本発明は、強誘電体薄膜素子に関するものであり、強誘電体薄膜の自発分極が薄膜素子の素子特性向上に関与する素子、例えば、不揮発性メモリ等に関する。また、本発明は、エピタキシャル強誘電体膜の圧電特性を利用する圧電アクチュエーターおよびこれを含む構成を有する圧電アクチュエーター部を有する液体吐出ヘッド並びに圧電アクチュエーターの製造方法に関する。
近年、不揮発性メモリ等の記憶媒体として高性能の強誘電体薄膜を用いた記憶装置(以下強誘電体メモリという)が求められている。強誘電体メモリにおいて最適なデバイス特性および再現性を確保するためには、強誘電体薄膜の自発分極(残留分極)が大きいこと、残留分極の温度依存性が小さいこと、分極反転の繰り返しに対する劣化が小さいこと等が求められる。
現在強誘電体材料としては、主としてジルコン酸チタン酸鉛[ Pb(Zr,Ti)O3 ](PZTと表すことがある)が用いられている。PZTは、ジルコン酸鉛とチタン酸鉛の固溶体であるが、ほぼ1:1のモル比で固溶したものが、自発分極が大きく、低い電界でも反転することができ、記憶媒体として優れているものと考えられている。PZTは、強誘電体相と常誘電体層の間の転移温度(キュリー温度)が300℃以上と比較的高いため、通常の電子回路が使用される温度範囲(120℃以下)では、記憶された内容が熱によって失われる心配は少ない。
しかし、PZT薄膜のような優れた強誘電体薄膜であっても、多結晶体からなる強誘電体薄膜では結晶粒界による物理量の錯乱のため、良好なデバイス特性を得ることが困難である。このため、強誘電体素子のデバイス特性を考えた場合、できるだけ完全な単結晶に近いエピタキシャル薄膜が望まれている。
また、強誘電体デバイスの高集積化においては、強誘電体薄膜の薄膜化が有効であるが、一般的に、強誘電体薄膜の膜厚を100nm以下にすると、強誘電体薄膜が、エピタキシャル膜である場合においても、強誘電体薄膜の自発分極が失われる傾向にあり、強誘電体薄膜の残留分極や強誘電体薄膜の耐疲労特性の劣化が顕著になる。このため強誘電体薄膜の膜厚を薄くするには、強誘電体薄膜の自発分極を十分大きく保つための工夫が必要となる。
強誘電体薄膜の自発分極を大きくする方法として、基板と強誘電体薄膜の熱膨張係数のミスマッチを利用する方法(例えば、特許文献1参照。)、基板と強誘電体薄膜の格子のミスフィットを利用する方法(例えば、特許文献2参照。)等が挙げられる。これらの方法を採用すると、強誘電体薄膜に対し圧縮応力が加えられるようにすることができ、これにより強誘電体薄膜の自発分極を大きくすることができる。
しかしながら、強誘電体薄膜に圧縮応力を加えて自発分極を大きくする従来の方法では、自発分極を大きくすることは可能であるが、強誘電体薄膜の残留分極や強誘電体薄膜の耐疲労特性の劣化は改善されない。これは、強誘電体薄膜の上記特性の劣化に対しては、強誘電体薄膜面内の基板面方向に加わる応力が大きく関与しており、強誘電体薄膜に従来の方法で大きな圧縮応力を加えると、基板面方向に加わる応力が強誘電体薄膜に作用し、強誘電体薄膜の特性劣化をさらに助長するためと推定されている。
加えて近年、パソコンなどの印刷装置としてインクジェット記録装置を用いたプリンタが、印字性能がよく取り扱いが簡単である、低コストであるなどの理由から広く普及している。このインクジェット記録装置に使用されているインクジェットヘッドは、インクを吐出する液体吐出ヘッドであり、熱エネルギーによってインク中に気泡を発生させ、その気泡による圧力波によりインク滴を吐出させるもの、静電力によりインク滴を吸引吐出させるもの、圧電素子または電歪素子のような振動子を有するアクチュエーターによって発生させる圧力波を利用してインク滴を吸引吐出させるもの等種々の方式がある。
一般に、圧電アクチュエーターを用いた方式の液体吐出ヘッドは、例えば、液体供給室に連通した圧力室とその圧力室に連通した液体吐出口とを備え、その圧力室の一部に圧電アクチュエーターが接合もしくは直接形成された振動板が設けられて構成されている。このような構成の液体吐出ヘッドにおいては、圧電アクチュエーターに所定の電圧を印加して圧電素子を伸縮させることにより、たわみ振動を起こさせて圧力室内の液体を加圧することにより液体吐出口から液滴を吐出させる。
現在カラーのインクジェト記録装置が普及してきたが、その印字性能の向上、特に高解像度化および高速印字が求められている。このためインクを吐出する液体吐出ヘッドを微細化したマルチノズルヘッド構造を用いて高解像度および高速印字を実現する事が試みられている。液体吐出ヘッドを微細化するためには、液体を吐出させるための圧電アクチュエーターの小型化が必要になる。
従来、圧電アクチュエーターおよび液体吐出ヘッドにおいて、圧電アクチュエーターを小型化するためには、焼結により得られた圧電体を上記のように切削、研磨等の技術によって微細成形して製造されていたが、これとは別に、圧電体を膜として形成し、半導体で用いられてきた微細加工技術を駆使してより高精度な超小型圧電アクチュエーターを開発する研究がなされている。さらに、その高性能化を考えた場合、圧電体膜は単結晶膜あるいは結晶配向性を有する膜であることが望ましく、ヘテロエピタキシャル成長技術の開発が盛んに行われている。
また、一般に、圧電体として強誘電体を用いる場合、強誘電体に求められる特性の一つは、強誘電体の自発分極が大きいことである。しかし、膜の場合、通常、強誘電体膜の膜厚を小さくしてゆくと、たとえ強誘電体膜がエピタキシャル膜であったとしても、エピタキシャル強誘電体膜の自発分極が失われる傾向にあり、エピタキシャル強誘電体膜の自発分極を十分大きく保つための工夫が必要となる。
エピタキシャル強誘電体膜の自発分極を大きくする方法として、上述した通り、基板とエピタキシャル強誘電体膜の熱膨張係数のミスマッチを利用する方法(例えば、特許文献1参照。)、基板とエピタキシャル強誘電体膜の格子のミスフィットを利用する方法(例えば、特許文献2参照。)等が挙げられる。これらの方法によると、膜内に圧縮応力が作用したエピタキシャル強誘電体膜が形成され、自発分極の大きなエピタキシャル強誘電体膜を得ることができる。
しかしながら、膜内に圧縮応力が作用したエピタキシャル強誘電体膜を形成して、自発分極を大きくすることにより圧電特性を向上させる従来の方法では、圧電性を大きくすることは可能であるが、圧電アクチュエーターの繰り返し使用時の特性劣化、電圧印加時のリーク電流に伴う圧電アクチュエーターの破壊などの問題は解決されない。これは、圧電アクチュエーターの上記特性の劣化、破壊に対しては、エピタキシャル強誘電体膜面内の基板面方向に加わる応力が関与しており、従来の方法で作製した大きな圧縮応力の作用を受けているエピタキシャル強誘電体膜では、基板面方向に加わる応力がエピタキシャル強誘電体膜に作用し、圧電アクチュエーターの耐久特性の劣化をさらに助長しているためであると推定されている。
特開平08−186182号公報
特開平08−139292号公報
本発明の目的の一つは、強誘電体薄膜面内の基板面方向に加わる応力が小さいため、強誘電体薄膜素子の特性劣化がなく、かつ、強誘電体薄膜の自発分極が大きく、薄膜化に適した強誘電体薄膜素子を提供することである。強誘電体薄膜の自発分極が強誘電体薄膜素子の素子特性向上に関与する素子、例えば、不揮発性メモリ等に有効である。ヘテロエピタキシャル成長技術では、基板と形成された強誘電体薄膜の境界面近傍域内に生じる基板面方向に加わる応力を小さくすることが好ましい。これは、基板と強誘電体薄膜の結晶格子のミスフィットによって生じる基板面方向に加わる応力が、強誘電体薄膜の膜はがれの一因になっており、上記基板面方向に加わる応力を小さくすることにより膜はがれを防止することができるためであると推定される。
本発明の他の目的は、基板と該基板上に設けられたエピタキシャル強誘電体薄膜とを備えた強誘電体薄膜素子において、前記エピタキシャル強誘電体薄膜が、該エピタキシャル強誘電体薄膜の結晶面のうち、前記基板表面の結晶面に平行な結晶面をZ結晶面、該Z結晶面の面間隔をzとし、前記エピタキシャル強誘電体薄膜の構成材料のバルク状態でのZ結晶面の間隔をz0としたとき、z / z0 > 1.003であり、前記Z結晶面に垂直な前記エピタキシャル強誘電体薄膜の結晶面の一つの結晶面をX結晶面、該X結晶面の面間隔をxとし、前記エピタキシャル強誘電体薄膜の構成材料のバルク状態でのX結晶面の面間隔をx0としたとき、0.997 ≦ x / x0 ≦ 1.003であることを特徴とする強誘電体薄膜素子を提供することである。かかる本発明によれば、強誘電体薄膜素子の特性の劣化がない、自発分極の大きな、薄膜化に適した強誘電体薄膜素子を得ることが出来る。
本発明の更に他の目的は、エピタキシャル強誘電体膜面に作用する基板面方向に加わる応力を小さくし、エピタキシャル強誘電体膜の膜剥がれや特性劣化がない、大面積化が可能であり、かつ、圧電特性に優れ、薄膜化に適したエピタキシャル強誘電体膜を形成することにより、優れた特性を有する圧電アクチュエーターを提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、この圧電アクチュエーターを含む構成を有する圧電アクチュエーター部を備えた、液体吐出ヘッド、特にインクジェット記録装置に使用される液体吐出ヘッドを提供することである。ヘテロエピタキシャル成長技術では、基板と形成されたエピタキシャル強誘電体膜の境界面近傍域内に生じる基板面方向に加わる応力を小さくすることが好ましい。基板とエピタキシャル強誘電体膜の格子のミスフィットによって生じる基板面方向に加わる応力を小さくすると、エピタキシャル強誘電体膜の膜はがれを防止することが可能となり、これにより基板の大面積化による、生産性の向上を図ることが可能となる。
本発明の更に他の目的は、基板と該基板上に設けられたエピタキシャル強誘電体膜とを備えた圧電アクチュエーターにおいて、前記エピタキシャル強誘電体膜は、該エピタキシャル強誘電体膜の結晶面のうち、前記基板表面の結晶面に垂直な前記エピタキシャル強誘電体膜の結晶面の一つの結晶面をX結晶面、該X結晶面の面間間隔をxとし、前記エピタキシャル強誘電体膜の構成材料のバルク状態でのX結晶面の面間隔をx0としたとき、0.997 ≦ x / x0 ≦ 1.003であり、残留分極が35μC/cm 2 以上、自発分極が80μC/cm 2 以上であることを特徴とする圧電アクチュエーターを提供することである。また、本発明の更に他の目的は、上記本発明の圧電アクチュエーターの製造方法において、スパッタリング法によって前記基板上に前記強誘電体膜をエピタキシャルに形成する成膜工程を有することを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法を提供することである。また、本発明の更に他の目的は、上記圧電アクチュエーターを用いて液体を吐出する液体吐出ヘッドを提供することである。
上記目的を達成した本発明は、
基板と該基板上に設けられたエピタキシャル強誘電体薄膜とを備えた強誘電体薄膜素子において、
前記エピタキシャル強誘電体薄膜が、
該エピタキシャル強誘電体薄膜の結晶面のうち、前記基板表面の結晶面に平行な結晶面をZ結晶面、該Z結晶面の面間隔をzとし、前記エピタキシャル強誘電体薄膜の構成材料のバルク状態でのZ結晶面の間隔をz0としたとき、z / z0 > 1.003であり、
前記Z結晶面に垂直な前記エピタキシャル強誘電体薄膜の結晶面の一つの結晶面をX結晶面、該X結晶面の面間隔をxとし、前記エピタキシャル強誘電体薄膜の構成材料のバルク状態でのX結晶面の面間隔をx0としたとき、0.997 ≦ x / x0 ≦ 1.003であることを特徴とする強誘電体薄膜素子である。
また、上記目的を達成した本発明は、
基板と該基板上に設けられたエピタキシャル強誘電体膜とを備えた圧電アクチュエーターにおいて、
前記エピタキシャル強誘電体膜は、該エピタキシャル強誘電体膜の結晶面のうち、前記基板表面の結晶面に垂直な前記エピタキシャル強誘電体膜の結晶面の一つの結晶面をX結晶面、該X結晶面の面間間隔をxとし、前記エピタキシャル強誘電体膜の構成材料のバルク状態でのX結晶面の面間隔をx0としたとき、0.997 ≦ x / x0 ≦ 1.003であり、残留分極が35μC/cm 2 以上、自発分極が80μC/cm 2 以上であることを特徴とする圧電アクチュエーターである。
また、上記目的を達成した本発明は、上記本発明の圧電アクチュエーターの製造方法において、
スパッタリング法によって前記基板上に前記強誘電体膜をエピタキシャルに形成する成膜工程を有することを特徴とする圧電アクチュエーターの製造方法である。
さらに、上記目的を達成した本発明は、前記本発明の圧電アクチュエーターを用いて液体を吐出する液体吐出ヘッドである。
かかる本発明によれば、強誘電体薄膜素子の特性の劣化がない、自発分極の大きな、薄
膜化に適した強誘電体薄膜素子を得ることが出来る。
また、かかる本発明によれば、エピタキシャル強誘電体膜の膜剥がれや特性劣化がなく、圧電特性に優れ、膜化・微細化に適し、大面積化に優れる圧電アクチュエーターおよび液体吐出ヘッドを提供することができる。
本発明の強誘電体薄膜素子は、少なくとも基板と、基板上に形成されたエピタキシャル強誘電体薄膜とを備えた構造を有する。本発明の強誘電体薄膜素子の基板上に形成されたエピタキシャル強誘電体薄膜は、単結晶もしくは結晶配向性を有する強誘電体薄膜である。
また、本発明の圧電アクチュエーターは、少なくとも、基板と、基板上に形成されたエピタキシャル強誘電体膜と、エピタキシャル強誘電体膜の上下に形成された電極を備えた構造を有する。基板の上に形成されたエピタキシャル強誘電体膜は、単結晶または結晶配向性を有するエピタキシャル強誘電体膜であり、このエピタキシャル強誘電体膜を挟むように上下に電極を備えている。
本発明に係るエピタキシャル強誘電体膜は、その結晶面のうち基板表面の結晶面に平行な結晶面をZ結晶面とし、Z結晶面の面間隔をz、エピタキシャル強誘電体膜の構成材料のバルク状態でのZ結晶面の面間隔をz0としたときに、z / z0 > 1.003 の関係を満たす。このエピタキシャル強誘電体膜は、好ましくは、z / z0 > 1.004 の、より好ましくは、z / z0 > 1.005の関係を満たす。z / z0 > 1.003 の関係を満たす場合、エピタキシャル強誘電体膜は、2〜100nmのような膜厚であっても自発分極を大きくすることが可能である。また、上記関係を満たす場合、エピタキシャル強誘電体膜は、膜厚が10μm以下であっても自発分極が大きくなり圧電特性を向上させることが可能である。
z / z0 の値の上限値は特に限定されないが、一般的には、z / z0 は1.050以下、好ましくは1.020以下、より好ましくは1.010以下である。z / z0 の値の上限値を1.050以下とすると、結晶性の良いエピタキシャル膜を容易に形成することが可能である。
さらに、本発明に係るエピタキシャル強誘電体膜は、Z結晶面に垂直な結晶面のうち一つの結晶面をX結晶面、X結晶面の面間隔をxとし、エピタキシャル強誘電体膜の構成材料のバルク状態でのX結晶面の面間隔をx0としたときに、0.997 ≦ x / x0 ≦ 1.003 の関係を満たす。本発明の強誘電体膜素子の基板上に形成されたエピタキシャル強誘電体膜は、好ましくは、0.998 ≦ x / x0 ≦ 1.002 の、より好ましくは、0.999 ≦ x / x0 ≦ 1.001 の関係を満たす。上記関係を満たす場合、エピタキシャル強誘電体膜面内の基板面方向に加わる応力が小さく、エピタキシャル強誘電体膜の残留分極やエピタキシャル強誘電体膜の耐疲労特性の劣化がなく、膜剥がれのない強誘電体薄膜素子が得られる。また、上記関係を満たす場合、エピタキシャル強誘電体膜に作用する基板面方向に加わる応力は小さく、圧電アクチュエーターの繰り返し使用時の特性劣化、電圧印加時のリーク電流に伴うエピタキシャル強誘電体膜の破壊などの問題のない、耐久特性に優れる圧電アクチュエーターを得ることができる。
以下、このような強誘電体素子、圧電アクチュエーターを実現するために求められる具体的な発明の実施形態について説明する。
エピタキシャル強誘電体膜の構成材料は特には限定されず、強誘電性を有するものから適宜選択することができる。例えば、BaTiO3、PbTiO3、PbZrO3、YMnO3、Bi4Ti3O12、SrBi2Ta2O9、(Sr,Ba)NbO3などを挙げることができる。常温で強誘電特性の大きな材料としては、一般にPZTに代表される鉛系のペロブスカイト型酸化物材料を挙げることができる。さらに上記主成分に、例えば、LaドープPZT[(Pb,La)(Zr,Ti,)O3](PLZTと表すことがある)のように、Laなどの微量の元素をドーピングした組成物であっても良い。圧電アクチュエーターの場合、大きな圧電特性を有する材料としてニオブ酸亜鉛酸鉛−チタン酸鉛(PZN−PTと表すことがある)、ニオブ酸マグネシウム酸鉛−チタン酸鉛(PMN−PTと表すことがある)に代表される緩和型強誘電体(リラクサー)材料であってもよい。
本発明の強誘電体薄膜素子、圧電アクチュエーターを作製するのに用いることのできる基板は、上層に強誘電体膜をエピタキシャルに成膜できる単結晶体であることが好ましい。好ましい基板として、例えば、MgO、SrTiO3、(La,Sr)TiO3、Al2O3、Pt、Siなどの単結晶基板を挙げることができる。特に、一般的に優れた強誘電体特性を示す鉛系のPZT等に格子定数の近い、SrTiO3、(La,Sr)TiO3、MgO、Pt等が好ましい。例えば、SrTiO3、(La,Sr)TiO3、Pt、 MgOの単結晶体は、立方晶系の結晶構造を有している。これらのバルク状態の結晶のa軸の格子定数は、室温で、それぞれ、3.905Å、3.907Å、3.923Å、4.211Åである。上記材料から(100)面が基板表面となるように作製した単結晶基板上に、正方晶系の結晶構造を有しPZT膜のZ結晶面が(001)面となるようにエピタキシャル強誘電体膜を形成する場合、強誘電体膜の構成材料としては、例えば、結晶系が正方晶系であり、バルク状態でのa軸の格子定数が室温において4.036ÅであるZr:Ti=52:48の組成を有するPZTが好ましい。
また、基板とエピタキシャル強誘電体膜との間にバッファ層を介することも優れた単結晶もしくは結晶配向性を有するエピタキシャル強誘電体膜を得るための有効な方法である。バッファ層の層厚は、特に限定されないが、バッファ層が高い結晶性を有することが好ましいため、通常、0.5nm以上であり、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上である。
強誘電体素子の場合、その特性を阻害しない程度の厚さが好ましく、通常、バッファ層の層厚は、100nm以下であり、好ましくは50nm以下、より好ましくは10nm以下である。例えば、Pt基板上にPZTを構成材料とするエピタキシャル強誘電体薄膜を形成する場合、バッファ層として2nm〜10nmの層厚のPbTiO3層を形成し、このバッファ層の上にエピタキシャル強誘電体薄膜を形成すると、更に良質の単結晶のエピタキシャル強誘電体薄膜を得ることが出来る。これはPZTを構成材料とするエピタキシャル強誘電体薄膜の初期成長過程ではZrよりTiがリッチである方が、単結晶のエピタキシャル成長を制御しやすいためであると推定されている。
圧電アクチュエーターの場合も、その特性を阻害しない程度の厚さが好ましく、通常、バッファ層の層厚は、1000nm以下であり、好ましくは500nm以下、より好ましくは100nm以下である。例えば、Pt基板上にPZTを構成材料とするエピタキシャル強誘電体膜を形成する場合、バッファ層として2nm〜1000nmの層厚のPbTiO3バッファ層を形成し、このバッファ層の上にエピタキシャル強誘電体膜を形成すると、更に良質の単結晶のエピタキシャル強誘電体膜を得ることができる。これはPZTを構成材料とするエピタキシャル強誘電体膜の初期成長過程ではZrよりTiがリッチである方が、単結晶のエピタキシャル成長を制御しやすいためであると推定されている。
さらに、Al2O3、Siなど、PZTとの格子定数の差が大きい材料から製造された基板上に単結晶または結晶配向性を有するエピタキシャル強誘電体膜を得るためにバッファ層を利用することも有効である。例えば、Si(100)基板上にイットリア安定化酸化ジルコニウム(YSZと表すことがある)の(100)面を基板面に平行にエピタキシャル成長させ、さらにその上にPt(111)をエピタキシャル成長させた基板上に、PbTiO3(111)を構成材料とするバッファ層を介してPZT(111)を構成材料とするエピタキシャル強誘電体膜を形成させることにより更に良質の単結晶のエピタキシャル強誘電体膜を得ることができる。これはYSZのa軸の格子定数5.16Åに対し、立方晶のPt(111)の結晶面に垂直な結晶面を(-110)面とした場合、この面間隔が5.55Åと比較的YSZの(100)面の面間隔に近いためであると推察される。
また、ステンレスやガラス製の基板のような配向性のない基板であっても、バッファ層を利用して単結晶もしくは結晶配向性を有する強誘電体膜をエピタキシャル成長させることが可能である。例えば、Ptは[111]に自然配向する性質をもつため、例えば、ガラス基板上にPt膜を成膜すると、基板表面に平行な結晶面が(111)面である高配向膜を形成することができる。この上にPbTiO3(111)のバッファ層を介してPZT(111)のエピタキシャル強誘電体膜を成長させることができる。
以上述べたように、バッファ層の利用は単結晶もしくは結晶配向性を有するエピタキシャル強誘電体膜を得るのに有効な方法である。
エピタキシャル強誘電体膜を不揮発性メモリ等の記憶媒体として利用する際は、エピタキシャル強誘電体膜の上下に電極が必要となる。また、圧電アクチュエーターはエピタキシャル強誘電体膜を挟むように上下に電極を備えた構造を有する。このため、強誘電体薄膜素子、圧電アクチュエーターを構成する基板またはバッファ層の少なくとも一層が導電性であることが望ましい。電極材料としては、PtやAuが利用されるのが一般的であるが、その他、Cr、Ru、Irなどでも良く、またSrRuO3や(La,Sr)TiO3などの酸化物系の電極材料を用いても良い。また、Pt/Tiなどのように電極の密着性やオーミック接合を目的とした多層構造の電極材料であってもよい。電極として用いる導電性材料は、比抵抗が0.01Ω・cm以下であることが好ましい。
次に本発明の強誘電体薄膜素子、圧電アクチュエーターの具体的な層構成の例を列挙する。
本発明の強誘電体薄膜素子は、少なくとも基板と、基板上にエピタキシャルに形成された単結晶または結晶配向性を有するエピタキシャル強誘電体薄膜を備えた構造を有するものであるが、不揮発性メモリなどの電子デバイスに用いる場合は、エピタキシャル強誘電体薄膜の上下に電極が必要となる場合が多い。このため、構成の表示は、上部電極//強誘電体薄膜//バッファ層//基板とし、基板またはバッファ層が、導電性を有する層であるときはアンダーラインを付した。しかし、例えば、強誘電体ゲート・トランジスタのように、バッファ層として必ずしも導電性を有する層を必要としないデバイスに強誘電体薄膜素子を利用する場合は、この限りではない。また、これらの層のうち、少なくともエピタキシャル強誘電体薄膜はその下層膜とエピタキシャルの関係にある。
本発明の圧電アクチュエーターは、少なくとも基板と、基板上にエピタキシャルに形成された単結晶または結晶配向性を有するのエピタキシャル強誘電体膜と、このエピタキシャル強誘電体膜を挟むように上下に電極膜を備えた構造を有するものである。このため、圧電アクチュエーターの具体的な層構成を示す下記の表示は、上部電極//強誘電体膜//バッファ層//基板とし、基板またはバッファ層が、電極の機能を果たす導電性を有する層であるときはアンダーラインを付した。本発明の圧電アクチュエーターは、液体吐出ヘッドにおけるアクチュエーター部に適用することが特に好ましい。本発明の圧電アクチュエーターは、基板として、基板の表面を熱酸化して形成したSiO2層を有する単結晶Si基板を用い、この基板が振動板となる構成とするのが特に好ましい。また、基板の各層のうち、少なくともエピタキシャル強誘電体膜は、その下層が結晶性を有する層であり、この下層とエピタキシャルの関係にある。
例1 Pt//PZT(001)/PbTiO3(001) //Pt(100)/MgO(100)//Si(100)
例2 Pt//PZT(001)/PbTiO3 (001) //Pt(100)/SrTiO3(100)//Si(100)
例3 Au//PZT(001) // (La,Sr)TiO 3 (100)/Si(100) /SiO2 //Si(100)
例4 Pt//PZT(001)/ PbTiO3 (001) //Pt(100)//Al2O3(100)//Si(100)
例5 Pt//PZT(111)/ PbTiO3 (111) //Pt(111)//YSZ(100)/Zr//Si(100)
例6 Ag//PZT(001)/BaTiO3 (001) //Pt(100)/LaAlO3(100)//Si(100)
例7 Au//PZT(001)/ PbTiO3 (001) //Pt(100)//YSZ(111)/SiO2//Si(111)
例8 Au//PZT(001) //(La,Sr)TiO 3 (100)/YSZ(111)//Si(111)
例9 Pt//PZT(111)/ PbTiO3 (111) //Pt(111)/YSZ(100)//Si(100)
例10 Pt//PZT(111)// Pt(111)//Glass
例11 Pt//PZT(111)// Pt(111)//SUS
例12 Pt//PZT(111)/ PbTiO3 (111) //Pt(111) /MgO(111)//Si(100)
例13 Au//PZT(001) //SrRuO 3 (001) //Si(100)
例14 Au//PZT(001)/ PbTiO3 (001) //Pt(100)//MgO(100)
例15 Au//PZT(001)/ PbTiO3 (001) //Pt(100)//SrTiO(100)
例16 Pt//PZT(001) // (La,Sr)TiO 3 (100)
例17 Au//PZT(001)/ PbTiO3 (001) //Pt(100)//Al2O3(100)
例18 Pt//PZT(001)//Ir(100)/ZrN(100)//Si(100)
例19 Pt// YMnO3(0001)/Y2O3(111)//Si(111)
例20 Pt// PbZrO3(101) //(La,Sr)TiO 3 (100)
上記具体例として、エピタキシャル強誘電体膜の構成材料がPZTであるものを中心に例示したが、上記強誘電体膜の構成材料が、例えば、LaドープPZTのように、Laなどの微量の元素をドーピングした組成物であっても良い。また強誘電体膜の構成材料が鉛系ではなく、例えば、BaTiO3、SrBi2Ta2O9等の非鉛系強誘電体材料であってもよい。
次に本発明の強誘電体薄膜素子は、基板上に強誘電体薄膜をエピタキシャルに形成することにより作製することができる。本発明の圧電アクチュエーターは、少なくとも基板の上にエピタキシャルに強誘電体膜を形成し、このエピタキシャル強誘電体膜の上下に電極を設けることにより作製することができる。本発明に係る圧電アクチュエーターは、少なくとも基板と、基板上に形成された単結晶または結晶配向性を有するエピタキシャル強誘電体膜と、エピタキシャル強誘電体膜の上下に形成された結晶配向性を有する電極膜を備えた構造を有するものである。
このようなエピタキシャル強誘電体膜は、スパッタリング法、ゾル・ゲル法、有機金属気相成長法(MOCVD法と表すことがある)、蒸着法、レーザーアブレーション法などの方法によって形成することができる。成膜条件は各成膜方法や用いる強誘電体材料により様々であり、適宜適切な条件を定めればよい。
例えばスパッタ法を用いる場合は、RFマグネトロンスパッタ法が好ましい。RFマグネトロンスパッタ法による成膜条件としては、成膜時の基板温度が500℃以上700℃以下であり、アルゴン・酸素雰囲気でアルゴン/酸素比は20/1以上50/1以下であり、ガス圧は0.2Pa以上0.5Pa以下であり、RF投入電力が0.5W/cm2以上、1.2W/cm2以下であり、成膜後の基板冷却速度は65℃/min以上である。更に好ましい条件は、成膜時のアルゴン/酸素比としては30/1以上50/1以下であり、ガス圧としては0.2Pa以上0.3Pa以下、RF投入電力としては0.5W/cm2以上0.8W/cm2以下、成膜後の基板冷却速度としては100℃/min以上である。特に180℃までの冷却を上記速度で行うことが好ましく、また、成膜前に行うプレスパッタは、成膜時のRF投入電力の半分以下で手短に行い、直ちに成膜に移行することが好ましい。上記の条件から目的のエピタキシャル強誘電体膜の組成に応じて、適宜条件を選択し成膜することが出来る。特にLaなどのドーパントを添加した系では、基板温度を下げることができ、かつRF投入電力を高めに設定することが出来る。基板加熱は赤外加熱法あるいは抵抗加熱法に行うことが好ましい。この際、基板温度のばらつきをブラスマイナス5%以内にすることで、大面積基板を用いてエピタキシャル強誘電体膜を成膜した場合においても、均一で安定した特性のエピタキシャル強誘電体膜を得ることが出来る。
本発明に係るエピタキシャル強誘電体膜の成膜方法としては、スパッタリング法が特に好ましい。これは、スパッタリング法の場合、本発明で定義した結晶構造を有する、結晶性の良いエピタキシャル強誘電体膜を容易に形成することができるためである。例えば、Pt(100)膜上にエピタキシャル成長したPZT(001)膜の場合、その結晶配向度が90%以上になると、基板面に平行な方向に存在するエピタキシャル強誘電体膜のZ結晶面である(001)面の面間隔zとバルク状態でのPZTのZ結晶面である(001)面の面間隔z0との比z / z0 が 1.003より大きくなり、Z結晶面に垂直な方向に存在するエピタキシャル強誘電体膜のX結晶面である(100)面の面間隔xとバルク状態でのPZTのX結晶面である(100)面の面間隔x0との比 x / x0 が、0.997 ≦ x / x0 ≦ 1.003になる。さらにその結晶配向度が高くなると、前述のエピタキシャル強誘電体膜とバルクの(100)面の面間隔の比 x / x0は1に近くなる。
本発明において、結晶配向度とは、X線測定においてエピタキシャル強誘電体膜のZ結晶面に対するX線入射角をθとし、2θ/θ法によって測定したすべての反射ピーク強度に対するエピタキシャル強誘電体膜のZ面すべての反射ピーク強度の割合を指す。例えば、正方晶の(001)面の結晶配向エピタキシャル強誘電体膜では、2θ/θ法で測定したエピタキシャル強誘電体膜のX線回折パターンにおいて、観測されたすべての反射ピーク強度の和に対する、 (00L)面(L=1,2,3・・・n)に帰属されるすべての反射ピーク強度の和の割合をいう。
また、本発明の強誘電体薄膜素子のエピタキシャル強誘電体薄膜の膜厚は、2nm〜100nmであることが好ましい。エピタキシャル強誘電体薄膜の強誘電性は結晶格子の骨格と原子の配置とに依存して発現するため、膜厚は、通常2nm以上、好ましくは5nm以上である。一方、本発明の強誘電体薄膜素子を強誘電体メモリ等の高集積化デバイスに用いる場合、高集積化にはエピタキシャル強誘電体薄膜の薄膜化が有効であり、かつ低電圧駆動にも適しているところから、これらの分野における用途を目的とする場合には、エピタキシャル強誘電体薄膜の膜厚を100nm以下とするのが好ましい。
本発明の圧電アクチュエーターのエピタキシャル強誘電体膜の膜厚は、薄い方が好ましく、特に100nm〜10μmであるのが好ましい。例えば、インクを吐出する液体吐出ヘッドのように、圧電アクチュエーターに大きな圧電変位を求める場合、エピタキシャル強誘電体膜の膜厚が薄い方が、より小さい電圧で大きな変位を得ることができる。しかし、圧電アクチュエーターでは、エピタキシャル強誘電体膜に数十Vの電圧が印加され、この電圧の昇降による膜破壊やリーク電流による圧電特性の劣化等を防止するため、エピタキシャル強誘電体膜の膜厚は、100nm以上、好ましくは500nm以上とするのが一般的である。一方、エピタキシャル強誘電体膜の膜厚を大きくすると、成膜の際に膜剥がれ等の問題が発生する頻度が大きくなり、前述のすべての強誘電体材料に対して、単結晶または結晶配向性を有するのエピタキシャル強誘電体膜素子を得ることが難しくなるところから、通常、エピタキシャル強誘電体膜の膜厚は、10μm以下とするのが好ましい。
本発明では、以下のようにエピタキシャル強誘電体膜の結晶系と面方位を制御することで、強誘電体膜の特性劣化がなく、かつ、強誘電体膜の自発分極が大きく、薄膜化に適したものとすることができる。結晶系が正方晶のエピタキシャル強誘電体膜の場合、エピタキシャル強誘電体膜の自発分極方向は[001]である。このため、エピタキシャル強誘電体膜の(001)面の面間隔が、バルク状態の(001)面の面間隔より長くなると自発分極の値が大きくなる。従って、結晶系が正方晶の場合は、Z結晶面が(001)面であるものが好ましい。
一方、結晶系が菱面体晶系のエピタキシャル強誘電体膜の場合、エピタキシャル強誘電体膜の自発分極方向は[111]である。このため、強誘電体膜の(111)面の面間隔がバルク状態の(111)面の面間隔より長くなると自発分極の値が大きくなる。従って、菱面体晶系のエピタキシャル強誘電体膜の場合は、Z結晶面が(111)面であるものが好ましい。同様に、結晶系が六方晶系のエピタキシャル強誘電体膜の場合、エピタキシャル強誘電体膜の自発分極方向は[0001]である。このため、エピタキシャル強誘電体膜の(0001)面の面間隔がバルク状態の結晶の(0001)面の面間隔より長くなると自発分極の値が大きくなる。従って、六方晶系のエピタキシャル強誘電体膜の場合は、Z結晶面が(0001)面であるものが好ましい。さらに同様に、結晶系が斜方晶系のエピタキシャル強誘電体膜の場合、エピタキシャル強誘電体膜の自発分極方向は[011]である。このため、エピタキシャル強誘電体膜の(011)面の面間隔がバルク状態の結晶の(011)面の面間隔より長くなると自発分極の値が大きくなる。従って、斜方晶系のエピタキシャル強誘電体膜の場合は、Z結晶面が(011)面であるものが好ましい。
なお、六方晶系に関しては、一般的に結晶面の指数表記で利用されるミラー指数(hkl)ではなく、六方晶系でよく利用されるブラベ=ミラー指数(hikl)で表記した。
本発明の液体吐出ヘッドは、図5に示した本発明の実施形態の一例の概略断面図にみられるように、液体吐出口12と、液体吐出口に連通する圧力室15と、圧力室の一部を構成する振動板10と、圧力室の外部に設けられた振動板に振動を付与するための圧電アクチュエーター部9とを有する。液体吐出口は、通常、ノズル形状を有している。圧力室の一部は、振動板によって構成されており、振動板の外部には少なくとも前記の圧電アクチュエーターが設けられ、これにより、液体吐出ヘッドの圧電アクチュエーター部が構成される。
このような構成の液体吐出ヘッドにおいては、圧電アクチュエーター部のエピタキシャル強誘電体膜に所定の電圧を印加して圧電特性を有するエピタキシャル強誘電体膜を伸縮させると、たわみ振動が生じて圧力室の体積が変動し、圧力室内の圧力が変動し、これに伴い液体供給部より液体が供給され、吐出口(ノズルと表すことがある)より液体が吐出される。吐出される液体としては、各種溶液、インク等の液体を挙げることができる。
また、本発明の液体吐出ヘッドにおいて、液体を吐出するノズルが複数存在する場合、通常は、本発明の圧電アクチュエーター部は基本的にノズル毎に分割された構造を有する。しかしながら、例えば、ノズル毎ではなく圧力室毎に分割した構造としても、数ピッチ毎に分割した構造としてもよい。また、本発明の液体吐出ヘッドの圧電アクチュエーター部を分割するときは、構成要素である基板から上部電極までのすべてを分割する必要はなく、例えば、エピタキシャル強誘電体膜と上部電極のみを分割しても、上部電極のみを分割してもよい。
分割された圧電アクチュエーター部の間に、各々の圧電アクチュエーターの伸縮を阻害しないかぎり、剛性の低い樹脂等が存在してもよい。圧力室の形状は、長方形、円形、楕円形等任意に選択することができる。また、圧力室の長手方向に垂直な方向に液体を吐出するヘッドの場合には、圧力室の断面形状をノズル方向に絞った形状とすることもできる。
更に、本発明の液体吐出ヘッドは、その圧電アクチュエーター部を、圧力室の一部を構成する振動板に前記圧電アクチュエーターを接合して構成することができるが、例えば、前記圧電アクチュエーターの基板自体を振動板とする構成としてもよい。この場合、基板は、結晶配向性を有する、少なくとも下部電極および強誘電体膜をエピタキシャルに成長させて形成することのできる、振動板としても適した特性を具備することが好ましい。また、この場合、ステンレスやガラス基板のような配向性のない基板に、バッファ層を介して単結晶または結晶配向性を有する強誘電体膜をエピタキシャル成長させたものを基板として用いることも可能である。また、本発明の液体吐出ヘッドは、本発明の圧電アクチュエーターを振動板に貼り付けて作製した圧電アクチュエーター部を有する構成の液体吐出ヘッドであってもよい。
さらに、前述の圧電アクチュエーターや液体吐出ヘッドにおいて、基板とエピタキシャル強誘電体膜との間にバッファ層を介し、かつバッファ層自身が誘電性を有する場合、圧電変位は圧電性を有するエピタキシャル強誘電体膜に印加される実効電界に依存するところから、前述のバッファ層の層厚は薄いことが好ましい。
本発明の圧電アクチュエーターは、エピタキシャル強誘電体膜の自発分極が大きいために、圧電特性に優れ、かつ、エピタキシャル強誘電体膜面内の基板面方向に加わる応力が小さいため、エピタキシャル強誘電体膜の膜剥がれや特性劣化がなく、また大面積化が容易である。また本発明の液体吐出ヘッドは、その圧電アクチュエーター部に前述の圧電アクチュエーターを含む構成を有することにより、高密度で吐出力が大きく、高周波駆動に優れ、かつ、大面積化に優れる。
以下、本発明の強誘電体薄膜素子およびその製造方法について、図面を参照しながら、実施例に基づき詳細に説明する。なお、下記実施例および比較例におけるz / z0 、 x / x0 および結晶配向度の調整は、エピタキシャル強誘電体の成膜条件(スパッタ電力、成膜温度、冷却速度、スパッタガス圧、スパッタガス種、ターゲットと基板間の距離、ターゲット密度など)を調整して行った。
≪実施例1≫
電極を兼ねた(La0.038,Sr0.962)TiO3 (100)(単結晶生成基板)基板上に、エピタキシャル強誘電体薄膜として、70nmの膜厚を有するPZT薄膜をRFマグネトロン方式のスパッタ装置を用いてエピタキシャル成長させ誘電体薄膜素子を作製した。その際、基板温度600℃、成膜時のアルゴン/酸素比30/1、ガス圧0.2Pa、成膜時のRF投入電力を0.8W/cm2、成膜後の冷却速度を180℃以下になるまで100℃/min以上でコントロールし、成膜前のプレスパッタをRF投入電力0.3W/cm2で3minとした。エピタキシャル強誘電体薄膜であるPZT薄膜の組成はPb(Zr0.52, Ti0.48)O3とした。このようにして作製した強誘電体薄膜素子のPZT薄膜の単結晶性をXRDにより測定した。その結果を図1に示す。図1に示した結果から、PZT薄膜の結晶構造は正方晶であり、Z結晶面は(001)面であり、その結晶配向度は100% であることを確認した。
また、Z結晶面の法線軸に垂直である[010]から電子線を入射してPZT薄膜の電子線回折を行った。その結果を図2に示す。図2の結果から、上記PZT薄膜は、膜成長面を(001)面とした単結晶構造を有することを確認した。
次に上記PZT薄膜の基板水平面のXRD- 2θ/θ測定で得られたPZT薄膜の(004)面の回折ピークと、PZT薄膜の基板垂直面のXRD-2θχ/φ測定により得られたPZT薄膜の(400)面の回折ピークからa軸とc軸の格子定数を算出した。測定は、(株)理学電機のX線回折装置Rint-Inplane(商品名)を用いて、X線出力が40kV・50mA、受光側と検出側のスリットが0.5°の条件で行った。その結果、a = 4.041Å、c = 4.162Åとなった。Zr:Ti = 52:48の組成を有するPZTの正方晶バルクセラミックスの文献(JCPDS−330784 )に記載の格子定数はa0 = 4.036Å、c0 = 4.146Åであり、z/z0 =c/c0 =1.0039、 x/x0 =a/a0 =1.0012であった。
このようにして得られた強誘電体薄膜素子上に直径100μφのPtパターンをスパッタリングにより成膜して上部電極とし、下部電極を(La,Sr)TiO3として、ソーヤ・タワー回路を用いて強誘電体薄膜素子の強誘電性を評価した。その結果、自発分極Ps=100μC/cm2、残留分極Pr=45μC/cm2、となった。また、強誘電体薄膜素子のPtパターンの10箇所で疲労特性試験を行った。評価条件は、印加電圧±5V、評価温度70℃、周波数1kHz、書き込み回数107回とした。その結果、評価した10箇所すべてにおいて不良素子は確認されなかった。得られた結果を纏め、表1に示した。
≪実施例2≫
電極を兼ねた(La0.038,Sr0.962)TiO3 (100)(単結晶生成基板)基板上に、エピタキシャル強誘電体薄膜として、70nmの膜厚を有するPZT薄膜をRFマグネトロン方式のスパッタ装置を用いてエピタキシャル成長させ強誘電体薄膜素子を作製した。その際、基板温度600℃、成膜時のアルゴン/酸素比30/1、ガス圧0.2Pa、成膜時のRF投入電力を0.8W/cm2、成膜後の冷却速度を180℃以下になるまで80℃/min以上でコントロールし、成膜前のプレスパッタをRF投入電力0.3W/cm2で3minとした。エピタキシャル強誘電体薄膜であるPZT薄膜の組成はPb(Zr0.52, Ti0.48)O3とした。このようにして作製した強誘電体薄膜素子のPZT薄膜の単結晶性をXRDにより測定した。その結果、PZT薄膜の結晶構造は正方晶であり、Z結晶面は(001)であり、その結晶配向度は90% であることを確認した。
また、Z結晶面の法線軸に垂直である[010]から電子線を入射してPZT薄膜の電子線回折を行った。その結果、PZT薄膜は膜成長面を(001)面とした単結晶構造を有することを確認した。
次にPZT薄膜の基板水平面のXRD- 2θ/θ測定で得られたPZT薄膜の(004)面の回折ピークと、PZT薄膜の基板垂直面のXRD-2θχ/φ測定により得られたPZT薄膜の(400)面の回折ピークからPZT薄膜のa軸とc軸の格子定数を算出した。その結果、a = 4.034Å、c = 4.163Åとなり、z/z0 =c/c0 =1.0042、 x/x0 =a/a0 =0.9995であった。
このようにして得られた強誘電体薄膜素子上に直径100μφのPtパターンをスパッタリングにより成膜して上部電極とし、下部電極を(La,Sr)TiO3として、強誘電体薄膜素子の強誘電性を評価した。その結果、自発分極Ps=90μC/cm2、残留分極Pr=40μC/cm2、となった。また、強誘電体薄膜素子のPtパターンの10箇所で疲労特性試験を行った。その結果、評価した10箇所すべてにおいて不良素子は確認されなかった。得られた結果を纏め、表1に示した。
≪実施例3≫
基板を鏡面研磨した15mm角のSi(100)とし、まず、この表面をテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAHと表すことがある)(関東化学製)で室温下10分間エッチングし、純水洗浄後、アセトン蒸気浴で洗浄した。次に、この基板上にRFマグネトロン方式のスパッタリング装置を用いて基板温度800℃で10nmの膜厚を有するYSZ薄膜を成膜した。成膜後のXRD測定の結果、YSZ薄膜は[100]方向の結晶配向度が99%以上であることを確認した。次に下部電極としてPtを基板温度600℃で100nmスパッタリング成膜した。成膜後のXRD測定の結果、Ptは[111]方向の結晶配向度が97%以上であることを確認した。さらに、ここまでの積層膜上にバッファ層として[PbTiO3](PTと表すことがある)をRFマグネトロン方式のスパッタリング装置を用いて、基板温度600℃で7nm成膜した。成膜後のXRD測定の結果、PTも[111]方向の結晶配向度が94%以上であることを確認した。次にエピタキシャル強誘電体薄膜としてPZT薄膜をRFマグネトロン方式のスパッタリング装置を用いて85nm成膜した。その際、基板温度600℃、成膜時のアルゴン/酸素比30/1、ガス圧0.2Pa、成膜時のRF投入電力を0.8W/cm2、成膜後の冷却速度を180℃以下になるまで100℃/min以上でコントロールし、成膜前のプレスパッタをRF投入電力0.3W/cm2で3minとした。このようにして作製した強誘電体薄膜素子のPZT薄膜の単結晶性をXRDにより測定した。その結果、PZT薄膜の結晶構造は菱面体晶であり、Z結晶面は(111)面であり、その結晶配向度は92% であることを確認した。PZT薄膜の組成はPb(Zr0.58, Ti0.42)O3とした。
次に上記PZT薄膜の基板水平面のXRD- 2θ/θ測定で得られたPZT薄膜の(222)面の回折ピークと、PZT薄膜の基板垂直面のXRD-2θχ/φ測定により得られたPZT薄膜の(-220)面の回折ピークから、菱面体晶PZT薄膜のZ結晶面である(222)面の面間隔、および、Z結晶面に垂直な結晶面である(-220)面の面間隔を算出した。その結果、d(222)= 1.186Å、d(-220) = 1.433Åであった。Zr/Ti = 58/42のPZT菱面体晶のバルクセラミックスの文献(JCPDS−732022 )に記載の面間隔はd0(222)= 1.1821Å、d0(-220) = 1.4346Åであり、z/z0 = d(222)/ d0(222)= 1.0035、 x/x0 = d(-220)/ d0(-220)= 0.9987であった。
このようにして得られた強誘電体薄膜素子上に直径100μφのAuパターンをスパッタリングにより成膜して上部電極とし、下部電極をPtとして、ソーヤ・タワー回路を用いて強誘電体薄膜素子の強誘電性を評価した。その結果、自発分極Ps=80μC/cm2、残留分極Pr=35μC/cm2、となった。また、強誘電体薄膜素子のAuパターンの10箇所で疲労特性試験を行った。評価条件は、印加電圧±5V、評価温度70℃、周波数1kHz、書き込み回数107回とした。その結果、評価した10箇所すべてにおいて不良素子は確認されなかった。得られた結果を纏め、表1に示した。
≪比較例1〜3≫
基板上へエピタキシャル強誘電体薄膜としてPZT薄膜をRFマグネトロン方式のスパッタ装置を用いてエピタキシャル成長させる際に、成膜条件を成膜後の冷却速度を400℃以下はコントロールせず、また、プレスパッタは成膜時のRF投入電力と同じで、かつ60minであることを固定した以外は各々調整することでz / z0 、 x / x0 および結晶配向度の調整をした以外は実施例1と同様にして、強誘電体薄膜素子を作製し、評価を行った。得られた結果を表1に示す。
表1に示した結果から、本発明の実施例1〜3の強誘電体薄膜素子のすべてのエピタキシャル強誘電体薄膜において、z / z0 > 1.003 であり、かつ、0.997 ≦ x / x0 ≦ 1.003であった。また、実施例の強誘電体薄膜素子のエピタキシャル強誘電体薄膜は、その結晶配向度が90%以上であり、自発分極Ps=80μC/cm2以上、残留分極Pr=35μC/cm2以上であった。さらに、強誘電体薄膜素子の疲労特性は107回をクリアした。
これに対し、比較例1の強誘電体薄膜素子のエピタキシャル強誘電体薄膜はz / z0 ≦ 1.003であり、この強誘電体薄膜素子は、疲労特性は107回をクリアしたものの、自発分極はPs=70μC/cm2、残留分極はPr=28μC/cm2と強誘電性が低かった。また、比較例2の強誘電体薄膜素子のエピタキシャル強誘電体薄膜はx / x0 < 0.997であり、この強誘電体薄膜素子は、強誘電性が高かったものの、疲労特性が107回をクリアすることができないものが見られた。さらに、比較例3の強誘電体薄膜素子のエピタキシャル強誘電体薄膜は、x / x0 < 0.997となり、結晶配向度が90%に満たず、自発分極がPs=75μC/cm2、残留分極がPr=30μC/cm2と強誘電性が低く、さらに疲労特性が107回をクリアできないものが見られた。
以下、本発明の圧電アクチュエーターおよび液体吐出ヘッドならびにこれらの製造方法について、図面を参照しながら、実施例に基づき詳細に説明する。なお、下記実施例および比較例におけるz / z0 、 x / x0 および結晶配向度の調整は、エピタキシャル強誘電体の成膜条件(スパッタ電力、成膜温度、冷却速度、スパッタガス圧、スパッタガス種、ターゲットと基板間の距離、ターゲット密度など)を調整して行った。また、本実施例においては、液体吐出ヘッドとしてインクジェットヘッドを例にとり説明する。
≪実施例4≫
電極を兼ねた(La0.038,Sr0.962)TiO3 (100)(単結晶生成基板)基板上にエピタキシャル強誘電体膜として、2.0μmのPZT膜をRFマグネトロン方式のスパッタ装置を用いてエピタキシャル成長させた。その際、基板温度600℃、成膜時のアルゴン/酸素比30/1、ガス圧0.2Pa、成膜時のRF投入電力を0.8W/cm2、成膜後の冷却速度を180℃以下になるまで100℃/min以上でコントロールし、成膜前のプレスパッタをRF投入電力0.3W/cm2で3minとした。PZT膜の組成はPb(Zr0.52, Ti0.48)O3とした。このようにして作製したエピタキシャル強誘電体膜の単結晶性をXRDにより測定した。その結果を図3に示す。図3に示した結果から、PZT膜の結晶構造は正方晶であり、Z結晶面は、(001)面であり、その結晶配向度は100% であることを確認した。
また、Z結晶面の法線軸に垂直である[010]から電子線を入射してPZT膜の電子線回折を行った。その結果を図4に示す。図4の結果から、PZT膜は、膜成長面を(001)面とした単結晶構造を有することを確認した。
次に上記PZT膜の基板水平面のXRD- 2θ/θ測定で得られたPZT(004)膜の回折ピークと、PZT膜の基板垂直面のXRD-2θχ/φ測定により得られたPZT膜の(400)面の回折ピークからPZT膜のa軸とc軸の格子定数を算出した。測定は、(株)理学電機のX線回折装置Rint-Inplane(商品名)を用いて、X線出力が40kV・50mA、受光側と検出側のスリットが0.5°の条件で行った。その結果、a = 4.042Å、c = 4.171Åとなった。Zr:Ti = 52:48の組成を有するPZTの正方晶バルクセラミックスの文献(JCPDS−330784 )に記載の格子定数はa0 = 4.036Å、c0 = 4.146Åであり、z/z0 =c/c0 =1.0060、 x/x0 =a/a0 =1.0015であった。
このようにして得られたエピタキシャル強誘電体膜上に直径100μmφのPtパターンをスパッタリングにより成膜して上部電極とし、下部電極を(La,Sr)TiO3とする圧電アクチュエーターを作製した。この圧電アクチュエーターについて、圧電定数測定装置(東陽テクニカ製)を用いて圧電定数d33の測定を行った。その結果d33=498pC/Nとなった。
さらに、この圧電アクチュエーターの変位量の評価を目的として、LSTO基板が振動板を兼ねる圧電アクチュエーターを作製した。
まず、Si(100)基板上に電極を兼ねた100μmの (La0.038,Sr0.962)TiO3 (100)(単結晶生成基板)基板(LSTO基板と表すことがある)を接合し、LSTO基板面側をLSTO厚が約5μmになるまで研磨した。次にエピタキシャル強誘電体膜としてPZT膜を3.0μm成膜し、上部にPt電極パターンをスパッタリングにより成膜した。さらにSi基板をドライプロセスにより長さ600μm、幅40μmのパターンでエッチングし、LSTO基板が振動板となるユニモルフ型カンチレバーを作製した。上部電極はカンチレバー形状と同じく長さ600μm、幅40μmにパターニングした。このようにして作製したユニモルフ型カンチレバー形状の圧電アクチュエーターの変位量を、レーザードップラー測定器により測定し、10Vの印加電圧で、変位量が50nmであることを確認した。
また、この圧電アクチュエーターについて印加電圧±20V、評価温度70℃、周波数1kHz、書き込み回数107回の条件で耐久試験を行った。その結果、膜の劣化や剥離などによる変位の減衰は見られなかった。
なお、上記圧電アクチュエーターの耐久性試験の評価結果は、次の基準に基づいて評価した。
○:耐久試験前の変位量に対し、耐久試験後での変位量が70%より上であった。
×:耐久試験前の変位量に対し、耐久試験後での変位量が70%以下であった。
得られた結果を纏め表2に示した。
≪実施例5≫
電極を兼ねた(La0.038,Sr0.962)TiO3 (100)(単結晶生成基板)基板上に、エピタキシャル強誘電体膜として、3.0μmのPZT膜をRFマグネトロン方式のスパッタ装置を用いてエピタキシャル成長させた。その際、基板温度600℃、成膜時のアルゴン/酸素比30/1、ガス圧0.2Pa、成膜時のRF投入電力を0.8W/cm2、成膜後の冷却速度を180℃以下になるまで80℃/min以上でコントロールし、成膜前のプレスパッタをRF投入電力0.3W/cm2で3minとした。PZT膜の組成はPb(Zr0.52, Ti0.48)O3とした。このようにして作製したエピタキシャル強誘電体膜の単結晶性をXRDにより測定した。その結果、PZT膜の結晶構造は正方晶であり、Z結晶面は(001)面であり、その結晶配向度は90% であることを確認した。
また、Z結晶面の法線軸に垂直である[010]から電子線を入射してPZT膜の電子線回折を行った。その結果、PZT膜は膜成長面を(001)面とした単結晶構造を有することを確認した。
次にPZT膜の基板水平面のXRD- 2θ/θ測定で得られたPZT膜の(004)面の回折ピークと、PZT膜の基板垂直面のXRD-2θχ/φ測定により得られたPZT膜の(400)面の回折ピークからPZT膜のa軸とc軸の格子定数を算出した。その結果、a = 4.033Å、c = 4.162Åとなり、z/z0 =c/c0 =1.0039、 x/x0 =a/a0 =0.9993であった。
このようにして得られたエピタキシャル強誘電体膜上に直径100μmφのPtパターンをスパッタリングにより成膜して上部電極とし、下部電極を(La,Sr)TiO3とし、圧電アクチュエーターを作製した。この圧電アクチュエーターを用いて、実施例4と同様にして圧電定数d33の測定を行った。その結果d33=450pC/Nとなった。
さらに、この圧電アクチュエーターの変位量評価を目的として、LSTO基板が振動板を兼ねる圧電アクチュエーターを作製した。
まず、Si(100)基板上に、電極を兼ねた100μmの (La0.038,Sr0.962)TiO3 (100)(単結晶生成基板)基板を接合し、LSTO基板面側をLSTO厚が約5μmになるまで研磨した。次にエピタキシャル強誘電体膜としてPZT膜を3.0μm成膜し、上部にPt電極パターンをスパッタリングにより成膜した。さらにSi基板をドライプロセスにより長さ600μm、幅40μmのパターンでエッチングし、LSTO基板が振動板となるユニモルフ型カンチレバーを作製した。上部電極はカンチレバー形状と同じく長さ600μm、幅40μmにパターニングした。このようにして作製したユニモルフ型カンチレバー形状の圧電アクチュエーターの変位量を、レーザードップラー測定器により測定し、10Vの印加電圧で、変位量が46nmであることを確認した。
また、この圧電アクチュエーターについて印加電圧±20V、評価温度70℃、周波数1kHz、書き込み回数107回の条件で耐久試験を行った。その結果、膜の劣化や剥離などによる変位の減衰は見られなかった。得られた結果を纏め表2に示した。
≪実施例6≫
基板を鏡面研磨したSi(100)とし、まず、この表面をテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAHと表すことがある)(関東化学製)で室温下10分間エッチングし、純水洗浄後、アセトン蒸気浴で洗浄した。次に、この基板上にRFマグネトロン方式のスパッタリング装置を用いて基板温度800℃で10nmの膜厚を有するYSZ膜を成膜した。成膜後のXRD測定の結果、YSZ膜は[100]方向の結晶配向度が99%以上であることを確認した。
次に下部電極としてPtを基板温度600℃で100nmスパッタリング成膜した。成膜後のXRD測定の結果、Ptは[111] 方向の結晶配向度が97%以上であることを確認した。さらに、ここまでの積層膜上にバッファ層としてPbTiO3(PTと表すことがある)をRFマグネトロン方式のスパッタリング装置を用いて基板温度600℃で7nm成膜した。成膜後のXRD測定の結果、PTも[111] 方向の結晶配向度が94%以上であることを確認した。
次にエピタキシャル強誘電体膜としてPZT膜をRFマグネトロン方式のスパッタリング装置を用いて3.0μm成膜した。その際、基板温度600℃、成膜時のアルゴン/酸素比30/1、ガス圧0.2Pa、成膜時のRF投入電力を0.8W/cm2、成膜後の冷却速度を180℃以下になるまで100℃/min以上でコントロールし、成膜前のプレスパッタをRF投入電力0.3W/cm2で3minとした。このようにして作製したエピタキシャル強誘電体膜の単結晶性をXRDにより測定した。その結果、PZT膜の結晶構造は菱面体晶であり、Z結晶面は(111)面であり、その結晶配向度は92% であることを確認した。PZT膜の組成はPb(Zr0.58, Ti0.42)O3とした。
次に上記PZT膜の基板水平面のXRD- 2θ/θ測定で得られたPZT膜の(222)面の回折ピークと、PZT膜の基板垂直面のXRD-2θχ/φ測定により得られたPZT(-220)面の回折ピークから、菱面体晶PZT膜のZ結晶面である(222)面の面間隔、および、Z結晶面に垂直な結晶面である(-220)面の面間隔を算出した。その結果、d(222)= 1.187Å、d(-220) = 1.432Åであった。Zr:Ti = 58:42のPZT菱面体晶のバルクセラミックスの文献(JCPDS−732022 )に記載の面間隔はd0(222)= 1.1821Å、d0(-220) = 1.4346Åであり、z/z0 = d(222)/ d0(222)= 1.0041、 x/x0 = d(-220)/ d0(-220)= 0.9982であった。
このようにして得られたエピタキシャル強誘電体膜上に直径100μmφのPtパターンをスパッタリングにより成膜して上部電極とし、下部電極を(La,Sr)TiO3とする圧電アクチュエーターを作製した。この圧電アクチュエーターについて、圧電定数測定装置(東陽テクニカ製)を用いて圧電定数d33の測定を行った。その結果d33=471pC/Nとなった。
さらに、本発明の圧電アクチュエーターの変位量評価を目的として、Si基板をドライプロセスにより長さ600μm、幅40μmの範囲をSi基板の厚さが約5μmになるまでエッチングし、Si基板が振動板となるユニモルフ型カンチレバーを作製した。上部電極はカンチレバー形状と同じく長さ600μm、幅40μmにパターニングした。このようにして作製したユニモルフ型カンチレバー形状の圧電アクチュエーターの変位量を、レーザードップラー測定器により測定し、10Vの印加電圧で、変位量が46nmであることを確認した。
また、この圧電アクチュエーターについて印加電圧±20V、評価温度70℃、周波数1kHz、書き込み回数107回の条件で耐久試験を行った。その結果、膜の劣化や剥離などによる変位の減衰は見られなかった。得られた結果を纏め表2に示した。
≪実施例7≫
本実施例のインクジェットヘッドの概略断面図を図5に示す。ホウ素(B)をドープした単結晶Si(100)/SiO2/Si構成の基板(各膜厚:2.5μm/1μm/250μm)を用いてSi(100)層の上にMgO(100)膜を0.3μmの厚みで形成した。さらに電極として0.2μmのPt(001)膜を、その上に0.1μmのPT(001)膜を、次に圧電性を有するエピタキシャル強誘電体膜として、実施例4と同じ条件で形成した2μmの膜厚のPZT膜を順番にエピタキシャル成長させ形成した。PZT膜の組成はPb(Zr0.52, Ti0.48)O3とした。さらに、上部電極は、Auをペースト塗布し、圧電アクチュエーター部を作製した。
上記Si層をSF6とC4F8を用いたプラズマエッチング処理し、圧力室を形成した。その後圧力室の一部をなすSi基板及びノズルプレートを接合し、図5に示したインクジェットヘッドを得た。圧力室の幅は60μm、奥行き2.2mm、圧力室間の隔壁幅は24μmであった。
上記圧電アクチュエーター部のPZT膜の基板水平面のXRD- 2θ/θ測定で得られたPZT膜の(004)面の回折ピークと、PZT膜の基板垂直面のXRD-2θχ/φ測定により得られたPZT膜の(400)面の回折ピークからPZT膜のa軸とc軸の格子定数を算出した。その結果、a = 4.040Å、c = 4.165Åとなり、z/z0 =c/c0 =1.0045、 x/x0 =a/a0 =1.0010であった。また、単結晶性をXRDにより測定した結果、PZT膜の結晶構造は正方晶であり、Z結晶面は(001)面であり、その結晶配向度は99% であることを確認した。
このインクジェットヘッドを用いて、ノズルからのインクの吐出を確認した結果、駆動周波数10kHz で駆動電圧3V でも安定したインクの吐出を確認することができた。また、駆動周波数1kHz、0V/30Vの駆動電圧でこのインクジェットヘッドの耐久試験を行った。その結果、107回までの吐出において、すべてのノズルからインク吐出があり、耐久試験後においてもエピタキシャル誘電体膜の膜剥がれや特性劣化は確認されなかった。
≪比較例4〜6≫
基板上にエピタキシャル強誘電体膜としてPZT膜をRFマグネトロン方式のスパッタ装置を用いてエピタキシャル成長させる際に成膜条件を成膜後の冷却速度を400℃以下はコントロールせず、また、プレスパッタは成膜時のRF投入電力と同じで、かつ60minであることを固定した以外は各々調整することでz / z0 、 x / x0 および結晶配向度の調整をした以外は実施例5と同様にして、圧電アクチュエーターを作製し、評価を行った。
比較例4〜6のPZT膜の結晶構造は何れも正方晶であり、Z結晶面は(001)面であることを確認した。また、PZT膜のz/z0、x/x0、圧電アクチュエーターの圧電定数d33、変位量および圧電アクチュエーターの耐久試験による評価結果を表2に示した。 圧電アクチュエーターの圧電定数d33および変位量においては、比較例4の圧電アクチュエーターは、十分な値を得られなかった。また、比較例5の圧電アクチュエーターは、107回をクリアすることができず、変位量が小さくなることが確認された。さらに、比較例6の圧電アクチュエーターは、107回をクリアすることができず、変位量が小さくなることが確認された。
≪比較例7≫
実施例7の比較例として次の構成のインクジェットヘッドを作製した。ホウ素(B)をドープした単結晶Si(100)/SiO2/Si構成の基板(各膜厚:2.5μm/1μm/250μm)を用いてSi(100)層の上にMgO(100)膜を0.3μmの厚みで形成した。さらに電極として0.2μmのPt(001)膜を、その上に0.1μmのPT(001)膜を、次に圧電性を有するエピタキシャル強誘電体膜として、比較例4と同じ条件で形成した2μmの膜厚のPZT膜を順番にエピタキシャル成長させ形成した。PZT膜の組成はPb(Zr0.52, Ti0.48)O3とした。さらに、上部電極は、Auをペースト塗布し、圧電アクチュエーター部を作製した。
上記Si層をSF6とC4F8を用いたプラズマエッチング処理し、圧力室を形成した。その後圧力室の一部をなすSi基板及びノズルプレートを接合し、実施例7と同様のインクジェットヘッドを得た。圧力室の幅は60μm、奥行き2.2mm、圧力室間の隔壁幅は24μmであった。
次にPZTの基板水平面のXRD- 2θ/θ測定で得られたPZT(004)の回折ピークと、PZTの基板垂直面のXRD-2θχ/φ測定により得られたPZT(400)の回折ピークから正方晶PZTのa軸とc軸の格子定数を算出した。その結果、a = 4.012、c = 4.151となり、z/z0 =c/c0 =1.0012、 x/x0 =a/a0 =0.9940であった。また、単結晶性をXRDにより測定した結果、PZTの結晶構造は正方晶であり、Z結晶面は(001)面であり、その結晶配向度は78% であることを確認した。
このインクジェットヘッドを用いて、ノズルからのインクの吐出を確認した結果、駆動周波数10kHz で駆動電圧7V で安定したインクの吐出が確認できたが、駆動周波数10kHz で駆動電圧3Vでは安定したインクの吐出が確認できなかった。また、駆動周波数1kHz、0V/30Vの駆動電圧でインク耐久試験を行った結果、107回までの吐出において、複数のノズルでインクの不吐が確認された。
表2および上述した結果から、本発明の実施例4〜6の圧電アクチュエーターおよび実施例7のインクジェットヘッドのエピタキシャル強誘電体膜は、z / z0 > 1.003 であり、かつ、0.997 ≦ x / x0 ≦ 1.003であった。また、結晶配向度は90%以上であった。また、実施例4〜6の圧電アクチュエーターの圧電定数d33は450pC/N以上、変位量は46nm以上であった。さらに実施例4〜6の圧電アクチュエーターは、耐久試験において圧電アクチュエーター部のエピタキシャル強誘電体膜に劣化や剥離などによる変位の減衰は見られなかった。また、上述したように、実施例7のインクジェットヘッドは、107回までの吐出耐久性試験後において、圧電アクチュエーター部のエピタキシャル強誘電体膜の膜剥がれや、吐出不良は見られなかった。
これに対し、比較例4の圧電アクチュエーターのエピタキシャル強誘電体膜は、z / z0 < 1.003であり、比較例4の圧電アクチュエーターの圧電定数d33は347pC/N、変位量は28nmと圧電性が低かった。
比較例5の圧電アクチュエーターのエピタキシャル強誘電体膜は、z / z0 > 1.003であった。このため、比較例5の圧電アクチュエーターの圧電定数d33は505pC/N、変位量は45nmと実施例と同様に大きな圧電性を示したが、x / x0 < 0.997であったため、比較例5の圧電アクチュエーターは、耐久試験において107回をクリアすることができないことが確認された。
比較例6の圧電アクチュエーターのエピタキシャル強誘電体膜は、x / x0 < 0.997であり、PZT膜の(001)面の結晶配向度が80%と低かった。また比較例6の圧電アクチュエーターは、圧電定数d33が375pC/N、変位量が36nmと圧電特性が低く、さらに、耐久試験においては107回をクリアすることができず、変位量が小さくなることが確認された。
本発明の強誘電体薄膜素子は、特性の劣化がなく、自発分極も大きく、薄膜化に適しており、不揮発性メモリ等の記憶媒体、記憶装置等にも好適に用いることができる。また本発明の圧電アクチュエータおよび液体吐出ヘッドは、エピタキシャル強誘電体膜の膜剥がれや特性劣化がなく、圧電特性に優れ、インクジェット記録装置等の印刷装置に広く用いることができる。
本発明の実施例1の強誘電体薄膜素子のPZT薄膜のXRDパターン。
本発明の実施例1の強誘電体薄膜素子のPZT薄膜の電子線回折像。
本発明の実施例4の圧電アクチュエーターのエピタキシャル強誘電体膜のXRDパターン。
本発明の実施例4の圧電アクチュエーターのエピタキシャル強誘電体膜の電子線回折像。
本発明の実施例7のインクジェットヘッドの概略断面図。
符号の説明
1 基板のSi層
2 基板のSiO2層
3 基板のSi(100)層
4 MgO(100)膜
5 Pt(100)膜
6 PT(001)膜
7 PZT(001)膜
8 Pt膜
9 圧電アクチュエーター部
10 振動板
11 本体部
12 液体(インク)吐出口
13 液体(インク)供給部
14 ノズル
15 圧力室