図1〜図52を用いて、本発明の一実施の形態の浮上移動装置を説明する。
なお、本実施の形態では、左右対称の構成を有する浮上移動装置を説明する。
したがって、説明の簡略のため、左右対称である構成要素には同一参照符号が付され、それらのうち左側のみの説明がなされる。
(全体の構成)
まず、図1および図2を用いて、本実施の形態の浮上移動装置の全体構成を説明する。この項目は、全体構成を説明するためのものであるため、各構成要素の詳細な構成および動作は後述される。
図1に示すように、浮上移動装置100は、本体101と、本体101に設けられた1対の羽根部110とを備えている。一対の羽根部110の一方は、本体101の左側の側部に設けられ、一対の羽根部110の他方は、本体101の右側の側部に設けられている。
浮上移動装置100は、羽根部110の羽ばたき運動によって、周囲流体に流れを生じさせるとともに、周囲流体から反作用を受ける。このとき、浮上移動装置100は、鉛直上方に向いた、自重を超える反作用を周囲流体から受ける。それにより、浮上移動装置100には重力加速度を超える鉛直上方向きの加速度が生じる。その結果、浮上移動装置100は浮上する。
また、図2に示すように、浮上移動装置100は、アクチュエータとしての上部超音波モータ120および下部超音波モータ130を有している。上部超音波モータ120および下部超音波モータ130は、本体101に回転可能に搭載されている。上部超音波モータ120および下部超音波モータ130には、上部超音波モータ120および下部超音波モータ130の運動を羽根部110へ伝達する駆動機構部140が接続されている。駆動機構部140には羽根部110が接続されている。
羽根部110は、上および下部超音波モータ120および130の駆動によって、上下方向を回転中心軸とする往復回動運動(以後、「ストローク運動」と称する。)と、羽根部110の前縁部を回転中心軸とする回転運動(以後、「捻り運動」と称する。)とを行なう。つまり、羽根部110は、ストローク運動および捻り運動のそれぞれを独立して行なうことができる。
上部および下部超音波モータ120および130は、制御回路150によって制御される。また、制御回路150には、本体101に固定された位置検出センサ160から浮上移動装置100の位置情報および姿勢情報が与えられる。
また、浮上移動装置100は、通信装置170を介して、浮上移動装置100自身の情報およびその周辺の情報を、外部のコントローラ200に送信する機能を有する。本実施の形態においては、画像センサ180よって得られた情報がコントローラ200へ送信される。
なお、画像センサ180よって得られた画像情報は制御回路150によって直接利用されてもよい。たとえば、画像情報を画像処理することによって、浮上移動装置100の位置および速度等が制御回路150によって認識されてもよい。
また、通信装置170は、図1および図2に示すように、外部のコントローラ200から送信されてきた情報を受信し、その情報を制御回路150に与える機能を有する。本実施の形態では、外部のコントローラ200は、オペレータ210により制御され、浮上移動装置100の運動指令を与えるものとする。
なお、コントローラ200が前述の気体に関する情報をオペレータ210に提示する方法は、いかなるものであってもよい。たとえば、外部のコントローラ200が画像表示機能を備えていれば、画像センサ180が取得した気体に関する情報そのものが視覚的にオペレータ210に提示される。また、説明の簡便のために、外部のコントローラ200は、オペレータ210によって操作されるものとしたが、これは必須ではない。
また、制御回路150、通信装置170、および画像センサ180等は、本体101に配された電源190から供給される電力によって駆動される。電源190は、本発明の駆動エネルギー源として機能するが、駆動エネルギー源は、電力を用いるもの以外のもの、たとえば、化石燃料等であってもよい。この場合、アクチュエータとしては例えば2サイクルエンジンやスターリングエンジン等、上記駆動エネルギー源に対応した物が用いられる。
(羽根部)
羽根部110は、図3〜図7に示されたような形状を有し、長さが65mmであり、かつ、幅が16mmである。羽根部110は、前縁部1102、羽面部1103、枠部1104、枝部1105、およびアクチュエータ接合部1106を有している。なお、羽面部1103とは、前縁部1102、枠部1104、枝部1105、およびアクチュエータ接合部1106以外の部分であって、細長板状部1107、1108、および1109とアラミドフィルム1114とからなる部分である。
羽根部110のアラミドフィルム1114以外の部分、つまり前縁部1102、枠部1104、枝部1105、アクチュエータ接合部1106、細長板状部1107、1108、1109は、厚さ20μmのCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)層からな
る。具体的に言えば、羽根部110のアラミドフィルム1114以外の部分は、CFRPのシートから図5〜図7に示す3つの部分が切り抜かれ、その3つの部分が積層されることによって形成される。
前縁部1102およびアクチュエータ接合部1106は、厚さ20μmのCFRP層の3層積層構造を有している。また、枠部1104、枝部1105、細長板状部1107、1108、および1109はCFRP層の1層構造である。図3に示されるX軸の正の方向を0度とすると、細長板状部1107の繊維軸の方向は−60度(+120度)であり、細長板状部1108および枠部1104のそれぞれの繊維軸の方向は、0度(180度)であり、細長板状部1109の繊維軸の方向は、+60度(+240度)であり、枝部1105の繊維軸の方向は−30度(150度)である。前縁部1102およびアクチュエータ接合部1106は、繊維軸の方向が−60度(+120度)、0度(180度)、および+60度(240度)である3つのCFRP層が重ねられることによって形成されている。
前縁部1102の主要な変形は、羽根部110の長手方向に平行な伸縮であるため、この方向とCFRP層の繊維軸とが一致していることが望ましい。また、アクチュエータ接合部1106には複数の方向に力が加えられ、羽ばたき運動に応じてこれらの力の方向が
変化すると考えられる。したがって、あらゆる方向に極力均等な剛性を有するように、異なる方向の繊維軸を有する多数のCFRP層を積層することによって形成されていることが望ましい。なお、前縁部1102およびアクチュエータ接合部1106は、他の部分より剛性が高くなっている。これらの要件を満たす羽根部の製造方法は後述される。
また、アクチュエータ接合部1106、前縁部1102、枠部1104、および枝部1105に囲まれるように羽面部1103が設けられている。羽面部1103は、アラミドフィルム1114からなり、図4の紙面の奥行き方向に延びている。また、アクチュエータ接合部1106は、羽根部110の根元に設けられ、アクチュエータに接合されており、その長さは10mmである。
また、図5〜図7に示すように、複数の細長板状部1107のそれぞれは同一幅であり、複数の細長板状部1107同士は、互いに同一ピッチでかつ平行に設けられている。また、複数の細長板状部1108のそれぞれは同一幅であり、複数の細長板状部1108同士は、互いに同一ピッチでかつ平行に設けられている。さらに、複数の細長板状部1109のそれぞれは同一幅であり、複数の細長板状部1109同士は、互いに同一ピッチでかつ平行に設けられている。
なお、本実施の形態では、説明の簡便のため、同一層の複数の細長板状部は、同一ピッチかつ平行であるものとしたが、たとえば、剛性分布を意図的に変更する場合には、前述のものに限定されない。たとえば、先端側に比較して、根元側のピッチが小さくなっており、それにより、剛性が高められている羽根部110が用いられてもよい。
<前縁部>
前縁部1102は、図4に示されるように、羽根部110の長手方向に沿って延びる溝構造、すなわちコルゲーションと呼ばれる凹凸形状を有している。そのため、前縁部1102においては、長手方向を含む面内の曲げ変形に対する剛性が、長手方向を回転中心軸とする曲げ変形に対する剛性に比較して、高くなっている。なお、この前縁部1102の凹凸形状は、プリプレグと呼ばれるCFRP層の原材料のシートを、この凹凸形状に対応する金型に密着させた状態で加熱することによって容易に成形され得る。
また、前縁部1102には荷重が大きくかかる。そのため、前縁部1102は、細長板状部が設けられていない構造、すなわち隙間がない密実構造であるので、羽面部1103より剛性が高くなっている。さらに、前縁部1102は、根元に近づくにしたがって、累積的に荷重が増加するため、根元が先端に比べ太くなっている。根元部分での前縁部1102の幅および高さは約2mmであり、先端部分での前縁部1102の幅および高さは約1mmである。ただし、図の記述精度の制約から、図4〜図7においては、根元部分における前縁部1102の幅と先端部分における前縁部1102の幅とは同じ幅で描かれている。
<羽面部>
羽面部1103は、図4〜図7に示されるように、CFRP層の細長板状部1107、1108および1109、およびアラミドフィルム1114によって構成されている。羽根部110と同一の外形を有するアラミドフィルム1114が、CFRP層の細長板状部によって挟まれている。
本実施の形態においては、アラミドフィルム1114の耐熱温度がCFRP層の成形温度よりも高く、かつCFRP層の成形工程において、プリプレグとアラミドフィルムとを接触させておき、加圧および加熱処理を行なうことで、プリプレグに含まれる樹脂成分によってCFRP層とアラミドフィルムとを接着させることが可能である。したがって、CFRP層によって構成された前縁部1102、枠部1104、枝部1105、アクチュエータ接合部1106、細長板状部1107、1108、1109ならびにアラミドフィル
ム1114を含む原材料を上述の金型上で焼結することによって、簡単に羽面部1103を製造することが可能である。
羽面部1103の細長板状部1107、1108、および1109は、それらが延びる方向が互いに60度ずつずれ、重ねられている。そのため、羽面部1103の表面に垂直な方向から見ると、細長板状部1107、1108、および1109によって、正三角形の枠、すなわちトラスが形成されているように見える。
また、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれは、細長い長方形の輪郭を有しており、そのうち2つの長辺は、繊維軸に平行に延びている。これは、強度が高いCFRPの長手方向と、上記トラス構造の各ビームの力のかかる方向とを一致させ、一軸異方性材料であるCFRPの強度特性を最大限活用するための構成である。ただし、2つの長辺の一方の長辺のみが繊維軸に平行に延びていれば、繊維の強度をある程度有効に利用することが可能である。なお、上記ビームが長方形ではない場合には、応力解析などの手法を用いて、そのビームの形状に最適な繊維軸方向を決定する必要がある。
また、本実施の形態では、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれの曲げ剛性は、前縁部1102の1/8であるものとする。一般に、曲げ剛性は、断面二次モーメントに比例する。つまり、曲げ剛性は、(幅:矩形の短辺の長さ)×(厚さの3乗)に比例する。
ここで、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれの厚さが一定であり、細長板状部1107の幅が細長板状部1107同士の中心軸間の距離(以下、これを「ピッチ」という。)の1/a倍であり、細長板状部1108の幅が細長板状部1108同士のピッチの1/a倍であり、かつ、細長板状部1109の幅が細長板状部1109同士のピッチの1/a倍であると仮定する。この仮定の下では、細長板状部の幅が1/a倍になれば、羽面部1103の曲げ剛性も1/a倍になる。
したがって、本実施の形態においては、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれの幅を細長板状部1107同士、細長板状部1108同士、および細長板状部1109同士のそれぞれのピッチの1/8倍にすることによって、前縁部1102の曲げ剛性の1/8倍の曲げ剛性を有する羽面部1103が実現されている。
つまり、羽面部1103の厚さ、すなわち細長板状部の積層数を変化させることなく、細長板状部1107、1108、および1109のそれぞれの幅のみを変更することによって、所望の曲げ剛性分布を有する羽根部110が形成されている。細長板状部の積層数は、自然数にしかならず、連続的に変化し得るものではないため、細長板状部の積層数を変化させるだけでは、羽根部の曲げ剛性の分布が不連続になってしまう。
しかしながら、上記細長板状部の幅とピッチとの比は、連続的に変化し得るものであるため、上記曲げ剛性分布を連続的に変更して、所望の曲げ剛性分布を得ることができる。
なお、本実施の形態の羽根部110の構造によれば、細長板状部1107の幅と細長板状部1107同士のピッチとの比、細長板状部1108の幅と細長板状部1108同士のピッチとの比、および細長板状部1109の幅と細長板状部1109同士のピッチとの比を互いに異ならせることによって、羽面部1103の曲げ剛性が異方性を有するようにすることが可能である。たとえば、羽根部110の長手方向を含む面内の曲げ変形に対して高い剛性を有する羽根部110を製造する場合には、細長板状部1108の幅を大きくし、細長板状部1108同士のピッチを小さくすればよい。
一方、CFRP層が3つ積層された積層構造の一部をトラスが形成されるように切り抜く手法が用いられた場合には、各トラスの三辺に3つのCFRP層が積層されている。この手法により形成された羽面部の質量は、トラスが形成されていない羽面部1103と同一面積の3つのCFRP層の積層構造の質量の3/a倍(aは前述の値)となる。この場合、3つのCFRP層のうちの1つの層の繊維軸を含む面内の曲げ変形モードにおいては、その1つのCFRP層以外の2つのCFRP層は、樹脂程度の剛性しか有していないため、不要である。すなわち、前述の羽根部110は、本段落にて説明されているような切り抜きによって形成された羽根部の約1/3の質量で、その羽根部とほぼ同一の剛性を有する(具体的には下記の<羽質量>の項目に羽根部の質量および剛性の数値が記載されている。)。
<枠部>
羽面部1103を構成するアラミドフィルム1114は、図4に示されるように、アクチュエータ接合部1106、前縁部1102、および枠部1104の間に張られている。そのため、アラミドフィルム1114の端部の破損が防止されている。本実施の形態では、枠部1104の幅は約0.5mmである。なお、枠部1104は、図4に示されるよう
に、羽面部1103を取り囲む形状であるため、それが延びる方向は位置によって異なる。枠部1104の繊維軸の方向は、それの延びる方向に一致している。
<枝部>
羽根部110が大きくなった場合には、羽根部110の先端部の回転半径も大きくなる。この場合、流体に対する相対速度が大きくなるため、羽根部110の先端部には大きな流体力が生じる。羽根部110の先端部に生じる流体力が大きくなっても、羽根部110の先端部の制御性を維持する必要がある。そのため、前縁部1102に接続され、前縁部1102から斜め方向に延びる枝部1105が設けられている。枝部1105の幅は約0.9mmである。枝部1105は、X軸方向の羽根部110の先端側を向く方向を0°とした場合に、−30°の方向に延びるように形成されている。
なお、枝部1105とX軸との間の角度および羽面部1103に要求される剛性によっては、前述の細長板状部1107とは異なる細長板状部を有するCFRP層に枝部1105が設けられていてもよい。また、CFRP層とは別の材料を用いて形成された枝部1105がCFRP層同士の間に挟み込まれた構造の羽面部1103が用いられてもよい。
<アクチュエータ接合部>
アクチュエータ接合部1106は、実際には、羽根部110を駆動するアクチュエータとの適合性に応じて、その形状が決定される。本実施の形態のアクチュエータ接合部1106は、図4に示される形状であるものとする。また、羽ばたき運動により生じる流体力に起因する変形を防止するため、アクチュエータ接合部1106の材料としては、細長板状部を有しない、すなわち隙間がない密実な構造のCFRP層が用いられる。さらに、アクチュエータ接合部1106の前方端には溝構造が設けられている。このアクチュエータ接合部1106の溝構造と前縁部1102の溝構造とは連続するように設けられている。
<羽質量>
CFRPの比重が1.6g/cm3であるものとして、表1に前述の羽根部110の各
部位の質量が示されている。表1に示されるように、羽根部110の質量は、約26.5mgである。また、アクチュエータ接合部1106の質量は約10.8mgである。
一方、CFRP層が3つ積層された積層構造をトラス形状が形成されるように切り抜く手法が用いられた比較例の羽根部の質量は約48mgである。
(超音波モータ)
次に、図8〜図14を用いて、本発明のアクチュエータとしての上部超音波モータ120および下部超音波モータ130を説明する。
<全体構成>
まず、上部超音波モータ120および下部超音波モータ130の構成を説明する。
図8に示されるように、上部超音波モータ120は、上部超音波振動子121と、これによって駆動される上部ロータ122とを有している。また、上部ロータ122は、上部ベアリング123を介して、ロータシャフト124に、図示されていない上部ベアリングが介在する状態で、ロータシャフト124の軸周りにのみ回転可能に設けられている。ロータシャフト124は、本体101に固定されている。
上部ロータ122には、上部磁化パターン125が円弧状に記されている。上部磁化パターン125は、上部磁気エンコーダ126で読み取られる。上部超音波振動子121においては、図14に示すように、支持部1214が支持シャフト127に固定され、牽引部1224が牽引ゴム129により牽引されている。また、上部超音波振動子121を駆動する電力はフィルム基板128を介して供給される。
下部超音波モータ130は、上部超音波モータ120と上下方向において鏡面対称の構造である。すなわち、下部超音波モータ130においては、下部超音波振動子131が下部ロータ132を回転させる。下部ロータ132は、図示されない下部ベアリングが介在する状態で、ロータシャフト124に、ロータシャフト124の軸周りにのみ回転可能に設けられている。下部ロータ132には、図示されない下部磁化パターンが円弧状に記されている。下部磁化パターンは、下部磁気エンコーダ136で読み取られる。
上部および下部超音波モータ120および130は、上下方向において鏡面対称に設けられていること以外においては、全く同様の構成を有しているため、以降においては、上部超音波モータ120の詳細構造のみの説明を行なう。
<駆動原理>
次に、図9〜図14を用いて、上部超音波モータ120の駆動原理を説明する。
上部超音波振動子121は、振動板1211、表面ピエゾ1212および裏面ピエゾ1213からなる。振動板1211は、厚さ0.2mmのステンレスで作製され、幅2mmかつ長さ9mmの矩形部と、矩形部の長手方向の中央部から外方に突出する支持部1214とを有している。振動板1211は、表面ピエゾ1212および裏面ピエゾ1213によって挟まれている。表面ピエゾ1212および裏面ピエゾ1213は、それぞれ、幅2mm、長さ8mm、および厚さ0.2mmの短冊形状を有し、厚み方向に分極するピエゾ焼結体からなる。
表面ピエゾ1212には表面電極1216が接合され、裏面ピエゾ1213には裏面電極1217が接合される。表面電極1216に電圧を印加すると、上部超音波振動子121において、図10に示されるような節を3つ有する、即ち3次のたわみ振動モードが励起される。また、裏面電極1217に電圧を印加すると、図11に示されるような、縦(伸縮)の振動モードが励起される。本実施の形態における上部超音波振動子121においては、2つの振動についての共振モードの共振周波数は、いずれも250kHzであり、互いに一致している。
ここで、これらの共振モードの振動の位相を±90°異ならせることによって、振動板1211の頂点は図12および図13に示される2種類の楕円運動を行なう。2種類の楕円運動は、正方向に回転する楕円運動と、逆方向に回転する楕円運動である。また、振動板1211の頂点にはセラミックからなる接触部1215が設けられている。接触部1215は、前述の楕円運動に応じて、摩擦力によって、上部ロータ122をロータシャフト124の軸周りに回転させる。このとき、正方向の回転および逆方向の回転のいずれかが選択される。
図12および図13は、表面電極1216に与えられる電位をφAとし、裏面電極1217に与えられる電位をφBとして、φAおよびφBを、それぞれ、cos(2πft)およびsin(2πft)に振幅を掛けた関数で表した場合における接触部1215の回転方向を示している。なお、説明の簡便のため、表面電極1216および裏面電極1217のそれぞれに与えられる電位を三角関数によって表わしたが、それらの電位の位相が±90°ずれているのであれば、矩形波等によって表わされる電位が両電極に与えられてもよい。
なお、上部ロータ122および下部ロータ132のそれぞれは所定の回転角の範囲内での回転往復運動を行なう。そのため、軽量化のためには、図14に示されるように、不要な部分が削除された、その外形が中心角120°の略扇形状である上部ロータ122および下部ロータ132が用いられることが望ましい。これによれば、浮上移動装置内におけるロータの占有率を低減することができる。
なお、前述の各部位のサイズおよび振動板の共振周波数などの数値は、一例であり、浮上のための要件が満足されるのであれば、前述の値に限定されない。この浮上のための要件は、後述の浮上可能性の項において述べられている。
また、上部ロータ122および下部ロータ132は、必要な強度が確保される範囲内において、軽量化のための中空構造を有していてもよい。更に、上部ロータ122および下部ロータ132に、上部ロータ122の回転角θ1−下部ロータ132の回転角θ2を所定の範囲内の値に制限するための機構が設けられてもいてもよい。
これによれば、羽の捻り角βが一定の範囲内の値に制限される。そのため、後述する数式(7)において、解が物理的に1つに定まる。その結果、羽根部の動作が安定する。なお、本発明者らの実験によれば、(θ1−θ2)の絶対値が所定値以上の値になると、後述する式(7)の解が、重解になることが分かっている。
<予圧機構>
次に、図14を用いて、接触部1215から上部ロータ122へ予圧を与える機構を説明する。
接触部1215から上部ロータ122へ予圧が作用しており、その反作用として、接触部1215から上部ロータ122の外周面へ向かって抗力が生じている。そのため、上部ロータ122と接触部1215との間には摩擦が生じている。したがって、接触部1215の楕円運動によって、上部ロータ122は、摩擦力を受け、回転往復運動を行なう。
牽引ゴム129は、環状であり、その一端が、牽引部1224に引っ掛けられている。牽引ゴム129の他端は、本体補強ポール112に固定されている牽引ゴムピン113に引っ掛けられている。したがって、牽引ゴム129には張力が生じ、牽引部1224が本体補強ポール112に向かって牽引されるため、振動板1211は牽引部1224を含む振動板1211を支持している支持シャフト127の軸周りに回転運動する。この回転運動は、接触部1215が上部ロータ122に接触することによって拘束されている。したがって、接触部1215から上部ロータ122へ向かう予圧が生じる。
なお、前述の本体補強ポール112を、その長軸周りに回転させることによって、前述の予圧の大きさを調整することが可能である。また、予圧機構は、上部ロータ122を駆動するための摩擦力を得るために設けられているものであるため、前述の予圧が得られ、かつ、浮上移動装置100の浮上特性が損なわれないのであれば、図14に示す構造に限定されない。
<回転角検出>
図8に示す上部磁気エンコーダ126には、パターン周期の1/4の間隔を置いてA相およびB相のための2つの検出部が設けられている。この構成によれば、一般的なエンコーダと同様に、上部ロータ122の回転方向に応じてA相およびB相の位相が異なる。そのため、たとえば、A相のアップエッジをカウンタのトリガとして、B相のレベルの1/0をアップカウント/ダウンカウントのうちのいずれを使用するかを決定するために用いれば、上部ロータ122の回転角θ1を検出することが可能である。この回転角θ1の算出は、中央演算装置151において行なわれる。
<補足>
なお、図8〜図14において示された超音波モータは、一般的なアクチュエータの一例であり、本発明における浮上移動装置のアクチュエータは、前述のような構造の超音波モータに限定されない。たとえば、アクチュエータとして、電磁モータまたは内燃機関が用いられてもよい。また、回転角検出のための装置は、羽ばたき飛行を阻害するものでなければ、いかなるものであってもよい。たとえば、前述の磁気エンコーダを用いる手法の替わりに、光学式エンコーダを用いる手法が採用されてもよい。
(駆動機構部)
次に、図15〜図18を用いて駆動機構部について説明する。
駆動機構部140は、図15に示されるように、上部ロータ122に固定された上部プレート141と、下部ロータ132に固定された下部プレート142とを有している。さらに、下部プレート142には第1アラミドヒンジ143が介在する状態で中間プレート144が接続されている。さらに、上部プレート141には、第2アラミドヒンジ145を介して、羽根部110の根元部が接続されている。
さらに、羽根部110の根元部は、第3アラミドヒンジ146が介在する状態で、中間プレート144にも接続されている。したがって、上部プレート141、羽根部110、中間プレート144、および下部プレート142がアラミドフィルムで接続された複合ヒンジが構成されている。この複合ヒンジは、上部ロータ122および下部ロータ132によって駆動される。
図16〜図18には、上部プレート141、中間プレート144、および下部プレート142の形状が示されている。なお、各プレートのヒンジおよびロータに接続されない辺の近傍の部分は、補強のため、図16〜図18のハッチングで示される部位が、各プレートの主表面に対して約90°折り曲げられている。さらに、この折り曲げ部同士の干渉を避けるため、折り曲げ部の両側端のそれぞれは、折り曲げ部が延びる方向に対して45°の方向においてカットされている。
各アラミドヒンジは、幅0.1mmであり、長さに比べてその幅が非常に小さいため、擬似的に1自由度の回転のみ運動可能なリンク、すなわち蝶板(兆番)として機能する。また、アラミドヒンジ143、145、および146のそれぞれの延長線は1点で交わり、その1点はシャフト124の中心軸上に位置し、かつ、上部ベアリング123と下部ベアリング133との間に位置する。この構成により、上部超音波モータ120の回転角の制御によって羽根部110の前後方向の往復運動が制御され、上部超音波モータ120の回転角の位相と下部超音波モータ130の回転角の位相との差の制御によって、羽根部110の捻り運動が制御される。
つまり、アクチュエータは、羽根軸としての前縁部1102を前後方向に往復運動(回転角α:Z軸周りの回転角)させる前後往復運動用ロータとしての上部超音波モータ120と、往復運動における運動方向の反転の前から後の所定期間において、前縁部1102を軸周りに回転(回転角β)させる捻り運動用ロータとを備えている。
前述の羽ばたき方を、図19および図20を用いて、より具体的に説明する。図19および図20においては、浮上移動装置100の前後方向に沿ってY軸が延びている。また、浮上移動装置100の上下方向に沿ってZ軸が延びている。さらに、浮上移動装置100の左右方向に沿ってX軸が延びている。X軸、Y軸、およびZ軸は、互いに直交する。
また、Y軸においては、後方が正であり、前方が負である。また、X軸においては、上方が正であり、下方が負である。さらに、Z軸においては、左の羽根部110の位置する側が正であり、右の羽根部110が位置する側が負である。また、図20に示すように、上部超音波モータ120の回転角がθ1であり、下部超音波モータ130の回転角がθ2であり、前後方向の往復運動の回転角である羽ばたきストローク角がαであり、前縁部1102の軸周りの回転角である捻り角がβであるものとする。
また、前述の各アラミドヒンジ143、145、および146のそれぞれの延長線の交点から各アラミドヒンジ143、145、および146のそれぞれの外側端までの距離は、それぞれ、R2、R1、およびR3であるものとする。さらに、アラミドヒンジ146の端点とアラミドヒンジ145の端点の距離がL1であり、アラミドヒンジ146の端点とアラミドヒンジ143の端点の距離がL2であり、アラミドヒンジ143の端点とアラミドヒンジ145の端点と間の距離がL3であるものとする。ロータシャフト124に対する羽根部110の位置を表わす角度の組み合わせ(α,β)は、上および下部超音波モータの回転角θ1およびθ2を用いて、以下のように表わされる。
羽ばたきストローク角αは、羽根軸(前縁部1102)のロータシャフト124の軸周りの回転であるため、次の式(1)に示すように、上部超音波モータ120の回転角θ1に等しい。
α=θ1・・・(1)
また、捻り角(回転角β)は、羽根部110の羽根軸(前縁部1102)の軸周りの回転角であるため、次の式(2)によって示されるβの余弦値から算出される。
cos(π−β)=−cos(β)=[L1×L1+L3×L3−L2×L2]/(2×L1×L3)・・・(2)
ただし、L3に関しては、次の式(3)が成り立つ。
L3=sqrt(R1×R1+R2×R2−2×R1×R2×cos(θ1−θ2))・・・(3)
ここで、sqrt()は()内の値の正の平方根である。
なお、図19および図20から明らかなように、βは、πより大きく、かつ、2πより小さい。
π<β<2π・・・(4)
したがって、βが1つの値に決定される。
上記の式(1)〜(4)から、所望の羽根部110の位置(α,β)を得るための回転角θ1およびθ2は、次の式(5)および(6)によって表わされることが分かる。
θ1=α・・・(5)
cos(θ1−θ2)=[R1×R1+R2×R2−L3×L3]/2×R1×R2・・・(6)
ただし、L3に関しては、次の式(7)が成立する。
L3=L1×cos(β−π)±sqrt(L2×L2−L1×L1×sin2(β−π))・・・(7)
なお、L3の符号が、正であるか、または、負であるかは、実際の羽根部110の挙動を考慮することによって、容易に決定される。
図19および図20に示される本実施の形態の浮上移動装置の状態は、羽根部110の主表面が鉛直な方向に延びる平面と平行である状態、すなわち、捻り角β=270°である状態である。このとき、θ1=0°、θ2=−45°R1=R2=15mm、R3=15.81mm、L1=5mm、L2=11.4mm、およびL3=11.39mmである。
上部および下部ロータ122および132の回転角θ1およびθ2は、前述のように、磁気エンコーダ126よって得られた情報に基づいて中央演算装置151によって算出される。なお、回転角θ1およびθ2の制御方法は後述される。
(羽ばたき方の変更による浮上移動装置の動作制御)
<動作の基本>
本実施の形態における浮上移動装置100は、羽根部110の羽ばたき運動が生み出す浮上力の作用点より下側の質量が大きいため、自動的に、図1に示される姿勢になる。すなわち、X軸周りの回転およびY軸周りの回転を制御する必要はない。
一方、X軸、Y軸、およびZ軸のそれぞれに沿った並進加速度、ならびにZ軸周りの回転加速度(以下、「角加速度」ともいう)は、羽ばたき方によって変更される。尚、羽ばたき運動により生じる力は羽根部の運動に伴って変化するが、ここでは、羽ばたき運動の1周期平均の力を羽ばたき運動により生じる力とする。
(コントロールパラメータ)
本実施の形態における浮上移動装置100においては、トルク補助機構が適正に機能するためには、上部超音波モータ120の回転角θ1すなわちストローク角αの振幅は固定されている必要がある。そこで、浮上移動装置100の動作を制御するために、下部超音波モータ130の回転角θ2が変更される。すなわち、浮上移動装置100は、捻り角βの変更によって、流体の流れを変化させ、それにより、姿勢を変化させる。
具体的には、羽ばたき運動のストロークの両端のそれぞれにおいて羽根部110の捻り運動のタイミングを変化させる。
(上下方向における浮上力の変化)
先述の非特許文献2において、Dickinsonらによって明らかにされているように、図22に示すように、(1)羽ばたき運動の切り返し動作の中間のタイミングよりも先、すなわち切り返しの前半に羽根部110を捻る(捻り先行切り返し)と、浮上力は増加し、一方、図23に示すように、(2)羽ばたき運動の切り返し動作の中間のタイミングよりも後、すなわち切り返しの後半に羽根部110を捻る(捻り遅れ切り返し)と、浮上力は減少する、という現象が起きる。
(上下方向における浮上力が変化するときの前後方向における推進力の相殺)
さらに本発明者らは、図22に示す前述の(1)の動作によれば、切り返し動作前の羽進行方向に沿った抗力が増大し、図23に示す前述の(2)の動作によれば、その抗力が減少することを見出した。打ち上げ時に生じる前後方向の抗力と、打ち下ろし時に生じる前後方向の抗力とは、互いに逆向きである。そのため、打ち上げ動作と打ち下ろし動作とが前後方向に垂直な平面に対して鏡面対称であれば、それらの動作による抗力は相殺され、推進力はゼロとなる。このため、浮上移動装置は、上下方向のみにおける移動を行なうことができる。
(前後方向における推進力の変化)
逆に、打ち上げ時の切り返しと打ち下ろし時の切り返しとにおいて、図22に示す前述の(1)の動作と図23に示す前述の(2)の動作とが異なれば、その2つ動作による前後方向の抗力同士の間に差異が生じ、前方または後方のいずれかに推進力が生じる。より具体的には、図24に示されるように、打ち下ろしの後半では、遅れ切り返しによって、前方への加速度が得られ、また、打ち上げの後半では、先行切り返しによって、前方への加速度が得られる。一方、同様に、図24に示されるように、打ち下ろしの後半では、先行切り返しによって、後方への加速度が得られ、また、打ち上げの後半では、遅れ切り返しによって、後方への加速度が得られる。
(前後方向における推進力が変化するときの上下方向における浮上力の変化の相殺)
尚、前方への加速度が得られる動作および後方への加速度が得られる動作のいずれが実行されるときにおいても、上方への加速度の変化と下方向への加速度の変化とを相殺することは可能である。このため、水平方向における加速度のみを得ることが可能である。
(空間の3次元移動)
以上の説明のように、左および右の羽根部110のそれぞれのストローク角α、すなわちθ1の振幅が固定されていても、θ2の時刻歴のみ変更し、打ち上げにおける羽根部110の切り返しのタイミングと打ち下ろしにおける切り返しのタイミングとを異ならせることにより、羽根部110に上下方向および前後方向における加速度を生じさせることができる。また、左の羽根部110に生じる加速度と右の羽根部110に生じる加速度とを異ならせることによって、浮上移動装置100の姿勢を左または右に傾けること、ならびに、浮上移動装置100が左方向または右方向へ旋回することが可能になる。
<<制御の詳細>>
以下、図22に示す前述の(1)に記載の羽ばたき方を捻り先行切り返し(以下、単に、「先行切り返し」という。)と言い、図23に示す前述の(2)に記載の羽ばたき方を捻り遅れ切り返し(以下、単に、「遅れ切り返し」という。)と言い、図21に示すホバリング時の羽ばたき方を中央切り返しというものとする。
また、説明の簡便のため、ホバリング、Z軸方向における並進運動、およびY軸方向における並進運動は、それぞれ、左右対称である。したがって、羽根部の動作も、左右対称である。そのため、左右対称な動作のうちの左の羽根部110の動作についてのみの説明がなされるものとする。
<ホバリング>
図21には、ホバリング時の羽ばたき方が示されている。図21においては、回転角θ1およびθ2の時刻歴が、羽根部110の断面の時刻歴とともに示されている。このときの浮上力は自重と釣り合っており、前後方向への推進力はゼロである。
<Z軸方向の並進制御>
図22には、Z軸に沿った上方への移動、すなわち上昇のための羽ばたき方が示されている。図23には、Z軸に沿った下方への移動、すなわち下降のための羽ばたき方が示されている。図22および図23においては、回転角θ1およびθ2の時刻歴が、羽根部110の断面の時刻歴とともに示されている。なお、左右の羽根部110は、YZ平面を対称面とする鏡面対称の動作を行なう。
図22に示す動作は、前述の(1)に記載の先行切り返し動作であり、図23に示す動作は、前述の(2)に記載の遅れ切り返し動作である。これらの動作の際の前後方向における加速度は、図24に示されるとおりゼロである。
<Y軸方向の並進制御>
図25および図27には、前方へ移動するための羽ばたき方が示され、図26および図28には、後方へ移動するための羽ばたき方が示されている。なお、左右の羽根部110は、YZ平面を対称面として、鏡面対称の動作を行なう。
前方への移動の際には、打ち上げ終端を含む期間での切り返しにおいて、前述の(1)に記載の先行切り返し動作が行なわれ、打ち下ろし終端を含む期間での切り返しにおいて、前述の(2)に記載の遅れ切り返し動作が行なわれる。
後方への移動の際には、打ち上げの終端を含む期間での切り返しにおいて、前述の(2)に記載の遅れ切り返し動作が行なわれ、打ち下ろしの終端を含む期間での切り返しにおいて、前述の(1)に記載の先行切り返し動作が行なわれる。
なお、前述の通り、遅れ切り返しの際に浮上力は減少し、先行切り返しの際に浮上力は増加するため、Y軸方向の並進運動において、前述の(1)および(2)に記載の動作により生じる浮上力同士を相殺することは可能である。すなわち、浮上移動装置100は、高度を保ったまま、前後方向へ移動することが可能である。
<Z軸周り回転制御>
Z軸周りに正方向の回転、すなわち左への旋回を行なうためには、左の羽根部110が後退のための羽ばたき方で動作し、右の羽根部110が前進のための羽ばたき方で動作すればよい。
Z軸周りに負方向の回転、すなわち右への旋回を行なうためには、左の羽根部110が前進のための羽ばたき方で動作し、右の羽根部110が後退のための羽ばたき方で動作すればよい。
いずれの場合においても、上述のように、左および右の羽根部110による浮上力同士は相殺され得るものであるため、高度が維持された状態で、浮上移動装置100のZ軸周りの回転が行なわれる。
<X軸方向の並進制御>
左方への移動を行なうためには、右の羽根部110が上昇のための動作をし、左の羽根部110が下降のための動作をすればよい。これにより、浮上移動装置1は、左の羽根部110が右の羽根部110よりも下側に位置するように姿勢を変更し、それにより、浮上力のベクトルの先端が鉛直上方向きの状態から右側に傾く。これにより、浮上移動装置100を左方へ移動させる力が生じる。
なお、このとき、浮上力の低下が起こることがあり得るため、X軸方向の並進制御とZ軸方向の上方への移動のための制御とを併せて行なうことが望ましい。
<制御の変更方法>
以上により、切り返しのタイミングが異なる3種類の羽ばたき方、すなわち、先行切り返し、遅れ切り返し、および中央切り返しを使い分けることで、浮上移動装置100は空間を自在に移動することができる。
なお、切り返しのタイミングが異なる3種類の羽ばたき方は、いずれも、羽根部110の前後方向の往復運動の終端の前から後にかけての所定期間内に行なわれる。そのため、羽ばたき運動のストロークの中心の前から後にかけての所定期間、すなわちストローク角α=0°の前から後にかけての所定期間内においては、回転角θ1およびθ2の値は、その速度および加速度を含めて同一である。
したがって、上記のように、回転角θ1およびθ2が共通している期間内に羽ばたき方の変更を行なうのであれば、羽根部110の動作を何ら補間することなく、機械的に次の羽ばたき方を選択するだけで、羽根部110の動作に不連続性を生じさせることなく、ある羽ばたき方から他の羽ばたき方へ円滑に遷移することが可能である。
<制御の選択>
上記のように、θ1=0°の位相において羽ばたき方の変更を行なうのであれば、羽ばたき方の状態を示す表現方法として、打ち下ろし、打ち上げ、およびそれぞれの終端での切り返し、という区分を行なうことは適切ではない。打ち下ろし後半および打ち下ろし後の切り返しおよび打ち上げの前半を前方羽ばたき運動とし、打ち上げ後半および打ち上げ後の切り返しおよび打ち下ろしの前半を後方羽ばたき運動として、羽ばたき方を二つに区分することが合理的である。
すなわち、左および右の羽根部110における前方羽ばたき運動および後方羽ばたき運動において、それぞれ、中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返しの選択を行なうことによって、最も簡便に、羽ばたき方の制御を行なうことができる。前述の説明に基づいた浮上移動装置の羽ばたき方に対応した選択肢が、表2に示されている。
<補足事項>
なお、本項目においては、最も簡便に位置制御を実現する手法の一例が記載されているが、本発明の羽ばたき方は本項目の羽ばたき方に限定されるものではない。たとえば、本実施の形態においては、回転角θ1およびθ2の角速度は、切り返しの期間を除いて略一定であるものとされている。つまり、羽根部110の往復運動は、図36に示すように、角速度が一定である打ち上げおよび打ち下ろしの運動と、これに連続する、角速度が変化する切り返しの運動、すなわち往復運動の運動方向を反転させるための運動とからなるものである。
切り返しの運動の角速度は、打ち上げの運動の角速度および打ち下ろしの運動の角速度のそれぞれに連続するように変化する。この切り返しの運動としては、例えば1変数の三角関数等が挙げられる。しかしながら、回転角θ1およびθ2の角速度を変化させることによって、周囲流体から受ける反作用を変化させて、浮上移動装置100を移動させる手法が用いられてもよい。
また、本項目においては、説明の簡便のため、3種類の羽根部110の切り返しのパターンの組み合わせによって、すべての羽ばたき方が表現される手法が用いられているが、この手法は、羽ばたき方の表現の一例であり、本発明の羽ばたき方は、前述の手法によって表現される羽ばたき方に限定されない。
たとえば、回転角θ1およびθ2のパターンが多数存在する羽ばたき方の表現手法が用いられてもよい。すなわち、先行切り返しおよび遅れ切り返しのタイミングが複数種類ある羽ばたき方、または、切り返しのタイミングを連続的に自由に変更できる羽ばたき方の表現手法が用いられてもよい。逆に、中央切り返しは、先行切り返しと遅れ切り返しとを交互に繰り返す羽ばたき方の表現手法が用いられてもよい。このような羽ばたき方の表現手法であれば、中央切り返しのパターンのためのデータをメモリに記憶しておく必要が無いため、回転角θ1およびθ2のパターン数を低減させることができる。
また、図21〜図23に示される回転角θの時刻歴は、図19および図20に表わされる構成を有する浮上移動装置100の回転角θの一例である。実際には、羽根部110を駆動するメカニズムに応じて、そのメカニズムを制御する各種パラメータが、前述の羽根部110の先行切り返しおよび遅れ切り返しを実現するように設定されるのであれば、回転角θの時刻歴は、図21〜図23に示される回転角θの時刻歴に限定されない。
(位置検出センサ)
位置検出センサ160は、本体101に固定されている。そのため、位置検出センサ160によって計測された位置および姿勢は、浮上移動装置100の位置および姿勢そのものとなる。位置検出センサ160は、図29に示すように、計測された位置および姿勢のデータを後述する中央演算装置151に与える。
このような機能を実現するためのセンサは、技術の進展により変化するものであり、本発明の本質に関わるものではないため、いかなるものであってもよい。また、前述の姿勢を検出するためのセンサの一例としては、磁気と加速度との組み合せで、0.5°程度の姿勢の変化を検出することができるものが市販されている。また、位置の検出のためには、例えばGPS(Global Positioning System)やUWB(Ultra Wide Band)のようなセンサを用いることができる。
(制御回路)
制御回路150は、図29および図30に示すように、中央演算装置151(Central Processing Unit)、中央演算装置151の指令により上および下部超音波モータ120および130を駆動するドライバ152、ならびに、ドライバ152に高電圧を供給する昇圧回路153等を有している。
なお、制御回路150は、制御回路150は本体101のいかなる位置に設けられていてもよい。
<制御回路の動作>
制御回路150には、オペレータ210が操作するコントローラ200から通信装置170を通じて運動指令が与えられる。運転指令は、一時記憶装置(以後、「RAM(Random Access Memory)」という。)155に格納される。中央演算装置151は、RAM155に記憶された運動指令に基づいて、羽ばたき方のデータを固定記憶装置(以後、「ROM(Read Only Memory)」という。)154から得る。その後、中央演算装置151は、その羽ばたき方のデータをドライバ152に与える。それにより、浮上移動装置100は、前述の前後左右上下方向の並進移動または鉛直を回転軸とする回転のいずれかを行なう。
<中央演算装置>
中央演算装置151は、前述の運動指令、ROM154およびRAM155の情報を用いて、ドライバ152にPWM(Pulse Width Modulation)信号および回転方向制御信号を出力する。これにより、オペレータ210がコントローラ200を用いて浮上移動装置100へ与えた運動指令に応じて超音波モータ120おび130が動作する。その結果、運転指令に対応する羽ばたき方が実現される。なお、羽ばたきの往復運動の周期は、反復タイマ156を用いて決定される。
<反復タイマ>
中央演算装置151は、図29および図30に示すように、反復タイマ156を内蔵している。反復タイマ156は、羽ばたき運動の位相ψとして、−0.5〜0.5の値を50Hzの繰り返し周期で、中央演算装置151に出力する。ただし、羽ばたき運動の位相ψが、−0.5からカウントアップされ、0.5になると、再度、位相ψの値が−0.5からカウントアップされるものとする。
この反復タイマ156の1周期に対応して、羽根部110が往復運動の中央位置よりも前方に位置する前方羽ばたき運動、および、羽根部110が往復運動の中央位置よりも後方に位置する後方羽ばたき運動のそれぞれが行なわれる。すなわち、反復タイマ156の1周期が羽ばたき運動の周期の2倍に対応する。本実施の形態においては、位相ψが正であれば、浮上移動装置100は後方羽ばたき運動を行ない、位相ψが負であれば浮上移動装置100は前方羽ばたき運動を行なうものとする。
近年、機器制御に用いられているマイクロコントローラの多くには、本項で説明されている反復タイマとほぼ同様の、オートリロードタイマと呼ばれる機能が含まれており、これを用いることで、最も簡便に本項の反復タイマの機能を実現することができる。
<ROMに格納された羽ばたき方のデータ>
ROM154は、羽ばたき方のデータを格納している。羽ばたき方のデータは、ドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比の時刻歴のデータである。なお、超音波モータ120および130には、周波数が250KHzでありデューティ比が50%に固定された駆動電圧が印加される。一方、図31に示すように、ドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比とは、デューティ比が50%に固定された250KHzの駆動電圧のON期間とOFF期間との和に対するON期間の比率である。
すなわち、前述の先行切り返し、遅れ切り返し、および中央切り返しの3つのモードに対応する羽ばたき方のデータは、羽ばたき運動の位相ψに対応したドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比として、ROM154に予め格納されている。
なお、ドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比は、Duty1(ψ、MODE)およびDuty2(ψ、MODE)で示される。ただし、表2に示すように、−0.5≦ψ<0.5において、MODE=1が先行切り返しであり、MODE=0が中央切り返しであり、MODE=−1が遅れ切り返しであるものとする。
図32〜図34には、それぞれ、後方での切り返し動作行なう場合の、中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返しにおけるDuty1およびDuty2の値が示されている。ただし、Duty1およびDuty2が負の値であれば、羽根部110は、往復運動の中央位置を基準にして、後方から前方へ移動する動作が行なわれていることを意味する。なお、本実施の形態においては、各Dutyの関数は、羽ばたき動作が前後方向に対して垂直な面に関して対称であるため、Duty1(−ψ)=−1×Duty1(0.5+ψ)と表現され得る。
すなわち、符号変換のみによって、ψが負の領域での各Duty値は、ψが正の領域での各Dutyの関数を用いて算出される。そのため、上記の各Dutyの関数は、ψが正である領域のみ、ROM154に格納されている。これによれば、ROM154に格納されている各Duty関数のデータ量を半分に減らすことができる。よって、本実施の形態においては、各Duty関数のうちψが正の領域のみが示される。
なお、右の羽根部110と左の羽根部110とはZ軸に対して鏡面対称であるため、前述の座標系のX軸の方向の正と負とを反転させた左手系の座標が採用されれば、右の羽根部110の制御においても前述と同様のDuty1およびDuty2を用いることができる。
<中央演算装置の動作>
中央演算装置151は、位相ψの符号に基づいて、現在の羽ばたき方が前方羽ばたき運動であるか、または、後方羽ばたき運動であるかを判断する。その後、中央演算装置151は、ROM154に格納されている表2に示すデータに基づいて、羽ばたき方の状態を判断するとともに、通信装置170によって得られたRAM155に格納されている運動指令に応じて、前述のMODEの値を判断する。
さらに、中央演算装置151は、前述の位相ψの値に基づいて、ROM154に格納されたDuty1およびDuty2の値を得る。この値の絶対値が、ドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比である。
また、この値の符号が、ドライバ152へ送信される、上部および下部超音波モータ120および130のそれぞれの回転方向である。前者は、例えばABS(Duty)というコマンドで表現され、後者は、例えばSIGN(Duty)というコマンドで表現される。これらのコマンドは、マイクロコントローラに内蔵されている。これらのコマンドを用いた演算は、一般的なマイクロコントローラにおいて容易に実行されるものである。
中央演算装置151は、前述のデューティ比に基づいて、羽ばたき方に対応するPWM制御のためのON/OFF信号をドライバ152に出力するとともに、位相ψの正または負に応じた回転方向制御信号をドライバ152に出力する。
本実施の形態では、振動板1211の共振周波数が250kHzであるため、たとえば、共振周波数が2.5kHzであるPWM制御が実行されれば、100段階の超音波モータの制御を行なうことが可能である。
<ドライバの動作>
ドライバ152は、中央演算装置151から与えられたPWM制御信号のON/OFFおよび回転方向制御信号に応じて、超音波モータ120を回転/停止、および、正転/反転させる。
超音波モータ120は自己位置保持機能を有するため、回転および停止の動作は、PWMのON/OFFに応じて後述の電力供給をON/OFFすることによって、実現される。
また、図9および図13に示されるように、超音波振動子121において、裏面電極1217に与えられる電位φAの位相と表面電極1216に与えられる電位φBの位相との差を変更することによって、上部ロータ122の正回転と負回転との間の変更を行なうことができる。
ドライバ152は、中央演算装置151からPWM信号を受けて、電位φAおよびφBのデータを作成する回路と、昇圧回路153から供給される高圧電力を制御して、超音波振動子121の表面電極1216および裏面電極1217に電位φAおよびφBを与える回路とからなる。前者は、一般的なタイマ回路やCPU(Central Processing Unit)を用いて容易に実現され得るものであり、後者は、たとえば、Hブリッジと呼ばれる一般的なCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)回路を用いて容易に実現され得るものである。本発明者らの実験によれば、これらの回路は、3mm×3mm×0.85mmの小型パッケージに収められ得るものであり、そのパッケージの質量は約25mgである。
一般的に、前者のプログラムは以下のように表される。
:Label
if(PWM=ON) then
if(回転方向=正方向) then
φA=1
φB=1
φA=0
φB=0
end if
if(回転方向=逆方向) then
φB=1
φA=1
φB=0
φA=0
end if
end if
goto Label
但し、これらは簡易に前者回路の動作を表現するための一例であり、実際のプログラムにおいては、φAおよびφBのそれぞれが250kHzの矩形波となるようなタイミング調整が行なわれるため、ダミーの実行文の挿入等が必要になる。
<昇圧回路>
昇圧回路153は、電源190の電圧(3V)を、超音波モータの駆動のために必要な+30Vの電圧に変更して、+30Vの電圧をドライバ152に印加する。昇圧回路153としては、一般的なDC(Direct Current)−DCコンバータが用いられ、その一例と
して、3mm×3mm×0.85mmという小型パッケージが市販されている。昇圧回路153の質量は約25mgである。
<ブロック図>
前述の制御の体系のブロック図が図29に示されている。なお、4つの超音波モータの駆動方法は同一であるため、図29には左の羽根部110を駆動する上部超音波モータ120の制御体系のみが示され、他の制御体系は省略されている。また、図30は、後述する図35のフローチャートにおけるデータ処理の流れを説明するための機能ブロック図である。
<制御フローチャート>
次に、図35を用いて、浮上移動装置の制御のためのフローチャートの一例を説明する。なお、このフローチャートは、一例であり、浮上移動装置100のアプリケーションによって変更され得るものである。
なお、以下のフローチャートにおいて、反復タイマ156は前述のオートリロードタイマを用いて恒常的に動作しており、ステップS1においては、ψ=0である状態から処理が開始されるものとする。このとき、α=0°であるものとする。
ステップS1<浮上移動装置動作決定>
コントローラ200から送信されたオペレータ210の運動指令が、通信装置170を介して、RAM155に格納される。
ステップS2<羽ばたき状況検出>
中央演算装置151は、反復タイマ156から送信されてきた位相ψの値のデータに基づいて、浮上移動装置100の現時刻での羽ばたき方の状態を認識する。具体的には、中央演算装置151は、位相ψの値が正であれば、浮上移動装置100が後方羽ばたき運動を行なっていると判断し、位相ψが負であれば、浮上移動装置100が前方羽ばたき運動を行なっていると判断する。
ステップS3<羽ばたきモード決定>
中央演算装置151は、上記運動指令に応じて表2の行成分を選択し、また、上記羽ばたき方の状態に応じて表2の列成分を選択する。それにより、中央演算装置151は、中央切り返し、先行切り返し、および遅れ切り返しの中からいずれか1の羽ばたきモード、すなわちMODEの値を選択する。選択された羽ばたきモードのデータは、RAM155に格納される。
ステップS4<デューティ比決定>
中央演算装置151は、前述の羽ばたきモードのデータに基づいて、ROM154に格納されたDuty1(ψ、MODE)およびDuty2(ψ、MODE)のデータの中からドライバ152へ送信されるPWM制御信号のデューティ比を選択する。
ステップS5<ドライバ駆動>
中央演算装置151は、上記PWM制御信号のデューティ比の正または負に応じて、回転方向制御信号をドライバ152に出力するとともに、そのデューティ比のPWM信号をドライバ152に出力する。すなわち、ABS(A)をAの絶対値とし、SIGN(A)をAの符号とすると、回転方向制御信号はSIGN(Duty)であり、デューティ比はABS(Duty)である。なお、ここで、Dutyは、上部および下部超音波モータ120および130に応じた、Duty1(ψ、MODE)およびDuty2(ψ、MODE)を意味する。
ステップS6<超音波モータ駆動>
ドライバ152は、上記回転方向制御信号に応じて、振幅が30Vであり、かつ、周波数が250kHzである矩形波の電圧を表面電極1216および裏面電極1217に印加する。これらの2つの矩形波は、±90°位相が異なっている。具体的には、ドライバ152は、超音波振動子121の表面電極1216に矩形波の電位φBを与え、また、超音波振動子121の裏面電極1217に矩形波の電位φAを与える。この矩形波の電位φAの位相と矩形波の電位φBの位相とが±90°ずれている。
ステップS7<次回羽ばたきモード選択>
ψ=0またはψ=−0.5の場合には、羽ばたき方の状態が変更されたことを意味するため、再びステップS1の処理が実行され、運動指令の変更も含め、羽ばたきモードが更新される。ψ=0またはψ=−0.5以外の場合には、羽ばたきモードは更新されず、ステップS4の処理が実行され、新たな位相ψが設定される。
<補足>
なお、上記指令の形態はあくまで説明のための一例であり、これに限定されない。たとえば、速度指令が電圧値としてアナログ信号で与えられることにより、量子化誤差のない滑らかな速度指令が得られる手法が用いられてもよい。また、超音波モータの駆動に必要な電圧は、技術の進歩によって変化し得るものである。たとえば、現行の主なTTL(Transistor Transistor Logic)−IC(Integration Circuit)やCPU(Central Processing Unit)の駆動電圧である3V以下で駆動し得る超音波モータが実現されれば、昇圧回路153は不要となる。
また、本実施の形態では、説明の簡便のため、フィードバック制御を行なわず、単にコントローラ200の指令によって羽ばたき方が一義的に選択される手法の説明がなされたが、浮上移動装置100の制御手法は、前述の手法に限定されない。
たとえば、中央演算装置151が位置検出センサ160から位置および姿勢の情報を得て、その情報に基づいて運動指令を新たに作成するフィードバック制御が用いられてもよい。
さらに、本実施の形態では、説明の簡便のため、デューティ比に応じて超音波モータ120および130の回転速度が一義的に決定されるという仮定の下に説明がなされているが、負荷の変動などによってはこの仮定が成り立たない場合も考えられる。この場合には、上部磁気エンコーダ126の信号によって得られる上および下部超音波モータ120および130の回転角θ1およびθ2の値を参照して、デューティ比が調整されてもよい。
なお、前述の浮上移動装置の制御においては、理想的には、高い機動力を得るための羽ばたき運動の制御に必要な演算時間が短いことが望ましい。また、浮上移動装置は軽量であることが望ましい。このため、前述の羽ばたき運動を制御するアルゴリズムも極力単純であることが望ましい。これらのことを考慮すると、高い機動力を有する羽ばたき浮上移動装置に求められる要件は、単独性、連続性、選択性、独立性、および単純性である。
単独性とは、流体力発生機構が設置されている胴体の姿勢に関わらず、当該流体力発生機構が単独で流体力の方向を変更することができることを意味する。単独性の欠如している浮上移動装置の例として、ロータが胴体に固定されているヘリコプターが挙げられる。
連続性とは、羽ばたき運動の変更が、胴体に大きな加速度を生じさせずに、連続的に行なわれることを意味する。
選択性とは、羽ばたき運動の変更が、過去の羽ばたき運動の履歴に関わらず、独立して行なわれることを意味する。選択性が欠如している浮上移動装置の例として、先述のRon FearingらによるMFI(Micromechanical Flying Insect)が挙げられる。これは共振によって羽根部を駆動しているため、羽ばたき方を複数周期に渡って徐々に変更することしかできない。
独立性とは、流体力発生機構が生み出す流体力が、羽ばたき運動の変更の履歴に影響されないことを意味する。独立性が欠如する具体的な場面として、以前の羽ばたき運動により生じた気流の影響を受ける現象などが挙げられる。
単純性とは、羽ばたき運動の変更を実現するためのアルゴリズムが極力単純であることを意味する。
(高機動力要件の検討)
<<単独性>>
本実施の形態における羽ばたき浮上移動装置100の制御は、表2に示されるように、全て、羽ばたき運動の両端における羽根部の捻り動作のタイミングの選択によって行なわれる。これは、胴体の姿勢に拘束されないため、単独性が確保される。
より具体的には、図24〜図26に示される先行切り返しおよび遅れ切り返しのうちの一方の羽ばたき方が選択されると、羽根部110の加速度の水平方向成分を独立して制御することが可能で、羽ばたき運動の1周期における羽根部110の加速度の水平方向成分の方向を前方および後方のいずれかに向けることができる。したがって、浮上移動装置は、本体部(胴体)101の姿勢を変化させることなく、羽根部110の動作のみの変更によって、流体力の方向を変更することが可能である。
<<連続性>>
前述の羽根部110の捻り、すなわち切り返しの動作は、羽ばたき運動における羽根部110の往復運動の始点または終点を含む特定期間においてのみ異なり、いずれの羽ばたき方においても、羽ばたき運動の往復運動の中心位置を含む所定期間においては、羽根部110の運動は同一である。つまり、複数種類の羽ばたき運動は、往復運動の中心位置を含むタイミングにおいて、共通の動作を含む。
このため、羽ばたき運動中に羽ばたき方の変更がなされても、その羽ばたき方の変更が共通の動作をするタイミングにおいてなされるのであれば、1の羽ばたき方から他の羽ばたき方への変化における羽根部110の挙動は、連続的なものである。つまり、羽ばたき方の変更はスムーズに行なわれる。
より具体的には、本実施の形態の浮上移動装置は、制御回路150のROM154が、羽根部110に羽ばたき運動をさせるための複数種類のデータ(表2参照)を有し、複数種類のデータに基づいてアクチュエータ(上部および下部超音波モータ120および130)を制御する。複数種類のデータのそれぞれは、羽根部110の往復運動の1周期の動作を特定可能であり、複数種類のデータは、往復運動の1周期の所定期間において、羽根部110に共通の羽ばたき運動をさせるものである。
具体的には、複数種類のデータは、先行切り返しのためのデータ、中央切り返しのためのデータ、および遅れ切り返しのためのデータからなる3種類のデータであり、図25および図26ならびに表2によって表わされている羽ばたき方(停空、上昇、下降、前進、後退、右移動、左移動、右旋回、および左旋回)をさせるためのデータである。制御回路150は、羽根部110の往復運動の中心位置を含む所定期間において、アクチュエータ(超音波モータ120および130)が複数種類のデータのうちの1のデータによって特定される羽ばたき運動を羽根部110にさせる制御からアクチュエータが複数種類のデータのうちの他のデータによって特定される羽ばたき運動を羽根部110にさせる制御へ切り換える。
上記の構成によれば、羽根部の運動に不連続な変化が生じることなく、羽ばたき運動の態様を変更することができる。そのため、羽ばたき運動の「連続性」が実現される。
また、羽根部は、1のデータによって特定される羽ばたき運動においては、往復運動の一周期のうちの2つの特定期間のそれぞれにおいて行なわれる他のデータによって特定される羽ばたき運動とは異なる軌跡を描くことが望ましい。これによれば、羽根部110は、往復運動の1周期の間に最大で4種類の状態に順次変化する。そのため、羽ばたき運動のバリエーションが豊富になる。
<<独立性>>
また、2つの特定期間は、互いに1/2周期ずれていてもよい。これによれば、1の特定期間と他の特定期間とが時間的に最も大きくずれて繰り返される。そのため、一方の特定期間における羽ばたき運動に起因して生じる気流が、他の特定期間における羽ばたき運動に起因して生じる気流に及ぼす影響が最も小さくなる。そのため、羽ばたき運動の変更における「独立性」が確保される。
また、2つの特定期間の一方および他方は、それぞれ、羽根部110の往復運動の一方端に位置するタイミングおよび羽根部110の往復運動の他方端に位置するタイミングを含むことが望ましい。つまり、羽根部110の切り返しは、前後方向の往復運動の端部を含む期間において行なわれることが望ましい。これによれば、1の特定期間における羽根部110の位置と他の特定期間における羽根部110の位置とが最も離れている。そのため、一方の特定期間における羽ばたき運動に起因して生じる気流が、他方の特定期間における羽ばたき運動に起因して生じる気流に及ぼす影響が最も小さくなる。そのため、羽ばたき運動の変更における「独立性」が確保される。
すなわち、本実施の形態の浮上移動装置においては、羽ばたき運動の両端のそれぞれを含む特定期間においてのみ羽根部110の動作が異なる複数種類の羽ばたき運動が行なわれる。そのため、以前の羽ばたき運動によって生じた流体の挙動が現在の羽ばたき運動に与える影響は極力低減されている。これにより、独立性が実現されている。
<<単純性>>
また、2つの特定期間の一方の期間における羽ばたき運動により生じる流体力のうちの一の方向成分と、2つの特定期間の他方の期間における羽ばたき運動により生じる流体力のうちの一の方向成分とが、相殺される。これによれば、羽ばたき運動の変更に起因する浮上移動装置の姿勢の変化の態様が単純になる。そのため、浮上移動装置を所望の姿勢にするための制御が容易になる。したがって、羽ばたき運動の変更における「単純性」が確保される。
より具体的には、本実施の形態の浮上移動装置においては、表2に示されるように、浮上移動装置の浮上移動の態様(停空、上昇、下降、前進、後退、左移動、右移動、左旋回、右旋回)と、浮上移動の態様を実現するための羽ばたき方(先行切り返し、中央切り返し、および遅れ切り返しの組み合わせ)とが一対一に対応している。そのため、羽ばたき方に対応する上部および下部超音波モータ120および130のそれぞれの駆動デューティ比のデータが変更されるだけの極めて単純なアルゴリズムによって、浮上移動態様の変更を実現することができる。したがって、本実施の形態の浮上移動装置においては単純性が実現されている。
更に、複数のデータのうちのホバリングのためのデータによって特定される羽ばたき運動は、羽根部110に上下方向および左右方向を含む平面に対して鏡面対称な前後方向の往復運動をさせるものであり、制御回路150は、前後方向の往復運動の中心位置から前後方向の往復運動の一方端まで羽根部110を移動させるための基本データ(図32、図33、および図34)と、前後方向の往復運動の中心位置から前後方向の往復運動の他方端まで羽根部110を移動させるように、基本データを変換するためのアルゴリズムまたは演算機能部、即ち(Duty1(−ψ)=−1×Duty1(0.5+ψ))とを含んでいることが望ましい。
これによれば、制御回路150は、羽ばたき運動の1周期の1/2の期間のみのためのデータを有しているだけで、所望の羽ばたき運動を羽根部110にさせることができる。そのため、制御回路150のデータの記憶のためのメモリ容量を低減することができる。その結果、浮上移動装置を小型化かつ軽量化することができる。
(通信装置)
通信装置170は、外部のコントローラ200から、浮上移動装置100に必要とされる加速度の情報を受信し、その情報を制御回路150の中央演算装置151に与える。また、通信装置170は、画像センサ180よって得られた画像情報を、外部のコントローラ200に送信する。
(電源)
本発明の駆動エネルギー源としての電源190は、必要とされる電力を供給できる放電特性を有し、かつ、浮上を妨げない質量を有するものであれば、いかなるものであってもよい。
本発明者らが用いた電源190は、質量0.7gのリチウムイオン電池で、本発明者らの計算によれば、約50秒にわたり0.6Wを供給することができる。電源190は、本体101の下部に設けられている。そのため、電源190は、羽根部110が受ける流体反力の作用点であるベアリング123より下側に位置し、浮上移動装置100の姿勢を自律的に安定させている。
この他の電源としては、燃料電池、電気二重層コンデンサなどのキャパシタ、太陽電池、および有線による供給、等が挙げられる。また、これらの電源が併用されてもよい。たとえば、リチウムイオン電池の他に、羽根部110の表面に太陽電池が設けられ、これらの電力が併せて用いられてもよい。
(本体)
本体101は、底部プレート102、上部プレート103、底部プレート102と上部プレート103とを連結するフレーム部104、および、底部プレート102に設けられた脚105からなる。
底部プレート102および上部プレート103は、厚さ0.2mmのCFRPからなり
、フレーム部104は厚さ35μmのステンレスからなる。脚105は、肉厚40μm、長さ10mm、かつ直径0.5mmのCFRPの中空パイプからなる。
また、上部プレート103および底部プレート102は、ロータシャフト124、支持シャフト127、および本体補強ポール112によっても連結されている。
(画像センサ)
画像センサ180は、CMOS(Complementary Metal Oxide Silicon)イメージャからなり、その質量は200mgである。画像センサ180によって取得された画像情報は、通信装置170によって外部のコントローラ200に送信される。
(浮上の可否)
<質量>
本発明者らの計算によれば、羽根部1枚が生み出す浮上力は1.2gfである。よって、羽根部2枚が生み出す浮上力は2.4gfである。また、各構成要素の質量が表3に示されている。表3に示されるように、浮上移動装置100の総質量は2.17gfであり、この値は、前述の浮上力2.4gfよりも小さいため、浮上移動装置100は、浮上することができる。
<消費電力>
本発明者らの計算によれば、浮上移動装置100の羽根部が1.2gfの浮上力を生ずるに要求される機械的パワーは上および下部超音波モータ120および130共に最大40mWである。各超音波モータのエネルギー変換効率は33%である。したがって、浮上のために要求される最大電力は超音波モータ1つにつき約120mWであり、それらの電力の合計は480mWである。ドライバ152および昇圧回路153の総合効率は約85%であるため、4つの超音波モータの駆動のために必要な電力は最大565mWである。
中央演算装置151の消費電力は5mWである。磁気エンコーダ126の消費電力は5mWである。位置検出センサ160の消費電力は5mWである。画像センサ180の消費電力は15mWである。通信装置170の消費電力は5mWである。
これらの電力の総計は、最大600mWであり、電源190の能力の範囲内の値である。したがって、浮上移動装置100は、内蔵された電源190から供給された電力のみを用いて浮上することができる。したがって、浮上移動装置100は、外部から電力の供給を受けることなく、独立して羽ばたき飛行することができるスタンドアロンタイプのロボットになり得るものである。
次に、本発明の特徴的構成が説明される。
図37には、上述の回転角およびβの時刻歴が示されている。これは、図21〜図23に示されるθ1およびθ2の時刻歴に書き換えられる。なお、実際には、図38に示されるように羽根部が変形する。また、この際の上部および下部超音波モータに要求されるトルクは、図39に示されるようになる。
(力学的相互作用発生機構)
次に、図40〜図52を参照して、力学的相互作用発生機構が説明される。
以下に説明される実施の形態の力学的相互作用発生機構は、羽根部110の前縁部1102まわりの捻り角βが特定の値になっているときに、ポテンシャルエネルギが極小値になっている力学的相互作用を上部ロータ122および下部ロータ132に発生させるものである。なお、ある期間において捻り角βを特定の値に固定しようとする理由は、羽根部110の前後方向の往復運動の中央部を含む所定の期間においては、羽ばたき飛行の安定のために羽根部110の迎え角を固定することが望ましいからである。
また、ポテンシャルエネルギが極小値になるとは、上部ロータ122の位相と下部ロータ132の位相との差を変更するための制御が行なわれていない場合において、上部ロータ122と下部ロータ132との相対的な位置関係の変動を防止するかまたは抑制することを意味する。上部ロータ122と下部ロータ132との相対的な位置関係の変動を防止するかまたは抑制するとは、上部ロータ122の位相と下部ロータ132の位相との差を変更するための制御が行なわれていない場合において、羽ばたき飛行に支障がない程度に、羽根部110の捻り角、言い換えれば、迎え角(=90−捻り角β)を実質的に一定の値に維持しようとすることを意味する。
より具体的には、上部ロータ122と下部ロータ132との相対的な位置関係の変動を防止または抑制するとは、上部ロータ122と下部ロータ132との位相差を変更するための制御が行なわれていない場合において、振動等に起因して、迎え角を変動させるような力が生じているときに迎え角を所望の値に維持するための力を生じさせるか、または、迎え角が多少でも変動したときに迎え角を所望の値に戻すような力を生じさせることを意味する。なお、上部ロータ122の位相と下部ロータ132の位相との差を変更するための制御が行なわれた場合には、上部ロータ122と下部ロータ132との相対的な位置関係は容易に変化する。
また、本実施の形態の浮上移動装置は、羽根部110の捻り角βがほぼ一定に維持されるべきタイミングにおいて、上部ロータ122の位相と下部ロータ132の位相との差が一定に維持されるように上部ロータ122および下部ロータ132に力学的相互作用を生じさせる機構であれば、以下の機構に限らず、いかなる機構を備えていてもよい。なお、羽根部110の捻り角βがほぼ一定に維持されるべきタイミングとは、制御回路150が上部ロータ122の回転角と下部ロータ132の回転角との位相差が所定の値に固定される指令信号を上部ロータ122および下部ロータ132に与えているタイミングである。
なお、前述のタイミングにおいて、上部ロータ122の回転角と下部ロータ132の回転角との位相差に変化が生じるのは、発明が解決しようとする課題の欄において説明されているように、上部ロータ122および下部ロータ132の駆動トルクが、羽根部110とその周囲の流体との相互作用、羽根110部の慣性力、および羽根部110の変形によって大きく影響を受けるためであると考えられる。
まず、図40〜図45を用いて、第一の実施の形態の力学的相互作用発生機構が説明される。
<構成>
図40〜図45に示されるように、本実施の形態の力学的相互作用発生機構は、第一の上部ロータ溝1221および第二の上部ロータ溝1222、第一の下部ロータ溝1321および第二の下部ロータ溝1322、および半径rの球体1421からなっている。
第一の上部ロータ溝1221および第二の上部ロータ溝1222は、上部ロータ122の下部ロータ132に対向する面に形成されている。また、第一下部ロータ溝1321および第二の下部ロータ溝1322は、下部ロータ132の上部ロータ122に対向する面に形成されている。また、球体1421は上部ロータ122および下部ロータ132によって挟まれている。なお、角ロータ溝の断面形状は、頂角ηかつ高さhの二等辺三角形であるものとする。
<基本原理>
図41および図42に示されるように、羽根部110に対して所望の捻り角βを与えるための上部ロータ122の回転角と下部ロータ132の回転角との差dθ1およびdθ2については、dθ1>dθ2という関係が成立するものとする。なお。dθ1が正の値であり、dθ2は負の値であるものとする。
本実施の形態の力学的相互作用発生機構によれば、図41に示される第一の安定状態および図42に示される第二の安定状態のそれぞれにおいて、上部ロータ122の回転角と下部ロータ132の回転角との差が固定される。
第一の安定状態は、図41に示されるように、上部ロータ122の回転角と下部ロータ132の回転角との差がdθ1である状態であって、第一の上部ロータ溝1221および第二の下部ロータ溝1322のそれぞれに球体1421が嵌り込んでいる状態である。
第二の安定状態は、図42に示されるように、上部ロータ122の回転角と下部ロータ132の回転角との差がdθ2である状態であって、第二の上部ロータ溝1222および第一の下部ロータ溝1321のそれぞれに球体1421が嵌り込んでいる状態である。
第一の上部ロータ溝1221および第二の上部ロータ溝1222、ならびに、第一の下部ロータ溝1321および第二の下部ロータ溝1322は、前述の2つの状態で、上部ロータ122と下部ロータ132との相対的な位置関係が固定される位置に形成されている。
第一の上部ロータ溝1221が第一の下部ロータ溝1321に対向しているときには、第二の上部ロータ溝1222は第二の下部ロータ溝1322に対向し、球体1421は、第一の上部ロータ溝1221および第二の上部ロータ溝1222のいずれからも等しい距離の位置に、言い換えれば、第一の下部ロータ溝1321および第二の下部ロータ溝1322のいずれからも等しい距離の位置に存在する。なお、球1421が上部ロータ122および下部ロータ132から外方へ飛び出してしまわないように、第一の上部ロータ溝1221と第二の上部ロータ溝1222との間に円弧状の溝が設けられ、第一の下部ロータ溝1321と第二の下部ロータ溝1322との間に円弧状の溝が設けられ、2つの円弧状の溝内に沿って球体1421が円弧状の軌跡を描くように往復運動してもよい。
第一の安定状態および第二の安定状態のそれぞれでは、2つの溝のそれぞれに球体1421が嵌り込んでいる。本実施の形態においては、上部ロータ122および下部ロータ132のいずれもが弾性変形する部材からなっているため、この状態から2つのロータの回転角の差をdθだけ変化させることは、図44において実線で示されるように、上部ロータ122と下部ロータ132とに弾性変形を生じさせ、同2ロータ間の距離を広げることを意味する。その際、上記弾性変形に対する復元力が生じるため、上記dθをゼロに戻す方向に力が働く。そのため、2つの安定状態においては、(dθ1−dθ2)はほぼ一定の値、すなわちdθ1もしくはdθ2に維持される。このため、特別な制御を必要とすることなしに、打ち下ろしおよび打ち上げにおいて、それぞれ、所望の捻り角βを実現するための回転角の差dθ1およびdθ2が維持される。
次に、図45を参照して、打ち上げから打ち下ろしへの切り返しのとき、すなわち、前後方向の往復運動の反転のときに、さらに言い換えれば、第一の安定状態から第二の安定状態への移行するのときに発生する力が説明される。なお、説明の簡便のため、上部ロータ122と球体1421との間で生じる力学的相互作用のみが説明される。また、図45は、上部ロータ122の回転中心軸まわりの円筒座標系が平面に展開されたものである。
図45においては、第一の上部ロータ溝1221、第二の上部ロータ溝1222、第一の下部ロータ溝1321、および第二の下部ロータ溝1322のいずれもが、幅Wおよび頂角ηの溝であるものとする。
図45に示されるように、第一の安定状態から上部ロータ122の回転角がdθ(<0)だけ変化した場合には、φ=π−η/2であるとすると、球体1421から第一の上部ロータ溝1221へ加えられる力(以下、これを「相互作用力」と称する)の水平成分Ftおよび垂直成分Frに関しては、Ft=Fr×tanφという関係が成立する。
ここで、垂直成分Frは、上部ロータ122と下部ロータ132のとの間の距離がdhだけ大きくなったときに上部ロータ122および下部ロータ132のそれぞれに生じる復元力に対抗する力である。そのため、この復元力のバネ定数がkであるとすると、図45に示されるように、上部ロータ122と球体1421との接点の、上部ロータ122の回転中心軸からの距離をRとすると、dh=R×dθ×tanφであるので、Fr=k×dh=k×R×dθ×tanφという関係が成立する。すなわち、Ft=k×R×tan2φ×dθという関係が成立する。
球体1421が第一の上部ロータ溝1221から離れたときに、すなわちdθ<−W/2Rのときに、さらに言い換えれば、第一の安定状態から不安定な状態へ変化し始めたときには、水平成分の力は発生しないので、Ft=0となる。なお、不安定な状態とは、球体1421が、いずれの溝にも嵌っておらず、溝同士の間を転がっている状態である。
不安定な状態から第二の安定状態へ移行するとき、第一の安定状態から不安定状態へ移行するときの変化に対して鏡面対称な変化が生じている。そのため、打ち上げから打ち下ろしへの移行のときの、上部ロータ122に加わる相互作用力の水平成分Ftは、図46に示されるようなものになる。また、下部ロータ132に加えられる相互作用力の水平成分のグラフは、図46に示されるグラフの符号を逆にしたグラフになる、すなわち、θ1−θ2の軸に対して上下対象のグラフになる。
上記の水平成分Ftは、図39に示される本来のトルクに加算される。したがって、上部ロータ溝1221および1222ならびに下部ロータ溝1321および1322のそれぞれの形状、深さ、および幅などを決定するときには、水平成分Ftと図39に示される本来のトルクとの合計値が、上部ロータ122および下部ロータ132のそれぞれのトルクの許容値を超えないように留意する必要がある。
<トルク平滑効果>
本発明の構成により、上述の2つの安定状態のそれぞれにおいては上部超音波モータ120および下部超音波モータ130が力学的な相互作用を受ける状態になるため、上部超音波モータ120のトルクと下部超音波モータ130のトルクとの区別ができなくなる。したがって、図47に示されるように、上部超音波モータ120および下部超音波モータ130のそれぞれにおいて独立に発生したトルクの合計値が超音波モータのトルクとなる。
そのため、それぞれが独立して行なわれていた上部超音波モータ120および下部超音波モータ130の制御を一括して行なうことができる。したがって、制御アルゴリズムを簡略化することができる。
さらに、図47に示されるように、上部超音波モータ120と下部超音波モータ130との間での力の相互伝達によって発生する脈動が低減される。そのため、2つの超音波モータに要求されるトルクの変動の振幅自体が減少し、制御に要求される条件が大幅に緩和される。
<補足>
なお、本実施の形態において説明された溝形状は簡便に説明を行なうための一例である。本発明の特徴的構成は、上部ロータ122および下部ロータ132の変形を利用して、球体1421が2つの溝間を移動してかつそれらに嵌り込むことによって、上部ロータ122および下部ロータ132の捻り角βを一定値に維持するためのものであり、前述の溝形状および溝の数に限定されるものではない。
たとえば、溝形状が、二等辺三角形でなく、図48に示されるような、溝のエッジに近づくにつれて接触角φが0に近づくような形状であれば、相互作用力の水平成分Ftを滑らかに変化させることができる。また、球体1421の代わりに、たとえば、図43に示される裁頭円錐体(円錐状体)1421が用いられてもよい。この場合においても、裁頭円錐体(円錐状体)1421が外方へ飛び出さないように、上部ロータ122および下部ロータ132が弾性変形するか、または、裁頭円錐体(円錐状体)1421の外側に設けられた円弧状のガイド部材によって案内されることが望ましい。
さらに、球体1421の代わりに、楕円状の断面を有する棒状の構造体が用いられてもよい。この場合、楕円の長軸および短軸の相違を利用して、上部ロータ122および下部ロータ132の変形量を異ならせることができる。なお、この場合においても、裁頭円錐体(円錐状体)1421が用いられる場合と同様に、上部ロータ122および下部ロータ132のそれぞれの回転中心軸に向かうにしたがって、断面が除々に小さくなっていることが望ましい。また、上部ロータ122および下部ロータ132のそれぞれに複数の溝が設けられており、複数の安定状態が形成されてもよい。
以上、本実施の形態の浮上移動装置においては、上部ロータ122が下部ロータ132に対向する面に上側凹部の一例としての第一の上部ロータ溝1221および第二の上部ロータ溝1222を含み、かつ、下部ロータ132が上部ロータ122に対向する面に下側凹部の一例としての第一の下部ロータ溝1321および第二の下部ロータ溝1322溝を含んでいる。また、前述の機構は、上部ロータ122および下部ロータ132によって挟まれた状態で、円弧状の軌跡を描くように往復運動をして、捻り角βが特定の値になっているときに、第一の上部ロータ溝1221および第二の下部ロータ溝1322溝のそれぞれに嵌り込んでいるか、または、第二の上部ロータ溝1222および第一の下部ロータ溝1321に嵌り込んでいる球体または円錐状体1421を含んでいる。
したがって、前述の力学的相互作用を容易に発生させることができる。特に、裁頭円錐体(円錐状体)1421が用いられる場合には、上部ロータ122および下部ロータ132にかかる応力を広い範囲に分散させることができる。
なお、本実施の形態においては、制御回路150が上部ロータ122の回転角と下部ロータ132の回転角との差を小さくするような制御を行なっているタイミングにおいては、上部ロータ122の回転角と下部ロータ132の回転角との差を小さくすることができるように、前述の第一の上部ロータ溝1221、第二の上部ロータ溝1222、第一の下部ロータ溝1321、および第二の下部ロータ溝1322の形状および大きさ等が設定されている。
<実施の形態2>
次に、図49および図50を用いて、本発明の実施の形態の浮上移動装置が説明される。
本実施の形態の浮上移動装置の力学的相互作用発生機構以外の構成要素は、実施の形態1の浮上移動装置の構成要素と同一であるため、以下においては、力学的相互作用発生機構の別の例のみが説明される。なお、本実施の形態においては、説明の簡便のため、実施の形態1と同様の構成要素には同一の番号が付され、その説明は特に必要がなければ繰り返さない。
(力学的相互作用発生機構)
<構成>
図49および図50に示されるように、上部ロータ122および下部ロータ132には、捻り角β=0となるときに同一の極性を有する極同士が対向する磁石1422および1423が設けられている。また、捻り角βが打ち下ろしおよび打ち上げのそれぞれの所望の値を超えないように、回転角θ1およびθ2の範囲を制限するストッパー1424および1425が設けられている。
<原理>
上部ロータ122の回転角と下部ロータ132の回転角の差は、磁石1422および1423の反発力によって大きくなり、最後に、ストッパー1424および1425は、それぞれ、サイドフレーム132aおよび132bに当接する。この2つの状態のそれぞれにおいては、上部ロータ122および下部ロータ132が一体となった安定状態が形成される。
このため、実施の形態1において説明された2つの安定状態と同様の安定状態が、本実施の形態の浮上移動装置の力学的相互作用発生機構によっても実現され得る。
本実施の形態の力学的相互作用発生機構によれば、ストッパー1424および1425を用いることで、前述の2つの安定状態を容易に実現することができる。また、図39に示されるように、上部ロータ122および下部ロータ132に要求されるトルクの大きさが一定ではない。そのため、磁石1422および1423の反発力によって、ストッパー1424および1425が、それぞれ、サイドフレーム132aおよび132bに接触している状態を生み出すための力が常に生み出されている。なお、サイドフレーム132aとサイドフレーム132bとは、円弧状フレーム132cによって接続されている。
以上、本実施の形態の浮上移動装置は、上部ロータ122に設けられ、捻り角βが特定の値になっているときに、下部ロータ132のサイドフレーム132aおよび132bのいずれか一方に当接している突起としてのストッパー1424および1425を含んでいる。そのため、上部ロータ122と下部ロータ132との相対的な位置関係を簡単な構造を用いて固定することができる。なお、本実施の形態においては、上部ロータ122の構造と下部ロータ132の構造とが逆であってもよい。すなわち、上部ロータ122が2つのサイドフレームおよび円弧状フレームを有する構造であり、下部ロータ132が2つのストッパーを有する構造であってもよい。また、ストッパーの構造およびロータのストッパーが当接する部分の構造はいかなるものであってもよい。
また、本実施の形態の浮上移動装置は、一の磁石1422と他の磁石1423とを含んでいる。一の磁石1422および他の磁石1423は、互いに逆の極性を有する部分同士が向かい合って、ストッパー1424および1425のいずれかが上部ロータ122または下部ロータ132に当接するように、上部ロータ122および下部ロータ132に分けて取り付けられている。そのため、物理的な接触または変形を生じさせることなく、前述の力学的相互作用を発生させることができるため、前述の機構が機能を発揮するときのエネルギーロスを低減することができる。
ただし、制御回路150が上部ロータ122の回転角と下部ロータ132の回転角との差を小さくするような制御を行なっているタイミングにおいては、上部ロータ122の回転角と下部ロータ132の回転角との差を小さくすることができるように、前述の一の磁石1422と他の磁石1423との間に生じる磁力の大きさが設定されている。
<実施の形態3>
次に、図を51用いて、本発明の実施の形態の浮上移動装置が説明される。
本実施の形態の浮上移動装置の力学的相互作用発生機構以外の構成要素は、実施の形態1の浮上移動装置の構成要素と同一であるため、以下においては、力学的相互作用発生機構の別の例のみが説明される。なお、本実施の形態においては、説明の簡便のため、実施の形態1と同様の構成要素には同一の番号が付され、その説明は特に必要がなければ繰り返さない。
(力学的相互作用発生機構)
<構成>
図51に示されるように、上部ロータ122には磁石1426が設けられている。一方、下部ロータ132には、鉄片1427および1428が所定の距離を隔てて設けられている。本実施の形態においても、打ち上げおよび打ち下ろしのそれぞれのときには、捻り角βは所望の値に固定される。そのため、磁石1426および鉄片1427、1428の位置関係は、前述の特定の値の捻り角βを実現するような位置に設置されている。
<原理>
上部ロータ122および下部ロータ132は、磁石1426と鉄片1427および1428のそれぞれとが対向しているときに、磁石1426と鉄片1427および1428のそれぞれとの間に生じる引力によって、安定状態になる。
つまり、前述の特定の値の捻り角βが実現されていないときには、前述の特定の値の捻り角βが実現されるように、磁石1426と鉄片1427および1428のそれぞれとの間に引力が生じる。
ただし、制御回路150が上部ロータ122の回転角と下部ロータ132の回転角との差を小さくするような制御を行なっているタイミングにおいては、上部ロータ122の回転角と下部ロータ132の回転角との差を小さくすることができるように、前述の磁石1426と鉄片1427および1428のそれぞれとの間に生じる引力の大きさが設定されている。
このため、実施の形態1において説明された2つの安定状態と同様の安定状態が、本実施の形態の浮上移動装置の力学的相互作用発生機構によっても実現され得る。また、磁石1426と鉄片1427および1428を用いることによって、摩擦力等のエネルギーロスなく、力学的相互作用発生機構を実現することができる。また、何ら摺動部なしに、力学的相互作用発生機構を実現することができるため、羽ばたき運動という周波数の高い動作が行なわれても、摩耗および疲労破壊が生じない。
前述のように、本実施の形態の浮上移動装置は、磁石1426と磁性体の一例としての鉄片1427および1428とを含んでいる。また、磁石1426および磁性体としての鉄片1427および1428が、捻り角βが特定の値になっているときに互いに向かい合っているように、上部ロータ122および下部ロータ132に分けて取り付けられている。したがって、物理的な接触または変形を生じさせることなく、前述の力学的相互作用を発生させることができるため、前述の機構が機能することによるエネルギーロスをゼロにすることができる。
なお、磁性体としての鉄片1427および1428の代わりに、磁石1426のN極またはS極と逆の極性を有する部分が磁石1426に向かい合うように、他の磁石が下部ロータ132設けられていてもよい。また、本実施の形態においても、上部ロータ122の構造と下部ロータ132の構造とは交換され得る。つまり、上部ロータ122に2つの磁性体または2つの磁石が所定の距離をおいて設けられ、下部ロータ132にその2つの磁性体または2つの磁石のそれぞれとの間で引力を生じる磁石が設けられていてもよい。
<実施の形態4>
次に、図を52用いて、本発明の実施の形態の浮上移動装置が説明される。
本実施の形態の浮上移動装置の力学的連結機構以外の構成要素は、実施の形態1の浮上移動装置の構成要素と同一であるため、以下においては、力学的相互作用発生機構の別の例のみが説明される。なお、本実施の形態においては、説明の簡便のため、実施の形態1と同様の構成要素には同一の番号が付され、その説明は特に必要がなければ繰り返さない。
(力学的相互作用発生機構)
<構成>
図52に示されるように、上部ロータ122の円弧状の周面と下部ロータ132の円弧状の周面とがバネ1429により連結されている。上部ロータ122および下部ロータ132が前述の特定の値の捻り角βを実現するように位置付けられているときに、バネ1429の長さは自然長になる。
<原理>
上部ロータ122および下部ロータ132は、バネ1429の長さが自然長であるときに安定状態になる。このため、前述の各実施の形態において説明された2つの安定状態と同様の安定状態が、本実施の形態の浮上移動装置の力学的相互作用発生機構によっても実現され得る。また、前述の特定の値の捻り角βが実現されていないときには、前述の特定の値の捻り角βが実現されるように、バネ1429に引張力または圧縮力が生じる。
より具体的には、上部ロータ122の回転角と下部ロータ132の回転角との差が所望の値よりも大きくなれば、バネ1429は、自然張よりも長くなり、バネ1429に縮まろうとする力が生じる。一方、上部ロータ122の回転角と下部ロータ132の回転角との差が所望の値よりも小さくなれば、バネ1429は、自然張よりも短くなり、バネ1429に伸びようとする力が生じる。
なお、本実施の形態のバネ1249はつるまきバネであるが、本発明の目的を達成することができるのであれば、他の形態のバネが用いられてもよい。また、本発明の目的を達成することができるのであれば、バネ以外の他の弾性体が用いられてもよい。つまり、前述の特定の値の捻り角βが実現されているときに、上部ロータ122および下部ロータ132から力を受けず、変形していない弾性体であって、前述の特定の値の捻り角βが実現されていないときに、特定の値の捻り角βを実現しようとする力を生じさせる弾性体であれば、いかなる弾性体が用いられてもよい。また、その弾性体は、上部ロータ122と下部ロータ132との双方に接続されているかぎり、上部ロータ122および下部ロータ132のそれぞれにいかなる位置に接続されていてもよい。
ただし、制御回路150が上部ロータ122の回転角と下部ロータ132の回転角との差を小さくするような制御を行なっているタイミングにおいては、上部ロータ122の回転角と下部ロータ132の回転角との差を小さくすることができるように、前述の弾性体の弾性定数が設定されている。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
100 浮上移動装置、101 本体、110 羽根部、120 上部超音波モータ、130 下部超音波モータ、140 駆動機構部、150 制御回路、160 位置センサ、170 通信装置、180 画像センサ、190 電源、122 上部ロータ、132 下部ロータ、1221 第一の上部ロータ溝、1222 第二の上部ロータ溝、1321 第一の下部ロータ溝、1322 第二の下部ロータ溝、1421 球体または裁頭円錐体、1422,1423磁石、1424,2425 ストッパー、1426 磁石、1427 磁性体、バネ 1429。