に伴って、遮光板52は被検知部50内において上下に移動する。そして、インクカートリッジ4がカートリッジ装着部8に装着されている状態で、被検知部50内の下端側の位置にあるときには、遮光板52が光センサ160の発光部160aから被検知部50内に透過してきた光を遮光することにより、光センサ160により検出される。
フロート部53の体積は、遮光板52の体積よりも十分に大きくなっている。また、前述したように、センサアーム51はインクよりも比重が小さい材料で形成されている。そのため、センサアーム51には、重力及び浮力によってアーム支持部55を中心とするモーメントが作用するが、フロート部53の全体がインク中にある状態では、フロート部53に作用する浮力が遮光板52に作用する浮力よりも十分大きいために、図4中の反時計回りのモーメントが、時計回りのモーメントよりも大きくなる。但し、被検知部50の下端部にはストッパー50aが設けられており、遮光板52がこのストッパー50aに当接したときには、センサアーム51は、それ以上、図4における反時計回りの方向へ揺動することはない。つまり、フロート部53の全体がインク中にある(つまり、インクの残量が十分にある)場合には、遮光板52は常に被検知部50の下端部にあり、光センサ160の発光部160aからの光を遮断する。
一方、インク貯留室40内のインクが減少して、フロート部53の一部がインク液面から露出すると、フロート部53に生じる浮力が減少し、反時計回りのモーメントと時計回りのモーメントとが等しくなる。そして、フロート部53の一部が露出した後にさらにインクの液面が低下していくと、その液面変動に応じてフロート部53が下方に移動する。さらに、そのフロート部53の下降に伴って、アーム支持部55を中心としてセンサアーム51が図4の反時計回りの方向に揺動(回動)するため、遮光板52が上方へ移動し、発光部160aからの光を遮断しなくなる。尚、インクの液面がインク貯留室40の底面付近まで低下すると、フロート部53がその底面に当接し、それ以上のセンサアーム51の回動(時計回り方向の揺動)が規制される。
ところで、先にも少し触れたが、図4〜図6に示すように、インク液面の変動に応じて上下移動する遮光板52が収容される被検知部50の前端部には、遮光性材料からなる遮光部材60が前方から固定的に装着されており、この遮光部材60は、カートリッジ本体20の被検知部50に対して相対移動不能である。尚、前述したセンサアーム51の遮光板52がインク残量を検出するために設けられているのに対し、この遮光部材60は、インクカートリッジ4の装着と取り外しとを区別して検出するために設けられている。
遮光部材60は、被検知部50の2つの側面に沿って、被検知部50の前端よりもさらに前方へ延びる2つの側壁部61と、これら2つの側壁部61の前端同士を連結する連結部62とで構成されている。
図5、図6に示すように、各々の側壁部61には、前端から後方へ所定距離だけ離間した位置において上下方向に延びる側面視矩形状のスリット61aと、上下方向中央部において後端から前方へ側面視で矩形状に切り欠かれた切欠部61bとが、前後に間隔を空けて形成されている。そして、2つの側壁部61が、切欠部61bの上下両側部分において被検知部50を幅方向から挟み込んだ状態で、遮光部材60が被検知部50に固着されている。尚、2つの側壁部61が被検知部50をしっかりと挟み込むことができるように、切欠部61bの切欠幅(上下方向長さ)は、スリット61aよりも短くなっている。
また、図6に示すように、2つの側壁部61の間で、スリット61a及び切欠部61bが形成されている位置は少なくとも前後方向に関して一致している。従って、これらスリット61a又は切欠部61bの位置において、インクカートリッジ4の幅方向(図6の左右方向)に進行する光が遮光部材60を透過できるようになっている。言い換えれば、側壁部61は、その前端からスリット61aまでの部分からなる遮光部65と、スリット61aから切欠部61bの前端までの部分からなる遮光部66の2つの遮光部(第1遮光部)を有し、これら2つの遮光部65,66が、前後方向(装着方向、インク導出部31におけるインク導出方向)に関して並べて配置されていることになる。そして、インクカートリッジ4の装着時又は取り外し時に、インクカートリッジ4が前後方向に移動したときには、2つの遮光部65,66は、順番に、カートリッジ装着部8の光センサ160の光を遮断する。尚、遮光部材60がカートリッジ本体20の被検知部50に相対移動不能に装着されていることから、遮光部材60の2つの遮光部65,66と被検知部50の位置関係は変化しない。
さらに、側壁部61の前端からスリット61aの前端までの距離L1は、スリット61aの後端から切欠部61bの前端までの距離L2よりも長い。つまり、2つの遮光部65,66の前後方向の長さが互いに異なっており、さらに、前側の遮光部65の前後方向長さが後側の遮光部66の前後方向長さよりも長くなっている。具体的には、前側の遮光部65の前後方向長さは、後側の遮光部66の3倍以上になっている。
この構成によれば、2つの遮光部65,66の前後方向長さが異なることから、インクカートリッジ4の装着時又は取り外し時に、インクカートリッジ4が前後方向に移動したときに、2つの遮光部65,66が、カートリッジ装着部8に設けられた光センサ160の光を遮断する時間が異なることになる。また、インクカートリッジ4の装着時には、前側の遮光部65→後側の遮光部66の順に光を遮断するのに対して、インクカートリッジ4の取り外し時には、後側の遮光部66→前側の遮光部65の順が光を遮断する。そのため、装着時と取り外し時で、光センサ160から出力される波形パターンに違いが生じ、インクカートリッジ4の装着と取り外しとを区別して検出することが可能となる。
また、図5に示すように、光センサ160の光を透過する部分である切欠部61bは、被検知部50の下端部と前後方向に関して部分的に重なっている。従って、センサアーム51の遮光板52が被検知部50の下端部にある状態(即ち、インク残量が十分にある状態)には、2つの遮光部65,66とセンサアーム51の遮光板52が、前後方向(装着方向)に隣り合うように並ぶことになる。また、切欠部61bの前端(即ち、後側の遮光部66の後端)は、被検知部50の下端部に位置している状態の遮光板52の前端よりも前方にあり、後側の遮光部66と遮光板52は前後方向に間隔を空けて配置される。これにより、インクカートリッジ4の装着時又は取り外し時には、光センサ160の発光部160aからの光が2つの遮光部65,66によって遮断されることにより、装着と取り外しを区別して検出することができ、さらに、インクカートリッジ4の装着完了後には、同じ発光部160aからの光が遮光板52により遮断されるか否かによってインク残量を検出することができる。
次に、インク導出部31及び大気導入部32について説明する。図7に示すように、インク導出部31と大気導入部32は、インク貯留体30の前壁部30a(装着方向先端側の壁部)の、被検知部50を挟む上下両端部から前方へ水平に延びている。そして、大気導入部32においてインク貯留体30内のインク貯留室40へ前方から大気を導入しつつ、インク導出部31においてインク貯留室40内のインクを前方へ導出するように構成されている。尚、図7においては、前述したセンサアーム51の図示を省略している。
インクカートリッジ4が装着姿勢にあるときには、大気導入部32がインク貯留体30の上端側に位置するとともに、インク導出部31がインク貯留体30の下端側に位置している。そのため、大気導入部32によりインク貯留室40の上部空間に大気をスムーズに導入するとともに、インク貯留室40内の下部空間に残留するインクをできるだけ最後まで排出することが可能になる。
図7に示すように、インク導出部31は、インク貯留体30内のインク貯留室40に連通するインク導出路70と、このインク導出路70を開閉する第1開閉機構71とを備えている。インク導出路70は、インク貯留体30の前壁部30aに設けられた隔壁30bによって区画されるとともに、隔壁30bに形成された連通孔72を介してインク貯留室40に連通するインク供給室73と、インク貯留体30の前壁部30aに前方開放状に形成されて、第1開閉機構71の大部分が収納される第1収納室74と、前壁部30aに形成されてインク供給室73と第1収納室74とを連通させる連通孔75とを有する。そして、インク導出路70は全体として前方へ向けてほぼ水平に延びており、インク貯留室40内のインクは、インク供給室73から連通孔75を介して第1収納室74へ流出するように構成されている。
第1開閉機構71は、供給キャップ76と、供給ジョイント77(ジョイント部)と、供給バルブ78(弁部材)と、第1供給スプリング79(付勢部材)と、供給スライダ80と、第2供給スプリング81(付勢部材)と、弁座82と、逆止弁83と、カバー84とを備えている。
供給キャップ76は、インク貯留体30の前端面に第1収納室74を覆うように装着されている。また、供給ジョイント77は、ゴム等の弾性を有する材料で構成され、その中央部に貫通孔77aを有する環状に形成されており、インク導出路70の出口である、第1収納室74の開放端を塞いでいる。さらに、供給バルブ78は、第1収納室74内において、供給ジョイント77の貫通孔77aを塞いでインク導出路70を閉止する閉止位置と、供給ジョイント77から離間してインク導出路70を開放する開放位置とにわたって、前後方向に移動可能に配設されている。
第1供給スプリング79と第2供給スプリング81は、同じ材料でほぼ同形状に形成されており、供給スライダ80を挟んで向かい合うように配置されている。また、第1供給スプリング79の前端は供給バルブ78に当接し、第2供給スプリング81の後端は弁座82に当接している。さらに、供給スライダ80は、供給バルブ78の後方(図中右方)に配置されるとともに、第1収納室74内において前後に移動可能であり、第2供給スプリング81により前方へ付勢されている。つまり、第2供給スプリング81により供給スライダ80が前方へ付勢され、さらに、その付勢力が第1供給スプリング79を介して供給バルブ78に作用しており、その結果、供給バルブ78が、供給ジョイント77の貫通孔77aを塞ぐ閉止位置へ向けて前方へ付勢されている。
弁座82は第2供給スプリング81の後端に当接すると共に逆止弁83を支持している。逆止弁83は連通孔75付近に設けられており、第1収納室74からインク供給室73へのインクの逆流を防いでいる。また、カバー84は弁座82との間で逆止弁83を覆っている。
インクカートリッジ4がカートリッジ装着部8に装着されていないときには、前方へ付勢されている供給バルブ78の前面が供給ジョイント77の後端に当接して、供給バルブ78により供給ジョイント77の貫通孔77aが閉止されており、インク導出部31からインクが漏れ出すのが確実に防止される。一方、インクカートリッジ4がカートリッジ装着部8に装着されるときには、後述するカートリッジ装着部8のインク抽出管163が供給ジョイント77の貫通孔77aに前後方向に沿って挿入され、さらに、貫通孔77aを塞いでいる供給バルブ78が、インク抽出管163の先端により第2供給スプリング81の付勢力に抗して後方へ押圧される。すると、供給バルブ78が供給ジョイント77から離間して貫通孔77aが開放され、インク貯留室40内のインクがインク導出路70を介してインク抽出管163へ導出される。
図7に示すように、大気導入部32は、インク貯留体30内のインク貯留室40に連通する大気導入路90と、この大気導入路90を開閉する第2開閉機構91とを備えている。大気導入路90は、インク貯留体30の前壁部30aに前方開放状に形成されて、第2開閉機構91の大部分が収納される第2収納室94と、前壁部30aに形成されてインク貯留室40と第2収納室94とを連通させる連通孔95とを有する。そして、大気導入路90は全体として前方へ向けてほぼ水平に延びており、第2収納室94及び連通孔95を介して、大気がインク貯留室40へ流入するように構成されている。
第2開閉機構91は、大気キャップ96と、大気ジョイント97と、大気バルブ98と、第1大気スプリング99と、大気スライダ100と、第2大気スプリング101とを備えている。
大気キャップ96は、インク貯留体30の前端に第2収納室94を覆うように装着されている。また、大気ジョイント97は、ゴム等の弾性を有する材料で構成され、その中央部に貫通孔97aを有する環状に形成されており、大気導入路90の出口である、第2収納室94の開放端を塞いでいる。さらに、大気バルブ98は第2収納室94内において、大気ジョイント97の貫通孔97aを塞いで大気導入路90を閉止する閉止位置と、大気ジョイント97から離間して大気導入路90を開放する開放位置とにわたって、前後方向に移動可能に配設されている。さらに、大気バルブ98には、その前面から大気ジョイント97の貫通孔97a内において前方へ延び、大気キャップ96及び大気ジョイント97よりもさらに前方へ突出する突出部98aが設けられている。
第1大気スプリング99と第2大気スプリング101は、同じ材料でほぼ同形状に形成されており、大気スライダ100を挟んで向かい合うように配置されている。また、第1大気スプリング99の前端は大気バルブ98に当接し、第2大気スプリング101の後端は第2収納室94の奥端に当接している。さらに、大気スライダ100は、大気バルブ98の後方(図中右方)に配置されるとともに、第2収納室94内において前後に移動可能であり、第2大気スプリング101により前方へ付勢されている。つまり、第2大気スプリング101により大気スライダ100が前方へ付勢され、さらに、その付勢力が第1大気スプリング99を介して大気バルブ98に作用しており、その結果、大気バルブ98が、大気ジョイント97の貫通孔97aを塞ぐ閉止位置へ向けて前方へ付勢されることになる。
インクカートリッジ4がカートリッジ装着部8に装着されていないときには、前方へ付勢されている大気バルブ98の前面が大気ジョイント97の後端面に当接して、大気バルブ98により大気ジョイント97の貫通孔97aが閉止されており、インク貯留室40内のインクの乾燥が確実に防止される。一方、インクカートリッジ4がカートリッジ装着部8に装着されるときには、大気バルブ98の突出部98aがカートリッジ装着部8の装着面156(図8、図9参照)に当接することにより、大気バルブ98が第2大気スプリング101の付勢力に抗して後方へ押圧される。すると、大気バルブ98が大気ジョイント97から離間して大気導入路90(第2収納部)が開放され、この大気導入路90を介して大気がインク貯留室40内に導入される。
次に、外部ケース21について図2及び図3を参照して説明する。外部ケース21は、略直方体形状のブロック体であり、インク貯留体30を幅方向両側からそれぞれ挟み込む2つのケース部材(第1ケース部材23、第2ケース部材24)から構成されている。第1ケース部材23はインク貯留体30の図3における下面を覆う部材であり、第2ケース部材24はインク貯留体30の図3における上面を覆う部材である。尚、これら第1ケース部材23と第2ケース部材24は、それぞれ合成樹脂材料から射出成形等によって成形される。
第1ケース部材23と第2ケース部材24とは略同形状に形成されている。これら第1ケース部材23と第2ケース部材24の前端部には、インク貯留体30を挟み込んだ状態において、インク導出部31の一部を外部に露出させる略円形の貫通孔を構成するケース切欠部110,111と、大気導入部32の一部を外部に露出させる略円形の貫通孔を構成するケース切欠部112,113が形成されている。さらに、第1ケース部材23と第2ケース部材24の前端部には、カートリッジ装着部8に設けられた光センサ160(図 参照)を、被検知部50及び遮光部材60(図4〜図6参照)を挟み込む位置まで挿入するための貫通孔を構成するケース切欠部114,115とがそれぞれ形成されている。
第1ケース部材23の上下両端部(インクカートリッジ4の短手方向両端部)には、この第1ケース部材23の表面よりも一段低い段差部分120,121が前後方向(インクカートリッジ4の長手方向)に延在するように形成されている。同様に、第2ケース部材24の上下両端部にも、この第2ケース部材24の表面よりも一段低い段差部分122,123が前後方向に延在するように形成されている。これらの段差部分120〜123において、相対向する第1ケース部材23と第2ケース部材24が溶着される。即ち、第1ケース部材23の上側(大気導入部32側:図3左奥側)の段差部分120と、第2ケース部材24の上側の段差部分122とが溶着され、また、第1ケース部材23の下側(インク導出部31側:図3右手前側)の段差部分121と、第2ケース部材24の下側の段差部分123とが溶着される。さらに、段差部分120〜123は、それぞれ、第1ケース部材23、第2ケース部材24の前端面よりもさらに前方に突出する突出部120a〜123aを有する。尚、2つの突出部120a,122aには、後方へ延びる嵌合溝120b,122bがそれぞれ形成されている。
また、第2ケース部材24において、段差部分123の後端部には、段差部分123の表面から第2ケース部材24の表面と面一となる高さまで突出するとともに、下方へ延びる係合部123bが形成されている。また、図2は示されていないが、第1ケース部材23の段差部分121にも、係合部123bと同様の係合部121bが形成されている。さらに、第1ケース部材23の上側の段差部分120と第2ケース部材24の上側の段差部分122には、前後方向に関する略中間位置において凹状の係止部120c,122cが形成されている。
次に、プロテクタ22について図2及び図3を参照して説明する。このプロテクタ22は、インク貯留体30のインク導出部31及び大気導入部32が設けられている前端部を覆う部材であり、インクカートリッジ4が出荷される場合に、インク導出部31及び大気導入部32を保護するための部材である。図3に示すように、プロテクタ22には、大気導入部32側(図2左奧側)に対応した箇所にプロテクタ貫通孔22aが形成されている。そのため、インク導出部31を覆うとともに、大気バルブ98の突出部98aをプロテクタ貫通孔22aで逃しながら大気導入部32を覆うことができ、インク導出部31と大気導入部32の両方を確実に保護することができる。尚、インクカートリッジ4は、プロテクタ22が取り外された状態(つまり、インク導出部31及び大気導入部32が露出した状態)で、次述のホルダ7のカートリッジ装着部8に装着される。
次に、前述のインクカートリッジ4が着脱自在に装着される、インクジェットプリンタ2側のホルダ7について説明する。尚、図8は、図1に概略的に示されているホルダ7の、インクカートリッジ4の装着方向(図1の紙面垂直方向)を含む鉛直面に関する断面図である。
図1、図8に示すように、ホルダ7は、略直方体状のホルダ本体150を備えており、このホルダ本体150には、4つのカートリッジ装着部8が水平方向に並べて設けられている。また、図8に示すように、ホルダ本体150の外側には、4つのカートリッジ装着部8を共通に覆う閉止位置と、4つのカートリッジ装着部8を開放する開放位置とに亙って回動可能なカバー140が設けられている。このカバー140の開閉状態は、カバー開閉検出部180(図10参照)により検出されて、制御装置3に送信される。
4つのカートリッジ装着部8は全て同じ構成を有するものであるため、そのうちの1つについて以下説明する。図8に示すように、カートリッジ装着部8は、水平な底壁部151と、この底壁部151の奥端部(図中左端部:装着方向奥側の端部)から鉛直方向に延びる奥壁部152と、この奥壁部152の上端部から底壁部151と対向するようにほぼ水平に延びる係止棒153とを備えている。これら底壁部151、奥壁部152、及び、係止棒153の内側に、インクカートリッジ4が収容されるカートリッジ収容室154が形成されている。
底壁部151の上端面には、装着されるインクカートリッジ4を下方から支持する支持部155が、外部ケース21の下部の段差部分121,123(図3参照)に応じて凹状に形成されている。また、係止棒153の長手方向途中部には、下方へ突出する凸部153aが、外部ケース21の上部の係止部120c,122c(図3参照)に応じた凸形状に形成されている。
奥壁部152の内面は、カートリッジ収容室154に収容されたインクカートリッジ4の前端面が当接する装着面156となっている。そして、この装着面156の上下方向中央部よりもやや下側の位置には、光センサ160(光学式のカートリッジ検出手段)が配設されている。この光センサ160は、発光部160aとこの発光部160aからの光を受光する受光部160bとを有し、これら発光部160aと受光部160bは、上面視コの字形状を有するセンサ取付部161の両端部に、インクカートリッジ4の幅方向(図8の紙面垂直方向)に相対向するように設けられている。また、光センサ160は、インクカートリッジ4が装着されたときに、発光部160aと受光部160bが、図3に示す外部ケース21の前端面に形成された貫通孔(ケース切欠部114,115からなる貫通孔)に挿入されるように、装着面156から突出するように設けられている。そして、光センサ160は、発光部160aからの光が、被検出体によって遮断されて受光部160bで受光されないときには制御装置3に対して信号を出力し(ON)、発光部160aからの光が受光部160bで受光されているときには信号を出力しない(OFF)、いわゆる、光透過型の光センサ160である。
装着面156の、光センサ160よりも下方の位置(インクカートリッジ4のインク導出部31に対応する位置)には、水平に突出するインク抽出管163が設けられている。このインク抽出管163は、奥壁部152に形成されたインク流路164に連通しており、さらに、このインク流路164はチューブ15を介してインクジェットヘッド5に接続されている(図1参照)。また、後述するように、このインク抽出管163は、インクカートリッジ4の装着動作に伴ってインク導出部31に挿入され、その供給バルブ78(図7参照)を開放方向へ押圧してインク導出路70を開放する。一方、装着面156の、光センサ160よりも上方の位置(インクカートリッジ4の大気導入部32に対応する位置)は、平坦面になっている。そして、奥壁部152には前記平坦面付近で開口するとともに、外部(大気)に連なる大気連通路165が形成されている。
また、装着面156の上下両端部には、図3に示す外部ケース21の突出部120a,122aに対応する突出部156aと、突出部121a,123aに対応する突出部156bがそれぞれ形成されている。また、上側(係止棒153側)の凹部156aに隣接する位置には、外部ケース21の嵌合溝120b,122bに挿通される嵌合棒167が後方へ延びるように設けられている。
さらに、底壁部151の先端部(カートリッジ収納室154の入口部分)には、図3に示す外部ケース21の係合部121b,123bと係合して回動する蓋部材170が備えられている。この蓋部材170は、外部ケース21の係合部121b,123bと係合する係合端部170aと、この係合端部170aに連接して設けられて底壁部151に軸支される軸支部170bと、軸支部170bから延在して、装着されたインクカートリッジ4の後端面を覆うカバー部170cとを備えている。軸支部170bの外周部には、蓋部材170の支軸から径方向外側へ突出した凸部170dが形成されており、その凸部170dが、底壁部151の先端部に形成された凹部151aに係合することによって、蓋部材170が底壁部151に対して回動不能となる。これにより、蓋部材170は、カートリッジ収納室154内に収納されたインクカートリッジ4を前後方向に移動不能にロックする。尚、蓋部材170とこの蓋部材170を回動不能に保持する底壁部151の凹部151aが、インクカートリッジ4をロック状態に保持する本願発明のロック機構に相当する。
次に、インクカートリッジ4の装着時における、インクカートリッジ4及びカートリッジ装着部8の一連の作用について、図8及び図9を参照して説明する。尚、インクカートリッジ4は、プロテクタ22が取り外された状態でカートリッジ装着部8に装着される。
インクカートリッジ4を装着する際には、図8に示すように、ホルダ7の4つのカートリッジ装着部8を覆うカバー140を手前側に倒して、開放位置まで回動させる。尚、このカバー140の開放動作はカバー開閉検出部180(図10参照)により検出されて、制御装置3に送られる。さらに、所定のカートリッジ装着部8の蓋部材170のカバー部170cを手前側に倒して回動させ、そのカートリッジ収容室154を開放状態にする。
この状態から、図9(a)に示すように、インクカートリッジ4を、その外部ケース21の突出部121a,123a(段差部分121,123の先端部)を底壁部151に形成された支持部155に当接させて、カートリッジ収容室154内に挿入していく。つまり、段差部分121,123が支持部155上をスライドするよう押圧していく(即ち、矢印E方向にインクカートリッジ4をスライドさせる)。
図9(b)に示すように、インクカートリッジ4がカートリッジ収容室154の奥へ押し込まれていくと、係止棒153が、インクカートリッジ4の上端部(段差部分120,122)に上方へ押されて弾性変形する。また、蓋部材170の係合端部170aが外部ケース21の後端部の係合部121b,123bと係合する。そのため、インクカートリッジ4をさらに奥へ押し込むと、蓋部材170が、軸支部170bを中心に、カートリッジ収容室154を閉止する方向(矢印F方向)へ回動する。
尚、このとき、嵌合棒167が外部ケース21の嵌合溝120b,122b(図3参照)内に挿通される。従って、インクカートリッジ4を上下逆の姿勢(インク導出部31が上、大気導入部32が下となる姿勢)に装着する場合には、嵌合棒167が邪魔となってインクカートリッジ4をカートリッジ収容室154内に挿入することができない。そのため、インクカートリッジ4の誤装着を防止でき、インク導出部31及び大気導入部32の破損や、光センサ160及びインク抽出管163の破損を防止することができる。
図7(b)の状態から、ユーザが蓋部材170を図7(b)の矢印F方向に回動させると、図7(c)に示すように、係止棒153の凸部153aが外部ケース21の凹状の係止部120c,122cに係合するため、インクカートリッジ4がカートリッジ装着部8に対して前後に移動不能となる。さらに、蓋部材170の凸部170dが底壁部151の凹部151aと係合することにより、蓋部材170が底壁部151に対して回動不能となり、この蓋部材170によってインクカートリッジ4がカートリッジ収容室154から飛び出さないように確実にロックされ、そのロック状態が保持される。これにより、インクカートリッジ4が、カートリッジ装着部8に装着されているときに、印字中の振動等に起因してインクカートリッジ4に外力が作用しても、カートリッジ装着部8から簡単に外れてしまうことがない。
このように、インクカートリッジ4が係止棒153と蓋部材170により移動不能にロックされると同時に、インクカートリッジ4の前端面が奥壁部152の装着面156に当接する。このとき、装着面156に設けられたインク抽出管163がインク導出部31の供給ジョイント77内に挿入されて、このインク抽出管163により供給バルブ78が後方へ押圧されてインク導出路70が開放される。すると、インク貯留室40内のインクがインク導出路70から導出され、カートリッジ装着部8のインク抽出管163及びインク流路164を介して、インクジェットヘッド5へ供給される。同時に、大気導入部32の大気バルブ98の突出部98aが装着面156に当接することで、大気バルブ98が後方へ押圧されて大気導入路90が開放される。すると、大気がカートリッジ装着部8の大気連通路165から大気導入路90を介してインク貯留室40内へ導入される。
同時に、光センサ160の発光部160aと受光部160bが外部ケース21の前端面の貫通孔(ケース切欠部114,115で構成される貫通孔:図3参照)に挿入される。このとき、まず、発光部160aと受光部160bの間を遮光部材60が通過することになる。そのため、発光部160aからの光が、遮光部材60に設けられた前後方向(装着方向、インク導出方向)に関する長さが互いに異なる2つの遮光部65,66により、ある時間間隔をあけて遮断される(光センサ160がONになる)ことによって、長さが異なる2つの出力波形が光センサ160から制御装置3へ出力される。
さらに、図9(c)に示すように、インクカートリッジ4の装着が完了した状態では、発光部160aと受光部160bはインク貯留体30の被検知部50の下端部を挟んで対向することになる。そして、インク貯留室40内のインク残量が十分にある場合には、被検知部50の下端部内にセンサアーム51の遮光板52が位置することから、発光部160aからの光が遮光板52により遮断されて光センサ160がONになる。一方、インク貯留室40内にインクがない場合には、被検知部50の下端部内にセンサアーム51の遮光板52が位置しないことから、発光部160aからの光が遮光板52により遮断されずに受光部160bで受光されるため、光センサ160はOFFになる。
逆に、カートリッジ装着部8からインクカートリッジ4を取り外す際には、まず、蓋部材170を手前側に倒して開放位置に向けて回動させる。すると、蓋部材170の凸部170dが底壁部151の凹部151aから外れ、蓋部材170によるロック状態が解除される。
ここで、インクカートリッジ4は、インク導出路70を閉止する方向に働く第1、第2供給スプリング79,81の付勢力と、大気導入路90を閉止する方向に働く第1、第2大気スプリング99,101の付勢力に抗して装着が行われているため、これらのスプリングの付勢力に起因して、装着状態のインクカートリッジ4には常にカートリッジ収容室154から飛び出す方向への力が作用している。
そのため、蓋部材170によるロック状態が解除されると、インクカートリッジ4がカートリッジ収容室154から押し出されて、外側へ飛び出すことになる。また、このとき、係止棒153の凸部153aと外部ケース21の凹状の係止部120c,122cとの係合も解除されるため、図9(b)のように、ユーザが、インクカートリッジ4を指でつまんで外へ取り出すことができる状態となる。
また、このインクカートリッジ4の取り出し時には、光センサ160の発光部160aと受光部160bが外部ケース21の前端面に形成された貫通孔から抜けることになる。このとき、装着時と同様に、発光部160aと受光部160bの間を遮光部材60が通過し、遮光部材60に設けられた2つの遮光部65,66により発光部160aからの光が瞬間的に遮断されることにより、長さの異なる2つの波形からなる信号が、光センサ160から制御装置3へ出力される。但し、2つの遮光部65,66の前後方向長さは互いに異なることから、この取り外し時において光センサ160から出力される出力信号の波形のパターンは、装着時とは逆になる。
次に、制御装置3を中心とするインクジェットプリンタ2の電気的構成を図10のブロック図を参照して説明する。
制御装置3は、中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、インクジェットプリンタ2の全体動作を制御する為の各種プログラムやデータ等が格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUで処理されるデータ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)と、入出力インターフェース等を備えている。この制御装置3には、PC等の入力装置200から印字データなどの情報が入力される。また、ユーザにより操作される操作部181から各種指令が入力される。さらに、ホルダ7のカートリッジ装着部8に設けられた光センサ160の出力信号や、カバー開閉検出部180からのカバー140(図7参照)の開閉状態に関する信号が入力される。そして、制御装置3は、これらの入力情報に基づいて、インクジェットヘッド5や搬送機構6等のインクジェットプリンタ2の各部の動作を制御するように構成されている。
例えば、入力装置200から印字データが入力されたときには、制御装置3は、図1に示すように、搬送機構6を制御して記録用紙Pを用紙搬送方向に搬送させながら、キャリッジ9とともにインクジェットヘッド5を移動させて、インクジェットヘッド5の複数のノズルから記録用紙Pに対してインクの液滴を噴射させることにより、記録用紙Pに印字データに対応した文字や画像等を記録する。また、インクカートリッジ4が、あるカートリッジ装着部8に装着されていないなど、記録用紙Pへの記録動作を行う上で不具合がある場合には、メッセージを表示部182に表示させて、その状態をユーザに通知する。また、操作部181からユーザによりパージ指令が入力されたときや、インクカートリッジ4が交換されて、インクジェットヘッド5内に混入したエアや粘度の高くなったインクを排出する必要があるときには、パージ機構11を制御して、インクジェットヘッド5のノズルのパージを行わせる。
さらに、制御装置3は、インクカートリッジ4の装着時又は取り外し時に、光センサ160から出力される信号から、インクカートリッジ4の装着と取り外しの何れの動作が行われたのかを判定する着脱判定部190と、インクカートリッジ4が装着されているときに光センサ160から出力される信号から、そのインクカートリッジ4のインク残量の有無を判定するインク残量判定部191とを有する。つまり、制御装置3は、カートリッジ装着部8の1つの光センサ160からの出力信号から、インクカートリッジ4の装着と取り外しとを区別して検出するとともに、インクカートリッジ4の装着状態においては、インクカートリッジ4のインクの有無をも検出することができるように構成されている。
以下、着脱判定部190によるインクカートリッジ4の装着と取り外しの判定と、インク残量判定部191によるインク残量の有無の判定について、図11〜図14を参照して具体的に説明する。尚、図11〜図14において、(a)は遮光部材60の2つの遮光部65,66、センサアーム51の遮光板52、及び、光センサ160の発光部160a(受光部160b)の位置関係を概略的に示している。また、(b)は、(a)の条件で光センサ160から出力された信号波形を示している。
[インクカートリッジ4の装着時]
図11(a)に示すように、インク残量が十分にあるインクカートリッジ4においては、遮光部材60の2つの遮光部65,66とセンサアーム51の遮光板52が前後方向(装着方向)に並んでいる。このようなインクカートリッジ4が装着される場合には、まず、インクカートリッジ4よりも前方に位置している発光部160aと受光部160bとの間を遮光部材60が通過する際に、前側の遮光部65→後側の遮光部66の順番で発光部160aからの光が遮断される。
ここで、遮光部材60の2つの遮光部65,66の前後方向(装着方向)の長さは互いに異なっており、前側(装着方向先端側)の遮光部65の長さが後側(装着方向後端側)の遮光部66の長さよりも長くなっている。そのため、発光部160aと受光部160bの間を2つの遮光部65,66がそれぞれ通過するときに、通常は、長い遮光部65が通過するときの遮光時間は、短い遮光部66が通過するときの遮光時間よりも長くなる。従って、図11(b)に示すように、光センサ160からの出力信号には、光センサ160の発光部160aからの光が遮断されてON(出力H)となるときの、2つの波形が長波形→短波形の順番で現れる。
また、2つの遮光部65,66が発光部160aと受光部160bの間を通過した後に、インクカートリッジ4の装着が完了したときには、発光部160aからの光はセンサアーム51の遮光板52に遮断されてその状態が続くことから、光センサ160の出力はOFF(出力L)→ON(出力H)となり、ONの状態がそのまま継続する。
一方、図12(a)に示すように、インクが残っていない空のインクカートリッジ4においては、センサアーム51の遮光板52の位置が、2つの遮光部65,66と隣り合う位置(2点鎖線の位置)よりも上方にずれている。この場合、光センサ160の出力信号は、図12(b)に示すように、2つの遮光部65,66が発光部160aからの光を遮断することよって生じる2つの波形が、長波形→短波形の順番で現れることについては、図11(b)と同じである。しかし、2つの遮光部65,66が発光部160aと受光部160bの間を通過した後に、インクカートリッジ4の装着が完了したときに、発光部160aからの光は遮光板52に遮断されない。そのため、光センサ160はOFFの状態が継続することになる。
[インクカートリッジ4の取り外し時]
図13(a)に示すように、インク残量が十分あるインクカートリッジ4が取り外されるときには、発光部160aからの光がセンサアーム51の遮光板52により遮断されている状態から、遮光板52が後方へ移動することにより光が遮断されなくなることから、光センサ160はON(出力H)→OFF(出力L)となる。続いて、遮光部材60の2つの遮光部65,66が発光部160aと受光部160bとの間を通過するが、このとき、後側の遮光部66→前側の遮光部65の順番で発光部160aからの光が遮断されて光センサ160が瞬間的にONとなる。そのため、図13(b)に示すように、光センサ160からの出力信号には、長さの異なる2つの波形が、短波形→長波形の順番で現れる。
一方、図14(a)に示すように、インクが残っていない空のインクカートリッジ4においては、センサアーム51の遮光板52の位置が、2つの遮光部65,66と隣り合う位置(2点鎖線の位置)よりも上方にずれている。そのため、遮光部材60の2つの遮光部65,66が発光部160aと受光部160bとの間を通過するまで、光センサ160はOFFのままである。その後、2つの遮光部65,66が通過することによって生じる2つの波形が短波形→長波形の順番で現れることについては、図13(b)と同じである。
以上のように、インクカートリッジ4の装着時と取り外し時とでは、光センサ160の出力信号の波形パターン(出力信号に現れる2つの波形の長短の順番)が異なる。従って、着脱判定部190は、2つの遮光部65,66により発光部160aからの光が遮断されたときに、光センサ160からの出力信号に現れた2つの波形の長さを比較して、長波形→短波形の順で現れている場合には、インクカートリッジ4がカートリッジ装着部8に装着されたと判定する。逆に、2つの波形が、短波形→長波形の順で現れている場合には、着脱判定部190は、インクカートリッジ4がカートリッジ装着部8から取り外されたと判定する。
さらに、インクカートリッジ4が装着されている状態で、光センサ160からの出力がONである場合には、インク残量判定部191は、インクカートリッジ4内にインクが十分に残っていると判定する。一方、インクカートリッジ4が装着されている状態で、光センサ160からの出力がOFFである場合には、インク残量判定部191は、インクカートリッジ4が空であると判定する。
ところで、以上の説明においては、装着時又は取り外し時におけるインクカートリッジ4の前後方向の移動速度(2つの遮光部65,66が発光部160aと受光部160bとの間を通過するときの移動速度)が大きく変動しないと想定し、2つの遮光部65,66の長短が、そのまま、遮光時間の長短、即ち、出力信号の2つの波形の長短として現れるとしていた。しかし、インクカートリッジ4やカートリッジ装着部8の構成、あるいは、着脱の仕方などの多様な要因によって、装着途中あるいは取り外し途中に、インクカートリッジ4の移動速度が大きく変化することも十分に考えられる。このような場合には、前側に位置する長い遮光部65の遮光時間(出力波形長)が、後側に位置する短い遮光部66による遮光時間(出力波形長)よりも短くなってしまい、着脱判定部190が装着と取り外しを誤って判定してしまうこともあり得る。そこで、以下に説明するように、本実施形態のインクカートリッジ4では、インクカートリッジ4の移動速度の変化を考慮して、インクカートリッジ4の装着と取り外しとをより正確に区別して判定することができるような工夫がなされている。
(1)インクカートリッジ4の移動速度が変動しても、遮光部65の遮光時に出力される波形が、遮光部66の遮光時に出力される波形よりも常に長くなるようにするには、長い方の遮光部65が短い方の遮光部66よりも十分に長いことが好ましい。そこで、本実施形態では、前側の遮光部65の前後方向長さ(図5中のL1)が、後側の遮光部66の前後方向長さ(図5中のL2)の3倍以上となるように、スリット61a及び切欠部61bの位置が設定されている。
(2)インクカートリッジ4の移動速度が最も安定している期間内に、2つの遮光部65,66が発光部160aからの光を遮断することが好ましい。具体的には、図7に示すように、カートリッジ装着部8のインク抽出管163が、インク導出部31の供給ジョイント77の貫通孔77aに挿通されて、インク抽出管163と供給ジョイント77との間に摩擦力が生じている状態では、着脱時に作用する力が多少変動しても、前述の摩擦力によりその変動が緩和されることから、インクカートリッジ4の移動速度に及ぼされる影響は小さくなり、移動速度が安定する。
そこで、本実施形態では、前側の遮光部65の前端から後側の遮光部66の後端までの距離、即ち、遮光部材60の前端から切欠部61bの前端までの距離(図5中の距離L3)は、インク抽出管163が供給ジョイント77に挿入されてから(供給ジョイント77の貫通孔77aの内面に接触してから)、供給バルブ78を開放位置に移動させるまでの接続ストロークSt(図7参照)以下となっている。そのため、インク抽出管163と供給ジョイント77との間に摩擦力が生じて、インクカートリッジ4の移動速度が最も安定する期間内で、2つの遮光部65,66が発光部160aからの光を遮断することになる。従って、2つの遮光部65,66の遮光時にそれぞれ生じる2つの出力波形の長さの関係が、2つの遮光部65,66の長さの関係に対して逆転して、着脱判定部190が、インクカートリッジ4の装着と取り外しを誤って判定してしまうことが極力防止される。
(3)前述したように、本実施形態のインクカートリッジ4は、インク導出部31と大気導入部32に、供給バルブ78及び大気バルブ98を閉止方向に付勢するスプリング79,81,99,101(付勢部材)を有する(図7参照)。装着状態では、インクカートリッジ4は、これらのスプリング79,81,99,101の付勢力に抗してカートリッジ装着部8のカートリッジ収容室154に押し込まれて、蓋部材170によりロック状態に保持されている(図9参照)。従って、蓋部材170によるロック状態が解除されたときには、インクカートリッジ4はスプリングの付勢力によりカートリッジ収容室154から外側へ飛び出すとともに、供給ジョイント77がインク抽出管163から抜けることになる。そのため、インクカートリッジ4の取り外し時においては、大きな付勢力が作用するロック解除直後においてインクカートリッジ4の移動速度が大きく、その後、付勢力が小さくなるにつれて、急速にインクカートリッジ4の移動速度が低下することになる。
そこで、このような移動速度の変動に対応するために、本実施形態では、前側(装着方向先端側)に位置する遮光部65の前後方向長さが、後側(装着方向後端側)に位置する遮光部66よりも長くなっている。そのため、インクカートリッジ4の取り外し時には、蓋部材170によるロック状態を解除した直後の、インクカートリッジ4の移動速度が速い時期に、後側の短い遮光部66により光が遮断され、移動速度が低下してきたときに、前側の長い遮光部65により光が遮断される。従って、光センサ160からの出力信号には、2つの波形が常に短波形→長波形の順で現れる。
また、インクカートリッジ4の装着時には、スプリング79,81,99,101の付勢力に抗してユーザがインクカートリッジ4を押し込むことから、その移動速度に大きな変動は生じにくく、移動速度は比較的安定している。従って、光センサ160からの出力信号には、2つの波形が、2つの遮光部65,66の長短に対応して、常に長波形→短波形の順で現れる。以上より、スプリング79,81,99,101の付勢力の影響で、取り外し時において、インクカートリッジ4の移動速度が急激に変化したとしても、装着時と取り外し時とで、光センサ160からの出力信号の波形パターン(2つの波形の長短の順序)が常に異なることになり、装着と取り外しを誤ってしまうことがない。
以上説明したように、制御装置3が着脱判定部190とインク残量判定部191とを備えていることで、制御装置3は、カートリッジ装着部8に設けられた1つの光センサ160からの出力信号に基づいて、インクカートリッジ4の装着と取り外しの区別(即ち、カートリッジ装着部8におけるインクカートリッジ4の有無)と、インクカートリッジ4のインクの有無の両方の情報を正確に認識することができる。これにより、制御装置3は、インクカートリッジ4の装着の有無と、着脱されるインクカートリッジ4のインクの有無に関して、正確な情報を表示部に表示させてユーザに通知することができることから、ユーザーフレンドリーなインクジェット記録システムが提供される。
また、1つの透過型光センサ160のみで、カートリッジ装着部8におけるインクカートリッジ4の有無と、装着されているインクカートリッジ4内のインクの有無の両方を検出することができることから、検出手段の個数を最小限に抑えて、インクジェットプリンタ2の部品コストを低減することが可能となる。
さらに、制御装置3は、インクカートリッジ4の装着と取り外しを区別して認識できることから、インクカートリッジ4の装着と取り外しを区別することができない従来のインクジェットプリンタ2では実行困難な、以下のような処理を行うことも可能となる。
<印字開始準備処理>
インクジェットプリンタ2の電源ON時に光センサ160がOFF(光透過状態)であるときには、カートリッジ装着部8にインクカートリッジ4が装着されていないか、空のインクカートリッジ4が装着されているかの何れかの状態である。そこで、このような場合には、制御装置3は、ユーザに対して、インクカートリッジ4が装着されていないか、又は、空のインクカートリッジ4が装着されているというメッセージを表示部182に表示させて、ユーザに対して、インクカートリッジ4の装着操作又は交換操作を促す。
しかし、インクカートリッジ4の装着と取り外しを区別することができない従来のインクジェットプリンタにおいては、プリンタの電源がONにされた直後にユーザによりインクカートリッジの着脱がなされたとしても、制御装置がインクカートリッジの有無を認識できない場合がある。具体的には、電源ON時に空のインクカートリッジが装着されている状態で、ユーザがこれを取り外した場合や、電源ON時にインクカートリッジが装着されていない状態で、ユーザが誤って空のインクカートリッジを装着した場合には、光センサの光が遮断されない状態(OFFの状態)が変化しない。そのため、ユーザにより操作が行われても、状況が変化したことを認識することができない。従って、ユーザに操作を促した後に、さらに、実際に操作が行われたのかどうかをユーザに確認する必要があった。
しかし、本実施形態においては、制御装置3が、インクカートリッジ4の装着と取り外しを区別して認識できることから、ユーザによりインクカートリッジ4の着脱操作が行われることによって、インクカートリッジ4の有無を正しく認識することができる。つまり、ユーザに対して装着又は交換操作を促すメッセージを表示した後に、実際にインクカートリッジ4の着脱操作を行ったかどうかをユーザに確認する必要がない。以下、図15のフローチャートを参照して、本実施形態の制御装置3によって実行される印字開始準備処理を説明する。尚、図中のSi(i=10,11,・・・)は処理の各ステップを示す。
この処理は、電源が投入された直後に実行される。図15に示すように、電源ONの直後において、カートリッジ装着部8の光センサ160からの出力がON(遮光状態)である場合には(S10:Yes)、カートリッジ装着部8にインク残量が十分なインクカートリッジ4が装着されており、印字が可能な状態であることから、それ以上の処理を特に行わずに印字開始準備完了となる。
一方、電源ONの直後において、光センサ160がOFF(光透過状態)である場合には(S10:No)、制御装置3は、表示部182に、インクカートリッジ4が装着されていないか、又は、インクカートリッジ4のインク残量が無しであることを示すメッセージを表示させる(S11)。
このメッセージを見て、ユーザによりインクカートリッジ4の操作が行われると、光センサ160の出力信号から、着脱判定部190により、その操作がインクカートリッジ4の装着と取り外しの何れであるかが判定される(S12)。そして、インクカートリッジ4が取り外されたと判定された場合には、制御装置3は、インクカートリッジ4が装着されていないことを示すメッセージを表示部182に表示させ(S13)、インクカートリッジ4の装着を促す。
また、インクカートリッジ4が装着されたと判定された場合には、光センサ160からの出力信号から、インク残量判定部191により、装着されたインクカートリッジ4のインクの有無が判定される(S14)。そして、インクカートリッジ4にインクが無いと判定された場合には(S14:No)、制御装置3は、空のインクカートリッジ4が装着されたことを示すメッセージを表示部182に表示させ(S15)、インクのあるインクカートリッジ4の装着を促す。一方、インクカートリッジ4にインクがあると判定された場合には(S14:Yes)、制御装置3は、インクジェットヘッド5及びパージ機構11を制御して、インクジェットヘッド5内へのインク導入のためにパージを実行させて(S16)、印字開始準備を完了する。
このように、本実施形態においては、電源投入直後に光センサ160がOFFの場合に、ユーザに対して着脱操作を促すメッセージを表示した後に、制御装置3が、ユーザにより実際に行われた操作が装着か取り外しかを区別して認識できる。そのため、実際にインクカートリッジ4の着脱操作を行ったかどうかをユーザに確認することなく、制御装置3で認識した装着状態に関する正確な情報を表示部182に表示させることができるため、ユーザによるインクカートリッジ4の着脱作業が容易になる。
<ニアエンプティ後のインク抽出処理>
インクカートリッジ4内のインクが消費されていき、センサアーム51が回動して遮光板52が光センサ160の光を遮断しなくなっても(光センサ160がOFF)、実際にはインクカートリッジ4にはまだ少量のインクが残っている(以下、この状態をニアエンプティと呼ぶ)。そこで、このような残留インクを使い切るために、光センサ160がOFFになってから、インクジェットヘッド5のノズルからの噴射が何回行われたかをカウントし、カウントされた噴射回数がある値になるまでは印字を継続することが通常行われている(いわゆる、ソフトカウント)。
しかし、インクカートリッジの装着と取り外しを区別することができない従来のインクジェットプリンタにおいては、ニアエンプティの状態のインクカートリッジを取り外しても、光センサの出力は変化しないため、その取り外しを認識することができない。従って、ニアエンプティ状態のインクカートリッジ内のインク残量を把握することができなくなってしまう。そこで、インクカートリッジのニアエンプティが検出されたときは、インクカートリッジの取り外しとは直接関係のない別の操作が行われたときに(例えば、カートリッジ装着部8を覆うカバー140(図8参照)が開放されたことがカバー開閉検出部180で検出されたとき)、インクカートリッジの取り外しが行われたと見なし、印字を終了することにしていた。しかし、このような処理では、カバー等が操作されただけで、ニアエンプティのインクカートリッジは取り外されなかった場合でも、そのインクカートリッジを用いた印字が終了してしまうことになるので、インクの使い残しが生じていた。
例えば、本実施形態のように、1つのカバー140が4つのカートリッジ装着部8を共通に覆っている構成において、2以上の複数のインクカートリッジ4がニアエンプティとなっているときに、そのうちの1つのインクカートリッジ4を交換するためにカバー140を開放すると、他のニアエンプティ状態の(まだ残量のある)インクカートリッジ4も使用不可となってしまう。
しかし、本実施形態においては、制御装置3は、ニアエンプティ状態のインクカートリッジ4が取り外されたときに、その取り外しの操作を認識できるため、取り外しとは直接関係のない操作(カバー140の開放等)が行われただけで印字を中止する必要がなく、ニアエンプティが検出されたインクカートリッジ4内のインクを最後まで使い切ることが可能となる。
<装着過程検出処理>
前述したように、インクカートリッジ4の装着時には、インク導出部31及び大気導入部32のスプリング79,81,99,101の付勢力に抗して蓋部材170を押し込み、蓋部材170によりインクカートリッジ4をロックする(図9参照)。このとき、蓋部材170をしっかりと押し込まないと、スプリング79,81,99,101の付勢力によりインクカートリッジ4が後方へ押し戻される。このような押し戻しが生じた場合には、一度の操作で正常に装着された場合に比べて、インク導出部31の供給ジョイント77とインク抽出管163の間から侵入する空気量が多くなることから、装着後にパージ機構11によりパージを行う際には、パージ機構11の吸引ポンプ13による吸引量を多くする必要がある。
従来構成のインクジェットプリンタでは、インクカートリッジの装着と取り外しを区別して認識できないことから、このような装着時の押し戻しを認識することも当然ながら不可能である。そのため、装着後のパージ吸引量を、押し戻しがあるときに必要となる最大の吸引量に設定し、押し戻しの有無に関わらず、常にこの最大の吸引量でパージを行っていた。そのため、正常に装着が行われて吸引量が少なくてもよい場合にも多くの吸引が行われてしまい、不必要にインクを消費していた。しかし、本実施形態においては、装着時における、遮光部材60の2つの遮光部65,66により発光部160aからの光が遮断されたときの光センサ160からの出力波形から、押し戻しが生じたか否かを検出することが可能である。
インクカートリッジ4が途中で押し戻されることなく正常に装着された場合には、図 16(a)に示すように、光センサ160からの出力信号には、2つの遮光部65,66が発光部160aからの光を遮断することによって生じる2つの波形300,301のみが現れる。一方、インクカートリッジ4の装着中に押し戻しが生じた場合には、図16(b)に示すように、正常な場合の2つの波形300,301に加えて、さらに、インクカートリッジ4が後方へ押し戻されたときに2つの遮光部65,66が遮光することによって生じる、余計な波形(図16(b)では中央の2つの波形310,311)が現れる。尚、この図16(a),(b)においては、装着完了後のセンサアーム51の遮光板52の遮光によって生じる波形は省略してある。
つまり、押し戻しのない正常装着と、押し戻しが生じた不良装着とで、出力信号に現れる波形の数が異なることになる。また、ユーザによりなされた操作が装着か取り外しかは、出力信号に生じた波形のうち、最初の波形300と最後の波形301の長さを比較することにより識別できる。これにより、制御装置3が、インクカートリッジ4の装着過程(押し戻しの有無)を認識し、その有無に応じてパージ吸引量を変更することが可能となっている。
以上の装着過程検出を含む一連の処理について、図17のフローチャートを参照してさらに詳しく説明する。この一連の処理は、カバー開閉検出部180によりカバー140(図8参照)が開放状態であることが検出されており、さらに、インクカートリッジ4がカートリッジ装着部8に装着されていない場合に実行される。
まず、ユーザによりインクカートリッジ4が装着されることによって、OFFの状態であった光センサ160の出力信号が変化したときには(S20:Yes)、制御装置3は、その出力信号から、最初の出力波形の長さA、最後の出力波形の長さB、及び、出力信号中に現れた出力波形の総数Nを検出する(S21)。
そして、最初の波形の長さAと最後の波形の長さBとを比較し、AがB以下である場合には(S22:No)、着脱判定部190は、インクカートリッジ4がカートリッジ装着部8に装着されなかったと判定する。そこで、制御装置3は、インクカートリッジ4の確認、及び、再装着をユーザに促すメッセージを表示部182に表示させ(S23)、S20に戻る。
一方、AがBよりも大きい場合には(S22:Yes)、着脱判定部190は、インクカートリッジ4がカートリッジ装着部8に装着されたと判定する。このとき、制御装置3は、カバー140の閉止をユーザに促すメッセージを表示部182に表示させる(S24)。そして、カバー140が閉止されたことがカバー開閉検出部180により検出されたときには(S25:Yes)、出力信号に現れた波形の総数Nに応じて、パージのモードを選択する。
即ち、波形の総数Nが遮光部材60に設けられた遮光部の数(=2)よりも大きい場合には(S26:Yes)、装着途中に押し戻しが生じた不良装着であると判定して、制御装置3は、パージ機構11(図1参照)に吸引量の大きい強力パージを実行させる(S27)。一方、波形の総数Nが遮光部の数(=2)に等しい場合には(S26:No)、装着途中に押し戻しが生じていない正常装着であると判定して、制御装置3は、パージ機構11に、強力パージよりも吸引量の小さい通常パージを実行させる(S27)。
このように、正常装着か不良装着かを制御装置3が認識できることから、不良装着の場合には吸引量の大きい強力パージを選択して、装着時に侵入した多量のエアを確実に排出できるとともに、正常装着の場合には吸引量の小さい通常パージを選択して、インクを無駄に消費してしまうのを防止することができる。
[実施例]
次に、実施例として、具体的な寸法の遮光部材を用いてインクカートリッジの着脱実験を行い、上述した作用を奏するかについて検証を行った。図18は、この着脱実験で用いられた遮光部材60の遮光部65,66の寸法(前後方向の寸法)と光センサ160の受光部160bのスリット幅(前後方向に関する受光範囲)を示す図である。尚、図18に示す数値の単位はmmである。
図18に示すように、前側の遮光部65の前後方向長さは1.60mm、スリット61aの幅は0.32mm、そして、後側の遮光部66の前後方向長さは0.49mmとなっている。つまり、前側の遮光部65の長さは、後側の遮光部66の長さの3倍よりもさらに長い。また、以上の遮光部65,66及びスリット61aの寸法から、前側の遮光部65の前端から後側の遮光部66の後端までの距離は2.41mmである。また、光センサ160の受光部スリット幅は0.55mmとなっている。
また、図18には示されていないが、図7に示すインク抽出管163の接続ストロークStは、2.9mmとなっている。従って、前側の遮光部65の前端から後側の遮光部66の後端までの距離(2.41mm)が、接続ストロークSt(2.9mm)よりも小さくなっており、インク抽出管163がインク導出部31に接続される間に、2つの遮光部65,66が光センサ160の発光部160aと受光部160bの間を通過して遮光する。
このような遮光部材60が設けられたインクカートリッジ4を、3通りの速度でそれぞれカートリッジ装着部8に装着した場合の、光センサ160の出力波形を図19〜図21に示す。また、インクカートリッジ4を2通りの速度でカートリッジ装着部8から取り外した場合の、光センサ160の出力波形を図22、図23に示す。
図19〜図21に示すように、インクカートリッジ4の装着時には、その装着速度によって、発光部160aからの光が遮光部材60の2つの遮光部65,66により遮断されたときに生じる、2つの波形の長さはそれぞれ変化する。しかし、装着速度に関係なく、常に、先の波形が後の波形よりも長くなっている。
一方、インクカートリッジ4が装着されている状態から、蓋部材170によるロック状態を解除してインクカートリッジ4を取り外す場合には、前述したように、スプリングの大きな付勢力が作用するロック解除直後においてインクカートリッジ4の移動速度が大きく、その後、付勢力が小さくなるにつれて、急速にインクカートリッジ4の移動速度が低下することになる。しかし、前側の遮光部65が後側の遮光部66よりも長くなっていることから、蓋部材170によるロック状態を解除した直後の、インクカートリッジ4の移動速度が速い時期に、後側の短い遮光部66により光が遮断され、移動速度が低下してきたときに、前側の長い遮光部65により光が遮断される。そのため、図22、図23に示すように、取り外し速度によって、発光部160からの光が2つの遮光部65,66により遮断されたときに生じる、2つの波形の長さはそれぞれ変化するものの、常に、先に現れる波形が後に現れる波形よりも短くなる。
このような出力波形から、先の波形が後の波形よりも長い場合にはインクカートリッジ4が装着されたと判定し、逆に、先の波形が後の波形よりも短い場合にはインクカートリッジ4が取り外されたと判定することで、インクカートリッジ4の装着と取り外しを正確に区別することができる。
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同じ構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
1]インクカートリッジ4の装着時及び取り外し時に光センサの光を遮断する2つの遮光部(第1遮光部)は、前記実施形態のように、カートリッジ本体20の被検知部50に装着されている必要は必ずしもなく、カートリッジ本体20に対する位置関係が変化しないように設けられていれば、同様の作用・効果が得られる。
例えば、図24、図25に示すように、カートリッジ本体20(インク貯留体30)の略全体を覆う外部ケース221に2つの遮光部210,211が設けられていてもよい(変更形態1)。この変更形態1においては、カートリッジ本体20の被検知部50には本実施形態における遮光部材60(図4〜図6参照)が設けられていない。その一方で、外部ケース221の、被検知部50の前面を覆う部分には、この部分を前後に貫通する2つの貫通孔221a,221bが設けられている。そして、これら2つの貫通孔221a,221bには、インクカートリッジ204の装着時に、光センサ160の発光部160aと受光部160bがそれぞれ挿入される。
また、外部ケース221は、少なくとも、2つの貫通孔221a,221bにより区画された部分の両面(貫通孔221a,221bに面する面)において遮光性を有する。そして、この遮光部分205には、前後方向に関して中央部よりもやや後側の位置において外部ケース221の幅方向(図25の左右方向)に貫通して、2つの貫通孔221a,221bを連結するスリット212が形成されている。つまり、被検知部50の前方に位置する、外部ケース221の遮光部分205がスリット212により前後2つに分割されて、前後方向長さの異なる2つの遮光部(前側の長い遮光部210と後側の短い遮光部211)が形成されている。
この変更形態1の構成によれば、2つの遮光部210,211の前後方向(装着方向)長さが異なるため、装着時と取り外し時で、これら2つの遮光部210,211が発光部160aからの光を遮断したときに、光センサ160から出力される2つの波形の長短の関係が異なることから、前記実施形態と同様に、制御装置3が、インクカートリッジ204の装着と取り外しとを区別して認識することができるようになる。
2]前記実施形態では、インクカートリッジの装着状態で光センサの光を遮断する、インク残量検出用の遮光板52(第2遮光部)と、この遮光板52よりも容積の大きいフロート部53とが、揺動自在に支持されたアーム部54の両端に設けられ、遮光板52がフロート部53と揺動中心に関して反対に移動するように構成されていたが(図4参照)、本発明を適用可能な形態はこのような構成のものに限られない。
例えば、インク液面の変動によってフロート部が移動する際に、遮光板がフロート部と平行に移動するように構成されていてもよい(変更形態2)。図26に示すように、このインクカートリッジ234のインク貯留体30内に形成されたインク貯留室40には、インクよりも比重の小さい材料からなるフロート部材230が配設されている。このフロート部材230は、インク液面に浮かぶフロート部231と、このフロート部231から前方水平に延びるアーム部232と、アーム部232の前端に設けられ、遮光性を有する遮光板233とを有する。また、インク貯留体30の内面には、前方斜め上から後方斜め下に向けて傾斜して延び、フロート部材230に設けられた凸部235が係合する2本のガイド236が設けられている。従って、インク液面の降下に応じて、フロート部231が2本のガイド236に沿って移動するようになっている。
遮光板233は、インク貯留体30の前端部に設けられた被検知部50内に収容されている。インク残量が十分にあり、インク液面Leが、実線で示すような高い位置にあるときには、遮光板233は被検知部50の上部内面に係止されて、被検知部50の上半分の内部に位置している。また、インクカートリッジ234の装着状態においては、光センサの発光部と受光部はこの被検知部50の上半分を挟むように配置される。従って、インク残量が十分にあるときには、遮光板233は発光部からの光を遮断することになり、光センサがONとなる。一方、インク液面Leが2点鎖線で示すように低下し、それに伴ってフロート部231がガイド236に沿って後方斜め下へ移動すると、遮光板233もフロート部231と平行に一体的に移動する。そして、遮光板233が被検知部50の上半部から外れたときには、遮光板233が発光部からの光を遮断しなくなり、光センサがOFFとなる。
このような構成のインクカートリッジ234においても、被検知部50の上半部に、例えば、前記実施形態と同様の遮光部材60が装着されることで、インクカートリッジ234の装着と取り外しを区別するとともに、装着状態のインクカートリッジ234のインク残量を検出することが可能となる。
また、2本のガイド236を上下方向に延びるように構成し、インク液面の降下によってフロート部231と遮光板233が下方に移動するようにされていてもよい。
3]インクカートリッジの着脱検出のための光センサにより、インク残量を検出するように構成されている必要は必ずしもなく、遮光部材の2つの遮光部を検出する光センサとは別の検出手段により、インク残量が検出されるようになっていてもよい(変更形態3)。つまり、この場合には、2つの遮光部を検出する光センサはインクカートリッジの着脱検出にのみ使用される。
インク残量検出専用の構成としては以下のような公知の構成を採用することができる。例えば、図27に示すように、インクカートリッジ254のインク貯留室40の底面付近の内面に、インク残量検出用の1対の電極250,251が貼り付けられていてもよい。この場合、インクカートリッジ254がカートリッジ装着部に装着されている状態では、これら1対の電極250,251はカートリッジ装着部に設けられた接点に接続される。そして、インクジェットプリンタ側でこれら1対の電極250,251間の抵抗値を検出し、その変化を監視することにより、インクジェットプリンタの制御装置がインク残量の変化(有無)を認識できるようになる。尚、インクカートリッジ254側の接点とカートリッジ装着部側の接点にインクが付着することがないように、1対の電極250,251は、インク導出部31とは反対側の端部(後端部)に設けられることが好ましい。
また、新品のインクカートリッジが装着されてからのインクの噴射回数をカウントする(ソフトカウント)によりインク残量を検出してもよい。あるいは、インクカートリッジの着脱検出用の光センサとは別の透過型光センサが設けられて、この光センサにより、インク残量に応じて移動する遮光部(前記実施形態における、センサアーム51の遮光板52に相当)を検出することによって、インクの有無を検出してもよい。
この変更形態3の構成によれば、前記実施形態と同様に、インクカートリッジの装着と取り外しとを区別して認識できるという効果が得られる。さらに、前記実施形態の構成では得られない、この構成に特有の効果も得られる。これについて以下説明する。
前記実施形態において、装着されているインクカートリッジに十分なインクが残っている場合には、発光部からの光が遮光板に遮断された状態(ON状態)が継続する(図11参照)。この状態で、光センサが故障して発光部から発光されなくなっても、受光部により受光されない状態は変わらないため、光センサの出力は変化せず、インクジェットプリンタの制御装置は光センサの故障を認識できない。そのため、インクの消費が進んでインクが無くなってしまっても、制御装置はインクが有ると認識して印字を継続してしまうため、空打ちが生じてしまう。
しかし、変更形態3の構成では、インクカートリッジのインク残量にかかわらず、2つの遮光部と前後方向(装着方向)に並ぶ位置に、発光部からの光を遮断するもの(前記実施形態の遮光板52に相当するもの)が存在しないため、図28(a)に示すように、2つの遮光部が光センサを通過した後は、発光部からの光が受光部で受光される状態(OFF)が継続する。従って、光センサが故障して発光部から発光されなくなったときには、受光部で受光も行われなくなるため、光センサがONになる。このように、光センサに故障が生じたときにはその出力に変化が生じることから、制御装置は光センサに故障が生じたということをすぐに認識するため、光センサの故障を早期に発見することができる。
4]前記実施形態では、装着時にスプリングの付勢力に抗して蓋部材を押し込んでロックするという、インクカートリッジ及びカートリッジ装着部の構造上、インクカートリッジを取り外すために蓋部材によるロックを解除したときには、飛び出しによる急激な速度変動が生じる。そこで、このような速度変動が生じても誤判定が起こらないように、特に前側(装着方向先端側)の遮光部65が後側(装着方向後端側)の遮光部66よりも前後方向長さが長くなっていた。しかし、ユーザが、装着状態のインクカートリッジを直接つまんで抜き取る場合など、インクカートリッジ及びカートリッジ装着部の構造によっては、インクカートリッジの取り外し時に急激な速度変動が生じない場合もある。このような場合には、前側の遮光部を後側よりも長くする必然性は特にないことから、前後の遮光部の長さが互いに異なってさえいればよく、前側の遮光部を後側の遮光部よりも短くしてもかまわない。
さらに、遮光部(第1遮光部)の数は2つに限られるものではなく、前後方向長さが互いに異なる3つ以上の遮光部が設けられていてもよい。