発明の詳細な説明
(技術分野)
本発明は全体として、2種の異なる染色体外エレメントを用いることにより、原核細胞中で、具体的には細菌中で、組換えDNA配列を生成し検出するin vivoの方法、および本発明の方法の実施に使用することができる染色体外エレメント、具体的にはプラスミドに関する。この方法が関係するDNA配列は、タンパク質コード配列および非コード配列を含む。
(背景技術)
進化とは、遺伝的変異、および表現型の選択の連続的な過程である。集団内での個体の性能を改良する新たな変異体の組合せを作成することによって、集団の遺伝的多様性を増幅することができる。微生物の定方向進化は、連続したランダム変異導入およびスクリーニングによる古典的な株の改良の方法を介して従来より行われている。
定方向進化は、タンパク質を工学的に作製する手段としてこれまでほとんど排他的に使用されてきた。部位特異的変異誘発、カセット変異導入、ランダム変異導入やエラープローンPCRなどの変異技術により、タンパク質機能の変異体が生成され、こうして作製されたライブラリーが、特定の機能を果たすことができるかどうかについてスクリーニングされている。この手順の再帰的な適用が、pHの最適条件、耐熱性、溶媒安定性、立体選択性、触媒活性や基質特異性など、酵素の物理的触媒的特性、ならびに細菌における毒性の耐性機構、およびウイルスの宿主範囲と安定性を修飾するのにうまく使用されている。
酵素の新たな特性を進化させる伝統的な変異導入手法にはいくつかの制約がある。この手法は、クローン化されその機能が特徴付けられており、別個の機能を有する遺伝子または配列に適用可能であるに過ぎない。また、伝統的な変異導入手法は、単一遺伝子についても、順列の総数のうち非常に限られた数を探索できるに過ぎない。しかし、特定の状況下では、新たな特性を有するタンパク質を発現させるために、1個の遺伝子だけでなくさらなる遺伝子をも修飾することが必要となる可能性がある。そのようなさらなる遺伝子は、例えば、単一の表現型を協調的に付与する遺伝子である可能性もあり、あるいは転写、翻訳、翻訳後修飾や、遺伝子産物の分泌またはタンパク質分解など1つまたは複数の細胞機構においてある役割を有する遺伝子である可能性もある。そのような機能を有する遺伝子すべてを伝統的な変異導入手法によって個々に最適化しようと試みることは、事実上不可能な作業であるはずである。
従来の変異導入手法に伴う問題のほとんどは、機能的遺伝子の異なる配列のランダム組換えを引き起こす組換えの手法により克服することができ、それによって天然の類似遺伝子またはランダム変異遺伝子の分子上の混合が可能となる。従来の変異導入と組換えを比較すると、表現型が改良された変異体が得られる可能性は著しく高い。従来のDNA操作技術を上回る、組換えの手法の主要な利点は、具体的には、実験上容易であること、およびDNA配列により課せられる制約がないことである。
組換えの過程について知られていることのほとんどは、細菌などの単純な単細胞生物の研究に由来している。そのような生物での組換えの研究は、DNA配列が操作し易く、多数の細胞で同期的に誘導される特定の組換え事象が研究される可能性があるという利点を有する。微生物で研究された過程が、ほとんどの点で、哺乳動物細胞、例えばヒト細胞が遺伝的多様性を生じさせる方法と同一である、またはこれに類似するという確信が大きくなっていることも同様に重要である。さらに、この機構を明らかにすることによって、哺乳動物細胞で遺伝子ターゲティングおよび遺伝子置換のより効率のよい機構を開発する探求においてさらなる重要性が与えられている。
原核細胞中で組換えを実施する多数の様々な系が存在するが、これらのほとんどでは、新たに組み換えられたDNA配列を容易にかつ確実に検出することは不可能である。したがって、当技術分野では、具体的には組換え体の迅速かつ単純な検出および/または選択圧下での組換え体の選択を可能にする効率のよい原核生物の試験系が依然として求められている。
(発明の開示)
したがって、本発明の根底にある技術的な問題は、原核細胞中で組換えモザイク遺伝子を単純にかつ効率よく生成し、具体的にはそのような組換え配列をスクリーニングし検出する改良された方法および手段を提供することである。
本発明は、原核生物中で組換えDNA配列を生成し検出する方法を提供することによって、根底にあるこの技術的な問題を解決するものであり、この方法は、
a)組換えられる第1のDNA配列を含み、原核細胞中で自発的に複製することができるレシピエントDNA分子、ならびに組換えられる第2のDNA配列、および遺伝子産物をコードする少なくとも第1のマーカー配列を含み、原核細胞中で自発的に複製することができないドナーDNA分子を含む第1の原核細胞を生成する工程と、
b)第1のマーカー配列の遺伝子産物が発現した場合にその細胞の増殖および/または繁殖だけを可能にする選択的な条件下で第1の原核細胞を培養する工程と、
c)選択的な条件下で増殖および/または繁殖し、少なくとも第1のマーカー配列、ならびに第1および第2のDNA配列間での組換えによる第1および第2の組み換えられたDNA配列を有するハイブリッドDNA分子を含む第2の原核細胞を単離する工程とを含む。
本発明は、少なくとも2種の異なる(diverging)または異種のDNA配列または組換え基質間で、in vivoで組換え事象が起こったかどうかについてスクリーニングするための原核生物の系を提供する。本発明の系は、少なくとも2種の異なるDNA配列から、組換えられる2種のDNA配列を含む2種の染色体外エレメントからのin vivoでのDNAの交換を使用する方法により、速く効率のよい形で、改良された特性を有する新しい有利なDNA配列の生成を可能にする。レシピエントDNA分子およびドナーDNA分子の形で、ヌクレオチド配列の相同性を示さない2種の染色体外エレメントを原核宿主細胞中に導入する。レシピエント分子は、宿主中で自発的に複製することができるが、ドナー分子は、複製能を有さない。しかし、ドナー分子は、宿主細胞のゲノム中にもレシピエント分子中にも存在しない抗生物質耐性マーカーや栄養マーカーなど、少なくとも1個の独特なタンパク質コードマーカー配列を含む。両方の染色体外エレメントを原核宿主細胞中に導入した後、2種の異種遺伝子間で組換えが行われる条件下でその細胞を培養する。この条件には、例えば、通常その細胞が感受性である抗生物質の存在下での細胞の培養、あるいはその細胞がそれ自体で合成することができず、したがって外部から供給されなければならない不可欠な栄養素を欠いた培地中での細胞の培養が含まれ得る。適用した培養条件下で、それぞれのマーカー配列の遺伝子産物が発現した場合に、その細胞だけが増殖および繁殖、すなわち***することができる。しかし、マーカー配列の発現の必要条件は、非複製性のドナー分子および複製性のレシピエント分子が、レシピエント分子の起点から複製することができ、したがって確実にマーカー配列を維持する融合体を形成することである。この融合体の形成は、その配列が親DNA配列と異なる新たなDNA分子の生成をもたらす2種の組換え基質間での組換えから生じる。したがって、適用した選択的な条件下で増殖および繁殖した宿主細胞は、新たに組み換えられたDNA配列を含む。したがって、本発明の方法は、組換えDNA配列を同定する容易かつ迅速な選択系を提供する。本発明の方法を用いて、組み換えられた変異DNA配列の大きなライブラリーを容易に作製することができ、次いで適当な選択系またはスクリーニング系を用いることにより、所望の機能を獲得した変異体を同定することができる。
原核生物などの単純な単細胞生物における組換えの過程の研究は、DNA配列が操作し易く、多数の細胞で同期的に誘導される特定の組換え事象が研究される可能性があるという明らかな利点を有する。さらに、過去数十年にわたって、発酵技術においても原核生物の基礎遺伝学においても専門知識が豊富に蓄積されている。原核宿主細胞の他の主要な利点は、非常に短い倍加時間に関連する。したがって、原核宿主細胞を使用することにより、多数回の細胞***、したがって多数回の組換えを行い、複数の新たな組換えDNA配列を短い時間内に作製することが可能である。
本発明の方法は、野生型の原核細胞で行うこともでき、あるいはミスマッチ修復欠損原核細胞で行うこともできる。損傷DNAを修復する過程、および遺伝子組換えの機構は密接に関係し、ミスマッチ修復の機構は、異なる配列間での組換え、すなわち相同組換えの頻度に対して抑制的な効果を及ぼすことが知られている。したがって、ミスマッチ修復系の変異は、原核細胞での組換え事象の全体的な頻度を大きく高める。その一方で、野生型の原核細胞は、2種の組換え基質中にある遠く離れたミスマッチに基づくミスマッチ修復依存的な組換え機構を有することが知られている。組換えられるDNA配列に応じて、野生型の原核細胞またはミスマッチ修復欠損原核細胞を使用して組み換えられた配列を得ることができる。
組み換えられたDNA配列を生成し検出する本発明の方法は、大きく異なるDNA配列を組み換えることができる利点を有する。意外にも、全体的な相異性が高度であり、非常に短い相同性または同一性領域しか有さない配列を組み換えることができることが判明した。組み換えられた配列の分析から、組換えが起こる最長の同一性領域が18〜22ヌクレオチドを占めるのみであることが明らかとなった。ほとんどの組換え事象は、長さが10〜15ヌクレオチドの相同性領域で起こった。一部の場合では、組換えは、長さがわずか4〜5ヌクレオチドの領域で起こった。
したがって、本発明の方法は、有利な特徴を有する組換えDNA配列を作製するために、異なる原核生物の種または異なる原核生物の属に由来するDNA配列の組換えを可能にする。
組み換えられたDNA配列を生成し検出する本発明の方法は、2種を超える異なる配列を組み換えることができる利点を有し、それにより、組換えられる2種の異なる配列は予め選択された配列でもよく、選択されていない配列でもよい。
例えば、最大で遺伝子ライブラリー全体の、種々の異なるDNA配列をレシピエントならびにドナーDNA分子中に挿入することができる。その後、個々の異なるDNA配列は、偶然によりそれ自体と組み換えることができる。最大で遺伝子ライブラリー全体の、第1の組の異なるDNA配列を、レシピエントDNA分子にのみ挿入し、最大で遺伝子ライブラリー全体の、第2の組の異なるDNA配列を、レシピエントDNA分子に挿入し、またはその逆を行い、次いでその2組を偶然により相互に組み換えることも可能である。どちらの場合でも、どの対の異なるDNA配列を組み換えるかに関して選択はなされない。
しかし、複数の、好ましくは予め選択された異なる配列を段階的な形で組み換えることもでき、それにより、各工程でどの対の異なるDNA配列を組み換えるかに関して選択がなされる。例えば、3種の異なるDNA配列を組み換える場合、第1の工程で第1の原核細胞が生成し、それにより、例えば、組換えられる第1のDNA配列を有するレシピエントDNA分子、および組換えられる第2のDNA配列を有するドナーDNA分子が、所与の種の細菌細胞中に導入される。それぞれのレシピエントDNA分子およびドナーDNA分子が、ドナー分子のマーカー配列の発現、および組換えられる2種のDNA配列間での組換えを可能にするハイブリッド分子を形成した細胞だけが増殖および繁殖するような選択的な条件下でこの原核細胞を培養する。こうして組換えによる第1および第2の組み換えられたDNA配列を有するハイブリッド分子を含む第2の原核細胞が得られる。第1および第2の組み換えられたDNA配列を単離し、そのうちの一方を例えばレシピエント分子中に挿入し、その一方で組換えられる第3のDNA配列をドナー分子中に挿入する。次いで、次の工程で、組み換えられた配列のうちの一方を含むレシピエント分子、および組換えられる第3のDNA配列を含むドナー分子を原核宿主細胞中に再度導入し、それを別の回の組換えにかける。
例えば、4種の異なるDNA配列を組み換える場合、第1の工程で異なる2組の第1の原核細胞を生成する。例えば、第1の組の第1の原核細胞は、組換えられる第1のDNA配列を有するレシピエントDNA分子、および組換えられる第2のDNA配列を有するドナーDNA分子を細菌細胞中に導入することにより生成することができる。同様に、第2の組の第1の原核細胞は、組換えられる第3のDNA配列を有するレシピエントDNA分子、および組換えられる第4のDNA配列を有するドナーDNA分子を同じ種の細胞中に導入することにより生成することができる。組換えが行われる選択的な条件下で各組の原核細胞を培養する。こうして、組換えられる第1および第2のDNA配列間での組換えによる第1および第2の組み換えられたDNA配列を有するハイブリッド分子を含む第1の組の原核細胞が得られる。また、組換えられる第3および第4のDNA配列間での組換えによる第3および第4の組み換えられたDNA配列を有するハイブリッド分子を含む別の組の原核細胞が得られる。次いで、こうして得られた第1、第2、第3および第4の組み換えられたDNA配列をそれぞれの宿主細胞から単離する。次の工程で、第1または第2の組み換えられた配列をドナーDNA分子中に挿入し、第3または第4の組み換えられた配列をレシピエントDNA分子中に挿入することができる。次いで、こうして得られたドナーDNA分子とレシピエントDNA分子をどちらも原核宿主細胞中に導入し、それを別の回の組換えにかける。このように、5種、または6種以上の異なるDNA配列を組み換えることもできる。
本発明の好ましい実施形態では、ドナーDNA分子およびレシピエントDNA分子は、異なる直鎖状または環状のDNA構造物である。「DNA構造物」という用語は、原核宿主細胞中に導入した後に染色体外エレメントの形で存在することを特徴とするDNA分子、例えばプラスミドやバクテリオファージなどのベクターを意味する。したがって、本発明との関係では、「染色体外エレメント」とは、原核宿主細胞の(複数の)染色体中に組み込まれないDNA分子である。
ドナーDNA分子は、ハイブリッド分子を形成することができるように、レシピエントDNA分子とハイブリッド形成できなければならない。好ましくは、ドナーDNA分子およびレシピエントDNA分子は、組換えられるDNA配列を除いて一般に相同性を有さない。
本発明によれば、レシピエントDNA分子は、原核宿主細胞中への導入後その細胞中で自発的に複製できなければならない。したがって、レシピエントDNA分子は、宿主の遺伝物質とは無関係にレシピエントDNA分子の複製を可能にする少なくとも1個の複製起点を有さなければならない。本発明との関係では、「複製起点」または「ori」とは、細胞の酵素によってDNA分子の複製の開始に使用されるDNA分子の領域である。その起点でDNAの2本の鎖が分かれて複製バブルが形成され、そのバブルの両側に一本鎖DNAの領域が作られる。次いで、DNAポリメラーゼ機構が移動し、古い鎖を鋳型として用いて新たなDNA鎖を合成し始める。細菌プラスミドまたはバクテリオファージを含めた小さなDNAは通常、単一の起点を有する。
本発明の一実施形態では、レシピエントDNA分子はプラスミド、具体的には二本鎖環状DNA分子である。「プラスミド」とは、宿主の遺伝物質とは無関係に複製することができる染色体外エレメントである。本発明の他の実施形態では、レシピエントDNA分子はバクテリオファージ、具体的にはそのDNAが原核細胞中で染色体外エレメントの形で存在するファージである。
本発明の好ましい実施形態では、レシピエントDNA分子は、大腸菌(E. coli)宿主細胞中で複製することができるプラスミドである。好ましくは、レシピエントDNA分子は、大腸菌プラスミドpACYC184またはその誘導体である。プラスミドpACYC184はTetRおよびCamRである。
本発明によれば、ドナーDNA分子は、原核宿主細胞中で複製することができないが、レシピエントDNAとハイブリッド分子を形成することができるDNA分子である。したがって、少なくともマーカー配列を含み、所与の原核宿主細胞内で独立して複製することができない限り、任意のDNA分子をドナー分子として使用することができる。適切なドナー分子の例には、それだけに限らないが、環状化することができ、例えばPCRによって生成され、適当なマーカー配列を含む直鎖状二本鎖DNA、プラスミドおよびバクテリオファージが含まれる。プラスミドまたはバクテリオファージをドナーDNA分子として使用する場合、この分子は、(1個または複数個の)機能的な複製起点を全く有さず、あるいは使用する原核宿主細胞中では機能しない、すなわち不活性である(1個または複数個の)複製起点を有する。
したがって、本発明の一実施形態では、ドナーDNA分子は複製起点を含まない。これは、ドナーDNA分子が、複製起点として任意の原核宿主細胞中で機能することができる配列、すなわち複製の開始に関与するタンパク質因子が結合することができる配列を全く含まないことを意味する。複製起点が存在しないことは、起点として機能するその核酸配列の欠失に起因する可能性がある。
本発明の他の実施形態では、ドナーDNA分子の複製起点の機能が、複製起点自体の機能、または複製に関与するタンパク質の機能、具体的には起点の核酸配列に結合し、それによって複製が開始するタンパク質の機能のいずれかを消失させる1個または複数個の変異によって損傷を受ける。例えば、大腸菌では、複製開始にとって重要なタンパク質であるDnaAが染色体複製起点で特定の配列、いわゆるDnaAボックスと結合し、3個のATに富む13merダイレクトリピートを融解することが知られている。開鎖領域中の一本鎖6merボックスにDnaAタンパク質がさらに結合すると、開鎖複合体が安定化すると考えられている(総説については、Jiangら、PNAS、100(2003)、8692〜8697を参照)。DnaAボックスおよびATに富む領域は、様々な原核生物の複製単位の起点で一般に認められ、DnaAタンパク質はこれらの起点での複製開始に重要な役割を果たすことが示されている。したがって、複製起点の配列中のDnaAボックスおよび/またはATに富む領域、あるいは対応する部位の、適当な塩基置換や欠失などの特定の変異により、複製開始に必要なタンパク質の結合を妨げ、したがって染色体外エレメントの起点の機能を阻害することができる。したがって、本発明の好ましい実施形態では、ドナーDNA分子の複製起点の核酸配列中、具体的には起点のDnaAボックスおよび/またはATに富む領域中の1個または複数個の変異によってドナーDNA分子の複製起点の機能を障害することができる。
さらに、単独のDnaAタンパク質は、RK2、P1、F、pSC101やR6Kなどのプラスミドの起点での開鎖複合体の形成に不十分であることが知られている。こうした場合、開鎖複合体の効率のよい形成は、宿主DnaAタンパク質およびHUまたはIHF(組込み宿主因子)タンパク質と協調したものであるが、プラスミドRepタンパク質の結合を必要とする。開鎖複合体形成にプラスミドによって特定される開始タンパク質を必要とすることは、複製起点での開始事象の頻度の調節を行うプラスミドの能力にとって重要である(総説については、Jiangら、PNAS、100(2003)、8692〜8697を参照)。これは、プラスミド複製に不可欠な機能を有するタンパク質因子をコードするプラスミド核酸配列の変異によっても、染色体外エレメントの複製起点の機能が障害され得ることを意味する。したがって、本発明の他の好ましい実施形態では、ドナーDNA分子の複製に不可欠な機能を有するタンパク質因子をコードする核酸配列中の1個または複数個の変異により、ドナーDNA分子の複製起点の機能を障害することができる。
本発明のさらなる他の好ましい実施形態では、ドナーDNA分子は、組換えられる2種のDNA配列間で組換えを実施するために、特定の原核宿主細胞中でのみ活性であるが、そのドナーDNA分子を導入する原核細胞中では活性でない複製起点を含む。特定の細菌種中で活性である複製起点が他の細菌種中で機能しないことが多数報告されている。例えば、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)の複製起点(oriC)が、カウロバクタークレセンタス(Caulobacter crescentus)、シュードモナスプチダ(Pseudomonas putida)、またはロドバクタースフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)中では不活性であることが知られている(O’NeillおよびBender、J.Bacteriol.,170(1988)、3774〜3777)。枯草菌(Bacillus subtilis)のプラスミドが大腸菌細胞中で複製できないことも知られている。したがって、好ましい実施形態では、ドナーDNA分子および/またはその複製起点は、その細胞中にドナーDNA分子が導入される原核生物種以外の原核生物種に由来する。
特に好ましい実施形態では、ドナーDNA分子は枯草菌(B. subtilis)プラスミドpMIX91であり、これは、プラスミドpIL253の誘導体であり、枯草菌中で複製できるが、大腸菌中では複製できず、specRマーカー、phleoRマーカー、ならびに外来DNA配列を挿入するための制限部位ScaI、PpuMIおよびEcoO109Iを含む。他の特に好ましい実施形態では、ドナーDNA分子は枯草菌プラスミドpMIX101であり、これは、プラスミドpIL253の誘導体であり、枯草菌中で複製できるが、大腸菌中では複製できず、tcRマーカー配列、ならびに外来DNA配列を挿入するための制限部位XhoIおよびPstIを含む。
本発明の他の実施形態では、ドナーDNA分子の複製起点は、特定の温度範囲内でのみ、例えば温度45℃未満でのみ機能的である。ドナーDNA分子がそのような温度感受性の起点を含む場合、非許容条件下では、すなわち原核宿主細胞の増殖が未だ許容される45℃を上回る温度では、それは複製できない。
本発明との関係では、「マーカー配列」という用語は、所与の原核細胞中で独特のDNA配列を指し、ドナーDNA分子上またはレシピエント分子上に、好ましくは組換え基質またはすでに組み換えられたDNA配列の上流もしくは下流に位置する。組換え基質またはすでに組み換えられたDNA配列と同じDNA分子上に、好ましくは組換え基質の他方の側に位置することができる他のマーカー配列と組み合わせてマーカー配列が存在することにより、分子的な方法でも遺伝的な方法でも、組換え基質またはすでに組み換えられたDNA配列を認識し選択することが可能となる。
本発明によれば、ドナーDNA分子は、組換え基質を含む交差の選択を可能にする第1のマーカー配列を含む。第1のマーカー配列は、好ましくはドナーDNA分子またはレシピエントDNA分子上に存在するさらなるマーカー配列と組み合わせて、反復する形で実施されるさらなる回の組換えも可能にする。
本発明によれば、「第1のマーカー配列」とは、タンパク質をコードするDNA配列であり、その遺伝子産物は、適用する選択的な条件下で原核宿主細胞が増殖および繁殖するのに不可欠である。第1のマーカー配列は、栄養マーカー、抗生物質耐性マーカー、および両方またはそれ以上のサブユニットが同じ細胞中で発現している場合にのみ作用する、酵素のサブユニットをコードする配列からなる群から選択される。
「栄養マーカー」とは、生物または細胞の栄養要求性を補償することができ、したがってその栄養要求性の生物または細胞に原栄養性を付与することができる遺伝子産物をコードするマーカー配列である。本発明との関係では、「栄養要求性」という用語は、生物または細胞が、その栄養要求性の生物自体で合成することができない不可欠な栄養素を含む培地中で増殖しなければならないことを意味する。栄養マーカー遺伝子の遺伝子産物は、栄養要求性の細胞中に欠如しているこの不可欠な栄養素の合成を促進する。したがって、栄養マーカー遺伝子の発現後、生物または細胞は原栄養性を獲得するので、生物または細胞が増殖する培地にこの不可欠な栄養素を添加することは不要である。
「抗生物質耐性マーカー」とは、その遺伝子産物が、その抗生物質マーカー遺伝子の発現が起こる細胞に、所与の濃度での所与の抗生物質の存在下で増殖する能力を発現後に付与するマーカー遺伝子であるが、その抗生物質マーカーを有さない細胞は増殖することができない。
「酵素のサブユニットをコードする配列」は、完全な酵素構造の構築に必要な、したがってその酵素の完全な活性を得るのに必要な、酵素のすべてのサブユニットを細胞が合成できない場合、また遺伝的なかつ/または分子的な手段によって、酵素活性の有無をモニターすることができる場合にマーカー配列として使用することができる。例えば、酵素の活性が、特定の環境下で細胞の増殖および/または繁殖を可能にする、細胞の不可欠な生化学的経路に必要であり、その細胞が完全な酵素構造のすべての構成成分を合成できない場合、その細胞はその環境で生存できない。したがって、マーカー配列として使用する「酵素のサブユニットをコードする配列」によって、完全な酵素の構築およびその細胞の生存が発現後可能になる。
好ましくは、第1のマーカー配列の遺伝子産物は、抗生物質に感受性の細胞にその抗生物質に対する耐性を付与する。具体的には、第1のマーカー配列は、その遺伝子産物がスペクチノマイシンに対する耐性を細胞に付与するspecR、その遺伝子産物がフレオマイシンに対する耐性を細胞に付与するphleoR、またはその遺伝子産物がテトラサイクリンに対する耐性を細胞に付与するtcRである。
本発明の他の実施形態では、ドナーDNA分子は第2のマーカー配列を含む。本発明のさらなる他の実施形態では、レシピエントDNA分子は第3のマーカー配列を、場合によっては第4のマーカー配列を含む。それは、本発明の一実施形態ではドナーDNA分子が少なくとも第1および第2のマーカー配列を、場合によってはさらに多数のマーカー配列を含んでもよく、これらを、例えば、組換え基質の上流または下流に配置することができることを意味する。他の実施形態では、レシピエントDNA配列は第3および第4のマーカー配列を、場合によってはさらに多数のマーカー配列を含んでもよく、これらを、例えば、組換え基質の上流または下流に配置することができる。第2の原核細胞中で形成され、2種の異なる組み換えられたDNA配列を含むハイブリッド分子が少なくとも全部で4種の異なるマーカー配列を含み得るので、このさらなるマーカーは、組み換えられたDNA配列の選択の厳密性を促進することを可能にする。
本発明によれば、「第2、第3および第4のマーカー配列」とは、栄養マーカー、色素マーカー、抗生物質耐性マーカー、抗生物質感受性マーカー、プライマー認識部位、イントロン/エキソン境界、酵素の特定のサブユニットをコードする配列、プロモーター配列、下流制御遺伝子配列および制限酵素部位からなる群から選択されるタンパク質コードまたは非コード配列である。
「色素マーカー」とは、その遺伝子産物が、発現後に、色素マーカーが発現した細胞を染色する色素の合成に関与するマーカー遺伝子である。色素マーカーを有さない細胞は、色素を合成せず、したがって染色されない。したがって、色素マーカーは、色素マーカーを含む細胞の迅速な表現型の検出を可能にする。
「抗生物質感受性マーカー」とは、その遺伝子産物が、発現後に、所与の濃度での所与の抗生物質の存在下で細胞の増殖能を破壊するマーカー遺伝子である。
「プライマー認識部位」とは、部位特異的PCRプライマーのアニーリング部位であり、それによってPCRによるそれぞれのマーカー配列の迅速な同定が可能となる。
本発明の好ましい実施形態では、ドナーDNA分子の第2のマーカー配列、ならびにレシピエントDNA分子の第3および第4のマーカー配列はタンパク質コード配列であり、その遺伝子産物は、抗生物質に感受性の細胞にその抗生物質に対する耐性を付与する。好ましくは、第3のマーカー配列の遺伝子産物は、細胞にテトラサイクリンに対する耐性を付与し、第4のマーカー配列の遺伝子産物は、細胞にクロラムフェニコールに対する耐性を付与する。
本発明との関係では、「組換えられるDNA配列」および「組換え基質」という用語は、相同組換えまたは非相同組換えの過程の結果組み換えることができる任意の2種のDNA配列を意味する。
いくつかの型の相同組換え事象は、損傷したDNAの、相同な相手との塩基対形成を特徴とし、相互作用の程度には数百のほとんど完全に整合した塩基対が関与し得る。その一方で、非正統的または非相同組換えは、相補的な塩基対を全く有さない、またはわずか少数有するDNAの末端同士の結合を特徴とする。原核細胞では、非相同的な修復および組換えの事象は、相同組換え事象より有意に低い頻度で起こる。
本発明の好ましい実施形態では、2種の組換え基質、すなわち組換えられる第1および第2のDNA配列は、異なる配列、すなわち同一ではないがある程度の相同性を示す配列である。本発明との関係では、「相同性」という用語は、2種の核酸分子の配列間に存在する同一性の程度を示すが、「相異性」は、2種の核酸分子の配列間における非同一性の程度を示す。本発明によれば、組換えられるDNA配列は、その全体的なアラインメントに関して、2箇所以上の位置において互いに異なっている。本発明の一実施形態では、その全体の長さに対する2種の組換え基質間の全体的な相異性は、0.1%を超え、具体的には5%を超え、好ましくは25%を超える。これは、組換えられるDNA配列が30%を超えて、40%を超えて、さらに50%を超えて異なり得ることを意味する。本発明の特に好ましい実施形態では、組換えられる2種のDNA配列は、少なくとも1個または複数個の相同なまたは同一の領域を有するが、それは非常に短いものとすることができる。本発明によれば、相同なまたは同一の領域は、25個未満のヌクレオチドを、具体的には20個未満または15個未満のヌクレオチドを、さらに10個未満のヌクレオチド、例えば4、5、6、7、8または9個のヌクレオチドを含むことができる。
組換え基質または組換えられるDNA配列は、天然または合成に由来するものとすることができる。したがって、本発明の一実施形態では、組換えられる第1および第2のDNA配列は天然に存在する配列である。天然に存在する配列は、ウイルス、生きているもしくは死んでいる細菌などの原核生物、生きているもしくは死んでいる真菌、動物、植物やヒトなどの真核生物、またはその一部を含めた任意の天然供給源から、任意の適当な単離法によって単離することもでき、あるいは化学的手段によって合成することもできる。天然に存在する配列はまた、天然供給源から単離後に変異導入にさらされたような配列を含むこともできる。本発明の他の実施形態では、組換えられる第1および第2のDNA配列は人工の配列であり、天然供給源中には認められない。人工の配列は、任意の既知の化学的方法によって合成することができる。
本発明の好ましい実施形態では、組換えられるDNA配列は、タンパク質コード配列、例えば天然および非天然の化合物の工業生産に利用することができる酵素をコードする配列である。酵素、または酵素の援助によって生成される化合物は、薬品、化粧品、食品などの生産に使用することができる。タンパク質コード配列は、ヒトおよび動物の健康の分野において治療に適用されるタンパク質をコードする配列とすることもできる。医学上重要なタンパク質の重要な種類には、サイトカインおよび成長因子がある。タンパク質コード配列の組換えにより、機能が変化した、好ましくは向上したかつ/または新たに機能を獲得したタンパク質をコードする新たな変異配列の生成が可能になる。このように、例えばタンパク質の熱安定性を向上させ、タンパク質の基質特異性を変化させ、その活性を向上させ、新たな触媒部位を進化させ、かつ/または2種の異なる酵素由来のドメインを融合させることが可能である。組換えられるタンパク質コードDNA配列には、天然の状況では類似のまたは同一の機能を有する同じまたは類似のタンパク質をコードする異なる種由来の配列が含まれ得る。組換えられるタンパク質コードDNA配列には、同じタンパク質または酵素のファミリー由来の配列が含まれ得る。組換えられるタンパク質コード配列は、異なる機能を有するタンパク質をコードする配列、例えば、所与の代謝経路の異なる工程を触媒する酵素をコードする配列とすることもできる。本発明の好ましい実施形態では、組換えられる第1および第2のDNA配列は、β−ラクタマーゼのOxaスーパーファミリーの遺伝子の配列の群から選択される。
本発明の他の好ましい実施形態では、組換えられるDNA配列は、例えば、天然の細胞の状況内ではタンパク質コード配列の発現の制御に関与する配列などの非コード配列である。非コード配列の例には、それだけに限らないが、プロモーター配列、リボソーム結合部位を含む配列、イントロン配列、ポリアデニル化配列などがある。そのような非コード配列を組み換えることによって、細胞環境中で細胞のプロセスの制御が変化した、例えば遺伝子の発現が変化した変異配列を進化させることが可能である。
本発明によれば、組換え基質または組換えられるDNA配列は、もちろん複数のタンパク質コード配列および/または複数の非コード配列を含むことができる。例えば、組換え基質は、1個のタンパク質コード配列+1個の非コード配列または異なるタンパク質コード配列と異なる非コード配列との組合せを含むことができる。したがって、本発明の他の実施形態では、組換えられるDNA配列は、非コード配列が介在および/または隣接した1個または複数個の領域のコード配列からなるものとすることができる。それは、組み換えられるDNA配列が、例えば5’末端および/または非翻訳3’領域に制御配列を有する遺伝子の配列、あるいはエキソン/イントロン構造を有する哺乳動物遺伝子の配列とすることができることを意味する。本発明のさらなる他の実施形態では、組換えられるDNA配列は、オペロンなど、任意に非コード配列が介在した1個を超えるコード配列を含む長い連続したDNAの領域からなるものとすることができる。組換えられるDNA配列は、1つまたは複数の組換え事象、例えば相同組換え事象および/または非相同組換え事象をすでに経た配列とすることができる。
組換え基質は、非変異野生型DNA配列および/または変異DNA配列を含むことができる。したがって、好ましい実施形態では、新たな変異配列を進化させるために、野生型配列をすでに存在する変異配列と組み換えることが可能である。
本発明によれば、原核細胞は、レシピエントDNA分子およびドナーDNA分子を導入するための宿主細胞として使用する。「原核細胞」および「原核宿主細胞」という用語には、ゲノムが細胞質内に環状構造物として自由に存在する任意の細胞、すなわちゲノムが核膜に囲まれていない細胞が含まれる。原核細胞は、必ずしも酸素に依存せず、そのリボソームが真核細胞より小さいことをさらに特徴とする。原核細胞には、古細菌および真正細菌が含まれる。細胞壁の組成に応じて、真正細菌はグラム陽性細菌、グラム陰性細菌およびラン藻類に分類することができる。
したがって、本発明によれば、原核細胞は、古細菌または真正細菌の細胞であり、本発明の好ましい実施形態では、原核細胞はグラム陰性細菌、グラム陽性細菌またはラン藻類である。好ましくは、グラム陰性細菌は大腸菌(Escherichia coli)、例えば大腸菌株AB1157またはそのMutS−変異体、大腸菌株MXP1である。
本発明によれば、好ましくは、機能的な修復系を有する本発明の方法の原核宿主細胞を使用することができる。ミスマッチ修復(MMR)系は、複製中のDNAポリメラーゼの誤りによる変異の回避に最も大きく貢献する一因である。しかし、ミスマッチ修復は、遺伝子組換えの正確性を確実に保つことにより、遺伝的安定性をも促進する。細菌では、また酵母および哺乳動物細胞でも、少数のミスマッチ(<1%)を含む相同なDNA基質間での組換えは、同一の配列間ほど効率よく生じないが、組換え(遺伝子転換および/または交差)の頻度はMMRが欠損した系統で劇的に上昇する。これは、組換えの高い正確性が、組換え酵素の内在的な特性によってだけでなく、ミスマッチ修復系による組換えの編集によっても生じることを意味する。したがって、ミスマッチ修復機構は、異なる配列間での組換えに抑制的な効果を有する。大腸菌では、メチル特異的なMMR系の2種のタンパク質である、すなわちMutSおよびMutLがこの強い抗組換え活性に必要であるが、他のMMR系のタンパク質であるMutHおよびUvrDの効果は顕著でない。MMRおよび相同組換えにおける役割に加えて、MMRタンパク質は、遺伝子転換中の非相同DNAの除去にもある重要な役割を果たす。
本発明の他の好ましい実施形態では、ミスマッチ修復系が欠損している原核細胞を使用する。本発明との関係では、「ミスマッチ修復系が欠損している」という用語は、原核細胞のMMR系が一時的にまたは永久的に損傷を受けることを意味する。細胞または生物のMMR欠損は、それだけに限らないが、MMRに関与する1種または複数種の遺伝子の変異、MMRの全体的な障害が生じるUV光のような作用因子での処理、MMR系を一時的に飽和し不活性化する2−アミノプリンのような作用因子または過度の量のミスマッチを含むヘテロ二重鎖での処理、および一時的な不活性化を可能にする、例えば制御可能なプロモーターを介した、MMRに関与する1種または複数種の遺伝子の誘導性発現または抑制を含めて、MMR系を一時的にまたは永久的に障害する任意の戦略によって実現することができる。
本発明の好ましい実施形態では、原核宿主細胞のミスマッチ修復欠損は、MMRに関与する少なくとも1種の遺伝子の変異に起因する。好ましい実施形態では、原核細胞は、変異mutS遺伝子、変異mutL遺伝子、変異mutH遺伝子および/または変異UvrD遺伝子を有する。
他の実施形態では、原核宿主細胞の1種または複数種の主要な組換えタンパク質が障害または阻害される。例えばAddAB遺伝子が障害された細胞が高頻度の相同組換えおよび非相同組換えを示すことが判明している。他の実施形態では、原核宿主細胞の、recAなどの主要な組換えタンパク質の1つが過剰発現している。このタンパク質は、一本鎖DNAの再生を促進して組換え事象に必要なヘテロ二重鎖分子を形成することにより相同組換えに関与し、DNA鎖の交換を開始する。
本発明によれば、レシピエントDNA分子およびドナーレシピエント分子を原核宿主細胞中に同時にまたは順次導入することにより、第1の原核細胞を生成する。したがって、本発明の一実施形態では、第1の工程でレシピエントDNA分子を特定の原核宿主細胞中に導入することにより、第1の原核細胞を生成することができる。レシピエント分子を有する原核宿主細胞を回収した後、第2の工程でレシピエント分子を有する細胞中にドナーDNA分子を導入する。本発明の他の実施形態では、レシピエントとドナーのDNA分子をどちらも同時に原核宿主細胞中に導入することができる。
本発明によれば、原核宿主細胞中へのレシピエントDNA分子とドナーDNA分子の両方の導入は、それだけに限らないが、形質転換、接合、形質導入、伴性導入、感染および/またはエレクトロポレーションを含めた任意の知られている適当な方法によって実施することができる。
本発明との関係では、「形質転換」という用語は、細胞、例えば微生物細胞による、環境からの単離された、好ましくは精製された核酸分子の取り込みを意味する。桿菌属(Bacillus)や双球菌属(Diplococcus)など、一部の原核生物種の細胞は、生来形質転換受容性があるが、大腸菌など他の原核生物種の細胞は、形質転換受容性にする、すなわち細胞膜を横断する核酸分子の移動を誘導するために特別な処理を施さなければならない。複数の細菌が形質転換を介してDNAを交換できることが知られている。
「接合」とは、細胞と細胞の接触により、一方の細菌細胞から他方の細菌細胞中へと細菌プラスミドがプラスミドを媒介して移動することを意味する。それに関与する移動機構は、プラスミドまたは接合トランスポゾンによって通常コードされている。そのようなプラスミドの例は、接合プラスミドまたはヘルパープラスミドである。接合プラスミドは、細胞と細胞の接触を促進する遺伝子(可動化遺伝子(mobilisation gene))を運搬する自己伝達性プラスミドである。そのプラスミドは、接合橋(conjugation bridge)を生成する遺伝子を含む。橋が作られた後、他のプラスミドを、さらには染色体DNA(接合トランスポゾン)も移動することができる。可動性プラスミドは、可動化遺伝子を含むが、細胞間を移動するには接合プラスミドの「援助」を必要とする。接合は、原核細胞の異なる系統発生上の群の間、および原核生物と真核生物の間での遺伝子交換の主要な経路の1つである。
「伴性導入」とは、F因子またはFプラスミドを有する原核細胞からそのF因子を含まない細胞(F−細胞)へと遺伝物質を移動する方法である。F因子は、通常は細菌細胞の細胞質中に存在するが、時折細菌の染色体の様々な部位に組み込まれる可能性があり、それによってHfr細胞の形成がなされる。F因子の組込みは可逆的であり、それにより、プラスミドの不正確な分解の後、細菌の染色体においてF因子の元の組込み部位に隣接した遺伝物質を含む可能性がある、いわゆる置換F因子(F’)が生じる。F’プラスミドは、高頻度でF’細胞中に移動することができる。
「形質導入」とは、バクテリオファージによって一方の細菌細胞から他方の細菌細胞中へと核酸分子を移動することであり、一方の細胞からのバクテリオファージの放出と、それに続く他方の細胞の感染とを含む。2種類の形質導入が存在する。溶原性バクテリオファージの溶原性の生活環中に特殊な形質導入が行われることがあり、それによって細菌の遺伝物質をバクテリオファージの一部と置換することができる。この細菌DNAの一片をファージゲノムの一部として複製し、ファージにより他のレシピエント細胞中へと移動することができる。一般的な形質導入の場合、溶菌ファージのゲノム全体を細菌DNAと置換することができる。このファージが他の細菌に感染するとき、そのファージはレシピエント中にDNAを注入し、そこでそのDNAをレシピエント細胞のDNAの小片と交換することができる。
「エレクトロポレーション」とは、細胞を核酸分子と混合し、次いでそれを高電圧のパルスに短時間さらす方法である。宿主細胞の細胞膜を浸透性にし、それによって外来の核酸を宿主細胞に入れることを可能にする。
本発明の特に好ましい実施形態では、照射によって組換え頻度が上昇することが知られているので、原核宿主細胞中に導入する前に、ドナーDNA分子にUV照射する。
本発明によれば、レシピエントDNA分子とドナーDNA分子の間での融合体またはハイブリッド分子の形成も、その2種の組換え基質間での組換え、好ましくは非相同組換えも生じさせる条件、すなわち組み換えられたDNA配列の選択を可能にする条件下で、レシピエントDNA分子およびドナーDNA分子を含む第1の原核細胞を培養する。
ドナーDNA分子の第1のマーカー配列が抗生物質耐性マーカーである場合、原核宿主細胞が感受性であり、第1のマーカー配列の遺伝子産物が耐性を付与する抗生物質の存在下で、レシピエントDNA分子およびドナーDNA分子を含む第1の原核細胞を培養する。特に好ましい実施形態では、ドナーDNA分子上に存在する第1のマーカー配列が、その遺伝子産物がスペクチノマイシンに対する耐性を細胞に付与するspecRである場合、スペクチノマイシンの存在下で第1の原核細胞を培養する。他の特に好ましい実施形態では、ドナーDNA分子上に存在する第1のマーカー配列が、その遺伝子産物がフレオマイシンに対する耐性を細胞に付与するphleoRである場合、フレオマイシンの存在下で第1の原核細胞を培養する。他の特に好ましい実施形態では、ドナーDNA分子上に存在する第1のマーカー配列が、その遺伝子産物がテトラサイクリンに対する耐性を細胞に付与するtcRである場合、テトラサイクリンの存在下で第1の原核細胞を培養する。
ドナーDNA分子の第1のマーカー配列が栄養マーカーである場合、宿主細胞自体で合成することができず、ドナー分子を導入しドナー分子に含まれる第1のマーカー遺伝子が発現した後に宿主細胞に供給される特定の不可欠な栄養素を欠く培地中で、レシピエントDNA分子およびドナーDNA分子を含む第1の原核細胞を培養する。第1の栄養マーカー遺伝子が発現した後、原核細胞を増殖させる培地にこの不可欠な栄養素を添加することは不要である。
第2のマーカー配列、第3のマーカー配列および/または第4のマーカー配列が抗生物質耐性マーカーである場合、好ましい実施形態では、さらに第2のマーカー配列、第3のマーカーおよび第4のマーカー配列の遺伝子産物がそれぞれ耐性を付与する第2、第3および/または第4の抗生物質の存在下で、第1の原核細胞をさらに培養することができる。好ましくは、フレオマイシンまたはスペクチノマイシンまたはテトラサイクリンの存在下だけでなく、さらにクロラムフェニコールの存在下でも第1の原核細胞を培養する。最も好ましくは、フレオマイシン、スペクチノマイシン、クロラムフェニコールおよびテトラサイクリンの存在下で、第1の原核細胞を増殖および繁殖させる。
選択的な条件下で原核細胞を培養した後、レシピエントDNA分子およびドナーDNA分子によって形成される融合体またはハイブリッド分子を含む第2の原核細胞を単離する。この融合体は組換えDNA配列を含む。融合体および/または組換えDNA配列が存在することを、制限プロファイル分析、PCR増幅および/または配列決定などいくつかの手段により検証および検出することができる。例えば、ドナー分子の第2のマーカー配列、およびレシピエント分子の第3または第4のマーカー配列が独特のプライマー認識配列である場合、それぞれのマーカーの組合せが存在することを検出するために、これらのマーカー配列を認識する適当なプライマーを使用することによって融合体の特定の断片をPCR増幅することができる。融合体が形成されなかった、すなわち組換えが起こらなかった場合、これらの断片を検出することはできない。例えば、ドナー分子の第2のマーカー配列、およびレシピエント分子の第3または第4のマーカー配列が独特の制限酵素切断部位である場合、特定のDNA断片を検出するために、融合体を制限酵素分析にかけることができる。融合体が形成されなかった、すなわち組換えが起こらなかった場合、これらの断片を検出することはできない。
本発明によれば、第2の原核細胞のハイブリッドDNA分子中に含まれる第1および第2の組み換えられたDNA配列を単離および/または分析および/または選択することができる。得られた第1および第2の組み換えられたDNA配列は、例えば、PCR増幅、または適当な制限酵素での切断によって単離することができる。ハイブリッドDNA分子中に含まれる第1および第2の組み換えられたDNA配列の分析は、例えば配列決定法によって行うことができる。
本発明によれば、単離された第1および第2の組み換えられたDNA配列をドナーDNA分子およびレシピエントDNA分子中にそれぞれ再度挿入し、本発明の方法を使用することによりそれを別の回の組換えにかけることができる。
本発明の他の態様は、新規のまたは向上した機能および特性を有する新規のタンパク質、酵素および非コード配列を生成する方法に関し、それによって、原核宿主細胞中で組換えDNA配列を生成および検出する本発明の方法を使用することにより、既知のタンパク質コード配列または既知の非コード配列を1回または複数回の組換えにかける。本発明はまた、本発明の方法のいずれか1つによって生成されたタンパク質、酵素および非コード配列にも関する。
本発明はまた、枯草菌プラスミドpMIX91にも関し、これは、プラスミドpIL253の誘導体であり、枯草菌中で複製できるが、大腸菌中では複製できず、specRマーカー、phleoRマーカー、ならびに外来DNA配列を挿入するための制限部位ScaI、PpuMIおよびEcoO109Iを含む。
本発明はまた、枯草菌プラスミドpMIX101にも関し、これは、プラスミドpIL253の誘導体であり、枯草菌中で複製できるが、大腸菌中では複製できず、tcRマーカー配列、ならびに外来DNA配列を挿入するための制限部位XhoIおよびPstIを含む。
本発明はまた、枯草菌プラスミドpMIX91を含む枯草菌株DSM4393(2005年2月21日に、DSMZ、ドイツ微生物細胞培養コレクション(Deutsche Sammlung fur Mikroorganismen und Zellkulturen)GmbH、Braunschweig、ドイツにSB202pMIX91として寄託されている)、および枯草菌プラスミドpMIX101を含む枯草菌株1A423(2005年2月21日に、DSMZ、ドイツ微生物細胞培養コレクションGmbH、Braunschweig、ドイツに1A423pMIX101として寄託されている)にも関する。
本発明の他の態様は、本発明の方法におけるドナーDNA分子としての枯草菌プラスミドpMIX91およびpMIX101それぞれの使用、すなわち原核宿主細胞中で、好ましくは大腸菌細胞中で組換えDNA配列を生成および/または検出するためのプラスミドpMIX91およびpMIX101の使用に関する。
本発明の他の態様は、本発明の方法におけるレシピエントDNA分子としての大腸菌プラスミドpACYC184またはpMIX100あるいはその誘導体の使用、すなわち原核宿主細胞中で、好ましくは大腸菌細胞中で組換えDNA配列を生成および/または検出するためのプラスミドpACYC184またはpMIX100の使用に関する。
本発明の他の態様は、原核宿主細胞中で組み換えられたDNA配列を生成および検出する本発明の方法の実施に使用することができるキットに関する。第1の実施形態では、キットは、原核宿主細胞として大腸菌株AB1157の細胞を含む第1の容器、レシピエントDNA分子として使用することができる大腸菌プラスミドpACYC184または大腸菌プラスミドpMIX100を含む大腸菌株AB1157の細胞を含む第2の容器、およびドナーDNA分子として使用することができる枯草菌プラスミドpMIX91を含む枯草菌株DSM4393の細胞、または枯草菌プラスミドpMIX101を含む枯草菌株1A423の細胞を含む第3の容器を少なくとも含む。本発明の第2の実施形態では、キットは、原核宿主細胞として、株AB1157のMutS−変異体である大腸菌株MXP1の細胞を含む第1の容器、プラスミドpACYC184またはpMIX100を含む大腸菌株AB1157の細胞を含む第2の容器、およびプラスミドpMIX91を含む枯草菌株DSM4393、またはプラスミドpMIX101を含む枯草菌株1A423の細胞を含む第3の容器を少なくとも含む。さらなる他の実施形態では、キットは、大腸菌株AB1157または大腸菌株MXP1の細胞を含む第1の容器、大腸菌プラスミドpACYC184またはpMIX100のDNAを含む第2の容器、および枯草菌プラスミドpMIX91または枯草菌プラスミドpMIX101のDNAを含む第3の容器を少なくとも含む。
本発明の他の実施形態は、原核細胞中でハイブリッド遺伝子および/またはハイブリッド遺伝子によってコードされたタンパク質を生成する方法に関する。ハイブリッド遺伝子および/またはそれにコードされたタンパク質を生成する方法は、組換えDNA配列を生成および検出する本発明の方法を実施する工程を含み、それによってハイブリッド遺伝子および/またはハイブリッド遺伝子によってコードされたタンパク質が原核細胞中で生成される。発現後、ハイブリッド遺伝子および/またはそれにコードされたタンパク質を原核細胞中で選択し、かつ/またはそれから単離する。
本発明はまた、ハイブリッド遺伝子を生成する本発明の方法、または組換えDNA配列を生成および検出する本発明の方法によって得られるハイブリッド遺伝子にも関する。
本発明はまた、ハイブリッド遺伝子を生成する本発明の方法、または組換えDNA配列を生成および検出する本発明の方法によって得られるハイブリッド遺伝子によってコードされ、かつ/あるいはハイブリッド遺伝子によってコードされたタンパク質を生成する本発明の方法によって得られるタンパク質にも関する。
下記の配列表、図面および実施例により、本発明を説明する。
配列番号1および2は、oxa7を増幅し、それぞれ5’および3’末端にScaIおよびPpuMI制限部位を導入するためのプライマーOLG1およびOLG2それぞれの配列を示す。
配列番号3および4は、oxa11を増幅し、それぞれ5’および3’末端にBamHIおよびEcoO109I制限部位を導入するためのプライマーOLG3およびOLG4それぞれの配列を示す。
配列番号5および6は、oxa5を増幅し、それぞれ5’および3’末端にBamHIおよびEcoO109I制限部位を導入するためのプライマーOLG5およびOLG6それぞれの配列を示す。
配列番号7および8は、oxa1を増幅し、それぞれ5’および3’末端にBamHIおよびEcoO109I制限部位を導入するためのプライマーOLG7およびOLG8それぞれの配列を示す。
配列番号9および10は、oxa11を増幅し、それぞれ5’および3’末端にScaIおよびEcoO109I制限部位を導入するためのプライマーOLG9およびOLG10それぞれの配列を示す。
配列番号11はプライマーOLG11の配列を示し、これをプライマーOLG8(配列番号8)と一緒に用いて、oxa1を増幅し、それぞれ5’および3’末端にScaIおよびEcoO109I制限部位を導入した。
配列番号12および13は、ハイブリッドプラスミドpMIX93に含まれる組換え遺伝子R1を増幅するためのプライマーOLG12およびOLG13それぞれの配列を示す。
配列番号14はプライマーOLG14の配列を示し、これをプライマーOLG12(配列番号12)と一緒に用いて、ハイブリッドプラスミドpMIX95、pMIX96およびpMIX97の1つに含まれる組換え遺伝子R1を増幅した。
配列番号15はプライマーOLG15の配列を示し、これをプライマーOLG17(配列番号17)と一緒に用いて、ハイブリッドプラスミドpMIX93に含まれる組換え遺伝子R2を増幅した。
配列番号16はプライマーOLG16の配列を示し、これをプライマーOLG17(配列番号17)と一緒に用いて、ハイブリッドプラスミドpMIX95、pMIX96およびpMIX97の1つに含まれる組換え遺伝子R2を増幅した。
配列番号17はプライマーOLG17の配列を示す。
(実施例1)
スペクチノマイシンおよび/またはフレオマイシンに対する耐性により組換えDNA配列を選択する二重プラスミド系(大腸菌/枯草菌)を使用する非相同遺伝子のin vivo組換え
1.材料および方法
1.1 細菌株およびプラスミド
この実施例中で使用する細菌株およびプラスミドをそれぞれ表1および表2に示す。
1.2 増殖条件および培地
大腸菌と枯草菌はどちらもLB培地(Difco Laboratories、Detroit、米国)中で37℃で培養した。プレート中で培地を使用するとき(LBA)、1リットル当たりに寒天(Difco)を15g添加した。必要なとき、培地に抗生物質を補充し、その終濃度は以下の通りであった:テトラサイクリン(Sigma−Aldrich Chimie、St.Quentin Fallavier、フランス)、12.5μg/ml;クロラムフェニコール(Sigma−Aldrich Chimie)、30μg/ml;アンピシリン(Sigma−Aldrich Chimie)、100μg/ml;エリスロマイシン(Sigma−Aldrich Chimie)、0.5μg/ml;スペクチノマイシン(Sigma−Aldrich Chimie)、75μg/ml;フレオマイシン(Euromedex、Strasbourg、フランス)、2μg/ml。LBAにスペクチノマイシン+フレオマイシンを補充したとき、終濃度は、それぞれ60μg/mlおよび1μg/mlであった。
1.3 DNAおよび微生物の操作
形質導入
P1を媒介する形質導入を用いて大腸菌MIXP1株を構築した(3)。
形質転換
Eppendorfエレクトロポレーター2510(Eppendorf AG、Hamburg、ドイツ)を用いた電気的形質転換により、供給元の説明書に従って大腸菌株中にプラスミドを導入した。
Yasbinら、(9)に記載のように、枯草菌のコンピテント細胞を調製し形質転換した。
DNA操作
分子生物学技術については確立されているプロトコールに従った(4)。DNA操作用の酵素は、New England Biolabs(Beverly、マサチューセッツ州、米国)、MBl Fermentas(Vilnius、リトアニア)、Promega(Madison、ウィスコンシン州)またはStratagene(La Jolla、カリフォルニア州、米国)から購入し、製造元による推奨の通りに使用した。必要なときに、NuceloSpin抽出キット(Machery−Nagel)を使用して、アガロースゲルから制限エンドヌクレアーゼで消化したDNAを精製した。
NucleoSpinキット(Machery−Nagel GmbH & Co.、Duren、ドイツ)を使用して、製造元の説明書に従って大腸菌からプラスミドDNAを単離した。枯草菌からプラスミドDNAを単離するのに同じキットを使用したが、最初の溶解工程は、細胞を2mg/mlのリゾチームとともに37℃で30分間インキュベートすることにより行った。
使用したプライマーは、Proligo France SAS(Paris、フランス)により合成された。
ヌクレオチド配列は、Genome Express(Meylan、フランス)によって両方向から決定した。Infobiogenパッケージ(Genopole d’Evry、Evry、フランス)を用いて配列を分析した。配列比較にClustalWプログラムを使用した。
PCR増幅
Mastercycler Gradient(Eppendorf AG、Hamburg、ドイツ)を使用してPCR反応を行った。容量50μlで反応を実施し、ハイフィデリティーHerculase Enhanced DNAポリメラーゼ(Strategene)を下記の条件下で使用した:96℃で3分間と、96℃で30秒間、アニーリング温度で30秒間、72℃で1分間を35サイクルと、72℃で10分間の最終伸長工程。アニーリング温度は、使用したプライマーの最も低いTmから5℃減じることによって決定した。必要なときに、NucleonSpin抽出キット(Machery−Nagel)を使用してPCR産物を精製した。0.7%アガロースゲル(Sigma)中での電気泳動によって増幅産物を分析した。
2.一般的戦略
この実験は、異なる程度の配列同一性を有する2種の親遺伝子のin vivo組換えにより、有利な特性を示す新たな分子を生成するために行った。使用した戦略は下記の通りである。
そのヌクレオチド配列が相同性を示さない、組換えられる遺伝子を2種の異なるプラスミドにより運搬する。第1のプラスミドは、大腸菌複製性プラスミドであり、クロラムフェニコール(Cm)またはテトラサイクリン(Tc)に対する耐性を付与する。それは、標準的なクローン化用ベクターpACYC184という、New England Biolabsから入手した低コピー数プラスミドに基づく。
第2のプラスミドは、pIL253に由来する枯草菌プラスミドである(SimonおよびChopin、1988)。それは大腸菌中で複製することができず、スペクチノマイシン(Spc)およびフレオマイシン(Phleo)それぞれに対する2種の抗生物質耐性マーカーを運搬する。
これら2種のベクターによって運搬される非相同遺伝子の対を組み換えるために、複製性プラスミドを有する大腸菌株中に枯草菌プラスミドをエレクトロポレーションによって導入する。これを図1に概略的に示す。そのような株では、変異導入および組換えを調節するミスマッチ修復系(MMR)が機能(+)または欠損(−)している。
エレクトロポレーション後、枯草菌プラスミドが耐性を付与する抗生物質(SpcおよびPhleo)で形質転換体を選択する。枯草菌プラスミドと大腸菌プラスミドの間で形成された融合体を有する細胞だけがその条件下で増殖することができるので、そのような選択圧が非相同遺伝子間での組換えを生じさせる。ハイブリッドプラスミドは、SpcおよびPhleoに対する耐性を付与し、枯草菌のものは機能しないため大腸菌由来のものを複製する。さらに、それは2種の組換え遺伝子R1およびR2を運搬する。
第1の工程は、大腸菌および枯草菌ベクター中に、組換え効率を評価するために標的として最初に選択された遺伝子をクローン化することである。
野生型株とミスマッチ修復欠損株の両方でoxa遺伝子間での組換え実験を行った。実験は、同一遺伝子または異なる遺伝子の対の間で行った。
照射によって組換え頻度が10倍上昇することが知られているので、エレクトロポレーションの前に、プラスミドDNAにUV照射した。
2−アミノプリンでの処理により一時的にミューテーターにした株でも組換えを行った。2−アミノプリンはアデニンアナログであり、細菌の増殖中にDNAに組み込まれ、MMR系を飽和する。したがって、2−アミノプリンの除去後野生型の状態が回復するので一時的なミューテーターの表現型が生じる。ミスマッチ修復活性のこの一時的な調節により、組換えで使用する株の安定なバックグラウンドがもたらされ、そのゲノム中での変異の蓄積が回避される。
3.結果
枯草菌ベクターの構築
組換えの標的遺伝子を運搬する枯草菌ベクターを構築するために、抗生物質スペクチノマイシン(specR)およびフレオマイシン(phleoR)それぞれに対する耐性を付与する2種の遺伝子マーカーを、2工程のクローン化戦略に従ってプラスミドpIL253中にクローン化した。
第1に、プラスミドpic156から、長さ1294bpのSacI断片としてspecR遺伝子を得た。その断片を精製し、次いでSacIで消化したpIL253にそれを連結した。その連結混合物で枯草菌DS4393コンピテント細胞を形質転換し、75μg/mlのスペクチノマイシンを含むLBAプレート上で形質転換体を選択した。形質転換体から得られたプラスミドDNAの制限分析により、それがspecR遺伝子を運搬するpILF253誘導体を有していることが確認された。
第2の工程では、phleoR遺伝子をpIL253−spec中にクローン化した。プラスミドpUC19−phleoをEcoRIおよびSalI制限酵素で消化し、phleoRに対応する長さ574bpの断片をゲル精製し、同じ2種の酵素で予め消化したpIL253−specにそれを連結した。その連結混合物で枯草菌DSM4393コンピテント細胞を形質転換し、次いで、60μg/mlのフレオマイシンを含むLBAプレート上で形質転換体を選択した。形質転換体から得られたプラスミドDNAの制限分析により、それがspecR遺伝子とphleoR遺伝子の両方を運搬する予想された6.69kbのプラスミドを有していることが実証された。プラスミドをpMIX91と名付けた(図3を参照)。
形質転換効率対照ベクターの構築
組換え実験においてスペクチノマイシンおよびフレオマイシンの選択下で大腸菌株の形質転換効率対照として使用するベクターを構築した。ベクターを以下の通りに構築した:pic156をBamH1およびEcoRIで消化した後、1.25kbの断片としてスペクチノマイシン耐性遺伝子(specR)を得た。フレオマイシン耐性遺伝子(phleoR)の隣にあるpUC−phleoの対応する部位にそれをクローン化した。その連結混合物を用いた大腸菌DH10Bコンピテント細胞のエレクトロポレーションを行った後、スペクチノマイシンおよびフレオマイシンの耐性コロニーを、それぞれ終濃度60μg/mlおよび1μg/mlの両方の抗生物質を含むLBAプレート上で選択した。形質転換体から単離されたプラスミドDNAの制限分析により、それが長さ4.46kbの予想された構築物と一致していることが判明し、それをpMIX92と名付けた(図3を参照)。
大腸菌ベクターおよび枯草菌ベクター中へのβ−ラクタマーゼをコードする遺伝子のクローン化
野生型とMutS−変異型の両方の大腸菌株で組換え効率を評価するために、β−ラクタマーゼをコードする4種の遺伝子を標的として選択した。そのような遺伝子であるoxa7(GenBankアクセッション番号X75562)、oxa11(GenBankアクセッション番号Z22590)、oxa5(GenBankアクセッション番号X58272)およびoxa1(GenBankアクセッション番号J02967)は、そのヌクレオチド配列において異なる程度の相異性を示す。oxa1の配列と、oxa5、oxa7およびoxa11それぞれの配列は40%異なる。oxa5の配列と、oxa7およびoxa11それぞれの配列は22%異なる。oxa7の配列と、oxa11の配列は5%異なる。
その4種のoxa遺伝子を大腸菌プラスミドpACYC184中にクローン化し、一方、oxa7、oxa11およびoxa1を枯草菌プラスミドpMIX91中に同様にクローン化した。遺伝子のクローン化を以下の通りに行った:ScaIおよびPpuMI部位を、増幅したDNAのそれぞれ5’および3’末端に導入するように設計されたプライマー(配列番号1のプライマーOLG1、および配列番号2のプライマーOLG2)を用いて、PCRによりoxa7を増幅した。それらの制限酵素でPCR産物を消化し、得られた長さ991bpの断片を、同じ酵素で予め切断したpMIX91に連結した。その連結混合物で枯草菌DSM4393コンピテント細胞を形質転換し、75μg/mlのスペクチノマイシンを含むLBAプレート上で形質転換体の選択を行った。形質転換体から得られたプラスミドDNAの制限分析により、それが、oxa7を運搬する予想された6.89kbのプラスミドpMIX94を有していることが示された(図3を参照)。
大腸菌ベクターpACYC184中にoxa7をクローン化するために、上記に記載のPCR産物をpACYC184と同様にPpuMIおよびScaIで消化した。消化したDNAから、DNAポリメラーゼIのKlenow断片を使用することによって平滑末端を作製し、それらの間の連結を行った。その連結混合物を用いて大腸菌DH10Bコンピテント細胞のエレクトロポレーションを行い、12.5μg/mlのテトラサイクリンを含むLBAプレート上で形質転換体を選択した。形質転換体から単離されたプラスミドDNAの制限分析により、それが長さ4.33kbの予想された構築物と一致していることが判明し、それをpMIX93と名付けた(図3を参照)。
pACYC184中にoxa11、oxa5およびoxa1をクローン化するために、BamHIおよびEcoO109I部位を、増幅したDNAのそれぞれ5’および3’末端に導入するように設計されたプライマーを使用して、PCRにより遺伝子を増幅した。OLG3(配列番号3)/OLG4(配列番号4)、OLG5(配列番号5)/OLG6(配列番号6)およびOLG7(配列番号7)/OLG8(配列番号8)のプライマーの対を使用して、oxa11、oxa5およびoxa1をそれぞれ増幅した。PCR産物をBamHIおよびEcoO109Iで消化し、得られた997bp(oxa11)および830bp(oxa5)および936bp(oxa1)の断片を、同じ酵素で予め切断したpACYC184にそれぞれ独立に連結した。その連結混合物を用いて大腸菌DH10Bコンピテント細胞のエレクトロポレーションを行い、30μg/mlのクロラムフェニコールを含むLBAプレート上で形質転換体を選択した。形質転換体から単離されたプラスミドDNAの制限分析により、それが、予想された6.89kbのプラスミドpMIX95(3.72kb)、pMIX96(3.55kb)およびpMIX97(3.66kb)と一致していることが判明した(図3を参照)。
pMIX91中にoxa11およびoxa1をクローン化するために、ScaIおよびEcoO109I部位を、増幅したDNAのそれぞれ5’および3’末端に導入するように設計されたプライマーを使用して、PCRにより遺伝子を増幅した。OLG9(配列番号9)/OLG10(配列番号10)、およびOL11(配列番号11)/OLG8のプライマーの対を使用して、oxa11およびoxa1をそれぞれ増幅した。PCR産物をScaIおよびEcoO109Iで消化し、得られた995bp(oxa11)および934bp(oxa1)の断片を、同じ酵素で予め切断したpMIX91にそれぞれ独立に連結した。その連結混合物で枯草菌DSM4393コンピテント細胞を形質転換し、75μg/mlのスペクチノマイシンを含むLBAプレート上で形質転換体の選択を行った。形質転換体から得られたプラスミドDNAの制限分析により、それが、予想されたプラスミドpMIX98(6.89kb)およびpMIX99(6.83kb)と一致していることが示された。図3を参照されたい。
MutS−変異大腸菌と比較したwt大腸菌におけるoxa遺伝子のin vivo組換え
第1の工程では、oxa遺伝子を運搬するpACYC184誘導体プラスミドであるpMIX93、pMIX95、pMIX96またはMIX97で、大腸菌AB1157およびそのMutS−変異体である大腸菌MXP1のコンピテント細胞をエレクトロポレーションによりそれぞれ独立に形質転換した。テトラサイクリンまたはクロラムフェニコールに対するその耐性に基づいて形質転換体を選択した。その後、適切なプラスミドが存在することを制限分析および/またはPCR分析によって確認した。
第2の工程では、テトラサイクリンまたはクロラムフェニコールを含む選択培地から、複製性プラスミドを有する野生型株とMutS−株の両方のコンピテント細胞を調製した。その後、oxa遺伝子を運搬する枯草菌プラスミドであるpMIX94、pMIX98またはpMIX99で、そのようなコンピテント細胞をエレクトロポレーションによりそれぞれ独立に形質転換した。
エレクトロポレーション後、枯草菌プラスミドが耐性を付与する抗生物質である、終濃度がそれぞれ60μg/mlおよび1μg/mlのスペクチノマイシンおよびフレオマイシンを含むLBAプレート上で形質転換体を選択した。枯草菌プラスミドと大腸菌プラスミドの間で形成されたハイブリッドプラスミドを有する細胞だけがその条件下で増殖することができるので、そのような選択圧がoxa遺伝子間での組換えを生じさせる。プレートを37℃で1晩インキュベートし、その後、形質転換体が、2種の組換え遺伝子R1およびR2を運搬する(長さが約10.5kbの)ハイブリッドプラスミドを有していることを確認するために、制限酵素での消化によって形質転換体のプラスミドDNAを分析した。一部の場合では、組換え遺伝子をPCRによって増幅し、その配列を決定した。それが存在するプラスミドがpMIX93である場合、OLG12(配列番号12)/OLG13(配列番号13)でR1を、OLG15(配列番号15)/OLG17(配列番号17)でR2を増幅した;それが存在するプラスミドがpMIX95、pMIX96またはMIX97である場合、OLG12/OLG14(配列番号14)でR1を、OLG16(配列番号16)/OLG17でR2を増幅した。
組換え実験では、枯草菌プラスミドpMIX91を陰性対照として使用し、一方、大腸菌プラスミドpMIX92を、スペクチノマイシンおよびフレオマイシンの選択下での形質転換効率対照として使用した。その複製起点(それぞれColE1およびp15)が適合するので、pMIX92は、pACYC184誘導体プラスミドを有する株の中で複製することができる。照射によって組換え頻度が10倍上昇することが知られているので、エレクトロポレーション(200J/m2)の前に、プラスミドDNAにUV照射した。
対照ベクターpMIX92で得られた形質転換効率当たりで、枯草菌プラスミドで得られた形質転換効率を割ることにより、組換え頻度を算出した。形質転換効率は、上記に記載の条件でDNA1μg当たりに得られたコロニー形成単位(cfu)の数として算出した。
得られた結果の概要を表3に示す。野生型株では、同一のまたは5%異なるoxa遺伝子を使用した実験で組換え体が得られたが、MutS−変異型株では、組換えは22%異なる遺伝子の間でも起こった。
2−アミノプリン(2−AP)処理大腸菌と比較したwt大腸菌におけるoxa遺伝子のin vivo組換え
第1の工程では、oxa11遺伝子を運搬するpACYC184誘導体プラスミドであるpMIX95で、大腸菌AB1157のコンピテント細胞をエレクトロポレーションにより形質転換した。その耐性に基づいて形質転換体を選択した。適切なプラスミドが存在することを制限分析および/またはPCR分析によって確認した。
第2の工程では、200μg/mlの2−APの存在下でこの株のコンピテント細胞を調製し、それに、oxa7を運搬する枯草菌プラスミドpMIX94、またはoxa11を運搬するpMIX98でエレクトロポレーションをそれぞれ独立に行った。
枯草菌プラスミドpMIX91を陰性対照として使用し、一方、spcRおよびphleoRマーカーを運搬する大腸菌プラスミドpMIX92を、形質転換効率対照として使用した。組換え頻度を上昇させるために、エレクトロポレーションの前に、プラスミドDNAにUV照射した。
結果の概要を表4に示す。野生型株では、同一のoxa遺伝子を使用した実験で組換え体が得られたが、2−AP処理株では、組換えは5%異なる遺伝子の間でも起こった。
22%異なる遺伝子の間で組換えが起こり、その最も長い配列同一性領域がそれぞれ22ヌクレオチド(oxa5/oxa11)および18ヌクレオチド(oxa5/oxa7)であったことは注目に値する(図5および6を参照)。MEPS(最小限効率処理セグメント(minimal efficient processing segment))として知られる最小限の相同性の長さを下回ると組換えが不十分となることが報告されている。MEPSの長さは、組換えの経路に応じて様々であるが、23〜90塩基対の範囲であると記載されている(5)。
5%または22%異なる遺伝子を使用する実験で得られた54個のハイブリッドプラスミドによって運搬された遺伝子R1およびR2の配列分析から、そのハイブリッドプラスミドのうち46個が互いに異なるものであったことが判明した。この結果から、それらが異なる組換え事象に対応するものであり、その結果、高度の遺伝的多様性がin vivo組換えによって生じたことが示唆される。
ほとんどの組換え遺伝子は、4〜101ヌクレオチドの様々な配列同一性領域での非相互的な単一の交差によって生じた。一部の場合では、R1またはR2のモザイク遺伝子が生じている複数の交差が観察された。oxa7/oxa5間およびoxa11/oxa5間で得られた組換え遺伝子を図4に示す。
組換え遺伝子のDNAおよび推定されるアミノ酸の配列の比較から、その53%が新たなoxa遺伝子に相当することが同様に明らかとなった(表4−1を参照)。組換えの間にフレームシフトまたは終止コドンが生じなかったので、それらが38個の新たな機能的β−ラクタマーゼをコードする可能性があると推定される。
テトラサイクリンに対する耐性により組換えDNA配列を選択する二重プラスミド系(大腸菌/枯草菌)を使用する非相同遺伝子のin vivo組換え
他の二重プラスミド系を設計して、実施例1で得られた結果を検証し、遺伝子のクローン化および組換えを促進した。この系は、テトラサイクリンに耐性である細胞の選択に基づくものである。
1.細菌株およびプラスミド
この実施例中で使用する細菌株およびプラスミドをそれぞれ表5および表6に示す。
2.結果
2.1 大腸菌プラスミドpMIX100の構築
プラスミドpMIX100は、pACYC184の複製起点、並びにそのクロラムフェニコール耐性遺伝子を運搬する。pMIX100はまた、pBluescript SK+由来の遺伝子lacZをも運搬し、この遺伝子はクローン化実験での選択を促進する。lacZは、X−GalおよびIPTGを含む培地中での組換え体の青色/白色選択のα−相補性をもたらすβ−ガラクトシダーゼの断片をコードする。したがって、pMIX100を有するコロニーは、この培地中で青色であるはずであり、遺伝子がポリリンカー(MCS)中に挿入されたプラスミドを有するものは白色であるはずである。プラスミドpMIX100の物理的地図を図5に示す。
2.2 枯草菌プラスミドpMIX101の構築
プラスミドpMIX101は、枯草菌プラスミドpIL253の誘導体である。pIL253のマーカーErmRはエリスロマイシンに対する耐性を付与するが、これは大腸菌に有用でないため、組換え実験でのハイブリッド分子の選択を可能にするテトラサイクリン耐性マーカーを導入した。プラスミドpACYC184からテトラサイクリン耐性遺伝子を増幅した。したがって、pMIX101は、2種のマーカー、すなわち標的遺伝子をクローン化するための枯草菌中での選択マーカーであるErmR、および大腸菌中で組換えハイブリッド分子を選択するTcRを運搬する。プラスミドpMIX101の物理的地図を図6に示す。
形質転換効率対照プラスミドpMIX102およびpMIX103の構築
枯草菌ベクターが大腸菌で複製することができないので、組換え頻度の推定に形質転換効率対照が必要である。テトラサイクリン耐性によって組換え体が選択されるので、同じマーカーが対象ベクター中に存在しなければならない。pBluescript SK+の誘導体であるプラスミドpMIX102は、pACYC184から増幅されたTcR遺伝子を含む。pMIX102では、placプロモーターによってTcR遺伝子が駆動される。プラスミドpMIX102の物理的地図を図7に示す。
第2の対照ベクターpMIX103では、placと反対の方向にTcR遺伝子がクローン化されている。したがって、この遺伝子は、それ自体のプロモーターから発現される。プラスミドpMIX103の物理的地図を図8に示す。
大腸菌プラスミドpMIX100中へのoxa7、oxa11およびoxa5のクローン化
実施例1で得られた、0%、5%および22%異なるoxa遺伝子間での組換え実験の結果を検証するために、oxa7、oxa11およびoxa5を大腸菌プラスミドpMIX100中にクローン化した。5’末端にPstIまたはXhoIを含むプライマーを使用して、それらの遺伝子を増幅した。それらの酵素で消化した後、増幅したDNA断片を、PstI+XhoIで予め切断したpMIX100とそれぞれ独立に連結した。その連結混合物を用いて大腸菌DHB10のコンピテント細胞のエレクトロポレーションを行い、クロラムフェニコール耐性/Cm(30μg/ml)+X−Gal(80μg/ml)+IPTG(0.5mM)を含むLBプレート上での白色により、陽性クローンを有するコロニーを表現型上選択した。各oxaクローン化について、そのような形質転換体のうち5個を分析した。
プラスミドDNAを得、制限地図作成によりそれを分析した。その結果から、pMIX104がoxa7を運搬し、pMIX106がoxa11を運搬し、pMIX107がoxa5を運搬することが確認された。
枯草菌プラスミドpMIX101中へのクローン化では、PstIおよびXhoIでの制限処理によりpMIX104からの0.9kbの断片としてoxa7を得、同じ酵素で予め切断したpMIX101と連結した。その連結産物での枯草菌1A423コンピテント細胞の形質転換の後、0.5μg/mlのエリスロマイシン(Erm)を含むLB中で細胞を選択した。形質転換体24個からプラスミドDNAを得、制限処理によりそれを分析した。その結果から、すべてのクローンが7kbのプラスミドpMIX105を含むことが確認された。
大腸菌プラスミドpMIX100中および枯草菌プラスミドpMIX101中にoxa7、oxa11およびoxa5遺伝子をクローン化する戦略を図9に示す。
2.5 MutS−変異大腸菌と比較したwt大腸菌におけるoxa遺伝子のin vivo組換え
大腸菌AB1157hsdR−およびそのMMR−変異体である大腸菌AB1157hsdR−CΔmutSのコンピテント細胞を、プラスミドpMIX104(oxa7)、pMIX106(oxa11)およびpMIX107(oxa5)を用いたエレクトロポレーションによりそれぞれ独立に形質転換した。
oxa遺伝子を組み換えるために、pMIX105(oxa7)を用いて、それらのプラスミドを有する大腸菌株のエレクトロポレーションを行った。枯草菌プラスミドpMIX101を陰性対照として使用し、一方、TcRマーカーを運搬する大腸菌ベクターpMIX102を、テトラサイクリン選択下での形質転換効率対照として使用した。組換え頻度を上昇させるために、エレクトロポレーションの前に、すべてのDNAにUV照射した。
対照ベクターpMIX92で得られた形質転換効率当たりで、枯草菌プラスミドで得られた形質転換効率を割ることにより、組換え頻度を算出した。形質転換効率は、上記に記載の条件でDNA1μg当たりに得られたコロニー形成単位(cfu)の数として算出した。
得られた結果の概要を表7に示す。野生型株では、同一のまたは5%異なるoxa遺伝子を使用した実験で組換え体が得られたが、MutS−変異型株では、組換えは22%異なる遺伝子の間でも起こった。
組換え頻度は、前者の二重プラスミド系で得られたものと一致した。
組換えを確認するために、テトラサイクリン(12.5μg/ml)を含む液体培地中でpMIX105形質転換体を増殖させた。この培養物から得られたプラスミドDNAの制限分析から、その培養物が、oxa組換え遺伝子を運搬するダイマーを、それが存在するプラスミド(pMIX104またはpMIX106)と一緒に有していることが判明した。さらに、コロニーからもプラスミドDNAからも、特異的なプライマーを使用して、PCRにより組換え遺伝子R1およびR2を増幅することに成功した。
この結果は、選択圧としてテトラサイクリン耐性を使用して、第2の二重プラスミド系で組換え体が得られたことを実証するものである。
2種のDNA配列間での組換えを生成および/または検出するための本発明の方法を概略的に示す図である。第1の配列であるoxa7遺伝子は、ドナーDNA分子である枯草菌プラスミドpTG2−phleo上に存在する。pTG2−phleoは、スペクチノマイシンおよびフレオマイシンに対する耐性を付与するspecRマーカーおよびphleoRマーカーを運搬する。エレクトロポレーションにより、レシピエントDNA分子であるプラスミドpTG3を含む大腸菌宿主細胞中にpTG2−phleoを導入する。pTG3は、第2のDNA配列であるoxa11遺伝子、およびクロラムフェニコールに対する耐性を付与するcmRマーカーを含む。pTG2−phleoの導入後、スペクチノマイシンおよびフレオマイシンの存在下で細胞を培養し、2種のプラスミド間で融合体を形成させ、同時に遺伝子間での組換えを生じさせる。したがって、培養後、新たに組み換えられたDNA配列R1およびR2を含むダイマープラスミドを含む大腸菌細胞が得られる。制限プロファイル分析、R1およびR2組換え遺伝子のPCR増幅、ならびに/またはR1およびR2の配列決定によって、組み換えられたDNA配列を分析することができる。
本発明の方法の実施に適したプラスミドの構築に使用したプラスミドpUC19−phleo、pic156、pACYC184およびpIL253の物理的地図である。
本発明の方法を実施するために構築されたプラスミドの物理的地図である。oxa11の代わりにそれぞれoxa5およびoxa1を有する以外はpMIX95と同様であるので、プラスミドpMIX96およびpMIX97は示していない。pMIX99は、oxa11の代わりにoxa1を有する以外はpMIX98と同様である。
本発明のin vivo組換えの方法により、22%異なるoxa遺伝子間で得られた遺伝子の構造を示す図である。交差が生じた配列同一性領域を詳細に示す。
大腸菌宿主細胞中でレシピエントDNA分子として使用することができる大腸菌プラスミドpMIX100の構造を示す図である。pMIX100は、プラスミドpACYC184に由来する複製起点、ならびにそれに由来するクロラムフェニコール耐性遺伝子を運搬する。pMIX100はまた、pBluescript SK+に由来する遺伝子lacZをも運搬する。
枯草菌プラスミドpIL253の誘導体であり、大腸菌宿主細胞中でドナーDNA分子として使用することができる枯草菌プラスミドpMIX101の構造を示す図である。pMIX101は、エリスロマイシンに対する耐性を付与するマーカーErmR、およびテトラサイクリンに対する耐性を付与するTcRを運搬する。テトラサイクリン耐性遺伝子は、プラスミドpACYC184から増幅した。
形質転換効率対照プラスミドpMIX102の構造を示す図である。pMIX102は、pBluescript SK+の誘導体であり、プラスミドpACYC184から増幅したTcR遺伝子を含む。pMIX102中では、TcR遺伝子はplacプロモーターによって駆動される。
形質転換効率対照プラスミドpMIX103の構造を示す図である。pMIX103は、pBluescript SK+の誘導体であり、プラスミドpACYC184から増幅したTcR遺伝子を含む。pMIX103中では、placと反対の方向にTcR遺伝子がクローン化されている。したがって、その遺伝子は、それ自体のプロモーターから発現される。
大腸菌プラスミドpMIX100中および枯草菌プラスミドpMIX101中にoxa7、oxa11およびoxa5遺伝子をクローン化する戦略を概略的に示す図である。pMIX100中へのoxa7、oxa11のクローン化では、5’末端にPstIまたはXhoIを含むプライマーを使用して、その遺伝子を増幅した。それらの酵素で消化した後、増幅したDNA断片を、PstI+XhoIで予め切断したpMIX100とそれぞれ独立に連結した。その連結混合物を用いて大腸菌DHB10のコンピテント細胞のエレクトロポレーションを行い、クロラムフェニコール耐性/Cm(30μg/ml)+X−Gal(80μg/ml)+IPTG(0.5mM)を含むLBプレート上での白色により、陽性クローンを有するコロニーを表現型上選択した。プラスミドDNAを得、制限地図作成によりそれを分析した。その結果から、pMIX104がoxa7を運搬し、pMIX106がoxa11を運搬し、pMIX107がoxa5を運搬することが確認された。枯草菌プラスミドpMIX101中へのクローン化では、PstIおよびXhoIでの制限処理によりpMIX104からの0.9kbの断片としてoxa7を得、同じ酵素で予め切断したpMIX101と連結した。その連結産物での枯草菌1A423コンピテント細胞の形質転換の後、0.5μg/mlのエリスロマイシン(Erm)を含むLB中で細胞を選択した。