つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。図1にこの発明の一例をスケルトン図で示してあり、ここに示す例は、流体を介さずにトルクを伝達して設定できるいわゆる固定変速比として五つの変速比を設定するように構成した例である。すなわち、動力源(E/G)1に入力部材2が連結されており、この入力部材2から第1遊星歯車機構3および第2遊星歯車機構4にトルクを伝達するように構成されている。
その動力源1は、内燃機関や電気モータあるいはこれらを組み合わせた構成など、車両に使用されている一般的な動力源であってよい。また、この動力源1と入力部材2との間にダンパーやクラッチ、トルクコンバータなどの適宜の伝動手段を介在させてもよい。
第1遊星歯車機構3が入力部材2と同一軸線上に配置され、第2遊星歯車機構4が第1遊星歯車機構3の半径方向で外側に離隔し、それぞれの中心軸線を平行にした状態で並列に配置されている。これらの遊星歯車機構3,4は、シングルピニオン型遊星歯車機構によって構成されており、外歯歯車であるサンギヤ3S,4Sと、そのサンギヤ3S,4Sと同心円状に配置された、内歯歯車であるリングギヤ3R,4Rと、これらサンギヤ3S,4Sとリングギヤ3R,4Rとに噛み合っているピニオンギヤを自転自在かつ公転自在に保持したキャリヤ3C,4Cとを備えている。そして、第1遊星歯車機構3におけるリングギヤ3Rに前記入力部材2が連結され、このリングギヤ3Rが入力要素となっている。
また、入力部材2にはカウンタドライブギヤ5が取り付けられており、このカウンタドライブギヤ5にアイドルギヤ6が噛み合っているとともに、そのアイドルギヤ6にカウンタドリブンギヤ7が噛み合っている。このカウンタドリブンギヤ7は、前記第2遊星歯車機構4と同一軸線上に配置され、かつ第2遊星歯車機構4のリングギヤ4Rに、一体となって回転するように連結されている。したがって、第2遊星歯車機構4においては、そのリングギヤ4Rが入力要素となっている。各遊星歯車機構3,4の入力要素であるリングギヤ3R,4Rは、カウンタギヤ対がアイドルギヤ6を備えた構成であるから、同方向に回転するようになっている。
第1遊星歯車機構3におけるキャリヤ3Cは出力要素となっており、そのキャリヤ3Cに第1中間軸8が、一体になって回転するように連結されている。この第1中間軸8は中空軸であって、その内部を第1回転軸9が回転自在に挿入されており、この第1回転軸9の一端部が、第1遊星歯車機構3における反力要素であるサンギヤ3Sに、一体となって回転するように連結されている。
第2遊星歯車機構4においても同様な構成であって、そのキャリヤ4Cが出力要素となっており、そのキャリヤ4Cに第2中間軸10が、一体になって回転するように連結されている。この第2中間軸10は中空軸であって、その内部を第2回転軸11が回転自在に挿入されており、この第2回転軸11の一端部が、第2遊星歯車機構4における反力要素であるサンギヤ4Sに、一体となって回転するように連結されている。
上記の第1回転軸9の他方の端部が、この発明における第1の流体圧ポンプに相当する可変容量型ポンプモータ12の出力軸に連結されている。この可変容量型ポンプモータ12は、斜軸ポンプや斜板ポンプあるいはラジアルピストンポンプなどの吐出容量(押し出し容積)を変更可能な流体圧(油圧)ポンプであって、その出力軸にトルクを与えて回転させることによりポンプとして機能して圧力流体(圧油)を吐出し、また、ポンプとして機能する際の吐出口から圧力流体を供給して、ポンプとして機能する際の吸入口から排出させることにより、モータとして機能するようになっている。なお、この可変容量型ポンプモータ12を以下の説明では、第1ポンプモータ12と記し、図にはP/M1と表示する。
また、第2回転軸11の他方の端部が、この発明における第2流体圧ポンプに相当する可変容量型ポンプモータ13の出力軸に連結されている。この可変容量型ポンプモータ13は、斜軸ポンプや斜板ポンプあるいはラジアルピストンポンプなどの吐出容量を変更可能な流体圧(油圧)ポンプであって、その出力軸にトルクを与えて回転させることによりポンプとして機能して圧力流体(圧油)を吐出し、また、ポンプとして機能する際の吐出口から圧力流体を供給して、ポンプとして機能する際の吸入口から排出させることにより、モータとして機能するようになっている。なお、この可変容量型ポンプモータ13を以下の説明では、第2ポンプモータ13と記し、図にはP/M2と表示する。
各ポンプモータ12,13は、圧力流体である圧油を相互に受け渡すことができるように、油路14,15によって連通されている。すなわち、それぞれの吸入口12S,13S同士が油路14によって連通され、また吐出口12D,13D同士が油路15によって連通されている。そして、これらの油路14,15を流通する圧油の量や圧力すなわち各ポンプモータ12,13の押し出し容積や圧力を制御するためのバルブを主体として油圧制御装置16が、油路14,15に介装されている。さらに、この油圧制御装置16や各ポンプモータ12,13の吐出容量を制御するための電子制御装置(ECU)17が設けられている。すなわち、吐出容量を設定するための斜板や斜軸の角度あるいはラジアルピストンポンプのカムリング(図示せず)の位相角度などを変更するためのアクチュエータ(図示せず)に、電子制御装置17から指令信号が出力されるようになっている。
上記の各中間軸8,10と平行に、この発明の出力部材に相当する出力軸18が配置されている。そして、この出力軸18と各中間軸8,10との間のそれぞれに、所定の変速比を設定する伝動機構が設けられている。この発明における伝動機構としては、固定された変速比で動力を伝達する機構に限らず、変速比が可変な機構を採用することができ、図1に示す例では、固定された変速比で動力を伝達する複数のギヤ対19,20,21,22,23が採用されている。具体的に説明すると、前記第1中間軸8には、第1遊星歯車機構3側から順に、第5速駆動ギヤ19Aと第3速駆動ギヤ20Aと第1速駆動ギヤ21Aとが配置されており、第5速駆動ギヤ19Aと第3速駆動ギヤ20Aとは第1中間軸8に対して回転自在に嵌合し、また第1速駆動ギヤ21Aは第1中間軸8に対して一体となって回転するように取り付けられている。
その第5速駆動ギヤ19Aに噛み合っている第5速従動ギヤ19Bと、第3速駆動ギヤ20Aに噛み合っている第3速従動ギヤ20Bとが、出力軸18に一体回転するように取り付けられている。また、第1速駆動ギヤ21Aに噛み合っている第1速従動ギヤ21Bが、出力軸18に回転自在に嵌合している。したがってこれらの駆動ギヤ19A,20A,21Aと従動ギヤ19B,20B,21Bとからなる第5速ギヤ対19および第3速ギヤ対20ならびに第1速ギヤ対21が、この発明における第1の伝動機構に相当している。
さらに、上記の第5速従動ギヤ19Bに噛み合っている第4速駆動ギヤ22Aと、第3速従動ギヤ20Bに噛み合っている第2速駆動ギヤ23Aとが、第2中間軸10に回転自在に嵌合させられている。したがって、第5速従動ギヤ19Bが第4速従動ギヤを兼ねており、また第3速従動ギヤ20Bが第2速従動ギヤを兼ねている。したがって、これらの第4速用および第2速用の駆動ギヤ22A,23Aとこれに噛み合っている従動ギヤ19B,20Bとからなる第4速ギヤ対22および第2速ギヤ対23が、この発明における第2の伝動機構に相当している。
ここで、各ギヤ対19,20,21,22,23の変速比(それぞれの駆動ギヤの歯数に対する従動ギヤの歯数の比)について説明すると、その変速比は、第1速用ギヤ対21、第2速用ギヤ対23、第3速用ギヤ対20、第4速用ギヤ対22、第5速用ギヤ対19の順に小さくなるように構成されている。
上述した第1速用ないし第5速用の各ギヤ対19,20,21,22,23を、いずれかの中間軸8,10と出力軸18との間でトルク伝達可能な状態とするための係合機構が設けられている。この係合機構は、要は、選択的にトルクを伝達する機構であって、従来知られているドグクラッチ機構や同期連結機構(シンクロナイザー)などの機構を採用することができ、図1にはシンクロナイザーを採用した例を示してある。
シンクロナイザーは、基本的には、回転軸と共に回転するスリーブを軸線方向に移動させて、その回転軸に対して相対回転するように取り付けられた回転部材のスプラインに係合させ、その過程でシンクロナイザーリングが回転部材に次第に摩擦接触することにより回転軸と回転部材とを同期させることにより、回転軸と回転部材とを連結するように構成されている。前記出力軸18上で、第1速従動ギヤ21Bに隣接する位置に第1のシンクロナイザー(以下、第1シンクロと記す)25が設けられている。この第1シンクロ25は、そのスリーブを図1の左側に移動させることにより、第1速従動ギヤ21Bを出力軸18に連結し、第1速用のギヤ対21が第1中間軸8と出力軸18との間でトルクを伝達するように構成されている。
また、前記第2中間軸10上で、第4速駆動ギヤ22Aと第2速駆動ギヤ23Aとの間に第2のシンクロナイザー(以下、第2シンクロと記す)26が設けられている。この第2シンクロ26は、そのスリーブを図1の左側に移動させることにより、第2速駆動ギヤ23Aを第2中間軸10に連結し、第2速用のギヤ対23が第2中間軸10と出力軸18との間でトルクを伝達するように構成されている。また、反対にそのスリーブを図1の右側に移動させることにより、第4速駆動ギヤ22Aを第2中間軸10に連結し、第4速用のギヤ対22が第2中間軸10と出力軸18との間でトルクを伝達するように構成されている。
さらに、前記第1中間軸8上で、第3速駆動ギヤ20Aと第5速駆動ギヤ19Aとの間に第3のシンクロナイザー(以下、第3シンクロと記す)27が設けられている。この第3シンクロ27は、そのスリーブを図1の左側に移動させることにより、第3速駆動ギヤ20Aを第1中間軸8に連結し、第3速用のギヤ対20が第1中間軸8と出力軸18との間でトルクを伝達するように構成されている。また、反対にそのスリーブを図1の右側に移動させることにより、第5速駆動ギヤ19Aを第1中間軸8に連結し、第4速用のギヤ対19が第1中間軸8と出力軸18との間でトルクを伝達するように構成されている。
これらのシンクロ25,26,27は、手動操作によって切り替え動作するように構成することができるが、これに替えていわゆる自動制御するように構成することもでき、その場合は、例えば前述したスリーブを軸線方向に移動させる適宜のアクチュエータ(図示せず)を設け、そのアクチュエータを前述した電子制御装置17の指令信号を動作させるように構成すればよい。
上述したように、図1に示す変速機は、動力源1が出力したトルクが、いずれかの中間軸8,10を介して出力軸18に伝達されるように構成されている。そして、その出力軸18には、歯車機構あるいはチェーンなどの巻き掛け伝動機構などの伝動機構28を介してデファレンシャル29が連結され、ここから左右の車輪(図示せず)に動力を出力するようになっている。
上述した各ポンプモータ12,13は、押し出し容積がゼロ以上の所定値になっている状態で、吐出口12D,13D側の油路15を絞れば吐出圧が高くなる。したがって、その状態では各ポンプモータ12,13の出力軸を回転させるために要するトルクすなわち軸トルクが大きくなり、図1に示す構成では、各遊星歯車機構3,4の反力トルクが大きくなる。すなわち、各ポンプモータ12,13を固定容量型のものとした場合には、吐出圧によってその軸トルクを制御できる。
これに対して各ポンプモータ12,13の押し出し容積を増大させた場合、吐出圧が一定に維持(固定)されていれば、各ポンプモータ12,13の軸トルクが大きくなる。また、モータとして機能させる場合、供給する油圧が一定であれば、押し出し容積に応じて出力軸に現れるトルクすなわち軸トルクが増大する。
このような特性を備えた各ポンプモータ12,13を制御する油圧制御装置16の一例を図2に示してある。ここに示す例は、各ポンプモータ12,13の吐出圧を一定に維持し、それぞれの押し出し容積を変更して軸トルクを制御するように構成した例であり、前記吐出口12D,13Dを連通させている油路15と、前記吸入口12S,13Sを連通させている油路14との間に、これらの油路14,15を連通させる二つのリリーフ弁31,32が設けられている。第1のリリーフ弁31は、吐出口12D,13D側の油路15の圧力が、予め設定されている圧力を超えた場合に開いて、油圧を吸入口12S,13S側の油路14に解放するように構成されている。また、第2のリリーフ弁32は、油圧を吸入口12S,13S側の油路14の圧力が、予め設定されている圧力を超えた場合に開いて、吐出口12D,13D側の油路15に解放するように構成されている。
また、上記の各ポンプモータ12,13および各油路14,15に圧油を供給するブーストポンプ33が設けられいる。このブーストポンプ33は、前述した動力源1や図示しない電動機によって駆動されることにより、オイルパン34から圧油を汲み上げかつ加圧するように構成され、その吐出口がブースト圧制御弁35に連通されている。このブースト圧制御弁35は、要は、調圧バルブであって、信号圧とフィードバック圧とを図示しない弁体に対して対抗させて作用させることにより、その信号圧に応じた出力圧を得るように構成されている。
そして、このブースト圧制御弁35と前記吐出口12D,13D側の油路15とが、その油路15に向けた圧油の流通を可能にする逆止弁36を介して連通されている。また、ブースト圧制御弁35と前記吸入口12S,13S側の油路14とが、その油路14に向けた圧油の流通を可能にする逆止弁37を介して連通されている。
したがって、図2に示す構成では、いずれか一方もしくは両方のポンプモータ12,13をポンプとして機能させて、いずれか一方もしくは両方の遊星歯車機構3,4に反力トルクを与える場合、その押し出し容積を次第に増大させる。この場合、各ポンプモータ12,13の吐出口12D,13D同士が連通されているので、吐出圧が次第に増大し、それに伴ってポンプモータ12,13の軸トルクが増大する。そして、その吐出口が第1のリリーフ弁31で設定されている圧力を超えると、このリリーフ弁31が開いて油圧が他の油路14側に解放される。
なお、吐出圧を解放する第1のリリーフ弁は、設定圧力を調整可能な構成のものを使用してもよい。その例を図3に示してあり、ここに示す第1のリリーフ弁31Aは、図示しない電磁弁などから供給される信号圧Psolに応じて解放圧が設定されるように構成されている。したがってこの図3に示す構成の油圧制御装置を用いた場合には、各ポンプモータ12,13の押し出し容積だけでなく、その吐出圧を制御できるので、その軸トルクを押し出し容積および吐出圧のいずれによっても制御することが可能になる。なお、図3における他の構成は、図2に示す構成と同様であり、したがって図3に図2と同様の符号を付してその説明を省略する。
つぎに、上述した変速機の作用について説明する。図4は、各変速段を設定する際の各オイルポンプ(P/M1,P/M2)12,13、および各シンクロ25,26,27の動作状態をまとめて示す図表であって、この図4における各オイルポンプ12,13についての「OFF」は、ポンプ容量を実質的にゼロとし、その出力軸が回転させられても圧油を発生することがなく、また油圧が供給されても出力軸が回転しない状態(フリー)を示し、「LOCK」は、ポンプ容量を最大にするとともにオイルの吐出を制限してその出力軸にトルクが現れる状態(言い換えれば、圧油を閉じ込めた状態)を示している。さらに「油圧発生」は、ポンプ容量を実質的なゼロより大きくするとともに圧油を吐出している状態を示し、したがって該当するオイルポンプ12,13はポンプとして機能している。また、「油圧回収」は、一方のオイルポンプ13(もしくは12)が吐出した圧油が供給されてモータとして機能している状態を示し、したがって該当するオイルポンプ13(もしくは12)は軸トルクを発生し、対応する中間軸8,10に駆動トルクを伝達している。
そして、各シンクロ25,26,27についての「右」、「左」は、それぞれのシンクロ25,26,27におけるスリーブの図1での位置を示すとともに、丸括弧はダウンシフトするための待機状態、カギ括弧はアップシフトするための待機状態を示し、そして「−」はスリーブが中央に位置して中立状態となっていることを示す。
図示しないシフト装置でニュートラルポジションが選択されるなどのことによってニュートラル(N)状態を設定する際には、各オイルポンプ12,13が「OFF」状態とされ、また各シンクロ25,26,27のスリーブが中央位置に設定される。したがって、いずれのギヤ対19,20,21,22,23も出力軸18に連結されていないニュートラル状態となる。すなわち、各オイルポンプ12,13が、ポンプ容量が実質的にゼロとなるように制御され、その結果、いわゆる空回り状態となるので、各遊星歯車機構3,4のリングギヤ3R,4Rに動力源1からトルクが伝達されても、サンギヤ3S,4Sに反力が作用しないので、出力要素であるキャリヤ3C,4Cに連結されている各中間軸8,10にはトルクが伝達されない。
このニュートラル状態における各遊星歯車機構3,4の動作状態を図5に共線図で示してある。この共線図においてρ1、ρ2は、各遊星歯車機構3,4のギヤ比(サンギヤとリングギヤとの歯数の比)を示し、また矢印はトルクの方向を示している。動力源1を駆動している状態でのニュートラル状態では、各遊星歯車機構3,4のリングギヤ3R,4Rが正回転しているとともに、出力軸18に連結されている各キャリヤ3C,4Cが停止しているので、各反力要素であるサンギヤ3S,4Sおよびこれに連結されている各ポンプモータ12,13がフリー状態で逆回転させられている。
シフトポジションがドライブポジションなどの走行ポジションに切り替えられると、第1シンクロ25のスリーブおよび第2シンクロ26のスリーブが、図1の左側に移動させられて、第1速従動ギヤ21Bが出力軸18に連結されるとともに、第2速駆動ギヤ23Aが第2中間軸10に連結される。すなわち、固定変速比である第1速と第2速とを設定する状態となる。また、これと併せて各ポンプモータ12,13がポンプとして機能するように制御される。すなわち、油圧を発生する。具体的には、各ポンプモータ12,13の押し出し容積をゼロより大きい所定値に増大させるように制御する。また、図3に示す油圧制御装置16にあっては、第1リリーフ弁31Aの設定圧(解放圧)を実質的なゼロ以上の高い圧力に設定する。すなわち、発進などの加速要求があった場合に、各中間軸8,10のそれぞれにおける伝動機構を、互いに隣接する固定変速比を設定する状態にする。
前述したように、各ポンプモータ12,13の吐出口12D,13D同士が連通されているので、各ポンプモータ12,13の吐出圧が前記第1リリーフ弁31,31Aで設定されている圧力まで次第に増大する。それに伴って各ポンプモータ12,13の軸トルクが次第に増大し、これが各遊星歯車機構3,4のサンギヤ3S,4Sに反力トルクとして作用する。その状態を図6に共線図で示してある。
すなわち、第1遊星歯車機構3では、動力源1から入力されるトルクと第1のポンプモータ12から入力される反力トルクとが合成されて、キャリヤ3Cおよびこれに連結されている第1中間軸8を正回転させるトルクが生じ、そのトルクが第1速ギヤ対21を介して出力軸18に伝達される。また、第2遊星歯車機構4では、動力源1から入力されるトルクと第2のポンプモータ13から入力される反力トルクとが合成されて、キャリヤ4Cおよびこれに連結されている第2中間軸10を正回転させるトルクが生じ、そのトルクが第2速ギヤ対23を介して出力軸18に伝達される。
したがって、出力軸18には、第1速ギヤ対21を介して伝達されるトルクと第2速ギヤ対23を介して伝達されるトルクを合わせたトルクが現れる。その状況を図1に太い矢印で示してある。また、その出力トルクToは、
To≒(1+ρ1)/ρ1・κ1・P15・q1/2π+(1+ρ2)/ρ2・κ2・P15・q2/2π
となる。この式の右辺第1項は、第1速ギヤ対21を介して伝達されるトルクに相当し、第2項は、第2速ギヤ対23を介して伝達されるトルクに相当する。なお、ρ1は第1遊星歯車機構3のギヤ比、ρ2は第2遊星歯車機構4のギヤ比、κ1は第1速ギヤ対21の変速比、κ2は第2速ギヤ対23の変速比、P15は油路15の油圧、q1は第1のポンプモータ12の押し出し容積、q2は第2ポンプモータ13の押し出し容積である。そして、この出力トルクToが伝動機構28を介してデファレンシャル29に伝達されるから、発進時には大きい駆動力を得ることができる。なお、車両が停止している状態では、クリープ力として現れる。
車両が発進した後は、第1のポンプモータ12の押し出し容積および/または吐出圧を次第に増大させて「LOCK」状態に制御し、またこれと併せて第2のポンプモータ13の押し出し容積および/または吐出圧を次第に低下させて「OFF」状態に制御する。この過程における各遊星歯車機構3,4の状態を図7に共線図で示してあり、第1速ギヤ対21を介して伝達されるトルクが次第に増大し、これに対して第2速ギヤ対23を介して伝達されるトルクが次第に低下する。そして、第1のポンプモータ12を駆動するのに要するトルクが入力トルクより大きくなることにより第1のモータポンプ12が完全に「LOCK」状態となると、第1遊星歯車機構3のサンギヤ3Sの回転が止められ、また第2のポンプモータ13が「OFF」状態(フリー状態)となって第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sに反力が作用しなくなるので、固定変速比である第1速が設定される。この状態を図8に各遊星歯車機構3,4についての共線図として示してある。
この第1速の状態では、第2ポンプモータ13がフリー状態であって軸トルクを生じないから、第2遊星歯車機構4および第2中間軸10を介したトルクの伝達が生じない。したがって、第2シンクロ26のスリーブは、中立位置および図1の左側のいずれにも設定することもできる。中立位置に設定すれば、第2速ギヤ対23を介した出力軸18と第2中間軸10との間のトルクの伝達が生じないので、第2中間軸10や第2遊星歯車機構4が出力軸18にいわゆる連れ回りされることがなく、その結果、引き摺りによる動力損失を低減することができる。その状態を図9に各遊星歯車機構3,4についての共線図として示してある。また、第2シンクロ26のスリーブを図1の左側に位置させれば、第2速への変速に備えた待機状態となる。
第2速は、動力源1から第2遊星歯車機構4および第2中間軸10ならびに第2速ギヤ対23を介して設定するから、フリー状態の第2ポンプモータ13のポンプ容量(押し出し容積)を次第に増大させるとともにその吐出量を次第に絞る(吐出圧を次第に高くする)ことにより、第2速への変速を実行する。第2ポンプモータ13は第1速で逆回転しているので、その押し出し容積を増大させると、ポンプとして機能することによる圧油を吐出し、それに伴う反力トルクが第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sに作用する。したがって、動力源1からのトルクと第2ポンプモータ13からの反力トルクが第2遊星歯車機構4で合成されて第2中間軸10および第2速ギヤ対23を介して出力軸18に伝達される。この状態の第2遊星歯車機構4についての共線図を図10に示してある。
また、第2ポンプモータ13が吐出した圧油が第1ポンプモータ12に供給されるので、第1ポンプモータ12がモータとして機能し、そのトルクが第1遊星歯車機構3のサンギヤ3Sに伝達される。したがって、第1遊星歯車機構3では、動力源1から伝達されたトルクと第1ポンプモータ12から伝達されたトルクとが合成され、その合成トルクが第1中間軸8および第1速ギヤ対21を介して出力軸18に伝達される。この状態における第1遊星歯車機構3についての共線図を図10に示してある。
このように、第2ポンプモータ13の押し出し容積を増大させるとともに吐出を次第に絞ることにより、第2速への変速が進行し、したがって変速比およびトルクが連続的に変化する無段変速が実行される。また、その変速の過程で第2ポンプモータ13がポンプとして機能し、圧油を発生するが、その圧油を第1ポンプモータ12に供給して動力として回収するので、動力損失の少ない変速が可能になり、車両の燃費の向上に有利である。
上記のようにして第2ポンプモータ13の吐出を次第に絞り、ついには完全にゼロとすることにより、すなわちロックすることにより、第2速が達成される。また、この第2速状態、特に第1速からアップシフトされた直後の状態もしくは第1速へのダウンシフトに備えた待機状態では、第1ポンプモータ12は押し出し容積がゼロで自由回転の可能なフリー状態に設定される。さらに、アップシフトおよびダウンシフトのいずれにも備えていない安定的な第2速の状態は、第2シンクロ26を中立位置に設定した状態である。
以降、同様にして、各ポンプモータ12,13を「LOCK」状態と「OFF」状態とに交互に切り替えるとともに、その過程で一方をポンプとして機能させかつ他方をモータとして機能させ、さらに各シンクロ25,26,27を図1の左右もしくは中立位置に適宜設定して、固定変速比である第5速まで、連続的に変速比を変化させることができる。
ところで、上記の図2および図3を参照して説明したように、各ポンプモータ12,13の軸トルクは、押し出し容積および吐出圧の少なくともいずれか一方を変化させることにより適宜に設定することができる。したがって、第1速の変速比が設定されるまでの発進の過程では、前述した第1リリーフ弁31(もしくは31A)での設定圧である吐出圧PAを一定に維持した状態で各ポンプモータ12,13の押し出し容積q1,q2を変化させて軸トルクを制御する方法と、これとは反対に各ポンプモータ12,13の押し出し容積q1,q2を一定に維持した状態で、吐出圧すなわち前記第1リリーフ弁31Aの設定圧を変化させて軸トルクを制御する方法とが可能である。
以下、それぞれの制御について説明すると、図11は吐出圧PAを所定値P1に維持した状態で各ポンプモータ12,13の押し出し容積q1,q2を変化させる制御の例を説明するためのタイムチャートであって、発進制御開始の指令信号に基づいて各ポンプモータ12,13の押し出し容積q1,q2が次第に増大させられる(t1時点)。それに伴って各ポンプモータ12,13の軸トルクに応じて出力軸18に伝達される出力トルクTo1,To2が次第に増大する。なお、この種のポンプにおける軸トルクは、押し出し容積をq、吐出圧をPとした場合、(q・P/2π)で表される。したがって、各出力トルクTo1,To2は、押し出し容積q1,q2に応じて増大する。
各ポンプモータ12,13の押し出し容積q1,q2が予め設定した容積に達すると、それぞれのポンプモータ12,13の軸トルクに応じた出力トルクTo1,To2が目標トルクに到達する(t2時点)。換言すれば、目標トルクに応じて各押し出し容積q1,q2を設定してある。また、各出力トルクTo1,To2は、出力軸18に伝達されるトルクであり、各ギヤ対21,23で減速作用を受けた後のトルクであるから、これらのギヤ対21,23の変速比κ1,κ2の相違(κ1>κ2)に基づいて互いに異なるトルクとなり、第1速ギヤ対21を介して伝達される出力トルクTo1が第2速ギヤ対23を介して伝達される出力トルクTo2より大きくなる。
その後、第1速を形成するための制御の開始により(t3時点)、第1ポンプモータ12の押し出し容積q1は、第1ポンプモータ12が「LOCK」状態となるように最大値に向けて増大させられ、これに対して第2ポンプモータ13の押し出し容積q2は、第2ポンプモータ13が「OFF」状態となるようにゼロに向けて低下させられる。その場合、各出力トルクTo1,To2は、吐出圧P1で決まる最大値に達しているので、第1ポンプモータ12の軸トルクに基づく出力トルクTo1は従前のトルクに維持され、これに対して第2ポンプモータ13の軸トルクに基づく他方の出力トルクTo2は、押し出し容積q2の低下に応じて低下する。そして、第2ポンプモータ13の押し出し容積q2がゼロになった時点t4に第1速が形成され、同時に第1ポンプモータ12を完全に「LOCK」状態とするためにその押し出し容積q1を更に増大させる終了制御が開始され、また吐出圧PAが予め定めた所定値P2に低下させられる。その結果、第1ポンプモータ12が「LOCK」し、また吐出圧PAが予め定めた所定値P2に低下することにより発進制御が終了する(t5時点)。
したがって、このような発進制御の過程では、各ポンプモータ12,13をポンプとして機能させて、それぞれの軸トルクに応じた出力トルクTo1,To2を出力軸18に伝達することになる。そのため、この出力軸18から出力されるトルクはToは、前述した式で表されるように、これら二つの出力トルクTo1,To2を合わせたものとなる。その結果、発進時の出力トルクToが大きくなり、車両の発進加速性が良好になる。
比較のために、第1ポンプモータ12のみを使用して発進する場合の押し出し容積q1および出力トルクTo1を、図11に破線で示してある。発進制御の開始に伴って第1ポンプモータ12の押し出し容積q1を次第に増大させると、それに応じて第1ポンプモータ12の軸トルクが次第に増大する。しかしながら、その場合に出力軸18に伝達されるトルクは、第1速ギヤ対21のみから伝達されるトルクに限られるため、出力トルクTo1は、前述したt2時点より遅いt21時点に目標値に到達する。したがって、第1ポンプモータ12の押し出し容積q1は、二つのポンプモータ12,13を使用する上記の場合より大きくなる。その後、第1速が形成されると(t4時点)、この発明に係る上述した例と同様に、終了制御が実行される。
このように、一方のポンプモータ12のみを使用して発進する場合には、得られる出力トルクToが、そのポンプモータ12の軸トルクに応じたトルクに限られ、相対的に小さいトルクとなるので、発進加速性が必ずしも十分にはならない。また、一方のポンプモータ12のみを使用する場合には、その押し出し容積q1を大きくする必要があるが、前述したこの発明に係る例では、二つのポンプモータ12,13を使用するので、それぞれの押し出し容積q1,q2を小さくでき、そのためにポンプモータ12,13を小型化でき、また漏洩などによる動力損失の少ない効率の良い運転を行うことができる。さらに、容積の制御であるから、制御が容易になり、また安定した制御が可能である。
他方、図12は、各ポンプモータ12,13の押し出し容積q1,q2を一定値(具体的には最大値)に固定した状態で、吐出圧PAを次第に変化させる制御の例を説明するためのタイムチャートであって、発進制御開始の指令信号に基づいて前記第1リリーフ弁31Aによる設定圧すなわち吐出圧PAが次第に増大させられる(t11時点)。それに伴って各ポンプモータ12,13の軸トルクに応じて出力軸18に伝達される出力トルクTo1,To2が次第に増大する。
吐出圧PAが予め設定した圧力P3に達すると、それぞれのポンプモータ12,13の軸トルクに応じた出力トルクTo1,To2が目標トルクに到達する(t12時点)。換言すれば、目標トルクに応じて吐出圧PAが制御される。
その後、第1速を形成するための制御の開始により(t13時点)、吐出圧PAは、第1ポンプモータ12が「LOCK」状態となるように最大値に向けて増大させられる。これと同時に、第2ポンプモータ13の押し出し容積q2は、第2ポンプモータ13が「OFF」状態となるようにゼロに向けて低下させられる。その場合、各出力トルクTo1,To2は、吐出圧P1で決まる最大値に達しているので、第1ポンプモータ12の軸トルクに基づく出力トルクTo1は従前のトルクに維持され、これに対して第2ポンプモータ13の軸トルクに基づく他方の出力トルクTo2は、押し出し容積q2の低下に応じて低下する。そして、第2ポンプモータ13の押し出し容積q2がゼロになった時点t14に第1速が形成され、同時に終了制御が開始される。その後、発進制御が終了する(t15時点)。
このような制御の過程における各出力トルクTo1,To2の変化は、図11を参照して説明した前記の制御例と同様である。
比較のために、第1ポンプモータ12のみを使用して発進する場合の押し出し容積q1および出力トルクTo1を、図12に破線で示してある。発進制御の開始に伴って吐出圧PAを次第に増大させると、それに応じて第1ポンプモータ12の軸トルクが次第に増大する。しかしながら、その場合に出力軸18に伝達されるトルクは、第1速ギヤ対21のみから伝達されるトルクに限られるため、出力トルクTo1は、前述したt12時点より遅いt22時点に目標値に到達する。したがって、吐出口PAは、二つのポンプモータ12,13を使用する上記の場合より高くなる。
このように、一方のポンプモータ12のみを使用して発進する場合には、得られる出力トルクToが、そのポンプモータ12の軸トルクに応じたトルクに限られ、相対的に小さいトルクとなるので、発進加速性が必ずしも十分にはならない。また、一方のポンプモータ12のみを使用する場合には、吐出圧PAを高くする必要があるが、前述したこの発明に係る例では、二つのポンプモータ12,13を使用するので、吐出圧PAを低くでき、そのためにポンプモータ12,13を小型化でき、また漏洩などによる動力損失の少ない効率の良い運転を行うことができる。
ここで、この発明と上述した具体例との関係を簡単に説明すると、各ポンプモータ12,13の押し出し容積q1,q2および吐出圧PAを上述したように制御する前記電子制御装置17が、この発明の加速制御手段に相当し、また押し出し容積を最大値に固定する手段に相当する。
なお、この発明は、上述した各具体例に限定されない。すなわち、この発明は、流体の押し出し容積および吐出圧に応じて軸トルクが変化する流体圧ポンプを複数備え、それぞれの軸トルクに応じたトルクが伝動機構を介して出力部材に伝達される構成の変速機であり、したがって前述した遊星歯車機構3,4を用いずに、各流体圧ポンプから直接、伝動機構にトルクを伝達するように構成した変速機であってもよい。その例を以下に示す。
図13にこの発明の一例をスケルトン図で示してあり、入力部材51が二つの流体圧ポンプ52,53に連結されている。この入力部材51は、図示しないエンジンや電動機などの動力源のトルクを流体圧ポンプ52,53に伝達するためのものであって、回転軸や歯車あるいは巻き掛け伝動機構などによって構成されている。なお、以下の説明では、入力部材51を入力軸51と記す。
流体圧ポンプ52,53は、主として、入力側の部材と出力側の部材との間でのトルクの伝達を行うためのものであり、流体を閉じ込めることにより、入力側の部材と出力側の部材との相対回転を制限できる容積型のオイルポンプがその一例である。以下の説明では、流体圧ポンプをオイルポンプと記す。
図14および図15には、そのオイルポンプ52,53を示してあり、これらのオイルポンプ52,53は、同一軸線上に軸線方向に並べて配列され、いわゆるタンデム型のツインポンプとして構成されている。すなわち、前記入力軸51が連結された入力側の部材は、円筒状を成すハウジング54であり、その内周面は半径方向に滑らかに凹凸となる波形の曲面となっている。この内周面が後述するように、カム面55である。
そのハウジング54の内部に、出力側部材である二つのロータ56,57が、同一軸線上で軸線方向に並んで配列されている。各ロータ56,57は、所定の厚さを備えた円盤状の部材であって、ハウジング54の中心軸線を中心にして回転するようにハウジング54の内部に支持されている。各ロータ56,57には、外周面に開口する凹部58が、回転中心軸線を中心にした放射状に、複数、形成されている。これらの凹部58は、シリンダに相当する部分であり、したがってその内部にはピストン(もしくはプランジャ)59が、ロータ56,57の半径方向に往復動するように収容されている。なお、以下の説明では、凹部58をシリンダ部58と記す。
各ピストン59の頂部すなわちロータ56,57の半径方向での外側の先端部には、ハウジング54の内周面である前記カム面55に接触する回転体が回転自在に保持されている。この回転体は、前記カム面55に沿って移動するカムフォロアーとして機能するものであって、ボールやローラなどによって構成されている。以下の説明では、球体としてボール60を使用した例を説明する。
そのボール60をカム面55に確実に接触させ、かつカム面55に沿って移動させるために、ピストン59をカム面55側に押圧するスプリング61が、ピストン59の底部側(ロータ56,57の半径方向で中心側)に配置されている。したがって、シリンダ部58の内部には、ピストン59によって区画された油室62が形成されており、ピストン59の往復運動によってその油室62の容積が変化することにより、オイルなどの流体を油室62の内部に吸入するとともに、その流体を加圧して吐出するように構成されている。なお、前記カム面55に替えて溝カムなどの確動カムをロータ56,57とピストン59との間に構成すれば、上記のリターンスプリング61を廃止することができる。
オイルの吸入および吐出のための流路について説明すると、各油室62の底部(ロータ56,57の回転中心側の部分)に半径方向に向けて貫通した吸入孔63と吐出孔64とが形成されている。この吸入孔63には、油室62の容積が増大する吸入時に開く吸入側逆止弁65が設けられ、また吐出孔64には、油室62の容積が減少する吐出時に開く吐出側逆止弁66が設けられている。
したがって、各オイルポンプ52,53は、入力側回転部材であるハウジング54と出力側回転部材であるロータ56,57とが相対回転することにより、ハウジング54の内周面に形成されているカム面55およびスプリング61によって各ピストン59がロータ56,57の半径方向に往復動させられるので、オイルを吸入するとともにそのオイルを加圧して吐出するいわゆる差動ポンプとして構成されている。また、油室62に対するオイルの吸入もしくは吐出を制限すると、すなわち吐出圧を高くすると、オイルが油室62に封入された状態となり、そのオイルが実質的に非圧縮性であることにより、ピストン59の往復動が制限もしくは阻止される。その結果、ピストン59およびオイルがハウジング54とロータ56,57との間のいわゆる楔として機能し、ハウジング54とロータ56,57との相対回転が阻止もしくは制限される。すなわち、ハウジング54とロータ56,57との間で伝達されるトルク(もしくは伝達トルク容量)が増大する。
各オイルポンプ52,53から後述する歯車機構にトルクを伝達する中間軸67,68が設けられている。すなわち、一方のオイルポンプ(入力軸51側、もしくは図14の左側のオイルポンプ)52におけるロータ56には、その回転中心軸線に沿って延びる中間軸(以下、仮に第1中間軸と記す)67が一体化して設けられており、その第1中間軸67は、他方のオイルポンプ(入力軸51とは反対側、もしくは図14の右側のオイルポンプ)53におけるロータ57を貫通して、入力軸51と同一軸線上でかつ入力軸51とは反対方向に延び、ハウジング54の外部に突出している。この第1中間軸67の外周側に他の中間軸(以下、仮に第2中間軸と記す)68が相対回転自在に嵌合されている。すなわち、第2中間軸68は中空軸であって、オイルポンプ53におけるロータ57の一方の側面の中心部に一体化するように取り付けられている。そして、この第2中間軸68は、第1中間軸67と同様に、入力軸51と同一軸線上でかつ入力軸51とは反対方向に延び、ハウジング54の外部に突出している。
なお、これらの中間軸67,68は変速機全体のケーシング(図示せず)などの固定部もしくは筐体部によって回転自在に支持され、その支持部もしくはその近傍で固定部あるいは筐体部に密着嵌合している。そして、前記吸入孔63や吐出孔64は、各中間軸67,68の内部を貫通して、固定部あるいは筐体部との密着嵌合部に延び、ここから、固定部あるいは筐体部に形成されている油路(図示せず)に連通している。
ここで、各オイルポンプ52,53からのオイルの吐出状態を制御するための油圧回路について説明すると、図16に示すように、各オイルポンプ52,53の前記吐出孔64には、各オイルポンプ52,53毎に吐出油路69,70が連通した状態に設けられており、各吐出油路69,70がそれぞれに対応して設けられている制御弁71,72に接続されている。これらの制御弁71,72は、弁体(図示せず)とその弁体を開弁方向に押圧するリターンスプリング73,74とを備え、流入側の油圧をリターンスプリング73,74と同じ方向から弁体に対して作用させ、かつ制御力(あるいは制御油圧)75,76を弁体に対して閉弁方向に作用させるように構成されている。
上記の制御力75,76は、特には図示しないが、ソレノイドで発生させた電磁力やソレノイドバルブで制御された油圧、カムなどによって変更できるバネ力などであってよく、好ましくは電気的に制御可能な押圧力である。この制御力75,76を制御するための電子制御装置(ECU)77が設けられている。この電子制御装置77は、マイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータおよび予め記憶しているデータならびにプログラムに従って演算を行い、その演算の結果に応じて所定の制御信号を出力するように構成されている。
一方、各オイルポンプ52,53の前記吸入孔63には、各オイルポンプ52,53毎に吸入油路78,79が連通した状態で設けられており、これらの各吸入油路78,79がオイルパンなどのオイル溜め部80に連通されている。また、各制御弁71,72の吐出側のポート(図示せず)が、それぞれに対応する吸入油路78,79に連通されている。なお、オイルの温度を検出するための温度センサー81がオイル溜め部80に配置され、その検出信号を前記電子制御装置77に入力するように構成されている。
なお、各制御弁71,72は、電気的に制御可能な構成とする場合、電気的なOFF状態で完全解放状態となるいわゆるノーマル・オープン構造の弁とすることが好ましい。断線などの電気的な故障が生じた場合に、自動的に解放状態となって各オイルポンプ52,53の吐出流量の制限を行わず、その結果、各オイルポンプ52,53がトルクを伝達しなくなってフェールセーフを確立できるからである。
この発明に係る変速機は、上記の入力軸51からオイルポンプ52,53を介して伝達されたトルクを歯車機構を介して出力するように構成されている。その歯車機構の一例を説明すると、図13に示すように、各中間軸67,68と平行に出力軸82と副軸83とが配置されている。前記第1中間軸67は第2中間軸68の先端側(図13の右側)に突出しており、その第1中間軸67の先端部側から基端部側に順に、第1速ギヤ対84、第3速ギヤ対85、第5速ギヤ対86が設けられている。また、第2中間軸68の先端部側から基端部側に順に、第2速ギヤ対87、第4速ギヤ対88が設けられている。なお、第1速ギヤ対84、第2速ギヤ対87、第3速ギヤ対85、第4速ギヤ対88ならびに第5速ギヤ対86は、ここに挙げてある順にギヤ比が小さくなるように構成されている。
より具体的に説明すると、第1速駆動ギヤ84Aと第3速駆動ギヤ85Aとが互いに隣接して第1中間軸67に取り付けられており、その第1速駆動ギヤ84Aに噛み合っている第1速従動ギヤ84Bと第3速駆動ギヤ85Aに噛み合っている第3速従動ギヤ85Bとが、互いに隣接した状態で、出力軸82に回転自在に嵌合されている。これらの従動ギヤ84B,85Bを出力軸82に対して選択的に連結するクラッチ機構が、各従動ギヤ84B,85Bの間に配置されている。このクラッチ機構は、一例として、従来知られている同期連結機構(シンクロナイザー)89によって構成されており、出力軸82と共に回転するスリーブを軸線方向に移動させていずれかの従動ギヤ84B,85Bにスプライン嵌合させることにより、出力軸82に対して各従動ギヤ84B,85Bを選択的に連結するようなっている。
第1中間軸67には、前記第3速駆動ギヤ85Aに隣接して第5速駆動ギヤ86Aが取り付けられており、この第5速駆動ギヤ86Aに噛み合っている第5速従動ギヤ86Bが、副軸83に回転自在に嵌合して保持されている。
さらに、上記の第1中間軸67の外周側に位置する第2中間軸68の先端部側から順に、第2速駆動ギヤ87Aと第4速駆動ギヤ88Aとが取り付けられており、その第2速駆動ギヤ87Aに噛み合っている第2速従動ギヤ87Bと第4速駆動ギヤ88Aに噛み合っている第4速従動ギヤ88Bとが、互いに隣接した状態で、出力軸82に回転自在に嵌合されている。これらの従動ギヤ87B,88Bを出力軸82に対して選択的に連結するクラッチ機構が、各従動ギヤ87B,88Bの間に配置されている。このクラッチ機構は、一例として、従来知られている同期連結機構(シンクロナイザー)90によって構成されており、出力軸82と共に回転するスリーブを軸線方向に移動させていずれかの従動ギヤ87B,88Bにスプライン嵌合させることにより、出力軸82に対して各従動ギヤ87B,88Bを選択的に連結するようなっている。
前記第2速駆動ギヤ87Aの外周側には、この第2速駆動ギヤ87Aに噛み合っているアイドルギヤ91が配置されており、このアイドルギヤ91に噛み合っているリバース従動ギヤ92Bが副軸83に回転自在に嵌合して支持されている。したがってこのリバース従動ギヤ92Bと前記第5速従動ギヤ86Bとは、副軸83上で互いに隣接しており、これらの従動ギヤ86B,92Bを副軸83に対して選択的に連結するクラッチ機構が、各従動ギヤ86B,92Bの間に配置されている。このクラッチ機構は、一例として、従来知られている同期連結機構(シンクロナイザー)93によって構成されており、副軸83と共に回転するスリーブを軸線方向に移動させていずれかの従動ギヤ86B,92Bにスプライン嵌合させることにより、出力軸82に対して各従動ギヤ86B,92Bを選択的に連結するようなっている。したがって、第2速駆動ギヤ87Aは、後進段(リバースギヤ)を設定するためのギヤ対における駆動ギヤの機能を備えている。
上記の副軸83と出力軸82との間で動力を伝達するための伝動機構が設けられている。この伝動機構としては、歯車機構や巻き掛け伝動機構などを必要に応じて採用することができ、図13に示す例では、アイドルギヤ94を用いた歯車機構が採用されている。なお、その歯車機構におけるギヤ比は“1”に設定され、副軸83と出力軸82との間では加減速が生じないようになっている。
上記の各同期連結機構89,90,93(以下、仮に第1シンクロ89、第2シンクロ90、第3シンクロ93と記す)は、この発明の切換機構に相当し、スリーブを左右いずれかに移動させることにより、いずれかの従動ギヤを出力軸82もしくは副軸83に対して連結し、スリーブが中央に位置する状態ではその連結を解除してニュートラルとなるように構成されている。スリーブのこのような移動は手動操作によって直接行うように構成することもできるが、電気式アクチュエータや油圧式アクチュエータによってスリーブを動作させるように構成することが好ましい。この種のアクチュエータを前記電子制御装置77からの制御信号によって動作させることにより、電気的な変速制御が可能になるからである。
したがって図13に示すように構成された変速機であっても、停車状態から第1速で発進する際に、各オイルポンプ52,53を共にポンプとして機能させて軸トルクを出力させ、また第1速および第2速を設定するように第1および第2のシンクロ89,90を動作させれば、それらの軸トルクが第1速ギヤ対84および第2速ギヤ対87を介して出力軸82に伝達されるので、発進時に大きい駆動トルクを得ることができる。また、他の変速比を設定する制御および各固定変速比の間での制御の内容は、前述した例と同様であり、これを図17にまとめて示してある。なお、図17における各記号の意味は、前述した図4と同様である。したがって図13に示す構成であっても変速比を連続的に変化させるいわゆる無段変速が可能であり、また所定の固定変速比を設定する場合には、オイルポンプを「LOCK」状態としてオイルを閉じ込めるので、特に動力を消費せず、燃費の向上を図ることができる。
また、この発明は、流体圧ポンプモータを二つ使用する構成に限られず、三つ以上のいわゆる複数軸タイプの構成とすることができる。そのような構成では、固定変速比の設定およびその固定変速比と他の固定変速比との間の変速に関与しない流体圧ポンプモータが生じるので、発進時以外の加速要求時にも前述した制御によって駆動トルクを増大させることができる。さらに、この発明では、流体圧ポンプモータの軸トルクを吐出圧によって制御できるので、この発明では、可変容量型の流体圧ポンプモータに替えて、固定容量型の流体圧ポンプモータを使用することができる。そしてまた、この発明における伝動機構は、ギヤ対に限定されないのであって、チェーンやベルトなどの巻き掛け伝動機構であってもよく、あるいは変速比を連続的に変化させることのできる摩擦伝動機構であってもよい。
1…動力源、 2…入力部材、 3,4…遊星歯車機構、 8…第1中間軸、 9…第1回転軸、 10…第2中間軸、 11…第2回転軸、 12…第1ポンプモータ、 13…第2ポンプモータ、 17,77…電子制御装置(ECU)、 18,82…出力軸、 19,86…第5速ギヤ対、 20,85…第3速ギヤ対、 21,84…第1速ギヤ対、 22,88…第4速ギヤ対、 23,87…第2速ギヤ対、 25,26,27…同期連結機構(シンクロ)、 52,53…オイルポンプ、 67,68…中間軸。