JP4684003B2 - 耐水素脆化特性及び加工性に優れた超高強度薄鋼板 - Google Patents
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加工率3%の引張加工後の金属組織が、
全組織に対する面積率で、残留オーステナイトを1%以上有し、
該残留オーステナイト結晶粒の平均軸比(長軸/短軸)が5以上であると共に、
該残留オーステナイト結晶粒の平均短軸長さが1μm以下で、かつ
該残留オーステナイト結晶粒間の最隣接距離が1μm以下であり、
更に引張強度が1180MPa以上であるところに特徴がある(以下「本発明鋼板1」ということがある)。
加工率3%の引張加工後の金属組織が、
全組織に対する面積率で、残留オーステナイトを1%以上有し、
該残留オーステナイト結晶粒の平均軸比(長軸/短軸)が5以上であると共に、
該残留オーステナイト結晶粒の平均短軸長さが1μm以下で、かつ
該残留オーステナイト結晶粒間の最隣接距離が1μm以下であり、
更に引張強度が1180MPa以上であるところに特徴がある(以下「本発明鋼板2」ということがある)。
ベイニティックフェライト及びマルテンサイトが合計で80%以上であり、
フェライト及びパーライトが合計で9%以下(0%を含む)を満たすものがよい。
成形加工後の組織が、
・残留オーステナイト:1%以上、
・該残留オーステナイト結晶粒の平均軸比(長軸/短軸):5以上、
・該残留オーステナイト結晶粒の平均短軸長さ:1μm以下、及び
・該残留オーステナイト結晶粒間の最隣接距離:1μm以下
を全て満たすことが重要であることを見出した。この様に組織を制御すれば、合金元素を過剰に添加しなくとも、超高強度鋼板における耐水素脆化特性を十分に高めることもできる。
<残留オーステナイト結晶粒の平均軸比(長軸/短軸):5以上>
部品成形後の長時間にわたる過酷な使用環境下でも、優れた耐水素脆化特性を発揮させるには、まず加工後の金属組織に占める残留オーステナイトを1%以上とする必要がある。残留オーステナイトは、上述の通り耐水素脆化特性の向上にも大きく寄与するのみならず、一般に知られている通り全伸びの向上にも有用であり、好ましくは2%以上、より好ましくは3%以上存在させるのがよい。一方、残留オーステナイトが多量に存在すると、所望の超高強度を確保できなくなる為、その上限を15%(より好ましくは10%)とすることが推奨される。
また本発明では、上記ラス状の残留オーステナイトが微細に分散していることが耐水素脆化特性の向上に有効であり、具体的には、上記ラス状の残留オーステナイト結晶粒として1μm以下(サブミクロンオーダー)のものを分散させれば、確実に耐水素脆化特性を高め得ることを見出した。これは、平均短軸長さの短い微細な残留オーステナイト結晶粒が多数分散している方が、残留オーステナイト結晶粒の表面積(界面)が大きくなり、水素トラップ能が増大するためと考えられる。該残留オーステナイト結晶粒の平均短軸長さは、好ましくは0.5μm以下、更に好ましくは0.25μm以下である。
本発明では、併せて残留オーステナイト結晶粒間の最隣接距離も制御すれば、より一層耐水素脆化特性を向上できることがわかった。具体的には、上記残留オーステナイト結晶粒間の最隣接距離が1μm以下であれば、確実に耐水素脆化特性を高め得ることを見出した。これは、上記微細なラス状の残留オーステナイトが近接して多数分散している状態を形成することで、破壊(クラック)の伝播が抑制されて、破壊に対して高い抵抗力を有する組織が得られるためと考えられる。残留オーステナイト結晶粒間の最隣接距離は、好ましくは0.8μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。
Siは、残留オーステナイトが分解して炭化物が生成するのを有効に抑える重要な元素である。また、材質を十分に硬質化させるのに有効な置換型固溶体強化元素でもある。この様な作用を有効に発現させるには、1.0%以上含有させることが必要である。好ましくは1.2%以上、より好ましくは1.5%以上である。但し、Si量が過剰であると、熱間圧延でのスケール形成が顕著になり、またキズの除去にコストがかかり経済的に好ましくないため、3.0%以下に抑える。好ましくは2.5%以下、より好ましくは2.0%以下である。
Mnは、オーステナイトを安定化させ、所望の残留オーステナイトを得るのに必要な元素である。この様な作用を有効に発揮させるには1.0%以上含有させる必要がある。好ましくは1.2%以上、より好ましくは1.5%以上である。一方、Mn量が過剰になると偏析が顕著となり、加工性が劣化する場合があるので3.5%を上限とする。好ましくは3.0%以下である。
Pは、粒界偏析による粒界破壊を助長する元素であるため、低い方が望ましく、その上限を0.15%とする。好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下に抑える。
Sは、腐食環境下で鋼板の水素吸収を助長する元素であるため、低い方が望ましく、その上限を0.02%とする。
<Al:0.5%以下(0%含まない)>(本発明鋼板2の場合)
Alは脱酸のために0.01%以上を添加してもよい。またAlは、脱酸作用のみならず、耐食性向上作用と耐水素脆化特性向上作用を有する元素でもある。
Ni:0.003〜1.0%>
Cu及び/又はNiを含有させることによって、水素脆化の原因となる水素の発生を十分に抑制すると共に、発生した水素の鋼板への侵入を抑制することができる。その結果、上記組織制御による鋼板の水素トラップ能力向上との相乗効果により、鋼板中の拡散性水素濃度を無害化レベルまで十分に低減することができる。
Tiは、上記Cu、Niと同様に保護性さびの生成促進効果を有する。該保護性さびは、特に塩化物環境下で生成して耐食性(結果として耐水素脆化特性)に悪影響を及ぼすβ−FeOOHの生成を抑制するといった非常に有益な作用を有している。この様な保護性さびの形成は、特にTiとV(またはZr)とを複合添加することで促進される。Tiは、非常に優れた耐食性を付与する元素でもあり、鋼を清浄化する利点も併せ持つ。
Zrは、鋼板の強度上昇、細粒化に有効な元素であり、Tiと共存し、耐水素脆化特性を向上させる効果がある。この様な効果を有効に発揮させるには、Zrを0.003%以上含有させることが好ましい。一方、Zrが過剰に含まれると、炭窒化物の析出が多くなり加工性や耐水素脆化特性が低下するため、1.0%以下の範囲内で添加することが好ましい。
Moは、オーステナイトを安定化させて残留オーステナイトを確保し、水素侵入を抑制して耐水素脆化特性を向上させる効果がある。また鋼板の焼入れ性を高めるのにも有効な元素である。加えて粒界を強化し、水素脆化の抑制にも効果がある。この様な作用を有効に発揮させるには、Moを0.005%以上含有させることが推奨される。より好ましくは0.1%以上である。但し、Mo量が1.0%を超えても上記効果が飽和してしまい経済的に無駄である。好ましくは0.8%以下、より好ましくは0.5%以下とする。
Nbは、鋼板の強度上昇及び組織の細粒化に非常に有効な元素であり、特にMoとの複合添加により該効果が十分に発揮される。この様な効果を発揮させるには0.005%以上含有させることが推奨される。より好ましくは0.01%以上である。但し、Nbを過剰に含有させても、これらの効果が飽和して経済的に無駄であるため0.1%以下に抑える。好ましくは0.08%以下である。
Bは、鋼板の強度上昇に有効な元素であり、該効果を発揮させるには0.0002%以上(より好ましくは0.0005%以上)含有させることが好ましい。一方、Bが過剰に含まれていると熱間加工性が劣化するため、0.01%以下(より好ましくは0.005%以下)の範囲で含有させることが好ましい。
Mg:0.0005〜0.01%、及び
REM:0.0005〜0.01%
よりなる群から選択される1種以上>
Ca、Mg、REM(希土類元素)は、鋼板表面の腐食に伴う界面雰囲気の水素イオン濃度の上昇を抑制、即ちpHの低下を抑制して鋼板の耐食性を高めるのに有効な元素である。また、鋼中硫化物の形態を制御して、加工性を高めるのにも有効であり、該効果を十分に発揮させるには、Ca、Mg、REMのいずれの場合も0.0005%以上含有させることが好ましい。一方、過剰に含まれていると加工性が劣化するため、Caは0.005%以下、Mg、REMはそれぞれ0.01%以下に抑えることが好ましい。
仕上温度(FDT):850℃
冷却速度:40℃/s
巻取温度:550℃
<冷延工程>冷延率:50%
<連続焼鈍工程>各供試鋼について、A3点+30℃で120秒間保持した後、平均冷却速度20℃/sで表2中のTo℃まで急速冷却し(空冷)、該To℃で240秒間保持した。その後は室温まで気水冷却した。
上記加工前後の試験片を用いて、下記の通り金属組織の観察を行った。即ち、製品板厚1/4の位置で圧延面と平行な面における任意の測定領域(約50μm×50μm、測定間隔は0.1μm)を対象に観察・撮影し、ベイニティックフェライト(BF)及びマルテンサイト(M)の面積率、残留オーステナイト(残留γ)の面積率を前述した方法に従って測定した。そして任意に選択した2視野において同様に測定し、平均値を求めた。またその他の組織(フェライトやパーライト等)を、全組織(100%)から上記組織の占める面積率を差し引いて求めた。
引張試験は、加工前のJIS5号試験片を用いて行い、引張強度(TS)と伸び(El)を測定した。尚、引張試験の歪速度は1mm/secとした。そして本発明では、上記方法によって測定される引張強度が1180MPa以上の鋼板を対象に、伸びが10%以上のものを「伸びに優れる」と評価した。
板厚1.2mmの平板試験片を用いて、歪み速度が1×10−4/secの低歪み速度引張試験法(SSRT)を行い、下記式にて定義される水素脆化危険度指数(%)を求めて耐水素脆化特性を評価した。
水素脆化危険度指数(%)=100×(1−E1/E0)
まず、表1の鋼種記号A、Gの鋼板と比較鋼板を用いてそれぞれ図3に示す様な部品(試験体,ハットチャンネル部品)1を作成し、次の様にして圧壊性試験を行なった。即ち、図3に示す部品のスポット溶接位置2に、先端径6mmの電極から、チリ発生電流よりも0.5kA低い電流を流して、図3に示す通り35mmピッチでスポット溶接を行った。そして図4に示す様に、部品1の長手方向中央部の上方から金型3を押し付けて最大荷重を求めた。また荷重−変位線図の面積から吸収エネルギーを求めた。その結果を表3に示す。
表1の鋼種記号A、Gの鋼板と比較鋼板を用いてそれぞれ図5に示す様な部品(試験体,ハットチャンネル部品)4を作成し、次の様にして耐衝撃特性試験を行なった。尚、図6は、前記図5における部品4のA−A断面図を示している。耐衝撃特性試験は、上記耐圧壊性試験の場合と同様に部品4のスポット溶接位置5にスポット溶接を行った後、図7に模式的に示す通り部品4を土台7にセットし、該部品4の上方から、落錘(質量:110kg)6を高さ11mの位置から落下させて、部品4が40mm変形(高さ方向が収縮)するまでの吸収エネルギーを求めた。その結果を表4に示す。
2,5 スポット溶接位置
3 金型
4 耐衝撃特性試験用部品(試験体)
6 落錘
7 (耐衝撃特性試験用)土台
Claims (7)
- 質量%で、
C :0.25超〜0.60%、
Si:1.0〜3.0%、
Mn:1.0〜3.5%、
P :0.15%以下、
S :0.02%以下、
Al:1.5%以下(0%を含まない)
を満たし、残部が鉄及び不可避不純物からなるものであって、
加工率3%の引張加工後の金属組織が、
全組織に対する面積率で、ベイニティックフェライト及びマルテンサイトの両方を含み、合計で80%以上であり、フェライト及びパーライトは合計で9%以下(0%を含む)を満足すると共に、
残留オーステナイト:全組織に対する面積率で2%以上、
該残留オーステナイト結晶粒の平均軸比(長軸/短軸):5以上、
該残留オーステナイト結晶粒の平均短軸長さ:1μm以下で、かつ
該残留オーステナイト結晶粒間の最隣接距離:1μm以下を満たし、
引張強度が1180MPa以上であることを特徴とする耐水素脆化特性及び加工性に優れた超高強度薄鋼板。 - 質量%で、
C :0.25超〜0.60%、
Si:1.0〜3.0%、
Mn:1.0〜3.5%、
P :0.15%以下、
S :0.02%以下、
Al:0.5%以下(0%を含まない)
を満たし、残部が鉄及び不可避不純物からなるものであって、
加工率3%の引張加工後の金属組織が、
全組織に対する面積率で、ベイニティックフェライト及びマルテンサイトの両方を含み、合計で80%以上であり、フェライト及びパーライトは合計で9%以下(0%を含む)を満足すると共に、
残留オーステナイト:全組織に対する面積率で2%以上、
該残留オーステナイト結晶粒の平均軸比(長軸/短軸):5以上、
該残留オーステナイト結晶粒の平均短軸長さ:1μm以下で、かつ
該残留オーステナイト結晶粒間の最隣接距離:1μm以下を満たし、
引張強度が1180MPa以上であることを特徴とする耐水素脆化特性及び加工性に優れた超高強度薄鋼板。 - 更に、質量%で、
Cu:0.003〜0.5%、及び/又は
Ni:0.003〜1.0%
を含む請求項1または2に記載の超高強度薄鋼板。 - 更に、質量%で、
Ti及び/又はVを合計で0.003〜1.0%含む請求項1〜3のいずれかに記載の超高強度薄鋼板。 - 更に、質量%で、
Mo:1.0%以下(0%を含まない)、
Nb:0.1%以下(0%を含まない)
を含む請求項1〜4のいずれかに記載の超高強度薄鋼板。 - 更に、質量%で、
B:0.0002〜0.01%を含む請求項1〜5のいずれかに記載の超高強度薄鋼板。 - 更に、質量%で、
Ca:0.0005〜0.005%、
Mg:0.0005〜0.01%、及び
REM:0.0005〜0.01%
よりなる群から選択される1種以上を含む請求項1〜6のいずれかに記載の超高強度薄鋼板。
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