JP4704654B2 - 水素ゲッター組成物 - Google Patents
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Description
【0001】
本発明は、低圧において密閉容器内で水素を吸収することのできる組成物に関し、詳細には、不飽和有機物質及び水素化触媒から形成される組成物に関する。
【0002】
ゲッター材料は、密閉系において真空を維持することが必要なすべての用途において長い間用いられてきた。特に重要な用途は、あらゆる材料もしくは装置に断熱性を実現するために真空の低熱伝導性を用いている。そのような断熱性は通常、材料もしくは装置の外側に二重の壁を設け、その間を排気することによって得られる。
【0003】
気体のなかで水素は最も熱伝導性が高いため、真空を完全にするように排気された空間に存在する少量の水素を吸収する手段を提供することが特に重要である。さらに、水素分子のサイズが小さいため、この気体は排気された容器から容易に放出され、断熱性を維持するために連続して吸収しなければならない。
【0004】
炭素原子中に不飽和結合を含む有機化合物は適当な触媒の存在下において水素と反応し、対応する飽和化合物に転化されることが知られている。この反応性のため、前記化合物は適当な触媒と共に、水素ゲッターとして用いることが有利である。
【0005】
原則として2つの炭素原子の間に二重結合又は三重結合を含むすべての化合物は水素を吸収するが、産業上用いる化合物は基本的要件を満たさなければならない。第一の要件は、水素との反応速度であり、これは密閉系に水素が蓄積することを避けるために高くなければならない。さらに、この水素化反応はとても低い水素圧においても起こることが必要であり、換言すれば生成物へ反応の平衡がシフトしていることが必要である。不飽和化合物が触媒上に留まっているようにするに重要な他の要件は、前記不飽和化合物が操作圧力及び温度の全範囲にわたって低い蒸気圧を有することである。
【0006】
米国特許第3,896,042号には、低圧及び低温において密閉系から水素を吸収する方法が記載されており、この方法は容器内に、不活性基材上に担持されかつ不飽和有機化合物でコートされてなる水素化触媒を配置することからなる。この特許に記載されている不飽和有機化合物はアリールアセチレン、特にビスフェノールAのポリジプロパルギルエーテル、二量化プロパルギルフェニルエーテル、二量化ベンジルアセチレン、二量化フェニルプロピオレート、及び二量化ジフェニルプロパルギルエーテルである。
【0007】
米国特許第4,405,487号には、例えば電子及び機械部品用の内部シール容器に用いることができるゲッター材料の組み合わせが記載されており、これは水分ゲッターと水素ゲッターを含んでいる。水素ゲッターは水素化触媒及び固体アセチレン系炭化水素から形成され、窒素及び硫黄ヘテロ原子を含んでいない。事実、この特許の教示によれば、これらの元素は加水分解によって望ましくない副生成物を形成する。水素化速度及び化合物1グラムあたりの水素吸着能の観点から特に有利であると示されたアセチレン系炭化水素は1,4-ジフェニルブタジインである。
【0008】
米国特許第5,624,598号及び5,703,378号には、例えば高温液の輸送用のパイプの断熱に用いることのできる、低圧及び高温における水素吸収用組成物が記載されている。この組成物は適当な触媒及び、ベンゼン、スチレン、ナフタレン、アントラセン、ジフェニル、フルオレン、フェナントレン及びピレンより選ばれる芳香族部分と炭素原子の間に三重結合を含む炭化水素化合物もしくはポリマーより形成される。芳香族部分の存在は不飽和化合物及びその水素化誘導体の融点を高め、使用温度及び圧力において固体であるように作用する。
【0009】
しかしながら、上記特許に示す組成物の第一の欠点は、分子量の異なる多くの化合物の混合物として得られることである。これは、生成物の物理的及び化学的特性の制御及び再現性に問題がある。特に、公知のように、分子量の高い有機化合物の溶液を得ることが困難であり、従って水素化触媒との混合及び多孔質基材への付着のような溶液に通すことが必要な最終ゲッターの製造工程が困難である。
【0010】
水素吸収用の上記組成物の第二の欠点はその製造コストが高いことである。事実、不飽和化合物もしくはポリマーの合成は、触媒としてのパラジウム錯体及びトリフェニルホスフィンの使用を必要とする、アセチレン及び芳香族ハロゲン化物から出発する縮合反応により行われる。この反応の最後において、経済的理由のため反応生成物からパラジウム錯体を分離することが必要である。さらに、他の触媒であるトリフェニルホスフィンは毒性があり、安全性及び環境上の問題を避けるために産業上のプロセスにおいては用いるべきではない。
【0011】
従って、本発明の目的は前記欠点のない水素ゲッター組成物を提供することである。この目的は、請求項1にその主要な特徴を示す水素ゲッター組成物によって達成される。他の特徴は他の請求項に示してある。
【0012】
本発明の水素ゲッター組成物の第一の利点は、当該分野のゲッターに一般的なものよりも低い最終水素圧を可能にすることである。
【0013】
本発明の水素ゲッター組成物の第二の利点は、その製造コストがとてもひくいことである。事実、その成分である不飽和有機物質の合成は、すでに市場において入手可能な材料から出発し、高価な触媒を用いることなくかつその後の分離を必要とすることなく高収率で与える方法により行われる。
【0014】
本発明の水素ゲッター組成物のこれら及び他の利点は、図面を参照する以下の記載から当業者に明らかであろう。
【0015】
本発明の水素ゲッター組成物は不飽和有機物質及び水素化触媒を含む。この不飽和有機物質は下式A及びA’を有する化合物である。
【化3】
(上式中、R1、R2及びR3は水素又は所望により1以上のヘテロ原子を含む炭化水素部分であり、R1、R2及びR3のうち少なくとも1つは、所望により1以上のヘテロ原子を含むアルケニル、アルキニル、アリールアルケニル及びアリールアルキニル部分からなる群より選ばれる)
【0016】
さらに、前記不飽和有機物質は式A又はA’の化合物の二量体もしくはポリマー、及び構造ユニットの1つが式A又はA’を有するコポリマーであってもよい。
【0017】
3つの置換基R1、R2及びR3はすべて水素でなくてもよく、各々は1以上の不飽和結合を有していてもよく、従ってこの物質1グラムあたりの可逆的に吸収される水素の量は最大である。
【0018】
さらに、本発明の一態様によれば、置換基R1、R2及びR3はN、O及びSより選ばれ、トリアジン環に直接結合しているヘテロ原子を少なくとも1つ含む。実際、米国特許第4,405,487号の教示に反して、ある場合にはヘテロ原子の存在が化合物の反応性及び水素化触媒の有効性に影響を与えないことが見出された。好ましいR1、R2及びR3置換基は式R-(C=C)n-CH2-O-及びR-(C≡C)n-CH2-O-で表され、式中n≧1であり、Rが脂肪族もしくは芳香族炭化水素部分であるものである。
【0019】
本発明の不飽和有機物質を簡単に合成するため、式AもしくはA’を有する化合物の場合、3つの置換基R1、R2及びR3は好ましくは同一である。
【0020】
式AもしくはA’の化合物は下式に示すように対応するトリクロロトリアジンから出発して合成される。
【化4】
【0021】
上記不飽和有機物質は優れた耐熱性を示すため、液体形態においても本発明の水素ゲッターの成分として用いることができる。しかしながら、水素ゲッターの最終用途が特に高温作業温度を含む場合、固体不飽和有機物質が必要であり、式AもしくはA’を有する2種以上の化合物を縮合させてこの化合物の二量体もしくはポリマーを得ることによりとても高い融点を得ることができる。さらに、式AもしくはA’を有する化合物の2以上の分子を炭化水素化合物と縮合させることもできる。
【0022】
本発明の組成物においては、共に式Aを有する以下の2つの有機化合物を用いることが好ましい。
【化5】
【0023】
化合物aは、IUPACによれば、2,4,6-トリス-(E-3-フェニルプロプ-2-エニル-1-オキシ)-1,3,5-トリアジンと命名される新規化合物であり、この化合物の分子量は477.56g/molであり、その融点は128〜129℃である。この化合物は、例えば1当量の2,4,6-トリクロロ-1,3,5-トリアジンと3当量のアルカリ金属シンナメート(後者は反応媒体中、現場で形成してもよい)と反応させることにより得られる。
【0024】
化合物bはIUPAC名、2,4,6-トリス-(4-メトキシ-ブチ-2-ニル-1-オキシ)-1,3,5-トリアジンであり、分子量は375.38g/molである。
【0025】
本発明のゲッター組成物の一部を構成する触媒は水素化反応用の当該分野において公知の触媒であってよく、例えば周期表のVIII族に属する遷移金属又はその塩もしくは錯体である。好ましくは、アルミナ上に担持されたパラジウム又は炭素上に担持されたパラジウムを用いる。
【0026】
本発明のゲッター組成物を得るためにあらゆる公知の方法を用いることができる。例えば、不飽和有機物質を適当な溶媒中に混合もしくは希釈し、得られた溶液に水素化触媒を加えることによって調製される。この混合物を攪拌した後、溶媒を蒸発させることによりゲッター組成物が得られる。触媒としてパラジウム金属を用いる場合、好ましくは不飽和有機物質の0.1〜10wt%の量存在する。
【0027】
以下の実施例において、本発明のゲッター組成物に有利に用いられる有機化合物の合成およびこの組成物の水素吸収特性について示す。
【0028】
例1
この例は上記の化合物aの合成を示す。
50g(0.36mol)の桂皮酸アルコールを180mlの乾燥トルエンに溶解する。20g(0.36mol)のKOHをこの溶液に加え、得られた混合物を室温において1時間拡販する。この間に桂皮酸カリウムが得られる。次いで、150mlのトルエン中の18g(0.10mol)の2,4,6-トリクロロ-s-トリアジンより調製した溶液を加え、攪拌しながら室温においてさらに90時間反応させる。
【0029】
この反応混合物をpHが中性になるまで水で洗浄する。この溶液を濃縮し、ジイソプロピルエーテルの添加によって生成物を沈殿させる。この生成物を乾燥させ、NMR及びマススペクトルで分析し、2,4,6-トリス-(E-3-フェニルプロピ-2-エニル-1-オキシ)-1,3,5-トリアジンであることを確認する。この化合物の融点は128〜129℃であり、37gの生成物が得られ、収率は約78%に相当する。
【0030】
例2
例1の合成を繰り返すが、トルエン中の桂皮酸アルコールとKOHの混合物に50g(0.36mol)のK2CO3を加える。30gの2,4,6-トリス-(E-フェニルプロピ-2-エニル-1-オキシ)-1,3,5-トリアジンが得られ、収率は約64%である。
【0031】
例3
この例は上記の化合物bの合成を示す。
1.8g(0.075mol)のNaHを不活性雰囲気において20mlのテトラヒドロフラン(THF)に懸濁する。20mlのTHF中の6g(0.06mol)の4-メトキシブチ-2-イン-1-オールを含む溶液をこの懸濁液に滴加し、攪拌しながら室温において3時間反応させる。次いで、この溶液に30mlのTHF中の3.5g(0.019mol)の2,4,6-トリクロロ-s-トリアジンを含む溶液をゆっくり滴加することにより加え、一晩反応させる。溶媒を蒸発させ、残留物を30mlの水で洗浄し、次いで10%HCl溶液で酸性にする。その後CH2Cl2により3回抽出し、溶媒を蒸発させ、6gの黄色のオイルを得る。この生成物を、溶出液として酢酸エチルを用いてシリカカラムにおけるカラムクロマトグラフィーにより精製し、4.3gの黄色の液体が得られる。収率は60%である。この最終生成物は液体であるが、炭素上のパラジウムに含浸させ、本発明用の組成物が得られる。これは水素吸収テストにおいて蒸気圧がゼロである。
【0032】
例4
この例は、化合物aを含む本発明の組成物の水素吸収能の測定を示す。
この測定のため、図1に示す系を用いる。これは、公知の体積を有するチャンバー12(その圧力はマノメーター13により測定される)にニードルバルブ11により接続されている水素容器10より形成され、チャンバー12はバルブ14によりポンピングシステム(図示せず)に接続されている。さらに、チャンバー12は液体窒素トラップ15及びバルブ16により測定チャンバー17に接続されている。この測定チャンバーはバルブ18によりポンピングシステム(図示せず)に接続されている。トラップ15はチャンバー12からチャンバー17への不純物の通過を防ぐために設けられている。
【0033】
例1のようにして製造した化合物a10gを50mlのエチルアルコールに溶解する。Aldrich社製の炭素上5%パラジウム10gをこの溶液に加える。この材料は比表面積の大きな炭素粉末と、その上に担持されたパラジウムからなり、パラジウムの量は炭素とPdの合計の5wt%である。得られた溶液を30分間攪拌し、その後蒸発により溶媒を除去し、こうして化合物aと炭素上パラジウムの混合物からなる残留物が得られる。
【0034】
この混合物1gを粉末の形態で測定チャンバー17に入れる。チャンバー17を1.33×10-3ミリバールの圧力まで排気し、次いでこのチャンバーをバルブ18を閉じることにより外す。バルブ16を閉じると、バルブ11を、系内の圧力が6.7ミリバールになるまで開く。ここでバルブ16を開き、バルブ11を閉じると、系内の圧力はサンプルによる吸収によって低下する。圧力が最初の圧力の1/10(0.67ミリバール)に低下したなら、水素投入を繰り返す。測定チャンバーに水素導入後、サンプルによる吸収が検出されなくなるまで同じ手順を繰り返す。テスト時間に対する圧力値を調べ、以下の式により、吸収された水素量に対する吸収速度値(S)が得られる。
【0035】
Qi=(P0−Pi)×V]
Si=−V/Pi×(dP/dt)
(上式中、Qiは時間iにおいて吸収された水素の量であり、Siは時間iにおける体積吸収速度であり、P0は当初の圧力であり、Piは時間iにおける圧力であり、Vは測定系の総体積である)
【0036】
次いで、Q及びSをゲッターサンプルの質量に対して正規化する。このテストの結果を図2に示す。この図より明らかなように、化合物aを含む組成物は合計約67(mbar×l/g)の水素を吸収し、これは化合物a単独では約133(mbar×l/g)に相当する。この組成物の吸収能がほぼ消費された場合、吸収速度は約5.3×10-3(mbar×l/g×s)の当初の値から約2.7×10-5(mbar×l/g×s)の値まで変化する。
【0037】
例5
炭素上5%パラジウム0.5gに例3のようにして製造した化合物b0.5gを含浸させて得た、本発明の組成物1gのサンプルにおいて例4のテストを繰り返した。この組成物は、化合物b単独で186(mbar×l/g)の水素吸収能を示し、テストの開始時において2.7×10-3(mbar×l/g×s)の、そして終了時において8×10-6(mbar×l/g×s)の吸収速度を示す。
【0038】
本発明の範囲内において、説明した実施態様に可能な変形及び追加を行ってよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の組成物の水素吸収特性の評価に用いられる測定系の図である。
【図2】 本発明のゲッター組成物の不飽和有機物質a1グラムあたり吸収される水素に対する水素吸収速度の変化を示すグラフである。
本発明は、低圧において密閉容器内で水素を吸収することのできる組成物に関し、詳細には、不飽和有機物質及び水素化触媒から形成される組成物に関する。
【0002】
ゲッター材料は、密閉系において真空を維持することが必要なすべての用途において長い間用いられてきた。特に重要な用途は、あらゆる材料もしくは装置に断熱性を実現するために真空の低熱伝導性を用いている。そのような断熱性は通常、材料もしくは装置の外側に二重の壁を設け、その間を排気することによって得られる。
【0003】
気体のなかで水素は最も熱伝導性が高いため、真空を完全にするように排気された空間に存在する少量の水素を吸収する手段を提供することが特に重要である。さらに、水素分子のサイズが小さいため、この気体は排気された容器から容易に放出され、断熱性を維持するために連続して吸収しなければならない。
【0004】
炭素原子中に不飽和結合を含む有機化合物は適当な触媒の存在下において水素と反応し、対応する飽和化合物に転化されることが知られている。この反応性のため、前記化合物は適当な触媒と共に、水素ゲッターとして用いることが有利である。
【0005】
原則として2つの炭素原子の間に二重結合又は三重結合を含むすべての化合物は水素を吸収するが、産業上用いる化合物は基本的要件を満たさなければならない。第一の要件は、水素との反応速度であり、これは密閉系に水素が蓄積することを避けるために高くなければならない。さらに、この水素化反応はとても低い水素圧においても起こることが必要であり、換言すれば生成物へ反応の平衡がシフトしていることが必要である。不飽和化合物が触媒上に留まっているようにするに重要な他の要件は、前記不飽和化合物が操作圧力及び温度の全範囲にわたって低い蒸気圧を有することである。
【0006】
米国特許第3,896,042号には、低圧及び低温において密閉系から水素を吸収する方法が記載されており、この方法は容器内に、不活性基材上に担持されかつ不飽和有機化合物でコートされてなる水素化触媒を配置することからなる。この特許に記載されている不飽和有機化合物はアリールアセチレン、特にビスフェノールAのポリジプロパルギルエーテル、二量化プロパルギルフェニルエーテル、二量化ベンジルアセチレン、二量化フェニルプロピオレート、及び二量化ジフェニルプロパルギルエーテルである。
【0007】
米国特許第4,405,487号には、例えば電子及び機械部品用の内部シール容器に用いることができるゲッター材料の組み合わせが記載されており、これは水分ゲッターと水素ゲッターを含んでいる。水素ゲッターは水素化触媒及び固体アセチレン系炭化水素から形成され、窒素及び硫黄ヘテロ原子を含んでいない。事実、この特許の教示によれば、これらの元素は加水分解によって望ましくない副生成物を形成する。水素化速度及び化合物1グラムあたりの水素吸着能の観点から特に有利であると示されたアセチレン系炭化水素は1,4-ジフェニルブタジインである。
【0008】
米国特許第5,624,598号及び5,703,378号には、例えば高温液の輸送用のパイプの断熱に用いることのできる、低圧及び高温における水素吸収用組成物が記載されている。この組成物は適当な触媒及び、ベンゼン、スチレン、ナフタレン、アントラセン、ジフェニル、フルオレン、フェナントレン及びピレンより選ばれる芳香族部分と炭素原子の間に三重結合を含む炭化水素化合物もしくはポリマーより形成される。芳香族部分の存在は不飽和化合物及びその水素化誘導体の融点を高め、使用温度及び圧力において固体であるように作用する。
【0009】
しかしながら、上記特許に示す組成物の第一の欠点は、分子量の異なる多くの化合物の混合物として得られることである。これは、生成物の物理的及び化学的特性の制御及び再現性に問題がある。特に、公知のように、分子量の高い有機化合物の溶液を得ることが困難であり、従って水素化触媒との混合及び多孔質基材への付着のような溶液に通すことが必要な最終ゲッターの製造工程が困難である。
【0010】
水素吸収用の上記組成物の第二の欠点はその製造コストが高いことである。事実、不飽和化合物もしくはポリマーの合成は、触媒としてのパラジウム錯体及びトリフェニルホスフィンの使用を必要とする、アセチレン及び芳香族ハロゲン化物から出発する縮合反応により行われる。この反応の最後において、経済的理由のため反応生成物からパラジウム錯体を分離することが必要である。さらに、他の触媒であるトリフェニルホスフィンは毒性があり、安全性及び環境上の問題を避けるために産業上のプロセスにおいては用いるべきではない。
【0011】
従って、本発明の目的は前記欠点のない水素ゲッター組成物を提供することである。この目的は、請求項1にその主要な特徴を示す水素ゲッター組成物によって達成される。他の特徴は他の請求項に示してある。
【0012】
本発明の水素ゲッター組成物の第一の利点は、当該分野のゲッターに一般的なものよりも低い最終水素圧を可能にすることである。
【0013】
本発明の水素ゲッター組成物の第二の利点は、その製造コストがとてもひくいことである。事実、その成分である不飽和有機物質の合成は、すでに市場において入手可能な材料から出発し、高価な触媒を用いることなくかつその後の分離を必要とすることなく高収率で与える方法により行われる。
【0014】
本発明の水素ゲッター組成物のこれら及び他の利点は、図面を参照する以下の記載から当業者に明らかであろう。
【0015】
本発明の水素ゲッター組成物は不飽和有機物質及び水素化触媒を含む。この不飽和有機物質は下式A及びA’を有する化合物である。
【化3】
(上式中、R1、R2及びR3は水素又は所望により1以上のヘテロ原子を含む炭化水素部分であり、R1、R2及びR3のうち少なくとも1つは、所望により1以上のヘテロ原子を含むアルケニル、アルキニル、アリールアルケニル及びアリールアルキニル部分からなる群より選ばれる)
【0016】
さらに、前記不飽和有機物質は式A又はA’の化合物の二量体もしくはポリマー、及び構造ユニットの1つが式A又はA’を有するコポリマーであってもよい。
【0017】
3つの置換基R1、R2及びR3はすべて水素でなくてもよく、各々は1以上の不飽和結合を有していてもよく、従ってこの物質1グラムあたりの可逆的に吸収される水素の量は最大である。
【0018】
さらに、本発明の一態様によれば、置換基R1、R2及びR3はN、O及びSより選ばれ、トリアジン環に直接結合しているヘテロ原子を少なくとも1つ含む。実際、米国特許第4,405,487号の教示に反して、ある場合にはヘテロ原子の存在が化合物の反応性及び水素化触媒の有効性に影響を与えないことが見出された。好ましいR1、R2及びR3置換基は式R-(C=C)n-CH2-O-及びR-(C≡C)n-CH2-O-で表され、式中n≧1であり、Rが脂肪族もしくは芳香族炭化水素部分であるものである。
【0019】
本発明の不飽和有機物質を簡単に合成するため、式AもしくはA’を有する化合物の場合、3つの置換基R1、R2及びR3は好ましくは同一である。
【0020】
式AもしくはA’の化合物は下式に示すように対応するトリクロロトリアジンから出発して合成される。
【化4】
【0021】
上記不飽和有機物質は優れた耐熱性を示すため、液体形態においても本発明の水素ゲッターの成分として用いることができる。しかしながら、水素ゲッターの最終用途が特に高温作業温度を含む場合、固体不飽和有機物質が必要であり、式AもしくはA’を有する2種以上の化合物を縮合させてこの化合物の二量体もしくはポリマーを得ることによりとても高い融点を得ることができる。さらに、式AもしくはA’を有する化合物の2以上の分子を炭化水素化合物と縮合させることもできる。
【0022】
本発明の組成物においては、共に式Aを有する以下の2つの有機化合物を用いることが好ましい。
【化5】
【0023】
化合物aは、IUPACによれば、2,4,6-トリス-(E-3-フェニルプロプ-2-エニル-1-オキシ)-1,3,5-トリアジンと命名される新規化合物であり、この化合物の分子量は477.56g/molであり、その融点は128〜129℃である。この化合物は、例えば1当量の2,4,6-トリクロロ-1,3,5-トリアジンと3当量のアルカリ金属シンナメート(後者は反応媒体中、現場で形成してもよい)と反応させることにより得られる。
【0024】
化合物bはIUPAC名、2,4,6-トリス-(4-メトキシ-ブチ-2-ニル-1-オキシ)-1,3,5-トリアジンであり、分子量は375.38g/molである。
【0025】
本発明のゲッター組成物の一部を構成する触媒は水素化反応用の当該分野において公知の触媒であってよく、例えば周期表のVIII族に属する遷移金属又はその塩もしくは錯体である。好ましくは、アルミナ上に担持されたパラジウム又は炭素上に担持されたパラジウムを用いる。
【0026】
本発明のゲッター組成物を得るためにあらゆる公知の方法を用いることができる。例えば、不飽和有機物質を適当な溶媒中に混合もしくは希釈し、得られた溶液に水素化触媒を加えることによって調製される。この混合物を攪拌した後、溶媒を蒸発させることによりゲッター組成物が得られる。触媒としてパラジウム金属を用いる場合、好ましくは不飽和有機物質の0.1〜10wt%の量存在する。
【0027】
以下の実施例において、本発明のゲッター組成物に有利に用いられる有機化合物の合成およびこの組成物の水素吸収特性について示す。
【0028】
例1
この例は上記の化合物aの合成を示す。
50g(0.36mol)の桂皮酸アルコールを180mlの乾燥トルエンに溶解する。20g(0.36mol)のKOHをこの溶液に加え、得られた混合物を室温において1時間拡販する。この間に桂皮酸カリウムが得られる。次いで、150mlのトルエン中の18g(0.10mol)の2,4,6-トリクロロ-s-トリアジンより調製した溶液を加え、攪拌しながら室温においてさらに90時間反応させる。
【0029】
この反応混合物をpHが中性になるまで水で洗浄する。この溶液を濃縮し、ジイソプロピルエーテルの添加によって生成物を沈殿させる。この生成物を乾燥させ、NMR及びマススペクトルで分析し、2,4,6-トリス-(E-3-フェニルプロピ-2-エニル-1-オキシ)-1,3,5-トリアジンであることを確認する。この化合物の融点は128〜129℃であり、37gの生成物が得られ、収率は約78%に相当する。
【0030】
例2
例1の合成を繰り返すが、トルエン中の桂皮酸アルコールとKOHの混合物に50g(0.36mol)のK2CO3を加える。30gの2,4,6-トリス-(E-フェニルプロピ-2-エニル-1-オキシ)-1,3,5-トリアジンが得られ、収率は約64%である。
【0031】
例3
この例は上記の化合物bの合成を示す。
1.8g(0.075mol)のNaHを不活性雰囲気において20mlのテトラヒドロフラン(THF)に懸濁する。20mlのTHF中の6g(0.06mol)の4-メトキシブチ-2-イン-1-オールを含む溶液をこの懸濁液に滴加し、攪拌しながら室温において3時間反応させる。次いで、この溶液に30mlのTHF中の3.5g(0.019mol)の2,4,6-トリクロロ-s-トリアジンを含む溶液をゆっくり滴加することにより加え、一晩反応させる。溶媒を蒸発させ、残留物を30mlの水で洗浄し、次いで10%HCl溶液で酸性にする。その後CH2Cl2により3回抽出し、溶媒を蒸発させ、6gの黄色のオイルを得る。この生成物を、溶出液として酢酸エチルを用いてシリカカラムにおけるカラムクロマトグラフィーにより精製し、4.3gの黄色の液体が得られる。収率は60%である。この最終生成物は液体であるが、炭素上のパラジウムに含浸させ、本発明用の組成物が得られる。これは水素吸収テストにおいて蒸気圧がゼロである。
【0032】
例4
この例は、化合物aを含む本発明の組成物の水素吸収能の測定を示す。
この測定のため、図1に示す系を用いる。これは、公知の体積を有するチャンバー12(その圧力はマノメーター13により測定される)にニードルバルブ11により接続されている水素容器10より形成され、チャンバー12はバルブ14によりポンピングシステム(図示せず)に接続されている。さらに、チャンバー12は液体窒素トラップ15及びバルブ16により測定チャンバー17に接続されている。この測定チャンバーはバルブ18によりポンピングシステム(図示せず)に接続されている。トラップ15はチャンバー12からチャンバー17への不純物の通過を防ぐために設けられている。
【0033】
例1のようにして製造した化合物a10gを50mlのエチルアルコールに溶解する。Aldrich社製の炭素上5%パラジウム10gをこの溶液に加える。この材料は比表面積の大きな炭素粉末と、その上に担持されたパラジウムからなり、パラジウムの量は炭素とPdの合計の5wt%である。得られた溶液を30分間攪拌し、その後蒸発により溶媒を除去し、こうして化合物aと炭素上パラジウムの混合物からなる残留物が得られる。
【0034】
この混合物1gを粉末の形態で測定チャンバー17に入れる。チャンバー17を1.33×10-3ミリバールの圧力まで排気し、次いでこのチャンバーをバルブ18を閉じることにより外す。バルブ16を閉じると、バルブ11を、系内の圧力が6.7ミリバールになるまで開く。ここでバルブ16を開き、バルブ11を閉じると、系内の圧力はサンプルによる吸収によって低下する。圧力が最初の圧力の1/10(0.67ミリバール)に低下したなら、水素投入を繰り返す。測定チャンバーに水素導入後、サンプルによる吸収が検出されなくなるまで同じ手順を繰り返す。テスト時間に対する圧力値を調べ、以下の式により、吸収された水素量に対する吸収速度値(S)が得られる。
【0035】
Qi=(P0−Pi)×V]
Si=−V/Pi×(dP/dt)
(上式中、Qiは時間iにおいて吸収された水素の量であり、Siは時間iにおける体積吸収速度であり、P0は当初の圧力であり、Piは時間iにおける圧力であり、Vは測定系の総体積である)
【0036】
次いで、Q及びSをゲッターサンプルの質量に対して正規化する。このテストの結果を図2に示す。この図より明らかなように、化合物aを含む組成物は合計約67(mbar×l/g)の水素を吸収し、これは化合物a単独では約133(mbar×l/g)に相当する。この組成物の吸収能がほぼ消費された場合、吸収速度は約5.3×10-3(mbar×l/g×s)の当初の値から約2.7×10-5(mbar×l/g×s)の値まで変化する。
【0037】
例5
炭素上5%パラジウム0.5gに例3のようにして製造した化合物b0.5gを含浸させて得た、本発明の組成物1gのサンプルにおいて例4のテストを繰り返した。この組成物は、化合物b単独で186(mbar×l/g)の水素吸収能を示し、テストの開始時において2.7×10-3(mbar×l/g×s)の、そして終了時において8×10-6(mbar×l/g×s)の吸収速度を示す。
【0038】
本発明の範囲内において、説明した実施態様に可能な変形及び追加を行ってよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の組成物の水素吸収特性の評価に用いられる測定系の図である。
【図2】 本発明のゲッター組成物の不飽和有機物質a1グラムあたり吸収される水素に対する水素吸収速度の変化を示すグラフである。
Claims (10)
- R1、R2及びR3がN、O及びSからなる群より選ばれるヘテロ原子を少なくとも1つ含み、このヘテロ原子がトリアジン環に直接結合していることを特徴とする、請求項1記載の水素ゲッター組成物。
- 前記不飽和有機物質が式AもしくはA’を有し、式中R1、R2及びR3が同一であることを特徴とする、請求項1又は2記載の水素ゲッター組成物。
- R1、R2及びR3が式R-(C=C)n-CH2-O-で表され、式中n≧1であり、Rが脂肪族もしくは芳香族炭化水素部分であることを特徴とする、請求項3記載の水素ゲッター組成物。
- R1、R2及びR3が式R-(C≡C)n-CH2-O-で表され、式中n≧1であり、Rが脂肪族もしくは芳香族炭化水素部分であることを特徴とする、請求項3記載の水素ゲッター組成物。
- 前記水素化触媒が周期表のVIII族金属、その塩及び錯体から選ばれることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水素ゲッター組成物。
- 前記水素化触媒がアルミナもしくはカーボン上に担持されたPdであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の水素ゲッター組成物。
- パラジウムの量が不飽和有機物質の0.1〜10wt%であることを特徴とする、請求項7記載の水素ゲッター組成物。
- 請求項9記載の有機物質の合成方法であって、2,4,6-トリクロロ-1,3,5-トリアジンを3当量のアルカリ金属シンナメートと反応させることを特徴とする方法。
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