以下、図面を参照して本発明の位置実施形態を説明する。
図1は、本発明による断面形状データ作成方法の処理手順を示すフローチャートである。
なお、本実施形態における処理はCAD装置などのコンピュータによって実行されるものであり、後述する各処理手順を実施するように作成されたプログラムが実行されることにより行われる。したがって、特に断りのないかぎり各処理は、後述する手順に従ってCAD装置(コンピュータ)により自動的に行われるものである。なお、このようなCAD装置(コンピュータ)、少なくともさまざまなデータを記憶する記憶装置を持ち、また必要なデータを取得するためにさまざまなデータベースと接続するためのネットワークに接続されている。
まず、本断面形状データ作成方法を実行するCAD装置に対して、オペレーターが車体全体の設計データ(車体データ)から断面形状データを作成する断面位置を指定する(S1)。これにより、CAD装置は指定された断面位置における基準断面線を描くために必要なデータを車体データおよびアッセンブリデータなどから取得する(S2)。
ここで車体データは、車体全体の設計データであり、車体設計を行ったCAD装置またはそのデータが記憶されている記憶装置から取得する。アッセンブリデータは、車体設計とともに、その車体のどの部分にどのような部品を使っているかと、各部品の緒元を記述したデータである。アッセンブリデータは、たとえば、部品識別番号(ID)とともに部品の形状、厚さ、大きさ、素材などの情報が記述されたデータである。このようなアッセンブリデータも、車体データとともにCAD装置またはアッセンブリデータが記憶されている記憶装置から取得する。
CAD装置は、車体データおよびアッセンブリデータから、車体データ上で指定された部位においてどのような部品が使用されているかを判別し、使用されている部品がわかればアッセンブリデータから、指定された部位で使用されていると判明した各部品のデータを取り出す。
ここで取り出される各部品データは、少なくともその部品の大きさ、形状、および厚さである。なお、本実施形態では車体構造のある部分の断面形状であるから出てくる部品は主に車体を構成するパネルである。
次に、CAD装置は、指定された断面位置の範囲に基準断面線による断面形状を作成する(S3)。これは車体データから、指定された断面位置の範囲を切り出して基準断面線により断面形状を描くことになる。
次に、CAD装置は、オフセット候補線を描きながら断面を構成するベクトルデータの再構築を行う(S4)。S3で作成された基準断面線断面形状のデータは、元の車体データから得られる基準断面線による断面形状であるため、そのデータはさまざまな方向のベクトルデータからなる。このS4の処理は、このようなベクトルデータに対して、同じ側にオフセット候補線がくるようにそろえるで、オフセット候補線を描く処理である(詳細後述)。このとき描くオフセット候補線は、パネルの表裏両方向へ、当該パネルの厚さ分オフセットさせた線である。オフセット候補線は基準断面線断面形状に重ね合わせて描かれる。
次に、CAD装置は、すべてのオフセット候補線について、交差判定を行い、一つの基準断面線に対して一つオフセット候補線を選択する(S5)。この処理については後に詳細に説明するが、概略この処理は、基準断面線およびオフセット候補線が他のいずれかの線(すなわち他の基準断面線、他のオフセット候補線、および確定オフセット線(詳細後述))と交差しないかどうかを判定し、他の線と交差しないオフセット候補線を一つの基準断面線に対して一つ選択してオフセット線に決定するものである。以下、決定されたオフセット線を実オフセット線と称する。
交差判定により決定された実オフセット線は、その基準断面線によって示されているパネルのオフセット線として記憶しておく。この記憶は、本断面形状データ作成方法を実行しているCAD装置内に記憶しておいてもよいし、別途、他の記憶装置(データベースなど)に記憶しておいてもよい。
この記憶の際には、実オフセット線の決定されたパネルの部品ID、そのパネルに対して決定された実オフセット線の位置、および断面の切り出しを行っている車体のIDなどと関連付けて記憶しておく。なお、オフセット線の決定したデータを、以降、オフセット線決定部品データと称する。
なお、オフセット線決定部品データは、後から呼び出して他の断面におけるオフセット線の決定に使用することができる。
次に、CAD装置は、実オフセット線を決定できた場合(S6:Yes)、決定した実オフセット線を、基準断面線に重ね合わせて断面形状を描く(S20)。ここで得られる断面形状が指定した断面位置における断面形状データとなる。その後CAD装置は断面形状データが得られたなら処理を終了する。
一方、S5の交差判定では、実オフセット線を決定できなかった場合には(S6:No)、他の方法により実オフセット線を決定することになる(S7)。
S7における他の方法による実オフセット線の決定処理については後に詳細に説明するが、概略は、既に決定された断面または交差判定により実オフセット線を決定できる任意の断面により決定された実オフセット線と同じ側にあるオフセット候補線を選択するものである。このとき、実オフセット線が既に決定した断面のどちら側に実オフセット線があるかではなく、一度そのような断面から、基準断面線に対して実オフセット線の存在する側を面積の大小関係でパターン化してから、そのパターンに当てはまる側のオフセット候補線を選択するようにしている(詳細後述)。なお、S7で決定された実オフセット線は、S5での処理と同様にオフセット線決定部品データとして記憶装置に記憶される。
次にCAD装置は、S7の処理により実オフセット線が決定されたか否かを判断し(S8)、決定された実オフセット線が一つ以上ある場合は(S8:Yes)、さらに指定された断面においてすべての基準断面線に対して実オフセット線が決定したかどうかを判断する(S9)。
この判断の結果、すべての部品(パネル)の基準断面線に対して実オフセット線が確定していない場合(一つの基準断面線に対して複数のオフセット候補線が残っている場合)は(S9:No)、さらに交差判定を行うためにS5へ戻る。この段階で、S5に戻った場合、S5においてはS7で決定された実オフセット線を確定オフセット線として描くことになり、S5における交差判定では、この確定オフセット線を持つ基準断面線においては、オフセット候補線が描かれていない。したがって、実オフセット線が決定されていない基準断面線のオフセット候補線について、他の基準断面線および確定オフセット線との交差判定が行われることになる。
なお、ステップS9において、すべての実オフセット線が決定していると判断されると(S9:Yes)、決定した実オフセット線を基準断面線に重ね合わせて、断面形状を描いて断面形状データを作成し(S20)、処理を終了する。
ステップS8において、実オフセット線が一つの決定できなかったと判断された場合は、このS7における他の方法の処理によっても実オフセット線が決定できなかったことを意味するので、エラー処理(例えばエラー表示など)を行って(S21)、すべての処理を終了する。
以上が基本的な処理の流れである。以下、上述した処理手順内の主要な処理について詳細に説明する。
まず、断面位置の指定(S1)、必要データファイルの取得(S2)、および基準断面線断面形状の作成(S3)は上述の通りである。
そして、S4においてベクトルデータの再構築を行う。本実施形態では、このベクトル線の再構築とともにS5における曲面に対する垂直方向のオフセット線の作成も一緒に行っている。
図2は、ベクトルデータの再構築を説明する説明図である。
元々車体データは、複雑な曲面を表すために、複数のベクトルデータにより成り立っている。そして作成された基準断面線断面形状のデータもまた、そのようなベクトルデータから成り立つ。
図2(a)に示すように、このような複数のベクトルデータ11〜14は、それらが結合された状態で一つの図形が描かれている。このとき表示されている断面形状としては、ベクトルの矢(ベクトルの向き)は表示されていないので、全体が1本の線より断面が描かれたものとなっている。
しかし、このような複数のベクトルに対してオフセットをかける場合は、各ベクトルに対して右側または左側という命令でオフセットをかける。このためオフセット線21〜24が、ベクトルの向きに応じて指令された側へできあがってしまう(図2(a)はベクトルに対して右側へのオフセット指令をかけた場合を示している)。したがって、オフセット線は、断面として1本に見えている基準断面線に対してバラバラの側に描かれることになる。
ステップS4の処理は、このようなことがないように、指定された断面位置の範囲内における基準断面線全体に対してオフセット線が同じ側に来るように再構成するのである。
これには、まず、すべてのベクトルデータに対して、右側(または左側)にオフセットをかけるように指令する。これで、図2(a)に示したように各ベクトルを結合した一つの図形として、オフセットした線の位置がバラバラな図形ができあがる。
そして、いずれか一つのベクトルデータを選択して、そのベクトルデータ(基準ベクトルと称する)のオフセット線がベクトルデータの右にあるか左にあるかを判定する。ここでは、選択する基準ベクトルとしては、一番端にあるベクトルデータ(すなわちベクトル11)とする。
そして、基準ベクトルのオフセット線21と同じ側に来るように他のベクトルのオフセット線をそろえる。図2(a)の場合には、ベクトル12のオフセット線22は同じ向きにあるのでそのままである。ベクトル13および14のオフセット線23および24は基準ベクトル11のオフセット線21と逆の側にある。
そこで、図2(b)に示すように、これらのオフセット線をそれぞれのベクトルを中心に対象位置に入れ替えて、基準ベクトル11のオフセット線21と同じ側にくるようにする。
そして、各オフセット線21〜24をつなぐことで、基準断面線に対する一方の側のオフセット線ができあがる。もう一方の側のオフセット線も同様にして形成する。これにより基準断面線に対してその表裏面のオフセット線が両方作成され、それぞれのオフセット線がオフセット候補線となる。
次に、交差判定の処理(S5)について説明する。この処理は、基準断面線およびオフセット候補線が他のいずれかの線(すなわち他の基準断面線、他のオフセット候補線、および後述する他の方法により確定された実オフセット線)と交差しないかどうかを判定する。そして、他の線と交差しないオフセット候補線を一つの基準断面線に対して一つ選択して実オフセット線に決定する。
図3および図4は、交差判定の処理を説明する説明図である。
この処理は、基準断面線およびオフセット候補線のいずれもが交わることのないオフセット候補線を検索する。ただし、交差がなくても、一つの基準断面線に対して2つのオフセット候補線がそのまま残るような場合は、実オフセット線を決定することができない。つまり基準断面線および他のオフセット候補線のいずれとも交差せず、かつ、一つだけ選択することのできるオフセット候補線を実オフセット線として決定するのである。したがって、交差はないが一つの基準断面線からの複数のオフセット候補線がそのまま残ってしまう場合は、その中から一つを選択することができないのでこの交差判定では解が見つからないということになるのである。交線判定で解がない場合は、後述するステップS7の他の方法によって実オフセット線を決定することになる。
図3の例は、図3(a)に示すように、2枚のパネルがそれぞれフランジ部分で接触している断面である。なお、ここでは第1のパネルの基準断面線をa0、第2のパネルの基準断面線をb0として表す。また、第1のパネルのオフセット候補線をa1およびa2、第2のパネルのオフセット候補線をb1およびb2として表す。ここで、a、bの添字「1」、「2」はそれぞれの基準断面線に対して同じ側のオフセット候補線となるように付している。以下他の図面について同様である。
図3(b)に示すように、オフセット候補線をどちらも添え字1側を採用した場合は、b1はa0、a1と交差している。したがってこの組み合わせは採用できない。
図3(c)に示すように、a2、b1を採用した場合は、a2はb1、b0と交差、b1はa2、a0と交差している。したがってこの組み合わせも採用できない。
図4(d)に示すように、オフセット候補線をどちらも2番側を採用した場合は、a2はb0と交差している。したがってこの組み合わせも採用できない。
図4(e)に示すように、オフセット候補線をa1、b2を採用した場合は、両方とも交差する線はない。したがって、オフセット候補線a1、b2の組み合わせが実オフセット線として採用する(選択する)ことができる。
このようにして他の線と交差することのない線を探すことで、オフセットさせる方向を決定して、一つのパネル基準断面線に対して一つのオフセット候補線を実オフセット線として選択することができる。
このような交差判定による実オフセット線の選択、決定は、図3に示した断面形状以外にもさまざまな断面形状において実行可能である。
図5〜図6は、他の断面形状の例を示す説明図である。
たとえば、図5に示す断面は、1断面において2枚のパネルが2箇所で接触している場合である。交差判定は、このような形状であっても上記とまったく同じようにして交差判定を行うことができる。すなわち、図示するような各パネル基準断面線a0およびb0に対して、それぞれオフセット候補線a1およびb2を一つの実オフセット線として決定することができる。
さらに、図6に示す断面は、1断面において2枚のパネルが2箇所で接触していて、パネルの一部に抜け穴がある場合である。このような断面の場合でも、交差判定は前記同様に、実オフセット線を決定することができる。図示する場合は、オフセット候補線a1、b2はいずれも交差がないので、それぞれの基準断面線a0、b0に対してそれぞれ一つの実オフセット線として決定することができる。
次に前述した交差判定では一つの実オフセット線を決定できない断面形状について説明する。
図7〜図9は、交差判定だけでは実オフセット線を決定することのできない場合の例を説明するための説明図である。
まず、図7(a)および(b)に示す断面は、2枚のパネルの基準断面線a0、b0の間に隙間があり、しかも、2枚のパネルの板厚at、btがともに同じ場合(at=bt)である。この断面の場合は、それぞれのオフセット候補線が他の線と交差せずに残る場合が、(a)および(b)に示したように2つの場合が成り立つ。したがって、このような断面の場合は、基準断面線に対してどちら側にあるオフセット候補線を選択していいか判別できない。このため、このような場合は交差判定では実オフセット線に決定するオフセット候補線を一つに絞り込むことができず判定できないことになる。
また、図8に示すように、2枚のパネルの基準断面線a0、b0の間に隙間があり、2枚のパネルの板厚at、btの合計(at+bt)より、隙間の大きさTが大きい場合も、すべてのオフセット候補線が交差することなく存在可能となってしまい、実オフセット線を決定することができない。
なお、このように隙間の大きさTが、2枚のパネルの板厚の合計よりも大きい場合は、2枚のパネルが端部フランジであるときは、現実の構造としてはありえないため、エラー処理としてもよい。
また、図9に示すように、2枚のパネルが指定した断面部分では全く接触していない場合も、上記図7および図8に示したものと同様であり、交差判定では一つの基準断面線に対して複数のオフセット候補線がそのまま残ってしまうため、実オフセット線を決めることができない。
さらに、図10に示すように、指定した断面において、パネルの基準断面線a0が一つしかない場合も、基準断面線a0に対して存在する2つのオフセット候補線のうちどちらを選択してよりか、交差判定では決めることができない。
これら交差判定では実オフセット線を決定できない場合は、後述する別の方法で実オフセット線となるオフセット候補線を選択することになる。
ただし、2枚のパネルの基準断面線a0、b0の間に隙間がある場合でも、いずれか一方のオフセット候補線を選択して実オフセット線を決定可能となる場合がある。
図11および図12は、2枚のパネルの基準断面線の間に隙間があっても実オフセット線を決定可能な場合の一例を説明する説明図である。
まず、図11に示す断面は、2枚のパネルの基準断面線a0、b0の間に隙間があり、その隙間の大きさをTとすると、隙間の大きさTが2枚のパネルの厚さの合計(at+bt)と同じ場合である。このような断面の場合は、互いに合わされたオフセット候補線を選択することで、2枚のパネルがちょうど接触(接合)した状態となる。したがって、このような場合は、2枚のパネルがちょうど接触状態となる側のオフセット候補線a2とb1を実オフセット線として一つだけ選択することができる。
したがって、CAD装置は、基準断面線によるこのような断面が描かれている際には、まず、2枚のパネルの厚さat、btの合計(at+bt)が隙間の大きさTと同じであるかどうかを判断する。そしてCAD装置は、同じ場合には2枚のパネルのそれぞれの基準断面線a0、b0の表裏面に沿うオフセット候補線a1、a2、b1、b2のうち、隙間側に位置するオフセット候補線a2、b1をそれぞれの基準断面線a0、b0における一つのオフセット候補線として選択し、実オフセット線に決定する。
次に図12に示すように、2枚のパネルの基準断面線a0、b0の間に隙間があり、2枚のパネルの厚さが異なり、かつ、隙間の大きさTが2枚のパネルの板厚のいずれか一方と同じになる場合、その隙間の大きさTと同じ板厚となる方のオフセット候補線を選択することができる。
図12(a)に示す断面は、隙間の大きさTが板厚atと同じ場合である。このような断面の場合は、オフセット候補線a2を選択することで、隙間の大きさTがちょうど埋まるので、これを実オフセット線として決定すればよいことになる。
これで、基準断面線a0に対しては、b0側のオフセット候補線a2が選択されて、実オフセット線として決定されるので、基準断面線b0に対しては、基準断面線a0と実オフセット線として確定したオフセット候補線a2のいずれとも交差しないオフセット候補線b2を交差判定によって実オフセット線として決定することができる。
逆に、12(b)に示す断面は、隙間の大きさTが板厚btと同じ場合である。この場合も同様に、オフセット候補線b1を実オフセット線として決定すればよいことになる。また同様に、基準断面線a0に対する実オフセット線は交差判定によりオフセット候補線a1に決定される。
CAD装置は、図12に示されたようないずれかの断面を判断するために、まず、2枚のパネルの厚さat、btが異なっているか否かを判断して、異なっている場合は、CAD装置は隙間の大きさと同じ厚さのパネルの基準断面線の表裏面に沿うオフセット候補線b1、b2のうち、隙間側に位置するオフセット候補線b1を、基準断面線b0に対する一つのオフセット候補線を、一つのオフセット候補線として選択し、実オフセット線に決定する。
なお、図11および図12に示したように選択ができるのは、設計上、指定した断面において2枚のパネルが接触している部分があるということが前提条件となる。
次に、設計データそのものに異常がある場合も、実オフセット線を決定することはできない。図13は、データ異常の場合の一例を説明する説明図である。
図13に示すように、2枚のパネルの基準断面線a0およびb0が交差する場合は、実際の車体構成としてありえない。このようなデータ異常がある場合は設計不良またはデータ異常が考えられるので、エラーを表示して断面形状の作成処理そのものを終了してしまうようにしてもよい。
このようなデータ異常の判断は、交差判定の処理において実行するが、その他に別途データ異常を判定するための段階を設けてもよい。その場合は、交差判定の前でも後でもよく、特に限定されない。なお、後述する他のデータ異常の判定についても同様である。
さらに他の断面形状について説明する。
図14は、図中左右両側から2枚のパネルが来て合わさる形状の場合を説明する説明図である。
図中左右両側から2枚のパネルが来て合わさる形状の場合は、単純な交線判定では実オフセット線の決定ができない。
このような断面の場合は、図14(a)に示すように、オフセット候補線a1とb2が選択される場合と、図14(b)に示すように、オフセット候補線a2とb1が選択される場合の2つの場合がそのまま残ってしまう。したがって、一つの基準断面線に対して一つのオフセット候補線を選択することができない。このよう場合も、後述する他の方法によって実オフセット線を決定することになる。
図15は、さらに他の形状を説明する説明図である。
図15は、図中左右両側から来た2枚のパネルの間に隙間がある場合である。このような場合は、その隙間の大きさTと2枚のパネルの板厚at、btが両方とも同じ場合、
すなわち、T=at=btの場合には、交差判定では実オフセット線を決定することはできない。これは、図7により説明した例を同じであるので詳細な説明は省略する。
ただし、このような隙間がある場合でも、2枚のパネルの板厚が異なる場合は、判定可能となる。
図16は、2枚のパネルの板厚が異なり、かつ、いずれか一方のパネルの板厚が隙間と同じ場合を説明するための説明図である。
図16に示した断面は、基準断面線a側のパネルの板厚atが隙間の大きさTと同じ場合である。
このような場合、CAD装置は、まず、図16(a)に示すように、隙間の大きさTと同じ板厚のパネルのオフセット候補線の中から、基準断面線a0に対して隙間の大きさT側のオフセット候補線a1を基準断面線a0に対する実オフセット線として決定する。
この段階でCAD装置は、基準断面線b0のパネルの厚さbtが隙間の大きさTとは異なるのであるから、どちら側のオフセット候補線を選択してよいのか判定がつかない。そこで、CAD装置は、図16(b)に示すように、基準断面線a0のオフセット線として決定されたオフセット候補線a1に対してその基準断面線a0の端部を示す補助線a1sを引く。CAD装置は、この状態で交点判定を行う。
CAD装置は、この交線判定によって、パネル厚さbtが隙間の大きさTよりも薄い場合には、図16(b)に示したように、パネルaの端部を示す補助線a2sとオフセット候補線b2とに交差が生じている。したがって、この場合は、オフセット候補線b2は採用できないとわかる。一方、オフセット候補線b1は交差がないので、実オフセット線として選択することができる。
また、パネル厚さbtが隙間の大きさTよりも厚い場合は、図16(c)に示したように、オフセット候補線b2に引いた補助線b2sと基準断面線a0とに交点が生じているので、オフセット候補線b2は採用できないとわかる。一方、オフセット候補線b1は交点がないので、実オフセット線として選択することができる。
これにより基準断面線a0、b0に対して、それぞれ一つのオフセット候補線a2、b1を実オフセット線として決定することができる。
このような実オフセット線の決定は、指定した断面位置に両側から来ているパネルが、その位置で接合されていることが前提となる。したがって、指定した断面位置に両側から来ているパネル同士に、パネルの板厚を超える隙間が発生している場合は、実オフセット線を決定できないばかりか、データ異常ということになる。
図17は、指定した断面位置に図中左右両側から来ているパネルの場合のデータ異常を説明する説明図である。
図17(a)に示すように、指定した断面位置に両側から来ているパネルの場合に、基準断面線a0とb0との隙間の大きさTが2枚のパネルの厚さの合計(at+bt)より大きくなっている場合(T>at+bt)は、データ異常と判断する。
また、図17(b)に示すように、指定した断面位置に両側から来ているパネルの場合に、基準断面線a0とb0との隙間の大きさTが2枚のパネルの厚さat、btのいずれにも一致しない場合(T≠at≠bt、またはT≠at=bt)は、データ異常と判断する。
これらの状態は、両側からパネルが来て、それぞれの端部が互いに離れていることを意味するが、通常の車体構造においてはこのような構造はありえないため、ここではデータそのものに何らかの異常があるものとして処理することとしている。
なお、これらの判断はCAD装置によって交差判定の際に行われ、このようなデータ異常が検出された際には、CAD装置のディスプレイなどに表示させるようにするとよい。
次に指定した断面に3枚のパネルがある場合について説明する。基本的にパネルが3枚ある断面においてもこれまで説明した2枚のパネルがある場合と同様に交線判定によりオフセット線を決定できる場合とできない場合がある。
図18は、3枚のパネルが重ね合わされた断面位置の一例を説明する説明図である。
図示する例は、3枚のパネルの基準断面線a0、b0、c0のうち2枚のパネルの基準断面線a0とb0が接触しており、他の基準断面線c0がこれらから離れている場合である。
このような場合において、CAD装置は、基準断面線a0=b0と、c0との間の隙間の大きさTがパネルbの板厚btと同じであるか否かを判断して、同じである場合は、基準断面線b0に対する実オフセット線としてオフセット候補線b2を選択し、決定する。
その後CAD装置は、基準断面線a0およびc0に対する実オフセット線を、それぞれのオフセット候補線の交線判定により求める。交線判定の結果は、オフセット候補線a1およびc2がそれぞれの実オフセット線として決定される。
3枚のパネルの接触の仕方が異なる場合でも同じように判定することができる。
図19は、3枚のパネルが重ね合わされた断面位置の他の例を説明する説明図である。
図示する例は、3枚のパネルの基準断面線のうちb0とc0が接触しており、a0が離れている場合である。このような場合においても、基準断面線b0=c0と、a0との間の隙間の大きさTがパネルbの板厚btと同じであれば、まず、CAD装置は、前記同様に基準断面線b0に対する実オフセット線としてオフセット候補線b1を選択、決定することができる。
そして、基準断面線a0およびc0に対する実オフセット線は、それぞれのオフセット候補線の交線判定により求めることができる。交線判定の結果は、オフセット候補線a1およびc2がそれぞれの実オフセット線として決定される。
すなわち、図18および図19に示した例は、3枚のパネルの基準断面線のうち、2枚のパネルの基準断面線が接触しており、他の1枚の基準断面線との間に隙間があって、この隙間の大きさTが3枚のパネルの中間に位置するパネルの基準断面線によって示されているパネルの厚さと同じ場合には、その中間に位置するパネルの基準断面線に沿うオフセット候補線のうち隙間側にあるオフセット候補線を選択することのなるのである。
図20は、さらに3枚のパネルが重ね合わされた断面箇所の他の例を説明する説明図である。
図20(a)に示す断面は、3枚のパネルの基準断面線a0、b0、c0がそれぞれ離れている場合である。
このような場合、それぞれの隙間の大きさT1およびT2と、3枚のパネルの板厚がともに同じ場合、図20(b)および(c)に示すように、基準断面線a0、b0、c0に対して、交点のない複数のオフセット候補線が残ってしまい一つのオフセット候補線を選択することができない。このような場合にも、他の方法によって実オフセット線を決定することになる。
図21は、同様に3枚のパネルがある断面で、交差判定できない場合を説明する説明図である。
図21に示すのは、同じ側から来ている2枚のパネルの基準断面線a0、c0の間に、他の方向から来ているパネルの基準断面線b0が挿入されている場合である。このような場合も、やはり、3枚のパネル板厚が同じであると、図21(a)または(b)に示すように、一つの基準断面線に対して、2つのオフセット候補線が他の線と交差することなく残ってしまうので、判定できないことになる。このような場合にも、他の方法によって実オフセット線を決定することになる。
同じように3枚のパネルの基準断面線a0、b0、c0がそれぞれ離れている場合であっても、実オフセット線を決定できる場合もある。
図22は、3枚のパネルの基準断面線がそれぞれ離れていても、実オフセット線を決定できる場合を説明する説明図である。
図示するように、3枚のパネルの基準断面線a0、b0、c0がそれぞれ離れている場合で、その隙間の大きさTが3枚のパネルの板厚at、bt、ctの合計(at+bt+ct)と一致するときには、隙間を埋める側のオフセット候補線を選択することで、基準断面線a0、b0、c0に対して一つのオフセット候補線a2、b1、c1を実オフセット線として決定することができる。
図23は、3枚のパネルがある場合で、データに異常がある場合を説明する説明図である。
図示するように、3枚のパネルの基準断面線a0、b0、c0がすべて接触している場合、パネル板厚がまったくないことになるので、このような断面形状は実際にはありえないので、データ異常と判断することになる。
次に、他の方法によるオフセット線の決定処理(S7)について説明する。
この方法は、交線判定では決定することのできなかった実オフセット線を決定するための方法である。
この方法では、まず、実オフセット線を決定することのできなかった基準を持つパネルについて、既に、実オフセット線が決定されている部分がないかどうかを検索する。これには、CAD装置がS5またはS7において決定されて記憶されたオフセット線決定部品データから探す。
ここで、もし、その基準断面線のパネルにおいて他の場所で実オフセット線が決定している部分が存在しない場合、すなわち、オフセット線決定部品データに部品としての登録がない場合は、別途、指定した断面以外の断面において、そのパネルのどこかの部分で実オフセット線を確定させる処理が必要となる。
これには、CAD装置のオペレーターが、任意に他の場所を指定して、上述した交線判定により実オフセット線を確定させるようにしてもよいし、CAD装置によって自動できに交線判定できる場所を探し出させて、交線判定により実オフセット線を確定させるようにしてもよい。オペレーターによる場合は、任意と言っても、車体構造全体が描かれている画面の中から、該当する部品(パネル)に対し、他の部分で交線判定しやすい部分を指定することが好ましい。
交線判定しやすい部分とは、実オフセット線が決定していない基準断面線のパネルに対して、図3で示した断面などのように、単純に2枚のパネルが接触しているような場所である。オペレーターによる場合は、このような場所を試行錯誤により探し出す必要がある。
一方、CAD装置により探し出させる場合は、車体データの中の実オフセット線が決定していない基準断面線のパネルに対して、他の部品が接合している部分を検索させて、その部分を、順次交線判定法により実オフセット線が決定するかどうかを判定させていくようにするだけでよい。ここで実行する交線判定においては、交線判定できない場合はそれでその部分での交線判定はやめて、このパネルについて他の断面位置を探し出して行くことになる。なお、順次他の断面位置で交線判定を行っても交線判定が全くできない場合には、この他の実オフセット線の決定処理(S7)でも、オフセット線を決定できないものとしてエラー処理を行うことになる。
このようにして、他の断面部分で実オフセット線が決定している部分を見つけ出した後、CAD装置は、その断面位置における実オフセット線をパターン化する。
図24および図25は、パターン化の処理を説明するための説明図である。なお、図24においては、任意に指定した水平線をX軸、それに対する垂直線をY軸としている。
パターン化の処理は、その断面位置において、任意に指定した水平線(ここではX軸)から実オフセット線まで引いた垂直線(Y軸に平行な線)が占める面積(実オフセット線面積という)と、同水平線から基準断面線まで引いた垂直線分vが占める面積(基準断面線面積Sという)とを比較して、基準断面線面積に対して実オフセット線面積が大きいか小さいかを決定する(面積の大小によるパターン化である)。
図24(a)に示したように、基準断面線面積S0に対して、図24(b)に示した実オフセット線面積S1が大きい場合は、そのパネルの実オフセット線は、どの位置においても基準断面線面積S0に対して実オフセット線面積S1が大きくなる側に実オフセット線が存在することになる。
同様に、図25(a)および(b)に示した断面では、基準断面線面積S0に対して実オフセット線面積S2が小さい。したがって、このパネルについては、どの位置においても基準断面線面積S0に対して実オフセット線面積が小さくなる側に実オフセット線が存在することになる。
ただし、この方法は、水平線(X軸)の取り方によって、面積の大小関係が逆転してしまう場合がある。
図26は、パターン化の処理のための面積の求め方を説明するための説明図である。
図26においては、任意に指定した水平線をX軸、それに対する垂直線をY軸としている。また、この図は説明のためであるので実オフセット線面積を求める場合についてのみ示したが、基準断面線面積についても同様であるので図示省略した。
面積を求める際の垂直線の描き方は、図26に示すような開曲線においては垂直線(Y軸に平行な線)を、実オフセット線(基準断面線面積を求める場合は基準断面線)と1度だけ交差するように引くというルールを設定している。したがって、面積を求める断面データ内におけるすべての実オフセット線または基準断面線に対応した面積を求める必要はない。
このルールに従って、実オフセット線a2について面積を求めると、図26(a)に示すように、実オフセット線a2の面積S2が基準断面線の面積(不図示)より小さくなる。これは図26(b)に示すように、Y軸について対象にした場合(Yミラー投影)でも同様である。
しかし、X軸の取り方を変えた場合は、図26(c)に示すように、図26(a)に示した場合のX軸とは対象となる位置に(Xミラー投影)、X軸が来るようにした場合は、逆に実オフセット線a1の面積S1が基準断面線面積(不図示)より小さくなる。これは、図26(c)をY軸について対象にした場合(Yミラー投影)でも同様である。
つまり、水平線の位置によって、実オフセット面積S1またはS2と基準断面線a0の面積との大小関係が逆転してしまうのである。
図27は、パターン化の処理のための面積の求め方を形状の違う場合で説明する説明図である。
このような場合も、図26に示した場合と同様に、図27(a)と(b)に示したようにX軸に対して対象となる位置に断面を持ってくると実オフセット線面積S1、S2と基準断面線a0の面積(不図示)の大小関係が逆転する。
このように、水平線(X軸)の取り方によっては、基準断面線面積と実オフセット面積の大小関係が逆転してしまうことになる。したがって、水平線(X軸)は、指定した断面(実オフセット線を決定したい断面)と、実オフセット線が既に確定している断面とで、同じ側にくるようにする必要がある。
ただし、指定した断面における基準断面線から水平線までの距離と、実オフセット線が既に確定している断面における基準断面線と水平線までの距離は違っていてもよい。これは、それぞれの面積の大きさそのものを比較しているのではなく、基準断面線面積と実オフセット面積の大小関係をパターン化して比較しているため、それぞれの面積の実寸はどのような値であっても、パターン化した面積の大小関係に影響しないからである。
図28は、パターン化の処理のための面積の求め方をさらに他の断面形状の場合で説明する説明図である。
図28は閉曲線となる断面である。このように基準断面線が閉じた曲線となっている場合は、垂直線は実オフセット線(基準断面線面積を求める場合は基準断面線)と2の倍数だけ交差するように引くというルールを設定している。
これにより、図28(a)に示すような閉曲線も、また図28(b)に示すような一部にへこみがある閉曲線も、水平線(X軸)から引いた垂直線が示す面積を求めることができる。
図29および図30は、面積によるパターン化の例を説明するための説明図である。図29におけるセクションA〜Dは、それぞれ図30(a)〜(d)に対応している。また、ここでは、基準断面線a0の面積に対して実オフセット線a1の面積が小さい場合を示している。
図29に示すような重なりを持つパネルaについて、たとえば断面をセクションA〜Dに取った場合、図30(a)〜(c)示すように、面積の大小関係におけるパターンは同じになる。このため、このパネルaにおいては、いずれかの断面位置で実オフセット線が確定していれば、面積のパターン化によって他の断面位置においても実オフセット線を決定できることになるのである。
ここでたとえば、図29に示されているように、パネルaにパネルbが重なっている部分であるセクションDの断面位置における断面形状データが欲しい場合は、セクションDを指定して上述した処理手順により断面形状データを作成することになる。
ここで、セクションDの断面位置は、パネルaの基準断面線a0とパネルbの基準断面線b0の間に隙間があり、その隙間の大きさがパネルaおよびbの板厚と同じため、交差判定だけでは実オフセット線を決定できない。
そこで、パネルaの他の断面位置であるA〜Cのいずれかに実オフセット線が確定していれば、それらの面積のパターン化によって、断面Dにおける実オフセット線を確定することができる。ここで示した例では、パネルaの面積パターンは、基準断面線a0の面積に対して実オフセット線a1の面積が小さい場合である。
したがって、このパターンからセクションDにおけるオフセット線を確定すると、図30(d)に示すように、パネルaでは実オフセット線としてオフセット候補線a2が選択されることになる。そうすると交差判定の処理において、後は隙間の大きさとパネルaおよびbの板厚が同じであるため、パネルaとパネルbは接触しているという前提条件から交差判定するまでもなく、パネルbのオフセット候補線b2が実オフセット線として決定できる(図30(d)においては基準断面線a0とオフセット候補線b2が重なることになる)。
以上説明したように、本実施形態によれば、ベクトルデータにより描かれた車体データ上で任意の断面位置を指定すれば、指定した断面位置の範囲における基準断面線から、その断面を構成する部品(パネル)の厚さを考慮したオフセット線を決定して、指定した断面位置における断面形状データを作成することができる。
以上本発明を適用した実施形態を説明したが、この発明は上述した実施形態に限定されるものではない、たとえば、上述した実施形態では、車体データから任意の断面形状データを作成することとしたが、本発明は車体データに限らず、さまざまな物体において、基準断面線のみにより構成されたデータから、その物体を実際に構成する部品の厚さがわかれば同様に任意の断面における断面形状データを作成することが可能である。
また、上述した実施形態では、基準断面線より示されている部品をパネル(板材)としたが、これについてもパネル部材以外のさまざまな形状の部品であってよい。これは、設計データとしては基準断面線で描かれていても実際の部品として肉厚のあるものであれば、オフセット候補線はそのような部品の肉厚に従って描くことで、上述した実施形態と同様に断面形状データを作成することができる。