以下図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1はブラシレスモータがエンジンに取り付けられて、エンジンの始動時にブラシレスモータとして運転され、エンジンが始動した後は磁石発電機として運転される場合に本発明を適用した実施形態を示したもので、同図において1は磁石発電機としても運転されるブラシレスモータ、2はバッテリからなる直流電源、3はブラシレスモータ1と直流電源2との間に設けられたインバータ回路、4はマイクロプロセッサを備えて、インバータ回路3を制御するコントローラ、5はブラシレスモータ1の回転子の位置が予め定めた位置に一致したときにパルス信号を発生する信号発生装置、6は過渡電流を流す際に閉じられる過渡電流通電用スイッチ、7uないし7wはブラシレスモータの電機子コイルを構成するU,V,W3相のコイルをそれぞれ流れる電流を検出する電流検出手段である。
更に詳細に説明すると、図1において、10は鉄などの強磁性材料によりほぼカップ状を呈するように構成された回転子ヨークで、この回転子ヨークは、その底壁部の中央部に取り付けられたボス部がエンジン(図示せず。)のクランク軸に嵌合されて取り付けられている。回転子ヨーク10の周壁部10aの内周に永久磁石が取り付けられて偶数極の界磁が構成されている。本実施形態では、180°間隔で配置された2個の円弧状の永久磁石M1及びM2が、回転子ヨーク10の周壁部10aの内周に接着等により取り付けられ、これらの永久磁石が着磁方向を異にして径方向に着磁されることにより、回転子ヨークの内周に2極の磁石界磁が構成されている。回転子ヨーク10と永久磁石M1及びM2とにより回転子1Aが構成されている。この例では、磁石回転子1Aが、エンジンの正回転時に図1において反時計方向(矢印CCW方向)に回転させられるものとする。
磁石回転子1Aの内側には、固定子1Bが配置されている。固定子1Bは、環状に形成された継鉄部の外周部から3個の突極部を放射状に突出させた構造を有する公知の星形環状電機子鉄心(図示せず。)と、この電機子鉄心の3個の突極部にそれぞれ巻回された3相のコイルLuないしLwとからなっている。3相のコイルLuないしLwは星形結線され、これらの電機子コイルの中性点と反対側の端末部から3相の端子1u,1v及び1wが引き出されている。
固定子1Bは、エンジンのケースの一部に形成された固定子取付け部に固定され、電機子鉄心の3個の突極部のそれぞれの先端に形成された磁極部が磁石回転子1Aの磁石界磁の磁極に所定のギャップを介して対向させられる。
回転子ヨーク10の周壁部10aの外周には、該周壁部の周方向に延びる円弧状の突起からなる3つのリラクタ11ないし13が120°間隔で形成され、これらのリラクタ11ないし13と回転子ヨーク10とにより信号発生用ロータ5Aが構成されている。またロータ5Aの近傍に、リラクタ11ないし13のそれぞれの回転方向の前端側エッジ及び後端側エッジをそれぞれ検出したときに極性が異なるパルス信号を発生するパルサ5Bが配置され、信号発生用ロータ5Aとパルサ5Bとにより、磁束変化検出形の信号発生装置5が構成されている。なお本明細書において、磁束変化検出形の信号発生装置とは、ロータの回転に伴って、コイルに鎖交する磁束に変化を生じさせることにより、コイルに信号電圧を誘起させる形式の信号発生装置を意味する。
パルサ5Bは、エンジンのケース等に固定されていて、リラクタ11ないし13のそれぞれの回転方向の前端側エッジを検出したときに第1の極性のパルス信号を発生し、リラクタ11ないし13のそれぞれの回転方向の後端側エッジを検出したときに第2の極性のパルス信号を発生する。本実施形態では、各リラクタが60°の極弧角を有していて、3つのリラクタ11ないし13が120°間隔で設けられているため、パルサ5Bは、回転子1Aが1回転する間に60°間隔で6つのパルス信号を発生する。これら6つのパルス信号がそれぞれ発生するタイミングが、180°スイッチング駆動によりブラシレスモータを駆動する際の通電パターンの6つの切換タイミング(励磁相の切換タイミング)に一致するように、リラクタ11ないし13及びパルサ5Bが設けられている。
パルサ5Bが発生するパルス信号は、コントローラ4のパルス信号入力端子4aに入力されている。パルス信号入力端子4aに入力されたパルス信号は、コントローラ4内に設けられた波形整形回路によりマイクロプロセッサが認識し得る信号に変換されて、コントローラ4内のマイクロプロセッサに入力されている。
インバータ回路3は、オンオフ制御が自在なスイッチ素子と帰還ダイオードとを逆並列接続して構成したエレメントにより3相ブリッジ回路の各辺を構成した周知の回路からなる。図示の例では、一端が共通接続されたスイッチ素子Qu,Qv及びQwと、これらのスイッチ素子にそれぞれ逆並列接続された帰還ダイオードDu,Dv及びDwとによりブリッジの3つの上アームが構成され、スイッチ素子Qu,Qv及びQwのそれぞれの他端に一端が接続されるとともに他端が共通接続されたスイッチ素子Qx,Qy及びQzと、これらのスイッチ素子にそれぞれ逆並列接続された帰還ダイオードDx,Dy及びDzによりブリッジの3つの下アームが構成されている。本実施形態では、インバータ回路3のブリッジの各アームを構成するスイッチ素子としてMOSFETが用いられ、MOSFETのドレインソース間に形成された寄生ダイオードが帰還ダイオードとして用いられている。
スイッチ素子QuないしQw及びQxないしQzの制御端子(図示の例ではMOSFETのゲート)にはそれぞれコントローラ4から駆動信号SuないしSw及びSxないしSzが与えられている。スイッチ素子QuないしQw及びQxないしQzは、駆動信号SuないしSw及びSxないしSzが与えられている間オン状態を保持し、駆動信号SuないしSw及びSxないしSzが除去されたときにオフ状態になる。
図示のインバータ回路3においては、ブリッジの上アームを構成するスイッチ素子Qu,Qv,Qwの一端の共通接続点及び下アームを構成するスイッチ素子Qx,Qy,Qzの他端の共通接続点がそれぞれプラス側及びマイナス側の直流側端子3a及び3bとなっており、スイッチ素子Qu,Qv,Qwの他端とスイッチ素子Qx,Qy,Qzの一端との接続点がそれぞれ交流側端子3u,3v,3wとなっている。直流側端子3a,3b間に直流電源2が接続され、交流側端子3u,3v及び3wにそれぞれ電機子コイルLu,Lv及びLwの非中性点側端子(中性点と反対側の端子)から引き出された3相の端子1u,1v及び1wが、電流検出器7uないし7wを構成するシャント抵抗器RiuないしRiwを通して接続されている。
図示のインバータ回路3においては、ダイオードDu,Dv,Dw,Dx,Dy及びDzにより全波整流回路が構成され、ブラシレスモータ1が外部から駆動されて磁石発電機として運転される際に、電機子コイルLuないしLwに誘起する3相交流電圧がこの全波整流回路により直流電圧に変換されて直流電源2を構成するバッテリに充電用電圧として印加される。
本実施形態においては、ブラシレスモータ1が停止している状態で、その回転子1Aの位置(回転子の界磁と電機子コイルの各相のコイルとの間の位置関係)を判定するため、電機子コイルLuないしLwの中性点と接地間に過渡電流通電用スイッチ6が挿入されている。
過渡電流通電用スイッチ6は、エミッタが接地されたNPNトランジスタからなっていて、該トランジスタのコレクタがコイルLuないしLwの中性点に接続され、ベースがコントローラ4に設けられたスイッチ制御信号出力端子4bに接続されている。
電流検出器7uないし7wをそれぞれ構成するシャント抵抗器RiuないしRiwのそれぞれの両端に得られる検出信号は、演算増幅器OPuないしOPwを通してコントローラ4の電流検出信号入力端子4cに入力されている。
前述のように、本発明に係わる制御方法では、モータの始動時に、固定子1Bの各相の電機子コイルに一時的に直流電圧を印加して各相の電機子コイルに過渡電流を流す過程を3相のコイルのそれぞれに対して行なう過渡電流通電過程と、過渡電流通電過程で3相のコイルにそれぞれ流れた過渡電流から回転子が3相のコイルに対して如何なる位置にあるかを判定する回転子位置判定過程とを行うことにより、回転子1Aの位置を判定する。このようにして判定した回転子の位置に基づいて回転子を所定の方向に回転させるために必要な通電パターンを決定し、決定した通電パターンで電機子コイルに電流を流すようにインバータ回路3を制御する。
本発明に係わる制御装置を構成するため、コントローラ4のマイクロプロセッサに所定のプログラムを実行させることにより、図2に示す各種の手段を構成する。図2において、20は過電流通電手段で、この過電流通電手段は、固定子1Bの各相の電機子コイルの中性点と反対側の端子と接地電位部との間に電圧を印加した状態で過渡電流通電用スイッチ6を短時間オン状態にして中性点を一時的に接地電位部に接続することにより、電機子コイルの3相のコイルLuないしLwに一時的に過渡電流を流す過渡電流通電過程を行なう。
また21は始動時回転子位置判定手段で、この判定手段は、過渡電流通電手段20が3相のコイルにそれぞれ流した過渡電流を電流検出手段7uないし7wの出力から検出して、検出した過渡電流から回転子1Aの界磁が3相のコイルLuないしLwに対して如何なる位置にあるかを判定するための処理を行う。
本実施形態では、過渡電流通電手段20と始動時回転子位置判定手段21とにより、過渡電流通電過程で3相のコイルLuないしLwにそれぞれ流れた過渡電流を検出して、検出した過渡電流から回転子の位置を判定する始動時回転子位置判定手段22が構成されている。
23は始動時通電パターン決定手段、24は始動時インバータ制御手段である。本発明では、直流電源2から3相のコイルLuないしLwのうちの2相のコイルに中性点に対して同方向の電流を流し、他の1相のコイルには2相のコイルを流れる電流の和の電流を流す通電パターンで電機子電流を流すものとして、回転子を所定の方向(本実施形態では図1の矢印CCW方向)に回転させるべく、同方向の電流を流す2相の組み合わせを切り換えて、通電パターンを切り換える制御を行わせる。
始動時通電パターン決定手段23は、始動時回転子位置判定手段22により判定された回転子の位置に基づいて、回転子を所定の方向に回転させるために必要な電機子コイルへの通電パターンを決定する。また始動時インバータ制御手段24は、始動時通電パターン決定手段23により決定された通電パターンに従って3相のコイルLuないしLwに電流を流すように、インバータ回路3の上アームの3つのスイッチ素子QuないしQwのうちの1つと下アームの3つのスイッチ素子QxないしQzのうちの2つとを同時にオン状態にするか、またはインバータ回路3の下アームの3つのスイッチ素子QxないしQzのうちの1つと上アームの3つのスイッチ素子QuないしQwのうちの2つとを同時にオン状態にするように、インバータ回路3のスイッチ素子を制御する。
この例では、固定子の各相のコイルに一時的に直流電圧を印加して各相のコイルに過渡電流を流す過渡電流通電過程を3相のコイルのそれぞれに対して行なう過渡電流通電手段20と、過渡電流通電過程で3相のコイルにそれぞれ流れた過渡電流を検出して、検出した過渡電流から回転子1Aの位置を判定する始動時回転子位置判定手段21と、始動時回転子位置判定手段21により判定された回転子の位置に基づいて回転子を所定の方向に回転させるために必要な通電パターンを決定する始動時通電パターン決定手段23と、始動時通電パターン決定手段23により決定された通電パターンで電機子コイルに通電するようにインバータ回路3を制御する始動時インバータ制御手段24とにより、ブラシレスモータの始動時にインバータ回路3を制御する始動時インバータ制御部25が構成されている。
また26は、信号発生装置5が発生するパルス信号から得られる回転子1Aの位置情報に基づいて回転子1Aが固定子1Bの3相のコイルLuないしLwに対して如何なる位置にあるのかを判定する定常時回転子位置判定手段、27は、定常時回転子位置判定手段26により判定された位置に基づいて回転子を所定の方向に回転させるために必要な通電パターンを決定する定常時通電パターン決定手段、28は、定常時通電パターン決定手段27により決定された通電パターンで3相のコイルLuないしLwに電流を流すように、インバータ回路3のスイッチ素子を制御する定常時インバータ制御手段である。
本実施形態では、モータの定常運転時において、3相のコイルのうちの2相のコイルに中性点に対して同方向に電流を流し、他の1相のコイルには2相のコイルを流れる電流の和の電流を流す通電パターンで電機子電流を流すものとして、回転子を所定の方向に回転させるべく、通電パターンを切り換える制御(180°スイッチング制御)を行う。そのため、定常運転時においては、インバータ回路3のブリッジの上アームまたは下アームの2つのスイッチ素子と、これら2つのスイッチ素子に直列に接続されている下アームまたは上アームの2つのスイッチ素子を除く下アームまたは上アームの1つのスイッチ素子とを同時にオン状態にするスイッチパターンでインバータ回路のスイッチ素子をオンオフ制御する。
この例では、定常時回転子位置判定手段26と、定常時通電パターン決定手段27と、定常時インバータ制御手段28とにより、ブラシレスモータの定常運転時にインバータ回路3を制御する定常時インバータ制御部29が構成されている。
更に、30は、3相のコイルにそれぞれ流れる電流を検出している電流検出手段7uないし7wにより検出された電流のうち、最も大きい電流が設定された上限値に達したときに電流制限信号SLを発生する電流制限信号発生手段、31は、電機子電流が上限値に達して電流制限信号SLが発生したときに直流電源から電機子コイルへの電流の供給を停止した状態にして、3相のコイルのうちの2相のコイルに中性点に対して同方向に電流を流し、他の1相のコイルには2相のコイルを流れる電流の和の電流を流す電流の流し方で電機子コイルを通して循環電流を流すようにインバータ回路を制御して電流制限制御の駆動停止過程を行なわせる駆動停止時インバータ制御手段である。
電機子電流が上限値に達したときに、直流電源から電機子コイルへの電流の供給を停止して上記のようなパターンで循環電流を流すには、インバータ回路のブリッジの下アームの3つのスイッチ素子のオンオフの状態はそのままにして、上アームの3つのスイッチ素子の内、オン状態にある1つまたは2つのスイッチ素子をオフ状態にするか、またはインバータ回路のブリッジの上アームの3つのスイッチ素子のオンオフの状態をそのままにして下アームを構成する3つのスイッチ素子の内、オン状態ある1つまたは2つのスイッチ素子をオフ状態にすればよい。即ち、電機子電流が上限値に達したときに、インバータ回路の上アームの3つのスイッチ素子QuないしQwの内の2つのスイッチ素子がオン状態にあり、下アームの3つのスイッチ素子QxないしQzの内の1つのスイッチ素子がオン状態にあるときには、下アームでオン状態にある1つのスイッチ素子をオン状態にしたままで上アームでオン状態にある2つのスイッチ素子を同時にオフ状態にするか、または上アームでオン状態にある2つのスイッチ素子をオン状態にしたままで、下アームでオン状態にある1つのスイッチ素子をオフ状態にすることにより、上記のパターンで循環電流を流すことができる。また電機子電流が上限値に達したときに、インバータ回路の上アームの3つのスイッチ素子QuないしQwの内の1つのスイッチ素子がオン状態にあり、下アームの3つのスイッチ素子QxないしQzの内の2つのスイッチ素子がオン状態にあるときには、上アームでオン状態にある1つのスイッチ素子をオン状態にしたままで下アームでオン状態にある2つのスイッチ素子を同時にオフ状態にするか、または下アームでオン状態にある2つのスイッチ素子をオン状態にしたままで、上アームでオン状態にある1つのスイッチ素子をオフ状態にすることにより、上記のパターンで循環電流を流すことができる。
前述のように、本実施形態では、モータの定常運転時に180°スイッチング制御を行うため、定常運転時においては、インバータ回路のブリッジの上アームまたは下アームの2つのスイッチ素子と、これら2つのスイッチ素子に直列に接続されている2つのスイッチ素子を除く下アームまたは上アームの1つのスイッチ素子とを同時にオン状態にするスイッチパターンでインバータ回路のスイッチ素子をオンオフ制御する。この場合、電機子電流が上限値に達したときに、オン状態にある上アームまたは下アームの2つのスイッチ素子をそのままオン状態に保持し、他のスイッチ素子をオフ状態にするか、またはオン状態にある上アームまたは下アームの1つのスイッチ素子をそのままオン状態に保持し、他のスイッチ素子をオフ状態にすることにより、上記のパターンで循環電流を流すことができる。
32は電流制限時減衰割合演算手段で、この演算手段は、直流電源(図示の例ではバッテリ)から電機子コイルへの電流の供給が停止している間に中性点に対して同方向に電流が流れている電機子コイルの2相を判定対象相として、該判定対象相の2相の一方及び他方をそれぞれ流れている電流の減衰割合をそれぞれ第1及び第2の減衰割合として演算する。
33は電流制限時回転子位置判定手段で、この判定手段は、上記第1及び第2の減衰割合の差から回転子1Aの位置を判定する。
また34は電流制限時通電パターン決定手段で、このパターン決定手段34は、駆動過程で直流電源から3相のコイルLu〜Lwのうちの2相のコイルに中性点に対して同方向の電流を流し、他の1相のコイルには2相のコイルを流れる電流の和の電流を流す通電パターンで直流電源から電機子コイルに電機子電流を流すものとして、電流制限時回転子位置判定手段33により判定された回転子の位置に対して回転子の回転を維持するのに適した通電パターンを決定する。
また35は電流制限時モータ駆動用インバータ制御手段で、この制御手段は、電流制限時通電パターン決定手段34により決定された通電パターンで直流電源から電機子コイルに電流を流して電流制限制御の駆動過程を行なわせるようにインバータ回路3を制御する。
この例では、電流制限信号発生手段30と、駆動停止時インバータ制御手段31と、電流制限時減衰割合演算手段32と、電流制限時回転子位置判定手段33と、電流制限時通電パターン決定手段34と、電流制限時インバータ制御手段35とにより、ブラシレスモータの電流制限時にインバータ回路3を制御する電流制限時インバータ制御部36が構成されている。
また37は制御切換手段で、この制御切換手段は、モータの始動時には始動時インバータ制御部25によりインバータ回路3を制御し、信号発生装置5がしきい値以上のレベルを有するパルス信号を発生する回転速度までブラシレスモータの回転速度が上昇した後は、定常時インバータ制御部29によりインバータ回路3を制御し、モータの始動時または定常運転時にモータがロックに近い状態になって電流制限制御が行われるときには、電流制限時インバータ制御部36によりインバータ回路3を制御するように制御を切り換える。
図示の制御切換手段は、始動スイッチ等の始動/停止指令発生手段38から始動指令が与えられたときに、始動時インバータ制御部25によるインバータ回路3の制御を開始してモータを始動させ、信号発生装置5が発生したパルス信号が認識されるようになったときに、定常時インバータ制御部29によるインバータ回路3の制御を開始する。またモータの始動時または定常運転時にモータがロック状態またはロックに近い状態になって、電流制限信号発生手段30が電流制限信号SLを発生したときに、駆動停止時インバータ制御手段31によるインバータ回路3の制御を行わせて、インバータ回路の上アームまたは下アームで同時にオン状態になっている2つのスイッチ素子をオン状態のままにし、オン状態にあった下アームまたは上アームの他の1つのスイッチ素子をオフ状態にすることにより、直流電源から電機子コイルへの電流の供給を停止させるとともに、3相のコイルのうちの2相のコイルに中性点に対して同方向に電流を流し、他の1相のコイルには前記2相のコイルを流れる電流の和の電流を流す電流の流し方で、電機子コイルを通して循環電流を流して、駆動停止過程を行なわせる。
制御切換手段37はまた、電源制限時減衰割合演算手段32により、判定対象相の2相のコイルを流れている電流の減衰割合の演算を行わせた後、電流制限時回転子位置判定手段33による回転子位置の判定と、電流制限時通電パターン決定手段34による通電パターンの決定とを行わせる。制御切換手段37はまた、直流電源から電機子コイルへの電流の供給を停止した後、一定時間が経過したときに、電流制限時モータ駆動用インバータ制御手段35によるインバータ回路3の制御を開始して駆動過程を開始させるか、または直流電源から電機子コイルへの電流の供給を停止した後、電機子電流が上限値よりも低く設定された制限解除値まで減少したことが検出されたときに、電流制限時モータ駆動用インバータ制御手段35によるインバータ回路3の制御を開始して駆動過程を開始させる。そして、モータのロック状態が解消してその回転速度が上昇し、信号発生装置5がしきい値以上のパルス信号を発生したことが検出されたときに、インバータ回路3の制御を定常時インバータ制御部29による制御に切り換える。
ここで、本発明においてモータの始動時に回転子の位置を検出する方法の原理を説明する。図1に示したブラシレスモータ1においては、各相の電機子コイルの中性点と反対側の端子から電流が流れ込んだときに、コイルの極性が外側から見てN極になるように、各相の電機子コイルが巻かれている。
今、3相のコイルLuないしLwに電流が流れていないとすると、固定子の電機子鉄心に流れる磁束の大きさは、磁石界磁と各相の電機子コイルとの位置関係により異なる。ここで、図1の状態から回転子1Aを反時計方向に30°ずつ段階的に回転させたとして、図3(A)ないし(L)に示すように30°ずつ位置が異なる位置P1ないしP12を考え、P1ないしP12の位置でU相の電機子鉄心に流れる磁束φを磁石による起磁力に対して図示すると、図4に示すようになる。位置P6とP8においては、回転子が線対称な位置関係にあるため、U相の電機子鉄心を流れる磁束は同じになる。同様に、位置P9〜P12のそれぞれにおける回転子の位置は、位置P5ないしP2のそれぞれにおける回転子の位置と線対称な関係にあるため、位置P9,P10,P11,P12のそれぞれの位置でU相の電機子鉄心に流れる磁束の大きさはそれぞれ、位置P5,P4,P3,P2の位置でU相の電機子鉄心に流れる磁束の大きさと同一である。また図4に示した位置P13は、位置P1と同じ位置であり、この位置P13でU相の電機子鉄心に流れる磁束は位置P1の位置でU相の電機子鉄心に流れる磁束と同一である。
上記のように、界磁を有する回転子と3相の電機子コイルを有する固定子とからなるブラシレスモータにおいて、電機子コイルに電流が流れていないときに電機子鉄心に流れる磁束は、界磁の位置と各相の電機子コイルとの間の相対的な位置関係(回転子の各相の電機子コイルに対する位置)により異なり、各相の電機子コイルのインダクタンスは回転子の位置により異なるため、回転子の位置により各相の電機子コイルに流れる過渡電流が相違する。従って、固定子の各相の電機子コイルに一時的に直流電圧を印加して各相の電機子コイルに過渡電流を流す過程を3相の電機子コイルのそれぞれに対して行なって、3相の電機子コイルにそれぞれ流れた過渡電流の特徴を抽出して比較すると、回転子が各相の電機子コイルに対して如何なる位置にあるかを判定することができる。
図5に示したように、抵抗rとインダクタンスLとの直列回路にトランジスタTR1を通して直流電源2の電圧Eを印加する回路を構成して、トランジスタTR1をオン状態にしたとすると、以下の(1)式により与えられる過渡電流iが流れる。
i=(E/r)[1−exp{−(r/L)t}] …(1)
ここで、抵抗rが一定であるとし、インダクタンスLがLa,Lb及びLcの値(La<Lb<Lc)をとったとすると、r/La>r/Lb>r/Lcの関係が成り立つため、インダクタンスの値がLa,Lb及びLcのときにそれぞれ流れる過渡電流ia,ib及びicをそれぞれ時間tに対して示すと図6のようになる。
図1に示した例において、回転子の位置が図3(A)に示すP1であるときに、インバータ回路3のスイッチ素子Quをオン状態にし、過渡電流通電用スイッチ6をオン状態にしたとする。このとき図4に示すように、電機子コイルLuに流れる電流ΔIが起磁力ΔFを発生し、U相の電機子鉄心の磁束がΔφ1だけ変化するため、コイルには逆誘起電圧が発生する。回転子が位置P1にあるときのU相の電機子コイルのインダクタンスをL1とし、U相の電機子コイルの巻数をnとすると、L1×ΔI=nΔφ1の関係があるため、回転子が位置P1にあるときのU相の電機子コイルのインダクタンスL1は下記の式により与えられる。
L1=nΔφ1/ΔI …(2)
一方回転子が図3(E)に示すP5の位置にあるときに、インバータ回路3のスイッチ素子Quをオン状態にし、過渡電流通電用スイッチ6をオン状態にしたとすると、電流ΔIが流れることにより発生する起磁力ΔFにより、磁束変化Δφ5が発生する。このときU相の電機子コイルのインダクタンスL5は下記の式により与えられる。
L5=nΔφ5/ΔI …(3)
ここでΔφ1<Δφ5であるため、L1<L5となり、回転子の位置がP1の時及びP5の時にそれぞれ流れる過渡電流i1及びi5は図7に示すようになる。
また回転子の位置がP1であるときには、V相及びW相の電機子コイルに対する回転子の位置が、U相の電機子コイルに対する位置P5の位置に相当する位置になるため、回転子がP1の位置にあるときに、インバータ回路3のスイッチ素子Qvをオン状態にして、過渡電流通電用スイッチ6をオン状態にしたとき、及びインバータ回路3のスイッチ素子Qwをオン状態にして、過渡電流通電用スイッチ6をオン状態にしたときには、上記i5相当の過渡電流が流れる。
上記のように、各相の電機子コイルに一時的に直流電圧を印加した時に流れる過渡電流の波高値及び波形は、回転子1Aの位置により異なるため、固定子の各相の電機子コイルに一時的に直流電圧を印加して各相の電機子コイルに過渡電流を流す過程を3相のコイルのそれぞれに対して行って、3相のコイルにそれぞれ流れた過渡電流の波高値を測定して比較するか、または波高値を比較すると共に、3相のコイルにそれぞれ流れた過渡電流の波形の特徴を比較することにより、回転子の磁石界磁が3相のコイルに対して如何なる位置にあるかを判定することができる。
本発明において、回転子の位置を過渡電流の波高値のみから判定するか、または過渡電流の波高値と波形との双方を用いて判定するかは、スイッチパターンの切換位置を定めるために必要な回転子の位置が得られるか否かにより決める。即ち、3相のコイルにそれぞれ流れた過渡電流の波高値を比較するだけで、スイッチパターンの切換位置を定めるために必要な回転子の位置の情報が得られる場合には、過渡電流の波高値のみを用いて回転子の位置を判定する。また3相のコイルにそれぞれ流れた過渡電流の波高値を比較するだけでは、スイッチパターンの切換位置を定めるために必要な回転子の位置の情報が得られない場合には、過渡電流の波高値と波形(波形から抽出した特徴)との双方を用いて回転子の位置を判定する。
過渡電流の波形を判定の1条件として回転子の位置を判定する際には、m相の電機子コイルにそれぞれ流れた過渡電流の波形の特徴を抽出して、抽出した特徴を比較する。過渡電流の波形の特徴抽出は、例えば下記のようにして行うことができる。
(a)電機子コイルに直流電圧を印加した後、図8(A)に示すように、一定時間τが経過した時点での電流値iaτ及びibτを測定して比較する。
(b)図8(B)に示したように、過渡電流ia及びibが流れ始めた後、一定の電流値isに達するまでに要した時間ta及びtbを測定して比較する。
(c)図8(C)に示したように、過渡電流iの立上がり時の時間的な変化率から波形を判定する。例えば、ib1/t1とia1/t1とを比較するか、ib2/t2とia2/t2とを比較する。
上記のように、ブラシレスモータが停止している時に、スイッチ6を閉じた状態にして、3相のコイルLu,Lv及びLwにつながるインバータ回路のブリッジの上辺のスイッチ素子Qu,Qv及びQwを順次短時間ずつオン状態にする過程を行うことにより、電機子コイルLu,Lv及びLwにそれぞれ過渡電流を流し、3相のコイルLuないしLwにそれぞれ流れた過渡電流の波高値または波高値と波形を比較することにより、回転子1Aの位置を判定することができる。
ブラシレスモータが停止している状態で、回転子1Aが各相の電機子コイルに対して如何なる位置関係にあるかを判定することができれば、その判定結果に基づいて、回転子1Aを所定の方向に回転させるために必要な通電パターンを決定することができるため、決定された通電パターンで電機子コイルに通電するように、インバータ回路のスイッチ素子を制御することにより、回転子を所定の方向に回転させることができる。
ブラシレスモータを回転させることができれば、以後は、制御切換手段36により、インバータ回路3の制御を、始動時インバータ制御部25による制御から定常時インバータ制御部29による制御に切り換えて、信号発生装置5が出力するパルス信号から定常時回転子位置判定手段26により判定した回転子の位置の情報に基づいて、定常時通電パターン決定手段27により通電パターンを決定し、定常時通電パターン決定手段27により決定された通電パターンで電機子コイルに通電するようにインバータ回路3のスイッチ素子を制御してブラシレスモータを回転させることができる。
ブラシレスモータが始動して、回転子1Aが、図3(A)に示すP1の位置に達したときに、インバータ回路の制御を定常時インバータ制御部29による制御に切り換えて、180°スイッチングにより電機子コイルLuないしLwに電流を流すべくインバータ回路3を制御する場合に、信号発生装置5の出力パルス信号に基づいて決定されるスイッチパターンを信号発生装置5の出力パルス信号の波形と共に図9に示した。図9(A)は信号発生装置5が出力するパルス信号の波形を示したもので、Vf11及びVr11はそれぞれ回転子がP1の位置及びP3の位置にあるときに、パルサ5Bがリラクタ11の回転方向の前端側エッジf11及び後端側エッジr11をそれぞれ検出して発生するパルス信号を示し、Vf12及びVr12はそれぞれ回転子がP5の位置及びP7の位置にあるときに、パルサ5Bがリラクタ12の回転方向の前端側エッジf12及び後端側エッジr12をそれぞれ検出して発生するパルス信号を示している。またVf13及びVr13はそれぞれ回転子がP9の位置及びP11の位置にあるときに、パルサ5Bがリラクタ13の回転方向の前端側エッジf13及び後端側エッジr13をそれぞれ検出して発生するパルス信号を示している。
また図9(B)に示した表は、回転子の各位置における通電パターンを得るためにオン状態にするインバータ回路のスイッチ素子の組み合わせ(スイッチパターン)を示したもので、同図において符号U,V及びWが表示された区間はそれぞれ、スイッチ素子Qu,Qv及びQwをオン状態にすることを意味し、符号X,Y及びZが表示された区間はそれぞれ、スイッチ素子Qx,Qy及びQzをオン状態にすることを意味する。例えば、スイッチ素子Qu,Qy及びQzがオン状態にされて、電機子コイルLuに流し込んだ励磁電流を電機子コイルLv及びLwを通して流し出している通電パターンから、回転子がP5の位置に達して、パルス信号Vf12が発生したときには、スイッチパターンを、(Qu,Qy,Qz)から(Qu,Qv,Qz)に切り換えて、電機子コイルLu及びLvにそれぞれ流し込んだ電流を電機子コイルLwを通して流し出す通電パターンに切り換える。また回転子の位置がP7の位置に達したときには、スイッチパターンを(Qu,Qv,Qz)から(Qx,Qv,Qz)に切り換えて、電機子コイルLu及びLvにそれぞれ流し込んだ励磁電流を電機子コイルLwを通して流し出している通電パターンから、電機子コイルLvに流し込んだ励磁電流を電機子コイルLu及びLwを通して流し出す通電パターンに切り換える。
本実施形態では、通電パターンを切り換える位置でパルス信号が発生するようにリラクタとパルサとが設けられているため、制御を切り換えるときの回転子の位置(図9に示した例ではP1の位置)が決まれば、励磁相の決定は容易に行うことができる。
ブラシレスモータの始動時に負荷が重いために、回転子を僅かしか回転させることができないときには、最初の通電パターンである時間駆動し、その間にパルサがパルス信号を発生しない場合には、駆動を一旦止めて、回転子の位置を判定する処理を再度行い、その判定結果に基づいて新たな通電パターンを決定して、決定した通電パターンで電機子コイルに通電するようにインバータ回路を制御する。回転速度が低すぎて、パルサ5Bが識別し得るパルス信号を発生できない状態にある間この制御を続けることにより、ブラシレスモータを連続的に回転させることができる。
特にブラシレスモータによりエンジンを始動する際には、エンジンの圧縮行程で、回転速度を十分に高くすることができず、パルサから識別し得るパルス信号を発生させることができないことが考えられるが、上記の制御を続けると、エンジンの圧縮行程の上死点の手前の位置で負荷がピークを過ぎた時点で回転速度が上昇するので、パルサから識別し得るパルス信号を発生させて、定常時インバータ制御部29による制御に移行させることができ、次の圧縮行程ではモータから十分なトルクを発生させて始動用電動機としての機能を果たすことができる。
上記のように、本実施形態の制御装置では、ブラシレスモータが停止していて、信号発生装置がパルス信号を発生することができないときに、電機子コイルに流した過渡電流から判定した回転子の位置に基づいて決定した通電パターンで電機子コイルに通電するようにインバータ回路を制御してブラシレスモータを始動させるので、ホール素子等の耐熱性が低いセンサを用いたり、レゾルバ等の高価なセンサを用いたりせずに始動時の通電パターンを決定して、ブラシレスモータを始動させることができる。またブラシレスモータが始動した後、その回転速度が上昇して信号発生装置5が識別し得るレベルのパルス信号を発生するようになった後は、信号発生装置5が出力するパルス信号から得られる回転角度情報を用いて判定した回転子の位置に基づいて通電パターンを決定して電機子コイルに通電することができるため、ブラシレスモータを通常のブラシレスモータと同様に回転させることができる。
次に、実際に始動時の通電パターンを決定する方法について説明する。図4において、Δφ1,Δφ2,…はそれぞれ、回転子がP1,P2,P3,…(P8以降は省略)の位置にあるときに図1のスイッチ6をオン状態にして過渡電流を流したときにU相の鉄心に流れる磁束φの変化を示している。また図10の表は、回転子がP1ないしP12のそれぞれの位置にある状態でスイッチ6をオン状態にしてU相ないしW相の電機子コイルにそれぞれ過渡電流を流したときのU相〜W相の鉄心に流れる磁束の変化をまとめて示している。これらU相ないしW相の鉄心を流れる磁束の変化を曲線で示すと図11(A)のようになり、検出される過渡電流の波高値Δiu,Δiv及びΔiwは図11(B)のようになる。図11(B)に示す過渡電流から、最初の通電パターンを決定して、決定した通電パターンで電機子コイルに通電するようにインバータ回路の所定のスイッチ素子に駆動信号を与えることにより、回転子を回転させることができる。
180°スイッチングによりインバータ回路を制御するものとして、回転子がP1ないしP13の位置にあるときに、始動時にオン状態にするインバータ回路のスイッチ素子の組み合わせ(スイッチパターン)を図11(C)に示した。図11(C)に示したスイッチパターンにおいて符号U,V,W,X,Y及びZはそれぞれスイッチ素子Qu,Qv,Qw、Qx,Qy及びQzをオン状態にすることを意味する。例えば、スイッチパターン(U,Y,W)はスイッチ素子Qu,Qy及びQwをオン状態にすることを意味する。
回転子の位置によっては、図11(B)に示した過渡電流の波高値Δiu,Δiv及びΔiwの大きさの順序により、始動時のスイッチパターンが一義的に決まるが、位置によっては、過渡電流の大きさの順序だけでは、スイッチパターンを決定できないことがある。例えばP1,P5及びP9のそれぞれの位置における過渡電流の波高値Δiu,Δiv,Δiwの大きさの順序は、それぞれP7,P11及びP3の位置における過渡電流の波高値Δiu,Δiv及びΔiwの大きさの順序と同じであるので、これらの位置では、過渡電流の波高値の大きさの順序を見るだけでは、始動時のインバータ回路のスイッチパターンを決定することができない。
そこで、過渡電流ΔiuないしΔiwの波形を見ると、例えば、P1の位置での過渡電流ΔiuないしΔiwの波形はそれぞれ図12の(A)ないし(C)に示すようになるが、P7の位置での過渡電流ΔiuないしΔiwの波形はそれぞれ図13(A)ないし(C)に示すようになり、U相の過渡電流Δiuの波形がP1の位置とP7の位置とでは異なる。P1の位置では、飽和したU相の鉄心を減磁する方向に過渡電流が流れることにより磁束変化Δφ1が生じるため、過渡電流の波形は、三角波形よりも凸形の波形(立ち上がりが二次曲線的に湾曲した波形)を呈し、U相の電機子コイルを通して流れる過渡電流が最も大きくなる。従って最も大きい過渡電流がU相の過渡電流である場合に、その波形が三角波形よりも凸形である否かを判定して、凸形である場合に、回転子の位置がP1であると判定することができる。
過渡電流の波形が凸形である場合には、図14(A)に示すように、波形の前半の電流増加率Δi1/Δtに比べて、後半の電流増加率Δi2/Δtが小さくなるが、三角波形である場合には、図14(B)に示すように、波形の前半の電流増加率Δi1/Δtと後半の電流増加率Δi2/Δtとの差が小さくなる。従って、過渡電流の時間幅を2Δtとして、過渡電流波形の前半の時間的変化率Δi1/Δtと後半の時間的変化率Δi2/Δtとを求めて、前半の変化率Δi1/Δtと後半の変化率Δi2/Δtとの差が設定値以上であるか否かを判定することにより、過渡電流の波形が凸形であるか三角波形であるかを判定することができ、この判定結果から位置がP1の位置かP7の位置かを判定することができる。
過渡電流通電過程を行った結果得られた過渡電流の波高値の大きさの順序と、最大の過渡電流の波形とから、ブラシレスモータを始動する際の通電パターンを決定する始動時通電パターン決定手段23を構成するためにマイクロプロセッサに実行させるプログラムのアルゴリズムの一例を図15に示した。
図15に示したアルゴリズムによる場合には、回転子の各位置におれる始動時の通電パターンを、オン状態にするインバータ回路のスイッチ素子の組み合わせ(スイッチパターン)の形で決定する。始動時の通電パターンを判別する過程が開始された時に先ずステップS1でΔiu,Δiv及びΔiwの中の最大のものΔimaxを見つける。その結果、ステップS2に示すように、ΔimaxがΔiuであるとされたときには、次いでΔivとΔiwとを比較し、ステップS3に示すようにΔiv>Δiwであるときには、ステップS4に移行して、Δiuの波形が凸形であるか否かを判定する。その結果Δiuの波形が凸形でないと判定されたときにはステップS5で始動時のスイッチパターンをUVZとし、Δiuの波形が凸形であると判定されたときにはステップS6で始動時のスイッチパターンをXYWとする。
またステップS3でΔivとΔiwとを比較した結果、ステップS7に示すように、Δiv<Δiwであるときには、ステップS8に進んでΔiuの波形が凸形であるか否かを判定する。その結果Δiuの波形が凸形でないと判定されたときにはステップS9で始動時のスイッチパターンをXVZとし、Δiuの波形が凸形であると判定されたときにはステップS10で始動時のスイッチパターンをUYWとする。
ステップS11に示すように、ステップS1で見出された最大の過渡電流の波高値がΔivであると判定されたときには、次いでΔiwとΔiuとを比較し、ステップS12に示すようにΔiw>Δiuであるときには、ステップS13に移行して、Δivの波形が凸形であるか否かを判定する。その結果Δivの波形が凸形でないと判定されたときにはステップS14でスイッチパターンをXVWとし、Δivの波形が凸形であると判定されたときにはステップS15でスイッチパターンをUYZとする。
またΔiwとΔiuとを比較した結果、ステップS16に示すように、Δiw<Δiuであるときには、ステップS17に進んでΔivの波形が凸形であるか否かを判定する。その結果Δivの波形が凸形でないと判定されたときにはステップS18でスイッチパターンをXYWとし、Δivの波形が凸形であると判定されたときにはステップS19でスイッチパターンをUVZとする。
ステップS20に示すように、ステップS1で見出された最大の過渡電流の波高値がΔiwであると判定されたときには、次いでΔiuとΔivとを比較し、ステップS21に示すようにΔiu>Δivであるときには、ステップS22に移行して、Δiwの波形が凸形であるか否かを判定する。その結果Δiwの波形が凸形でないと判定されたときにはステップS23でスイッチパターンをUYWとし、Δiwの波形が凸形であると判定されたときにはステップS24でスイッチパターンをXVZとする。
またΔiuとΔivとを比較した結果、ステップS25に示すように、Δiu<Δivであるときには、ステップS26に進んでΔiwの波形が凸形であるか否かを判定する。その結果Δiwの波形が凸形でないと判定されたときにはステップS27でスイッチパターンをUYZとし、Δiwの波形が凸形であると判定されたときにはステップS28でスイッチパターンをXVWとする。
また上記のように過渡電流の波形が凸型であるか否かを見る代りに、図11に示すように、特定の位置P1,P5及びP9では、すべての相の電機子コイルを流れる過渡電流の波高値Δiu,Δiv及びΔiwが或判定値Δisよりも大きい値を示すことを利用して、回転子の位置を判別するようにすることもできる。このように、特定の位置ではすべての相の電機子コイルを流れる過渡電流の波高値が判定値Δisよりも大きくなるが、他の位置ではそのようにはならない関係を利用して位置を判定する場合に、始動時通電パターン決定手段23を構成するためにマイクロプロセッサに実行させるプログラムのアルゴリズムを示すフローチャートを図16に示した。図16に示したフローチャートは、ステップS4′,S8′,S13′,S17′,S22′及びS26′において、すべての相の過渡電流の波高値Δiu,Δiv及びΔiwが判定値Δisよりも大きいか否かを判定する点を除き、図15に示したフローチャートと同様であるので、その詳細な説明は省略する。
制御切換手段36は、ブラシレスモータ1の始動時には始動時インバータ制御部25によりインバータ回路3を制御し、信号発生装置5がしきい値以上のレベルを有するパルス信号を発生する状態になった後は、定常時インバータ制御部29によりインバータ回路3を制御するように制御を切り換える。従って、ブラシレスモータが始動した後は、信号発生装置5が発生するパルスにより判定された回転子の位置に基づいて通電パターンが切り換えられて電機子コイルへの通電が行われる。
本発明においては、後記する電流制限時の制御おいて、180°スイッチングによりインバータ回路のスイッチング制御を行なわせる必要があるため、上記の実施形態では、始動時及び定常運転時にも180°スイッチングによりインバータ回路のスイッチング制御を行なわせている。しかし、本発明に係わる制御方法及び制御装置において、始動時及び定常運転時には、120°スイッチングによりインバータ回路3を制御することができる。
回転子がP1ないしP12のそれぞれの位置にある状態でU相ないしW相の電機子コイルにそれぞれ過渡電流を流したときのU相〜W相の鉄心に流れる磁束Δφと、検出される過渡電流の波高値Δiu,Δiv及びΔiwと、120°スイッチングによりインバータ回路3を制御する場合のスイッチパターンの変化とを図17に示した。
120°スイッチングによりインバータ回路を制御する場合には、過渡電流通電過程で3相のコイルにそれぞれ流れた過渡電流の波高値Δiu,Δiv及びΔiwの内で、中間値を示す過渡電流の波高値が判定値ΔIsを通過する位置で、該中間値を示す過渡電流の波高値が判定値Is以下になるか以上になるかによって、初期スイッチパターンを切り換える。例えば、Δiu,Δiv及びΔiwの内で中間値を示すΔiuが判定値ΔIs以下になる位置P2でスイッチパターンを(U,Y)に切り換え、Δiu,Δiv及びΔiwの内で中間値を示すΔivが判定値Is以上になる位置P4でスイッチパターンを(U,Z)に切り換えている。またΔiu,Δiv及びΔiwの内で中間値を示すΔivが判定値ΔIs以下になる位置P6でスイッチパターンを(V,Z)に切り換えている。
上記の実施形態では、図2に示した定常時回転子位置判定手段26が、リラクタのエッジを検出してパルス信号を発生する信号発生装置5の出力に基づいて、モータが起動した後の回転子の位置を判定するようにしているが、特許文献3に示された方法と同様に、電機子コイルの逆誘起電圧の変化から起動後の回転子の位置を判定するようにすることもできる。
次に、モータがロックに近い状態になったときの制御について説明する。
本発明においては、モータがロックに近い状態になって、電機子電流が設定された上限値に達したときに、直流電源2から電機子コイルLuないしLwへの電流の供給を停止した状態にして3相のコイルLuないしLwのうちの2相のコイルに中性点に対して同方向に電流を流し、他の1相のコイルには2相のコイルを流れる電流の和の電流を流す電流の流し方で、電機子コイルを通して循環電流を流す駆動停止過程と、直流電源から電機子コイルに電流を供給する駆動過程とを交互に行わせる電流制限制御を行う。
電流制限制御の駆動停止過程では、中性点に対して同方向に電流が流れている電機子コイルの2相を判定対象相とし、判定対象相の2相の一方及び他方を流れている電流の減衰割合をそれぞれ第1及び第2の減衰割合として、該第1及び第2の減衰割合の差から回転子の位置を判定する電流制限時回転子位置判定過程と、次に行われる駆動過程で直流電源2から3相のコイルLuないしLwのうちの2相のコイルに中性点に対して同方向の電流を流し、他の1相のコイルには2相のコイルを流れる電流の和の電流を流す通電パターンで直流電源から電機子コイルに電機子電流を流すものとして、電流制限時回転子位置判定過程で判定された回転子の位置に基づいて、次の駆動過程でモータから出力トルクを発生させ続けるために、直流電源から3相のコイルに電流を流す際の通電パターンと、その通電パターンでの通電を開始する位置(通電パターンの切換位置)とを決定する電流制限時通電パターン決定過程とを行う。電流制限制御の駆動過程では、電流制限時通電パターン決定過程で決定された通電パターンで直流電源から3相のコイルへの電流の供給を開始する。
電流制限時通電パターン決定過程で決定された通電パターンの正規の通電開始位置と、駆動過程が開始される位置とは必ずしも一致するとは限らない。電流制限制御の駆動過程を行なうに際して、該駆動過程が開始される位置(回転子の位置)が、電流制限時通電パターン決定過程で決定された通電パターンでの正規の通電開始位置よりも遅れた位置である場合には、駆動過程が開始されると同時に、電流制限時通電パターン決定過程で決定された通電パターンでの通電を途中から開始させ、駆動過程が行なわれている間、その通電パターンでの通電を行なわせる。また駆動過程が開始される位置が、電流制限時通電パターン決定過程で決定された通電パターンでの正規の通電開始位置よりも進んでいる場合には、駆動開始過程が開始された後、電流制限時通電パターン決定過程で決定された通電パターンでの正規の通電開始位置が検出されたときに直流電源から3相のコイルへの通電を開始させ、駆動過程が行なわれている間、その通電パターンでの通電を行なわせる。
本実施形態では、回転子の位置を識別するため、図3(A)のように、U相のコイルLuが巻かれた歯部の中心が回転子のN極の中心に対向した状態になる位置を基準位置P1(0°の位置)とし、基準位置P1から回転子が反時計方向に30°ずつ回転する毎に現れる位置にそれぞれP2,P3,…の符号を付けている。回転子がP1,P2,…の位置にあるときにU相の鉄心に流れる磁束は図4に示した通りである。図4に示されているように、U相のコイルが巻かれた鉄心を流れる磁束は、回転子がP2の位置及びP12の位置にあるときに同じになり、回転子がP3の位置及びP11の位置にあるときにも同じになる。U相のコイルが巻かれた鉄心を流れる磁束はまた、回転子がP5の位置及びP9の位置にある時に同じになり、回転子がP6の位置及びP8の位置にあるときに同じになる。
今、図19(A)に示したように、回転子が基準位置P1から120°回転したP5の位置、基準位置から150°回転した位置P6の位置、及び基準位置P1から180°回転したP7の位置にある場合を考える。回転子がP5の位置に達したときに、インバータ回路3のスイッチパターンが、上アームの2つのスイッチ素子Qu及びQvと、下アームのスイッチ素子Qzとをオン状態にするスイッチパターンに切り換えられて、スイッチ素子Qu及びQvと、スイッチ素子Qzとをオン状態にするようにインバータ回路が制御され、3相のコイルLu,Lv及びLwにそれぞれ図18及び図19(A)の左端の図に示されているような通電パターンで直流電源から3相のコイルLu,Lv及びLwに電流iu,iv及びiwが供給される。回転子のP6の位置では、上記のスイッチパターンでのインバータ回路の制御が継続され、図19(A)の中央の図に示されているような通電パターンで3相のコイルに電流が供給されている。回転子がP7の位置に達したときに、インバータ回路3のスイッチパターンが、上アームのスイッチ素子Qvと、下アームのスイッチQu及びQwとをオン状態にするスイッチパターンに切り換えられて、図19(A)の右端の図に示したような通電パターンで3相のコイルLu,Lv及びLwにそれぞれ電流iu,iv及びiwが供給される。
図19(B)の表は、回転子が120°、150°及び180°の位置にある時に各相の鉄心に流れる磁束を、各相の鉄心に流れる磁束と同じ磁束がU相のコイルが巻かれた鉄心に流れる時の回転子の位置で示している。即ち、回転子が120°、150°及び180°の位置にある時にU相のコイルが巻かれた鉄心に流れる磁束は、図4に示した通りであり、回転子が120°、150°及び180°の位置にある時にV相のコイルが巻かれた鉄心に流れる磁束はそれぞれ、回転子がP1,P2及びP3の位置にあるときにU相のコイルが巻かれた鉄心に流れる磁束と同じである。また回転子が120°、150°及び180°の位置にある時にW相のコイルが巻かれた鉄心に流れる磁束はそれぞれ、回転子がP9,P10及びP11の位置にあるときにU相のコイルが巻かれた鉄心に流れる磁束と同じである。
今、インバータ回路3の上アームのスイッチ素子Qu及びQvと、下アームのスイッチ素子Qzとがオン状態になっている状態で、負荷が重く、モータがロックに近い状態にあるとする。このとき回転子が殆ど回転せず、電機子コイルに誘起電圧が発生しないため、電流iu,iv及びiwは非常に大きな値を示し、2相の電流iu及びivの和の電流iwが上限値ILに達する。本発明においては、このように電機子電流が設定された上限値に達したときに電流制限制御を行う。
この電流制限制御では、3相のコイルを流れる電流iu,iv及びiwのうちの最も大きい電流iwが上限値に達したときに、例えば、オン状態にある下アームのスイッチ素子Qzをオフ状態にして、直流電源1から3相のコイルLuないしLwへの電流の供給を停止すると共に、コイルLu−コイルLw−ダイオードDw−スイッチ素子Qu−コイルLuの回路と、コイルLv−コイルLw−ダイオードDw−スイッチ素子Qv−コイルLvの回路とからなる循環電流通電回路を構成して、電流iu,iv及びiwを帰還ダイオードDwを通して循環電流として電機子コイルに流す。これらの循環電流は、回路の内部抵抗により時間の経過に伴って減衰していく。スイッチ素子Qzがオフ状態になった後、一定時間Tが経過したときに駆動過程を開始させて、スイッチ素子Qzを再びオン状態にし、直流電源から3相のコイルに出力トルクを発生させるために必要な所定の通電パターンで電流の供給を再開させる。これにより電流iu,iv及びiwは増加していく。これにより電流iwが再び上限値に達した場合には、オン状態にある下アームのスイッチ素子Qzをオフ状態にして、直流電源1から3相のコイルLuないしLwへの電流の供給を停止すると共に、循環電流iu,iv及びiwを流す。これらの動作を繰り返すことにより、電機子電流を上限値以下に制限するとともに、モータの出力トルクを発生させ続ける。上記一定時間Tは、信号発生装置5が認識し得るレベルのパルス信号を発生することができるようになる回転速度(例えば60rpm)における通電パターンの切換間隔[例えば(1/36)sec]に比べて十分に短く(例えば100μsec程度)設定しておく。
電流制限制御が行われているときに3相のコイルLuないしLwをそれぞれ流れる電流iu,iv及びiwの時間的な変化の一例を図20に示した。電流制限制御において、駆動過程で直流電源から3相のコイルに電流を供給する際に、モータから十分な出力トルクを発生させるためには、駆動過程において直流電源2から3相のコイルLuないしLwに電流を流す際の通電パターンと、その通電パターンでの通電を開始する位置(3相のコイルに対する回転子の位置)とを、3相のコイルに対する回転子の位置に応じて的確に決定する必要がある。しかし、本実施形態のように、回転子の位置を検出する位置センサとして、ホール素子に代えて磁束変化検出形の信号発生装置5を用いる場合、電流制限制御が行われるとき(回転子の回転速度が極めて低いとき)に信号発生装置5から認識し得るレベルのパルスを得ることができないため、信号発生装置5の出力パルスから回転子の位置を判定して電機子コイルへの通電パターンを決定することはできない。
そこで、本発明においては、電流制限制御の駆動停止過程では、中性点に対して同方向に循環電流が流れている電機子コイルの2相を判定対象相(上記の例ではU相及びV相)として、判定対象相の2相の一方及び他方を流れている減衰電流(iu及びiv)の減衰割合をそれぞれ第1及び第2の減衰割合として求め、これら第1及び第2の減衰割合の差から回転子の位置を判定する電流制限時回転子位置判定過程を行う。
上記の例において、電流制限制御が開始された際のU相及びV相の電流をそれぞれIu及びIv、コイルLu及びLvの抵抗をr、U相及びV相のコイルLu及びLvのインダクタンスをそれぞれLu及びLv、電流制限制御が開始されてからの経過時間をtとすると、判定対象相であるU相とV相とをそれぞれ流れる電流はiu及びivは下記の式により与えられる。
iu=Iu・exp{−(r/Lu)・t} …(4)
iv=Iv・exp{−(r/Lv)・t} …(5)
上記の減衰電流iu及びivについて、t=0の時の電流値iu(0)及びiv(0)と、t=Δtの時の電流値iu(Δt)及びiv(Δt)とを求めると、
iu(0)=Iu …(6)
iu(Δt)=Iu・exp{−(r/Lu)・Δt} …(7)
iv(0)=Iv …(8)
iv(Δt)=Iv・exp{−(r/Lv)・Δt} …(9)
ここで、電流iu(Δt)とiu(0)との比iu(Δt)/iu(0)及びiv(Δt)とiv(0)との比iv(Δt)/iv(0)をとると、
iu(Δt)/iu(0)=exp{−(r/Lu)・Δt} …(10)
iv(Δt)/iv(0)=exp{−(r/Lv)・Δt} …(11)
ここで、exp{−(r/Lu)・Δt}及びexp{−(r/Lv)・Δt}を電流iu及びivの減衰割合と呼ぶことにし、exp{−(r/Lu)・Δt}及びexp{−(r/Lv)・Δt}をそれぞれ第1の減衰割合及び第2の減衰割合とする。
r及びΔtを一定とすると、第1及び第2の減衰割合exp{−(r/Lu)・Δt}及びexp{−(r/Lv)・Δt}は、コイルのインダクタンスLu及びLvに関係した値になる。コイルのインダクタンスLはL=n2(Δφ/ΔF)で与えられ、Δφ/ΔFは図4で示したように回転子の位置により決まるため、減衰割合exp{−(r/Lu)・Δt}及びexp{−(r/Lv)・Δt}は回転子の位置に関係した値となる。exp{−(r/Lu)・Δt}=expA及びexp{−(r/Lv)・Δt}=expBとおいて、回転子の位置と第1及び第2の減衰割合expA及びexpBとの間の関係を示すと、図21のようになる。特に図21においてexpB−expAは、回転子の位置を示す角度θに比例して増加するので、これより回転子の位置を判定することができ、判定した回転子の位置に基づいて駆動過程における通電パターンの切換位置を決定することができる。駆動過程における通電パターンの切換位置を進角させたい場合には、expB−expAが小さいところで通電パターンを次のパターンに切り換えるようにすればよく、通電パターンの切換位置の進み角度を0°とするのであれば、expB−expAが最大のところ(P7の位置)で通電パターンを次のパターンに切り換えるようにすればよい。180°スイッチング制御を行う際の通電パターンの切換順序は決まっているので、通電パターンの切換位置が決まれば、通電パターンは自動的に決めることができる。
180°スイッチング制御における通電パターンをインバータ回路を構成するスイッチ素子のスイッチパターンで示すと図22のようになる。図22において、U,V,W,X,Y及びWはそれぞれインバータ回路のスイッチ素子Qu,Qv,Qw,Qx,Qy及びQwに対応しており、U,V,W,X,Y及びWのそれぞれのON期間スイッチ素子Qu,Qv,Qw,Qx,Qy及びQwがオン状態になる。この場合、スイッチパターンは、回転子の位置θの変化に伴ってUYW,UYZ,UVZ,XVZ,XVW,…のように決まった順序で変化していくので、現在のスイッチパターン(通電パターン)から次のスイッチパターンを決めることができる。
図23は、駆動停止過程において判定対象相に流れる電流を実際に検出する際の動作を示したものである。今、W相の電流iwが上限値ILに達して、電流制限制御の駆動停止過程が開始されたとする。このときマイクロプロセッサが実行する割り込みがかけられて、電流iuの値を読み込もうとするが、実際に電流値iuの値を読み込むまでにΔt[msec]の遅れがあるため、読み込まれるiuの電流値iu(Δt)は、
iu(Δt)=Iu・exp{−(r/Lu)・Δt} …(12)
となる。このiu(Δt)を読み取った後、ivを読み込むことができるようになるまでには、iu(Δt)をA/D変換するための変換時間tc[msec]がかかるため、読み込まれるivの値iv(Δt+tc)は、
iv(Δt+tc)=Iv・exp{−(r/Lv)・(Δt+tc)} …(13)
となる。
またiu(Δt)を読み込んでからt1[msec]後に読み込まれるiuの値iu(Δt+t1)は、
iu(Δt+t1)=Iu・exp{−(r/Lu)・(Δt+t1)} …(14)
となる。このiu(Δt+t1)を読み込んだ後、ivを読み込むことができるようになるのはiu(Δt+t1)をA/D変換するのに要する時間tcが経過した後であるから、読み込まれるivの値iv(Δt+tc+t1)は、
iv(Δt+tc+t1)=Iv・exp{−(r/Lv)・(Δt+tc+t1)} …(15)
となる。
ここで、iu及びivの減衰割合を求めるために、t1[msec]間隔で読み取ったiu,ivのそれぞれの値の比(t1秒後の値)/(t1秒前の値)をとると、
iu(Δt+t1)/iu(Δt)=exp{−(r/Lu)・t1} …(16)
iv(Δt+tc+t1)/iv(Δt+tc)=exp{−(r/Lv)・t1} …(17)
となり、iu,ivそれぞれの電流値の読み取りの時間差の影響は受けない。従って、判定対象相の2相の電流の減衰割合の実際の検出動作は、原理的な検出動作と同じ扱いをすることができる。
次に、図2に示した制御装置を構成するためにマイクロプロセッサに実行させるタスクのアルゴリズムの例を図24ないし図27のフローチャートを用いて説明する。
図24は、ブラシレスモータを制御するために微小な時間間隔で繰り返し実行されるタスクのアルゴリズムを示したフローチャートで、このタスクにおいては、先ずステップS101で、電流制限制御を行う際にインバータ回路3の下アームまたは上アーム(一つのスイッチ素子のみがオン状態にあるアーム)のスイッチ素子をオフ状態にした後そのオフ状態を解除するまでの時間(駆動停止過程を行う時間)を定める「OFF解除タイマ」に所定の時間Tを設定する。
次いでステップS102で、電機子コイルに過渡電流を流してモータを始動する際の回転子の位置を検知する過程を行い、ステップS103で始動時の通電パターンを出力して、この通電パターンで3相のコイルに電流を流すようにインバータ回路3を制御する。次いでステップS104で電流制限信号が入力されているか(電機子電流が上限値に達しているか)否かを判定し、電流制限信号が入力されていない場合には、ステップS105に移行して信号発生装置5のパルサ5Bが発生するパルス信号が入力されたか否かを判定する。その結果パルス信号が入力されていない場合にはステップS104に戻る。ステップS105においてパルサが出力するパルス信号が入力されたと判定されたときには、ステップS106でそのパルス信号から回転子の位置を判定し、その回転子位置での定常運転時の通電パターンを決定する。次いで、ステップS107でその通電パターンを出力し、この通電パターンで直流電源2から3相のコイルLuないしLwに電流を流すようにインバータ回路3を制御する。
ステップS104で電流制限信号が入力されている(3相のコイルの電流のうち最も大きい電流が上限値に達している)と判定されたときには、ステップS108に移行して、インバータ回路の下アーム及び上アームのうち、1つのスイッチ素子のみがオン状態になっているアームのオン状態にあるスイッチ素子をオフ状態にする。これにより直流電源2から3相のコイルLuないしLwへの電流の供給を停止して電流制限制御の駆動停止過程を開始させるとともに、循環電流通電回路を構成して、循環電流iu,iv及びiwを流す。次いでステップS109で中性点に対して同じ方向に電流が流れている判定対象相の2相の電流の減衰割合expA及びexpBを検知するための処理を行い、ステップS110で次の駆動過程で直流電源から3相のコイルLuないしLwに電流を流す際の通電パターンとその通電パターンでの通電を開始する位置(通電パターンの切換位置)を決定するための処理を行う。
次いでステップS111で、OFF解除タイマが設定された時間Tを計測してOFF解除信号を発生する(駆動停止過程が開始されてからT時間が経過する)のを待つ。OFF解除信号が発生したときにステップS112に進んでステップS110で決定された通電パターンとその通電パターンでの通電を開始する位置とを出力し、駆動過程を開始させる。ステップS112が実行される時点で既に、回転子の位置がステップS110で決定された通電パターンでの通電を開始する位置を過ぎているときには、直ちにその通電パターンでの通電を開始する。また駆動過程が開始された時の回転子の位置がステップS110で決定された通電パターンでの通電を開始する位置よりも進んでいるときには、駆動過程が開始された後、その通電パターンで通電を開始する位置が検出された時にその通電パターンでの通電を開始する。
駆動過程での通電を開始した後、ステップS105に移行してパルサの出力信号が入力されているか否かを判定する。その結果、回転子の回転速度が低く、パルサの出力信号が入力されていない場合には、ステップS104に戻って電流制限信号が発生しているか否かを判定する。駆動過程で3相のコイルを流れる電流のうちの最も大きい電流が上限値に達すると、再び電流制限信号が発生するため、ステップS108ないしS112が実行される。回転子の回転速度が上昇し、パルサが認識し得るパルスを発生するようになると、ステップS105でパルサの出力信号が認識されるため、ステップS106及びS107が実行され、定常運転時の通電パターンで3相のコイルへの通電を行うようにインバータ回路が制御される。
図24のステップS109及びS110で行われる処理のアルゴリズムを図25及び図26に示した。図25は、判定対象相の2相の減衰電流を検出してデジタル値に変換する過程を行なうタスクを示し、図26は、図25の処理により得られた判定対象相の2相の電流のデジタル値を用いて減衰割合を演算し、この減衰割合から回転子の位置を判定して、その判定結果に基づいて通電パターンを決定する過程を行なうタスクを示している。
図25に示されたタスクにおいては、ステップS201において判定対象相の2相に同方向に流れている電流の内の1相の電流の値をデジタル値a1に変換し、ステップ202においてこのデジタル値a1をレジスタにセットする。次いでステップS203において判定対象相の2相に同方向に流れている電流の内の他相の電流の値をデジタル値b1に変換し、ステップS204においてこのデジタル値b1をレジスタにセットする。次いでステップS205において時間t1を計測する動作を行なうマイクロプロセッサ内のタイマをスタートさせ、このタイマがt1の時間を計測したときにステップ206を実行してマイクロプロセッサが行なっている処理に割込みをかける。この割込み処理では先ずステップS207を実行して判定対象相の2相に同方向に流れている電流の内の1相の電流の値をデジタル値a2に変換し、ステップ208においてこのデジタル値a2をレジスタにセットする。次いでステップS209において判定対象相の2相に同方向に流れている電流の内の他相の電流の値をデジタル値b2に変換し、ステップS210においてこのデジタル値b2をレジスタにセットする。
また図26に示したタスクにおいては、ステップS301において判定対象相の2相のうちの1相のコイルを流れる減衰電流の検出値のデジタル値a2とa1の比a2/a1を求めて、判定対象相の1相を流れる減衰電流の減衰割合expAを第1の減衰割合として演算する。またステップS302で判定対象相の2相のうちの他の相のコイルを流れる減衰電流の検出値のデジタル値b2とb1の比b2/b1を求めて、判定対象相の他相を流れる減衰電流の減衰割合expBを第2の減衰割合として演算する。ステップS303で減衰割合の差expB−expAを演算し、この減衰割合の差に対してマップを検索することにより、回転子の現在の位置を判定する。次いでステップS304で現在の通電パターンを与えるインバータのスイッチパターンから次の通電パターンを与えるインバータのスイッチパターンを決定するとともに、決定した通電パターンでの通電を開始する位置をステップS303で求められた回転子の位置に基づいて決定する。
図24に示したアルゴリズムによる場合には、ステップS102により図2の始動時回転子位置判定手段21が構成され、ステップS103の通電パターンを決定する過程により図2の始動時通電パターン決定手段23が、またステップS103の始動時の通電パターンを出力する過程と、この通電パターンで3相のコイルに通電するようにインバータ回路に駆動信号を与える手段とにより始動時インバータ制御手段24が構成される。またステップS106により図2の定常時通電パターン決定手段27が構成され、ステップS107の定常時の通電パターンを出力する過程と、この通電パターンで3相のコイルに通電するようにインバータ回路に駆動信号を与える手段とにより定常時インバータ制御手段28が構成されている。更にステップS109により電流制限時減衰割合演算手段32が構成され、ステップS110により電流制限時通電パターン決定手段34が構成されている。またステップS112の通電パターン及び切換位置を出力する過程と、出力された通電パターンで3相のコイルに電流を流すようにインバータ回路のスイッチ素子に駆動信号を与える手段とにより電流制限時モータ駆動用インバータ制御手段35が構成される。更にステップS104,S105及びS111により制御切換手段37が構成される。
図24に示した例では、電流制限制御の駆動停止過程において、電流制限制御時の減衰割合の演算と、回転子位置の判定と、電流制限時の通電パターンの決定とを行なうようにしているが、これらのすべての過程を駆動停止過程において行なうことができない(演算処理時間が足りない)場合には、減衰割合の演算及び電流制限時の通電パターンの決定を行なう過程を駆動過程で行なうようにしてもよい。このように減衰割合の演算及び電流制限時の通電パターンの決定を電流制限制御の駆動過程で行なう場合にマイクロプロセッサに実行させるタスクのアルゴリズムの一例を図27に示した。
図27に示したアルゴリズムによる場合には、先ずステップS401で、「OFF解除タイマ」に所定の時間Tを設定する。次いでステップS402で、電機子コイルに過渡電流を流してモータを始動する際の回転子の位置を検知する過程を行い、ステップS403で始動時の通電パターンを出力して、この通電パターンで3相のコイルに電流を流すようにインバータ回路3を制御する。次いでステップS404で電流制限信号が入力されているか(3相のコイルの電流のうち最も大きい電流が上限値に達しているか)否かを判定し、電流制限信号が入力されていない場合には、ステップS405に移行して信号発生装置5のパルサ5Bが発生するパルス信号が入力されたか否かを判定する。その結果パルス信号が入力されていない場合にはステップS404に戻る。ステップS405においてパルサが出力するパルス信号が入力されたと判定されたときには、ステップS406でそのパルス信号から回転子の位置を判定し、その回転子位置での定常運転時の通電パターンを決定する。次いで、ステップS407でその通電パターンを出力し、この通電パターンで直流電源2から3相のコイルLuないしLwに電流を流すようにインバータ回路3を制御する。
ステップS404で電流制限信号が入力されていると判定されたときには、ステップS408に移行して、インバータ回路の下アーム及び上アームのうち、1つのスイッチ素子のみがオン状態になっているアームのオン状態にあるスイッチ素子をオフ状態にする。これにより直流電源2から3相のコイルLuないしLwへの電流の供給を停止して電流制限制御の駆動停止過程を開始させるとともに、循環電流通電回路を構成して、循環電流iu,iv及びiwを流す。次いでステップS409で中性点に対して同じ方向に電流が流れている判定対象相の2相の電流の値を検出し、ステップS410で検出した電流値をレジスタにセットする。次いで、ステップS411でOFF解除タイマが設定された時間Tを計測してOFF解除信号を発生する(駆動停止過程が開始されてからT時間が経過する)のを待つ。OFF解除信号が発生したときにステップS412に進んでレジスタにセットされた電流値を読み出し、ステップS413で判定対象相の2相の電流の減衰割合expA及びexpBを演算する。次いでステップS414で駆動過程で直流電源から3相のコイルLuないしLwに電流を流す際の通電パターンとその通電パターンでの通電を開始する位置(通電パターンの切換位置)を決定するための処理を行う。次いでステップS415で、決定された通電パターンとその通電パターンでの通電を開始する位置とを出力し、駆動過程を開始させる。ステップS415が実行される時点で既に、回転子の位置がステップS414で決定された通電パターンでの通電を開始する位置を過ぎているときには、直ちにその通電パターンでの通電を開始する。また駆動過程が開始された時の回転子の位置がステップS414で決定された通電パターンでの通電を開始する位置よりも進んでいるときには、駆動過程が開始された後、その通電パターンで通電を開始する位置が検出された時にその通電パターンでの通電を開始する。
駆動過程での通電を開始した後、ステップS405に移行してパルサの出力信号が入力されているか否かを判定する。その結果、回転子の回転速度が低く、パルサの出力信号が入力されていない場合には、ステップS404に戻って電流制限信号が発生しているか否かを判定する。駆動過程で3相のコイルを流れる電流のうちの最も大きい電流が上限値に達すると、再び電流制限信号が発生するため、ステップS408ないしS415が実行される。回転子の回転速度が上昇し、パルサが認識し得るパルスを発生するようになると、ステップS405でパルサの出力信号が認識されるため、ステップS406及びS407が実行され、定常運転時の通電パターンで3相のコイルへの通電を行うようにインバータ回路が制御される。
図24に示した例では、電流制限制御の駆動停止過程と駆動過程との切換をソフトウェア上で行なっているが、駆動停止過程と駆動過程との切換をハードウェア回路を用いて行なわせることもできる。図28は、駆動過程と駆動停止過程との切換を行なうためにインバータ回路の下アームのスイッチ素子Qx,Qy及びQzの制御端子(MOSFETの場合にはゲート)に接続する回路の構成例を示したもので、同図においてANDxないしANDzはそれぞれスイッチ素子Qx,Qy及びQzの制御端子に出力端子が接続され、一方の入力端子に駆動信号Sx′ないしSz′が与えられるアンド回路、Rはアンド回路ANDxないしANDzの他方の入力端子に出力端子が接続されたラッチ回路である。ラッチ回路Rは、図29に示したように高レベル(Hレベル)から低レベル(Lレベル)に変化する電流制限信号が与えられたときに出力端子の電位をLレベルにし、電流制限信号が与えられた後一定時間Tが経過してLレベルからHレベルに立ち上がるOFF解除信号が与えられたときにその出力端子の電位をHレベルにする。
図28に示された回路において、電機子電流が上限値に達してラッチ回路Rに電流制限信号が与えられると、ラッチ回路Rの出力がLレベルになるため、アンド回路ANDxないしANDzの出力が「0」になり、インバータ回路の下アームのスイッチ素子QxないしQzへの駆動信号SxないしSzの供給が停止される。これにより電流制限制御の駆動停止過程が開始される。駆動停止過程が開始された後、時間Tが経過してラッチ回路RにOFF解除信号が与えられると、ラッチ回路Rの出力がHレベルになるため、インバータ回路の下アームのスイッチ素子QxないしQzに駆動信号SxないしSzが与えられるようになる。
図28には示されていないが、スイッチ素子QuないしQwに対しても同様の回路を設け、インバータ回路の上アームのスイッチ素子をオフ状態にする際にスイッチ素子QuないしQwに対して設けた同様の回路のラッチ回路に電流制限信号を与える。
上記の例では、電流制限制御の駆動停止過程において判定対象相の2相に流れる電流の減衰割合expA及びexpBの差を用いて回転子の位置を判定するようにしたが、電流の検出値のA/D変換に要する時間tc(図23参照)が短い場合には、下記の式により求められる電流の減衰割合の傾きDと回転子の位置との間の関係を用いて回転子の位置を判定することもできる。
D=I・[exp{-(r/L)(Δt+tc)}-exp{-(r/L)(Δt+tc+t1)}]/t1 …(18)
上記の実施形態では、始動時、定常時及び電流制限制御時(ロックに近い状態になったとき)に180°スイッチング制御を行なわせているが、本発明において必ず180°スイッチング制御を行なう必要があるのは、判定対象相の2相に中性点に対して同方向に電流を流す必要がある電流制限制御時のみである。本発明を実施するに当たっては、電流制限制御時にのみ180°スイッチング制御を行ない、始動時及び定常時には120°スイッチング制御を行なわせるようにしても良い。