以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、発明の実施の形態としてのインクカートリッジ10とこのインクカートリッジ10を搭載するプリンタ20の送受信装置30との概略構成を示す説明図である。プラテン24により搬送される用紙Tに、印字ヘッド25からインクを吐出して印字を行なうプリンタ20の内部構成などについては省略するが、プリンタ20の内の制御装置22では、印刷に用いたインク量などのデータを演算しており、これを送受信装置30を介してインクカートリッジ10側に送信している。インクカートリッジ10との間のデータの送受信は、無線通信によっているが、有線でも差し支えない。無線通信の方式は、この実施の形態では、電磁誘導方式としたが、他の方式も採用可能である。
インクカートリッジ10には、通信を制御する通信制御部12、メモリ14へのデータの読み書きを行なうメモリ制御部15、カートリッジ10に非搭載のセンサを代替するセンサ代替部19とを備える。センサ代替部19の働きについて説明するために、前もってこのセンサ代替部19が代替するセンサの構成と働きについて説明する。図1には破線で示したが、このカートリッジ10と互換性を有するカートリッジの中には、インク収容室16内のインクの残量の検出を行なうセンサ17を備えたものが存在する。そうしたセンサ搭載タイプのカートリッジでは、インク残量の検出は、例えば次の手順で行なわれる。センサ17は、インク収容室16に設けられた共振室18に装着されており、図示しない電極に駆動電圧を印加すると、圧電素子であるセンサ17は、歪み、変形する。この状態から、圧電素子に溜まった電荷を放電すると、歪みのエネルギは解放され、素子は自由振動する。センサ17は、共振室18に臨んで設けられているので、この自由振動の周波数は、共振室18の共振周波数により規制される。共振室18の共振周波数は、共振室内にインクが存在する場合と、インクが存在しない場合で異なるから、共振周波数を検出すれば、共振室18内のインクの有無、ひいては、インクカートリッジにおけるインク残量を知ることができるのである。
これに対して、カートリッジ10ではセンサ17は現実には搭載されておらず、センサ代替部19が、センサ17を用いた上記インク残量の検出に随伴する検出結果の出力を代替している。即ち、センサ代替部19は、通信制御部12を介して、制御装置22側から、センサに対する作動の指示を受け取ると、その指示を解析し、あたかもセンサ17が搭載されているような信号を、通信制御部12および送受信装置30を介して制御装置22に出力するのである。通常、カートリッジ10を用いてプリンタ20がそのまま処理を継続できるよう、センサ代替部19は、インク収容室16内にインクが存在する場合のセンサ17の出力と等しい信号を出力する。かかる信号を受け取ると、プリンタ20の制御装置22は、カートリッジ10にはインクが存在するものとして、その動作を継続する。通常、プリンタ20側では、制御装置22がインク残量をソフトウェアにより管理しており、カートリッジ10からのインクの有無についての信号は、インク残量が極めて少ないことを告知するインクエンドの信号として用いたり、ソフトウェアによる管理の確認に利用したりしている。このため、カートリッジ10から、実際のインク収容室16におけるインク残量に対応していない、いわばダミーの信号が出力され続けても、制御装置22はそのまま処理を継続することができる。
図2は、センサ代替部19が行なう処理を、プリンタ20側の制御装置22の処理と対応づけて模式的に記載したフローチャートである。センサ代替部19は、この実施の形態では、算術論理演算回路により実現されているが、ゲートアレイなどを用いた回路により実現すること容易である。図2に示したシーケンスでは、まず、プリンタ20の制御装置22から、インク残量の検出が指示される(ステップS5)。このとき、制御装置22は、インク残量の検出の指示のみならず、検出条件も指定する。カートリッジ10では、通信制御部12を介して、インク残量の検出指示および検出条件の指定を受け取る(ステップS10)。検出条件としては、例えば搭載されている筈のセンサが圧電素子タイプのものである場合、その共振の第1パルスから4パルス分に要する時間、といった条件である。
検出条件の指定を受け取ったセンサ代替部19は、受け取った検出条件を解析する処理を行なう(ステップS11)。検出条件とは、ここでは計測開始を示す第1パルスと計測を行なうパルス数である4パルスとである。次に、この検出条件(この例では4パルス分)に対応してカートリッジが出力すべき信号、ここでは計測パルス数に対応した時間を示すカウント値を生成する(ステップS12)。検出条件が分かれば、インク収容室16にインクが存在する場合に、その期間中に出力される筈の信号が分かるので、センサ代替部19は、インクが存在する場合に相当する信号(カウント値)を生成することは容易である。カウント値の生成は、算術演算回路により行なっても良いし、予めカウント値をプリセットしたカウンタなどを用いても良い。次に、センサ代替部19は、生成したカウント値を出力する処理を行なう(ステップS16)。このとき、併せて検出が終了した位置のパルス数も出力する。検出終了した位置のパルス数とは、開始パルス(この例では共振の第1パルス)に、計測に要したパルス数(この例では4パルス分)を加えた値であり、この例では、第5パルスである。
センサ代替部19が、カウント値と検出パルス数とを、通信制御部12を介して出力すると、プリンタ20の制御装置22は、この検出結果を受取り(ステップS20)、カウント値と共に受け取ったパルス数を調べて、予め指定した検出条件と合致しているかを判断する(ステップS30)。この例では、カートリッジ10側のセンサ代替部19から受け取るのは、終了パルスの位置に対応したパルス数なので、制御装置22は、自らが行なった検出条件の指定(ステップS5)から終了パルスの位置を求め、これと受け取ったパルス数とを比較して、検出条件が合致しているか否かを判断するのである。もとより、開始パルスと終了パルスを指定して、検出結果と共に、検出に要したパルス数を受け取り、これを検証するようにしても差し支えない。
センサ代替部19は正しい検出条件を制御装置22に返すので、検出条件は常に合致していると判断されることになり、検出も正常に行なわれたと判断される(ステップS40)。この結果、インク残量の検出結果は、その後の処理に利用される。例えば、検出結果に代替して出力される信号が共振室18にインクが存在する状況を示していれば、プリンタ20の制御装置22は、インク残量は共振室18のレベルをなお維持しているとして、それまでのソフトウェアによるインク残量のカウントを継続するのである。制御装置22は、カートリッジ10から受け取った信号に基づいて、検出条件が合致していないと判断した場合には、検出にはエラーが、あったと判断し(ステップS50)、この検出結果をその後の処理には利用しないという処理も用意している。もっとも、センサ代替部19を搭載したカートリッジ10を用いた場合には、故障以外の理由では、検出条件の指定が一致しないと言う結果になることはない。
以上説明した本発明の実施の形態に拠れば、カートリッジ10では、センサ代替部19を備えるので、センサ非搭載でありながら、センサを搭載したインクカートリッジを前提としたプリンタ20にそのまま装着して用いることができる。特に、制御装置22からセンサに対して検出条件を出力し、その検出条件でセンサを動作させるものであっても、センサ非搭載のカートリッジ10をそのまま用いることができる。更に、センサ搭載のカートリッジが指定された検出条件に対応する情報を返し、これを制御装置22側で検証する場合でも、カートリッジ10のセンサ代替部19は、同様に、指定された検出条件に対応した信号を出力するので、センサ非搭載のカートリッジ10でも、問題なく使用することができる。この結果、カートリッジ10は、センサを搭載したカートリッジ対応のプリンタと非搭載のカートリッジ10対応のプリンタとに対して互換性を備えることになる。
更に、この実施の形態では、カートリッジ10とプリンタ20側のデータのやり取りは、無線通信により行なわれており、印刷のために移動するカートリッジ10との間で、接点の接触不良などのおそれがなく、安定にデータのやり取りを行なうことができる。なお、この実施の形態では、外部から指定された検出の条件に関連するデータを、検出結果と共に出力し、検出条件を指定した側(制御装置22)で検証を行なっているので、データ通信の信頼性も含めて、検出全体に関して、高い信頼性を確保することができるが、かかる構成は発明としては必須の要件ではない。
次に、本発明の実施例について説明する。第1実施例はインクジェットプリンタに適用したものである。図3は、このプリンタ200の動作に関与する部分を中心に、その構成を模式的に示す説明図である。また、図4は、プリンタ200の制御装置222を中心に、その電気的な構成を示す説明図である。図3に示したように、このプリンタ200は、給紙ユニット203から給紙されプラテン225によって搬送される用紙Tに、印字ヘッド211ないし216から、インク滴を吐出して、用紙T上に画像を形成する。プラテン225は、紙送り用モータ240からギヤトレイン241を介して伝達される駆動力により回転・駆動される。このプラテンの回転角度は、エンコーダ242により検出される。印字ヘッド211ないし216は、用紙Tの幅方向に往復動するキャリッジ210に設けられている。このキャリッジ210は、ステッピングモータ223により駆動される搬送用ベルト221に結合されている。搬送用ベルト221は、無端ベルトであり、ステッピングモータ223と、その反対側に設けられたプーリ229との間に架設されている。従って、ステッピングモータ223が回転すると、キャリッジ210は、搬送用ベルト221の移動に伴い、搬送用のガイド224に沿って往復動する。
次に、キャリッジ210に搭載された6色のインクカートリッジ111ないし116について説明する。6色のインクカートリッジ111ないし116は、基本的な構造は同一であり、その内部の収容室に収容されるインクの組成、即ち色が異なっている。インクカートリッジ111ないし116には、それぞれ黒色のインク(K)、シアンインク(C)、マゼンタインク(M)、イエロインク(Y)、ライトシアンインク(LC)、ライトマゼンタインク(LM)、が収容されている。ライトシアンインク(LC)、ライトマゼンタインク(LM)は、それぞれ、シアンインク(C)、マゼンタインク(M)より、その染料濃度において、1/4程度に調整された淡い色のインクである。これらのカートリッジ111ないし116には、後で詳しくその構成を説明する記憶処理モジュール121ないし126が取り付けられている。この記憶処理モジュール121ないし126は、無線通信により、プリンタ200側の制御装置222とデータの交換などを行なうことができる。第1実施例では、記憶処理モジュール121ないし126は、インクカートリッジ111ないし116の側面に取り付けられている。
これらの記憶処理モジュール121ないし126と無線によるデータ交換を行なうために、プリンタ200には、通信用の送受信部230が設けられている。送受信部230は、他の電子部品、例えば、紙送り用モータ240、ステッピングモータ223、エンコーダ242等と共に、制御装置222に接続されている。制御装置222には、この他、プリンタ200の前面に用意された操作パネル245の各種スイッチ247や、LED248も接続されている。
この制御装置222は、図4に示すように、プリンタ200全体の制御を司るCPU251、その制御プログラムを記憶したROM252、データの一時保存に用いられるRAM253、外部の機器とのインタフェースを司るPIO254、時間を管理するためのタイマ255、印字ヘッド211ないし216を駆動するためのデータを蓄える駆動バッファ256などを備え、これらを、バス257で相互に接続している。制御装置222には、これらの回路素子の他、発振器258や分配出力器259なども設けられている。分配出力器259は、発振器258から出力されるパルス信号を、6つの印字ヘッド211ないし216のコモン端子に分配するものである。印字ヘッド211ないし216は、そのオン・オフ(インクを吐出する・しない)のデータを、駆動バッファ256の側から受取り、分配出力器259から駆動パルスを受け取った時点で、駆動バッファ256の側から出力されたデータに従って、インクを対応するノズルから吐出する。
制御装置222のPIO254には、既に説明したステッピングモータ223、紙送り用モータ240、エンコーダ242、送受信部230、操作パネル245と共に、印刷すべき画像データをプリンタ200に出力するコンピュータPCも接続されている。従って、印刷時には、コンピュータPCにおいて印刷すべき画像が特定され、そのラスタライズ、色変換、ハーフトニングなどの処理が行なわれたデータが、プリンタ200に出力される。プリンタ200は、キャリッジ210の移動位置をステッピングモータ223の駆動量により検出しつつ、紙送りの位置をエンコーダ242からのデータで確認し、これらに合わせて、コンピュータPCから受け取ったデータを、印字ヘッド211ないし216のノズルから吐出すべきインクのオン・オフのデータに展開し、駆動バッファ256および分配出力器259を駆動する。
制御装置222は、PIO254に接続された送受信部230を介して、カートリッジ111ないし116に搭載された記憶処理モジュール121ないし126と、無線でデータのやり取りを行なうことができる。このために、送受信部230には、PIO254からの信号を所定周波数の交流信号に変換するRF変換部231と、RF変換部231からの交流信号を受けるループアンテナ233が設けられている。ループアンテナ233に交流信号を加えると、その近傍に同様のアンテナを配置すると、電磁誘導により、他方のアンテナに電気信号が励起される。本実施例では、無線による通信距離がプリンタ内部の距離に限られることから、電磁誘導を用いた無線通信手法を採用した。
次に、インクカートリッジ111側の記憶処理モジュール121の構成について説明する。図5は、記憶処理モジュール121ないし126の外観を正面および側面から示す図である。各インクカートリッジ111ないし116に搭載された記憶処理モジュール121ないし126は、内部に記憶されたID番号を除いてすべて同一なので、記憶処理モジュール121について以下説明する。この記憶処理モジュール121は、図示するように、薄いフィルム上の基板131に金属の薄膜パターンとして形成されたアンテナ133と、後述する各種機能を造り込んだ専用ICチップ135と、これらを接続する配線パターン139などから構成されている。
図6は、この記憶処理モジュール121をインクカートリッジ111に装着した状態を示す端面図である。図示するように、記憶処理モジュール121は、接着剤または両面テープなどの接着層141により、インクカートリッジ111の側面に装着される。なお、記憶処理モジュール121の貼付位置は、インクカートリッジ111の側面に限られず、上面など、任意の位置が可能である。記憶処理モジュール121の貼付位置に合わせて、無線通信を行なう送受信部230の配置を設定すればよい。
記憶処理モジュール121の内部構成について説明する。図7は、記憶処理モジュール121の内部構成を示すブロック図である。図示するように、この記憶処理モジュール121は、専用ICチップ135内に、RF回路161,電源部162,データ解析部163,EEPROM制御部165,EEPROM166の他、センサ制御部170や出力部178から構成されている。
RF回路161は、アンテナ133に電磁誘導により発生した交流信号を検波して入力する回路であり、検波により取り出した電力成分を電源部162に、信号成分をデータ解析部163に出力する。また、後述する出力部178からの信号を受取り、これを変調して交流信号とし、アンテナ133を介して、プリンタ200側の送受信部230に送信する機能も有する。電源部162は、RF回路161から受け取った電力成分を用い、これを安定化して、専用ICチップ135内部の電源として出力する回路である。従って、本実施例のインクカートリッジ111ないし116には、乾電池などの電源は搭載されていない。また、特に図示しなかったが、送受信部230から信号により電力が供給される時間がある程度限られている場合には、電源部162により生成された安定化電源を蓄えるコンデンサなどの電荷蓄積素子や乾電池を設けることも有用である。電荷蓄積素子は、電源部162の前段に設けるものとしても良い。
データ解析部163は、RF回路161から受け取った信号成分を解析し、大まかにはコマンドとデータを取り出す回路である。データ解析部163は、解析した結果に基づき、EEPROM166とのデータのやり取りを行なうか、センサ代替部170とのデータのやり取りを行なうかを制御している。データ解析部163は、データを解析した結果に従って、EEPROM166とのデータのやり取りやセンサ代替部170とのデータのやり取りなどを行なうが、そのために、やり取りの対象となってるインクカートリッジを識別する処理なども行なう必要が生じる。データ解析部163はこれらの処理も行なう。その処理の詳細については後述するが、基本的には、図8(a)(b)に示したように、キャリッジ210に搭載された各インクカートリッジが、送受信部230に対してどの位置にあるか、という情報と、各インクカートリッジに記憶されたIDとのにより、インクカートリッジの識別を行なっている。図8(a)は、各インクカートリッジ111ないし116およびこれに装着された記憶処理モジュール121ないし126と、送受信部230との位置関係を、斜視により示す説明図であり、図8(b)は、更にインクカートリッジと送受信部230との関係を、両者の幅の観点から示す説明図である。
インクカートリッジを識別する処理を行なう場合、制御装置222は、キャリッジ210を、送受信部230の存在する側に搬送する。キャリッジ210が送受信部230と対向する位置は、印字範囲外に設けられている。図8に示したように、この実施例では、記憶処理モジュール121ないし126は、インクカートリッジ111ないし116の側面に装着されており、キャリッジ210が移動することで、最大2つの記憶処理モジュールが、送受信部230との送信可能範囲に入ることになる。この状態で、データ解析部163は、送受信部230を介して、制御装置222からの要求を受け、インクカートリッジの認識処理やメモリへのアクセスあるいはセンサ代替部170とのやり取りなどの処理を行なう。処理の詳細は、後でフローチャートを用いて説明する。
データをやり取りするインクカートリッジの特定を済ませた後、実際にEEPROM166との間でデータのやり取りを行なう場合、データ解析部163は、読み書きや消去を行なうアドレス、読み書きや消去のいずれを行なうかの指定、およびデータの書き込みの場合にはそのデータを、EEPROM制御部165に渡す。これらの指定やデータを受け取ったEEPROM制御部165は、EEPROM166に対してアドレスと読み書きや消去といった処理の指定とを出力し、データを書き込んだり、EEPROM166からデータを読み出したり、あるいはEEPROM166の特定のアドレスのデータを消去するといった処理を行なう。
EEPROM166の内部のデータ構成を図9に示した。図9(a)に示したように、EEPROM166の内部は大きくは二つに分かれており、メモリ空間の前半は、インク残量などのデータが読み書きされるユーザメモリおよび分類コードが記憶される読み書き可能領域RAAである。またメモリ空間の後半は、インクカートリッジを特定するためのID情報が書き込まれた読出専用領域ROAである。
読出専用領域ROAに対する書き込みは、EEPROM166を備えた記憶処理モジュール121ないし126がインクカートリッジ111ないし116に取り付けられる前、例えば、記憶処理モジュールが製造される過程や、インクカートリッジが製造される過程で行なわれる。従って、プリンタ200の本体側からは、読み書き可能領域RAAに記憶されているデータに対しては、データの読み出しおよび書き込み、更にはデータの消去といった処理を実行することができる。他方、読出専用領域ROAに対しては、データの読み取りを実行し得るが、データの書き込みは実行することができない。
読み書き可能領域RAAのユーザメモリには、各インクカートリッジ111ないし116のインク残量情報などを書き込むために使用されており、インク残量情報をプリンタ200本体側で読み取り、残量が僅かになったときにユーザに対して警告を出すといった処理利用可能である。分類コードの記憶領域には、インクカートリッジの種類などを区別するための様々なコードが記憶されており、ユーザが独自にこれらのコードを使用することができる。
読出専用領域ROAに記憶されたID情報は、記憶処理モジュールが取り付けられるインクカートリッジに関する製造情報などである。ID情報としては、図9(b)に示したように、インクカートリッジ111ないし116が製造された年、月、日、時、分、秒、場所についての情報が記憶されている。これらは全て4〜8bit程度の大きさの領域に書き込まれており、全体で40bit〜70bit程度のメモリ領域を占有している。プリンタ200の電源投入直後などに、プリンタ200の制御装置222は、記憶処理モジュール121ないし126から各インクカートリッジ111ないし116の製造情報を含むID情報を読み取ることにより、例えば、インクカートリッジの有効期限が切れていたり残り僅かである場合に、ユーザに対して警告を出すことなどが可能である。
なお、記憶処理モジュール121のEEPROM166には、上記の情報以外の情報が適宜含まれていてもよい。また、EEPROM166は、全体が書き換え可能領域としてもよい。その場合、上述したインクカートリッジの製造情報などのID情報などは、EEPROM166をNAND型フラッシュROMなど電気的に読み書き可能なメモリを採用して構成することも可能である。なお、本実施例では、EEPROM166としては、シリアルタイプのメモリを使用している。
制御装置222側から記憶処理モジュール121ないし126に搭載されている筈のセンサモジュールに対してアクセスが行なわれ場合がある。これは、プリンタ200がセンサ搭載のインクカートリッジを前提とした制御を行なっており、このプリンタ200にセンサ非搭載のインクカートリッジ111ないし116を搭載した場合に生じる。このとき、データ解析部163は、センサに対する検出条件を制御装置222から受け取り、これをセンサ代替部170に渡す。センサ代替部170は、この検出条件を受け取り、解析した後、必要なデータを出力する。このデータは出力部178からRF回路161を介してプリンタ200の制御装置222に出力される。
次に、プリンタ200の制御装置222が記憶処理モジュール121ないし126のデータ解析部163と共に行なうインクカートリッジ111の識別処理やメモリアクセスの処理の概要について説明する。図10は、プリンタ200側に設けられた制御装置222と各インクカートリッジ111ないし116に設けられた記憶処理モジュール121ないし126とが、送受信部230を介した通信を行ないつつ実行する処理の概要を示したフローチャートである。プリンタ200の制御装置222と記憶処理モジュール121ないし126のデータ解析部163とは、送受信部230を介して通信を行ないつつ、ID情報読み取り処理(第1手順)、及びID情報以外の読み取り処理やインク残量情報の書き込み処理などであるメモリアクセス処理(第2手順)、更にはセンサ代替部170とのデータのやり取り(第3手順)などの各ステップを実行する。
プリンタ200では、電源投入時、電源オン中にユーザがインクカートリッジ111ないし116の何れかを交換したとき、前回の通信処理を実行してから所定時間経過したとき等に、そのインクカートリッジの製造情報を読み取ったり、インク残量をEEPROM166の所定の領域に書き込んだり、読み取ったする処理などを実行する。これらの処理は、通常の印刷処理とは異なっており、送受信部230を介して、記憶処理モジュール121ないし126との通信を伴う処理である。
このとき、記憶処理モジュール121ないし126との通信を行なうために、インクカートリッジ111ないし116を収容するキャリッジ210は、通常の印刷実行時の位置または右側非印字領域から離れて、送受信部230が存在する左側非印字領域へと移動される。キャリッジ210がこの左側非印字領域に移動されることによって、送受信部230の近傍に至った記憶処理モジュールでは、送受信部230のループアンテナ233からの交流信号を、アンテナ133を介して受け取る。電源部162は、この交流信号から電力を取り出し、安定化した電源店圧を内部の各制御部,回路素子に供給する。この結果、記憶処理モジュールの各制御部,回路素子は、処理を行なうことが可能になる。
こうして送受信部230と各記憶処理モジュール121ないし126との通信を伴う処理ルーチンが開始されると、まず、プリンタ200側の制御装置222にて、電源オン要求が発生したか否かを判定する(ステップS100)。すなわち、インクジェットプリンタ200に電源が投入され、その作動が開始された直後であるか否かの判定を行なう。電源オン要求が発生したと判定した場合には(ステップS100:Yes)、第1手順すなわち記憶処理モジュール121ないし126からのID情報を読み取る手順を開始する(ステップS104以下)。
制御装置222は、電源オン要求が発生していないと判定した場合には(ステップS100:No)、プリンタ200が通常の印刷処理を実行中であると判断し、次にインクカートリッジ111ないし116の交換要求が発生したか否かを判定する(ステップS102)。インクカートリッジ111ないし116の交換要求は、例えば、プリンタ200の電源が投入されている状態でユーザが操作パネル245上のインクカートリッジ交換ボタン247を押すことにより生じる。このとき、プリンタ200は、通常の印刷処理モードを中断してインクカートリッジ111ないし116の何れかの交換を行なうが、交換要求自体は、インクカートリッジ111ないし116の交換後に発生する。
制御装置222は、インクカートリッジ111ないし116の交換要求が発生したと判定した場合には(ステップS102:Yes)、第1手順、すなわち交換されたインクカートリッジに設けられた記憶素子からのID情報を読み取る手順を開始する(ステップS104)。一方、インクカートリッジ111ないし116交換要求が発生していない(ステップS102:No)と判定した場合には、電源投入時などに各記憶処理モジュール121ないし126のID情報を既に正常に読み取っていると判断して、次にアクセスの対象について判断する処理を行なう(ステップS150)。アクセスの対象は、本実施例では、制御装置222の側からすると、EEPROM166とセンサモジュールとである。但し、実際のインクカートリッジ111ないし116には、センサモジュールは搭載されておらず、代わりにセンサ代替部170が設けられている。従って、制御装置222の側からはセンサモジュールにアクセスしているものとしてその処理は行なわれると、インクカートリッジ111ないし116の側では、制御装置222からのアクセスをセンサ代替部170が解析し、必要なデータを出力する。実際には、メモリへのアクセスが指示されていると判断した場合には(ステップS150:メモリ)、上述した第2手順、すなわち記憶処理モジュール121ないし126とのメモリアクセス処理を開始する(ステップS200)。他方、アクセスの対象がセンサモジュールであると判断した場合には(ステップS150:センサ)、センサモジュールに代えて設けられたセンサ代替部170からの信号を読み取る第3手順を実行する。
次に第1ないし第3手順の各々について説明する。上述したように、第1手順は、制御装置222が、プリンタにおける電源オン要求やインクカートリッジ交換要求を検出した場合に実行される。第1手順では、まず記憶処理モジュール121ないし126からのID情報読み取り(ステップS104)、次に、アンチコリジョン処理を実行する(ステップS106)。アンチコリジョン処理とは、いまだ各記憶処理モジュール121ないし126からそれぞれのID情報を取得していない場合に、各素子からID情報読み取り処理を行なう際に混信が発生することを防止するための処理である。このアンチコリジョン処理が途中で失敗した場合は、再度始めからアンチコリジョン処理を実行することとすればよい。無線通信を用いた本実施例の場合、送受信部230は、常に複数の記憶処理モジュール(この実施例では二つの記憶処理モジュール)と通信が可能であり、かつ通信を開始した時点では、キャリッジ210に搭載されているインクカートリッジ111ないし116に装着された記憶処理モジュール121ないし126のID情報を、制御装置222は知らないので、混信を防止するアンチコリジョン処理が必要となる。アンチコリジョン処理の詳細については、ここでは説明しないが、基本的には、ID情報の一部を送受信部230から出力し、ID情報の一部が一致する記憶処理モジュールのみが応答を返し、他の記憶処理モジュールはスリープモードに入ることで、通信可能範囲に存在するインクカートリッジの記憶処理モジュールのID情報を特定し、一致する記憶処理モジュールとの通信を確立する。
アンチコリジョン処理が終了した場合、制御装置222は、データ解析部163を介して、各記憶処理モジュール121ないし126からID情報を読み取る処理を実行する(ステップS108)。ID情報を読み取るこの処理が終了した場合、とりあえず本通信処理ルーチンを終了する場合と、引き続いてEEPROM166のアクセスである第2手順を実行する場合とがある。
第2手順を開始する場合について説明する。第2手順を開始する場合、制御装置222は、メモリアクセスを開始するものとし(ステップS200)、続けてアクティブモードコマンドを、各記憶処理モジュール121ないし126に向けて発行する(ステップS202)。アクティブモードコマンドとは、各記憶処理モジュール121ないし126に対しそれぞれのID情報を随伴させて発行するコマンドであり、各記憶処理モジュール121ないし126のデータ解析部163は、受信したID情報を照合して自身のID情報と一致した場合のみ、アクセス準備完了の応答信号ACKを、制御装置222に送信する。
制御装置222は、記憶処理モジュール121ないし126からアクティブモードコマンドに対するの応答信号ACKを得ると、各記憶処理モジュール121ないし126に対するメモリアクセス処理を実行する(ステップS204)。このメモリアクセス処理は、EEPROM166の所定アドレスへのデータの書き込みか、所定アドレスのデータの消去か、あるいはEEPROM166の所定アドレスからのデータの読み出しの処理である。いずれの場合も、EEPROM制御部165側からは、制御装置222が指定したメモリのアドレスを伴ってアクセスが行なわれる。EEPROM制御部165は、このアドレスと書込・消去・読出のいずれの処理であるかの指示に従って、EEPROM166の該当するアドレスに対して処理を行なう。
EEPROM制御部165によりメモリアクセスが完了し、アクセス完了を示す応答信号ACKと共にアドレス対応信号ADCが出力されると、制御装置222はこれを取得した上で、第2手順の処理を終了する。
次に、第3手順について説明する。第3手順では、制御装置222は、インクカートリッジ111ないし116に搭載されている筈のセンサモジュールへのアクセスを開始し(ステップS300)、メモリアクセスの場合と同様、まずアクティブモードコマンドAMCの発行を行なう(ステップS302)。アクティブモードコマンドを受け取ったインクカートリッジ111ないし116のうち、アクティブモードコマンドに随伴したID情報が一致したカートリッジは、応答信号AC形を返送し、その後の処理を受け付ける状態に移行する。
アクティブモードコマンドを出力して、いずれかの記憶処理モジュールをアクティブにすると、制御装置222は、次に検出条件の指定を、そのインクカートリッジに送信する(ステップS304)。この例では、検出は、圧電素子153の共振周波数を測定することであり、指定される検出条件とは、圧電素子153の振動周波数の検出を行なうのが、振動開始から何発目のパルス(例えば、第1パルス)であり、測定を行なった期間に相当するパルス数(例えば4パルス分)といったデータである。検出条件を指定するデータが受け取られ、応答信号が戻ってくると、制御装置222は、次に検出の指示を出力する(ステップS306)。なお、検出の指示は、検出条件の指定に含めることも可能である。
検出の指示がなされると、記憶処理モジュール121のデータ解析部163がこれを解析し、センサ代替部170にこれを伝える。センサ代替部170は、指定された検出条件に従って、あたかも検出が行なわれたような信号を生成し、これを出力する。センサモジュールが搭載されたインクカートリッジであれば、指定された検出条件に従って、カートリッジの共振室に配設された圧電素子に対して、充放電が行なわれる。充放電によって、圧電素子には強制的な振動が励起される。圧電素子への充放電の間隔は、圧電素子に励起される振動の周波数が、センサモジュール内の共振室の共振周波数に近くなるように設定されている。センサ代替部170は、この圧電素子を用いたセンサモジュールの動作をシミュレートして、あたかも共振室にインクが充満している条件で検出が行なわれたような信号を出力するのである。
プリンタ200の制御装置222は、センサ代替部170が、出力部178を介して出力するこの信号を受け取る(ステップS308)。従って、この実施例では、センサモジュールが搭載されていないインクカートリッジ111ないし116であっても、制御装置222から見れば、センサモジュールが搭載されてのと同じようにその後の処理を継続することができる。もとより、インクカートリッジ111ないし116は、実際にインクの残量を検出している訳ではないので、インクカートリッジ111ないし116のインク収容室のインクが1/2以下となってもこれを実際に検出することはできない。しかし、制御装置222側では、ソフトウェアカウントにより、インク残量の計測を継続しているので、プリンタ200として、印刷ができなくなるといったことはない。
この結果、本実施例のインクカートリッジ111ないし116は、インク残滓量の検出を行なうセンサモジュールが搭載されているインクカートリッジを前提としたプリンタであっても、センサモジュールが搭載されていないインクカートリッジを前提としたプリンタであっても、同様に使用することができる。このため、センサモジュールを搭載することなくカートリッジの互換性を高めることができる。
以上、インクカートリッジ111ないし116に設けられた記憶処理モジュール121ないし126と送受信部との第1手順ないし第3手順について説明したが、それぞれ各記憶処理モジュール121ないし126との通信処理は、左端の記憶処理モジュール121から右端の記憶処理モジュール126へと順次1つずつ行なわれる。その際、キャリッジ210は、インクカートリッジの幅1つ分ずつ順次移動しては停止する。停止した際、各インクカートリッジの記憶処理モジュールとの通信処理が行なわれる。もとより、本実施例の送受信部230のように、その幅が、インクカートリッジほぼ2つ分に対向する大きさである場合は、インクカートリッジ2つ分ずつ合計3回移動・停止し、各位置で記憶処理モジュール2つずつと通信処理を行なうこととすれば、キャリッジ210の移動・位置決め動作が少なくて済むのでより好ましい。この場合でも、制御装置222は、アンチコリジョンの処理を行なっているので、複数個のインクカートリッジのやり取りが混信することはない。
以上、本発明の実施の形態と実施例とについて説明したが、本発明はこうした実施の形態および実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、更に種々なる形態で実施し得ることは勿論である。例えば、本実施例の記憶処理モジュール121は、インクジェットプリンタのインクカートリッジのみならず、トナーカートリッジなどにも適用することができる。また、記憶処理モジュール121は、カートリッジの底面や上面に設けることも可能である。上面に設けた場合には、送受信部230の配置の自由度が高く、全体の構成が簡略となる。センサモジュールを搭載しないので、記憶処理モジュール121の配置の自由度は極めて高い。
更に、上記実施例では、センサ代替部170は、インクの有無の検出を行なうセンサを代替するものとしたが、他のセンサ、例えば温度センサやインクの粘度センサなどを代替することも可能である。また、センサ代替部170は、指定された検出条件に対応したデータを、検出結果を模擬する信号と共に出力しても良いし、出力しないものとして差し支えない。いずれの構成を採用するかは、制御装置222での処理を含むプリンタ200全体の処理に従って定めればよい。
センサ代替部170を含む記憶処理モジュール121内の回路は、一部または全部を、ハードウェアロジックにより実現してもよいし、CPUを用い、ソフトウェアにより同様の処理を行なうよう構成しても良い。