以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の一実施の形態である変速制御装置によって制御される無段変速機10を示すスケルトン図である。図1に示すように、この無段変速機10はベルト式無段変速機であり、エンジン11に駆動されるプライマリ軸12と、これに平行となるセカンダリ軸13とを有している。プライマリ軸12とセカンダリ軸13との間には変速機構14が設けられており、プライマリ軸12の回転は変速機構14を介してセカンダリ軸13に伝達され、セカンダリ軸13の回転は減速機構15およびディファレンシャル機構16を介して左右の駆動輪17,18に伝達される。
プライマリ軸12には変速プーリとしてのプライマリプーリ20が設けられており、このプライマリプーリ20はプライマリ軸12に一体となった固定シーブ20aと、これに対向してプライマリ軸12に軸方向に摺動自在となって装着される可動シーブ20bとを有している。また、セカンダリ軸13には締付プーリとしてのセカンダリプーリ21が設けられており、このセカンダリプーリ21はセカンダリ軸13に一体となった固定シーブ21aと、これに対向してセカンダリ軸13に軸方向に摺動自在となって装着される可動シーブ21bとを有している。プライマリプーリ20とセカンダリプーリ21には駆動ベルト22が巻き付けられており、プライマリプーリ20とセカンダリプーリ21とのプーリ溝幅を変化させることにより、駆動ベルト22の巻き付け径を無段階に変化させることが可能となっている。駆動ベルト22のプライマリプーリ20に対する巻き付け径をRpとし、セカンダリプーリ21に対する巻き付け径をRsとすると、無段変速機10の変速比はRs/Rpとなる。
プライマリプーリ20のプーリ溝幅を変化させるため、プライマリ軸12にはプランジャ23が固定されるとともに、可動シーブ20bにはプランジャ23の外周面に摺動自在に接触するシリンダ24が固定されており、プランジャ23とシリンダ24とによって作動油室25が区画されている。同様に、セカンダリプーリ21のプーリ溝幅を変化させるため、セカンダリ軸13にはプランジャ26が固定されるとともに、可動シーブ21bにはプランジャ26の外周面に摺動自在に接触するシリンダ27が固定されており、プランジャ26とシリンダ27とによって作動油室28が区画されている。それぞれのプーリ溝幅は、プライマリ側の作動油室25に供給されるプライマリ圧Ppと、セカンダリ側の作動油室28に供給されるセカンダリ圧Psとを調圧することによって制御されている。
また、プライマリプーリ20にエンジン動力を伝達するため、クランク軸11aとプライマリ軸12との間にはトルクコンバータ30および前後進切換機構31が設けられている。トルクコンバータ30はクランク軸11aに連結されるポンプシェル30aとこれに対面するタービンランナ30bとを備えており、タービンランナ30bにはタービン軸32が連結されている。さらに、トルクコンバータ30内には、走行状態に応じてクランク軸11aとタービン軸32とを締結するためのロックアップクラッチ33が組み込まれている。
前後進切換機構31は、ダブルピニオン式の遊星歯車列34、前進用クラッチ35および後退用ブレーキ36を備えており、前進用クラッチ35や後退用ブレーキ36を作動させることによってエンジン動力の伝達経路が切り換えられるようになっている。前進用クラッチ35および後退用ブレーキ36を共に開放すると、タービン軸32とプライマリ軸12とは切り離され、前後進切換機構31はプライマリ軸12に動力を伝達しないニュートラル状態に切り換えられる。また、後退用ブレーキ36を開放した状態のもとで前進用クラッチ35を締結すると、タービン軸32の回転がそのままプライマリプーリ20に伝達されることになり、前進用クラッチ35を開放した状態のもとで後退用ブレーキ36を締結すると、逆転されたタービン軸32の回転がプライマリプーリ20に伝達されることになる。
図2は無段変速機10の油圧制御系および電子制御系を示す概略図である。図2に示すように、プライマリプーリ20やセカンダリプーリ21に作動油を供給するため、無段変速機10にはエンジン11に駆動される油圧供給源としてのオイルポンプ40が設けられている。このオイルポンプ40の吐出口に接続されるライン圧路41にはライン圧制御弁42が接続されており、ライン圧制御弁42によって油圧制御回路の基本油圧となるライン圧PLが調圧されている。また、ライン圧路41は分岐するようになっており、セカンダリプーリ21に向けて延びる一方のライン圧路41aはセカンダリ圧制御弁43に接続され、プライマリプーリ20に向けて延びる他方のライン圧路41bはアップシフト弁44に接続されている。さらに、アップシフト弁44から作動油室25に向けて延びるプライマリ圧路45には分岐油路46が形成されており、この分岐油路46にはダウンシフト弁47が接続されている。
セカンダリ側の作動油室28に供給されるセカンダリ圧Psはセカンダリ圧制御弁43を介して調圧されており、このセカンダリ圧制御弁43は後述する目標変速比や入力トルクに基づいて制御されている。このようなセカンダリ圧Psをセカンダリプーリ21に供給することにより、セカンダリプーリ21は駆動ベルト22の滑りを抑制するように締め付け動作を行うようになっている。つまり、クランプ圧制御弁として機能するセカンダリ圧制御弁43により、セカンダリ圧Psは駆動ベルト22の張力を制御するクランプ圧として調圧されることになる。また、プライマリ側の作動油室25に供給されるプライマリ圧Ppは、アップシフト弁44によって引き上げられる一方、ダウンシフト弁47によって引き下げられており、アップシフト弁44やダウンシフト弁47は目標変速比に基づいて制御される。このようなプライマリ圧Ppをプライマリプーリ20に供給することにより、プライマリプーリ20は駆動ベルト22の巻き付け径を変化させるようにプーリ溝幅を制御することになる。
また、ライン圧制御弁42とセカンダリ圧制御弁43とは、ライン圧PLやセカンダリ圧Psの上限圧力を設定する減圧弁となっており、ライン圧PLやセカンダリ圧Psの上限圧力は、ライン圧制御弁42やセカンダリ圧制御弁43に供給されるパイロット圧P1,P2の大きさに応じて制御されている。パイロット弁51から出力される第1パイロット圧P1は、ライン圧制御弁42とセカンダリ圧制御弁43との双方に供給されており、このパイロット圧P1によってライン圧PLとセカンダリ圧Psとを共に調圧することが可能となる。また、パイロット弁52から出力される第2パイロット圧P2は、ライン圧制御弁42にのみ供給されており、このパイロット圧P2によってライン圧PLを調圧することが可能となっている。
さらに、アップシフト弁44とダウンシフト弁47とは、ポート間の連通状態を制御する流量制御弁となっており、ポート間の連通状態はパイロット圧P3,P4の大きさに応じて制御されている。つまり、パイロット弁53からアップシフト弁44に入力されるパイロット圧P3を調圧することにより、ライン圧路41bとプライマリ圧路45との連通状態を制御することができ、プライマリ圧Ppを引き上げることが可能となる。一方、パイロット弁54からダウンシフト弁47に入力されるパイロット圧P4を調圧することにより、プライマリ圧路45と排出油路55との連通状態を制御することができ、プライマリ圧Ppを引き下げることが可能となっている。
なお、ライン圧制御弁42、アップシフト弁44、ダウンシフト弁47を制御するパイロット弁52〜54は、ソレノイドに対するデューティ比を制御することによってパイロット圧P2〜P4を調圧するデューティソレノイドバルブとなっている。また、ライン圧制御弁42およびセカンダリ圧制御弁43を制御するパイロット弁51は、ソレノイドに対する電流値を制御することによってパイロット圧P1を調圧するリニアソレノイドバルブとなっている。さらに、パイロット弁52〜54は非通電時に遮断される常閉式のパイロット弁であり、パイロット弁51は非通電時に連通する常開式のパイロット弁である。
これらのパイロット弁51〜54に向けて制御信号を出力し、無段変速機10の変速制御を実行するCVT制御ユニット60は、図示しないマイクロプロセッサ(CPU)を備えており、このCPUにはバスラインを介してROM、RAMおよびI/Oポートが接続される。ROMには制御プログラムや各種マップデータなどが格納されており、RAMにはCPUで演算処理したデータが一時的に格納されるようになっている。また、I/Oポートを介してCPUには各種センサから車両の走行状態を示す検出信号が入力される。
CVT制御ユニット60に検出信号を入力する各種センサとしては、プライマリプーリ20の回転数を検出するプライマリ回転数センサ61、セカンダリプーリ21の回転数を検出するセカンダリ回転数センサ62、ライン圧路41bに設けられてライン圧PLを検出するライン圧センサ63、プライマリ圧路45に設けられてプライマリ圧Ppを検出するプライマリ圧センサ64、セカンダリ圧路48に設けられてセカンダリ圧Psを検出するセカンダリ圧センサ65、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ66、車速を検出する車速センサ67などがある。また、CVT制御ユニット60にはエンジン制御ユニット68が接続されており、このエンジン制御ユニット68から、エンジン種別、スロットル開度、エンジン回転数などのエンジン制御情報が入力されるようになっている。
続いて、CVT制御ユニット60による無段変速機10の変速制御について説明する。図3はCVT制御ユニット60の変速制御系を示すブロック図である。図3に示すように、CVT制御ユニット60は、目標プライマリ圧Pptを算出するため、目標プライマリ回転数算出部70、目標変速比算出部71、油圧比算出部72、目標プライマリ圧算出部73を備えている。目標プライマリ回転数算出部70は、車速Vとスロットル開度Toに基づいて変速特性マップを参照することにより目標プライマリ回転数Npを算出し、目標変速比算出部71は、目標プライマリ回転数Npと実セカンダリ回転数Ns’とに基づいて目標変速比iを算出する。次いで、油圧比算出部72は、目標変速比iに対応する目標プライマリ圧Pptと目標セカンダリ圧Pstとの油圧比(Ppt/Pst)を算出し、目標プライマリ圧算出部73は、この油圧比に目標セカンダリ圧Pstを乗算することにより目標プライマリ圧Pptを算出する。
また、CVT制御ユニット60は、目標プライマリ圧Pptをフィードバック制御するため、実変速比算出部74、フィードバック値算出部75、加算部76を備えている。実変速比算出部74は、実プライマリ回転数Np’と実セカンダリ回転数Ns’とに基づいて実変速比i’を算出し、フィードバック値算出部75は、実変速比i’と目標変速比iとに基づいてフィードバック値を算出する。次いで、加算部76において目標プライマリ圧Pptにフィードバック値が加算され、目標プライマリ圧Pptはフィードバック制御される。そして、フィードバック制御された目標プライマリ圧Pptに基づきパイロット弁52〜54に対して制御信号が出力され、プライマリプーリ20は目標変速比に向けてプーリ溝幅を調整することになる。
さらに、CVT制御ユニット60は、目標セカンダリ圧Pstを算出するため、入力トルク算出部77、必要セカンダリ圧算出部78、目標セカンダリ圧算出部79を備えている。入力トルク算出部77は、エンジン回転数Neとスロットル開度Toとに基づいて、エンジン11からプライマリ軸12に入力される入力トルクTiを算出し、必要セカンダリ圧算出部78は、目標変速比iに基づいて必要セカンダリ圧Psnを算出する。これらの入力トルクTiと必要セカンダリ圧Psnとは目標セカンダリ圧算出部79に入力され、目標セカンダリ圧算出部79により目標セカンダリ圧Pstが算出される。そして、目標セカンダリ圧Pstに基づきパイロット弁51,52に対して制御信号が出力され、セカンダリプーリ21は伝達トルクに見合った締付力によって締め付け動作を行うことになる。
図4は目標プライマリ回転数Npを算出する際に参照される変速特性マップの一例を示す線図である。図4に示すように、変速特性マップには、ロー状態を示す特性線Lowとオーバードライブ状態を示す特性線ODとが設定されており、これら特性線Low,ODの間にはスロットル開度Toに対応した複数の特性線T1〜T8が設定されている。スロットル開度Toが低い場合には特性線T1に従って目標プライマリ回転数Npが算出され、スロットル開度Toが高くなるにつれて目標プライマリ回転数Npは特性線T2〜T7に従って算出される。そして、スロットル開度Toが全開となった場合には、特性線T8に従って目標プライマリ回転数Npが算出されるようになっている。また、低車速域でスロットル開度Toが増大した場合には、特性線Lowに沿って目標プライマリ回転数Npが設定される一方、高車速域でスロットル開度Toが減少した場合には、特性線ODに沿って目標プライマリ回転数Npが設定されることになる。
以下、プライマリプーリ20およびセカンダリプーリ21に対して作動油を供給制御する油圧制御回路について説明する。図5は油圧制御回路の一部を示す回路図であり、図2に示す部材と同一の部材については同一の符号を付してその説明を省略する。図5に示すように、オイルポンプ40から延びるライン圧路41にはパイロット減圧弁80の入力ポート80aが接続されており、オイルポンプ40からの吐出圧はパイロット減圧弁80を介して所定圧力まで引き下げられる。このパイロット減圧弁80の出力ポート80bには分配油路81が接続されており、パイロット減圧弁80を経て減圧された作動油は分配油路81を介してパイロット弁51〜54に供給される。また、ライン圧路41にはクラッチ圧路82が接続されており、このクラッチ圧路82を介してクラッチ回路83に供給される作動油は、クラッチ回路83から前進用クラッチ35や後退用ブレーキ36に供給される。
また、ライン圧路41にはライン圧制御弁42が接続されており、このライン圧制御弁42によってライン圧路41を流れるライン圧PLが調圧される。ライン圧制御弁42は、弁収容孔が形成されたハウジング85と、弁収容孔に移動自在に収容されるスプール弁軸84とを備えており、ハウジング85には、ライン圧路41に連通する調圧ポート42a、ライン圧PLを減圧する際にライン圧路41から作動油が案内される減圧ポート42b、後述するバイパス弁90に向けて作動油を案内するバイパスポート42cが形成されている。さらに、スプール弁軸84を軸方向に移動させるため、ハウジング85には、ライン圧路41に連通するパイロット圧室42d、パイロット圧路86aに連通するとともにバネ部材42eが組み込まれるパイロット圧室42f、パイロット圧路87に連通するパイロット圧室42gが形成されている。
つまり、パイロット圧室42dに供給されるライン圧PLにより、スプール弁軸84は調圧ポート42aと減圧ポート42bとを連通する減圧位置に向けて付勢される一方、パイロット圧室42f,42gに供給されるパイロット圧P1,P2とバネ部材42eからのバネ力とにより、スプール弁軸84は調圧ポート42aと減圧ポート42bとを遮断する増圧位置に向けて付勢される。したがって、パイロット圧P1やパイロット圧P2を引き下げた場合には、調圧ポート42aと減圧ポート42bとが連通することになり、減圧ポート42bからの排出油量が増加してライン圧PLが引き下げられる一方、パイロット圧P1やパイロット圧P2を引き上げた場合には、調圧ポート42aと減圧ポート42bとが遮断されることになり、減圧ポート42bからの排出油量が減少してライン圧PLが引き上げられることになる。
なお、スプール弁軸84を減圧位置に移動させた場合に、ライン圧路41から減圧ポート42bを経て排出される作動油は、図5に示すように、潤滑減圧弁98を介して所定圧力に減圧された後に、潤滑油路88から潤滑回路89を経て駆動ベルト22などの各摺動部に供給される。また、スプール弁軸84を増圧位置に移動させた場合には、調圧ポート42aからバイパスポート42cに作動油が案内されることになるが、このバイパスポート42cに接続されるバイパス弁90を介して潤滑油路88に作動油が供給されるようになっている。
また、図5に示すように、ライン圧制御弁42を介して調圧されたライン圧PLは、ライン圧路41aを介してセカンダリ圧制御弁43に供給され、セカンダリ圧制御弁43によってセカンダリ圧Psに調圧される。このセカンダリ圧制御弁43は、弁収容孔が形成されたハウジング91と、弁収容孔に移動自在に収容されるスプール弁軸92とを備えており、ハウジング91には、ライン圧路41aが接続される入力ポート43aと、セカンダリ圧路48が接続される出力ポート43bと、オイルパンに開口する排出ポート43cとが形成されている。また、スプール弁軸92を軸方向に移動させるため、ハウジング91には、セカンダリ圧路48に連通するパイロット圧室43dと、パイロット圧路86bに連通するとともにバネ部材93が組み込まれるパイロット圧室43eとが形成されている。
つまり、パイロット圧室43eに供給されるパイロット圧P1とバネ部材93からのバネ力とにより、スプール弁軸92は出力ポート43bを入力ポート43aに連通させる増圧位置に向けて付勢される一方、パイロット圧室43dに供給されるセカンダリ圧Psにより、スプール弁軸92は出力ポート43bを排出ポート43cに連通させる減圧位置に向けて付勢される。したがって、パイロット圧P1を引き上げた場合には、ライン圧路41bから出力ポート43bを介してセカンダリ圧路48に作動油が供給され、セカンダリ圧Psが引き上げられる一方、パイロット圧P1を引き下げた場合には、セカンダリ圧路48から排出ポート43cを介してオイルパンに作動油が排出され、セカンダリ圧Psが引き下げられることになる。
ここで、セカンダリ圧制御弁43に接続されるパイロット圧路86bと、ライン圧制御弁42に接続されるパイロット圧路86aとは相互に接続されており、ライン圧制御弁42とセカンダリ圧制御弁43とのパイロット圧室42f,43eには同じパイロット圧P1が供給されている。つまり、パイロット弁51によってパイロット圧P1を引き上げることにより、ライン圧PLとセカンダリ圧Psとは共に引き上げられる一方、パイロット弁51によってパイロット圧P1を引き下げることにより、ライン圧PLとセカンダリ圧Psとは共に引き下げられることになる。なお、後述するように、パイロット圧P2の供給遮断によってライン圧制御弁42をローモードに切り換えた場合には、パイロット圧P1に基づきライン圧制御弁42によって調圧されるライン圧PLと、パイロット圧P1に基づきセカンダリ圧制御弁43によって調圧されるセカンダリ圧Psとが、ほぼ一致するようになっている。
続いて、プライマリ圧Ppを調圧するアップシフト弁44およびダウンシフト弁47について説明する。まず、アップシフト弁44は、弁収容孔が形成されたハウジング94と、弁収容孔に移動自在に収容されるスプール弁軸95とを備えており、ハウジング94には、ライン圧路41bが接続される入力ポート44aと、プライマリ圧路45が接続される出力ポート44bとが形成されている。また、入力ポート44aと出力ポート44bとを連通する連通位置と遮断する遮断位置とにスプール弁軸95を移動させるため、ハウジング94には、パイロット圧路96に連通するパイロット圧室44cと、バネ部材97が組み込まれるバネ室44dとが形成されている。つまり、パイロット圧P3を引き上げることにより、スプール弁軸95はバネ力に抗して連通位置に移動する一方、パイロット圧P3を引き下げることにより、スプール弁軸95はバネ力によって遮断位置に移動するようになっている。
同様に、ダウンシフト弁47は、弁収容孔が形成されたハウジング100と、弁収容孔に移動自在に収容されるスプール弁軸101とを備えており、ハウジング100には、分岐油路46が接続される入力ポート47aと、下流側のフェイルセーフ弁102に接続される排出ポート47bとが形成されている。また、入力ポート47aと排出ポート47bとを連通する連通位置と遮断する遮断位置とにスプール弁軸101を移動させるため、ハウジング100には、パイロット圧路103に連通するパイロット圧室47cと、バネ部材104が組み込まれるバネ室47dとが形成されている。つまり、パイロット圧P4を引き上げることにより、スプール弁軸101はバネ力に抗して連通位置に移動する一方、パイロット圧P4を引き下げることにより、スプール弁軸101はバネ力によって遮断位置に移動するようになっている。
つまり、プライマリ圧Ppを引き上げてアップシフトを実行する際には、アップシフト弁44に対するパイロット圧P3が引き上げられる一方、ダウンシフト弁47に対するパイロット圧P4が引き下げられる。また、プライマリ圧Ppを引き下げてダウンシフトを実行する際には、アップシフト弁44に対するパイロット圧P3が引き下げられる一方、ダウンシフト弁47に対するパイロット圧P4が引き上げられることになる。
また、ダウンシフト弁47の下流側にはフェイルセーフ弁102が設けられており、パイロット弁54に故障が発生したとしても急激なダウンシフトを回避することが可能となっている。このフェイルセーフ弁102は、弁収容孔が形成されたハウジング105と、弁収容孔に移動自在に収容されるスプール弁軸106とを備えており、ハウジング105には、ダウンシフト弁47の排出ポート47bに接続される入力ポート102aと、オイルパンに作動油を案内する排出ポート102bとが形成されている。そして、入力ポート102aと排出ポート102bとを連通する連通位置と遮断する遮断位置とにスプール弁軸106を移動させるため、ハウジング105には、パイロット圧路96に連通するパイロット圧室102cと、バネ部材107が組み込まれるバネ室102dとが形成されている。
フェイルセーフ弁102のパイロット圧室102cには、アップシフト弁44に供給されるパイロット圧P3と同じパイロット圧P3が入力されるため、パイロット圧P3の供給によってアップシフト弁44のスプール弁軸95が連通位置に移動するときには、パイロット圧P3の供給によってフェイルセーフ弁102のスプール弁軸106は遮断位置に移動することになる。つまり、変速比がオーバードライブ側に制御された状態のもとで、パイロット弁54がフェイル状態に陥ることにより、ダウンシフト弁47に対するパイロット圧P4が上昇した場合であっても、遮断されたフェイルセーフ弁102を介して作動油の排出を回避することができ、プライマリ圧Ppの低下による急激なダウンシフトを回避することが可能となる。
また、プライマリプーリ20に向けてプライマリ圧Ppを案内するプライマリ圧路45にはプライマリ減圧弁108が組み込まれており、このプライマリ減圧弁108によってプライマリ圧Ppの上限圧力が設定されている。このプライマリ減圧弁108を設けることにより、プライマリプーリ20に対して過大なプライマリ圧Ppが供給されることはなく、プライマリプーリ20を保護することが可能となっている。
以下、前述したライン圧制御弁42の作動状態について詳細に説明する。図6(A)および(B)はローモードに切り換えられたライン圧制御弁42の作動状態を示す説明図であり、図7(A)および(B)はハイモードに切り換えられたライン圧制御弁42の作動状態を示す説明図である。また、図8はライン圧制御弁42によって調圧されるライン圧PLの調圧領域を示す説明図である。
まず、図6(A)および(B)に示すように、ライン圧制御弁42に対するパイロット圧P2の供給を遮断すると、スプール弁軸84を増圧方向に付勢する推力が低下するため、ライン圧制御弁42によるライン圧PLの調圧領域は、図8に破線で示す低圧側のローモード領域に引き下げられる。つまり、パイロット圧P2の供給遮断によってライン圧制御弁42はローモードに切り換えられ、ライン圧PLはパイロット圧P1に基づき低圧側のローモード領域内で調圧されることになる。
図6(A)に示すように、パイロット圧P1を引き下げたときには、スプール弁軸84を増圧方向に付勢する推力が低下するため、調圧ポート42aと減圧ポート42bとが大きく連通するのに対し、図6(B)に示すように、パイロット圧P1を引き上げたときには、スプール弁軸84を増圧方向に付勢する推力が増加するため、調圧ポート42aと減圧ポート42bとが小さく連通することになる。つまり、パイロット圧P1の引き下げによって、ライン圧路41から潤滑回路89に流れる作動油が増加するため、ライン圧PLはローモード領域の下限値L1まで引き下げられる一方、パイロット圧P1の引き上げによって、ライン圧路41から潤滑回路89に流れる作動油が減少するため、ライン圧PLはローモード領域の上限値L2まで引き上げられることになる。
また、図7(A)および(B)に示すように、ライン圧制御弁42に対してパイロット圧P2を供給すると、スプール弁軸84を増圧方向に付勢する推力が増加するため、ライン圧制御弁42によるライン圧PLの調圧領域は、図8に実線で示す高圧側のハイモード領域に引き上げられる。つまり、パイロット圧P2の供給によってライン圧制御弁42はハイモードに切り換えられ、ライン圧PLはパイロット圧P1に基づき高圧側のハイモード領域内で調圧されることになる。
図7(A)に示すように、パイロット圧P1を引き下げたときには、スプール弁軸84を増圧方向に付勢する推力が低下するため、調圧ポート42aと減圧ポート42bとが大きく連通するのに対し、図7(B)に示すように、パイロット圧P1を引き上げたときには、スプール弁軸84を増圧方向に付勢する推力が増加するため、調圧ポート42aと減圧ポート42bとが小さく連通することになる。つまり、パイロット圧P1の引き下げによって、ライン圧路41から潤滑回路89に流れる作動油が増加するため、ライン圧PLはハイモード領域の下限値H1まで引き下げられる一方、パイロット圧P1の引き上げによって、ライン圧路41から潤滑回路89に流れる作動油が減少するため、ライン圧PLはハイモード領域の上限値H2まで引き上げられることになる。
このように、パイロット圧P2によってライン圧制御弁42のモードを切り換えることにより、ライン圧PLの調圧領域をローモード領域とハイモード領域との間で自在に設定することが可能となる。ここで、図9はライン圧制御弁42をローモードからハイモードに切り換える際におけるライン圧PL、セカンダリ圧Ps、パイロット圧P2の各調圧状況を示す線図である。なお、図示する場合にはパイロット圧P1が一定に保たれるようになっている。図9に示すように、パイロット圧P2の供給遮断によって、ライン圧制御弁42をローモードに切り換えた場合には、ライン圧PLとセカンダリ圧Psとがほぼ一致するように出力されているが、パイロット圧P2の供給開始によって、ライン圧制御弁42をハイモードに切り換えた場合には、セカンダリ圧Psを維持したままライン圧PLが引き上げられることになる。このように、セカンダリ圧Psよりもライン圧PLを高く調圧することができるため、アップシフト変速を実行する際にセカンダリ圧Psよりもプライマリ圧Ppを高く調圧することができ、プライマリ側の受圧面積を縮小して無段変速機10の小型化を図ることや、変速速度を向上させて変速時間の短縮を図ることが可能となる。なお、図9に示す場合には、パイロット圧P2を0から最大値まで引き上げるようにしているが、パイロット圧P2を最大値まで引き上げることなく所定圧力に保持しても良い。
また、図10はアップシフト変速におけるライン圧PL、プライマリ圧Pp、セカンダリ圧Psの各調圧状況を示す線図である。図10に示すように、プライマリ圧Ppよりもセカンダリ圧Psを高く調圧することが望ましいロー状態にあっては、パイロット圧P2の供給を遮断してライン圧制御弁42をローモードに切り換えることにより、ライン圧PLとセカンダリ圧Psとをほぼ一致させている。一方、セカンダリ圧Psよりもプライマリ圧Ppを高く調圧することが望ましいオーバードライブ状態にあっては、パイロット圧P2を供給してライン圧制御弁42をハイモードに切り換えることにより、セカンダリ圧Psに対してライン圧PLを引き上げることができるため、このライン圧PLから調圧されるプライマリ圧Ppをセカンダリ圧Psよりも高く調圧することが可能となる。つまり、目標セカンダリ圧Pstに応じてパイロット圧P1を引き下げることにより、ライン圧PLとセカンダリ圧Psとを低下させる場合であっても(符号x)、目標プライマリ圧Pptに応じてパイロット圧P2を引き上げることにより、ライン圧PLのみを上昇させることが可能となっている(符号y)。
しかしながら、前述した油圧回路構造にあっては、ライン圧制御弁42に対してパイロット圧P2を供給制御することにより、セカンダリ圧Psに対するライン圧PLの引き上げ量を設定しているため、イレギュラーな走行状況においてはライン圧PLの不足を招いてしまうおそれがある。つまり、セカンダリ圧Psに対するライン圧PLの引き上げ幅は、パイロット圧P2の調圧範囲によって制限されるため、外乱等に対応するためパイロット圧P2の調圧範囲を超えたライン圧PLの引き上げ幅が要求されたときには、ライン圧制御弁42によって調圧されるライン圧PLに対して圧力不足が生じることになる。なお、基本油圧として調圧されるライン圧PLは、クラッチ等の様々な油圧機構に対しても供給されるため、目標ライン圧PLtは各油圧機構が要求する目標圧力の中で最大の圧力に合わせて設定する必要がある。
以下、イレギュラーな走行状況においてもライン圧PLの不足を回避するようにしたライン圧制御弁42の制御方法について説明する。図11はパイロット弁51,52に対する制御信号S1,S2を算出する際の手順を示すフローチャートであり、図示するフローチャートは符号Aで接続されている。ライン圧制御手段として機能するCVT制御ユニット60は、図11のフローチャートに従って制御信号S1,S2を算出するようになっている。
図11に示すように、ステップS1では必要セカンダリ圧Psnが算出され、続くステップS2,S3では、必要セカンダリ圧Psnに対して上下限処理および変化量制限処理が施される。そして、ステップS4では、各種処理が施された必要セカンダリ圧Psnに基づき目標セカンダリ圧Pstが算出され、続くステップS5では、目標セカンダリ圧Pstに基づきパイロット弁51に対する制御信号S1が算出される。この制御信号S1を用いてパイロット弁51を制御することにより、目標セカンダリ圧Pstを上回るライン圧PLがライン圧制御弁42によって調圧されるとともに、目標セカンダリ圧Pstに収束するようにセカンダリ圧制御弁43によってセカンダリ圧Psが調圧されることになる。
また、制御信号S1の算出処理に並行してパイロット弁52に対する制御信号S2の算出処理が実行されている。ステップS6では、車両状態に基づいて基本目標ライン圧PLbが算出され、続くステップS7,S8では、基本目標ライン圧PLbに対して上下限処理および変化量制限処理が施される。そして、ステップS9では、各種処理が施された基本目標ライン圧PLbに基づいて目標ライン圧PLtが算出され、続くステップS10では、目標ライン圧PLtから目標セカンダリ圧Pstを減算することによって目標モード圧Pmが算出される。なお、図9に示すように、セカンダリ圧Psとライン圧PLとの差圧に相当する目標モード圧Pmは、ライン圧制御弁42に供給されるパイロット圧P2の大きさに応じて増減するようになっている。
続くステップS11では、目標モード圧Pmが所定範囲である基準値αを上回るか否かが判定される。なお、基準値αとはライン圧制御弁42のモード切り換えによって得られるセカンダリ圧Psとライン圧PLとの最大差圧である。ステップS11において、目標モード圧Pmが基準値αを下回ると判定された場合、つまりモード切り換えによって目標ライン圧PLtが得られる場合には、ステップS12に進み、目標モード圧Pmに基づいてパイロット弁52に対する制御信号S2が算出される。この制御信号S2を用いてパイロット弁52を制御することにより、目標ライン圧PLtに収束するようにライン圧制御弁42によってライン圧PLが調圧されることになる。
一方、ステップS11において、目標モード圧Pmが基準値αを上回ると判定された場合、つまりハイモードに切り換えても目標ライン圧PLtが得られない場合には、ステップS13に進み、ステップS2の上下限処理において用いられる必要セカンダリ圧Psnの下限値Limが、目標モード圧Pmと基準値αとに基づいて引き上げられる。そして、再びステップS2において、再設定された下限値Limに基づき必要セカンダリ圧Psnの下限処理が施され、必要セカンダリ圧Psnが引き上げられることになる。
図12(A)および(B)はライン圧PLの引き上げ時におけるライン圧PLとセカンダリ圧Psとの変化状況を示す線図である。図12(A)は目標モード圧Pmが基準値αを下回るときの状況を示し、図12(B)は目標モード圧Pmが基準値αを上回るときの状況を示している。
まず、セカンダリ圧Psに対してライン圧PLを引き上げる際には、目標セカンダリ圧Pstと目標ライン圧PLtとの差圧である目標モード圧Pmが、パイロット圧P2の供給によって引き上げることのできる基準値αを上回るか否かが判定される。ここで、図12(A)に示すように、目標ライン圧PLtが低く設定されることにより、目標モード圧Pmが基準値αを下回る場合には、パイロット圧P2の調圧によってライン圧PLを目標ライン圧PLtまで引き上げることが可能であるため、目標モード圧Pmに基づいて制御信号S2が算出され、この制御信号S2に基づいてパイロット弁52からのパイロット圧P2が制御される。
これに対し、図12(B)に示すように、目標ライン圧PLtが高く設定されることにより、目標モード圧Pmが基準値αを上回る場合には、パイロット圧P2の調圧によってはライン圧PLを目標ライン圧PLtまで引き上げることができないため、目標ライン圧PLtに近づけるように目標セカンダリ圧Pstを引き上げるようにしている。このように目標セカンダリ圧Pstを引き上げることによって、目標モード圧Pmを基準値αに収束させることができるため、当初の目標ライン圧PLtまでライン圧PLを引き上げることが可能となる。つまり、新たな目標セカンダリ圧Pstまでの引き上げ分ΔP1は、パイロット圧P1を調圧することによって得ることができ、新たな目標セカンダリ圧Pstから目標ライン圧PLtまでの引き上げ分ΔP2は、パイロット圧P2を調圧することによって得ることができる。
このように、パイロット弁52によって制御可能な目標ライン圧PLtを超えて、高い目標ライン圧PLtが要求された場合であっても、パイロット弁51を制御することによって当初の目標ライン圧PLtを得ることが可能となる。つまり、外乱等の影響によって正常時よりも高いライン圧PLが要求された場合であっても、これに対応することができるため、車両の安全性や信頼性を向上させることが可能となる。しかも、外乱等によるイレギュラーな走行状況を想定して、パイロット弁52の調圧能力を高めておく必要がないため、油圧回路の低コスト化を達成することも可能である。
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。たとえば、図示する場合には、プライマリ圧Ppを調圧することによって変速比を制御し、セカンダリ圧Psを調圧することによって駆動ベルト22の張力を制御しているが、これに限られることはなく、プライマリ圧Ppを調圧することによって駆動ベルト22の張力を制御し、セカンダリ圧Psを調圧することによって変速比を制御しても良い。
また、パイロット弁51としてリニアソレノイドバルブを採用し、パイロット弁52としてデューティソレノイドバルブを採用しているが、これに限られることはなく、パイロット弁51としてデューティソレノイドバルブを採用し、パイロット弁52としてリニアレノイドバルブを採用しても良い。
さらに、アップシフト弁44やダウンシフト弁47は、一義的に作動油の流量を制御することによってプライマリ圧Ppを制御するようにした流量制御弁であるが、これに限られることはなく、一義的に作動油の圧力を制御するようにした圧力制御弁を採用しても良い。