JP4718273B2 - 強化α黄銅及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本件発明は、耐力及び曲げ加工性に優れ且つ耐力及び曲げ加工性のバランスのとれた強化α黄銅材及びその製造方法に関する。
従来から、黄銅材は機械的強度が比較的高く、導電率も比較的良好で、安価であるため端子、コネクターなどの電子部品や、機構部品に多用されている。
ところが、従来の黄銅材は、加工率を高くして、より強度の高い材料を得ようとすると曲げ加工性が悪く、靱性に乏しくなるため曲げ加工が困難になるという欠点がある。即ち、コネクターなどに加工する場合には、厳しい曲げ加工が負荷されることが多く、必要とされる程度の曲げ加工で欠陥の出にくいよう、耐力が550MPa未満のものの使用が大勢を占めている。そして、このレベルを超えた高い強度を要する場合には、高価なりん青銅を選択的に使用するのが通常である。また、従来の黄銅材は、応力緩和特性において、顕著に優れたと言える特性を示さないが、特に結晶粒を微細化すると、これが更に劣化して実用上大きな問題となり、微細化による劣化は避けることが要望されてきた。
一方、α黄銅製板条の加工法は、一般的には鋳造、熱間圧延、面削の後、連続焼鈍工程を通せるまでの厚みに冷間圧延、連続焼鈍酸洗、冷間圧延、連続焼鈍酸洗、冷間圧延の工程を経て切断し板条とする。この工程にあって、厚みにより焼鈍、圧延の繰り返しを行ったり、焼鈍がバッチ方式であったりし、また鈍し上がりが望まれれば最後の圧延を省略したり、種々の製造プロセスが考えられる。このような従来の製造プロセスを、以下単に「一般的製造プロセス」と称する。
上記一般的製造プロセスの焼鈍条件は、連続方式の場合には、特許文献1に開示されているように、850〜480℃の範囲内で行われる。また、バッチ方式の場合は非特許文献1にあるように、425℃〜600℃で行われる。更に、最初及び中間の焼鈍は、十分な再結晶組織を得て圧延圧力を下げるため、結晶粒度は20μm〜35μmとされるのが一般的であり、この場合のビッカース硬度は60Hv〜80Hvとなる。そして、最終の焼鈍は、用途に応じて結晶粒径を5μm〜60μmとするのが一般的で、ビッカース硬度は50Hv〜120Hvとなる。先に述べたように、一般的製造プロセスでは最終焼鈍の後に、最終圧延工程を通した後に切断する。そして、以下では、この最終圧延工程を経たものを「一般材」と称する。
一般的な合金の強化方法を考えるに、α黄銅製板条の強度を向上させようとすると、結晶粒の微細化による強化、合金元素を用いた固溶強化等の強化方法を採用するのが一般的である。
合金元素添加による強化を図ろうとしたものとしては、特許文献2に開示されているように、α黄銅の高強度化をSn等の合金元素添加によって行う方法がある。ところが、合金元素を用いるということは、用いる合金成分によってはコストが上昇し、スクラップのリサイクル性に支障を来したり、生産性にも影響を与えるおそれもある。従って、黄銅の合金組成を変えることなく、結晶粒の微細化を試みることが好ましい。
非特許文献2及び非特許文献3には、組成は変えずに結晶粒微細化によって行うという研究結果が発表されている。そして、ここでは、圧延率が92%、91%、80%、78%といった高い圧延率を採用しており、その後の焼鈍は300℃×1時間、270℃×7時間、230℃×17時間という低温域での長時間焼鈍を行っている。そして、得られる強度は、焼鈍上がりで300℃×1時間の場合の耐力が379MPa、270℃×7時間の場合の耐力が399MPa、230℃×17時間の場合の耐力は534MPaであり、焼鈍上がりとしては比較的高強度であることが報告されている。
また、特許文献3では微細粒を得る方法が述べられ、高い引張強度と良好な曲げ性とが実施例に報告されている。しかし、ここに応力緩和性に関する言及はなく、再結晶焼鈍を連続焼鈍法で行うことが記述されているが、該当実施例では結晶粒径が1.8μmの一例が開示されている。
更に、α+β黄銅に関しては、非特許文献4に、結晶粒微細化による高強度化の研究結果が報告されている。ここでは強加工と比較的低い温度での長時間焼鈍によってα相とβ相との2相混合組織からなる微細結晶粒を得て、更にこれを加工し、低温焼鈍すると高強度且つ曲げ加工性も比較的良好な材料が得られると報告されている。また、応力緩和性が結晶粒微細化に伴って悪化すること、低温焼鈍により若干の改善を見ることが報告されている。
特開昭53−32819号公報 特開平11−264039号公報 特開2004−292875号公報 日本伸銅協会発行 伸銅品データブック p.19 銅と銅合金41、1、29 銅と銅合金43、1、21 伸銅技術研究会誌39,1,128 日本伸銅協会発行 伸銅品データブック p.226
しかしながら、非特許文献2及び非特許文献3に開示の発明において、最も優れた耐力を示した230℃×17時間の焼鈍を行った場合を考えるに、冷間加工によって加工硬化した状態から、十分に焼鈍軟化しきれない状態まで持って行き、そこで焼鈍を止めて曲げ加工性を改善し比較的高い強度を得ている。このときに得られる結晶組織は、不均一な再結晶状態が形成されているため耐力は534MPa程度まで低下し、不十分なものと判断出来る。
一方、特許文献3は、強度と曲げ性とのバランスに優れた黄銅の製造方法の好ましい一例を示唆している。しかし、具体的強度と曲げ性とのバランスを考え得る例示は一例のみで、しかも曲げ性の評価は、曲げに有利な曲げ方向(Good Way)を採用しているように、厳しい曲げ加工性条件(Bad Way)での良好な曲げ加工性を示すものではない。また、応力緩和性については何らの言及もない。
また、α+β黄銅の場合、α相とβ相との2相混合組織からなる微細結晶粒をもってしても、リン青銅の持つ耐力と曲げ加工性とのバランスには遙かに及ばないのが実情であり、後述する数5の式には対応出来ない。
以上のことから、本件発明は、リン青銅に匹敵する耐力と曲げ加工性を持った黄銅材を提供することを目的とする。しかも、本件発明に係る黄銅材は、微細粒組織とすることでりん青銅に匹敵する耐力と良好な曲げ加工性を付与されても、応力緩和特性の劣化が無いという点に特徴を有する。また、本件発明に係る黄銅を提供するために好適な加工焼鈍方法を提供するものである。
(本件発明に係るα黄銅)
本件発明に係るα黄銅は、銅、亜鉛以外の添加をせずに、加工方法に工夫を加えることによって、強度及び曲げ加工性に優れた黄銅を提供するものである。
本件発明に係るα黄銅は、銅82重量%〜62重量%と、残部亜鉛及び不可避不純物とからなる強化α黄銅において、0.2%耐力が540MPa〜800MPaであり、圧延方向を曲げ軸とする直角曲げでクラックの生じない最小曲げ半径(MBR)と、板厚(t)と、0.2%耐力(σ0.2)とが、以下の数3の関係を満たすことを特徴としたものである。但し、MBR/tの値が、0.3以下のときは0.3とみなして取り扱う。
次に、本件発明に係る銅82重量%〜62重量%と、残部亜鉛及び不可避不純物とからなる強化α黄銅において、0.2%耐力が590MPa〜800MPaであり、圧延方向を曲げ軸とする直角曲げでクラックの生じない最小曲げ半径(MBR)と、板厚(t)と、0.2%耐力(σ0.2)とが、以下の数4の関係を満たすことを特徴としたものとすることがより好ましい。
また、以上に述べてきた強化α黄銅の結晶組織は、加工歪が強く残っている粒(最多頻度の粒径が1〜2μmの高転位密度粒)と、歪の再編成が起こった組織(最多頻度の粒径が0.2〜1.5μmの再編成転位粒(セル状組織))の混合微細組織をとることを特徴とするものである。
(本件発明に係る強化α黄銅の製造方法)
本件発明に係る強化α黄銅の製造方法は、黄銅板材に対し、最終再結晶焼鈍を370℃〜600℃の条件で行い、その後7%〜55%の最終冷間圧延を加え、更に、バッチ方式で板材の実体温度170℃〜230℃の条件、又は、連続方式で加熱炉の炉温250℃〜450℃の条件で低温焼鈍することを特徴とすることを特徴とする。
また、本件発明に係る強化α黄銅の製造方法として、黄銅板材に対し、最終再結晶焼鈍を255℃〜290℃の条件で行い、その後7%〜55%の最終冷間圧延を加え、更に、バッチ方式で板材の実体温度170℃〜230℃の条件、又は、連続方式で加熱炉の炉温250℃〜450℃の条件で低温焼鈍し結晶組織を混合微細組織とすることを特徴とする製造方法を採用することも好ましい。
上述の製造方法における再結晶焼鈍後の、ビッカース硬度も140Hv〜160Hvとなるように調整することが好ましい。
上記製造方法において、低温焼鈍は、連続方式で加熱炉の炉温250℃〜450℃の温度範囲を採用して行うことが好ましい。
本件発明に係る強化α黄銅は、銅82重量%〜62重量%と、残部亜鉛及び不可避不純物とからなる組成をもち、他の合金元素を含んでいない。しかしながら、その結晶組織は緻密且つ均一で、高転位密度粒と再編成粒との混合組織であり、リン青銅並み若しくはリン青銅を超える機械的物性を示し、耐力と曲げ加工性能とのバランスに優れたものであり、しかも応力緩和特性は黄銅従来材より優れたものである。そして、本件発明に係る強化α黄銅の製造方法は、上述の優れた物性を安定的に得ることが可能で、しかも、工業的規模での生産に適したものである。
(本件発明に係る強化α黄銅の形態)
本件発明に係るα黄銅は、上述のように銅82重量%〜62重量%と、残部亜鉛及び不可避不純物とからなる強化α黄銅である。ここで、α黄銅と称しているものは、最も銅分の低い丹銅と称されている部分を含むα相単相の銅−亜鉛合金のことである。また、本件発明に係る強化α黄銅の特徴としては、リン青銅並みの曲げ加工性と従来の黄銅材より優れた応力緩和性を発揮することも可能となる。
ここで本件発明に係る強化α黄銅の組成を上述のように定めた理由に関して説明する。銅−亜鉛合金において、銅成分量が82重量%を超えると、強度レベルが低くなり無理に強度を上げると曲げ加工性が悪くなる傾向が顕著となる。また、銅成分量が62重量%未満の場合には、β相が出現し、α相の単層組織とすることが出来ない。更に、不可避不純物に関しては、伸銅品一般で言えるようにコストを下げるために使用するスクラップ原料についての考慮が必要である。不純物としてのFeは、再結晶温度に影響を与えるので0.01重量%以下であることが望ましい。不純物としてのSnは、特に悪影響は与えないが、0.1重量%を超えると、強度や耐食性に好影響を与えるので別合金として取り扱うべきものと考える。不純物としてのSは、熱間加工性や最終製品の展伸、切削等の加工性に悪影響を与えるので0.003重量%以下に抑えることが望ましい。
そして、本件発明に係るα黄銅では、引張強さではなく、主に設計の基準として利用される0.2%耐力を用いた。従って、耐力を用いて、強度の指標としている。また、本発明で曲げ加工性と称する場合、種々の曲げ試験の内、直角曲げの曲げ軸を圧延方向と平行にして行う所謂Bad way曲げを行い、評価することを前提としている。圧延方向に垂直な方向を曲げ軸(Good way)として曲げ試験を行うと、黄銅の場合には、必ず圧延方向に平行な曲げ軸での曲げと比べ、より良い結果を得られるのが通常であり、製法の選別には不適である。そこで本件明細書ではBad way曲げのみを評価に用いた。
ここで、曲げ加工性について述べると、MBR/tが0.3以下であれば、ほぼどのような加工方法を採用しても欠陥を生ぜず問題ない。これに対し、MBR/tが1.0以下であれば、材料設計上許容される場合も多い。更に、MBR/tが3を超えると、曲げ加工がしにくくなり、用途が大幅に制限される。従来の黄銅では、MBR/tが1.0を超るようになる550MPaを超える耐力の製品は少なく、500MPa近辺より耐力が低くなると曲げ加工性に問題は無くなる。
しかしながら、従来の黄銅であっても、530MPaの耐力を示し、MBR/tが0.3以下をクリアできるものも存在する。このことを考え、本発明に係る強化α黄銅の耐力が、540MPa未満であるとすれば、従来の黄銅でも対応出来る範囲となるので技術的価値は生じないと判断出来る。更に、従来の黄銅であっても、560MPa以上の耐力とすることは可能であるが、係る場合にはMBR/tが一般的な材料設計許容値である1.0を超えるため好ましくない。
また(1)式のリン青銅の曲げ加工性が耐力590MPa未満ではMBR/tが0.3以下となるので本発明品のリン青銅に対する有用性が低くなる。また耐力800MPa超ではMBR/tが3を超えることになり実用的でない。
本件明細書において、本件発明に係る強化α黄銅は、その物性と組織の構成を持って規定した。ここでは、本件発明に係る強化α黄銅の物性を、リン青銅のそれと対比しつつ説明する。そこで、リン青銅の曲げ加工性について、本件発明に係る強化α黄銅と対比可能なように、説明を加えておくこととする。本件発明に係る強化α黄銅の曲げ加工性評価に用いたと同じ評価法によるデータを上記非特許文献5で見ると、クラックを生じない最小曲げ半径をMBR、板厚をt、0.2%耐力をσ0.2とするとリン青銅の曲げ加工性は、以下の数5で表せる。
数5を図中に表すと、図1の(1)として示した直線になる。厚さtのリン青銅の場合、最小曲げ半径(MBR)と、0.2%耐力との関係が、ほぼ(1)式に沿ったものとなる。従って、(1)式の近傍にある場合をリン青銅並みの物性を備えると判断する。(1)式のリン青銅の曲げ加工性は、耐力590MPa未満ではMBR/tが0.3以下となるが、耐力800MPa超ではMBR/tが3を超えることになり曲げ加工が困難となり実用的でない。現実にリン青銅を測定してみると、この(1)式に沿わない場合もある、例えば、耐力が低い側また耐力が高い側では、計算式より高いMBR/tとなる傾向が見られる。このことを前提として、以下、本件発明に係る強化α黄銅に関して説明する。
第1の強化α黄銅の物性は、0.2%耐力が540MPa〜800MPaであり、圧延方向を曲げ軸とする直角曲げ(Bad way曲げ)でクラックの生じない最小曲げ半径(MBR)と、板厚(t)と、0.2%耐力(σ0.2)とが、以下の数6の関係を満たすことを特徴としたものである。但し、MBR/tの値が、0.3以下のときは0.3とみなして取り扱う。
この数6は、図1の中で言えば、(1)式を基準にすれば、(2)式はY軸方向(Y軸はMBR/t)の+方向に0.3だけシフトした状態となる。従って、数6を満足し、リン青銅の品質にも一定のバラツキが存在することを考慮すると、本件発明に係る強化α黄銅は、リン青銅並みの曲げ加工性を持っていると称することが出来る。MBR/tの値と、σ0.2の値との関係が、数6で示す範囲外であるときは、曲げ加工性が悪くなる。ここで、MBR/tの計算値が0.3以下になる場合には、0.3とみなすとしたのは、リン青銅と同様に耐力が低い側では、計算式より高いMBR/tとなる傾向があること、そして、MBR/tの計算値が0.3以下の場合には曲げ加工性が問題となる事が少なく、更に測定に一定のバラツキが存在することを前提に考えた。
第2の強化α黄銅の物性は、0.2%耐力が590MPa〜800MPaであり、圧延方向を曲げ軸とする直角曲げ(Bad way曲げ)でクラックの生じない最小曲げ半径(MBR)と、板厚(t)と、0.2%耐力(σ0.2)とが、以下の数7の関係を満たすことを特徴としたものである。
上記数7を示した図1を見るに、図1の表中で最も下意に位置するものとなる。従って、耐力と曲げ加工性能とに特に優れた品質バランスを持つと言え、リン青銅の持つ曲げ加工性能を超えるものといえる。後述する製造方法を採用することで、耐力590MPa以上で、リン青銅より優れた曲げ加工性が実現され数7が満たされる。最終冷間加工率が低く耐力590MPa未満となった場合は数7は成立しなくなる。
ここで、数6または数7を満足する強化α黄銅は、総じて平均結晶粒径が2μm以下の再結晶組織から派生した組織である。すなわち、後述する製造方法で得られる低温焼鈍後の回復組織を備え、且つ、再結晶時の平均結晶粒径が2μm以下の大きさになると、数6または数7に沿った相関性が見られるようになり好ましい。更に、数7を満足する強化α黄銅は、[耐力]/[引張強さ]の値が80%以上でかつ平均結晶粒径が1.5μm以下の再結晶組織から派生した組織である。すなわち、後述する製造方法で得られる低温焼鈍後の回復組織を備え、且つ、再結晶時の[耐力]/[引張強さ]の値が80%以上でかつ平均結晶粒径が1.5μm以下の大きさになると、数7に沿った相関性が見られるようになり好ましい。
以上述べてきた本発明に係る強化α黄銅の結晶組織の構成に関する規定であるが、結晶組織を透過型電子顕微鏡で確認することで明らかとなる。数6または数7を満足する強化α黄銅の結晶組織内に、加工歪が強く残っている粒(最多頻度の粒径が1μm〜2μmの高転位密度粒)と、歪の再編成が起こった組織(最多頻度の粒径が0.2μm〜1.5μmの再編成粒(セル状組織))の混合微細組織である場合に、耐力と曲げ加工性とのバランスが良好な範囲にあり、リン青銅と同等若しくはリン青銅を超える曲げ加工性能を発揮することとが明らかとなってきた。以上に述べた強化α黄銅の結晶組織は、低温焼鈍により歪が開放された粒と開放されていない粒が混合された微細組織であるが、この微細組織は微細2相混合組織と類似しており、不均質すべりを助長し、曲げ加工性を改善していると解される。また、低温焼鈍により応力緩和性が改善されるので、上記組織を有することが良好な曲げ加工性を確保する意味でも、良好な応力緩和性を確保する意味でも必須ということになる。
(強化α黄銅の製造形態)
α黄銅に関しては、結晶粒を微細にすれば焼鈍後の強度が高くなることは広く知られている。また、結晶粒が微細な黄銅を試作するには、高い加工率で圧延した後、比較的低い温度で長時間焼鈍を繰り返しすればよいことも公知である。例えば、特許文献3に開示の製造方法では、高い加工率による加工を複数回組み合わせることが必須要件となっているので、比較的厚い製品の製造を行おうとすると困難な場合もある。更に、この特許文献3では、最終の再結晶焼鈍の前の焼鈍については、数点の焼鈍温度の例示があるのみで、係る焼鈍条件が重要視されていない。
しかしながら、理論的な製造方法に関する種々の提言は行われても、製造条件管理も困難で、工業的に量産可能な製造条件は見い出されていなかった。そこで、本件発明者等の鋭意研究の結果、工業的な生産性に優れ、しかも製品品質のバラツキを少なくすることの出来る微細結晶粒組織を得る条件に想到した。以下に述べる製造方法は、工業的利用の容易なものである。
本件発明に係る強化α黄銅を得るためには、再結晶焼鈍の際、細かく均質な結晶粒を得、それを所望の強度が出るよう圧延し、更に、一部の組織の歪が取れた所望の組織とするための低温焼鈍をするのである。このように細かく均質な結晶粒を得るためには、再結晶焼鈍前の冷間加工率及びその前の結晶粒径についても制御が必要である。
この製造方法を説明する前に、ここで言う焼鈍温度、焼鈍時間について明記しておくことにする。バッチ焼鈍の場合は、実体温度が測定可能で、温度は実体温度、時間はその温度±5℃での保持時間とする。これに対し、連続焼鈍の場合は実体温度の測定が困難で、所定の温度とした加熱炉中に通板すると徐々に板温は上昇し、加熱炉出口で最高温度となる。出口温度は、本発明の温度条件で言う加熱炉温度より数度から数十度低くなると考えられる。従って、焼鈍温度は加熱炉の温度、焼鈍時間は加熱炉中を通過している時間で表現することが妥当である。連続焼鈍をする炉は本発明では連続方式走間焼鈍炉を前提としている。方式としてはラジアントチューブ式、プレナムチャンバー式、があり、横型のフローティング方式にも静圧方式と噴流式動圧浮上方式などがあるが、いずれの方法を採用しても問題はない。しかし、最も好適には、プレナムチャンバー式の噴流式動圧浮上方式が昇温しやすく制御しやすい。いずれの場合でも焼鈍時間に関しての細かい限定は実際的でなく、装置の特性に合わせて定めるべきものである。
第1製造方法; 本件発明に係る強化α黄銅の第1の製造方法は、黄銅板材に対し、最終再結晶焼鈍を370℃〜600℃で行い、その後7%〜55%の最終冷間圧延を加え、更に低温焼鈍することを特徴とするものである。
ここで言う「黄銅板材」とは、黄銅インゴットの状態から1以上の圧延工程、再結晶焼鈍を受け、最終的な最終再結晶焼鈍及び最終冷間圧延処理を受ける前の板状態のものを意味している。そして、この黄銅板材は、(1)平均結晶粒径を1〜2μmに調整した板材を任意の加工率で圧延した後のもの。(2)平均結晶粒径を3〜6μmに調整した焼鈍材を70〜82%の加工率で圧延した後のもの。(3)任意の粒径の焼鈍材を83%以上の加工率で圧延した後のもの。以上のいずれかの状態のものを用いることが好ましい。
また、最終再結晶処理によって、[耐力]/[引張強さ]の値が80%以上で且つ平均結晶粒径が1.5μm以下である最終再結晶処理材を得て、その後調質加工と低温焼鈍を経て、製品として使用することも可能である。このときの黄銅板材には、平均結晶粒径を3μm〜6μmに連続焼鈍法で調整した焼鈍材を70%〜82%の加工率で圧延した後のもの、又は平均結晶粒径を1μm〜2μmに連続焼鈍法で調整した焼鈍材を50%〜82%の加工率で圧延した後のもの、のいずれかを用いることが好ましい。
最終冷間圧延前の最終再結晶焼鈍では、再結晶焼鈍を行う前の板材の加工率を高くしたり、その最終再結晶焼鈍の前の焼鈍で結晶粒度を小さくする程、微細な結晶粒が得られることが知られている。しかし、工業的に求められる所望の厚みは、ある程度決まっており、コスト上有利となる加工率は自ずと定まるものであるし、最終再結晶焼鈍の更に前の焼鈍で結晶粒径を小さくする程、その後の冷間圧延での圧延圧力が高く、パス回数が増える等の不具合が生じる。そこで、本件発明に係る強化α黄銅の製造方法では、最終冷間圧延前の最終再結晶焼鈍前に、強圧延加工を行える場合には、結晶粒径の大きなものでも結晶粒の微細化の可能な上記(3)の黄銅板材を用いることができ、中程度の圧延加工を適用出来る場合には上記(2)の黄銅板材、圧延時の圧下率を低めに設定しようとする場合には、上記(1)のような結晶粒径の黄銅板材を用いるのである。また、薄い製品を製造する場合には、(1)または(2)の工程を更に繰り返すことになるが、特性上も好ましいものとなる。
黄銅板材として、(1)平均結晶粒径を1μm〜2μmに調整した板材を任意の加工率で圧延した後のものを用いる場合に関して述べる。結晶粒径が1μm〜2μmの場合は、以下の冷間圧延において20%〜82%の加工率を採用し、低加工率であっても、その後の再結晶焼鈍で微細粒を容易に得ることが出来る。そして、その後の工程を経ても高い耐力と良好な曲げ加工性を得ることが可能となる。なお、工業的に見て、平均結晶粒径が1μm未満の結晶粒の製造は困難である。ここで言う平均結晶粒径のレベルを得るためには、その前の工程で(3)又は(2)の条件を満たしておく必要がある。なお、平均結晶粒径を1μm〜2μmに調整した板材の、その後の圧延時の加工率が50%未満の場合は、再結晶処理を行うと結晶粒径に大きなものが混じる場合があり、数7を満足させようとした場合には好ましくない。
黄銅板材として、(2)平均結晶粒径を3μm〜6μmに調整した焼鈍材を70%〜82%の加工率で圧延した後のものを用いる場合に関して説明する。加工前の結晶粒径が6μmを超えると82%の加工を加えても、十分な結晶粒の微細化が出来ず曲げ加工性が悪くなる。また、結晶粒径が3μm未満の平均結晶粒径の場合、その後の圧延圧力が高くなるので不利である。また、この加工前の平均結晶粒径が3μm〜6μmの場合において、加工率が70%未満の場合には適正な結晶粒の微細化が出来ず、曲げ加工性が悪くなる。
黄銅板材として、(3)任意の粒径の焼鈍材を83%以上の加工率で圧延した後のものを用いる場合に関して説明する。これは、焼鈍前の加工率を83%以上とした場合には、前の結晶粒度が大きくても、その強加工によって、1μm前後のサブグレイン組織となるので、以後の工程を経ても、本件発明の目的とする良好な耐力と曲げ加工性を得ることが出来るためである。なお、上記任意の粒径の焼鈍材は、熱間圧延上がり材の場合も含む。なお、熱間圧延上がりの板材の結晶組織の粒径は、小型試験用圧延機を用いると100μm〜200μmだが、工業用熱間圧延機の場合は、動的再結晶を起こして25μm程度となる。発明者は、どちらの熱間圧延上がり材からスタートしても、83%以上の加工を加えると、性能上差がなくなることを確認している。
本件発明に係る強化α黄銅の製造方法では、以上に述べた黄銅板材に対し、最終再結晶焼鈍を370℃〜600℃の温度で行う。この最終冷間圧延前の最終再結晶焼鈍は、連続的に炉を通板させることによって行う場合を主に想定している。このとき、炉温が370℃未満とした場合には、通板速度を落として再結晶を行わせても得られる製品の曲げ加工性が悪くなる。一方、炉温が600℃を超えるようにすると、結晶粒径が2.0μmを超えるほど大きくなり、後述する低温焼鈍を更に加えても曲げ加工性が悪くなる。このときの最終再結晶焼鈍時間は、炉の能力と板厚と所望の強度によって定めるものであるが、通常の工業的設備の場合、10秒〜120秒の範囲となる。現実的に適正な時間を定めようとすれば、簡易的には硬度で管理し、ビッカース硬度が140Hv〜160Hvとなるように定める。ビッカース硬度が、この範囲の中に無ければ、最終製品としての強化α黄銅の曲げ加工性が悪くなる。この最終再結晶焼鈍の終了した段階の板材で、曲げ加工性のみを見ると、曲げ半径が0でも問題なく曲げ加工が可能である。
以上のように連続的に再結晶焼鈍を行うメリットは、コスト削減と品質安定性の確保が容易となる。バッチ方式では、炉内における位置によっての温度の偏在が起こりやすくなる傾向がある。また、バッチ方式の焼鈍を行うと最終再結晶焼鈍後の[耐力]/[引張強さ]の値が80%未満であるのに対し、連続方式加熱法を採用した場合の最終再結晶焼鈍後の[耐力]/[引張強さ]の値は80%以上と高くなる。従って、バッチ方式の加熱よりも連続方式の加熱の方が、以下の最終冷間加工及び低温焼鈍を経て得られる強化α黄銅の耐力を590MPa以上の範囲とする場合でも、比較的低加工率の加工が可能であり、リン青銅を超える良好な曲げ加工性を得るためには有利と言えるのである。そして、このような効果は、バッチ方式に比べ、連続方式の場合の焼鈍温度は高く、加熱時間が短時間であるため、結晶粒度の分布が狭くなるか、転位の残存形態の差により生じるのではないかと考えられる。
そして、最終再結晶焼鈍後の最終冷間加工の加工率は、7%〜55%の範囲を採用する。当該加工率が、7%未満の場合には、後述する低温焼鈍を行っても耐力が低くなる。一方、最終冷間加工の加工率が55%を超えるものとすると、加工硬化が進行し耐力の向上は見られても、曲げ加工性がMBR/tで3を超えるようになり、機械的物性バランスの良い強化α黄銅とはいえなくなる。更に、最終冷間加工として30%前後の加工を加えた後の板材を用いて、曲げ試験を実施してみると、最終再結晶焼鈍の条件によってはリン青銅並みの曲げ加工性が得られる場合がある。従って、低温焼鈍を行わずとも、応力緩和性が問題にならない用途では、この段階での強化α黄銅を製品として使用出来る場合が考えられる。
最終的に行う低温焼鈍は、単に低い温度で行う歪み取り焼鈍をさすのではなく、いわゆる低温焼鈍硬化現象を伴う処理を言う。この低温焼鈍は、低温焼鈍硬化が起こる条件として、バッチ方式での焼鈍の場合には、実体温度で170℃〜230℃×0.5時間〜5時間の条件を採用することが好ましい。実体温度が170℃未満の場合には、歪が開放された粒が少なく、曲げ加工性が悪くなる。一方、実体温度が230℃を超える場合は、結晶粒成長が起こり、曲げ加工性が再び悪くなる。この低温焼鈍を行うことで、冷間圧延加工上がりより更に優れた曲げ加工性を得ることができ、リン青銅と同等以上の耐力及び曲げ加工性を備えた強化α黄銅となるのである。
また、最終的に行う低温焼鈍を連続炉で行う場合は、炉温を250℃〜450℃、通板時間1秒〜60秒で通板する事が好ましい。炉温が250℃未満の場合には、通板速度を落として加熱処理しても歪が開放された粒が少なくなり、曲げ加工性が悪くなる。一方、炉温が450℃を超えるものとしても、速度を上げても粒成長のため曲げ加工性が悪く耐力も低くなる。
以上に述べた低温焼鈍も、バッチ方式よりも連続方式を採用して行うことが好ましい。連続的に低温焼鈍を行うメリットは、コスト削減と品質安定性の確保が容易となる点においては、最終再結晶焼鈍の場合と同様である。加えて、この低温焼鈍は、最終的な焼鈍であり、低温焼鈍の終了後は条の状態となっているのが通常である。バッチ方式の焼鈍では、条の状態のまま加熱炉に入れ、そのまま加熱されることになる。従って、条に巻き癖がついてしまい、製品として使用する前の矯正工程で、圧延による歪以外に、巻き癖まで矯正を要するが、効果的な矯正が困難となる。これに対し、連続方式は、加熱ゾーンを板材が走行しつつ加熱され、低温焼鈍の終了後に条の状態に巻き取られるため、条としての巻き癖がつかず矯正工程を通せば平坦な条材が得られやすくなる
第2製造方法: 本件発明に係る強化α黄銅の第2の製造方法は、黄銅板材に対し、最終再結晶焼鈍を255℃〜290℃の条件で行い、その後7%〜55%の最終冷間圧延を加え、更に低温焼鈍することを特徴とする製造方法を採用することも好ましい。なお、最終再結晶焼鈍後でビッカース硬度が140Hv〜160Hvとなるように最終再結晶条件を定める。ここでは、上述の本件発明に係る強化α黄銅の第1の製造方法と異なる部分に関してのみ説明する。なお、「黄銅板材」の概念は、上述したと同様である。
最終冷間圧延前の最終再結晶焼鈍をバッチ方式で行う場合には、255℃〜290℃の条件を採用する。ここで、炉温が255℃未満の場合には、所望の強度に合致するように再結晶させると、結晶粒の大きさが不揃い(横軸を粒径の対数で軸とした粒度分布図で見ると、2以上のピークの存在する分布)となり、低温焼鈍しても曲げ加工性が極端に悪くなる。一方、炉温が290℃を超えるものとしても、結晶粒の大きさが不揃いで、平均粒径も大きくなり、これを低温焼鈍しても曲げ加工性の悪い製品しか得られない。
最終再結晶焼鈍時間は、上記実体温度範囲での保持時間が0.5時間未満の場合には、再結晶が不十分となる。一方、当該保持時間が、5時間を越えると結晶粒が大きくなり、低温焼鈍しても曲げ加工性が悪くなる。
そして、最終再結晶焼鈍後の最終冷間加工の加工率は、やはり7%〜55%の範囲を採用する。当該加工率が、7%未満の場合には、後述する低温焼鈍を行っても耐力が低くなる。一方、最終冷間加工の加工率が55%を超えるものとすると、加工硬化が進行し耐力の向上は見られても、曲げ加工性がMBR/tで3を超えるようになり、機械的物性バランスの良い強化α黄銅とはいえなくなる。以下、最終的に行う低温焼鈍は、第1製造方法の場合と同様である。
以上のように本発明の強化α黄銅を得るためには、最終再結晶焼鈍の際に細かく均質な結晶粒を得て、それを所望の強度が出るよう圧延し、更に、これを一部の組織が歪の取れた所望の結晶組織とする低温焼鈍を行うものと言い表せる。なお、細かく均質な結晶粒を得るためには、最終再結晶焼鈍前の冷間加工率及びその前の結晶粒径についても一定のレベルでの制御が必要である。
以下、実施例を通じて本件発明をより詳細に説明するが、以下の実施例及び比較例で製造し、評価を行った黄銅インゴットの化学組成を表1に示しておくこととする。ここで、インゴット1、インゴット5、インゴット6は、製造現場鋳造工場で半連続鋳造法で得た試料である。インゴット2、インゴット3、インゴット4は、実験室の溶解炉で溶解し、30mm×100mm×200mmに金型で鋳造して得たものである。
この表1から分かるように、インゴット1〜インゴット6は、いずれも銅82重量%〜62重量%であり、残部亜鉛及び不可避不純物とからなるという条件を満たしている。更に、以下の実施例及び比較例では、上記表1に示したインゴットのいずれかを用いて、強化黄銅とした製造条件を表2に示している。
インゴット1を、熱間圧延、面削、冷間圧延を経て結晶粒径が4μmとなる連続焼鈍と78%の冷間加工を行ったものを黄銅板材として用い、更に表2の条件で連続焼鈍酸洗ラインで最終再結晶焼鈍(表2では、単に「再結晶焼鈍」として記載)した。その後、表2の最終冷間圧延率で冷間圧延加工した。試料1〜試料3は、同一鋳造ロットでの最終再結晶焼鈍等の条件により区分けしたコイルであるが、以下のような試料として分別した。試料1及び試料2は、表2に示す最終冷間圧延率で圧延した後、脱脂処理し、バッチ方式の炉で低温焼鈍したものである。試料3は、表2に示す最終冷間圧延率での冷間圧延加工の後、脱脂処理し、連続焼鈍ラインで低温焼鈍したものである。なお、最終再結晶焼鈍の時点の厚みは0.40mmであった。これらの機械的物性、応力緩和性、結晶粒径を評価し、表4に示した。表4の計算値は、数6に示す式の右辺の計算値である。実測MBRは、厚み0.1mm〜1.0mmmのサンプルに関してはルーペ観察で、厚み0.1mm未満のサンプルでは50倍の顕微鏡観察でしたときにクラック発生の無い最低の曲げ半径を意味し、厚みが1.0mm超の場合には、肉眼で幅の広い裂け目がない最低の曲げ半径を意味するものとする。更に、応力緩和値は、日本伸銅協会技術標準JCBA T309に基づき120℃×100時間の条件で求めた応力緩和値である。また、平均結晶粒径は、線分法または写真比較法で求めた。
表4から分かるように、試料1及び試料2でも、上記数7の式を満たす最小曲げ半径(MBR)、板厚(t)、0.2%耐力(σ0.2)の関係が得られており、リン青銅よりも優れた曲げ加工性が得られていると判断出来る。また、応力緩和性も従来材として対比に用いたの参考例1と比べ、より低く優れている。
更に、試料1及び試料2については、日本伸銅協会技術標準JCBA T309に基づき応力緩和値を120℃×100時間で求め、試料1で48%、試料2で41%、という結果を得た。更に、試料1および試料2については、JCBA T312に基づき曲げたわみ係数を求めた。その結果、試料1で103000、試料2で100000MPaという結果であった。そして、引張試験片の形に試料を作り50MPaの静荷重をかけ、平行部はアンモニア水と水1:1からなる液からの蒸気にさらされるようにして、応力腐食割れ試験を行った。その結果、破断までの時間は試料1で27時間、試料2で22時間であった。バネ限界値は、試料1で547MPa、試料2で648MPaでリン青銅並みであった。更に、試料1に関しては、100万回の両振り疲労限を測定したところ220MPaで一般リン青銅並みであった。
次に、試料3は、最終冷間圧延率が低い場合の実施例であるが、耐力と曲げのバランスを考えるに、同じ加工率を採用した実施例(後述する実施例6)に比べ、引張強さと耐力とが格段に高くなっている。これは、最終再結晶焼鈍を連続方式で行った効果もあると考える。耐力と曲げとのバランスを考えるに、本件明細書の中に含まれる実施例の中で言えば、特に優れた曲げ加工性を示してはいない。しかしながら、耐力が低い領域では数6の式より曲げ加工性が多少悪くなる傾向もあるようであるし、表4から明らかなように現実的には問題のない曲げ加工性を示している。この試料3の応力緩和率は、120℃×100時間後に45%であった。低温焼鈍を連続方式で行っているが、バッチ方式に比べて、機械的特性面での差異は見られなかった。ちなみに、低温焼鈍前の試料で応力緩和率を測ると、53%であった。低温焼鈍を連続方式で行う効果は、後述するように条としたときの巻き癖が無いという点が大きな利点となる。
この実施例では、試料4及び試料5を以下のように調製して得た。試料4は、インゴット6を、熱間圧延、面削、84%の冷間圧延の後、表2に示す最終再結晶焼鈍以降の処理を行って得た。ただし、最終冷間圧延、低温焼鈍は現場連続焼鈍材から取得したサンプルを、実験室で処理した。低温焼鈍は塩浴中で行った。上がり厚みは1.27mmである。評価結果を表4から見ると、試料4は再結晶焼鈍が1回のみのためか、他の試料より特性はやや劣ると判断できる。
そして、試料5では、試料4の最終再結晶焼鈍材を、更に加工率56%で冷間加工した黄銅板材とした後、表2の処理(最終再結晶焼鈍、低温焼鈍は連続焼鈍炉を使用)の全てを現場ラインを用いて行った。上がり厚みは0.52mmである。評価結果を表4から見ると、耐力と曲げのバランスは数7を満たし優れていると判断できる。そして、応力緩和特性も従来材より優れていると判断できる。
この実施例では、インゴット6を、熱間圧延、面削、84%の冷間圧延の後、結晶粒径が4μmとなる連続焼鈍、78%の冷間圧延、420℃×12秒の連続焼鈍(得られた結晶粒径は1.4μm)、更に70%の冷間圧延した黄銅板材を得た後、表2に掲載した処理を行った。最終再結晶処理は連続焼鈍、低温焼鈍はバッチ焼鈍である。全工程を現場ラインで行い、最終厚みは0.08mmとした。そして、評価結果を表4からみると、耐力と曲げのバランスは数7を満たし非常に優れていると判断できる。また、応力緩和特性も従来材より優れていると判断できる。
最後に製品とした条の巻き癖に関して、念のために改めて述べておく。試料1、試料2、試料3、試料5、試料6は、それぞれ現場ラインを用いて低温焼鈍を施したものである。そして、これらの試料に低温焼鈍後テンションレベラーで矯正作業を行った。その結果、試料1及び試料2は、矯正前にある低温焼鈍による巻き癖が圧延歪とともにあり、矯正後にも満足のいく矯正は出来ず歪が板幅方向の片側端部に残った。一方、試料3及び試料5では、低温焼鈍による歪は生じず、矯正により平坦な製品板を得ることが出来た。なお、形状が平坦でない製品は、高速プレスにかけることが出来ず、現実的な意味での使用は出来ない。更に、試料6の場合は、厚みが薄いのでバッチ焼鈍しても巻き癖はつかなかった。
インゴット2を用い、実験室で熱間圧延、冷間圧延の後、結晶粒径5μmとなる再結晶焼鈍を行い、78%の冷間圧延をした板材とした。その後、その板材を、表2に示した条件で、270℃での再結晶焼鈍、25%の最終冷間圧延、205℃の温度で低温焼鈍し強化α黄銅試料を作成した。最終厚みは0.3mmである。低温焼鈍は、いずれも実験室のマッフル炉で実体温度を測定しながら行った。機械的物性評価の結果を、以下の表4に示した。
インゴット3を用い、実験室で熱間圧延、冷間圧延の後、結晶粒径5μmとなる再結晶焼鈍を行い、78%の冷間圧延をした板材とした。その後、その板材を、表2に示した条件で、270℃での再結晶焼鈍、25%の最終冷間圧延、205℃の温度で低温焼鈍し強化α黄銅試料を作成した。最終厚みは0.3mmである。低温焼鈍は、いずれも実験室のマッフル炉で実体温度を測定しながら行った。機械的物性評価の結果を、以下の表4に示した。
インゴット4を用い、実験室で熱間圧延、冷間圧延の後、結晶粒径5μmとなる再結晶焼鈍を行い、78%の冷間圧延をした黄銅板材とした。その後、その黄銅板材を、表2に示した条件で、270℃での最終再結晶焼鈍、25%の最終冷間圧延率による圧延加工をし、205℃の温度で低温焼鈍し強化α黄銅試料を作成した。低温焼鈍は、いずれも実験室のマッフル炉で実体温度を測定しながら行った。最終厚みは0.3mmである。機械的物性評価の結果を、上記の実施例と共に表4に示した。
この表4から分かることは、本件発明に係る強化α黄銅の組成の中で銅の成分量を変動させても、大きな差異は生ぜず、リン青銅並みの機械的物性が得られることが分かる。
この実施例では、実施例2の試料4の最終再結晶焼鈍材を、実験室的に加工率が20%の冷間圧延加工を行い黄銅板材とし、この黄銅板材に塩浴による焼鈍440℃×10秒という条件で最終再結晶焼鈍を行い、加工率30%の最終冷間圧延加工と、280℃×10秒の低温焼鈍を加え試料を調製した。このときの平均結晶粒径は2.6μmで、機械的性質は表3に掲載した。そして、この実施例7は、実施例8の結果と併せて、適正な加工率を立証するための実施例である。
この実施例では、実施例2の試料4の最終再結晶焼鈍材を、実験室的に加工率が40%の冷間圧延加工を行い黄銅板材とし、この黄銅板材に塩浴による焼鈍420℃×10秒の条件で最終再結晶焼鈍を行い、加工率30%の圧延加工と、280℃×10秒の低温焼鈍を加え試料を調製した。このときの平均結晶粒径は2.3μmで、機械的性質は表3に掲載した。そして、この実施例8は、実施例7の結果と併せて、適正な加工率を立証するための実施例である。
この表3から明らかになるように、平均結晶粒径が1.9μmの板材に加工率20%の圧延加工を加えても、所望の範囲内の特性が得られることが分かる。しかしながら、強度が相対的に低く結晶粒径も大きいままであるので、望ましくは40%以上の加工率を採用することが望ましいと判断できる。
比較例
(比較例1)
比較例1は、試料1の低温焼鈍を省略したものである。低温焼鈍を省略しても、良好な耐力と曲げ加工性とのバランスを確保出来る事が証明出来る。従って、低温焼鈍が不要な用途に生産コストを削減した安価な価格で提供できる可能性がある。このように再結晶焼鈍後、冷間加工を加え、低温焼鈍を無くしてもリン青銅並みの曲げ加工性を示す黄銅の結晶組織は、再結晶焼鈍時の平均結晶粒径が1.0〜1.5μで、結晶粒の大きさがそろっている場合であり、このような組織を安定的に得るには、連続方式による焼鈍が適する。なお、表4の実施例1の試料1と比較例1とを対比すれば明らかとなるが、比較例1は低温焼鈍が省略されているため、強度が低く耐力と曲げ加工性とのバランスが、試料1より悪くなっている。
(比較例2)
実施例4の試料を作成する際、低温焼鈍をする前に採取した試料である。従って、最終再結晶焼鈍をバッチ方式で行い、低温焼鈍の無い試料である。この比較例2の試料の加工条件は表2に、機械的物性評価結果は表4に他の実施例及び比較例と共に掲載している。最終再結晶焼鈍がバッチ方式であり結晶組織のバラツキ(粒度分布のブロード化)が生じたと考えられ、その結果、耐力及び硬さに問題はないが、製品の曲げ加工性が悪いという結果が出ている。
(比較例3)
インゴット2を用い、実験室において、従来工程に似せて実施例4と同等の耐力を備える試料を作ろうとした。即ち、ここでの試料は、熱間圧延、冷間圧延の後、結晶粒径が35μmになるように焼鈍後、53%の加工率で冷間加工した。その後、当該試料を、表2の条件で処理した。なお、再結晶焼鈍は、従来工程の連続焼鈍に似せられるように、塩浴を用いて行った。最終再結晶焼鈍後の結晶粒径は15μmとなった。そして、加工率65%の最終圧延後の結果を表4に示した。この表4から分かるように、最終圧延率を高くして耐力を上げると曲げ加工性が大きく劣化すると言える。なお、最終厚みは0.3mmである。
(比較例4)
インゴット3を用い、実験室において、従来工程に似せて実施例5の試料と同等の耐力を備える試料を作ろうと試みた。ここでの試料は、熱間圧延、冷間圧延の後、結晶粒径が、45μmになるように焼鈍後、53%の加工率で冷間加工した。その後、表2の条件で最終再結晶焼鈍及び最終冷間圧延を行った。このときの最終再結晶焼鈍は、従来工程の連続焼鈍に似せられるよう、塩浴を用いて行った。再結晶焼鈍後の結晶粒径は25μmとなった。そして、加工率65%の最終冷間圧延後の機械的物性の評価結果を表4に示した。この表4から分かるように、最終冷間圧延率を高くして耐力を上げると曲げ加工性が大きく劣化すると言える。なお、最終厚みは0.3mmである。
(比較例5)
インゴット4を用い、実験室において、従来工程に似せて実施例6の試料と同等の耐力を備える試料を作ろうと試みた。ここでの試料は、熱間圧延、冷間圧延の後、結晶粒径が、45μmになるように焼鈍後、53%の加工率で冷間加工した。その後、表2の条件で最終再結晶焼鈍及び最終冷間圧延を行った。このときの最終再結晶焼鈍は、従来工程の連続焼鈍に似せられるよう、塩浴を用いて行った。最終再結晶焼鈍後の結晶粒径は20μmとなった。そして、加工率65%の最終冷間圧延後の機械的物性の評価結果を表4に示した。この表4から分かるように、最終冷間圧延率を高くして耐力を上げると曲げ加工性が大きく劣化すると言える。なお、最終厚みは0.3mmである。
(比較例6)
試料1の結晶粒径が4μmとなる焼鈍が終わった段階で試料を採取し、78%の冷間加工の後、表2に示す低温条件で最終再結晶焼鈍し、さらに冷間加工した。最終再結晶焼鈍は、実験室マッフル炉で実施例5と同等の耐力となるように行った。この試料の機械的物性の評価結果を表4に示す。実施例5と比較して、このように最終再結晶温度が低すぎると、耐力と硬さに問題はないが、曲げ加工性に悪影響を与えると言える。なお、最終厚みは0.26mmである。
(比較例7)
試料1の結晶粒径が4μmとなる焼鈍が終わった段階で試料を採取し、78%の冷間加工の後、表2の高温条件で最終再結晶焼鈍し、さらに最終冷間圧延加工した。焼鈍は実験室マッフル炉で実施例5と同等の耐力となるように行った。この試料の機械的物性の評価結果を表4に示す。表4から分かるように、実施例5と比較して最終再結晶温度が高すぎる場合には、耐力と硬さに問題はないが、曲げ加工性が悪くなると言える。なお、最終厚みは0.26mmである。
(参考例)
インゴット5から生産ラインで製造された製品から試料を採取した。この試料の結晶粒径は5μmだった。この試料の機械的物性の評価結果は表4に、他の実施例及び比較例と同時に掲載した。この試料を用いて、実施例1と同様に応力緩和試験、曲げたわみ係数測定、応力腐食試験、疲労限の測定を行った。結果は応力緩和は52%、曲げたわみ係数102000MPa、応力腐食割れ破断時間4時間、疲労限160MPaであった。試料1及び試料2は、参考例1に対し、応力緩和率、耐応力腐食割れ性、疲労限において優れ、強度的に高いのにもかかわらず、曲げたわみ係数も同等となっていることが分かる。
<実施例と比較例との対比>
表4で単に「MBR/t」として示した「MBR/t(実測値)」と、「MBR/t(計算値)」として示した「MBR/t」とに着目してみると、実施例の場合には全て、「MBR/t(実測値)」≦「MBR/t(計算値)」という関係が成立している。これに対し、比較例は、比較例1(応力緩和性が悪い例)を除き、「MBR/t(実測値)」>「MBR/t(計算値)」という関係が成立している。従って、上記実施例の強化α黄銅は、計算値以上に良好な曲げ加工性を備え、大部分の比較例と比べて曲げ加工性に優れていると言える。
次に0.2%耐力に着目すると、実施例の強化α黄銅は、556MPa〜743MPaの値を示している。これに対して、比較例の黄銅の0.2%耐力は576MPa〜610MPaであり、上限値において大きな差が見られ、本件発明に係る強化α黄銅の方が耐力的に見ても優れていることが分かる。
また、硬度(ビッカース硬度)に着目すると、実施例の強化α黄銅は、190Hv〜214Hvの範囲の硬度を示している。これに対して、比較例の黄銅の硬度は、184Hv〜197Hvの範囲である。この硬度の分布も、本件発明に係る強化α黄銅が優れた機械的強度を備え、耐摩耗性も向上させる硬度を備えること示唆している。
更に、引張強さを見るに、実施例の強化α黄銅は、606MPa〜776MPaの値を示している。これに対し、比較例の黄銅は、633MPa〜700MPaの値を示している。従って、上限値において大きな差が見られ、本件発明に係る強化α黄銅の方が高い引張り強さを得られることが分かる。
なお、表4には、参考的に最終再結晶焼鈍後の特性を掲載しているが、各実施例の試料の耐力は、比較例の試料の耐力よりも総じて高くなっている。そして、引張り強さにおいても、同様の傾向を示している。更に、最終再結晶焼鈍後の特性として、[耐力]/[引張強さ]の値を見ると、実施例では74%〜83%の範囲を示し、80%以上の値も得ている。これに対し、比較例では、実施例1の試料1に施した低温焼鈍を省略した比較例1を除き、35%〜76%である。従って、本件発明に係る強化α黄銅の機械的物性を高くし、曲げ加工性を向上させるためには、再結晶焼鈍により形成される組織特性が重要であることが理解出来る。
以上のように最終再結晶焼鈍後の機械的物性が重要と考えたのは、以下の理由による。強化α黄銅の曲げ加工性を改善するためには、曲げ方向(Bad Way、Good Way)による曲げ加工性が持つ異方性を少なくすることが必要と考えられる。そして、このような異方性は、圧延による強加工が行われるほど、顕著になる傾向にある。そこで、最終再結晶焼鈍後の加工率を低くすることが必要と考えた。従って、当該最終再結晶焼鈍後の加工率が低くとも、最終製品の強化α黄銅の段階で良好な強度と曲げ加工性を同時に達成するためには、再結晶焼鈍上がりでの強度が既に高い状態にあることが必要となると考えるからである。
更に、応力緩和性について実施例と比較例と参考例とを比較すると、上記実施例に係る強化α黄銅の応力緩和性は、最終冷間圧延加工の直後では、従来工程を経た結晶粒径5μmレベルの市販黄銅の52%と同等かやや劣るものとなる。しかし、低温焼鈍を施すことにより市販黄銅(従来材、参考例)より優れた40〜48%という応力緩和性を示すものとなる。
以上、強度と曲げ加工性とについて実施例と比較例とを対比してきたが、コネクターなどの電子部品に用いる場合、この他に耐応力腐食割れ性、疲労特性、バネ限界値等に優れていることが要求されることが多い。上記実施例に係る強化α黄銅の耐応力腐食割れ性は、市販黄銅より優れた耐応力腐食割れ性を示す。更に、疲労特性は、従来の市販黄銅より優れ、一般リン青銅並みとなる。また、バネ限界値も、低温焼鈍を施すことによりリン青銅と同等になる。
図2として、実施例2で得た試料5(低温焼鈍上がり品)の、透過型電子顕微鏡写真を示す。また、図3には、図2において認められる低温焼鈍により発生した再編成転位粒の確認位置(図面中にハッチングで示した領域)を概略的に図示している。従って、図2と図3とを重ね合わせて見ることにより、透過型電子顕微鏡での再編成転位粒の状態が把握できる。この再編成転位粒は、セル組織とも呼ばれ、転位が再編成されてネット状に観察できる。そして、ネットワークが形成されていない部分は、加工により転位が絡み合ったままであり、黒く観察される。このように、本発明に係る製造方法のように、低温焼鈍を採用して得られた組織は混合組織から構成されている。更に、図2の右下にある1000nmスケールを参照することで理解できるように、この混合組織は、加工歪が強く残っている粒の最多頻度の粒径が1〜2μmの高転位密度粒であり、歪の再編成が起こった組織の最多頻度の粒径が0.2〜1.5μmの再編成転位粒であることが分かる。
本件発明に係る強化α黄銅は、組成的に見れば一般のα黄銅組成を備える。しかしながら、適正な圧延プロセス及び熱処理を施すことで、従来のα黄銅には無かったリン青銅と同等若しくはリン青銅を超える強度と曲げ加工性のバランスを示すものとなる。このような強化α黄銅は、コネクター等の電子部品や機構部品に好適で、且つ、安価な材料としての供給が可能となる。
また、本件発明に係る強化α黄銅の製造方法は、従来から使用している圧延製造ラインに何ら改良を加えることなく、そのまま使用することが可能であり、特段の設備投資を要さないため、工業的生産規模での高品質の強化α黄銅の効率の良い生産を可能とする。
最小曲げ半径(MBR/t)と耐力との相関関係を示した概念図である。 実施例2で調製した試料5の透過型電子顕微鏡観察像である。 図2の透過型電子顕微鏡観察像における再編成転位粒の分布領域を示した図である。

Claims (8)

  1. 銅82重量%〜62重量%と、残部亜鉛及び不可避不純物とからなる強化α黄銅において、
    0.2%耐力が540MPa〜800MPaであり、
    圧延方向を曲げ軸とする直角曲げでクラックの生じない最小曲げ半径(MBR)と、板厚(t)と、0.2%耐力(σ0.2)とが数1の関係を満たし、
    且つ、結晶組織を構成する結晶粒が、加工歪の強く残っている粒(最多頻度の粒径が1〜2μmの高転位密度粒)と、歪の再編成が起こった組織(最多頻度の粒径が0.2〜1.5μmの再編成転位粒)の混合微細組織であることを特徴とした強化α黄銅。
  2. 銅82重量%〜62重量%と、残部亜鉛及び不可避不純物とからなる強化α黄銅において、
    0.2%耐力が590MPa〜800MPaであり、
    圧延方向を曲げ軸とする直角曲げでクラックの生じない最小曲げ半径(MBR)と、板厚(t)と、0.2%耐力(σ0.2)とが数2の関係を満たし、
    且つ、結晶組織を構成する結晶粒が、加工歪の強く残っている粒(最多頻度の粒径が1〜2μmの高転位密度粒)と、歪の再編成が起こった組織(最多頻度の粒径が0.2〜1.5μmの再編成転位粒)の混合微細組織であることを特徴とした強化α黄銅。
  3. 銅82重量%〜62重量%と、残部亜鉛及び不可避不純物とからなる強化α黄銅の製造方法であって、
    黄銅板材に対し、最終再結晶焼鈍を370℃〜600℃の条件で行い、その後7%〜55%の最終冷間圧延を加え、更に、バッチ方式で板材の実体温度170℃〜230℃の条件、又は、連続方式で加熱炉の炉温250℃〜450℃の条件で低温焼鈍することを特徴とする強化α黄銅の製造方法。
  4. 銅82重量%〜62重量%と、残部亜鉛及び不可避不純物とからなるα黄銅の製造方法であって、
    黄銅板材に対し、最終再結晶焼鈍を255℃〜290℃の条件で行い、その後7%〜55%の最終冷間圧延を加え、更に、バッチ方式で板材の実体温度170℃〜230℃の条件、又は、連続方式で加熱炉の炉温250℃〜450℃の条件で低温焼鈍し結晶組織を混合微細組織とすることを特徴とする強化α黄銅の製造方法。
  5. 再結晶焼鈍後の、ビッカース硬度が140Hv〜160Hvとなるように調整した請求項3又は請求項4に記載の強化α黄銅の製造方法。
  6. 最終冷間圧延前の板材は、平均結晶粒径を1〜2μmに調整した板材を、20〜82%の加工率で圧延した後のものである請求項3〜請求項5のいずれかに記載の強化α黄銅の製造方法。
  7. 最終冷間圧延前の板材は、平均結晶粒径を3〜6μmに調整した板材を、70〜82%の加工率で圧延した後のものである請求項3〜請求項5のいずれかに記載の強化α黄銅の製造方法。
  8. 最終冷間圧延前の板材は、平均結晶粒径が任意の板材を、83%以上の加工率で圧延した後のものである請求項3〜請求項5のいずれかに記載の強化α黄銅の製造方法。
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